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特開2023-93983高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び平坦度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093983
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び平坦度測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20230628BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20230628BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
H01L21/66 P
C30B29/06 B
C30B33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209154
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】友澤 謙太
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 広幸
【テーマコード(参考)】
4G077
4M106
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB05
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EE02
4G077FE11
4G077GA05
4G077GA07
4G077HA12
4M106AA01
4M106CA11
4M106CA48
4M106DH55
4M106DH56
(57)【要約】
【課題】静電容量方式の厚さ測定装置により高抵抗シリコンウェーハの厚さを精度良く測定し、その結果に基づきウェーハの平坦度を測定すること。
【解決手段】ボロンとn型不純物とがドープされた高抵抗のシリコンウェーハの厚さを測定する方法であって、前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップと、抵抗率が低下した前記シリコンウェーハに対し、静電容量方式の厚さ測定を行うステップと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロンとn型不純物とがドープされた高抵抗のシリコンウェーハの厚さを測定する方法であって、
前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップと、
抵抗率が低下した前記シリコンウェーハに対し、静電容量方式の厚さ測定を行うステップと、
を備えることを特徴とする高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法。
【請求項2】
前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、
前記シリコンウェーハの抵抗率を一時的に2000Ωm以下とすることを特徴とする請求項1に記載された高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法。
【請求項3】
前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、
前記シリコンウェーハに対し水素原子を含む洗浄液により洗浄し、前記シリコンウェーハ中に拡散させた水素原子により該シリコンウェーハ中のボロンを不活性化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法。
【請求項4】
前記水素原子を含む洗浄液は、SC-1洗浄、希フッ酸洗浄、SH洗浄のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載された高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法。
【請求項5】
前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、
前記シリコンウェーハに対し、アルカリ性の化学溶液、または酸性の化学溶液によりウェットエッチングを行い、前記シリコンウェーハ中に拡散させた水素原子により該シリコンウェーハ中のボロンを不活性化させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法。
【請求項6】
前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップの後、
