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特開2023-95285太陽電池素子コーティング組成物および太陽電池モジュール
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  • 特開-太陽電池素子コーティング組成物および太陽電池モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095285
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】太陽電池素子コーティング組成物および太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10K 39/10 20230101AFI20230629BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20230629BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
H01L31/04 120
H01L31/04 112Z
C09K3/10 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211083
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和田 寛人
(72)【発明者】
【氏名】豊島 武春
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 篤
【テーマコード(参考)】
4H017
5F151
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB15
4H017AD06
4H017AE05
5F151AA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機薄膜太陽電池、ペロブスカイト型太陽電等において、太陽電池セル上に直接塗布することが可能であり、大気圧下で硬化し、水蒸気バリア性の高い保護膜を形成する太陽電池素子コーティング組成物を提供する。
【解決手段】太陽電池素子コーティング組成物は、
(A)式(1)で表される重合体

(B)1分子中に、末端ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有する有機ケイ素化合物、および、
(C)波長200~500nmの光によって活性化される白金族金属触媒を含有し、
かつ、HRSiO2/2(式中、Rは有機基を表す。)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位を有しない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記構造式(1)で表される重合体:
【化1】
[式中、Xは、それぞれ独立して下記構造式(2)で表される2価の基であり、Yは、それぞれ独立して下記構造式(3)~(5)のいずれかで表される1価の基であり、Y’は、それぞれ独立して下記構造式(6)または(7)で表される2価の基であり、Meは、メチル基を表す。mは、0~12の整数である。
【化2】
(式中、アスタリスク(*)は、ケイ素原子との結合部位を示す。)
【化3】
(式(3)~(7)中、アスタリスク(*)は、ケイ素原子との結合部位を示し、各不斉炭素における立体配置は、シス(エキソ)またはトランス(エンド)のいずれであってもよい。)]
(B)1分子中に、末端ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有する有機ケイ素化合物、および、
(C)波長200~500nmの光によって活性化される白金族金属触媒
を含有し、
かつ、HRSiO2/2(式中、Rは有機基を表す。)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位を有しない太陽電池素子コーティング組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、下記式(I)で表される化合物、下記式(II)で表される、フェニルトリビニルシランと1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンとの付加反応生成物、またはその両方を含む請求項1記載の太陽電池素子コーティング組成物。
【化4】
【化5】
(式(II)中、nは、1~20の整数である。)
【請求項3】
前記(C)成分が、(η5-シクロペンタジエニル)三脂肪族白金化合物またはビス(β-ジケトナト)白金化合物を含む請求項1または2記載の太陽電池素子コーティング組成物。
【請求項4】
