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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094473
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
H01L21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209976
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保埜 一平
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
【テーマコード(参考)】
5F152
【Fターム(参考)】
5F152LL05
5F152LN03
5F152LN12
5F152MM05
5F152NN03
5F152NN05
5F152NN27
5F152NP09
5F152NQ09
(57)【要約】
【課題】GaNエピタキシャル層の厚みを厚くすることなく、また、他の特殊な原料を用いることなく結晶性が向上した窒化物半導体基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に窒化物半導体薄膜が成膜されている窒化物半導体基板であって、前記窒化物半導体薄膜は、前記基板上に成膜された応力緩和層と、該応力緩和層上に成膜され、炭素がドープされたGaN層とを有しており、前記GaN層は、炭素高濃度層と、該炭素高濃度層に挟まれ、該炭素高濃度層よりも炭素濃度が75%以上低い炭素低濃度層とを備えたものである窒化物半導体基板。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に窒化物半導体薄膜が成膜されている窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体薄膜は、前記基板上に成膜された応力緩和層と、該応力緩和層上に成膜され、炭素がドープされたGaN層とを有しており、
前記GaN層は、炭素高濃度層と、該炭素高濃度層に挟まれ、該炭素高濃度層よりも炭素濃度が75%以上低い炭素低濃度層とを備えたものであることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項2】
前記炭素高濃度層の炭素濃度が、7×1017atoms/cm以上1×1021atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体基板。
【請求項3】
前記炭素低濃度層の炭素濃度が、1×1015atoms/cm以上5×1017atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体基板。
【請求項4】
前記炭素低濃度層の膜厚が200nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項5】
前記基板が、シリコン基板、または、表層にシリコン薄膜を有する基板であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項6】
前記シリコン基板および前記シリコン薄膜の結晶軸方位が<111>であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項7】
前記窒化物半導体薄膜の総膜厚が10μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項8】
前記GaN層の(0002)面の半値幅が、315arcsec以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項9】
前記GaN層は、前記炭素高濃度層と前記炭素低濃度層とが交互に成膜されており、
前記炭素高濃度層に挟まれた前記炭素低濃度層を2層以上備えていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項10】
基板上に窒化物半導体薄膜を成膜する窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記窒化物半導体薄膜として、前記基板上の応力緩和層と、該応力緩和層上の炭素をドープしたGaN層を成膜するとき、
