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  • 特開-パップ剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094485
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】パップ剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20230628BHJP
   A61K 31/135 20060101ALI20230628BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20230628BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230628BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20230628BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20230628BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230628BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K31/135
A61K31/167
A61K9/70 405
A61P17/04
A61P23/02
A61P31/04
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209999
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 遼馬
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076BB31
4C076CC32
4C076DD29
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD46
4C076DD52
4C076EE06
4C076EE09
4C076EE15
4C076EE36
4C076EE42
4C076FF70
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA17
4C206FA05
4C206GA18
4C206GA31
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA52
4C206MA83
4C206NA20
4C206ZA21
4C206ZA89
4C206ZB35
4C206ZC45
4C206ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】膏体層の被貼着物への粘着力が増強されたパップ剤を提供する。
【解決手段】支持体層、膏体層及び剥離ライナー層からなるパップ剤であって、前記膏体層が、下記(A)成分及び(B)成分を含有する組成物(膏体組成物)からなるものであるパップ剤:
(A)イソプロピルメチルフェノール、及び
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層、膏体層及び剥離ライナー層からなるパップ剤であって、
前記膏体層が、下記(A)成分及び(B)成分を含有する組成物(膏体組成物)からなるものであるパップ剤:
(A)イソプロピルメチルフェノール、及び
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種。
【請求項2】
膏体組成物100質量%中の(B)成分の含有量が0.1~3質量%である、請求項1に記載するパップ剤。
【請求項3】
(A)イソプロピルメチルフェノールを含有する膏体層、支持体層、及び剥離ライナー層からなるパップ剤について、被貼着物に対する膏体層の粘着力を増強する方法であって、
前記膏体層を調製する成分として
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種、又は
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種、及び(C)ジフェンヒドラミン及びその塩から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パップ剤に関する。特に、膏体層の被貼着物への粘着力が増強されたパップ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
貼付剤は、大きく分けて、膏体に水を含有するパップ剤と、膏体に水を含有しないプラスター剤(「テープ剤」とも称される)とに分類される。パップ剤は、含水膏体を布やプラスチックフィルムなどの支持体層に積層したものである。プラスター剤は、非含水膏体をポリエチレンフィルムなどの支持体層に薄く伸ばしたテープ状の貼付剤である。プラスター剤は、膏体中に水分を含まないため、被貼着物への粘着力(以下、これを「貼着力」という)が高いのに対して、パップ剤は、膏体に水分を含有するため、肌に優しいものの、剥がれやすいという短所がある。
【0003】
パップ剤の貼着力を向上させる方法として、ポリアクリル酸部分中和物とポリアクリル酸ナトリウムの配合が汎用されている。また、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩を重量比で9/1~1/9の割合で配合したものを用いる方法(特許文献1)が提案されている。また、単位貼付剤当たりの膏体質量を多くしたり、膏体中にポリブテン、ゼラチン、エステルガム等を配合する等して、初期の貼着力を増強させる試みがなされている(特許文献2)。しかし、これらの試みによれば、初期の貼着力は多少改善されるものの、十分とはいえない。
