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特開2023-95747湿式粒度分布測定用分散溶媒及び湿式粒度分布測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095747
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】湿式粒度分布測定用分散溶媒及び湿式粒度分布測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
G01N15/02 Z
G01N15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109856
(22)【出願日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2021211248
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】曽我 賢一
(57)【要約】
【課題】有機溶剤中毒予防規則の規制を受けず、かつ、乾式測定を行わずに、水系の溶媒に溶解する試料の粒度分布を、正確に測定することを目的とする。
【解決手段】有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならず、有機溶剤が含まれ、溶解性物質が溶解されていることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならず、有機溶剤が含まれ、溶解性物質が溶解されていることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項2】
前記有機溶剤にエチルアルコール、及び/又は、ノルマルプロピルアルコールが含まれることを特徴とする請求項1に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項3】
前記有機溶剤は、ノルマルプロピルアルコール、エチルアルコール、ドデカン、ヘキサデカン、シクロヘキサン、グリセリン、エチレングリコール、ノルマルブチルアミン、メチルノルマルペンチルケトン、フタル酸ジエチルから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項4】
前記有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となる有機溶剤の含有率が5質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項5】
前記溶解性物質にアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、酢酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、塩素イオン、硫酸イオン、水酸化物イオンより選択される1種以上が含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項6】
前記溶解性物質の有機溶剤への溶解率が50質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項7】
レーザー光透過率が70~90%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項8】
前記有機溶剤が、前記溶解性物質の飽和溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒。
【請求項9】
試料を請求項1又は2に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒に超音波分散させ、レーザー回折・散乱法、及び/又は、動的光散乱法によって粒度分布測定を行うことを特徴とする湿式粒度分布測定方法。
【請求項10】
前記溶解性物質を飽和状態で前記有機溶剤に溶解させて、前記湿式粒度分布測定用分散溶媒を作製することを特徴とする請求項9に記載の湿式粒度分布測定方法。
【請求項11】
前記溶解性物質は前記試料と同一物質であることを特徴とする請求項10に記載の湿式粒度分布測定方法。
【請求項12】
前記溶解性物質を飽和状態で前記有機溶剤に溶解させて、前記溶解性物質の溶け残りを完全に沈降させ、その上澄み部分を前記湿式粒度分布測定用分散溶媒とすることを特徴とする請求項10に記載の湿式粒度分布測定方法。
【請求項13】
前記溶解性物質を飽和状態で前記有機溶剤に溶解させて、前記溶解性物質の溶け残りを濾過分離したものを前記湿式粒度分布測定用分散溶媒とすることを特徴とする請求項10に記載の湿式粒度分布測定方法。
【請求項14】
