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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093672
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】口唇用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/67 20060101AFI20230627BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20230627BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 8/42 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K8/92
A61Q1/04
A61K8/49
A61K8/31
A61K8/42
A61K8/63
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070982
(22)【出願日】2023-04-24
(62)【分割の表示】P 2018240095の分割
【原出願日】2018-12-21
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 安弓
(57)【要約】
【課題】本発明は、口唇のシワを改善することができる口唇用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】油性基剤を含む口唇用組成物においてテトラヘキシルデカン酸アスコルビルを配合することにより、口唇用組成物に口唇のシワ改善作用を付与することができる。好ましくは、口唇用組成物には、アラントイン類、ピリドキシン類、及びパンテノ-ル類よりなる群から選ばれる少なくともいずれかを含み、グリチルレチン酸類及び/又はトコフェロ-ル類を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)油性基剤と、(B)テトラヘキシルデカン酸アスコルビルと、(C)アラントイン類及び/又はピリドキシン類と、を含み、口唇のシワ改善に用いられる、口唇用組成物(但し、レチノール及びコラーゲンを含むものを除く)。
【請求項2】
前記(A)成分の含有量が50~99.5重量%である、請求項1に記載の口唇用組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が固形油を含む、請求項1又は2に記載の口唇用組成物。
【請求項4】
前記固形油の含有量が30~70重量%である、請求項3に記載の口唇用組成物。
【請求項5】
さらに、パンテノ-ル類を含む、請求項1~4のいずれかに記載の口唇用組成物。
【請求項6】
さらに、(D)グリチルレチン酸類及び/又はトコフェロ-ル類を含む、請求項1~5のいずれかに記載の口唇用組成物。
【請求項7】
油性基剤を含む口唇用組成物(但し、レチノール及びコラーゲンを含むものを除く)においてテトラヘキシルデカン酸アスコルビルとアラントイン類及び/又はピリドキシン類とを配合することを特徴とする、口唇用組成物に口唇のシワ改善作用を付与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口唇用組成物に関する。より詳細には、本発明は、口唇のシワ改善作用を有する口唇用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口唇は、口腔内の唇側粘膜が外側に反転した形態を成しており、通常、解剖学的に赤唇縁と呼ばれる部位をいう。このように口唇は、その基本構造が皮膚ではなく粘膜である点で、顔や体における通常の皮膚とは本質的に異なっている。例えば、口唇は、通常の皮膚に存在する皮脂腺が無い、点在する皮脂腺のみが認められ角質上に実質的に脂肪が存在しない、通常の皮膚に比べて極端に角層が薄い、メラノサイトが著しく乏しい等の組織的特徴を有している。また、口唇は、粘膜組織でありながら体外に露出し、外部環境に常に晒されているという形態的特徴も有している。
【0003】
このような組織学的特徴及び形態的特徴が重なるため、口唇は本来的に感受性が非常に高く、トラブルを起こしやすいという特有の課題を有している。このため、口唇に適用される外用組成物(口唇用組成物)は、口唇角質層に油膜を形成することで保護するワセリン等の油性基剤を非常に多く含むという特徴を有している。
【0004】
ここで、一般的な外用組成物において、薬剤の経皮吸収性(角質層への分配)には、「基剤と皮膚との親和性」(基剤の皮膚へのなじみ易さ)と「基剤と薬剤との親和性」(基剤に対する薬剤の溶け易さ)が大きな影響を与えることが知られており(非特許文献1)、これらのバランスを考慮した上で、皮膚外用組成物の製剤処方が設計されている。例えば、水溶性薬剤の場合であれば、油脂性基剤を使用すると、「基剤と皮膚との親和性による経皮吸収性」と「基剤と薬剤との親和性による経皮吸収性」の双方が向上するが、水溶性基剤を使用すると、「基剤と皮膚との親和性による経皮吸収性」と「基剤と薬剤との親和性による経皮吸収性」の双方が低下することが知られている。また、脂溶性薬剤の場合であれば、油脂性基剤を使用すると、「基剤と皮膚との親和性による経皮吸収性」が向上する反面、「基剤と薬剤との親和性による経皮吸収性」が低下し、水溶性基剤を使用すると、「基剤と皮膚との親和性による経皮吸収性」が低下するが、「基剤と薬剤との親和性による経皮吸収性」が向上することが知られている。
【0005】
そうすると、油脂性基剤を多く用いる口唇用組成物においては、「基剤と薬剤との親和性による経皮吸収性」が低下する脂溶性薬剤よりも、「基剤と皮膚との親和性による経皮吸収性」と「基剤と薬剤との親和性による経皮吸収性」の双方が向上する水溶性薬剤のほうが、経皮吸収の点で有利である。
【0006】