【0004】
一方、疼痛緩和を目的として、局所麻酔効果を有するリドカインを膏体に配合したパップ剤が開発されている。かかるパップ剤に関して、特許文献3には、リドカインを水溶性高分子に分散または溶解させることにより、粘着性が優れ、また優れた薬物放出制御機能を発揮し、長時間にわたって経皮吸収させることができることが記載されている。また、特許文献4には、上記特許文献3のパップ剤はリドカインが経時的に結晶化して析出する問題があることが記載されており、それを解決する方法として、膏体にその全質量に対して0.3~1質量%のオレイン酸を配合し、pHを6.8~7.4に調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-161435号公報
【特許文献2】特開2020-66592号公報
【特許文献3】特開平4-305523号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2012/176668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はパップ剤を提供することを課題とする。より好ましくは膏体層の貼着力が増強されたパップ剤を提供することを課題とする。また本発明は、イソプロピルメチルフェノール(以下、「IPMP」と略称する)を含有する膏体層を有するパップ剤について、その膏体層の貼着力を増強するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、パップ剤の開発にあたり、膏体層中に殺菌作用を有するIPMPを配合すると所望の貼着力が得られないことを知見した。それを解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、膏体に配合する成分として、IPMPと組み合わせて、リドカイン又はその塩を用いるか、またはリドカイン又はその塩とジフェンヒドラミン又はその塩を用いることで、IPMPを含有する膏体層の貼着力を増強させることができることを見出した。
【0008】
本発明はこれらの知見に基づいて、さらに研究を重ねることで完成したものであり、下記の実施形態を包含する。
項1:支持体層、膏体層及び剥離ライナー層からなるパップ剤であって、
前記膏体層が、下記(A)成分及び(B)成分を含有する組成物(膏体組成物)からなるものであるパップ剤:
(A)IPMP、及び
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種。
項2:前記膏体層が、さらに下記(C)成分を含有する組成物からなるものである項1に記載するパップ剤:
(C)ジフェンヒドラミン及びその塩から選択される少なくとも1種。
項3:膏体組成物100質量%中の(B)成分の含有量が0.1~3質量%である、項1又は2に記載するパップ剤。
項4:(A)IPMPを含有する膏体層、支持体層、及び剥離ライナー層からなるパップ剤について、被貼着物に対する膏体層の粘着力を増強する方法であって、前記膏体層を調製する成分として
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種、又は
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種、及び(C)ジフェンヒドラミン及びその塩から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、前記方法。
項5:前記(B)成分を、膏体層100質量%あたり0.1~3質量%となる割合で配合する、項4に記載する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被貼着物への粘着性(貼着性)が増強されたパップ剤を提供することができる。具体的には、本発明によれば、膏体層にIPMPを含有するパップ剤について、その貼着性を増強するための方法、及び貼着性が増強されたパップ剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実験例1で使用した粘着力試験器(転球装置)の傾斜版の側面図及び平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(I)パップ剤、及びその調製方法
本発明のパップ剤は、支持体層と当該支持体層の一方面の上に積層された膏体層、並びに当該膏体層の表面(貼着面上)に剥離可能な状態で積層された剥離ライナー層とを備える。本発明のパップ剤は、前記膏体層が下記(A)及び(B)成分を含有する組成物(以下、これを「膏体組成物」と称する)から形成されていることを特徴とする:
(A)IPMP、及び
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種。
【0012】
(1)膏体層
(A)成分
イソプロピルメチルフェノール(IPMP)は、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、又はシメン-5-オールとも称され、殺菌作用を有する成分である。
膏体層を構成する膏体組成物100質量%中のIPMPの量は、0.1~2質量%の範囲で、その作用に応じた目的に基づいて、適宜選択することができる。好ましくは0.5~1.5質量%、より好ましくは0.7~1.2質量%の範囲である。