前記湿式粒度分布測定用分散溶媒に含まれる前記溶解性物質の含有率を、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法より選択される1種以上を用いて分析することを特徴とする請求項10に記載の湿式粒度分布測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式粒度分布測定用分散溶媒に関する。より詳しくは、湿式粒度分布測定用分散溶媒、及び、それを用いた湿式粒度分布測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体材料は、単体金属粉、金属化合物粉、金属酸化物粉、金属水酸化物粉をはじめとして、電子機器関係、電池関係、触媒関係の分野などで発展し、現在でも、様々な製品の特性向上に関わり、その一翼を担う存在となっている。それ故に、これらの粉体材料の活性や選択性などを評価することは、製品の更なる高性能化を図る上で、極めて重要である。上記の評価のための手法としては、化学分析手法や物理分析手法による、定性分析、定量分析、状態・構造分析などが挙げられ、例えば、粒度分布測定も、粉体材料の特徴を把握するために欠かせない方法の一つとして数えられる。粒度分布測定に関しては、これまでにも、セラミックスやファインケミカルなどの業界における、サブミクロン領域での粒度分布測定のニーズの高まりに応える形で、様々な測定方法の研究・開発がなされてきた。
【0003】
粒度分布測定方法として、最も一般的なものとして挙げられるのが、特許文献1で開示されているほか、「JIS_Z_8825:粒子径解析-レーザ回折・散乱法」にも規定されている、レーザー回折・散乱法(Laser_diffraction_methods)である。この方法では、溶媒中に分散している粒子に、レーザー光を照射することで散乱光が生じ、散乱光の強度パターンが粒子径に依存するため、この強度パターンを検出して、光散乱理論(Mie散乱理論)に基づいた解析を行うことにより、粒度分布の算出が可能となる。散乱光の強度測定では、溶媒と粒子の屈折率、粒子径、光源波長が最重要因子となり、散乱光の強度は、粒径パラメーター(α=πD/λ(D:粒子径、λ:光源波長))のほか、溶媒と粒子の屈折率により求められる。散乱方向は、粒子径が大きい場合には前方に集中し、粒子径が小さくなる程、側方や後方を含めた全方位への散乱となる。つまり、散乱光の強度パターンとは、上記の様な、散乱光の強度や散乱方向の特性を言う。
【0004】
また、レーザー回折・散乱法よりも、測定範囲が小粒子径側である、nmレベルの粒度分布測定方法としては、特許文献2で開示されているほか、「JIS_Z_8828:粒子径解析-動的光散乱法」にも規定されている、動的光散乱法(Dynamic_light_scattering(DLS)、検出した信号の解析方法の違いにより、光子相関法(Photon_correlation_spectroscopy)と、周波数解析法(Frequency_analysis)がある)が挙げられる。この方法では、溶媒中でブラウン運動している粒子にレーザー光を当てることにより、ドップラーシフトと呼ばれる、入射光の周波数とは位相の異なる散乱が発生し、光の波長が変化することを利用する。即ち、溶媒中でブラウン運動している粒子の動きは、粒径が大きいと遅く、逆に、小さいと速くなるため、発生した入射光の散乱による揺らぎから、溶媒と試料の屈折率、溶媒の粘度値をパラメーターとし、動的光散乱理論に基づいた解析を行うことにより、粒度分布の算出が可能となる。
【0005】
ところで、上記の2法では、試料の分散性に優れた、ヘキサメタリン酸ナトリウム(NaHMP)水溶液が、一般的な湿式粒度分布測定用分散溶媒(以下、単に「分散溶媒」、「溶媒」とも称する)として広く用いられている。これに対し、水酸化リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウムなど、水系の溶媒に溶解する試料には、有機溶剤であるイソプロピルアルコール(IPA)が、溶媒として最も多用されている。しかし、このイソプロピルアルコール(IPA)は、比較的どの様な試料も溶解し難く、エチルアルコールよりも少し毒性が強い程度で、安価である反面、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となり、第2種有機溶剤に該当する。このため、イソプロピルアルコール(IPA)を用いた作業を行う場合には、主に、局所排気装置の設置、作業環境の定期的な管理、作業者の定期特殊健康診断、及び、有機溶剤作業主任者の設置が義務付けられ、労力・コスト面での負担が増えるという問題がある。また、有機則に該当する有機溶剤は人体への安全性や環境への負荷の点で好ましくない。
【0006】
なお、レーザー回折・散乱法では、溶媒を用いた湿式粒度分布測定(以下、単に「湿式測定」とも称する)のほか、特許文献3で開示されている様に、圧縮空気を用いて試料を空気中に噴射し、強制的に分散させる乾式粒度分布測定(以下、単に「乾式測定」とも称する)も可能である。ところが、この乾式測定は、1μm未満の微粒子における測定精度が十分とは言えず、空気中で粒子が凝集した状態となり易いため、図1及び図2に示すように、湿式測定の結果に比べて、高めのカタヨリを持つことが多いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-188353号公報
【特許文献2】特開2002-221479号公報
