(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094997
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/59 20060101AFI20230629BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20230629BHJP
F21V 9/30 20180101ALI20230629BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20230629BHJP
【FI】
C09K11/59
H01L33/50
F21V9/30
F21Y115:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210633
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 晋平
(72)【発明者】
【氏名】細川 昌治
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF02
4H001XA07
4H001XA14
4H001XA38
4H001XA56
4H001YA63
5F142BA02
5F142BA32
5F142CA02
5F142CD13
5F142CD17
5F142CD48
5F142CE03
5F142CG03
5F142DA02
5F142DA03
5F142DA12
5F142DA14
5F142DA43
5F142DA53
5F142DA56
5F142DA72
5F142DA73
5F142DB12
5F142FA44
5F142GA21
5F142GA29
5F142HA01
5F142HA05
(57)【要約】
【課題】温度特性が良好である窒化物蛍光体及び発光装置を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光が照射されたときの発光スペクトルにおいて585nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、照射された励起光を遮断したときの発光強度を基準強度とし、発光強度が基準強度の1/10となる残光時間が2.49μs以上である、窒化物蛍光体である。
(Ba
vSr
wEu
x)
2Si
5N
8-y (1)
(式(1)中、v、w、x、及びyは、それぞれ0.50≦v≦0.919、0.08≦w≦0.50、0.001≦x≦0.030、0.9<v+w+x≦1.0、0≦y≦0.5を満たす。)
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光が照射されたときの発光スペクトルにおいて585nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、照射された励起光を遮断したときの発光強度を基準強度とし、発光強度が前記基準強度の1/10となる残光時間が2.49μs以上である、窒化物蛍光体。
(BavSrwEux)2Si5N8-y (1)
(式(1)中、v、w、x、及びyは、それぞれ0.50≦v≦0.919、0.08≦w≦0.50、0.001≦x≦0.030、0.9<v+w+x≦1.0、0≦y≦0.5を満たす。)
【請求項2】
前記式(1)中、v及びwが、それぞれ0.50≦v<0.80、0.12<w≦0.50を満たす、請求項1に記載の窒化物蛍光体。
【請求項3】
前記残光時間が2.91μs以下である、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体。
【請求項4】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均粒径が10μm以上40μm以下の範囲内である、請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項5】
450nmの波長を含む光で励起されたときの内部量子効率が85%以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体を含む波長変換部材と、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備え、前記発光素子の上に前記波長変換部材を配置した発光装置。
【請求項7】
CIE1931色度図のxy色度座標系において、色度座標(x、y)が、(x=0.510、y=0.400)を第一点とし、(x=0.510、y=0.440)を第二点とし、(x=0.600、y=0.400)を第三点とし、(x=0.600、y=0.360)を第四点とし、前記第一点と前記第二点を結ぶ第一直線と、前記第二点と前記第三点を結ぶ第二直線と、前記第三点と前記第四点を結ぶ第三直線と、前記第四点と前記第一点を結ぶ第四直線と、で画定された領域内の光を発する、請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
CIE1931色度図において、相関色温度が1200K以上2000K以下の範囲内であり、JIS Z8725に準拠して測定される黒体放射軌跡からの色偏差duvが-0.020以上0.020以下の範囲内である光を発する、請求項6に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
街路灯や道路照明灯等の屋外に設置される灯具の光源は、白熱電球よりも寿命が長く、高効率であることから、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ等のHIDランプが多く用いられている。これらのランプを用いた光源は、発光材料に水銀を用いており、水銀に関する水俣条約の規制に伴い、安全な発光材料を用いる照明器具への代替が求められている。
【0003】
屋内用や車載用の照明装置は、発光ダイオード(LED)と蛍光体とを組み合わせた発光装置が使用されている。屋外に設置される灯具の光源として用いる発光装置は、HIDランプから出射される光と同様に赤色を含む光を出射させることが求められる。例えば570nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体として、特許文献1には、(Ba、Sr、Ca)2Si5N8を母体結晶とし、賦活元素としてユウロピウムを用いた窒化物蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光装置は、温度の上昇によっても発光強度を維持できる温度特性が求められる場合がある。
本発明の一態様は、温度特性が良好である窒化物蛍光体及び発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様は、下記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光が照射されたときの発光スペクトルにおいて585nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、照射された励起光を遮断したときの発光強度を基準強度とし、発光強度が前記基準強度の1/10となる残光時間が2.49μs以上である、窒化物蛍光体である。
(BavSrwEux)2Si5N8-y (1)
(式(1)中、v、w、x、及びyは、それぞれ0.50≦v≦0.919、0.08≦w≦0.50、0.001≦x≦0.030、0.9<v+w+x≦1.0、0≦y≦0.5を満たす。)
【0007】
第2態様は、第1態様に係る窒化物蛍光体を含む波長変換部材と、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備え、前記発光素子の上に前記波長変換部材を配置した発光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、温度特性が良好である窒化物蛍光体及び発光装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、CIE1931色度図のxy色度座標系における領域A1を示す図である。
【
図2】
図2は、第1構成例の発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、第2構成例の発光装置の一例を示す概略斜視図である。
【
図4】
図4は、第2構成例の発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、第3構成例の発光装置の一例を示す概略斜視図である。
