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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095304
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】X線計測装置の校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/04 20060101AFI20230629BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20230629BHJP
【FI】
G01B15/04 H
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211114
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮倉 常太
(72)【発明者】
【氏名】今 正人
【テーマコード(参考)】
2F067
2G001
【Fターム(参考)】
2F067AA53
2F067EE10
2F067EE19
2F067FF14
2F067GG01
2F067HH04
2F067JJ03
2F067NN04
2F067PP13
2F067RR24
2F067RR35
2F067RR41
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA09
2G001FA02
2G001FA08
2G001HA14
2G001JA08
2G001PA05
2G001PA12
(57)【要約】
【課題】X線計測装置の校正治具の事前の高精度三次元測定を不要とする。
【解決手段】複数の基準物体(球106)を有し、M水準(M≧4)以上移動して配置可能な校正治具102を回転テーブル120に載置する載置工程と、X線118を校正治具102に照射しX線画像検出器124の出力から、M水準にある基準物体それぞれの投影像の特徴点の位置(球重心座標Im’(i,j))を特定する特徴位置算出工程と、M水準にある基準物体それぞれの投影像の特徴点の位置と相対位置間隔O(i)から、カメラパラメータAを含む変換行列H(i)を算出する変換行列算出工程と、投影像の特徴点の位置と相対位置間隔の差Eが小さくなるようにカメラパラメータAを最適化するパラメータ最適化工程と、最適化したカメラパラメータAを用いて算出した特徴点の相対位置を用いて回転テーブル120の回転中心位置Cpを算出する中心位置算出工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を用いて被測定物を三次元形状計測するX線計測装置の校正方法であって、
前記X線計測装置は、前記X線を発生させるX線源と、前記被測定物を回転可能に載置する回転テーブルと、該被測定物を透過した該X線を検出するX線画像検出器と、を備え、
該X線画像検出器への投影像によって特定可能な形状の複数の基準物体を有し、M水準(M≧4)以上移動して配置可能な校正治具を、前記回転テーブルに載置する載置工程と、
前記X線を該校正治具に照射し該X線画像検出器の出力から、M水準にある該基準物体それぞれの投影像の特徴点の位置を特定する特徴位置算出工程と、
M水準にある該基準物体それぞれの投影像の特徴点の位置と相対位置間隔から、該基準物体の前記X線画像検出器の検出面への射影変換を行うための、カメラパラメータを含む変換行列を算出する変換行列算出工程と、
前記投影像の特徴点の位置と前記相対位置間隔の差が小さくなるように前記カメラパラメータを最適化するパラメータ最適化工程と、
前記最適化したカメラパラメータを用いて算出した特徴点の相対位置を用いて前記回転テーブルの回転中心位置を算出する中心位置算出工程と、
を含むことを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記パラメータ最適化工程が、
まず、前記カメラパラメータに適当な初期値を設定して各基準物体の相対位置O(i)を求める第1の工程と、
前記各基準物体の位置座標X(j)と特徴点座標Im(i,j)の対応から、次式
Im’(i,j)≒ P × {X(j)+O(i)}
を満たす射影行列Pを求める第2の工程と、
求めた射影行列Pを用いて計算した特徴点座標Im’(i,j)を求め、実際の特徴点座標Im(i,j)との差が小さくなるように前記カメラパラメータを最適化する第3の工程と、
