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特開2023-95382フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095382
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20230629BHJP
   G01N 21/84 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N21/892 A
G01N21/84 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211231
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510284200
【氏名又は名称】伊藤忠マシンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀公
(72)【発明者】
【氏名】波多野 拓
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA41
2G051AB01
2G051AB07
2G051BA10
2G051BA11
2G051BA20
2G051BB01
2G051BB07
2G051CA03
2G051CA06
2G051CB01
2G051CC07
2G051DA06
(57)【要約】
【課題】高速で連続的に搬送されるフィルムについて、フィルムの表面欠陥の検査を、高い検出感度で行うことができる、フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置。
【解決手段】搬送経路において連続的に搬送されるフィルムの表面欠陥の検査方法であって、前記搬送経路の一部である支持領域において、前記フィルムの一方の表面を、浮上搬送装置で支持する工程であって、前記浮上搬送装置による支持が、前記浮上搬送装置の搬送表面から前記フィルムに気体を噴出させることを含む工程(I)、及び前記支持領域内の観察位置において、前記フィルムの他方の表面である観察側表面を観察し、前記観察側表面における前記表面欠陥を検出する工程(II)を含む、検査方法。当該方法を実施するための検査装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路において連続的に搬送されるフィルムの表面欠陥の検査方法であって、
前記搬送経路の一部である支持領域において、前記フィルムの一方の表面を、浮上搬送装置で支持する工程であって、前記浮上搬送装置による支持が、前記浮上搬送装置の搬送表面から前記フィルムに気体を噴出させることを含む工程(I)、及び
前記支持領域内の観察位置において、前記フィルムの他方の表面である観察側表面を観察し、前記観察側表面における前記表面欠陥を検出する工程(II)
を含む、検査方法。
【請求項2】
前記工程(II)が、
前記観察側表面に、入射光としての光を照射する工程(II-1)、及び
前記観察側表面において反射した反射光を検出する工程(II-2)を含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記入射光の入射角が、60°以上90°未満であり、且つ
前記入射光、前記反射光又はこれらの両方が、S偏光である、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記工程(II-1)を行う光照射器及び前記工程(II-2)を行う光検出器の一方が前記搬送経路の上流側に位置し、他方が下流側に位置し、前記観察位置における搬送方向に平行な線上に沿って整列するよう配置される、請求項2又は3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記観察位置における、前記浮上搬送装置の前記搬送表面と、前記フィルムとの距離が、1mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記気体の噴出量が、20mL/分・cm以上、500mL/分・cm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記浮上搬送装置の前記搬送表面が、断面弧状の形状を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項8】
前記工程(II)において検出される前記表面欠陥が、前記フィルムの前記観察側表面の凹凸形状を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項9】
前記フィルムの搬送が、速度10m/min以上200m/min以下で行われる、請求項1~8のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項10】
搬送経路において連続的に搬送されるフィルムの表面欠陥の検査装置であって、
前記搬送経路の一部である支持領域において、前記フィルムの一方の表面を支持する浮上搬送装置であって、その搬送表面から前記フィルムに気体を噴出させる、浮上搬送装置、及び
前記支持領域内の観察位置において、前記フィルムの他方の表面である観察側表面を観察し、前記観察側表面における前記表面欠陥を検出する、観察装置
を含む、検査装置。
【請求項11】
前記観察装置が、
前記観察側表面に入射光としての光を照射する光照射器、及び
前記観察側表面において反射した反射光を検出する光検出器を含む、請求項10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記光照射器が、前記入射光の入射角が60°以上90°未満となるよう設けられ、且つ
前記光照射器がS偏光を照射する照射器であるか、前記光検出器がS偏光を検出する検出器であるか、又は前記光照射器がS偏光を照射する照射器であり且つ前記光検出器がS偏光を検出する検出器である、請求項11に記載の検査装置。
