(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093180
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230627BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230627BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230627BHJP
C08K 5/19 20060101ALI20230627BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20230627BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230627BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L63/00 Z
C08L23/08
C08K5/19
C08L51/04
C08K3/013
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208652
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB073
4J002BG043
4J002BN123
4J002CD052
4J002CD062
4J002CF071
4J002CP034
4J002DA017
4J002DA027
4J002DE147
4J002DE187
4J002DF017
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DJ047
4J002DJ057
4J002DL007
4J002EN136
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD090
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐アルカリ性及び耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及び成形品を提供することを課題とする。
【解決手段】 ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、エポキシ系樹脂(B)と、第4級アンモニウム塩(C)と、エポキシ基を含まないエラストマ(D)と、25℃の動粘度が3000~10000cstのシリコーンオイル(E)と、無機充填材(F)と、を含有し、
エポキシ系樹脂(B)の含有量及びエポキシ基を含まないエラストマ(D)の含有量が、所定の範囲であり、
第4級アンモニウム塩(C)を構成する、第4級アンモニウムカチオンNR4
+の4つのRがそれぞれ独立して炭素原子数1~6のアルキル基であり、アニオンが臭化物イオンであり、エポキシ基を含まないエラストマ(D)が、エチレンエチルアクリレート共重合体及び/又はコアシェルエラストマである、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、
エポキシ系樹脂(B)と、
第4級アンモニウム塩(C)と、
エポキシ基を含まないエラストマ(D)と、
25℃の動粘度が3000~10000cstのシリコーンオイル(E)と、
無機充填材(F)と、
を含有し、
エポキシ系樹脂(B)の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し0.5質量部以上5質量部以下であり、
エポキシ基を含まないエラストマ(D)の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し5質量部以上であり、
第4級アンモニウム塩(C)を構成する、第4級アンモニウムカチオンNR4
+の4つのRがそれぞれ独立して炭素原子数1~6のアルキル基であり、アニオンが臭化物イオンであり、
エポキシ基を含まないエラストマ(D)が、エチレンエチルアクリレート共重合体及び/又はコアシェルエラストマである、
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩(C)が、テトラエチルアンモニウムブロミド及び/又はテトラブチルアンモニウムブロミドである、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基を含まないエラストマ(D)が、エチレンエチルアクリレート共重合体である、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」とも呼ぶ)樹脂は、結晶性熱可塑性樹脂として、機械的強度、電気的性質、その他、各種特性に優れている為、エンジニアリングプラスチックとして、自動車、電気・電子機器等をはじめとして広範な用途に使用されている。しかしながら、ポリブチレンテレフタレート樹脂はポリエステル樹脂であることから、耐加水分解性の問題が潜在的にあった。さらにアルカリ溶液に対する長期耐久性も低い傾向にあり、その使用環境や用途が限られていた。
例えば、部品によっては、トイレ用洗浄剤、浴槽用洗浄剤、漂白剤、融雪剤等に接触する場所で使用される場合がある。これらの薬剤は、その成分として、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、又は塩化カルシウム等を含むため、樹脂成形品がアルカリ雰囲気下に曝されることになる。樹脂成形品に、ネジ締め、金属圧入、かしめ等により過大な歪みがかかった状態で、上記のようなアルカリ雰囲気下に長時間曝されると、歪みとアルカリ成分の双方の影響で、いわゆる環境応力割れを起こし、成形品にクラックが発生するため問題となっていた。例えば特許文献1にはポリブチレンテレフタレート樹脂と25℃の動粘度が1000~10000cstであるシリコーン系化合物とオレフィン系エラストマからなる樹脂組成により耐アルカリ性と耐ヒートショック性に優れる成形品を提供できることが開示されている。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐加水分解性の改善は従来からなされており、エポキシ系樹脂を添加することや、カルボジイミド等の添加剤を用いること等が一般的である。例えば特許文献2には、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂と第4級アンモニウム塩を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/047662号