16時間以内に前記シリコンウェーハに対し、静電容量方式の厚さ測定を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載された高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法。
【請求項7】
前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、
前記シリコンウェーハに対し少なくとも450℃の熱処理により前記シリコンウェーハ中にサーマルドナーを形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法を用いた高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法であって、
前記シリコンウェーハの全面に対し静電容量センサを走査し、シリコンウェーハの厚さ分布を取得することを特徴とする高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び平坦度測定方法に関し、特に静電容量方式の厚さ測定装置により高抵抗シリコンウェーハの厚さを測定し、その結果に基づき高抵抗シリコンウェーハの平坦度を測定する高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び平坦度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の育成は、チャンバ内に設置した石英ルツボに原料であるポリシリコンを充填し、前記石英ルツボの周囲に設けられたヒータによってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン溶融液とする。その後、シードチャックに取り付けた種結晶(シード)を当該シリコン溶融液に浸漬し、シードチャックおよび石英ルツボを同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより行う。
【0003】
このようなCZ法により製造されたシリコン単結晶の多くは、半導体材料として使用される。育成されるシリコン単結晶の抵抗率は、シリコン溶融液に添加されるドーパント(不純物)により調整される。ドーパントは、n型とp型とに分類され、n型結晶を育成する場合のドーパントとしては、P(リン)が多く用いられ、p型結晶を育成する場合のドーパントとしては、B(ボロン)が多く用いられている。
【0004】
近年では、シリコン単結晶の品質として、10000Ωcm以上の高抵抗率を有することへの要求が増えている。そのシリコン単結晶から得られるシリコンウェーハとしては、例えば通信用に用いる高周波デバイスの製造等に用いられている。
10000Ωcm以上の高抵抗シリコン単結晶を製造する場合、例えば特許文献1(特開平5-58788号公報)に開示されるように高純度の石英ルツボ(内表面が合成石英でコートされたもの)に高純度の多結晶シリコンを投入し、ドープ剤を添加しないでノンドープで製造する方法、或いは、極微量のドーパントを投入して育成することが一般的である。
【0005】
例えば単純に所定値以上の高抵抗シリコン単結晶を製造する要求である場合、純度管理された石英ルツボとシリコン原料とを用いてノンドープによる単結晶育成を行えばよいが、より厳しい抵抗率範囲での要求を満たす必要がある場合には、微量のドーパントで抵抗率を管理することが望ましい。
ドーパントを添加してシリコン単結晶を育成する場合、シリコン融液の減少とともに融液中のドーパント濃度が上昇する。そのままだと、単結晶中の抵抗率も引き上げ方向(単結晶軸方向)に不均一となる。
【0006】
単結晶軸方向の抵抗率を安定化させるために、特許文献2(特開平4-243995号公報)には、例えばボロンを添加したシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる際、ルツボ内面から溶かし出すドーパントを、ボロンとは反対の導電型をもたらすn型不純物のリンとする方法が開示されている。即ち、ボロンの増加によるキャリアの増加を、n型不純物により補償し、引き上げ方向における抵抗率の変動を緩和するようにしている。
【0007】
また、特許文献3(特開2013-142054号公報)には、シリコンウェーハに対し、デバイス製造工程において熱処理を施すことでサーマルドナーが形成されることで導電型がN型で所望の抵抗率が得られるように、予め単結晶の軸方向における酸素原子の濃度を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-58788号公報
【特許文献2】特開平4-243995号公報
