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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095318
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】磁歪部材及び磁歪部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 35/01 20230101AFI20230629BHJP
   H10N 35/80 20230101ALI20230629BHJP
   H10N 35/00 20230101ALI20230629BHJP
   H10N 35/85 20230101ALI20230629BHJP
   H10N 30/079 20230101ALI20230629BHJP
【FI】
H01L41/47
H01L41/06
H01L41/12
H01L41/20
H01L41/319
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211136
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】泉 聖志
(72)【発明者】
【氏名】大久保 和彦
(57)【要約】
【課題】平行磁歪量が高く、部材間における平行磁歪量のばらつきが少なく、磁歪部材を容易かつ確実に磁歪部材を製造すること。
【解決手段】、磁歪部材の製造方法は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向及び短手方向を有する形状の磁歪部材の製造方法であって、前記結晶の一面において平行磁歪量及び垂直磁歪量の磁歪量を測定することと、測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち磁歪量が大きくなる方向が、前記磁歪部材の前記長手方向となるように、前記結晶を切断することと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向及び短手方向を有する形状の磁歪部材の製造方法であって、
前記結晶の一面において平行磁歪量及び垂直磁歪量の磁歪量を測定することと、
測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち磁歪量が大きくなる方向が、前記磁歪部材の前記長手方向となるように、前記結晶を切断することと、を含む、磁歪部材の製造方法。
【請求項2】
前記磁歪量を測定することは、結晶を切断して得られた平板状の薄板部材の一面の磁歪量を測定することを含む、請求項1に記載の磁歪部材の製造方法。
【請求項3】
前記結晶は単結晶であり、前記磁歪量を測定する結晶の一面は、面内の結晶の方位が{100}である請求項1乃至請求項2に記載の磁歪部材の製造方法。
【請求項4】
前記磁歪部材の表面は、磁歪量を測定した面と同一の加工面である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁歪部材の製造方法。
【請求項5】
前記磁歪量を測定する結晶の一面の表面は、ワイヤー放電加工面またはワイヤーソー加工面である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁歪部材の製造方法。
【請求項6】
前記鉄系合金の結晶は、Fe-Ga合金である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の磁歪部材の製造方法。
【請求項7】
前記磁歪部材は、前記長手方向の平行磁歪量が200ppm以上である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の磁歪部材の製造方法。
【請求項8】
磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなる薄板部材から長手方向及び短手方向を有する形状に切り出された磁歪部材であって、
前記磁歪部材の前記長手方向は、前記薄板部材において測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち磁歪量が大きくなる方向である、磁歪部材。
【請求項9】
磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向及び短手方向を有する形状の磁歪部材であって、
前記磁歪部材の一面において、長手方向の平行磁歪量(ppm)/垂直磁歪量(ppm)は3.0以上である、磁歪部材。
【請求項10】
前記鉄系合金の結晶は、Fe-Ga合金の単結晶であり、
前記磁歪部材の面の結晶の方位は{100}である、請求項8又は請求項9に記載の磁歪部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪部材及び磁歪部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪材料は、機能性材料として注目されている。例えば、鉄系合金であるFe-Ga合金は、磁歪効果および逆磁歪効果を示す材料であり、100~350ppm程度の大きな磁歪を示す。そのため、近年、エネルギーハーベスト分野の振動発電用材料として注目され、ウェアラブル端末やセンサ類などへの応用が期待されている。Fe-Ga合金の単結晶の製造方法として、引き上げ法(チョクラルスキー法、以下「Cz法」と略記する)による単結晶の育成方法が知られている(例えば、特許文献1)。また、Cz法以外の製造方法として、垂直ブリッジマン法(VB法)や垂直温度勾配凝固法(VGF法)が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
