(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094376
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】粘度計測器、及び圧縮機
(51)【国際特許分類】
G01N 11/04 20060101AFI20230628BHJP
F04B 39/02 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
G01N11/04
F04B39/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209813
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奥 達也
(72)【発明者】
【氏名】松本 康平
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AC01
3H003BD02
(57)【要約】
【課題】流体圧力の影響を低減して流体の粘度を計測できる簡易な構成の粘度計測器、及び圧縮機を提供する。
【解決手段】本開示の少なくとも一実施形態に係る粘度計測器は、シリンダと、シリンダの内周面との間に環状隙間を形成するようにシリンダ内に部分的に挿入されるピストンと、環状隙間の上流側に設けられる流体の流入口と、環状隙間の下流側に設けられる流体の流出口と、流体からピストンが受ける流体圧に抗して、シリンダへのピストンの挿入量が減少する方向にピストンを付勢するための付勢部材とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダの内周面との間に環状隙間を形成するように前記シリンダ内に部分的に挿入されるピストンと、
前記環状隙間の上流側に設けられる流体の流入口と、
前記環状隙間の下流側に設けられる前記流体の流出口と、
前記流体から前記ピストンが受ける流体圧に抗して、前記シリンダへの前記ピストンの挿入量が減少する方向に前記ピストンを付勢するための付勢部材と
を備える粘度計測器。
【請求項2】
前記流体の流量を計測するように構成される流量計測器をさらに備える
請求項1に記載の粘度計測器。
【請求項3】
前記流量計測器は、
前記流入口または前記流出口に接続され、上側に向けて拡径するテーパ管と、
前記テーパ管に収容されるフロートと
を含む請求項2に記載の粘度計測器。
【請求項4】
前記流量計測器は、前記流入口よりも上流側に位置する
請求項2または3に記載の粘度計測器。
【請求項5】
前記流入口に流入した前記流体を前記シリンダに導くためのガイド内周面を含み、前記ピストンの一部が内側に配置されるガイドシリンダをさらに備え、
前記ガイド内周面から前記ピストンまでの径方向距離は、前記環状隙間の隙間寸法よりも大きい
請求項1乃至4の何れか1項に記載の粘度計測器。
【請求項6】
前記流入口は、前記ガイドシリンダの上流端であり、
前記ガイドシリンダは、軸方向における全長に亘り一定の内径を有するストレート管である
請求項5に記載の粘度計測器。
【請求項7】
前記流出口は、前記シリンダの下流端であり、
前記シリンダは、軸方向における全長に亘り一定の内径を有するストレート管である
請求項1乃至6の何れか1項に記載の粘度計測器。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の粘度計測器と、
前記流体としての潤滑油が循環するための循環路と、
前記潤滑油を前記循環路から前記粘度計測器の前記流入口に導くための案内路と、
前記粘度計測器の前記流出口から流出する前記潤滑油を前記循環路に戻すための戻し路と
を備える圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘度計測器、及び圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の粘度を計測するための粘度計測器が知られている。例えば、特許文献1に開示される粘度計測器では、流通管路に供給される流体の供給圧に応じて、パイプ内の浮動子がコイルバネを縮めながら下流側に移動する。浮動子の移動量は、浮動子に設けられた永久磁石の磁力の変化をホール素子が検出することにより特定される。特許文献1では、特定された浮動子の移動量に基づき、流体の粘度が計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、流体の流量が一定である場合に(即ち、流体の供給圧力が一定である場合に)、浮動子の移動量が流体の粘度と相関するという想定のもと粘度計測が実行される。しかしながら、流体の粘度は流体の供給圧に応じても変化し得るため、例えば流体の供給圧力が変動する計測条件下においては、正確な粘度計測ができないおそれがある。また、流体の粘度計測を行う粘度計測器は簡易である方が好ましい。
