IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

特開2023-95306リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池
<>
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図1
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図2
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図3
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図4
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図5
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図6
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図7
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図8
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図9
  • 特開-リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095306
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/00 20060101AFI20230629BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230629BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230629BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230629BHJP
   C01B 25/02 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C01B25/00 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/587
H01M4/38 Z
C01B25/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211116
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】安部 武志
(72)【発明者】
【氏名】ナサラ ラルフ ニコライ ビヴアレス
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
(72)【発明者】
【氏名】チェリク クチュク アスマン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050GA03
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】リンと炭素とを含む新規なリン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、リン-炭素複合材料を含む負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池の提供。
【解決手段】リン原子と、炭素原子とを含むリン-炭素複合材料であって、リン-炭素複合材料におけるリン原子の含有率が、10~95質量%であり、リン-炭素複合材料における炭素原子の含有率が、5~90質量%であり、下記条件の熱重量測定で求められる620℃の重量減少率WL620と、780℃の重量減少率WL780との比WL620/WL780が、0.1~0.9であるリン-炭素複合材料。(熱重量測定)10mgのリン-炭素複合材料を、熱重量測定装置を用いN下で50℃から780℃まで10℃/分で加熱したときの重量変化を測定する。(重量減少率)精秤した試料の重量に対する、測定温度の試料の重量の割合を、測定温度の重量減少率(重量%)とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン原子と、炭素原子とを含むリン-炭素複合材料であって、
前記リン-炭素複合材料におけるリン原子の含有率が、10質量%以上95質量%以下であり、
前記リン-炭素複合材料における炭素原子の含有率が、5質量%以上90質量%以下であり、
下記条件の熱重量測定で求められる測定温度620℃における重量減少率WL620と、測定温度780℃における重量減少率WL780との比WL620/WL780が、0.1以上0.9以下であるリン-炭素複合材料。
(熱重量測定)
10mgのリン-炭素複合材料を精秤して試料とし、熱重量測定装置を用い、窒素気流下で50℃から780℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量変化を測定する。
(重量減少率)
精秤した試料の重量に対する、測定温度における試料の重量の割合を、測定温度における重量減少率(重量%)とする。
【請求項2】
上記熱重量測定で求められる測定温度300℃における重量減少率WL300と、測定温度600℃における重量減少率WL600との比WL300/WL600が、-0.1以上0.1以下である請求項1に記載のリン-炭素複合材料。
【請求項3】
XPSスペクトルにおいて、リン原子と炭素原子との結合を示すピークを有する請求項1又は2に記載のリン-炭素複合材料。
【請求項4】
CuKα線を用いて測定したXRDプロファイルにおいて、2θ=20°の強度I20、2θ=26.3°の強度I26.3、及び2θ=40°の強度I40が、以下の式(1)~(3)を満たす請求項1から3のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料。
|P|/|B|<2 …(1)
P=I26.3-I40 …(2)
B=(I20-I40)×(26.3-40)/(20-40) …(3)
【請求項5】
リン原子を含むコア粒子と、
前記コア粒子の表面を覆う炭素皮膜と、を有する請求項1から4のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料。
【請求項6】
炭素材料と、リンとを圧縮を伴う混合粉砕処理により複合化する工程を有するリン-炭素複合材料の製造方法。
【請求項7】
炭素材料と、リンとをボールミル混合する工程を有するリン-炭素複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記炭素材料が、アモルファスカーボン、黒鉛、多孔性カーボン、メソカーボンマイクロビーズ、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェンオキサイド、カーボンナイトライト(C)及び積層カーボンナノファイバーからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項6又は7に記載のリン-炭素複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記リンが黒リンである請求項6から8のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料を含む負極活物質。
【請求項11】
請求項10に記載の負極活物質を含むリチウム二次電池用負極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン-炭素複合材料、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、携帯電話やノートパソコンなどの小型電子機器の電源として用いられている。近年では、リチウム二次電池は、自動車用途や電力貯蔵用途などの中型又は大型電源においても、実用化が進められている。
【0003】
リチウム二次電池の負極活物質として、炭素材料が知られている。従来、電池性能の向上を目的として、炭素材料にさらにリンを含有させた負極活物質が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の負極活物質では、炭素材料を含む負極活物質がさらにリンを含有することにより、充放電容量に優れた負極とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-67207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