Fe-Ga合金は、結晶の<100>方位に磁化容易軸を持ち、この方位に大きな磁気歪みを現出させることができる。従来、Fe-Ga合金の磁歪部材は、Fe-Ga合金の多結晶から<100>方位に配向した単結晶部分を所望サイズに切断することにより製造されているが(例えば、非特許文献1)、結晶方位は磁歪特性に大きく影響するため、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる<100>方位とを一致させた単結晶が磁歪部材(磁歪素子)の材料として最適であると考えられる。
【0004】
Fe-Ga合金の単結晶は、単結晶の<100>方位に対して平行に磁場を印加したとき、正の磁歪が現出する(以下、「平行磁歪量」と称す)。一方、<100>方位に対して垂直に磁場を印加したとき、負の磁歪が現出する(以下、「垂直磁歪量」と称す)。印加する磁場の強度を徐々に強めていくと、平行磁歪量あるいは垂直磁歪量がそれぞれ飽和する。磁歪定数(3/2λ100)は、飽和した平行磁歪量と、飽和した垂直磁歪量の差で決定され、下記の式(1)によって求められる(例えば、特許文献4、非特許文献2)。
【0005】
3/2λ100=ε(//)― ε(⊥) ・・・式(1)
3/2λ100:磁歪定数
ε(//):<100>方向に対して平行に磁場をかけて飽和したときの平行磁歪量
ε(⊥) :<100>方向に対して垂直に磁場をかけて飽和したときの垂直磁歪量
【0006】
Fe-Ga合金の磁歪特性は、磁歪・逆磁歪効果および磁歪式振動発電デバイスの特性に影響を与えると考えられており、デバイス設計をする上で重要なパラメータとなる(例えば、非特許文献4)。特に、磁歪定数は、Fe-Ga合金単結晶のGa組成に依存し、Ga組成が18~19at%と27~28at%で磁歪定数が極大になることが知られており(例えば、非特許文献2)、このようなGa濃度のFe-Ga合金をデバイスに用いることが望ましいとされる。さらに近年、磁歪定数が大きいことに加えて、平行磁歪量が大きいほど出力電圧等のデバイス特性が高い傾向にあることが報告されている(例えば、非特許文献3)。
【0007】
磁歪式振動発電デバイスは、例えば、コイルに巻かれたFe-Ga磁歪部材、ヨーク、界磁用永久磁石で構成されている(例えば、特許文献5、非特許文献4)。この磁歪式振動発電デバイスでは、デバイスの可動部のヨークを振動させると、ヨークの中央に固定したFe-Ga磁歪部材が連動して振動し、逆磁歪効果によってFe-Ga磁歪部材に巻かれたコイルの磁束密度が変化し、電磁誘導起電力が発生して発電する仕組みとなる。磁歪式振動発電デバイスでは、ヨークの長手方向に力が加わって振動が起こるため、デバイスに用いるためのFe-Ga磁歪部材は、磁化容易軸である<100>を長手方向になるように加工することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-28831号公報
【特許文献2】特開2016-138028号公報
【特許文献3】特開平4-108699号公報
【特許文献4】特表2015-517024号公報
【特許文献5】国際公開第2011/158473号
【特許文献6】特開2021-088471号公報
【特許文献7】特開2020-136594号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Etrema社,State of the Art of Galfenol Processing.
【非特許文献2】A. E. Clark et al., Appl. Phys. 93(2003)8621.
【非特許文献3】Jung Jin Park, Suok-Min Na, Ganesh Raghunath, and Alison B. Flatau., AIP ADVANCES 6, 056221(2016).
【非特許文献4】上野敏幸, 精密工学会誌 Vol. 79, No.4, (2013) 305-308.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁歪式振動発電デバイス等のデバイス特性は、磁歪部材の磁歪特性によって影響を受けるため、磁歪部材は、高い磁歪特性を有し、磁歪特性のばらつきの少ないものが要求される。このような中で、Fe-Ga合金の単結晶の結晶方位が<100>であり、Ga濃度が均一であるならば、磁歪定数の均一な磁歪部材が得られると思われていた。しかし、非特許文献3に記載されるように、デバイス特性は、磁歪定数だけでなく平行磁歪量の影響があることが開示されている。本発明者の調査の結果、上記のように製造した磁歪部材は、磁歪定数が均一であっても平行磁歪量(あるいは垂直磁歪量)にばらつきがあることが判った。これは、結晶育成した単結晶より磁歪部材に切り出した部材の磁歪量(あるいは磁区構造)にばらつきがあるためと考えられる。特許文献6では、単結晶より切り出した平板の両面を鏡面加工し、ビッター法による磁区構造の観察し、平板から部材の切り出す位置及び方向を決定する方法が記載されている。特許文献7おいては、KeRR法により磁区構造を観察して部材を切り出す方法が記載されている。