【請求項13】
前記光照射器及び前記光検出器の一方が前記搬送経路の上流側に位置し、他方が下流側に位置し、前記観察位置における搬送方向に平行な線上に沿って整列するよう配置される、請求項11又は12に記載の検査装置。
【請求項14】
前記浮上搬送装置の前記搬送表面が、断面弧状の形状を有する、請求項10~13のいずれか1項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム等の検査対象の表面に存在する欠陥を検査する方法として、特許文献1~6の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-097873号公報
【特許文献2】特開2001-194313号公報
【特許文献3】特開2009-139355号公報
【特許文献4】特開2017-067664号公報
【特許文献5】特開2006-098090号公報
【特許文献6】特開2003-344301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルムの製造ライン又はフィルムを用いて製品を製造する製造ラインにおいて、高速で連続的に搬送されるフィルムについて、フィルムの表面の欠陥の検査を有効に行うことができれば、これらの製造の効率を向上させることができる。しかしながら、高速なフィルム製造ラインにおいては、欠陥を高い検出感度で検出することが困難であった。具体的には、静止した状態で目視により検査した場合に比べて、見逃してしまう欠陥の数が多く発生しうる。
【0005】
特に、フィルムの表面の欠陥の検査に際しては、フィルムの表面での光の反射を利用して欠陥を検出することが行われるが、そのような光の反射を利用した表面欠陥の検査では、連続的に搬送されるフィルムの表面欠陥を、静止した状態での目視での検査と同等の感度で検出することが特に困難であった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、高速で連続的に搬送されるフィルムについて、フィルムの表面欠陥の検査を、高い検出感度で行うことができる、フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するべく検討した結果、検査対象のフィルムの一方の表面を特定の態様で支持することにより、前記課題を解決できることを見出した。本発明者はさらに、そのような態様で支持されたフィルムを、特定の反射光を利用した観察方法で観察すると、フィルムの表面欠陥の検査を特に好ましい態様で行うことができることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づき、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0008】
〔1〕 搬送経路において連続的に搬送されるフィルムの表面欠陥の検査方法であって、
前記搬送経路の一部である支持領域において、前記フィルムの一方の表面を、浮上搬送装置で支持する工程であって、前記浮上搬送装置による支持が、前記浮上搬送装置の搬送表面から前記フィルムに気体を噴出させることを含む工程(I)、及び
前記支持領域内の観察位置において、前記フィルムの他方の表面である観察側表面を観察し、前記観察側表面における前記表面欠陥を検出する工程(II)
を含む、検査方法。
〔2〕 前記工程(II)が、
前記観察側表面に、入射光としての光を照射する工程(II-1)、及び
前記観察側表面において反射した反射光を検出する工程(II-2)を含む、〔1〕に記載の検査方法。
〔3〕 前記入射光の入射角が、60°以上90°未満であり、且つ
前記入射光、前記反射光又はこれらの両方が、S偏光である、〔1〕又は〔2〕に記載の検査方法。
〔4〕 前記光照射器及び前記光検出器の一方が前記搬送経路の上流側に位置し、他方が下流側に位置し、前記観察位置における前記搬送方向に平行な線上に沿って整列するよう配置される、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔5〕 前記観察位置における、前記浮上搬送装置の前記搬送表面と、前記フィルムとの距離が、1mm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔6〕 前記気体の噴出量が、20mL/分・cm以上、500mL/分・cm以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔7〕 前記浮上搬送装置の前記搬送表面が、断面弧状の形状を有する、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔8〕 前記工程(II)において検出される前記表面欠陥が、前記フィルムの前記観察側表面の凹凸形状を含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔9〕 前記フィルムの搬送が、速度10m/min以上200m/min以下で行われる、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔10〕 搬送経路において連続的に搬送されるフィルムの表面欠陥の検査装置であって、
前記搬送経路の一部である支持領域において、前記フィルムの一方の表面を支持する浮上搬送装置であって、その搬送表面から前記フィルムに気体を噴出させる、浮上搬送装置、及び
前記支持領域内の観察位置において、前記フィルムの他方の表面である観察側表面を観察し、前記観察側表面における前記表面欠陥を検出する、観察装置
を含む、検査装置。
〔11〕 前記観察装置が、
前記観察側表面に入射光としての光を照射する光照射器、及び
前記観察側表面において反射した反射光を検出する光検出器を含む、〔10〕に記載の検査装置。
〔12〕 前記光照射器が、前記入射光の入射角が60°以上90°未満となるよう設けられ、且つ