信頼性が高く高性能なリチウム二次電池を得るため、負極活物質としては、充放電容量の他に、耐久性にも優れた材料が求められている。従来の負極活物質は、リチウム二次電池の性能を向上させるため、未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、リンと炭素とを含む新規なリン-炭素複合材料を提供することを目的とする。また、このような新規なリン-炭素複合材料を好適に製造可能とするリン-炭素複合材料の製造方法を提供することを併せて目的とする。さらに、このような新規なリン-炭素複合材料を含む負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0008】
[1]リン原子と、炭素原子とを含むリン-炭素複合材料であって、前記リン-炭素複合材料におけるリン原子の含有率が、10質量%以上95質量%以下であり、前記リン-炭素複合材料における炭素原子の含有率が、5質量%以上90質量%以下であり、下記条件の熱重量測定で求められる測定温度620℃における重量減少率WL620と、測定温度780℃における重量減少率WL780との比WL620/WL780が、0.1以上0.9以下であるリン-炭素複合材料。
(熱重量測定)
10mgのリン-炭素複合材料を精秤して試料とし、熱重量測定装置を用い、窒素気流下で50℃から780℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量変化を測定する。
(重量減少率)
精秤した試料の重量に対する、測定温度における試料の重量の割合を、測定温度における重量減少率(重量%)とする。
【0009】
[2]上記熱重量測定で求められる測定温度300℃における重量減少率WL300と、測定温度600℃における重量減少率WL600との比WL300/WL600が、-0.1以上0.1以下である[1]に記載のリン-炭素複合材料。
【0010】
[3]XPSスペクトルにおいて、リン原子と炭素原子との結合を示すピークを有する[1]又は[2]に記載のリン-炭素複合材料。
【0011】
[4]CuKα線を用いて測定したXRDプロファイルにおいて、2θ=20°の強度I20、2θ=26.3°の強度I26.3、及び2θ=40°の強度I40が、以下の式(1)~(3)を満たす[1]から[3]のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料。
|P|/|B|<2 …(1)
P=I26.3-I40 …(2)
B=(I20-I40)×(26.3-40)/(20-40) …(3)
【0012】
[5]リン原子を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面を覆う炭素皮膜と、を有する[1]から[4]のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料。
【0013】
[6]炭素材料と、リンとを圧縮を伴う混合粉砕処理により複合化する工程を有するリン-炭素複合材料の製造方法。
【0014】
[7]炭素材料と、リンとをボールミル混合する工程を有するリン-炭素複合材料の製造方法。
【0015】
[8]前記炭素材料が、アモルファスカーボン、黒鉛、多孔性カーボン、メソカーボンマイクロビーズ、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェンオキサイド、カーボンナイトライト(C)及び積層カーボンナノファイバーからなる群から選ばれる少なくとも1種である[6]又は[7]に記載のリン-炭素複合材料の製造方法。
【0016】
[9]前記リンが黒リンである[6]から[8]のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料の製造方法。
【0017】
[10][1]から[5]のいずれか1項に記載のリン-炭素複合材料を含む負極活物質。
【0018】
[11][10]に記載の負極活物質を含むリチウム二次電池用負極。
【0019】
[12][11]に記載のリチウム二次電池用負極を含むリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リンと炭素とを含む新規なリン-炭素複合材料を提供することができる。また、このような新規なリン-炭素複合材料を好適に製造可能とするリン-炭素複合材料の製造方法を提供することができる。さらに、このような新規なリン-炭素複合材料を含む負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、P-C材料及びP-C混合物についての熱重量測定の結果を示すグラフである。
図2図2は、P-C材料及びP-C混合物のXPSスペクトルである。
図3図3は、P-C材料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図4図4は、P-C材料及びP-C混合物のXRDプロファイルである。
図5図5は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図6図6は、全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図7図7は、実施例1、4~7で作製したP-C材料、及び比較例2で作製したP-C混合物の熱重量測定の結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例1~5、7で作製したP-C材料のXPSスペクトルである。
図9図9は、実施例1~7で作製したP-C材料、及び比較例1,2で作製したP-C混合物のXRDプロファイルである。
図10図10は、実施例1~7および比較例2のP-C材料を用いたリチウム二次電池の100サイクルまでの放電容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1図6を参照しながら、本実施形態に係る、リン-炭素複合材料の製造方法、負極活物質、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0023】
《リン-炭素複合材料》
本実施形態のリン-炭素複合材料は、リン原子と、炭素原子とを含む。以下の説明においては「リン-炭素複合材料」を単に「P-C材料」と略称することがある。
【0024】
P-C材料は、P-C材料におけるリン原子の含有率が10質量%以上95質量%以下である。また、P-C材料における炭素原子の含有率が5質量%以上90質量%以下である。P-C材料がリン原子と炭素原子とからなる場合には、P-C材料における炭素原子の含有率とリン原子の含有率との合計は100質量%である。なお、P-C材料が炭素原子とリン原子とからなる場合であっても、P-C材料の原料や製造工程から不可避的に混入する不純物は許容される。
【0025】
P-C材料は、全体の60質量%以上がリン原子と炭素原子で構成され、さらにリン原子と炭素原子以外の元素を含むこともできる。
P-C材料が含むリン原子と炭素原子以外の元素としては、リチウム、シリコン、ゲルマニウム、スズ、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、遷移金属類、窒素、酸素、フッ素、ケイ素、チタン、ニオブ、硫黄、塩素が挙げられる。これらは金属酸化物、複合金属酸化物、金属フッ化物、金属硫化物、金属塩化物、酸化ケイ素、ケイ酸塩、チタン酸塩、アルミン酸塩を原料として利用できる。
【0026】
P-C材料におけるリン原子の含有率、及び炭素原子の含有率、さらに含み得る他の原子の含有率は、公知のICP分析により求めることができる。
【0027】
P-C材料において、上記リン原子の含有率は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、さらに好ましくは50質量%以上である。リンの含有率が高い方がP-C材料の初回充放電容量を高められる。また、P-C材料において、上記リン原子の含有率は90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは75質量%以下である。リン原子の含有率が高すぎるとP-C材料のサイクル特性が低下するためである。リン原子の含有率の上限値と下限値とは任意に組みわせることができる。
【0028】
