(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095371
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20230629BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G21/00 398
G03G21/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211212
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】大野 築
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
【Fターム(参考)】
2H033BA31
2H033CA02
2H033CA05
2H033CA06
2H033CA07
2H033CA34
2H033CA45
2H033CA46
2H033CA47
2H270KA46
2H270LA25
2H270MA35
2H270MC44
2H270MG01
2H270MG02
2H270ZC03
2H270ZC04
(57)【要約】
【課題】温度の異常が検知された場合であっても装置の動作継続を可能とし、ダウンタイムを低減可能な定着装置を提供する。
【解決手段】定着ローラ51と、定着ローラ51を加熱する加熱部材53と、定着ローラ表面の温度を検知する温度検知手段52と、交流電圧の所定数の周期を含む制御周期内の複数の半波期間毎に加熱部材53に供給する電力を制御し、加熱部材53の点灯率を変更する制御部54と、を有し、温度検知手段52aにより検知された定着ローラ表面の現在の温度と、一つ前の制御周期における温度との差分である温度差ΔTから温度検知手段52aの異常の有無を判定し、温度検知手段52aが異常を有すると判定された場合、装置の動作を停止せず、定着ローラ表面の平均温度を算出するための対象期間を変更することを特徴とする定着装置50。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着ローラと、前記定着ローラを加熱する加熱部材と、前記定着ローラ表面の温度を検知する温度検知手段と、交流電圧の所定数の周期を含む制御周期内の複数の半波期間毎に前記加熱部材に供給する電力を制御し、前記加熱部材の点灯率を変更する制御部と、を有し、
前記温度検知手段により検知された前記定着ローラ表面の現在の温度と、一つ前の制御周期における温度との差分である温度差ΔTから前記温度検知手段の異常の有無を判定し、
前記温度検知手段が異常を有すると判定された場合、装置の動作を停止せず、前記定着ローラ表面の平均温度を算出するための対象期間を変更することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記温度検知手段が異常を有すると判定された場合、前記温度検知手段が前記定着ローラ表面の平均温度を算出する対象期間を、前記温度差ΔTの値に応じて変更するとともに、
前記温度差ΔTの値に応じて単位時間当たりのコピー枚数を減少させる制御、及び前記加熱部材の点灯率を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記温度検知手段が異常を有すると判定された場合、単位時間当たりのコピー枚数を減少させるとともに、前記加熱部材の点灯率を、装置の動作状態に対応して予め定められた値とすることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記温度検知手段が異常を有すると判定された場合、ユーザ及びサービスマンへ通知する機能を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記温度差ΔTに対し、前記温度検知手段の異常の有無を判定する基準となる閾値は、温度上昇に対する上限値と、温度下降に対する下限値とを有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置では、用紙などの記録媒体に転写されたトナー像を加熱して定着させる定着装置を備えている。定着装置は、ハロゲンヒータなどの加熱部材を内蔵した定着部材と、該定着部材の表面温度を検知する温度センサ等を備え、さらに加熱部材の点灯制御を行う制御手段を備えている。
【0003】
