(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094262
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20230628BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B41J2/175 501
B41J2/165 203
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209640
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【弁理士】
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】久保寺 貴也
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056HA05
2C056HA17
2C056HA42
2C056HA44
2C056KA01
2C056KB35
2C056KB37
(57)【要約】
【課題】クリーニング動作時にピエゾ素子の駆動させることなくクリーニング動作を行う液体吐出ヘッドを提供する。
を提供する。
【解決手段】吐出口に液体を送るための圧力を当該液体の供給経路に与える圧力源と、液体の供給方向における吐出口に対し上流側であり、かつ、供給経路よりも下流側に設けられるダンパー部と、を備え、ダンパー部は、供給経路側からの印加圧力が矩形波であるとき、当該矩形波に対する過渡応答により発生する圧力振動を吐出口側に伝搬させる、液体吐出ヘッドによる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記吐出口に前記液体を送るための圧力を当該液体の供給経路に与える圧力源と、
前記液体の供給方向における前記吐出口に対し上流側であり、かつ、前記供給経路よりも下流側に設けられるダンパー部と、
を備え、
前記ダンパー部は、供給経路側からの印加圧力が矩形波であるとき、当該矩形波に対する過渡応答により発生する圧力振動を吐出口側に伝搬させる、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記ダンパー部は、当該ダンパー部におけるコンプライアンスCと、前記供給経路における流路抵抗Rと、前記供給経路におけるインターナンスLが以下の式1を満たす、
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
(式1)
【請求項3】
前記ダンパー部は、前記液体を一時的に貯留するヘッドタンクに配置されている、
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ダンパー部は、前記液体を一時的に貯留するヘッドタンクと連通し、当該ヘッドタンクから供給される前記液体を前記吐出口から吐出するための液室に配置されている、
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
所定量の液体を所定の方向に吐出する液体吐出ヘッドが知られている。また、液体吐出ヘッドを備え、媒体に対して液体を吐出して画像などを形成する液体吐出装置も知られている。液体吐出ヘッドが吐出する液体には、インク成分などを含む液体インクが用いられる。液体インクは、ある程度の粘性を有するものが多く、乾燥が進むと粘度が高くなり、また固化する性質も有する。液体吐出ヘッドは、液体を吐出する開口部分(ノズル口)が形成されている液室の内部に圧力を付与することで、液滴を吐出する動作をするように構成されている。したがって、液体吐出ヘッドのノズル口の近傍に付着した液体インクや、液室内の液体インクの乾燥が進むと、ノズル口近傍での液体の粘度が高くなり吐出特性に悪影響を生じさせる。
【0003】
吐出特性の悪化を抑制するために、液体吐出ヘッドのノズル口の清掃を適時に行う技術が知られている。この清掃動作を「ヘッドクリーニング」と称する。ヘッドクリーニングには幾つかの方式が知られている。例えば、「加圧メンテナンス方式」や、「吸引メンテナンス方式」が知られている。
【0004】
「加圧メンテナンス方式」は、クリーニング動作時に、圧力によって固化した液体などを排出するために、液体インクを送るための加圧機構を動作させて、不要な液体インクを排出させる方式である。この加圧機構は、通常は、ノズル口に供給する液体を貯留するヘッドタンクに液体インクを送るための圧力付与構成である。「吸引メンテナンス方式」は、ノズル口に吸引キャップを被せて、ノズル口から液体インクを直接的に吸い出す方式である。