【0011】
しかしながら、上記のビッター法やKeRR法などの方法では磁区構造を観察するため、部材表面を鏡面加工する必要があり、工数がかかっていた。更に、部材表面の加工方法によっては、部材表面に残留応力を与えてしまい、上記観察した磁区構造と違った磁区構造となり所定の磁歪特性が得られないことがあり、部材表面の加工は、磁区構造に影響を与えないとされるワイヤー放電加工等が用いられることが多かった。
【0012】
そこで、本発明は、平行磁歪量が高く、部材間の平行磁歪量のばらつきが少なく、容易かつ確実に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様によれば、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向及び短手方向を有する形状の磁歪部材の製造方法であって、前記結晶の一面において平行磁歪量及び垂直磁歪量の磁歪量を測定することと、測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち磁歪量が大きくなる方向が、前記磁歪部材の前記長手方向と平行になるように、前記結晶を切断することと、を含む、磁歪部材の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の態様の磁歪部材の製造方法において、磁歪量を測定することは、結晶を切断して得られた平板状の薄板部材の一面の磁歪量を測定することを含む構成でもよい。また、結晶は単結晶であり、磁歪量を測定する単結晶の一面は、面内の結晶の方位が{100}である構成でもよい。また、磁歪部材の表面は、磁歪量を測定した面と同一の加工面である構成でもよい。また、磁歪量を測定する結晶の一面の表面は、ワイヤー放電加工面またはワイヤーソー加工面である構成でもよい。また、鉄系合金の結晶は、Fe-Ga合金である構成でもよい。また、磁歪部材は、長手方向の平行磁歪量が200ppm以上である構成でもよい。
【0015】
また、本発明の態様によれば、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなる薄板部材から長手方向及び短手方向を有する形状に切り出された磁歪部材であって、磁歪部材の長手方向は、薄板部材において測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち磁歪量が大きくなる方向である、磁歪部材が提供される。
【0016】
また、本発明の態様によれば、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向及び短手方向を有する形状の磁歪部材であって、磁歪部材の一面において、長手方向の平行磁歪量(ppm)/垂直磁歪量(ppm)は3.0以上である、磁歪部材が提供される。
【0017】
また、鉄系合金の結晶は、Fe-Ga合金の単結晶であり、磁歪部材の面の結晶の方位は{100}である構成でもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の態様の磁歪部材の製造方法は、平行磁歪量が高く、部材間における平行磁歪量のばらつきが少なく、容易かつ確実に磁歪部材を製造することができる。本発明の態様の磁歪部材は、平行磁歪量が高く、部材間における平行磁歪量のばらつきが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る磁歪部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】単結晶インゴット及び薄板部材の例を示す図である。
図3】実施形態に係る磁歪部材の一例を示す図である。
図4】実施例及び比較例において、薄板部材における平行磁歪量及び垂直磁歪量の測定位置を示す図である。
図5】実施例で用いた歪みゲージ法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して説明する。なお、各図面においては、適宜、一部又は全部が模式的に記載され、縮尺が変更されて記載される。
【0021】
[実施形態]
以下、本実施形態の磁歪部材及び磁歪部材の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る磁歪部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2は、単結晶インゴット及び薄板部材の例を示す図である。実施形態に係る磁歪部材の一例を示す図である。本実施形態の磁歪部材の製造方法は、結晶用意工程(ステップS1)、結晶切断工程(ステップS2)、磁歪量測定工程(ステップS3)、及び、切断工程(ステップS4)を備える。
【0022】
