(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094743
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】抗菌用香料組成物及び揮散器
(51)【国際特許分類】
A61L 9/013 20060101AFI20230629BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20230629BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20230629BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61L9/013
A61L9/01 V
A61L9/12
C11B9/00 A
C11B9/00 B
C11B9/00 J
C11B9/00 S
C11B9/00 E
C11B9/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210233
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石渡 美紗樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 真衣
(72)【発明者】
【氏名】田之畑 瞳
(72)【発明者】
【氏名】阿児 拓海
【テーマコード(参考)】
4C180
4H059
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CA06
4C180CA07
4C180EB03X
4C180EB06X
4C180EB07X
4C180EB08X
4C180EB12X
4C180EB15X
4C180EC01
4C180GG12
4C180GG17
4C180HH09
4C180HH10
4C180MM01
4C180MM07
4H059BA01
4H059BA14
4H059BA15
4H059BA19
4H059BA30
4H059BA36
4H059BC10
4H059BC23
4H059DA09
4H059EA06
4H059EA36
(57)【要約】
【課題】本開示は、新たに、黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有する抗菌用香料組成物を提供する事を目的とする。
【解決手段】抗菌用香料組成物は、天然香料、及び合成香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の香料を含む。前記合成香料は、テルペン系香料、直鎖状アルデヒド系香料、芳香族系香料、直鎖状エステル系香料、及び環状アルコール系香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の合成香料であり、黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有する抗菌用香料組成物であって、
天然香料、及び合成香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の香料を含み、
前記合成香料は、テルペン系香料、直鎖状アルデヒド系香料、芳香族系香料、直鎖状エステル系香料、及び環状アルコール系香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の合成香料である、
抗菌用香料組成物。
【請求項2】
前記天然香料は、マンダリン油、ラベンダー油、ラバンジン油、ユーカリ油、バジル油、タイムレッド油、ペパーミント油、スペアミント油、ガルバナム樹脂油、ちょうじつぼみ油、ローズ油、ローズアブソリュート、及びガジャクウッド油から成る群から選ばれる少なくとも一種の天然香料であり、
前記合成香料は、シトラール、リナロール、酢酸リナリル、リモネン、酢酸シトロネリル、テルピネオール、及びβ-ダマスコンから成る群から選ばれる少なくとも一種のテルペン系香料;n-オクタナール、及びn-デカナールから成る群から選ばれる少なくとも一種の直鎖状アルデヒド系香料;2-フェニルエチルアルコール、α-ヘキシルシンナムアルデヒド、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、γ-デカラクトン、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド及び2-エトキシナフタレンから成る群から選ばれる少なくとも一種の芳香族系香料;酢酸ヘキシル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、及び2-メチル酪酸エチルから成る群から選ばれる少なくとも一種の直鎖状エステル系香料;並びに、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の環状アルコール系香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の合成香料である、
請求項1に記載の抗菌用香料組成物。
【請求項3】
前記香料は、バジル油、タイムレッド油、ペパーミント油、酢酸リナリル、リモネン、酢酸シトロネリル、β-ダマスコン、n-オクタナール、n-デカナール、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
請求項2に記載の抗菌用香料組成物。
【請求項4】
前記香料は、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
請求項2に記載の抗菌用香料組成物。
【請求項5】
前記香料は、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
請求項4に記載の抗菌用香料組成物。
【請求項6】
前記香料は、シトラール、酢酸シトロネリル、n-オクタナール、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
請求項2に記載の抗菌用香料組成物。
【請求項7】
前記香料は、2-フェニルエチルアルコールである、
請求項2に記載の抗菌用香料組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の抗菌用香料組成物と、
前記抗菌用香料組成物が収容される容器本体と、
前記容器本体に取り付けられており、前記抗菌用香料組成物が浸透できる吸液部材と、
を含む揮散器。
【請求項9】
請求項6に記載の抗菌用香料組成物と、
前記抗菌用香料組成物が収容される容器本体と、
前記容器本体に取り付けられており、前記抗菌用香料組成物が浸透できるメンブレンと、
を含む揮散器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌用香料組成物及び揮散器に関する。
【背景技術】
【0002】
空間内のカビ臭を抑制するための装置が知られている。例えば、特許文献1には、カビ臭を抑制する事が出来る揮発性組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、黄色ブドウ球菌に対して抗菌効果を有する香料組成物が求められている。本開示は、新たに、黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有する抗菌用香料組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の香料、例えば、天然香料、及び合成香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の香料を含む組成物であって、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮する組成物を開発した。
【0006】
本開示は例えば下記に代表される発明を包含する。
【0007】
項1.
黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有する抗菌用香料組成物であって、
天然香料、及び合成香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の香料を含み、
前記合成香料は、テルペン系香料、直鎖状アルデヒド系香料、芳香族系香料、直鎖状エステル系香料、及び環状アルコール系香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の合成香料である、
抗菌用香料組成物。
【0008】
項2.
前記天然香料は、マンダリン油、ラベンダー油、ラバンジン油、ユーカリ油、バジル油、タイムレッド油、ペパーミント油、スペアミント油、ガルバナム樹脂油、ちょうじつぼみ油、ローズ油、ローズアブソリュート、及びガジャクウッド油から成る群から選ばれる少なくとも一種の天然香料であり、
前記合成香料は、シトラール、リナロール、酢酸リナリル、リモネン、酢酸シトロネリル、テルピネオール、及びβ-ダマスコンから成る群から選ばれる少なくとも一種のテルペン系香料;n-オクタナール、及びn-デカナールから成る群から選ばれる少なくとも一種の直鎖状アルデヒド系香料;2-フェニルエチルアルコール、α-ヘキシルシンナムアルデヒド、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、γ-デカラクトン、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド及び2-エトキシナフタレンから成る群から選ばれる少なくとも一種の芳香族系香料;酢酸ヘキシル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、及び2-メチル酪酸エチルから成る群から選ばれる少なくとも一種の直鎖状エステル系香料;並びに、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の環状アルコール系香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の合成香料である、
前記項1に記載の抗菌用香料組成物。
【0009】
項3.
前記香料は、バジル油、タイムレッド油、ペパーミント油、酢酸リナリル、リモネン、酢酸シトロネリル、β-ダマスコン、n-オクタナール、n-デカナール、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
前記項2に記載の抗菌用香料組成物。
【0010】
項4.
前記香料は、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
前記項2に記載の抗菌用香料組成物。
【0011】
項5.
前記香料は、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
前記項4に記載の抗菌用香料組成物。
【0012】
項6.
前記香料は、シトラール、酢酸シトロネリル、n-オクタナール、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である、
前記項2に記載の抗菌用香料組成物。
【0013】
項7.
前記香料は、2-フェニルエチルアルコールである、
前記項2に記載の抗菌用香料組成物。
【0014】
項8.
前記項1から7のいずれか1つに記載の抗菌用香料組成物と、
前記抗菌用香料組成物が収容される容器本体と、
前記容器本体に取り付けられており、前記抗菌用香料組成物が浸透できる吸液部材と、
を含む揮散器。
【0015】
項9.
前記項6に記載の抗菌用香料組成物と、
前記抗菌用香料組成物が収容される容器本体と、
前記容器本体に取り付けられており、前記抗菌用香料組成物が浸透できるメンブレンと、
を含む揮散器。
【発明の効果】
【0016】
本開示は、黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有する抗菌用香料組成物を提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の一次スクリーニングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本開示を詳細に説明する。本開示において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0019】
[1]抗菌用香料組成物
(1)黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有する抗菌用香料組成物
揮発性組成物を収容し、カビ(アスペルギルス・ブラジリエンシス(Aspergillus brasiliensis))の増殖を抑制する為の装置が、例えば特許文献1に開示されている。しかし、特許文献1には、カビの抑制効果を有する揮発性組成物が記載されているものの、その他の菌に関する効果の記載はない。カビを対象とするのではなく、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制する組成物の開発が望まれていた。
【0020】