定着装置の温度制御は、通常、温度センサが検知した温度をフィードバックすることにより行われるため、適切な制御のためには、加熱部材の昇温状態を精度よく、正確に検出する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、定着装置の定着ベルトの温度上昇の異常を検出する目的で、定着ベルトの温度を監視する温度センサにて検出された温度が、定着ベルトを回転開始した時に発生する温度落ち込みを観測し、定着ベルト回転を開始させた時の温度を基準とし、温度センサで計測された時間が閾値時間に達するか否かに基づいて昇温異常を検出する構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、定着部材の温度検出に用いられる温度センサの測定値は、ノイズ等の外乱による影響を低減するために、一定の周期で複数回取得した値を平均化したものを用いる方法が知られている。
【0006】
しかしながら、温度センサの故障等によりノイズが大きく乗った場合は、装置が正常な範囲にあっても昇温異常として検知されることがある。異常と判定された場合は、通常、定着装置を停止し、画像形成動作を停止する制御が行われる。
【0007】
特許文献1には、昇温異常が検知された場合、昇温動作が中止されることが記載されている。定着部材の温度上昇の異常を精度よく検出する技術においても、温度センサの不具合に起因してノイズが乗ったことで昇温異常と判定されれば、装置自体に問題が無い場合であっても装置の動作が停止し、装置を使用できない時間、いわゆるダウンタイムが発生してしまうという課題がある。
【0008】
そこで本発明は、温度の異常が検知された場合であっても装置の動作継続を可能とし、ダウンタイムを低減可能な定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の定着装置は、定着ローラと、前記定着ローラを加熱する加熱部材と、前記定着ローラ表面の温度を検知する温度検知手段と、交流電圧の所定数の周期を含む制御周期内の複数の半波期間毎に前記加熱部材に供給する電力を制御し、前記加熱部材の点灯率を変更する制御部と、を有し、前記温度検知手段により検知された前記定着ローラ表面の現在の温度と、一つ前の制御周期における温度との差分である温度差ΔTから前記温度検知手段の異常の有無を判定し、前記温度検知手段が異常を有すると判定された場合、装置の動作を停止せず、前記定着ローラ表面の平均温度を算出するための対象期間を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度の異常が検知された場合であっても装置の動作継続を可能とし、ダウンタイムを低減可能な定着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置の制御機構の要部を示すブロック図である。
【
図3】温度検知手段の出力の異常を説明するグラフである。
【
図4】立ち上げ時の温度検知手段の出力と目標温度を示すグラフである。
【
図5】立ち上げ時の温度検知手段の異常を検出する流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】待機状態移行時の温度検知手段の出力と目標温度を示すグラフである。
【
図7】待機状態移行時の温度検知手段の異常を検出する流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】ΔTの値により制御される平均温度算出期間、CPM、及びヒータの最大点灯率の一例を示す表である。
【
図9】正常時及び異常検出時における平均温度算出の対象期間の説明図である。
【
図10】制御周期におけるヒータの点灯パターンの例を示す図である。
【
図11】温度検知手段の異常時におけるヒータの固定点灯制御の例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の定着装置および画像形成装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成を示すブロック図である。
図1に示す画像形成装置100は、例えば、MFP、プリンタ、コピー機、またはFAXであるが、これらに限定されない。
図1に示すように、画像形成装置100は、シート状の記録媒体(例えば、転写紙等)に形成されている画像を光学的に読み取るスキャナ部10と、スキャナ部10で読み取った画像に対して所定の画像処理を施した後の画像に応じたトナー像を記録媒体に転写するエンジン部20と、記録媒体が格納される給紙トレイ30と、エンジン部20で記録媒体に転写されたトナー像を定着させるための本発明に係る定着装置50と、から構成されている。
【0014】
スキャナ部10は、原稿をスキャン露光することによって、原稿に含まれる画像や文書を画像信号に変換し、変換した画像信号をエンジン部20に出力する。