一方、L-アスコルビン酸は、優れたメラニン生成抑制効果や生成メラニンに対する還元性等の美肌に有効な作用を示すことが知られている水溶性薬剤であり、従来より、外用組成物に配合されてきた。しかし、L-アスコルビン酸はエンジオール基を有するため水素を授与しやすい構造を有しており、その酸化容易性のため製剤中で不安定である。このような油溶性の乏しさ及び製剤安定性の問題を改善すべく提供されたのが、L-アスコルビン酸の水酸基をエステル化したL-アスコルビン酸エステル誘導体である。しかしながら、特許文献1に記載されるように、L-アスコルビン酸エステル誘導体は2,3位の水酸基が残存していることで油溶性の乏しさ及び製剤安定性の問題の改善効果が十分ではないため、更に、L-アスコルビン酸のすべての水酸基をエステル化したL-アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体が提供されることで、油への溶解性が改良されている。特許文献1には、L-アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体が角質から容易に経皮吸収されることも記載されている。特許文献1には、L-アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体としてテトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビルを用い、アルブチン、コウジ酸、トラネキサム酸、グリチルリチン酸ジカリウム、L-アスコルビルリン酸エステルマグネシウム、2-O-α-グルコシル-L-アスコルビン酸を組み合わせることで、美白効果が向上することが開示されている。テトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビルは、皮脂脂肪酸のひとつであるイソパルミチン酸とL-アスコルビン酸とを結合させた構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-306419号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大谷道輝監修、“ぬり薬の薀蓄vol.1”、[online]、マルホ株式会社、[平成30年11月30日検索]、インターネット〈URL:https://www.maruho.co.jp/medical/pharmacist/infostore/vol01/05.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
口唇は本来的に感受性が非常に高く、トラブルを起こしやすいという特有の課題を有している。そのトラブルの一例が、口唇のシワである。口唇の角質は本来的に未発達であるため、外部刺激等により容易に角質が剥がれやすくなることでシワが生じ、そのシワは特に縦方向に深く刻まれる(縦ジワ)。顔全体には化粧水やクリームを塗ってケアをすることが多いことに対し、口唇に相応しいケアがなされないことも、縦ジワ等の口唇ジワのトラブルに拍車をかけている。しかしながら、シワを改善できる口唇用組成物についてはこれまで検討されていない。
【0010】
そこで、本発明は、口唇のシワを改善することができる口唇用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
口唇用組成物は油脂性基剤を多く用いるという点で、通常の皮膚に適用される組成物とは基剤組成が決定的に異なっている。また、経皮吸収性に関する技術常識に鑑みると、同じ薬剤成分であっても基剤の種類によってその経皮吸収性は様々に異なってくる。当然ながら経皮吸収性の違いは発揮される作用効果に影響する。そうすると、経皮吸収性に関する技術常識に鑑みれば、通常の皮膚に適用される外用組成物に配合されることで作用効果が発揮できる薬剤成分であっても、口唇用組成物で同様の作用効果が期待できるということにはならない。
【0012】
テトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビルは、上述のように、有用な美肌成分として外用組成物に用いられる。しかしながら、テトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビルが含まれている外用組成物として口唇用に特化した外用組成物は知られておらず、専ら、通常の皮膚に適用される物のみである。テトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビルは油溶性がより高くなるように構成されていることからすると、油脂性基剤に配合した場合の経皮吸収性はより低いはずであるから、経皮吸収性に関する技術常識に鑑みれば、口唇用組成物に適用したところで、従前から通常の皮膚外用組成物において謳われているような効果は期待できない。また、特許文献1には、L-アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体が角質から容易に経皮吸収されるといった内容も記載されているが、経皮吸収性が容易となっているのは、L-アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体が皮脂脂肪酸のひとつであるイソパルミチン酸を分子内に有していることで、適用先の皮膚に存在する皮脂と親和する作用による効果である。口唇には、実質的に皮脂が存在していないのであるから、通常の皮膚におけるような皮脂と親和する作用は見込めない。つまり、L-アスコルビン酸テトラ分岐脂肪酸エステル誘導体が経皮吸収を容易にすることが知られているとしても、口唇用組成物に配合したところで、通常の皮膚外用組成物において期待できるような経皮吸収性を容易にする効果は期待できない。
【0013】
こうした中で、本発明者は鋭意検討した結果、驚くべきことに、技術常識に鑑みると口唇用組成物では効果が期待できないテトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビルを口唇用組成物に配合することで、口唇のシワが顕著に改善されることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)油性基剤と(B)テトラヘキシルデカン酸アスコルビルとを含み、口唇のシワ改善に用いられる、口唇用組成物。
項2. 前記(A)成分の含有量が50~99.5重量%である、項1に記載の口唇用組成物。
項3. 前記(A)成分が固形油を含む、項1又は2に記載の口唇用組成物。