【0005】
本開示の目的は、流体圧力の影響を低減して流体の粘度を計測できる簡易な構成の粘度計測器、及び圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態に係る粘度計測器は、
シリンダと、
前記シリンダの内周面との間に環状隙間を形成するように前記シリンダ内に部分的に挿入されるピストンと、
前記環状隙間の上流側に設けられる流体の流入口と、
前記環状隙間の下流側に設けられる前記流体の流出口と、
前記流体から前記ピストンが受ける流体圧に抗して、前記シリンダへの前記ピストンの挿入量が減少する方向に前記ピストンを付勢するための付勢部材と
を備える。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機は、
上記記載の粘度計測器と、
前記流体としての潤滑油が循環するための循環路と、
前記潤滑油を前記循環路から前記粘度計測器の前記流入口に導くための案内路と、
前記粘度計測器の前記流出口から流出する前記潤滑油を前記循環路に戻すための戻し路と
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、流体圧力の影響を低減して流体の粘度を計測できる簡易な構成の粘度計測器、及び圧縮機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る粘度計測器の概念図である。
【
図2A】一実施形態に係る粘度計測器の詳細を示す概念図である。
【
図2B】他の実施形態に係る粘度計測器の詳細を示す概念図である。
【
図3】一実施形態に係る付勢部材を示す概念図である。
【
図5】一実施形態に係る圧縮機に設けられる粘度計測器の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0011】
<1.粘度計測器1の構成>もよう
図1は本開示の一実施形態に係る粘度計測器1の構成を示す概念図である。本実施形態の粘度計測器1は、流体の供給圧の影響を低減して流体の粘度を計測できるように構成されている。流体は液相であればどのような物質であってもよい。粘度の計測対象となる液相の流体は必ずしも純物質である必要はなく、別の物質(固相、液相、気相のいずれの状態であってもよい)が異物として混入されていてもよい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る粘度計測器1は、流体の流入口7と、流体の流出口8と、流入口7と流出口8との間に位置するシリンダ5と、シリンダ5内に部分的に挿入されるピストン4とを備える。ピストン4はシリンダ5と略同軸に配置される。また、シリンダ5は、シリンダ5の内周面6との間に環状隙間Wを形成するように挿入されており、従って、流入口7は環状隙間Wの上流側に設けられ、流出口8は環状隙間Wの下流側に設けられる。本実施形態では、流体が流入口7に流入して流出口8から流出するまでの過程において、ピストン4を下流側に押すこととなる。このときに発生する荷重は、流入口7と流出口8における流体の差圧に依存する。
【0013】
一実施形態に係る粘度計測器1は、ピストン4を付勢するための付勢部材12を備える。付勢部材12は、流体からピストン4が受ける流体圧に抗して、シリンダ5のピストン4への挿入量が減少する方向に(
図1の例では矢印R方向に)ピストン4を付勢するように構成される。
図1では付勢部材12が概念的に図示されているに過ぎず、付勢部材12の配置パターンは
図1に限定されない。仮に
図1で例示されるような、ピストン4と流出口8との間に付勢部材12が配置される構成が採用するのであれば、環状隙間Wから流れる流体を受ける円形プレートがシリンダ5の下流端に配置されればよい。円形プレートの中心軸線は、シリンダ5の軸方向と平行である。この円形プレートの中央部に流出口8を規定する貫通孔が設けられる。付勢部材12が円形プレートとピストン4とに連結されれば、付勢部材12は
