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  • 特開-粉体の洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095579
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】粉体の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/04 20060101AFI20230629BHJP
   B01D 24/00 20060101ALI20230629BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230629BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230629BHJP
【FI】
B08B3/04 Z
B01D29/00 Z
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211554
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 真由美
(72)【発明者】
【氏名】浦栃 信吾
【テーマコード(参考)】
3B201
3K107
4D116
【Fターム(参考)】
3B201AA48
3B201BB02
3B201BB03
3B201BB87
3B201BB90
3B201BB92
3B201CB12
3K107AA01
3K107CC21
3K107CC45
3K107DD60
3K107DD70
3K107DD79
3K107DD87
3K107FF15
3K107FF16
3K107GG28
4D116AA27
4D116BB01
4D116BC06
4D116DD01
4D116FF13B
4D116GG12
4D116GG13
4D116KK04
4D116QC34A
4D116SS04
4D116VV11
4D116VV16
4D116VV30
(57)【要約】
【課題】
本発明は、粉体及び溶媒を含むスラリーから粉体を良好にろ過及び洗浄できる、粉体の洗浄方法を提供する。
【解決手段】
ろ過器を用いた粉体の洗浄方法であって、ろ過器が、上部と下部とが多孔質層で隔てられた容器からなり、容器の上部に液供給口を、下部に液抜出口を有しており、(1)粉体、粉体に対する良溶媒、及び粉体に対する貧溶媒を含むスラリーを、液供給口からろ過器の上部に供給し、ろ過器の上部の圧力を下部の圧力より高く維持した状態で濾過してケーキ層を形成する工程(ろ過工程)、並びに(2)その後、ろ過器の上部の圧力を、ろ過工程完了時の上部の圧力以上に維持した状態で、粉体に対する貧溶媒を含む洗浄液を液供給口からろ過器の上部に供給し、ケーキ層を洗浄する工程(洗浄工程)
を有し、ろ過工程(1)及び洗浄工程(2)がいずれも、常にケーキ層の上部表面全体が液体で被覆された状態を維持して実施される、洗浄方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過器を用いた粉体の洗浄方法であって、
ろ過器が、上部と下部とが多孔質層で隔てられた容器からなり、容器の上部に液供給口を、下部に液抜出口を有しており、
(1)粉体、粉体に対する良溶媒、及び粉体に対する貧溶媒を含むスラリーを、液供給口からろ過器の上部に供給し、ろ過器の上部の圧力を下部の圧力より高く維持した状態で濾過してケーキ層を形成する工程(ろ過工程)、並びに
(2)その後、ろ過器の上部の圧力を、ろ過工程完了時の上部の圧力以上に維持した状態で、粉体に対する貧溶媒を含む洗浄液を液供給口からろ過器の上部に供給し、ケーキ層を洗浄する工程(洗浄工程)
を有し、
ろ過工程(1)及び洗浄工程(2)がいずれも、ケーキ層の上部表面全体が液体で被覆された状態を維持して実施される、洗浄方法。
【請求項2】
ろ過工程(1)が、ろ過器の上部を加圧して実施する、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
粉体が、高分子化合物の粉体である、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
高分子化合物が、有機EL素子の材料である、請求項3に記載の洗浄方法。
【請求項5】
粉体の平均粒子径が、0.3~3000μmである、請求項1~4のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項6】
良溶媒が芳香族炭化水素溶媒であり、貧溶媒が水、アルコール溶媒、ケトン溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、ニトリル溶媒及びエステル溶媒からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項7】
ろ過工程(1)において、ろ過器の上部の圧力が1~300kPaGである、請求項1~6のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項8】
洗浄工程(2)において、ろ過器の上部の圧力が5~350kPaGである、請求項1~7のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項9】