項4. 前記固形油の含有量が30~70重量%である、項3に記載の口唇用組成物。
項5. さらに、アラントイン類、ピリドキシン類、及びパンテノ-ル類よりなる群から選ばれる少なくともいずれかを含む、項1~4のいずれかに記載の口唇用組成物。
項6. さらに、グリチルレチン酸類及び/又はトコフェロ-ル類を含む、項1~5のいずれかに記載の口唇用組成物。
項7. 油性基剤を含む口唇用組成物においてテトラヘキシルデカン酸アスコルビルを配合することを特徴とする、口唇用組成物に口唇のシワ改善作用を付与する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の口唇用組成物によれば、口唇のシワを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験例1の口唇用組成物による、口唇表面の肌理の粗さに対する改善効果(口唇シワ改善効果)を示す測定結果である。
図2】試験例1の口唇用組成物による、口唇シワの深さに対する改善効果(口唇シワ改善効果)を示す測定結果である。
図3】試験例1の口唇用組成物による、メラニンの不均一性に対する改善効果(くすみ改善効果)を示す測定結果である。
図4】試験例1の口唇用組成物による、メラニンの平均濃度に対する改善効果(くすみ改善効果)を示す測定結果である。
図5】試験例2の口唇用組成物による、口唇シワ改善効果及び血色不良改善効果を示す口唇の写真である。
図6】試験例2の口唇用組成物による、口唇シワ改善効果及びくすみ改善効果を示す口唇の写真(下唇の拡大写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.口唇用組成物
本発明の口唇用組成物は、(A)油性基剤(以下、(A)成分とも記載する)と(B)テトラヘキシルデカン酸アスコルビル(以下、(B)とも記載する)を含み、口唇のシワ改善に用いられることを特徴とする。以下、本発明の口唇用組成物について詳述する。
【0018】
(A)油性基剤
本発明の口唇用組成物は、(A)成分として油性基剤を含む。油性基剤は油溶性薬剤との親和性が強いため、本来的に油溶性薬剤の経皮浸透性及び効能効果の発現が悪いが、本発明の口唇用組成物では、油性基剤を含んでいながら、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。
【0019】
油性基剤としては、(A1)固形油及び(A2)液状油が挙げられる。また油性基剤は、少なくとも固形油を含むことが好ましい。油性基剤が固形油を含む場合、流動性が無くなるか、又は極めて乏しくなるため、局部的な部分である口唇に対して口唇用組成物の油膜を定着させることが容易となる点で好ましい。その反面、流動性が無い、又は極めて乏しい性状の油性基剤中では、本来的に油溶性薬剤の分散性が悪いため、油溶性薬剤の経皮への分配性及び効能効果の発現は悪い。しかしながら、本発明の口唇用組成物では、油性基剤に固形油を含んでいても、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。
【0020】
(A1)固形油(以下、(A1)成分とも記載する)とは、25℃において固形の形態を保つ油である。本発明で使用される固形油としては、通常化粧料や外用医薬品等に用いられるものであればよく、例えば固体油脂、ロウ類、合成ワックス、固形炭化水素、高級アルコール、高級脂肪酸が挙げられる。例えば、カカオ脂、ラノリン、オゾケライト、水素添加ホホバ油、硬化ヒマシ油等の固体油脂;キャンデリラロウ、コメヌカロウ、ミツロウ、サラシミツロウ、綿ロウ、カルナウバロウ、セラックロウ、モクロウ、ホホバロウ等のロウ類:ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸セチル、パルミチン酸セチル、ステアリン酸コレステリル、オレイン酸コレステリル、パルミチン酸デキストリン、ステアリン酸イヌリン等の合成ワックス;ワセリン、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ゲル化炭化水素等の固形炭化水素;セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、バチルアルコール等の高級アルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸;シリコーンワックス等が例示される。
【0021】
これらの固形油の中でも、口唇のシワに対する改善効果を一層好ましく得る点で、固体油脂、ロウ類、合成ワックス、固形炭化水素が好ましく;ロウ類及び固形炭化水素がより好ましく;サラシミツロウ、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、ゲル化炭化水素がさらに好ましく;ワセリン、マイクロクリスタリンワックスが特に好ましい。
【0022】
これらの固形油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
(A2)液状油(以下、(A2)成分とも記載する)とは、25℃において液状の形態を保つ油である。本発明で使用される液状油としては、化粧料や外用医薬品等に通常用いられるものであればよく、例えば、アボガド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ホホバ油等の植物油;オレイン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸;エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ2-エチルへキサン酸グリセリル、オレイン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジバラメトキシケイヒ酸-モノエチルへキサン酸グリセリル等のエステル油;ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等のシリコン油;流動パラフィン、スクワレン、スクワラン等の液状炭化水素油等が挙げられる。
【0024】
これらの液状油の中でも、好ましくは液状炭化水素油、より好ましくは流動パラフィンが挙げられる。