【
図6】
図6は、第3構成例の発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、窒化物蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【
図9】
図9は、窒化物蛍光体の発光エネルギー(%)と残光時間(μs)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の窒化物蛍光体及び発光装置に限定されない。また、特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に限定するものでは決してない。特に実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
第1実施形態に係る窒化物蛍光体は、下記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光が照射されたときの発光スペクトルにおける585nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、照射された励起光を遮断したときの発光強度を基準強度とし、発光強度が基準強度の1/10となる残光時間が2.49μs以上である。
(BavSrwEux)2Si5N8-y (1)
(式(1)中、v、w、x、及びyは、それぞれ0.50≦v≦0.919、0.08≦w≦0.50、0.001≦x≦0.030、0.9<v+w+x≦1.0、0≦y≦0.5を満たす。)
【0012】
窒化物蛍光体は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、照射された励起光を遮断したときの発光強度を基準強度とし、発光強度が基準強度の1/10となる残光時間(以下、「1/10残光時間」という場合がある。)が2.49μs以上になる。この1/10残光時間は、窒化物蛍光体を構成する結晶構造に含まれる欠陥と関係すると考えられている。前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体について、1/10残光時間が2.49μs以上であれば、窒化物蛍光体を構成する結晶構造に含まれる欠陥が少ないことを表す。窒化物蛍光体は、光を吸収すると、電子が基底状態から励起状態のエネルギー準位に遷移し、励起状態のエネルギー準位に遷移した電子が光を発しながら基底状態に遷移することによって蛍光が発せられる。窒化物蛍光体の結晶構造に欠陥が存在する場合、励起状態のエネルギー準位だけでなく欠陥に基づくエネルギー準位も形成される。窒化物蛍光体の電子の励起状態のエネルギー準位の遷移は、欠陥に基づくエネルギー準位でも起こり得る。そのため、励起光を遮断した後に窒化物蛍光体の発光強度が低下する速度も速くなる、つまり1/10残光時間が短くなると考えられる。前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体について、1/10残光時間が2.49μs以上であるということは、電子の遷移を変化させるような欠陥が結晶構造に少ないことを示している。このような欠陥が少ない窒化物蛍光体は、温度の上昇によっても良好な結晶構造を維持することができ、発光エネルギーの変化が少なく温度特性も良好である。一方、窒化物蛍光体について、1/10残光時間が2.49μs未満であるということは、1/10残光時間に影響を与えるような、窒化物蛍光体中の電子のエネルギー準位の遷移を変化させる欠陥が結晶構造に存在すると推測される。このような欠陥が結晶構造に含まれる窒化物蛍光体は、温度の上昇によって結晶構造を維持することができなくなり、発光エネルギーの変化が大きく温度特性が低下すると推測される。発光エネルギーは、蛍光体又は発光装置の発光スペクトルにおける特定の波長範囲の積分値をいう。発光スペクトルは、ある波長における発光強度の大きさを表しており、発光エネルギーが大きいほど発光強度も大きい。周囲温度が変化した場合に、窒化物蛍光体の発光エネルギーの変化が小さいときは、すなわち、発光エネルギーの維持率が高いときは、発光強度の変化も小さく、温度特性が良好である。窒化物蛍光体は、1/10残光時間が2.50μs以上でもよく、2.51μs以上でもよく、2.55μs以上でもよく、2.60μsでもよい。
【0013】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、温度特性をより良好にするために、前記式(1)中のvが、0.050以上(0.50≦v)であり、0.55以上(0.55≦v)であることが好ましく、0.60以上(0.60≦v)であることがより好ましい。窒化物蛍光体の組成を表す前記式(1)中のvが、0.919以下(v≦0.919)であり、0.90以下(v≦0.90)であることが好ましく、0.85以下(v≦0.85)であることがより好ましく、0.80以下(v≦0.80)であることがさらに好ましく、0.80未満(v<0.80)でもよく、0.78以下(v≦0.78)でもよく、0.77以下(v≦0.77)でもよい。窒化物蛍光体の組成を表す前記式(1)中のwが、0.08以上(0.08≦w)であり、0.10以上(0.10≦w)であることが好ましく、0.105以上(0.105≦w)であることがより好ましく、0.12以上(0.12≦w)であることがさらに好ましい。窒化物蛍光体の組成を表す前記式(1)中のwが、0.50以下(w≦0.50)であり、0.45以下(w≦0.45)でもよく、0.40以下(w≦0.40)でもよい。
【0014】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、温度特性をより良好にするために、前記式(1)中のv、wが、それぞれ0.50≦v<0.80、0.12<w≦0.50を満たすことが好ましい。前記式(1)中のv及びwが、それぞれ0.55≦v≦0.78、0.13≦w≦0.45を満たすことがより好ましく、0.60≦v≦0.77、0.15≦w≦0.40を満たすことがさらに好ましい。
【0015】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、温度特性をより良好にするために、前記式(1)中のxが、0.001以上(0.001≦x)であり、0.002以上(0.002≦x)であることが好ましい。窒化物蛍光体の組成を表す前記式(1)中のxが、0.030以下(x≦0.030)以下であり、0.020以下(x≦0.020)であることが好ましく、0.018以下(x≦0.018)であることがより好ましく、0.015以下(x≦0.015)であることがさらに好ましい。前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体の賦活元素であるEuのモル比を表す変数xと2の積において、変数xの数値が、発光特性を維持できる範囲で小さい値になると、窒化物蛍光体の結晶構造において、電子のエネルギー準位の遷移を変化させる欠陥が少なくなり、窒化物蛍光体の1/10残光時間は、2.49μs以上となる。
【0016】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、1/10残光時間が2.91μs以下であることが好ましい。1/10残光時間が2.91μs以下であれば、結晶欠陥が少なく、温度の上昇によっても発光特性を維持でき、温度特性が良好である。窒化物蛍光体の1/10残光時間が2.91μsを超えると、蛍光体の電子のエネルギー準位の遷移が変化していることを表し、温度特性に影響を与えると推測される。例えば前記式(1)で表される組成式に含まれる組成において、Srのモル比を表す変数wと2の積において、変数wが0.50を超えて大きくなると、窒化物蛍光体の1/10残光時間は2.91μsを超えて大きくなり、窒化物蛍光体を含む発光装置を長時間使用した場合に、発光強度が低下する虞がある。例えば前記式(1)で表される組成式に含まれる組成において、Euのモル比を表す変数xと2の積において、変数xが0.030を超えて大きくなると、窒化物蛍光体の1/10残光時間は2.91μsを超えて大きくなり、賦活元素であるEuのモル比が多くなり過ぎることによる濃度消光が生じるため、発光強度が低下し、温度特性も低下する虞がある。