前記光照射器がS偏光を照射する照射器であるか、前記光検出器がS偏光を検出する検出器であるか、又は前記光照射器がS偏光を照射する照射器であり且つ前記光検出器がS偏光を検出する検出器である、〔10〕又は〔11〕に記載の検査装置。
〔13〕 前記光照射器及び前記光検出器の一方が前記搬送経路の上流側に位置し、他方が下流側に位置し、前記観察位置における前記搬送方向に平行な線上に沿って整列するよう配置される、〔10〕~〔12〕のいずれか1項に記載の検査装置。
〔14〕 前記浮上搬送装置の前記搬送表面が、断面弧状の形状を有する、〔10〕~〔13〕のいずれか1項に記載の検査装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高速で連続的に搬送されるフィルムについて、フィルムの表面欠陥の検査を、高い検出感度で行うことができる、フィルムの表面欠陥の検査方法及び検査装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の検査装置、及び当該検査装置を用いた本発明の検査方法の実施の一例を概略的に示す側面図である。
図2図2は、本発明の検査装置、及び当該検査装置を用いた本発明の検査方法の実施の一例を概略的に示す上面図である。
図3図3は、屈折率がおよそ1.53である樹脂層を空気中に置き、様々な入射角でS偏光又はP偏光を樹脂層に照射した際の、入射角と反射率との関係を示すグラフである。
図4図4は、比較例の検査装置、及び当該検査装置を用いた検査方法の実施の一例を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0013】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0014】
長尺のフィルムの搬送方向は、通常フィルムの長手方向と一致し、またフィルムの幅方向は、通常フィルムの搬送方向と直交する。
【0015】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の文言は、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
以下の説明において、「(メタ)アクリレート」の文言は、「アクリレート」、「メタクリレート」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0016】
〔検査対象のフィルム〕
本発明の検査方法では、フィルムを検査対象物とする。当該フィルムは、透明樹脂層を含むフィルムとしうる。フィルムは、透明樹脂層のみからなるものであってもよく、透明樹脂層とそれ以外の任意の層とを含むものであってもよい。フィルムが、透明樹脂層とそれ以外の任意の層とを含むフィルムである場合、本発明の検査方法の検査対象面は、透明樹脂層側の表面としうる。その場合、透明樹脂層は、検査対象のフィルムの表面に配置されている。すなわち、透明樹脂層の少なくとも一つの主面は、露出している。本発明の検査方法によれば、フィルムが透明樹脂層以外の任意の層を含む場合であっても、露出した透明樹脂層の表面に存在する欠陥を、良好な態様で検査できる。特に、フィルム表面の観察の工程において反射光を利用する場合、透明樹脂層の表面欠陥の検査を、特に良好な態様で行いうる。
【0017】
透明樹脂層の全光線透過率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上であり、通常100%以下である。透明樹脂層の厚みは任意であり、例えば、5μm以上200μm以下であってよい。
【0018】
透明樹脂層は、樹脂から形成された層であり、透明樹脂層を形成する樹脂は、通常重合体を含む。樹脂に含まれうる重合体の例としては、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN))、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、セルロース系重合体、及び脂環式構造を含有する重合体が挙げられる。樹脂に含まれうる重合体は、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。また、共重合体は、ランダム重合体であっても、ブロック重合体であってもよい。
樹脂は、重合体を、一種単独で含んでいてもよく、二種以上の任意の比率の組み合わせとして含んでいてもよい。
【0019】
脂環式構造を含有する重合体とは、脂環式構造を有する繰り返し単位を含む重合体であり、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物などが挙げられる。
【0020】
透明樹脂層を形成する樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、脂環式構造を含有する重合体を含む熱可塑性樹脂であることがより好ましい。
【0021】
透明樹脂層を形成する樹脂の屈折率は、任意であるが、例えば、1.1以上、1.2以上、1.3以上であってよく、例えば、2.0以下、1.9以下、1.8以下であってよい。
【0022】
一実施形態において、検査対象のフィルムは、透明樹脂層と、前記透明樹脂層に接するように配置された保護層とを含むフィルムとしうる。保護層を形成する材料は、任意であり、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂であってよい。保護層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。保護層は、例えば、粘着性を有する粘着層と樹脂層とを含む多層フィルムであってもよい。フィルムは、透明樹脂層と前記保護層の樹脂層とが、粘着層を介して貼り合わされているものであってもよい。
【0023】
保護層の表面には、フィルムのブロッキングを抑制するために、マット処理などが施されていてもよい。
【0024】