P-C材料において、上記炭素原子の含有率は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、さらに好ましくは25質量%以上である。炭素原子の含有率が高い方が、P-C材料のサイクル特性を高められる。また、P-C材料において、上記炭素原子の含有率は80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは50質量%以下である。炭素原子の含有率が高すぎるとP-C材料の初回充放電容量が低下するためである。炭素原子の含有率の上限値と下限値とは任意に組みわせることができる。
【0029】
詳しくは後述するが、P-C材料は、リンと、炭素材料をボールミル混合することにより製造することができる。発明者らは、得られたP-C材料について詳細に分析、検討を行ったところ、P-C材料は、原料であるリンと炭素材料とを単に混合した混合物ではなく、リン原子と炭素原子とが化学結合(共有結合)し、原料のリン及び炭素材料とは異なる物性を有する新規な材料となっていることを確認した。
【0030】
以下、P-C材料と、リンと炭素材料の混合物(以下、「P-C混合物」と称することがある)と対比しながら、P-C材料の物性について詳述する。
【0031】
以下の説明では、P-C材料の一例と、P-C材料と同じ原料を乳鉢で混合した混合物の一例と、を対比している。以下に示す例において、P-C材料の原料及びP-C混合物の原料には、いずれも黒リンと炭素材料とを6:4(質量比)で含む。P-C材料及びP-C混合物において、炭素材料はいずれもCSCNT(カップ積層型カーボンナノチューブ)を用いている。
【0032】
[熱に対する挙動]
P-C材料は、下記条件の熱重量測定で求められる測定温度620℃における重量減少率WL620と、測定温度780℃における重量減少率WL780との比WL620/WL780が、0.1以上0.9以下である。
(熱重量測定)
10mgのリン-炭素複合材料を精秤して試料とし、熱重量測定装置を用い、窒素気流下で50℃から780℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量変化を測定する。
(重量減少率)
精秤した試料の重量に対する、測定温度における試料の重量の割合を、測定温度における重量減少率(重量%)とする。
【0033】
図1は、P-C材料及びP-C混合物について、上記熱重量測定を行った結果を示すグラフである。図1は、横軸が加熱温度(℃)、縦軸が試料の重量に対する重量減少率(重量%)を示す。図1中、符号AがP-C材料の挙動を示し、符号XがP-C混合物の挙動を示すグラフである。
【0034】
図1に示すように、P-C混合物では、測定温度620℃における重量減少率WL620図1中、符号X1で示す)と、測定温度780℃における重量減少率WL780図1中、符号X2で示す)との比WL620/WL780が、0.58未満となっている。P-C混合物は、測定温度350℃から450℃あたりで急峻な重量減少を示し、620℃では、試料の初期の重量から約6割の重量が失われている。
【0035】
この減少した重量は、原料である黒リンの重量に対応すると考えられる。P-C混合物では、P-C混合物に含まれる黒リンが、加熱により失われたものと考えられる。黒リンは、125℃に加熱することにより同素体である赤リンへ変化することが知られている。また、赤リンは、常圧下、416℃で昇華することが知られている。
【0036】
対して、P-C材料は、測定温度620℃における重量減少率WL620図1中、符号A1で示す)と、測定温度780℃における重量減少率WL780図1中、符号A2で示す)との比WL620/WL780が、0.1以上0.9以下に含まれる。
【0037】
また、P-C材料は、上記熱重量測定で求められる測定温度300℃における重量減少率WL300図1中、符号A3で示す)と、測定温度600℃における重量減少率WL600図1中、符号A4で示す)との比WL300/WL600が、-0.1以上0.1以下に含まれると好ましい。
【0038】
すなわち、P-C材料は、P-C混合物と異なり、測定温度300℃までの重量減少がほとんど無く、測定温度300℃において熱的に安定である。
【0039】
WL620/WL780は、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、さらに好ましくは0.5以上である。また、WL620/WL780は、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。WL620/WL780の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0040】
WL300/WL600は、-0.1以上が好ましく、-0.08以上がより好ましい。また、WL300/WL600は、0.1以下が好ましく、0.08以下がより好ましい。WL300/WL600の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0041】
図1に示す結果から、P-C材料では、原料として用いた黒リンが変化し、熱に対して黒リンとは異なる挙動を示す物質となっていると考えられる。
【0042】
[P-C結合の有無]
P-C材料は、XPSスペクトルにおいて、リン原子と炭素原子との結合を示すピークを有している。「リン原子と炭素原子との結合を示すピーク」は、XPSスペクトルにおいて132~136eVの範囲に現れることが知られている。なお、以下の説明では、リン原子と炭素原子との結合を、単に「P-C結合」と称することがある。
【0043】
図2は、P-C材料及びP-C混合物のXPSスペクトルである。図2は、横軸が結合エネルギー(eV)、縦軸が光電子の検出個数(cps(count per second))を示す。図2中、符号AがP-C材料を示し、符号XがP-C混合物を示す。
【0044】
(XPSスペクトル測定条件)
XPSスペクトルは、以下の測定条件にて測定する。
・測定機器:XPS装置、ESCA-3400(島津製作所社製)
・線源 :Mg Kα線(20mA、10kV)
132~136eVの範囲にピークが検出された場合、P-C結合を有すると判断する。
【0045】
図2に示すように、P-C混合物では132~136eVの範囲にP-C結合を示すピークは検出されなかったが、P-C材料ではP-C結合を示すピーク(符号αで示す)が検出されていることが分かる。
【0046】
図2に示す結果から、P-C材料では、リン原子と炭素原子との間に化学結合を有する物質となっていると考えられる。
【0047】
[外観]
P-C材料は、リン原子を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面を覆う炭素皮膜と、を有する。
【0048】
図3は、P-C材料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。図3に示すように、P-C材料の粒子50は、リン原子を含むコア粒子51の表面を、炭素皮膜52が覆うコアシェル構造を呈している。
【0049】
P-C材料中にリン原子と炭素原子が含まれることは、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy(エネルギー分散型X線分光法))を用いることで確認できる。
【0050】
また、P-C材料がリン原子と炭素原子のみからなる場合には、TEM写真において、より重い原子であるリン原子の方が濃く写る。そのため、TEM写真に基づいて、コア粒子51にリン原子が含まれ、炭素原子を含む炭素皮膜52に覆われたコアシェル構造であると簡易的に判断することができる。
【0051】
(TEM写真の撮像条件)
TEM写真は、以下の撮像条件にて撮像する。
・TEM装置:透過電子顕微鏡H-9000NAR(日立製作所社製)
・視野範囲 :最大500nm×500nm。視野範囲の中にP-C材料の粒子の少なくとも一部を入れて撮影する。
【0052】
P-C材料は、上述した[熱に対する挙動]についての要件を満たすことに加え、上記コアシェル構造であると好ましい。
【0053】
[結晶状態]
図4は、P-C材料及びP-C混合物のXRDプロファイルである。図4は、横軸が回折角度(2θ、°)、縦軸が回折X線強度(a.u.)を示す。図4中、符号AがP-C材料を示し、符号XがP-C混合物を示す。
【0054】
(XRDプロファイル測定条件)
XRDプロファイルは、以下の測定条件にて測定する。
・測定機器:試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IV(株式会社リガク製)
