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特開2023-93096シリコンエピタキシャル基板の製造方法およびシリコンエピタキシャル基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093096
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】シリコンエピタキシャル基板の製造方法およびシリコンエピタキシャル基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20230627BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20230627BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C30B29/06 504A
C30B29/06 502
C30B15/00 Z
C30B25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208506
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100193378
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 明生
(72)【発明者】
【氏名】仙田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】成松 真吾
(72)【発明者】
【氏名】松村 尚
(72)【発明者】
【氏名】石川 高志
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB06
4G077BA04
4G077EA02
4G077EB01
4G077ED05
4G077ED06
4G077EE01
4G077EE06
4G077GA02
4G077GA06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TA07
4G077TK01
4G077TK06
(57)【要約】
【課題】スタッキングフォルトの発生を抑制するシリコンエピタキシャル基板の製造方法およびシリコンエピタキシャル基板を提供すること。
【解決手段】シリコンエピタキシャル基板の製造方法は、ドーパントとしてリンを添加し、電気抵抗率を0.6~1.0mΩ・cmに調整したシリコン単結晶をチョクラルスキー法により育成する育成工程と、前記シリコン単結晶が冷却される際の700-600℃の通過時間をモニタリングする工程と、前記シリコン単結晶をスライスし、エピタキシャル成長炉へ入れる工程と、前記700-600℃の通過時間が300分未満であるときは750℃以上900℃以下に、300分以上であるときは900℃以上1000℃以下に前記エピタキシャル成長炉の炉温を120秒から300秒間維持する保持工程と、前記保持工程後に、エピタキシャル成長を行うエピタキシャル成長工程と、を有する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントとしてリンを添加し、電気抵抗率を0.6~1.0mΩ・cmに調整したシリコン単結晶をチョクラルスキー法により育成する育成工程と、
前記シリコン単結晶が冷却される際の700-600℃の通過時間をモニタリングする工程と、
前記シリコン単結晶をスライスし、エピタキシャル成長炉へ入れる工程と、
前記700-600℃の通過時間が300分未満であるときは750℃以上900℃以下に、300分以上であるときは900℃以上1000℃以下に前記エピタキシャル成長炉の炉温を120秒から300秒間維持する保持工程と、
前記保持工程後に、エピタキシャル成長を行うエピタキシャル成長工程と、
を有するシリコンエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項2】
前記保持工程において、前記700-600℃の通過時間が200分未満であるときは750℃以上875℃以下に、200分以上300分未満であるときは825℃以上900℃以下に前記エピタキシャル成長炉の炉温を120秒から300秒間維持する、請求項1に記載のシリコンエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項3】