を含むことを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記第3の工程に続く第4の工程で、
前記第3の工程で最適化した前記カメラパラメータを用いて前記第2の工程の射影行列Pを再度計算し、再び前記第3の工程の最適化を行う処理を前記特徴点座標の差が小さくなるまで繰り返すことを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記第3の工程で前記カメラパラメータが収束した後に前記第2の工程の射影行列Pを再度計算して最適化を繰り返すことを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項5】
請求項2において、
前記第3の工程で前記第2の工程の射影行列Pをカメラパラメータと回転行列と並進行列に分解して、最適化処理の中で射影行列Pも併せて最適化することを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記校正治具において前記基準物体の全てが1つの平面上にのみ載置されている場合には、前記変換行列は射影変換行列とされ、該基準物体が三次元的に載置されている場合には、N=6とされ且つ該変換行列は射影行列とされることを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記中心位置算出工程で、更に、前記回転テーブルの回転軸を算出することを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記基準物体は、球とされていることを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記基準物体の投影像の特徴点の位置は、該投影像の重心位置とされていることを特徴とするX線計測装置の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線計測装置の校正方法に係り、特に、X線計測装置の校正治具の事前の高精度三次元測定が不要なX線計測装置の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線計測装置(計測用X線CT装置)は、X線を用いて被測定物を三次元形状計測することができ、外観からでは確認困難な鋳物部品の鬆、溶接部品の溶接不良、および電子回路部品の回路パターンの欠陥など、主に観察・検査に用いられてきた。しかし、近年、3Dプリンタの普及も手伝い、加工品内部の3D寸法計測とその高精度化の需要が増大しつつある。このような需要に対して、X線計測装置にさらなる寸法計測の高精度化が望まれている。
【0003】
このX線計測装置の再構成には、回転テーブル位置や線源-X線検出器間距離などの情報が必要である。従って、X線計測装置における寸法計測をより高精度に実施するためには、特許文献1に記載されているように、測定開始前に装置固有の各種校正を行うことが重要となっている。
【0004】
そのための校正処理では、校正治具要素の三次元位置が既知であることを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-298105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、校正治具の経年変化による変形には対応できず、また、幾何要素測定が容易な配置である必要があるという制約があった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、X線計測装置の校正治具の事前の高精度三次元測定が不要なX線計測装置の校正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の請求項1に係る発明は、X線を用いて被測定物を三次元形状計測するX線計測装置の校正方法であって、前記X線計測装置は、前記X線を発生させるX線源と、前記被測定物を回転可能に載置する回転テーブルと、該被測定物を透過した該X線を検出するX線画像検出器と、を備え、該X線画像検出器への投影像によって特定可能な形状の複数の基準物体を有し、M水準(M≧4)以上移動して配置可能な校正治具を、前記回転テーブルに載置する載置工程と、前記X線を該校正治具に照射し該X線画像検出器の出力から、M水準にある該基準物体それぞれの投影像の特徴点の位