【0025】
これらの液状油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
本発明の口唇用組成物中の(A)成分の含有量としては特に限定されず、口唇用組成物中で比較的多くの割合を占めれば特に限定されないが、好ましくは50~99.5重量%、より好ましくは60~99.5重量%、さらに好ましくは70~99.5重量%、一層好ましくは75~99.5重量%が挙げられる。このように油性基剤を大半含む場合の外用組成物は、本来的に油溶性薬剤の経皮浸透性及び効能効果の発現がより一層悪くなる。しかしながら、本発明の口唇用組成物では、油性基剤を大半含んでいても、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。
【0027】
また、本発明の口唇用組成物が(A1)成分を含む場合、口唇用組成物中の(A1)成分の含有量としては特に限定されず、口唇に対して口唇用組成物の油膜をより良好に定着させる観点及び使用感の観点等から、例えば30~70重量%、好ましくは30~65重量%、より好ましくは30~60重量%、さらに好ましくは40~60重量%、一層好ましくは50~60重量%が挙げられる。このように多くの固形油を含む口唇用組成物は、流動性が無い、又は極めて乏しい性状であるため、本来的に油溶性薬剤の分散性が悪く、油溶性薬剤の経皮への分配性及び効能効果の発現はより一層悪くなる。しかしながら、本発明の口唇用組成物では、多くの固形油を含んでいても、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。
【0028】
本発明の口唇用組成物に(A2)成分を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、15~60重量%、好ましくは20~55重量%、より好ましくは20~50重量%が挙げられる。
【0029】
また、本発明の口唇用組成物が(A1)成分と(A2)成分との両方を含む場合、(A1)成分と(A2)成分との比率は、上記各成分の含有量により定まるが、(A2)成分1重量部当たりの(A1)成分の含有量として、例えば0.5~5重量部、好ましくは0.5~3重量部、より好ましくは1~3重量部が挙げられる。
【0030】
(B)テトラヘキシルデカン酸アスコルビル
本発明の口唇用組成物は、(B)成分としてテトラヘキシルデカン酸アスコルビルを含む。テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは、L-アスコルビン酸のすべての水酸基をイソパルミチン酸(2-ヘキシルデカン酸)でエステル化したL-アスコルビン酸誘導体であり、テトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビル(テトライソパルミチン酸アスコビル)を指す。
【0031】
テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは非常に油性基剤との親和性が強いため、油性基剤を含む外用組成物において本来的に経皮浸透性及び効能効果の発現が悪いが、本発明の口唇用組成物では、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。また、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは、皮脂脂肪酸のひとつであるイソパルミチン酸を分子内に有していることで、本来的には、適用先の皮膚に存在する皮脂と親和する作用によって効能効果の発現を向上させている一方で、本発明の口唇用組成物が適用される口唇には実質的に皮脂が存在しないため、通常の皮膚におけるような皮脂と親和する作用は見込めない。しかしながら、本発明の口唇用組成物では、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。
【0032】
本発明の口唇用組成物中の(B)成分の含有量としては特に限定されず、発揮させるべき口唇のシワ改善効果に応じて適宜設定することができるが、例えば0.5~5重量部、好ましくは0.7~4重量部、より好ましくは1~3重量部が挙げられる。
【0033】
(A)成分と(B)成分との比率は、上記各成分の含有量により定まるが、(A)成分100重量部当たりの(B)成分の含有量として、例えば1~4.5重量部が挙げられる。本発明の口唇用組成物では、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができるため、(A)成分100重量部当たりの(B)成分の含有量が、例えば1~3重量部、1~2.5重量部、1~2重量部、又は1~1.5重量部であっても、効果的に口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。
【0034】
(A)成分に(A1)成分を含む場合、(A1)成分と(B)成分との比率は、上記各成分の含有量により定まるが、(A1)成分100重量部当たりの(B)成分の含有量として、例えば1.5~7.5重量部、好ましくは2~7.5重量部が挙げられる。本発明の口唇用組成物では、口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができるため、(A1)成分100重量部当たりの(B)成分の含有量が、例えば1.5~6重量部、1.5~5重量部、1.5~4重量部、1.5~3重量部、又は1.5~2.5重量部であっても、効果的に口唇のシワに対する顕著な改善効果を得ることができる。
【0035】
(C)アラントイン類、ピリドキシン類、及び/又はパンテノ-ル類
本発明の口唇用組成物には、更に、(C)成分として、アラントイン類、ピリドキシン類、及びパンテノ-ル類よりなる群から選ばれる少なくともいずれかを含むことができる。これらの成分は水溶性薬剤であり、油脂性基材の使用による経皮吸収性が良好である。本発明の口唇用組成物においては、(C)成分がテトラヘキシルデカン酸アスコルビルと相まって、口唇のシワに対する改善効果をより一層向上させることができる。
【0036】