任意の層のヘイズ値は特に限定されない。任意の層のヘイズは高くてもよく、例えば30%以上であってよく、通常100%以下である。任意の層のヘイズは低くてもよく、例えば10%以下であってよく、通常0%以上である。特に、表面に配置された透明樹脂層に存在する欠陥を、透明樹脂層の反射光を検出することによって検査する場合、検査結果が任意の層のヘイズ値による影響を受けにくいので、本発明の検査方法を特に有用に適用することができる。具体的には、露出する透明樹脂層の表面に存在する欠陥を、小さいノイズで検出できる。特に、検査対象が透明樹脂層と任意の層とを含むフィルムである場合、検査対象とは別の表面である任意の層の表面に存在する欠陥を誤って検出する程度を低減することができる。よって、検査対象である、露出する透明樹脂層の表面に存在する欠陥を、小さいノイズで検出できる。
【0025】
検査対象のフィルムは、枚葉であってもよく、長尺のフィルムであってもよい。本発明の検査方法によれば、フィルムを高速で搬送しながら感度良くフィルムの表面欠陥を検査できるので、長尺のフィルムを、本発明の検査方法に好ましく供することができる。
【0026】
検査対象フィルムの幅は、特に限定されないが、例えば、500mm~4000mmとしうる。
【0027】
〔表面欠陥〕
本実施形態の検査方法では、フィルムの表面欠陥を検査する。表面欠陥とは、フィルムの表面に存在する不所望な特徴であり、主に、フィルムの表面に存在する所望としない凹凸形状が含まれる。表面欠陥は、例えば、突出部、凹み、線状の傷、これらが組み合わされたものでありうる。表面欠陥が生じる原因は、特に限定されず、本実施形態の検査方法では、任意の原因による表面欠陥を検査できる。例えば、異物を含んだ保護層を含むフィルムをロールの形態とした場合に、異物によりフィルムの透明樹脂層の表面に、突出部と、突出部を囲む凹みとからなる欠陥(打痕ともいう。)が生じることがあり、本実施形態の検査方法では、かかる表面欠陥を好適に検査できる。
【0028】
表面欠陥の、フィルム面方向の大きさ及びフィルム厚み方向の大きさは特に限定されない。検査される突出部の高さは、例えば0.01μm~10μmである。検査される凹みの深さは、例えば0.01μm~10μmである。検査される線状の傷の長さは、例えば5μm~5000μmである。
【0029】
〔検査方法及び装置の概要〕
本発明の検査方法は、搬送経路において連続的に搬送されるフィルムの表面欠陥の検査方法であって、下記工程(I)及び(II)を含む。工程(I)及び工程(II)は、通常空気中で行う。
工程(I):搬送経路の一部である支持領域において、フィルムの一方の表面を、浮上搬送装置で支持する工程。
工程(II):支持領域内の観察位置において、フィルムの他方の表面である観察側表面を観察し、観察側表面における表面欠陥を検出する工程。
本発明の検査方法は、特定の検査装置を用いて行いうる。以下においては、この装置を、本発明の検査装置として説明する。
【0030】
〔搬送経路〕
図1及び図2は、本発明の検査装置、及び当該検査装置を用いた本発明の検査方法の実施の一例を概略的に示す側面図及び上面図である。図1及び図2の例において、検査装置100は、検査対象であるフィルム10を搬送するための搬送ロール101及び搬送ロール102を備える。検査装置100はさらに、搬送ロール101及び102の間に設けられる浮上搬送装置130を含む。これらの搬送ロール及び浮上搬送装置によりフィルム10が矢印A1方向に搬送され、搬送経路が構成される。
【0031】
搬送経路におけるフィルムの搬送速度は、好ましくは10m/min以上、より好ましくは50m/min以上、更に好ましくは80m/min以上である。搬送速度の上限は、データのサンプリング間隔、所望とする分解能などに応じて設定できるが、例えば200m/min以下であってもよい。
【0032】
〔浮上搬送装置:工程(I)〕
浮上搬送装置は、搬送経路の一部である支持領域において、フィルムの一方の表面を支持する浮上搬送装置である。浮上搬送装置は、その搬送表面からフィルムに気体を噴出させる装置である。本発明の検査方法の工程(I)では、搬送経路の一部である支持領域において、フィルムの一方の表面を、浮上搬送装置で支持する。ここで浮上搬送装置による支持は、浮上搬送装置の搬送表面からフィルムに気体を噴出させることを含む。
【0033】
図1及び図2の例において、浮上搬送装置130は、その上側に、搬送表面131を有する。搬送表面131は、断面が弧状で凸状の形状を有する。搬送表面131は、気体を噴出しうる複数の微細な噴出孔を備える。浮上搬送装置130は、この搬送表面131の噴出孔から気体を噴出することにより、フィルム10を支持し、上側の方向に付勢する。一方、浮上搬送装置130の直近の上流及び下流に位置する搬送ロール101及び102の間において、フィルム10に張力を付与することにより、フィルム10は、浮上搬送装置130とは反対の方向即ち下側の方向に付勢される。これらの上側への付勢と下側への付勢のバランスがとられた状態でフィルム10を搬送することにより、浮上搬送装置130がフィルム10とは離隔し非接触の状態を保ったまま、フィルム10を搬送経路において支持し、フィルム10の安定した搬送を実現することができる。
【0034】
搬送表面131は、中心線131Cを中心とする断面弧状の曲面であり、中心線131Cは、搬送されるフィルム10の幅方向と平行な方向に配置される。その場合、フィルム10の搬送方向に平行な面による搬送表面の断面が弧状の形状となる。搬送表面が断面弧状の曲面である場合、その半径は、円滑なフィルムの搬送を行う観点からは、ある程度以上大きいことが好ましい。一方装置の小型化の観点からは、ある程度以上小さいことが好ましい。具体的には、半径の下限は、好ましくは20mm以上、より好ましくは40mm以上としうる。一方半径の上限は、好ましくは500mm以下、より好ましくは200mm以下としうる。また、断面弧状の曲面の中心線は、通常は搬送されるフィルムの幅方向と平行な方向に配置されるが、これに限られず、フィルム幅方向に対して斜め方向であってもよい。
【0035】