・線源 :Cu Kα線
・測定範囲(2θ):10°~90°
・スキャン速度:4°/分
・サンプリング:0.02°
・電圧40kV、電流40mA
【0055】
図4に示すように、P-C混合物では、炭素材料及び黒リンがそれぞれ一定の結晶性を有し、回折ピークを示している。これに対し、P-C材料では、P-C混合物で見られた回折ピークが見られず、測定範囲に全域において、ノイズしか確認できなかった。すなわち、図4に示す結果から、P-C材料では、原料として用いた炭素材料の結晶性が失われアモルファスとなっているか、結晶状態が確認できないほど微細な炭素材料となっていると考えられる。
【0056】
ここで、P-C材料は、上記条件でXRDプロファイルを測定したとき、上記条件で測定したXRDプロファイルにおける2θ=20°の強度I20、2θ=26.3°の強度I26.3、及び2θ=40°の強度I40が、以下の関係式(1)~(3)を満たす。
|P|/|B|<2 …(1)
P=I26.3-I40 …(2)
B=(I20-I40)×(26.3-40)/(20-40) …(3)
【0057】
原料である炭素材料についてXRDプロファイルを測定した場合、炭素材料のピークは、グラファイト(002)のピークに相当する2θ=26.3°に現れる。一方、通常の炭素材料のXRDプロファイルでは、2θ=20°や2θ=40°にはピークが無い。そこで、上記式(1)では、炭素材料のピークが存在しない2θ=40°を基準点とし、XRDプロファイルにおける基準点の強度と、原料の炭素材料のピークが存在する位置(2θ=26.3°)の強度と、を比較することで、炭素材料の状態を判断することができる。
【0058】
上記式(2)で表される「P」は、基準点の強度I40と、炭素材料のピークが存在する位置の強度I26.3の差であり、基準点からのピークの差を示す。
【0059】
上記式(3)で表される「B」は、ピークが無い二つの位置(2θ=20°と、2θ=40°)から推定される、2θ=26.3°のベースライン強度を示す。
【0060】
上記式(1)で表されるPとBの絶対値の比率(|P|/|B|)から、基準点からのベースライン強度とピーク強度の比が求められる。|P|/|B|が2以上であるときには、炭素材料のピークが存在することを示す。
【0061】
一方で、|P|/|B|が2未満であり式(1)を満たすときには、炭素材料のピークが縮小しており、炭素材料の結晶性が低下して炭素材料がアモルファス、又は結晶状態が確認できないほど微細な炭素材料となっていると判断することができる。そのため、P-C材料は、上述した[熱に対する挙動]についての要件を満たすことに加え、上記関係式(1)~(3)を満たすと好ましい。
【0062】
以上に示すように、P-C材料は、原料であるリン(図1~4においては黒リン)と炭素材料とを混合した混合物と比べ、熱に対する挙動、結合状態、外観、結晶状態のいずれもが異なる新規な物質となっている。
【0063】
《リン-炭素複合材料の製造方法》
上述したように、P-C材料は、炭素材料と、リンとを、圧縮を伴う混合粉砕処理により複合化する工程を有する製造方法により製造することができる。
【0064】
上記製造方法においては、原料である炭素材料として、アモルファスカーボン、黒鉛(グラファイト)、多孔性カーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェンオキサイド、カーボンナイトライト(C)、積層カーボンナノファイバー(Carbon nanfibers platelets)からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの炭素材料はいずれも、グラファイト構造を有する。
【0065】
アモルファスカーボンとしては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ハードカーボン、ソフトカーボンを挙げることができる。
【0066】
フラーレンとしては、C60、C72、C84等を挙げることができる。
【0067】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)、カーボンナノファイバーVGCF(vapor grown carbon fiber)を挙げることができる。これらは、1軸方向に延びる構造(1次元構造)を有する。
【0068】
グラフェン、グラフェンオキサイド、カーボンナイトライト(C)、積層カーボンナノファイバー(Carbon nanofibers platelets)は、面方向に広がる構造(2次元構造)を有する。
【0069】
炭素材料において、グラファイト構造の端部(エッジサイト)はエッジ以外の箇所と比べて活性が高い。そのため、P-C結合の多くは、炭素材料のエッジサイトで形成されていると想定される。したがって、P-C結合を形成しやすくする観点から、用いる炭素材料はエッジサイトを多く有する材料が好ましい。
【0070】
エッジサイトが多い炭素材料としては、CSCNT、黒鉛(グラファイト)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、グラフェン、グラフェンオキサイド、カーボンナイトライト(C)、積層カーボンナノファイバー、が挙げられる。中でも、炭素材料としては、CSCNTが好ましい。
【0071】
また、上記製造方法においては、原料であるリンとして、公知のリン同素体のいずれも用いることができる。リンは、リン同素体の中で化学的に最も安定で、且つ電気の良導体である黒リンが好ましい。
【0072】
上記製造方法において、「圧縮を伴う混合粉砕処理」とは、複数種の粉末原料に圧縮力をかけて、原料の混合と粉砕とをする処理である。炭素材料とリンとに圧縮を伴う混合粉砕処理を施すことで、炭素材料とリンに強い衝撃力を加えることで、原料粉末を混合と粉砕すると同時に、通常の混合物では得られない化学変化が生じると考えられる。その結果、生成物として、原料に無いP-C結合が形成され、且つ原料には見られた結晶状態が見られないP-C材料が得られると考えられる。
【0073】
「圧縮を伴う混合粉砕処理」は、混合した材料のXRDプロファイルにおいて、原料に由来するピークが消失するまで行うとよい。または、混合した材料のXPSスペクトルにおいて、P-C結合が生じていることが確認できるまで行うとよい。
【0074】
圧縮を伴う混合粉砕処理をできる処理装置(粉砕機)としては、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、ディスクミル、ロッドミル、ボールミル、振動ミル、アトライター、ビーズミルを挙げられる。P-C材料の製造においては、特に混合と粉砕を同時に施すことができる点で粉砕容器と回転体とを備えた攪拌型粉砕機を使用することが好ましい。攪拌型粉砕機には、ピンミル、ディスクミル、ロッドミル、ボールミル、振動ミル、アトライター、ビーズミルが挙げられる。
【0075】
さらに、上記処理装置としては、原料粉末を混合と粉砕すると同時に炭素材料とリンに強い衝撃力を加えることができることから、媒体攪拌型粉砕機が好ましい。媒体攪拌型粉砕機としてはボールミル、振動ミル、アトライター、ビーズミルを挙げられる。その中でも、性状条件を容易に制御できる観点で特に好ましい粉砕機としてボールミルが挙げられる。
【0076】
ボールミル混合によれば、まずリンの微粒化と、炭素材料の分解とが生じ、次いでP-C結合が形成されると考えられる。これらのボールミル混合の過程で、リンは、上述のコア粒子となる。
【0077】
その後、リン原子を含むコア粒子の周囲に上述の炭素皮膜を形成しながら複合化し、P-C材料が得られるものと考えられる。
【0078】
ボールミル混合時には、ボールミルの装置の回転速度、原料に対するメディア(ボール)の量(Ball powder ratio)、混合時間を調製することにより、製造条件を制御することができる。すなわち、ボールミルの装置の回転速度を上げる、原料に対するメディアの量を増やす、混合時間を長くする等の条件調整により、リンと炭素材料との混合が促進され、P-C材料が得られやすくなる。上記製造条件を制御することにより、P-C結合の生成を促進し、WL620/WL780が0.1以上0.9以下を満たすP-C材料を生成しやすい。
【0079】
ボールは金属材料を粉砕するための粉砕媒体である。ボールの直径とは、ボールの平均粒子径である。ボールは、粉砕機の粉砕容器自体の回転によって、粉砕容器内を高速で流動して、炭素材料とリンと含む粉末原料に衝突することで、より平均粒子径の小さな粒子へと粉砕する。粉砕工程において、粉砕容器及びビーズは、過剰に摩耗しないことが好ましい。そのため、ボールの形状は、球状または楕円体状であることが好ましい。