置を特定する特徴位置算出工程と、M水準にある該基準物体それぞれの投影像の特徴点の位置と相対位置間隔から、該基準物体の前記X線画像検出器の検出面への射影変換を行うための、カメラパラメータを含む変換行列を算出する変換行列算出工程と、前記投影像の特徴点の位置と前記相対位置間隔の差が小さくなるように前記カメラパラメータを最適化するパラメータ最適化工程と、前記最適化したカメラパラメータを用いて算出した特徴点の相対位置を用いて前記回転テーブルの回転中心位置を算出する中心位置算出工程と、を含むことにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
本願の請求項2に係る発明は、前記パラメータ最適化工程が、まず、前記カメラパラメータに適当な初期値を設定して各基準物体の相対位置O(i)を求める第1の工程と、前記各基準物体の位置座標X(j)と特徴点座標Im(i,j)の対応から、次式
Im’(i,j)≒ P × {X(j)+O(i)} ・・・(1)
を満たす射影行列Pを求める第2の工程と、求めた射影行列Pを用いて計算した特徴点座標Im’(i,j)を求め、実際の特徴点座標Im(i,j)との差が小さくなるように前記カメラパラメータを最適化する第3の工程と、を含むようにしたものである。
【0010】
本願の請求項3に係る発明は、前記第3の工程に続く第4の工程で、前記第3の工程で最適化した前記カメラパラメータを用いて前記第2の工程の射影行列Pを再度計算し、再び前記第3の工程の最適化を行う処理を前記特徴点座標の差が小さくなるまで繰り返すようにしたものである。
【0011】
本願の請求項4に係る発明は、前記第3の工程で前記カメラパラメータが収束した後に前記第2の工程の射影行列Pを再度計算して最適化を繰り返すようにしたものである。
【0012】
本願の請求項5に係る発明は、前記第3の工程で前記第2の工程の射影行列Pをカメラパラメータと回転行列と並進行列に分解して、最適化処理の中で射影行列Pも併せて最適化するようにしたものである。
【0013】
本願の請求項6に係る発明は、前記校正治具において前記基準物体の全てが1つの平面上にのみ載置されている場合には、前記変換行列を射影変換行列とし、該基準物体が三次元的に載置されている場合には、N=6とし且つ該変換行列を射影行列とするようにしたものである。
【0014】
本願の請求項7に係る発明は、前記中心位置算出工程で、更に、前記回転テーブルの回転軸を算出するようにしたものである。
【0015】
本願の請求項8に係る発明は、前記基準物体を、球とするようにしたものである。
【0016】
本願の請求項9に係る発明は、前記基準物体の投影像の特徴点の位置を、該投影像の重心位置とするようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、X線計測装置の校正治具の事前の高精度三次元測定が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るX線計測装置の基本的な構成を示す概略側面図
図2図1のX線計測装置を主要部のみを示す概略上面図
図3図1の校正治具を示す図(正面図(A)、上面図(B))
図4】本発明の実施形態に係るX線計測装置の校正手順を示すフロー図
図5図4におけるカメラパラメータの最適化処理の一例の詳細フロー図
図6図4におけるカメラパラメータの最適化処理の他の例の詳細フロー図
図7図4における校正済みの校正治具を用いたX線計測装置の校正手順の一例を示すフロー図
図8図7における球の絶対位置を算出する処理の詳細フロー図
図9図8におけるX線源の絶対位置の算出をした後に、X線源とX線画像検出器との距離と、X線源からのX線画像検出器への垂線の足の位置とを算出するフロー図
図10】球の絶対位置とX線源の絶対位置との関係の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0020】
図1に本発明の実施形態を示す。なお、図1では、紙面に対して左右方向をz軸方向、紙面に対して上下方向をy軸方向とし、紙面に対して垂直な方向をx軸方向として説明する。
【0021】
X線計測装置100は、X線を用いて被測定物を三次元形状計測する装置であり、図1に示す如く、本体部108、ホストコンピュータ128およびモーションコントローラ130を備えている。
【0022】