前記GaN層として、炭素高濃度層と、該炭素高濃度層に挟まれ、該炭素高濃度層よりも炭素濃度が75%以上低い炭素低濃度層とを成膜することを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記炭素高濃度層の炭素濃度を、7×1017atoms/cm以上1×1021atoms/cm以下とすることを特徴とする請求項10に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記炭素低濃度層の炭素濃度を、1×1015atoms/cm以上5×1017atoms/cm以下とすることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記炭素低濃度層の膜厚を200nm以下とすることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記基板として、シリコン基板、または、表層にシリコン薄膜を有する基板を用いることを特徴とする請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記シリコン基板および前記シリコン薄膜の結晶軸方位を<111>とすることを特徴とする請求項10から請求項14のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記窒化物半導体薄膜の総膜厚を10μm以下とすることを特徴とする請求項10から請求項15のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項17】
前記GaN層として、(0002)面の半値幅が315arcsec以下のものを成膜することを特徴とする請求項10から請求項16のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項18】
前記GaN層として、前記炭素高濃度層と前記炭素低濃度層とを交互に成膜し、
前記炭素高濃度層に挟まれた前記炭素低濃度層を2層以上成膜することを特徴とする請求項10から請求項17のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項19】
前記炭素低濃度層および前記炭素高濃度層の炭素濃度を、成膜温度の調整によって制御することを特徴とする請求項10から請求項18のいずれか一項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜製造方法のひとつであるMOCVD法は、大口径化や量産性に優れており、均質な薄膜結晶を成膜できるため、広く用いられている。GaNに代表される窒化物半導体はSiの材料としての限界を超える次世代の半導体材料として期待されている。
GaNは飽和電子速度が大きいという特性から高周波動作可能なデバイスの作製が可能であり、また絶縁破壊電界も大きいことから、高出力での動作が可能である。また、軽量化や小型化、低消費電力化も見込める。
近年、5G等に代表されるような通信速度の高速化、またそれ伴う高出力化の要求により、高周波、且つ高出力で動作可能なGaN HEMTが注目されている。また、GaNはパワーデバイス用途としても用いられる。
【0003】
GaNデバイスではしばしばGaN層の結晶性が重要となる。GaN層に結晶欠陥が多く含まれると、そこを起点としたリークが発生したり、半導体デバイスの性能や寿命を低下させたりする可能性がある。したがってGaNを特定の基板上にエピタキシャル成長させる際、耐圧を確保しつつ、GaN層内に発生する転位等の結晶欠陥を軽減し、結晶性を向上させることは重要である。
【0004】
なお、窒化物半導体基板の製造については例えば特許文献1~3が挙げられる。
特許文献1では、基体上に第1半導体層(AlGaN)、第2半導体層(AlGaN)、第3半導体層(炭素を含む第1GaN領域+炭素を含まない第2GaN領域)、第4半導体層(AlGaN)が成膜されたものが記載されている。
特許文献2では、シリコン基板上に第1層(応力発生層:組成の異なる複数の窒化物半導体結晶層)、炭素を含む第2層(GaN:上層部分と下層部分)が成膜されており、第2層の下層部分の平均炭素濃度が上層部分より低いものが記載されている。
特許文献3では、下地基板上にIII族窒化物半導体からなる初期核形成層、バッファ層、活性層が成膜されており、バッファ層内が4つの領域V~Vに分かれており、それらの炭素濃度の大小について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-98939号公報
【特許文献2】特開2021-150444号公報
【特許文献3】特開2016-219690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GaNエピタキシャル層の厚さを厚くすることで結晶性が向上することが知られているが、GaN層の厚さが厚いと、複雑なbuffer層が必要、成長時間が長くなる、原料コストが増加する、クラックが発生する、基板が塑性変形しやすくなる、といった問題がある。