【特許文献3】特開平9-145592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、局所排気装置の設置、作業環境の定期的な管理、作業者の定期特殊健康診断、及び、有機溶剤作業主任者の設置のような有機溶剤中毒予防規則の規制を受けず、粒度分布測定の際に安全に取り扱うことができ、かつ、乾式測定を行わず、水系の溶媒に溶解する試料の粒度分布を、正確に測定することが出来る湿式粒度分布測定用分散溶媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記の従来技術が有する問題に鑑み、本発明者は、局所排気装置の設置、作業環境の定期的な管理、作業者の定期特殊健康診断、及び、有機溶剤作業主任者の設置のような有機溶剤中毒予防規則の規制が不要で、かつ、乾式測定を行わず、水系の溶媒に溶解する試料の粒度分布を、正確に測定するための鋭意研究を積み重ねた。その結果、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならない種類の有機溶剤、及び/又は、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならない量の有機溶剤が含まれ、溶解性物質が溶解されている溶媒を、湿式粒度分布測定に用いることにより、上記の従来技術が有する問題を、解決出来ることを見出した。
【0010】
以上の様な鋭意研究の結果から、本発明者が完成するに至った本発明の一側面によれば、本発明の第1の態様は、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならず、有機溶剤が含まれ、溶解性物質が溶解されていることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、前記有機溶剤にエチルアルコール、及び/又は、ノルマルプロピルアルコールが含まれることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の発明において、前記有機溶剤は、ノルマルプロピルアルコール、エチルアルコール、ドデカン、ヘキサデカン、シクロヘキサン、グリセリン、エチレングリコール、ノルマルブチルアミン、メチルノルマルペンチルケトン、フタル酸ジエチルから選ばれる1種以上であることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1又は2の態様に記載の発明において、前記有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となる有機溶剤の含有率が5質量%以下であることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1又は2の態様に記載の発明において、前記溶解性物質にアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、酢酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、塩素イオン、硫酸イオン、水酸化物イオンより選択される1種以上が含まれることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0015】
本発明の第6の態様は、第1又は2の態様に記載の発明において、前記溶解性物質の有機溶剤への溶解率が50質量%以下であることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0016】
本発明の第7の態様は、第1又は2の態様に記載の発明において、レーザー光透過率が70~90%であることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0017】
本発明の第8の態様は、第1又は2の態様に記載の発明において、前記有機溶剤が、前記溶解性物質の飽和溶液であることを特徴とする湿式粒度分布測定用分散溶媒である。
【0018】
本発明の第9の態様は、試料を第1又は2の態様に記載の湿式粒度分布測定用分散溶媒に超音波分散させ、レーザー回折・散乱法、及び/又は、動的光散乱法によって粒度分布測定を行うことを特徴とする湿式粒度分布測定方法である。
【0019】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の発明において、前記溶解性物質を飽和状態で前記有機溶剤に溶解させて、前記湿式粒度分布測定用分散溶媒を作製することを特徴とする湿式粒度分布測定方法である。
【0020】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載の発明において、前記溶解性物質は前記試料と同一物質であることを特徴とする湿式粒度分布測定方法である。
【0021】
本発明の第12の態様は、第10の態様に記載の発明において、前記溶解性物質を飽和状態で前記有機溶剤に溶解させて、溶解性物質の溶け残りを完全に沈降させ、その上澄み部分を前記湿式粒度分布測定用分散溶媒とすることを特徴とする湿式粒度分布測定方法である。
【0022】
本発明の第13の態様は、第10の態様に記載の発明において、前記溶解性物質を飽和状態で前記有機溶剤に溶解させて、溶解性物質の溶け残りを濾過分離したものを前記湿式粒度分布測定用分散溶媒とする湿式粒度分布測定方法である。
【0023】
本発明の第14の態様は、第10の態様に記載の発明において、前記湿式粒度分布測定用分散溶媒に含まれる前記溶解性物質の含有率を、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法より選択される1種以上を用いて分析することを特徴とする湿式粒度分布測定方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、局所排気装置の設置、作業環境の定期的な管理、作業者の定期特殊健康診断、及び、有機溶剤作業主任者の設置が不要で、かつ、乾式測定を行わず、水系の溶媒に溶解する試料の粒度分布を、正確に測定することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】レーザー回折・散乱法により、湿式粒度分布測定を行った結果の一例を示す図である。