前記保持工程と前記エピタキシャル成長工程の間に、1150℃以上1200℃未満の塩化水素エッチングを行い、その後に1150℃以上1200℃未満の水素熱処理を行う、請求項1または請求項2に記載のシリコンエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項4】
前記保持工程の前に、オゾン水でケミカル酸化膜を0.5nm以上形成する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項5】
前記育成工程の最終段階で作成されるインゴットのテール部の長さが0~50mmである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項6】
電気抵抗率が0.8~0.9mΩ・cmに調整され、かつ、最大辺35nm以上のSi―P析出物密度が3×1011/cm3未満である半導体基板にシリコンエピタキシャル層を成長させたシリコンエピタキシャル基板であって、
前記シリコンエピタキシャル層を成長さる前に750℃以上900℃以下で120秒から300秒間維持されたシリコンエピタキシャル基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンエピタキシャル基板の製造方法およびシリコンエピタキシャル基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーMOSFET(metal oxidesemiconductor field effect transistor)用エピタキシャルシリコンウェーハでは、基板の低抵抗率化が要求されており、現在までに1mΩ・cm以下の基板が知られている。シリコンウェーハの基板抵抗率を低くするには、シリコン単結晶のインゴットの引き上げ工程で溶融シリコンに抵抗率調整用のn型ドーパントとしてヒ素(As)やアンチモン(Sb)添加する方法がある。しかし、これらのドーパントは非常に揮発しやすいために、シリコン単結晶中のドーパント濃度を高くすることが難しく、結果的に基板抵抗率を充分に下げることができない。そのため、n型ドーパント種はAsやSbからリン(P)へと移行しており、その濃度は約1×1020atoms/cc程度となっている。
【0003】
しかしながら、単結晶インゴット成長時に高濃度のリンを添加して、例えば抵抗率を
1.1mΩ・cm以下にした場合、このような単結晶インゴットから切り出したシリコンウェーハにエピタキシャル層を成長させると、エピタキシャル層に積層欠陥(スタッキングフォルト、以下「SF」ともいう。)が多数発生することが知られている。このスタッキングフォルトは、エピタキシャルシリコンウェーハの表面に段差として現れ、該ウェーハ表面のライトポイントデフェクト(LPD)の数の増加として検出される。
【0004】
例えば、特許文献1および非特許文献1,2には、シリコン単結晶育成中の冷却過程における700~600℃の通過時間が300分未満とすることで、このスタッキングフォルトを低減しながら、電気抵抗率が0.6~1.0mΩ・cmのシリコン単結晶を作製する技術が記載されている。また、特許文献2には、エピタキシャル成長の前に700~1050℃で30~450秒の熱処理を施すことでスタッキングフォルトを低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-109807号公報
【特許文献2】特開2019-186449号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第78回応用物理学会秋季学術講演会「赤燐高ドープCZ-Si結晶におけるSi-P析出物の構造解析」(7p-PB6-5)
【非特許文献2】第67回応用物理学会秋季学術講演会「高濃度リンドープCZ-Si結晶中のSiP析出物形成挙動」(15p-D411-1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エピタキシャル層に発生するスタッキングフォルトの原因は、基板結晶の結晶成長の過程において形成されたリンとシリコンの析出物(Si-P欠陥)であり、それらがエピタキシャル成長の過程において、スタッキングフォルトの発生の起点になると考えられる。したがって、スタッキングフォルトの発生を抑制するためには、結晶成長の過程においてSi-P欠陥の発生を抑制すること、および、Si-P欠陥がスタッキングフォルトの発生の起点にならないようにすることを連携させて実施する必要がある。
【0008】