【0080】
ボールの直径は、粉砕後のP-C材料の平均粒子径よりも大きいものが好ましい。このようなボールを用いることで、大きな粉砕エネルギーを金属材料に与えることができるため、短時間で効率的に金属粒子を得ることができる。一方で、ボールの直径が大きすぎると、P-C材料の再凝集を促進し、粒度分布の広いP-C材料が生成する。
【0081】
ボールの直径は好ましくは0.1~10mmであり、より好ましくは1~10mmである。ボールの直径がこの範囲である場合、P-C結合の生成を促進するとともに、再凝集を抑制できる。粉砕容器に入れるボールの直径は均一でもよく、異なっていてもよい。
【0082】
ボールの材質としては、ガラス、メノウ、アルミナ、ジルコニア、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド、炭化ケイ素、窒化ケイ素が挙げられる。中でも、比較的高い硬度を有しているため摩耗しにくく、また、比重が比較的大きいため大きな粉砕エネルギーを得ることが可能であるため、ジルコニアが用いられることが好ましい。これらのボールを用いることにより、効率的にP-C材料の原料粉末の粉砕を行うことができる。
【0083】
ボールとP-C材料の原料粉末との重量比率をボール粉末比率とする。ボール粉末比率を高めることでP-C材料の原料粉末に強い衝撃力を高い頻度で与えることができるためP-C結合の生成をより促進できる。ボール粉末比率が高すぎると単位操作当たりのP-C材料の製造量が低下する。そこで、好ましいボール粉末比率は0.5~500であり、より好ましくは1~200であり、さらに好ましくは10~200である。
【0084】
また、ボールミル混合が終了した後、ボールはP-C材料から、フィルターなどを用い
て分離する。
【0085】
ボールミル混合により上述したP-C材料が得られていることは、混合した材料のXRDプロファイルを測定し、図4に示すように原料に由来するピークが消失したことにより確認できる。ボールミル混合の継続時間は、混合時間と、原料に由来するピークが消失するまでの対応関係について予備実験を行って決定するとよい。言い換えると、ボールミル混合は、混合した材料のXRDプロファイルにおいて、原料に由来するピークが消失するまで行うとよい。
【0086】
または、混合した材料のXPSスペクトルを測定し、図2に示すようにP-C結合が生じていることにより確認してもよい。この場合、ボールミル混合の継続時間は、混合時間と、P-C結合が生じるまでの対応関係について予備実験を行って決定するとよい。言い換えると、ボールミル混合は、混合した材料のXPSスペクトルにおいて、P-C結合が生じていることが確認できるまで行うとよい。
【0087】
ボールミル混合では、メディア同士の衝突や、メディアとボールミル容器との衝突に、炭素材料やリンが介在することにより、炭素材料やリンに対して局所的に強い衝撃(圧力)が加わる。詳細は不明であるが、このような衝撃が加わることにより、通常の混合物では得られない化学変化が生じ、原料に無いP-C結合が形成され、原料には見られた結晶状態が見られないP-C材料が得られると考えられる。
【0088】
したがって、本実施形態の製造方法によれば、炭素材料とリンとについて圧縮を伴う混合粉砕処理を行うことにより、上述したP-C材料を容易に製造することができる。
【0089】
また、本実施形態の製造方法によれば、炭素材料とリンとをボールミル混合するという簡便な方法により、上述したP-C材料を容易に製造することができる。
【0090】
《負極活物質》
本実施形態の負極活物質は、上述したP-C材料を含む。
【0091】
負極活物質は、上述したP-C材料を単体で用いてもよく、P-C材料の他に、負極活物質として用いられる公知の材料を含んでもよい。このような材料としては、(i)リチウムイオンの挿入脱離が可能な炭素材料、(ii)リチウム合金相の形成を伴う合金系負極活物質材料、(iii)リチウムイオンと分解再生成反応(コンバージョン反応)する遷移金属酸化物、(iv)負極材活物質としての活性を有する酸化物又は複合酸化物、が挙げられる。
【0092】
(i)炭素材料としては、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノチューブが挙げられる。
【0093】
(ii)合金系負極活物質としては、シリコン、ゲルマニウム、スズ、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムの金属、又はこれらの合金が挙げられる。
【0094】
(iii)遷移金属酸化物としては、マンガン酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、マグネシウム酸化物が挙げられる。これらの酸化物は、他の金属(例えばリチウム)を更に含む複合金属酸化物であってもよい。
【0095】
(iv)酸化物又は複合酸化物としては、酸化チタン、チタン酸リチウム、酸化ケイ素といったが挙げられる。
【0096】
《リチウム二次電池用負極》
本実施形態のリチウム二次電池用負極は、上述した負極活物質を含む。リチウム二次電池用負極は、負極活物質の他、集電体、集電体に負極活物質を繋ぎ止めるためのバインダーを有する。集電体、バインダーは、公知の構成を採用することができる。
【0097】
集電体の材料としては、銅又は銅合金を好適に使用できる。
【0098】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)を好適に使用できる。
【0099】
《リチウム二次電池》
本実施形態のリチウム二次電池は、上述のリチウム二次電池用負極(以下、負極)を含む。
【0100】
本実施形態の負極活物質を用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0101】
リチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0102】
図5は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0103】
まず、図5に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0104】
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0105】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0106】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0107】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0108】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0109】
(正極活物質)
正極活物質には、リチウム含有化合物又は他の金属化合物を用いることができる。リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物及びオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムが挙げられる。
【0110】
また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、又は硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの硫化物が挙げられる。
【0111】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)及び繊維状炭素材料などを挙げることができる。
【0112】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5-20質量部であると好ましい。
【0113】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の樹脂を挙げることができる。
【0114】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。
【0115】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、電極プレス工程を行って固着する方法が挙げられる。