【特許文献2】国際公開第2021/125203号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐アルカリ性及び耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及び成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、所定の含有量のエポキシ系樹脂(B)と、所定の構造を有する第4級アンモニウム塩(C)と、所定の含有量でありかつエポキシ基を含まないエラストマ(D)と、所定の動粘度を有するシリコーンオイル(E)と、無機充填材(F)とを含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及び上記のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて製造された成形品により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)~(4)に関する。
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、エポキシ系樹脂(B)と、第4級アンモニウム塩(C)と、エポキシ基を含まないエラストマ(D)と、25℃の動粘度が3000~10000cstのシリコーンオイル(E)と、無機充填材(F)と、を含有し、
エポキシ系樹脂(B)の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し0.5質量部以上5質量部以下であり、
エポキシ基を含まないエラストマ(D)の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し5質量部以上であり、
第4級アンモニウム塩(C)を構成する、第4級アンモニウムカチオンNR4
+の4つのRがそれぞれ独立して炭素原子数1~6のアルキル基であり、アニオンが臭化物イオンであり、
エポキシ基を含まないエラストマ(D)が、エチレンエチルアクリレート共重合体及び/又はコアシェルエラストマである、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(2)前記第4級アンモニウム塩(C)が、テトラエチルアンモニウムブロミド及び/又はテトラブチルアンモニウムブロミドである、(1)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(3)前記エポキシ基を含まないエラストマ(D)が、エチレンエチルアクリレート共重合体である、(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(4)(1)から(3)のいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐アルカリ性及び耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例及び比較例の耐アルカリ性試験において使用した試験片を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0011】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。一実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0012】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は30meq/kg以下であることが好ましいが、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、20meq/kg以下がより好ましく、15meq/kg以下がさらに好ましい。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上0.9dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び/又は、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0016】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、及び/又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0018】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の全質量の30~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
(エポキシ系樹脂)
エポキシ系樹脂としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂を挙げることができる。エポキシ樹脂は、2種以上のエポキシ樹脂を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、150~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物におけるエポキシ系樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上10質量部以下であり、0.5質量部以上8質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上6質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましく、0.5質量部以上4質量部以下であることが特に好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有量の測定は、溶剤抽出法(ソックスレー抽出法)により行うことができる。
【0022】
(第4級アンモニウム塩)
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムカチオンは、分子式NR4
+で表される正電荷を持った多原子イオンである。分子式NR4
+における4つのRはそれぞれ独立して炭素原子数1~6のアルキル基である。
【0023】
分子式NR4
+における4つのRの炭素原子数は、いずれも、2~5であることが好ましく、2~4であることがより好ましく、4(ブチル基)であることが特に好ましい。なお、分子式NR4
+における4つのRの炭素原子数は互いに同じでもよく、異なっていてもよい。また、分子式NR4
