(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093385
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】重合体の製造方法、および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 22/40 20060101AFI20230627BHJP
C08F 2/18 20060101ALI20230627BHJP
C08L 35/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C08F22/40
C08F2/18
C08L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202401
(22)【出願日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2021208567
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022155429
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517123173
【氏名又は名称】KAIフォトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山田 悟
(72)【発明者】
【氏名】渡辺(後藤) 美咲
(72)【発明者】
【氏名】片桐 史章
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】小池 康博
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG012
4J002BH021
4J002CH012
4J002FD312
4J002FD316
4J002GP00
4J011AA05
4J011JA06
4J011JB14
4J011JB22
4J011JB26
4J100AB02Q
4J100AM45P
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA21
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】優れた光学特性、耐熱性、機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミド20~100重量%およびその他共重合可能な単量体0~80重量%からなる単量体混合物を、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤の存在下に、油溶性ラジカル重合開始剤を用いて水性媒体中で懸濁重合することを特徴とするN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法。
【化1】
(ここで、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミド20~100重量%およびその他共重合可能な単量体0~80重量%からなる単量体混合物を、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤の存在下に、油溶性ラジカル重合開始剤を用いて水性媒体中で懸濁重合することを特徴とするN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法。
【化1】
(ここで、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。)
【請求項2】
Rがメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基またはオクチル基であることを特徴とする請求項1に記載のN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記その他共重合可能な単量体が、ビニル芳香族炭化水素、オレフィン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルまたはカルボン酸ビニルエステルであることを特徴とする請求項1または2に記載のN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記分散剤がポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法。
【請求項5】
N-アルキルマレイミド系重合体の重量平均分子量が200,000~2,000,000であることを特徴とする請求項1または2に記載のN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法。
【請求項6】
懸濁重合により得られたN-アルキルマレイミド系重合体をろ過した後に、
N-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく前記分散剤を溶解させる溶剤で、N-アルキルマレイミド系重合体を洗浄すること、および
N-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく未反応単量体を溶解させる溶剤で、N-アルキルマレイミド系重合体を洗浄することをさらに含む、請求項1または2に記載のN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(1A)で表されるN-アルキルマレイミド残基20~100重量%およびその他共重合可能な単量体残基0~80重量%からなるN-アルキルマレイミド系重合体100重量部、ならびに、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤2重量部以下を含む樹脂組成物。
【化2】
(ここで、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アルキルマレイミド系重合体の製造方法および樹脂組成物に関するものであり、さらに詳しくは、優れた光学特性、耐熱性および機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造する方法およびN-アルキルマレイミド系重合体を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
N-アルキルマレイミドから得られる単独重合体または共重合体(N-アルキルマレイミド系重合体)は、一般的な熱可塑性ビニル重合体と比べて高い耐熱性を示し、さらに透明性に優れた樹脂となることが知られている。そのため、N-アルキルマレイミド系重合体は、光学分野における様々な用途に使用可能な透明樹脂として有望な材料である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
N-アルキルマレイミドとスチレン等のビニル芳香族炭化水素とからなる交互共重合体を含むN-アルキルマレイミド系重合体は、簡易な組成で、低複屈折であり、かつ広範囲の環境温度下でその低複屈折を維持できるポリマー材料を実現できることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
N-アルキルマレイミド系重合体は、ラジカル重合によって製造することができる。また、その製造方法は、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、および乳化重合等の従来公知の方法により製造することができる。しかしながら、塊状重合では除熱が困難であるとともに、未反応単量体の除去が困難であるために特殊な製造設備が必要であるという問題がある。また、乳化重合では乳化剤の除去が困難であり、重合体の透明性が損なわれるという問題がある。溶液重合では得られる重合体の分子量が比較的低く、重合体の機械強度が十分でないという問題がある。一方、懸濁重合は重合系の温度制御が容易であること、高分子量の重合体が得られることおよび重合後の単量体の除去が比較的容易であることから、工業的に好ましい製造方法である。しかしながら、懸濁重合においても分散剤の除去が困難であり、重合体の透明性が損なわれるという問題がある。
【0005】
これに対し、優れた透明性を有するN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法として、分散剤として水溶性セルロース類を用いる懸濁重合が提案されている(例えば、特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-126229号公報
【特許文献2】特開2009-102495号公報