【0013】
(B)成分
リドカインは、2-(ジエチルアミノ)-N-(2,6-ジメチルフェニル)アセタミドとも称され、局所麻酔作用を有する成分である。リドカインの塩は、無機塩及び有機塩の別を問わず、薬学的に許容される塩であればよく、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びメタンスルホン酸塩等の単塩基酸塩;並びにフマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、及び酒石酸塩等の多塩基酸塩が挙げられる。塩として好ましくはリドカイン塩酸塩である。
【0014】
膏体層を構成する膏体組成物100質量%中のリドカイン及びその塩の合計量は、前記(A)成分と併用することで、膏体層の貼着性が増強する効果を発揮する量であればよく、その限りにおいて特に制限されないものの、通常、0.1~3.5質量%の範囲から選択することができる。膏体層の貼着力をより一層増強させる観点から、好ましくは0.2~3.5質量%、より好ましくは1~3質量%、さらに好ましくは1.5~2.2質量%である。
【0015】
また、制限されないものの、膏体組成物に含まれる前記(A)成分の総量100質量部に対して、リドカイン及びその塩の合計量が10~300質量部となるように配合することが好ましい。膏体層の貼着力をより一層増強させる観点から、より好ましくは15~300質量部、さらに好ましくは130~230質量部である。
【0016】
(C)成分
ジフェンヒドラミン及びその塩は、その抗ヒスタミン作用に基づいて、皮膚の痒みや赤み、膨疹(皮膚のふくらみ)などの症状を抑える作用を有する成分である。ジフェンヒドラミンの塩は、無機塩及び有機塩の別を問わず、薬学的に許容される塩であればよく、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びメタンスルホン酸塩等の単塩基酸塩;並びにフマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、及び酒石酸塩等の多塩基酸塩が挙げられる。塩として好ましくはジフェンヒドラミン塩酸塩である。当該(C)成分は、前記(B)成分と組み合わせて、(A)成分と併用される成分であり、本発明では任意成分である。
【0017】
(C)成分を配合する場合、その量は、(B)成分が発揮する前記貼着力増強効果を妨げないことを限度とし、好ましくは(B)成分と組み合わせることでさらに前記貼着力増強効果が向上する量であればよい。例えば、膏体層を構成する膏体組成物100質量%中のジフェンヒドラミン及びその塩の合計量は、0.1~2質量%の範囲から選択することができる。好ましくは0.5~2質量%、より好ましくは0.5~1質量%である。
【0018】
また、(C)成分を配合する場合、制限されないものの、膏体組成物に含まれる前記(A)成分の総量100質量部に対するジフェンヒドラミン及びその塩の合計量の割合が10~500質量部となるように配合することが好ましい。膏体層の貼着力をより一層増強させる観点から、より好ましくは30~200質量部、さらに好ましくは80~120質量部である。
【0019】
(D)基剤成分
本発明のパップ剤の前記膏体層を構成する膏体組成物は、前記成分の他、基剤成分として水溶性高分子、多価アルコール及び水を含有する。
【0020】
水溶性高分子としては、パップ剤の膏体の基剤成分として使用されるものであればよく、特に制限されないものの、例えばポリアクリル酸又はその塩(ポリアクリル酸部分中和物を含む)、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、プルラン、寒天、デキストラン、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、可溶性デンプン、カルボキル化デンプン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、イソブチレン無水マレイン酸共重合体、及びポリエチレンイミン等が挙げられる。これらの水溶性高分子は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの水溶性高分子の中でも、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸又はその塩(ポリアクリル酸部分中和物を含む)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、及びポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
膏体組成物中の水溶性高分子の配合量は、その配合により、好適なゲル物性(強度、弾性、耐久性、粘着性、保水性等)が得られる量であればよく、例えば、膏体組成物100質量%中の水溶性高分子の総量が4~20質量%、好ましくは9~13質量%となるように設定することが好ましい。なお、制限されないものの、上記の範囲になるように、例えばメトキシエチレン無水マレイン酸共重合体については2.4質量%以下、ポリアクリル酸又はその塩(ポリアクリル酸部分中和物を含む)については32.6質量%以下、アルギン酸ナトリウムについては5.0質量%以下、及び/又はポリビニルアルコールについては3.5質量%以下の割合で、各々配合することができる。
【0021】
多価アルコールとしては、パップ剤の膏体の基剤成分として使用されるものであればよく、特に制限されないものの、例えばグリセリン(濃グリセリンを含む)、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ソルビトール等が挙げられる。好ましくはグリセリン、及びソルビトールを挙げることができる。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