本開示の抗菌用香料組成物は、天然香料、及び合成香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の香料を含む。前記合成香料は、テルペン系香料、直鎖状アルデヒド系香料、芳香族系香料、直鎖状エステル系香料、及び環状アルコール系香料から成る群から選ばれる少なくとも一種の合成香料であり、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して抗菌作用を有する。
【0021】
本開示の抗菌用香料組成物では、前記天然香料は、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮するという観点から、好ましくは、マンダリン油(Mandarin oil)、ラベンダー油(Lavender oil)、ラバンジン油(Lavandin oil)、ユーカリ油(Eucalyptus oil)、バジル油(Basil oil)、タイムレッド油(Thyme oil red)、ペパーミント油(Peppermint oil)、スペアミント油(Spearmint oil)、ガルバナム樹脂油(Galbanum resinoid)、ちょうじつぼみ油(Clove bud oil)、ローズ油(Rose oil)、ローズアブソリュート(Rose absolute)、及びガジャクウッド油(Guaiacwood oil)から成る群から選ばれる少なくとも一種の天然香料である。
【0022】
本開示の抗菌用香料組成物では、前記合成香料は、好ましくは、シトラール(Citral)、リナロール(Linalool)、酢酸リナリル(Linalyl acetate)、リモネン(Limonene)、酢酸シトロネリル(Citronellyl acetate)、テルピネオール(Terpineol)、及びβ-ダマスコン(Damascone beta)から成る群から選ばれる少なくとも一種のテルペン系香料である。
【0023】
本開示の抗菌用香料組成物では、前記合成香料は、好ましくは、n-オクタナール(Aldehyde C-8)、及びn-デカナール(Aldehyde C-10)から成る群から選ばれる少なくとも一種の直鎖状アルデヒド系香料である。
【0024】
本開示の抗菌用香料組成物では、前記合成香料は、好ましくは、2-フェニルエチルアルコール(Phenylethyl alcohol)、α-ヘキシルシンナムアルデヒド(Hexyl cinnamic aldehyde)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、γ-ウンデカラクトン(Undecalactone gamma)、γ-デカラクトン(Decalactone gamma)、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド(Gardamide)及び2-エトキシナフタレン(Bromelia)から成る群から選ばれる少なくとも一種の芳香族系香料である。
【0025】
本開示の抗菌用香料組成物では、前記合成香料は、好ましくは、酢酸ヘキシル(Hexyl acetate)、酢酸イソアミル(Isoamyl acetate)、酪酸エチル(Ethyl butylate)、及び2-メチル酪酸エチル(Ethyl 2-methyl butyrate)から成る群から選ばれる少なくとも一種の直鎖状エステル系香料である。
【0026】
本開示の抗菌用香料組成物では、前記合成香料は、好ましくは、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール(Bacdanol)、及びマルトール(Maltol)から成る群から選ばれる少なくとも一種の環状アルコール系香料である。
【0027】
本開示の抗菌用香料組成物に含まれる香料は、黄色ブドウ球菌に対して、より良好に抗菌作用を発揮するという観点から、より好ましくは、バジル油、タイムレッド油、ペパーミント油、酢酸リナリル、リモネン、酢酸シトロネリル、β-ダマスコン、n-オクタナール、n-デカナール、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である。
【0028】
前記香料は、1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0029】
(2)黄色ブドウ球菌に加えて、大腸菌に対しても抗菌作用を有する抗菌用香料組成物
本開示の抗菌用香料組成物では、含まれる香料は、黄色ブドウ球菌に加えて、大腸菌(Escherichea coli)に対しても、良好に抗菌作用を発揮するという観点から、より好ましくは、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、及びマルトールから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料であり、更に好ましくは、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である。前記香料は、1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0030】
(3)黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有すると共に、メンブレンで揮散し易い抗菌用香料組成物
