IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特開2023-93555リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池
<>
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池 図1
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池 図2A
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池 図2B
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池 図3A
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池 図3B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093555
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230627BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230627BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230627BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062204
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2021502317の分割
【原出願日】2020-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2019033321
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】東間 崇洋
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】松浦 祥之
(72)【発明者】
【氏名】漁師 一臣
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充電状態での酸素放出を抑制したリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】リチウム金属複合酸化物は、LiとNiとCoと元素Mとを物質量の比でLi:Ni:Co:M=1+a:1-x-y:x:y(-0.05≦a≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、元素MはMg、Ca、Al、Si、Fe、Cr、Mn、V、Mo、W、Nb、Ti、Zr、Taから選ばれる少なくとも1種の元素)の割合で含有し、4.3V充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子断面において、粒子の表面から中心に向かってSTEM-EELSで線分析を行った場合に、O-K端において530eV付近のピーク(1st)と545eV付近(2nd)のピークとの強度比が0.9以下となる酸素易放出層の厚みが200nm以下、比表面積が0.7m/g以上2.0m/g以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量の比でLi:Ni:Co:M=1+a:1-x-y:x:y(ただし、-0.05≦a≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、前記元素MはMg、Ca、Al、Si、Fe、Cr、Mn、V、Mo、W、Nb、Ti、Zr、Taから選ばれる少なくとも1種の元素)の割合で含有し、
4.3V(vs.Li/Li)充電時の前記リチウム金属複合酸化物の粒子断面において、前記粒子の表面から中心に向かってSTEM-EELSで線分析を行った場合に、O-K端において530eV付近のピーク(1st)と545eV付近(2nd)のピークとの強度比(1st/2nd)が0.9以下となる酸素易放出層の厚みが200nm以下であり、
比表面積が0.7m/g以上2.0m/g以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
レーザー回折散乱法による粒度分布において、体積平均粒径(MV)が、5μm以上20μm以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記元素Mは、前記リチウム金属複合酸化物の二次粒子の内部に均一に分布しているか、前記二次粒子の表面を均一に被覆しているかのいずれか、もしくは両方である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
金属複合水酸化物を105℃以上700℃以下で熱処理し、熱処理金属複合化合物を得る熱処理工程と、
前記熱処理金属複合化合物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、
前記混合工程で形成された前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃以上900℃以下の温度で焼成する焼成工程とを有し、
前記金属複合水酸化物は、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量の比でNi:Co:M=1-x-y:x:y(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、前記元素MはMg、Ca、Al、Si、Fe、Cr、Mn、V、Mo、W、Nb、Ti、Zr、Taから選ばれる少なくとも1種の元素)の割合で含有し、
前記焼成工程後に得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質の比表面積が0.7m/g以上2.0m/g以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、電気自動車や、各種ハイブリッド自動車、燃料電池自動車等の電動車(xEV)向けの電池として容量密度に優れる二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解質等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)などを挙げることができる。
【0006】
