(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009577
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】位置制御機構
(51)【国際特許分類】
G01L 1/04 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
G01L1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112984
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】荻原 元徳
(57)【要約】
【課題】ばねで接続される2つの制御対象の離間距離をばねの自由長さで保持する位置制御機構を低コストで提供する。
【解決手段】位置制御機構1は、2つ制御対象W1,W2を伸縮自在なばねで接続し、2つの制御対象W1,W2の離間距離を保持する制御をする。位置制御機構1は、2つの移動手段11,12と位置計測手段3と制御手段4とを備える。制御手段4は、位置制御部5と、2つの移動手段11,12の電流値を検出する電流値検出部6と、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との間に働く対象間力が所定の許容値以下となる第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との適正離間距離を電流値検出部6が検出する電流値に基づいて算出する算出部7と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に沿って移動自在な第1の制御対象と前記所定の方向に沿って移動自在な第2の制御対象とを伸縮自在なばねで接続し、前記第1の制御対象と前記第2の制御対象との離間距離を保持しながら前記第1の制御対象と前記第2の制御対象の位置を制御する位置制御機構であって、
前記第1の制御対象を電流を用いて駆動し、前記所定の方向に沿って移動させる第1の移動手段と、
前記第2の制御対象を電流を用いて駆動し、前記所定の方向に沿って移動させる第2の移動手段と、
前記第1の制御対象および前記第2の制御対象の位置を計測する位置計測手段と、
前記第1の移動手段および前記第2の移動手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記位置計測手段により計測された前記第1の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、前記第1の移動手段を制御し、前記位置計測手段により計測された前記第2の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、前記第2の移動手段を制御する位置制御部と、
前記第1の移動手段と前記第2の移動手段との少なくとも一方に流れる電流値を検出する電流値検出部と、
前記第1の制御対象と前記第2の制御対象との間に働く対象間力が所定の許容値以下となる前記第1の制御対象と前記第2の制御対象との適正離間距離を前記電流値検出部が検出する電流値に基づいて算出する算出部と、を備え、
前記位置制御部は、前記算出部により算出された前記適正離間距離を保つように前記第1の移動手段および前記第2の移動手段を制御することを特徴とする位置制御機構。
【請求項2】
前記算出部は、所定の初期位置に前記第1の制御対象と前記第2の制御対象とを位置決めしたときに前記第1の移動手段または前記第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値と、前記対象間力を前記電流値から算出するための定数と、前記ばねのばね定数とを用いて前記対象間力を最小にする前記適正離間距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の位置制御機構。
【請求項3】
前記算出部は、前記離間距離を第1の距離としたときの前記第1の移動手段または前記第2の移動手段の少なくとも一方に流れる第1電流値と、前記離間距離を前記第1の距離とは異なる第2の距離としたときの前記第1電流値に対応する移動手段の第2電流値とを用いて前記適正離間距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の位置制御機構。
【請求項4】
前記第1電流値に対して、前記第2電流値は正負逆の電流値であり、
前記算出部が二分法を用いて新たな目標離間距離を算出し、前記位置制御部が前記離間距離を当該新たな目標離間距離となるよう制御し、前記離間距離が当該新たな目標離間距離に制御された状態で前記電流値検出部が電流値を検出する、一連の手順を繰り返して、前記適正離間距離を算出することを特徴とする請求項3に記載の位置制御機構。
【請求項5】
前記位置制御部は、前記第1の制御対象または前記第2の制御対象の一方の位置を所定の位置に位置決めし、前記ばねの許容ストローク内において、前記第1の制御対象または前記第2の制御対象の他方を前記他方の移動手段を用いて一定速で移動させ、
前記算出部は、前記離間距離と、前記第1の移動手段または前記第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した前記離間距離と前記電流値とを用いて前記適正離間距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の位置制御機構。
【請求項6】
所定の方向に沿って移動自在な第1の制御対象と前記所定の方向に沿って移動自在な第2の制御対象とを伸縮自在なばねで接続し、前記第1の制御対象と前記第2の制御対象との離間距離を保持しながら前記第1の制御対象と前記第2の制御対象の位置を制御する位置制御機構であって、
前記ばねは、空気ばねにより構成され、
前記第1の制御対象を電流を用いて駆動し、前記所定の方向に沿って移動させる第1の移動手段と、
前記第2の制御対象を電流を用いて駆動し、前記所定の方向に沿って移動させる第2の移動手段と、
前記第1の制御対象の位置と前記第2の制御対象の位置を計測する位置計測手段と、
前記第1の移動手段、前記第2の移動手段、および前記空気ばねの自由長さを調整するための内圧を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記位置計測手段により計測された前記第1の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、前記第1の移動手段を制御し、前記位置計測手段により計測された前記第2の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、前記第2の移動手段を制御する位置制御部と、