+における4つのRの炭素原子数の合計は24以下であることが好ましく、24以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、16以下であることが特に好ましい。
【0024】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される第4級アンモニウム塩を構成するアニオンは、1価の負電荷を有している。アニオンは、臭化物イオンである。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される好ましい第4級アンモニウム塩として、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、及びテトラヘキシルアンモニウムブロミド等が挙げられ、これらから選ばれる1以上を含むことが好ましい。特に好ましい第4級アンモニウム塩として、テトラエチルアンモニウムブロミド及び/又はテトラブチルアンモニウムブロミドが挙げられる。
【0026】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含有される第4級アンモニウム塩の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し0.1質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、0.15質量部以上2.0質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以上1.0質量部以下であることがさらに好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の第4級アンモニウム塩の含有量の測定は、ヘキサフルオロ-2-プロパノール等で溶解後、アセトンなど貧溶媒を用いて再沈、分離することにより行うことができる。
【0027】
(エラストマ)
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、エポキシ基を含まないエラストマを含み、エポキシ基を含まないエラストマが、エチレンエチルアクリレート共重合体及び/又はコアシェルエラストマである。エラストマとして、エポキシ基を含まないエラストマであって、エチレンエチルアクリレート共重合体及び/又はコアシェルエラストマであるエラストマを含むことにより、耐アルカリ性と耐加水分解性とを改善することができる。「エポキシ基を含まない」ことは、エラストマ単体又は樹脂組成物を有機溶媒による溶剤抽出法(ソックスレー抽出法)によりエラストマ成分を抽出後、分離したエラストマを赤外分光光度計によりエポキシ基の有無を確認することができる。
【0028】
(エチレンエチルアクリレート共重合体)
エチレンエチルアクリレート共重合体(以下、「EEA共重合体」とも記す。)は、エチレンとエチルアクリレートとを共重合成分とする共重合体である。共重合形式は特に限定されず、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれの共重合体でもよく、例えば部分的に、ランダム構造、ブロック構造及びグラフト構造のうちの2以上の構造を有していてもよい。
【0029】
共重合体中のエチレンとエチルアクリレートの比率は、特に限定はされないが、PBT樹脂と相溶性を確保し、かつ、製造時のブロッキング抑制の観点から、EEA共重合体の融点が85℃以上であることが好ましく、88℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが特に好ましい。
【0030】
EEA共重合体を成形品の外観の向上の観点から、EEA共重合体は、190℃及び荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが、25g/10min以下であることが好ましい。
【0031】
EEA共重合体を含むことで、成形品の靭性を向上させることができる。一方、オレフィン系エラストマ(例えばエチレン-プロピレン共重合体等の、オレフィンのみを構成単位として有するエラストマ)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性が十分でない傾向があり、オレフィン系エラストマを用いた場合、成形品の表面が荒れてしまい外観が悪くなる場合がある。190℃及び荷重2.16kgにおけるメルトフローレートが、25g/10min以下の、粘度の高いEEA共重合体を用いるとき、成形品の外観を向上させることができる。
【0032】
本実施形態においては、エチレンとエチルアクリレート以外のコモノマー成分を実質的に含まないEEA共重合体を用いてもよく、その他のコモノマー成分を含むEEA共重合体を用いてもよい。
【0033】
エチレンとエチルアクリレート以外のコモノマー成分を実質的に含まないEEA共重合体は、エチレンとエチルアクリレート以外のコモノマーが、共重合モノマー中に3質量%以下となる量であり、1質量%以下となる量であることが好ましく、0質量%となる量であってよい。
【0034】
EEA共重合体がエチレンとエチルアクリレート以外のコモノマー成分を含む場合、その他のコモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。エチレンとエチルアクリレート以外のコモノマー成分を含むEEA共重合体としては、例えば、エチレンエチルアクリレートとブチルアクリレート-メチルメタクリレートのグラフト共重合体(EEA-g-BAMMA共重合体)等が挙げられる。
【0035】
EEA共重合体が、エチレンとエチルアクリレート以外のコモノマー成分を含むものである場合、エチレンとエチルアクリレートの合計量と、エチレンとエチルアクリレート以外のコモノマーの合計量との質量比は、例えば、95:5~50:50が好ましく、85:15~55:45がより好ましく、80:20~60:40がさらに好ましい。
【0036】
EEA共重合体は、任意の方法で製造することができる。例えば、エチレンとエチルアクリレート(及びその他のコモノマー成分)を所定量混合し、ラジカル開始剤を用いて常法によりラジカル重合を行うことにより、EEA共重合体が得られる。また、例えば、エチレンとエチルアクリレートからなるEEA共重合体粒子中で、ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体成分の単量体とラジカル(共)重合性有機過酸化物とを共重合せしめたグラフト化前駆体を溶融混練し、重合体同士のグラフト化反応により、エチレンエチルアクリレートとブチルアクリレート-メチルメタクリレートのグラフト共重合体(EEA-g-BAMMA共重合体)を得ることができる。