磁区構造について説明する。発明者らは上述したように主面が{100}面であり、磁化容易方向である<100>方向を磁歪部材の長手方向とした平面視の形状が長方形である板状の磁歪部材を製作した。Ga濃度の均一なFe-Ga合金の単結晶から切り出して作成した複数の磁歪部材について磁歪特性を確認した結果、磁歪定数のばらつきはほとんど見られなかったが、平行磁歪量にばらつきがあることが判った。特に、単結晶より磁歪部材を切り出す位置により平行磁歪量にばらつきがあることを見出した。この平行磁歪量のばらつきは、磁区構造の影響を受けていることが知られており、特許文献6や特許文献7では、単結晶より切り出した平板の両面を鏡面加工し、ビッター法やKeRR法により磁区構造を観察して部材を切り出す方法が記載されている。
【0023】
磁区構造は、例えば、ビッター法を用いて取得することができる。ビッター法は、磁性コロイド粒子を用いて磁区構造(磁区)を観察する方法である。磁歪部材の材料となる単結晶インゴットを切り出した薄板は、磁区構造にばらつきがある。
【0024】
しかしながら、上記ビッター法やKerr法の方法では磁区構造を観察するため、部材表面を鏡面加工する必要があり、工数(手間)がかかっていた。さらに、部材表面の加工方法によっては、部材表面に残留応力を与えてしまい、上記観察した磁区構造と違った磁区構造となり所定の磁歪特性が得られないことがあった。そこで、本発明では、磁区観察を行わず簡易的に磁歪量を測定できる方法について検討した結果、本発明に至った。
【0025】
本実施形態の磁歪部材の製造方法では、まず、結晶用意工程(ステップS1)において、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶を用意する。本実施形態の磁歪部材の製造方法及び本実施形態の磁歪部材に用いる結晶は、単結晶でもよいし、多結晶でもよい。磁歪部材の磁化容易方向の方位集積度を高め、磁歪材料としての特性を高めるためには、多結晶よりも単結晶の使用することが好ましい。なお、多結晶は、単結晶より磁歪特性は落ちるものの低コストで生産が可能であるため、多結晶を用いる場合もある。鉄系合金は、磁歪特性を有するものであれば、特に限定されない。磁歪特性とは、磁場を印加したときに形状の変化が生じる特性を意味する。鉄系合金は、例えば、Fe-Ga、Fe-Ni、Fe-Al、Fe-Co、Tb-Fe、Tb-Dy-Fe、Sm-Fe、Pd-Fe等の合金である。これらの鉄系合金の中でも、Fe-Ga合金は、他の合金と比較して磁歪特性が大きく加工も容易であるため、エネルギーハーベスト分野の振動発電用材料やウェアラブル端末やセンサ類などへ応用されている。以下の説明では、磁歪部材の一例として、磁歪部材がFe-Ga合金の単結晶からなる構成の例を説明するが、一例であって、本実施形態の結晶はこの例に限定されない。
【0026】
Fe-Ga合金の単結晶は、体心立方格子構造を有しており、ミラー指数における方向指数のうち第1~第3の<100>軸(図2参照)が等価であり、ミラー指数における面指数のうち第1~第3の{100}面(図2参照)が等価(すなわち、(100)、(010)および(001)は等価)であることを基本とするものである。また、Fe-Ga合金は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させる特性を有する。この特性を磁歪式振動発電デバイスに利用する場合、デバイスにおいて磁歪部材の磁歪を必要とする方向と、結晶の磁気歪みが最大となる方位(方向)とを一致させることが望ましい。具体的には、上述したように、単結晶における磁化容易方向である<100>方向を、磁歪部材の長手方向に設定することが、磁歪特性の観点から望ましい。また、磁歪部材の面の結晶の方位を{100}とするのが、磁歪特性の観点から好ましい。単結晶における磁化容易方向である<100>方向を、磁歪部材の長手方向とすること、及び、磁歪部材の面の結晶の方位を{100}とすることは、例えば、単結晶の結晶方位を公知の結晶方位解析により取得し、取得した単結晶の結晶方位に基づいて単結晶を切断することにより、実施することができる。
【0027】
なお、用意する結晶は、育成したものでもよいし、市販品を用いてもよい。例えば、結晶用意工程では、Fe-Ga合金の単結晶を用意する。Fe-Ga合金の単結晶の育成方法は、特に限定はない。Fe-Ga合金の単結晶の育成方法は、例えば、引き上げ法や一方向凝固法等でもよい。例えば、引き上げ法ではCz法、一方向凝固法ではVB法、VGF法およびマイクロ引き下げ法等を用いることができる。
【0028】
Fe-Ga合金の単結晶は、ガリウムの含有量を18.5at%又は27.5at%にすることで磁歪定数が極大になる。このため、Fe-Ga合金の単結晶は、ガリウムの含有量が16.0~20.0at%または25.0~29.0at%、好ましくは17.0~19at%または26.0~28.0at%になるように育成されたものが好ましい。育成された単結晶の形状は、特に限定はなく、例えば、円柱状でもよいし、四角柱状でもよい。なお、育成した単結晶は、必要に応じて種結晶、増径部または肩部(種結晶から所定の単結晶の径まで増やす部分)等を切断装置で切断することによって、円柱状の単結晶にしてもよい。育成する単結晶の大きさは、磁歪部材が確保できる大きさであれば、特に限定はない。Fe-Ga合金単結晶を育成する場合、単結晶の育成軸の方向が<100>になるように種結晶の上面又は下面を{100}面に加工した種結晶を使用して育成する。育成されるFe-Ga合金単結晶は、種結晶の上面又は下面に対し垂直方向に結晶が育成され、かつ種結晶の方位が継承される。