【特許文献3】特開2009-215346号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】大津隆行著、「未来材料」、Vol.3、No.1、74~79頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、分散剤として水溶性セルロース類を用いる懸濁重合においても未だ十分とはいえず、さらなる改善が望まれる。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、優れた光学特性、耐熱性および機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造する方法、ならびにその関連技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定の分散剤を用いた懸濁重合によるN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の態様1は、下記一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミド20~100重量%およびその他共重合可能な単量体0~80重量%からなる単量体混合物を、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤の存在下に、油溶性ラジカル重合開始剤を用いて水性媒体中で懸濁重合することを特徴とするN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法に関するものである。
【化1】
ここで、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。
【0012】
本発明の態様2に係る製造方法では、上述した態様1の構成に加えて、Rがメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基またはオクチル基である。
【0013】
本発明の態様3に係る製造方法では、上述した態様1または2の構成に加えて、前記その他共重合可能な単量体が、ビニル芳香族炭化水素、オレフィン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルまたはカルボン酸ビニルエステルである。
【0014】
本発明の態様4に係る製造方法では、上述した態様1~3のいずれか1つの構成に加えて、前記分散剤がポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上である。
【0015】
本発明の態様5に係る製造方法では、上述した態様1~4のいずれか1つの構成に加えて、N-アルキルマレイミド系重合体の重量平均分子量が200,000~2,000,000である。
【0016】
本発明の態様6に係る製造方法では、上述した態様1~5のいずれか1つの構成に加えて、懸濁重合により得られたN-アルキルマレイミド系重合体をろ過した後に、N-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく前記分散剤を溶解させる溶剤で、N-アルキルマレイミド系重合体を洗浄すること、およびN-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく未反応単量体を溶解させる溶剤で、N-アルキルマレイミド系重合体を洗浄することをさらに含む。
【0017】
また、本発明の態様7は、下記一般式(1A)で表されるN-アルキルマレイミド残基20~100重量%およびその他共重合可能な単量体残基0~80重量%からなるN-アルキルマレイミド系重合体100重量部、ならびに、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤2重量部以下を含む樹脂組成物に関するものである。
【化2】
ここで、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法により、光学特性、耐熱性および機械強度に優れたN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各態様について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0020】
<N-アルキルマレイミド系重合体の製造方法>
本発明の一態様に係るN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法は、下記一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミド20~100重量%およびその他共重合可能な単量体0~80重量%からなる単量体混合物を、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤の存在下に、油溶性ラジカル重合開始剤を用いて水性媒体中で懸濁重合するものである。
【化3】
一般式(1)のRは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。
【0021】
本態様に係る製造方法により、光学特性、耐熱性および機械強度に優れたN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造することができる。具体的には、本態様に係る製造方法により得られた重合体を用いて形成したフィルムは、従来の分散剤を用いた懸濁重合により得られた重合体を用いて形成したフィルムに比べ、機械強度および透明性に優れたものとなる。また、本態様に係る製造方法は、塊状重合よりも操作が簡便な懸濁重合を行うものであるが、本態様に係る製造方法により得られた重合体を用いて形成したフィルムは、塊状重合により得られた重合体を用いて形成したフィルム同様に、光学特性(透明性、低複屈折)、耐熱性および機械強度に優れたものとなる。したがって、塊状重合と比べ、光学特性、耐熱性および機械強度に優れたN-アルキルマレイミド系重合体を、より効率よく製造することができる。
【0022】
炭素数1~12の直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基およびドデシル基を例示できる。また、炭素数3~12の分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基を例示できる。炭素数3~6の環状アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基およびシクロヘキシル基を例示できる。これらの中でも、Rがメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基またはオクチル基であることが好ましく、得られるN-アルキルマレイミド系重合体がより耐熱性に優れるものとなることから、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基およびシクロヘキシル基が好ましい。さらに、N-アルキルマレイミドの化合物としての安全性が高く設備上の安全対策を軽減でき、効率よく経済的に製造できることから、一般式(1)のRとしては、エチル基、tert-ブチル基およびシクロヘキシル基が好ましい。一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミドは、一種類のみを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0023】
一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミドの具体例としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-sec-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-ペンチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-デシルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-シクロプロピルマレイミド、N-シクロブチルマレイミドおよびN-シクロヘキシルマレイミドを例示できる。これらの中でも、N-アルキルマレイミドとしては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-sec-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドおよびN-オクチルマレイミドが好ましく、得られるN-アルキルマレイミド系重合体がより耐熱性に優れるものとなることから、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミドおよびN-シクロヘキシルマレイミドが好ましい。さらに、N-アルキルマレイミドの化合物としての安全性が高く設備上の安全対策を軽減でき、効率よく経済的に製造できることから、N-エチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミドおよびN-シクロヘキシルマレイミドがさらに好ましい。
【0024】