本発明の口唇用組成物には、アラントイン類、ピリドキシン類、及びパンテノ-ル類の中から、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。口唇のシワに対する改善効果をより一層良好に得る観点で、上記のアラントイン類、ピリドキシン類、及びパンテノ-ル類の全てを含むことが好ましい。
【0037】
アラントイン類とは、アラントイン、及びその誘導体であり、具体的には、アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインヒドロキシアルミニウム等が挙げられる。これらのアラントイン類の中でも、好ましくはアラントインが挙げられる。これらのアラントイン類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
本発明の口唇用組成物がアラントイン類を含む場合、口唇用組成物中のアラントイン類の含有量としては、例えば、0.01~2重量%、好ましくは0.3~1重量%が挙げられる。
【0039】
ピリドキシン類とは、ビタミンB6、その誘導体、及びそれらの塩であり、具体的には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、これらの無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。これらのピリドキシン類の中でも、好ましくはピリドキシン塩酸塩が挙げられる。これらのピリドキシン類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明の口唇用組成物がピリドキシン類を含む場合、口唇用組成物中のピリドキシン類の含有量としては、例えば、0.01~2重量%、好ましくは0.05~0.5重量%が挙げられる。
【0041】
パンテノール類とは、パンテノール、その誘導体、及びそれらの塩であり、具体的には、パンテノール、パントテニルエチルエーテル、パントテン酸アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩等)、パントテン酸アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩等)、アセチルパントテニルエチルエーテル等が挙げられる。これらのパンテノール類の中でも、好ましくはパンテノールが挙げられる。これらのパンテノール類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明の口唇用組成物がパンテノール類を含む場合、口唇用組成物中のパンテノール類の含有量としては、例えば、0.01~5重量%、好ましくは0.1~2重量%が挙げられる。
【0043】
(D)グリチルレチン酸類及び/又はトコフェロ-ル類
本発明の口唇用組成物には、更に、(D)成分として、グリチルレチン酸類及び/又はトコフェロ-ル類を含むことができる。これらの成分は油溶性薬剤であり、本来的に、油脂性基材の使用による経皮吸収性が悪い。しかしながら、本発明の口唇用組成物においては、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルと相まって、口唇のシワに対する改善効果をより一層向上させることができる。
【0044】
本発明の口唇用組成物には、グリチルレチン酸類及びトコフェロ-ル類の中から、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。口唇のシワに対する改善効果をより一層良好に得る観点で、グリチルレチン酸類及びトコフェロ-ル類の両方を含むことが好ましい。
【0045】
グリチルレチン酸類とは、グリチルレチン酸、その誘導体、及びそれらの塩であり、具体的には、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸グリセリン,グリチルレチン酸ステアリル,グリチルレチン酸ピリドキシン等が挙げられる。これらのグリチルレチン酸類の中でも、好ましくは、グリチルレチン酸が挙げられる。これらのグリチルレチン酸類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
本発明の口唇用組成物がグリチルレチン酸類を含む場合、口唇用組成物中のグリチルレチン酸類の含有量としては、例えば、0.01~5重量%、好ましくは0.1~2重量%が挙げられる。
【0047】
トコフェロ-ル類とは、トコフェロール、及びその誘導体であり、具体的には、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノール、酢酸トコフェロール、リノール酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、(リノール酸/オレイン酸)トコフェロール等が挙げられる。これらのトコフェロール類の中でも、好ましくは、酢酸トコフェロールが挙げられる。これらのトコフェロール類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
本発明の口唇用組成物には、口唇のシワに対する改善効果をより一層良好に得る観点で、上記のアラントイン類、ピリドキシン類、パンテノ-ル類、グリチルレチン酸類、及びトコフェロ-ル類よりなる群から選ばれる少なくともいずれかを含むことが好ましく、アラントイン類、ピリドキシン類、パンテノ-ル類、グリチルレチン酸類、及びトコフェロ-ル類のすべてを含むことがより好ましく、アラントイン、ピリドキシン塩酸塩、パンテノ-ル、グリチルレチン酸、及び酢酸トコフェロ-ルのすべてを含むことがさらに好ましい。
【0049】
その他の成分
本発明の口唇用組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、上記(B)成分、(C)成分、(D)成分以外の薬効成分を含んでいてもよい。このような薬効成分としては、例えば、抗炎症剤、老化防止剤、収斂剤、抗酸化剤、保湿剤、血行促進剤、抗菌剤、殺菌剤、乾燥剤、冷感剤、温感剤、ビタミン類、アミノ酸、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、酵素成分、生薬成分等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の口唇用組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤、水性基剤、緩衝剤、キレート剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、香料、清涼化剤、着色剤、分散剤、流動化剤、保湿剤、湿潤剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの成分の中でも、好ましくは、界面活性剤、増粘剤、水性基剤が挙げられる。