前記空気ばねの内圧を制御する内圧制御部と、
前記第1の移動手段と前記第2の移動手段との少なくとも一方に流れる電流値を検出する電流値検出部と、
前記位置制御部によって前記離間距離が所定の設定離間距離になるよう前記第1の移動手段および前記第2の移動手段が制御された状態において、前記第1の制御対象と前記第2の制御対象との間に働く対象間力が所定の許容値以下となる前記空気ばねの適正内圧を前記電流値検出部が検出する電流値に基づいて算出する算出部と、を備え、
前記内圧制御部は、前記算出部により算出された前記適正内圧を保つように前記空気ばねの内圧を制御することを特徴とする位置制御機構。
【請求項7】
前記算出部は、前記内圧を第1の内圧としたときの前記第1の移動手段または前記第2の移動手段の少なくとも一方に流れる第1電流値と、前記内圧を前記第1の内圧とは異なる第2の内圧としたときの前記第1電流値に対応する移動手段の第2電流値とを用いて前記適正内圧を算出することを特徴とする請求項6に記載の位置制御機構。
【請求項8】
前記第1電流値に対して、前記第2電流値は正負逆の電流値であり、
前記算出部が二分法を用いて新たな目標内圧を算出し、前記内圧制御部が前記内圧を当該新たな目標内圧となるよう制御し、前記内圧が当該新たな目標内圧に制御された状態で前記電流値検出部が電流値を検出する、一連の手順を繰り返して、前記適正内圧を算出することを特徴とする請求項7に記載の位置制御機構。
【請求項9】
前記内圧制御部は、前記内圧を一定の時間変化率で変化させ、
前記算出部は、前記内圧制御部が制御する内圧と、前記第1の移動手段または前記第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した前記内圧と前記電流値とを用いて前記適正内圧を算出することを特徴とする請求項6に記載の位置制御機構。
【請求項10】
前記電流値検出部が電流値を検出する際に、前記位置制御部は、前記離間距離を一定に保ちつつ、前記第1の制御対象と前記第2の制御対象とを同一かつ一定の速度で移動させるよう前記第1の移動手段および前記第2の移動手段を制御することを特徴とする請求項1から請求項4および請求項6から請求項9のいずれかに記載の位置制御機構。
【請求項11】
前記ばねは、前記第1の制御対象と接続される一端側および前記第2の制御対象と接続される他端側の間に配置される空気ばねであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の位置制御機構。
【請求項12】
前記空気ばねが、第1空間と第2空間との2つの空間に分離されている並列2重空気ばねであることを特徴とする請求項11に記載の位置制御機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置制御機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ばねで接続される2つの制御対象の離間距離を一定に保つ位置制御機構が知られている。例えば、特許文献1に記載された光学式測長機(位置制御機構)は、少なくとも、本体ベースと、スライダ駆動機構(第1の移動手段)を有するスライダ(第1の制御対象)と、ベローズ駆動機構(第2の移動手段)を有するベローズ駆動キャリッジ(第2の制御対象)と、レーザ光源と、反射ミラーと、2つの制御対象を接続するベローズ(ばね)と、干渉計部と、を備える。
【0003】
本体ベースは、所定の位置に配置される固定部を有する。スライダは、本体ベース上に設けられ、スライダ駆動機構により本体ベース上を移動する。ベローズ駆動キャリッジは、本体ベース上に設けられ、ベローズ駆動機構によりスライダと同期して本体ベース上を移動する。レーザ光源は、本体ベース上に固定され、レーザ光を反射ミラーに向けて射出する。反射ミラーは、スライダの端部に固定され、レーザ光源から射出された光を反射して干渉計部に戻す。
【0004】
ベローズは、一端が固定部に接続され、他端がベローズ駆動キャリッジに接続されている主ベローズと、一端がベローズ駆動キャリッジに接続され、他端がスライダ上の反射ミラーに接続されている第1副ベローズと、一端が干渉計部に接続され、他端が固定部に接続されている第2副ベローズと、を有する。これらの各ベローズは、スライダの移動方向に伸縮自在なばねとして機能する。主ベローズは、スライダと一定の距離を保って同期駆動されるベローズ駆動キャリッジの移動に伴って伸縮する。第1副ベローズは、スライダおよび/またはベローズ駆動キャリッジの移動に伴って、スライダとベローズ駆動キャリッジとの離間距離に応じて伸縮する。第2副ベローズで接続される干渉計部と固定部はいずれも本体ベース上に固定的に設けられているため、第2副ベローズは基本的に常時一定の長さを保つ。レーザ光源は、レーザ光をベローズ内に出射し、ベローズは、その導光路として用いられる。
【0005】
干渉計部は、ハーフミラー等を備え、レーザ光源から射出した直接光と、ベローズ内を通過して反射ミラーから戻ってきた反射光と、の位相差を検出することにより、スライダの端部に固定された反射ミラーまでの距離をスライダの位置として測定する。このような光学式測長機により被測定物を測定する際は、被測定物をスライダ上に載置し、被測定物の測定点を検出するセンサの出力信号と、スライダの位置を用いて測定する。
【0006】
ベローズは、真空ポンプを用いてその内部の空気を略真空状態まで排気することで、レーザ光路を略真空状態に保つ。このため、上記光学式測長機は、ベローズによって大気中の空気の温度や気圧、湿度、CO2濃度の変動による屈折率の変化に起因したレーザ波長の変動を排除し、高精度の測長をすることができる。また、上記光学式測長機は、スライダと一定の距離を保って同期駆動されるベローズ駆動キャリッジを用いることで、スライダの移動にともなうベローズの伸縮により生ずる力によりスライダの幾何的な姿勢変化や駆動時の速度変動が起こることを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記の光学式測長機(位置制御機構)のように、ばね(第1副ベローズ)によって接続された2つの制御対象(スライダ、ベローズ駆動キャリッジ)を、制御対象間の離間距離を一定に保持しながら、移動および、位置決めする同期制御を行うことがある。この際、ばねの伸縮により生じる力を極小化するべく、2つの制御対象の離間距離は、ばねの自由長さに設定されていることが好ましい。しかし、ばねの自由長さは、製造過程のばらつきによってばねごとに異なる。また、ばねの自由長さは、ばねの線膨張係数に基づき環境温度によって変動する。離間距離が自由長さに設定されていない場合、ばねにより接続された2つの制御対象の離間距離を一定に保持するためには、外力を加えてばねを伸縮させる必要がある。