本発明の一態様におけるその他共重合可能な単量体としては、N-アルキルマレイミドと共重合可能なものであれば制限されないが、例えば、スチレンおよびα-メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素;エチレン、プロピレン、1-ブテンおよびイソブテン等のオレフィン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルおよびアクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル;ならびに酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよびピバル酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;を例示できる。これらの中でも、簡易な組成で、低複屈折であり、かつ広範囲の環境温度下でその低複屈折を維持できるN-アルキルマレイミド系重合体を実現できることから、スチレンおよびα-メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルおよびアクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル;が好ましく、特にスチレンおよびα-メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル;が好ましい。その他共重合可能な単量体は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明の一態様における一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミドおよびその他共重合可能な単量体からなる単量体混合物の混合割合は、N-アルキルマレイミド20~100重量%およびその他共重合可能な単量体0~80重量%であり、その中でも特に耐熱性および光学特性に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくはN-アルキルマレイミド35~100重量%およびその他共重合可能な単量体0~65重量%であり、さらに好ましくはN-アルキルマレイミド50~100重量%およびその他共重合可能な単量体0~50重量%である。さらに、光弾性係数および固有複屈折が良好となることから、特に好ましくはN-アルキルマレイミド55~80重量%およびその他共重合可能な単量体20~45重量%である。
【0026】
本発明の一態様における分散剤は、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物である。すなわち、当該化合物は、酸素に結合した水素および窒素に結合した水素を有していない。酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物は、N-アルキルマレイミド系重合体との相互作用が弱く、重合後の洗浄で効率的に除去できる。そして、重合後の洗浄で効率的に除去できることから、当該化合物を用いた懸濁重合では、光学特性および機械強度に優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られる。なお、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物を用いることによって、透明性および機械強度を改善できることはこれまで一切報告されていない。
【0027】
本発明の一態様における酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリ(N-ビニルアミド)、およびポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレンブロック共重合体を例示できる。
【0028】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、およびポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテルを例示できる。
【0029】
ポリ(N-ビニルアミド)としては、ポリ(N-ビニルホルムアミド)、ポリ(N-ビニルアセトアミド)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)、ポリビニルピロリドン、およびポリビニルカプロラクタムを例示できる。これらの中でも、特に得られるN-アルキルマレイミド系重合体が顆粒状粒子として得られると共に、重合後のポリ(N-ビニルアミド)をより効率的に除去できることで、光学特性および機械強度により優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、ポリ(N-ビニルホルムアミド)、ポリ(N-ビニルアセトアミド)、およびポリビニルピロリドンが好ましい。
【0030】
酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物としてポリビニルピロリドンを用いる場合、下記式(2)で示されるFikentscherの式で計算される粘性特性値(K値)は10~130が好ましい。その中でも特に得られるN-アルキルマレイミド系重合体が顆粒状粒子として得られると共に、重合後の水溶性ポリ(N-ビニルアミド)をより効率的に除去できることで、光学特性および機械強度により優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、K値はさらに好ましくは20~125であり、特に好ましくは30~120である。
K=(1.5×logηrel-1)/(0.15+0.003×c)+{300×c×logηrel+(c+1.5×c×logηrel)2}1/2/(0.15×c+0.003×c2) (2)
ηrel:ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度
c:ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)。
【0031】
また、本発明の一態様における分散剤は、ポリアクリル酸塩である。ポリアクリル酸塩は、カチオン部分を除いたポリアクリル酸主鎖中に、酸素に結合した水素および窒素に結合した水素を有しておらず、N-アルキルマレイミド系重合体との相互作用が弱く、重合後の洗浄で効率的に除去できる。そして、重合後の洗浄で効率的に除去できることから、当該ポリアクリル酸塩を用いた懸濁重合では、光学特性および機械強度に優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られる。なお、ポリアクリル酸塩を用いることによって、透明性および機械強度を改善できることはこれまで一切報告されていない。
【0032】
本発明の一態様におけるポリアクリル酸塩としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸カルシウム、ポリアクリル酸マグネシウム、およびポリアクリル酸アンモニウムを例示できる。これらの中でも、特に得られるN-アルキルマレイミド系重合体が顆粒状粒子として得られると共に、重合後のポリアクリル酸塩をより効率的に除去できることで、光学特性および機械強度により優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、ポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0033】
ポリアクリル酸塩としてポリアクリル酸ナトリウムを用いる場合、ポリアクリル酸ナトリウムの重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、得られるN-アルキルマレイミド系重合体が顆粒状粒子として得られると共に、重合後のポリアクリル酸ナトリウムを効率的に除去できることで、光学特性および機械強度により優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは100,000~5,000,000であり、さらに好ましくは500,000~3,000,000であり、特に好ましくは1,000,000~3,000,000である。
【0034】
また、本発明の一態様における分散剤は、ポリアルキレングリコールである。ポリアルキレングリコールは、炭素数2~4のアルキレンオキサイドの重合物であり、酸素に結合した水素を有しているが、N-アルキルマレイミド系重合体との相互作用が弱く、重合後の洗浄で効率的に除去できる。そして、重合後の洗浄で効率的に除去できることから、当該ポリアルキレングリコールを用いた懸濁重合では、光学特性および機械強度に優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られる。なお、ポリアルキレングリコールを用いることによって、透明性および機械強度を改善できることはこれまで一切報告されていない。
【0035】