【0051】
界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤が挙げられ、好ましくは非イオン系界面活性剤が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、親油性非イオン系界面活性剤及び親水性非イオン系界面活性剤が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、親油性非イオン系界面活性剤及び親水性非イオン系界面活性剤のいずれかを用いてもよいし、両方を用いてもよい。
【0052】
親油性非イオン系界面活性剤としては、モノステアリン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル;モノステアリン酸グリセリン等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸;モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル;硬化ヒマシ油誘導体;グリセリンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの親油性非イオン系界面活性剤の中でも、好ましくは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンポリグリセリン脂肪酸が挙げられ、より好ましくは、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸グリセリンが挙げられる。これらの親油性非イオン系界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
本発明の口唇用組成物が、親油性非イオン系界面活性剤を含む場合、親油性非イオン系界面活性剤の含有量としては、例えば0.5~10重量部、好ましくは0.8~8重量部が挙げられる。
【0054】
親水性非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(以下、POEと略する)POEソルビタンモノステアレート等のPOEソルビタン脂肪酸エステル;POEソルビットモノオレエート等のPOEソルビット脂肪酸エステル、POEグリセリンモノイソステアレート等のPOEグリセリン脂肪酸エステル;POEステアリルエーテル、POEコレスタノールエーテル等のPOEアルキルエーテル、POEノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル、プルロニック等のプルアロニック型;POE・ポリオキシプロピレン(以下、POPと略する)セチルエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル、テトロニック等のテトラPOE・テトラPOPエチレンジアミン縮合体;POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等のPOEヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体;POEミツロウ・ラノリン誘導体;アルカノールアミド;POEプロピレングリコール脂肪酸エステル;POEアルキルアミン;POE脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル;POEノニルフェニルホルムアルデヒド縮合物;アルキルエトキシジメチルアミンオキシド、トリオレイルリン酸等が挙げられる。これらの親水性非イオン系界面活性剤の中でも、好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステルが挙げられ、より好ましくはPOEソルビタンモノステアレートが挙げられる。これらの親水性非イオン系界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
本発明の口唇用組成物が、親水性非イオン系界面活性剤を含む場合、親水性非イオン系界面活性剤の含有量としては、例えば0.5~7重量部、好ましくは0.8~2.5重量部が挙げられる。
【0056】
増粘剤としては、油溶性増粘剤及び水溶性増粘剤が挙げられ、好ましくは油溶性増粘剤が挙げられる。油溶性増粘剤としては、パルミチン酸デキストリン、オレイン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン等のデキストリン脂肪酸エステル;8個の水酸基のうち3個以下が高級脂肪酸でエステル化され、高級脂肪酸がステアリン酸、パルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステル;モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトールのベンジリデン誘導体等が挙げられる。これらの油溶性増粘剤の中でも、好ましくはデキストリン脂肪酸エステルが挙げられ、より好ましくはパルミチン酸デキストリンが挙げられる。これらの油溶性増粘剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
本発明の口唇用組成物が、増粘剤を含む場合、増粘剤の含有量としては、例えば0.2~5重量部、好ましくは0.5~1.5重量部が挙げられる。
【0058】
水性基剤としては、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられ、好ましくは水、グリセリンが挙げられる。
【0059】