【特許文献3】特開2013-142054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、シリコン単結晶から得られた高抵抗のシリコンウェーハにあっては、その製造過程の検査工程において、厚さ測定及びその結果に基づく平坦度測定を行う必要がある。
しかしながら、例えば10000Ωcm以上の高抵抗のシリコンウェーハにあっては、その厚さ寸法を静電容量方式の厚さ測定装置で非接触に測定する場合、ウェーハが高抵抗であるため正常に静電容量を測定できず、正しい厚さ寸法が得られない上に、ばらつきが大きくなるという課題があった。
【0010】
具体的には、高抵抗シリコンウェーハにあっては、静電容量方式の厚さ測定の際、実際の厚さよりも数μm薄い値となり、且つ計測値がばらつくという課題があった。
上記課題を解決するため、サンプルのシリコンウェーハを抜き取り、接触式の厚さ測定を行う方法も考えられるが、非接触方式の厚さ測定により全てのシリコンウェーハの厚さを測定することが、より好ましいという事情があった。
【0011】
本願発明者は、上記した事情のもと、ボロンとn型不純物またはボロンとドナーとなる欠陥とを微量にドープして育成したシリコン単結晶から得られた高抵抗シリコンウェーハに対し、静電容量方式の厚さ測定装置により厚さを測定することを前提に鋭意検討し、本発明をするに至った。
【0012】
本発明の目的は、静電容量方式の厚さ測定装置により高抵抗シリコンウェーハの厚さを精度良く測定し、その結果に基づきウェーハの平坦度を測定することのできる高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法は、ボロンとn型不純物とがドープされた高抵抗のシリコンウェーハの厚さを測定する方法であって、前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップと、抵抗率が低下した前記シリコンウェーハに対し、静電容量方式の厚さ測定を行うステップと、を備えることに特徴を有する。
【0014】
尚、前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、前記シリコンウェーハの抵抗率を一時的に2000Ωm以下とすることが望ましい。
また、前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、前記シリコンウェーハに対し水素原子を含む洗浄液により洗浄し、前記シリコンウェーハ中に拡散させた水素原子により該シリコンウェーハ中のボロンを不活性化させることが望ましい。前記水素原子を含む洗浄液は、SC-1洗浄、希フッ酸洗浄、SH洗浄のいずれかであることが望ましい。
【0015】
また、前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、前記シリコンウェーハに対し、アルカリ性の化学溶液、または酸性の化学溶液によりウェットエッチングを行い、前記シリコンウェーハ中に拡散させた水素原子により該シリコンウェーハ中のボロンを不活性化させてもよい。
【0016】
また、前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップの後、16時間以内に前記シリコンウェーハに対し、静電容量方式の厚さ測定を行うことが望ましい。
また、前記シリコンウェーハ中のn型不純物をより機能させ、一時的に抵抗率のより低いn型シリコンウェーハを形成するステップにおいて、前記シリコンウェーハに対し少なくとも450℃の熱処理により前記シリコンウェーハ中にサーマルドナーを形成してもよい。
【0017】
このような方法によれば、シリコンウェーハに対し静電容量方式の厚さ測定を行う直前に、水素原子を含む洗浄剤により洗浄を行う。これによりウェーハ中に水素原子が拡散、浸透し、シリコンウェーハ中のボロンを不活性化する。その結果、シリコンウェーハは、一時的に洗浄前よりも抵抗率の低いn型のシリコンウェーハに変化し、精度よい厚さ測定、及び平坦度測定が可能となる。
【0018】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法は、前記いずれかに記載の高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法を用いた高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法であって、前記シリコンウェーハの全面に対し静電容量センサを走査し、シリコンウェーハの厚さ分布を取得することに特徴を有する。
このような方法によれば、高抵抗シリコンウェーハの平坦度を精度良く測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、静電容量方式の厚さ測定装置により高抵抗シリコンウェーハの厚さを精度良く測定し、その結果に基づきウェーハの平坦度を測定することのできる高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の測定方法に用いることができる静電容量式の平坦度測定装置のブロック図である。