【0007】
また、アイランド状に成膜したSiN中間層の挿入によって転位を止め、結晶性を向上させる技術等が公知であるが、SiN成膜の為にはモノシラン等の特殊な原料を使用する必要がある上、成長時間も長くなるためコスト上昇やスループット低下となる。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためなされたもので、GaNエピタキシャル層の厚みを厚くすることなく、また、他の特殊な原料を用いることなく結晶性が向上した窒化物半導体基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、基板上に窒化物半導体薄膜が成膜されている窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体薄膜は、前記基板上に成膜された応力緩和層と、該応力緩和層上に成膜され、炭素がドープされたGaN層とを有しており、
前記GaN層は、炭素高濃度層と、該炭素高濃度層に挟まれ、該炭素高濃度層よりも炭素濃度が75%以上低い炭素低濃度層とを備えたものであることを特徴とする窒化物半導体基板を提供する。
【0010】
このような本発明の窒化物半導体基板であれば、GaN層の炭素高濃度層で耐圧を確保しつつ、炭素低濃度層で転位を低減することができる。したがってGaN層の結晶性を向上させることができる。しかも、GaN層の厚みを厚くしなくとも、また従来法のように特殊な原料を用いずとも、その結晶性の向上が可能である。
【0011】
このとき前記炭素高濃度層の炭素濃度が、7×1017atoms/cm以上1×1021atoms/cm以下のものとすることができる。
【0012】
炭素濃度が7×1017atoms/cm以上であれば、より確実に耐圧を保持することができる。また、1×1021atoms/cm以下であれば、成膜温度の調整だけで炭素濃度の変更が可能である。
【0013】
また前記炭素低濃度層の炭素濃度が、1×1015atoms/cm以上5×1017atoms/cm以下のものとすることができる。
【0014】
炭素濃度が1×1015atoms/cm以上であれば、成膜温度の調整だけで炭素濃度の変更が可能である。また、5×1017atoms/cm以下であれば、応力緩和層からの転位を曲げる(止める)層として一層確実に機能することができる。
【0015】
また前記炭素低濃度層の膜厚が200nm以下のものとすることができる。
【0016】
このような膜厚であれば、相対的に炭素高濃度層の厚さを厚くでき、耐圧をより高く保持することができる。
【0017】
また前記基板が、シリコン基板、または、表層にシリコン薄膜を有する基板のものとすることができる。
【0018】
これらの基板であれば比較的安価な材料であるので製造コストが抑えられる。
【0019】
また前記シリコン基板および前記シリコン薄膜の結晶軸方位が<111>のものとすることができる。
【0020】
このような結晶軸方位のものであればGaNを成長させるのに最適である。
【0021】
また前記窒化物半導体薄膜の総膜厚が10μm以下のものとすることができる。
【0022】
このように窒化物半導体薄膜が比較的薄い場合でも転位を十分低減することができる。
【0023】
また前記GaN層の(0002)面の半値幅が、315arcsec以下のものとすることができる。
【0024】
このようなGaN層であれば結晶性が特に優れたものである。
【0025】
また前記GaN層は、前記炭素高濃度層と前記炭素低濃度層とが交互に成膜されており、
前記炭素高濃度層に挟まれた前記炭素低濃度層を2層以上備えているものとすることができる。
【0026】
このように炭素低濃度層を2層以上備えたものであれば、より確実に転位を低減できる。
【0027】
また本発明は、基板上に窒化物半導体薄膜を成膜する窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記窒化物半導体薄膜として、前記基板上の応力緩和層と、該応力緩和層上の炭素をドープしたGaN層を成膜するとき、
前記GaN層として、炭素高濃度層と、該炭素高濃度層に挟まれ、該炭素高濃度層よりも炭素濃度が75%以上低い炭素低濃度層とを成膜することを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法を提供する。
【0028】