【0005】
加圧メンテナンス方式に対し吸引メンテナンス方式では、いくつかのデメリットが知られている。例えば、吸引キャップを液体吐出ヘッドのノズル面に対し、精度よく密閉しなければならないため、吸引キャップの位置精度を高くすることが求められる。また、吸引時に発生する負圧に対し吸引キャップとノズル面の密着部が変形して密着性が失われることがないように、吸引キャップの部材の耐久性や、形状維持性が求められる。
【0006】
また、吸引キャップとノズル面の密着部部分における密閉度を維持することが必要となるため、吸引時にノズル面に密着する吸引キャップのフチが液体インクで付着して汚れると密閉度が保てなくなる。すなわち、吸引キャップの清浄度がノズル回復性に影響を及ぼす。
【0007】
そして、大気圧よりも低い圧力を吸引キャップ内に生じさせるため、吸引後に吸引キャップ内の圧力を気圧に戻さないで離間させると、ノズル口から空気を巻き込んでしまう。したがって、吸引後において、吸引キャップ内の圧力を大気圧に戻す時間が必要となる。
【0008】
これらに対し、加圧メンテナンス方式では、粘性が増加した液体インクや、固化した液体インクをノズル口から排出するために、液体を供給するための供給経路を介して圧力を加える。この点、吸引メンテナンス方式のように、液体インクを吸い出す圧力をノズルへ直接伝えられる方式ではないから、上記のような課題は生じない。しかしながら液体吐出ヘッドへ液体インクを供給する供給経路を備え、かつ、液体吐出ヘッドの上流に位置する供給経路に画像安定性を確保するためのダンパーを設けている構成において、加圧メンテナンス方式を採用する場合、吸引メンテナンス方式に比べて液体インクを排出するのに時間がかかるいうデメリットがある。また、加圧源からノズルへ至る供給経路に圧力がかかるため、供給経路に加圧メンテナンスで必要な圧力に対する耐久性が不可欠であるというデメリットもある。
【0009】
そこで、加圧メンテナンス方式において、ノズル口に液体を送液するための供給経路を介してノズル口に加圧した後に、ノズル口から液体を吐出させるための駆動電圧をピエゾに印加することで、液体インクの排出をする技術が知られている(特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、液体吐出ヘッドから吐出された液体を用いて画像を形成する処理の効率を向上させる要求が高まっている。そのためには、液体インクの乾燥性を向上させることが必要になる。ところで、乾燥性を向上させるほど、ノズル口近傍や液室において液体インクが固化しやすくなる。その結果として、ヘッドクリーニングの時間間隔を短くして、ヘッドクリーニングの頻度を増やす必要がある。そして、ヘッドクリーニングの頻度を増やすと画像形成処理を一旦停止させることになるため、画像形成処理の効率(生産性)の低下要因になり得る。
【0011】
すなわち、インクの乾燥性向上と生産性向上はトレードオフの関係になる。また、画像形成処理の生産性向上のために、ヘッドクリーニングの頻度を高めると、特許文献1のような加圧メンテナンス方式では、ヘッドクリーニングの際に、ノズル口から液体を排出するためにピエゾ素子の駆動頻度を高める必要がある。この結果、液体吐出ヘッドの主要な構成であるピエゾ素子の寿命を短くする懸念がある。したがって、加圧クリーニング方式によってヘッドクリーニングを行うときに、液体吐出ヘッドが備えるピエゾ素子(圧力付与素子)を動作させることなく、液体インクを確実に排出するには課題がある。
【0012】
本発明は、クリーニング動作時にピエゾ素子の駆動させることなくクリーニング動作を行う液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記吐出口に前記液体を送るための圧力を当該液体の供給経路に与える圧力源と、前記液体の供給方向における前記吐出口に対し上流側であり、かつ、前記供給経路よりも下流側に設けられるダンパー部と、を備え、前記ダンパー部は、供給経路側からの印加圧力が矩形波であるとき、当該矩形波に対する過渡応答により発生する圧力振動を吐出口側に伝搬させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、クリーニング動作時にピエゾ素子の駆動させることなくクリーニング動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る液体吐出装置の実施形態を示す概略構成図。