【0029】
結晶用意工程(ステップS1)の次に、結晶切断工程(ステップS2)を実施する。結晶切断工程は、結晶を切断し薄板部材を作成する工程である。結晶を切断して得られた薄板部材は、本実施形態の磁歪部材の材料となる部材である。結晶切断工程は、例えば、磁歪特性を有するFe-Ga合金の単結晶を切断装置を用いて切断し、{100}面を主面とする薄板部材を作製する工程である。切断装置は、ワイヤー放電加工機、内周刃切断装置、ワイヤーソー等の切断装置を用いることができる。中でも、結晶切断工程は、ワイヤー放電加工またはワイヤーソー加工であることが好ましい。マルチワイヤーソーを使用する場合、同時に複数の薄板部材を切断することができるため好ましい。薄板部材は平板状であるのが好ましい。結晶の切断方向は、Fe-Ga合金の単結晶の場合、<100>であり、切断面すなわち薄板部材の主面が{100}面となるように切断するのが、磁歪特性を向上させる観点から好ましい。結晶の切断方向は、例えば、図2に示すように、単結晶の育成方向(結晶が育成される方向)に対し、垂直方向でもよいし、平行方向でもよいが、単結晶の切断方向は、育成方向(結晶が育成される方向)に対し平行方向に切断することが好ましい。
【0030】
結晶切断工程(ステップS2)の次に、磁歪量測定工程(ステップS3)を実施する。磁歪量測定工程は、薄板部材(結晶)の一面において磁歪量を測定する工程である。磁歪量測定工程の磁歪量の測定は、例えば、歪みゲージ法等で測定できる。歪ゲージ法での測定は、薄板部材に歪みゲージを貼り付けて測定する方法である。この方法は、薄板部材の加工面に直接歪みゲージを貼り付けることが可能である。このため、特許文献6や特許文献7のように測定面を観察するために鏡面加工する必要が無く、測定面の加工を必要がなく効率的に測定できる。さらに、特許文献6や特許文献7の測定は、部材表面を鏡面加工した時の磁区観察を行っており、実際に使用する磁歪部材の加工面とは相違している。磁歪部材は、表面の加工方法によっては、部材表面に残留応力を与えてしまい、上記観察した磁区構造と違った磁区構造となり所定の磁歪特性が得られないことがある。本実施形態では、薄板部材での磁歪量を測定する面と磁歪部材となる表面は同一であるため、信頼性は向上する。歪みゲージ法の測定方法の詳細は、後述する。
【0031】
本実施形態において、磁歪量は平行磁歪量または垂直磁歪量を測定する。平行磁歪量または垂直磁歪量は、結晶方位の<100>方向の磁歪量であるのが好ましい。また、薄板部材は、上記したように薄板部材の主面が{100}面となるように切断されるのが好ましく、磁歪量の測定も単結晶の育成方向(結晶が育成される方向)に対し、垂直方向または平行方向に合わせることが好ましい。
【0032】
例えば、図2の(a)及び(b)に示すように、育成された単結晶より、結晶育成方向に対して平行方向に切断して得られた薄板部材の磁歪量を測定する場合、結晶育成方向の磁歪量を平行磁歪量としてもよい。薄板部材の磁歪量の測定は、面内において複数個所測定することが好ましい。図2の(a)及び(b)に示すような薄板部材では、結晶育成方向に対し垂直方向及び育成方向に所定の間隔でマトリックス状に測定することが薄板部材全体における磁歪量に関する状況が把握できるため好ましい。磁歪量を測定する間隔は、特に限定はない。例えば、5mm~30mm間隔で磁歪量を測定することが好ましい。磁歪量の測定は、特に育成方向で変化することが大きいため、育成方向においては、他の方向よりも狭い間隔で測定することが好ましい。なお、平行磁歪量と垂直磁歪量は、一般的に相関関係があり、平行磁歪量が低い場合は、垂直磁歪量が高くなり、平行磁歪量が高い場合、平行磁歪量は低くなる。
【0033】
図2で示す薄板部材の磁歪量の測定した結果の一例(実施例)を表1に示す。なお、磁歪量の測定は、結晶育成方向を平行磁歪量の測定方向とした。後に示す表1では、測定位置番号1~6の領域は、平行磁歪量が高位で安定していた。一方、測定位置番号7~14の領域は、平行磁歪量が低位で安定した。なお、表1には示さないが、薄板部材における中間または左右において、平行磁歪量にばらつきもみられた。この例では、測定位置番号1~14の領域において、平行磁歪量が高位又は低位で安定しており、この領域を磁歪部材として使用することが好ましい。なお、平行磁歪量と垂直磁歪量は、一般的に相関関係があり、平行磁歪量が低い場合は、垂直磁歪量が高くなり、平行磁歪量が高い場合、平行磁歪量は低くなる。測定位置番号7~14の領域では、平行磁歪量は低位で安定しているため、垂直磁歪量は高位で安定していることになる。
【0034】
