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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009457
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】油中水型クリーム
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
A23D7/00 500
A23D7/00 508
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112763
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 倫生
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 一幸
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DH05
4B026DK05
4B026DL01
4B026DL03
4B026DL05
4B026DL06
4B026DX05
(57)【要約】
【課題】植物乳の独特の風味を十分に有し、風味発現性がよく、良好な保形性を有する油中水型クリームを得ること。
【解決手段】植物乳を1~28質量%含有し、含有される蛋白質に占める植物性蛋白質の割合が70質量%以上であり、以下の条件(1)~(4)を満たす油相を有する、油中水型クリーム。
(1)油脂A含量が30~65質量%
油脂A:炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が45~80質量%である油脂a1と、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量が60質量%以上である油脂a2とのランダムエステル交換油脂
(2)油脂B含量が35~70質量%
油脂B:25℃におけるSFCが3%以下
(3)含有される油脂の、25℃における固体脂含量と、35℃における固体脂含量の比(前者/後者)が3.5~8.0
(4)極度硬化油含量が3質量%以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物乳を1~28質量%含有し、含有される蛋白質に占める植物性蛋白質の割合が70質量%以上であり、以下の条件(1)~(4)を満たす油相を有する、油中水型クリーム。
(1)以下の油脂Aを30~65質量%含有する。
油脂A:構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が45~80質量%である油脂a1と、構成脂肪酸残基中の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量が60質量%以上である油脂a2とのランダムエステル交換油脂
(2)以下の油脂Bを35~70質量%含有する。
油脂B:25℃におけるSFCが3%以下の油脂
(3)含有される油脂の、25℃における固体脂含量(SFC-25)と、35℃における固体脂含量(SFC-35)の比(前者/後者、SFC-25/SFC-35)が3.5~8.0である。
(4)極度硬化油の含有量が3質量%以下である。
【請求項2】
含有される植物乳の蛋白質と脂質の質量比(蛋白質/脂質)が0.3~2.0である、請求項1に記載の油中水型クリーム。
【請求項3】
油脂Aが次の条件Ai及びAiiを満たす請求項1又は2に記載の油中水型クリーム。
Ai:構成トリグリセリド組成中の、飽和脂肪酸残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリドの含量が30~65質量%である。
Aii:構成脂肪酸残基中の、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基に対する、炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の質量比が0.25~3.0である。
【請求項4】
糖類及び糖アルコール類からなる群から選択された1種又は2種以上を、固形分(水分以外の成分の総和)として15~35質量%含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の油中水型クリーム。
【請求項5】
植物乳を含有する水相用原料液と油相用混合油脂とを含む混合液を液温が45~60℃となるようにしながら混合する工程と、該混合液を80~95℃まで昇温して殺菌処理を施す工程と、混合液を0~40℃まで冷却する工程とを、この順で含む、請求項1~4の何れか1項記載の油中水型クリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物乳を含有する油中水型クリームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりや、SDGsに対する意識の高まりから、牛乳の代替品として、植物乳が注目されている。
植物乳は、アーモンドやヘーゼルナッツ、カシューナッツ、ゴマ、クルミ、ヘンプシード等の種実類や、米や燕麦、大豆等の穀類を原料とし、多くの場合、牛乳様の白濁した外観を有する液体であり、糖類や塩、油脂等で調味されたものも市販されている。
当初、牛乳の代替品として注目されていた植物乳だが、栄養成分が豊富なことや独特の風味を有していることから、市場で人気を博しており、牛乳の代替としてではなく、むしろ積極的に選ばれるものとなっている。
近年では、従前、牛乳等の乳又は乳由来の副原料に代えて植物乳を利用して菓子やベーカリー食品を製造する検討がなされており、伴って植物乳を含有させたバタークリーム等の油中水型クリームの風味やテクスチャーを改良しようとする動きが進んでいる。
【0003】
例えば、硬化油のようなコク味を有する油中水型乳化油脂組成物を得るためにアーモンドミルクを含有させる手法(特許文献1)や、バター様の口溶けや保形性を有するバター様組成物を得るために植物乳を含有させる手法(特許文献2)、豆乳、ライスミルク、カシューナッツ等の植物ミルクを原料として、外観、使用感、食感及び食味のいずれも、バター様である食品を製造する方法(特許文献3、特許文献4)などが開示されている。
【0004】
他方、近年では、植物乳中の蛋白質が高温域で凝集しやすいことが明らかになっており、この課題に対する検討が進められている。(例えば特許文献5、特許文献6)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-077219号公報
【特許文献2】WO2020/196713 パンフレット
【特許文献3】特開2020-120648号公報
【特許文献4】特開2021-069337号公報
【特許文献5】WO2020/171105 パンフレット
【特許文献6】WO2020/171106 パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に記載されている、油脂組成物の風味や食感を改善する手法は、植物乳を含有させることにより、硬化油様のコク味を得たり、バター様のテクスチャーを得たりするものであるが、いずれも植物乳の独特の風味を十分に有する油中水型クリームが得られるものではなく、また、その開示もなされていなかった。
【0007】
一方、植物乳を含有する油脂組成物においては、従前用いられてきた牛乳等の乳又は乳由来の副原料を単純に植物乳に置換すると、乳化物である油脂組成物の乳化が不安定になりやすく、伴って風味発現性や保形性が不良になりやすいという課題があった。
【0008】
植物乳はその製造の過程で原料を磨砕する工程をとるが、牛乳等の乳又は乳由来の副原料と同等の粒度にすることは困難な場合があり、比較的固形分の粒度が大きくなりやすく、伴って解乳化が生じやすいためであると考えられる。十分に磨砕して同等程度の粒度になった場合であっても、特許文献5や特許文献6に開示されているように植物乳中の蛋白質は高温域で凝集する傾向があるため、油脂組成物の製造の過程で高温下に置かれることにより凝集し、それに伴って解乳化が生じやすくなると考えられる。
【0009】
一方で、油中水型クリームにおける植物乳の独特の風味は、油中水型クリーム中に占める植物乳の含量を高めることで強まるところ、植物乳の含量を高めると上記の問題がいっそう生じやすくなり、保形性や乳化の維持の観点から十分に含有させることが難しく、多く含有することができるように乳化剤等で乳化を強めると、逆に口溶けの悪化等を招き、植物乳の風味発現性を損ねる恐れがあった。
【0010】
したがって、本発明の課題は以下の通りである。