図1のように配置できる。付勢部材12の他の配置パターンについては後述する。
【0014】
<2.測定原理>
上記構成を有する粘度計測器1において、流体の供給圧の影響を低減した粘度の測定が可能となる原理を以下に説明する。
【0015】
Q=-πDδ3/(12μ)×Δp/l ・・・式(1)
(Q:流体の流量、D:シリンダ5の内径、δ:環状隙間Wの径方向寸法、μ:流体の粘度、Δp:環状隙間Wの上流端と下流端の間における圧力差、l:環状隙間Wの流路長)
式(1)のうちで、D、δは、粘度計測器1の構造に基づき規定される定数であるため、定数Cを用いると式(1)は以下の式(X)のように表すことができる。
Q=(C/μ)×(Δp/l)・・・式(X)
【0016】
図1で例示される実施形態において、流入口7から流入した流体が環状隙間Wを経由して流出口8に向かって流れるとき、流入口7と流出口8の間の流体の差圧ΔPに依存する荷重F
pは、以下の式(2)によって表される。
F
p=πD
2/4×Δp ・・・式(2)
流入口7と流出口8との間における流体の圧力損失が粘度計測の観点から微小であるならば、ΔPは上記のΔpと実質的に同一とみなすことができ、式(2A)が得られる。
F
p=πD
2/4×Δp ・・・式(2A)
【0017】
流体が環状隙間Wを流れることに伴って、荷重Fpがピストン4に作用すると、ピストン4は付勢部材12の弾性変形量が増大する方向に移動する。このとき、荷重Fpと、付勢部材12の付勢力が釣り合うようにピストン4は配置される。仮に、付勢部材12の弾性変形量と、環状隙間Wの流路長lが等しくなるようにピストン4と付勢部材12が配置されているのであれば、以下の式(3)が成立する(なお、付勢部材12が自然長であるときに環状隙間Wが一定の流路長lを有するのであれば、式(3)のlを、流路長lの増分を示すΔlに置換すればよい。)。
k×l=Fp ・・・式(3)
(k:付勢部材12の弾性係数)
式(2A)と式(3)とに基づき、式(4)が得られる。
Δp/l=k/(πD2/4) ・・・式(4)
式(4)から了解される通り、Δp/lは粘度計測器1の構成に依存するkとDによって規定されており、定数である。つまり、流体の差圧Δpに応じて、環状隙間Wの流路長lは変動する構成が粘度計測器1において採用されている。換言すると、流体の差圧Δpに応じて、ピストン4の挿入量が変化する構成が粘度計測器1において採用されている。従って、Δpが増加すればlは増大し、Δpが減少すればlは減少する。改めて式(X)を参照すると、CとΔp/lがいずれも定数なので、流体の流量Qはμと相関(反比例)することが了解される。つまり、粘度計測器1における流体の流量Qを計測すれば、流体の粘度(粘性係数)μを計測することが可能となる。
【0018】
上記構成によれば、流体圧によって与えられる力Fpと、付勢部材12の付勢力が釣り合うようにピストン4は自動的に配置される。従って、Δpの値に関わらず、式(X)によって示されるΔp/lの値を一定にできる。Qとμとが反比例する関係を維持して流体は環状隙間Wを流れることができるので、流体圧力の影響を低減して、流体の粘度を計測することができる。また、上記の粘度計測は、シリンダ5と共に環状隙間Wを形成するピストン4を付勢部材12が付勢する簡易な構成によって実現できる。以上より、流体圧力の影響を低減して流体の粘度を計測できる簡易な構成の粘度計測器1が実現する。
【0019】
以下、粘度計測器1の更なる構成の詳細を例示する。
【0020】
<3.流量計測器20の構成>
図1で例示されるように、本開示の一実施形態に係る粘度計測器1は、流体の流量を計測するように構成される流量計測器20をさらに備える。
図1で示される一実施形態では、流量計測器20は、流出口8よりも下流側に位置し、より具体的には流出口8に接続される流路に流量計測器20は設けられる。他の実施形態では、流量計測器20は流入口7よりも上流側に位置してもよく、より具体的には流入口7に接続される流路に流量計測器20は設けられてもよい。上記構成によれば、流量計測器20を備える粘度計測器1は、流体の流量を計測する機能を併せ持つので、流体の粘度を計測する利便性が向上する。
【0021】