磁歪量測定工程により、薄板部材の全体においての磁歪量の状況を正確に把握することができる。なお、磁歪量の測定は、薄板部材の両面を行ってもよいが、薄板部材の厚みは薄く表裏ほぼ同一であるため薄板部材の表裏面のうち1面のみを測定すれば、薄板部材の磁歪量を十分把握できる。薄板部材における磁歪量特性の傾向は、薄板部材における近傍の部分において同様の傾向を示す。この傾向のため、磁歪量の測定は、連続して切り出した薄板部材について1枚毎に行ってもよい。また、磁歪量の測定は、結晶における複数の異なる位置から選択された複数枚の薄板部材の磁歪量の測定し、その結果から結晶全体の磁歪量の分布を予測してもよい。例えば、結晶(結晶のインゴット)を複数の薄板部材としたときに、所定の間隔でサンプリングした薄板部材の磁磁歪量を測定し、その結果から結晶全体の磁歪量の分布をを予測してもよい。さらに、薄板部材ではなく、結晶の1面の磁歪量を測定してもよい。例えば、磁歪部材が板状ではなく、直方体等であれば、単結晶の1面の磁歪量を測定し、直方体の磁歪部材の切り出しを行う領域を把握することもできる。なお、磁歪量測定工程において磁歪量を測定する結晶(薄板部材)の一面の表面は非鏡面(鏡面以外の面)であるのが好ましく、ワイヤー放電加工面またはワイヤーソー加工面などの切断加工面であるのがより好ましい。また、磁歪量測定工程において磁歪量を測定する面と、磁歪部材の面は、同一の加工面であるのが好ましい。これにより、上記のような磁区観察方法で要求される鏡面加工が不要となる。
【0035】
磁歪量測定工程(ステップS3)の次に、切断工程(ステップS4)を実施する。切断工程は、薄板部材を切断して、本実施形態の磁歪部材を得る工程である。切断工程は、例えば、切断装置を用いて行う。切断装置は、特に限定されず、例えば、外周刃切断装置、ワイヤー放電加工機、ワイヤーソー等使用できる。
【0036】
切断工程では、上述の通り、薄板部材(結晶)の磁歪量を測定した結果より、磁歪部材を採取する方向が重要となる。切断工程では、磁歪量測定工程において、磁歪量を測定した結果に基づいて、平行磁歪量または垂直磁歪量の大きい方向が磁歪部材の長手方向となるように、薄板部材から磁歪部材を切断し切り出す。なお、本明細書において、「Xの方向が、長手方向となるように」とは、「Xの方向が、長手方向と平行、及び長手方向となす角が20度未満」を意味する。
【0037】
また、切断工程により得られる磁歪部材は、その表面が、磁歪量を測定した面と同一の加工面であるのが好ましい。これにより、磁歪量測定工程で測定した磁歪量が切断後の磁歪部材に、より確実に反映される。切断工程では、磁歪量測定工程において磁歪量を測定した結果、薄板部材において平行磁歪量または垂直磁歪量が安定している領域より磁歪部材を採取することがより好ましい。このような薄板部材の領域より磁歪部材を採取することで、磁歪部材の長手方向の平行磁歪量が高位で、部材間のばらつきの少ない磁歪部材を得ることができる。
【0038】
なお、切断工程では、磁歪部材の長手方向が磁化容易軸に対して平行となるように、薄板部材を切断することが、磁歪特性の観点から好ましい。切断工程により得る磁歪部材の形状は、本発明の趣旨を逸脱しないものであれば、特に限定されず、例えば、平面視において長方形状又は正方形状でもよいし、全体の形状が板状、円柱状、不定形のいずれでもよい。磁歪部材の形状は、平面視において長方形状である板状であるのが、磁歪特性の観点から好ましい。また、切断工程により得る磁歪部材の大きさも、本発明の趣旨を逸脱しないものであれば、特に限定されない。
【0039】
次に、本実施形態の磁歪部材について説明する。上記の本実施形態の磁歪部材の製造方法により、本実施形態の磁歪部材を得ることができる。図3は、本実施形態の磁歪部材の一例を示す図である。なお、本実施形態の磁歪部材及び上記磁歪部材の製造方法は、本明細書中の記載のうち適用可能な構成は適用されるものとする。
【0040】
本実施形態の磁歪部材1は、図3に示すように、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向D1及び短手方向D2を有する形状を薄板部材から切り出された磁歪部材であって、薄板部材において磁歪量が大きくなる方向が磁歪部材の長手方向D1となる。また、本実施形態の磁歪部材1は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向D1及び短手方向D2を有する形状の磁歪部材であって、磁歪部材の一面において、長手方向D1の平行磁歪量及び垂直磁歪量は、「長手方向の平行磁歪量(ppm)/垂直磁歪量(ppm)」の値が、大きいほど好ましいが、3.0以上であるのが好ましく、5.0以上であるのがより好ましく、7.0以上であるのがより好ましい。本実施形態の製造方法では、実施例に示すように、「長手方向の平行磁歪量(ppm)/垂直磁歪量(ppm)」が、上記範囲を満たす磁歪部材を製造することが可能となる。
【0041】
磁歪部材1の形状は、例えば図3に示すように、長手方向D1及び短手方向D2を有する板状体である。板状体は、例えば平面視において長方形状である。板状体は、表面(おもて面)2及び裏面3を有する。表面2及び裏面3は、互いに平行であるのが好ましいが、互いに平行でなくてもよい。なお、磁歪部材1は、後に説明するように、板状ではなく、長手方向D1及び短手方向D2を有する直方体や円柱などの棒状体であってもよい。図3等では、板状体の事例を説明する。
【0042】
