(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009410
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】膜厚測定方法、膜厚測定装置、および成膜システム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
G01B11/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112655
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】小野 一修
(72)【発明者】
【氏名】中村 貫人
(72)【発明者】
【氏名】北田 亨
(72)【発明者】
【氏名】五味 淳
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB01
2F065BB22
2F065CC19
2F065DD03
2F065DD06
2F065FF52
2F065GG04
2F065GG23
2F065HH03
2F065HH12
2F065PP12
(57)【要約】
【課題】多層膜を成膜する成膜システムにおいて多層膜中の特定の膜の膜厚を、in-situで、短時間および高精度で測定することができる膜厚測定方法、膜厚測定装置、および成膜システムを提供する。
【解決手段】基板に多層膜を形成する成膜システムにおいて、in-situで多層膜のうち特定の測定対象膜の膜厚を測定する膜厚測定方法は、測定対象膜よりも下層に位置する複数の膜を、一層の下層膜とみなして、下層膜の膜厚を測定するとともに、分光干渉法により下層膜の光学定数を導出することと、測定対象膜を成膜後、下層膜の膜厚および光学定数を用いて分光干渉法により測定対象膜の膜厚を導出することとを有する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に多層膜を形成する成膜システムにおいて、in-situで前記多層膜のうち特定の測定対象膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
前記測定対象膜よりも下層に位置する複数の膜を、一層の下層膜とみなして、前記下層膜の膜厚を測定するとともに、分光干渉法により前記下層膜の光学定数を導出することと、
前記測定対象膜を成膜後、前記下層膜の膜厚および光学定数を用いて分光干渉法により前記測定対象膜の膜厚を導出することと、
を有する、膜厚測定方法。
【請求項2】
前記分光干渉法に用いる測定光は、波長が200~800nmの可視光域のブロード光である、請求項1に記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記多層膜は金属膜を含む、請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記多層膜の各膜の膜厚は0.1~10nmである、請求項3に記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
前記下層膜の膜厚は、分光干渉法により前記下層膜の光学定数を導出する際に併せて導出される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項6】
前記下層膜の膜厚として、前記下層膜を構成する膜を成膜する際の成膜レートから得られた値、または予め測定しておいた固定値を用いる、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の膜厚測定方法。
【請求項7】
基板に膜を形成する処理モジュールと、前記処理モジュールに基板を搬送する搬送モジュールとを有し、多層膜を成膜する成膜システムにおいて、前記多層膜のうち特定の測定対象膜の膜厚をin-situで測定する膜厚測定装置であって、
前記基板を載置するステージと、
前記ステージ上の前記基板に向けて膜厚測定用の測定光を射出する光射出部および前記測定光が前記基板で反射した反射光を受光する受光センサとを有する測定光射出/検出ユニットと、
前記測定光の前記基板上での照射点を移動させる移動機構と、
制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記測定対象膜よりも下層に位置する複数の膜が成膜された後の前記基板を前記ステージ上に載置し、前記複数の膜を一層の下層膜とみなして、前記下層膜の膜厚を測定するとともに、分光干渉法により前記下層膜の光学定数を導出することと、
前記測定対象膜が成膜された後の前記基板を前記ステージ上に載置し、前記下層膜の膜厚および光学定数を用いて分光干渉法により前記測定対象膜の膜厚を導出することと、
を実行させる、膜厚測定装置。
【請求項8】
前記分光干渉法に用いる測定光は、波長が200~800nmの可視光域のブロード光である、請求項7に記載の膜厚測定装置。
【請求項9】
前記多層膜は金属膜を含む、請求項8に記載の膜厚測定装置。
【請求項10】
前記多層膜の各膜の膜厚は0.1~10nmである、請求項9に記載の膜厚測定装置。
【請求項11】
前記制御部は、分光干渉法により前記下層膜の光学定数を導出する際に併せて前記下層膜の膜厚を導出する、請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記下層膜の膜厚として、前記下層膜を構成する膜を成膜する際の成膜レートから得られた値、または予め測定しておいた固定値を用いる、請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の膜厚測定装置。
【請求項13】
基板に多層膜を形成する複数の処理モジュールと、
前記処理モジュールに基板を搬送する搬送モジュールと、
前記多層膜のうち特定の測定対象膜の膜厚をin-situで測定する膜厚測定装置と、
制御部と、
を有し、
前記膜厚測定装置は、
前記基板を載置するステージと、
前記ステージ上の前記基板に向けて膜厚測定用の測定光を射出する光射出部および前記測定光が前記基板で反射した反射光を受光する受光センサとを有する測定光射出/検出ユニットと、
前記測定光の前記基板上での照射点を移動させる移動機構と、
を有し、
前記制御部は、
前記処理モジュールで前記測定対象膜よりも下層に位置する、金属膜を含む複数の膜を成膜することと、
前記複数の膜が成膜された後の前記基板を、前記膜厚測定装置の前記ステージ上に載置することと、