膏体組成物中の多価アルコールの配合量は、その配合により、好適な保湿性、好適な薬物溶解性及び好適な粘着性を膏体層においてバランスよく保つことができるという観点から、例えば、膏体組成物100質量%中の多価アルコールの総量が10~30質量%、好ましくは22~24質量%となるように設定することが好ましい。
【0022】
水としては、特に制限されないが、イオン交換、蒸留、濾過等の精製を施された水であることが好ましく、例えば、日本薬局方(第十五改正日本薬局方)に記載の「精製水」を好適に用いることができる。
膏体組成物中の水の配合量は、調製する膏体層の硬さや膏体中の有効成分を安定して溶解する観点から、膏体組成物100質量%中、45~75質量%、好ましくは55~65質量%となるように設定することが好ましい。
【0023】
(E)他成分
本発明のパップ剤の前記膏体層を構成する膏体組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前記成分の他、さらに、架橋剤、pH調整剤、乳化剤(界面活性剤)、充填剤、保存剤、酸化防止剤、キレート剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0024】
架橋剤は、前記水溶性高分子を架橋することにより前記膏体組成物をゲル化して保型する作用を有する。このような架橋剤としては、特に制限されず、硫酸アルミニウム・カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の多価金属塩が挙げられる。前記架橋剤を前記膏体組成物に配合する場合、その含有量は、好適なゲル物性が得られるという観点から適宜設定することができ、制限されないものの、前記膏体組成物100質量%中、0.1~3質量%の範囲から選択することができる。
【0025】
pH調整剤としては、酢酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、エデト酸等の有機酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸;前記有機酸又は無機酸の薬学的に許容される塩等が挙げられる。本発明のパップ剤は、ヒトの皮膚に対して安全である必要から、その膏体層のpHは、pH調整剤の使用の有無に関わらず、4.0~7.0の範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明のパップ剤は、前記成分を含有する膏体組成物が、後述する支持体層の一方面に膏体層として積層されてなるものである。好適な粘着性、または保水性を有するという観点から、膏体層の厚みは250~1500μmに調整することが好ましい。
【0027】
(2)支持体層
本発明に係る支持体層の材質としては、特に制限されず、通常パップ剤の支持体層の材質として使用できるものを適宜用いることができる。このような材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレ-ト、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;レーヨン、パルプ、綿等のセルロース又はその誘導体;ポリアクリロニトリル等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明に係る支持体層としては、前記材質の繊維からなる布帛を用いることが好ましく、前記布帛としては、前記繊維を絡合、熱融着、圧着あるいはバインダー接着等の方法により加工した不織布を用いることがより好ましい。
【0028】
(3)剥離ライナー層
本発明のパップ剤は、パップ剤を使用する時まで前記膏体層の表面を被覆して保護するために、剥離ライナー層を備える。前記剥離ライナー層の材質としては、特に制限されず、通常パップ剤の剥離ライナー層の材質として使用できるものを適宜用いることができる。このような材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレ-ト、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;ポリアクリロニトリル;セルロース又はその誘導体;アルミニウム等の金属箔等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記剥離ライナー層としては、前記材質からなるフィルム及びシートが挙げられ、このようなフィルム及びシートとしては、その剥離性を増すために、前記膏体層に接する面にあらかじめシリコーン処理やテフロン(登録商標)処理等の剥離性付与処理が施されたものであってもよい。また、このような剥離ライナー層の厚みとしては、20~150μmの範囲であることが好ましい。
【0029】
(4)パップ剤の調製方法
本発明のパップ剤は、例えば、以下の方法により製造することができる。
先ず、前述する(A)成分及び(B)成分、または(A)~(C)成分、及び前記水、前記多価アルコール、前記水溶性高分子、並びに必要に応じて前記添加剤を常法に従って練合して均一な膏体組成物を得る。次いで、この膏体組成物を前記支持体層の一方の面の上に所定の厚みで塗布して膏体層を形成する。次いで、前記膏体層の前記支持体層と反対の貼着面上に前記剥離ライナー層を貼り合わせ、所定の形状に裁断することにより本発明のパップ剤を得ることができる。あるいは、前記膏体組成物を先ず剥離ライナー層の一方の面上に所定の厚みで塗布して膏体層を形成した後に、前記膏体層の前記剥離ライナー層と反対の貼着面上に前記支持体層を貼り合わせ、所定の形状に裁断することにより本発明のパップ剤を得てもよい。
