IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小林製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-靴下用の抗菌防臭剤 図1
  • 特開-靴下用の抗菌防臭剤 図2
  • 特開-靴下用の抗菌防臭剤 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093202
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】靴下用の抗菌防臭剤
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/463 20060101AFI20230627BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230627BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230627BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230627BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230627BHJP
   A01N 55/10 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
D06M13/463
C12Q1/02
G01N33/15 Z
A01P1/00
A01P3/00
A01N55/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208685
(22)【出願日】2021-12-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ウェブサイトのアドレス:https://www.saaaj.jp/からアクセスされる日本防菌防黴学会第48回年次大会オンライン特設サイト ウェブサイトの掲載開始日:令和3年9月1日 ▲2▼集会名:日本防菌防黴学会第48回年次大会 開催場所:ウェブサイトのアドレス(https://www.saaaj.jp/からアクセスされる日本防菌防黴学会第48回年次大会オンライン特設サイト) ウェブサイトの掲載開始日:令和3年9月5日 ▲3▼刊行物:日本防菌防黴学会誌、Vol.49、No.12、日本防菌防黴学会、589~594頁 発行日:令和3年12月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 昌子
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 慧記
【テーマコード(参考)】
4B063
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QS39
4H011AA02
4H011BB16
4H011DA07
4H011DA13
4L033AB04
4L033AB09
4L033AC10
4L033BA86
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、靴下の不快臭を抑制できる抗菌防臭剤をスクリーニングする方法を提供することである。
【解決手段】靴下用の抗菌防臭剤をスクリーニングする方法であって、被験物質を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第1工程、及び前記第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質を、靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択する第2工程を含むスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4級アンモニウム系抗菌剤を含む、靴下用の抗菌防臭剤。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム系抗菌剤が、N,N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-オクタデカンアミニウム=クロリドである、請求項1に記載の靴下用の抗菌防臭剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の靴下用の抗菌防臭剤を含む、靴下用の繊維。
【請求項4】
請求項3に記載の靴下用の繊維を含む、靴下。
【請求項5】
被験物質を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第1工程、
前記第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質を、靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択する第2工程、及び
前記第2工程で靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択された被験物質を用いて、当該被験物質を含む靴下を製造する第3工程
を含む靴下の製造方法。
【請求項6】
靴下用の抗菌防臭剤をスクリーニングする方法であって、
被験物質を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第1工程、及び
前記第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質を、靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択する第2工程
を含むスクリーニング方法。