前記複数の膜を一層の下層膜とみなして、前記下層膜の膜厚を測定するとともに、分光干渉法により前記下層膜の光学定数を導出することと、
前記基板に前記処理モジュールにより前記測定対象膜を成膜させることと、
測定対象膜が成膜された後の前記基板を前記膜厚測定装置の前記ステージ上に載置し、前記下層膜の膜厚および光学定数を用いて分光干渉法により前記測定対象膜の膜厚を導出することと、
を実行させる、成膜システム。
【請求項14】
前記分光干渉法に用いる測定光は、波長が200~800nmの可視光域のブロード光である、請求項13に記載の成膜システム。
【請求項15】
前記多層膜は金属膜を含む、請求項14に記載の成膜システム。
【請求項16】
前記多層膜の各膜の膜厚は0.1~10nmである、請求項15に記載の成膜システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜厚測定方法、膜厚測定装置、および成膜システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)のようなデバイスは、極めて薄い膜を多数積層して製造される。このような積層膜を成膜するシステムとしては、複数の処理モジュールを真空搬送室に接続して各膜を順次成膜するものが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
一方、成膜した膜が所望の膜厚を有しているか否かを確認することが求められており、特許文献2、3には、成膜した膜をin-situで測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6160614号公報
【特許文献2】特開平5-149720号公報
【特許文献3】特開平11-330185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、多層膜を成膜する成膜システムにおいて多層膜中の特定の膜の膜厚を、in-situで、短時間および高精度で測定することができる膜厚測定方法、膜厚測定装置、および成膜システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る膜厚測定装置は、基板に多層膜を形成する成膜システムにおいて、in-situで前記多層膜のうち特定の測定対象膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、前記測定対象膜よりも下層に位置する複数の膜を、一層の下層膜とみなして、前記下層膜の膜厚を測定するとともに、分光干渉法により前記下層膜の光学定数を導出することと、前記測定対象膜を成膜後、前記下層膜の膜厚および光学定数を用いて分光干渉法により前記測定対象膜の膜厚を導出することと、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、多層膜を成膜する成膜システムにおいて多層膜中の特定の膜の膜厚を、in-situで、短時間および高精度で測定することができる膜厚測定方法、膜厚測定装置、および成膜システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】膜厚測定装置を備えた成膜システムの一例を模式的に示す平面図である。
【
図3】膜厚測定位置において実際に膜厚測定を行う手順を説明する図である。
【
図4】多層膜として用いられるMTJ素子の具体的な構成例を示す断面図である。
【
図5】試料に光が入射したときの電磁波の状態を説明する図である。
【
図6】薄膜における光学干渉を説明するための図である。
【
図7】薄膜における多重反射干渉を説明するための図である。
【
図9】トランスファー・マトリクスのモデルを説明するための薄膜に入射する光の透過と反射の状態を示す図である。
【
図10】Johnsonらにより測定されたFeの光学定数の波長依存性を示す図である。
【
図11】多層膜が
図4のMTJ素子の場合の計算モデルの一例を示す断面図である。
【
図12】膜厚測定方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図13】成膜システムにおける成膜および膜厚測定の具体的フローを示すフローチャートである。
【
図14】下層膜を構成する複数の金属膜を成膜した後の基板を示す断面図である。
【
図15】下層膜の上に誘電体膜および測定対象膜である磁性膜を成膜した後の3枚のウェーハ試料において分光干渉法によるフィッティングによりin-situで膜厚を導出した際の膜厚分布形状(マップ)と、平均膜厚および変動係数(CV)を示す図である。
【
図16】下層膜の上に誘電体膜および測定対象膜である磁性膜を成膜した後の3枚のウェーハ試料において、XRFによりex-situで膜厚を測定した際のXRF強度分布形状(マップ)と、XRF強度の平均値および変動係数(CV)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態について具体的に説明する。
【0010】
<成膜システム>
図1は膜厚測定装置を備えた成膜システムの一例を模式的に示す平面図である。
【0011】
成膜システム1は、磁性膜の成膜を含む複数の処理を施す処理部2と、複数の基板を保持し、処理部2に対し基板を搬出入する搬出入部3と、制御部4とを有する。基板は特に限定されないが、例えば半導体ウェーハ(以下単にウェーハと記す)である。
【0012】
処理部2は、基板Wに対して成膜処理等を行う複数(本例では8個)の処理モジュールPM1~PM8と、これら複数の処理モジュールPM1~PM8に対して基板Wを順次搬送する複数の搬送モジュールTM1~TM4を有する搬送部12と、成膜した膜の膜厚を測定する膜厚測定装置35とを有する。
【0013】
処理モジュールPM1~PM8は、主に基板Wに対してスパッタリング等の成膜処理を行うモジュールであり、各処理モジュールで成膜処理を行って基板W上に多層膜を形成する。一つの処理モジュールで複数の膜を成膜してもよい。例えば、スパッタリングで成膜する場合には、処理モジュールに複数のターゲットを設けることにより複数の膜を成膜することができる。処理モジュールPM1~PM8のいくつかは、成膜以外の処理、例えば洗浄処理や前処理、冷却処理等を行うものであってもよい。処理モジュールPM1~PM8においては、真空中での処理が行われる。なお、ここでは処理モジュールが8個の例を示すが、これに限らず多層膜の積層数に応じて必要な数に設定すればよい。