EEA共重合体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(コアシェルエラストマ)
コアシェルエラストマは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーである。コア層のゴム成分は耐熱性の観点からアクリル系ゴムが好ましい。コア層に用いるアクリル系ゴムは、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0038】
ゴム成分として用いるアクリル系ゴムは、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC2~C6のアルキルエステルがより好ましい。
【0039】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体であってもよく、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0040】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。アクリル系ゴムを用いたコアシェルエラストのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交叉剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交叉剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0041】
一実施形態においては、エラストマ(D)は、エチレンエチルアクリレート系共重合体であり得る。他の実施形態においては、エラストマ(D)は、コアシェルエラストマであり得る。
【0042】
エラストマ(D)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し5質量部以上であり、5~30質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましく、15~25質量部であることがさらに好ましい。
【0043】
エラストマの含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の全質量の10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、17質量%以上であることがさらに好ましい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のエラストマの含有量の測定は、溶剤抽出法(ソックスレー抽出法)により行うことができる。
【0044】
(シリコーンオイル)
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、所定の動粘度を有するシリコーンオイル(E)を含むことにより高い耐アルカリ性を有する。
【0045】
シリコーンオイルとして好ましいのは、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサンなどの純シリコーン樹脂、純シリコーン樹脂をアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの変性用樹脂と反応させた変性シリコーンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
また、シリコーンオイルを吸収させた硬化シリコーンパウダーも用いることができる。
ここで用いられるシリコーンオイル吸収硬化シリコーンパウダーとは微粉末状の硬化シリコーンに予めシリコーンオイルを0.5~80重量%配合し吸収させて任意の方法にてパウダー化することにより得られたものである。
シリコーンオイルを吸収して硬化シリコーンパウダーを形成するシリコーンとしては、例えば、従来公知のシリコーンゴムあるいはシリコーンゲルが使用できる。
【0047】
なお、シリコーンオイルとしては例えば、下記一般式(1)
R3SiO[R2SiO]nSiR3 (1)
(式中、各Rは、独立して、置換もしくは非置換の一価炭化水素基又は水酸基であり、nは整数である。)で表されるものが挙げられる。
上式中、各Rは、独立して、置換もしくは非置換の一価炭化水素基又は水酸基であるが、置換もしくは非置換の一価炭化水素基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;シクロアルキル基、β-フェニルエチル基などのアラルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-メルカプトプロピル基、3-アミノプロピル基、3-グリシドキシプロピル基等が挙げられる。
【0048】
本実施形態に係るシリコーンオイル(E)は、25℃の動粘度が3000~10000cSt(10~100cm2/s)であり、好ましくは3500~6000cSt、特に4000~5500cStの範囲にあるのが好ましい。動粘度が低い場合、ブリードにより耐アルカリ性の持続性が低下する。また、動粘度が高いとブリードしにくく耐アルカリ性の効果が低下する。動粘度の測定は、回転粘度計(ISO 3219)により行うことができる。シリコーンオイルは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
成形品の耐アルカリ性向上の効果の観点から、シリコーンオイル(E)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、0.6質量部以上であることがより好ましく、0.7質量部以上であることがさらに好ましい。
一方、成形品からの染み出しによる問題(例えば接点汚染等)を抑制する観点から、シリコーンオイル(E)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.1質量部以下であることがさらに好ましい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中のシリコーンオイルの含有量の測定は、検量線を用いて赤外分光光度計で測定するか、クロロホルム等の有機溶剤を用いて溶剤抽出法(ソックスレー抽出法)で抽出し、溶剤を蒸発乾固させた後、NMR分析により行うことができる。
【0050】
(無機充填剤)
