(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095082
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】アルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20230629BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
B09B5/00 F
C04B7/38 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210757
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】大村 昂平
(72)【発明者】
【氏名】関 卓哉
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA33
4D004AB03
4D004AC05
4D004BA02
4D004CA04
4D004CA08
4D004CA15
4D004CA22
4D004CB13
4D004CB21
4D004CB31
4D004CC03
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA09
(57)【要約】
【課題】 廃コンクリート等のアルカリ金属を一定量以上含有する廃棄物をセメントクリンカー原料とするため、アルカリ金属を除去する方法において、高温での加熱前処理工程、耐熱性の高い設備を必要とせず、簡易なプロセスかつエネルギー負荷の小さい方法でアルカリ金属を除去し、セメントクリンカー原料及び石灰石の代替として好適な状態とする。
【解決手段】 廃コンクリート粉末を70℃以上の水中で撹拌、混合し、廃コンクリート粉末中のアルカリ金属を溶出させるアルカリ金属溶出工程と、アルカリ金属溶出後の廃コンクリート粉末とアルカリ金属溶出水とを分離する脱水工程と、を含むアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃コンクリート粉末を70℃以上の水中で撹拌、混合し、廃コンクリート粉末中のアルカリ金属を溶出させるアルカリ金属溶出工程と、
アルカリ金属溶出後の廃コンクリート粉末とアルカリ金属溶出水とを分離する脱水工程と、
を含むことを特徴とする、アルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法。
【請求項2】
廃コンクリート粉末が目開き300μmの篩を全通する廃コンクリート粉末であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属溶出工程において、廃コンクリート粉末100質量部に対し、70℃以上の水が2000乃至6000質量部であることを特徴とする請求項1又は2記載のアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法。
【請求項4】
脱水工程において生じるアルカリ金属溶出水の少なくとも一部を回収し、アルカリ金属溶出工程において再利用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法でアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末を製造する、アルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末製造工程と、
得られたアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末を、少なくとも石灰石の一部に置換してセメントクリンカーの原料として使用してセメントクリンカーを製造するセメントクリンカー製造工程と
を含むことを特徴とするセメントクリンカーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカー原料として再利用可能なアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法及びセメントクリンカーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製造工程においては、多量のCO2が発生することが知られており、その量は日本国内全体で排出するCO2の約4%に相当する。
【0003】
セメント製造工程において発生するCO2は石炭などの化石燃料を由来とするものと、原料として使用する石灰石の脱炭酸に由来するものに大別できる。
【0004】
そして、セメント製造工程において発生するCO2の6割程度は石灰石由来であり、セメント製造工程において発生するCO2を削減するためには、石灰石の使用量を低減したセメントの製造技術の確立が求められる。石灰石の使用量を低減するためには、石灰石同様にCaを主成分とする代替原料を準備する必要があり、例えば、この一つに廃コンクリートが挙げられる。
【0005】
廃コンクリートはCaを主成分として保有しているため石灰石の代替として有効であると考えられるが、一方でセメント忌避成分であるNaやKといったアルカリ金属を含む。セメントクリンカーの製造では原料全体におけるアルカリ金属の総量を一定以下にコントロールしなければならず、そのため廃コンクリートのセメントクリンカー原料としての利用が普及していない。
【0006】