【0030】
(II)パップ剤の貼着力増強方法
本発明は、(A)IPMPを含有する膏体層、支持体層、及び剥離ライナー層からなるパップ剤について、被貼着物に対する膏体層の粘着力を増強する方法である。かかる方法は、前記膏体層を形成する膏体組成物の調製にあたり、その成分として、前記(A)成分に加えて、下記の成分を配合することで実施することができる。
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種、又は
(B)リドカイン及びその塩から選択される少なくとも1種、及び(C)ジフェンヒドラミン及びその塩から選択される少なくとも1種。
かかる方法によれば、前述する(A)成分及び(D)膏体基剤を含有し、前記(B)成分または(B)成分と(C)成分を含有しない膏体組成物から形成される膏体層の貼着力と比較して、高い貼着力を有する膏体層を有するパップ剤を得ることができる。なお、膏体層の粘着力の評価は、後述する実験例1に記載する傾斜式ボールタック試験法の改変試験法を用いて行うことができる。
【0031】
この方法において使用される(A)~(D)成分の種類及びその配合割合、膏体層の調製方法、支持体層、並びに剥離ライナー層の説明は、前記(I)の欄に記載した通りであり、その記載はここに援用することができる。
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0032】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0033】
実施例1~4、及び比較例1~2
後述する表1に記載する各成分を、各々の割合で混合して、膏体組成物を調製した。次いで、得られた膏体組成物を714g/mとなるようにポリエステル不織布(目付:100g/m)(支持体層)の一方の面上に展延して、膏体層を形成した後、前記膏体層の塗布面(貼着面)をポリプロピレン製の剥離ライナー層で覆い、所定の大きさ(7cm×10cm)に裁断して、各種のパップ剤(実施例1~4、比較例1~2)を調製した。
【0034】
実験例1 パップ剤の貼着力の評価
前記パップ剤(実施例1~4、比較例1)の被貼着物に対する粘着力(貼着力)を、第十八改正日本薬局方の一般試験法「6.12 粘着力試験法」を用いて評価した。具体的には、傾斜式ボールタック試験法を改変した方法(改変試験法)を用いて、パップ剤の膏体層の貼着力を測定した。なお、傾斜式ボールタック試験法は、傾斜角が30°で300mm以上の傾斜面を有する傾斜板の斜面に、評価するパップ剤を膏体層の貼着面が上になるように配置し、ボールをその斜面上で転がして、膏体層貼着面の貼着力を測定する方法である。図1に、粘着力試験器(転球装置)の傾斜板の側面図及び平面図を示す。
【0035】
実験には、前記パップ剤(各検体7枚、n=7)を、予め温度40℃、湿度75%の恒温恒湿条件下に3ヶ月間保管したものを使用した。また実験には、各パップ剤を、粘着力試験器の傾斜坂に配置する大きさ(縦×横:50mm×50mm)に裁断したものを使用した(被験パップ剤)。
【0036】
(1)評価試験方法
(i)実験機器
粘着力試験器(転球装置):ヨシミツ精機
ボール:スチールボールNo. 10(直径7.9mm、質量2.0g) 材質JIS-G4805規格品(高炭素クロム軸受鋼鋼材のSUJ2:大旺鋼球製造株式会社製)
実験にあたり、転球装置の水平を調整し、また使用する装置及びボールの表面をエタノールで十分拭いて、埃や塵などの付着がない状態に調整したものを用いた。
【0037】
(ii)実験方法
下記の手順に従って実施した。
1.被験パップ剤の剥離ライナー層を剥がし、転球装置の傾斜坂上の所定の位置に、当該パップ剤の膏体層の粘着面を上に向けて載せ、裏面の支持体層を両面テープで傾斜坂に固定する。
2.上記被験パップ剤を配置した傾斜坂の上側に、助走路用のプラスチックフィルムを、助走路の長さが20mmとなるように、貼り付ける。
3.ボールを転球装置の傾斜坂の上端より転がして、被験パップ剤の膏体層粘着面の上で停止するか否かを記録する。
4.各被験パップ剤について7検体(n=7)ずつ測定し(被験パップ剤1枚あたり1回測定×7検体)、ボールが粘着面上で停止した検体の数に応じて、下記の基準でスコア化した。
【0038】
[評価基準]
ボールが粘着面上で停止した検体の数/7検体
◎:6~7検体:
○:4~5検体
△:2~3検体
×:0~1検体
【0039】
(iii)実験結果
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
この結果からわかるように、比較例1のIPMPを含有するパップ剤の膏体層、及び比較例2のリドカインを含有するパップ剤の膏体層は、いずれも貼着力が低いのに対して、両者を併用することで、貼着力が有意に増強されることが確認された(実施例1~4)。さらにその効果は、膏体中のリドカインの含有量を0.2質量%から2質量%へと増量することで高くなることが確認された(実施例3~4))。また、ボールが粘着面上で停止した検体の数は実施例3で6検体であったのに対し、実施例4では7検体であったことから、IPMP及びリドカインに加えてジフェンヒドラミンを配合することで、膏体層の貼着力が顕著に高くなることが確認された(実施例4)。これらのことから、実施例1~4で確認された貼着力増強効果は、IPMPに、リドカイン、またはリドカインとジフェンヒドラミンを併用したことによる効果であることが確認された。
図1