洗浄工程(2)の後、さらに、ろ過器上部を加圧にしてケーキ層の洗浄液を押し出し、ケーキを乾燥させて粉体を得る工程を含む、請求項1~8のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項10】
ろ過器を用いて洗浄された粉体を製造する方法であって、
ろ過器が、上部と下部とが多孔質層で隔てられた容器からなり、容器の上部に液供給口を、下部に液抜出口を有しており、
(1)粉体、粉体に対する良溶媒、及び粉体に対する貧溶媒を含むスラリーを、液供給口からろ過器の上部に供給し、ろ過器の上部の圧力を下部の圧力より高く維持した状態で濾過してケーキ層を形成する工程(ろ過工程)、並びに
(2)その後、ろ過器の上部の圧力を、ろ過工程完了時の上部の圧力以上に維持した状態で、粉体に対する貧溶媒を含む洗浄液を液供給口からろ過器の上部に供給し、ケーキ層を洗浄する工程(洗浄工程)
を有し、
ろ過工程(1)及び洗浄工程(2)がいずれも、ケーキ層の上部表面全体が液体で被覆された状態を維持して実施される、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の製造プロセスにおいて、重合反応で得られた高分子化合物を晶析、再沈殿等させた後、得られた高分子化合物の粉体及び溶媒(母液)を含む懸濁液(スラリー)を、ろ過及び洗浄する工程が広く採用されている。洗浄工程では、スラリーをろ過して得られる高分子化合物のケーキ層に溶媒を通液することにより、高分子化合物に含まれる不純物が除去される。特に、機能性高分子(有機エレクトロルミネッセンス材料(有機EL材料)等)は高純度であることが求められるため、洗浄不良を回避して不純物を十分に除去することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、粉体及び溶媒を含むスラリーから粉体を良好にろ過及び洗浄できる、粉体の洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、加圧ろ過器を用いた従来の方法を用いて、高分子化合物粉体及び溶媒(高分子化合物に対して良溶媒及び貧溶媒を含む母液)を含む懸濁液(スラリー)をろ過した後、得られた高分子化合物のケーキ層を貧溶媒で洗浄したときに、ろ過後に形成されるケーキ層に亀裂(割れ)が生じたり、洗浄後のケーキ層に高分子化合物の凝集物(ダマ)が発生したりして、高分子化合物の品質に影響を与える問題が生じることを知見した。
【0005】
本発明者は、これらの現象について独自に詳細に検討を行った。具体的には、該スラリーのろ過工程の最後に、加圧条件下で母液をケーキ層から押し出して(脱液して)、ケーキ層表面が露出した状態又はケーキ層内に気体が導入された状態になると、ケーキ層に亀裂(割れ)が生じてしまうことが分かった。また、ろ過工程の後、加圧ろ過器のケーキ層上部の空間の圧力を脱圧して(例えば、常圧に戻して)、その後に洗浄液を投入し再度加圧して洗浄すると、ろ過器のケーキ層の上部の空間の圧力がろ過器下部の圧力より低くなるため、その圧力差によりケーキ層に亀裂(割れ)が生じてしまうことも分かった。
【0006】
また、ろ過後のケーキ層には、通常、良溶媒及び貧溶媒を含む母液が含まれており、上記の操作でケーキ層に亀裂(割れ)が生じると、その後に貧溶媒を含む洗浄液でケーキ層を洗浄しても、洗浄液はその亀裂をショートパスしてしまい、ケーキ層中に含まれる母液が洗浄液で置換されなくなる。実際、洗浄後のろ液中では良溶媒の含有率が理論値よりも低くなり、一方で洗浄後に得られる湿潤ケーキ層中では良溶媒の含有量が高いままとなることが確認されている。そのため、ケーキ層中の高分子化合物が、残存する良溶媒に徐々に溶解しブロッキングして凝集物(ダマ)が形成されてしまい、該凝集物は洗浄が不十分となるため、良溶媒及び不純物が残存してしまうことが分かった。
【0007】
洗浄後のケーキ層中に凝集物が発生すると、高分子化合物のケーキに良溶媒及び不純物が残存する割合が高くなるため、高分子化合物の用途によっては製品規格を逸脱する等の問題が生じてしまう。また、一定以上のサイズの凝集物が一旦生じてしまうと、該凝集物は良溶媒にも容易に溶解し難くなるため、再度良溶媒で溶解させる場合に時間と労力がかかり、プロセスの効率化を妨げることにもなる。
【0008】
本発明者は、上記の事実に基づいて、本発明の課題を解決するべく鋭意検討した結果、スラリーをろ過及び洗浄する間は、常にケーキ層の表面全体が液面から露出しないことが重要であり、それに加え、ろ過器上部の圧力(内圧)を下部の圧力(内圧)より高く維持した状態でろ過を行い、ろ過器の上部の圧力(内圧)を、ろ過完了時点の圧力(内圧)以上に維持した状態で洗浄液を投入しかつケーキ層を洗浄することにより、ケーキ層の亀裂(割れ)及び凝集物の発生を抑えて良好な洗浄操作ができることを見出した。さらに検討を加えることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1] ろ過器を用いた粉体の洗浄方法であって、
ろ過器が、上部と下部とが多孔質層で隔てられた容器からなり、容器の上部に液供給口を、下部に液抜出口を有しており、
(1)粉体、粉体に対する良溶媒、及び粉体に対する貧溶媒を含むスラリーを、液供給口からろ過器の上部に供給し、ろ過器の上部の圧力を下部の圧力より高く維持した状態で濾過してケーキ層を形成する工程(ろ過工程)、並びに
(2)その後、ろ過器の上部の圧力を、ろ過工程完了時の上部の圧力以上に維持した状態で、粉体に対する貧溶媒を含む洗浄液を液供給口からろ過器の上部に供給し、ケーキ層を洗浄する工程(洗浄工程)
