(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009448
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】光音響物性計測装置および計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
G01N29/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112746
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高武 直弘
(72)【発明者】
【氏名】小野 豪一
(72)【発明者】
【氏名】片岸 誠
(72)【発明者】
【氏名】土井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】白水 信弘
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AC10
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC15
2G047BC18
2G047CA04
2G047EA05
2G047EA09
2G047GA21
2G047GD02
2G047GG12
2G047GG28
2G047GG32
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】光音響物性計測装置において、測定対象物の配置状態や、光音響セルと測定対象物の隙間の状態などによる共鳴周波数の変化に対して比較的手軽に対応できて、検出感度を低下させること無く、比較的短い時間で対象物の物性を計測することを可能にする
【解決手段】光音響物性計測装置を、対象物に変調した光を照射する光照射部と、光照射部から変調した光を照射することにより対象物で発生する光音響波を増幅させる光音響セルと、光音響セルの内部に音波を発生させる音波発生部と、光音響セルで増幅させた光音響波と音波発生部から光音響セルの内部に発生させた音波を検出するマイクと、マイクで検出した光音響波に基づいて対象物の物性を解析する物性解析部とを備えて構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に光を照射することにより発生した光音響信号を検出して前記対象物の物性を測定する光音響物性計測装置であって、
前記対象物に変調した光を照射する光照射部と、
前記光照射部から変調した光を照射することにより前記対象物で発生する光音響波を増幅させる光音響セルと、
前記光音響セルの内部に音波を発生させる音波発生部と、
前記光音響セルで増幅させた光音響波と前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波を検出するマイクと、
前記マイクで検出した前記光音響波に基づいて前記対象物の物性を解析する物性解析部と
を備えたことを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の光音響物性計測装置であって、
前記光照射部は、光源と、光チョッパと、前記マイクで検出した前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数を検出するピーク周波数探索部と、前記ピーク周波数探索部で探索した前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数に基づいて前記光チョッパを駆動する駆動回路部とを更に備えることを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項3】
請求項1記載の光音響物性計測装置であって、
前記音波発生部は、前記光音響セルの内部に音波を発生させるスピーカーと、前記スピーカーから発する音波の周波数帯域を制御する信号発生回路部とを備えることを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項4】
請求項2記載の光音響物性計測装置であって、
前記音波発生部は、前記光音響セルの内部に音波を発生させるスピーカーと、前記スピーカーから発する音波の周波数帯域を制御する信号発生回路部と、前記ピーク周波数探索部で検出した前記スピーカーから前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数に基づいて前記信号発生回路部を制御して前記スピーカーから発生する音波の周波数帯域を切替える周波数帯域切替部とを備えることを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項5】
請求項1記載の光音響物性計測装置であって、
前記光照射部は、光源と、光チョッパと、前記マイクで検出した前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数を検出するピーク周波数探索部と、前記ピーク周波数探索部で検出したピーク周波数を予め設定した閾値と比較する閾値判定部と、前記閾値判定部で判定した結果を表示する表示部と、前記光チョッパを駆動する周波数を入力する周波数入力部と、 前記周波数入力部から入力した前記光チョッパを駆動する周波数に基づいて前記光チョッパを駆動する駆動回路部とを更に備えることを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項6】