(1)植物乳の独特の風味を十分に有する油中水型クリームを得ること。
(2)風味発現性が良好な油中水型クリームを得ること。
(3)良好な保形性を有する油中水型クリームを得ること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、油中水型クリームを特定の組成とすることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の内容を含むものである。
[1]植物乳を1~28質量%含有し、含有される蛋白質に占める植物性蛋白質の割合が70質量%以上であり、以下の条件(1)~(4)を満たす油相を有する、油中水型クリーム。
(1)以下の油脂Aを30~65質量%含有する。
油脂A:構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が45~80質量%である油脂a1と、構成脂肪酸残基中の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量が60質量%以上である油脂a2とのランダムエステル交換油脂
(2)以下の油脂Bを35~70質量%含有する。
油脂B:25℃におけるSFCが3%以下の油脂
(3)含有される油脂の、25℃における固体脂含量(SFC-25)と、35℃における固体脂含量(SFC-35)の比(前者/後者、SFC-25/SFC-35)が3.5~8.0である。
(4)極度硬化油の含有量が3質量%以下である。
【0012】
[2]含有される植物乳の蛋白質と脂質の質量比(蛋白質/脂質)が0.3~2.0である、[1]に記載の油中水型クリーム。
【0013】
[3]油脂Aが次の条件Ai及びAiiを満たす[1]又は[2]に記載の油中水型クリーム。
Ai:構成トリグリセリド組成中の、飽和脂肪酸残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリドの含量が30~65質量%である
Aii:構成脂肪酸残基中の、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基に対する、炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の質量比が0.25~2.0である。
【0014】
糖類及び糖アルコール類からなる群から選択された1種又は2種以上を、固形分(水分以外の成分の総和)として15~35質量%含有する、[1]~[3]の何れか1項に記載の油中水型クリーム。
【0015】
植物乳を含有する水相用原料液と油相用混合油脂とを含む混合液を液温が45~60℃となるようにしながら混合する工程と、得られた混合液を80~95℃まで昇温して殺菌処理を施す工程と、殺菌後の混合液を0~40℃まで冷却する工程とを含む、[1]~[4]の何れか1項に記載の油中水型クリームの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
(1)植物乳の独特の風味を十分に有する油中水型クリームを得ることができる。
(2)風味発現性が良好な油中水型クリームを得ることができる。
(3)良好な保形性を有する油中水型クリームを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0018】
なお、本明細書において、植物乳の風味発現性とは、クリームにおける、口溶けに起因した植物乳の風味を呈するスピード及び強さを指す。「風味発現性が良い」場合、クリームの口溶けが良好であり、植物乳の風味をすぐに感じられ、「風味発現性が悪い」場合、クリームの口溶けが不良であり、植物乳の風味が感じられにくい。また、クリーム中の植物乳が同量である場合、風味発現性が良いと、クリームの口溶けが良好であることで口溶けが悪い場合に比して、植物乳の風味を十分に感じられる。
一方本明細書において、単に植物乳の風味の強さ又は風味の強度という場合、クリームを喫食したときの時間経過を横軸、植物乳の風味の強さを縦軸で示した時における、最大強度の大きさ(ピーク高さ)を指す。
【0019】
<植物乳>
本発明における植物乳とは、種実類や穀類に加水し、磨砕して製造されるペースト状若しくは液状の食品及び食品原料である。本発明に用いられる植物乳は磨砕により生じる固形分を含有するものであってもよく、該固形分を濾別等により除去したものであってもよい。また、単に搾汁して得られたものも含み、市販品を使用しても良い。
【0020】
本発明における植物乳の原料とすることができる種実類としては、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、タイガーナッツ、アーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、ココナッツ、ゴマ、クルミ、ヘンプシード、コーヒー、カカオ等が挙げられ、穀類としては、大豆、小豆、落花生、米、大麦、小麦、燕麦、ハト麦、ヒヨコマメ、とうもろこしが挙げられる。本発明の効果が発揮される限りにおいて特に限定されることはなく、いずれの原料を用いて製造された植物乳であっても用いることができ、1種又は2種以上を混合して用いることができる。なお、植物乳の製造にあたり、焙煎加工、蒸し加工、茹で加工等による加熱処理及び酵素処理(例えば糖化)のいずれか一つ以上の工程を経た種実類を用いて製造することも可能である。
【0021】
とりわけ、本発明の油中水型クリームにおいては、植物乳の風味を好ましく感じることができる油中水型クリームを得る観点から、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、タイガーナッツ、アーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、米、大豆、燕麦、ヒヨコマメからなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物乳を用いることが好ましく、より好ましくはアーモンド、燕麦、ヒヨコマメであり、最も好ましくはアーモンド、燕麦、ヒヨコマメに対し、焙煎加工、蒸し加工、茹で加工等による加熱処理及び酵素処理(例えば糖化)のいずれか一つ以上の工程を経たものである。
【0022】
本発明における植物乳の製造の際の加水については、特に制限はなく、求める風味や物性、製造効率を鑑みて適宜加水することができるが、植物乳の状態で好ましくは水分が95質量%以下であり、より好ましくは94質量%であり、最も好ましくは93質量%以下である。
本発明においては、植物乳の独特の風味を十分に呈する油中水型クリームを得る観点から、植物乳中の蛋白質と脂質の質量比率(前者/後者)が0.3~2.0の品を用いることが好ましく、より好ましくは0.33~1.6、更に好ましくは0.35~1.3の品を用いることが好ましい。
また、植物乳中の蛋白質含量については、植物乳の独特の風味を十分に呈する油中水型クリームを得る観点と、適当な保形性と風味発現性を有する油中水型クリームを得る観点とから、好ましくは0.5~16質量%、より好ましくは0.9~15質量%、更に好ましくは1.5~14質量%である。
【0023】
本発明では、植物乳の独特の風味を十分に有し、風味発現性や口溶けがよく、良好な保形性を有する油中水型クリームを得る観点から、上記の植物乳を1~28.0質量%含有し、好ましくは3~25質量%含有し、より好ましくは6~22質量%含有し、更に好ましくは8~18質量%含有する。1質量%未満であると、植物乳の独特の風味を十分に呈する油中水型クリームを得ることができず、28.0質量%超であると、得られる油中水型クリームの保形性が低下する。
【0024】
<植物性蛋白質の割合>
従前、製菓・製パンの分野で用いられてきた、バタークリーム等の油中水型クリームにおいては、乳由来の風味(例えばバター風味や練乳風味等)や卵由来の風味(例えばカスタード風味)を得るために、脱脂粉乳や全脂粉乳、ホエイパウダー等の乳由来の蛋白質を含む原料や、卵黄、卵白等の卵由来の蛋白質を含む原料を使用することが一般的であったところ、本発明においては、植物乳の独特の風味を十分に感じられる油中水型クリームを得る観点から、これらの原料を従前どおり含有させることは好ましくない。これらの原料を従前どおり含むと、植物乳の風味とが競合してしまい、植物乳の風味を感じにくくなってしまうためである。
【0025】
そのため、本発明に含有される蛋白質の種類は特に限定されず、動物性蛋白質や植物性蛋白質のいずれであっても含有しうるが、植物乳の独特な風味の発現を損なわないようにする観点から、油中水型クリーム中に含有される蛋白質に占める植物性蛋白質の割合が70質量%以上とし、好ましくは80質量%以上とし、より好ましくは90質量%以上とし、更に好ましくは100質量%とする。