エンジン部20は、スキャナ部10から出力される画像信号に対して、色変換、階調補正などの画像処理を施す。エンジン部20は、画像処理を施した画像に応じて静電潜像を図示しない像担持体に作像し、作像した静電潜像にトナーを付着してトナー像を形成する。そして、エンジン部20は、形成したトナー像を給紙トレイ30から搬送路40を介して搬送された記録媒体に転写して、トナー像が転写された記録媒体を、搬送路40を介して定着装置50に向けて送り出す。
【0015】
定着装置50は、加熱部材を備えた一対の円筒状の定着部材である定着ローラ51a、51bにより、搬送路40を介してエンジン部20から送り出された記録媒体に転写されているトナー像を該記録媒体に定着させて、排紙トレイ60に向けて排紙する。
定着装置50において、一対の定着ローラ51a、51bが圧接状態で回転することで、記録媒体に転写されたトナー像を該記録媒体に定着させる。
定着ローラ51a、51bは、加熱対象物の一例であり、加熱部材は、一対の定着ローラ51a、51bの少なくともいずれかの内部に備えられている。
【0016】
図2は、
図1の定着装置50の定着ローラ51a、51bの少なくともいずれかが備える加熱部材(以下、「ヒータ」という)53の制御機構の一例を示すブロック図である。
図2に示す例において、制御機構は、定着装置50のヒータ53と、温度検知手段(以下、「温度センサ」という)52a、52bと、リレー55と、トライアック56と、制御部54と、ゼロクロス検知部57とを有する。ヒータ53は、本実施形態では定着ローラ51bの内部に配置されている。
【0017】
ヒータ53は、交流電源58から供給される電力に基づいて定着ローラ51a、51bを加熱し、記録媒体に転写されたトナー像を溶融させ、定着させる。
ヒータ53としては、例えば、点灯時に発生する放射熱によって加熱されるハロゲンランプ等が用いられる。
【0018】
交流電源58は、ヒータ53に供給する交流電圧を出力する。本実施形態では、交流電源58は、例えば、商用電源であり、時間とともに正弦波状に変化する交流電圧を負荷であるヒータ53に供給するものとする。
【0019】
トライアック56は、交流電源58からヒータ53に供給される交流電圧を、制御部54から指示されたタイミングでオン/オフする。ヒータ53は、トライアック56がオンしているときに通電状態になり発熱し、トライアック56がオフしているときに非通電状態になり、発熱を停止する。
【0020】
温度センサ52a、52bは、ヒータ53を内蔵する定着ローラ51bの表面温度を測定する。
温度センサ52a、52bとしては、例えば、赤外線を受光して温度を検知する非接触式の検出素子を用いることができ、例えば、サーモパイルが挙げられる。
温度センサ52aが検知した結果は、制御部54の温度検知部54aに入力される。
温度センサ52bは保護用であり、リレー55と接続されている。定着ローラ51bの表面温度を監視し、温度の異常が検知された場合、リレー55を遮断し、ヒータ53への電力供給をハード的に停止する。
【0021】
ゼロクロス検知部57は、交流電源58から供給される交流電圧が0ボルトをプラス側からマイナス側に横切るタイミングと、マイナス側からプラス側に横切るタイミングとであるゼロクロスタイミングを検知する。そして、ゼロクロス検知部57は、ゼロクロスタイミングを検知した場合、ゼロクロス検知信号を制御部54に出力する。
【0022】
制御部54は、温度検知部54a、ヒータ53の点灯率決定部54b、及びヒータ供給電圧制御部54cを有する。
温度検知部54aでは、入力された温度センサ52aの検知温度の情報に対し、センサ異常監視とノイズ除去処理(検出温度の平均化処理)が行われる。
温度検知部54aにおいて、温度センサ52aが一定時間(例えば、20ms)毎に検知した温度を、所定の周期(例えば、100ms)で平均化して得た値を、点灯率決定部54bにて用いる。
【0023】
点灯率決定部54b及びヒータ供給電圧制御部54cは、エンジン部20から送り出された記録媒体上のトナー像を定着させる場合に、定着ローラ51の表面温度を所定の目標温度に設定する制御を行う。点灯率決定部54b及びヒータ供給電圧制御部54cは、定着装置50に設けられる図示しないCPU(Central Processing Unit)がヒータ制御方法を実現するために実行するヒータ制御プログラムにより実現されてもよく、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0024】
点灯率決定部54bでは、温度検知部54aにて得られた定着ローラ51bの表面温度と目標温度に基づいて、交流電圧の制御周期毎に、ヒータ53への交流電圧の供給期間(ハロゲンランプの点灯期間)、すなわち点灯率を決定する。交流電圧の制御周期とは、例えば、2周期(2T)である。