本開示の抗菌用香料組成物では、含まれる香料は、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮すると共に、使用時に、メンブレンで揮散し易いという観点から、より好ましくは、シトラール、酢酸シトロネリル、n-オクタナール、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドから成る群から選ばれる少なくとも一種の香料である。前記香料は、1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0031】
(4)黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有すると共に、他の香料を邪魔しない抗菌用香料組成物
従来、(E)-2-ヘキセン-1-アール(ヘキセナール)と4-デセン-1-アール(デセナール)との混合物を含む揮発性組成物は、特許文献1に開示されている。(E)-2-ヘキセン-1-アール及び4-デセン-1-アールはカメムシの分泌物の様な独特のニオイを有しており、芳香剤として用いる場合に創香の障害となる可能性がある。抗菌性を有すると共に、創香のバリエーションを拡げる抗菌用香料組成物の開発が望まれていた。
【0032】
本開示の抗菌用香料組成物では、含まれる香料は、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮すると共に、他の香料を邪魔しないという観点から、より好ましくは、2-フェニルエチルアルコールである。
【0033】
(5)抗菌用香料組成物の組成(香料の含有量)
本開示の抗菌用香料組成物における香料の含有量は、使用する香料の種類、呈させる香りの強さ等に応じて、適宜設定する事が出来る。
【0034】
本開示の抗菌用香料組成物に使用される溶剤は、使用する香料の種類、呈させる香りの強さ等に応じて、適宜設定する事が出来る。本開示の抗菌用香料組成物に使用される溶剤は、抗菌用香料組成物を使用する時に、所望の強さの香りを効果的に維持させるという観点から、好ましくは、ジプロピレングリコール(DPG)、パラフィン系炭化水素、等である。前記パラフィン系炭化水素は、イソパラフィン、或はノルマルパラフィンの何れであっても良い。本開示の抗菌用香料組成物における溶剤の含有量は、使用する香料の種類、呈させる香りの強さ等に応じて、適宜設定する事が出来る。
【0035】
本開示の抗菌用香料組成物には、香料及び溶剤に加えて、所望の強さの香りを効果的に維持させるという観点から、他の添加剤を配合しても良い。本開示の抗菌用香料組成物には、例えば、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色料等の添加剤を配合しても良い。
【0036】
[2]使用態様
(1)揮散器
本開示の抗菌用香料組成物に含まれる抗菌用香料は、例えば、吸液部材を有する揮散器によって揮散させられる。
【0037】
本開示は、本開示の抗菌用香料組成物と、前記抗菌用香料組成物が収容される容器本体と、前記容器本体に取り付けられており、前記抗菌用香料組成物が浸透できる吸液部材と、を含む揮散器を包含する。
【0038】
本開示は、本開示の抗菌用香料組成物と、前記抗菌用香料組成物が収容される容器本体と、前記容器本体に取り付けられており、前記抗菌用香料組成物が浸透できるメンブレンと、を含む揮散器を包含する。
【0039】
吸液部材は、例えば、メンブレンである。揮散器は、本開示の抗菌用香料組成物と、開口部を有する容器本体と、メンブレンとを有する。当該揮散器では、例えば、本開示の抗菌用香料組成物が容器本体に収容されており、当該容器本体の開口部がメンブレンで覆われている。
【0040】
抗菌用香料組成物は、メンブレンに浸透する。メンブレンは、気体及び液体の少なくとも一方が透過可能なものであればよい。揮散器で使用されるメンブレンは、当該技術分野で公知であり、例えば、気体が透過可能なメンブレン、並びに気体及び液体が透過可能なメンブレンが挙げられる。
【0041】
気体が透過可能なメンブレンとしては、気体が透過でき且つ液体が透過できない細孔を有する膜であればよく、具体的には、ポリエチレン(低密度ポリエチレン等)で形成されている多孔質フィルムが挙げられる。
【0042】
気体及び液体が透過可能なメンブレンとしては、気体が透過可能、且つ液体がこぼれ出ない程度の透過性を備えているものであればよく、具体的には、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン及びシリカで形成されている多孔質フィルムが挙げられる。ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン及びシリカで形成されている多孔質フィルムは、水等の極性の高い液体を透過させにくく、油系の液体を透過させやすい性質を有する。
【0043】
メンブレンを介して揮散させる揮散器は、抗菌用香料組成物のこぼれを防止しつつ抗菌用香料組成物を揮散できる。但し、メンブレンを介して揮散させる揮散器を使用する場合、抗菌用香料組成物に配合する香料は、メンブレンを透過し易いものを選択することが望ましい。
【0044】