なお、他の実施形態では、粘度計測器1は流量計測器20を備えていなくてもよい。粘度計測器1とは別の流量計測手段が、粘度計測器1に接続する流体流路に設けられていてもよい。
【0022】
続いて、
図2A、
図2Bを参照し、流量計測器20の構成の詳細を例示する。
図2Aは、一実施形態に係る粘度計測器1A(1)の概念図であり、
図2Bは、他の実施形態に係る粘度計測器1B(1)の概念図である。
【0023】
図2A、
図2Bで例示される流量計測器20A、20B(20)は、フロート式流量計である。流量計測器20は、流入口7または流出口8に接続されると共に上側に向けて拡径するテーパ管21と、テーパ管21に収容されるフロート25とを含む。
図2Aで例示されるテーパ管21A(21)では、その下端が流出口8と連通しており、
図2Bで例示されるテーパ管21B(21)では、その上端が流入口7と連通している。両図で示されるテーパ管21は、流体の流路109に接続される。
【0024】
図2A、
図2Bで例示されるいずれの実施形態においても、テーパ管21を流れる流体の流量は、粘度計測器1の環状隙間Wを流れる流体の流量に依存する。そして、テーパ管21に収容されるフロート25は、上記流体の流量に応じた位置に配置される。より具体的には、流体がテーパ管21を上に流れるほど流体の勢いは弱くなり、流体がフロート25を押し上げる力は弱まる。この原理が適用されることで、フロート25は、環状隙間Wを流れる隙間を流れる流量に応じた位置(テーパ管21の軸線方向位置)に配置される。
【0025】
本開示の一実施形態に係るテーパ管21は、透明な材料によって構成されると共に、目視可能な位置に配置される。この場合、目視で確認するフロート25の位置に基づいて、流体の粘度を特定することができる。本開示の一実施形態では、テーパ管21に目盛り120が付与されており、フロート25の位置を目盛り120から読み取ってもよい。さらに好ましくは、流体の粘度の適正範囲に対応する目盛り120がテーパ管21に付与される。この場合、流体の粘度が適正範囲に収まるか否かを、目盛り120の確認によって判断することができる。
【0026】
上記構成によれば、流体の流量と流体の粘度とは相関するので、フロート25の位置を確認するだけで流体の粘度を把握することができる。よって、流体の粘度を可視化した粘度計測器1が実現する。
【0027】
図2Bで例示される実施形態では、流量計測器20Bは、流入口7よりも上流側に位置する。つまり、テーパ管21は、流入口7と連通する上端を有する。これにより、流体は、環状隙間Wに流入する前にテーパ管21を通過する。上記構成によれば、流体が環状隙間Wに流入することに伴い発生する圧力損失により流体内で気泡が発生する場合でも、気泡がテーパ管21を流れることが抑制される。従って、流量計測器20は気泡の影響を受けることなく流体の流量を正確に計測することができる。よって、流体の粘度の正確な計測が実現する。なお、上記の気泡は、流体に混入する別の物質が圧力損失に伴って気化することにより発生する気泡であってもよい。
【0028】
<4.ガイドシリンダ18の構成>
図2A、
図2Bで例示されるように、粘度計測器1A、1B(1)は、ピストン4の一部が内側に配置されるガイドシリンダ18をさらに備える。ガイドシリンダ18は、流入口7に流入した流体をシリンダ5に導くためのガイド内周面19を含む。ガイド内周面19からピストン4までの径方向距離(寸法M)は、ガイド内周面19の隙間寸法(寸法δ)よりも大きい。より具体的には、寸法Mは、寸法δに対して20倍以上の大きさを有する値である。上記構成によれば、ガイド内周面19からピストン4までの径方向距離を大きくすることによって、流体がガイド内周面19とピストン4との間に流入することに伴う圧力損失を低減できる。流体の圧力損失の影響が、シリンダ5におけるピストン4の挿入量に及ぼすのを抑制できるので、流体の粘度の正確な計測が実現する。
【0029】
図2A、
図2Bで例示される実施形態では、流入口7はガイドシリンダ18の上流端である。また、ガイドシリンダ18は、軸方向(
図2A、
図2Bの例では鉛直方向)における全長に亘り一定の内径を有するストレート管である。上記構成によれば、ガイドシリンダ18の形状を簡易にすると共に、ガイドシリンダ18における流体の圧力損失を低減することができる。
【0030】
図2A、