【0116】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)が挙げられる。
【0117】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
【0118】
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、上述したリチウム二次電池用負極を用いる。
【0119】
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂又は含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布又は織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。また、JP-A-2000-030686又はUS20090111025A1に記載のセパレータを用いてもよい。
【0120】
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0121】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(COCF)、Li(CSO)、LiC(SOCF、Li10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩及びLiAlClなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF及びLiC(SOCFからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0122】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン及び1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン及び2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸プロピル及びγ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル及びブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド及び1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0123】
電解液は、リン酸トリス(トリメチルシリル)及びホウ酸トリス(トリメチルシリル)等の添加物を含んでいてもよい。
【0124】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
【0125】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。電解液に含まれる電解質および有機溶媒として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の電解質および有機溶媒を用いてもよい。
【0126】
<全固体リチウム二次電池>
次いで、全固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、上述の負極を有する全固体リチウム二次電池について説明する。
【0127】
図6は、本実施形態の全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。図6に示す全固体リチウム二次電池(リチウム二次電池)1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側に正極活物質と負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。各部材を構成する材料については、後述する。
【0128】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0129】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0130】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0131】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0132】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0133】
以下、各構成について順に説明する。
【0134】
(正極)
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0135】
正極活物質層111は、正極活物質及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0136】
(固体電解質)
正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質及び有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質及び水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。各電解質としては、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2012/0251871A1、US2018/0159169A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0137】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物及びガーネット型酸化物などが挙げられる。各酸化物の具体例は、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2020/0259213A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0138】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiLa1-aTiO(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LiLa1-bTaO(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物及びLiLa1-cNbO(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0139】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAlTi2-d(PO(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物とは、Li (式中、Mは、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。m、n、o、p及びqは、任意の正数である。)で表される酸化物である。
【0140】
LISICON型酸化物としては、Li-Li(Mは、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表される酸化物などが挙げられる。
【0141】
ガーネット型酸化物としては、LiLaZr12(LLZともいう)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0142】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0143】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、LiS-P系化合物、LiS-SiS系化合物、LiS-GeS系化合物、LiS-B系化合物、LiI-SiS-P系化合物、LiI-LiS-P系化合物、LiI-LiPO-P系化合物及びLi10GeP12系化合物などを挙げることができる。