【0017】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、発光スペクトルにおける発光ピーク波長を585nm以上610nm以下の範囲内に有し、発光ピーク波長を590nm以上605nm以下の範囲内に有してもよく、595nm以上600nm以下の範囲内に有してもよい。窒化物蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長が585nm以上610nm以下の範囲内にあると、発光装置に含まれる蛍光体が、全て前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体(100質量%)である場合であっても、HIDランプが発する光と同様の発光色の光を発し、街路灯、道路照明等の屋外で使用される灯具の光源に用いても、従来屋外で使用されていた灯具の光源とほぼ同等の色合いの光を発することができる。
【0018】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、発光スペクトルにおける半値全幅が、60nm以上95nm以下の範囲内でもよく、65nm以上90nm以下の範囲内でもよく、70nm以上85nm以下の範囲内でもよく、75nm以上83nm以下の範囲内でもよい。本明細書において、半値全幅は、発光スペクトルにおいて、最大の発光強度を示す発光ピーク波長における発光強度に対して50%となる波長幅をいう。窒化物蛍光体の発光スペクトルにおける半値全幅が上記の範囲内であれば、発光色の色純度が高く、街路灯、道路照明等の屋外で使用される灯具の光源に用いても、従来屋外で使用されていた灯具の光源とほぼ同等の色合いの光を発することができる。
【0019】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均粒径が、10μm以上40μm以下の範囲内であることが好ましく、15μm以上38μm以下の範囲内であることがより好ましく、20μm以上35μm以下の範囲内であることがさらに好ましく、30μm以上であってもよい。窒化物蛍光体が10μm以上40μm以下の範囲内の体積平均粒径を有すると、励起光を吸収しやすく、吸収した光を波長変換し易い。レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均粒径は、粒子に照射したレーザー光の散乱光を利用して、測定した体積基準の粒度分布における小径側からの体積累積頻度が50%に達する粒径をいう。
【0020】
前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体は、450nmの波長を含む光で励起されたときの内部量子効率が85%以上であることが好ましい。窒化物蛍光体は、450nmの波長を含む光で励起されたときの内部量子効率が90%以上であることがより好ましく、91%以上であることがさらに好ましい。窒化物蛍光体は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、1/10残光時間が2.49μs以上であり、結晶欠陥が少ないため、内部量子効率が85%以上の高い発光特性を有する。
【0021】
窒化物蛍光体の製造方法
窒化物蛍光体の製造方法は、前記式(1)で表される組成式に含まれる各元素を有する化合物を原料とし、各化合物に含まれる元素が前記式(1)で表される組成式に含まれるように各化合物を計量して混合した原料混合物を得ることと、この原料混合物を第一熱処理して原料焼成物を得ることと、この原料焼成物と、各化合物に含まれる元素とが、前記式(1)で表される組成式に含まれるように、原料焼成物と各化合物を混合した混合物を得ることと、この混合物を第二熱処理して、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する焼成物を得ること、を含むことが好ましい。本明細書において、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する焼成物を含んでいない原料混合物の熱処理を第一熱処理という。本明細書において、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する焼成物と、原料となる化合物とを含む混合物の熱処理を第二熱処理という。第二熱処理は複数回繰り返してもよい。窒化物蛍光体の製造方法の詳細は、例えば特開2021―46516号公報の開示を参照することもできる。
【0022】
原料混合物
原料となる化合物は、例えば窒化物、フッ化物、水素化物、酸化物、炭酸塩、又は塩化物が挙げられる。原料となる化合物は、例えば、Ba3N2、BaF2、BaH2、EuN、EuF3、EuH3、Si3N4、SiO2、Si(NH)2、Si2N2NH、Si(NH2)4等が挙げられる。得られる窒化物蛍光体がSrを含む場合には、原料として、Sr2N、SrN、Sr3N2、SrF2、SrH2等が挙げられる。原料となる化合物は、少なくとも1種の化合物が窒化物であることがより好ましい。原料として窒化物を用いることにより、所望の組成以外の組成の原料焼成物の形成を抑制することが可能である。原料混合物は、フラックスを含んでいてもよい。原料混合物がフラックスを含むことで、原料である化合物間の反応がより促進され、さらに固相反応がより均一に進行するために粒径が大きく、発光特性により優れた蛍光体を得ることができる。フラックスは、蛍光体を得るための熱処理温度と、化合物の液相が形成されると温度が同等であるハロゲン化物を用いることが好ましい。
【0023】
第一熱処理
得られた原料混合物は、窒素を含む雰囲気中で第一熱処理して蛍光体となる原料焼成物が得られる。本明細書において、原料混合物を第一熱処理して得られた焼成物を原料焼成物という場合がある。熱処理温度は、好ましくは1300℃以上2100℃以下の範囲内であり、より好ましくは1500℃以上2000℃以下の範囲内であり、1600℃以上でもよく、1950℃以下でもよい。熱処理温度が1300℃以上2100℃以下の範囲内であれば、熱による分解が抑制され、目的とする組成を有する蛍光体を得るための原料焼成物が得られる。
【0024】
熱処理する雰囲気は、窒素を含む雰囲気中であればよい。窒素を含む雰囲気は、窒素ガスを好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上含有する。窒素を含む雰囲気は、還元性を有する雰囲気であることが好ましい。還元性を有する雰囲気は、還元性のある水素ガスを含む雰囲気であることがより好ましい。窒素と還元性のある水素ガスを含む雰囲気は、水素ガスを好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、さらに好ましくは10体積%以上含有する。
窒素を含む雰囲気の圧力は、ゲージ圧で、0.1MPa以上200MPa以下の加圧雰囲気で行なうことが好ましい。加圧雰囲気にすることによって、結晶構造の分解が抑制され、発光強度の低下を抑制することができる。熱処理雰囲気の圧力は、ゲージ圧で、より好ましくは0.1MPa以上100MPa以下であり、さらに好ましくは0.5MPa以上10MPa以下であり、製造の容易さの点から、よりさらに好ましくは1.0MPa以下である。
熱処理時間は、熱処理温度、熱処理時の雰囲気の圧力によって適宜選択することができ、0.5時間以上20時間以内であることが好ましく、多段階の熱処理を行なう場合であっても、焼成物の分解を抑制するために、一回の熱処理時間は0.5時間以上20時間以内であることが好ましい。
【0025】
第一熱処理後の後工程
熱処理して得られた原料焼成物は、粉砕、湿式分散、固液分離、乾燥、分級等の後処理を行ってもよい。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーション等の工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーター等の工業的に通常用いられる装置により行うことができる。分級は、沈降分級、機械的分級、水力分級、遠心分級等の湿式分級、ふるい分け分級等の工業的に通常用いられる方法により行うことができる。
【0026】
混合物
混合物は、原料焼成物を含む前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する焼成物と、前記式(1)で表される組成式に含まれる元素を含む化合物とを含む。本明細書において、原料焼成物を含む前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する焼成物を、単に焼成物という場合がある。焼成物と、原料となる化合物とを含む混合物は、焼成物と各化合物に含まれる元素とが、前記式(1)で表される組成式に含まれるように、混合して得られる。混合物は、原料混合物と同様に、フラックスが含まれていてもよい。