【0026】
なお、動物性蛋白質としては、例えば、乳由来の蛋白質(カゼインナトリウム、又はホエイ蛋白質等)、卵由来の蛋白質や、それらの加水分解物などを挙げることができ、油中水型クリームにおける植物乳の風味を損ねない観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは0質量%である。(ただし、キャリーオーバーによるものを除く)
【0027】
また、植物性蛋白質としては、上述の植物乳由来の蛋白質であってもよく、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、タイガーナッツ、アーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、ココナッツ、ゴマ、クルミ、ヘンプシード、コーヒー、カカオ等の種実類や、大豆、小豆、落花生、米、大麦、小麦、燕麦、ハト麦、ヒヨコマメ、とうもろこし等の穀類その他の蛋白質を含有する植物を原料として、それに加工処理を施し、蛋白質の含有率を50%以上に高めたものであってもよく、これらの加水分解物であってもよいが、良好な風味を有する油中水型クリームを得る観点から、含有される植物性蛋白質における植物乳由来の蛋白質が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0028】
本発明の油中水型クリーム中に含有される蛋白質の含量は、良好な風味発現性を有する油中水型クリームを得る観点と、良好な保形性を有する油中水型クリームを得る観点から、好ましくは0.03~0.90質量%、より好ましくは0.05~0.80質量%、更に好ましくは0.15~0.70質量%、特に好ましくは0.20~0.60質量%である。
【0029】
<含有される油相に係る条件>
本発明の油中水型クリームは、以下の条件(1)~(4)を満たす油相を有する。
(1)以下の油脂Aを30~65質量%含有する。
油脂A:構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が45~80質量%である油脂a1と、構成脂肪酸残基中の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量が60質量%以上である油脂a2とのランダムエステル交換油脂
(2)以下の油脂Bを35~75質量%含有する。
油脂B:25℃におけるSFCが3%以下の油脂
(3)含有される油脂の、25℃における固体脂含量(SFC-25)と、35℃における固体脂含量(SFC-35)の比(前者/後者、SFC-25/SFC-35)が3.5~8.0である。
(4)極度硬化油の含有量が3質量%以下である。
【0030】
以下、条件ごとに述べる。
<条件1>
本発明の油中水型クリームは、その油相中に、以下の油脂Aを30~65質量%含有する。
油脂A:構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が45~80質量%である油脂a1と、構成脂肪酸残基中の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量が60質量%以上である油脂a2とのランダムエステル交換油脂
【0031】
油脂Aの原料である油脂a1としては、構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が45~80質量%である油脂が用いられる。なお、脂肪酸残基とは脂肪酸RCOOHからOHを除いた残基RCOを指す。
構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が上記範囲にある油脂を、油脂Aの原料に用いることで、好適な油相組成を有する油脂Aを得ることができる。
【0032】
また、植物乳の風味を強める観点から、植物乳を多く含有させる場合においても、良好な保形性を有する油中水型クリームを得ることができ、風味発現性が良好な油中水型クリームを得ることができる。
【0033】
油脂a1としては、構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が45~80質量%である食用油脂であれば特に限定されず、例えば、パーム核油及びヤシ油のうちから選択される1種又は2種を含有する油脂配合物に、水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を挙げることができ、好ましくはパーム核油又はパーム核油の分別軟部油を用いることが好ましく、より好ましくはパーム核油を用いることが好ましい。パーム核油の方がヤシ油よりもヨウ素価が高い傾向にあり、保形性と風味発現性とを両立した油中水型クリームを得られやすくなるためである。パーム核油を選択する場合における、使用されるパーム核油のヨウ素価は好ましくは10~30、より好ましくは13~26、更に好ましくは15~22である。
【0034】
油脂a1における構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは52質量%以上、更に好ましくは54質量%以上、特に好ましくは57質量%以上であり、好ましくは75質量%以下、より好ましくは73質量%以下、更に好ましくは72質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。
【0035】
油脂a1における構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基のうち、炭素数12の飽和脂肪酸残基の含量は、構成脂肪酸残基中、好ましくは40質量%以上、より好ましくは42質量%以上、更に好ましくは44質量%以上、特に好ましくは45質量%以上である。構成脂肪酸残基中の炭素数12の飽和脂肪酸残基の含量の上限は、好ましくは55質量%以下である。
【0036】
油脂a2としては、構成脂肪酸残基中の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量が60質量%以上の食用油脂であれば特に限定されず、例えば、パーム油、及びこれを含有する油脂配合物に、水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を挙げることができ、パーム極度硬化油、パーム分別軟部油及びその極度硬化油、パーム分別硬部油及びその極度硬化油のうちから1つ選択して用いることが好ましく、パーム極度硬化油、パーム分別硬部油及びその極度硬化油のうちから1つ選択して用いることがより好ましく、パーム極度硬化油を選択して用いることが更に好ましい。
【0037】
なお、パーム油、パーム分別軟部油又はパーム分別硬部油を極度硬化油として用いる場合には、ヨウ素価が3以下となるまで硬化させるのが好ましく、1以下となるまで硬化させるのがより好ましい。
【0038】
油中水型クリーム中の植物乳の含量を一定程度まで高めた場合においても良好な保形性を実現する観点から、油脂a2として、構成脂肪酸残基中の炭素数16の飽和脂肪酸残基の含量に対する炭素数18の飽和脂肪酸残基の含量質量比(以下、単にSt/Pとも記載する)が、0.05~2.0を満たすことが好ましく、0.1~1.7を満たすことがより好ましく、0.4~1.4を満たすことが更に好ましい。
【0039】
油脂Aは、油脂a1と油脂a2のランダムエステル交換油脂である。
ランダムエステル交換を行う際の好適な条件、特に油脂a1と油脂a2の混合比については、要求される油中水型クリームの物性により、適宜変更可能であるが、以下のとおりの質量比とすることにより、後述の条件Ai、Aiiを好ましく満たし、良好な保形性と風味発現性を有する油中水型クリームを得られやすくなる。
具体的には、油脂a1の含量に対する油脂a2の含量の質量比(後者/前者)が、好ましくは0.2~2.0であり、より好ましくは0.25~1.6、更に好ましくは0.3~1.2である。
【0040】
ランダムエステル交換の方法は、化学的触媒を用いる方法であってもよく、或いは酵素を用いる方法であってもよい。上記化学的触媒としては、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒等が挙げられ、上記酵素としては、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼ等が挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0041】
<油脂Aが好ましく満たす条件>
本発明においては、油脂a1と油脂a2をランダムエステル交換して得られる油脂Aが、以下の条件Ai及びAiiを満たすことが、良好な保形性を有する油中水型クリームを得ることができ、風味発現性が良好な油中水型クリームを容易に得られるようになる。