請求項1記載の光音響物性計測装置であって、
前記光照射部は、光源と、前記マイクで検出した前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数を検出するピーク周波数探索部と、前記ピーク周波数探索部で探索した前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数に基づいて前記光源を変調して駆動する駆動回路部とを更に備えることを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項7】
請求項2記載の光音響物性計測装置であって、
前記マイクで検出した前記光音響波を前記ピーク周波数探索部で検出した前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数と同期して検出し、前記同期して検出した信号を前記物性解析部に送る同期検出部を更に備えたことを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項8】
請求項3記載の光音響物性計測装置であって、
前記対象物と前記光音響セルとの位置関係を撮像する撮像部と、前記撮像部で撮像した前記対象物と前記光音響セルとの位置関係と前記光音響セルの共鳴周波数との関係を記憶したデータベースとを更に備え、前記信号発生回路部は、前記データベースに記憶された前記対象物と前記光音響セルとの位置関係と前記光音響セルの共鳴周波数との関係に基づいて前記スピーカーから発生する音波の周波数帯域を制御することを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項9】
請求項2記載の光音響物性計測装置であって、
前記光照射部から前記変調させた光を前記対象物に照射することにより前記光音響セルで発生させた前記光音響波を前記マイクで検出した信号から周波数特性を求める周波数測定部と、前記周波数測定部で求めた周波数特性を記憶する記憶部とを更に備え、前記ピーク周波数探索部は、前記音波発生部から前記光音響セルの内部に発生させた音波を前記マイクで検出した信号と前記記憶部に記憶した周波数特性とを用いて前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数を求め、前記求めたピーク周波数に基づいて前記駆動回路部を制御することを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項10】
請求項1記載の光音響物性計測装置であって、
前記光照射部と前記光音響セルとの間に可動ミラーを備え、前記可動ミラーで前記光照射部から発射された前記変調された光の光路を切り替えて、前記変調された光を前記対象物に照射する位置を変化させることを特徴とする光音響物性計測装置。
【請求項11】
光照射部から発射した所定の周波数で変調した光を対象物に照射し、
前記所定の周波数で変調した光が照射された前記対象物から発生して光音響セルの内部で共鳴した光音響信号をマイクで検出し、
前記マイクで検出した前記光音響信号を用いて前記対象物の物性を分析する
光音響物性計測方法であって、
前記光照射部から前記対象物に照射する前記光の前記所定の周波数を、
スピーカーから前記光音響セルの内部に音波を発生し、
前記発生した音波により前記光音響セルの内部で発生した音を前記マイクで受信し、
前記マイクで受信した前記音のピーク周波数をピーク周波数探索部で探索し、
前記ピーク周波数探索部で探索した前記ピーク周波数に基づいて設定する
ことを特徴とする光音響物性計測方法。
【請求項12】
請求項11記載の光音響物性計測方法であって、
前記光照射部から前記所定の周波数で変調された光を発射することを、前記光照射部の光源から発射された光を前記光照射部の光チョッパで前記所定の周波数で変調させ、前記光チョッパで前記所定の周波数で変調された光を発射することを特徴とする光音響物性計測方法。
【請求項13】
請求項12記載の光音響物性計測方法であって、
前記光源から発射された光を前記光チョッパで前記所定の周波数で変調することを、前記マイクで検出した前記スピーカーから前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数を前記ピーク周波数探索部で検出し、前記ピーク周波数探索部で探索した前記スピーカーから前記光音響セルの内部に発生させた音波のピーク周波数に基づいて駆動回路部で前記光チョッパを駆動することにより行うことを特徴とする光音響物性計測方法。
【請求項14】
請求項11記載の光音響物性計測方法であって、
前記スピーカーから前記光音響セルの内部に発生させる音波の周波数帯域を周波数帯域切替部で切替えることにより前記スピーカーから前記周波数帯域が異なる音波を前記光音響セルの内部に順次発生させ、前記順次発生させた前記周波数帯域の異なる音波を前記マイクで検出して得た信号に基づいて前記ピーク周波数探索部で前記ピーク周波数を検出することを特徴とする光音響物性計測方法。
【請求項15】
光照射部から発射した所定の周波数で変調した光を対象物に照射し、
前記所定の周波数で変調した光が照射された前記対象物から発生して光音響セルの内部で共鳴した光音響信号をマイクで検出し、