図2】レーザー回折・散乱法により、乾式粒度分布測定を行った結果の一例を示す図である。
図3】走査型電子顕微鏡(SEM)により、試料の観察を行った結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[本発明の一実施形態]
以下、本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒について、その概略から説明する。また、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を、不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。なお、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0027】
1.概略
湿式粒度分布測定に用いられる有機溶剤において、まず、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となるものとしては、代表的なイソプロピルアルコール(IPA)をはじめ、メチルアルコール、ノルマルブチルアルコール(NBA)、イソブチルアルコール(IBA)、イソアミルアルコール、ノルマルヘキサン、アセトン、o-キシレンなどが挙げられ、次に、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならないものとしては、ノルマルプロピルアルコール(NPA)、エチルアルコール、ドデカン、ヘキサデカン、シクロヘキサン、グリセリン、エチレングリコール、ノルマルブチルアミン、メチルノルマルペンチルケトン、フタル酸ジエチルなどが挙げられる。
【0028】
ここで、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となる有機溶剤は、上記のものを含む54種類であり、これらの有機溶剤以外に、これらの有機溶剤の含有物(有機溶剤と有機溶剤以外のものとの混合物で、有機溶剤の含有率が5質量%を超えるもの)も該当する。有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となる場合には、主に、局所排気装置の設置、作業環境の定期的な管理、作業者の定期特殊健康診断、及び、有機溶剤作業主任者の設置が義務付けられる。
【0029】
有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となる上記54種類の有機溶剤は、第1種有機溶媒、第2種有機溶媒、第3種有機溶媒に分類される。本願における第1種有機溶媒は、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロルエタン、1,2-ジクロルエチレン、1,1,2,2-テトラクロルエタン、トリクロルエチレン、二硫化炭素である。また、本願における第2種有機溶媒は、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、オルト-ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ノルマル-ブチル、酢酸ノルマル-プロピル、酢酸ノルマル-ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1,4-ジオキサン、ジクロルメタン、N,N-ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロルエチレン、テトラヒドロフラン、1,1,1-トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、1-ブタノール、2-ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル-ノルマル-ブチルケトンである。また、本願における第3種有機溶媒は、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリットである。また、本願における、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となる有機溶剤は、これら54種類の有機溶剤のみから成る混合物を含む。
【0030】
有機溶剤の選定に際しては、「レーザー光を透過すること」、「測定対象となる試料と屈折率が重なっていないこと」、「汚染粒子が含まれず、空試験(ブランク)測定を行えること」、「試料濃度(レーザー光透過率)を適正に制御出来ること」などが挙げられるが、当然ながら、「試料が溶解しないこと」が最も重要な条件である。けれども、「難溶性」と言われる、僅かながら有機溶剤に溶解する物質の場合、基本的に、試料の一部のみが一気に溶解するのではなく、試料全体の粒子表面から徐々に溶解するため、粒度分布測定において、試料量を可能な限り増やしても、測定値が少しずつ小粒子側にシフトして安定せず、正確な結果が得られないことがある。また、試料の溶解は、極小粒子に対する悪影響が特に大きく、極小粒子の割合が多い試料などは、先に極小粒子が完全溶解して粗粒子のみが残り、逆に測定値が大粒子側にシフトすることがある。
【0031】