点灯率決定部54bで算出された点灯率に基づき、トライアック56のオン/オフを制御し、ヒータ53を狙いの温度となるように制御する。
【0025】
以下では、制御周期毎にヒータ53に供給する供給電力量PSと、制御周期に供給可能な最大電力量Pmaxに対する比率PS/Pmaxである電力比を、点灯Duty(Do:0≦Do≦100%)という。
例えば、「点灯Duty50%」とは、制御周期の正弦波と0Vとで囲まれる面積のうち、50%の面積に相当する期間に交流電圧(電力)がヒータ52に供給されることを表す。
【0026】
点灯率決定部54bは、定着ローラ51bの表面温度に基づいて、定着ローラ51bの表面温度を所定の目標温度に設定するためにヒータ53に供給する供給電力量に対応する点灯Dutyを決定する。そして、点灯率決定部54bは、決定した点灯Dutyをヒータ供給電圧制御部54cに通知する。
なお、点灯率決定部54bは、定着ローラ51bの表面温度と点灯Dutyとの関係を記憶するテーブルを参照することで、定着ローラ51bの表面温度から点灯Dutyを決定してもよい。
【0027】
定着ローラ51bの表面温度に基づいて決定する点灯Dutyは、例えば、印刷動作の開始から終了までの間にヒータ53を点灯させるために使用される。例えば、定着ローラ51bの表面温度が低いときは、相対的に大きい点灯Dutyが選択され、供給電力量が増加され、これにより定着ローラ51bの表面温度が短時間で上昇する。また、印刷動作を繰り返し行って定着ローラ51bの表面温度が高くなっているときは、相対的に小さい点灯Dutyが選択され、供給電力量が少なくなる。
【0028】
ヒータ供給電圧制御部54cは、決定した点灯Dutyに対応するヒータ53の点灯パターンにしたがってトライアック56をオンまたはオフするタイミング信号をトライアック56に出力する。この際、ヒータ供給電圧制御部54cは、ゼロクロス検知部57が検知した交流電圧のゼロクロスタイミングを基準にして、トライアック56にタイミング信号を出力する。これにより、ヒータ53には、所望の点灯パターンに対応する導通角の交流電流が供給される。
【0029】
なお、点灯Duty毎に、制御周期内の4つの半波期間のそれぞれにおけるヒータ53への電圧供給時間を示す時間情報(点灯パターン)が記憶されたパターンテーブルを用いることができる。パターンテーブルは、定着装置50に設けられるCPUにより読み出し可能なROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等に記憶される。
ROMやRAMは、定着装置50内に設けられてもよく、定着装置50の外部に設けられてもよい。なお、ROMやRAMが定着装置50内に設けられる場合、ROMやRAMには、CPUが実行するヒータ制御のためのプログラムが格納されてもよい。
【0030】
ヒータ53に供給する交流電圧の制御周期におけるヒータ53の点灯パターンの例を
図10に示す。
図10(A)は点灯Dutyが40%の点灯パターン、
図10(B)は点灯Dutyが80%の点灯パターンの例を示しているが、点灯パターンはこれに限定されない。
制御部54は、交流電源58から供給される交流電圧の2周期(4半波)を制御周期として、ヒータ53に所定の導通角の交流電圧を供給する制御を実施する。
図10では、交流電源58がヒータ53に供給する電圧値を正弦波で表わしたもので、制御周期(2T)において、時間順に連続した交流電圧の4つの半波期間を、半波期間a、b、c、dで表している。
制御周期の値は限定されないが、例えば、交流電源58として50Hzの商用電源を用いる場合、制御周期(2T)を40msecとすることができる。
図中、色つきの領域は、電力がヒータ53に供給される期間を示す。この領域に対応するタイミングで、ヒータ供給電圧制御部54cからトライアック56にタイミング信号が出力される。
【0031】
図3は、待機状態から印刷開始後の温度センサの検知した値の変化を示したグラフである。温度センサとしてサーモパイルを用いた場合のグラフであり、
図3中「センサ出力A」は正常な出力、「センサ出力B」は異常な出力を示している。
サーモパイルには、データ処理のためのASIC(Application Specific Integrated Circuit)が搭載されているため、ASICの電源電圧のノイズに起因して、温度センサの出力値にノイズが乗り、「センサ出力B」に示すような異常出力となることがある。
【0032】
しかしながら、「センサ出力B」はノイズが大きいものの、目標温度に対する追従性を示しており、ノイズはヒータ等の被測定対象の故障を示唆するものではないと考えられる。センサ出力の示す異常値がヒータ等の故障ではなく、温度センサ側の不具合に起因するものであるとすれば、出力値の異常が検知されたことにより定着装置の動作を停止し、ダウンタイムを発生させることは好ましくない。