搬送経路において、浮上搬送装置により支持されるフィルムの領域は、支持領域として規定される。図1及び図2の例では、フィルム10の搬送経路は、断面弧状の搬送表面131において、抱き角θで随伴している。この抱き角θの角度範囲内の領域が、支持領域131となる。θの大きさは、好ましくは30°以上であり、一方好ましくは180°以下である。
【0036】
浮上搬送装置の搬送表面における、気体の噴出量は、上に述べた搬送表面とフィルムとの距離を、所望の範囲に安定して保ちうるよう適宜調整しうる。具体的には、気体の噴出量は、好ましくは40mL/分・cm以上、より好ましくは60mL/分・cm以上であり、一方好ましくは300mL/分・cm以下、より好ましくは200mL/分・cm以下としうる。
【0037】
工程(II)の観察を行う観察位置における、浮上搬送装置の搬送表面とフィルムの浮上搬送装置側の表面との間の距離は、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.8mm以下に制御しうる。かかる距離を短くすることにより、安定した搬送を行うことができる。一方、フィルムと搬送表面との意図されない接触の発生を防止する観点から、搬送表面とフィルムとの距離は、好ましくは0.05mm以上に制御しうる。かかる距離の調整は、上に述べた気体の噴出量を調整するのに加えて、浮上搬送装置上の搬送経路においてフィルム長手方向に負荷される張力を調整することにより、容易に行いうる。
【0038】
〔観察装置:工程(II)〕
本発明の検査装置は、観察装置を含む。観察装置は、支持領域内の観察位置において、フィルムの観察側表面を観察し、観察側表面の欠陥を検出する装置である。本発明の検査方法の工程(II)では、支持領域内の観察位置において、フィルムの観察側表面を観察し、観察側表面の欠陥を検出する。観察側表面は、フィルムの、浮上搬送装置により支持される側の表面とは反対側の表面である。
【0039】
好ましい例において、観察装置は、フィルムの観察側表面に入射光としての光を照射する光照射器、及びフィルムの観察側表面において反射した反射光を検出する光検出器を含む。そして本発明の検査方法の工程(II)は、好ましくは下記工程(II-1)及び(II-2)を含む。
工程(II-1):フィルムの観察側表面に、入射光としての光を照射する工程。
工程(II-2):フィルムの観察側表面において反射した反射光を検出する工程。
【0040】
図1及び図2の例において、検査装置100は、フィルム10の上側の面からフィルム10の観察側表面を観察し、観察側表面の欠陥を検出する観察装置190を含む。観察装置190は、光照射器110及び光検出器120を含む。光照射器110は、フィルム10の表面に、入射光としての光を照射する装置であり、光検出器120は、フィルム10の観察側表面において反射した反射光を検出する装置である。光照射器110を用いてフィルム10の観察位置P1に光を照射させることにより、工程(II-1)を実施しうる。一方、かかる照射の結果反射した反射光を、光検出器120で検出することにより工程(II-2)を実施しうる。
【0041】
光照射器110は、出光部111を備える。出光部111は、光照射器110の外部に、光路L1に沿って光を照射する部材である。出光部111は、光源を備えうる。光源は、特に限定されず既知の光源を適宜選択して採用しうる。光源の例としては、レーザー光源及び発光ダイオード光源が挙げられる。出光部111はまた、光源からの光を誘導する光ファイバー又は導光板等の導光器を含みうる。
【0042】
この例において出光部111は、所謂線状光源である。即ち、出光部111から出射される光の態様は、線状の発光体が発光する態様となる。線状光源は、好ましくは観察位置P1におけるフィルム10の観察側表面と平行な方向に延長するよう配置される。かかる方向に線状光源を配置することにより、フィルム10の幅方向の広い領域にわたって、フィルムの表面欠陥の検査を行うことができる。線状光源の太さは、表面欠陥の検出感度を高くする観点から、できるだけ細くすることが好ましい。具体的には、線状光源の太さは、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下であり、通常0mmより大きい。出光部111から観察位置P1までの距離は、フィルム10に入射する光を、線状光源の長さ方向(即ち図1及び図2の例では、搬送されるフィルム10の幅方向)全体の広い範囲に亘って平行光に近い光とする観点から、長い距離であることが好ましい。具体的には、当該距離は、好ましくは200mm以上、より好ましくは400mm以上である。一方、装置の振動により検出感度が損なわれることを低減する観点から、当該距離は、好ましくは1000mm以下である。
【0043】
光検出器120は、光を検出する機能を有する。光検出器120は、CCDイメージセンサ、C-MOSイメージセンサなどの、撮像素子を含みうる。観察位置P1から光検出器120までの距離は、光検出器120に入射する光を、広い範囲に亘って平行光に近い光とする観点から、長い距離であることが好ましい。具体的には、当該距離は、好ましくは150mm以上、より好ましくは300mm以上である。一方、装置の振動により検出感度が損なわれることを低減する観点から、当該距離は、好ましくは1000mm以下である。
【0044】
光照射器の向き、及び光検出器の向きは、支持領域内の観察位置における、フィルムの表面の観察が可能となる向きに調整しうる。観察位置としては、支持領域内の、フィルムの搬送を最も安定した位置にできる位置を適宜設定しうる。観察位置は、通常は、フィルム搬送方向における、支持領域の中央の位置としうる。かかる位置を観察位置とすることにより、搬送されるフィルムの搖動により検出感度が損なわれる程度を低減することができ、その結果、フィルムの表面欠陥の検査を、高い検出感度で行うことができる。
【0045】