図2図2は、本発明に係るシリコンウェーハの平坦度測定方法が適用されるシリコンウェーハの製造工程例を示すフローである。
図3図3は、本発明の実施例の実験1の結果を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例の実験2、3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び平坦度測定方法について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明の測定方法に用いることができる静電容量式の平坦度測定装置のブロック図である。この平坦度測定装置1は、支持部材8により支持されたシリコンウェーハWの面の上下に配置される一対の静電容量センサ2、3と、静電容量センサ2、3をウェーハ面に沿ってスキャン移動させるための移動機構4と、静電容量センサ2、3から得られた測定値を用いて、測定ポイントのウェーハ厚さを演算し、ウェーハ全体の平坦度を測定するコンピュータ5とを備える。支持部材8と静電容量センサ2、3とは、導通線6、7によりそれぞれ接続されている。
【0022】
静電容量センサ2は、センサ先端とシリコンウェーハWの上面との距離d1を測定し、静電容量センサ3は、センサ先端とシリコンウェーハWの下面との距離d2を測定する。即ち、静電容量センサ2、3は、センサ面とウェーハ面との間に形成される静電容量の変化を二面間の距離として測定する。
コンピュータ5は、静電容量センサ2と静電容量センサ3の先端同士の距離d3を用い、ウェーハ厚さtを演算式t=d3-(d1+d2)により求める。これを移動機構4により静電容量センサ2、3をウェーハ全体にスキャン(走査)しながら厚さ分布を取得し、シリコンウェーハの平坦度を求める。
【0023】
本発明に係る実施形態にあっては、この平坦度測定装置1による厚さ測定、平坦度測定の前段階の工程にて、水素原子を含む洗浄液によりシリコンウェーハを洗浄し、シリコンウェーハWの電気的性質を一時的に変化させることに特徴を有する。
また、本発明に係る高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法は、シリコンウェーハの製造過程において実施することができ、上記したシリコンウェーハの洗浄工程と、平坦度測定装置1による測定は、そのウェーハ製造過程で用いられる。
以下、本発明の平坦度測定方法を実施可能なシリコンウェーハの製造工程について説明する。図2は、本発明に係るシリコンウェーハの平坦度測定方法が適用されるシリコンウェーハの製造工程例を示すフローである。
【0024】
本発明のシリコンウェーハの平坦度測定の対象となるのは、抵抗が例えば10000Ωcm以上の高抵抗シリコンウェーハである。このようなシリコンウェーハは、例えば次のようにして製造される。
先ず、チョクラルスキー法によって抵抗が10000Ωcm以上の高抵抗のシリコン単結晶を製造する(図2のステップS1)。
のシリコン単結晶の製造においては、極微量のドーパントとして、例えば、リンとボロン、ヒ素とボロン等、n型不純物(n型ドーパント)とボロンとを同時に用いる。尚、n型不純物とボロンの各ドーパント量は、製造するシリコンウェーハの抵抗率の目標値、及びn型半導体とするかp型半導体とするかの設計に従って決定すればよい。
具体的なドーパントの添加方法としては、例えば最初に合成石英ガラス性のルツボに原料ポリシリコン(例えば150kg)と極微量のボロンを含むドーパント添加用シリコンチップとを装填し、シリコン溶融液を形成する。
【0025】
ルツボにシリコン溶融液を形成した後は、単結晶引上工程として、結晶径が徐々に拡径されて肩部が形成され、製品部分となる直胴部が形成される。
ここで、直胴部の形成において、シリコン溶融液の減少とともに融液中のボロンドーパント濃度が上昇する。そのままだと、単結晶中の抵抗率も引き上げ方向に不均一となるため、育成中の単結晶の抵抗率を見ながら、ボロンと反対の導電型をもたらすn型不純物を溶融液に追加投入しつつ引き上げを行う。即ち、ボロンの増加によるキャリアの増加は、n型不純物により補償され、引き上げ方向における抵抗率の変動が緩和される。
尚、育成されるシリコン単結晶の抵抗率は、引上途中において単結晶の径と結晶長さとを測定し、測定された単結晶径及び結晶長さから、単結晶重量/初期シリコン原料の重量で表される固化率が求められ、結晶の抵抗率が推定される。
【0026】
製品となる直胴部の形成後は、結晶径が徐々に縮径されて、結晶下端とシリコン溶融液との接触面積が徐々に小さくされ(テール部の形成)、結晶下端とシリコン溶融液とが切り離されてシリコン単結晶が製造される。