有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならない有機溶剤は、幾つか種類があるものの、「試料が、その有機溶剤に溶けないか?」をはじめとする上記の選定条件のほか、「試料の分散性が良いか?」、「コストが高くなりすぎないか?」、「入手し易いか?」、「粒度分布測定装置(以下、単に「装置」とも称する)にダメージを与えないか?」なども含めて、試料の種類が変わる度に検証して用いるのは、労力面での負担が非常に大きくなる。
【0032】
本発明は、上記の知見に基づいて、なされたものである。本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒は、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならず、有機溶剤が含まれ、溶解性物質が溶解されていることを特徴とする。更に、本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒では、それを用いた粒度分布測定において、試料とは、水酸化リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウムなど、水系の溶媒に溶解するものであり、その試料の粒度分布を評価する場合を一例とする。また、図3は、走査型電子顕微鏡(SEM)により、試料の観察を行った結果の一例を示す図である。以下、本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒について、具体的に説明する。
【0033】
2.湿式粒度分布測定用分散溶媒
湿式粒度分布測定は、粒度分布測定装置(主流となっている、超音波発生器内蔵型の場合)に溶媒を注入後、その溶媒を装置内で循環させつつ、レーザー光透過率が70~90%、好ましくは80~90%となる様、装置に試料を投入し、超音波を照射しながら、試料を溶媒中に分散させて粒度分布を測定する。レーザー光透過率が上記範囲であることにより、試料の粒度分布を正確に測定することが出来る。レーザー光透過率が90%を超えると、粒度分布測定が困難になる場合がある。試料の投入量は、レーザー光透過率が上記範囲となるよう適宜決定される。超音波発生器内蔵型でない旧型の装置を用いる場合や、凝集力が非常に強い試料を測定する場合には、測定前に、試料を適量の溶媒に加え、超音波ホモジナイザーなどを用いて、より強力な超音波を外部照射した後、溶媒ごと装置に投入する。
【0034】
本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒においては、水系の溶媒に溶解する試料が溶解しない様、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象とならない有機溶剤を用いることができ、かつ、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となる有機溶剤でも、その有機溶剤の含有率が5質量%を超えない量ならば用いることが出来る。上記の有機溶剤としては、例えば、単一有機溶剤である、ノルマルプロピルアルコール(NPA)、エチルアルコール、ドデカン、ヘキサデカン、シクロヘキサン、グリセリン、エチレングリコール、ノルマルブチルアミン、メチルノルマルペンチルケトン、フタル酸ジエチルなどや、混合有機溶剤である、ソルミックスAP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標)、ソルミックスHP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標)などが挙げられる。これらの中でも、既述の有機溶剤の選定条件によれば、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ソルミックスAP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標)、ソルミックスHP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標)を用いるのが好ましい。また、これらの有機溶媒は、上記の有機溶媒から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることが出来る。
【0035】
本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒においては、水系の溶媒に溶解する試料が溶解しない様、溶解性物質を用いることが出来る。溶解性物質は、飽和状態(25℃)となる様、有機溶剤に溶解させておくことが好ましい。溶解性物質としては、アルカリ金属のアンモニウム塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、水酸化物を用いることが出来る。また、溶解性物質としては、塩化ナトリウムなどの一般的な試薬を、一律に適用することも可能だが、溶媒中における、物質間の相互作用とエントロピー変化とのバランスを複雑化させない意味では、試料と同一物質を用いるのが好ましい。溶解性物質を飽和状態(25℃)となる様、溶解させた有機溶剤については、溶解性物質の溶け残りを完全に沈降させ(遠心分離も含め)、その上澄み部分をそのまま用いるか、若しくは、溶解性物質の溶け残りを濾過分離したものを用いることが出来る。なお、粒度分布測定では、超音波照射による試料の分散時、溶媒の液温は若干上昇する傾向となるため、液温低下による溶解性物質の析出が起こる可能性は極めて低い。