【請求項7】
被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果を評価する方法であって、
被験試料を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第I工程、及び
前記第I工程における表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果に基づいて、被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果を判定する第II工程
を含む、評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴下用の抗菌防臭剤のスクリーニング方法、及び靴下の不快臭抑制効果の評価方法に関する。また、本発明は、靴下の不快臭を効果的に抑制できる靴下用の抗菌防臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
靴下は、着用時にヒトの皮膚に存在する微生物や汗・皮脂が付着し、高温多湿な靴内に置かれることから、微生物の介在により不快臭が発生していると考えられている。そのため、抗菌性を有する糸を用いて靴下を編むことによって、不快臭が抑えられる技術が開発され産業活用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、足の不快臭と微生物との関係性は複数の研究が報告されており、微生物が関与する不快臭の原因物質はイソ吉草酸であると考えられていた(例えば、非特許文献1及び2参照)。一方で、足の臭いの官能評価においてジアセチル臭と酸臭の検出が多く、ジアセチル濃度とにおい強度及び酸臭の相関性が高いことから、酸系の不快臭の主たる原因はイソ吉草酸ではなくジアセチルである可能性が高いという報告もある(非特許文献3参照)。このように、足の不快臭の原因物質については、これまでに幾つか報告があるが、靴下の不快臭に関する研究例は少なく、また、不快臭成分と微生物との関係性は十分に解明されていないのが現状である。
【0004】
一方、従来、抗菌加工繊維の抗菌効果は、一般社団法人繊維評価技術協議会が制定するSEKマーク繊維製品認証基準に指定されるJIS L 1902:2015「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」の8.1菌液吸収法に従って評価されることが一般的である。当該基準では、試験対象菌種は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に設定されている。そのため、繊維業界では、通常、黄色ブドウ球菌を使用して繊維製品の抗菌性を評価している(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ara,K. et al.,Foot odor due to microbial 2 metabolism and its control, Can. J. Microbiol,Vol.52,p.357-364, 2006
【非特許文献2】Gordon,A. J. et al,Microbiological and biochemical origins of human foot malodour, Flavour Fragrance J, Vol.28,p.231-237, 2013
【非特許文献3】Hara,T. et al., Butane-2,3-dione: the Key Contributor to Axillary and Foot Odor Associated with an Acidic Note, CHEMISTRY & BIODIVERSITY,Vol.12,p.248-258, 2015
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-249201号公報
【特許文献2】特開昭63-83832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、抗菌加工繊維の抗菌効果の評価に使用されている黄色ブドウ球菌は、着用時に衣類で増殖し悪臭を発生することが報告されている。しかしながら、従来、靴下の不快臭の原因菌は解明されておらず、黄色ブドウ球菌が、実際に靴下の不快臭の原因菌となっているかについては明らかにされていない。そのため、靴下の不快臭の抑制効果を適切に評価できる試験系は確立されておらず、従来技術では、靴下の不快臭を効果的に抑制できる抗菌防臭剤を適切にスクリーニングすることができないのが現状である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、靴下の不快臭を抑制できる抗菌防臭剤をスクリーニングする方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、被験試料が有する靴下の不快臭の抑制効果を評価する方法を提供することである。更に、本発明の更に他の目的は、靴下の不快臭を効果的に抑制できる靴下用の抗菌防臭剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、靴下の不快臭の主たる原因は、黄色ブドウ球菌ではなく、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)によって産生されるジアセチルであることを知見した。従って、表皮ブドウ球菌を試験対象菌種として、その抗菌性を評価することにより、靴下の不快臭を抑制できる抗菌防臭剤のスクリーニングや、靴下の不快臭の抑制効果の評価が可能になることを見出した。更に、本発明者は、第4級アンモニウム系抗菌剤が、表皮ブドウ球菌に対して優れた抗菌活性を示し、靴下用の抗菌防臭剤として使用できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 第4級アンモニウム系抗菌剤を含む、靴下用の抗菌防臭剤。