Ai:構成トリグリセリド組成中の、飽和脂肪酸残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリドの含量が30~65質量%である。
Aii:構成脂肪酸残基中の、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基に対する、炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の質量比が0.25~2.0である。
【0042】
まず、条件Aiについて述べる。
条件Aiは、油脂Aの構成トリグリセリド中の、飽和脂肪酸残基の合計炭素数が46以下であるトリ飽和トリグリセリド(以下、単に「炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリド」ともいう。)の含量に関する。炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドとしては、例えばラウリル-パルミトイル-ステアロイル-トリグリセリドや、ジ-ミリストイル-モノ-ステアロイル-トリグリセリド、トリラウリンなどを挙げることができる。
【0043】
油脂Aにおける炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドの含量は、油中水型クリームの保形性と風味発現性とを両立する観点から、その下限は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは33質量%以上、更に好ましくは36質量%以上、特に好ましくは38質量%以上であり、該含量の上限は、好ましくは65質量%以下であり、より好ましくは61質量%以下、更に好ましくは55質量%以下、特に好ましくは52質量%以下である。
例えば、該含量の範囲は、好ましくは30~65質量%であり、より好ましくは33~61質量%、更に好ましくは36~55質量%、特に好ましくは38~52質量%である。
【0044】
とりわけ、炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリド中の、ラウリル-パルミトイル-ステアロイル-トリグリセリドが5~35質量%であることが好ましく、7~32質量%であることがより好ましく、9~30質量%であることが更に好ましい。
なお、本発明に用いられる油脂Aは、構成トリグリセリド組成中の、トリラウリンの含量が10質量%以下の範囲にあることが好ましい。トリラウリンは、グリセリン骨格に対して結合する脂肪酸残基の合計炭素数が36であるため、上記の炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドに該当するものである。
得られる油中水型クリームの保形性を高める観点から、油脂Aの構成トリグリセリド組成中のトリラウリンの含量は、より好ましくは9.0質量%以下、更に好ましくは7.0質量%以下、特に好ましくは5.5質量%以下であり、下限は0質量%である。
本発明の製菓用油脂組成物の油相のトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定することができる。本発明において示すトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した値に基づく。
【0045】
次に条件Aiiについて述べる。
条件Aiiは、構成脂肪酸残基中の、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基に対する、炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の質量比に関する。
油脂Aにおける該質量比は、保形性のよい油中水型クリームを得る観点や、風味発現性のよい油中水型クリームを得る観点から、その下限は好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.35以上であり、更に好ましくは0.45以上であり、特に好ましくは0.50以上であり、該質量比の上限は好ましくは2.00以下であり、より好ましくは1.80以下であり、更に好ましくは1.60以下であり、特に好ましくは1.45以下である。
例えば、該質量比の範囲は、好ましくは0.25~2.00であり、より好ましくは0.35~1.80、更に好ましくは0.45~1.60、特に0.50~1.45である。
【0046】
本発明の油中水型クリームの油相の脂肪酸組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。本発明において示す脂肪酸組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した値に基づく。
【0047】
油脂Aに関する上記条件を好ましく満たす、好適な実施形態のひとつとしては、以下の態様を挙げることができる。
すなわち、油脂Aが、以下に示す油脂A1とA2の混合油であって、油脂A1の含量と油脂A2の含量の質量比が前者:後者で1:1~9であることを特徴とする。
但し、油脂A1は、油脂a1と油脂a2のランダムエステル交換油脂であって、構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が25~39質量%であり、構成トリグリセリド組成中の炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドの含量が30質量%以上45質量%未満である油脂である。
【0048】
また、油脂A2は、油脂a1と油脂a2のランダムエステル交換油脂であって、構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が40~55質量%であり、構成トリグリセリド組成中の炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドの含量が45~60質量%である油脂である。
植物乳の独特の風味を十分に有し、且つ良好な風味発現性や保形性を有する油中水型クリームを得るにあたり、上述のとおり、油脂Aに関する上記条件を満たすことが好ましいところ、油脂A1と油脂A2とを組み合わせて用いることにより、該条件を満たすことが容易になる。
【0049】
油脂A1に係る構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量は、より好ましくは26~38質量%、更に好ましくは27~37質量%、特に好ましくは28~35質量%である。
油脂A1に係る構成トリグリセリド組成中の炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドの含量の下限は、より好ましくは32質量%以上、更に好ましくは33質量%以上、特に好ましくは35質量%以上であり、該トリグリセリドの含量の上限は、より好ましくは44質量%以下であり、更に好ましくは43質量%以下であり、特に好ましくは42質量%以下である。
【0050】
油脂A2に係る構成脂肪酸残基中の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量は、より好ましくは40~53質量%、更に好ましくは40~52質量%、特に好ましくは40~50質量%である。
油脂A2に係る構成トリグリセリド組成中の炭素数46以下のトリ飽和トリグリセリドの含量は、より好ましくは45~59質量%、更に好ましくは45~57質量%、特に好ましくは45~55質量%である。
また、油脂A1と油脂A2は、油脂A1の含量と油脂A2の含量の質量比が前者:後者で1:1~9の範囲で、任意に混合することが可能であるが、植物乳の独特の風味を十分に有し、且つ良好な風味発現性や保形性を有する、良好な油中水型クリームを得る観点から、該質量比が1:2~8であることがより好ましく、1:2.5~7.5であることが更に好ましく、1:3~6.5であることが特に好ましい。
【0051】
<条件2>
本発明の油中水型クリームは、その油相中に、以下の油脂Bを35~70質量%含有する。
油脂B:25℃におけるSFCが3%以下の油脂
油脂Bの含有量を上記上限以下とすることで、得られる油中水型クリームが良好な保形性を有するものとなり、良好な風味発現性を得ることができる。
【0052】
本発明の油中水型クリームにおいては、油脂Bを、その油相中に37~67質量%含有することが好ましく、39~64質量%含有することがより好ましく、41~61質量%含有することが更に好ましく、43~58質量%含有することが特に好ましい。