磁歪部材1は、例えばエネルギーハーベスト分野の振動発電デバイス用の材料(部品)、ウェアラブル端末やセンサ類などの材料(部品)として使用される。例えば、上記の特許文献5に示すような磁歪式振動発電デバイスは、コイル、コイルに巻かれたFe-Ga合金の磁歪部材、ヨーク、及び、界磁用永久磁石により構成されている。この磁歪式振動発電デバイスは、デバイスの可動部であるヨークを振動させると、ヨークの中央部に固定された磁歪部材が連動して振動し、逆磁歪効果によって磁歪部材に巻かれたコイルの磁束密度が変化し、電磁誘導起電力が発生することにより発電する仕組みとなっている。このような仕組みで用いられる場合、磁歪部材1の形状は、薄板状であり、平面視において細長い長方形状に設定されることが好ましい。磁歪部材1の形状及び大きさは、目的とするデバイスの大きさに応じて適宜設定される。例えば、磁歪部材1の大きさは、長手方向D1の長さ(寸法)が16mm、短手方向D2の幅(寸法)が4mm、厚さが0.5mmである。
【0043】
なお、磁歪部材1の形状及び寸法は、それぞれ、特に限定されない。例えば、磁歪部材1は、平面視において長方形状でなくてもよく、例えば、磁歪部材1の形状は、平面視において、正方形状、楕円状、トラック状、不定形でもよい。また、磁歪部材1の形状は、板状体に限定されず、例えば円柱状でもよい。なお、磁歪部材1の形状が平面視において正方形状である場合等、長手方向D1と短手方向D2とが同じであってもよい。なお、磁歪部材1の形状が平面視において長方形状以外の場合等において、長手方向D1は長径方向、長軸方向等であり、短手方向D2は長手方向D1に直交する方向である。磁歪部材1の形状や寸法は、上記の薄板部材の形状及び切断工程により適宜設定可能である。
【0044】
また、磁歪部材1の長手方向D1の平行磁歪量は高いほど好ましいが、本実施形態の磁歪部材1では、長手方向D1の平行磁歪量を高位にすることができ、例えば、実施例で示すように、200ppm以上、より好ましくは250ppm以上、より好ましくは270ppm以上、とすることができる。また、磁歪部材1の長手方向に対する垂直磁歪量は低いほど好ましいが、例えば実施例に示すように、100ppm以下、より好ましくは70ppm以下、より好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下とすることができる。
【0045】
また、磁歪部材1の表面は、また、磁歪量測定工程において磁歪量を測定する面(薄板部材の面)と、同一の加工面であるのが好ましい。磁歪部材1の表面は、非鏡面であるのが好ましい。これにより、上記のような磁区観察方法で要求される鏡面加工が不要となる。
【0046】
以上のように、本実施形態の磁歪部材の製造方法は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向及び短手方向を有する形状の磁歪部材の製造方法であって、前記結晶の一面において平行磁歪量及び垂直磁歪量の磁歪量を測定することと、測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち磁歪量が大きくなる方向が、前記磁歪部材の前記長手方向となるように、前記結晶を切断することと、を含む。なお、本実施形態の磁歪部材の製造方法において、上記以外の構成は任意の構成である。本実施形態の磁歪部材の製造方法は、平行磁歪量が高く、部材間の平行磁歪量のばらつきが少ない特性を有する磁歪部材を容易かつ確実に製造することができる。本実施形態の製造方法では、薄板部材の加工面に直接ひずみゲージを貼り付けることで磁歪量を測定する。このため、特許文献6や特許文献7にある様に測定面を観察するために鏡面加工する必要が無く測定面の加工の必要がないため効率的に磁歪量を測定できる。さらに、特許文献7の測定は、部材表面を鏡面加工した時に磁区観察を行っており、実際に使用する磁歪部材の加工面とは相違している。磁歪部材は、表面の加工方法によっては、部材表面に残留応力を与えてしまい、上記観察した磁区構造と違った磁区構造となり所定の磁歪特性が得られないことがある。本実施形態では、薄板部材での磁歪量を測定する面と磁歪部材となる表面を同一とすることができ、信頼性を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態の磁歪部材は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなる薄板部材から長手方向及び短手方向を有する形状に切り出された磁歪部材であって、前記磁歪部材の前記長手方向は、前記薄板部材において測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち磁歪量が大きくなる方向である。また、本実施形態の磁歪部材は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、かつ、長手方向及び短手方向を有する形状の磁歪部材であって、前記磁歪部材の一面において、長手方向の平行磁歪量(ppm)/垂直磁歪量(ppm)は3.0以上である。なお、本実施形態の磁歪部材において、上記以外の構成は任意の構成である。本実施形態の磁歪部材は、平行磁歪量が高く、部材間における平行磁歪量のばらつきが少ない。本実施形態の磁歪部材は、本実施形態の磁歪部材の製造方法により、容易且つ確実に製造することができる。
【実施例0048】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない
【0049】
[実施例・比較例]