ところが、例えば特許文献1の技術は結晶成長の過程に着目したものであり、また、特許文献2の技術はエピタキシャル成長の過程に着目したものであり、結晶成長の履歴をエピタキシャル成長の工程に反映されるものではない。
【0009】
本発明の目的は、上述した課題を鑑み、スタッキングフォルトの発生を抑制するシリコンエピタキシャル基板の製造方法およびシリコンエピタキシャル基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされたシリコンエピタキシャル基板の製造方法は、ドーパントとしてリンを添加し、電気抵抗率を0.6~1.0mΩ・cmに調整したシリコン単結晶をチョクラルスキー法により育成する育成工程と、前記シリコン単結晶が冷却される際の700-600℃の通過時間をモニタリングする工程と、前記シリコン単結晶をスライスし、エピタキシャル成長炉へ入れる工程と、前記700-600℃の通過時間が300分未満であるときは750℃以上900℃以下に、300分以上であるときは900℃以上1000℃以下に前記エピタキシャル成長炉の炉温を120秒から300秒間維持する保持工程と、前記保持工程後に、エピタキシャル成長を行うエピタキシャル成長工程とを有する。
【0011】
シリコン単結晶の冷却時に形成されるSi―P欠陥が、エピタキシャル成長工程において、その含有されるリンの周囲への溶解と、溶解したリンが基板外へ抜け出ることが同時に発生してしまえば、Si―P析出物が生じさせた結晶構造の歪みに悪影響(残存ないし増長)を与えると考えられる。上記構成のシリコンエピタキシャル基板の製造方法は、Si―P析出物からリン(P)が周囲への溶解と、溶解したリン(P)が基板外へ抜け出ることプロセスを連続的かつ定常状態で行うようにすることで基板表層の結晶構造の歪みの残渣が少なくなる。これにより、スタッキングフォルトの発生を抑制することが可能である。
【0012】
また、前記保持工程において、前記700-600℃の通過時間が200分未満であるときは750℃以上875℃以下に、200分以上300分未満であるときは825℃以上900℃以下に前記エピタキシャル成長炉の炉温を120秒から300秒間維持することが好ましい。
【0013】
さらに、前記保持工程と前記エピタキシャル成長工程の間に、1150℃以上1200℃未満の塩化水素エッチングを行い、その後に1150℃以上1200℃未満の水素熱処理を行うことが好ましい。これにより、残渣であるシリコン格子歪みを効果的に除去でき、スタッキングフォルトの発生をより低減することができる。
【0014】
また、前記保持工程の前に、オゾン水でケミカル酸化膜を0.5nm以上形成することが好ましい。低温保持工程では基板表面における酸化膜が安定していることが重要であり、そのためにオゾン酸化膜は好適である。
【0015】
なお、前記育成工程の最終段階で作成されるインゴットのテール部の長さが0~50mmであることが好ましい。テール部の長さを0~50mmとすることで、Si-P欠陥の成長温度である700~600℃でのシリコン単結晶の引き上げ時間が短縮できる。
【0016】
上記シリコンエピタキシャル基板の製造方法を製造物の観点で述べると、電気抵抗率が0.8~0.9mΩ・cmに調整され、かつ、最大辺35nm以上のSi―P析出物密度が3E11/cm3未満である半導体基板にシリコンエピタキシャル層を成長させたシリコンエピタキシャル基板であって、前記シリコンエピタキシャル層を成長さる前に750℃以上900℃以下で120秒から300秒間維持されたシリコンエピタキシャル基板となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の各視点によれば、スタッキングフォルトの発生を抑制するシリコンエピタキシャル基板の製造方法およびシリコンエピタキシャル基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、チョクラルスキー(Czochralski)法による引き上げ装置の概略構成図である。
図2図2は、エピタキシャル成長炉の概略構成図である。
図3図3は、700℃~600℃の通過時間が200分未満の場合におけるスタッキングフォルトの保持温度依存性を示すグラフである。
図4図4は、700℃~600℃の通過時間が200分以上300分未満の場合におけるスタッキングフォルトの保持温度依存性を示すグラフである。
図5図5は、700℃~600℃の通過時間が300分以上の場合におけるスタッキングフォルトの保持温度依存性を示すグラフである。
