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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095531
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】義歯安定剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/35 20200101AFI20230629BHJP
【FI】
A61K6/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211482
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智和
(72)【発明者】
【氏名】堀合 眞知
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA04
4C089BA20
4C089BC03
4C089BE05
4C089BE08
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、容器からの押出性に優れ、且つ適度なクッション性を有する密着タイプの義歯安定剤を提供することである。
【解決手段】酢酸ビニル樹脂を含み、25℃における損失正接tanδが1.0~2.5を満たす義歯安定剤は、容器からの押出容易性と適度なクッション性とを両立できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における損失正接tanδが1.0~2.5である、義歯安定剤。
【請求項2】
更に、エタノールを含む、請求項1に記載の義歯安定剤。
【請求項3】
更に、水を含む、請求項1又は2に記載の義歯安定剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器からの押出性に優れ、且つ適度なクッション性を有する密着タイプの義歯安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯安定剤は、加齢に伴う顎堤の吸収や変形等により生じた不適合義歯床を、口蓋粘膜に固定し、咬合、咀嚼、会話等の機能を補う歯科用製剤である。
【0003】
義歯安定剤の中でも酢酸ビニル樹脂を主基剤とする義歯安定剤は、ペースト状の形態を有しており、義歯と歯茎との隙間を埋めて中の空気を追い出し、吸盤のように義歯を歯茎に密着固定させるという作用機構から「密着タイプ」と称される。当該義歯安定剤は、酢酸ビニル樹脂が口腔内で唾液を吸収することで収縮してクッション状を呈し、その結果、義歯が歯茎からずれないように固定する効果(義歯安定効果)と軟弾性を発現して歯茎への負担を軽減する特性(クッション性)を発現する。このような特性から、密着タイプの義歯安定剤は「クッションタイプ」と称されることもある。
【0004】
従来、密着タイプの義歯安定剤について、特性の改良及び向上を目指して、様々な処方が提案されている。例えば、特許文献1には、酢酸ビニル樹脂を主基剤とする義歯安定剤において、酢酸ビニル/クロトン酸共重合体又はその塩を助剤として全組成物中1~5重量%配合することにより、優れた固定力を保持しつつ、使用時に義歯からのはみ出しを抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-318945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
密着タイプの義歯安定剤では、使用簡易性の点から容器から押出し易いことに加え、
噛んだ際の歯茎への衝撃を緩和するために適度なクッション性を有することが求められる。しかしながら、従来技術では、密着タイプの義歯安定剤において、容器からの押出容易性と適度なクッション性とを両立させるための物性については明らかにされておらず、これらの特性を満足できる新たな密着タイプの義歯安定剤の開発が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、容器からの押出性に優れ、且つ適度なクッション性を有する密着タイプの義歯安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、酢酸ビニル樹脂を含み、25℃における損失正接tanδが1.0~2.5を満たす義歯安定剤は、容器からの押出容易性と適度なクッション性とを両立できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 25℃における損失正接tanδが1.0~2.5である、義歯安定剤。
項2. 更に、エタノールを含む、項1に記載の義歯安定剤。