【0027】
このようにして製造されたシリコン単結晶は、直胴部を切り出し、スライス加工により複数のシリコンウェーハを得る(図2のステップS2)。
得られたシリコンウェーハは、ダイアモンド砥石を用いて外周の面取り(ベベル加工)を行い、端面を例えば断面円弧状に形成する(図2のステップS3)。
次いで、回転する上下のラップ盤の間で、シリコンウェーハを配置したキャリアを回転させ、砥粒を供給しながら両面研磨するラップ加工を行う(図2のステップS4)。
ラップ加工後、酸を混合したエッチング液中に複数のシリコンウェーハを配置した治具をウェーハ軸周りに回転させながらエッチングし、前工程の機械加工による破壊層を除去する(図2のステップS5)。
【0028】
次にシリコンウェーハを拡散炉内に配置し、結晶育成中に生成した酸素起因の不安定なドナーを熱処理により分解し、本来の抵抗率に戻す処理を行う(図2のステップS6)。
また、研磨布を貼った回転定盤に、シリコンウェーハを接着したプレートを押し付け、研磨剤を供給しながら、機械・化学複合作用による研磨をウェーハ表面が鏡面になるまで行うポリッシングを施す(図2のステップS7)。
【0029】
ポリッシング終了後、水素原子を含む洗浄液でシリコンウェーハを洗浄する(図2のステップS8)。具体的には、SC-1溶液(水5に対して過酸化水素1、水酸化アンモニウム1の溶液)、希フッ酸水、SH溶液(硫酸、過酸化水素の溶液)のうち、いずれか、或いは複数の洗浄液を用いて順に洗浄を行う。それら各洗浄液での洗浄後は、純水による洗浄をその都度行う。尚、SC-1溶液の場合、65℃の液温度下で10分浸漬する。希フッ酸水の場合、室温と同じ液温度下で5分浸漬する。また、SH溶液の場合、110℃の液温度下で7分間浸漬する。
この洗浄工程の間、ボロンがドープされたシリコンウェーハにおいて、洗浄溶液に含まれる水素原子がウェーハ内部に拡散し浸透する。そして、ウェーハ中に浸透した水素原子によって、ボロンによるアクセプタの電気的活性が失われ不活性化する。ボロンが不活性化することにより、シリコンウェーハは一時的にn型不純物が洗浄前よりもドーパントとしてより機能するn型のシリコンウェーハとなり、洗浄前よりも抵抗率が低下する。具体的には一時的に2000Ωcm以下に低下する。
【0030】
ステップS8の洗浄工程から16時間を超えると、ウェーハ中の水素原子が常温大気中に外方拡散し、ウェーハ中のボロンが活性化してシリコンウェーハの抵抗率が再び10000Ωcm以上となる虞がある。そのため、洗浄後16時間以内に平坦度測定装置1による各シリコンウェーハの厚さ測定、平坦度測定を行う(図2のステップS9)。
【0031】
ここで、シリコンウェーハは洗浄前よりも抵抗率が2000Ωcm以下に低下したn型のウェーハに一時的に変化しているため、静電容量センサ2、3とウェーハ面との間の静電容量を正確に測定することができ、抵抗の影響の小さい精度よい厚さ測定、平坦度測定を行うことができる。
尚、上記のようにステップS8の洗浄工程から16時間を過ぎた場合、水素が外方拡散してシリコンウェーハ中のボロンが再び活性化し、抵抗値が高くなるが、その場合は、再度、ステップS8の洗浄を行うことでシリコンウェーハ中のボロンを不活性化し、抵抗値を一時的に2000Ωcm以下として精度良い測定が可能となる。
【0032】
以上のように、本発明に係る実施の形態によれば、シリコンウェーハに対し静電容量方式の厚さ測定を行う直前に、水素原子を含む洗浄剤により洗浄を行う。これによりウェーハ中に水素原子が拡散、浸透し、シリコンウェーハ中のボロンを不活性化する。その結果、シリコンウェーハは、一時的に洗浄前よりも抵抗率の低いn型のシリコンウェーハに変化し、精度よい厚さ測定、及び平坦度測定が可能となる。
【0033】
尚、前記実施の形態においては、図2のステップS8において、水素原子を含む洗浄剤によりシリコンウェーハを洗浄するものとしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、ステップS8の洗浄工程に替えて、アルカリ性または酸性の化学溶液を用いてウェットエッチングする工程を実施してもよい。例えば、酸エッチングの場合は、40℃の液温度下で4分間浸漬する。この場合もウェーハ中に水素原子が拡散、浸透し、シリコンウェーハ中のボロンを不活性化することができる。
【0034】
或いは、ステップS9の厚さ測定、平坦度測定の前に、450℃程度の低温でシリコンウェーハを熱処理して、ウェーハ中にサーマルドナー(酸素ドナー)を形成し、シリコンウェーハを一時的にn型シリコンウェーハとして抵抗率を低下させ、その状態でステップS9の厚さ測定、平坦度測定を行ってもよい。