なお、図1図2では校正治具102が被測定物の代わりに回転テーブル120上に載置されている。校正治具102は、図3(A)、(B)に示す如く、X線118の透過可能な材質(例えばアルミニウム等)でできており、板状部材104上に直径Dの球(基準物体)106を既知の相対位置間隔Pu、Pvで複数(例えば4個×3個でN=12個)備えている(即ち、球106は既知の相対位置間隔Pu、Pvで12箇所に配置されている)。つまり、校正治具102において球106の全てが1つの平面上にのみ載置されている。同時に、12個の球106、言い換えれば、12箇所にある球106の相対位置X(1~12)は既知であるともいえる(X(1~12)とX1~X12とは同じことをいう、以下同様の表記をする)。なお、球106は、形状がシンプルであり、X線画像検出器124への投影像によって容易に特定可能な形状である。なお、図3(A)では、紙面に対して左右方向をu軸方向、紙面に対して上下方向をv軸方向とし、紙面に対して垂直な方向をw軸方向として説明する。
【0023】
前記本体部108は、図1に示す如く、ベース112上に、X線118の漏れを防ぐX線遮蔽カバー110と、X線118を発生させるX線源116と、被測定物(図示せず)を回転可能に載置する回転テーブル120と、被測定物を透過したX線118を検出するX線画像検出器124と、を備えている。X線源116は、ベース112上の線源支持台114に設けられている。線源支持台114は、X線源116をxyzの3軸方向へ移動可能とする直動機構を備えることができる。回転テーブル120は、ベース112上のテーブル支持台122に設けられている。なお、テーブル支持台122は、被測定物をxyzの3軸方向へ移動可能とする直動機構を備える。更には、テーブル支持台122に、回転テーブル120の回転軸Axを傾斜調整可能とする傾斜機構が設けられていてもよい。X線画像検出器124は、X線118に感度がある二次元の検出面124Aを有する。X線画像検出器124は、ベース112上の検出器支持台126に支持されている。検出器支持台126も、X線画像検出器124をxyzの3軸方向へ移動可能とする直動機構を備えてもよい。X線源116からのX線118の放射ビームは、z軸方向に円錐状に広がり、その中心線が回転テーブル120の回転軸Axと交差し、X線画像検出器124の検出面124Aの垂線となるように調整される。
【0024】
図1に示す前記ホストコンピュータ128は、本体部108の線源支持台114、X線源116、回転テーブル120、テーブル支持台122、X線画像検出器124及び検出器支持台126を制御する。また、ホストコンピュータ128は、図示せぬ記憶部に格納されたプログラムを読み出して実行することで、X線計測装置100の計測動作および校正を自動あるいは半自動で行うこともできる。つまり、ホストコンピュータ128は、X線計測装置100の計測動作において、例えば、X線画像検出器124で得られた投影像のデータを再構成して、被測定物の三次元ボリュームデータを作成する。
【0025】
図1に示す前記モーションコントローラ130は、ホストコンピュータ128に接続され、本体部108のX線源116や回転テーブル120の回転・移動、及び各種機構を制御する。
【0026】
測定に当たっては、X線118を発生させた状態で回転テーブル120上の被測定物を回転させ、複数の角度方向(例えば角度分割数1000~6000程度)から投影像を収集する。収集された投影像は、被測定物を水平に横断するスライス面を基準面として再構成処理がなされ、被測定物の三次元ボリュームデータ(三次元像)を作るようになされている。
【0027】
以下、本発明に係る校正方法を説明する。
【0028】
前記ホストコンピュータ128は、X線計測装置100の校正において、図3に例示したような、複数(図では3×4=12個)の球106を配置した校正治具102を三次元座標測定機の平面上で4水準以上移動して投影像を取得することでX線計測装置100を校正する。
【0029】
具体的な実施手順を図4に示す。
【0030】
まず、ステップS2で、校正治具102を三次元座標測定機の平面上で4水準以上移動して投影像の各球の重心(特徴点の一例)を求める。ここで、各球106の番号、校正治具102の位置座標、球重心座標は下記のとおりとする。
球番号 i … 1~N
校正治具位置の番号 j … 1~M(M≧4)
校正治具位置座標 X(j)
球重心座標 Im(i,j)
【0031】