項3. 更に、水を含む、項1又は2に記載の義歯安定剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容器からの押出容易性と適度なクッション性とを両立できる密着タイプの義歯安定剤が提供されるので、義歯の装着操作を容易にし、且つ義歯装着時の快適性が優れたものになる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.義歯安定剤
本発明の義歯安定剤は、酢酸ビニル樹脂を含み、25℃における損失正接tanδが1.0~2.5を満たすことを特徴とする。以下、本発明の義歯安定剤について詳述する。
【0012】
[粘弾特性]
本発明の義歯安定剤は、25℃における損失正接tanδ(損失弾性率G''/貯蔵弾性率G')が1.0~2.5である。このような損失正接tanδを満たすことによって、容器からの押出容易性と適度なクッション性とを両立させることが可能になる。損失弾性率は物体に外力とひずみにより生じたエネルギーの内、外部へ拡散する成分のことで、貯蔵弾性率は、内部に保存する成分のことである。限定的な解釈を望むものではないが、義歯安定剤の損失正接tanδが1.0~2.5(即ち、損失弾性率が貯蔵弾性率の1.0倍以上であることにより、被着体(容器内面や入れ歯)との界面における濡れ性(流動性)が高まり押出容易性が上がり、また損失弾性率が貯蔵弾性率の2.5倍以下であることにより、濡れ性が高くなりすぎず、クッション性を確保できることにより、容器からの押出容易性と適度なクッション性との双方を具備させることが可能になると考えられる。
【0013】
容器からの押出容易性と適度なクッション性とをより一層好適に具備させるという観点から、25℃における損失正接tanδとして、好ましくは1.2~2.2、より好ましくは1.4~2.0が挙げられる。
【0014】
本発明において、25℃における損失正接tanδは、レオメーターを用いて、パラレルプレート(25mmφ)、ギャップ1.0mm、周波数1Hz、ひずみ0.01~100%の条件下で測定し、ひずみ0.01%の時の損失弾性率(G'')と貯蔵弾性率(G')の値を求め、算出式:損失弾性率G''(Pa)/貯蔵弾性率G'(Pa)に従って求められる値である。
【0015】
また、本発明の義歯安定剤において、25℃における損失弾性率(G'')の値については、前記損失正接tanδの範囲を充足できることを限度として、特に制限されないが、例えば、100~18000Pa、好ましくは400~15000Pa、より好ましくは1000~13000Pa、特に好ましくは2800~13000Paが挙げられる。このような損失弾性率(G'')の範囲を充足することによって、容器からの押出容易性と適度なクッション性とをより一層好適に具備させることが可能になる。25℃における損失弾性率(G'')の測定方法は、前記損失正接tanδの場合と同様である。
【0016】
また、本発明の義歯安定剤において、25℃における貯蔵弾性率(G')の値については、前記損失正接tanδの範囲を充足できることを限度として、特に制限されないが、例えば、100~15000Pa、好ましくは150~12500Pa以上、更に好ましくは400~10000Pa、特に好ましくは3800~10000Paが挙げられる。このような貯蔵弾性率(G')の範囲を充足することによって、容器からの押出容易性と適度なクッション性とをより一層好適に具備させることが可能になる。25℃における貯蔵弾性率(G')の測定方法は、前記損失正接tanδの場合と同様である。
【0017】
義歯安定剤の粘弾特性は、配合する成分の種類と含有量、配合する成分の組み合わせ等によって変化するので、本発明の義歯安定剤において、前記粘弾特性を具備させるには、配合する酢酸ビニル樹脂の平均重合度と含有量を勘案した上で、酢酸ビニル樹脂以外の成分の種類と含有量、配合する成分の組み合わせ等を適宜調節すればよい。また、当業者であれば、達成すべき粘弾特性が決まっていれば、配合する成分の種類と含有量、配合する成分の組み合わせ等を調節して、所望の粘弾特性を具備させることは可能である。
【0018】
[含有成分]
本発明の義歯安定剤は、酢酸ビニル樹脂を含有する。本発明の義歯安定剤において、酢酸ビニル樹脂は、基剤としての役割を果たす。
【0019】
酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量は、義歯安定剤の粘弾特性に影響し得るので、本発明の義歯安定剤において、酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量は、他の配合成分を勘案した上で、前記粘弾特性を具備できるように設定される。
【0020】