【0036】
飽和状態における、有機溶剤中の溶解性物質の含有率、つまり、溶解性物質の有機溶剤への溶解率は、粒度分布を測定する試料、有機溶剤、溶解性物質によって適宜決定されるが、0.001質量%以上50質量%以下であることが好ましい。本発明の一実施形態に係る湿式粒度分布測定用分散溶媒では、有機溶剤への溶解率が上記範囲のような、水系の溶媒に溶解する試料においても、試料の溶解によりレーザー光透過率が上昇し、粒度分布測定が困難になることを防ぐことが出来る。また、試料の溶解による測定精度への悪影響を小さくすることで、有機溶剤への溶解率が上記範囲のような、水系の溶媒に溶解する試料の粒度分布を正確に測定することが出来る。また、イソプロピルアルコールのような、水系の溶媒に溶解する試料が溶解し難いが、有機溶剤中毒予防規則の規制を受ける有機溶剤を用いずに、水系の溶媒に溶解する試料の粒度分布を正確に測定することが出来る。
【0037】
また、使用する有機溶剤に対しての添加する溶解性物質の溶解度(即ち、飽和溶液の濃度)について、理論値や過去の実験値など、既知の値が判明している場合には、その値と実際の分析結果との間に、大きな差が無いことを確認するのが好ましい。これにより、溶解性物質が飽和状態であり、試料が有機溶剤に溶解しないことを確実に確認することが出来る。そして、粒度分布測定の測定値に対して、試料の溶解による小粒子側又は大粒子側へのシフトのような、測定精度への悪影響がないことを確認することが出来る。そして、試料の粒度分布を、正確に測定することが出来る。また、有機溶剤中の溶解性物質の含有率は、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法などの化学分析手法により求めるのが好ましい。
【0038】
また、本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒においては、難溶性試料が、僅かながら有機溶剤に溶解するのを防ぐため、溶解性物質を用いることが出来る。即ち、難溶性試料の有機溶剤への溶解度を、更に下げ、試料の溶解による測定精度への悪影響を小さくするのを目的として、予め、有機溶剤に溶解性物質を溶解させておくことが出来る。この際、溶解性物質は、飽和状態(25℃)となる様、有機溶剤に溶解させておくことが好ましい。
【0039】
ところで、仮に、粒度分布測定の段階で、有機溶剤に対する試料の溶解度を下げる(飽和状態とする)ため、試料を少量ずつ投入し、溶媒に溶解させたとしても、まず飽和点となる丁度の量を溶かすことが出来なければ、その後で正しい測定は行えず、かつ、飽和状態となった判定を行うことも困難であり、ましてや、測定時間が長くなり過ぎることから、この方法は、現実的な対応手段とは言い難い。
【実施例0040】
以下、本発明の一実施形態に係る、湿式粒度分布測定用分散溶媒について、実施例などにより、詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例などに限定されるものではない。また、これらの実施例などにおける試薬類は、説明が無い限り、全て富士フィルム和光純薬株式会社製の試薬特級品を用いた。
【0041】
(実施例1)
<試料>
水酸化リチウム(無水)をジェットミルで粉砕後、120℃で2時間乾燥したものを用いた。
<装置>
レーザー回折・散乱方式で、かつ、超音波発生器内蔵型の粒度分布測定装置である、マイクロトラックMT3300EX2(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。
<測定条件>
湿式測定により、体積基準での粒度分布の算出を行った。また、レーザー光透過率:80~90%となる様、試料:0.1gを装置に投入し、超音波出力:40W、超音波照射時間:3分、粒子透過性:透過、粒子形状:非球形、粒子屈折率:1.49、溶媒屈折率:1.36、測定レンジ:0.133~704.0μmとし、レーザー光透過率、及び、測定値が安定したのを確認後、測定を開始した。なお、測定時間:20秒とし、2回測定の平均値を測定結果とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:エチルアルコール、溶解性物質:水酸化リチウム(無水)とし、室温(25℃)において、有機溶剤:1000g当たり、溶解性物質:50gとなる様、3Lガロン瓶に加え、密栓して、よく振り混ぜた後、24時間以上放置し、再び、よく振り混ぜた後、24時間以上放置し、その上澄み液を、5C濾紙で乾燥濾過して用いた。また、乾燥濾過した上澄み液(分散溶媒)中の溶解性物質の含有率、つまり、溶解性物質の有機溶剤への溶解率は、ICP発光分光分析法により、金属元素を分析し、所定の化合物に換算することで求めた。
【0042】
上記の条件に従い、採取した試料の各測定結果、即ち、溶解性物質の有機溶剤への溶解率、及び、粒度分布(D10粒径、D50(メジアン)粒径、D90粒径、MV(平均)粒径)の結果は、表1に記載の通りであった。
【0043】
(実施例2)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:ノルマルプロピルアルコールとした。
【0044】
(実施例3)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスAP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:85.5±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.6±0.5質量%、水分:0.2質量%以下)とした。