本発明の一態様におけるポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを例示できる。これらの中でも、特に得られるN-アルキルマレイミド系重合体が顆粒状粒子として得られると共に、重合後のポリアルキレングリコールをより効率的に除去できることで、光学特性および機械強度により優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0036】
ポリアルキレングリコールとしてポリエチレングリコールを用いる場合、ポリエチレングリコールの粘度平均分子量は、特に制限はないが、得られるN-アルキルマレイミド系重合体が顆粒状粒子として得られると共に、重合後のポリアルキレングリコールを効率的に除去できることで、光学特性および機械強度により優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは20,000~10,000,000であり、さらに好ましくは150,000~8,000,000であり、特に好ましくは1,000,000~5,000,000である。
【0037】
本発明の一態様において、分散剤は、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる1種以上である。分散剤は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0038】
本発明の一態様における酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤の添加量は、単量体混合物100重量部に対して0.01~25重量部が好ましい。その中でも特に得られるN-アルキルマレイミド系重合体が顆粒状粒子として得られると共に、重合後の分散剤を効率的に除去できることで、光学特性および機械強度により優れるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、分散剤の添加量は、さらに好ましくは0.01~20重量部であり、特に好ましくは0.01~15重量部である。
【0039】
本発明の一態様における油溶性ラジカル重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエートおよびtert-ヘキシルパーオキシネオデカノエート等の有機過酸化物、ならびに2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-ブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートおよび1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ系開始剤を例示できる。
【0040】
また、油溶性ラジカル重合開始剤の使用量は適宜設定することができ、例えば、単量体混合物100重量部に対して0.0001~2重量部であり、その中でも特に得られるN-アルキルマレイミド系重合体が光学特性および機械強度により優れることから、油溶性ラジカル重合開始剤の使用量は、好ましくは0.001~1重量部であり、さらに好ましくは0.01~0.5重量部である。
【0041】
本発明の一態様における水性媒体としては、通常水性媒体として扱われているものでよく、例えば水、工業用水、イオン交換水および蒸留水等を挙げることができる。また、水性媒体の使用量は、例えば、単量体混合物100重量部に対して100~500重量部であり、その中でも特に顆粒状のN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造することから、125~400重量部が好ましく、特に好ましくは150~300重量部である。
【0042】
本発明の一態様に係る製造方法においては、N-アルキルマレイミドが固体状態である場合、単量体の仕込み時に、N-アルキルマレイミドを溶液状態で仕込むことでN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造するために、油性媒体を添加してもよい。該油性媒体としては、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、ケトンおよびハロゲン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を用いることができる。
【0043】
ここで芳香族炭化水素としては、トルエンおよびキシレンを例示できる。また、エーテルとしては、ジエチルエーテルおよびジイソプロピルエーテルを例示できる。また、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸ブチルおよび炭酸ジメチルを例示できる。また、ケトンとしては、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンを例示できる。また、ハロゲン化合物としてはクロロホルム、塩化メチレンおよび1,2-ジクロロエタンを例示できる。これらの中でも、優れた機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造するために、芳香族炭化水素、エーテル、エステルおよびケトンが好ましく、特にトルエンおよびキシレンが好ましい。
【0044】
また、油性媒体を添加する場合、その使用量は、本発明の製造方法が実施できる限りにおいて如何なる量の使用であってもよく、その中でも特に、優れた機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造するために、単量体混合物100重量部に対して好ましくは0.01~70重量部であり、さらに好ましくは0.1~50重量部であり、特に好ましくは5~25重量部である。
【0045】
本発明の製造方法の一態様における重合温度は、油溶性ラジカル重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、その中でも特に、優れた光学特性および機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を効率よく製造するために、好ましくは40~150℃の範囲であり、さらに好ましくは50~90℃の範囲であり、特に好ましくは60~80℃の範囲である。
【0046】
本発明の一態様に係る製造方法においては、優れた光学特性および機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を、顆粒状で効率よく経済的に製造するために、懸濁重合により得られたN-アルキルマレイミド系重合体をろ過した後に、N-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく分散剤を溶解させる溶剤で、N-アルキルマレイミド系重合体を洗浄すること、およびN-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく未反応単量体を溶解させる溶剤で、N-アルキルマレイミド系重合体を洗浄することを含むことが好ましい。
【0047】
N-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく分散剤を溶解させる溶剤は、分散剤のみならず未反応単量体も溶解させる溶剤であってもよい。同様に、N-アルキルマレイミド系重合体を溶解させることなく未反応単量体を溶解させる溶剤は、未反応単量体のみならず分散剤も溶解させる溶剤であってもよい。すなわち、使用される溶剤は、N-アルキルマレイミド系重合体が不溶で、かつ(i)分散剤のみ可溶、(ii)未反応単量体のみ可溶、または(iii)分散剤および未反応単量体の両方が可溶な溶剤があげられる。このような溶剤であれば特に限定されるものではなく、水、メタノール、エタノール、メタノール/トルエン混合溶媒、エタノール/トルエン混合溶媒、メタノール/水混合溶媒、およびエタノール/水混合溶媒を例示できる。例えば、水は、分散剤および未反応のN-アルキルマレイミド単量体が可溶である。一方、メタノール、エタノール、メタノール/トルエン混合溶媒、エタノール/トルエン混合溶媒、メタノール/水混合溶媒、およびエタノール/水混合溶媒は、分散剤、未反応のN-アルキルマレイミド単量体および未反応のその他共重合可能な単量体が可溶である。
【0048】
N-アルキルマレイミド系重合体が不溶でかつ分散剤および未反応単量体の両方が可溶な溶剤であれば、分散剤と未反応単量体を単一の溶剤で同時に除去することもできる。また、互いに異なる溶剤を用いて、分散剤と未反応単量体とを個別に除去してもよい。分散剤と未反応単量体とを個別に除去する場合、分散剤を溶解させる溶剤でN-アルキルマレイミド系重合体を洗浄した後に、未反応単量体を溶解させる溶剤でN-アルキルマレイミド系重合体を洗浄してもよいし、未反応単量体を溶解させる溶剤で洗浄した後に、分散剤を溶解させる溶剤で洗浄してもよい。分散剤を効率的に除去するために、N-アルキルマレイミド系重合体が未反応単量体で膨潤された状態で分散剤を洗浄する観点から、分散剤を溶解させる溶剤でN-アルキルマレイミド系重合体を洗浄した後に、未反応単量体を溶解させる溶剤でN-アルキルマレイミド系重合体を洗浄することが好ましい。