を有し、
ろ過工程(1)及び洗浄工程(2)がいずれも、ケーキ層の上部表面全体が液体で被覆された状態を維持して実施される、洗浄方法。
[2] ろ過工程(1)が、ろ過器の上部を加圧して実施する、[1]に記載の洗浄方法。
[3] 粉体が、高分子化合物の粉体である、[1]又は[2]に記載の洗浄方法。
[4] 高分子化合物が、有機EL素子の材料(特に、発光材料又は電荷輸送性材料)である、[3]に記載の洗浄方法。
[5] 粉体の平均粒子径が、0.3~3000μmである、[1]~[4]のいずれかに記載の洗浄方法。
[6] 良溶媒が芳香族炭化水素溶媒であり、貧溶媒が水、アルコール溶媒、ケトン溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、ニトリル溶媒及びエステル溶媒からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の洗浄方法。
[7] ろ過工程(1)において、ろ過器の上部の圧力が1~300kPaGである、[1]~[6]のいずれかに記載の洗浄方法。
[8] 洗浄工程(2)において、ろ過器の上部の圧力が5~350kPaGである、[1]~[7]のいずれかに記載の洗浄方法。
[9] 洗浄工程(2)の後、さらに、ろ過器上部を加圧にしてケーキ層の洗浄液を押し出し、ケーキを乾燥させて粉体を得る工程を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の洗浄方法。
[10] ろ過器を用いて洗浄された粉体を製造する方法であって、
ろ過器が、上部と下部とが多孔質層で隔てられた容器からなり、容器の上部に液供給口を、下部に液抜出口を有しており、
(1)粉体、粉体に対する良溶媒、及び粉体に対する貧溶媒を含むスラリーを、液供給口からろ過器の上部に供給し、ろ過器の上部の圧力を下部の圧力より高く維持した状態で濾過してケーキ層を形成する工程(ろ過工程)、並びに
(2)その後、ろ過器の上部の圧力を、ろ過工程完了時の上部の圧力以上に維持した状態で、粉体に対する貧溶媒を含む洗浄液を液供給口からろ過器の上部に供給し、ケーキ層を洗浄する工程(洗浄工程)
を有し、
ろ過工程(1)及び洗浄工程(2)がいずれも、ケーキ層の上部表面全体が液体で被覆された状態を維持して実施される、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉体の洗浄方法によれば、粉体及び溶媒(母液)を含むスラリーから粉体を良好にろ過及び洗浄することができる。具体的には、スラリーをろ過及び洗浄するときに粉体ケーキ層の亀裂(割れ)の発生を抑制し、さらに当該亀裂に起因する洗浄不良によって形成される凝集物(ダマ)を抑制することができる。これにより、不純物の含有量が少なく、且つ良溶媒への溶解性に優れた洗浄された粉体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の方法で用いるろ過器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
1.ろ過器
本発明の粉体の洗浄方法に用いられるろ過器は、上部と下部とが多孔質層で隔てられた容器からなり、容器の上部に液供給口を、下部に液抜出口を有しているものであれば特に限定はなく、広く公知のろ過器を採用することができる。
【0014】
ろ過器の形状は、特に限定はなく、例えば、円筒型、円錐型、立方体型、逆円錐型等が挙げられる。容器内部を加圧又は減圧にする場合があるため、ろ過器の上部は、耐圧性を考慮して、半球状(例えば、ドーム状、釣鐘状)であることが好ましい。また、ろ過器の材質は、透過させる液体に対する耐性及び必要な耐圧性に応じて決定すればよく、特に限定はない。ろ過器の上部及び下部の圧力差を用いてろ過を実施するため、耐圧性のある材質であることが好ましい。ろ過器の材質としては、例えば、ステンレス、グラスライニング、ガラス、少なくともそれらを2つ以上組み合わせたもの等が挙げられる。また、容器内部の流体の流れ、及び、粉体スラリーを目視観察できるように、容器上部の材質を透明にしたり、容器にサイトグラス等を備えたりしていてもよい。
【0015】
ろ過器の大きさは、処理するスラリー(又はろ過ケーキ)の量、製造設備のサイズ、ハンドリングのし易さ、作業スペース等を考慮して、自由に選択することができる。例えば、ろ過器の形状として円筒型を選択した場合、円筒部分の長さ(高さ)は、通常、1cm~500cm、好ましくは5cm~350cm、より好ましくは10cm~200cmであり、その内径は、通常、1cm~150cm、好ましくは10cm~100cm、より好ましくは15cm~80cmである。
【0016】
多孔質層は、粉体及び溶媒を含むスラリー(懸濁液)から粉体と溶媒に分離するフィルターの役割を果たす。多孔質層は、ろ過器内に水平に設置されていることが好ましい。多孔質層は、ろ板と表記する場合もある。
多孔質層の材質は、透過させる液体に対する耐性を考慮して選択することができ、特に限定はない。例えば、紙(セルロース等);樹脂(ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))等);ガラス;セラミック;又は金属(ステンレス、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル等)等が挙げられる。多孔質層の細孔径は、例えば、0.1μm~300μm、好ましくは0.5μm~200μm、より好ましくは1μm~100μmである。