エネルギー密度に優れたリチウムイオン二次電池を得るためには、正極活物質が高い充放電容量を有することが必要となる。ここで、電池容量を増加させるためには正極活物質のニッケル(Ni)比率を増やすことが有効であることが知られている。ニッケルはコバルトやマンガンと比較して低い電気化学ポテンシャルを有し、充放電に寄与する遷移金属価数の変化が増加し、充放電容量が増加する。しかしながら、ニッケル比率を上げると、背反として熱安定性が低下する。そこで、従来から熱安定性を高める方法が検討されており、熱安定性の高い正極材、例えばリチウムマンガン複合酸化物をリチウムニッケル複合酸化物に混ぜて熱安定性を担保する手法が知られている。
【0007】
特許文献1には、所定の組成を有するニッケルリチウム複合酸化物と、リチウムマンガン複合酸化物とを、80:20~90:10の混合比(質量比)で混合してなる正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2008-282667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された正極活物質のように、二組成の粒子を混合する手法では、エネルギー密度を高くすることが本質的に難しいという問題があった。
【0010】
リチウムイオン二次電池用正極活物質の熱安定性が低下するのは、充電によるリチウム脱離に伴いリチウムイオン二次電池用正極活物質の構造が不安定になり、充電状態とした場合にリチウムイオン二次電池用正極活物質から放出される酸素と電解質などに含まれる有機物とが発熱反応を起こすことに起因すると考えられている。このため、充電状態とした場合の酸素放出を抑制できるリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められていた。
【0011】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、充電状態での酸素放出を抑制したリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
リチウム金属複合酸化物を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量の比でLi:Ni:Co:M=1+a:1-x-y:x:y(ただし、-0.05≦a≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、前記元素MはMg、Ca、Al、Si、Fe、Cr、Mn、V、Mo、W、Nb、Ti、Zr、Taから選ばれる少なくとも1種の元素)の割合で含有し、
4.3V(vs.Li/Li)充電時の前記リチウム金属複合酸化物の粒子断面において、前記粒子の表面から中心に向かってSTEM-EELSで線分析を行った場合に、O-K端において530eV付近のピーク(1st)と545eV付近(2nd)のピークとの強度比(1st/2nd)が0.9以下となる酸素易放出層の厚みが200nm以下であり、
比表面積が0.7m/g以上2.0m/g以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、充電状態での酸素放出を抑制したリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電池評価に仕様した2032型コイン電池の概略断面図である。
図2A】実施例1で得られたリチウム金属複合水酸化物の粒子断面を示すSTEM画像である。
図2B】実施例1で得られたリチウム金属複合水酸化物の粒子断面のEELSスペクトルである。
図3A】比較例2で得られたリチウム金属複合水酸化物の粒子断面を示すSTEM画像である。
図3B】比較例2で得られたリチウム金属複合水酸化物の粒子断面のEELSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、リチウム金属複合酸化物を含有することができる。
【0016】
リチウム金属複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量の比でLi:Ni:Co:M=1+a:1-x-y:x:yの割合で含有することができる。ただし、上記式中のa、x、yは、それぞれ-0.05≦a≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35を満たすことが好ましい。また、元素MはMg、Ca、Al、Si、Fe、Cr、Mn、V、Mo、W、Nb、Ti、Zr、Taから選ばれる少なくとも1種の元素とすることができる。
【0017】
そして、4.3V(vs.Li/Li)充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子断面において、粒子の表面から中心に向かってSTEM-EELSで線分析を行った場合に、O-K端において530eV付近のピーク(1st)と545eV付近(2nd)のピークとの強度比(1st/2nd)が0.9以下となる酸素易放出層の厚みを200nm以下とすることができる。また、比表面積を0.7m/g以上2.0m/g以下とすることができる。
【0018】
本発明の発明者は、充電状態での酸素放出を抑制した正極活物質とするために正極活物質として用いられるリチウム金属複合酸化物の粉体特性や、電池の正極抵抗に対する影響について鋭意検討を行った。
【0019】
その結果、充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子表面に、酸素を容易に放出する酸素易放出層が形成されている場合があり、係る酸素易放出層の厚みと、充電時の正極活物質からの酸素放出量との間に相関があることを見出した。さらに、酸素易放出層が電極中の粒子間の電気化学反応の不均一性により、Liが過剰に脱離した粒子で生じる層であることから、粒子特性を制御し、比表面積を所定の範囲として電気化学反応が均一に起こるようにすることで酸素放出が抑制され、高い熱安定性が得られることを見出した。このため、含まれるリチウム金属複合酸化物の粒子表面の酸素易放出層の厚みを抑制し、所定の粒子特性を有する正極活物質とすることで、充電状態での酸素放出を抑制し、熱安定を高められることを見出し、発明を完成させた。
【0020】
本実施形態の正極活物質は、上述のようにリチウム金属複合酸化物を含有することができる。本実施形態の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物から構成することもできる。
【0021】
リチウム金属複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量の比でLi:Ni:Co:M=1+a:1-x-y:x:yの割合で含有することができる。上記式中のa、x、yは、それぞれ-0.05≦a≦0.50、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35を満たすことが好ましい。
【0022】
リチウム(Li)の過剰量を示すaの値は、上述のように-0.05以上0.50以下が好ましく、0以上0.20以下であることがより好ましく、0以上0.10以下がさらに好ましい。