【
図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの第一実施形態を示す概略構成図と、当該液体吐出ヘッドの等価回路を例示する回路図。
【
図3】液体吐出ヘッドの実施形態において、ダンパー位置での圧力変動を波形で示した波形図。
【
図4】本発明に係る液体吐出ヘッドの第二実施形態を示す概略構成図と、当該液体吐出ヘッドの等価回路を例示する回路図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る液体吐出装置の実施形態としての画像形成装置100の例である。
【0017】
図1に示す画像形成装置100は、本発明の実施形態に係る画像形成装置100は、搬入手段110と、前処理液塗布手段120と、前処理液乾燥手段130、画像形成手段140、プロテクターコート液付与手段150、プロテクターコート液乾燥手段132、搬出手段160と、を備えている。
【0018】
画像形成装置100は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色の吐出ヘッド10を有する。吐出ヘッド10は、本発明に係る液体吐出ヘッドの実施形態の一つであるが、詳細な説明を後述する。なお、本発明を適用できる画像形成装置100は、これらの吐出ヘッド10を有するものに限定されない。すなわち、本実施形態に係る画像形成装置100は、グリーン(G)、レッド(R)、ライトシアン(LC)、その他の色に対応する吐出ヘッド10を更に有するものも含む。さらに、ブラック(K)のみの吐出ヘッド10を有するものなども含む。ここで、以後の説明において、添え字K、C、M及びYを付与された記号は、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの夫々に対応するものとする。
【0019】
また、本実施形態に係る画像形成装置100は、液体の吐出先となる媒体として、ロール状に巻かれたシート状の媒体としての連続紙(以下、「ロール紙Md」という。)を用いる。
【0020】
また、本発明に係る画像形成装置100を用いて画像を形成することができる媒体には、普通紙、上質紙、薄紙、厚紙、記録紙及びロール紙、並びに、OHPシート、合成樹脂フィルム、金属薄膜及びその他表面にインク等で画像を形成することができるものを含まれる。なお、ロール紙Mdは、切断可能なミシン目が所定間隔で形成された連続紙(連帳紙、連続帳票)を含む。また、ロール紙Mdにおけるページ(頁)とは、例えば所定間隔のミシン目で挟まれる領域とする。
【0021】
画像形成装置100が備える搬入手段110は、ロール紙Md(記録媒体)を搬入する。前処理手段(前処理液塗布手段)20は、搬入されたロール紙Mdに前処理液を塗布する(前処理を実行する)。乾燥手段30のうち前処理液乾燥手段131は、前処理されたロール紙Mdを乾燥させる。画像形成手段140は、ロール紙Mdの表面に画像を形成する。
【0022】
後処理工程手段(プロテクターコート液付与手段)50は、画像が形成されたロール紙Mdの上にプロテクターコート液50Lを付与する(全体又は一部に吐出する、後処理を行う)。搬出手段160は、後処理されたロール紙Mdを搬出する。更に、画像形成装置100は、画像形成装置100の動作を制御する制御手段70を有する。
【0023】
本実施形態に係る画像形成装置100は、搬入手段110によってロール紙Mdを搬入し、前処理液塗布手段120及び乾燥手段30によってロール紙Mdの表面を前処理及び乾燥する。また、画像形成装置100は、画像形成手段140によって、前処理及び乾燥した後のロール紙Mdの表面に画像を形成する。更に、画像形成装置100は、プロテクターコート液付与手段150によって、画像が形成されたロール紙Mdを後処理する。その後、画像形成装置100は、搬出手段160によって、ロール紙Mdを巻き取る(排出する、搬出する)。
【0024】
以下、本発明の実施境地としての画像形成装置100の各構成を具体的に説明する。なお、画像形成装置100は、少なくとも記録媒体に形成される画像部と非画像部の光沢度に基づいて、プロテクターコート液付与手段150及び後処理乾燥手段32の動作を制御する。また、画像形成装置100は、後述する前処理液塗布手段120等のいずれか一つ又は複数を含まない構成とすることができる。
【0025】
[搬入手段110の構成]