次いで、ステップS4で、各球iの射影変換行列(ホモグラフィ行列とも称する)H(i)を求める。具体的には、ある球iについて、校正治具位置座標X(j)と球重心座標Im(i,j)の対応から、次式(2)を満たす、例えば3列×3行のホモグラフィ行列H(i)を求めることができる。
H(i)× X(j)≒ Im(i,j) ・・・(2)
【0032】
ここで、ホモグラフィ行列H(i)は、次式(3)で表されるカメラパラメータ(内部パラメータとも称する)A、回転を表すベクトルr1(i)、r2(i)、並進を表すベクトルt(i)を用いて次式(4)のように表せる。
【数1】
H(i)= A ×[r1(i) r2(i) t(i)] ・・・(4)
【0033】
式(3)において、fは、X線源116とX線画像検出器124との距離、cx、cyは、X線源116からのX線画像検出器124への垂線の足の位置である。なお、内部パラメータ行列Aの1行1列目の距離fと2行2列目の距離fとは、X線画像検出器124の画素の縦横比が異なる場合には若干値が異なることとなる。また、内部パラメータ行列Aの1行2列目には画像の歪みに関わるスキューSが用いられることもあるが、本実施形態では、スキューSを0としている。
【0034】
次いで、ステップS6に進み、カメラパラメータAを最適化パラメータとし、計算により得られる各球iの画像重心Im’(i,j)と実際の画像重心Im(i,j)の差Eが小さくなるように最適化を行う。
【0035】
ステップS6における最適化処理の具体例を図5に示す。
【0036】
まず、ステップS60で、カメラパラメータAに適当な初期値を設定して、相対位置O(i)を求める。
【0037】
求める各球iの相対位置O(i)は、回転を表すベクトルr1(i)、r2(i)と、そこから導出できるr3(i)、並進を表すベクトルt(i)を用いて次式(5)、(6)のように表せる。
R(i)=[r1(i) r2(i) r3(i)] ・・・(5)
O(i)= -R(i)^-1 × t(i) ・・・(6)
【0038】
次いで、ステップS62で、球位置座標(=X(j)+O(i))と球重心座標Im(i,j)の対応から、前出式(1)と同じ次式(7)を満たす射影行列Pを求める。
Im’(i,j)≒ P × {X(j)+O(i)} ・・・(7)
【0039】
次いで、ステップS64に進み、ステップS62で求めた射影行列Pを用いて計算した重心座標Im’(i,j)を求め、実際の重心座標Im(i,j)との差Eが小さくなるようにカメラパラメータAを最適化する。
E=|Im(i,j)- P × {X(j)+O(i)}| → min
・・・(8)
【0040】
次いで、ステップS66に進み、最適化した相対位置O(i)を用いてステップS62の射影行列Pを再計算し、再びステップS64の最適化を行う。
【0041】
そして、ステップS68に進み、ステップS64、S66の処理をステップS64の残差Eが所定値より小さくなるまで繰り返す。
【0042】
なお、前記最適化処理に際して、図6に示す他の例のように、ステップS66’で、ステップS62で求めた射影行列PをA ×[R t]に分解して、最適化処理の中で射影行列Pも併せて最適化してもよい。
【0043】
図5の最適化処理終了後、図4のステップS8に戻り、X線計測装置100を校正する。
【0044】
具体的には、本発明で求めた球106の相対位置を用いて、例えば以下に示す方法により、テーブルの回転軸や回転中心位置を求める。
【0045】
図4のステップS8におけるX線計測装置100の校正手順の具体例を図7から図10を用いて説明する。ここでは、ホストコンピュータ128で全ての演算がなされている。なお、例えばk=1のときにk番目の回転位置Poskが回転位置Pos1を示す。また、k番目の回転位置PoskにおいてN=12で球106の数Nのとき、重心位置ImPosk_Sphr_(1~N)が12個の球106の重心位置ImPos1_Sphr_1~ImPos1_Sphr_12それぞれを示すものとする。
【0046】
最初に、球106を既知の相対位置間隔Pu、Pvで複数備えた校正治具102を、回転テーブル120に載置する(図7のステップS102;載置工程)。そして、回転テーブル120のまだ回転していない状態をk=1とする(図7のステップS104)。
【0047】
次に、X線118を校正治具102に照射する(図7のステップS106)、そして、X線画像検出器124の出力から、N個(N=12)の球106それぞれの投影像の重心位置(特徴点の位置)ImPosk_Sphr_(1~12)を特定する(図7のステップS108;なお、ステップS106~ステップS108が特徴位置算出工程)。