このような製造方法であれば耐圧を保持しつつ、転位の少ない結晶性の良いGaN層を有する窒化物半導体基板を確実に製造することができる。しかも特殊な原料を用いずに、GaN層の厚みも抑えて製造することも可能である。
【0029】
このとき、前記炭素高濃度層の炭素濃度を、7×1017atoms/cm以上1×1021atoms/cm以下とすることができる。
【0030】
炭素濃度を7×1017atoms/cm以上とすれば、より確実に耐圧を保持することができる。また、1×1021atoms/cm以下とすれば、成膜温度の調整だけで炭素濃度の変更が可能である。
【0031】
また前記炭素低濃度層の炭素濃度を、1×1015atoms/cm以上5×1017atoms/cm以下とすることができる。
【0032】
炭素濃度が1×1015atoms/cm以上とすれば、成膜温度の調整だけで炭素濃度の変更が可能である。また、5×1017atoms/cm以下とすれば、応力緩和層からの転位を曲げる(止める)層として一層確実に機能することができる。
【0033】
また前記炭素低濃度層の膜厚を200nm以下とすることができる。
【0034】
このような膜厚とすれば、相対的に炭素高濃度層の厚さを厚くでき、耐圧をより高く保持することができる。
【0035】
また前記基板として、シリコン基板、または、表層にシリコン薄膜を有する基板を用いることができる。
【0036】
これらの基板を用いれば比較的安価な材料であるので製造コストが抑えられる。
【0037】
また前記シリコン基板および前記シリコン薄膜の結晶軸方位を<111>とすることができる。
【0038】
このような結晶軸方位のものを用いればGaNを成長させるのに最適である。
【0039】
また前記窒化物半導体薄膜の総膜厚を10μm以下とすることができる。
【0040】
このように窒化物半導体薄膜が比較的薄い場合でも転位を十分低減することができる。
【0041】
また前記GaN層として、(0002)面の半値幅が315arcsec以下のものを成膜することができる。
【0042】
このような結晶性が特に優れたGaN層を成膜することができる。
【0043】
また前記GaN層として、前記炭素高濃度層と前記炭素低濃度層とを交互に成膜し、
前記炭素高濃度層に挟まれた前記炭素低濃度層を2層以上成膜することができる。
【0044】
このような炭素低濃度層を2層以上成膜すれば、より確実に転位を低減できる。
【0045】
また前記炭素低濃度層および前記炭素高濃度層の炭素濃度を、成膜温度の調整によって制御することができる。
【0046】
このようにすれば比較的容易に炭素低濃度層、炭素高濃度層を形成することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の窒化物半導体基板およびその製造方法であれば、特殊な原料を用いたり、GaN層を厚くしたりしなくとも、耐圧特性および結晶性が良好なGaN層を有する窒化物半導体基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の窒化物半導体基板の一例を示す概略断面図である。
図2】実施例1、2、比較例1におけるC-dope GaN層の結晶性の評価結果を示すグラフである。
図3】実施例1におけるC-dope GaN層を含む断面TEM像を示す観察図である。
図4】実施例2におけるSIMSプロファイルの結果を示すグラフである。
図5】比較例1におけるSIMSプロファイルの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述したようにGaN層の結晶性が向上した窒化物半導体基板が求められていた。本発明者らが鋭意研究を行ったところ、窒化物半導体膜(応力緩和層とその上の炭素ドープGaN層)を基板上に有し、その炭素ドープGaN層において、炭素高濃度層と炭素低濃度層(炭素高濃度層に挟まれ、かつ、炭素高濃度層より炭素濃度が75%以上低い層)を有する窒化物半導体基板であれば、GaN層の厚みを厚くしなくとも、また、従来法のようなモノシランなどの特殊な原料を用いなくとも結晶性の向上を図れること、耐圧も確保できることを見出し、本発明を完成させた。
【0050】
図1に本発明の窒化物半導体基板の一例を示す。本発明の窒化物半導体基板1は、基板2と該基板2上にエピタキシャル成長により成膜された窒化物半導体薄膜3を有している。この窒化物半導体薄膜3は、基板2の側から順に、応力緩和層4、炭素がドープされたGaN層(C-dope GaN層)5を備えている。
【0051】
基板2は特に限定されないが、例えばシリコン基板とすることができる。また、表層にシリコン薄膜を有する基板としても良い。また、SiC基板、貼り合わせ基板など、どのような基板を用いても同様の効果(前述したようなGaN層5の結晶性の向上等)が得られる。