搬入手段110は、ロール紙Mdを前処理液塗布手段120等に搬送する手段である。搬入手段110は、給紙部111及び複数の搬送ローラ112等で構成される。搬入手段110は、搬送ローラ112等を用いて、給紙部111の給紙ロールに巻き付けて保持されたロール紙Mdを搬入(移動)し、後述する前処理液塗布手段120(プラテン)等に搬送する。
【0026】
[前処理液塗布手段120の構成]
前処理液塗布手段120は、画像が形成される前のロール紙Mdを処理する手段である。前処理液塗布手段120は、搬入手段110によって搬入されたロール紙Mdの表面を、前処理液で前処理する。ここで、前処理とは、ロール紙Md(記録媒体)表面に、インクを凝集させる機能を有する前処理液(後述)を均一に塗布する処理である。
【0027】
前処理液塗布手段120は、画像データに基づいて、塗布する前処理液の量を制御することができる。これにより、画像形成装置100は、インクジェット方式の専用紙以外のロール紙Mdに画像を形成する前に、前処理液塗布手段120を用いて、インクを凝集させる機能を有する前処理液をロール紙Mdの表面に塗布することができる。
【0028】
このため、画像形成装置100は、形成される画像の滲み、濃度、色調及び裏写りなどの品質問題、並びに、耐水性、耐候性及びその他画像堅牢性に関する問題が発生することを低減することができる。すなわち、画像形成装置100は、前処理液塗布手段120を用いて、記録媒体に画像を形成する前にインクを凝集させる機能を有する前処理液を塗布することによって、その後形成される画像の品質を向上することができる。
【0029】
なお、画像形成装置100は、前処理液塗布手段120を用いて、インクジェット方式の専用紙(記録媒体)に画像を形成する前に、インクを凝集させる機能を有する前処理液を塗布してもよい。
【0030】
本実施形態に係る前処理液塗布手段120には、前処理方法として、以下の複数の方法から適宜適用することができる。例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本乃至5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法などを用いることができる。
【0031】
また、前処理液塗布手段120は、前処理液として、例えば水溶性脂肪族系有機酸を含有した処理液を用いることができる。ここで、水溶性脂肪族系有機酸を含有した処理液とは、水分散性着色剤を凝集させる性質を有する処理液である。また、凝集するとは、水分散性着色剤粒子同士が吸着集合することである。
【0032】
さらに、前処理液塗布手段120は、前処理液に水溶性脂肪族系有機酸等のイオン性物質を加えることによって、水分散性着色剤の表面にイオンを吸着させることができる。これにより、前処理液塗布手段120は、水分散性着色剤の表面電荷を中和することができる。また、前処理液塗布手段120は、分子間力による凝集作用を増強し、水分散性着色剤を更に凝集させることができる。
【0033】
[液体吐出ヘッドの第一実施形態]
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドの第一実施形態について説明する。
図2(a)は、液体吐出ヘッドの第一実施形態としての吐出ヘッド10の概略的な構成を示す図である。
図2(b)は、吐出ヘッド10の構成を電気素子に置き換えた場合の等価回路の例である。
【0034】
図2(a)に示すように、吐出ヘッド10は、液体インクを吐出する吐出口であるノズル11と、ノズル11と連通する液室12と、液室12に圧力を付与する圧力付与部としてのピエゾ13と、を備えている。ピエゾ13は、液室に貯留されている液体インクをノズル11から吐出させるための吐出用圧力を付与する圧電素子である。また、吐出ヘッド10は、液室12に対し液体インクを流すためのヘッド内経路14も備えている。液室12に至った液体インクは、ピエゾ13の動作によってノズル11から液滴として吐出される。
【0035】
また、吐出ヘッド10は、ノズル11に対する液体インクの供給方向を下流とした場合に、ヘッド内経路14よりも上流側にヘッドタンク15が配置されている。ヘッドタンク15には、液室12側から伝搬する圧力変動を減衰させるためのダンパー151を備えている。ダンパー151は、ピエゾ13が発生させた吐出用圧力により称する圧力変動のうち、ヘッド内経路14を伝搬してヘッドタンク15に至る圧力変動が大きいと、ノズル口に形成されているメニスカスが破壊されるなど、吐出特性に悪影響を与える現象を抑制するために設けられる。言い換えると、ダンパー151は、液室12で発生した圧力変動がヘッド内経路14を通じて上流側に伝搬するときに、ノズル11に過度の負圧を生じさせることを抑制し、ノズル11から液体インクを吐出するときの動作特性を安定させるための圧力減衰部(ダンパー部)に相当する。ダンパー151を備えることで、ノズル11に形成されているメニスカスへの影響を抑制し、吐出特性の品質を高めることができる。