抗菌用香料として、例えば、シトラール、酢酸シトロネリル、n-オクタナール、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドよりなる群から選択される少なくとも一種を採用した場合、メンブレンを介して揮散させる揮散器を使用すると、抗菌用香料組成物のこぼれを防止でき、且つ抗菌用香料組成物を揮散することができる。
【0045】
居室に対して空間容積が小さいトイレ等においては、揮散器が使用者の手等に接触して倒れることが想定される。本開示の揮散器は、抗菌用香料組成物のこぼれを防止しながら抗菌用香料組成物を揮散できるので、使用者の快適性をより向上させることができる。
【0046】
(2)吸液部材
本開示の抗菌用香料組成物中の抗菌用香料を揮散させる吸液部材は、抗菌用香料組成物を吸液して揮散出来る物であれば、特に制限されない。
【0047】
吸液部材は、好ましくは、パルプ等の天然繊維、ポリエステル等の合成繊維、それらの混合繊維等の繊維質材料、籐等の木質材料、発泡ウレタンの樹脂製スポンジ材料等である。
【0048】
吸液部材は、繊維質材料で形成されている場合、好ましくは、吸液性が有る織物、不織布、ろ紙等である。吸液部材の形状は、好ましくは、シート状、棒状等である。
【0049】
(3)提供態様
本開示の抗菌用香料組成物は、揮散器の構成部材と成る容器及び吸液部材とセットにして提供しても良い。本開示の抗菌用香料組成物は、詰替用の抗菌用香料組成物として、単独で又は吸液部材とセットにして提供しても良い。
【0050】
(4)用途
本開示の抗菌用香料組成物は、好ましくは、居住空間(リビング、玄関、トイレ等)、自動車の室内等の空間において芳香を付与する為に使用する事が出来る。本開示の抗菌用香料組成物は、揮散器内で全てが吸液部材に含浸された状態で存在し、トイレ用として特に好適である。
【実施例0051】
以下に、実施例及び比較例を示して本開示を具体的に説明する。
[1]一次スクリーニング
抗菌性を発揮する香料を見出す一次スクリーニングを行った。
【0052】
(1)一次スクリーニングの方法
一次スクリーニングとして、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及びグラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)の2菌種を用いて、JIS L 1902に基づくハロー法に依り、各種香料の抗菌活性効果を確認した。
【0053】
図1に示す通り、香料3g及び樹脂揮散体を入れたサンプル瓶(スクリュー管No.4)と直径28mmの塩ビ製壁紙をガラス製の広口サンプル瓶(M-225)に入れた。約12時間放置することで、塩ビ製壁紙に香料を染み付けた。広口サンプル瓶は、マヨネーズ瓶とも呼ばれる。
図1において、最も大きく記載された瓶が広口サンプル瓶(M-225)であり、広口サンプル瓶の内側に配置された瓶がサンプル瓶(スクリュー管No.4)である。
図1において、広口サンプル瓶の中に記載された複数の円は、揮散した香料を模式的に示している。
図1において、広口サンプル瓶の中に記載された、揮散した香料を示す円よりも大きい円は、塩ビ製壁紙を示している。
【0054】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC12732)及び大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)の菌液を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて、1.0×105CFU/mLに調整し、SCD培地上に100μL塗布した。SCD培地上に香料付着面が接する様に塩ビ製壁紙を置いて、35℃で、18時間以上培養した。その後、塩ビ製壁紙の周囲のハロー(発育阻止帯:細菌の発育がない透明な部分)の有無を確認した。
【0055】
(2)一次スクリーニングの結果
(A)各種香料の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性
表1及び表2に、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性の結果を示す。表1及び表2における、〇評価、△評価及び×評価の定義は、以下の通りである。
【0056】
〇評価は、JIS L 1902に基づくハロー法にて、下記式(1)で算出されるハローの幅(W)が5mm以上であった事を示す。
【0057】
△評価は、JIS L 1902に基づくハロー法にて、ハロー(発育阻止帯:細菌の発育がない透明な部分)が確認できた事を示す。
【0058】
×評価は、JIS L 1902に基づくハロー法にて、ハローが確認できなかった事を示す。
【0059】
W=(T-D)/2 ・・・(1)
W:ハローの幅(mm)
T:試験片の長さとハローの幅との合計(mm)
D:試験片の長さ(mm)
【0060】
【0061】
【0062】
香料の内、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮した天然香料は、マンダリン油(Mandarin oil)、ラベンダー油(Lavender oil)、ラバンジン油(Lavandin oil)、ユーカリ油(Eucalyptus oil)、バジル油(Basil oil)、タイムレッド油(Thyme oil red)、ペパーミント油(Peppermint oil)、スペアミント油(Spearmint oil)、ガルバナム樹脂油(Galbanum resinoid)、ちょうじつぼみ油(Clove bud oil)、ローズ油(Rose oil)、ローズアブソリュート(Rose absolute)、及びガジャクウッド油(Guaiacwood oil)であった。