【0023】
aを-0.05以上0.50以下とすることにより、係るリチウム金属複合酸化物を含有する正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および電池容量を向上させることができる。これに対して、aの値が-0.05未満では、係る二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を十分に向上させることができない恐れがある。一方、0.50を超えると、初期放電容量が低下し、正極抵抗が大きくなる恐れがある。
【0024】
コバルトの含有量を示すxは上述のように0以上0.35以下とすることができる。ただし、特にニッケルの含有量を高くする場合には、xは例えば0以上0.20以下のようにコバルトの比率が低くなるようにその含有量を選択することもできる。
【0025】
リチウム金属複合酸化物は、該リチウム金属複合酸化物を含む正極活物質を二次電池に用いた場合に、二次電池の耐久性や出力特性をさらに改善するため、上述したリチウム、ニッケル、コバルト以外に添加元素である元素Mを含有してもよい。元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)から選択される1種以上を用いることができる。
【0026】
元素Mの含有量を示すyの値は、0以上0.35以下であることが好ましく、0以上0.10以下であることがより好ましく、0.001以上0.05以下であることがさらに好ましい。yの値を0.35以下とすることで、Redox反応に寄与する金属元素を十分に確保することができ、電池容量を十分に高めることができる。また、元素Mは添加しなくても良いため、0以上とすることができる。
【0027】
元素Mは、正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物の二次粒子内部に均一に分散させてもよく、リチウム金属複合酸化物の二次粒子表面を被覆させてもよい。さらには、リチウム金属複合酸化物の二次粒子内部に均一に分散させた上で、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面を被覆させてもよい。すなわち、元素Mは、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の内部に均一に分布しているか、該二次粒子の表面を均一に被覆しているかのいずれか、もしくは両方とすることが好ましい。
【0028】
なお、元素Mはどのような態様でリチウム金属複合酸化物に含まれていたとしても、その添加量が既述の範囲を充足するように制御することが好ましい。
【0029】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、例えば一般式Li1+aNi1-x-yCo2+zで表すことができる。なお、上記一般式中のa、x、yについては既述のため、ここでは説明を省略する。また、zは、例えば0≦z≦0.10であることが好ましい。
【0030】
本実施形態の正極活物質は、一次粒子や、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含有することができる。本実施形態の正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成することもできる。
【0031】
なお、係る一次粒子や、二次粒子は、例えばリチウム金属複合酸化物の粒子とすることができる。
【0032】
そして、本実施形態の正極活物質は、4.3V(vs.Li/Li)充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子をSTEM-EELS(Scanning Transmission Electron Microscope(走査型透過電子顕微鏡)-Electron Energy-Loss Spectroscopy(電子エネルギー損失分光))で観測することで求められる酸素易放出層の厚みが200nm以下であることが好ましい。
【0033】
既述の様に、本発明の発明者らの検討によれば、充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子表面に、酸素易放出層が形成されている場合があり、係る酸素易放出層の厚みと、充電時の正極活物質からの酸素放出量との間に相関がある。そして、4.3V(vs.Li/Li)充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子をSTEM-EELSで観測した場合に酸素易放出層の厚みが200nm以下の場合、充電時の正極活物質からの酸素放出量を十分に抑制した正極活物質とすることができる。すなわち、熱安定性に優れた正極活物質とすることができる。
【0034】
なお、4.3V(vs.Li/Li)充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子をSTEM-EELSで観測した場合の酸素易放出層の厚みは100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0035】
充電時のリチウム金属複合酸化物の粒子表面における酸素易放出層の厚みについては、STEM-EELSを用いた観察により評価することができる。具体的にはSTEM-EELSを用いて、その二次粒子径が正極活物質の体積平均粒径よりも小さく、酸素易放出層を観察しやすい、例えばその二次粒子径が正極活物質の体積平均粒径の2/3以下であるリチウム金属複合酸化物の粒子を選択し、断面構造を観察する。そして、該粒子の断面において、粒子表面から中心に向かって、直径方向に沿って一定の間隔でEELSによるスペクトルを測定し、O-K端において530eV付近のピーク(1st)と545eV(2nd)付近のピークとの強度比(1st/2nd)が0.9以下となる酸素易放出層の、粒子表面からの厚さを測定することで求めることができる。
【0036】
これは、530eV近傍のピーク(1st)はLiNiO、もしくはLiNiOを骨格とする化合物を表しているのに対して、545eV近傍のピーク(2nd)はNiOを表している。そして、本発明の発明者らの検討によれば、NiOを表す2ndのピークの強度に対する、1stのピークの強度の比が0.9以下となる酸素易放出層は、酸素を保持する能力が低い層となっており、係る層の厚みを200nm以下とすることで、温度が高くなった場合でも放出する酸素量を抑制し、熱安定性を高めることができる。
【0037】
本実施形態の正極活物質の比表面積は0.7m/g以上2.0m/g以下であることが好ましく、0.8m/g以上1.7m/g以下であることがより好ましい。
【0038】
正極活物質の比表面積を上記範囲とすることで、電解質との接触面積を十分に大きくすることができ、Liイオンのインターカレーション反応が生じる反応場を広くとることができる。このため、局所的なリチウムの過剰脱離を低減し、酸素放出を特に抑制し、熱安定性を特に高めることができる。