【0045】
(実施例4)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスHP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:79.3±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.5±0.5質量%、水分:6.3質量%以下)とした。
【0046】
(実施例5)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<試料>
硫酸リチウム(無水)とした。
<分散溶媒>
溶解性物質:硫酸リチウム(無水)とした。
【0047】
(実施例6)
下記の条件以外は、実施例5と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:ノルマルプロピルアルコールとした。
【0048】
(実施例7)
下記の条件以外は、実施例5と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスAP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:85.5±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.6±0.5質量%、水分:0.2質量%以下)とした。
【0049】
(実施例8)
下記の条件以外は、実施例5と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスHP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:79.3±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.5±0.5質量%、水分:6.3質量%以下)とした。
【0050】
(実施例9)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<試料>
塩化リチウム(無水)とし、粉砕、乾燥を行わなかった。
<分散溶媒>
溶解性物質:塩化リチウム(無水)とし、溶解性物質:500gとなる様、3Lガロン瓶に加えた。
【0051】
(実施例10)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<試料>
炭酸リチウム(無水)とし、粉砕、乾燥を行わなかった。
<分散溶媒>
溶解性物質:炭酸リチウム(無水)とした。
【0052】
(比較例1)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
溶解性物質:添加しなかった。
【0053】
(比較例2)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<測定条件>
レーザー光透過率:80~90%となる様、試料:0.2gを装置に投入した。
【0054】
(比較例3)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:ノルマルプロピルアルコールとした。
【0055】
(比較例4)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスAP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:85.5±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.6±0.5質量%、水分:0.2質量%以下)とした。
【0056】
(比較例5)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスHP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:79.3±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.5±0.5質量%、水分:6.3質量%以下)とした。
【0057】
(比較例6)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<試料>
硫酸リチウム(無水)とした。
【0058】
(比較例7)
下記の条件以外は、比較例6と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:ノルマルプロピルアルコールとした。
【0059】
(比較例8)
下記の条件以外は、比較例6と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスAP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:85.5±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.6±0.5質量%、水分:0.2質量%以下)とした。
【0060】
(比較例9)
下記の条件以外は、比較例6と同様の手順を行った。
<分散溶媒>