【0144】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「LiS」「P」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、LiS-P系化合物には、LiSとPとを主として含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。LiS-P系化合物に含まれるLiSの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して50~90質量%である。LiS-P系化合物に含まれるPの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して10~50質量%である。また、LiS-P系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して0~30質量%である。また、LiS-P系化合物には、LiSとPとの混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0145】
LiS-P系化合物としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI及びLiS-P-Z(m、nは正の数である。Zは、Ge、ZnまたはGaである。)などを挙げることができる。
【0146】
LiS-SiS系化合物としては、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-P-LiCl、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO及びLiS-SiS-LiMO(x、yは正の数である。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はInである。)などを挙げることができる。
【0147】
LiS-GeS系化合物としては、LiS-GeS及びLiS-GeS-Pなどを挙げることができる。
【0148】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0149】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH、LiBH-3KI、LiBH-PI、LiBH-P、LiBH-LiNH、3LiBH-LiI、LiNH、LiAlH、Li(NHI、LiNH、LiGd(BHCl、Li(BH)(NH)、Li(NH)I及びLi(BH)(NHなどを挙げることができる。
【0150】
(ポリマー系固体電解質)
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物及びポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
【0151】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0152】
(導電材及びバインダー)
正極活物質層111が有する導電材としては、上述の(導電材)で説明した材料を用いることができる。また、正極合剤中の導電材の割合についても同様に上述の(導電材)で説明した割合を適用することができる。また、正極が有するバインダーとしては、上述の(バインダー)で説明した材料を用いることができる。
【0153】
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、上述の(正極集電体)で説明した材料を用いることができる。
【0154】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0155】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材及びバインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0156】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質及び導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0157】
正極合剤に用いることができる正極活物質としては、上述の(正極活物質)で説明した正極活物質と同じものを用いることができる。
【0158】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、上述の(正極集電体)で説明した正極合剤をペースト化する場合に用いることができる有機溶媒と同じものを用いることができる。
【0159】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、上述の(正極集電体)で説明した方法が挙げられる。
【0160】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。正極110に用いる具体的な材料の組み合わせとしては、正極活物質と表1に記載する組み合わせが挙げられる。
【0161】
【表1】
【0162】
【表2】
【0163】
【表3】
【0164】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、本実施形態の負極活物質を含む。
【0165】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
【0166】
固体電解質層130の製法の一例としては、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法や、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。後者については、乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0167】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極活物質層121が接する態様で負極120を積層させることで製造することができる。
【0168】
以上のような構成のリチウム二次電池によれば、負極に上述したP-C材料を含む負極活物質を用いているため、高容量であり、サイクル特性に優れたリチウム電池となる。
【0169】
一つの側面として、本発明は以下の態様も包含する。
【0170】
<1>リン原子と、炭素原子とを含むリン-炭素複合材料であって、
前記リン-炭素複合材料におけるリン原子の含有率が、10質量%以上95質量%以下であり、
前記リン-炭素複合材料における炭素原子の含有率が、5質量%以上90質量%以下であり、
XPSスペクトルにおいて、リン原子と炭素原子との結合を示すピークを有するリン-炭素複合材料。
【0171】
<2>リン原子と、炭素原子とを含むリン-炭素複合材料であって、
前記リン-炭素複合材料におけるリン原子の含有率が、10質量%以上95質量%以下であり、
前記リン-炭素複合材料における炭素原子の含有率が、5質量%以上90質量%以下であり、
CuKα線を用いて測定したXRDプロファイルにおいて、2θ=20°の強度I20、2θ=26.3°の強度I26.3、及び2θ=40°の強度I40が、以下の式(1)~(3)を満たすリン-炭素複合材料。
|P|/|B|<2 …(1)
P=I26.3-I40 …(2)
B=(I20-I40)×(26.3-40)/(20-40) …(3)
【0172】
<3>リン原子と、炭素原子とを含むリン-炭素複合材料であって、
前記リン-炭素複合材料におけるリン原子の含有率が、10質量%以上95質量%以下であり、
前記リン-炭素複合材料における炭素原子の含有率が、5質量%以上90質量%以下であり、
リン原子を含むコア粒子と、
前記コア粒子の表面を覆う炭素皮膜と、を有するリン-炭素複合材料。
【0173】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例0174】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0175】
本実施例においては、以下の方法により物性を測定した。
【0176】
[熱重量測定]
10mgのリン-炭素複合材料を精秤して試料とし、熱重量測定装置を用い、窒素気流下で50℃から780℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量変化を測定する。
【0177】
[XPSスペクトル]
上述の(XPSスペクトル測定条件)に従って測定した。
【0178】
[Ramanスペクトル]
上述の(Ramanスペクトル測定条件)に従って測定した。
【0179】
[TEM写真]
上述の(TEM写真の撮像条件)に従って撮像した。
【0180】
[XRDプロファイル]
上述の(XRDプロファイル測定条件)に従って測定した。
【0181】
[原料]