【0048】
次に、12個の球106それぞれの投影像の重心位置ImPosk_Sphr_(1~12)と球106の相対位置X(1~12)から、球106のX線画像検出器124の検出面124Aへの射影変換を行う射影変換行列Hkを算出する(図7のステップS110;変換行列算出工程)。
【0049】
次に、回転位置Poskの数kがQ以上(本実施形態では3回以上であればよい)であるかを判断する(図7のステップS112)。回転位置Poskの数kがQ(Q≧3)以上でなければ(図7のステップS112でNo)、回転テーブル120を所定角度αで回転させる(図7のステップS114)。そして、回転位置Poskの数kを1つ増加させ(図7のステップS116)、ステップS106からステップS112までを繰り返す(ステップS106~ステップS116;回転検出工程)。回転位置Poskの数kがQ(Q≧3)以上となった際には(図7のステップS112でYes)、ステップS118に進む。つまり、回転検出工程では、回転テーブル120を所定角度αで2回以上回転させ、特徴位置算出工程と変換行列算出工程とを繰り返す。なお、本実施形態では、所定角度αは、例えば一定の30度としているが、特に限定されず、より小さな角度でもよいし、所定角度αが毎回変化してもよい。
【0050】
次に、射影変換行列Hk(k=1~Q)に基づいて回転テーブル120の回転中心位置Cp及び回転軸Axを算出する(中心位置算出工程)。この中心位置算出工程の詳細を詳細に説明する。
【0051】
まず、図8に示す如く、回転テーブル120の代わりにX線源116とX線画像検出器124とが回転したと想定する(図8のステップS130)。ちなみに、図10(A)には、回転テーブル120が回転した際の、所定角度αと球106の軌跡Fbとが示されている。そして、図10(B)には、X線源116とX線画像検出器124とが回転したと想定した際のX線源116の絶対位置Xsの軌跡Fsが記載されている。
【0052】
次に、射影変換行列Hk(k=1~Q)に基づいて所定角度αの回転毎、即ちQ箇所のX線源116の絶対位置Xsを算出する(図8のステップS132)。
【0053】
なお、上記中心位置算出工程で、Q箇所のX線源116の絶対位置Xsが算出される際に、X線源116とX線画像検出器124との距離fと、X線源116からのX線画像検出器124への垂線の足の位置Ccとが不明である場合を、図9を用いて、以下に説明する。
【0054】
まず、k番目の想定回転位置におけるX線源116の絶対位置Xsを算出する際に、X線源116とX線画像検出器124との距離fと、X線源116からのX線画像検出器124への垂線の足の位置Cc(cx,cy)とを変数とする(図9のステップS140)。そして、射影変換行列Hkに基づいて算出されるk番目の想定回転位置におけるX線源116の絶対位置Xsを真円にフィッティングした仮真円の軌跡Fs上の位置とX線源116の絶対位置Xsとの距離誤差を評価する(図9のステップS142)。そして、この距離誤差が最小の誤差となる距離f及び位置Ccとを算出する(図9のステップS144)。
【0055】
具体的には、例えば、距離fを適当な値で仮決めし、位置Ccを変化させ、その際に最小の距離誤差となる位置Ccを算出する。次に、その最小の距離誤差となる位置Ccで仮決めし、今度は距離fを変化させ、その際に最小の距離誤差となる距離fを算出する。また、その最小の距離誤差となる距離fに仮決めし、位置Ccを変化させ、その際に最小の距離誤差となる位置Ccを算出する。また、その最小の距離誤差となる位置Ccで仮決めし、再度距離fを変化させ、その際に最小の距離誤差となる距離fを算出する。これを何度か繰り返すことで、最小の距離誤差となる距離f及び位置Ccとを算出することができ、距離f及び位置Ccの最適化を図ることができる。
【0056】
次に、図7に戻り、X線源116の絶対位置Xa(1~N)の変化から、真円(=仮真円)でフィッティングされた軌跡Fsの中心位置Cpを算出し、その中心位置Cpを回転テーブル120の回転中心位置Cpとする。より詳しく説明するならば、Q箇所のX線源116の絶対位置Xsを真円にフィッティングさせる(図7のステップS120)。このとき、Q>3以上であれば、例えば、最小二乗法にて、真円の中心位置Cpを算出する。Q=3であれば、例えば、連立方程式にて、真円の中心位置Cpを算出する。
【0057】