【0027】
第二熱処理
得られた混合物は、第一熱処理とは別に、好ましくは第二熱処理することにより、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する焼成物が得られる。第二熱処理の熱処理温度、雰囲気、圧力、及び時間は、第一熱処理と同様の範囲の熱処理温度、雰囲気、圧力、及び時間とすることができる。第二熱処理は、複数回行ってもよく、複数回行う場合は、以下「一回目の第二熱処理」、「二回目の第二熱処理」、「三回目の第二熱処理」等という場合がある。
【0028】
第二熱処理の後工程
第二熱処理して得られた焼成物は、第一熱処理によって得られた原料焼成物と同様に、粉砕、湿式分散、固液分離、乾燥、分級等の後処理を行ってもよい。
【0029】
発光装置
第2実施形態に係る発光装置は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、前記1/10残光時間が2.49μs以上である窒化物蛍光体を含む波長変換部材と、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備え、波長変換部材を発光素子の上(光の出射側)に配置した発光装置である。
【0030】
発光装置は、CIE1931色度図のxy色度座標系において、色度座標(x、y)が、(x=0.510、y=0.400)を第一点とし、(x=0.510、y=0.440)を第二点とし、(x=0.600、y=0.400)を第三点とし、(x=0.600、y=0.360)を第四点とし、第一点と第二点を結ぶ第一直線と、第二点と第三点を結ぶ第二直線と、第三点と第四点を結ぶ第三直線と、第四点と第一点を結ぶ第四直線とで画定された領域A1内の光を発するものであることが好ましい。
【0031】
屋外で使用される灯具の光源には、光束やエネルギー等の特性によって、HIDランプ、ハロゲンランプ、LEDを用いた発光装置等の光源が用いられる。発光装置は、CIE1931色度図のxy色度座標系において、前述の領域A1内の橙色から赤味がかった色の光を発することが好ましい。発光装置から発せられる領域A1内の光は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ等のHIDランプが発する光と同様の発光色となる。前述の領域A1内の光を発する発光装置は、街路灯、道路照明等の屋外で使用される灯具の光源に用いても、上述した各種ランプとほぼ変わらない色合いの光を発する。
図1は、CIE1931色度図のxy色度座標系における領域A1を示す。発光装置は、
図1における第一点及び第二点、第二点及び第三点、第三点及び第四点、第四点及び第一点を結ぶ直線で囲われた領域A1内の光を発することが好ましい。発光装置は、
図1における領域A1内の光を発し、領域A1内の光は、橙色から赤色の発光色を呈する。
【0032】
発光装置は、CIE1931色度図において、相関色温度が1200K以上2000K以下の範囲内であり、JIS Z8725に準拠して測定される黒体放射軌跡からの色偏差duvが-0.020以上0.020以下の範囲内である光を発するものであることが好ましい。発光装置から発せられる光の相関色温度が1200K以上2000K以下の範囲内であると、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ等のHIDランプが発する光と同様の発光色となる。発光装置は、街路灯、道路照明等の屋外で使用される灯具の光源に用いても、従来屋外で使用されていた灯具の光源とほぼ変わらない色合いの光を発する。また発光装置は、CIE1931表色系の色度図において、相関色温度が1200K以上2000K以下の範囲内であり、JIS Z8725に準拠して測定される黒体放射軌跡(duvが0.000)からの色偏差duvが-0.020以上0.020以下の範囲内である光を発し、例えば屋外で使用される灯具の光源に用いた場合においても、照射物の色味を自然に感じさせる光が発光装置から発せられる。発光装置から発せられる混色光の色偏差がDuvが0の場合は、黒体放射軌跡からの偏差がなく、黒体放射軌跡に近似する。CIE1931表色系の色度図において、JIS Z8725に準拠して測定される黒体放射軌跡からの色偏差duvが-0.020以上0.020以下の範囲内は、例えば特開2019-207995号公報の
図2を参照することができる。
【0033】
色偏差duvは、発光装置から発せられる光の黒体放射軌跡からの偏差であり、JIS Z8725に準拠して測定される。発光装置は、1200K以上2000K以下の黒体放射軌跡からの偏差である色偏差duvが-0.010以上+0.010以下の範囲内の光を発することが好ましく、duvが-0.008以上+0.008以下の範囲内の光を発することがより好ましい。1950K以下の黒体放射軌跡からの偏差である色偏差duvがプラスマイナス(±)0.020を上回る光が発せられると、照射物が自然の色味から外れる場合がある。
【0034】
発光装置は、例えば高圧ナトリウムランプが発する光と同程度からやや低い相関色温度の光を発する。発光装置が発する光の相関色温度が1200K以上2000K以下であると、高圧ナトリウムランプを光源とする街路灯、道路照明灯等の屋外で使用される灯具の光源として、発光装置が使用された場合であっても、、従来屋外で使用されていた灯具の光源とほぼ同等の色合いの光が発せられる。発光装置から発せられる光の相関色温度は、1950K以下でもよく、1920K以下でもよく、1900K以下でもよい。発光装置から発せられる光の相関色温度は、1200K以上であり、1500K以上でもよく、1500K以上でもよく、1700K以上でもよい。
【0035】
発光装置は、雰囲気温度25℃における発光装置からの発光の光束を基準光束100%とし、雰囲気温度150℃以上における発光装置からの発光の光束が、基準光束の55%以上であることが好ましく、基準光束の56%以上でもよく、基準光束の58%以上でもよい。雰囲気温度25℃における発光装置からの発光の基準光束100%に対して、雰囲気温度150℃における発光装置の発光の光束の割合を光束維持率という場合がある。雰囲気温度25℃における発光装置からの発光の基準光束100%に対して、雰囲気温度150℃における発光装置の発光の光束維持率が55%以上であれば、雰囲気温度が150℃に温度が上昇した場合であっても、発光装置の発光特性の低下が抑制されており、温度特性が良好であり、信頼性の要求を満たすことができる。発光装置の光束は、後述する実施例における測定方法と同様に、例えば分光測定装置を使用して測定した発光スペクトルから測定することができる。
【0036】
発光素子
発光素子は、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。発光素子の発光ピーク波長は、380nm以上490nm以下の範囲内にあることが好ましく、400nm以上480nm以下の範囲にあることがより好ましく、410nm以上470nm以下の範囲内にあることがさらに好ましく、420nm以上460nm以下の範囲内にあることがさらに好ましい。発光素子の発光スペクトルにおける発光ピーク波長を有する発光ピークの半値全幅は、好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。発光素子は、例えば、窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。これにより、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0037】
波長変換部材
発光装置は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、1/10残光時間が2.49μs以上である窒化物蛍光体を含む波長変換部材を備える。波長変換部材は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体のみを含んでいてもよい。波長変換部材は、波長変換部材に含まれる蛍光体は、波長変換部材に含まれる蛍光体100質量%のうち、100質量%が前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、1/10残光時間が2.49μs以上である窒化物蛍光体であってもよい。窒化物蛍光体は、窒化物蛍光体の発光スペクトルにおいて585nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。発光装置は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、1/10残光時間が2.49μs以上である窒化物蛍光体を含む波長変換部材を備えることによって、HIDランプが発する光と同様の発光色の光を発し、例えば屋外で使用される灯具の光源に用いた場合においても、照射物の色味が自然な光が発光装置から発せられる。