この場合、ステップS9の測定工程の後、シリコンウェーハに対し650℃程度の熱処理を施し、ウェーハ中のサーマルドナーを消滅させて、ウェーハの抵抗率を再び10000Ωcm以上に戻してもよい。また、この場合、洗浄後16時間以内の測定という限定はなくなるが、複数回の熱処理作業が必要となるので、場合に応じて、適宜手法を変えて平坦度測定をおこなうとよい。
【0035】
また、前記実施の形態においては、抵抗率が10000Ωcm以上のシリコンウェーハの厚さ、平坦度を測定する場合を例に説明したが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。例えば、抵抗率が2000Ωcmを超えるシリコンウェーハの厚さ測定、平坦度測定にも適用することができる。
【0036】
また、前記実施の形態において、本発明の厚さ測定、及び平坦度測定の対象となるシリコンウェーハの電気的特性、即ち、ステップS8の洗浄前のシリコンウェーハの電気的特性はp型であっても、n型であってもよく、いずれの型にも本発明を適用することができる。
【実施例0037】
本発明に係る高抵抗シリコンウェーハの厚さ測定方法及び高抵抗シリコンウェーハの平坦度測定方法について、実施例に基づきさらに説明する。
【0038】
(実験1)
実験1では、本発明の実施形態に基づき、抵抗率が10000Ωcmのシリコンウェーハを製造し、図1の平坦度測定装置1を用いてウェーハ中心点における厚さ測定を行った。
【0039】
(実施例1)
実施例1では、図2のステップS8において厚さ732μmのシリコンウェーハを室温と同じ温度下の希フッ酸溶液に5分間浸漬して洗浄後、14時間経過した時点で、図1の平坦度測定装置1を用いてシリコンウェーハの中心点の厚さ測定を実施した。
また、厚さ測定時点のシリコンウェーハの抵抗率を測定した。同じシリコンウェーハに対し、10回の厚さ測定を繰り返し実施した。
【0040】
(比較例1)
比較例1では、732μmのシリコンウェーハに対し、図2のステップS8の洗浄を行う前に、図1の平坦度測定装置1を用いてシリコンウェーハの中心点の厚さ測定を実施した。
また、厚さ測定時点のシリコンウェーハの抵抗率を測定した。同じシリコンウェーハに対し、10回の厚さ測定を繰り返し実施した。
【0041】
(比較例2)
比較例2では、図2のステップS8において厚さ732μmのシリコンウェーハを室温と同じ温度下の希フッ酸溶液に5分間浸漬して洗浄後、62時間経過した時点で、図1の平坦度測定装置1を用いてシリコンウェーハの中心点の厚さ測定を実施した。
また、厚さ測定時点のシリコンウェーハの抵抗率を測定した。同じシリコンウェーハに対し、10回の厚さ測定を繰り返し実施した。
【0042】
実施例1、及び比較例1、2の結果を表1に示す。また、図3のグラフに実施例1、及び比較例1、2の厚さ測定の結果を箱ひげ図で示す。図3のグラフにおいて縦軸は測定したウェーハ厚さ(μm)である。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1、即ち洗浄後14時間以内の厚さ測定では、真値に近い測定結果が得られ、ばらつきも小さいものとなった。また、このときの抵抗値は2000Ωcmであり、抵抗値が2000Ωcm以下であれば、正しい厚さ測定が可能であると推定できた。
一方、比較例1、2、即ち洗浄前、及び洗浄後62時間を経過すると、真値から離れた値となりばらつきが大きくなった。
【0045】
(実験2)
実験2では、抵抗率10000Ωcmのシリコンウェーハに対し、水素原子を含む洗浄液による洗浄を行った後のウェーハ抵抗率を測定し、時間経過に伴う変化について検証した。
図4のグラフに実験2の結果を示す。図4のグラフにおいて縦軸は抵抗率(Ωcm)、横軸は洗浄後経過時間(h)である。実験2における抵抗率の変化は実線で示している。
【0046】
(実験3)
実験3では、抵抗率2100Ωcmのシリコンウェーハに対し、水素原子を含む洗浄液による洗浄を行った後のウェーハ抵抗率を測定し、時間経過に伴う変化について検証した。
図4のグラフに実験3の結果を示す。図4のグラフにおいて縦軸は抵抗率(Ωcm)、横軸は洗浄後経過時間(h)である。実験3における抵抗率の変化は破線で示している。
【0047】
図4のグラフに示すように、10000Ωcmのシリコンウェーハの場合、洗浄後30時間までは抵抗率は2000Ωcmとなり、厚さ測定を精度良く行うことができることを確認した。
一方、2100Ωcmのシリコンウェーハの場合、洗浄後20時間までは2000Ωcmとなり、厚さ測定を精度良く行うことができることを確認した。
実験2、3の結果から、精度良く厚さ測定可能な洗浄後経過時間は、マージンをとって洗浄後16時間とした。
以上の実施例の結果、本発明によれば、精度よくシリコンウェーハの厚さを測定することができると確認した。
【符号の説明】
【0048】
1 平坦度測定装置
2 静電容量センサ
3 静電容量センサ
4 移動機構
5 コンピュータ
6 導通線
7 導通線
8 支持部材
W シリコンウェーハ
図1
図2
図3
図4