化学量論比で鉄とガリウムの比率81:19で原料を調整し、垂直ブリッジマン(VB)法で育成した円柱状のFe-Ga合金の単結晶インゴットを用意した。単結晶の育成軸方向は<100>とした。結晶育成軸方向に垂直な単結晶の上面または下面の{100}面をX線回折により方位確認した。なお、この時、島津シーケンシャル形プラズマ発光分析装置(ICPS-8100)で結晶の上面及び下面サンプルを測定した結果、単結晶の濃度は、ガリウムの含有量が17.5~19.0at%であった。
【0050】
次のようにして、育成した単結晶から磁歪部材を製造した。初めに、遊離砥粒式ワイヤーソー装置を用いて、単結晶育成方向に対し平行方向(<100>方位に対して平行)に単結晶を切断し、図2の(a)に示すような切断面すなわち主面が{100}である薄板部材を作製した。薄板部材の大きさは、長さ(育成方向)60mm、幅45mm、厚み0.5mmとし複数枚作製した。
【0051】
次いで、得られた複数の薄板部材より隣接する2枚を採取し、その磁歪量として平行磁歪量と垂直磁歪量を測定した。なお、平行磁歪量の測定方向は、単結晶育成方向とした。
【0052】
薄板部材における磁歪量の測定位置は、図4に示すように、育成終盤部分を薄板部材の上側として、薄板部材の上側端面より、5mm間隔で、下側へ、幅方向は、左右の端面より10mm内側の位置として、マトリックス状の各位置で、順次測定した。
【0053】
磁歪特性の測定は、歪みゲージ法で実施した。図5に示すように、製造した磁歪部材の主面である{100}面に、歪みゲージ(共和電業株式会社製)を接着剤により接着した。なお、歪みゲージの長手方向が磁歪の検出方向となるため、歪みゲージの長手方向を、磁歪部材の長手方向ならびに<100>方位と平行になるように接着した。
【0054】
磁歪測定器(共和電業株式会社製)は、ネオジム系の永久磁石、ブリッジボックス、コンパクトレコーディングシステム、ストレインユニット、ダイナミックデータ集録ソフトウェアで構成した。
【0055】
磁歪量は、実際の歪検出値をゲージ率で補正して決定した。
なお、ゲージ率は、下式の式(2)とした。
ε=2.00/Ks × εi ・・・式(2)
(ε:ゲージ率、 εi:測定ひずみ値、 Ks:使用ゲージのゲージ率)
【0056】
また、磁場方向が歪みゲージの長手方向に対して平行であるときの磁歪量を、平行磁歪量とした。一方で、磁場方向が歪みゲージ長手方向に対して垂直であるときの磁歪量を、垂直磁歪量とした。その結果を表1に示す。なお、実施例及び比較例の磁歪部材の磁歪定数は、250ppm以上で安定していた。平行磁歪量及び垂直磁歪量は、薄板部材の位置に依存して大きな変動があった。なお、薄板部材に関する測定は、隣接する2枚の薄板部材を測定しており、隣接する2枚の一方は表1の結果であり、他方も表1の結果とほぼ同一であった。
【0057】
次に、表1に示す薄板部材の平行磁歪量及び垂直磁歪量の測定を行った領域から、平行磁歪量及び垂直磁歪量の測定結果に基づいて、磁歪部材を切り出した。切り出す磁歪部材の大きさは、長手方向が16mm、短手方向が4mm、厚さ0.5mmとした。実施例では薄板部材において測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち大きくなる磁歪量が磁歪部材の長手方向となるように外周刃切断装置で切断した。
【0058】
比較例として、実施例で用いた薄板部材に隣接する他方の薄板部材の平行磁歪量及び垂直磁歪量の測定を行った領域から、平行磁歪量及び垂直磁歪量の測定結果に基づいて、測定した平行磁歪量及び垂直磁歪量のうち大きくなる磁歪量が磁歪部材の短手方向となるように、磁歪部材を切り出した。磁歪部材の大きさは、実施例と同じとし、長手方向が16mm、短手方向が4mm、厚さ0.5mmとした。
【0059】
次に、切り出した磁歪部材について磁歪特性を測定した。測定方法は、薄板部材の測定方法と同一である。なお、磁歪部材の長手方向を平行磁歪量とした。その結果を表1に示す。実施例では、磁歪部材の長手方向の平行磁歪量が250ppm以上と安定していることが確認できた。これに対し、比較例では、磁歪部材の長手方向の平行磁歪量が100ppm以下であり磁歪特性が低位となっていることがわかる。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、表1において、「磁歪部材の切出方向が育成方向」との表記は、磁歪部材の長手方向が育成方向となるように切り出したことを意味し、「磁歪部材の切出方向が径方向」との表記は、磁歪部材の切り出し方向が、育成方向と直交する方向であることを意味する。また、表1において、薄板部材の「測定位置番号」との表記は、薄板部材における磁歪量を測定した領域及び磁歪部材を切り出した領域を示し、測定位置番号が同じ番号である場合(例えば実施例1と比較例1)、薄板部材における磁歪量を測定した領域及び磁歪部材を切り出した領域が同様の領域であることを意味する。
【0062】
以上の実施例及び比較例の結果から、本発明の態様の磁歪部材の製造方法は、平行磁歪量が高く、部材間における平行磁歪量のばらつきが少なく、磁歪部材を容易かつ確実に磁歪部材を製造することができ、本発明の態様の磁歪部材は、平行磁歪量が高く、部材間における平行磁歪量のばらつきが少ないことが確認される。
【符号の説明】
【0063】
1・・・磁歪部材
2・・・表面
3・・・裏面
D1・・・長手方向
D2・・・短手方向
S1・・・結晶用意工程
S2・・・結晶切断工程
S3・・・磁歪量測定工程
S4・・・切断工程
図1
図2
図3
図4
図5