前記マイクで検出した前記光音響信号を用いて前記対象物の物性を分析する
光音響物性計測方法であって、
前記光照射部から前記対象物に照射する前記光の前記所定の周波数を、
前記光照射部から変調する周波数を変えた光を順次前記対象物に照射して前記光音響セルの内部で共鳴した光音響信号を前記マイクで検出した信号から前記光音響信号の周波数特性を求めて記憶し、
スピーカーから前記光音響セルの内部に音波を発生し、
前記音波により前記光音響セルの内部で発生した光音響信号を前記マイクで受信し、
ピーク周波数探索部で前記マイクで受信した前記光音響信号から前記求めて記憶しておいた前記周波数特性の成分を差し引いた信号からピーク周波数を探索し、
前記ピーク周波数探索部で探索した前記ピーク周波数に基づいて設定する
ことを特徴とする光音響物性計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響物性計測装置及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品検査において対象物を破壊せずに検査が可能な”非破壊検査”のニーズが高まっている。特に有機物の非破壊検査は,電気・電子機器などの原料受け入れ時や製造工程間、出荷直前などで複数回実施される。有機物の非破壊検査は、測定対象物の状態(固体、液体、気体、粉体)に依らず測定が可能な光音響分光が有効である。
【0003】
光音響分光を用いた物性計測装置の原理は次のとおりである。測定対象物に光源から断続光を照射すると、測定対象物が光を吸収して熱が発生し表面が局所的に膨張と収縮とを繰り返す運動エネルギーに変換される。その結果、空間中の圧力にゆらぎ(=光音響波)が生じ、これをマイクで検出する。この検出結果を信号処理(物性解析)することで、物質や夾雑物の評価が可能になる。
【0004】
しかし、光音響効果で発生する光音響波は微弱であるため、高感度な非破壊検査装置の実現には,発生した音響波を光音響セルに閉じ込め共鳴増幅する必要がある。
【0005】
光音響セルを共鳴構造にすると、微弱な音波を増幅させることができる一方、光音響セルで光音響波が共鳴する共鳴周波数と測定周波数を一致させないと測定感度が変化、または低下する。さらに、光音響セルと測定対象物に隙間が発生すると、光音響セルの実効的なサイズが変化してしまい、光音響波の共鳴周波数が変化する。
【0006】
そのため、測定対象物の配置状態や、光音響セルと測定対象物の隙間の状態などによる共鳴周波数の変化を補正せずに測定を行うと、共鳴増幅の効果が得られず検出感度が低下する。そこで、本測定前に光音響セルの共鳴周波数を探索し、探索した結果を用いて本測定を行う計測手法が重要である。
【0007】
光音響セルの共鳴周波数の設定に関して、例えば特許文献1の技術が報告されている。特許文献1に記載されている成分濃度測定装置では、波長の異なる複数のレーザ光源を用意し、それらの光強度の変化量から音響モードを推定して光音響セルの長さを調整した後に、本測定を実施することで、測定対象の成分に対する濃度の感度の音響モードの依存性を補償している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている方式では、音響セルの物理長を変更しているため、上述の課題において共鳴周波数が大きく変化する場合に補償できない可能性がある。また、光音響セルの長さを調整するので、共鳴周波数を特定するまでに時間を要して、多数の個所を順次測定する場合に、スループットが悪くなってしまう可能性がある。
【0010】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、測定対象物の配置状態や、光音響セルと測定対象物の隙間の状態などによる共鳴周波数の変化に対して比較的手軽に対応できて、検出感度を低下させること無く、比較的短い時間で対象物の物性を計測することを可能にする光音響物性計測装置及び計測方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明では、対象物に光を照射することにより発生した光音響信号を検出して対象物の物性を測定する光音響物性測定装置を、対象物に変調した光を照射する光照射部と、光照射部から変調した光を照射することにより対象物で発生する光音響波を増幅させる光音響セルと、光音響セルの内部に音波を発生させる音波発生部と、光音響セルで増幅させた光音響波と音波発生部から光音響セルの内部に発生させた音波を検出するマイクと、マイクで検出した光音響波に基づいて対象物の物性を解析する物性解析部とを備えて構成した。
【0012】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、光照射部から発射した所定の周波数で変調した光を照対象物に射し、所定の周波数で変調した光が照射された試料から発生して光音響セルの内部で共鳴した光音響信号をマイクで検出し、マイクで検出した光音響信号を用いて試料の物性を分析する光音響物性測定方法において、光照射部から対象物に照射する光の所定の周波数を、スピーカーから光音響セルの内部に音波を発生させ、この音波により光音響セルの内部で発生した音をマイクで受信し、このマイクで受信した音のピーク周波数をピーク周波数探索部で探索し、このピーク周波数探索部で探索したピーク周波数に基づいて設定するようにした。