項2. 前記第4級アンモニウム系抗菌剤が、N,N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-オクタデカンアミニウム=クロリドである、項1の記載の靴下用の抗菌防臭剤。
項3. 項1又は2に記載の靴下用の抗菌防臭剤を含む、靴下用の繊維。
項4. 項3に記載の靴下用の繊維を含む、靴下。
項5. 被験物質を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第1工程、
前記第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質を、靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択する第2工程、及び
前記第2工程で靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択された被験物質を用いて、当該被験物質を含む靴下を製造する第3工程
を含む靴下の製造方法。
項6. 靴下用の抗菌防臭剤をスクリーニングする方法であって、
被験物質を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第1工程、及び
前記第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質を、靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択する第2工程
を含むスクリーニング方法。
項7. 被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果を評価する方法であって、
被験試料を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第I工程、及び
前記第I工程における表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果に基づいて、被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果を判定する第II工程
を含む、評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表皮ブドウ球菌に対する増殖抑制能を指標とすることにより、靴下の不快臭を抑制できる抗菌防臭剤をスクリーニングしたり、被験試料が有する靴下の不快臭の抑制効果を評価したりすることが可能になる。また、本発明によれば、靴下の不快臭を効果的に抑制できる靴下用の抗菌防臭剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】着用済み靴下に存在する菌数測定及び菌同定を行った結果である。
図2】表皮ブドウ球菌が有するジアセチル合成経路を示す図である。
図3】乳酸の非存在下又は存在下で表皮ブドウ球菌を培養し、培養液中のジアセチルを定量した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.靴下用の抗菌防臭剤をスクリーニングする方法
本発明のスクリーニング方法は、靴下用の抗菌防臭剤をスクリーニングする方法であって、被験物質を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第1工程、及び、前記第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質を、靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択する第2工程を含むことを特徴とする。以下、本発明のスクリーニング方法について詳述する。
【0014】
[第1工程]
第1工程では、被験物質を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する。
【0015】
本発明のスクリーニング方法において、被験物質とは、靴下の不快臭を抑制する効果の有無の評価する対象物質であり、靴下用の抗菌防臭剤になり得るか否かを評価するための物質である。被験物質としては、生物由来物、植物由来物、合成物、半合成物等のいずれであってもよい。また、被験物質は、単一化合物であってもよく、また、2以上の化合物が含まれる組成物(例えば、植物エキス等)であってもよい。
【0016】
第1工程において、被験物質の共存下で表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する方法としては、表皮ブドウ球菌を使用して一般的な抗菌試験法により行うことができ、具体的には、ペーパーディスク法、MIC法等が挙げられる。
【0017】
[第2工程]
第2工程では、第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質を、靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択する。
【0018】
本願発明者によって、表皮ブドウ球菌は靴下の不快臭の原因菌であることが確認されており、前記第1工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験物質は、靴下の不快臭の抑制効果を示し、靴下用の抗菌防臭剤の候補となる。また、表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が高い被験物質は、靴下の不快臭の抑制効果がより高いと判定できる。
【0019】