【0063】
香料の内、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮した合成香料は、テルペン系香料であるシトラール(Citral)、リナロール(Linalool)、酢酸リナリル(Linalyl acetate)、リモネン(Limonene)、酢酸シトロネリル(Citronellyl acetate)、テルピネオール(Terpineol)、及びβ-ダマスコン(Damascone beta)であった。
【0064】
香料の内、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮した合成香料は、直鎖状アルデヒド系香料であるn-オクタナール(Aldehyde C-8)、及びn-デカナール(Aldehyde C-10)であった。
【0065】
香料の内、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮した合成香料は、芳香族系香料である2-フェニルエチルアルコール(Phenylethyl alcohol)、α-ヘキシルシンナムアルデヒド(Hexyl cinnamic aldehyde)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、γ-ウンデカラクトン(Undecalactone gamma)、γ-デカラクトン(Decalactone gamma)、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド(Gardamide)及び2-エトキシナフタレン(Bromelia)であった。
【0066】
香料の内、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮した合成香料は、直鎖状エステル系香料である酢酸ヘキシル(Hexyl acetate)、酢酸イソアミル(Isoamyl acetate)、酪酸エチル(Ethyl butylate)、及び2-メチル酪酸エチル(Ethyl 2-methyl butyrate)であった。
【0067】
香料の内、黄色ブドウ球菌に対して、良好に抗菌作用を発揮した合成香料は、環状アルコール系香料である2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール(Bacdanol)、及びマルトール(Maltol)であった。
【0068】
香料の内、黄色ブドウ球菌に対して、より良好に抗菌作用を発揮した香料(抗菌活性:〇評価)は、バジル油、タイムレッド油、ペパーミント油、酢酸リナリル、リモネン、酢酸シトロネリル、β-ダマスコン、n-オクタナール、n-デカナール、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、及びマルトールであった。
【0069】
(B)各種香料の大腸菌に対する抗菌活性
表3に、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が有る香料の内、大腸菌に対しても抗菌活性の結果を示す。表3における、〇評価及び△評価の定義は、以下の通りである。
【0070】
〇評価は、JIS L 1902に基づくハロー法にて、上述した式(1)で算出されるハローの幅(W)が5mm以上であった事を示す。
【0071】
△評価は、JIS L 1902に基づくハロー法にて、ハローが確認できた事を示す。
【0072】
【0073】
黄色ブドウ球菌に加えて、大腸菌に対しても、良好に抗菌作用を発揮した香料は、2-フェニルエチルアルコール、ベンズアルデヒド、γ-ウンデカラクトン、N,2-ジメチル-N-フェニルブタンアミド、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテニル)-2-ブテン-1-オール、及びマルトールであった。
【0074】
黄色ブドウ球菌に加えて、大腸菌に対しても、より良好に抗菌作用を発揮した香料(抗菌活性:〇評価)は、2-フェニルエチルアルコール、及びベンズアルデヒドであった。
【0075】
[2]二次スクリーニング
揮発させた香料を付着させたメンブレン上での、各種香料の抗菌活性を評価した。
【0076】
(1)二次スクリーニングの方法
メンブレン(ポリオレフィンとシリカで構成された多孔性フィルム)で構成された袋に、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が有る香料を入れて、その袋を広口サンプル瓶(M-225)の蓋の内側に貼った。当該袋を貼った広口サンプル瓶の内側に綿布を貼った。広口サンプル瓶を、室温の環境に22時間曝露した。その後、広口サンプル瓶から取り出した綿布が試験検体である。
【0077】