【0049】
また、本発明の一態様においては、必要に応じて、アルキルメルカプタン等の連鎖移動剤、またはヒンダードフェノール系もしくはリン系の酸化防止剤を重合初期、重合中または重合後に使用してもよい。
【0050】
本発明の一態様における製造方法で得られるN-アルキルマレイミド系重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、優れた光学特性および機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体を製造するために、好ましくは200,000~2,000,000であり、さらに好ましくは500,000~1,800,000であり、特に好ましくは800,000~1,500,000である。なお、N-アルキルマレイミド系重合体の重量平均分子量(Mw)は、重合温度で制御できる。
【0051】
本発明の一態様における製造方法で得られるN-アルキルマレイミド系重合体中の、N-アルキルマレイミドに由来する単位、すなわちN-アルキルマレイミド残基の比率は20~100重量%の範囲にあり、その中で特に、耐熱性および光学特性に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは35~100重量%であり、さらに好ましくは50~100重量%である。
【0052】
本発明の一態様における製造方法で得られるN-アルキルマレイミド系重合体の粒子形状には特に制限はないが、分散剤または未反応単量体またはその両方の除去を効率的に行うことで、光学特性および機械強度に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは顆粒状であり、平均粒径が20~2,000μmの範囲にあり、さらに好ましくは平均粒径が30~1,000μmの範囲にあり、特に好ましくは平均粒径が50~900μmの範囲にある。なお、本明細書における平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた、体積基準の累積粒子量が50%となる粒径である。
【0053】
N-アルキルマレイミド系重合体のガラス転移点(Tg)は、耐熱性の指標となる。本発明の製造方法の一態様で得られるN-アルキルマレイミド系重合体のガラス転移点(Tg)は、特に制限はないが、耐熱性に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは120℃以上であり、さらに好ましくは135℃以上であり、特に好ましくは150℃以上である。
【0054】
N-アルキルマレイミド系重合体の引張応力は、機械強度の指標となる。本発明の製造方法の一態様で得られるN-アルキルマレイミド系重合体の引張応力は、特に制限はないが、機械強度に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは35MPa以上であり、特に好ましくは40MPa以上である。なお、N-アルキルマレイミド系重合体の引張応力は、Mwで制御できる。
【0055】
本発明の一態様における製造方法で得られるN-アルキルマレイミド系重合体の機械強度の指標である引張伸びは特に制限はないが、機械強度に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは1.5%以上であり、より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは2.5%以上であり、特に好ましくは3%以上である。
【0056】
N-アルキルマレイミド系重合体のヘーズは、光学特性の指標の1つである。本発明の製造方法の一態様で得られるN-アルキルマレイミド系重合体のヘーズは、特に制限はないが、透明性に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは3%未満であり、さらに好ましくは2.5%未満であり、特に好ましくは2%未満である。なお、N-アルキルマレイミド系重合体のヘーズは、分散剤の種類、N-アルキルマレイミド系重合体中の分散剤残存量および単量体残存量で制御できる。
【0057】
N-アルキルマレイミド系重合体の光弾性定数(C)および固有複屈折(Δn0)は、光学特性の指標の1つである。本発明の製造方法の一態様で得られるN-アルキルマレイミド系重合体の光弾性定数(C)および固有複屈折(Δn0)は、それぞれの絶対値に特に制限はないが、低複屈折のN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくはCの絶対値が50×10-12Pa-1以下、かつΔn0の絶対値が20×10-3以下であり、さらに好ましくはCの絶対値が10×10-12Pa-1以下、かつΔn0の絶対値が5×10-3以下であり、特に好ましくはCの絶対値が2×10-12Pa-1以下、かつΔn0の絶対値が1×10-3以下である。なお、N-アルキルマレイミド系重合体のCおよびΔn0は単量体の種類、およびN-アルキルマレイミド系重合体中の、単量体単位、すなわち残基の比率で制御できる定数である。
【0058】
N-アルキルマレイミド系重合体の固有複屈折の温度定数(dΔn0/dT)は、光学特性の指標の1つである。本発明の製造方法の一態様で得られるN-アルキルマレイミド系重合体の固有複屈折の温度定数(dΔn0/dT)は、その絶対値に特に制限はないが、広範囲の環境温度下で低複屈折を維持できるN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、好ましくは2×10-5℃-1以下であり、さらに好ましくは1×10-5℃-1以下である。なお、N-アルキルマレイミド系重合体のdΔn0/dTは、単量体の種類およびN-アルキルマレイミド系重合体中の、単量体単位、すなわち残基の比率で制御できる定数である。
【0059】
<樹脂組成物>
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、下記一般式(1A)で表されるN-アルキルマレイミド残基20~100重量%およびその他共重合可能な単量体残基0~80重量%からなるN-アルキルマレイミド系重合体100重量部、ならびに、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤2重量部以下を含むものである。本発明の一態様に係る樹脂組成物は、好ましくはN-アルキルマレイミド系重合体を洗浄することを含む、本発明の一態様に係るN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法によって、製造することができる。
【0060】
【化4】
ここで、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。
【0061】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、好ましくはN-アルキルマレイミド系重合体を洗浄することを含む、本発明の一態様に係るN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法によって、製造することができる。換言すれば、一般式(1A)で表されるN-アルキルマレイミド残基は、一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミドに由来する残基である。したがって、一般式(1A)で表されるN-アルキルマレイミド残基の技術的特徴は、一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミドに関する説明を援用できるため、その詳細な説明は省略する。同様に、本発明の一態様に係る樹脂組成物において、その他共重合可能な単量体、ならびに、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤もまた、上述のその他共重合可能な単量体、ならびに、酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤と同じである。よってこれらの技術的特徴それぞれもまた、本発明の一態様に係るN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法におけるそれぞれに関する説明を援用できるため、その説明を省略する。
【0062】
本発明の一態様における樹脂組成物中の酸素または窒素に結合した水素を持たないノニオン性の化合物、ポリアクリル酸塩、およびポリアルキレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の分散剤の含量は、N-アルキルマレイミド系重合体100重量部に対して2重量部以下である。その中でも特に光学特性および機械強度により優れる樹脂組成物が得られることから、好ましくは0.01~2重量部であり、特に好ましくは0.01~1.5重量部である。