【0038】
波長変換部材に含まれる前述の窒化物蛍光体の含有量は、発光装置の形態等によって変化する。波長変換部材に含まれる窒化物蛍光体の含有量は、CIE1931色度図のxy色度座標において、前述の領域A1内の光を発する量であればよい。また、波長変換部材に含まれる前述の窒化物蛍光体の含有量は、CIE1931色度図において、相関色温度が1200K以上2000K以下の範囲内であり、JIS Z8725に準拠して測定される黒体放射軌跡からの色偏差duvが-0.020以上0.020以下の範囲内である光を発する量であればよい。波長変換部材に含まれる前述の窒化物蛍光体は、例えば透光性材料100質量部に対して、窒化物蛍光体の総量が10質量部以上900質量部以下の範囲内でもよく、15質量部以上850質量部以下の範囲内でもよく、20質量部以上800質量部以下の範囲内でもよい。
【0039】
波長変換部材は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、1/10残光時間が2.49μs以上である窒化物蛍光体と、透光性材料とを含むことが好ましい。透光性材料は、発光装置の形態等によって変化する。透光性材料は、例えば樹脂、ガラス及び無機物からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。樹脂は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。無機物は、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0040】
波長変換部材は、必要に応じて、例えば、下記式(2)で表される組成を有する窒化物蛍光体を含んでもよい。なお、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶及び蛍光体の組成1モル中の各元素のモル比を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。
SrqCasAltSiuNv:Eu (2)
(式(2)中、q、s、t、u、vは、それぞれ0≦q<1、0<s≦1、q+s≦1、0.9≦t≦1.1、0.9≦u≦1.1、2.5≦v≦3.5を満たす。)
また、波長変換部材は、必要に応じて、例えば、下記式(3)で表される第1フッ化物蛍光体、及び下記式(3)とは組成が異なる下記式(4)で表される組成を有する第2フッ化物蛍光体からなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。
Ac[M2
1-bMn4+
bFd] (3)
(式(3)中、Aは、K+、Li+、Na+、Rb+、Cs+及びNH4
+から成る群から選択される少なくとも1種を含み、その中でもK+が好ましい。M2は、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含み、その中でもSi、Geが好ましい。bは、0<b<0.2を満たし、cは、[M2
1-bMn4+
bFd]イオンの電荷の絶対値であり、dは、5<d<7を満たす。)
A’c’[M2’1-b’Mn4+
b’Fd’] (4)
(式(4)中、A’は、K+、Li+、Na+、Rb+、Cs+及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その中でもK+が好ましい。M2’は、第4族元素、第13族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含み、その中でもSi、Alが好ましい。b’は、0<b’<0.2を満たし、c’は、[M2’1-b’Mn4+
b’Fd’]イオンの電荷の絶対値であり、d’は、5<d’<7を満たす。)
【0041】
波長変換部材は、蛍光体と透光性材料の他に、必要に応じてフィラー、着色剤、光拡散材を含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば二酸化ケイ素、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等が挙げられる。波長変換部材に含まれる蛍光体及び透光性材料以外のその他の成分の含有量は、その他の成分の合計の含有量で、透光性材料100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下の範囲内とすることができ、0.1質量部以上45質量部以下の範囲内でもよく、0.5質量部以上40質量部以下の範囲内でもよい。
【0042】
発光装置の一例を図面に基づいて説明する。
図2は、第1構成例の発光装置を示す概略断面図である。
【0043】
発光装置100は、
図2に示されるように、350nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子10と、発光素子からの光により励起されて発光する、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体である第1蛍光体71と、を備える。
【0044】
発光装置100は、成形体41と、発光素子10と、波長変換部材21とを備える。成形体41は、第1リード2及び第2リード3と、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂部42とが一体的に成形されてなるものである。成形体41は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極はそれぞれ第1リード2及び第2リード3とそれぞれワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は波長変換部材21により被覆されている。波長変換部材21は、例えば、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70と透光性材料を含む。波長変換部材21は、成形体41の凹部において、発光素子10と蛍光体70を覆う封止部材としての機能も有する。蛍光体70は、発光素子からの光により励起されて585nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する第1蛍光体71を含む。発光素子10の正負一対の電極に接続された第1リード2及び第2リード3は、発光装置100外方に向けて、それぞれ一部が露出されている。これらの第1リード2及び第2リード3を介して、外部から電力の供給を受けて発光装置100を発光させることができる。
【0045】
第1構成例の発光装置の製造方法
第1構成例の発光装置の製造方法のを説明する。なお、詳細は、例えば特開2010-062272号公報の開示を参照することもできる。発光装置の製造方法は、成形体の準備工程と、発光素子の配置工程と、波長変換部材用組成物の配置工程と、樹脂パッケージ形成工程とを含むことが好ましい。成形体として、複数の凹部を有する集合成形体を用いる場合には、樹脂パッケージ形成工程後に、各単位領域の樹脂パッケージごとに分離する個片化工程を含んでいてもよい。
【0046】
成形体の準備工程において、複数のリードを熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を用いて一体成形し、側面と底面とを有する凹部を有する成形体を準備する。成形体は、複数の凹部を含む集合基体からなる成形体であってもよい。
発光素子の配置工程において、成形体の凹部の底面に発光素子が配置され、発光素子の正負の電極が第1リード及び第2リードにワイヤにより接続される。
波長変換部材用組成物の配置工程において、成形体の凹部に波長変換部材用組成物が配置される。
樹脂パッケージ成形工程において、成形体の凹部に配置された波長変換部材用組成物を硬化させて、樹脂パッケージが形成され、発光装置が製造される。複数の凹部を含む集合体基体からなる成形体を用いた場合は、樹脂パッケージの形成工程後に、個片化工程において、複数の凹部を有する集合基体の各単位領域の樹脂パッケージごとに分離され、個々の発光装置が製造される。以上のようにして、
図2に示す第1構成例の発光装置を製造することができる。
【0047】