【0009】
例えばモータ等を用いて2つの制御対象の位置を制御する場合、ばねを伸縮させて2つの制御対象の離間距離を保持しようとすると、通常の運動にともなう力に加えて、外力としてばねを伸縮させる力を常に発生させて制御対象の位置を制御することになる。これにより、モータが発熱したりモータの消費電力が増加したりするという問題がある。
【0010】
これに対し、外力をセンサによって検出することで、2つの制御対象の離間距離を最適な離間距離(ばねの自由長さ)に設定する方法が考えられる。しかしながら、センサを設置するためには、配線や電気回路等を別途設ける必要がある。このため、位置制御機構の装置が複雑になり、コストがかかるという問題がある。また、外力を直接測定する力センサをリニアガイド等の摩擦要素がある位置制御機構に用いた場合、その測定結果は、制御対象に働く静止摩擦力の影響を受け誤差が生じるおそれがある。
【0011】
本発明の目的は、ばねで接続される2つの制御対象の離間距離をばねの自由長さに保持する位置制御機構を低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の位置制御機構は、所定の方向に沿って移動自在な第1の制御対象と所定の方向に沿って移動自在な第2の制御対象とを伸縮自在なばねで接続し、第1の制御対象と第2の制御対象との離間距離を保持しながら第1の制御対象と第2の制御対象の位置を制御する。位置制御機構は、第1の制御対象を電流を用いて駆動し、所定の方向に沿って移動させる第1の移動手段と、第2の制御対象を電流を用いて駆動し、所定の方向に沿って移動させる第2の移動手段と、第1の制御対象および第2の制御対象の位置を計測する位置計測手段と、第1の移動手段および第2の移動手段を制御する制御手段と、を備える。制御手段は、位置計測手段により計測された第1の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、第1の移動手段を制御し、位置計測手段により計測された第2の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、第2の移動手段を制御する位置制御部と、第1の移動手段と第2の移動手段との少なくとも一方に流れる電流値を検出する電流値検出部と、第1の制御対象と第2の制御対象との間に働く対象間力が所定の許容値以下となる第1の制御対象と第2の制御対象との適正離間距離を電流値検出部が検出する電流値に基づいて算出する算出部と、を備える。位置制御部は、算出部により算出された適正離間距離を保つように第1の移動手段および第2の移動手段を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明では、制御手段は、算出部により算出された適正離間距離を用いて対象間力が所定の許容値以下となるように2つの制御対象の離間距離を制御するため、外力を加えてばねを伸縮させる必要がない。このため、位置制御機構は、ばねを伸縮させるための外力を発生させる第1の移動手段や第2の移動手段(例えばモータ等)の発熱や消費電力を抑制することができる。また、センサを用いることなく制御することができるため、位置制御機構の装置が複雑になることやコストがかかること、静止摩擦力の影響による誤差が生じること等を抑制することができる。したがって、位置制御機構は、低コストでばねで接続される2つの制御対象の離間距離をばねの自由長さで保持することができる。
【0014】
この際、算出部は、所定の初期位置に第1の制御対象と第2の制御対象とを位置決めしたときに第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値と、対象間力を電流値から算出するための定数(推力定数)と、前記ばねのばね定数とを用いて対象間力を最小にする適正離間距離を算出することが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、算出部は、所定の初期位置に第1の制御対象と第2の制御対象とを位置決めしたときに第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値と、対象間力を電流値から算出するための定数(推力定数)と、前記ばねのばね定数とを用いて容易に対象間力を最小にする適正離間距離を算出することができる。
【0016】
または、算出部は、離間距離を第1の距離としたときの第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる第1電流値と、離間距離を第1の距離とは異なる第2の距離としたときの第1電流値に対応する移動手段の第2電流値とを用いて適正離間距離を算出することが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、算出部は、例えばばねのばね定数や第1の移動手段または第2の移動手段の推力定数などの所定の定数が既知ではない場合であっても、容易に対象間力を最小にする適正離間距離を算出することができる。
【0018】
または、第1電流値に対して、第2電流値は正負逆の電流値であり、算出部が二分法を用いて新たな目標離間距離を算出し、位置制御部が離間距離を当該新たな目標離間距離となるよう制御し、離間距離が当該新たな目標離間距離に制御された状態で電流値検出部が電流値を検出する、一連の手順を繰り返して、適正離間距離を算出することが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、算出部は、二分法を用いて容易に対象間力を所定の許容値以下となるように制御するための適正離間距離を算出することができる。
【0020】