そして、例えば、真円でフィッティングされた軌跡Fsの水平面(xz平面)からの傾斜角度を算出する。そして、回転テーブル120の回転中心位置Cp及び回転軸Axを算出する(図7のステップS122)。この時点で、ホストコンピュータ128により、N=12個の球106それぞれで、真円の中心位置Cpとその軌跡Fbを算出することもできる。このため、12個の球106の真円の中心位置Cpを平均化して、回転中心位置Cpを算出するとともに、それらの軌跡Fbの水平面からの傾斜を平均化することで、回転軸Axの傾斜角度を算出でき、回転軸Axを算出することもできる。
【0058】
このように、本実施形態では、X線画像検出器124への投影像によって特定可能な形状の球106を既知の相対位置間隔Pu、Pvで12個備えた校正治具102を回転テーブル120に載置して、回転テーブル120を3箇所の回転角度に合わせて、校正治具102の投影像を取るだけの極めて簡単な一連の工程で、回転テーブル120の回転中心位置Cpを算出することができる。つまり、本実施形態では、回転中心位置Cpを算出するのに、三次元ボリュームデータを作成する必要がない。
【0059】
また、本実施形態では、校正治具102において球106の全てが1つの平面上にのみ載置されているので、k番目の回転位置Poskにおける球106のX線画像検出器124の検出面124Aへの射影変換を行う変換行列が射影変換行列Hkとされていた。このため、12個の球106のうち4個の球106だけを各工程における算出対象として、回転テーブル120の回転中心位置Cpを算出することもでき、更なる校正時間の短縮が可能である。なお、本実施形態では、4個の球106だけでなく、12個全ての球106を各工程における演算対象としたことで、回転テーブル120の回転中心位置Cpを極めて正確に算出することができる。
【0060】
また、本実施形態では、中心位置算出工程で、更に、回転テーブル120の回転軸Axを算出する。このため、仮に回転テーブル120の回転軸Axに対して当初校正不要と想定していても、実際に回転テーブル120の回転軸Axを算出した結果と比較して、校正の必要性を正当に評価することができる。
【0061】
また、本実施形態では、中心位置算出工程で、回転テーブル120の代わりにX線源116とX線画像検出器124とが回転したと想定し、射影変換行列Hkから所定角度αの回転毎のX線源116の絶対位置Xsを算出することで、回転テーブル120の回転中心位置Cpを算出する。即ち、球106の絶対位置Xaを算出するのではなく、X線源116の絶対位置Xsを算出している。このため、射影変換行列Hkを直接的に使用することにより、結果的に、演算量を低減し、迅速に校正を実現することができる。なお、これに限定されず、球106の絶対位置Xaを算出することで、回転テーブル120の回転中心位置Cpを算出するようにしてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、回転テーブル120を所定角度αで4回以上回転させ、Q箇所のX線源116の絶対位置Xsを算出する際に、X線源116とX線画像検出器124との距離fと、X線源116からのX線画像検出器124への垂線の足の位置Cc(cx,cy)とを変数とする。そして、射影変換行列Hk(k=1~Q)に基づいて算出されるQ箇所のX線源116の絶対位置Xsを真円にフィッティングした仮真円の軌跡Fs上の位置とQ箇所のX線源116の絶対位置Xsとの距離誤差を評価する。これにより、X線源116とX線画像検出器124との距離fと、X線源116からのX線画像検出器124への垂線の足の位置Cc(cx,cy)とを算出する。このため、X線源116とX線画像検出器124との距離fと、X線源116からのX線画像検出器124への垂線の足の位置Cc(cx,cy)とを校正しようとした際には、これらの値を算出することができ、より正確な校正を行うことができる。
【0063】