【0036】
また、吐出ヘッド10は、ヘッドタンク15へ液体インクを供給するための供給経路16と、供給経路16を介して供給される液体インクを貯留するメインタンク17と、を備えている。そして、メインタンク17にはノズル11を加圧するための圧力源としての加圧源18が接続されており、加圧クリーニング方式でヘッドクリーニングを行うときに供給経路16を介して加圧する。
【0037】
以上のとおり、吐出ヘッド10は、加圧源18の下流側に配置されている供給経路16の下流にダンパー151が配置されている。そしてダンパー151よりも下流に液室12とノズル11が配置されている。すなわち、加圧源18が印加した圧力は、供給経路16やダンパー151の影響を受けて、液室12やノズル11へと伝搬するように構成されている。
【0038】
ここで、吐出ヘッド10のように液体インクをノズル11にまで供給する経路の途中に、圧力減衰部としてのダンパー151を備える場合に、吸引メンテナンス方式によるヘッドクリーニング(液体吐出ヘッドのメンテナンス方法)を実施することを想定する。この場合、以下のような加害が想定される。
【0039】
[ダンパー151を備える構成に吸引メンテナンス方式を適用した場合の課題]
吸引メンテナンス方式では、ノズル11に対して直接、吸引圧力を付与する。ノズル11に直接接触するノズルキャップなどを被せて、ノズルキャップによる密閉空間に負圧を印加することで液体インクを吸い出す。このときの吸引圧力は、ノズル11から上流側に向かって伝搬し、吸引圧力による圧力変動がダンパー151に生ずることになる。
【0040】
ダンパー151は、ピエゾ13が発生させた吐出用圧力による圧力振動を吸収するための部材である。ダンパー151は、液体インクの吐出特性を安定させるために設けられるものである。したがって、ダンパー151の部品としての耐久性は、吐出用圧力による圧力振動に耐えるように考慮して、損傷を回避する必要がある。そこで、ダンパー151の耐久性を鑑みて、強い圧力を用いることなく、ノズル11や液室12にて固化した液体インクを排出するメンテナンス処理を実行することが好適である。
【0041】
そこで、本実施形態に係る吐出ヘッド10では、ダンパー151の部品耐久性とメンテナンス処理の効果性を鑑みて、特徴的な構成を備えるものとなっている。すなわち、加圧源18が印加する圧力によってダンパー151が圧力振動を発生させることができ、この圧力振動が下流側に伝搬することで、吸引圧力を用いることなく、また、ピエゾ13を動作させずに、液体インクを排出可能な構成を備える。
【0042】
より詳しくは、ダンパー151の弾性成分が、供給経路16の流路抵抗成分(R)と慣性成分(L)との間で、所定の条件を成立するようにして、ダンパー151の下流側に対してメンテナンス効果を補強する圧力振動を伝搬させる構成を備える。
【0043】
[吐出ヘッド10の等価回路]
上記にて説明をした本実施形態に係る吐出ヘッド10において、ヘッドクリーニング時に所定の圧力振動をノズル11へ伝搬させるための条件に関して、
図2(b)の等価回路を参照しながら詳細に説明する。
【0044】
図2(b)に示すように、吐出ヘッド10が備える加圧源18は、等価回路において電圧源80に置き換えることができる。供給経路16は、流路抵抗[Pa・S/m
3]を有するので、これを供給経路抵抗R61(単位:Ω)に置き換えることができる。また、供給経路16における液体インクの慣性(インターナンス)[kg/m
4]は、供給経路インダクタンスL62(単位:H)に置き換えることができる。そして、ダンパー151の弾性(コンプライアンス)[m
3/Pa]は、ダンパーキャパシタンスC50(単位:F)に置き換えることができる。
【0045】
ヘッド内経路14における流路抵抗は、ヘッド内経路抵抗R41に置き換えることができ、ヘッド内経路14における液体インクの慣性は、ヘッド内経路インダクタンスL42に置き換えることができる。
【0046】
この等価回路の回路構成は、