図6図6は、スタッキングフォルトの結晶成長における700℃~600℃の通過時間依存性を示すグラフである。
図7図7は、Si―P析出物の結晶成長における700-600℃の通過時間に関する依存性を示すグラフである。
図8図8は、実施例のスタッキングフォルトの発生とSi―P析出物の密度と関係を示すグラフである。
図9図9は、比較例のスタッキングフォルトの発生とSi―P析出物の密度と関係を示すグラフである。
図10図10は、シリコンエピタキシャル基板の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0020】
まず、本発明の実施形態に係るシリコンエピタキシャル基板の製造方法に用いられる引き上げ装置とエピタキシャル成長炉について説明する。
【0021】
図1は、チョクラルスキー(Czochralski)法による引き上げ装置の概略構成図である。図1に示す引き上げ装置は、炉1内の中央に、原料融液2が充填された石英ルツボ3が回転可能に設置されている。石英ルツボ3の周囲には、石英ルツボ3を側周から加熱するためサイドヒータ4及び底部から加熱するためのボトムヒータ5が設置されている。また、石英ルツボ3の上方には、石英ルツボ3内の原料融液2や引き上げられる単結晶9の温度制御等のための輻射シールド6が設けられている。
【0022】
チョクラルスキー法による単結晶引き上げ装置では、石英ルツボ3内の原料融液2の液面にワイヤ7の下端に保持された種結晶8を着液させ、石英ルツボ3及び種結晶8をそれぞれ回転させながら、ワイヤ7を引き上げていくことにより単結晶9を成長させる。ここでは、原料融液2にドーパントとしてリンを添加し、電気抵抗率が0.6~1.0mΩ・cmになるように調整したものを想定する。
【0023】
図2は、エピタキシャル成長炉の概略構成図である。図2に示すように、エピタキシャル成長炉10では、チャンバ11内に設置されたサセプタ14に半導体基板Wを載置する。そして、回転軸Oを中心としてサセプタ14及び半導体基板Wを所定方向に回転させる。そして、チャンバ11外のヒータにより半導体基板Wを所定の温度に加熱しつつ、反応ガス供給管12から排気管13へと水平に反応ガスGを供給する。これにより、半導体基板Wの表面にエピタキシャル層を成長させる。
【0024】
ここで、Si-P欠陥がスタッキングフォルトの発生の起点になる過程に関する考察を説明する。本発明は、当該考察に基づいてスタッキングフォルトの発生するのを抑制する。
【0025】
シリコン単結晶中では、その温度が高いほどシリコン単結晶中にリンが高濃度に溶解することができる。一方で、温度が低くなるとシリコン単結晶中にリンが高濃度に溶解することができなくなる。
【0026】
したがって、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成する工程では、原料融液中に高濃度でリンを溶解させることが可能であっても、原料融液2から単結晶9を引き上げる過程で単結晶9中に溶解しきれないリンが析出物を形成する。特に、抵抗率を低くするために高濃度にリンがドープされた単結晶9では、その濃度は約1×1020atoms/cc程度となっており、特に、単結晶9の温度が600℃から700℃の範囲で、リンとシリコンの析出物(Si-P析出物)が形成することが、特許文献1でわかった。
【0027】
一方、エピタキシャル成長の工程では、エピタキシャル成長炉10の炉内温度は1000℃以上であるので、結晶成長の過程で形成されたSi-P析出物は再び溶解し、拡散されることになるが、Si-P析出物が形成された跡には結晶構造に歪みが残存してしまい、これがスタッキングフォルトの発生の起点となっていると考えられる。
【0028】
ここで、Si―P析出物に含有されるリンの周囲への溶解と、溶解したリン(P)が基板外へ抜け出ることが同時に発生してしまえば、Si―P析出物が生じさせた結晶構造の歪みに悪影響(残存ないし増長)を与えると考えられるので、Si―P析出物からリン(P)が周囲への溶解と、溶解したリン(P)が基板外へ抜け出ることプロセスを連続的かつ定常状態で行うようにすることで基板表層の結晶構造の歪みの残渣が少なくなるとの仮説の下、以下のような検証実験を行った。
【0029】
〔検証実験1〕
まず、チョクラルスキー法で0.7~0.9mΩ・cmに調整したのリンドープのシリコン単結晶を育成した。なお、結晶方位(001)のφ200mmとした。酸素濃度は0.9E18atoms/ccとした。
【0030】