【0039】
具体的には、正極活物質の比表面積を0.7m/g以上とすることで、電気化学反応場を十分に確保し、局所的にリチウムの脱離が多くなる粒子が生じることを抑制し、熱安定性を高めることができる。また、正極活物質の比表面積を2.0m/g以下とすることで、電解質との反応性が過度に高くなることを抑制し、熱安定性を特に高めることができる。
【0040】
なお、正極活物質の比表面積は、例えば窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0041】
本実施形態の正極活物質が含有する粒子の粒径等は特に限定されないが、レーザー回折散乱法による粒度分布において、体積平均粒径(MV)が、5μm以上20μm以下であることが好ましく、7μm以上20μm以下であることがより好ましく、7μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
正極活物質の体積平均粒径(MV)を上記範囲とすることで、該正極活物質を用いた二次電池の単位体積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、熱安定性や出力特性も特に高めることができる。
【0043】
例えば体積平均粒径(MV)を5μm以上とすることで、正極活物質の充填性を高め、単位体積あたりの電池容量を増加させることができる。また、体積平均粒径(MV)を20μm以下とすることで、正極活物質の反応面積を高め、電解質との界面を増加させることができるため、出力特性を高めることができる。
【0044】
なお、正極活物質の体積平均粒径(MV)とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、たとえば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0045】
また、本実施形態の正極活物質は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/体積平均粒径〕が、0.80以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上であることがさらに好ましい。
【0046】
上記指標を0.80以上とすることで、正極活物質を粒度分布が広い粒子により構成することができる。このような正極活物質は、充填性に優れ、これを用いた二次電池は、エネルギー密度が優れたものとなる。
【0047】
上記指標の上限値は特に限定されないが、例えば1.25以下であることが好ましく、1.20以下であることがより好ましく、1.00以下であることがさらに好ましい。
【0048】
正極活物質の既述の比表面積に加えて、粒度分布の広がりを上記範囲とすることで、充電時に酸素易放出層が形成されることを特に抑制することができる。
【0049】
なお、d10は、累積10%粒子径を意味し、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値10%での粒径を意味する。d90は、累積90%粒子径を意味し、レーザー回折散乱法によって求めた粒度分布おける体積積算値90%での粒径を意味する。
【0050】
また、本実施形態の正極活物質のタップ密度についても特に限定されるものではなく、要求される性能等に応じて任意に選択することができる。ただし、携帯電子機器の使用時間や電気自動車の走行距離を伸ばすために、リチウムイオン二次電池の高容量化は重要な課題となっている。一方、リチウムイオン二次電池の電極の厚さは、該電池全体のパッキングや電子伝導性の問題から数ミクロン程度とすることが要求される。このため、正極活物質として高容量のものを使用するばかりでなく、正極活物質の充填性を高め、リチウムイオン二次電池全体としての高容量化を図ることが求められている。
【0051】
このような観点から、本実施形態の正極活物質では、充填性の指標であるタップ密度が、2.0g/cm以上であることが好ましく、2.2g/cm以上であることがより好ましい。
【0052】
タップ密度を2.0g/cm以上とすることで、充填性を特に高め、リチウムイオン二次電池全体の電池容量を特に高めることができる。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されるものではないが、通常の製造条件での上限は、3.0g/cm程度となることから、3.0g/cm以下とすることが好ましい。
【0053】
なお、タップ密度とは、JIS Z 2504(2012)に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を表し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。
【0054】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)は、以下の工程を有することができる。
【0055】
金属複合水酸化物を105℃以上700℃以下で熱処理し、熱処理金属複合化合物を得る熱処理工程。
熱処理金属複合化合物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を形成する混合工程。
混合工程で形成されたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃以上900℃以下の温度で焼成する焼成工程。
なお、金属複合水酸化物は、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量の比でNi:Co:M=1-x-y:x:yの割合で含有することができる。ただし、上記式中のx、yは、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35を満たすことが好ましい。また、元素MはMg、Ca、Al、Si、Fe、Cr、Mn、V、Mo、W、Nb、Ti、Zr、Taから選ばれる少なくとも1種の元素とすることができる。
【0056】
また、焼成工程後に得られる正極活物質は、その比表面積を0.7m/g以上2.0m/g以下とすることができる。
【0057】
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。なお、本実施形態の正極活物質の製造方法により、既述の正極活物質を製造することができる。このため、既に説明した事項については一部説明を省略する。
(1)熱処理工程
本実施形態の正極活物質の製造方法は、金属複合水酸化物を熱処理し、熱処理金属複合化合物とする熱処理工程を有することができる。ここで、熱処理工程で得られる熱処理金属複合化合物は、熱処理工程において余剰水分を除去された金属複合水酸化物のみならず、熱処理工程により、酸化物に転換された金属複合酸化物や、これらの混合物も含まれる。