第2工程において靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択された被験物質は、靴下の繊維に含有させることにより、靴下に不快臭の抑制効果を付与する目的で使用される。また、第2工程において靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択された被験物質は、靴下の繊維に含有させた状態で、靴下の不快臭の抑制効果の評価に供し、靴下用の抗菌防臭剤としての更なる性能評価を行ってもよい。
【0020】
また、本発明のスクリーニング方法(第1工程及び第2工程)を実施した後に、第2工程で靴下用の抗菌防臭剤の候補として選択された被験物質を用いて、当該被験物質を含む靴下を製造する第3工程を実施することにより、靴下用の抗菌防臭剤を含む繊維で形成された靴下を製造することができる。
【0021】
2.靴下の不快臭抑制効果の評価方法
本発明の評価方法は、被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果を評価する方法であって、被験試料を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する第I工程、及び、前記第I工程における表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果に基づいて、被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果を判定する第II工程を含むことを特徴とする。以下、本発明の評価方法について詳述する。
【0022】
[第I工程]
第I工程では、被験試料を表皮ブドウ球菌と共存させて表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する。
【0023】
本発明の評価方法において、被験試料とは、靴下の不快臭抑制効果の有無及び強弱の評価対象となる試料である。被験試料は、靴下に使用される繊維、靴下の生地、靴下の繊維に含有させる物質(抗菌剤等の添加剤)等のいずれであってもよい。また、被験試料が、靴下の繊維に含有させる物質である場合、単一化合物であってもよく、また、2以上の化合物が含まれる組成物(例えば、植物エキス等)であってもよい。
【0024】
第I工程において、被験試料の共存下で表皮ブドウ球菌の増殖能を測定する方法としては、被験試料の種類に応じて、表皮ブドウ球菌を使用して一般的な抗菌試験法により行うことができる。具体的には、被験試料が靴下に使用される繊維又は靴下の生地である場合には、菌液吸収法、トランスファー法、ハロー法等によって抗菌試験を行えばよい。また、被験試料が、靴下の繊維に含有させる物質である場合には、ペーパーディスク法、MIC法等によって抗菌試験を行えばよい。
【0025】
[第II工程]
第II工程では、前記第I工程における表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果に基づいて、被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果を判定する。
【0026】
本願発明者によって、表皮ブドウ球菌は靴下の不快臭の原因菌であることが確認されており、前記第I工程における表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果に基づいて、被験試料が有する靴下の不快臭抑制効果の有無及び強弱を判定することができる。
【0027】
具体的には、前記第I工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が認められた被験試料は、靴下の不快臭抑制効果を有すると判定される。また、前記第I工程において表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果が高い程、被験試料は靴下の不快臭抑制効果が高く、当該増殖抑制効果が低い程、被験試料は靴下の不快臭抑制効果が低いと判定される。
【0028】
3.靴下用の抗菌防臭剤
本発明の靴下用の抗菌防臭剤は、第4級アンモニウム系抗菌剤を含むことを特徴とする。以下、本発明の靴下用の抗菌防臭剤について詳述する。
【0029】
[第4級アンモニウム系抗菌剤]
第4級アンモニウム系抗菌剤としては、具体的には、N,N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-オクタデカンアミニウム=クロリド、N,N-ジメチル-N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]-1-オクタデカンアミニウム=クロリド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0030】
本発明の靴下用の抗菌防臭剤において、第4級アンモニウム系抗菌剤は、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。第4級アンモニウム系抗菌剤の中でも、好ましくはN,N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-オクタデカンアミニウム=クロリドが挙げられる。
【0031】
[使用方法]
本発明の靴下用の抗菌防臭剤は、靴下の繊維に含有させることにより、靴下に不快臭を抑制する効果を付与する目的で使用される。
【0032】
本発明の靴下用の抗菌防臭剤を靴下の繊維に含有させるには、靴下に製編される繊維の内部に本発明の靴下用の抗菌防臭剤を練り込んだり、靴下に製編される繊維の表面を本発明の靴下用の抗菌防臭剤でコーティングしたりすればよい。靴下に製編される繊維の内部に本発明の靴下用の抗菌防臭剤を練り込むには、本発明の靴下用の抗菌防臭剤を含有させた紡糸用原料を用いて紡糸すればよい、また、靴下に製編される繊維の表面を本発明の靴下用の抗菌防臭剤でコーティングするには、本発明の靴下用の抗菌防臭剤を含む繊維処理剤を使用して、靴下に製編される繊維の表面加工を行えばよい。繊維処理剤には、本発明の靴下用の抗菌防臭剤を固着させるために、必要に応じて反応性樹脂やカップリング剤が含まれていてもよい。