光照射器及び光検出器は、好ましくは、搬送経路の方向に沿って配置される。即ち好ましくは、光照射器及び光検出器は、その一方がフィルムの搬送方向の上流側に位置し、他方が下流側に位置するよう配置される。より好ましくは、それらは、搬送方向に平行な線上に沿って整列するよう配置される。この場合、光照射器からの光の照射方向及び光検出器における像の観察方向が、平面視した場合(即ち搬送されるフィルムの観察位置における法線に沿った方向から観察した場合)において平行な方向となることが好ましい。例えば、図2に示す通り、光照射器110は、フィルム10の搬送方向の上流側に位置し、その線状光源の中心から観察位置P1への光の光路L1が当該上面図において搬送方向と平行な方向で下流に向かっており、一方光検出器120は、フィルム10の搬送方向の下流側に位置し、観察位置P1の中心において反射した反射光の光検出器120への光路L2が当該上面図において搬送方向と平行な方向で下流に向かっている。このように、光照射器及び光検出器を搬送経路の方向に沿って配置することにより、搬送されるフィルムの搖動により検出感度が損なわれる程度を低減することができ、その結果、フィルムの表面欠陥の検査を、より高い検出感度で行うことができる。
【0046】
また、浮上搬送装置が断面弧状の形状を有し、弧の中心線が存在する場合、平面視した状態において、光照射器の光の照射方向と、光検出器による観察方向が、中心線と直交する方向であることが、明確な観察を行う上で好ましい。例えば図2の上面図に示す通り、光路L1及びL2は、中心線131Cと直交する方向であることが好ましい。
【0047】
図1及び図2の例では、観察位置P1は、支持領域132の、フィルム10の搬送方向における中央の位置に設定されている。入射光の光路L1の入射角(観察位置P1におけるフィルム10の法線nLに対する角度)θ1と、出射光の光路L2の出射角θ2とが、観察位置P1において等しい角度となるよう、光照射器110及び光検出器120の向きを調整することにより、光照射器110からの光がフィルム10の観察側表面の観察位置P1において反射することにより得られる像を、光検出器120により観察することができ、観察位置P1における観察を達成することが可能となる。
【0048】
〔S偏光の利用〕
好ましい例において、光照射器は、入射光の入射角が60°以上90°未満となるよう設けられる。このように光照射器及び光検出器の角度を調整することにより、工程(II)を、入射光の入射角が60°以上90°未満となる態様で行いうる。また、好ましい例において、光照射器がS偏光を照射する照射器であるか、又は光検出器がS偏光を検出する検出器である。このような光照射器又は光検出器を用いることにより、S偏光による観察を行うことができる。さらに、S偏光による観察をより確実に実施する観点からは、光照射器がS偏光を照射する照射器であり且つ光検出器がS偏光を検出する検出器であることがより好ましい。これらの特徴を備えることにより、工程(II)を、S偏光を利用した観察により行うことができ、それにより、本発明の効果を、特に良好に得ることができる。
【0049】
S偏光には、S偏光成分のみからなる偏光に加えて、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、S偏光成分にわずかにP偏光成分を含む偏光も含まれる。照射する光は、照射する全ての光線に対するS偏光成分の光の強度の比率が、好ましくは50%超であり、より好ましくは80%以上であり、通常100%以下であり、最も好ましくは100%である。
【0050】
S偏光とは、光の電気ベクトルの振動方向が、入射面に対して垂直である偏光を意味する。一方P偏光とは、光の電気ベクトルの振動方向が、入射面に対して平行である偏光を意味する。S偏光及びP偏光の定義に関し、「入射面」とは、入射光の光路と、出射光の光路とを含む面である。
【0051】
図1及び図2の例においては、光照射器110から観察位置P1までの入射光の光路L1の入射角θ1は60°以上90°未満に設定され、従って観察位置P1から光検出器120までの出射光の光路L2の出射角θ2も60°以上90°未満に設定される。光照射器110は直線偏光子112を備える。この例において、直線偏光子112は、その透過軸の向きが、出光部111から出光した光のうち、S偏光のみを選択的に透過させる向きとなるよう配置される。一方光検出器120は、光を検出する本体121に加え、直線偏光子122を含む。直線偏光子122は、フィルム10から反射される光のうちS偏光のみを透過させる向きとなるよう配置される。観察装置190がこれらの直線偏光子112及び122を備えることにより、S偏光による観察を確実に実施することができる。直線偏光子は、その透過軸が、入射面に対して略垂直、好ましくは垂直となるように配置しうる。直線偏光子の透過軸と入射面とがなす角度は、好ましくは90°±5°の範囲、より好ましくは90°±3°の範囲、更に好ましくは90°±1°の範囲、特に好ましくは90°である。
【0052】
上に述べた特定の範囲内の入射角により、S偏光を用いた観察を行うことにより得られる利点について、図3を参照して説明する。図3は、屈折率がおよそ1.53である樹脂層を空気中に置き、様々な入射角でS偏光又はP偏光を樹脂層に照射した際の、入射角と反射率との関係を示すグラフである。図3において、実線Lは、入射角に対するS偏光の反射率を示す。破線Lは、入射角に対するP偏光の反射率を示す。Pは、P偏光の反射率が0である点を示す。図3において、点Pにおける入射角が、ブリュースター角である。
【0053】
フィルムの表面欠陥を検査するにあたっては、フィルムの観察側表面の状態を反映する情報が必要であり、フィルムの観察側表面において反射する光は、かかる情報として有用なものとなり得るので、フィルムからの光を観察することにより、フィルムの表面欠陥の検査を容易に行い得ることが期待される。しかしながら、フィルムからの光を観察すると、フィルムの観察側表面において反射する光に加えて、他の多様な光が混在した状態で観察される。例えば、フィルムの観察対象とは反対側の面において反射する光、フィルムが複層である場合における複層の界面において反射する光等が観察される。そこで、フィルムの観察側表面において反射する光を選択的に観察する上で、S偏光を選択的に観察することが有効な選択肢となり得る。
【0054】