特には上記のようにシリコン基板や、表層にシリコン薄膜を有する基板であれば安価であり製造コストが抑えられたものとすることができるので好ましい。また、この場合、そのシリコン基板やシリコン薄膜に関し、結晶軸方位が<111>であると好ましい。それらの上にGaNを成長させるのに最適なためである。
【0052】
応力緩和層4は、AlN、AlGaNおよびGaN等のIII族窒化物半導体薄膜がエピタキシャル成長されたものとすることができる。例えば、基板2の直上にAlN層、その上にAlGaN層、さらにその上にAlN、AlGaN、GaNから2つないしは3つが数nmずつ成膜された超格子Buffer層が成膜されたものとすることができる。超格子Buffer層までの構造はこれに限らず、AlGaN層が成膜されていない場合や、AlGaN層上にさらにAlN層が成膜されている場合もある。また、Al組成を変化させたAlGaN層を複数層成膜させたものとすることもできる。この応力緩和層4の膜厚は用途によって変更されるため、特に限定されない。
【0053】
炭素ドープのGaN層5は炭素高濃度層6(2層以上)および炭素低濃度層7(1層以上)を有する。そして、炭素高濃度層6により炭素低濃度層が挟まれている構造とする事で、応力緩和層4の基板2側からエピタキシャル成長方向に伸びてくる転位を曲げてGaN層5の結晶性を向上させることができる。この効果を十分に得るには、炭素低濃度層7の炭素濃度は炭素高濃度層6よりも体積濃度[atoms/cm]で75%以上(100%未満)低くする必要がある(言い換えると以下の関係である。炭素高濃度層6の炭素濃度の0%<炭素低濃度層7の炭素濃度≦炭素高濃度層6の炭素濃度の25%)。
【0054】
ここで、炭素高濃度層6で挟まれた炭素低濃度層7は1層だけでなく複数層あっても良い。すなわち、応力緩和層4側から順に、炭素高濃度層、炭素低濃度層、炭素高濃度層、炭素低濃度層、炭素高濃度層…のように炭素高濃度層6と炭素低濃度層7とが交互に複数回繰り返して成膜されている構造とすることができる。このような繰り返し構造であれば、より一層確実に上記の転位を低減でき、優れた結晶性を有するGaN層5となる。図1では炭素高濃度層6が4層、炭素低濃度層7が3層存在する繰り返し構造となっている。
なおこの場合、「炭素高濃度層6よりも炭素濃度が75%以上低い炭素低濃度層7」という関係は、どのような層の組み合わせでも成り立っている。例えば、全ての炭素高濃度層6のうち最も低い炭素濃度を有する層と、全ての炭素低濃度層7のうち最も高い層とについて比較しても上記関係を満たしている。
【0055】
このような本発明であれば、良好な結晶性を確保するために、従来法のようにわざわざモノシランのような特殊な原料を用いる必要も無い。またGaN層5の厚みを厚くしなくとも結晶性の向上を図れるので、厚みを厚くすることによる弊害(前述したような成膜時間やコストの増加、クラックの発生など)を防ぐことができる。
このGaN層5には炭素がドープされているため(特には炭素高濃度層6が存在するため)、GaN層5の耐圧特性も十分なものとすることができる。
【0056】
ここで炭素高濃度層6および炭素低濃度層7における炭素濃度は上記関係を満たしていれば良く、限定されないものの、特には以下のような濃度範囲から選択することができる。
炭素高濃度層6における炭素濃度が7×1017atoms/cm以上の場合、より確実に耐圧を保持することができる。また、1×1021atoms/cm以下の場合、エピタキシャル成長での成膜温度の調整だけで炭素濃度の変更が可能であり、簡便である。
また炭素低濃度層7における炭素濃度については、1×1015atoms/cm以上の場合、エピタキシャル成長での成膜温度の調整だけで炭素濃度の変更が可能であり、簡便である。また、5×1017atoms/cm以下の場合、応力緩和層4からの転位をより確実に曲げることができる。
【0057】
また炭素低濃度層7の膜厚(複数層ある場合は、各層の膜厚)を例えば200nm以下(ただし0nmより大)に抑えたものとすることで、炭素高濃度層6の膜厚を相対的に厚くすることができるため、GaN層5の耐圧をより高めることが可能である。
また、窒化物半導体薄膜3(応力緩和層4とGaN層5を含む)の総膜厚は特に限定されないが、例えば10μm以下とすることができる。応力緩和層4を含めてこのような比較的薄い場合であっても、転位が十分に低減されて結晶性が向上したGaN層5となる。
特には、GaN層5において、(0002)面の半値幅が315arcsec以下(ただし0arcsecより大)という極めて優れた結晶性を有する窒化物半導体基板となる。
【0058】