または、位置制御部は、第1の制御対象または第2の制御対象の一方の位置を所定の位置に位置決めし、ばねの許容ストローク内において、第1の制御対象または第2の制御対象の他方を前記他方の移動手段を用いて一定速で移動させる。算出部は、離間距離と、第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した離間距離と電流値とを用いて適正離間距離を算出することが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、算出部は、離間距離と、第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した離間距離と電流値とを用いて容易に対象間力を最小にする適正離間距離を算出することができる。また、第1の制御対象または第2の制御対象の他方を一定速で移動させることで、静止摩擦力の影響を抑制することができる。
【0022】
本発明の位置制御機構は、所定の方向に沿って移動自在な第1の制御対象と所定の方向に沿って移動自在な第2の制御対象とを伸縮自在なばねで接続し、第1の制御対象と第2の制御対象との離間距離を保持しながら第1の制御対象と第2の制御対象の位置を制御する。ばねは、空気ばねにより構成される。位置制御機構は、第1の制御対象を電流を用いて駆動し、所定の方向に沿って移動させる第1の移動手段と、第2の制御対象を電流を用いて駆動し、所定の方向に沿って移動させる第2の移動手段と、第1の制御対象の位置と第2の制御対象の位置を計測する位置計測手段と、第1の移動手段、第2の移動手段、および空気ばねの自由長さを調整するための内圧を制御する制御手段と、を備える。制御手段は、位置計測手段により計測された第1の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、第1の移動手段を制御し、位置計測手段により計測された第2の制御対象の位置を任意の位置に移動、停止させるように、第2の移動手段を制御する位置制御部と、空気ばねの内圧を制御する内圧制御部と、第1の移動手段と第2の移動手段との少なくとも一方に流れる電流値を検出する電流値検出部と、位置制御部によって離間距離が所定の設定離間距離になるよう第1の移動手段および第2の移動手段が制御された状態において、第1の制御対象と第2の制御対象との間に働く対象間力が所定の許容値以下となる空気ばねの適正内圧を電流値検出部が検出する電流値に基づいて算出する算出部と、を備える。内圧制御部は、算出部により算出された適正内圧を保つように空気ばねの内圧を制御することを特徴とする。
【0023】
本発明では、制御手段は、予め設定した所定の設定離間距離において、算出部により算出された適正内圧を用いて対象間力が所定の許容値以下となるように空気ばねの自由長さを制御するため、外力を加えてばねを伸縮させる必要がない。このため、位置制御機構は、ばねを伸縮させるための外力を生じさせる第1の移動手段や第2の移動手段(例えばモータ等)の発熱や消費電力を抑制することができる。また、空気ばねの自由長さを制御できるため、離間距離を予め設定した所定の設定離間距離にすることができる。
【0024】
または、算出部は、内圧を第1の内圧としたときの第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる第1電流値と、内圧を第1の内圧とは異なる第2の内圧としたときの第1電流値に対応する移動手段の第2電流値とを用いて適正内圧を算出することが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、算出部は、例えば空気ばねの内圧と空気ばねの自由長さの関係など空気ばねの特性が既知ではない場合であっても、容易に対象間力を最小にする適正内圧を算出することができる。
【0026】
または、第1電流値に対して、第2電流値は正負逆の電流値であり、算出部が二分法を用いて新たな目標内圧を算出し、内圧制御部が内圧を当該新たな目標内圧となるよう制御し、内圧が当該新たな目標内圧に制御された状態で電流値検出部が電流値を検出する、一連の手順を繰り返して、適正内圧を算出することが好ましい。
【0027】
このような構成によれば、算出部は、二分法を用いて容易に対象間力を所定の許容値以下となるように制御するための適正内圧を算出することができる。
【0028】
または、内圧制御部は、内圧を一定の時間変化率で変化させる。算出部は、内圧制御部が制御する内圧と、第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した内圧と電流値とを用いて適正内圧を算出することが好ましい。
【0029】
このような構成によれば、算出部は、内圧制御部が制御する内圧と、第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した内圧と電流値とを用いて容易に対象間力を最小にする適正内圧を算出することができる。
【0030】
または、電流値検出部が電流値を検出する際に、位置制御部は、離間距離を一定に保ちつつ、第1の制御対象と第2の制御対象とを同一かつ一定の速度で移動させるよう第1の移動手段および第2の移動手段を制御することが好ましい。
【0031】
このような構成によれば、位置制御部は、離間距離を一定に保ちつつ、第1の制御対象と第2の制御対象とを同一かつ一定の速度で移動させるよう第1の移動手段および第2の移動手段を制御するため、算出部は、容易に対象間力を最小にする適正離間距離または適正内圧の少なくとも一方を算出することができる。
【0032】
この際、ばねは、第1の制御対象と接続される一端側および第2の制御対象と接続される他端側の間に配置される空気ばねであることが好ましい。
【0033】
このような構成によれば、ばねは、空気ばねであることで、2つの制御対象間において高い振動絶縁性が得られ、通常のばねに見られるサージング現象もほとんど発生しない。
【0034】
または、空気ばねは、第1空間と第2空間との2つの空間に分離されている並列2重空気ばねであることが好ましい。
【0035】
このような構成によれば、空気ばねは、第1空間と第2空間との2つの空間を有する並列2重空気ばねであることで、位置制御機構を先述の光学式測長機に適用した場合に、第2空間を略真空状態にして測長用のレーザ光路を配置することができる。そして、上記測長用のレーザ光路を用いることで、大気中の空気の温度や気圧、湿度、CO2濃度の変動による屈折率の変化に起因したレーザ波長の変動を排除し、高精度の測長が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】第1実施形態に係る位置制御機構の構成を示す概略図である。
【
図2】前記位置制御機構の構成を示すブロック図である。
【
図3】前記位置制御機構における適正離間距離の設定方法を示すフローチャートである。
【