図3に示すとおり、ブリュースター角では、P偏光の反射率は0(0%)であるが、S偏光の反射率は約0.15という小さい値である。したがって、入射角をブリュースター角に設定して自然光又はS偏光をフィルムの表面に照射した場合における、照射光に対する反射光の割合は、0.08(自然光を照射した場合)、又は0.15(S偏光を照射した場合)に過ぎない。そのため、フィルムを高速で搬送しながら表面欠陥を検査することは、比較的困難である。
【0055】
一方、入射角を60°以上に設定すると、P偏光の反射率は0では無く多少大きな値となるが、その一方で、S偏光の反射率は、ブリュースター角におけるS偏光の反射率よりも大きい。そのため、反射光の量の増加により、反射光の検出を容易にできる。したがって、フィルムを高速で搬送しながら、感度良くフィルムの表面欠陥を検査することができる。特に、入射角を70°以上に設定すると、S偏光の反射率は、0.3以上である。したがって、フィルム表面による反射光の量は、照射された光に対して、およそ15%以上(自然光を照射した場合)、又はおよそ30%以上(S偏光を照射した場合)であって、入射角がブリュースター角である場合のおよそ1.5倍以上となる。したがって、入射角を70°以上とすることにより、フィルムを高速で搬送しながら、より感度良く、反射光を用いたフィルムの表面欠陥を検査することが期待される。
【0056】
入射角を70°以上といった大きい角度として、高速で搬送されるフィルムの表面欠陥を検査する場合、フィルムの搖動による検出感度の低下が問題となる。即ち、搬送経路において連続的に搬送されるフィルムは、その面に垂直な方向に沿った搖動を起こす傾向があり、特にフィルムの搬送速度が高速になった場合、そのような搖動が特に大きくなる傾向がある。ここで、入射を0°に近い角度として、反射光を用いた表面欠陥の検査を行った場合、フィルムの搖動による反射光の像の搖動は少なく、したがって検出感度の低下は比較的少ない一方、入射角が大きい角度である場合、フィルムの僅かな搖動により、反射光が大きく搖動するため、比較的大きな検出感度の低下が発生する。例えばフィルムがその面に垂直な方向に、搖動幅xで搖動し、入射角がθである場合の、光検出器からの見掛け上の搖動幅は、xsinθとなり、入射角が大きくなるほど見掛け上の搖動幅も大きくなる。
【0057】
ここで、本発明では、特定の浮上搬送装置によるフィルムの支持を行い、それにより規定される支持領域内における観察位置において観察を行うので、搬送されるフィルムの搖動により検出感度が損なわれる程度が少ない。したがって、本発明において、特にフィルムの観察側表面の観察の態様として、上に説明したS偏光を利用する態様を採用することにより、S偏光の利用による利益を享受し且つ不利益を低減することが可能となり、その結果、高速で搬送されるフィルムの表面欠陥の検査を、特に高い検出感度で行うことができる。
【0058】
一般的に、観察位置と反対側の面においてフィルムを支持する場合、浮上搬送装置による支持の他に、一般的に用いられる搬送ロールを用いた支持を行うことも考えられる。しかしながら、本願発明者が見出したところによれば、搬送ロールを用いた支持を行った場合は、ロールの回転軸の偏芯及び回転に伴う機械的な振動等の因子により支持位置が変動することが問題となり、特に上に述べた高い入射角による観察を行った場合、かかる支持位置の変動によるフィルムの搖動が、大きな検出角度の低下をもたらす。ここで、支持の手段として、本発明において規定する特定の浮上搬送装置を採用することにより、上に述べた支持位置の変動の問題を解消し、特に高い検出感度での検出を実現することができる。
【0059】
〔任意の構成要素:任意の工程〕
本発明の検査装置は、上に述べた構成要素の他に、任意の構成要素を含みうる。例えば、観察装置は、光検出器120で検出された像のデータを処理し、表面の欠陥の有無を判定するデータ処理装置を備えうる。そして、本発明の検査方法は、工程(II-2)で検出された光のデータを処理して、フィルムの表面欠陥の有無の判定、表面欠陥の種類の判別、表面欠陥の大きさの測定などを行う工程を含みうる。
【0060】
本発明の検査装置は、任意の構成要素として、フィルム10に対する光照射器110の位置を調整する光照射器駆動装置、フィルム10に対する光検出器120の位置を調整する光検出器駆動装置、浮上搬送装置130に気体を圧送する圧送装置、観察位置における搬送表面とフィルムとの距離を測定する測定装置、観察位置におけるフィルムの搖動の幅を測定する測定装置などの構成要素を含みうる。
【0061】
図1及び図2の例における検査装置100は、光照射器110及び光検出器120を1個ずつ備えているが、本発明はこれに限られず、検査装置は、光照射器を複数備えていてもよく、光検出器を複数備えていてもよい。
【0062】
上記の説明において、浮上搬送装置は、重力及び/又は張力により下向きに付勢されたフィルムに対して、気体により上向きの力を加える場合を例示したが、本発明はこれに限られず、張力により上向きに付勢されたフィルムに対して、浮上搬送装置からの気体により下向きの力を加え、それにより、浮上搬送装置の下側において、フィルムが非接触の状態で支持されてもよい。
【実施例0063】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0064】
〔実施例1〕
長尺のフィルムのロール(厚み23μm、幅500mm、脂環式構造含有重合体を含む樹脂、ゼオノアフィルム(屈折率1.53、全光線透過率93%)を用意した。図1及び図2に概略的に示す検査装置100を用意した。検査装置100の浮上搬送装置130としては、その搬送表面131が、平均孔径1.0μmの多孔質カーボンであるものを採用した。搬送面131は断面弧状の形状であり、その半径は60mmであった。
【0065】
フィルムロールからフィルムを巻出して搬送し、検査装置100により、表面欠陥の検査を行った。