【0063】
<用途>
本発明の一態様における製造方法で得られるN-アルキルマレイミド系重合体、および本発明の一態様における樹脂組成物は光学特性および機械強度に加えて耐熱性にも優れることから、各種光学部材、光学レンズ、光学シートおよび光学フィルム等に用いることができる。
【実施例0064】
以下に本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。ポリビニルピロリドン(PVP)K30およびK90は富士フイルム和光純薬(株)の特級グレードを用いた。ポリビニルピロリドン(PVP)K120はアシュランド・ジャパン(株)のPVP K-120を用いた。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は信越化学工業(株)のメトローズ(登録商標)90SH-100を用いた。ポリエチレングリコール(PEG)は富士フイルム和光純薬(株)の一級グレードを用いた。ポリアクリル酸ナトリウム(NaPAA)は東亞合成(株)のアロンビス(登録商標)MXを用いた。tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートは日油(株)のパーブチルOを用いた。tert-ブチルパーオキシピバレートは日油(株)のパーブチルPVを用いた。1-ドデカンチオールは富士フイルム和光純薬(株)の特級グレードを用いた。
【0065】
以下に実施例により得られたN-アルキルマレイミド系重合体の評価方法および測定方法を示す。
【0066】
<平均粒径>
N-アルキルマレイミド系重合体150mgをイオン交換水20gに分散させ、日機装(株)の粒径分布測定機MT-3300を用いて測定した。形状は真球に設定し、屈折率は1.549に設定した。
【0067】
<粒子形態>
(株)日立ハイテクの卓上顕微鏡TM3030Plusを用いて、画像信号を二次電子に設定し、標準モードで、30~100倍の倍率で観察した。
【0068】
<重合体中のN-アルキルマレイミド含量>
所定量のN-アルキルマレイミド系重合体を重水素化クロロホルムに溶解し(約5重量%)、日本電子(株)の400MHzNMR(JNM-ECZ400S/L1)を用いて、得られた溶液の1H-NMR測定を行った。N-アルキルマレイミドとスチレンとの共重合体に関しては、8.0~5.5ppm間のピークに対する5.0~0.3ppm間のピークの積分比からN-アルキルマレイミド含量を算出した。
【0069】
<重合体の分子量>
東ソー製GPC(HLC-8320GPC)を用いて分子量分布の測定を行った。カラムは東ソー製TSKgel Super HM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液はテトラヒドロフランを用いて測定した。分子量の検量線は分子量既知の東ソー製標準ポリスチレンを用いて作成した。
【0070】
<樹脂組成物中の分散剤含量>
所定量の樹脂組成物を重水素化クロロホルムに溶解し(約5重量%)、日本電子(株)の400MHzNMR(JNM-ECZ400S/L1)を用いて、得られた溶液の1H-NMR測定を行った。N-アルキルマレイミドとスチレンとの共重合体と、PEGとの樹脂組成物に関しては、8.0~5.5ppm間および5.0~0.3ppm間のN-アルキルマレイミド系重合体のピークの積分値の合計と、3.6ppmの分散剤のピークの積分値との比から分散剤含量を算出した。
【0071】
<製膜(1)>
N-アルキルマレイミド系重合体を10倍量の塩化メチレンに溶解させ、アプリケーターを用いて剥離PETフィルム上に展開した。重合体溶液を展開したPETフィルムを蓋で覆い、緩やかに溶媒を蒸発させた。剥離PETフィルム上に形成された重合体フィルムを剥がし、105℃に設定した減圧乾燥機で24時間減圧乾燥させた。
【0072】
<製膜(2)>
N-アルキルマレイミド系重合体をクロロホルムに加え、マグネチックスターラーまたはミキサーを用いて攪拌することにより所定濃度の重合体溶液を調整した。得られた重合体溶液を30μmのPPフィルタでろ過後、コーターを用いてPETフィルム上に展開した。温度設定の異なる3台のオーブンを用いて60℃~155℃の範囲で段階的に昇温し乾燥させた後、PETフィルム上に形成された重合体フィルムを剥がし、フィルムの四方を固定して、再度オーブンを用いて所定温度で乾燥させ、残溶剤のない[<0.2wt%(ガスクロマトグラフィー分析)]、膜厚約50μmの製膜フィルムを得た。
【0073】
<ガラス転移点(Tg)>
(株)島津製作所の示差走査熱量計DSC-60を用いて、<製膜(1)>で得られた製膜フィルムの、セカンドスキャン昇温時(昇温速度=10℃/分)のガラス転移点(Tg)を測定した。
【0074】
<引張強度>
エー・アンド・デイ製テンシロン万能材料試験機(TENSILON RTG-1210)を用いて引張強度の測定を行った。<製膜(2)>で得られた製膜フィルムを幅10mm、長さ90mmの短冊状に切断し試験片とした。チャック間距離50mm、引張速度30mm/分の条件で引張試験を行い、引張破断伸びおよび引張破断応力を測定した。
【0075】
<ヘーズ>
N-アルキルマレイミド系重合体の透明性を評価するために、<製膜(2)>で得られた製膜フィルムのヘーズを、分光ヘーズメーター(日本電色工業(株)のSH7000)を用いて測定した。
【0076】
<光弾性定数>
ユニオプト社製の自動複屈折制御装置ABR-EXを用いて測定した。<製膜(1)>で製膜した、幅4~5mm、厚み35~55μmのフィルムに、0~2Nの応力を約0.1N間隔で印加して位相差の測定を行った。0.3~2Nの範囲における、位相差と測定部分の幅から光弾性定数Cを算出した。
【0077】
<固有複屈折>
<製膜(1)>で製膜したフィルムを、井元製作所製フィルム二軸延伸装置であるIMC-11A9を用いて、Tg以上の温度で、延伸速度40~100mm/分、延伸倍率2~3倍で一軸延伸した。その後、24時間以上静置して内部応力を緩和させ、島津製作所製のフーリエ変換赤外分光光度計IRTracer-100を用いて赤外域の吸光度を測定した。測定した吸光度から赤外二色法を用いて各延伸フィルムの配向度fを評価した。各フィルム厚みdはマイクロメーターで測定した。また、ユニオプト社製の自動複屈折制御装置ABR-10Aを用いて、各延伸フィルムの位相差Reを測定した。配向度f、フィルム厚みd、位相差Reの測定値から、下記式(3)を用いて固有複屈折Δn0を算出した。
Re=Δn0・f・d (3)
<固有複屈折の温度定数>
<固有複屈折>で調製した延伸フィルムを、15℃から70℃まで5℃刻みで昇温し、その温度毎の位相差をユニオプト社製の自動複屈折制御装置ABR-10Aを用いて測定し、固有複屈折の温度定数dΔn0/dTを算出した。
【0078】
実施例1
撹拌機、窒素導入管および温度計を備えた500mLの4口フラスコに、PVP K30を0.852g、蒸留水を346.4g、N-エチルマレイミドを103.9g、スチレンを25.8g、トルエンを18.4g、およびtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを0.100g入れ、窒素バブリングを1時間行った後、600rpmで攪拌しながら70℃で2時間保持することにより懸濁重合を行った。懸濁重合の終了後、内容物を、マグネチックスターラーで攪拌した2,500gの蒸留水に導入し、ろ過することで、生成したN-アルキルマレイミド系重合体粒子を回収した。回収した重合体粒子を2,000gの蒸留水で6回洗浄した後、1,582gのメタノールで5回洗浄した。その後、487gのトルエンと1,137gのメタノールとの混合溶媒で1回洗浄した後、1,582gのメタノールで5回洗浄した。さらに、827gのトルエンと827gのメタノールとの混合溶媒で1回洗浄した後、1,582gのメタノールで5回洗浄した。洗浄した重合体粒子を95℃に設定した乾燥機に入れ、真空下で乾燥した。乾燥による重量の減少が無くなった時点で乾燥を停止し、74.5gのN-エチルマレイミド/スチレン共重合体を得た。重合体粒子の粒子形態を卓上顕微鏡で観察した結果、粒径が約50μmから約2,000μmの粒子であることが分かった。重合の仕込組成、収率、共重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0079】
比較例1
分散剤として酸素に結合した水素を持つノニオン性の化合物であるヒドロキプロピルメチルセルロース(HPMC)0.852gを、PVP K30の代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、67.5gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mnを表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムの機械強度およびヘーズを表3に示す。
【0080】