太陽電池素子と、請求項1~3のいずれか1項記載の太陽電池素子コーティング組成物の硬化物からなる水蒸気バリア層とを具備する太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記太陽電池素子が、有機薄膜型またはペロブスカイト型の太陽電池素子である請求項4記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載の太陽電池素子コーティング組成物を、太陽電池素子に直接または層を介して接触させ、大気圧下で波長200~500nmの光照射により硬化させる工程を有する太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子コーティング組成物および太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コスト低減ならびに意匠性を重視したフレキシブル型太陽電池や、シースルー性を有した太陽電池、軽量で取り扱いに優れた有機薄膜太陽電池、低価格化ならびに高効率を両立するペロブスカイト型化合物を発電層に有した太陽電池(以下、「ペロブスカイト型太陽電池」と呼ぶ)の研究開発が進められている。ペロブスカイト型太陽電池は、結晶シリコン系太陽電池に比べ安価で製造することができ、高い発電効率を有する。ペロブスカイト型太陽電池素子は、受光面側から、光透過性基板もしくは光透過性フィルム、透明導電膜、電子輸送層、発電層、正孔輸送層、背面電極を積層することで得られる。上記素子を封止する、いわゆるモジュール化工程においては、背面電極のさらに背面側に封止材を適用させ、最背面に基板ならびにフィルムなどで封止した構造が検討されている。受光面側光透過性基板ならびに最背面側基板にガラスなどを使用する構造や、受光面側に光透過性フィルム、最背面側にフィルムを使用するフレキシブル構造など、種々提案がなされている。
【0003】
一方、ペロブスカイト型化合物は水蒸気に弱く、また、太陽電池は、屋外において過酷な環境に長時間晒されるため、ペロブスカイト型太陽電池モジュールには水蒸気を高いレベルで遮断することが求められる。
【0004】
このような水蒸気に弱い電子デバイスに対して、封止工程の前に、あらかじめ素子上に水蒸気をバリアする技術が種々紹介されている。例えば、特許文献1には、珪素、酸素、炭素を含む3層のバリアコート技術が紹介されている。プラズマ化学気相成長(CVD)法により、可撓性、機械的強度を有した水蒸気バリア膜を形成するものであるが、プラズマCVD法は、CVD装置にて真空下にて形成されるものであり、デバイスを真空チャンバー内に配置し、真空下環境にて処理を行う必要があることからデバイスの大型化は困難である。同時に、真空と大気開放のプロセスが絡むことは工程の煩雑さ、コストUPは避けられない。また、特許文献2には、ZnO-SiO2-Al23膜を直流(DC)スパッタ法で形成する技術が紹介されている。DCスパッタ法も、同様に真空環境が必要であり、工程の煩雑さの面で同様の課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-100806号公報
【特許文献2】特開2013-147710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、有機薄膜太陽電池、ペロブスカイト型太陽電等において、太陽電池セル上に直接塗布することが可能であり、大気圧下で硬化し、水蒸気バリア性の高い保護膜を形成する太陽電池素子コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の太陽電池素子コーティング組成物が、太陽電池セル上に直接塗布することが可能であり、大気圧下で硬化し、水蒸気バリア性の高い保護膜を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記構造式(1)で表される重合体:
【化1】
[式中、Xは、それぞれ独立して下記構造式(2)で表される2価の基であり、Yは、それぞれ独立して下記構造式(3)~(5)のいずれかで表される1価の基であり、Y’は、それぞれ独立して下記構造式(6)または(7)で表される2価の基であり、Meは、メチル基を表す。mは、0~12の整数である。
【化2】
(式中、アスタリスク(*)は、ケイ素原子との結合部位を示す。)
【化3】
(式(3)~(7)中、アスタリスク(*)は、ケイ素原子との結合部位を示し、各不斉炭素における立体配置は、シス(エキソ)またはトランス(エンド)のいずれであってもよい。)]
(B)1分子中に、末端ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有する有機ケイ素化合物、および、
(C)波長200~500nmの光によって活性化される白金族金属触媒
を含有し、
かつ、HRSiO2/2(式中、Rは有機基を表す。)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位を有しない太陽電池素子コーティング組成物、
2. 前記(B)成分が、下記式(I)で表される化合物、下記式(II)で表される、フェニルトリビニルシランと1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンとの付加反応生成物、またはその両方を含む1の太陽電池素子コーティング組成物、
【化4】
【化5】
(式(II)中、nは、1~20の整数である。)
3. 前記(C)成分が、(η5-シクロペンタジエニル)三脂肪族白金化合物またはビス(β-ジケトナト)白金化合物を含む1または2の太陽電池素子コーティング組成物、