【0058】
熱処理工程における熱処理条件は特に限定されないが、例えば金属複合水酸化物を105℃以上700℃以下に加熱して熱処理することが好ましい。
【0059】
上記温度で熱処理することで、金属複合水酸化物に含有される余剰水分を低減、除去し、焼成工程後まで残留する水分を一定量まで減少させることができる。このため、得られる正極活物質の組成のばらつきを抑制することができる。また、本熱処理工程を実施し、さらに後述する焼成工程での焼成温度を所定の範囲にすることで、焼成工程後に得られる正極活物質の比表面積を容易に所望の範囲に調整することができる。
【0060】
上述のように、105℃以上で熱処理することで、金属複合水酸化物内の余剰水分を十分に除去し、焼成工程後に得られる正極活物質の組成のばらつきを特に抑制することができる。ただし、700℃を超えて、過度に熱処理温度を高くしても、効果に大きな差異はなく、コストを低減する観点から、700℃以下とすることが好ましい。
【0061】
なお、熱処理工程では、焼成工程後に得られる正極活物質中の各金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての金属複合水酸化物を酸化物に転換する必要はない。しかしながら、各金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、400℃以上で熱処理して、すべての金属複合水酸化物を、金属複合酸化物に転換することが好ましい。
【0062】
なお、熱処理条件による熱処理金属複合化合物に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との混合比を決めておくことで、上述したばらつきをより抑制することができる。
【0063】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。
【0064】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、金属複合水酸化物中の余剰水分を十分に除去する観点から、少なくとも1時間以上とすることが好ましく、5時間以上15時間以下とすることがより好ましい。
【0065】
熱処理工程に供する金属複合水酸化物は、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量の比でNi:Co:M=1-x-y:x:yの割合で含有することができる。なお、x、yや、元素Mについては既に説明したため、ここでは説明を省略する。また、x、yは正極活物質において説明したx、yと同様のより好ましい範囲を取ることもできる。
【0066】
金属複合水酸化物は、例えば一般式:Ni1-x-yCo(OH)2+αで表すことができる。なお、上記式中のx、yについては、既述の範囲を充足することが好ましい。また、αは、例えば-0.2≦α≦0.2であることが好ましい。
(2)混合工程
混合工程では、上述のように熱処理金属複合化合物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得ることができる。
【0067】
混合工程において、熱処理金属複合化合物と、リチウム化合物とを混合する割合は特に限定されず、製造する正極活物質に要求される組成等に応じて任意に選択することができる。例えば混合工程で得られる、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、および元素Mとの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95以上1.5以下となるように熱処理金属複合化合物と、リチウム化合物とを混合することが好ましい。特に、上記Li/Meが1.0以上1.2以下となるように混合することがより好ましく、1.0以上1.1以下となるように混合することがさらに好ましい。
【0068】
これは、焼成工程の前後ではLi/Meはほとんど変化しないので、混合工程で得られるリチウム混合物のLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、各原料を混合することが好ましいからである。
【0069】
混合工程で供するリチウム化合物は特に制限されないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムから選択された1種類以上を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0070】
熱処理金属複合化合物とリチウム化合物とは、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合があるためである。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
(3)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を所定条件の下で焼成し、熱処理金属複合化合物中にリチウムを拡散させて、リチウム金属複合酸化物を得る工程である。
【0071】
なお、焼成工程に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、既述の熱処理工程や、後述する仮焼工程に用いる炉についても同様である。
【0072】
以下、焼成工程の好適な焼成条件について説明する。
(3-1)焼成温度
リチウム混合物の焼成温度は、650℃以上900℃以下とすることが好ましく、650℃以上850℃以下とすることがより好ましい。焼成温度を650℃以上とすることで、熱処理金属複合化合物中にリチウムを十分に拡散することができ、余剰のリチウムや、未反応の熱処理金属複合化合物が残存することを抑制できる。また、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶性を高めることができるため好ましい。
【0073】
また、焼成温度を900℃以下とすることで、リチウム金属複合酸化物の粒子間が激しく焼結したり、異常粒成長が引き起こされることを抑制し、不定形な粗大粒子の発生を抑制できる。
【0074】
さらに、焼成工程における焼成温度を上記範囲の中で選択することで、得られる正極活物質の比表面積を調整することもできる。
【0075】
焼成工程における昇温速度は特に限定されないが、例えば2℃/分以上10℃/分以下とすることが好ましく、3℃/分以上8℃/分以下とすることがより好ましい。
【0076】
また、焼成工程中、リチウム化合物の融点付近の温度で一旦昇温を止め、保持することが好ましく、この場合1時間以上5時間以下保持することが好ましく、2時間以上5時間以下保持することがより好ましい。リチウム化合物の融点付近の温度で一旦昇温を止め、保持することで、熱処理金属複合化合物とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