また、以上のようなエピタキシャル層の表層側には、必要に応じてデバイス層(不図示)を設けることができる。デバイス層は、2次元電子ガスが発生する結晶性の高い層(チャネル層)(GaN層)、2次元電子ガスを発生させるための層(バリア層)、最表層にCap層を設けた構造とすることができる。バリア層はAl組成が例えば20%程度のAlGaNを用いることができるが、その他ではInGaN等も用いることができ、これに限定されない。Cap層は例えばGaN層やSiN層とすることもでき、これに限定されない。また、これらのデバイス層の厚さやバリア層のAl組成は、デバイスの設計によって変更可能である。
【0059】
本発明の窒化物半導体基板の製造方法について説明する。
MOCVD反応炉において、シリコン基板等の基板2の上に、窒化物半導体薄膜3として、最初に、AlN、AlGaNおよびGaN等からなる応力緩和層4をエピタキシャル成長する。
次に、まず炭素高濃度層6をエピタキシャル成長する。その後、炭素高濃度層6よりも炭素濃度が75%以上低い炭素低濃度層7と、該炭素低濃度層7の上に別の炭素高濃度層6とを順にエピタキシャル成長し、炭素高濃度層6に挟まれた炭素低濃度層7を有する構造を得る。必要に応じて、さらに炭素低濃度層7と炭素高濃度層6のエピタキシャル成長を所望の回数繰り返す。このようにして、炭素高濃度層6と炭素低濃度層7とが交互に繰り返された構造を得ても良い。このようにして本発明の窒化物半導体基板1を得ることができる。
なお、その後に必要に応じてGaN層上にデバイス層(チャネル層、バリア層、Cap層)をエピタキシャル成長して良い。
【0060】
エピタキシャル成長の際、例えばAl源としてTMAl、Ga源としてTMGa、N源としてNHを用いる。また、キャリアガスはNおよびH、ないしはそのいずれかとし、成膜温度は900~1250℃程度とすることができる。
特に、GaN層5における炭素高濃度層6の成膜温度(基板表面温度)は900~1020℃、炭素低濃度層7の成膜温度(基板表面温度)は1030~1150℃程度とすることができるが、特にこれに限定されない。
成膜温度の調整によって、炭素高濃度層6や炭素低濃度層7において前述したような炭素濃度に制御することも可能であり、実に簡便である。ただし、C源となる原料の外部ドープにて炭素濃度を制御しても問題はない。また、基板を一度冷却させてMOCVD反応炉から取り出す工程も必要無い。
【実施例0061】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
シリコン基板をMOCVD反応炉内のサテライトと呼ばれるウェーハポケットに載置し、III族窒化物半導体薄膜をエピタキシャル成長させて、本発明の窒化物半導体基板1を製造した。
基板2であるシリコン基板直上には、応力緩和層4として、まずAlNを成膜させ、その上にAlGaN層、さらにその上にAlN、AlGaN、GaNを数nmずつ有する超格子Buffer層を成膜した(応力緩和層の総膜厚:3μm)。
【0062】
超格子Buffer層を成膜した後、炭素がドープされたGaN層5(C-dope GaN層)を成膜した。この際、炭素高濃度層を成膜し、その後に成膜温度を上げ、炭素低濃度層を100nm程度成膜した。その後、成膜温度を下げる事で再び炭素高濃度層を成膜した(応力緩和層に隣接する炭素高濃度層の膜厚:250nm、炭素低濃度層上の炭素高濃度層の膜厚:100nm)。
この時の炭素高濃度層の成膜温度(基板表面温度)は、960℃程度になるように調整し、炭素濃度は約8×1017~5×1018atoms/cmまでの濃度とした。また、炭素低濃度層の成膜温度(基板表面温度)は、1040℃程度になるように調整し、炭素濃度は1×1017~2×1017atoms/cm程度の濃度とし、下記計算からもわかるように、炭素低濃度層は炭素高濃度層より75%以上低い濃度とした。
(2×1017/8×1017)×100=25%(すなわち75%低い炭素濃度)
炭素濃度の制御はこれらの成膜温度の調整のみで行い、炭素源の外部ドープ等は使用しなかった。
【0063】
エピタキシャル層の表層側にはデバイス層を設けた。デバイス層は、2次元電子ガスが発生する結晶性の高い層(チャネル層)、2次元電子ガスを発生させるための層(バリア層)、最表層にCap層を設けた。チャネル層は0.7μm程度のGaN層、バリア層は22nm程度のAl組成を20%程度のAlGaN、Cap層は3nm程度のGaN層とした。
【0064】
なお、これらの応力緩和層、C-dope GaN層、デバイス層のエピタキシャル成長の際、Al源としてTMAl、Ga源としてTMGa、N源としてNHを用いた。また、キャリアガスはNおよびHとし、成膜開始から終了までのプロセス温度は900~1150℃程度とした。