図3は、第2構成例の発光装置を示す概略斜視図である。
図4は、第2構成例の発光装置を示す概略断面図である。
【0048】
発光装置300は、
図3及び
図4に示されるように、支持体1と、この支持体1上に配置される発光素子10と、この発光素子10の上面に配置される蛍光体70を含む波長変換部材22と、波長変換部材22及び発光素子10の側方であって支持体1に配置された光反射部材43を備える。波長変換部材22の上面には、必要に応じて封止部材50を備えてもよい。封止部材50は、平面視が円形状で断面視が半円球状であるレンズ部51と、このレンズ部51の外周側に延出する鍔部52とを有する。レンズ部51は、平面視を円形状とし、断面視を半円球状としている。またレンズ部51の外周側には鍔部52を延出させている。
【0049】
波長変換部材22は、平面視において発光素子10よりも大きく形成されている。また、発光素子10の側面と光反射部材43の間に、発光素子10の側面及び波長変換部材22の一部に接する透光性部材30を設けている。透光性部材30は、発光素子10と波長変換部材22との間に設けられた、透光性接合部材32を含む。透光性接合部材32は、発光素子10と波長変換部材22を接合する接着材とすることができる。この透光性接合部材32は、その一部を、発光素子10の側面と波長変換部材22の発光素子10側の主面とで形成される隅部に、延在させてもよい。また、
図4に示すように、延在された透光性接合部材32の断面形状は、光反射部材43の方向に広がる逆三角形とすることもできる。透光性部材30及び透光性接合部材32は、透光性を有する樹脂が利用できる。支持体1は、上面に発光素子10や封止部材50等を実装するための部材である。支持体1は絶縁性の母材と、母材の表面に発光素子を実装する配線パターン等の導電部材4を備えている。光反射部材43は、透光性部材30、透光性接合部材32及び波長変換部材22を被覆するための部材である。なお、第2構成例の発光装置及び後述する第2構成例の発光装置の製造方法の詳細は、例えば特開2020―57756号公報の開示を参照することもできる。
【0050】
第2構成例の発光装置の波長変換部材は、第1構成例の発光装置の波長変換部材と同様に、蛍光体と透光性材料とを含む。波長変換部材は、発光素子からの光により励起されて585nm610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体である第1蛍光体を含む。波長変換部材は、第1蛍光体以外の蛍光体を含んでいなくてもよい。波長変換部材に含まれる蛍光体は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体のみを含んでいてもよい。波長変換部材に含まれる蛍光体は、波長変換部材に含まれる蛍光体100質量%のうち、100質量%が前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する窒化物蛍光体である第1蛍光体であってもよい。透光性材料は、第1構成例の発光装置の波長変換部材に用いた透光性材料と同様の透光性材料を用いることができる。また、第2構成例の発光装置の波長変換部材は、蛍光体と透光性材料の他に、第1構成例の発光装置の波長変換部材と同様に、必要に応じてフィラー、着色剤、光拡散材を含んでいてもよい。
【0051】
第2構成例の発光装置の製造方法
第2構成例の発光装置の製造方法の一例を説明する。第2構成例の発光装置の製造方法は、発光素子の配置工程と、波長変換部材の準備工程と、透光性部材及び透光性接合部材の形成工程と、光反射部材の配置工程と、封止部材の配置工程と、を含み、各単位領域ごとに分離する個片化工程を含んでいてもよい。
【0052】
発光素子の配置工程は、予め用意された支持体に発光素子をフリップチップ実装する。波長変換部材の準備工程は、蛍光体と透光性材料を含む波長変換部材用組成物を硬化させて予め板状、シート状又は層状に形成し、発光素子上に配置可能な大きさに個片化して、板状、シート状又は層状の波長変換部材を準備する。透光性部材及び透光性接合部材の形成工程は、発光素子の上面に透光性の接着材を塗布し、発光素子の上面に波長変換部材を接合させる。発光素子と波長変換部材の界面からはみ出た接着材が発光素子の側面から波長変換部材の周辺にかけて延在されて付着し、フィレット状をなして硬化され、透光性部材及び透光性接合部材が形成される。光反射部材の配置工程は、支持体の上面において、波長変換部材及び透光性部材の側面を覆うように、白色の樹脂を配置して硬化させ、光反射部材を配置する。最後に、波長変換部材及び光反射部材の上面に封止部材を配置する。これによって第2構成例の発光装置を製造することができる。
【0053】
図5は、第3構成例の発光装置を示す概略斜視図である。
図6は、第3構成例の発光装置を示す概略断面図である。
【0054】
発光装置400は、
図5及び
図6に示されるように、外観形状が略直方体である。発光装置400は、発光素子10と、被覆部材44と、蛍光体70を含む波長変換部材23と、を備える。発光素子10の側面と被覆部材44の間に、発光素子10の側面及び波長変換部材23の一部に接する透光性部材33を設けている。透光性部材33は、発光素子10と波長変換部材23とを接合する接着材とすることができる。被覆部材44は、発光素子10の下面と、電極12p、電極12nと、透光性部材33の側面と、波長変換部材23の下面を覆うように配置される。被覆部材44は、光反射性であり、発光素子10の側面を直接的又は間接的に被覆する。被覆部材44の外側面は、波長変換部材23の側面とともに、発光装置400の側面を構成する。被覆部材44の外側面と、波長変換部材23の側面とは、同一面とすることが好ましい。被覆部材44は、発光装置400の正負一対の電極12p、12nのそれぞれの少なくとも一部が露出するように被覆する。被覆部材44の下面は、発光装置400の下面の一部を構成する。なお、第3構成例の発光装置及びその製造方法の詳細は、例えば特開2019―9429号公報の開示を参照することもできる。
【0055】
第3構成例の発光装置の製造方法
第3構成例の発光装置の製造方法の概略を説明する。第3構成例の発光装置の製造方法は、波長変換部材の準備工程と、透光性部材及び発光素子の配置工程と、透光性部材の形成工程と、被覆部材の形成工程と、を含み、被覆部材の形成工程後に、電極の露出工程を含んでいてもよく、各単位領域ごとに分離する個片化工程を含んでいてもよい。
【0056】
波長変換部材の準備工程は、蛍光体と透光性材料を含む波長変換部材用組成物を硬化させて予め板状、シート状又は層状に形成する。透光性部材及び発光素子の配置工程は、波長変換部材の上面に透光性の接着材を塗布し、発光素子を配置する。透光性部材の形成工程は、発光素子と波長変換部材の界面からはみ出た接着材が発光素子の側面から波長変換部材の周辺にかけて延在されて付着し、フィレット状をなして硬化され、透光性部材が形成される。被覆部材の形成工程は、発光素子を埋設するように波長変換部材上に被覆部材を形成する。被覆部材の一部を除去することで、発光素子の電極を露出させる。必要に応じて、各各単位領域ごとに切断し、個片化する。これによって、第3構成例の発光装置を製造することができる。
【0057】
灯具
灯具は、上述した発光装置の少なくとも1種を備えることができる。灯具は、上述した発光装置を備えて構成され、反射部材、保護部材、発光装置に電力を供給するための付属装置等をさらに備えていてもよい。灯具は複数の発光装置を備えていてもよい。灯具が複数の発光装置を備える場合、同一の発光装置を複数備えていてもよく、形態の異なる発光装置を複数備えていてもよい。また、複数の発光装置を個別に駆動して、個々の発光装置の明るさ等の調節が可能な駆動装置を備えていてもよい。灯具の使用形態としては、直付型、埋め込み型、吊り下げ型等のいずれであってもよい。灯具は、街路灯、港湾やトンネル等の屋外の設置を想定した灯具であってもよく、ヘッドライト、懐中電灯、又はLEDを使用した携帯用ランタンのような屋外での使用が想定される灯具であってもよく、屋内であっても窓際等の屋外に近い場所に設置される灯具であってもよい。
【0058】
街路灯
街路灯は、上述した発光装置の少なくとも1種を備えることができる。
図7は、街路灯の一例を示す図である。街路灯1000は、歩道W又は車道Cに設置されるポールPと、発光装置Leの支持部Sとを備え、支持部Sには、発光装置Leの周囲を覆い、アクリル、ポリカーボネート、又はガラス等の発光装置Leが発した光の少なくとも一部を透過する光透過部Tを備えている。街路灯1000は、ポールPと一体となった支持部Sに設置された発光装置Leによって高所から低所を照らすことができる。街路灯は、