例えば、本発明で使用される酢酸ビニル樹脂の平均重合度は、300~2500程度の範囲から、他の配合成分を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。また、前記粘弾特性を具備できるように、平均重合度が異なる2種以上の酢酸ビニル樹脂を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明において、酢酸ビニル樹脂の平均重合度は、JIS K6725-1977「ポリ酢酸ビニル試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0021】
また、例えば、本発明の義歯安定剤における酢酸ビニル樹脂の含有量は、40~80重量%の範囲内で、他の配合成分を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0022】
[エタノール]
本発明の義歯安定剤には、エタノールが含まれていることが好ましい。エタノールは義歯安定剤の粘弾特性に影響し得るので、本発明の義歯安定剤におけるエタノールの含有量は、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、その他の配合成分等を勘案した上で、前記粘弾特性を具備できるように設定される。例えば、本発明の義歯安定剤におけるエタノールの含有量は、1~40重量%、好ましくは10~30重量%の範囲内で、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、他の配合成分等を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0023】
[水]
本発明の義歯安定剤には、必要に応じて水が含まれていてもよい。水は義歯安定剤の粘弾特性に影響し得るので、本発明の義歯安定剤における水の含有量は、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、その他の配合成分等を勘案した上で、前記粘弾特性を具備できるように設定される。例えば、本発明の義歯安定剤における水の含有量は、0.5~40重量%の範囲内で、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、他の配合成分等を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0024】
[ポリアルキレングリコール]
本発明の義歯安定剤では、必要に応じてポリアルキレングリコールが含まれていてもよい。本発明で使用されるポリアルキレングリコールの種類については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0025】
ポリアルキレングリコールの種類、平均分子量、及び含有量は、義歯安定剤の粘弾特性に影響し得るので、本発明の義歯安定剤において、ポリアルキレングリコールを含有させる場合、その種類、平均分子量、及び含有量は、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、その他の配合成分等を勘案した上で、前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0026】
例えば、ポリアルキレングリコールの平均分子量については、特に制限されないが、例えば、100~12500の範囲内で、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、他の配合成分等を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0027】
また、例えば、本発明の義歯安定剤におけるポリアルキレングリコールの含有量は、0.05~20重量%の範囲内で、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、他の配合成分等を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0028】
[剥離向上剤]
本発明の義歯安定剤は、必要に応じて、義歯の使用後に義歯安定剤を義歯床の接触面から剥し易くするための剥離向上剤が含まれていてもよい。
【0029】
本発明で使用される剥離向上剤の種類については、特に制限されないが、例えば、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー(アクリル酸エチルとメタクリル酸メチルとメタクリル酸塩化トリメチルアンモニオエチルの共重合)、ポリブテン、ポリイソブチレン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ベントナイト、二酸化ケイ素、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0030】