【0053】
本発明の油中水型クリームに含有させることができる、油脂Bの種類は、該条件を満たせば特に限定されず、例えば、以下の(i)や(ii)を挙げることができる。
(i)液状油:大豆油、菜種油、ヒマワリ油、とうもろこし油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、ゴマ油、紅花油等
(ii)分別軟部油:25℃でSFCが3%超の油脂(例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、マンゴ脂、カカオ脂、シア脂及びサル脂等)を分別することで得られた軟部油であって25℃におけるSFCが3%以下ある油脂
【0054】
本発明の油中水型クリームに含有される、油脂Bは、上記した(i)や(ii)から選択される1種のみの油脂であってもよく、上記した油脂から選択される2種以上の混合油脂であってもよい。
本発明の油中水型クリームに含有される植物乳の風味を十分に発現させる観点と、良好な保形性を有する油中水型クリームを得る観点から、好ましくは(i)と(ii)の群から少なくとも1種類ずつ含有させることが好ましく、より好ましくは(i)の大豆油、菜種油、ヒマワリ油、とうもろこし油、綿実油、米油のうちから1種以上、(ii)のパーム油の分別軟部油(パームオレイン、パームスーパーオレイン)、シア脂の分別軟部油(シアオレイン)のうちから1種以上が選択され、更に好ましくは(i)の大豆油、菜種油のうちから1種以上、(ii)のパーム油の分別軟部油(パームオレイン、パームスーパーオレイン)のうちから1種以上が選択される。
【0055】
条件2を満たす油脂として分別軟部油を含有させることで、条件2を満たす油脂が液状油のみで構成されるよりも、得られる油中水型クリームの保形性と口溶けとが両立しやすくなるためである。また、油中水型クリームの経時的なべたつきの発生も抑制しやすくなる。この理由は明らかになっていないが、液状油のみで構成されるよりも、分別軟部油を含有させた方が、油中水型クリームの油相の構成脂肪酸残基組成における、飽和脂肪酸残基の量が増すためであると発明者らは考えている。分別軟部油と液状油との合計量100質量部のうち、分別軟部油を例えば50~85質量%とすることが保形性と口溶けの両立の点から特に好ましい。
【0056】
なお、25℃におけるSFCが3%以下という条件を満たせば、乳脂、牛脂、豚脂、鶏油、魚油及び鯨油等の動物油脂又はこれらの分別軟部油を油脂Bとして使用することも可能ではあるが、これらの油脂が元来有する風味が、本発明の油中水型クリームに含有される植物乳の風味の発現を損ねる恐れを一層確実に防止する観点から、含有させる場合においては、本発明の油中水型クリームの油相中に、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは0質量%である。(ただし、キャリーオーバーによるものを除く)
【0057】
<条件3>
本発明の油中水型クリームにおいては、含有される油脂の5℃における固体脂含量(SFC-25)と、35℃における固体脂含量(SFC-35)の比(前者/後者、SFC-25/SFC-35)が3.5~8.0である。
【0058】
人間の口腔内の温度がおおよそ37℃であることが知られているところ、35℃における固体脂含量を一定範囲とすることにより、SFC-25/SFC-35が上記範囲を満たすことで、良好な風味発現性を発揮し、植物乳の独特の風味を十分に感じることができると共に、厚みのある風味を有する油中水型クリームを得ることができる。
【0059】
本発明の油中水型クリームに含有される油脂におけるSFC-25/SFC-35は、得られる油中水型クリームの保形性と風味発現性とを両立する観点から、好ましくは4.0~7.8、より好ましくは4.4~7.5、更に好ましくは4.8~7.2、特に好ましくは5.2~7.0となるように調整される。
【0060】
本発明において、SFCの値は、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料(油脂又は油脂組成物)のSFCを測定した後、測定値を含有される油脂量に換算した値を使用する。
即ち、水相等の油脂以外の成分を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相等の油脂以外の成分を含む試料を測定した場合は、測定値を含有される油脂量に換算した値をSFCとする(以下、SFCの測定について同様である。)。
【0061】
<条件4>
本発明の油中水型クリームにおいては、油相中における、極度硬化油の含量が3質量%以下である。
本発明の油中水型クリームに用いることができる、極度硬化油の種類としては特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオバター、シア脂、マンゴ核油、サル脂及びイリッペ脂等の植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物油脂、並びにこれらの油脂にエステル交換、分別等の処理を施した油脂に対して、好ましくはヨウ素価が3以下になるまで、より好ましくはヨウ素価が1以下になるまで、水素添加を施して得られる極度硬化油を挙げることができる。なお、エステル交換油脂Aを得るエステル交換反応の原料として用いる極度硬化油の量は、本条件の極度硬化油含量に含めない。
【0062】
従来知られた油中水型クリームにおいてはクリーミング性を向上させたり、保形性を向上させたりする観点から極度硬化油を好ましく含有させる場合が多く見られたが、植物乳の風味を十分に感じることができる油中水型クリームを得ることが課題の一つである本発明において、極度硬化油を含有させることは風味発現性の悪化につながり、ひいては本発明の課題解決が困難になることから、本発明の油中水型クリームの油相中における極度硬化油の含量は3質量%以下であり、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。(但し、キャリーオーバーを除く)
【0063】
本発明の油中水型クリームにおいては、その油相中における極度硬化油の含量が0質量%、すなわち、含有しない場合であっても、油相に係る上記条件1~3を好ましく満たすことにより、保形性と風味発現性とを両立した、植物乳を含有する油中水型クリームを得ることが可能になる。
【0064】
<その他油相に含有しうる油脂について>
本発明の油中水型クリームでは、上記条件(1)~(4)を満たす範囲で、油脂A、油脂B、極度硬化油以外のその他の油脂を、油相中に含有させることができる。
例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、紅花油、ひまわり油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂及びココアバター等の植物油脂、乳脂、牛脂、豚脂、鶏油、魚油及び鯨油等の動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂のうち油脂A、油脂B又は極度硬化油に該当しない油脂が挙げられる。その他油脂としては、上記油脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合し用いることができる。なお、いわゆる部分硬化油は使用しないことが好ましい。
【0065】
油相中におけるその他の油脂の含量は、油相中15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0066】
<本発明の油中水型クリームに含有しうるその他の成分について>
また、本発明の油中水型クリームは、本発明の効果を奏する限りにおいて、植物乳及び油脂以外のその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、糖類や糖アルコール類、デキストリン類、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、卵及び各種卵加工品、苦汁、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0067】
牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、卵及び各種卵加工品については、上記の蛋白質中の植物性蛋白質の割合を満たす量とする。更に、植物乳の風味発現に影響することを一層確実に防止する観点から、含有しないか或いは含有量が少ないことが好ましく、含有する場合、本発明の油中水型クリーム中5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。
【0068】