図7に示す例に限定されない。
【0059】
街路灯は、支持部の高さを任意に設定できるポールを備えたポール型の街路灯のみならず、ポールの代わりにブラケットで支持部を支持するブラケット型の街路灯であってもよく、下方から上方を照らす投光型の街路灯であってもよく、支柱やブロック等の景観材に組み込まれる景観材組み込み型の街路灯であってもよい。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
窒化物蛍光体の実施例
実施例1
第一熱処理
原料は、Baを含む化合物としてBa3N2、Srを含む化合物としてSrNu(uが2/3相当、Sr2NとSrNの混合物)、Euを含む化合物としてEuN、Siを含む化合物として、Si3N4を用いた。
【0062】
仕込み組成として、Ba:Sr:Eu:Siのモル比が1.29:0.70:0.01:5.00となるように、各化合物を、実質的に窒素100体積%を含む窒素雰囲気のグローブボックス内で計量し、混合して原料混合物を得た。
【0063】
得られた原料混合物を坩堝に充填し、実質的に窒素100体積%を含む窒素雰囲気で、ガス圧力をゲージ圧で0.92MPa(絶対圧力が1.02MPa)とし、1800℃で5時間、第一熱処理し、原料焼成物を得た。得られた原料焼成物は、粒子が凝集している場合があるため、湿式分散し、沈降分級し、脱水し、乾燥し、さらに目開き10μm程度のふるい分け分級を行って、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する粉末状の原料焼成物を得た。
【0064】
一回目の第二熱処理
原料は、第一熱処理で得られた原料焼成物と、Baを含む化合物としてBa3N2、Srを含む化合物としてSrNu(uが2/3相当、Sr2NとSrNの混合物)、Euを含む化合物としてEuN、Siを含む化合物として、Si3N4を用いた。
【0065】
仕込み組成として、Ba:Sr:Eu:Siのモル比が1.29:0.70:0.01:5.00となるように調整した上記の各化合物と、第一熱処理で得られた原料焼成物との総量を100質量%として、上記原料焼成物の含有率が10質量%となるように、上記原料焼成物及び各化合物を、実質的に窒素100体積%を含む窒素雰囲気のグローブボックス内で計量し、混合して第一混合物を得た。
得られた第一混合物を坩堝に充填し、実質的に窒素100体積%を含む窒素雰囲気で、ガス圧力をゲージ圧で0.92MPa(絶対圧力が1.02MPa)とし、1770℃で5時間、一回目の第二熱処理し、第一焼成物を得た。得られた第一焼成物は、粒子が凝集している場合があるので、湿式分散し、沈降分級し、脱水し、乾燥し、さらに目開き15μm程度のふるいを用いてふるい分け分級を行って、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する粉末状の第一焼成物を得た。
【0066】
二回目、三回目の第二熱処理
得られた第一焼成物を原料焼成物に置き換えて、目開き25μm程度のふるいを用いてふるい分け分級を行ったこと以外は、上述の一回目の第二熱処理と同様にして、二回目の第二熱処理を行い、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する第二焼成物を得た。
得られた第二焼成物を原料焼成物に置き換えて、熱処理温度を1500℃で10時間とし、目開き35μm程度のふるいを用いてふるい分け分級を行ったこと以外は、上述の一回目の第二熱処理と同様にして三回目の第二熱処理を行い、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有する第三焼成物を得た。得られた第三焼成物を実施例1の窒化物蛍光体として得た。
【0067】
実施例2
第一熱処理を行う原料混合物の仕込み組成として、Ba:Sr:Eu:Siのモル比が1.58:0.40:0.02:5.00となるようにし、一回目から三回目の第二熱処理を行う混合物の仕込み組成を、原料混合物の仕込み組成と同じになるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の窒化物蛍光体を得た。
【0068】
比較例1
第一熱処理を行う原料混合物の仕込み組成として、Ba:Sr:Eu:Siのモル比が1.84:0.12:0.04:5.00となるようにし、一回目から三回目の第二熱処理を行う混合物の仕込み組成を、原料混合物の仕込み組成と同じになるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の窒化物蛍光体を得た。
【0069】
実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体について、組成分析を行った。
【0070】
組成分析
実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体について、誘導結合プラズマ発光分析装置(Perkin Elmer(パーキンエルマー)社製)を用いて、ICP発光分析法により、組成分析を行ない、窒化物蛍光体の組成1モルにおける各元素のモル比を求めた。結果を表1に示す。表1に示すモル比の数値は、Siのモル比を5として分析結果から算出した値である。また、表1において、窒化物蛍光体の組成1モルにおける各元素のモル比から前記式(1)で表される組成式における、v、w、x及びyの値を合わせて記載した。
【0071】
【0072】
各窒化物蛍光体の分析組成について、実施例1及び2に係る窒化物蛍光体は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有していた。比較例1に係る窒化物蛍光体は、前記式(1)で表される組成式において、Srのモル比を表す変数wと2の積において、変数wが0.08未満の数値であり、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有していなかった。
【0073】
実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体について、以下の評価を行った。結果を表2に記載する。
【0074】
体積平均粒径
実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(MASTER SUZER(マスターサイザー)2000、MALVERN(マルバーン)社製)により、体積基準の累積頻度50%の体積平均粒径を測定した。
【0075】
発光特性(発光ピーク波長、半値全幅、内部量子効率)
実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体について、量子効率測定装置(QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、発光ピーク波長が450nmの励起光を各窒化物蛍光体に照射し、室温(25℃±5℃)における発光スペクトルを測定した。各窒化物蛍光体の発光スペクトルから、発光強度が最大となる発光ピーク波長(nm)と、半値全幅(FWHM)(nm)を求めた。また、各窒化物蛍光体の発光スペクトルから内部量子効率(%)を求めた。
図8に、実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体の発光スペクトルを示す。
【0076】
温度特性評価(蛍光体)
実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体について、25℃(室温)と300℃において、発光ピーク波長が450nmである励起光源からの光によって励起させた各発光スペクトルを、分光蛍光光度計(F-4500、株式会社日立ハイテクサイエンス製)で測定した。各窒化物蛍光体について、25℃で測定した発光スペクトルのエネルギー値を測定し、比較例1に係る窒化物蛍光体の発光エネルギーを100%として、実施例1及び2に係る窒化物蛍光体の発光エネルギーを相対発光エネルギー(%)として求めた。また、25℃で測定した各窒化物蛍光体の発光スペクトルの発光エネルギーの値を100%として、300℃で測定した各窒化物蛍光体の発光スペクトルの発光エネルギーの値を求め、温度変化における発光エネルギー維持率(%)として温度特性を評価した。なお、エネルギー値は、各温度において470nm以上730nm以下の波長範囲の発光スペクトルの積分値から求めた値である。
【0077】
1/10残光時間