図4】前記位置制御機構における第2の制御対象の位置とばね力との関係を示すグラフである。
【
図5】第2実施形態に係る位置制御機構の構成を示す概略図である。
【
図6】前記位置制御機構の構成を示すブロック図である。
【
図7】前記位置制御機構における適正内圧の設定方法を示すフローチャートである。
【
図8】前記位置制御機構におけるばねの内圧と空気ばね力との関係を示すグラフである。
【
図9】第3実施形態に係る位置制御機構の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を
図1から
図4に基づいて説明する。
図1は、第1実施形態に係る位置制御機構1の構成を示す概略図である。位置制御機構1は、
図1に示すように、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との離間距離を保持しながら第1の制御対象W1と第2の制御対象W2の位置を制御する。具体的には、位置制御機構1は、第1の制御対象W1および第2の制御対象W2を同期制御する。
【0038】
図1に示すように、第1の制御対象W1は、X方向に沿って移動自在とされる。また、第2の制御対象W2も、X方向に沿って移動自在とされる。第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とは、伸縮自在なばね2で接続されている。ばね2は、X方向に伸縮自在なコイルばねである。ばね2の一端側は、第1の制御対象W1と接続され、ばね2の他端側は、第2の制御対象W2と接続されている。なお、X方向は本発明における所定の方向に相当する。
【0039】
位置制御機構1は、第1の移動手段11と、第2の移動手段12と、を備える。第1の移動手段11は、第1の制御対象W1を動かすための駆動機構と、X方向に沿って移動させる案内機構を備える。同様に、第2の移動手段12は、第2の制御対象W2を動かすための駆動機構と、X方向に沿って移動させる案内機構を備える。駆動機構には、リニアモータや、モータとボールネジ等を組み合わせた駆動機構が用いられる。なお、駆動機構に用いられるアクチュエータは、モータに限定されず、電流を用いて駆動対象(すなわち第1の制御対象W1や第2の制御対象W2)を移動させることができるものであればどのようなものを採用してもよい。案内機構には、リニアガイドや、静圧案内等の案内機構が用いられ、駆動対象は同軸上を移動する。第1の移動手段11と、第2の移動手段12とは、1つの案内機構を共用してもよい。
【0040】
図2は、位置制御機構1の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、位置制御機構1は、位置計測手段3と、制御手段4と、をさらに備える。位置計測手段3は、第1の制御対象W1および第2の制御対象W2の位置を計測する。位置計測手段3としては、例えばスケールを用いることができる。具体的には、位置計測手段3は、第1の制御対象W1および第2の制御対象W2のそれぞれの絶対位置が得られるアブソリュート型のスケール(ABSスケール)とするとよい。ABSスケールは、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2の絶対位置から2つの制御対象W1,W2の離間距離を直接得ることができる。なお、位置計測手段3は、ABSスケールに限定されず、第1の制御対象W1の位置と第2の制御対象W2の位置を計測することができればどのようなものを採用してもよい。例えば、位置計測手段3は、インクリメンタル型のスケール(INCスケール)であってもよい。位置計測手段3がINCスケールである場合、システム起動時等の初期化時の位置を原点とし、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2の原点における離間距離を後述する適正離間距離の初期設定値とするとよい。
【0041】
制御手段4は、位置制御部5と、電流値検出部6と、算出部7と、再設定部8と、を備え、第1の移動手段11および第2の移動手段12を制御する。
【0042】
位置制御部5は、位置計測手段3により計測された第1の制御対象W1の位置を任意の位置に移動、停止させるように、第1の移動手段11を制御する。位置制御部5は、同様に、位置計測手段3により計測された第2の制御対象W2の位置を任意の位置に移動、停止させるように、第2の移動手段12を制御する。
【0043】
電流値検出部6は、第1の移動手段11と第2の移動手段12との少なくとも一方に流れる電流値を検出する。具体的には、電流値検出部6は、第2の移動手段12に流れる電流値を検出する。
【0044】
算出部7は、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との間の適正離間距離を電流値検出部6が検出する電流値に基づいて算出する。「適正離間距離」とは、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との間に働く対象間力が所定の許容値以下となる離間距離である。「対象間力」とは、ばね2を介して第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との間に働く力である。離間距離とばね2の自由長さが一致していない状態で離間距離を保持するには、対象間力に抗して離間距離を保持する力が必要となる。この離間距離を保持する力を発生させるために、第1の移動手段11と第2の移動手段12で電流が消費される。「対象間力が所定の許容値以下」の状態では、対象間力に抗する力を発生させるために消費される電流の値(電流値)が十分小さくゼロに近い値であることが好ましい。第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との離間距離が、ばね2の自由長さに十分に近い適正離間距離となれば対象間力は十分小さくなり、離間距離とばね2の自由長さが一致すれば、対象間力はゼロとなる。算出部7による具体的な適正離間距離の算出方法は後述する。
【0045】
再設定部8は、算出部7により算出された適正離間距離を2つの制御対象W1,W2の離間距離として再設定する。位置制御部5は、算出部7により算出された適正離間距離を保つように第1の移動手段11および第2の移動手段12を制御する。
【0046】
続いて、位置制御機構1における位置制御部5の適正離間距離の設定方法について説明する。
図3は、位置制御機構1における適正離間距離の設定方法を示すフローチャートである。
【0047】