【0014】
搬送モジュールTM1~TM4は、それぞれ真空に保持される平面形状が六角状の容器30a、30b、30c、30dと、各容器内に設けられた搬送機構31a、31b、31c、31dとを有する。搬送モジュールTM1~TM4の搬送機構の間には、それぞれ搬送バッファとしての受け渡し部41、42、43が設けられている。搬送モジュールTM1~TM4の容器30a、30b、30c、30dは連通している。
【0015】
搬送部12は、複数の搬送モジュールTM1~TM4が図中Y方向に一列に配列されてなり、8つの処理モジュールPM1~PM8は、開閉可能なゲートバルブGを介して搬送部12の両側に4個ずつ接続されている。処理モジュールPM1~PM8のゲートバルブGは、処理モジュールに搬送モジュールの搬送機構がアクセスする際には開かれ、処理を行っている際には閉じられる。また、搬送部12の容器30dの先端部には、膜厚測定装置35がゲートバルブG3を介して接続されている。
【0016】
搬出入部3は、処理部2の一端側に接続されている。搬出入部3は、大気搬送室(EFEM)21と、大気搬送室21に接続された、3つのロードポート22、アライナーモジュール23、ならびに2つのロードロックモジュールLLM1およびLLM2と、大気搬送室21内に設けられた搬送装置24とを有する。
【0017】
大気搬送室21は、図中X方向を長手方向とする直方体状をなしている。3つのロードポート22は、大気搬送室21の処理部2とは反対側の長辺壁部に設けられている。各ロードポート22は載置台25と搬送口26とを有し、載置台25に複数の基板を収容する容器であるFOUP20が載置され、載置台25上のFOUP20は、搬送口26を介して大気搬送室21に密閉した状態で接続される。
【0018】
アライナーモジュール23は、大気搬送室21の一方の短辺壁部に接続されている。アライナーモジュール23において、基板Wのアライメントが行われる。
【0019】
2つのロードロックモジュールLLM1およびLLM2は、大気圧である大気搬送室21と真空雰囲気である搬送部12との間で基板Wの搬送を可能にするためのものであり、大気圧と搬送部12と同程度の真空との間で圧力可変となっている。2つのロードロックモジュールLLM1およびLLM2は、それぞれ2つの搬送口を有しており、一方の搬送口が大気搬送室21の処理部2側の長辺壁部にゲートバルブG2を介して接続され、他方の搬送口がゲートバルブG1を介して処理部2における搬送部12の容器30aに接続されている。
【0020】
ロードロックモジュールLLM1は基板Wを搬出入部3から処理部2に搬送する際に用いられ、ロードロックモジュールLLM2は基板Wを処理部2から搬出入部3に搬送する際に用いられる。なお、ロードロックモジュールLLM1およびLLM2で、デガス処理等の処理を行うようにしてもよい。
【0021】
大気搬送室21内の搬送装置24は、多関節構造を有しており、ロードポート22上のFOUP20、ロードロックモジュールLLM1およびLLM2に対する基板Wの搬送を行う。具体的には、搬送装置24は、ロードポート22のFOUP20から未処理の基板Wを取り出し、ロードロックモジュールLLM1へ基板Wを搬送する。また、搬送装置24は、処理部2からロードロックモジュールLLM2に搬送された処理後の基板Wを受け取り、ロードポート22のFOUP20へ基板Wを搬送する。なお、
図1では、搬送装置24の基板Wを受け取るピックが1本の例を示しているが、ピックが2本であってもよい。
【0022】
上記処理部2においては、搬送部12の一方側に、ロードロックモジュールLLM1側から順に、処理モジュールPM1、PM3、PM5、PM7が配置され、搬送部12の他方側に、ロードロックモジュールLLM2側から順に、処理モジュールPM2、PM4、PM6、PM8が配置されている。また、搬送部12においては、ロードロックモジュールLLM1およびLLM2側から順に搬送モジュールTM1、TM2、TM3、TM4が配置されている。
【0023】
搬送モジュールTM1の搬送機構31aは、ロードロックモジュールLLM1およびLLM2、処理モジュールPM1およびPM2、受け渡し部41にアクセス可能である。搬送モジュールTM2の搬送機構31bは、処理モジュールPM1、PM2、PM3、およびPM4、ならびに受け渡し部41および42にアクセス可能である。搬送モジュールTM3の搬送機構31cは、処理モジュールPM3、PM4、PM5、およびPM6、ならびに受け渡し部42および43にアクセス可能である。搬送モジュールTM4の搬送機構31dは、処理モジュールPM5、PM6、PM7、およびPM8、受け渡し部43、ならびに膜厚測定装置35にアクセス可能である。
【0024】
膜厚測定装置35は、ある処理モジュールで成膜された膜の膜厚をin-situで測定するものである。なお、膜厚測定装置35の位置は本例の位置に限らない。また、膜厚測定装置35の数は複数であってもよい。膜厚測定装置35の詳細については後述する。
【0025】
搬送装置24、および搬送部12の搬送モジュールTM1~TM4がこのように構成されていることにより、FOUP20から取り出された基板Wは、処理部2において、処理モジュールPM1、PM3、PM5、PM7、PM8、PM6、PM4、PM2の順に略U字状の経路に沿って一方向にシリアルに搬送されて各処理モジュールで処理され、FOUP20に戻される。
【0026】
制御部4は、成膜システム1の各構成部、例えば、搬送モジュールTM1~TM4(搬送機構31a~31d)、および搬送装置24、処理モジュールPM1~PM8、ロードロックモジュールLLM1およびLLM2、搬送部12、ゲートバルブG、G1、G2、G3、膜厚測定装置35等を制御する。制御部4は、コンピュータからなっており、CPUを有する主制御部と、入力装置と、出力装置と、表示装置と、記憶装置とを備えている。記憶装置には、処理レシピが記憶された記憶媒体が設けられている。主制御部は、記憶媒体から呼び出された処理レシピに基づいて成膜システム1に所定の動作を実行させる。主制御部は、また、後述するように、膜厚を測定する測定対象膜の下層に存在する、金属膜を含む複数の膜を1層の下層膜とみなした計算モデルを用い、下層膜の光学定数を算出し、その光学定数を用いた計算モデルにて測定対象膜の膜厚を算出する。
【0027】