分散剤として、酸素に結合した水素を持つノニオン性の化合物であるHPMCを用いることで、クロロホルムに不溶なゲルが発生した。また、製膜した場合に、フィルムのヘーズ値が大きくなり、さらに、N-アルキルマレイミドに由来する単位の比率がほぼ同等である後述の実施例2で製造したN-アルキルマレイミド系共重体よりも機械強度が低下した。
【0081】
実施例2
重合時間を2時間から2.25時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、77.3gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の粒子形態を卓上顕微鏡で観察した結果、粒径が約50μmから約2,000μmの粒子であることが分かった。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムの耐熱性、機械強度および光学特性を表3に示す。
【0082】
表1および表2に示される通り、重合時間の延長でN-エチルマレイミド単位含量が増加した。また、後述の比較例2に示す塊状重合により得られたN-アルキルマレイミド系重合体と同等の機械強度、透明性、光弾性定数および固有複屈折の温度定数を示した。
【0083】
比較例2
試験管にN-エチルマレイミドを3.8g、およびスチレンを1.2g入れ、配合した。試験管を密封後、十分に振ることで内容物を混合した。試験管を70℃の湯浴に24時間静置し、塊状重合を行った。得られたN-アルキルマレイミド系重合体は試験管内に接着された円柱状の塊であり、未反応単量体を除くために、当該円柱状の塊を試験管から取り外し、一度、1cm角程度に破砕して塩化メチレンに投入し、透明なN-アルキルマレイミド系重合体溶液を作製した。その後、得られたN-アルキルマレイミド系重合体溶液をメタノールに滴下し、N-アルキルマレイミド系重合体を析出させた。ろ紙でろ過を行い、未反応単量体が溶解したろ液を取り除いた後、ろ紙上に残ったN-アルキルマレイミド系重合体を回収し、デシケータ内で3時間減圧乾燥させた。その後さらに105℃の減圧乾燥機で24時間減圧乾燥させ、4.0gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の粒子形態は目視で不定形であった。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムの耐熱性、機械強度および光学特性を表3に示す。
【0084】
塊状重合でN-アルキルマレイミド系重合体を製造することによって、実施例2で得られる重合体と同等の機械強度および透明性を有するとともに、低複屈折であり(光弾性定数の絶対値だけでなく、固有複屈折の絶対値も低い)、かつ広範囲の環境温度下でその低複屈折を維持できる重合体が得られた。しかしながら比較例2の製造方法では、未反応単量体を除去するために、実施例2の製造方法と異なり、製造したN-アルキルマレイミド系重合体を試験管から取り外す作業、それを粉砕して溶媒に溶解する作業、および得られた溶液からN-アルキルマレイミド系重合体を析出させる作業がさらに必要となった。
【0085】
比較例3
75mLアンプル管にN-エチルマレイミドを6.1g、スチレンを2.7g、トルエンを35.4g、およびtert-ブチルパーオキシピバレートを0.019g入れ、アンプル管内を脱気した後、バーナーでアンプル管を溶融封管した。封管したアンプル管を振盪機に付属された湯浴(50℃に設定)に入れ、10時間振盪し、溶液重合を行った。得られた生成物を400mLのクロロホルムに投入し、透明なN-アルキルマレイミド系重合体溶液を作製した。その後、得られたN-アルキルマレイミド系重合体溶液をメタノールに滴下し、N-アルキルマレイミド系重合体を析出させた。ろ紙でろ過を行い、ろ紙上に残ったN-アルキルマレイミド系重合体を回収し、95℃に設定された減圧乾燥機で10時間減圧乾燥させ、7.9gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の粒子形態は目視で不定形であった。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムの耐熱性および光学特性を表3に示す。
【0086】
溶液重合でN-アルキルマレイミド系重合体を製造することによって、実施例2で製造した重合体に比べ、Mwは減少した。その結果、製膜フィルムは脆くなり、機械強度の評価には至らなかった。
【0087】
実施例3
重合時間を2時間から5時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、84.1gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の粒子形態を卓上顕微鏡で観察した結果、粒径が約50μmから約2,000μmの粒子であることが分かった。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性を表3に示す。
【0088】
表1および表2に示される通り、重合時間の延長でN-エチルマレイミド単位含量が増加した。
【0089】
実施例4
PVP K30の添加量を17.04gに変更したこと以外は、実施例2と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、69.8gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径は490μmであり、PVP K30の添加量の増大により、ミリオーダーの粒子の生成を抑制できた。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0090】
実施例5
PVP K30 0.852gをPVP K90 3.04gに変更したこと以外は、実施例2と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、75.0gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径は359μmであり、PVP K30からPVP K90への変更により、ミリオーダーの粒子の生成を抑制できた。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性を表3に示す。
【0091】
実施例6
重合時間を2.25時間から5時間に変更したこと以外は、実施例5と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、83.4gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性を表3に示す。
【0092】
表1および表2に示される通り、重合時間の延長でN-エチルマレイミド単位含量が増加した。
【0093】
実施例7
N-エチルマレイミドの仕込量を98.1gに、スチレンの仕込量を31.8gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0094】
表1および表2に示される通り、重合の仕込におけるN-エチルマレイミド比率の低減により、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量を制御できた。
【0095】
実施例8
N-エチルマレイミドの仕込量を70.5gに、スチレンの仕込量を58.7gに変更したこと以外は、実施例6と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムの耐熱性を表3に示す。
【0096】
表1~3に示される通り、重合の仕込におけるN-エチルマレイミド比率の低減により、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量を制御でき、N-エチルマレイミド単位含量が68重量%である実施例2で製造されたN-アルキルマレイミド系重合体の製膜フィルムと比較するとTgが低下し、製膜フィルムの耐熱性を制御できた。
【0097】
実施例9
PVP K90の添加量を0.856gに変更したこと以外は、実施例5と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、73.4gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径は335μmであり、PVP K90の添加量を減らしても平均粒径をほぼ維持できた。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0098】
実施例10
PVP K90の添加量を0.416gに変更したこと以外は、実施例5と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、75.8gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径は429μmであり、PVP K90の添加量を0.416gまで減らすことで平均粒径は増加傾向を示した。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0099】