図2(b)に示すように、加圧源18の等価構成である電圧源80に対するRLC直列回路になる。したがって、電圧源80が印加する電圧を矩形波にすると、供給経路抵抗R61、供給経路インダクタンスL62、ダンパーキャパシタンスC50の関係によっては、過渡現象が発生する。この過渡現象に相当する圧力振動は、吐出ヘッド10の構成では、供給経路16の下流にあるキャパシタンス成分であるダンパー151において発生する。そして過度現象による圧力変動は、振動波として下流側に伝搬することになる。
【0047】
図3は、加圧源18の印加圧力とダンパー151において生ずる圧力変動の関係を、上記の等価回路に基づくシミュレーションによって算出し、これをグラフで示したものです。
図3のグラフは、
図2(b)に示した等価回路において、電圧源80の印加電圧を実線で示す矩形波にしたとき、供給経路16の下流に配置されているダンパー151と等価であるダンパーキャパシタンスC50において生ずる電圧変動波形の例と同義のものである。
【0048】
図3において、点線で示した波形は、供給経路抵抗R61と供給経路インダクタンスL62とダンパーキャパシタンスC50の関係の一例を示している。すなわち、点線の波形は、「(1/供給経路抵抗R61×供給経路インダクタンスL62)>(供給経路抵抗R61/2×供給経路インダクタンスL62)^2」を満たすときの波形を例示している。言い換えると、供給経路抵抗R61と供給経路インダクタンスL62を乗じた値の逆数が、2倍の供給経路インダクタンスL62で供給経路抵抗R61を除した値の自乗よりも大きいとき、ダンパー151の位置では印加圧力の矩形波における立ち上がり部分と立ち下がり部分で、過渡応答が生ずる。
【0049】
また、
図3における一点鎖線で示した波形は、供給経路抵抗R61と供給経路インダクタンスL62とダンパーキャパシタンスC50の関係の他の一例を示している。すなわち、一点鎖線の波形は、「(1/供給経路抵抗R61×供給経路インダクタンスL62)<(供給経路抵抗R61/2×供給経路インダクタンスL62)^2」を満たすときの波形を例示している。言い換えると、供給経路抵抗R61と供給経路インダクタンスL62を乗じた値の逆数が、2倍の供給経路インダクタンスL62で供給経路抵抗R61を除した値の自乗よりも小さいとき、ダンパー151の位置では印加圧力の矩形波に対する過渡応答は生じることなく、立ち上がり部分と立ち下がり部分の高周波成分が減衰した波形が伝搬する。
【0050】
図3に基づけば、供給経路16が持つ抵抗成分としての供給経路抵抗R61と、同じく供給経路16が持つ慣性成分としての供給経路インダクタンスL62に対して、供給経路16の下流側であってノズル11よりも上流側に配置されるダンパー151のダンパーキャパシタンスC50が、下記の式(1)を満たせば、ダンパー151の位置での圧力振動を生じさせることができる。
【0051】
【0052】
吐出ヘッド10では、上記式(1)を満たすようなダンパー151を、供給経路16よりも下流側に設ける。これによって、ヘッドクリーニングを行うためのヘッドメンテナンスにおいて、加圧源18が供給経路16を介してノズル11に向けて矩形波として圧力変動を加えると、ダンパー151において圧力振動が生じ、この圧力振動がダンパー151よりも下流側(すなわち、ノズル11側)に伝搬する。
【0053】
加圧メンテナンスを実行するときに加圧源18が矩形波を印加すると、ダンパー151において圧力振動が生ずる。そして、この圧力振動は、ノズル11に対して伝搬して、液体インクの排出を支援する圧力振動となる。すなわち、ヘッドクリーニングの際に、ピエゾ13を駆動させてノズル11側に圧力を付与しなくても、液室12やノズル11近傍にある液体インクを効率的に排出する効果を得ることができる。これによって、ピエゾ13の駆動頻度を上げることなく、ピエゾ13を含む吐出ヘッド10の寿命が短くなることを防止できる。
【0054】
また、加圧源18が印加圧力を振動させて吐出ヘッド10に印加しなくても、加圧源18から圧力変動を矩形波として印加することで、ダンパー151で所定の圧力振動を発生させて、液体吐出ヘッドのメンテナンス方法を実行することができる。
【0055】
以上のとおり、本実施形態に係る吐出ヘッド10において、加圧源18が加える圧力を矩形波として、その入力に対する過渡応答による圧力振動を、加圧メンテナンス方式と一緒に利用する。この圧力振動は、加圧源18が印加した矩形波状の圧力変動における立ち上がり部分が、ノズル11に形成されるメニスカスを破壊するような「最大許容負圧」を超えないような最大圧力になるようにする。これによって、ダンパー151を備える吐出ヘッド10に対して吸引メンテナンス方式を用いたときに懸念されるメニスカスの破壊や、ダンパー151の破壊を回避しつつ、液体インクの排出を効率的に行うことができる。