この結晶成長の際に、インゴットのテール部の結晶長や冷却時間を制御し、700℃~600℃の通過時間を、下記3種作成した。
(1)200分未満
(2)200分以上300分未満
(3)300分以上
【0031】
その後、各種シリコン単結晶をスライスし、裏面酸化膜を成膜し、鏡面加工を施した。さらに、この半導体基板をオゾン水1ppmで処理し、表面に0.7nmの厚さのケミカル酸化膜を形成した。
【0032】
その後、エピタキシャル成長炉へ炉入れを行い、エピタキシャル成長を行う前段階における温度条件を変化させながらスタッキングフォルトの発生(すなわち、ライトポイントデフェクト(LPD)の数)を測定した。図3から図5は、それぞれ700℃~600℃の通過時間が(1)200分未満、(2)200分以上300分未満、(3)300分以上の場合におけるスタッキングフォルトの保持温度依存性を示すグラフである。各温度の保持時間は、120秒から300秒間であり、グラフの横軸の左端に、低温保持を行わない場合を記載している。
【0033】
図3から図5のグラフを比較すると解るように、結晶成長における700℃~600℃の通過時間にかかわらず、エピタキシャル成長を行う前段階におけるスタッキングフォルトの保持温度依存性は、下に凸の形状である。すなわち、エピタキシャル成長を行う前段階における最適な保持温度は、低すぎずまた高すぎず、一定の範囲内であることが好ましいことになる。
【0034】
また、図3から図5のグラフを比較すると解るように、エピタキシャル成長を行う前段階における最適な保持温度は、結晶成長における700℃~600℃の通過時間に依存して、高温側へシフトしている。具体的には、結晶成長における700℃~600℃の通過時間が(1)200分未満では、エピタキシャル成長を行う前段階における最適な保持温度が750℃以上875℃以下であり、(2)200分以上300分未満では、825℃以上900℃以下であり、(3)300分以上では、900℃以上1000℃以下である。
【0035】
また、図3から図5のグラフを比較すると解るように、結晶成長における700℃~600℃の通過時間が(1)200分未満および(2)200分以上300分未満と(3)300分以上とでは、グラフの形状が大きく異なる。このことは、図6を見ても明らかである。図6は、スタッキングフォルトの結晶成長における700℃~600℃の通過時間依存性を示すグラフである。図6に示すグラフには、エピタキシャル成長を行う前段階に低温保持時間を設けた場合を塗りつぶしでプロットし、エピタキシャル成長を行う前段階に低温保持時間を設けなかった場合を白抜きでプロットしている。
【0036】
図6のグラフから読み取れるように、エピタキシャル成長を行う前段階に低温保持時間を設けることで、スタッキングフォルトの発生を低減することができるが、結晶成長における700℃~600℃の通過時間が300分以上になると、スタッキングフォルトの発生の低減効果が少なくなっている。
【0037】
したがって、エピタキシャル成長を行う前段階に低温保持時間を設ける場合、結晶成長における700℃~600℃の通過時間が300分以上であるか否かで分けることが考えられる。すなわち、エピタキシャル成長を行う前段階に低温保持時間を、結晶成長における700-600℃の通過時間が300分未満であるときは750℃以上900℃以下に、300分以上であるときは900℃以上1000℃以下にエピタキシャル成長炉の炉温を120秒から300秒間維持するという場合分けが有効である。
【0038】
〔検証実験2〕
次に、結晶成長の過程で形成されたSi―P析出物とスタッキングフォルトの低減との関係を検証した。図7は、Si―P析出物の結晶成長における700-600℃の通過時間に関する依存性を示すグラフである。図7に示すグラフは、横軸を結晶成長における700-600℃の通過時間とし、縦軸を35nmよりも大きいSi―P析出物の密度(/cm)としている。
【0039】
図7から読み取れるように、結晶成長における700-600℃の通過時間を300分未満とすることで、35nmよりも大きいSi―P析出物の密度を3×1011よりも低く抑えることができる。つまり、結晶成長における700-600℃の通過時間を制御することは、Si―P析出物の密度を低く抑えることを製造方法の観点で実現するものである。
【0040】