表3に示される通り、PVP K90の添加量を減らすことで製膜フィルムのヘーズが減少傾向を示した。
【0100】
実施例11
N-エチルマレイミドの代わりにN-シクロヘキシルマレイミド81.7gを用い、スチレンの仕込量を47.5gに変更したこと以外は、実施例8と同様の方法でN-シクロヘキシルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-シクロヘキシルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムの耐熱性を表3に示す。
【0101】
実施例12
N-エチルマレイミドの代わりにN-tert-ブチルマレイミド77.1gを用い、スチレンの仕込量を52.4gに変更したこと以外は、実施例8と同様の方法でN-tert-ブチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-tert-ブチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムの耐熱性を表3に示す。
【0102】
実施例13
重合時間を2時間から3時間に、PVP K30をPVP K120に、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.100gを0.164gに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、79.9gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径は297μmであり、PVP K30からPVP K120への変更により、ミリオーダーの粒子の生成を抑制できた。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0103】
実施例14
N-エチルマレイミドの仕込量を104.5gに、スチレンの仕込量を29.0gに、トルエンの仕込量を14.9gに、PVP K120の添加量を0.276gに変更したこと以外は、実施例13と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、83.5gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0104】
実施例15
PVP K120 0.855gをポリアクリル酸ナトリウム 0.216gに変更したこと以外は、実施例13と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、83.1gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0105】
実施例16
N-エチルマレイミドの仕込量を103.3gに、スチレンの仕込量を30.2gに、PVP K120 0.276gをポリエチレングリコール 0.075gに変更したこと以外は、実施例14と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、87.5gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムの耐熱性および光学特性を表3に示す。
【0106】
実施例17
ポリエチレングリコールの添加量を0.031gに変更したこと以外は、実施例16と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、91.2gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムの耐熱性および光学特性を表3に示す。
【0107】
実施例18
撹拌機、窒素導入管および温度計を備えた500mLの4口フラスコに、PVP K30を0.860g、蒸留水を347.1g、N-エチルマレイミドを99.2g、スチレンを22.6g、メタクリル酸メチルを26.9g、およびtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを0.185g入れ、窒素バブリングを1時間行った後、600rpmで攪拌しながら70℃で2時間保持することにより懸濁重合を行った。懸濁重合の終了後、内容物を、マグネチックスターラーで攪拌した2,500gの蒸留水に導入し、ろ過することで、生成したN-アルキルマレイミド系重合体粒子を回収した。回収した重合体粒子を2,000gの蒸留水で6回洗浄した後、1,582gのメタノールで5回洗浄した。洗浄した重合体粒子を90℃に設定した乾燥機に入れ、真空下で乾燥した。乾燥による重量の減少が無くなった時点で乾燥を停止し、96.1gのN-エチルマレイミド/スチレン/メタクリル酸メチル共重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、共重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0108】
実施例19
N-エチルマレイミドの仕込量を96.4gに、スチレンの仕込量を24.1gに、メタクリル酸メチルを28.3gに、PVP K30 0.860gをポリエチレングリコール 0.029gに、重合時間を7時間に変更し、連鎖移動剤として1-ドデカンチオールを0.148g加えたこと以外は、実施例18と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン/メタクリル酸メチル共重合体の製造を行った。結果、108.4gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0109】
比較例4
分散剤として酸素に結合した水素を持つノニオン性の化合物であるヒドロキプロピルメチルセルロース(HPMC)を、PVP K30の代わりに用いたこと以外は、実施例18と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン/メタクリル酸メチル共重合体の製造を行った。結果、85.3gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体粒子の平均粒径、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mnを表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性を表3に示す。
【0110】
分散剤として、酸素に結合した水素を持つノニオン性の化合物であるHPMCを用いることで、クロロホルムに不溶なゲルが発生した。
【0111】
比較例5
試験管にN-エチルマレイミドを3.15g、スチレンを0.85g、およびメタクリル酸メチル1.00gを入れ、配合した。試験管を密封後、十分に振ることで内容物を混合した。試験管を70℃の湯浴に24時間静置し、塊状重合を行った。得られたN-アルキルマレイミド系重合体は試験管内に接着された円柱状の塊であり、未反応単量体を除くために、当該円柱状の塊を試験管から取り外し、一度、1cm角程度に破砕して塩化メチレンに投入し、透明なN-アルキルマレイミド系重合体溶液を作製した。その後、得られたN-アルキルマレイミド系重合体溶液をメタノールに滴下し、N-アルキルマレイミド系重合体を析出させた。ろ紙でろ過を行い、未反応単量体が溶解したろ液を取り除いた後、ろ紙上に残ったN-アルキルマレイミド系重合体を回収し、デシケータ内で3時間減圧乾燥させた。その後さらに105℃の減圧乾燥機で24時間減圧乾燥させ、3.9gのN-アルキルマレイミド系重合体を得た。
【0112】
N-アルキルマレイミド系重合体粒子の粒子形態は目視で不定形であった。重合の仕込組成、収率、N-アルキルマレイミド系重合体中のN-エチルマレイミド単位含量、MwおよびMw/Mn、ならびに樹脂組成物の分散剤含量を表1および表2に示す。クロロホルムへの溶解性、製膜フィルムの耐熱性、機械強度および光学特性を表3に示す。
【0113】
塊状重合でN-アルキルマレイミド系重合体を製造することによって、実施例18で得られる重合体と同等の透明性を有する重合体が得られた。しかしながら比較例5の製造方法では、未反応単量体を除去するために、実施例18の製造方法と異なり、製造したN-アルキルマレイミド系重合体を試験管から取り外す作業、それを粉砕して溶媒に溶解する作業、および得られた溶液からN-アルキルマレイミド系重合体を析出させる作業がさらに必要となった。
【0114】
比較例6
比較例2で合成したN-アルキルマレイミド系重合体100重量部に対し、PVP K30 3.36重量部を加えて、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて<製膜(2)>で製膜フィルムを得た。
【0115】
樹脂組成物の分散剤含量を表2に示す。クロロホルムへの溶解性および製膜フィルムのヘーズを表3に示す。
【0116】
樹脂組成物中の分散剤含量の増加によって、製膜フィルムのヘーズが増加した。
【0117】
【0118】
【0119】