このように構成される成膜システム1においては、まず、搬送装置24によりロードポート22上のFOUP20から基板Wが取り出され、アライナーモジュール23に搬送される。アライナーモジュール23で基板Wがアライメントされた後、基板Wは搬送装置24により取り出され、ロードロックモジュールLLM1に搬送される。このときロードロックモジュールLLM1は大気圧であり、基板Wを受け取った後、真空排気される。
【0028】
その後、搬送部12における搬送モジュールTM1の搬送機構31aにより、基板WがロードロックモジュールLLM1内から取り出される。取り出された基板Wは、搬送機構31aにより処理モジュールPM1に搬送され、処理モジュールPM1で予め定められた処理が施される。
【0029】
処理モジュールPM1での処理が終了後、処理モジュールPM1の搬出側のゲートバルブGを開き、搬送モジュールTM2の搬送機構31bにより基板Wを搬出する。搬出された基板Wは、搬送機構31bにより処理モジュールPM3に搬送され、処理モジュールPM3で予め定められた処理が施される。
【0030】
処理モジュールPM3での処理が終了後、処理モジュールPM3の搬出側のゲートバルブGを開き、搬送モジュールTM3の搬送機構31cにより基板Wを搬出する。搬出された基板Wは、搬送機構31cにより処理モジュールPM5に搬送され、処理モジュールPM5で予め定められた処理が施される。
【0031】
処理モジュールPM5での処理が終了後、処理モジュールPM5の搬出側のゲートバルブGを開き、搬送モジュールTM4の搬送機構31dにより基板Wを搬出する。搬出された基板Wは、搬送機構31dにより処理モジュールPM7に搬送され、処理モジュールPM7で予め定められた処理が施される。
【0032】
処理モジュールPM7での処理が終了後、処理モジュールPM7のゲートバルブGを開き、搬送モジュールTM4の搬送機構31dにより基板Wを搬出する。搬出された基板Wは、搬送機構31dにより処理モジュールPM8に搬送され、処理モジュールPM8で予め定められた処理が施される。
【0033】
その後、基板Wは、搬送モジュールTM3、TM2、TM1の搬送機構31c、31b、31aにより、順次、処理モジュールPM6、PM4、PM2に搬送され、これらにおいて予め定められた処理が行われる。
【0034】
処理モジュールPM2での処理が終了した後、基板Wは、搬送機構31aによりロードロックモジュールLLM2に搬送される。このときロードロックモジュールLLM2は真空であり、基板Wを受け取った後、大気開放される。その後、ロードロックモジュールLLM2内の基板Wは、搬送装置24によりロードポート22のFOUP20内に搬送される。
【0035】
以上により、基板Wを複数の処理モジュールに対し順次シリアルにU字状に搬送して一連の成膜処理を行い、多層膜を形成することができる。
【0036】
このような多層膜の成膜処理の過程で、膜厚測定装置35により、後述するように、in-situで特定の測定対象膜の膜厚測定を行う。
【0037】
<膜厚測定装置>
次に、膜厚測定装置について詳細に説明する。
図2は、膜厚測定装置の一例を示す断面図である。
図2に示すように、本例の膜厚測定装置35は、チャンバー101を有している。チャンバー101内には、基板Wが載置され回転および昇降可能なステージ102が設けられている。ステージ102の底面の中央には軸103が接続されている。軸103はチャンバー101の底壁101cに形成された貫通孔108を通ってチャンバー101の下方に延びており、回転機構104に接続されている。回転機構104により軸103を介してステージ102が回転されるようになっている。回転機構104は、モータとモータに接続されたアブソリュートエンコーダを有する。アブソリュートエンコーダはステージ102の向きを検出する向き検出部として機能し、アブソリュートエンコーダの検出結果に基づいて、制御部4によりステージ102の向きが制御される。また、回転機構104は昇降板105に取り付けられており、昇降板105には昇降機構106が接続されている。昇降機構106は、例えば圧電アクチュエータで構成され、昇降板105および軸103を介してステージ102の高さ位置を微調整可能となっている。底壁101cと昇降板105の間には、軸103を取り囲むように伸縮可能なベローズ107が気密に設けられている。
【0038】
チャンバー101の底壁101cには、排気口110が形成されており、排気口110には排気管111が接続されており、排気管111には、圧力制御バルブや真空ポンプを有する排気機構112が接続されている。排気機構112を作動させることにより、チャンバー101内が所望の真空状態にされる。
【0039】
チャンバー101の側壁101aには基板搬入出口113が設けられており基板搬入出口113は、上述したゲートバルブG3により開閉可能となっている。
【0040】
チャンバー101の天壁(リッド)101bには、基板Wの径方向に延びる細長い透孔114が形成されている。透孔114は後述する膜厚測定用の光および距離測定用のレーザーが透過する例えば石英製の透光部材130により覆われている。透光部材130と天壁101bとの間は、シールリング131で密閉されている。
【0041】
ステージ102の上面には凹部121が形成されており、凹部121内にはリファレンス部材120が配置されている。リファレンス部材120は、基板Wのベース部(基体)と同じ材料、例えば基板Wがシリコンウェーハの場合はシリコンで構成されており、光源の出力光量の測定に用いられる。また、膜厚測定の基準としても用いられる。また、ステージ102には、基板搬送用の昇降ピン(図示せず)がステージ102の表面に対して突没可能に設けられている。なお、ステージ102には、基板Wに対して加熱処理を行うヒーターが設けられていてもよい。
【0042】
チャンバー101の透孔114に対応する位置の上方の大気雰囲気領域には、光射出・受光アッセンブリ140が設けられている。光射出・受光アッセンブリ140は、本体部141と、測定光射出/検出ユニット142と、距離測定用レーザー射出/検出ユニット143とを有する。測定光射出/検出ユニット142と距離測定用レーザー射出/検出ユニット143は隣接した状態で、本体部141に取り付けられている。チャンバー101の上方には、本体部141をガイドするリニアガイド133が支持部材134でチャンバー101の天壁101bに支持された状態で水平に配置されている。
【0043】