【0017】
多孔質層の上面には、ろ過及び洗浄により形成された粉体ケーキ層を保持し、取り出しを容易にするためにろ材を設けてもよい。ろ材は、多孔質層の上部全面を被覆することが好ましい。ろ材の材質は、溶媒に不溶であり粉体を保持できるものであれば特に限定はなく、例えば、紙(セルロース等);樹脂(ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))等)が挙げられる。通常、布状のろ布が用いられる。
【0018】
ろ過器の上部には、通常、スラリー及び洗浄液をろ過器に供給するための仕込みバルブを備えた液供給口、容器上部の内圧を計測するろ過器内圧力計、並びに該内圧を調節するための加圧バルブ及び排気バルブを有している。また、ろ過器の下部には、濾液抜き出しバルブを備えた液抜出口を有し、必要に応じて減圧バルブを有していてもよい。ろ過器の一例として、加圧ろ過器の概略図を図1に示す。加圧ろ過器1の上部に仕込みバルブV1、ろ過器内圧力計4、加圧バルブV4及び排気バルブV2を備えている。ろ過器の下部には、濾液抜き出しバルブV3を備えている。
【0019】
2.本発明の洗浄方法
本発明の洗浄方法は、以下の(1)ろ過工程、及び(2)洗浄工程を有している。
(1)ろ過工程
ろ過工程は、液供給口からスラリーをろ過器の上部に供給し、ろ過器の上部の圧力(内圧)を下部の圧力(内圧)より高く維持した状態で濾過してケーキ層を形成する工程である。
【0020】
スラリーは、粉体、その粉体に対する良溶媒、及び粉体に対する貧溶媒を含む。粉体は、良溶媒に溶解性があり、貧溶媒に難溶性である物質であれば特に限定はなく、好ましくは有機化合物、より好ましくは高分子化合物である。
【0021】
高分子化合物としては、所定のモノマーを重合して得られ、当該モノマー由来の繰り返し単位(以下、構成単位とも表記する)を2個以上有する化合物が挙げられる。高分子化合物は、分子量分布を有し、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1×10~1×10、更に3×10~1×10、特に1×10~1×10の範囲のものが挙げられる。
【0022】
高分子化合物の重合方法として、例えば、モノマー化合物をSuzukiカップリング反応により重合する方法、Buchwaldカップリング反応により重合する方法、Stilleカップリング反応により重合する方法、Kumadaカップリング反応により重合する方法、Yamamotoカップリング反応により重合する方法等が挙げられる。それらのうち、上記成形吸着剤で低分子量成分、水酸基含有高分子化合物等の不純物を吸着除去することができるので、典型的には、Suzukiカップリング反応により重合する方法で製造された高分子化合物が挙げられる。
【0023】
高分子化合物は、とりわけ有機EL素子等の材料、特に発光材料又は電荷輸送性材料として用いられるものであることが好ましい。ここで、電荷輸送性材料は、正孔輸送性材料及び電子輸送性材料のいずれでもよい。
【0024】
発光材料として用いられる高分子化合物としては、例えば、フェニレン基、ナフタレンジイル基、フルオレンジイル基、フェナントレンジイル基、ジヒドロフェナントレンジイル基、アントラセンジイル基及びピレンジイル基等のアリーレン基;芳香族アミンから2個の水素原子を取り除いてなる基等の芳香族アミン残基;並びに、カルバゾールジイル基、フェノキサジンジイル基及びフェノチアジンジイル基等の2価の複素環基を含む高分子化合物が挙げられる。
【0025】
正孔輸送性材料として用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体;側鎖又は主鎖に芳香族アミン構造を有するポリアリーレン及びその誘導体が挙げられる。
電子輸送性材料として用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリフェニレン、ポリフルオレン、及び、これらの誘導体が挙げられる。高分子化合物は、金属でドープされていてもよい。
【0026】
発光材料又は電荷輸送性材料としての高分子化合物は、例えば、共役系高分子化合物、及び非共役系高分子化合物が挙げられ、共役系高分子化合物が好ましい。
【0027】
上記共役系高分子化合物とは、主鎖に芳香環を含み、この主鎖に含まれる芳香環同士の結合の80%以上が直接結合、ビニレン基等の共役系結合基、又は不対電子を有する酸素原子、硫黄原子、窒素原子等の原子で結合されている高分子化合物を意味する。上記共役系高分子化合物では、上述の結合形式が、直接結合、不対電子を有する窒素原子であることが好ましく、直接結合であることがより好ましい。
上記非共役系高分子化合物とは、主鎖に芳香環を含み、この主鎖に含まれる芳香環同士の結合の80%未満が直接結合、ビニレン基等の共役系結合基、又は不対電子を有する酸素原子、硫黄原子、窒素原子等の原子で結合されている高分子化合物や、主鎖に芳香環を含まず、側鎖に芳香環を有する高分子化合物を意味する。
【0028】
上記共役系高分子化合物としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、フルオレン等が主鎖の芳香環である高分子化合物が挙げられる。芳香環は1種であっても2種以上であってもよい。
【0029】