【0013】
更に、上記した課題を解決するために、本発明では、光照射部から発射した所定の周波数で変調した光を照対象物に射し、所定の周波数で変調した光が照射された試料から発生して光音響セルの内部で共鳴した光音響信号をマイクで検出し、このマイクで検出した光音響信号を用いて試料の物性を分析する光音響物性測定方法において、光照射部から対象物に照射する光の所定の周波数を、光照射部から変調する周波数を変えた光を順次試料に照射して光音響セルの内部で共鳴した光音響信号をマイクで検出した信号から光音響信号の周波数特性を求めて記憶し、スピーカーから光音響セルの内部に音波を発生し、この音波により光音響セルの内部で発生した光音響信号をマイクで受信し、ピーク周波数探索部でマイクで受信した光音響信号から先に求めて記憶しておいた周波数特性成分を差し引いた信号からピーク周波数を探索し、ピーク周波数探索部で探索したピーク周波数に基づいて設定するようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、測定対象物の配置状態や、光音響セルと測定対象物の隙間の状態などによる共鳴周波数の変化に対して比較的手軽に対応できるので、検出感度を低下させること無く、比較的短い時間で測定対象物の物性を計測することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施例に係る光音響物性測定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の第1の実施例に係る光音響物性測定方法の原理を説明する周波数と音波強度との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の第1の実施例に係るスピーカーから発生する音波の周波数特性を示すグラフである。
【
図5】本発明の第2の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明の第2の実施例に係る光音響物性測定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施例に係るスピーカーから発生する音波の周波数特性を示すグラフである。
【
図8】本発明の第3の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図9】周波数探索部で検出する光音響信号の周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図10】周波数探索部で検出する光音響信号の周波数特性の他の例を示すグラフである。
【
図11】本発明の第4の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明の第5の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図13】本発明の第6の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図14】本発明の第7の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図15】本発明の第7の実施例に係る光音響物性測定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図16】本発明の第8の実施例に係る光音響物性測定装置の概略の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、測定前に、光音響セルに配置したスピーカーから広帯域な音波を発生させ、その音波をマイクで検出・信号処理することで共鳴周波数を探索し、周波数校正の高速化を行うとともに、計測の高感度化を実現したものである。
【0017】
また、本発明は、光音響セルにスピーカーなどの音源を装着して、この音源から発振された音波の周波数特性を検出することで光音響セルと測定対象物との共鳴周波数を求めるようにしたので、共鳴周波数を求める時間を従来技術と比較して短くすることができ、光音響を用いた物性計測のスループットを向上させたものである。
【0018】
さらに、光音響セルに装着した音源から発振された広帯域の音波の周波数特性を検出することで共鳴周波数を求めるようにしたので、共鳴周波数の変動が大きな場合においても、ピーク周波数の検出が可能になり、高感度な非破壊計測を実現できるようにしたものである。
【0019】
また本発明は、光音響物性測定装置を、光源と、駆動回路と、光音響セルと、マイクと、高感度増幅回路と、物性解析部と、サンプルを格納する測定エリアを有し、さらに信号発生回路と、スピーカーと、ピーク周波数探索部とを備えて構成し、本測定前に信号発生回路およびスピーカーから広帯域な音波を発生させ、マイクで検出した信号のピーク周波数をピーク周波数探索部で算出し、ピーク周波数探索部で算出した周波数を用いて光源を駆動してサンプルに光を照射し、マイク、高感度増幅回路、物性解析部で本測定を実施するようにしたものである。
【0020】