このような課題を解決するため、アルカリ金属を含有する廃棄物については、セメントクリンカー原料とするために事前にアルカリ金属を除去する方法の検討が多くなされてきた。例えば、特許文献1には木質バイオマス灰等のアルカリ金属含有物をセメント原料として有効利用するために、アルカリ金属含有物と塩素含有物を一緒にし、これを650℃~1000℃にて加熱することによりアルカリ金属の塩化物を形成させた後、前記加熱処理物に水分を加えてスラリー化することでアルカリ金属を液相中に溶出させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術を用いれば、アルカリ金属含有物からアルカリ金属を除去することが可能であるが、高温での加熱処理工程を必要とするため、耐熱性の高い設備が必要であり設備コストが大きいこと、高温を保持するために高いエネルギーが必要であることなどが問題として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、廃コンクリート粉末を70℃以上に加熱した水で処理することでアルカリ金属が選択的かつ迅速に溶出し、アルカリ金属が少ない廃コンクリート粉末を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、廃コンクリート粉末を70℃以上の水中で撹拌、混合し、廃コンクリート粉末中のアルカリ金属を溶出させるアルカリ金属溶出工程と、アルカリ金属溶出後の廃コンクリート粉末とアルカリ金属溶出水とを分離する脱水工程と、を含むことを特徴とする、アルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法である。
【0011】
廃コンクリート粉末は目開き300μmの篩を全通するものであることが好ましい。
【0012】
また、アルカリ金属溶出工程において、廃コンクリート粉末100質量部に対し、70℃以上の水が2000乃至6000質量部であることが好ましい。
【0013】
脱水工程において生じるアルカリ金属溶出水の少なくとも一部を回収し、アルカリ金属溶出工程において再利用することも好ましい。
【0014】
また、他の本発明は、上記の製造方法でアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末を製造する、アルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末製造工程と、得られたアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末を、少なくとも石灰石の一部に置換してセメントクリンカーの原料として使用して、セメントクリンカーを製造するセメントクリンカー製造工程とを含むことを特徴とするセメンクリンカーの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法によれば、従来、アルカリ金属の含有量が高くセメントクリンカー原料として再利用が困難であった廃コンクリート中のアルカリ金属を、簡易なプロセスかつエネルギー負荷の小さい手法によって選択的かつ迅速に溶出して低減し、セメントクリンカー原料及び石灰石の代替として好適な状態とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】アルカリ金属溶出工程において60分撹拌処理を行った場合の、CaOの溶出率に対する各成分の溶出率比を示す図である。
【
図2】K
2Oの試料中への残存量の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末の製造方法は、(1)アルカリ金属溶出工程と、(2)脱水工程を有する。以下、本発明を簡単に説明する。
【0018】
(1)アルカリ金属溶出工程
アルカリ金属溶出工程は、廃コンクリート粉末を70℃以上の水中で撹拌、混合し、廃コンクリート粉末中のアルカリ金属を溶出させる工程である。アルカリ金属を溶出させる際の水の温度は70℃以上である(以下、70℃以上の水を単に水ともいう。)。廃コンクリート粉末と70℃未満の水とを混合したのちに水を70℃以上に加熱してもよく、廃コンクリート粉末と70℃以上に加熱した水とを混合してもよい。水の温度が高くなることで十分なアルカリ金属溶出効果を有し、70℃以上とすることでアルカリ金属の選択的かつ迅速な溶出が促進され、セメントクリンカー原料として好適なまでにアルカリ金属の量を低減することが可能である。水の温度上限は特に限定しないが、温度が高くなればなるほど、プロセスに要するエネルギーコスト、設備コストが増大することから水の温度は100℃以下であることが好ましい。
【0019】
廃コンクリート粉末のサイズは500μmの篩を全通する粒度まで粉砕することが好ましく、300μmの篩を全通する粒度まで粉砕することがより好ましい。細かく粉砕することで廃コンクリート粉末の比表面積が大きくなり、アルカリ金属の溶出を促進することができる。
【0020】
ここで、廃コンクリート粉末の原料である廃コンクリートとは、建築物、構造物、道路舗装等の解体や倒壊により発生したもの、コンクリート製品の廃棄等によって発生したもの、またはそれらを中間処理することにより発生するセメント・コンクリート成分を主体としたもののことを指す。中間処理したものとしては、例えば廃コンクリートから骨材成分を取り出して再生骨材を製造する過程で発生する、セメント成分を主体とする微粉末がある。
【0021】
廃コンクリートを粉砕して廃コンクリート粉末とする粉砕方法は公知の技術を用いることができ、連続式でもバッチ式でも構わない。例えば、工業的に使用される粉砕機としては、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ピンミル、ボールミル、縦型ミルなどが挙げられ、これらの粉砕機を単独または組み合わせて使用することができる。
【0022】
廃コンクリート粉末と水との混合割合は、廃コンクリート粉末100質量部に対し、水を2000乃至6000質量部とすることが好ましく、2500乃至5000質量部とすることがより好ましい。水の割合が大きいほど、アルカリ金属の溶出が促進されるが、処理コストが大きくなってしまう。また、水の割合が小さすぎるとアルカリ金属の溶出速度が遅くなるだけでなく、廃コンクリート粉末と水とが均一に混合されないことがある。