また、本実施形態では、中心位置算出工程で、X線源116の絶対位置Xsの変化から、真円(=仮真円)でフィッティングされた軌跡Fsの中心位置Cpを算出し、この中心位置Cpを回転テーブル120の回転中心位置Cpとする。つまり、真円でフィッティングすることで、回転位置の総数Qを低減でき、且つ中心位置Cpを一義的に算出することができる。なお、これに限定されず、他の手法にて、回転テーブル120の回転中心位置Cpを算出するようにしてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、更に、回転テーブル120の回転軸Axを算出する際には、真円でフィッティングされた軌跡Fsの水平面からの傾斜角度を算出し、その傾斜角度と回転中心位置Cpとから回転軸Axを算出する。このため、回転軸Axを算出するのに、球106は1個あればよいので、回転軸Axを算出する工程を簡略化でき且つ短時間で行うことができる。なお、これに限定されず、例えば、各球106において真円でフィッティングされた軌跡Fsを算出して、その中心位置のずれから、回転軸Axを算出するようにしてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、校正治具102上の基準物体は、球106とされている。このため、球106は、いずれの方向から投影されても輪郭が円となる。即ち、球106は、基準物体として、X線画像検出器124への投影像によって最も容易に特定可能な形状である。なお、これに限定されず、基準物体が、例えば、正多面体や変形した菱形状体を含む多面体であってもよいし、楕円体や円錐体などの曲面を含む形状とされていてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、基準物体である球106の投影像の特徴点の位置が、投影像の重心位置とされている。球106の投影像は円であることから、重心位置を算出することが容易であり、少ない位置誤差で算出することができる。なお、これに限らず、基準物体である球106の投影像の特徴点の位置が中心位置であってもよい。あるいは、基準物体が球ではなく、局所的に特徴的な凹部や凸部を備える場合には、その特徴的な凹部や凸部を投影像の特徴点に関連付けるようにしてもよい。
【0067】
即ち、本実施形態では、被測定物を回転可能に載置する回転テーブル120の回転中心位置Cpを単純な工程で容易に算出することが可能である。
【0068】
なお、上記実施形態では、校正治具102において球106の全てが1つの平面上にのみ載置されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、校正治具102において球106の全てが1つの平面上に載置された状態とならず、三次元的に載置されていてもよい。その際には、球106が少なくとも6個以上とされ、次式(9)で示す射影変換行列Hkの代わりに次式(10)で示す射影行列Pkが用いられる。
Hk=A[rk1 rk2 Tk] ・・・(9)
Pk=A[rk1 rk2 rk3 Tk] ・・・(10)
【0069】
ホストコンピュータ128は、式(9)の代わりに、以下の射影行列Pkに係る式(10)を用いて、k番目の想定回転位置の3行×4列の射影行列Pkから、X線源116の絶対位置Xsを算出することができる。
【0070】
この場合には、射影行列Pkを用いることで、仮に校正治具102の平面精度がよくなくても、正確な校正を行うことができる。
【0071】
なお、上記実施形態では、球106が少なくとも4個(あるいは6個)とされていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、2個の球106が少なくとも4箇所(あるいは6箇所)に移動して配置されるような校正治具102の構成であってもよい。
【0072】
また、基準物体は球に限定されず、特徴点の位置も重心位置に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、X線計測装置の校正に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
100…X線計測装置
102…校正治具
104…板状部材
106…球
108…本体部
110…X線遮蔽カバー
112…ベース
114…線源支持台
116…X線源
118…X線
120…回転テーブル
122…テーブル支持台
124…X線画像検出器
124A…検出面
126…検出器支持台
128…ホストコンピュータ
130…モーションコントローラ
i…球番号
j…校正治具位置の番号
X(j)…校正治具位置座標
Im(i,j)、Im’(i,j)…球重心座標
H(i)、Hk…射影変換行列(ホモグラフィ行列)
A…カメラ(内部)パラメータ
O(i)…各球の相対位置
r1(i)、r2(i)、r3(i)…回転を表すベクトル
t(i)…並進を表すベクトル
P、Pk…射影行列
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10