そこで、本発明に係る定着装置では、温度の異常が検知された場合に、以下のように温度センサ側の異常の有無を判定し、温度センサの異常であると判断されれば、定着装置の動作継続を可能とし、ダウンタイムを低減する。
【0033】
本発明に係る定着装置50は、一対の定着ローラ51a、51bと、定着ローラ51bを加熱する加熱部材53と、定着ローラ表面の温度を検知する温度検知手段(温度センサ)52a、52bと、交流電圧の所定数の周期を含む制御周期内の複数の半波期間毎に加熱部材(ヒータ)53に供給する電力を制御し、加熱部材53の点灯率を変更する制御部54と、を有し、温度検知手段52aにより検知された定着ローラ表面の現在の温度と、一つ前の制御周期における温度との差分である温度差ΔTから温度検知手段52aの異常の有無を判定し、温度検知手段52aが異常を有すると判定された場合、装置の動作を停止せず、定着ローラ表面の平均温度を算出するための対象期間を変更する。具体的には、定着ローラ表面の平均温度を算出するための対象期間を長くする。
これにより、ダウンタイムの低減を実現することができる。
【0034】
[温度センサの異常検出]
温度センサ52aの異常検出について、(1)装置の電源オンの後、装置の立ち上げ完了までの期間、及び(2)待機状態に移行後、再度ヒータ点灯までの期間、に実施する場合の例をそれぞれ説明する。
【0035】
(1)装置の電源オンの後、装置の立ち上げ完了までの期間
図4は、電源ONから装置の立ち上げ完了までの目標温度とセンサ出力を示したグラフである。センサ出力Cは、制御周期毎に検知された温度の変化を示すものであり、センサ出力Dはフィッティングにより得られた温度変化の曲線である。
図中「Th1」は、異常を判定する基準となる閾値を示している。
【0036】
図4のグラフのとおり、電源ONの直後は、定着ローラ51bが常温付近であるため、目標温度に到達するようにヒータ53を点灯させる。これにより検知される温度は上昇傾向となり、その上昇率は予測可能である。
温度差ΔTは、制御周期毎に検知された温度に基づき算出する。具体的には、現時点の周期をN(Nは整数)とした場合、N周期で検知された温度と、前の制御周期であるN-1周期において検知された温度との差分を算出することにより得られる。
【0037】
例えば、100msあたりの温度上昇の最大値を10℃とする。
ノイズによる変動範囲を±3℃、定着ローラ51bの温度ムラによる変動範囲を±5℃とした場合、15℃を超える温度上昇(ΔT>+15℃)を閾値として温度センサの異常を判定する。同様に、8℃を超える温度下降(ΔT<-8℃)を閾値として温度センサの異常を判定する。
このように、温度差ΔTに対し、温度センサ52aの異常の有無を判定する基準となる閾値は、温度上昇に対する上限値と、温度下降に対する下限値とを有する。
これらの閾値を所定回数(例えば、3回)以上超えた場合に、温度センサの異常として判定する。
【0038】
なお、温度センサ52aが異常を有すると判定された場合、ユーザ及びサービスマンへ通知する機能を有することが好ましい。
【0039】
図5は、立ち上げ時の温度検知手段の異常を検出する流れの一例を示すフローチャートである。
まず、装置の電源をONとして(ステップS001)、ヒータ53がON(点灯)したかを判断する(ステップS002)。ヒータ53が点灯した後、現在の検知温度と前制御周期の検知温度との差分ΔTを算出する(ステップS003)。これを立ち上げが完了するまで実行する(ステップS004)。
立ち上げ完了までの期間において、閾値、本実施形態では15℃を超える温度上昇(ΔT>+15℃)または8℃を超える温度下降(ΔT<-8℃)が3回以上検出されたかを判断する(S005)。閾値を超える温度変化が3回以上検出された場合は、温度センサ52aの異常であると判定し(ステップS006)、検出が3回未満であれば温度センサ52aは正常と判定する(ステップS007)。
なお、ステップS006において異常と判定された場合は、後述の異常検出時の制御に遷移する。
【0040】
なお、ステップS006において異常と判定された場合は、後述の異常検出時の制御に遷移するとともに、ユーザにその旨を表示手段等により通知する。また、装置が備える通知手段を用いてサービスマンに異常状態を伝える。
【0041】
(2)待機状態に移行後、再度ヒータ点灯までの期間、
図6は、通紙状態から待機状態へ移行した状態における目標温度とセンサ出力を示したグラフである。センサ出力Eは、制御周期毎に検知された温度の変化を示すものであり、センサ出力Fはフィッティングにより得られた温度変化の曲線である。