剥離向上剤の種類、平均分子量、及び含有量は、義歯安定剤の粘弾特性に影響し得るので、本発明の義歯安定剤において、剥離向上剤を含有させる場合、その種類及び含有量は、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、その他の配合成分等を勘案した上で、前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。例えば、本発明の義歯安定剤における剥離向上剤の含有量は、0.1~15重量%の範囲内で、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、他の配合成分等を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0031】
[その他の成分]
本発明の義歯安定剤には、前述する成分の他に、必要に応じて、pH調整剤、可塑剤、乳化剤、粘度調整剤、水浸透性向上剤、水不溶性粉体、湿潤剤、防腐剤、金属石けん、防腐剤、殺菌剤、色素、香料、矯味剤、清涼化剤、甘味剤、歯垢分解酵素等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤の種類によっては義歯安定剤の粘弾特性に影響することがあるので、使用する添加剤の種類と含有量については、使用する酢酸ビニル樹脂の平均重合度及び含有量、他の配合成分等を勘案した上で前記粘弾特性を具備できるように設定すればよい。
【0032】
[形状・容器]
本発明の義歯安定剤は、密着タイプであるので、クリーム、ジェル等のペースト状の形状であればよい。
【0033】
本発明の義歯安定剤を収容する容器については、特に制限されないが、本発明の義歯安定剤は押出容易性を有しているので、チューブ容器が好ましい。チューブ容器の素材については、特に制限されず、プラスチックチューブ、プラスチックとアルミのラミネートチューブ等のいずれであってもよい。
【0034】
[製造方法]
本発明の義歯安定剤は、各配合成分の混合物を減圧下で脱泡させながら加温して攪拌することによって製造することができる。かかる製造は、例えばプラネタリーミキサー等の攪拌機を用いることで簡単に実施することができる。
【0035】
[適用対象・使用方法]
本発明の義歯安定剤は、義歯と顎堤(歯茎)との間を密着させて、上顎下又は下顎上に装着固定化するために使用される。対象とする義歯は、総義歯又は部分義歯のいずれであってもよいが、総義歯が好ましい。対象とする義歯の床の材質は、特に限定されず、レジン床又は金属床のいずれであってもよいが、レジン床が好ましい。
【0036】
本発明の義歯安定剤は、通常の密着タイプの義歯安定剤と同様の方法で使用することができる。例えば、水分を除いた義歯床(入れ歯の土台)の上顎又は下顎と接触する面全体に薄く伸ばしながら塗布付着させることで用いられる。斯くして義歯安定剤を付着させた義歯は、口腔内に入れて上顎又は下顎に装着すると、義歯安定剤が唾液の水分を吸収し収縮することでクッション状になり、歯茎(上顎又は下顎)に密着することで安定に固定される。
【0037】
2.押出性向上方法
本発明の押出性向上方法は、酢酸ビニル樹脂を含む義歯安定剤の容器からの押出性を向上させる方法であって、義歯安定剤において、酢酸ビニル樹脂を含有させ、且つ25℃における損失正接tanδを1.0~2.5の範囲内に調節することを特徴とする。本方法において、使用される酢酸ビニル樹脂、ポリエチレングリコール、その他に配合可能な成分、それらの配合量、容器等については、前記「1.義歯安定剤」の欄に記載の通りである。
【0038】
3.適度なクッション性の付与方法
本発明の適度なクッション性の付与方法は、酢酸ビニル樹脂を含む義歯安定剤に適度なクッション性を付与する方法であって、義歯安定剤において、酢酸ビニル樹脂を含有させ、且つ25℃における損失正接tanδを1.0~2.5の範囲内に調節することを特徴とする。本方法において、使用される酢酸ビニル樹脂、ポリエチレングリコール、その他に配合可能な成分、それらの配合量、容器等については、前記「1.義歯安定剤」の欄に記載の通りである。
【実施例0039】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
試験例1
1.義歯安定剤の調製