また本発明は、光源と、駆動回路と、光音響セルと、マイクと、高感度増幅回路と、物性解析部と、信号発生回路と、スピーカーと、ピーク周波数探索部を有する光音響物性測定装置において、本測定前に信号発生回路およびスピーカーから広帯域な音波を発生させ、マイクで検出した信号のピーク周波数をピーク周波数探索部で算出し、その周波数を用いて光源を駆動してサンプルに光を照射し、マイク、高感度増幅回路、物性解析部で本測定を実施して共鳴周波数の変動を補正することで、サンプルの配置の仕方や形状によって光音響セルの共鳴周波数が変動して測定感度が低下してしまうのを防止し、高感度な光音響計測を実現できるようにしたものである。
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0022】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例0023】
本発明の第1の実施例を、
図1乃至4を用いて説明する。
図1に、本実施例に係る光音響物性計測装置100-1の構成を示す。本実施例に係る光音響物性計測装置100-1は、光源1、駆動回路2、光チョッパ3、光音響セル4、マイク5、増幅回路6、物性解析部7、スピーカー10、信号発生回路11、ピーク周波数探索部12を備えている。
図1に示した例では、測定エリア9に格納されたサンプル8に光音響セル4を近接させて、サンプル8の物性を計測している状態を示している。
【0024】
光源1としては、レーザまたは白色光源を用いる。また、スピーカー10としては、MEMSスピーカー又はエレクトレットスピーカなどを用いる。
【0025】
図1に示した例のように、光音響セル4とサンプル8とが密着せずに傾いて、点線で示すような隙間13が形成されてしまう場合がある。光音響セル4とサンプル8とが
図1に示したような状態にあると、
図3に示すように、光音響セル4とサンプル8との間の共鳴周波数f2:32が、光音響セル4とサンプル8とが密着した理想的な状態における共鳴周波数f1:31に対してずれてしまう。
【0026】
そこで、本実施例では、
図3に示すような共鳴周波数のずれを考慮して、
図4に示すような比較的広い周波数帯域の周波数特性を有する音波41を用いて共鳴周波数を求めるための校正用測定を行い、次に、この校正した周波数で本測定を行うようにした。
【0027】
図1に示した構成の光音響物性計測装置100-1を用いて、サンプル8の物性を計測する手順を、
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0028】
まず、光音響セル4をサンプル8に当接させた状態で、信号発生回路11から広帯域な信号を発生させてスピーカー10に入力する(S1)。この広帯域な信号が入力されたスピーカー10は、例えば
図4に示すような帯域幅が広い広帯域な音波を、光音響セル4の内部に向けて発生する(S2)。このスピーカー10から光音響セル4に向けて発生させた広帯域な音波をマイク5で受信し、このマイク5で受信した信号をピーク周波数探索部12で処理してピーク周波数f2を探索する(S3)。S1からS3までが校正用測定である。
【0029】
次に、本測定として、駆動回路2で光チョッパ3をピーク周波数f2で動作させ(S4)、光源1を発光させて光チョッパ3で変調させた光を光音響セル4を通してサンプル8に照射する(S5)。
【0030】
この変調された光が照射されたサンプルから発生した光音響波をマイク5で検出し、増幅回路6で増幅する(S6)。
【0031】
この増幅された信号を物性解析部7に入力する。物性解析部7フーリエ変換などの信号処理を用いて信号強度が最大となる周波数を探索し、ピーク周波数f1を算出する。この求めたピーク周波数f1における信号情報をデータベースに格納されているデータと比較し解析することにより、サンプル8の種類、濃度、膜厚などの計測の目的に応じた物性を分析して(S7)、出力する。
【0032】
本実施例によれば、スピーカー10から発生された音波をマイク5で検出してピーク周波数探索部12でピーク周波数を求め、光チョッパ3の駆動周波数を修正することにより、光音響セル4に対するサンプル8の位置関係のずれによって生じる光音響セル4の共鳴周波数の変動を校正することができるので、高感度な光音響分光を用いた非破壊計測を行うことができる。
次に、スピーカー10で発生した音波をマイク5で受信し、マイク5からの受信信号をピーク周波数探索部12-1で受けてピーク周波数を探索し(S105)、メモリ14に記憶する(S106)。
iがNになったら(S108でNo)、ピーク周波数探索部12-1において、メモリ14に記憶した各周波数帯域におけるピーク周波数の信号から信号レベルが最も大きい周波数ピークを探索する(S109)。次に、探索したピーク周波数に基づいて駆動回路2で光チョッパ3を制御して、光源1から発射された光を変調し(S110)、この変調した光をサンプル8に照射する(S111)。
この増幅された信号を物性解析部7に入力する。物性解析部7フーリエ変換などの信号処理を用いて信号強度が最大となる周波数を探索し、ピーク周波数f1を算出する。この求めたピーク周波数f1における信号情報をデータベースに格納されているデータと比較し解析することにより、サンプル8の種類、濃度、膜厚などの計測の目的に応じた物性を分析して(S113)、出力する。
本実施例によれば、実施例1の場合と同様な効果が得られるのに加えて、スピーカー10から発生させる音波の周波数帯域を分割することで、各周波数帯域ごとにマイク5や増幅回路6に入力される信号の総量を減少させ、マイク5及び増幅回路6のダイナミックレンジ不足によるピーク探索の精度劣化を抑制することができる。