実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体について、発光ピーク波長が442nmの励起光を各窒化物蛍光体に照射し、照射した励起光を遮断した時点を基準時とし、励起光の照射を遮断した時点から各窒化物蛍光体の発光の発光強度の経時変化を小型蛍光寿命装置(Quantaurus-Tau、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて測定した。励起光の遮断時の発光強度を100%として、発光強度が励起光遮断時の1/10になる時間を1/10残光時間として測定した。
図9に、実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体の発光エネルギー(%)と残光時間(μs)の関係を表すグラフを示す。
【0078】
【0079】
表1及び2に示すように、実施例1及び2に係る窒化物蛍光体は、前記式(1)で表される組成式に含まれる組成を有し、内部量子効率90%以上の発光特性を有していた。
【0080】
表2、
図8に示すように、実施例1及び2に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体は、585nm以上610nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有していた。
【0081】
表2、
図9に示すように、実施例1及び2に係る窒化物蛍光体は、1/10残光時間が2.49μs以上であり、300℃に温度が上昇しても発光エネルギー維持率は60%以上であり、発光強度が維持され、温度特性が良好であった。また、実施例1に係る窒化物蛍光体は、実施例2に係る窒化物蛍光体よりも、1/10残光時間が長く、300℃に温度が上昇しても発光エネルギー維持率は高くなっており、温度特性が良好であった。
【0082】
比較例1に係る窒化物蛍光体は、1/10残光時間が2.48μsであり、実施例1及び2の1/10残光時間よりも短い。また、300℃に温度が上昇すると発光エネルギー維持率が37.4%となり、実施例1及び2の発光エネルギー維持率よりも低く、実施例1及び2よりも温度特性が改善されていなかった。
【0083】
発光装置の実施例
実施例1-1
上述の第2構成例の発光装置を製造した。第2構成例の発光装置は、
図3及び
図4を参照することができる。
【0084】
発光素子の配置工程
支持体1は、窒化アルミニウムを材料とするセラミックス基板を用いた。発光素子10は、発光ピーク波長が450nmである窒化物系半導体層が積層された発光素子10を用いた。発光素子10の大きさは、平面形状が約1.0mm四方の略正方形であり、厚さが約0.11mmである。発光素子は、光出射面が封止部材側になるように配置し、Auからなる導電部材4を用いたバンプによってフリップチップ実装した。
【0085】
波長変換部材の準備工程
波長変換部材22を構成する透光性材料としてシリコーン樹脂を用いた。第1蛍光体は、表1に示す実施例1に係る窒化物蛍光体を用いた。波長変換部材に含まれる蛍光体は、第1蛍光体のみを用いた。波長変換部材用組成物は、透光性材料100質量部に対して、発光素子10からの光と、第1蛍光体の光との混色光の相関色温度が1800K付近になるように、配合した。波長変換部材用組成物は、シリコーン樹脂100質量部に対してフィラーとして酸化アルミニウムを2質量部を配合した。次いで、準備した波長変換部材用組成物を180℃で2時間加熱してシート状に硬化させて、発光素子10の平面形状よりも縦横に約0.1mm大きい、平面形状が約1.6mm四方の略正方形であり、厚さが約150μmの個片化したシート状の波長変換部材22を準備した。
【0086】
透光性部材及び透光性接合部材の形成工程
透光性の接着材である、フェニルシリコーン樹脂を発光素子10の上面に塗布し、波長変換部材22を接合させて、さらに発光素子10と波長変換部材22の界面に透光性の接着材を塗布し、150℃、4時間硬化させて、発光素子10の側面から波長変換部材22の周辺かけて延在するように、フィレット状をなして硬化された透光性部材30及び透光性接合部材32を形成した。
【0087】
光反射部材の配置工程
光反射部材用組成物として、ジメチルシリコーン樹脂と平均粒径(カタログ値)が0.28μmの酸化チタン粒子とを含み、ジメチルシリコーン樹脂100質量部に対して酸化チタン粒子を60質量部含む光反射部材用組成物を準備した。支持体1の上面において、波長変換部材22及び透光性部材30の側面を覆うように、白色の樹脂である光反射部材用組成物に配置して、硬化させ、光反射部材43を形成した。
【0088】
封止部材の配置工程
最後に、フェニルシリコーン樹脂を硬化して形成された平面視で円形状で断面視で半円球状のレンズ部51と、レンズ部51の外周側に延出する鍔部52を備えた封止部材50を配置し、相関色温度が1800K付近になる光を発する、第2構成例の発光装置300を製造した。
【0089】
実施例2-1
第1蛍光体として、表1の実施例2に係る窒化物蛍光体を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、第2構成例の発光装置を製造した。
【0090】
比較例1-1
第1蛍光体として、表1の比較例1に係る窒化物蛍光体を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして第2構成例の発光装置を製造した。
【0091】
各発光装置について、以下の測定を行った。結果を表3に示す。
【0092】
発光装置の発光スペクトル(色度座標(x、y)、相関色温度(K)、色偏差duv、相対光束(%))
各発光装置について、分光測光装置(PMA-12、浜松ホトニクス株式会社製)と積分球を組み合わせた光計測システムを用いて、発光スペクトルを測定した。
各発光装置の発光スペクトルから、CIE1931のCIE色度図上の色度座標(x、y)と、JIS Z8725に準拠して相関色温度(K)及び色偏差duvを測定した。光束は、比較例1-1に係る発光装置の光束を100%として、実施例1-1及び2-1に係る発光装置の光束を相対値(相対光束(%))として表した。
【0093】
温度特性評価(発光装置)
実施例1-1及び2-1に係る発光装置、並びに比較例1-1の各発光装置について、25℃(室温)と、150℃の各温度において、各発光装置を恒温槽(PG-2、エスペック(ESPEC)株式会社製)に1時間(恒温槽設定温度到達後1時間)保持し、分光測光装置(PMA-12 C10027-02、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて、パルス幅0.05msec、パルス周期5msecで電圧を印加し、発光スペクトルを測定した。各発光装置について、25℃で測定した各発光装置の光束を100%として、150℃で測定した各発光装置の光束の値を求め、温度変化における発光装置の光束維持率(%)として温度特性を評価した。
【0094】
【0095】
実施例1-1及び2-1に係る発光装置、並びに比較例1-1に係る発光装置は、上述した領域A1内の橙色から赤色の光を発した。
【0096】
実施例1-1及び2-1に係る発光装置、並びに比較例1-1に係る発光装置は、いずれもCIE1931色度図において、相関色温度が1200K以上2000K以下の範囲内であり、JIS Z8725に準拠して測定される黒体放射軌跡からの色偏差duvが-0.020以上0.020以下の範囲内である光を発した。
【0097】
実施例1-1及び2-1に係る発光装置は、比較例1-1に係る発光装置に対して、相対光束が高かった。また、1/10残光時間が2.49μs以上である実施例1及び2に係る窒化物蛍光体を用いた実施例1-1及び2-1に係る発光装置は、150℃に温度が上昇しても光束維持率は55%以上であり、発光装置としても温度特性が良好であった。
本発明の一態様の発光装置は、街路灯、港湾やトンネル等の屋外に設置する灯具、ヘッドライト、懐中電灯、又はLEDを使用した携帯用ランタンのような屋外での使用が想定される灯具、また、屋内であっても出入口付近や窓際等の屋外に近い場所に設置される灯具の光源として利用することができる。
1:支持体、2:第1リード、3:第2リード、4:導電部材、10:発光素子、12p、12n:電極、21、22、23:波長変換部材、30、33:透光性部材、32:透光性接合部材、41:成形体、42:樹脂部、43:光反射部材、44:被覆部材、50:封止部材、51:レンズ部、52:鍔部、60:ワイヤ、70:蛍光体、71:第1蛍光体、72:第2蛍光体、100、300、400:発光装置、1000:街路灯、C:車道、Le:光源、P:ポール、S:支持部、T:光透過部、W:歩道。