【0033】
また、本発明の靴下用の抗菌防臭剤を含む繊維処理剤を使用して、靴下用の生地を処理することによって、本発明の靴下用の抗菌防臭剤を靴下の繊維の表面にコーティングさせることもできる。
【0034】
靴下の繊維における本発明の靴下用の抗菌防臭剤の含有量については、使用する第4級アンモニウム系抗菌剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、靴下の繊維の総重量に対して、第4級アンモニウム系抗菌剤が0.01~1重量%程度、好ましくは0.025~0.5重量%程度、より好ましくは0.05~0.1重量%程度であればよい。
【0035】
本発明の靴下用の抗菌防臭剤を含む繊維で形成された靴下は、靴下の不快臭の原因菌である表皮ブドウ球菌に対して抗菌活性を示すので、着用時に不快臭が生じるのを抑制することができる。
【実施例0036】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
試験例1:靴下の不快臭の原因菌及び原因物質の推定
1.試験方法
1-1.着用済み靴下の調製
足のにおいが強い20代男性3名に、抗菌加工の無い靴下(綿81%、ポリエステル17%、ポリウレタン2%)を3日間着用させた。着用する前の靴下を、SEKマーク繊維製品の洗濯方法に定められる標準洗濯法に従い洗濯及び乾燥した後、オートクレーブにて滅菌した。3日間の靴下の着用期間中,日中は屋内外を問わず、靴下及び革靴(合成皮革製)を着用させた。入浴及び就寝時のみ靴下を脱ぐこととし、脱いだ靴下は次の着用までアルミパウチ内で保管した。入浴時の全身洗浄には、無香料ボディソープを使用した。靴下回収6時間前に温度35℃、相対湿度65%の環境下で、6分間の踏み台昇降運動を行わせた後、靴下を回収し解析に供した。
【0038】
1-2.着用済み靴下の臭い評価
回収した3人分の靴下の足底部分(検体1~3)をハサミで切り取り、予め角を切り取った容量6Lのにおい袋(近江オドエアーサービス)に靴下の足底部分を入れ、クリップで封をした。におい袋内の空気を脱気した後4Lの無臭空気で置換し,ゴム栓で封をした。35℃で30分間静置して臭い成分を揮発させた後、臭気判定士指導の下、7名のパネリストによる嗅覚による官能評価を行った。官能評価は、ゴム栓の封を開け、6段階臭気強度表示法を参考にして、以下の基準で臭気強度を判定し、7名により判定された臭気強度の平均値を算出した。
<臭気強度の判定基準>
0:無臭
1:やっと感知できる臭い
2:何の臭いであるかがわかる弱い臭い
3:らくに感知できる臭い
4:強い臭い
5:強烈な臭い
【0039】
1-3.着用済み靴下の臭い成分の解析
官能評価に用いた検体(靴下の足底部分部分)の重量を測定し7等分した。等分した検体の1/7量ずつを6つの1Lガラス瓶に各々入れ、35℃で1時間保温した。各瓶内の気体のうち、400mLを基準とし、1/2n-1量(n=1~6(400~12.5mL))を順次濃縮後、におい嗅ぎGC/MSに供した。においがしなくなった(n)より1回少ない(n-1)を2のべき数として、FDファクター(2(n-1))を算出し、検出された各成分の臭い寄与率を評価した。具体的な解析手法は以下の通りである。
【0040】
ガラス瓶内で保温した気体の内、400、200、100、50、25、及び12.5mLを各々吸引し自動濃縮装置(Entech 7100A、16 ENTECH INSTRUMENTS)にて濃縮した後、ガスクロマトグラフィー質量分析計(7890A GC System、5975C inert MSD、18 Agilent)に導入した。分析にはキャピラリーカラムDB-19 WAX(length:60 m、Diam:0.25 mm、Film:0.25 μm、20 Agilent)を用い、GC/MSの昇温条件は40℃(4分)→10℃分-1→ 40℃(1分)、キャリアガスをヘリウムとした。GCカラムの出口側でキャリアガスを分岐して、一方をにおい嗅ぎ装置スニッフィングポートへ、他方をMS検出器へ接続した。MS検出器では,電子イオン化法にてスキャンモード(m/z10-300)で分析した。におい嗅ぎGC/MS分析は、におい嗅ぎ装置(Gerstel ODP2,GERSTEL)を上述のガスクロマトグラフィー質量分析計に装備して使用した。におい嗅ぎは、嗅覚試験に合格したパネリストが行った。臭いを感じた保持時間にMSで検出されたスペクトルについて、NIST 2011及びWiley 9thを用いたライブラリ検索を行い、ライブラリ上のマススペクトルとの一致度から臭い成分を定性した。
【0041】
1-4.着用済み靴下に存在する菌数測定及び菌同定
官能評価に用いた検体の1/7量を生菌の単離に供した。検体をストマッカー袋に入れ、滅菌生理食塩水を10mL添加して袋の上から指で3分間揉み込み、検体中の微生物を回収した。滅菌生理食塩水を用いて微生物回収液の10倍希釈系列を作成し、SCD寒天培地(日水製薬)に塗抹して、37℃、好気条件下で3~5日間培養した。培養後、30~300個のコロニーが形成されたプレートを選定し、プレート上に形成されたコロニーの大きさ、色、形等を目視で観察した。観察された形状毎にコロニーを分類し、分類したタイプ毎にコロニー数を計数して、総菌数に占める各タイプの菌数割合を算出した。各タイプから代表1コロニーずつを選定し、16S rRNA遺伝子の部分配列を解析し、テクノスルガ・ラボ微生物同定システム(Ver 3.0.30 DB- BA16.0(16S rDNA)、株式か貴社テクノスルガ・ラボ)を用いて菌の同定を行った。
【0042】
2.試験結果
着用済み靴下の臭気強度を評価した結果を表1に示す。着用済み靴下(検体1~3)はいずれも臭気強度は3.7~4.7と強く,複数のパネリストから靴下の臭いに対して「酸っぱい、ほこりっぽい」という回答が得られた。