平均重合度が異なる複数の酢酸ビニル樹脂を使用して、25℃における損失正接が0.7~3.0の密着タイプの義歯安定剤12種を調製した(表1)。表1に示す12種の義歯安定剤は、酢酸ビニル樹脂の含有量は40~80重量%の範囲内に設定されている。また、表1に示す12種の義歯安定剤は、使用している酢酸ビニル樹脂の平均重合度と含有量に応じて、25℃における損失正接が所定の値になるように酢酸ビニル樹脂以外の成分の種類と含有量が調節されており、エタノールの含有量が10~30重量%、水の含有量が0~15重量%、ポリエチレングリコールの含有量が0~10重量%、着色料の含有量が0~0.1重量%、剥離向上剤の含有量が0~5重量%、その他の成分の含有量が0~20重量%の範囲内で調節されている。
【0041】
2.評価方法
2-1.粘弾特性
レオメーター(「MCR302」、アントンパール社製)を用いて、以下の条件で、ひずみ0.01%の時の損失弾性率G''及び貯蔵弾性率G'を測定し、損失正接(tanδ)を算出した。
測定条件:25℃、パラレルプレート(25mmφ)、ギャップ1.0mm
測定手順:静置(せん断速度0S-1、時間300秒)した後に、ひずみ分散試験(ひずみγ=0.01~100%、周波数f=1Hz)を行った。
【0042】
2-2.チューブ容器からの押出容易性
レオメーター(「SUNRHEOMETER CR-500DX」、株式会社サン科学)を使用してチューブ容器からの押出容易性を評価した。具体的には、先ず、丸型チューブ容器(肩下長さ108mm、肩幅25mm、エンドシール部の幅39mm、口内径7.5mm、プラスチック製)に義歯安定剤40gを充填してキャップを開けた状態で、レオメーターの試料台に固定した。その際、試料台上で、オーバル型チューブ容器の肩部から開口部とは反対方向に40mmの部分にアダプターの中心が接するように配して固定した。次いで、以下の設定条件で、室温下(25℃付近)で、最大荷重(g)を測定した。
モード:定深度測定モード(MODE20)
試料台速度:50mm/分
押し込み深さの設定値:2mm
アダプター:No.2(10mm)(直径20mmの球状)
【0043】
求めた初期の試験荷重を以下の基準に従って分類し、チューブからの押出容易性を判定した。本試験で求めた初期の試験荷重は、圧縮した際の最大応力に対応している。初期の試験荷重が4000g超の場合には、容器から押し出すのに強い押圧が必要で、押し出し難くなる。また、初期の試験荷重が900g未満の場合には、容器から極端に出やくなり、適量の押し出しが困難になる。初期の試験荷重が900~4000gであれば、適量を容器から押し出すのに適しており、とりわけ最大荷重が1300~3000g(特に1501~3000g)であれば押出性が格段に優れているといえる。
押出性に優れているといえる。
<容器からの押出容易性の分類基準>
×A:初期の試験荷重が4000g超
△A:初期の試験荷重が3001g以上4000g以下
◎ :初期の試験荷重が1501g以上3000g以下
〇 :初期の試験荷重が1301g以上1500g以下
△B:初期の試験荷重が900g以上1300g以下
×B:初期の試験荷重が900g未満
【0044】
2-3.クッション性
10mL容ビーカー(直径2.9cm)に義歯安定剤5gを入れて、空気が入れずに表面を平滑にした。次いで、レオメーター(「SUNRHEOMETER CR-500DX」、株式会社サン科学)を使用して、以下の設定条件で、室温下(25℃付近)で、最大荷重(初期の試験荷重)(g)及び押し込み深さ2mmに到達した時点から5秒後の荷重(緩和後の試験荷重)を測定した。
モード:定深度測定モード(MODE20)
試料台速度:10mm/分
押し込み深さの設定値:2mm
アダプター:No.1(20mm)(直径20mmの円板状)
【0045】
求めた初期の試験荷重及び緩和後の試験荷重から、以下の式に従って応力緩和率を算出し、以下の基準に従って分類し、クッション性を判定した。なお、本試験で求めた応力緩和率は、クッション性に相関しており、応力緩和率が98%超であれば、クッション性が低すぎて、義歯装着時に噛む度に義歯安定剤がはみ出ることが懸念され、応力緩和率が70%未満であればクッション性が高すぎて、入れ歯に義歯安定剤を塗る際に広がらず、噛んで入れ歯を装着する際に入れ歯と接触している入れ歯安定剤の界面における粘着力が低下して歯茎から浮くようになる。応力緩和率が70~98%であれば、義歯装着時に噛む度に義歯安定剤がはみ出すことなく、噛んだ際の歯茎への衝撃を十分に緩和でき、義歯安定剤として適度なクッション性を有しているといえる。とりわけ、応力緩和率が80~95%の場合には、特に適したクッション性を有しているといえる。
【数1】
<クッション効果の分類基準>
×A:応力緩和率が98%超
△A:応力緩和率が96%以上98%以下
〇 :応力緩和率が80%以上95%以下
△B:応力緩和率が70%以上79%以下
×B:応力緩和率が70%未満
【0046】
3.結果
結果を表1に示す。この結果、損失正接(tanδ)が1.0~2.5を満たす義歯安定剤では、容器からの押出容易性を備えつつ、義歯安定剤として適度なクッション性を備えていた。
【0047】
【表1】