本発明の油中水型クリームに使用することができる乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン、サポニン類等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0069】
本発明においては、植物乳の独特の風味を十分に感じられる風味発現性を有する油中水型クリームを得る観点から油中水型クリーム中に含有される乳化剤の総量が1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.55質量%以下であることが更に好ましく、0.4質量%以下であることが更に好ましく、0.25質量%以下であることが特に好ましい。乳化剤の総量の下限としては例えば0.05質量%以上であることが良好な保形性と風味発現性の両立を図る観点から好ましい。
【0070】
なお、得られる油中水型クリームの乳化安定性や保形性を良好なものとする観点から、本発明の油中水型クリーム中におけるHLB6以下の乳化剤の量が0.7質量%以下であることが好ましく、0.55質量%以下であることがより好ましく、0.4質量%以下であることが更に好ましく、0.25質量%以下であることが特に好ましい。HLB6以下の乳化剤としては、例えばレシチンや親油性の蔗糖脂肪酸エステルを上げることができる。HLB6以下の乳化剤の総量の下限としては例えば0.03質量%以上であることが良好な保形性と風味発現性の両立を図る観点からの点で好ましい。
【0071】
また、本発明の油中水型クリームは、喫食時の風味発現性を向上させる観点からHLB8以上の乳化剤を含有させることができるが、油中水型クリームの乳化安定性を保つために、HLB6以下の乳化剤と併せて含有させるかことが好ましい。得られる油中水型クリームの喫食時の風味発現性と乳化安定性とを両立する観点から、HLB6以下の乳化剤とHLB8以上の乳化剤の質量比は、前者1質量部に対し後者が5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましく、2.5質量部以下であることが特に好ましい。
【0072】
また、本発明においては、糖類や糖アルコール類については、油中水型クリームの保形性を高める観点や、植物乳の風味を十分に感じられる油中水型クリームを得る観点から、油中水型クリーム中、固形分(水分以外の成分の総和)として15~35質量%含有させることが好ましく、17~33質量%含有させることがより好ましく、19~31質量%含有させることが更に好ましく、20~30質量%含有させることが特に好ましい。特に、本発明の油中水型クリームにおいては、植物乳の風味を十分に感じられる油中水型クリームを得る観点から、甘味度が2.0以下の糖類又は糖アルコール類を用いることが好ましく、1.7以下の糖類又は糖アルコール類を用いることがより好ましく、1.4以下の糖類又は糖アルコール類を用いることが更に好ましく、1.1以下の糖類又は糖アルコール類を用いることが特に好ましい。甘味度が2.0超の糖類又は糖アルコール類を用いると、その糖類又は糖アルコール類の甘味で植物乳の風味を十分に感じられにくくなる場合があるため、甘味度が2.0以下の糖類又は糖アルコール類100質量部に対し50質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、用いなくてもよい。
【0073】
なお、本発明における糖類としては、例えば、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース等の単糖類、ショ糖、麦芽糖、乳糖等の二糖類、オリゴ糖が挙げられる。
糖アルコール類としては、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトール、直鎖オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、高糖化還元水飴、還元麦芽糖水飴、還元水飴等を挙げることができる。
また、上記の単糖類、二糖類、糖アルコールを固形分の主成分として含む液糖やはちみつ、糖アルコール製剤等の食品素材も、糖類や糖アルコール類の例として含めることができる。
本発明においては、これらの糖類及び糖アルコール類からなる群から選択された1種又は2種以上用いることができる。
【0074】
なお、本発明においては油中水型クリームの保形性と油中水型クリームが呈する植物乳の風味とを両立し、物性の軟化や希釈効果による風味の低下を避ける観点から、その他の成分として水を含有する場合には本発明の油中水型クリーム中、10質量%以下であることが好ましく、8.5質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることが更に好ましく、その他成分としての水を含有しないことが最も好ましい。
【0075】
なお、本発明の水分が、植物乳や、いわゆる液糖等の水分を多く含有する食品素材由来であることが好ましい。ゆえに、本発明のクリームに含有される糖類や糖アルコール類100質量%中、液糖(水分を20質量%以上含有する流動性を有する糖類若しくは糖アルコール類)を50質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することが最も好ましい。複数種の液糖を含有させた場合にはその合算値を考慮することとする。
【0076】
更に、本発明においては、いっそう好ましく植物乳の風味を強く感じられる油中水型クリームを得ることができるようになるため、その他成分として食塩や塩化カリウム等の塩味剤、苦汁等の、栄養成分中の灰分含量が高い食品原料を含有させて、油中水型クリーム中の灰分組成の調整を行うことが好ましい。
【0077】
現段階では、油中水型クリーム中のカリウム含有量とナトリウム含有量とが、植物乳を含有する油中水型クリームの風味に対する影響が大きいことが明らかになっていることから、本発明の油中水型クリーム中における塩化カリウム含有量と塩化ナトリウム含有量の質量比(前者/後者。以下、単にKCl/NaCl比とも記載する場合がある。)は0.5~5.0であることが好ましく、1.0~4.6であることがより好ましく、1.5~4.2であることが更に好ましく、2.0~3.8であることが特に好ましい。なお、塩化ナトリウムと塩化カリウムの総量は、良好な風味を有する油中水型クリームを得る観点から、0.10~0.60質量%であることが好ましく、0.13~0.50質量%であることがより好ましく0.15~0.40質量%であることが更に好ましく、0.15~0.25質量%であることが特に好ましい。
【0078】
<油中水型クリームの製造方法>
本発明の油中水型クリームは、上記条件を満たす限り、その製造方法は特に限定されない。
なお、本発明における油中水型とは、連続した油相中に、水相が分散している形態を指す。具体的な乳化形態としては、W/O型のみならず、O/W/O型やO/O型をも含む。
含有される油相には、上記条件を満たすように、油脂A、油脂B、極度硬化油を含有する他、必要に応じてその他の油脂を含有させることができる。
【0079】
上記条件(1)~(4)を満たす油相を用いる限り、使用する油脂の種類や量は特に限定されないが、得られる油中水型クリームの保形性や風味発現性を両立し、植物乳の独特の風味を十分に発現させる観点から、油中水型クリームにおける油相の含量が40~80質量%であることが好ましく、42~72質量%であることがより好ましく、44~64質量%であることが更に好ましく、46~58質量%であることが特に好ましい。なお、上述の植物乳やその他の成分中に油脂が含有される場合には、これらも油相の量に含めるものとする。
【0080】
同様の観点から、油中水型クリームにおける水相の含量が20~60質量%であることが好ましく、28~58質量%であることがより好ましく、36~56質量%であることが更に好ましく、32~54質量%であることが特に好ましい。なお、植物乳を油性成分と混合することで、植物乳中の水分や水溶性成分をそのまま水相として用いることも可能である。
【0081】
製造方法としては、例えば上記条件(1)~(4)を満たすショートニング若しくはマーガリンやファットスプレッドをクリーミングした後、上記植物乳や、上記糖類や糖アルコール、及びその他の成分を含有させて更に混合し、本発明の油中水型クリームを得る手法や、上記条件(1)~(4)を満たすように調製された油相用混合油脂と、植物乳を含有する水相用原料液とを混合し油中水型に乳化して、本発明の油中水型クリームを得る手法等を挙げることができる。
【0082】
以下、W/O型の乳化形態をとる、本発明の油中水型クリームの好適な製造方法について述べる。