【0043】
【表1】
【0044】
着用済み靴下をにおい嗅ぎGC/MS分析に供した結果を表2に示す。検出されたにおい成分のピーク数は検体間で異なり、臭気強度が高い検体から順に、6成分、4成分、2成分であった。靴下の不快臭である「酸っぱい」臭いを感じた保持時間に検出された成分は、ジアセチル、2-メチルブタナール、及びイソバレルアルデヒドと定性され、全ての検体から共通して検出された成分はジアセチルのみであった。また、検体1及び3では、ジアセチルのFDファクター(臭いの寄与率の指標)が最も高かった。更に、検体2では、イソブチルアルデヒドのFDファクターがジアセチルよりも高かったが,ジアセチルとの差は1段階であった。即ち、これらの結果から、靴下の不快臭の主要因はジアセチルである可能性が高いことが示された。
【0045】
【表2】
【0046】
着用済み靴下に存在する菌数測定及び菌同定を行った結果を図1に示す。この結果、全ての検体において皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が優占的に存在していることが分かった(表皮ブドウ球菌の占有率:46~74%)。即ち、本結果から、靴下の不快臭の主要な原因菌は表皮ブドウ球菌であることが示唆された。
【0047】
また、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomicsを用いて表皮ブドウ球菌がジアセチル合成経路を有するか調査を行ったところ、図2に示すように、ヒトの汗等に含まれる有機酸からジアセチルを合成する代謝経路を有していることが確認された。以上の結果から、着用済み靴下の不快臭の主要な原因物質がジアセチルであり、その不快臭の主要が原因菌は表皮ブドウ球菌であることが強く示唆された。
【0048】
試験例2:靴下の不快臭の原因菌及び原因物質の特定
1.試験目的及び方法
前記試験例1において、着用済み靴下の不快臭は、表皮ブドウ球菌が産生するジアセチルであることが強く示唆されたため、表皮ブドウ球菌がヒトの汗や皮脂に含まれる成分からジアセチルを産生し、着用済み靴下の不快臭の原因となっているかを確認するために、表皮ブドウ球菌によるジアセチルの産生能の確認を行った。具体的な試験方法は、以下の通りである。
【0049】
着用済み靴下から単離した表皮ブドウ球菌KOBA6をSCD寒天培地に画線し、36℃で24時間培養した。培養後、形成されたコロニーを掻き取り、SCD液体培地(日水製薬)に1×107CFU/mLになるように懸濁し,36℃で19時間培養した。得られた菌液を1.5mL滅菌チューブに移して遠心集菌し、上清を廃棄した後得られたペレットを滅菌生理食塩水で懸濁し、OD600≒1になるよう調整した。L-乳酸ナトリウム(Sigma 10 Aldrich)を未添加又は添加した半合成培地(Hara,T. et al.,PLOS ONE,9,(11),2014, 25 e111833.26)(L-乳酸ナトリウム終濃度:0又は2mM)に、調整した菌液を1/100容量接種し、36℃にて7時間、160rpmで振とう培養を行った。培養後、培養液から孔径0.22μmのフィルターで菌体を除去し、GC/MSにてジアセチルを定量した。
【0050】
2.試験結果
結果を図3に示す。乳酸非添加の条件では表皮ブドウ球菌はジアセチルを産生していなかったが、乳酸を添加した条件では表皮ブドウ球菌はジアセチルを産生することが確認された。
【0051】
即ち、本結果と前記試験例1の結果から、表皮ブドウ球菌は乳酸を代謝して靴下の不快臭の一因であるジアセチルを産生していることが明らかとなった。従って、表皮ブドウ球菌の増殖能を指標とすることにより、靴下の不快臭を抑制する物質のスクリーニングや靴下の不快臭の抑制効果の評価が可能になることが明らかとなった。更に、表皮ブドウ球菌に対して抗菌活性を示す物質は、靴下用の抗菌防臭剤の有効成分として使用できることも明らかとなった。
【0052】
試験例3:表皮ブドウ球菌に対する抗菌活性の評価
1.試験方法
1-1.第4級アンモニウム系抗菌剤で表面加工した綿布の調製
抗菌加工の無い綿100%布に対して、第4級アンモニウム系抗菌剤を用いて加工した。第4級アンモニウム系抗菌剤の加工においては、第4級アンモニウム系抗菌剤(N,N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-オクタデカンアミニウム=クロリド)が0.073重量%含まれる水溶液を、その総量が加工する綿布重量の12倍量となるように調製した。この第4級アンモニウム系抗菌剤水溶液に綿布を浸漬し、70℃として温浴にて20分静置した。その後、綿布を水溶液より取り出し、綿布が保持する第4級アンモニウム系抗菌剤水溶液の重量が、加工前の綿布の重量と同量となるように絞り、105℃に設定したオーブンにて5分間乾燥させた。その後、140℃に設定したオーブンにて2分静置し、得られた加工綿布(実施例1)を抗菌試験に用いた。
【0053】
1-2.抗菌試験
前記で準備した加工繊維(実施例1及び2)の表皮ブドウ球菌に対する抗菌活性を評価した。表皮ブドウ球菌としては、着用した靴下から単離しした3菌株(KOBA19)を使用した。抗菌活性は、JIS L 1902:2015「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」の8.1菌液吸収法に準拠して測定し、抗菌活性値(Log10 Reduction Value)を求めた。
【0054】
2.試験結果
結果を表3に示す。第4級アンモニウム系抗菌剤で表面加工している綿布(実施例1)では、着用済靴下から単離した表皮ブドウ球菌に対する増殖抑制効果を示すことが確認された。即ち、本結果から、第4級アンモニウム系抗菌剤は、靴下用の抗菌防臭剤の有効成分として使用できることが確認された。
【0055】
【表3】
図1
図2
図3