図2Bで例示される実施形態では、流出口8はシリンダ5の下流端である。また、シリンダ5は、軸方向における全長に亘り一定の内径を有するストレート管である。上記構成によれば、環状隙間Wにおける流体の流量と、流出口8における流体の流量が同じになるので、流体の流量と式(X)とに基づいて流体の粘度を正確に計測することができる。
【0031】
<5.付勢部材12の構成の例示>
図2A、
図2B、
図3を参照し、付勢部材12の構成を例示する。
図3は、他の実施形態に係る粘度計測器1C(1)を概念的に示す図である。なお、
図3では、フロート25(
図2A等参照)の図示を省略している。
【0032】
図2A、
図2Bで例示されるピストン4A、4B(4)は、シリンダ5よりも上流側に位置するフランジ41を含む。同図で例示される付勢部材12A、12B(12)は、フランジ41とピストン4との間に配置されるコイルバネである。コイルバネは、流体からピストン4が受ける流体圧に抗して、ピストン4を上流側に向けて付勢するように構成される。
図3で例示されるピストン4C(4)の一部はシリンダ5に配置され、ピストン4Cの他部はガイドシリンダ18に配置される。本例の付勢部材12C(12)は、ガイドシリンダ18の上流端29と、ピストン4Cとに連結される少なくとも1本の引張りスプリングである。
図3の例では、2本の引張りスプリングとして、2つの付勢部材12Cが図示される。本実施形態では、流入口7が形成される上流端29とピストン4Cとのそれぞれには、引張りスプリングのフックと係合する係合部が設けられる(詳細な図示は省略する)。
【0033】
<6.粘度計測器1が設けられる圧縮機10の例示>
上述した計測原理によれば、流体が流れるための流路が設けられる種々の装置に粘度計測器1を搭載することができる。以下ではその一例として、粘度計測器1が圧縮機10に設けられる実施形態を例示する。
【0034】
図4は、本開示の一実施形態に係る圧縮機10の概念的な断面図である。圧縮機10は、例えば、凝縮器及び蒸発器などの複数の熱交換器を含んだ冷凍サイクルに組み込まれる。冷凍サイクルとしては、2元冷凍サイクル、2段圧縮冷凍サイクル、または逆ブレイトン冷凍サイクルなどが挙げられる。この場合、圧縮機10によって圧縮されるガスは冷媒ガスである。他の実施形態では、圧縮機10は内燃機関などに組み込まれてもよく、圧縮機10によって圧縮されるガスは燃焼用ガスであってもよい。
【0035】
本開示の一実施形態に係る圧縮機10はレシプロ圧縮機である。圧縮機10は、クランクケース16と、クランクケース16に収容される少なくとも1つの気筒40を備える。気筒40はシリンダピストン42を収容する。圧縮機10に設けられるモータ54は、スラスト軸受50を介してクランクケース16によって支持されるクランク軸48と連結する。このモータ54が駆動すると、クランク軸48及びコネクティングロッド52などを介して駆動力がシリンダピストン42に伝わり、シリンダピストン42は昇降する。これにより、クランクケース16の内部に形成される吸入空間Siから気筒40の気筒室Scにガスが流入して圧縮される。圧縮されたガスは気筒40から吐出空間Sdに排出される。例えば圧縮機10が冷凍サイクルに組み込まれる実施形態においては、冷媒ガスが上記の圧縮機10の動作によって圧縮される。
【0036】
図4で例示される実施形態において、粘度の計測対象となる流体は、潤滑油rである。圧縮機10は、被潤滑部に供給される潤滑油rが流体として流れるための循環路22を備える。本例では、循環路22にオイルポンプ26が設けられており、オイルポンプ26の駆動によって、潤滑油rは循環路22を循環し、被潤滑部に供給される。被潤滑部は、圧縮機10に設けられる回転体または回転体支持部の少なくとも一方を含む。より具体的な一例として、被潤滑部はクランク軸48またはスラスト軸受50の少なくとも一方を含む。被潤滑部に供給された潤滑油rは、その後、オイル貯留部に設けられたオイルフィルタ56を通過して、オイルポンプ26に戻る。
【0037】
本開示の一実施形態に係る圧縮空気は、上述した粘度計測器1と、潤滑油rを循環路22から粘度計測器1の流入口7(
図1参照)に導くための案内路101と、流出口8(
図1参照)から流出する潤滑油rを循環路22に戻すための戻し路102とを備える。案内路101と戻し路102はいずれも流体としての潤滑油rの流路である。