本体部141は、リニアガイド133にガイドされるスライダーとして構成され、本体部141は駆動モータ144により駆動される。これにより、測定光射出/検出ユニット142および距離測定用レーザー射出/検出ユニット143を有する光射出・受光アッセンブリ140全体がリニアガイド133に沿って水平に走査されるように構成されている。そして、測定光射出/検出ユニット142から射出される光および距離測定用レーザー射出/検出ユニット143から射出されるレーザー光は、透光部材130および透孔114を介して基板W上に照射され、照射点は径方向(R方向)に走査可能となっている。また、回転機構104によりステージ102上の基板Wが回転することにより、測定光射出/検出ユニット142から射出される光および距離測定用レーザー射出/検出ユニット143から射出されるレーザー光の照射点は、基板W上で周方向(Θ方向)に走査可能となっている。すなわち、駆動モータ144および回転機構104は、測定光射出/検出ユニット142から射出される光および距離測定用レーザー射出/検出ユニット143から射出されるレーザー光の基板上での照射点を移動させる移動機構として機能する。
【0044】
測定光射出/検出ユニット142は、膜厚測定用の光L1を基板Wに向けて射出する光射出部と、射出された光の反射光を検出する受光センサとを有する。光射出部には、光源部145から光ファイバー146を介して光が導かれる。光源部145は、光源、光源からの光を増幅するアンプ、光学系、センサ等を有する。光源としては、波長が200~800nmの可視光域の短波長ブロード光を発光するランプ光源を用いることができる。このような光源を用いて基板Wの反射光スペクトルを測定する。このような短波長ブロード光を用いることにより、分光干渉法により0.1~10nm、さらには0.3~3nmという極薄膜の膜厚測定を行うことができる。
【0045】
受光センサは、光射出部から射出されて基板Wで反射した反射光を受光する。受光センサで検出された検出信号は膜厚計測部147に送られ、基板W上の膜の膜厚が計測される。測定光射出/検出ユニット142、光源部145、光ファイバー146、および、膜厚計測部147により、膜厚測定部が構成される。
【0046】
距離測定用レーザー射出/検出ユニット143は、距離測定用のレーザーL2を下方(ステージ102)に向けて射出するレーザー射出部と、レーザーの反射光を受光する距離測定用受光センサとを有する。レーザー射出部には、レーザー光源部148から光ファイバー149を介してレーザー光が導かれる。距離測定用受光センサで検出された検出信号は距離計測部150に送られ、測定光射出/検出ユニット142の受光センサと基板Wとの距離dが計測される。距離測定用レーザー射出/検出ユニット143、レーザー光源部148、光ファイバー149、および、距離計測部150により、レーザー距離計が構成される。
【0047】
チャンバー101の上方には、光射出・受光アッセンブリ140を冷却するための冷却ファン160が設けられている。冷却ファン160は、特にステージ102がヒーターにより加熱される場合に有効である。
【0048】
なお、測定光射出/検出ユニット142および距離測定用レーザー射出/検出ユニット143の光路にはカバーを設けてもよい。カバーを設けることにより光漏れによるセンサ等への悪影響を防止することができる。
【0049】
次に、このように構成される膜厚測定装置35における測定動作について説明する。
最初に、チャンバー101内を排気機構112により搬送部12と同程度の真空圧力に保持し、膜厚測定部(測定光射出/検出ユニット142)およびレーザー距離計(距離測定用レーザー射出/検出ユニット143)をオン状態とする。次いで、ステージ102を上昇させてリファレンス部材120の表面を測定面に一致させて、光源部145の光源から測定光射出/検出ユニット142を介して、膜厚測定用の光をリファレンス部材120に照射してリファレンス測定を行う。すなわち、リファレンス部材120に光源部145の光源からの光を照射することにより、光源の出力光量を測定し、光源出力が基準内か否かを確認する。
【0050】
次いで、基板Wの測定点のZ方向の距離を測定する。このとき、まず、基板Wの基準位置を測定する。例えば、基板Wがウェーハである場合に、ノッチ位置合わせを行う。次いで、基板Wの表面の高さ位置を測定面に移動させる。次いで、距離測定用レーザー射出/検出ユニット143により、基板W上の複数の膜厚測定位置について基板Wまでの距離、すなわち測定光射出/検出ユニット142の受光センサと基板W上の照射点との距離(Z方向距離)を測定する。このとき、駆動モータ144により距離測定用レーザー射出/検出ユニット143のR方向位置(R座標)および回転機構104により基板WのΘ方向位置(Θ座標)を調整して、複数の膜厚測定位置に順次距離測定用レーザーが照射されるようにする。
【0051】
次いで、Z方向距離を測定した膜厚測定位置において実際に膜厚測定を行う。
図3はZ方向距離を測定した膜厚測定位置において実際に膜厚測定を行う動作を説明する図である。
まず、(a)に示すように、駆動モータ144により測定光射出/検出ユニット142の位置を調整し、回転機構104により基板Wの角度を調整する。これにより、測定光射出/検出ユニット142から基板Wへ光が照射される照射点のR-Θ座標が複数の膜厚測定位置のうちいずれかになるように調整する。次いで、(b)に示すように、レーザー距離計(距離測定用レーザー射出/検出ユニット143)による受光センサと照射点(膜厚測定位置)との間の距離(Z方向距離)の測定結果に基づいて、Z方向距離を昇降機構106(
図2参照)によって補正する。次いで、(c)に示すように、膜厚測定部(測定光射出/検出ユニット142)の光射出部から光を基板上に照射し、照射点(膜厚測定位置)からの反射光を受光センサにより検出して反射光スペクトルを測定し、当該位置の膜厚を測定する。次いで、(d)に示すように、同様にして、測定光射出/検出ユニット142から基板Wへの光の照射点のR-Θ座標を他の複数の膜厚測定位置に順次調整するとともに、膜厚測定位置のZ方向距離を順次補正して、他の複数の膜厚測定位置の膜厚測定を行う。全ての測定点の膜厚測定が終了したら、(e)に示すように、基板Wを搬出する。
【0052】
<膜厚測定方法>
次に、本実施形態における膜厚測定方法の一例について説明する。
本例では、基板Wに対して多層膜を成膜する成膜システム1において、膜厚測定装置35により、多層膜のうち特定の測定対象膜の膜厚を分光干渉法によりin-situで測定する。
【0053】
本例では、膜厚が0.1~10nm、さらには、0.3~3nmの極薄膜の膜厚測定に適合するように、測定光として、波長が200~800nmの可視光域の短波長ブロード光を用いることが好ましい。