4. 太陽電池素子と、1~3のいずれかの太陽電池素子コーティング組成物の硬化物からなる水蒸気バリア層とを具備する太陽電池モジュール、
5. 前記太陽電池素子が、有機薄膜型またはペロブスカイト型の太陽電池素子である4の太陽電池モジュール、
6. 1~3のいずれかの太陽電池素子コーティング組成物を、太陽電池素子に直接または層を介して接触させ、大気圧下で波長200~500nmの光照射により硬化させる工程を有する太陽電池モジュールの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の太陽電池素子コーティング組成物は、太陽電池セル上に直接塗布することが可能であり、また、大気圧下で硬化し、水蒸気バリア性の高い硬化物を与える。
このような特性を有する本発明の太陽電池素子コーティング組成物は、有機薄膜太陽電池およびペロブスカイト型太陽電等の保護膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るペロブスカイト型太陽電池モジュールの一例を示す縦断面概略図である。
図2】実施例で作製したペロブスカイト型太陽電池モジュールを示す縦断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1](A)成分
本発明の太陽電池素子コーティング組成物における(A)成分は、下記構造式(1)で表される重合体である。
【0012】
【化6】
【0013】
式(1)において、Xは、それぞれ独立して下記構造式(2)で表される2価の基であり、Yは、それぞれ独立して下記構造式(3)~(5)のいずれかで表される1価の基であり、Y’は、それぞれ独立して下記構造式(6)または(7)で表される2価の基であり、Meは、メチル基を表す(以下、同様)。
【0014】
【化7】
(式中、アスタリスク(*)は、ケイ素原子との結合部位を示す。)
【0015】
【化8】
(式(3)~(7)中、アスタリスク(*)は、ケイ素原子との結合部位を示し、各不斉炭素における立体配置は、シス(エキソ)またはトランス(エンド)のいずれであってもよい。)
【0016】
なお、上記構造式(6)または(7)で表される2価の基は、その結合方向が上記記載のとおりに限定されるものではなく、個々の構造を紙面上で180°回転させた構造をも包含する。
【0017】
また、mは、0~12の整数であるが、好ましくは1~5である。mが12を超えると常温で高粘度の液体となり取扱いがしづらくなる。
【0018】
(A)成分の動粘度は、特に制限されないが、1,000~100,000mm2/sが好ましく、5,000~30,000mm2/sがより好ましい。なお、本発明において、動粘度はキャノン・フェンスケ型粘度計により測定した23℃における値である(以下、同様)。
【0019】
(A)成分は、例えば、(a):ビス(ジメチルシリル)ベンゼンと(b):ビニルノルボルネンとの付加反応物として、公知の手法(特開2005-133073号公報等)に従って調製することができる。
【0020】
(a)成分は、下記構造式(8)で表されるオルト、メタ、またはパラ置換のビス(ジメチルシリル)ベンゼンであり、単一構造のものを使用しても、2種類以上の異性体の混合物を使用してもよい。
【0021】
【化9】
【0022】
(b)成分は、下記構造式(9)で表される5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンであり、単一構造のものを使用しても、2種類以上の異性体の混合物を使用してもよい。
【0023】
【化10】
【0024】
本発明の(A)成分は、例えば、SiH基を1分子中に2個有する(a)成分1モルに対して、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する(b)成分の1モルを超え10モル以下、好ましくは1モルを超え5モル以下の過剰量を、ヒドロシリル化反応触媒の存在下で付加反応させることにより得ることができる。
【0025】
ヒドロシリル化反応触媒としては、公知のものを使用することができる。例えば、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒などが挙げられる。また、付加反応条件、溶媒の使用等については、特に限定されるものではなく、公知の条件で行えばよい。
【0026】
上述のとおり、(A)成分の調製に際し、(a)成分に対して過剰モル量の(b)成分を用いることから、(A)成分は、(b)成分の構造に由来する付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有するものである。
【0027】
また、後述する(B)成分等として付加反応性炭素-炭素二重結合を有するものを用いる場合、本発明の組成物中の付加反応性炭素-炭素二重結合全体に占める(A)成分由来の付加反応性炭素-炭素二重結合の割合は、好ましくは20~100モル%、より好ましくは40~100モル%である。
【0028】
上記(A)成分は、1種単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
[2](B)成分