案内路101は、循環路22を構成する高圧側流路に接続され、戻し路102は、循環路22を構成する低圧側流路に接続されればよい。例えば、高圧側流路はオイルポンプ26よりも下流側かつ被潤滑部よりも上流側の流路であり、低圧側流路は被潤滑部よりも下流側かつオイルポンプ26よりも上流側の流路である。より具体的な一例として低圧側流路は、循環路22に設けられるオイル貯留部であってもよい。
【0038】
圧縮機10に上述した粘度計測器1が設けられる利点は以下の通りである。
潤滑油rが適正に機能するには潤滑油rの粘度が適正範囲に収まる必要がある。仮に潤滑油rの粘度が低過ぎると潤滑油rの潤滑性能が著しく低下し、潤滑油rの粘度が高過ぎると圧縮機10の動力損失が著しく増加する。また、潤滑油rの粘度は、潤滑油rの経年劣化または異物混入(例えば冷媒ガス)などによっても変化するため、圧縮機10において潤滑油rの粘度管理を適正に行う必要がある。
一方で、潤滑油rの粘度が適正範囲に収まっているかを判定する際に、潤滑油rの供給圧力に応じて粘度が変化しうるため、例えば特許文献1で開示される計測方法が適用されると、圧縮機10の稼働時において潤滑油rの粘度が適正範囲に収まるか正確に判定ができないおそれがある。
この点、上記構成によれば、既述した理由によって、流体としての潤滑油rの供給圧力の影響を低減して潤滑油rの粘度を計測できる簡易な構成の圧縮機10を実現することができる。
【0039】
なお、圧縮機10に搭載される粘度計測器1は、上述した幾つかの実施形態に係る粘度計測器1のいずれであってもよいが、
図2Bを参照して例示した粘度計測器1が搭載されることがより好ましい。なぜなら、循環路22に冷媒ガスが異物として混入している場合には、潤滑油rが環状隙間Wの流入するときの圧力損失によって、冷媒ガスが気化して気泡が発生するおそれがあるからである。この点、
図2Bで例示される実施形態では、冷媒ガスの気泡が発生した場合であっても、該気泡が流量計測器20に流れることが抑制されるので、流体の正確な粘度計測が実現する。
【0040】
図5は、圧縮機10に設けられる粘度計測器1のより詳細な構成を例示する概念図である。粘度計測器1は、圧縮機10のクランクケース16に例えば複数の締結部材110によって締結される。これにより、粘度計測器1は外部から視認可能となる。従って、目盛り120がテーパ管21に付与される構成が採用される場合、フロート25の鉛直方向位置を目盛り120から容易に読み取ることができ、循環路22を循環する潤滑油rが適正範囲に収まるか否かを容易に判断できる。
【0041】
<7.まとめ>
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0042】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係る粘度計測器(1)は、
シリンダ(5)と、
前記シリンダの内周面(6)との間に環状隙間(W)を形成するように前記シリンダ内に部分的に挿入されるピストン(4)と、
前記環状隙間の上流側に設けられる流体の流入口(7)と、
前記環状隙間の下流側に設けられる前記流体の流出口(8)と、
前記流体から前記ピストンが受ける流体圧に抗して、前記シリンダへの前記ピストンの挿入量が減少する方向に前記ピストンを付勢するための付勢部材(12)と
を備える。
【0043】
発明者らの知見によれば、環状隙間を流れる流体の流量(Q)は以下の式によって表される。
Q=(C/μ)×(Δp/l)・・・式(X)
(C:定数、μ:流体の粘度、Δp:流入口と流出口との間の圧力差、l:環状隙間の流路長)
上記1)の構成によれば、流体圧によって与えられる荷重と、付勢部材の付勢力が釣り合うようにピストンは自動的に配置される。従って、Δpの値に関わらず、式(X)によって示されるΔp/lの値を一定にできる。Qとμとが互いに反比例する関係を維持して流体は環状隙間を流れることができるので、流体圧力の影響を低減して、流体の粘度を計測することができる。また、上記計測は、シリンダと共に環状流路を形成するピストンを付勢部材が付勢する簡易な構成によって実現できる。以上より、流体圧力の影響を低減して流体の粘度を計測できる簡易な構成の粘度計測器が実現する。
【0044】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の粘度計測器は、