(3-2)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間についても特に限定されないが、例えば2時間以上とすることが好ましく、4時間以上とすることがより好ましい。焼成温度における焼成温度での保持時間を2時間以上とすることで、金属複合酸化物中にリチウムを十分に拡散させ、余剰のリチウムや未反応の金属複合酸化物が残存することを抑制できる。また、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶性を高めることができるため好ましい。
【0077】
なお、焼成時間の上限値は特に限定されないが、生産性の観点から48時間以下であることが好ましい。
(3-3)冷却速度
なお、上記焼成温度での保持終了後、焼成温度からの冷却速度についても特に限定されないが、例えば焼成温度から200℃までの冷却速度は2℃/分以上10℃/分以下であることが好ましく、3℃/分以上7℃/分以下であることがより好ましい。冷却速度を上記範囲とすることで、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することをより確実に防止できる。
(3-4)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。これは酸素濃度を18容量%以上とすることで、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶性を特に高めることができるからである。なお、酸素以外の残部は特に限定されないが、例えば窒素や、希ガス等の不活性ガスとすることができる。また、係る酸素以外の残部には二酸化炭素や、水蒸気等が含まれていても良い。焼成は、例えば大気ないしは酸素気流中で行うことがさらに好ましい。
【0078】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、上記熱処理工程や、混合工程、焼成工程以外に任意の工程を有することもできる。例えば焼成工程の前にリチウム混合物を仮焼する仮焼工程や、焼成工程後に得られたリチウム金属複合酸化物を解砕する解砕工程等を有することもできる。以下、これらの任意の工程について説明する。
(4)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、リチウム混合物を仮焼する仮焼工程を有することが好ましい。
【0079】
仮焼工程の仮焼温度は特に限定されないが、焼成工程における焼成温度よりも低温、かつ350℃以上800℃以下で仮焼することが好ましく、450℃以上780℃以下で仮焼することがより好ましい。
【0080】
仮焼工程を実施することで、熱処理金属複合化合物中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一なリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
【0081】
なお、仮焼温度での保持時間は、1時間以上10時間以下とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることがより好ましい。
【0082】
また、仮焼工程における雰囲気は、焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。
(5)解砕工程
焼成工程によって得られたリチウム金属複合酸化物は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、リチウム金属複合酸化物の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布、比表面積等を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0083】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。また、解砕工程において、得られる正極活物質の比表面積が0.7m/g以上2.0m/g以下となるように調整することもできる。ここまで説明した熱処理工程、混合工程、焼成工程を既述の条件で実施し、解砕工程において得られる正極活物質の比表面積を所定の範囲とすることで、得られる正極活物質を充電した際に形成される酸素易放出層の厚さを特に抑制することができる。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、既述の正極活物質を含む正極を有することができる。
【0084】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極及び非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0085】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合材とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製することができる。
【0086】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0087】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0088】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0089】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0090】
必要に応じ、正極活物質、導電材等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0091】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合材をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0092】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微小な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0093】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0094】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0095】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0096】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0097】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0098】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO-LiPO、LiSiO-LiVO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B-ZnO、Li1+XAlTi2-X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2-X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3-XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等から選択される1種類以上を用いることができる。