本発明の太陽電池素子コーティング組成物における(B)成分は、末端ケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を少なくとも3個有する有機ケイ素化合物である。このような末端ヒドロシリル基は、ヒドロシリル化反応の反応性が高いため、速やかに3次元架橋の形成が進行し、高硬度の硬化物を与える。
また、(B)成分は、HRSiO2/2(式中、Rは有機基を表す。)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位(DH単位)を有しない有機ケイ素化合物であり、例えば、下記式(I)で表される化合物、下記式(II)で表される、フェニルトリビニルシランと1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンとの付加反応生成物、下記式(III)で表される化合物等が挙げられる。
【0030】
【化11】
【0031】
【化12】
(式(II)中、nは1~20、好ましくは1~10の整数であり、破線は結合手を表す。)
【0032】
【化13】
【0033】
(B)成分の動粘度は、特に制限されないが、0.1~100,000mm2/sが好ましく、0.1~3,000mm2/sがより好ましく、0.5~500mm2/sがより一層好ましい。
【0034】
(B)成分の配合量は、組成物中の(A)成分の付加反応性炭素-炭素二重結合1モルに対するケイ素原子に結合した水素原子の量が0.5~1.5モルとなる量が好ましく、0.8~1.2モルとなる量がより好ましい。
【0035】
上記(B)成分は、1種単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0036】
[3](C)成分
(C)成分のヒドロシリル化反応用白金族金属触媒は、遮光下で不活性であり、かつ波長200~500nmの光を照射することにより、活性な白金触媒に変化して(A)成分中の付加反応性炭素-炭素二重結合と、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子とのヒドロシリル化反応を促進するための触媒である。
【0037】
このような(C)成分の具体例としては、(η5-シクロペンタジエニル)三脂肪族白金化合物、その誘導体等が挙げられる。
これらのうち特に好適なものは、シクロペンタジエニルトリメチル白金錯体、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金錯体およびそれらのシクロペンタジエニル基が修飾された誘導体である。
また、ビス(β-ジケトナト)白金化合物も好適な(C)成分の例として挙げられ、このうち特に好適なものは、ビス(アセチルアセトナト)白金化合物およびそのアセチルアセトナト基が修飾された誘導体である。
【0038】
(C)成分の配合量は、本組成物の硬化(ヒドロシリル化反応)を促進する量であれば限定されず、本組成物の(A)成分と(B)成分の質量の合計に対して、本成分中の白金族金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲となる量であることが好ましく、より好ましくは0.05~100ppm、より一層好ましくは0.01~50ppmの範囲である。
【0039】
上記(C)成分は、1種単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
[4](D)成分
本発明の太陽電池素子コーティング組成物には、組成物を調合ないし基材に塗工する際、加熱硬化前に増粘やゲル化を起こさないようにするために、必要に応じて(D)成分の反応制御剤を添加してもよい。
その具体例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
これらの中でも、好ましくは1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシランである。
【0041】
(D)成分の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100質量部に対し、好ましくは0.01~2.0質量部、より好ましくは0.01~0.1質量部である。このような範囲であれば反応制御の効果が十分発揮される。
【0042】
また、本発明の太陽電池素子コーティング組成物は、HRSiO2/2(式中、Rは有機基を表す。)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位(DH単位)を実質的に有しないものである。このような側鎖ヒドロシリル基は、上記(B)成分中の末端ヒドロシリル基と比較して反応性が劣るため、付加反応の進行の妨げとなる場合がある。
【0043】
[5]その他の成分
本発明の太陽電池素子コーティング組成物は、上記(A)~(C)成分および必要により用いられる(D)成分以外にも、本発明の目的を損なわない限り、以下に例示するその他の成分を含有していてもよい。
例えば、1分子中に1個以上のアルケニル基、(メタ)アクリル基、カルボニル基、エポキシ基、アルコキシシリル基、アミド基からなる官能基群を有する接着性付与剤;ヒュームドシリカ等のチクソ性制御剤;結晶性シリカ等の補強剤;ヒンダードフェノールやヒンダードアミン等の酸化防止剤;光安定剤;金属酸化物、金属水酸化物等の耐熱向上剤;酸化チタン等の着色剤;アルミナ、結晶性シリカ等の熱伝導性付与充填剤;反応性官能基を有しない非反応性シリコーンオイル等の粘度調整剤;銀、金等の金属粉等の導電性付与剤;着色のための顔料、染料等が挙げられる。