先ず、電流値検出部6は、第2の移動手段12(第1の移動手段11)の電流値を検出する電流値検出工程を実行する(ステップST01)。次に、電流値検出部6は、検出した電流値が所定の許容値以下か否かを判定する電流値判定工程を実行する(ステップST02)。
【0048】
検出された電流値が所定の許容値以下であると判定された場合(ステップST02でYES)、現在設定されている離間距離が適正離間距離であるとして、位置制御機構1は適正離間距離の設定手順を終了する。検出された電流値が所定の許容値以下ではないと判定された場合(ステップST02でNO)、算出部7は、電流値検出部6により検出された電流値に基づいて対象間力が所定の許容値以下となるように制御するための適正離間距離を算出する算出工程を実行する(ステップST03)。
【0049】
次に、再設定部8は、算出部7により算出された適正離間距離を再設定する再設定工程を実行する(ステップST04)。位置制御部5は、再設定された適正離間距離に基づいて第2の移動手段12を制御する位置制御工程を実行する(ステップST05)。位置制御工程(ステップST05)を実行した後、再び電流値検出部6は、第2の移動手段12(第1の移動手段11)の電流値を検出する電流値検出工程を実行する(ステップST01)。そして、検出された電流値が所定の許容値以下であると判定された場合(ステップST02でYES)、設定された離間距離が適正離間距離であるとして、位置制御機構1は、適正離間距離の設定手順を終了する。
【0050】
以下、算出部7が算出する適正離間距離の算出方法について具体的に説明する。
はじめに、適正離間距離の算出に用いる変数、定数、数式等について説明する。
図1に示すように、先ず、ばね2の長さをD1とし、第1の制御対象W1の位置をX1とし、位置X1からばね2の一端側の接続位置までの長さをL1とし、第2の制御対象W2の位置をX2とし、位置X2からばね2の他端側の接続位置までの長さをL2とする。なお、長さL1と長さL2とばね2の自由長さD0は定数である。
【0051】
次に、ばね2の長さD1は、式(1)で表すことができる。ばね2のばね定数をKとし、ばね2の自由長さをD0とすると、ばねに働くばね力Fは、フックの法則から式(2)で表される。
【0052】
ここで、ばね力Fは、対象間力である。第1の制御対象W1に働く力をF1とし、第2の制御対象W2に働く力をF2とすると、式(3)で表されるように、ばね力Fと第1の制御対象W1に働く力F1と第2の制御対象W2に働く力F2とは等しい。なお、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とに働く静止摩擦力は無視できる程に十分小さいと仮定する。
【0053】
D1=X2-X1-(L1+L2) …(1)
F=K・(D1-D0) …(2)
F=F1=F2 …(3)
【0054】
第1の制御対象W1がリニアモータを用いた第1の移動手段11で駆動され、第1の移動手段11の推力定数をKT1とし、第1の移動手段11に流れる電流をI1とすると、第1の制御対象W1に働く力F1は、式(4)で表される。
【0055】
第2の制御対象W2がリニアモータを用いた第2の移動手段12で駆動され、第2の移動手段12の推力定数をKT2とし、第2の移動手段12に流れる電流をI2とすると、第2の制御対象W2に働く力F2は、式(5)で表される。推力定数KT1およびKT2は、本発明における対象間力を電流値から算出するための定数の一例である。なお、第1の移動手段11や第2の移動手段12に回転型モータが用いられる場合には、KT1およびKT2として、各推力定数と等価な定数をトルク定数および、駆動機構のトルク推力変換係数から求めて用いるとよい。
【0056】
F1=KT1・I1 …(4)
F2=KT2・I2 …(5)
【0057】
位置制御部5(
図2参照)は、第1の制御対象W1を位置X1に位置決めする位置制御を実行する。その際、第1の移動手段11に流れる電流I1の値を電流値検出部6(
図2参照)により検出し、検出した電流I1の値を式(4)に代入することにより第1の制御対象W1に働く力F1を求めることができる。
【0058】
また、位置制御部5は、第2の制御対象W2を位置X2に位置決めする位置制御を実行する。その際、第2の移動手段12に流れる電流I2の値を電流値検出部6により検出し、検出した電流I2の値を式(5)に代入することにより第2の制御対象W2に働く力F2を算出することができる。
【0059】
ここで、式(2)に式(1)を代入して整理すると式(6)のようにばね力Fは、第2の制御対象W2の位置X2の1次式で表される。
【0060】
F=K・X2-K・(X1+(L1+L2)+D0) …(6)
【0061】
次に、対象間力となるばね力Fと、第2の制御対象W2の位置X2と、の関係を明らかにするために、位置制御部5は、第1の制御対象W1を位置X1に位置決めする指令を第1の移動手段11に出して第1の制御対象W1の位置を一定に保ち、第2の移動手段12により第2の制御対象W2の位置X2を変更する。
【0062】
ここで、第2の制御対象W2が位置X2にあるときのばね力Fは、第1の移動手段11に流れる電流I1を電流値検出部6(
図2参照)により検出し、検出した電流I1の値を式(4)に代入することにより算出することができる。なお、第2の移動手段12に流れる電流I2を電流値検出部6により検出し、検出した電流I2の値を式(5)に代入してもばね力Fを算出することができる。
【0063】
図4は、位置制御機構1における第2の制御対象W2の位置X2とばね力Fとの関係を示すグラフである。
図4のグラフにおいて、縦軸はばね力Fであり、横軸は第2の制御対象W2の位置X2である。また、適正離間距離の初期設定値における第2の制御対象W2の位置X2を横軸の原点(P0)とし、適正離間距離の初期設定値において、ばね力Fを求めた結果をF(P0)とする。また、対象間力が最小(つまりF(P2)=0)となる第2の制御対象W2の位置X2をP2として示す。
【0064】
以下、
図4を用いて算出部7による対象間力を最小にする適正離間距離の算出方法を説明する。算出部7は、第1~第5のいずれかの算出方法によって第2の制御対象W2の位置P2に基づく適正離間距離を算出する。
【0065】
<第1の方法>
以下、算出部7により適正離間距離を算出する第1の方法を説明する。第1の方法は、第2の測定対象W2の位置と電流値と対象間力を電流値から算出するための定数(推力定数等)とばね2のばね定数が分かれば容易に適正離間距離を算出することができる方法である。具体的には、第1の方法では、第2の制御対象W2の初期設定値P0と、初期設定値P0で位置決めしたときに第1の移動手段11に流れる電流I1と、ばね2のばね定数を用いて位置P2に基づく適正離間距離を求める。