【0023】
アルカリ金属溶出工程の混合・撹拌操作には公知の技術が使用でき、連続式でもバッチ式でも構わない。用いることができる装置としては例えば撹拌槽やインラインミキサーが挙げられる。廃コンクリート粉末と水は撹拌装置に別々に供給してもよいし、事前に混合して供給してもよい。撹拌装置に別々に供給する場合でも、撹拌装置内で混合されるため問題ない。混合・撹拌の時間は、用いる装置等により異なるので事前に予備実験等して適宜決定すればよい。
【0024】
(2)脱水工程
脱水工程は、アルカリ金属溶出後の廃コンクリート粉末とアルカリ金属溶出水とを分離する工程である。分離方法は公知の技術が使用可能であり、例えばフィルタープレスやスクリュープレス、ベルトプレスなどが挙げられる。
【0025】
また、脱水工程において分離されたアルカリ金属溶出水は、アルカリ金属が飽和するまで繰り返し利用することが可能である。従って、水の使用量を低減させるためにアルカリ金属溶出水の少なくとも一部をアルカリ金属溶出工程において再利用することが好ましい。
【0026】
分離したアルカリ金属溶出後の廃コンクリート粉末は、通常アルカリ金属溶出水を含んだケークとして得られる。そのまま又は乾燥後、セメントクリンカー原料や石灰石の代替として用いることができる。よりアルカリ金属を低減するために、水で洗浄してケーク中のアルカリ金属溶出水を除去することが好ましい。
【0027】
廃コンクリート粉末中に含まれるアルカリ金属の量は、Ca、Na、Kの酸化物換算での質量比が、Na2O/CaOにおいて0.001以下、K2O/CaOにおいて0.002以下となるまで低減することが好ましい。前記量まで低減することで、セメントクリンカー原料及び石灰石の代替として好適な状態となる。
【0028】
(セメントクリンカーの製造方法)
本発明のセメントクリンカーの製造方法は、上記の方法でアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末を製造する、アルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末製造工程と、得られたアルカリ金属が低減された廃コンクリート粉末を、少なくとも石灰石の一部に置換してセメントクリンカーの原料として使用してセメントクリンカーを製造するセメントクリンカー製造工程とを含む。
【0029】
セメントクリンカー製造工程は、上記の方法により得られたアルカリ金属溶出後の廃コンクリート粉末を、石灰石の一部に置換して使用する工程である。セメントクリンカーの製造方法は公知の技術に基づいて実施し、原料の調合において、少なくとも石灰石の一部に置換して当該廃コンクリート粉末を使用する。
【0030】
このようにすることで、セメントの製造工程における石灰石の使用量を低減することができ、同時にCO2の発生量を低減させることが可能である。
【実施例0031】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0032】
<比較例1、2及び実施例1、2>
(廃コンクリート粉末)
廃コンクリートを準備し、ジョークラッシャーを用いて粒径20mm以下まで粗粉砕した後、ディスクミルを用いて300μmの篩を全通するまで微粉砕し、廃コンクリート粉末を得た。
【0033】
(1)アルカリ金属溶出工程
前記廃コンクリート粉末10gと、20乃至100℃に加熱した水500gとを混合し、マグネチックスターラーを用いて400rpmで60分間、または120分間撹拌した。撹拌時においても所定の温度を保つよう、電気ヒーターを用いて加熱を行った。
【0034】
(2)脱水工程
吸引ろ過装置を用いて、廃コンクリート粉末とアルカリ金属溶出液とを分離した。分離した廃コンクリート粉末は水で十分に洗浄した後、100℃の乾燥機で24時間乾燥した。
【0035】
原料として用いた廃コンクリート粉末、及び前記手順にて得た廃コンクリート粉末の組成分析は各試料を100℃の乾燥機で24時間乾燥した後、蛍光X線により組成分析を行った。蛍光X線分析装置は株式会社リガク製PrimusIVを使用した。サンプル粉末は内径10mmの金属型枠に詰めた後、加圧成型を行い、ペレット状にして分析を行った。Clを除く各成分は、測定値を酸化物に換算して算出した。また、参考として微粉砕した石灰石も同様に組成分析を行った。
【0036】
図1にアルカリ金属溶出工程において60分間撹拌処理を行った場合の、CaOの溶出率に対する各成分の溶出率比を示した。例えば、Na
2Oの溶出率はCaOの7乃至10倍程度を示しており、CaOに比べて非常に溶出しやすい成分であることがわかる。アルカリ金属であるNa
2OとK
2Oは他成分に比べて大きい値を示しており、かつ70℃の条件において最も値が大きくなっていることから、70℃においての選択的溶出が最も効果的であり、次いで100℃においても十分効果的に選択的溶出がなされており、70℃以上であればアルカリ金属を選択的に溶出可能であることがわかる。
【0037】
また、表1にはアルカリ金属溶出工程において60分間撹拌を行った場合及び120分間撹拌を行った場合の、各試料に含まれるCaO、Na2O、K2Oの量を示す。また、CaOに対するアルカリ金属の質量比として、Na2O/CaO、K2O/CaOも併せて示す。CaOに対するアルカリ金属の質量比を指標として見ると、70℃以上に加熱した場合、短時間(60分間)で石灰石同等以下までに低減できることがわかる。また、40℃と70℃の間でアルカリ金属の減少量の差が比較的大きいことがわかる。
【0038】
【0039】
図2はK
2Oの試料中への残存量の経時変化を示したものである。アルカリ金属溶出工程においてアルカリ金属を溶出させる際の水の温度を70℃以上とすることによりK
2Oの残存量が顕著に減少していることがわかる。