無機充填材(F)としては、繊維状充填剤、板状充填剤、又は粉粒状充填剤を挙げることができる。無機充填剤を含有することで、機械的特性や荷重たわみ温度などの耐熱性を向上させることができる。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ-アルミナ繊維、アルミニウムシリケート繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ウィスカー(炭化ケイ素、アルミナ、窒化珪素等のウィスカー)等の無機質繊維を挙げることができる。板状充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイト等を挙げることができる。粉粒状充填剤としては、例えば、ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドファイバー(例えば、ミルドガラスファイバー等)、ウォラストナイト(珪灰石)等を挙げることができる。
【0051】
繊維状充填剤の平均径は、例えば、1μm~30μm(好ましくは5μm~20μm、さらに好ましくは10~15μm)程度、平均長は、例えば、100μm~5mm(好ましくは300μm~4mm、さらに好ましくは500μm~3.5mm)程度であってもよい。また、板状又は粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、例えば、0.1μm~500μm、好ましくは1μm~100μm程度とすることができる。これらの無機充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なお、繊維状充填剤の平均径及び平均長、並びに板状又は粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中に配合される前の繊維状充填材、板状又は粉粒状充填剤について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値である。これらは例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3等を用いて算出することができる。なお、板状又は粉状充填材のアスペクト比は、特に限定されず、例えば、1以上10以下とすることができる。
【0052】
(その他の成分)
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の物質、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、離型剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を配合することが可能である。
【0053】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は、限定されず、例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混錬装置を用いて、各成分を溶融混錬して押出すことによりペレットとする方法や、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製しそのペレットを所定量混合する方法等が挙げられる。
【0054】
(成形品)
本実施形態の実施形態の成形品は、上記したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなるものである。すなわち、成形品は、上記したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を含む。成形方法は特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などで製造できる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(ガラス系補強材など)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分を混合することにより調製してもよい。また、熱可塑性樹脂からなる他の成形品の成形方法もまた、特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。
【0055】
成形品は、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディングなどの慣用の方法で成形してもよいが、通常、射出成形により成形される。なお、射出成形時の金型温度は、通常40~90℃、好ましくは50~80℃、さらに好ましくは60~80℃程度である。
【0056】
成形品は、着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤としては、無機顔料[カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料など]、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。カーボンブラックの平均粒子径は、通常、10~1000nm、好ましくは10~100nm程度であってもよい。着色剤の割合は、成形品全体に対して0.1~10重量%、好ましくは0.3~5重量%(例えば、0.3~3重量%)程度である。
【0057】
[実施例]
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
<材料>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)
・PBT:ポリプラスチックス社製、末端カルボキシル基量12meq/kg、固有粘度0.87dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂
(B)エポキシ系樹脂
・エポキシ樹脂:三菱ケミカル社製、エピコートJER1004K(エポキシ当量:925g/eq)
(C)第4級アンモニウム塩又はその代替物
・(C-1)テトラエチルアンモニウムブロミド
・(C-2)テトラプロピルアンモニウムブロミド
・(C-3)テトラブチルアンモニウムブロミド
・(C-4)テトラペンチルアンモニウムブロミド
・(C-5)テトラヘキシルアンモニウムブロミド
・(C-6)テトラヘプチルアンモニウムブロミド
・(C-7)テトラブチルアンモニウムヨージド
・(C-8)ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド
・(C-9)セチルジメチルエチルアンモニウムブロミド
・(C-10)ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド
・(C-11)フェニルボロン酸
・(C-12)ステアリン酸カルシウム
(D)エラストマ