【0054】
本例の多層膜は、膜厚が0.1~10nm、さらには、0.3~3nm程度の極薄膜を積層したものが好ましく、多層膜として、例えばMRAMの磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction;MTJ)素子を挙げることができる。MTJ素子は、複数の磁性膜を含み、障壁層(トンネルバリア層)となる誘電体膜を介して、フリー層(上部電極層)となる磁性膜、およびリファレンス層(下部電極層)となる磁性膜が積層されている。リファレンス層の下には、スペーサ層やピン層(磁性膜)等の複数の金属膜が形成されている。
【0055】
具体的な構成例としては、
図4に示すように、例えばSi基体301上にSiO
2膜302が形成された基板W上に、複数の金属膜(積層数は限定されない)303~311と、障壁層(トンネルバリア層)となる誘電体膜312と、フリー層となる磁性膜313とが積層された構造を有する。金属膜303~311は、ピン層、リファレンス層、およびスペーサ層となる金属膜を含む。そして、最上部のフリー層となる磁性膜313が、in-situで膜厚測定を行う測定対象膜である。
【0056】
分光干渉法による膜厚測定は、測定対象膜を含む試料に光を入射した際の多重反射による干渉を利用したものである。測定した多層膜試料の反射率から分光干渉法で膜厚を見積もるためには、以下に説明するような反射率を計算する式に基づいて、フィッティングを行う。
【0057】
以下、詳細に説明する。
はじめに、
図5のような屈折率N
tの試料に屈折率N
iの媒質から光が入射する場合を考える。
図5において、E、B、θは、それぞれ電場、磁場、角度であり、E
i、B
i、θ
iは入射光、E
t、B
t、θ
tは透過光、E
r、B
r、θ
rは反射光の電場、磁場、角度である。
【0058】
電場Eおよび磁場Bは、媒質の境界に平行な成分が入射側と透過側で等しくなるため、以下の(1)式および(2)式が成り立つ。
E
icosθ
i-E
rcosθ
r=E
tcosθ
t ・・・(1)
B
i+B
r=B
t ・・・(2)
また、c:光速、N:媒質の複素屈折率とするとE=c/NBであるので、上記(2)式は、以下の(2)´式となる。
N
i(E
i+E
r)=N
tE
t ・・・(2)´
ここで、θi=θrとすると、(1)式、(2)´式から、振幅反射係数rおよび振幅透過係数tは、以下の(3)式のようになり(フレネル方程式)、測定される反射率Rは振幅反射係数rを用いて(4)式で表すことができる。
【数1】
【0059】
次に、薄膜における光学反射干渉を考える。
図6のように試料に光が入射すると、薄膜表面Aで反射した1次光と薄膜/基板界面Bで反射した2次光が重なり合い、光学干渉が生じる。光学干渉は、1次光と2次光の位相差2βに依存し、媒質、薄膜、および基板の屈折率をそれぞれN
0、N
1、およびN
2、薄膜の膜厚をd、波長をλとすると、βは以下の(5)式のようになる。実際には
図7のように多重反射による干渉が生じるので、媒質、薄膜、および基板における振幅反射係数r
012、振幅透過係数t
012は、以下の(6)式のように求められる。
【数2】
【0060】
次に、多層膜試料における光学反射干渉を考える。ここではフレネル係数を用いている。
図8は、基板上に2層構造の多層膜を形成した場合の光学干渉を示すものである。フレネル係数を用いる場合は、基板から1層ずつ上層に向かって計算する。はじめに、
図8の基板側の第2層と基板の振幅係数を求める。上記(6)式から、振幅反射係数r
123および振幅透過係数t
123は、以下の(7)式のようになる。そして、(7)式の振幅反射係数r
123および振幅透過係数t
123を用いると、全体の振幅反射係数r
0123および振幅透過係数t
0123は、以下の(8)式に示すようになる。
【数3】
多層膜の層数が多い場合はこの手順を繰り返すことで反射率を計算することができる。
【0061】
以上のような式に基づく計算により、測定した多層膜試料の反射率から分光干渉法で膜厚を見積もることができる。反射率から膜厚を見積もる計算は各測定波長において行われる。測定波長が複数点あれば、その各点で反射率の計算を行い、フィッティングの最適化を行う。
【0062】
以上の計算はフレネル係数を用いた方法について説明したが、以下のような薄膜トランスファー・マトリクスを用いる方法でもよい。
図9のように、屈折率n
1、厚さl
1の薄膜が、屈折率n
0、n
2の媒質の間に置かれている場合、振幅反射係数r、振幅透過係数tには、以下の(9)式に示す関係がある。(9)式のマトリクス部分は、薄膜のトランスファー・マトリクス(以下、単にトランスファー・マトリクスと記す)と呼ばれ、(10)式に示すようにM
iで表される。X層からなる多層膜の振幅反射係数と振幅透過係数は、各層のトランスファー・マトリクスをM
iとすると、以下の(11)式で表すことができる。
【数4】
ここで、(11)式中のM
1M
2…M
xを(12)式のように表すと、振幅反射係数rおよび振幅透過係数tは、以下の(13)式のように求められる。
【数5】
【0063】
多層膜の反射光スペクトルから得られる各測定波長の反射率から分光干渉法を用いて膜厚を導出する場合は、試料の構造をそのまま計算モデルに適用して、計算を行うのが一般的である。しかし、MTJ素子のように膜厚が0.1~10nm程度と極薄く、かつ主に金属膜からなる膜を多数(例えば10層程度)積層した多層膜の場合、その構造をそのまま計算モデルに当てはめて計算すると、以下のような問題点が生じる。
【0064】
金属膜の場合、光学定数は複素屈折率であり、複素屈折率Nは、屈折率n、減衰係数kとすると、N=n-ikと表される。
図10は、Johnsonらにより測定されたFeの光学定数の波長依存性を示す図であるが、この図に示すように、Feは可視光域においてそれぞれ異なる値を持つnおよびkを有していることがわかる。金属の種類によりnおよびkの波長依存性は異なるが、金属膜であればnおよびkを有する。このため、金属膜を含む多層膜は、k=0であり屈折率nのみを考慮すればよい誘電体膜の多層膜と比較すると、反射率から分光干渉法で膜厚を見積もる際の計算が複雑となる。しかも、MTJ素子のように層数が多い場合にはこのような複雑な計算を層数分繰り返す必要があり、計算が一層複雑になる。
【0065】