詳細には、先ず、上記条件(1)~(4)を満たすことができるように、油脂A、油脂B、必要に応じて極度硬化油、及びその他油脂を加熱溶解し、混合・撹拌を行い、油相用混合油脂を調製する。油溶性のその他の成分については、必要に応じて油相用混合油脂に含有させてよい。また、植物乳に必要に応じ水や水溶性のその他の成分を添加した水相用原料液を調製した後、該水相用原料液と油相用混合油脂含有液とを混合することにより予備乳化する。
【0083】
該混合時においては、得られる油中水型クリームが呈する植物乳の風味を十分に得る観点から、水相用原料液と油相用混合油脂とを含む混合液の液温を60℃以下とすることが好ましく、58℃以下とすることがより好ましく、57℃以下とすることが更に好ましく、56℃以下とすることが特に好ましい。該混合液の液温が60℃超となる場合、植物乳の風味が逸失してしまう恐れがある。また、植物乳中の蛋白質の変性が起こりやすくなり、得られる油中水型クリームの乳化安定性が低下する恐れがある。
なお、混合液の液温の下限は、含有させた油脂の融点等によっても異なるが、45℃以上とすることが好ましい。
【0084】
次に、殺菌処理に付すのが好ましい。なお、殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。殺菌温度は、目的達成される任意の温度に設定することができるが、風味良好な油中水型クリームを得る観点から、好ましくは80~95℃であり、より好ましくは82~95℃であり、更に好ましくは84~95℃であり、特に好ましくは85~95℃である。95℃を越えると植物乳の風味が逸失されてしまう場合がある。なお、殺菌の時間は例えば30~90秒が好適であり、より好ましくは45~75秒である。
【0085】
その後、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。冷却による到達温度は特に限定されないが、好ましくは0~40℃、より好ましくは2~35℃、更に好ましくは3~30℃まで冷却される。
【0086】
なお、本発明のクリームの製造の過程においては、リファイニングの工程や含気させる工程(例えばクリーミングや、窒素や空気等のガスの吹込み)を任意に導入することができる。
本発明の油中水型クリームを含気させる場合には、任意の方法で比重が0.4~0.95となるように含気させることが好ましく、0.5~0.9となるように含気させることがより好ましく、0.55~0.9となるように含気させることが更に好ましく、0.6~0.9となるように含気させることが特に好ましい。
【0087】
<本発明の油中水型クリームの用途>
本発明の油中水型クリームの用途としては、練り込み用、フィリング用(サンド、トッピング、スプレッド、コーティング等を含む)、スプレー用、調理用等が挙げられるが、中でも、フィリング用として好適に使用でき、とくに、ベーカリー食品のフィリングクリームに好適に使用できる。
【0088】
本発明の油中水型クリームを適用することができるベーカリー食品としては、限定されず、例えば、食パン、菓子パン、バターロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ等のパン類、パイやペストリー、パウンドケーキ、スポンジケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等のバターケーキ、アイスボックスクッキー、ワイヤーカットクッキー、サブレ、ラングドシャクッキー、ビスケット等のクッキー、ワッフル、スコーン等の菓子類を選択することができる。
【0089】
また、本発明の油中水型クリームの上記用途における使用量は、各用途により異なるものであり、特に制限されるものではないが、例えばベーカリー食品100質量部に対して、本発明の油中水型クリームを5~200質量部使用することができる。
【実施例0090】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0091】
<油中水型クリームの油相組成の測定>
●トリグリセリド組成の測定
実施例及び比較例で製造した油中水型クリームの油相のトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した。
各種測定条件は以下のとおりである。
(検出器):示差屈折検出器
(カラム):ドコシルカラム(DCS)
(移動相):アセトン:アセトニトリル=65:35(体積比)
(流速):1ml/min
(カラム温度):40℃
(背圧):3.8MPa
【0092】
●脂肪酸組成の測定
実施例及び比較例で製造した油中水型クリームの油相の脂肪酸組成は、AOCS法「Ce-1h05」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した。
各種測定条件は以下のとおりである。
(注入方式)スプリット方式
(検出器)FID検出器
(キャリアガス)ヘリウム 1ml/min
(カラム)SUPELCO社製「SP-2560」(0.25mm、0.20μm、100m)
(カラム温度)180℃
(分析時間)60分
(注入口温度)250℃
(検出器温度)250℃
(スプリット比)100:1
【0093】
●油中水型クリームのSFCの測定
実施例及び比較例で製造した油中水型クリームのSFCは、AOCS official methodのcd16b-93に記載されるパルスNMR(ダイレクト法)にて測定した。25℃及び35℃におけるSFCは、25℃又は35℃に設定された恒温槽にて30分静置した試料について測定した。
【0094】
以下、実施例及び比較例で用いた油脂について述べる。
<製造例1>(ランダムエステル交換油脂(1)の製造)
パーム核油50質量部と、パーム油に対し、ヨウ素価が1以下となるまで水素添加を施した極度硬化油(以下、単にパーム極度硬化油とも記載する)50質量部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、四口フラスコに入れ、液温110℃で真空下30分加熱した。この後、対油0.2質量%の割合でランダムエステル交換触媒のナトリウムメトキシドを加えて、液温を85℃に調整して更に真空下で1時間加熱してランダムエステル交換反応を行った後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和した。次に、白土を加え漂白(白土量は対油3質量%、処理温度85℃)を行い、白土を濾別した後、脱臭(250℃、60分間、吹込み水蒸気量対油5質量%)を行って、ランダムエステル交換油脂(1)を得た。
【0095】
<製造例2>(ランダムエステル交換油脂(2)の製造)
パーム核油75質量部と、パーム油に対し、沃素価が1以下となるまで水素添加を施した、パーム極度硬化油25質量部を溶融した状態で混合し、油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様にして、ナトリウムメトキシドを触媒とするランダムエステル交換反応、及び漂白・脱臭の精製処理を行い、ランダムエステル交換油脂(2)を得た。
【0096】
製造例1及び2に関し、パーム核油は油脂a1に該当し、パーム極度硬化油は油脂a2に該当する。パーム核油の構成脂肪酸残基中の炭素数の12~14の飽和脂肪酸残基の含量は65.7質量%であり、炭素数12の飽和脂肪酸残基の含量は50.1質量%であり、パーム極度硬化油の構成脂肪酸残基中の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量は98.2質量%であり、St/Pが1.20であった。
【0097】
製造されたランダムエステル交換油脂(1)及び(2)は油脂Aに該当し、ランダムエステル交換油脂(1)は油脂A1に該当し、ランダムエステル交換油脂(2)は油脂A2に該当する。
また、油脂Bとして液状油である菜種油(表2の「油脂B-1」)、及びヨウ素価65のパームスーパーオレイン(パーム油の分別軟部油、表2の「油脂B-2」)を使用した。
なお、菜種油の25℃におけるSFCは0.2%、パームスーパーオレインの25℃におけるSFCは0.4%であり、いずれも3%以下である。
更に、ヨウ素価1以下となるまで水素添加を施した、パーム極度硬化油を使用した。
【0098】
【表1】
【0099】
<油中水型クリームの製造>
まず、表2に記載の配合で、混合油脂A~Mを調製した。
次に、この混合油脂A~Mを用いて、表3に記載の配合で、以下に示す製造方法により、油中水型クリームEx-1~22、及び油中水型クリームCEx-1~7を調製した。なお、使用した植物乳の詳細は表4に示した。なお表3におけるExは実施例を意味し、CExは比較例を意味する。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