本発明の口唇用組成物が、水性基剤を含む場合、水性基剤の含有量としては、例えば0重量部超20重量部以下、好ましくは0重量部超18重量部以下が挙げられる。本発明の口唇用組成物が、水性基剤の中でも水を含む場合、水の含有量としては、例えば0重量部超7重量部以下、好ましくは0重量部超5重量部以下が挙げられる。
【0060】
製剤形態
本発明の口唇用組成物の製剤形態については、特に限定されず、ゲル状、ペースト状および固形状が挙げられる。本発明の口唇用組成物の具体的な形態としては、水分を含まない油性製剤、少量の水を含む油中水型乳化物の形態が挙げられる。本発明の口唇用組成物の更に具体的な剤形としては、リップクリーム、リップグロス、口紅等が挙げられる。また、本発明の口唇用組成物は、一般皮膚化粧料、薬用化粧料、医薬部外品、医薬品のいずれであってもよいが、好ましくは医薬品である。
【0061】
口唇用組成物の製造方法
本発明の口唇用組成物は、上記(A)及び(B)成分、必要に応じて配合される(C)成分、(D)成分、上記他の薬効成分、添加剤等を所望量混合することにより調製される。
【0062】
口唇用組成物の使用方法
本発明の口唇用組成物は、口唇のシワの改善を目的として、口唇に適用して使用することができる。従って、本発明の口唇用組成物は、口唇のシワを自覚する人に対して使用することができる。また、本発明の口唇用組成物は、口唇のシワの予防のために日常のケアの一環として使用することもできる。本発明の口唇用組成物の用法においては、1日に例えば1~3回、好ましくは1~2回、口唇に塗布することができる。本発明の口唇用組成物は、好ましい効果発現のため、継続的に適用することが好ましく、適用期間としては、例えば3週間以上、好ましくは4週間以上、より好ましくは8週間以上が挙げられる。
【0063】
2.口唇のシワ改善作用を付与する方法
前述するように、油性基剤を含む口唇用組成物において、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは、口唇のシワに対する改善効果を示す。従って、本発明は、更に、油性基剤を含む口唇用組成物においてテトラヘキシルデカン酸アスコルビルを配合することを特徴とする、口唇用組成物に口唇のシワ改善作用を付与する方法を提供する。
【0064】
なお、本発明において、口唇のシワを改善するとは、油性基剤を含む口唇用組成物において、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルを含まない場合に比べて口唇のシワの深さを浅くすること、及び/又は口唇のシワを目立たなくすることをいい、特に、口唇の縦ジワに対して奏される効果をいう。
【0065】
また、油性基剤を含む口唇用組成物において、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは、口唇のシワに対する改善効果を示すだけでなく、口唇の血色不良を自覚する人に対して使用される場合においては、口唇のシワに対する改善効果とともに、口唇の血色不良改善効果も示す。口唇の血色不良とは、口唇全体において血色(赤味)が少ない状態をいう。口唇の血色が不良であるほど、口唇(粘膜を基礎構造とする部分)と皮膚との境界については皮膚の色に近くなるため、口唇の正面視における赤味を有する部分の面積が小さく、その結果、口唇の上下方向の厚みも薄い傾向にある。また、実際に口唇のボリュームが少なく痩せている場合もある。このような口唇の血色不良を改善するとは、油性基剤を含む口唇用組成物において、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルを含まない場合に比べて口唇全体の血色(赤味)を高めることをいう。口唇の血色不良がより一層顕著に改善される場合は、口唇(粘膜を基礎構造とする部分)と皮膚との境界まで赤味が増して、口唇の正面視における赤味を有する部分の面積が大きくなり、その結果、口唇の上下方向の厚みが増す効果(豊唇感)も視認できることもある。このような豊唇感は、特に下唇において視認されやすい。さらには、実際に口唇のボリューム自体が増す豊唇効果が得られることもある。
【0066】
さらに、油性基剤を含む口唇用組成物において、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは、口唇のシワに対する改善効果を示すだけでなく、口唇のくすみを自覚する人に対して使用される場合においては、口唇のシワに対する改善効果とともに、口唇のくすみに対する改善効果も示す。口唇のくすみとは、メラノサイトが著しく乏しい口唇が紫外線等の外的因子によるダメージを直接的に受けることで生じ、口唇表面において部分的に色味が濃くなる状態をいう。具体的には、シミ・黒ずみ等による色むら(色味の不均一性)として視認される。このような口唇のくすみを改善するとは、油性基剤を含む口唇用組成物において、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルを含まない場合に比べて、口唇の色味が濃くなった部分を薄くして色味の平均濃度を下げ、色味の不均一性をより均一に近づけることをいう。
【0067】
口唇用組成物に、口唇のシワに対する改善作用だけでなく、口唇の血色不良及び/又は口唇のくすみに対する改善作用を付すことで、それらの作用が相まって、より一層健康的な口唇の状態をもたらすことができる。
【0068】
前記口唇のシワ改善作用を付与する方法において、使用する成分の種類や使用量、口唇用組成物の形態、使用方法等については、前記「1.口唇用組成物」の欄に示す通りである。
【実施例0069】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
試験例1
[口唇用組成物の調製]
表1に示す組成の口唇用組成物を調製した。具体的には、(A)成分及び界面活性剤を混合し、85℃のウォーターバスで加熱溶解し、予製混合物を得た。予製混合物に(B)成分を十分に攪拌しながら添加した後、撹拌しながら35℃まで冷却し、口唇用組成物を得た。
【0071】
得られた口唇用組成物それぞれについて、口唇のシワを自覚する女性10名に対し、1日1回、8週間、口唇に塗布した。なお、この10名の被験者は、口唇の血色不良(口唇全体の血色不良)及びくすみ(口唇の色むら)も自覚していた。
【0072】
[改善効果の評価]