図中「Th2」は、異常を判定する基準となる閾値を示している。
【0042】
図6のグラフのとおり、通紙中の目標温度は高温(約150℃)であり、待機状態での目標温度は低温(約60℃)である。ヒータ53は待機状態に移行するとともにオフ(非点灯)となる。これにより検知される温度は下降傾向となり、その下降率は予測可能である。
温度差ΔTは、上記(1)と同様、制御周期毎に検知された温度に基づき算出する。具体的には、現時点の周期をN(Nは整数)とした場合、N周期で検知された温度と、前の制御周期であるN-1周期において検知された温度との差分を算出することにより得られる。
【0043】
例えば、100msあたりの温度下降の最大値を5℃とする。なお、待機状態下では定着ローラ51bの回転は停止し、温度ムラを考慮する必要がない。
ノイズによる変動範囲を±3℃とした場合、8℃を超える温度下降(ΔT<-8℃)を閾値として温度センサの異常を判定する。同様に、3℃を超える温度上昇(ΔT>+3℃)を閾値として温度センサの異常を判定する。
このように、温度差ΔTに対し、温度センサ52aの異常の有無を判定する基準となる閾値は、温度上昇に対する上限値と、温度下降に対する下限値とを有する。
これらの閾値を所定回数(例えば、3回)以上超えた場合に、温度センサの異常として判定する。
【0044】
図7は、待機状態移行時の温度検知手段の異常を検出する流れの一例を示すフローチャートである。
まず、通紙状態から待機状態へ移行し(ステップS101)、ヒータ53がオフ(非点灯)となったかを判断する(ステップS102)。ヒータ53がオフとなった後、現在の検知温度と前制御周期の検知温度との差分ΔTを算出する(ステップS103)。これを再度ヒータ53がオンとなるまで実行する(ステップS104)。
ヒータ53が再度点灯するまでの間、閾値、本実施形態では8℃を超える温度下降(ΔT<-8℃)または3℃を超える温度上昇(ΔT>+3℃)が3回以上検出されたかを判断する(S105)。閾値を超える温度変化が3回以上検出された場合は、温度センサ52aの異常であると判定し(ステップS106)、検出が3回未満であれば温度センサ52aは正常と判定する(ステップS107)。
【0045】
なお、ステップS106において異常と判定された場合は、後述の異常検出時の制御に遷移するとともに、ユーザにその旨を表示手段等により通知する。また、装置が備える通知手段を用いてサービスマンに異常状態を伝える。
【0046】
[温度センサの異常検出後の制御]
温度センサ52aが異常を有すると判定された後の制御としては、温度センサ52aが定着ローラ表面の平均温度を算出する対象期間を、温度差ΔTの値に応じて変更するとともに、温度差ΔTの値に応じて単位時間当たりのコピー枚数を減少させる制御、及びヒータ53の点灯率を低下させる制御を行う第一の実施形態と、単位時間当たりのコピー枚数を減少させるとともに、ヒータ53の点灯率を、装置の動作状態に対応して予め定められた値とする第二の実施形態が挙げられる。
【0047】
1)第一の実施形態
温度センサの異常が検出された場合の制御の第一の実施形態では、(1)平均温度算出の対象期間、(2)単位時間当たりのコピー枚数(CPM)、及び(3)ヒータの最大点灯率を、現在の検知温度と前制御周期の検知温度との差分ΔTの値に応じて変更する。
図8は、本実施形態においてΔTの値に応じて制御される(1)平均温度算出の対象期間(平均期間)、(2)単位時間当たりのコピー枚数(CPM)、及び(3)ヒータの最大点灯率の値の一例を示す表である。
【0048】
(1)平均温度算出の対象期間
図9に、正常時及び異常検出時における平均温度算出の対象期間の説明を示す。
図9(A)に示すように、温度センサに異常がみられない通常時(
図8の例:ΔT=0~10℃)の制御では、温度検知部54aにおいて、温度センサ52aが一定時間(20ms)毎に検知した温度Tm1を、所定の周期(100ms)で平均化し、平均温度Tm2を算出する。
一方、
図9(B)に示すように、正常の範囲を超えるΔT=10~20℃の場合は、温度検知部54aにおいて、温度センサ52aが一定時間(20ms)毎に検知した温度Tm3を、所定の周期(400ms)で平均化し、平均温度Tm4を算出する。
同様に、ΔT=20~30℃の場合は平均化の周期を1000msとする。
ΔTの値が大きい程ノイズが大きいと考えられるため、平均温度算出の対象期間を長くすることにより、ノイズの影響を低減(ノイズ除去)することができる。
【0049】
(2)単位時間当たりのコピー枚数(CPM:Copy per Minutes)
上記(1)の平均温度算出の対象期間を長く設定すると、温度追従性が低下するため、温度リップルの原因となり、印刷品質の低下を招くおそれがある。