-油中水型クリームの製造方法-
混合油脂A~Mのいずれか1つとレシチンからなる油相用混合油脂含有液と、アーモンドミルク、ライスミルク、アーモンドペーストのいずれか一種、グラニュー糖液糖、グラニュー糖、麦芽糖水飴、食塩、塩化カリウム、水からなる水相用原料液とを、45~55℃の温度で混合し、W/O型の予備乳化物を得た。W/O型乳化物を87℃にて60秒間殺菌し、次いでコンビネーターにて、-20℃/分の条件で、5℃まで急冷しながら可塑化して、W/O型の油中水型乳化物を調製した。
【0104】
得られた油中水型クリームを後述する官能評価用と、保形性評価用にカップにとり、評価に供した。なお、保形性評価用のサンプリングについては、得られた油中水型クリームを三角袋に詰めて、ツノが立つように絞ったものを評価に供した。
【0105】
<油中水型クリームの評価>
実施例及び比較例で製造した油中水型クリームについて、10人の専門パネラーにより下記評価基準に従って、植物乳の風味発現性及び植物乳の風味の強度について官能評価を実施した。そして10人の専門パネラーの合計点を求め、合計点が45~50点の場合に+++、39~44点の場合に++、34~38点の場合に+、30~33点の場合に±、14~29点の場合に-、0~13点の場合に--とした。なお、評価に先立ち、パネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
この評価結果を表5に示す。
【0106】
[風味発現性]
5点:風味の発現が良好である。
3点:風味の発現がやや良好である。
1点:風味の発現がやや悪い。
0点:風味の発現が悪い。
【0107】
[風味の強度]
5点:より厚みのある風味を有している。
3点:厚みのある風味を有している。
1点:やや風味の厚みが乏しい。
0点:味の厚みが乏しい
【0108】
また、実施例及び比較例で製造した油中水型クリームについて、下記評価基準に従って、保形性の目視観察を行った。この評価結果を表5に示す。
[保形性]
+++:油水分離が見られない他、絞ったクリームの形状が崩れることなく、きわめて保形性が良好である。
++:油水分離が見られない他、絞ったクリームの形状が崩れることなく、保形性が良好である。
+:縁の部分に僅かに油水分離が確認される、若しくは絞ったクリームの形状がややダレているが、許容範囲である
-:縁の部分に油水分離が確認される、若しくは絞ったクリームの形状がダレており、保形性に乏しい。
--:全体的に油水分離が確認される、若しくは絞ったクリームの形状を留めずに崩れ、保形性に乏しい。
本試験では、風味発現性、風味の強度、保形性の全項目について、「+」以上の評点が付されたものを合格品とした。
【0109】
【表5】
【0110】
得られた各油中水型クリームの評価について、まず使用した植物乳の面から検討した。
油中水型クリームEx-5~8をみると、油中水型クリーム中の植物乳の含量が高まるほど、風味発現性と風味の強度とが高まっていく傾向にあることが確認された。一方で、油中水型クリームCEx-6においては保形性が低下する傾向がみられた。
【0111】
この理由は定かではないが、油中水型クリーム中の油相の量が減少したこと、及び植物乳の含量が高まるほどに油中水型クリームの解乳化が起こりやすくなっていることが原因として考えられる。また植物乳の含量を過度に高めることにより、油中水型クリームの組成における水相成分が多くなるため、水っぽい、緩い物性・食感になるためと考えられる。
【0112】
植物乳の種類について、油中水型クリームEx-6、9、10をみると、いずれの植物乳を用いた場合であっても好ましい風味発現性や保形性等を有する油中水型クリームが得られ、植物乳が有する独特の風味を十分に感じることができていた。なお、油中水型クリームEx-6、9、10は植物乳由来の蛋白質含量をそろえた品である。
【0113】
また、植物乳の原料間で比較すると、いずれの油中水型クリームにおいても、植物乳の独特の風味を十分に感じることができるものの、アーモンドを原料とした植物乳を使用した油中水型クリームEx-6、10と、米を原料とした植物乳を使用した油中水型クリーム9とでは風味の強度の点で差がみられており、選択する植物乳の原料の種類によって、得られる効果に差が生じることが知見された。
【0114】
更に、植物乳の態様について、油中水型クリームEx-6と油中水型クリームEx-10とを比較すると、アーモンドペーストを用いた油中水型クリームEx-10においては、保形性が低下する傾向がみられた。これは、より濃度の高いアーモンドペーストを使用した分を水で置換して油中水型クリームを製造したために、油中水型クリームの物性が緩くなってしまったことが一因であると考えられるが、仮にその分を混合油脂で置換した場合には、他の実験結果から、風味発現性が低下する可能性がある。これらのことから、植物乳の性状やその使用態様についても、得られる油中水型クリームに影響を与えることが知見された。
【0115】
次に得られた各油中水型クリームの評価について、使用した混合油脂の面から検討した。
油中水型クリームにおける油脂A及び油脂Bの影響について、油中水型クリームEx-1、2、油中水型クリームCEx-1、2をみると、含有される油脂Aが多いほど保形性が高まり風味発現性が低下する傾向にあり、植物乳が有する独特の風味が比較的弱い傾向にあった。一方で、含有される油脂Bが多いほど風味発現性が高まり、植物乳が有する独特の風味が比較的強く感じられやすいものの、保形性が低下する傾向にあることが確認された。とりわけ混合油脂Iを使用したCEx-1では、油脂Bが過度に多いためか、液状の油脂が多く感じられ、ぬめりを感じる食感が見られ、口溶けが不良であった。
【0116】
また、混合油脂Fを使用した油中水型クリームEx-20と混合油脂Kを使用した油中水型クリームCEx-3との比較から油脂Aのうちでも油脂A1に該当するランダムエステル交換油脂(1)を含有することが、油中水型クリームの風味発現性や風味の強度と保形性とを両立する観点から、重要であることが知見された。
とりわけ混合油脂Kを使用したCEx-3では、35℃でのSFCが過度に低く、液状の油脂が多く感じられるためか、口溶けではなく、ぬめりを感じる食感が見られた。
【0117】
油中水型クリームEx-1~4の製造に使用した混合油脂A~D、油中水型クリームCEx-3の製造に使用した混合油脂K、油中水型クリームCEx-7の製造に使用した混合油脂Mとを比較すると、SFC-25/SFC-35と風味発現性や植物乳が有する風味の感じられやすさ、保形性とが、相関関係にあることがうかがわれた。とりわけ混合油脂Kを使用したCEx-3では、35℃でのSFCが過度に低く、液状の油脂が多く感じられるためか、口溶けではなく、ぬめりを感じる食感が見られた。
【0118】
すなわち、SFC-25/SFC-35の値を一定範囲とすることで、口溶けが良好な油中水型クリームとなり、植物乳が有する独特の風味が感じられやすく、風味発現性が向上すると共に、保形性を維持・向上することが可能になっていた。一方で、該値が過度に高い場合には、風味発現性は良好になりやすいものの、保形性が不良なものとなることが確認され(例えば油中水型クリームCEx-3参照)、該値が過度に低いと保形性は良好になりやすいものの、風味発現性が不良なものとなることが確認された(例えば油中水型クリームCEx-7参照)。
極度硬化油を含有する混合油脂Mを使用した油中水型クリームCEx-7では、良好な保形性を有する油中水型クリームを得ることができたものの、風味発現性や風味の強度が十分に得られないことを確認した。これは、極度硬化油を含有することにより、油中水型クリームの油相が固いものとなり、口中での口溶けが遅延することにより生じているものと考えられ、植物乳が有する独特の風味を感じられやすくする観点からは、少量の使用ないしは不使用が好ましいことが知見された。
【0119】
次に得られた各油中水型クリームの評価について、使用したその他原料の面から検討した。
油中水型クリームEx-11~17の比較から、塩化ナトリウム及び塩化カリウムの総量が一定範囲で高まるほどに、得られる油中水型クリームが有する独特の風味が好ましく強まっていく傾向を確認することができた。油中水型クリームEx-14と油中水型クリームEx-15とを比較すると、塩化ナトリウム及び塩化カリウムの総量を多くしても、得られる風味の強度に差が見られないことから、頭打ちになる場合があり、油中水型クリームEx-17との比較からは前記の総量が一定以下である方が風味の強度に有利な場合があることも知見された。また、油中水型クリームEx-11~14では感じられなかった、塩化カリウム由来と思われる異味が、油中水型クリームEx-15~17で感じられ、塩化カリウムの添加量の増加に伴って、その異味が強まる傾向を確認した。