前記流体の流量を計測するように構成される流量計測器をさらに備える。
【0045】
上記2)の構成によれば、粘度計測器は、流体の流量を計測する機能を併せもつので、流体の粘度を計測する利便性を向上することができる。
【0046】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載の粘度計測器であって、
前記流量計測器は、
前記流入口または前記流出口に接続され、上側に向けて拡径するテーパ管(21)と、
前記テーパ管に収容されるフロート(25)と
を含む。
【0047】
上記3)の構成によれば、流体の流量と流体の粘度とは相関するので、フロートの位置を確認するだけで流体の粘度を把握することができる。よって、流体の粘度を可視化した粘度計測器が実現する。
【0048】
4)幾つかの実施形態では、上記2)または3)に記載の粘度計測器であって、
前記流量計測器は、前記流入口よりも上流側に位置する。
【0049】
上記4)の構成によれば、流体が環状隙間に流入することによる圧力損失により気泡が発生する場合であっても、気泡が流量計測器を流れることが抑制され、流量計測器は気泡の影響を受けることなく流体の流量を正確に計測できる。よって、流体の粘度の正確な計測が実現する。
【0050】
5)幾つかの実施形態では、上記1)から4)のいずれかに記載の粘度計測器は、
前記流入口に流入した前記流体を前記シリンダに導くためのガイド内周面(19)を含み、前記ピストンの一部が内側に配置されるガイドシリンダ(18)をさらに備え、
前記ガイド内周面から前記ピストンまでの径方向距離(寸法M)は、前記環状隙間の隙間寸法(寸法δ)よりも大きい。
【0051】
上記5)の構成によれば、ガイド内周面からピストンまでの径方向距離を大きくすることによって、流体がガイド内周面とピストンとの間に流入することに伴う圧力損失を低減することができる。流体の圧力損失の影響が、シリンダにおけるピストンの挿入量に及ぼすのを抑制できるので、流体の粘度の正確な計測が実現する。
【0052】
6)幾つかの実施形態では、上記5)に記載の粘度計測器であって、
前記流入口は、前記ガイドシリンダの上流端であり、
前記ガイドシリンダは、軸方向における全長に亘り一定の内径を有するストレート管である。
【0053】
上記6)の構成によれば、ガイドシリンダの形状を簡易にすると共に、ガイドシリンダにおける流体の圧力損失を低減することができる。
【0054】
7)幾つかの実施形態では、上記1)から6)のいずれかに記載の粘度計測器であって、
前記流出口は、前記シリンダの下流端であり、
前記シリンダは、軸方向における全長に亘り一定の内径を有するストレート管である。
【0055】
上記7)の構成によれば、環状隙間における流体の流量と、流出口における流体の流量が同じになるので、流体の流量と式(X)とに基づいて流体の粘度を正確に計測することができる。
【0056】
8)本開示の少なくとも一実施形態に係る圧縮機(10)は、
上記1)乃至7)の何れかに記載の粘度計測器(1)と、
前記流体としての潤滑油(r)が循環するための循環路(22)と、
前記潤滑油を前記循環路から前記粘度計測器の前記流入口に導くための案内路(101)と、
前記粘度計測器の前記流出口から流出する前記潤滑油を前記循環路に戻すための戻し路(102)と
を備える。
【0057】
潤滑油の粘度は、潤滑油の経年劣化または異物混入などによって変化する。潤滑油の粘度が適正範囲に収まっているかを判定する際に、潤滑油の供給圧力に応じて粘度が変化しうるため、例えば従来型の高額なセンサを用いたとしても、圧縮機の稼働時において潤滑油の粘度が適正範囲に収まるか正確に判定ができないおそれがある。この点、上記8)の構成によれば、上記1)と同様の理由によって、流体としての潤滑油の供給圧力の影響を低減して潤滑油の粘度を計測できる簡易な構成の圧縮機を実現することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 :粘度計測器
4 :ピストン
5 :シリンダ
6 :内周面
7 :流入口
8 :流出口
9 :上流端
10 :圧縮機
12 :付勢部材
18 :ガイドシリンダ
19 :ガイド内周面
20 :流量計測器
21 :テーパ管
22 :循環路
25 :フロート
101 :案内路
102 :戻し路
r :潤滑油