また、0.1~10nm程度の極薄い膜を積層した多層膜の場合、各層の膜厚が測定光の波長である200~800nmよりも非常に小さく、反射光スペクトルの変化も非常に小さいため、各層の膜厚差を把握して膜厚測定することは基本的に難しい。しかも、このように各層の膜厚が測定波長よりも非常に小さい場合、計算にはバルクの光学定数を使用することができず、各々の膜の光学定数を見積もる必要がある。このことも解析が複雑となる要因となる。
【0066】
本例のように成膜プロセスの過程でin-situで膜厚測定を行う場合、成膜プロセスのスループットの観点から膜厚測定のために許容されている時間は有限である。このため、実際の多層膜の構造を計算モデルに使用すると、計算の実行等に、より時間がかかり、許容時間内で膜厚を計算できない場合が生じる。
【0067】
そこで、本例では、多層膜のうち膜厚を測定する測定対象膜よりも下層に位置する複数の膜を1層の下層膜とみなす計算モデルを用いて測定対象膜の膜厚を測定する。例えば、多層膜が
図4のMTJ素子の場合、特に膜厚管理が重要な膜である、フリー層を構成する磁性膜313が測定対象膜とされ、
図11に示すような、金属膜303~311を1層の下層膜314とみなす計算モデルを用いる。
【0068】
図12はこの場合の膜厚測定フローを示すフローチャートである。
まず、多層膜のうち膜厚を測定する測定対象膜よりも下層に位置する複数の膜を1層の下層膜とみなし、下層膜の膜厚を測定するとともに、分光干渉法により下層膜の有効的な光学定数を導出する(ステップST1)。
【0069】
次いで、下層膜の上に測定対象膜を成膜後、下層膜の膜厚および光学定数を用いて分光干渉法により測定対象膜の膜厚を測定する(ステップST2)。
【0070】
分光干渉法に用いる測定光としては、波長が200~800nmの可視光域のブロード光が好適であり、多層膜の材料としては、この波長域で大きな複素屈折率を有する金属や半導体を含むものが高い効果を得ることができるため好適である。これにより、膜厚が0.1~10nmと極薄い膜であっても膜厚測定が可能となる。また、例えばMTJ素子のように多層膜を構成する各膜の膜厚が0.1~10nmと薄い場合、測定光の波長である200~800nmと比較して極めて小さい。このため、測定対象膜の下層にある複数の膜を有効媒体近似理論に基づき光学的に均質な1層とみなして問題はない。
【0071】
ステップST1において、下層膜の膜厚は、分光干渉法を用いたフィッティングにより光学定数とともに算出したものを用いることができる。また、下層膜の膜厚として、成膜の際の成膜レートから得られた値を用いてもよい。成膜プロセスが安定していて下層膜の膜厚を一定とみなすことができれば、膜厚として予め測定しておいた固定値を使用してもよい。
【0072】
多層膜が
図4のMTJ素子の場合を例にとると、測定対象膜が、特に膜厚管理が重要な膜である、フリー層を構成する磁性膜313とされ、
図11に示すような、金属膜303~311を1層の下層膜314とみなす計算モデルが用いられる。なお、
図4の例において、磁性膜313の膜厚測定において、誘電体膜312の膜厚および光学定数が必要であるが、これらの値は、予め測定しておいた光学定数や膜厚を固定値として用いることができる。
【0073】
このように、測定対象膜よりも下層にある複数の膜を1層の下層膜とみなす計算モデルを用いて測定対象膜の膜厚を導出することにより、光学的な問題を生じることなく、以下のような効果を得ることができる。
【0074】
すなわち、複数の膜を1層の下層膜とみなすことにより、計算する層数が少なく(
図11の例では4層)、計算時間も短くなる。特に下層膜が金属膜を含む場合、複素屈折率を有し計算が複雑になるため、計算時間を短縮する効果がより高いものとなる。また、下層膜は膜厚測定対象膜よりも十分に厚く、膜厚測定対象膜の反射光スペクトルと下層膜の反射光スペクトルの相対的な差分が大きくなるため、通常では難しい膜厚差を測定することができ、測定対象膜の膜厚を高精度で測定することができる。このため、膜厚測定対象膜の膜厚を、in-situで、短時間および高精度で測定することができる。
【0075】
<成膜システムにおける成膜および膜厚測定の具体的フロー>
次に、成膜システムにおける成膜および膜厚測定の具体的フローについて説明する。
図13はこの際のフローを示すフローチャートである。以下のフローは、制御部4による制御の下で行われる。
【0076】
最初に、成膜システム1の複数の処理モジュールにより、基板WのSiO2膜302の上に金属膜303~311を成膜する(ステップST11)。
【0077】
次いで、複数の金属膜303~311が形成された基板Wを膜厚測定装置35に搬送する(ステップST12)。
【0078】
次いで、膜厚測定装置35において、複数の金属膜303~311を1層の下層膜314とみなし、下層膜の膜厚を測定するとともに、分光干渉法により下層膜314の有効的な光学定数を導出する(ステップST13)。このステップは、
図14に示す、下層膜314を構成する金属膜303~311を成膜した後の基板Wに、光源部145の光源から波長が可視光域である200~800nmのブロード光を照射することにより行うことができる。この際に、分光干渉法によるフィッティングにより下層膜314の膜厚と光学定数の両方を導出することができる。また、下層膜314を成膜する際の成膜レートから下層膜314の膜厚を求めてもよい。成膜プロセスが安定していて下層膜314の膜厚が一定とみなすことができれば、膜厚として予め測定しておいた固定値を使用してもよい。ここで得られた下層膜314の膜厚および光学定数は制御部4に記憶させ保存する。
【0079】
次いで、基板Wを処理モジュールに搬送し、誘電体膜312と、測定対象膜である磁性膜313を順次成膜する(ステップST14)。
【0080】
その後、測定対象膜である磁性膜313が形成された基板Wを膜厚測定装置35へ搬送する(ステップST15)。このとき、回転機構104のアブソリュートエンコーダの検出値に基づいて、基板Wの角度(ノッチ角度)を一定に保つように制御することが好ましい。これにより、10nm以下、さらには1nm以下といった極めて薄い膜の膜厚測定において、ステージ102が傾いていることにより膜厚の測定結果が基板ごとにばらつくことを抑制することができる。
【0081】
次いで、膜厚測定装置35において、下層膜314の膜厚および光学定数を用いて分光干渉法により測定対象膜である磁性膜313の膜厚を測定する(ステップST16)。このステップは、光源部145の光源から波長が200~800nmの可視光域の短波長ブロード光を測定対象膜(磁性膜313)が成膜された基板Wに照射することにより行うことができる。具体的には、測定光を照射した際の反射率と下層膜314の膜厚および光学定数とを用いて、分光干渉法によるフィッティングにより測定対象膜の光学定数および膜厚を導出することができる。