【0044】
本発明の太陽電池素子コーティング組成物は、光透過性に優れ、薄膜の硬化物を得ることが容易であるため、有機薄膜太陽電池素子、ペロブスカイト型太陽電池素子等の透明保護材として好適である。本発明の太陽電池素子コーティング組成物を用いることで、例えば、厚さ50μmで、JIS K 7361-1:1997に準拠した方法で測定した全光線透過率が90%以上となる硬化物を作製することができる。
【0045】
[6]太陽電池モジュール
図1には、本発明に係るペロブスカイト型太陽電池モジュールの一例が示されている。
ペロブスカイト型太陽電池10は、受光面光透過性基板または受光面光透過性フィルム1と、この裏面上に積層されたペロブスカイト型太陽電池セル2と、この背面側に、太陽電池セル2を覆う態様で形成された水蒸気バリア層3と、この背面側に、水蒸気バリア層3を覆う態様で形成された封止材4と、この封止材4の上で最背面部に積層された背面側基板または背面側フィルム5とを備えて構成されている。
【0046】
ここで、受光面光透過性基板または受光面光透過性フィルム1は、太陽光を入射させる側となる透明部材であり、透明性、耐候性、耐衝撃性をはじめとして屋外使用において長期の信頼性能を有する部材が必要である。この受光面光透過性基板1の具体例としては、透明ガラスが挙げられ、青板ガラスや白板強化ガラスが好ましい。また、受光面光透過性フィルム1としては、高い水蒸気バリア性を有する光透過性フィルムを用いることが好ましい。
【0047】
ペロブスカイト型太陽電池セル2としては、受光面光透過性基板または受光面光透過性フィルム1上に電子輸送層、ペロブスカイト型化合物で形成される発電層、正孔輸送層、背面電極を積層させた構造が一般的であるが、この構造に限らない。
【0048】
水蒸気バリア層3は、ペロブスカイト型太陽電池セル2の背面に塗布されることにより、隙間なく覆うように配置され、受光面光透過性基板または受光面光透過性フィルム1、ペロブスカイト型太陽電池セル2とよく密着することが望ましい。
【0049】
上記ペロブスカイト型太陽電池セル2の背面側に設置する封止材4は、フレキシブル性や透明性を有し、耐久性が得られるものが好ましい。
背面基板5としては、白板ガラス、青板ガラスなどを使用することができる。
背面フィルム5としては、フッ素樹脂フィルムとポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとを組み合わせた積層フィルム、金属薄膜とPETフィルムを組み合わせた積層フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等に薄い金属層を蒸着したフィルム等の、水蒸気透過を制御したフィルムが挙げられる。
背面基板または背面フィルム5が光透過性を有する場合、得られる太陽電池モジュールはシースルー型となり適用範囲を拡大することができる。
【0050】
[7]太陽電池モジュールの製造方法
本発明の太陽電池素子コーティング組成物を、太陽電池素子に直接接触させ、硬化させる硬化工程を経ることにより水蒸気バリア層を形成することができる。太陽電池素子コーティング組成物の接触方法としては特に限定されないが、例えば、ディスペンス法、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、スプレー法、スクリーン印刷法などが可能である。なお、水蒸気バリア層の膜厚は特に限定されないが、例えば、有機薄膜太陽電池およびペロブスカイト太陽電池に適用する場合は1~3,000μmが好ましく、10~1,000μmがより好ましい。
また、本発明の太陽電池素子コーティング組成物は、必要に応じて、太陽電池素子上に形成された1層以上の他の層、例えば、SiO、SiN、AlO等の無機層等を介して適用してもよい。太陽電池素子上に複数の層が積層される場合においては、層間に緩衝膜として本発明の太陽電池素子コーティング組成物の硬化物を使用することも可能である。さらに、本発明の太陽電池素子コーティング組成物を硬化して得られるフィルムを貼合せる等の方法を用いることができる。
【0051】
本発明の太陽電池素子コーティング組成物の硬化に際し、白金族金属触媒の活性化は、波長200~500nm、好ましくは200~370nmの光照射により行う。光照射には、UV-LEDランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプなどが使用できる。
組成物の硬化速度と変色防止の観点から、照射強度は30~2,000mW/cm2が好ましく、照射線量は3,000~100,000mJ/cm2が好ましい。照射時の温度は、太陽電池素子に悪影響を及ぼさない温度であれば特に限定されないが、10~60℃が好ましく、20~40℃がより好ましい。
【0052】
また、上記光照射の後、太陽電池素子に悪影響を及ぼさない範囲で加熱を行ってもよく、加熱温度は50℃~100℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。