芳香環は、置換基を有していてもよく、置換基として、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基及び架橋基を有していてもよい。架橋基とは、加熱、紫外線照射、近紫外線照射、可視光照射、赤外線照射、又はラジカル反応等に供することにより、新たな結合を生成することが可能な基である。架橋基としては、例えば、ビニル基、スチリル基、ベンゾシクロブタンイル基、アセチル基、ノルボルニル基、オキセタンイル基等が挙げられる。
【0030】
粉体の形状及びサイズは、多孔質層でろ過できるものであれば特に限定はない。粉体の形状としては、例えば、粒状、粉末状、繊維状の形状が挙げられる。粉体のサイズとしては、例えば、平均粒子径が0.3~3000μm、好ましくは0.5~2000μm、より好ましくは1~1000μmのものが挙げられる。ここで平均粒子径は、体積基準の累積50%粒子径を意味し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した数値である。なお、上記記載の数値は、水、メタノール等の貧溶媒に分散させて測定した数値である。
【0031】
粉体が高分子化合物である場合、高分子化合物の良溶媒としては、具体的には、高分子化合物の溶解度(20℃)が1g/100g以上となる溶媒として定義することができる。
【0032】
高分子化合物の貧溶媒としては、具体的には、高分子化合物の溶解度(20℃)が1g/100g未満となる溶媒として定義することができる。
【0033】
良溶媒及び貧溶媒は、高分子化合物の種類に応じて決定することができる。例えば、水;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン、アニソール等のエーテル溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒;メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;及びクロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0034】
特に、高分子化合物が有機EL素子等の材料である場合、良溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素溶媒が挙げられ、好ましくは、トルエン、キシレンである。貧溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル溶媒等が挙げられ、好ましくはメタノール、アセトンである。溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0035】
溶媒全体に占める貧溶媒と良溶媒の比率は、粉体(特に、高分子化合物の粉体)の溶解度に応じて変動するため、特に限定はない。一般的には、貧溶媒と良溶媒の比率(貧溶媒/良溶媒;重量比)は、通常、1~10であり、さらに3~8である。
【0036】
スラリー中の粉体(特に高分子化合物の粉体)の含有量は、送液時の流動性を良好に保つことができるので、通常、0.001~10重量%であり、好ましくは0.01~1重量%、より好ましくは0.05~0.5重量%である。
【0037】
スラリーとして、典型的には、重合反応後に得られる高分子化合物の粉体と反応溶媒とを含むスラリー、該高分子化合物を良溶媒に溶解した後に貧溶媒を用いて再沈殿処理した後の高分子化合物の粉体と溶媒とを含むスラリー等が挙げられる。
【0038】
ろ過工程は、容器上部にスラリーを供給した後、又はスラリーを供給しながら、上部空間と下部空間との圧力差を利用することにより実施することができる。具体的には、上部空間を加圧する方法(加圧ろ過)、下部空間を減圧する方法(減圧ろ過)、及びそれらを併用する方法等が採用される。加圧ろ過は、例えば、窒素等の不活性気体を用いて上部空間を加圧して実施することができる。減圧ろ過は、ろ過器容量に応じた減圧源(ポンプ)等の追加の設備を設けて下部空間を減圧にして実施することができる。また、ろ過及び洗浄する粉体が、精密機器で使用される電子材料である場合、わずかな塵、埃等でも混入を嫌うため、設備が負圧になると、外部から塵及び埃を持ち込む可能性がある。そのため、一般的に、加圧ろ過の方が好ましい。
【0039】
典型的な加圧ろ過を採用する場合、ろ過器上部の圧力を、ろ過器下部の圧力(通常、常圧)を超えるように設定してろ過することが重要である。ろ過器上部の圧力は、通常、1~300kPaG、好ましくは10~180kPaGである。ろ過工程は、当該圧力をできるだけ一定にして実施することが好ましい。
【0040】
ろ過工程の温度は、溶媒の種類、粉体の溶媒への溶解度等を考慮して適宜選択することができ、通常、0~50℃であり、好ましくは、5~30℃である。
【0041】
ろ過工程では、ろ過器上部からの加圧により液体をケーキ層から吹き切るとケーキ層に亀裂(割れ)が生じてしまう。それを回避するため、常にケーキ層の表面全体が液体で被覆された状態を維持することが肝要である。そのためには、液面の高さにムラが生じないように、必要に応じてろ過器に振動を加える等して、ケーキ層の表面を平滑化し(厚さを均一にし)且つ水平になるように調整することもできる。
【0042】
図1で示されるろ過器を用いて一例を説明すると、ろ過は、加圧バルブV4及び排気バルブV2を閉じて、濾液抜き出しバルブV3を開けて、仕込みバルブV1からスラリーを供給して行う。この場合、過器上部の圧力を加圧状態に維持して、ケーキ層の上部表面を露出させずにろ過を行う。