・(D-1)宇部丸善ポリエチレン株式会社製、エチレンエチルアクリレート樹脂 ZE749
・(D-2)ダウ・ケミカル社製、アクリル系コアシェルポリマー パラロイドEXL2311
・(D-3)住友化学株式会社製、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体 ボンドファースト7L
・(D-4)ダウ・ケミカル社製、エポキシ基含有アクリル系コアシェルポリマー パラロイドEXL2314
・(D-5)東洋紡株式会社製、ポリエステルエラストマ ペルプレンP90BD
(E)シリコーンオイル
・(E-1)シリコーンオイル:25℃の動粘度5000cStのジメチルポリシロキサン
・(E-2)シリコーンオイル:25℃の動粘度300cStのジメチルポリシロキサン
・(E-3)シリコーンオイル:25℃の動粘度1000cStのジメチルポリシロキサン
・(E-4)シリコーンオイル:25℃の動粘度50000cStのジメチルポリシロキサン
(F)日本電気硝子製、円形断面ガラス繊維 ECS03T―127(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
【0059】
<評価方法>
(実施例1~6、比較例1~19)
各成分を表1、2に示す割合で混合した後、日本製鋼所製TEX-30を用いて、シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュ回転数130rpmで溶融混練して押出し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットについて、以下の各特性の評価を行った。
【0060】
(耐加水分解性)
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、ISO3167に準拠した1Aタイプの引張試験片を作製し、得られた試験片について、ISO527-1,2に準拠し、引張強さの測定を行った。
【0061】
次いで、同様にして作製した別の引張試験片を、後述する条件によるプレッシャークッカー試験にて処理した後、ISO527-1,2に準拠し、引張強さの測定を行い、未処理品の引張強さに対する比率からそれぞれの強度保持率(%)を算出した。プレッシャークッカー試験は、121℃、100%Rh、及び203kPaの条件下において、75時間(75hr)又は100時間(100hr)行った。プレッシャークッカー試験100hr処理後の強度保持率が80%以上のものを加水分解性が優れると判定した。
【0062】
(3)耐アルカリ性
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、
図1に示すような厚さ1mm、一辺80mmの平板状で、ウエルド部を有する成形片10を作製した。
図1中の丸は、貫通孔2を示している。フィルムゲート1から金型内に流れ込んだ樹脂流は、貫通孔2を形成するための金型内の円柱状の壁面に沿って一旦
図1の上下に分かれた後、再度合流してキャビティを充填する。合流した部分がウエルド部3である。
次にこの成形片を長手方向の略中央部がウエルド部となるよう、幅10mm、長さ80mmの短冊状に切削して試験片を準備した。この試験片をたわませた状態で治具に固定し、常時1.0%の曲げ歪みがウエルド部に加わるようにした。この状態のまま、治具ごと10質量%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、周辺温度23℃にて静置し、特定時間ごとに、試験片にクラックが発生するか否かを観察した。評価は各実施例及び比較例の各ペレットについて3個ずつの試験片を用いて行い、3個のうち少なくとも1つの試験片でクラックが発生するまでの時間を確認した。表1、2に、浸漬開始後50時間後と100時間後のそれぞれにおける評価結果を示す。Aは、3個の試験片のいずれにもクラックの発生がないことを意味し、Bは、3個のうち少なくとも1つの試験片にクラックの発生があることを意味する。結果を表1、2に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表1、2に示した通り、各実施例ではPCT処理後においても、高い引張強さ保持率を示していた。特に、各実施例ではPCT処理100hr後において顕著な優位性が見られることが確認された。また、水酸化ナトリウム溶液100hr浸漬後のクラック発生はなく、良好な耐アルカリ性を示した。すなわち、実施例のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐アルカリ性及び耐加水分解性に優れている。特に、100時間を超える長時間の処理後においても優れた耐アルカリ性と耐加水分解性とを維持することができた。
【0066】
一方、表1,2の比較例2,4~8は、第4級アンモニウム塩のカチオンを構成する4つのRは炭素数1~6のアルキル基でないと効果が得られず、炭素原子数7以上の官能基である場合、耐加水分解性に十分な効果が得られないことを示している。
比較例3は、第4級アンモニウム塩のアニオンが臭化物イオンでないと効果が得られず、他のハロゲン化物イオン(ヨウ化物イオン)では耐加水分解性に十分な効果が得られないことを示している。
比較例9は、エポキシ樹脂を含まない場合は、耐加水分解性に十分な効果が得られないことを示している。
比較例10,13は、第4級アンモニウム臭化物塩を含まず、所定動粘度のシリコーンオイルを含まない場合は、耐アルカリ性及び耐加水分解性の両方の効果が十分に得られないことを示している。比較例11は、所定動粘度のシリコーンオイルを含まない場合は、50時間程度の耐アルカリ性試験においても十分な効果が得られないことを示している。
比較例12,14は、シリコーンオイルの動粘度の値が高すぎる、または低すぎると耐アルカリ性に十分な効果が得られないことを示している。
【0067】
表2の比較例15~19では、エラストマの添加量が少ないと耐アルカリ性が得られず、さらにエチレンエチルアクリレート共重合体又はコアシェルエラストマであり且つエポキシ基を含まないエラストマ以外では耐アルカリ性に十分な効果が得られないことを示している。
【0068】
上記の結果は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とエポキシ系樹脂とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、耐アルカリ性及び耐加水分解性の両方の改善効果を向上させ、さらに長時間その効果を維持するためには、特定構造のエラストマ、特定動粘度のシリコーンオイル、及び特定構造の第4級アンモニウム塩を組み合わせることが必須であることを示している。