有機溶剤:ソルミックスHP-7(日本アルコール販売(株)製、登録商標、成分→エチルアルコール:79.3±1.0質量%、イソプロピルアルコール:5.0質量%未満、ノルマルプロピルアルコール:9.5±0.5質量%、水分:6.3質量%以下)とした。
【0061】
(比較例10)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<試料>
塩化リチウム(無水)とし、粉砕、乾燥を行わなかった。
【0062】
(比較例11)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<試料>
炭酸リチウム(無水)とし、粉砕、乾燥を行わなかった。
【0063】
(比較例12)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:イソプロピルアルコールとした。
【0064】
(比較例13)
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:イソプロピルアルコールとした。
【0065】
(比較例14)
下記の条件以外は、実施例5と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:イソプロピルアルコールとした。
【0066】
(比較例15)
下記の条件以外は、比較例6と同様の手順を行った。
<測定条件>
溶媒屈折率:1.38とした。
<分散溶媒>
有機溶剤:イソプロピルアルコールとした。
【0067】
(比較例16)
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<測定条件>
装置のセルブロックを湿式用から乾式用に交換し、乾式測定により、体積基準での粒度分布の算出を行った。また、レーザー光透過率:80~90%となる様、試料:0.1gを装置に投入し、圧縮空気による分散圧:0.2MPa、粒子透過性:透過、粒子形状:非球形、粒子屈折率:1.49、測定レンジ:0.133~704.0μmとし、レーザー光透過率、及び、測定値が安定したのを確認後、測定を開始した。なお、測定時間:20秒とし、2回測定の平均値を測定結果とした。
<分散溶媒>
使用しなかった。
【0068】
(比較例17)
下記の条件以外は、比較例16と同様の手順を行った。
<試料>
硫酸リチウム(無水)とした。
【0069】
【表1】
【0070】
[総評]
表1に示す通り、本発明の分散溶媒を用いて湿式粒度分布測定を行った実施例1~10では、所定のレーザー光透過率の範囲内で、レーザー光透過率、及び、測定値が安定したのを確認後、測定を開始出来ており、どの試料、かつ、どの有機溶剤の場合でも、安定した良好な結果が得られていることが分かる。
【0071】
これに対し、分散溶媒に溶解性物質が溶解されておらず、本発明から逸脱した比較例1~10では、測定過程において、試料投入時には所定のレーザー光透過率の範囲内であったが、レーザー光透過率、及び、測定値が安定せず、徐々にレーザー光透過率が上昇し、最終的には範囲上限を超えてしまったため、止む無く測定を中止した。
【0072】
なお、分散溶媒に溶解性物質が溶解されていないにも関わらず、比較例11で結果が得られているのは、試料が炭酸リチウムであり、比較例1~10の試料である水酸化リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウムよりも、分散溶媒への溶解度が低く、試料の溶解による悪影響が小さかったためと考えられるが、試料が同じ炭酸リチウムで、分散溶媒に溶解性物質が溶解している実施例10に比べると、粒度分布が全体的に小粒子側へシフトしている傾向が見られた。
【0073】
また、比較例12~15では、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の対象となり、第2種有機溶剤に該当する、イソプロピルアルコール(IPA)を有機溶剤として用いているが、上記の傾向と同じく、分散溶媒に溶解性物質が溶解されている比較例12、14に比べると、分散溶媒に溶解性物質が溶解されていない比較例13、15は、粒度分布が全体的に小粒子側へシフトしている結果となった。このことから、湿式粒度分布測定で多用され、代表的な有機溶剤となっている、イソプロピルアルコール(IPA)においても、若干ながら、試料の溶解による悪影響を受ける恐れがあることが分かった。
【0074】
その一方で、分散溶媒を用いずに乾式測定を行った比較例16、17では、試料が同じ水酸化リチウム、硫酸リチウムであり、かつ、湿式測定を行った実施例1~8に比べて、逆に、粒度分布が全体的に大粒子側へシフトしている傾向が見られたため、乾式測定において、空気中で試料粒子の凝集が起こり易いことが、改めて浮き彫りとなった。
【0075】
以上の様に、本発明によれば、局所排気装置の設置、作業環境の定期的な管理、作業者の定期特殊健康診断、及び、有機溶剤作業主任者の設置が不要で、かつ、乾式測定を行わずに、水系の溶媒に溶解する試料の粒度分布を、正確に測定することが可能となり、上記の評価結果は、その裏付けとするのに十分なものである。
【0076】
本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に、限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜、組み合わせることが出来る。また、法令で許容される限りにおいて、本明細書で引用した全ての文献の内容を、援用して本文の記載の一部とする。
図1
図2
図3