【0043】
(2)洗浄工程
洗浄工程は、ろ過の後、ろ過器の上部の圧力(内圧)を、ろ過工程完了時の上部の圧力(内圧)以上に維持した状態で、粉体に対する貧溶媒を含む洗浄液を液供給口からろ過器の上部に供給し、ケーキ層を洗浄する工程である。
【0044】
この洗浄工程では、ケーキ層に貧溶媒を含む洗浄液を通液することにより、ケーキ層に含まれる良溶媒及び貧溶媒を含む溶媒を貧溶媒で置換する。これにより、ケーキ層中に含まれる貧溶媒に溶解しうる不純物を除くことができるとともに、ケーキ層中で良溶媒により粉体が溶解及び固着した凝集物が生じることを抑制することができる。なお、ろ過工程から洗浄工程への移行時は、ろ過器への洗浄液の供給及びろ液の排出は、連続的又は断続的のいずれでもよい。また、洗浄工程における洗浄液の供給及びろ液の排出も、連続的又は断続的のいずれでもよい。
【0045】
洗浄液は貧溶媒を主成分として含むことが好ましく、洗浄液中の貧溶媒の含有率は、通常、80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0046】
貧溶媒は、上記(1)のろ過工程で記載したものを用いることができる。例えば、粉体が高分子化合物(特に、有機EL素子等の材料)である場合、貧溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル溶媒等が挙げられ、好ましくはメタノール、アセトンである。
【0047】
洗浄液は、貧溶媒を含むものであれば、単一組成の溶媒でも、2種以上を組み合わせた溶媒を用いてもよい。例えば、粉体が高分子化合物である場合、貧溶媒としてメタノール等のアルコール溶媒を用い、その後、取扱性を考慮して、当該アルコール溶媒に他の溶媒(例えば、水)を加えた溶媒を用いて洗浄することもできる。また、洗浄は、1回でも2回以上でもよい。具体的には、洗浄液としてメタノールで洗浄した後に、水とメタノールの混合液(例えば、5~30重量%メタノール水溶液等)で洗浄することができる。
【0048】
洗浄工程は、容器上部に洗浄液を供給した後、又は洗浄液を供給しながら、上部空間と下部空間との圧力差を利用することにより実施することができる。具体的には、上部空間を加圧する方法(加圧ろ過)、下部空間を減圧する方法(減圧ろ過)、及びそれらを併用する方法等が採用される。加圧ろ過及び減圧ろ過は、ろ過工程と同様にして実施することができる。そのうち、ろ過工程と同様の理由により、加圧ろ過が好ましい
【0049】
ろ過工程から洗浄工程への一連の工程の中で、途中でろ過器上部の圧力を脱圧する(常圧に戻す)ことなく、常に、ろ過器上部の圧力が、ろ過器下部の圧力よりも高い状態に維持することが、ケーキ層の亀裂(割れ)を防止するために重要である。典型的な加圧ろ過を採用する場合、ろ過器上部の圧力(内圧)を、ろ過工程完了時の上部の圧力(内圧)以上に維持してろ過を行うことがより好ましい。洗浄工程におけるろ過器上部の圧力は、通常、5~350kPaG、好ましくは20~200kPaGである。洗浄工程は、当該圧力をできるだけ一定にして実施することが好ましい。
【0050】
洗浄工程においても、ろ過工程に続いて、ケーキ層の亀裂(割れ)を防止するために、常にケーキ層の上部表面全体が液体で被覆された状態を維持して実施される。
【0051】
図1で示されるろ過器を用いて一例を説明すると、ろ過工程から洗浄工程への移行は、加圧バルブV4及び排気バルブV2を閉じて、濾液抜き出しバルブV3を閉じて、脱圧せずにろ過器上部の圧力を加圧状態に維持して、仕込みバルブV1から洗浄液を供給して行う。洗浄液を供給した後、又は洗浄液を供給しながら、濾液抜き出しバルブV3を開けてケーキ層に洗浄液を通液して洗浄を行う。この場合、過器上部の圧力を加圧状態に維持して、ケーキ層の上部表面を露出させずに洗浄を行う。
【0052】
(3)洗浄後
洗浄工程の後は、ろ過器上部を加圧にして又はろ過器下部を減圧にして、ケーキ層の洗浄液を押し出す(吹き切る)。その後、ろ過器からケーキ(粉体)を取り出し、乾燥させて、所望の粉体を得る。
図1で示されるろ過器を用いて一例を説明すると、仕込みバルブV1及び排気バルブV2を閉じて、ろ液抜き出しバルブV3を開けて、加圧バルブV4を開けて気体(例えば、窒素等の不活性気体)をろ過器の上部に供給し、ケーキ層の洗浄液を押し出す。
【0053】
上記のろ過工程(1)及び洗浄工程(2)を経て製造されたケーキ(粉体)は、不純物の含有量が低減され、且つ、凝集物の発生が低減されているため好適である。
【0054】
特に、得られたケーキ(粉体)が有機EL素子等の材料(高分子化合物)である場合、不純物及び良溶媒の含有量が少ない高品質な素子を製造することができ、また、該材料を用いて塗布型のインクを製造する場合に、凝集物が含まれておらず良溶媒に容易に溶解させることができるため、インクの生産性を高め、ひいては有機EL素子の性能を安定化させることができる。
【実施例0055】
以下、本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
<凝集物の発生率(重量%)>
実施例及び比較例では、粉体の洗浄効果の良否を、粉体及び溶媒を含むスラリーのろ過で得られた粉体の湿潤ケーキ中の凝集物の発生率を指標として評価した。具体的には、得られた湿潤ケーキ中から長軸方向の長さが1cm以上の凝集物を選別し、湿潤ケーキ全体の重量(X)に対する凝集物の重量(Y)の百分率を算出した。