【0099】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P等が挙げられる。
【0100】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN-LiI-LiOH等から選択される1種類以上を用いることができる。
【0101】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0102】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0103】
本実施形態の二次電池は、本実施形態の正極活物質を正極材料として用いた正極を備えているため、熱安定性に優れる。しかも、従来のリチウムニッケル複合酸化物粒子からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性において優れているといえる。
【0104】
本実施形態の二次電池は、上述のように熱安定性に優れ、さらには電池容量、出力特性およびサイクル特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される小型携帯電子機器、例えばノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの電源に好適に利用することができる。また、本実施形態の二次電池は、安全性にも優れており、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に利用することができる。
【実施例0105】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例では、特に断りがない限り、正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
[実施例1]
(1)正極活物質の作製
Niを主成分とする、一般式:Ni0.90Co0.07Al0.03(OH)で表わされる金属複合水酸化物を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、600℃で5時間熱処理した(熱処理工程)。これにより、熱処理金属複合化合物として、一般式:Ni0.90Co0.07Al0.03Oで表わされる金属複合酸化物を得た。
【0106】
次に、熱処理工程で得られた金属複合酸化物と、水酸化リチウムとを、得られるリチウム混合物中のリチウムの原子数(Li)と、リチウム以外の金属の原子数(Me)との比であるLi/Meが1.01となるように、秤量し、十分に混合し、リチウム混合物を得た(混合工程)。
【0107】
混合には、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いた。
【0108】
混合工程で得られたリチウム混合物を、酸素(酸素濃度:100容量%)気流中、昇温速度を3℃/分として750℃まで昇温し、750℃で6時間保持することにより焼成した。焼成後、冷却速度を約4℃/分として室温まで冷却した(焼成工程)。
【0109】
焼成工程後に得られた正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じていた。このため、この正極活物質を解砕し、平均粒径および粒度分布を調整した(解砕工程)。
(2)正極活物質の評価
(2-1)組成
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE-9000)を用いた分析により、得られた正極活物質は、一般式:Li1.01Ni0.90Co0.07Al0.03で表されるリチウム金属複合酸化物からなることが確認できた。正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物の二次粒子の断面をSEM-EDSにより分析したところ、Alが該二次粒子内に均一に分散していることを確認できた。以下の他の実施例についても同様であった。
(2-2)体積平均粒径および粒度分布
レーザー光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、正極活物質の体積平均粒径(MV)を測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/体積平均粒径〕を算出した。
【0110】
その結果、体積平均粒径(MV)は11.4μmであり、〔(d90-d10)/体積平均粒径〕は0.93であることが確認された。
(2-3)比表面積およびタップ密度
流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ1200シリーズ)により比表面積を、タッピングマシン(株式会社蔵持科学器械製作所、KRS-406)によりタップ密度を、それぞれ測定した。その結果、比表面積は1.38m/gであり、タップ密度は2.85g/cmであることが確認された。
【0111】
比表面積は窒素ガス吸着によるBET法により測定を行った。タップ密度はJIS Z 2504(2012)に基づき、容器に採取した試料粉末を100回タッピングした後のかさ密度を測定することで求めた。
(3)リチウムイオン二次電池の作製
得られた正極活物質を用いて、2032型コイン電池を作製した。
【0112】
図1を用いて、作製したコイン電池の構成について説明する。図1はコイン電池の断面構成図を模式的に示している。
【0113】
図1に示す様に、このコイン電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
【0114】
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0115】
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
【0116】