浮上搬送装置130の、断面弧状の形状の搬送表面131から、0.090mL/分・cmの空気を噴出させた。この状態で、フィルム10を、搬送ロール101、搬送ロール102及び浮上搬送装置130により、矢印A1方向に、100m/分の速度で搬送した。搬送表面におけるフィルム10の搬送経路の抱き角θは、90°とした。搬送に際し、フィルム10は、観察位置P1においてその面に垂直な方向に沿って搖動したが、搖動の幅は7μmの範囲に抑制されていた。搬送ロール101及び102の間の、フィルム10長手方向に負荷される張力を調整することにより、観察位置P1における、搬送表面131とフィルム10との距離は、100μm~200μmの範囲内に維持した。
【0066】
この状態で、長さ600mmである線状光源である光照射器110からS偏光を照射し、観察位置P1で反射させ、光検出器120により、P1における光源の像を観察した。入射角θ1及び出射角θ2は80°とした。観察は、フィルム幅方向の全幅にわたり、且つフィルム長500mにわたり行った。光検出器120において、線状光源の像の乱れを検出した際に、欠陥ありと判定し、フィルムの単位面積当たりの結果の検出個数(個/m)を求めた。その結果、欠陥の検出個数は11個/mであった。
【0067】
また、対比のため、検査装置100による検査の前、及び検査の後において、フィルムロールからそれぞれ長さ1mのフィルムをサンプリングし、その観察側表面の凹凸形状の欠陥を目視で計数した。その結果、欠陥の検出個数は10個/mであった。
【0068】
〔比較例1〕
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、表面欠陥の検査を行った。
・浮上搬送装置130を使用せず、代わりに、浮上搬送装置130の位置に、半径60mmの搬送ロールを設け、それによりフィルム10を支持した。搬送に際し、フィルム10は、当該搬送ロールに接した状態で搬送された。ロールの回転軸の偏芯及び回転に伴う機械的な振動等の因子により支持位置が変動し、フィルム10は、観察位置P1においてその面に垂直な方向に沿って搖動した。搖動の幅は80μmであった。
【0069】
検査装置による、フィルムの単位面積当たりの欠陥の検出を試みたが、光源の像のブレが大きいため、欠陥の検出が可能な撮像を行うことができなかった。一方、対比のための、目視による欠陥の計数では、欠陥の検出個数は13個/mであった。
【0070】
〔比較例2〕
下記の変更点の他は、比較例1と同じ操作により、表面欠陥の検査を行った。
・光照射器110及び光検出器120の位置を変更し、入射角θ1及び出射角θ2を30°に変更した。
【0071】
フィルム10は、観察位置P1においてその面に垂直な方向に沿って搖動した。搖動の幅は80μmであった。検査装置による、フィルムの単位面積当たりの欠陥の検出個数は2個/mであった。一方、対比のための、目視による欠陥の計数では、欠陥の検出個数は10個/mであった。
【0072】
〔比較例3〕
図4に概略的に示す検査装置400を用意した。検査装置400には、検査装置100における浮上搬送装置130に相当するものは設けず、フィルム10を、搬送ロール401及び搬送ロール402により搬送する態様とした。検査装置400その他の構成要素については、検査装置100と同じものとした。
【0073】
フィルムロールからフィルム10を巻出して搬送し、検査装置400により、表面欠陥の検査を行った。フィルム10は実施例1と同じものを用いた。フィルム10を、搬送ロール401及び搬送ロール402により、矢印A1方向に搬送した。搬送速度は実施例1と同じ速度とした。搬送に際し、フィルム10は、観察位置P41においてその面に垂直な方向に沿って搖動した。搖動の幅は80μmであった。
【0074】
この状態で、光照射器110からS偏光を照射し、観察位置P41で反射させ、光検出器120により、P41における光源の像を観察した。観察のその他の態様については、実施例1と同じとし、検査装置による、フィルムの単位面積当たりの欠陥の検出を試みたが、光源の像のブレが大きいため、欠陥の検出が可能な撮像を行うことができなかった。一方、対比のための、目視による欠陥の計数では、欠陥の検出個数は11個/mであった。
【0075】
〔比較例4〕
下記の変更点の他は、比較例3と同じ操作により、表面欠陥の検査を行った。
・光照射器110及び光検出器120の位置を変更し、入射角θ1及び出射角θ2を30°に変更した。
【0076】
フィルム10は、観察位置P41においてその面に垂直な方向に沿って搖動した。搖動の幅は80μmであった。検査装置による、フィルムの単位面積当たりの欠陥の検出個数は1個/mであった。一方、対比のための、目視による欠陥の計数では、欠陥の検出個数は9個/mであった。
【0077】
実施例及び比較例の結果を、表1に要約して示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1及び比較例1~4では、同等の品質のフィルム10を検査に供し、それについて目視で欠陥を検査した際の欠陥の個数は9~13個/mの範囲内であった。これに対し、実施例1では、検査装置での欠陥の検出個数が目視での検査と同等の個数であった一方、比較例2及び4では検出個数が著しく少なく、比較例1及び3では欠陥の検出自体が行えなかった。以上の結果から明らかな通り、実施例の検査装置及び検査方法では、高速で連続的に搬送されるフィルムについて、表面欠陥の検査を、静止した状態での目視での検査と同等の高い検出感度で行うことができることが分かる。
【符号の説明】
【0080】
10:フィルム
100:検査装置
101:搬送ロール
102:搬送ロール
110:光照射器
111:出光部
112:直線偏光子
120:光検出器
121:光検出器本体
122:直線偏光子
130:浮上搬送装置
131:搬送表面
131C:中心線
190:観察装置
400:検査装置
401:搬送ロール
402:搬送ロール
L1:光路
L2:光路
:入射角に対するP偏光の反射率
:入射角に対するS偏光の反射率
nL:法線
P1:観察位置
P41:観察位置
PB:P偏光の反射率が0である点
θ:抱き角
θ:入射角
θ:出射角
図1
図2
図3
図4