(官能評価)
口唇用組成物を8週間適用した後、口唇シワが浅くなり、口唇の表面が滑らかな見た目に改善したと感じた人数を、以下の基準に従って分類し、口唇シワ改善効果を評価した。また、口唇の色が血色のいいピンク色の見た目に改善したと感じた人数を、同様に以下の基準に従って分類し、血色不良改善効果も評価した。さらに、口唇の色むらが解消され色味が均一な見た目に改善したと感じた人数も、同様に以下の基準に従って分類し、くすみ改善効果も評価した。結果を表1に示す。
○:7人以上
△:4~6人
×:3人以下
【0073】
(測定評価)
実施例1の口唇用組成物を適用する前(初期)と、口唇用組成物を8週間適用した後とにおいて、皮膚分析器ANTERA3DTMを用いて、口唇表面の粗さ(口唇表面の肌理の粗さ)及び口唇シワ(口唇のシワの深さ)を測定した。具体的には、被験者1人につき、初期と8週間後とのそれぞれにおいて3回ずつ測定して、3回のうち最も悪い(高い)測定値を当該被験者の確定測定値(初期)及び確定測定値(8週後)とし、さらに、被験者10人の確定測定値(初期)及び確定測定値(8週後)それぞれを平均化した。初期の確定測定値平均に対して8週間後における確定測定値平均が小さいほど、口唇シワに対する改善効果が高いことを示す。得られた結果をそれぞれ図1(口唇表面の粗さ)及び図2(口唇シワ)に示す。さらに、皮膚分析器ANTERA3DTMを用いて、上述の測定の他に、メラニンの不均一性及びメラニンの平均濃度についても、同様に測定及び平均化した。得られた結果をそれぞれ図3(メラニンの不均一性)及び図4(メラニンの平均濃度)に示す。初期の確定測定値平均に対して8週間後における確定測定値平均が小さいほど、口唇のくすみに対する改善効果が高いことを示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1から明らかなように、油性基剤にテトラヘキシルデカン酸アスコルビルを配合した口唇用組成物(実施例1~7)では、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルを含まない口唇用組成物(比較例1~4)に対して、顕著な口唇シワ改善効果が得られた。また、このような顕著な改善効果は、口唇シワに対してだけでなく、口唇の血色不良およびくすみに対しても認められた。また、図1及び図2から明らかなように、客観的にも、口唇表面の粗さ及び口唇シワの深さが大幅に改善され、口唇シワが顕著に改善されたことがわかった。さらに、口唇シワの改善効果だけでなく、図3及び図4から明らかなように、客観的にも、メラニンの均一性及びメラニンの平均濃度が大幅に改善され、くすみも顕著に改善されたことが分かった。
【0076】
試験例2
[口唇用組成物の調製]
表2に示す組成の口唇用組成物を調製した。具体的には、(A)成分、(C)成分、(D)成分及び界面活性剤を混合し、85℃のウォーターバスで加熱溶解し、予製混合物を得た。予製混合物に(B)成分を十分に攪拌しながら添加した後、撹拌しながら35℃まで冷却し、口唇用組成物を得た。
【0077】
得られた口唇用組成物を、口唇のシワを自覚する女性に対し、1日1回、8週間、口唇に塗布した。これらの女性は、口唇のシワに加え、口唇の血色不良及び/又は口唇のくすみも自覚していた。これらの女性のうち、女性1及び女性2に対しては、実施例13の口唇用組成物が適用された。女性1は、口唇シワだけでなく、口唇の血色不良(口唇全体の血色不良)も自覚していた。また、女性2は、口唇シワだけでなく、くすみ(特に、スポット状のシミ)も自覚していた。女性1の口唇全体の正面視写真を図5(女性1;初期と4週間適用後)に示し、女性2の口唇のうち下唇の一部の拡大写真を図6(女性2;初期、4週間適用後、及び8週間適用後)に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
その結果、実施例8~13の口唇用組成物を適用した場合、口唇シワに対する改善効果をより一層良好に得ることができた。また、口唇シワに対してだけでなく、口唇の血色不良を自覚する人については口唇の血色不良に対してもより一層の改善効果が認められ、口唇のくすみを自覚する人については口唇くすみに対してもより一層の改善効果が認められた。
【0080】
具体的には、実施例13の口唇用組成物について図5に示すように、女性1では、わずか4週間の適用で口唇シワが顕著に改善された。また、女性1では、わずか4週間の適用で口唇の血色不良も顕著に改善された。このため、図5に示すように、女性1の口唇の正面視では、赤味を有する面積が増えており、特に下唇の上下方向最大厚みが、初期で10mmであったことに対し、わずか4週間適用後で12mmに増し、豊唇感が得られた。さらに、図5に示すように、女性1では、口唇の正面視だけでなく、口唇全体のボリュームも増しており、実際に豊唇効果が得られていた。
【0081】
実施例13の口唇用組成物について図6に示すように、女性2では、特に写真中で黒矢印によって示される最も深い縦ジワがわずか4週間後でも顕著に浅くなったことを含め、全体的に口唇表面の凹凸が顕著に滑らかになったことに認められるとおり、口唇シワの一層顕著な改善効果が得られた。また、図6に示すように、女性2では、初期において写真中の白三角印で指し示す部分にスポット状のシミが認められるが、わずか4週間後にははっきりと薄くなっている変化が認められ、さらに8週間後にはほぼ消失したことが認められるとおり、くすみに対しても一層顕著な改善効果が得られた。
【0082】
処方例
表3及び表4に示す処方の口唇用組成物を調製した。具体的には、(A)成分、(D)成分、界面活性剤及び増粘剤を混合し、85℃のウォーターバスで加熱溶解した後に、別途85℃のウォーターバスで加熱溶解した(C)成分および水性基剤を混合し、予製混合物を得た。予製混合物に(B)成分を十分に攪拌しながら添加した後、撹拌しながら35℃まで冷却し、処方例1~15の口唇用組成物を得た。いずれの処方例の口唇用組成物についても、試験例2で認められたような、口唇シワのより一層の改善効果;口唇の血色のより一層の改善効果、豊唇感及び/又は豊唇効果;並びに、口唇のくすみのより一層の改善効果が得られた。
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6