実施例及び比較例においては、以下の材料を用いた。
【0182】
(リン)
ラサ工業製の黒リン
【0183】
(炭素材料)
CSCNT:GSIクレオス社製
MCMB1:MG10、China Steel Chemical社製
MCMB2:MG11、China Steel Chemical社製
MCMB3:MG12、China Steel Chemical社製
グラファイト:SNO15、SECカーボン社製
AB:デンカブラックHS100、デンカ株式会社社製
SWCNT:GSIクレオス社製
【0184】
[実施例1~7]
黒リンと、炭素材料とを、表4に記載の比率で秤量し(合計量0.5g)、ボールミルを用い下記条件で混合して、P-C材料を得た。
(ボールミル混合条件)
装置 :Retsch PM-100
容器 :ZrO製50mL容器
メディア :ZrO製5mmφボール、60g
雰囲気 :アルゴンガス封入
サンプル量 :原料の混合物として0.5g
ボール/粉末比:120(重量比)
混合時間 :12時間
【0185】
[比較例1,2]
黒リンと、炭素材料とを、表4に記載の比率で秤量し(合計量0.5g)、乳鉢を用いて混合して、P-C混合物を得た。
【0186】
【表4】
【0187】
[評価]
得られた材料を用いて、以下の方法で評価用電池を作製し、評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0188】
(評価用電池の作製)
(1)負極の作製
P-C材料又はP-C混合物、導電材、バインダーを秤量し、[P-C材料又はP-C混合物]:[導電材]:[バインダー]=80:10:10(質量比)の混合物とした。用いた材料は以下の通りである。
バインダー:フッ化ビニリデンPVdF クレハKFポリマー#1100(クレハ社製)
導電材 :アセチレンブラック、デンカブラックHS100(デンカ社製)
【0189】
メノウ乳鉢を用いて上記混合物と溶媒(NMP(N-メチル-2-ピロリドン))とを混練し、負極スラリーを作製した。このとき、スラリー濃度を調整し、負極スラリー中の負極活物質(P-C材料又はP-C混合物と導電材とバインダーの合計)の含有率を30~60質量%とした。
【0190】
ドクターブレードを用いて負極スラリーを銅箔集電体に塗布し、その後、120℃で1時間送風乾燥させて溶媒を除去して積層体を得た。得られた積層体を10mPaで10秒間加圧プレスした後に、さらに120℃で12時間真空乾燥して、負極を得た。
【0191】
なお、上述の負極スラリーの作製、及び負極の作製は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0192】
(2)リチウムイオン二次電池の作製
(1)で作製した負極、対極、電解液、セパレータを組み合わせてリチウムイオン二次電池(コイン型電池R2032)を作製した。電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0193】
対極として、金属リチウム箔を使用した。
【0194】
電解液として、LiPF溶液(キシダ化学社製)に、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を10質量%添加した混合液を使用した。
【0195】
LiPF溶液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とエチルメチルカーボネート(EMC)をそれぞれ体積比で30:35:35とした混合溶媒に、LiPFを1mol/Lとなるように溶解した溶液を使用した。
【0196】
セパレータとして、ポリエチレン製多孔質フィルムの上に耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータ(16μm厚)を使用した。
【0197】
(評価1.放電容量)
上記評価用電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。ここで、リンの理論容量を2600mAh/gとして、電極容量を1時間で充電又は放電する1C電流を2600mA/gとした。充放電試験においては、負極に含まれるリンの質量から、1C電流を計算した。実施例における1Cの定義については、以下同様とする。
充電最小電圧:0.005V
充電電流 :0.1C (1C=2600mA/g)
放電最大電圧:2.0V
放電電流 :0.1C (1C=2600mA/g)
【0198】
評価1においては、放電容量が500mAh/g以上であるものを良品、放電容量が500mAh/g未満であるものを不良と判断した。参考値として、炭素材料である黒鉛の理論放電容量は、372mAh/gである。
【0199】
(評価2.サイクル特性)
上記評価用電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電を繰り返してサイクル特性を評価した。1Cレート電流における100サイクル目の放電容量D100と、1サイクル目の充電容量D1との比(D100/D1)を用いて、サイクル特性を評価した。D100/D1が大きいほど、サイクルに伴う放電容量の維持率が高いことを示すことから、負極活物質として優れると判断することができる。
充電最小電圧:0.005V
充電電流 :1C (1C=2600mA/g)
放電最大電圧:2.0V
放電電流 :1C (1C=2600mA/g)
【0200】
評価2においては、D100/D1が50%以上であるものを良品、D100/D1が50%未満であるものを不良と判断した。
【0201】
【表5】
【0202】
図7は、実施例1、4~7で作製したP-C材料、及び比較例2で作製したP-C混合物の熱重量測定の結果を示すグラフである。図7に示すように、P-C材料はいずれもWL620/WL780が0.1以上0.9以下を満たしていた。
【0203】
また、実施例7のP-C材料は、WL620/WL780が0.75であり、他の実施例のP-C材料と比べ大きかった。実施例7で用いた炭素材料であるSWCNTは、他の炭素材料と比べ、炭素原子量に対するエッジサイトの量が少ないと考えられる。このようにエッジサイトが少ない炭素材料では、エッジサイトが多い炭素材料と比べ生じるP-C結合の量が少ないと考えられる。このようなP-C結合の量の差が、実施例7のP-C材料と、他の実施例のP-C材料との熱重量測定の結果の差に表れたと考えられる。
【0204】
対して、比較例1,2のP-C混合物は、WL620/WL780が0.9よりも大きく、測定温度350℃から450℃あたりで急峻な重量減少を示し、500℃以上の温度ではほとんど重量減少は見られなかった。そのため、比較例1~2のP-C混合物は、620℃以上の高温に耐えうる新たな結合が形成されておらず、原料であるリンと炭素材料との混合物の状態であると言える。
【0205】
図8は、実施例1~5、7で作製したP-C材料のXPSスペクトルである。図8に示すように、いずれのP-C材料においても132~136eVの範囲にピークを生じ、P-C結合が形成されていることが確認できる。
【0206】
一方、図8には図示していないが、比較例1,2のP-C混合物は、XPSスペクトルで132~136eVの範囲にピークは無く、P-C結合を確認できなかった。
【0207】
図9は、実施例1~7で作製したP-C材料、及び比較例1,2で作製したP-C混合物のXRDプロファイルである。図9に示すように、いずれのP-C材料においても、2θ=26.3°の位置にピークが確認できず、炭素材料がアモルファス、又は結晶状態が確認できないほど微細な炭素材料となっていると判断することができる。
【0208】
一方、比較例1,2のP-C混合物では、2θ=26.3°の位置にピークが確認できたことから、炭素材料のアモルファス化が不十分であったと判断できる。
【0209】
図10は、実施例1~7および比較例2のP-C材料を用いたリチウム二次電池の100サイクルまでの放電容量を示すグラフである。電池性能を評価したところ、実施例1~7のP-C材料は、負極活物質として用いた場合に、放電容量が高く、且つサイクル特性に優れることが分かった。対して、比較例2のP-C混合物では、十分な放電容量を得ることが出来ず、且つサイクル特性は実施例に比較して極めて低かった。
【0210】
以上の結果から、本発明が有用であることが確かめられた。
【符号の説明】
【0211】
3,120…負極、10…リチウム二次電池、50…粒子、51…コア粒子、52…炭素皮膜、1000…全固体リチウム二次電池(リチウム二次電池)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10