【0082】
以上のフローにより、成膜システム1により基板Wに多層膜であるMTJ素子を成膜するプロセスにおいて、in-situにより短時間および高精度で測定対象膜である磁性膜313の膜厚測定を行うことができる。
【0083】
<実験例>
次に、実験例について説明する。
ここでは、多層膜として
図4のMTJ素子が形成された300mmウェーハ(基板)において、測定対象膜である最上部の磁性膜313の膜厚を測定する場合について説明する。なお、測定対象膜である磁性膜313としてはCoFeB合金を用いた。
【0084】
まず、
図14に示す金属膜311まで成膜した後のウェーハ試料について、金属膜303~311を1層の下層膜314とみなし、分光干渉法を用いて下層膜314の膜厚および膜厚分布(測定点数:13点)ならびに光学定数を導出した。光源としては波長が可視光域である200~800nmの短波長ブロード光を発光するもの用いた。金属膜303~311の成膜は
図1に示すような成膜システムにより真空中で行い、膜厚測定等は、成膜システムに設けられた膜厚測定装置により真空中でin-situで行った。下層膜314の膜厚測定および光学定数の算出は同じ構造のA~Cの3枚の試料について行った。その結果、試料Aでは平均膜厚:90.98オングストローム(A)(9.098nm)、変動係数CV:0.42%、試料Bでは平均膜厚:90.97A(9.097nm)、変動係数CV:0.33%、試料Cでは平均膜厚:90.93A(9.093nm)、変動係数CV:0.35%となった。このように、3枚の試料について、膜厚平均値も分布もほぼ同じ値が得られることが確認された。光学定数についても3枚の試料についてほぼ同じ値が得られた。各測定位置での膜厚、および光学定数は、次に説明する測定対象膜である磁性膜313の膜厚計算の際に用いる。
【0085】
次に、
図4に示す、下層膜314の上に誘電体膜312および測定対象膜である磁性膜313を成膜した後のウェーハ試料について、分光干渉法を用いて測定対象膜である磁性膜313の膜厚および膜厚分布(測定点数:13点)を導出した。光源としては可視光域である波長200~800nmのブロード光を用いた。誘電体膜312および磁性膜313の成膜は
図1のような成膜システムにより真空中で行い、磁性膜313の膜厚測定は、成膜システムに設けられた膜厚測定装置により真空中でin-situで行った。膜厚測定および光学定数の算出は同じ構造のD~Fの3枚の試料について行った。磁性膜313の膜厚は、先に求めた下層膜314の光学定数および膜厚を用い、分光干渉法によるフィッティングにより導出した。
【0086】
図15はその際の膜厚分布形状(マップ)と、平均膜厚および変動係数(CV)を示す図である。この図に示すように、試料Dでは平均膜厚:10.6A(1.06nm)、変動係数CV:2.66%、試料Eでは平均膜厚:10.6A(1.06nm)、変動係数CV:2.53%、試料Fでは平均膜厚:10.6A(1.06nm)、変動係数CV:2.71%と3つの試料ともほぼ同じであった。また、試料D~Fの膜厚分布形状もほぼ同じであった。このように、測定対象膜である磁性膜313の膜厚および膜厚分布形状の再現性が極めて高いことが確認された。
【0087】
次に、上述した
図4の構造を有する試料D~Fについて、従来から行われているXRF(蛍光X線分析)によりex-situで磁性膜313の膜厚を測定した。ここでは、磁性膜313を構成するCoFeBのFe元素のXRF強度を測定した。XRF強度は原子数に比例し、原子数は膜厚に比例するため、XRF強度から膜厚を導出することができ、XRF強度分布は膜厚分布とほぼ等しいとみなすことができる。
【0088】
図16はその際のXRF強度分布形状(マップ)と、XRF強度の平均値および変動係数(CV)を示す図である。この図に示すように、試料DではXRF強度平均値:2580、変動係数CV:1.85%、試料EではXRF強度平均値:2576、変動係数CV:1.65%、試料FではXRF強度平均値:2585、変動係数CV:1.75%と3つの試料ともほぼ同じであった。また、換算膜厚については分光干渉法を用いた場合とほぼ同じであることが確認された。また、試料D~FのXRF強度分布形状は分光干渉法を用いた場合の膜厚分布形状とほぼ同じであった。
【0089】
このことから、金属膜303~311を1層の下層膜314とみなして分光干渉法を用いたin-situの膜厚測定を行うことにより、従来のXRFを用いた膜厚測定と同等の精度で測定対象膜である磁性膜313の膜厚を測定できることが確認された。
【0090】
<他の適用>
以上、実施形態について説明したが、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0091】
例えば、上記実施形態では、測定対象膜をひとつにした場合について示したが、測定対象膜が2つ以上であってもよい。また、多層膜として、MRAMに用いるMTJ素子を例示し、測定対象膜として最上層のフリー層となる磁性膜を用いた場合を示したが、これに限るものではない。
【0092】
さらに、上記実施形態では、成膜システムとして、複数の処理モジュールに対して基板を順次シリアルに搬送して処理するものについて説明したが、これに限るものではなく、複数の処理モジュールにランダムに基板を搬送するものであってもよい。
【0093】
さらにまた、膜厚測定装置の設置位置は実施形態の位置に限るものではなく、搬送モジュールに設けてもよいし、隣接する搬送モジュールの間の受け渡し部に設けてもよい。さらに、基板に対して膜厚測定用の光を照射する位置を移動させる移動機構についても、上記実施形態のものに限るものではない。
【符号の説明】
【0094】
1;処理システム
2;処理部
3;搬出入部
4;制御部
12;搬送部
30a、30b、30c、30d;容器
31a、31b、31c、31d;搬送機構
35;膜厚測定装置
101;チャンバー
102;ステージ
104;回転機構
106;昇降機構
112;排気機構
120;リファレンス部材
140;光射出・受光アッセンブリ
142;測定光射出/検出ユニット
143;距離測定用レーザー射出/検出ユニット
144;駆動モータ
303~311;金属膜
312;誘電体膜
313;磁性膜(測定対象膜)
314;下層膜
PM1~PM8;処理モジュール
TM1~TM4;搬送モジュール
W;基板