【0066】
第2の制御対象W2の原点位置P0=0におけるばね力をF(P0)とする。また、対象間力を0にする第2の制御対象W2の位置をP2とする。前述の式(6)にこれらを代入すると、式(7)と式(8)とが得られる。そして、式(7)を式(8)に代入して第2の制御対象W2の位置P2について解くと、式(9)が得られる。
【0067】
F(P0)=K・0-K・(X1+(L1+L2)+D0) …(7)
0=K・P2-K(X1+(L1+L2)+D0) …(8)
P2=-F(P0)/K …(9)
【0068】
ここで、初期設定値P0で位置決めしたときに第1の移動手段11に流れる電流をI1(P0)とすると、式(4)から適正離間距離の初期設定値P0におけるばね力F(P0)は、式(10)で表せる。そして、式(10)を式(9)に代入すると式(11)が得られる。このように、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2は、第1の移動手段11に流れる電流I1(P0)を用いて式(11)から算出することができる。
【0069】
F(P0)=KT1・I1(P0) …(10)
P2=-KT1・I1(P0)/K …(11)
【0070】
すなわち、第1の方法において、算出部7は、所定の初期位置に第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とを位置決めしたときに第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる電流値と、対象間力を電流値から算出するための定数(推力定数等)と、ばね2のばね定数とを用いて対象間力を最小にする適正離間距離を算出する。
【0071】
<第2の方法>
以下、算出部7により適正離間距離を算出する第2の方法を説明する。第2の方法では、ばね2のばね定数Kや第1の移動手段11の対象間力を電流値から算出するための定数(推力定数等)KT1が既知でない場合に、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2に基づく適正離間距離を求めることができる。
【0072】
第2の制御対象W2の原点位置P0=0におけるばね力をF(P0)とする。原点位置P0は、本発明における第1の距離に対応する第2の制御対象W2の位置である。また、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置をP2とする。
【0073】
ここで、新たに設定した第2の制御対象W2の位置をP1とする。このP1は、本発明における第2の距離に対応する第2の制御対象W2の位置である。第2の制御対象W2がP1に位置するときのばね力をF(P1)とすると、前述の式(6)から式(12)が得られる。式(7)を式(12)に代入して、ばね定数Kについて整理すると式(13)が得られる。式(13)のばね定数Kを式(9)に代入すると式(14)が得られる。
【0074】
F(P1)=K・P1-K・(X1+(L1+L2)+D0) …(12)
F(P1)=K・P1+F(P0)
K=(F(P1)-F(P0))/P1 …(13)
P2=-F(P0)・P1/(F(P1)-F(P0)) …(14)
【0075】
ここで、第2の制御対象W2の位置P0における第1の移動手段11の電流をI1(P0)とし、第2の制御対象W2の位置P1における第1の移動手段11の電流をI1(P1)とすると、式(4)から式(15)と式(16)とが得られる。さらに、式(14)に式(15)および式(16)を代入すると式(17)が得られる。
【0076】
F(P0)=KT1・I1(P0) …(15)
F(P1)=KT1・I1(P1) …(16)
P2=-KT1・I1(P0)・P1/(KT1・I1(P1)-KT1・I1(P0))
P2=-I1(P0)・P1/(I1(P1)-I1(P0)) …(17)
【0077】
このようにして、第2の制御対象W2の位置P0における電流I1(P0)と、新たに設定した第2の制御対象W2の位置P1と、第2の制御対象W2の位置P1における第1の移動手段11に流れる電流I1(P1)から、式(17)により、対象間力を0にする第2の制御対象W2の位置P2を算出することができる。なお、第2の制御対象W2の新たな位置P1は、ばね定数Kの設計値や、概略値から第1の方法で求めた対象間力を最小にする第2の制御対象W2の推定位置を用いてもよい。また、ばね2の許容ストロークに基づいてばね2の許容ストローク内の任意の値を設定してもよい。
【0078】
また、
図3に示す所定の離間距離の設定方法において第2の方法を複数回繰り返して、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2を求めてもよい。測定ノイズや静止摩擦力などの影響により、第1の移動手段11の電流I1が0に収束しない場合は、第1の移動手段11の電流I1が設定した電流値以下になった時点で、前述の繰り返しを終了するようにするとよい。
【0079】
すなわち、第2の方法において、算出部7は、離間距離を第1の距離としたときの第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる第1電流値と、離間距離を第1の距離とは異なる第2の距離としたときの第1電流値に対応する移動手段の第2電流値とを用いて適正離間距離を算出する。
【0080】
<第3の方法>
以下、算出部7により適正離間距離を算出する第3の方法を説明する。第3の方法では、所定の場合に二分法を用いて容易に適正離間距離を算出することができる。具体的には、第3の方法は、第2の方法における第2の制御対象W2の新たな位置X2(本発明における第2の距離に対応する位置)が、
図4に示すP3のように、第1の移動手段11の電流I1(P0)と正負が逆の電流値I1(P3)である場合に適用することができ、二分法を用いて対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2に基づく適正離間距離を求める。
【0081】
二分法を用いて第2の制御対象W2の位置設定を複数回繰り返すことで、ばね2が非線形ばね特性を持つ場合や、第1の移動手段11の推力定数KT1が電流値によって異なる非線形性を持つ場合や、推力定数KT1が移動手段11の位置によって異なる位置依存性を持つ場合であっても、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2を算出することができる。