【0057】
発生率(重量%)=[凝集物の重量(Y)/湿潤ケーキ全体の重量(X)]×100
【0058】
凝集物の発生率が0%に近いほど洗浄が優れ、大きくなるほど洗浄が劣ることを示す。
ここで、「長軸方向の長さが1cm以上の凝集物」を望ましくない成分として評価する理由は、当該凝集物は良溶媒及び/又は不純物の含有割合が大きくなり、該粉体を用いて有機EL素子を作製した際に性能の低下を引き起こす可能性があるためである。また、その他の理由は、凝集物を良溶媒に溶解する場合に比較的大きい凝集物は溶媒との接触面積が相対的に低下することから溶解させるのに時間を要し、インクの生産性を損なう可能性があるためである。
【0059】
<実施例1>
粉体(フルオレン及びトリアリールアミンを構成単位として含む共役系高分子化合物、重量平均分子量:1×10、平均粒子径:20μm、例えば、特開2021-080401号公報を参照。)0.75kg、トルエン85kg、及びメタノール553kgからなるスラリーを、図1に示した装置と同様のろ過器(ろ過器直径0.80m、ろ過面積0.50m2、ろ過器容量171L)に、濾液抜き出しバルブV3を閉めた状態で供給を開始した。スラリーをろ過器容量の8割程度仕込んだ後、排気バルブV2を閉め、徐々に濾液抜き出しバルブV3を開けてろ過を実施した。ろ過が進行し、スラリー全量のろ過器内への供給が完了した後、仕込みバルブV1を閉めた。加圧バルブV4を開けろ過器内を窒素ガスで加圧し、ケーキ層上面から5cmの位置に液面がきたところで濾液抜き出しバルブV3、加圧バルブV4を閉めてろ過を停止した。この際、ろ過器内圧力は23kPaGであった。
【0060】
次に、バルブV2、V3、V4を閉めたままの状態で仕込みバルブV1を開けて洗浄用メタノール150kgを25kPaGの圧力で供給し、ケーキ層表面を露出させないようにしながら濾液抜き出しバルブV3を徐々に開けて洗浄ろ過を行った。規定量のメタノールでの洗浄が完了後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで10分間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。
【0061】
次に、洗浄用20重量%メタノール水溶液150kgを、仕込みバルブV1を開けろ過器内に供給し、濾液抜き出しバルブV3を開けて洗浄ろ過を行った。規定量の20重量%メタノール水溶液での洗浄が完了後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで1時間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。得られたケーキ層中に長軸方向の長さが1cm以上の凝集物は認められなかった。
【0062】
<実施例2>
粉体(実施例1と同じ)を0.75kg、トルエン77kg、及びメタノール508kgからなるスラリーを実施例1と同じろ過器に、濾液抜き出しバルブV3を閉めた状態で供給を開始し、スラリーをろ過器容量の8割程度仕込んだ後、排気バルブV2を閉め、徐々に濾液抜き出しバルブV3を開けてろ過を実施した。ろ過が進行し、スラリー全量のろ過器内への供給が完了した後、仕込みバルブV1を閉めた。加圧バルブV4を開けろ過器内を窒素ガスで加圧し、ケーキ層上面から3cmの位置に液面がきたところで濾液抜き出しバルブV3、加圧バルブV4を閉めてろ過を停止した。この際、ろ過器内圧力は50kPaGであった。
【0063】
次に、バルブV2、V3、V4を閉めたままの状態で仕込みバルブV1を開けて洗浄用メタノール141kgを60kPaGの圧力で供給し、ケーキ層表面を露出させないようにしながら濾液抜き出しバルブV3を徐々に開けて洗浄ろ過を行った。規定量のメタノールでの洗浄が完了した後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで10分間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。
【0064】
次に、洗浄用20重量%メタノール水溶液 140kgを、仕込みバルブV1を開けろ過器内に供給し、濾液抜き出しバルブV3を開けて洗浄ろ過を行った。規定量の20重量%メタノール水での洗浄が完了した後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで1時間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。得られたケーキ層中に長軸方向の長さが1cm以上の凝集物は認められなかった。
【0065】
<実施例3>
粉体(実施例1と同じ)を0.80kg、トルエン90kg、及びメタノール550kgからなるスラリーを図1に示した装置と同様のろ過器(ろ過器直径0.70m、ろ過面積0.38m2、ろ過器容量193L)に、濾液抜き出しバルブV3を閉めた状態で供給を開始し、スラリーをろ過器容量の8割程度仕込んだ後、排気バルブV2を閉め、徐々に濾液抜き出しバルブV3を開けてろ過を実施した。ろ過が進行し、スラリー全量のろ過器内への供給が完了した後、仕込みバルブV1を閉めた。加圧バルブV4を開けろ過器内を窒素ガスで加圧し、ケーキ層上面から2cm程度の位置に液面がきたところで濾液抜き出しバルブV3、加圧バルブV4を閉めてろ過を停止した。この際、ろ過器内圧力は135kPaGであった。
【0066】