【0065】
窒化物半導体薄膜(この場合、応力緩和層とC-dope GaN層とデバイス層)の総膜厚は6μm程度とした。
また、エピタキシャル成長後に、XRD測定にてGaN層の(0002)面の半値幅を測定し、GaNの結晶性を評価した。評価結果を図2に示す。半値幅が狭い方が結晶性が高いため、実施例1(315arcsec)は後述する比較例1(332arcsec)よりも結晶性が大幅に良かった。
【0066】
また、C-dope GaN層と応力緩和層を断面TEMにて観察し、転位が曲がっている様子を確認した。観察図を図3に示す。炭素低濃度層を拡大観察すると、基板側から成長方向に伸びる転位が、炭素低濃度層で曲がっている様子が確認できる。
【0067】
(実施例2)
実施例1においては応力緩和層に隣接して炭素高濃度層を成膜後、炭素低濃度層と炭素高濃度層を1回ずつ成膜したが、実施例2では図1に示すように交互に3回ずつ成膜し、炭素高濃度層に挟まれた炭素低濃度層の合計数が3層となるようにし、炭素高濃度層と炭素低濃度層の繰り返し構造を形成した。他の成膜条件は実施例1と同じとした。
【0068】
4層の炭素高濃度層の(膜厚、炭素濃度)は基板側から順におよそ(250nm、8×1017atoms/cm)、(250nm、1.5×1018atoms/cm)、(250nm、2×1018atoms/cm)、(1000nm、4×1018atoms/cm)とした。また3層の炭素低濃度層の(膜厚、炭素濃度)は基板側から順におよそ(125nm、1×1017atoms/cm)、(125nm、1.5×1017atoms/cm)、(125nm、2×1017atoms/cm)とした。
全ての炭素高濃度層のうち最も低い炭素濃度を有する層(8×1017atoms/cm)と、全ての炭素低濃度層のうち最も高い層(2×1017atoms/cm)とで炭素濃度を比較すると、下記計算からもわかるように、炭素低濃度層は炭素高濃度層より75%以上低い濃度となっていた。
(2×1017/8×1017)×100=25%(すなわち75%低い炭素濃度)
また、応力緩和層の総膜厚、デバイス層の膜厚は各々実施例1と同様であり、また、窒化物半導体薄膜(この場合、応力緩和層とC-dope GaN層とデバイス層)の総膜厚は6μm程度とした。
なお炭素濃度のプロファイル(SIMS測定)を図4に示す。
【0069】
成膜後は実施例1と同様にXRD測定による結晶性評価を行ったところ(図2)、307arcsecであり、比較例よりも結晶性が大幅に良かった。また実施例1よりも結晶性が良かった。炭素高濃度層に挟まれた炭素低濃度層を複数層形成したことにより、転位をより多く低減できたためと考えられる。
またSIMS測定により炭素低濃度層が炭素高濃度層に挟まれている事を確認した。
【0070】
(比較例1)
実施例1、2における炭素高濃度層と炭素低濃度層からなる構造を形成しなかった。代わりに、図5の炭素濃度プロファイル(SIMS測定)に示すような1.5×1018atoms/cm~7×1018atoms/cmの炭素濃度のGaN層を成膜した。他の成膜条件は実施例1、2と同じにした。
成膜後は実施例1、2と同様にXRD測定による結晶性評価を行ったところ(図2)、前述したように332arcsecであり、実施例1、2よりも結晶性が大幅に低かった。
またSIMS測定により炭素低濃度層が炭素高濃度層に挟まれている構造にはなっていないことを確認した。
【0071】
(比較例2)
実施例1のC-dope GaN層に対して、炭素高濃度層の炭素濃度は同様にしたものの(つまり約8×1017~5×1018atoms/cm)、炭素低濃度層の炭素濃度を2.4×1017atoms/cm程度とした。下記計算からもわかるように、炭素低濃度層は炭素高濃度層より70%しか低くなかった。
(2.4×1017/8×1017)×100=30%(すなわち70%低い炭素濃度)
それ以外は実施例1と同様にして窒化物半導体基板を製造した。
【0072】
成膜後は実施例1、2と同様にXRD測定による結晶性評価を行ったところ、326arcsecであり、比較例1に近い値であり、実施例1、2よりも結晶性が大幅に低かった。このことから、炭素高濃度層と炭素低濃度層の炭素濃度の差が70%程度では、転位を曲げてC-dope GaN層の結晶性を向上させるには不十分であったと考えられる。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0074】
1…本発明の窒化物半導体基板、 2…基板、 3…窒化物半導体薄膜、
4…応力緩和層、 5…GaN層(C-dope GaN層)、
6…炭素高濃度層、 7…炭素低濃度層。
図1
図2
図3
図4
図5