菌数が1.0~3.0×105CFU/mLに成る様に調製し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aereus NBRC 12732)の菌液を作成した。試験検体に菌液0.2mLを数か所に分けて接種した。菌液を接種させた夫々の検体を、接種直後、及び37℃での18~24時間静置後に生菌数測定に供した。菌液を接種させた夫々の検体にSCDLP培地を20mL添加し、ボルテックスにて攪拌する事で洗い出しを行った(ボルテックス5秒×5回)。PBSを用いて適宜希釈し、洗い出し液の生菌数測定を行った。菌液の接種直後、及び37℃での18~24時間静置後の生菌数が両方0であった試験検体を、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が有ると判定した。
【0078】
(2)二次スクリーニングの結果
黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が有る香料の内、シトラール、ベンズアルデヒド、n-オクタナール、2-フェニルエチルアルコール、及びシトロネリルアセテートは、揮発させた香料を付着させた綿布上での抗菌活性を示した。このため、これら香料は、使用時に、メンブレンで揮散し易いと評価出来た。
【0079】
[3]三次スクリーニング
各種香料が、他の香りを邪魔するかどうかを評価した。
【0080】
(1)三次スクリーニングの方法
試験の手順
サンプル瓶(スクリュー管No.3)に、リナロール(基準香料)と各種合成香料とを下記表4に記載の配合割合で充填した。サンプル瓶に充填されたリナロールと2-フェニルエチルアルコールの混合物において、2-フェニルエチルアルコールの濃度は、15質量%である。サンプル瓶に充填されたリナロールとヘキセナールの混合物において、ヘキセナールの濃度は、1.5質量%である。サンプル瓶に充填されたリナロールとデセナールの混合物において、デセナールの濃度は、2.5質量%である。
【0081】
香料を充填したサンプル管に、におい紙(株式会社 大文字洋紙店香料試験紙6mmx150mm)を挿し、香料を染み込ませた。次いで、サンプル(香料を染み込ませたにおい紙)を1000Lのステンレス製の官能BOXに設置し、15分後、官能評価した。
【0082】
10名の専門パネラーが、各種合成香料の香り強度、嗜好性及び香りの質を評価した。各パネラーが、香り強度、嗜好性及び香りの質について、0.25刻みの数値で評価した。
【0083】
香り強度について、パネラーは、リナロール単独と同じ香り強度と感じた場合を「0」と評価し、リナロール単独よりも強いと感じた場合に「+2」を上限として正の値で評価し、リナロール単独よりも弱いと感じた場合に「-2」を下限として負の値で評価した。
【0084】
嗜好性について、パネラーは、リナロール単独と同じ嗜好性と感じた場合を「0」と評価し、リナロール単独よりも嗜好性が良いと感じた場合に「+2」を上限として正の値で評価し、リナロール単独よりも嗜好性が悪いと感じた場合に「-2」を下限として負の値で評価した。
【0085】
香りの質について、パネラーは、リナロール単独と同じ香りの質と感じた場合を「5」と評価し、リナロール単独に対し香りの質が最も変化していると感じた場合を「1」と評価した。
【0086】
各サンプルの評価における、評価数値の最小値及び最大値を除き、残った値の平均値を各種合成香料の評価値とした。
【0087】
(2)三次スクリーニングの結果
評価基準
強度:各種香料について、基準香料リナロールに対して、強度が同等であるかという評価を行った。強度の数値が±0.5の範囲内である時、香料は、リナロールの香りに対して、同等であると判断する。即ち、強度の数値が±0.5の範囲内である香料は、消臭剤製品、芳香剤製品又は消臭芳香剤製品(以下、製品という)の香りの強度を変化させ難いといえる。
【0088】
嗜好性:各種香料について、基準香料リナロールに加えても、嗜好性に影響を及ぼさないかという評価を行った。嗜好性の数値が±0.5の範囲内である時、香料は、リナロール嗜好性の質に影響を及ぼさず、リナロールの香りの邪魔をしていないと判断する。即ち、嗜好性の数値が±0.5の範囲内である香料は、製品の香りの邪魔をしないといえる。
【0089】
香りの質:各種香料について、基準香料リナロール加えても、香りの質に影響を及ぼさないかという評価を行った。香りの質の数値が4.0以上である時、香料は、リナロールの香りの質に影響を及ぼさず、リナロールの香りの邪魔をしていないと判断する。即ち、香りの質の数値が4.0以上である香料は、製品の香りの邪魔をしないといえる。
【0090】
【0091】
2-フェニルエチルアルコールは、配合量を15質量%としても、基準香料リナロールの嗜好性及び香りの質に影響を及ぼさず、製品の香りの邪魔をしていない事が明らかと成った。黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が有る香料の内、2-フェニルエチルアルコールは、製品の他の香りの嗜好性を邪魔する事無く、抗菌効果を発揮する香料であると評価出来た。
【0092】
[4]産業上の利用可能性
本開示の抗菌用香料組成物は、黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を発揮し、更には、黄色ブドウ球菌に加えて、大腸菌に対しても抗菌作用を発揮したり、メンブレンで揮散し易かったり、他の香料を邪魔しなかったりと、多くの利点を有する。