一方、Si―P析出物の密度とエピタキシャル成長を行う前段階の低温保持にも密接な関係がある。図8および図9は、それぞれエピタキシャル成長を行う前段階の低温保持の有無における、スタッキングフォルトの発生とSi―P析出物の密度と関係を示すグラフである。図8および図9に示すグラフは、横軸をエピタキシャル成長前における35nmよりも大きいSi―P析出物の密度(/cm)とし、縦軸をエピタキシャル成長後のスタッキングフォルトの発生をライトポイントデフェクト(LPD)として測定したものである。
【0041】
図8から読み取れるように、エピタキシャル成長前における35nmよりも大きいSi―P析出物の密度を3×1011よりも小さくすると、エピタキシャル成長後のライトポイントデフェクト(LPD)をより減少させることができる。
【0042】
図8および図9のグラフを比較すると解るように、エピタキシャル成長を行う前段階の低温保持を行う方が、スタッキングフォルトの発生とSi―P析出物の密度と関係における分散が小さい。このことは、結晶成長における700-600℃の通過時間を制御するだけではなく、エピタキシャル成長を行う前段階の低温保持と組み合わせることでより効果的にスタッキングフォルトの発生を低減することができることを意味する。スタッキングフォルトの発生とSi―P析出物の密度と関係における分散が小さいので、単にスタッキングフォルトの発生を低減することができるだけではなく、製品ごとのバラツキを抑えることも可能である。
【0043】
〔製造方法のまとめ〕
図10は、上記検証実験の結果を反映したシリコンエピタキシャル基板の製造方法を示すフローチャートである。図10に示すように、シリコンエピタキシャル基板の製造方法は、単結晶の育成工程(S1)とモニタリング工程(S2)とスライス・酸化膜形成工程(S3)と炉入れ工程(S4)と低温保持工程(S5)とエッチング工程(S6)とエピタキシャル成長工程(S7)とを有している。
【0044】
単結晶の育成工程(S1)では、チョクラルスキー法による引き上げ装置を用いて、シリコン単結晶を成長させる。ここでは、原料融液にドーパントとしてリンを添加し、電気抵抗率が0.6~1.0mΩ・cmになるように調整したものを用いる。
【0045】
モニタリング工程(S2)では、シリコン単結晶が冷却される際の700-600℃の通過時間をモニタリングする。なお育成工程の最終段階で作成されるインゴットのテール部の長さが0~50mmであることが好ましい。テール部の長さを0~50mmとすることで、Si-P欠陥の成長温度である700~600℃でのシリコン単結晶の引き上げ時間が短縮できる。
【0046】
スライス・酸化膜形成工程(S3)では、シリコン単結晶をスライスし、その裏面に酸化膜を形成、そして鏡面加工をおこなう。この基板表面に酸化膜を形成する。具体的には、基板をオゾン水で処理し、表面に0.7nmの厚さのケミカル酸化膜を形成することが好ましい。先述したように、後段の低温保持工程(S5)では基板表面における酸化膜が安定していることが重要であり、そのためにオゾン酸化膜は好適である。
【0047】
炉入れ工程(S4)では、シリコン半導体基板をエピタキシャル成長炉へ炉入れする。
【0048】
低温保持工程(S5)では、エピタキシャル成長炉を昇温するが、エピタキシャル成長を行うための温度よりも低い温度で120秒から300秒間維持する。具体的には、モニタリング工程(S2)でモニタリングしたシリコン単結晶が冷却される際の700-600℃の通過時間が300分未満であるときは、750℃以上900℃以下に、300分以上であるときは、900℃以上1000℃以下とすることが好ましい。
【0049】
さらに、低温保持工程(S5)では、モニタリング工程(S2)でモニタリングしたシリコン単結晶が冷却される際の700-600℃の通過時間が200分未満であるときは750℃以上875℃以下に、200分以上300分未満であるときは825℃以上900℃以下にすることがより好ましい。
【0050】
エッチング工程(S6)では、1150℃以上1200℃未満の塩化水素エッチングを行い、その後に1150℃以上1200℃未満の水素熱処理を行う。これにより、残渣であるシリコン格子歪みを効果的に除去でき、スタッキングフォルトの発生をより低減することができる。
【0051】
エピタキシャル成長工程(S7)では、Siエピタキシャル層を1100-1150℃で成膜する。
【符号の説明】
【0052】
1 炉
2 原料融液
3 石英ルツボ
4 サイドヒータ
5 ボトムヒータ
6 輻射シールド
7 ワイヤ
8 種結晶
9 結晶
10 エピタキシャル成長装置
11 チャンバ
12 反応ガス供給管
13 排気
W 半導体基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10