【0056】
[液体吐出ヘッドの第二実施形態]
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドの第二実施形態について説明する。
図4(a)は、液体吐出ヘッドの第二実施形態としての吐出ヘッド10aの概略的な構成を示す構成図である。
図4(b)は、吐出ヘッド10aの構成を電気素子に置き換えた場合の等価回路の例である。
【0057】
図4(a)に示すように、吐出ヘッド10aは、すでに説明をした吐出ヘッド10と異なり、ダンパー151aが個別液室12aの内部に設けられている。このように、ダンパー151aの位置が異なっても、第一実施形態において説明をした式(1)を満たすようなダンパーキャパシタンスC50aを有するダンパー151aを用いることで、第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0058】
[吐出ヘッド10aの等価回路]
上記にて説明をした吐出ヘッド10aにおいて、ヘッドクリーニング時に所定の圧力振動をノズル11へ伝搬させるための構成について、
図4(b)の等価回路を参照しながら詳細に説明する。
【0059】
図4(b)に示すように、吐出ヘッド10aが備える加圧源18は、等価回路において電圧源80に置き換えることができる。また、個別液室12aよりも上流側のヘッド内経路14aと供給経路16aの流路抵抗[Pa・S/m
3]を、上流経路抵抗R61a(単位:Ω)に置き換えることができる。
【0060】
また、個別液室12aよりも上流側のヘッド内経路14aと供給経路16aにおける液体インクの慣性(インターナンス)[kg/m4]を、上流供給経路インダクタンスL62a(単位:H)に置き換えることができる。そして、ダンパー151の弾性(コンプライアンス)[m3/Pa]は、ダンパーキャパシタンスC50a(単位:F)に置き換えることができる。
【0061】
個別液室12aにおける流路抵抗は、個別液室内抵抗R21aに置き換えることができ、個別液室12aにおける液体インクの慣性は、個別液室内インダクタンスL22aに置き換えることができる。
【0062】
吐出ヘッド10aに係る上流経路抵抗R61a、上流供給経路インダクタンスL62a、ダンパーキャパシタンスC50aが、第一実施形態と同様に、式(1)の関係式を満たすようであれば、メンテナンス時に加圧源18から矩形波としての圧力を印加することで、ダンパー151aが過渡現象による圧力振動を発生させことができる。そして、ダンパー151aにおいて発生した圧力振動は、ノズル11に対して与えらて、液体インクの排出動作を補虚することができる。
【0063】
すなわち、第二実施形態に係る吐出ヘッド10aのように、個別液室12aよりも上流側の抵抗成分(R)と、個別液室12aよりも上流側のインダクタンス成分(L)、及び個別液室12aに配置されるダンパー151aの関係が、式(1)を満たすことで、メンテナンス中に吐出ヘッド10aが備えるピエゾ13aの駆動回数を減らすことができ、ヘッドクリーニング動作を原因とする吐出ヘッド10aの寿命の短縮を抑制できる。
【0064】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、その技術的要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者であれば、開示した内容から様々な変形例を実現することが可能である。そのような変形例も、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10、10a :吐出ヘッド
11 :ノズル
12、12a :液室
13、13a :ピエゾ
14、14a :ヘッド内経路
15 :ヘッドタンク
16、16a :供給経路
17 :メインタンク
18 :加圧源
80 :電圧源
100 :画像形成装置
151、151a :ダンパー
160 :搬出手段
C50、C50a :ダンパーキャパシタンス
L22a :個別液室内インダクタンス
L42 :ヘッド内経路インダクタンス
L62、L62a :供給経路インダクタンス
R21a :個別液室内抵抗
R41 :ヘッド内経路抵抗
R61 :供給経路抵抗
R61a :上流経路抵抗
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】