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密、液密に遮断する機能も有している。
【0117】
このコイン電池10を、以下のようにして作製した。
【0118】
まず、正極活物質52.5mgと、アセチレンブラック15mgと、PTEE7.5mgとを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極121を作製した。
【0119】
次に、この正極121を用いて2032型コイン電池10を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この2032型コイン電池の負極123には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
(4)リチウムイオン二次電池の評価
(4-1)初期放電容量
2032型コイン電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行ない、初期放電容量を求めた。その結果、初期放電容量は214.6mAh/gであることが確認された。なお、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
(4-2)熱安定性
正極活物質の熱安定性評価は、正極活物質を過充電状態とし、加熱することで放出される酸素量の定量により行った。上記2032型コイン電池を作製し、カットオフ電圧4.3Vまで0.2CレートでCCCV充電(定電流―定電圧充電)した。その後、コイン電池を解体し、短絡しないよう慎重に正極のみ取り出して、DMC(ジメチルカーボネート)で洗浄し、乾燥した。乾燥後の正極活物質をおよそ2mg量りとり、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS、島津製作所、QP-2010plus)を用いて、昇温速度5℃/minで室温から450℃まで昇温した。キャリアガスにはヘリウムを用いた。加熱時に発生した酸素(m/z=32)の発生挙動を測定し、得られた最大酸素発生ピーク高さとピーク面積から酸素発生量の半定量を行い、これらを熱安定性の評価指標とした。なお、酸素発生量の半定量値は、純酸素ガスを標準試料としてGCMSに注入し、その測定結果から得た検量線を外挿して算出した。そして、キャリアガスであるヘリウムに対する酸素ガスの質量割合を算出し、酸素放出量とした。その結果、7.8質量%の酸素放出量が確認された。
(4-3)酸素易放出層の厚み
充電時の正極活物質粒子における酸素易放出層の厚みの評価は、熱安定性試験の場合と同様にして上記2032型コイン電池を充電後、該コイン電池を解体し、短絡しないように正極のみを取り出したのち、正極を樹脂に埋め込み、収束イオンビーム加工によって断面観察可能な状態とした上で、走査型透過電子顕微鏡(STEM)(日立ハイテクノロジーズ社製、HD―2300A)に搭載された電子エネルギー損失分光装置(EELS)であるELV-2000形エレメンツビューにより酸素易放出層の厚みを評価した。
【0120】
なお、酸素易放出層の厚みを評価するに当っては、二次粒子径が正極活物質の体積平均粒径の2/3以下となるリチウム金属複合酸化物粒子を選択した。そして、該粒子について、粒子表面から中心に向かって、直径方向に沿って一定の間隔でEELSによるスペクトルを測定し、O-K端において530eV付近のピーク(1st)と545eV付近のピーク(2nd)との強度比(1st/2nd)が0.9以下となる領域の、粒子表面からの厚みを測定することで、酸素易放出層の厚みを求めた。なお、酸素易放出層の厚みを評価するリチウム金属複合酸化物粒子を選択する際には、リチウム金属複合酸化物粒子に外接する円の直径を、該リチウム金属複合酸化物粒子の二次粒子径とした。
【0121】
STEMの観察画像、及びEELSのプロファイルを図2A図2Bにそれぞれ示す。
【0122】
図2Aに示したSTEM画像中の粒子21の表面から所定の各距離でEELSの分析を行った結果を、図2Bに示している。なお、図2B中の数値は、粒子表面からの距離を意味しており、各位置でのEELSのプロファイルを示している。
【0123】
そして、図2Bに示したEELSのプロファイルから、ピーク強度比が0.9以下となる領域を酸素易放出層とし、その厚みを求めた。その結果、酸素易放出層の厚みは35nmであった。
【0124】
結果を表1にまとめて示す。
[実施例2]
比表面積が1.89m/gとなるよう、焼成温度を720℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。その結果を表1に示す。
[実施例3]
比表面積が0.80m/gとなるよう、焼成温度を780℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。その結果を表1に示す。
[比較例1]
比表面積が2.10m/gとなるよう、焼成温度を700℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。その結果を表1に示す。
[比較例2]
比表面積が0.55m/gとなるよう、焼成温度を830℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質および二次電池を得て、その評価を行った。その結果を表1に示す。
【0125】
また、酸素易放出層の厚みを評価する際に撮影したSTEMの観察画像、及びEELSのプロファイルを図3A図3Bにそれぞれに示す。図3AにはSTEMの観察画像を、図3BにはEELSのプロファイルを示している。なお、図3A図3Bに示した場合でも、図3Aに示したSTEM画像中の粒子31の表面から所定の各距離でのEELSの分析を行った結果を、図3Bに示している。なお、図3B中の数値は、粒子表面からの距離を意味しており、各位置でのEELSのプロファイルを示している。
【0126】
そして、図3Bに示したEELSのプロファイルから、ピーク強度比が0.9以下となる領域を酸素易放出層とし、その厚みを求めた。
【0127】
【表1】
表1に示した結果によると、酸素易放出層の厚みが200nm以下であり、比表面積が0.7m/g以上2.0m/g以下である実施例1~実施例3では酸素放出量が15質量%以下となっており、充電状態での酸素放出を十分に抑制できていることを確認できた。すなわち、リチウムイオン二次電池に用いた際に、熱安定性に優れた正極活物質を得られていることを確認できた。
【0128】
以上にリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0129】
本出願は、2019年2月26日に日本国特許庁に出願された特願2019-033321号に基づく優先権を主張するものであり、特願2019-033321号の全内容を本国際出願に援用する。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B