次に、バルブV2、V3、V4を閉めたままの状態で仕込みバルブV1を開けて洗浄用メタノール144kgを140kPaGの圧力で供給し、ケーキ層表面を露出させないようにしながら濾液抜き出しバルブV3を徐々に開けて洗浄ろ過を行った。規定量のメタノールでの洗浄が完了した後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで10分間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。
【0067】
次に、洗浄用20重量%メタノール水溶液 147kgを、仕込みバルブV1を開けろ過器内に供給し、濾液抜き出し濾液抜き出しバルブV3を開けて洗浄ろ過を行った。規定量の20重量%メタノール水溶液での洗浄が完了した後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで1時間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。得られたケーキ層中に長軸方向の長さが1cm以上の凝集物は認められなかった。
【0068】
<比較例1>
粉体(実施例1と同じ)を0.75kg、トルエン78kg、及びメタノール514kgからなるスラリーを実施例1と同じろ過器に、濾液抜き出しバルブV3を閉めた状態で供給を開始し、スラリーをろ過器容量の8割程度仕込んだ後、排気バルブV2を閉め、徐々に濾液抜き出しバルブV3を開けてろ過を実施した。ろ過が進行し、スラリー全量のろ過器内への供給が完了した後、仕込みバルブV1を閉めた。加圧バルブV4を開けろ過器内を窒素ガスで加圧し、ケーキ層上面から10cmの位置に液面がきたところで濾液抜き出しバルブV3、加圧バルブV4を閉めてろ過を停止した。この際、ろ過器内圧力は40kPaGであった。その後、濾液抜き出しバルブV3を開けて加圧ろ過器内を脱圧した。
【0069】
次に、排気バルブV2及び濾液抜き出しバルブV3を閉めたまま状態で仕込みバルブV1を開けて洗浄用メタノール58kgを10~20kPaGの圧力で供給し、ケーキ層表面を露出させないようにしながら濾液抜き出しバルブV3を徐々に開けて洗浄ろ過を行った後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで10分間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。
【0070】
次に、洗浄用20重量%メタノール水溶液 58kgを、仕込みバルブV1を開けろ過器内に供給し、濾液抜き出しバルブV3を開けて洗浄ろ過を行った。20重量%メタノール水溶液での洗浄が完了した後、仕込みバルブV1を閉め、加圧バルブV4を開とし、ろ過器内に残った洗浄液を窒素ガスで1時間脱液を行った後、濾液抜き出しバルブV3を閉めた。得られたケーキ層において長軸方向の長さが1cm以上の大きさの凝集物と1cm未満の粉体とに分別したところ、1cm以上の凝集物の重量は17g、ケーキ全量は3.78kgであった。
【0071】
<比較例2>
実施例1と同じ組成のスラリーを、実施例1と同じろ過器に濾液抜き出しバルブV3を閉めた状態で供給を開始し、スラリーをろ過器容量の8割程度仕込んだ後、排気バルブV2を閉め、徐々に濾液抜き出しバルブV3を開けてろ過を実施した。ろ過が進行し、スラリー全量のろ過器内への供給が完了した後、仕込みバルブV1を閉めた。加圧バルブV4を開けろ過器内を窒素ガスで加圧し、濾液が切れるまでろ過を実施した。ろ過ケーキ層が割れている(即ち、クラックが発生している)のが確認されたため、その状態での洗浄工程は実施しなかった。
【0072】
上記の結果を表1に示す。
【表1】
【0073】
表1より、実施例1~3では、スラリーのろ過工程及び洗浄工程で、ケーキ層表面が液面から露出しておらず、及び洗浄時のろ過器上部の圧力がろ過完了時の同圧力より大きいため、ケーキ層を良好に洗浄することができ、洗浄工程後の湿潤粉体中の凝集物が発生しなかった。
一方、比較例1では、洗浄時のろ過器上部の圧力がろ過完了時の同圧力より小さいため、ケーキ層に亀裂が生じ凝集物が発生した。これは、亀裂部に洗浄用メタノールが優先的に流れてしまい、ケーキ層の場所によっては、ケーキ層内部に含まれた良溶媒(トルエン)が貧溶媒(メタノール)で置換されずにケーキ層中に残ってしまったことが原因と考えられる。結果として比較例1では、洗浄不良が生じた。
また、比較例2では、スラリーのろ過工程及び洗浄工程で、ケーキ層表面が液面から露出していたため、ケーキ層にクラックが生じてケーキ層の良溶媒(トルエン)を貧溶媒(メタノール)で置換することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の洗浄方法によれば、スラリー中の粉体を良好に洗浄することができる。ケーキ(粉体)が有機EL素子等の材料(高分子化合物)である場合、不純物及び良溶媒の含有量が少ない高品質な素子を製造することができ、また、該材料を用いて塗布型のインクを製造する場合に、凝集物が含まれておらず良溶媒に容易に溶解させることができるため、インクの生産性を高め、ひいては有機EL素子の性能を安定化させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1:加圧ろ過器
2:ろ材(ろ布)
3:ろ板(多孔質層)
4:ろ過器内圧力計
V1:仕込みバルブ
V2:排気バルブ
V3:濾液抜き出しバルブ
V4:加圧バルブ
図1