加熱時間は1~60分間が好ましく、10~30分間がより好ましい。
【実施例0053】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記式中、Meはメチル基を、Phは、フェニル基を示す。
【0054】
[実施例1-1~1-3、比較例1-1~1-4]
下記(A)~(D)成分を、表1に示す配合量(質量部)にて混合し、太陽電池素子コーティング組成物を調製した。
【0055】
(A)成分
上記構造式(1)におけるmが1~5である重合体の混合物(付加反応性炭素-炭素二重結合の含有割合0.47モル/100g)
【0056】
(B)成分
(B-1)下記構造式(I)で表される化合物(23℃における動粘度:1.8mm2/s、ケイ素原子結合水素原子の含有量:0.0092モル/g)
【化14】
【0057】
(B-2)フェニルトリビニルシランと1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンとの付加生成物であり、下記構造式(a)~(d)で表される化合物の混合物[(a):(b):(c):(d)=55:25:10:15(モル比)、23℃における動粘度:30,000mm2/s、ケイ素原子結合水素原子の平均含有量:0.0035モル/g]
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
(n=4~10、破線は結合手を表す。)
【0058】
(B-3)下記構造式で表される化合物(23℃における動粘度:21.4mm2/s、ケイ素原子結合水素原子の含有量:0.0069モル/g)
【化19】
(式中、括弧が付された各シロキサン単位の配列はランダム、交互、またはブロックである)
【0059】
(B-4)下記構造式で表される化合物(23℃における動粘度:65mm2/s、ケイ素原子結合水素原子の含有量:0.0116モル/g)
【化20】
(式中、括弧が付された各シロキサン単位の配列はランダム、交互、またはブロックである)
【0060】
(C)成分
白金元素の含有量が0.5質量%である、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金錯体のトルエン溶液
【0061】
(D)成分
ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン
【0062】
【表1】
【0063】
[実施例2-1~2-3、比較例2-1~2-4]
実施例1-1~1-3および比較例1-1~1-4で得られた太陽電池素子コーティング組成物を用いて、下記手順で太陽電池モジュールを製造した。
【0064】
図2に示すように、受光面光透過性基板1であるガラス(サイズ50×50mm、厚み3.2mm)上に、透明導電膜を形成し、さらに上部に電子輸送層、ペロブスカイト層、その上に正孔輸送層を設け、上部に正極の電極を形成したペロブスカイト太陽電池セル2を得た。ペロブスカイト層は、受光面光透過性基板1の中央に位置するように(サイズ25×25mm)で形成した。次に受光面光透過性基板1の外周にダム材6として、フッ素樹脂粘着テープ(厚み0.25mm、幅3×3mm、中興化成工業(株))を設けた。その後、ペロブスカイト型太陽電池セル2の上に、本発明の太陽電池素子コーティング組成物を、厚みが0.1mmになるように塗布し、レベリングさせた後、25℃で外部からメタルハライドランプ(HANDY UV-100、(株)オーク製作所(OCR)製)を用いて、上部から紫外線強度10mW/cm2で積算照射量30,000mJ/cm2となるように紫外線照射した。その後、80℃で30分加熱し、太陽電池素子コーティング組成物を硬化させ、水蒸気バリア層3を得た。その後、背面基板5であるガラス(サイズ50×50mm、厚み3.2mm)を、ダム材6の上部に載せ、背面部をポリイミドテープ7で背面基板5が外れないように固定し、ペロブスカイト型太陽電池11を得た。
【0065】
得られたペロブスカイト型太陽電池において、疑似太陽光照射装置を用いて光透過性基板1の方向から光照射し、初期の出力(W0)を測定した。その後、60℃,90%RHの環境に500時間暴露し、再度同様の手法にて出力(W1)を測定し、出力維持率(%)を算出した。
出力維持率(%)=W1/W0×100
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示されるとおり、実施例1-1~1-3の太陽電池素子コーティング組成物からなる水蒸気バリア層を有するペロブスカイト型太陽電池モジュールは、60℃,90%RHの環境に500時間暴露した場合においても良好な出力維持率を示すことがわかる。
一方、比較例1-1~1-4の組成物を用いたペロブスカイト型太陽電池モジュールは、60℃,90%RHの環境に500時間暴露後、著しい出力低下が見られることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1 受光面光透過性基板/受光面光透過性フィルム
2 ペロブスカイト型太陽電池セル
3 水蒸気バリア層
4 封止材
5 背面基板/背面側フィルム
6 ダム材
7 ポリイミドテープ
10 ペロブスカイト型太陽電池
11 ペロブスカイト型太陽電池
図1
図2