そこで、印刷品質の低下を防止するために、単位時間当たりのコピー枚数を減少させる(CPMダウン)制御を行う。
図8に示すように、温度センサに異常がみられない通常時(ΔT=0~10℃)のCPMは60ppm(Pages Per Minute)である。これに対し、ΔT=10~20℃の場合はCPMを15ppmに低下させ、ΔT=20~30℃の場合はCPMを10ppmに低下させる。
【0050】
温度センサ52aが異常と判定された場合にも印刷動作を実施するが、CPMダウン制御を行うため、装置の表示手段等によりその旨をユーザに通知することが好ましい。また、サービスマンにも通知を行い、次回のメンテナンス時にCPMの設定を正常時のものとなるようにすることが好ましい。
【0051】
(3)ヒータの最大点灯率
上記(1)の平均温度算出の対象期間を長く設定すると、温度追従性が低下するため、ヒータ53による急激な温度上昇が生じた場合、点灯過剰となり装置の出火等を招くおそれがある。
そこで、ヒータ53の最大点灯率を低くすることにより、急激な温度上昇を予め防止することができる。
ヒータ53の点灯率は、点灯率決定部54bにおいて交流電圧の制御周期毎に決定される。例えば、交流電圧の制御周期を2周期(2T)とした場合、点灯Dutyを40%、80%とすると、
図10に示すように電力を供給し、ヒータ53を点灯させる。
【0052】
図8に示すように、温度センサに異常がみられない通常時(ΔT=0~10℃)の最大点灯率は100%である。これに対し、ΔT=10~20℃の場合は最大点灯率を50%に低下させ、ΔT=20~30℃の場合は最大点灯率を30%に低下させる。
ヒータの最大点灯率は点灯Dutyの最大値であり、設定された点灯Duty以上の点灯を行わないように制御される。すなわち、ΔT=10~20℃の場合は点灯Duty50%以上の点灯は行われず、ΔT=20~30℃の場合は点灯Duty30%以上の点灯は行われない。
【0053】
温度センサ52aが定着ローラ表面の平均温度を算出する対象期間を、温度差ΔTの値に応じて変更するとともに、温度差ΔTの値に応じてCPMダウン制御、及びヒータ53の点灯率を低下させる制御を行う第一の実施形態によれば、平均温度を算出するための対象期間を長くすることで温度追従性が低下しても、印刷品質の低下を防止することができる。
【0054】
2)第二の実施形態
温度センサの異常が検出された場合の制御の第二の実施形態では、現在の検知温度と前制御周期の検知温度との差分ΔTの値を用いず、定着装置の動作の状態に応じてヒータ53が所定の点灯Dutyとなるように固定点灯制御を行う。
【0055】
固定点灯制御では、検知された温度を使用しないため、定着ローラ51bの温度を高精度に狙いの温度に調節することが困難である。そこで、予め単位時間当たりのコピー枚数を減少(CPMダウン)させることにより、温度リップルが発生しても制御可能とする。なお、CPMダウンのレベルも固定とする。
【0056】
図11は、温度検知手段の異常時におけるヒータの固定点灯制御の例を示す表である。なお、本実施形態の例では、CPMを10ppmに設定している。
定着装置の待機状態ではヒータ53を点灯しない(点灯Dutyは0%)。
定着装置内における通紙開始を開始する前の「通紙準備」状態では、点灯Dutyを20%として一定期間ヒータ53を点灯する。次に、通紙を開始し、定着ローラ51に記録媒体が到達する前の「通紙前」状態では、点灯Dutyを30%とする。定着ローラ51に記録媒体が到達すると、記録媒体に熱を奪われて定着ローラ51の温度の低下が生じるため、高い点灯Dutyでヒータ53を点灯させる。そして、定着ローラ51のニップを記録媒体が通過する「通紙中」状態では、点灯Dutyを25%とする。
通紙後、待機状態に戻った場合は、点灯Dutyも待機状態の0%とする。
このように固定点灯制御を行うことにより、定着ローラ51bの温度の監視を行うことなく、印刷動作の継続が可能となる。
【0057】
以上の構成により、本実施形態の定着装置では、温度の異常が検知された場合であっても装置の動作継続が可能となるため、ダウンタイムを低減することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 スキャナ部
20 エンジン部
30 給紙トレイ
40 搬送経路
50 定着装置
51a、51b 定着ローラ
52a、52b 温度検知手段(温度センサ)
53 加熱部材(ヒータ)
54 制御部
54a 温度検知部
54b 点灯率決定部
54c ヒータ供給電圧制御部
55 リレー
56 トライアック
57 ゼロクロス検知部
58 交流電源
60 排紙トレイ
100 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】