【0082】
すなわち、第3の方法では、第2の制御対象W2の新たな位置X2(本発明における第2の距離に対応する位置)を、第2電流値が正負逆の電流値となるような位置とする。そして、算出部7が二分法を用いて新たな目標離間距離を算出し、位置制御部5が離間距離を当該新たな目標離間距離となるよう制御し、離間距離が当該新たな目標離間距離に制御された状態で電流値検出部6が電流値を検出する。これらの、一連の手順を繰り返して、適正離間距離を算出する。
【0083】
<第4の方法>
以下、算出部7により適正離間距離を算出する第4の方法を説明する。第4の方法は、2つの制御対象W1,W2の一方を一定速で移動させることができる場合に適正離間距離を算出する方法である。具体的には、第4の方法は、
図4に示すように、第1の制御対象W1を位置X1に位置決めした状態で、ばね2の許容ストローク内において、第2の制御対象W2を一定速で移動させながら第2の制御対象W2の位置X2と、第1の移動手段11の電流I1を連続的に取得し、それらのデータから電流I1が0になる第2の制御対象W2の位置X2を求めて、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2に基づく適正離間距離を設定する方法である。
【0084】
算出部7は、例えば、連続的に取得した位置X2と電流I2のデータに対し最小二乗法を適用して、第2の制御対象W2の位置X2と第1の移動手段11の電流I1の関係を位置X2の多項式で近似し、この多項式から電流I1=0の位置を求めて、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2に基づく適正離間距離を算出する。
【0085】
すなわち、第4の方法において、位置制御部5は、第1の制御対象W1または第2の制御対象W2の一方の位置を所定の位置に位置決めし、ばね2の許容ストローク内において、第1の制御対象W1または第2の制御対象W2の他方を他方の移動手段を用いて一定速で移動させる。算出部7は、離間距離と、第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した離間距離と電流値とを用いて適正離間距離を算出する。
【0086】
<第5の方法>
以下、算出部7により適正離間距離を算出する第5の方法を説明する。第5の方法は、2つの制御対象W1,W2を同一かつ一定の速度で移動させることができ、かつ第1の制御対象W1と第2の制御対象W2のいずれか一方の動摩擦力が十分小さい場合に適正離間距離を算出する方法である。具体的には、第5の方法は、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2を所定の離間距離を保持したまま、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2を同一、かつ、一定の速度で移動させ、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2のいずれか一方の動摩擦力が十分小さい移動手段の電流を電流値検出部6により検出する。そして、これを所定の離間距離を変更して複数回実行し、設定した所定の離間距離と、検出した電流との関係を第1から3の方法と同様の手法により求め、対象間力を最小にする適正離間距離を求める。
【0087】
第1の制御対象W1と第2の制御対象W2のいずれか一方の動摩擦力が十分小さい場合、静止摩擦力の影響を除いた対象間力を測定することができる。なお、動摩擦力がなければ、対象間力を最小にする所定の離間距離において、等速運動中の動摩擦力がない制御対象の駆動手段の電流は0となる。
【0088】
すなわち、第5の方法において、電流値検出部6が電流値を検出する際に、位置制御部5は、離間距離を一定に保ちつつ、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とを同一かつ一定の速度で移動させるよう第1の移動手段11および第2の移動手段12を制御し、算出部7は、その制御により得られた電流値等を用いて静止摩擦力の影響を除いた適正離間距離を算出する。
【0089】
これら第1~第5の方法のいずれかの方法を用いて算出部7は、適正離間距離を算出する。再設定部8は、算出部7が算出した適正離間距離を2つの制御対象W1,W2の離間距離として再設定する。位置制御部5は、再設定部8により再設定された適正離間距離に基づいて第1の移動手段11と第2の移動手段12を制御する。その結果、第1の制御対象W1と第2の制御対象との離間距離はばね2の自由長さと略一致し、制御対象W1,W2の離間距離を保持するために移動手段11,12に流す電流を抑制することができる。
【0090】
このような第1実施形態によれば、以下の作用・効果を奏することができる。
(1)制御手段4は、算出部7により算出された適正離間距離を用いて対象間力が所定の許容値以下となるように2つの制御対象W1,W2の離間距離を制御するため、外力を加えてばね2を伸縮させる必要がない。このため、位置制御機構1は、ばね2を伸縮させるための外力を生じさせる第1の移動手段11や第2の移動手段12の発熱や消費電力を抑制することができる。また、センサを用いることなく制御することができるため、位置制御機構1の構造が複雑になることやコストがかかること、静止摩擦力の影響による誤差が生じること等を抑制することができる。したがって、位置制御機構1は、低コストでばね2で接続される2つの制御対象W1,W2の離間距離をばね2の自由長さで保持することができる。
【0091】
(2)算出部7は、所定の初期位置に第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とを位置決めしたときに第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる電流値と、対象間力を電流値から算出するための定数と、ばね2のばね定数を用いて容易に対象間力を最小にする適正離間距離を算出することができる。
(3)算出部7は、例えばばね2のばね定数や第1の移動手段11または第2の移動手段12の推力定数などの所定の定数が既知ではない場合であっても、容易に対象間力を最小にする適正離間距離を算出することができる。
【0092】
(4)算出部7は、二分法を用いて容易に対象間力を所定の許容値以下となるように制御するための適正離間距離を算出することができる。
(5)算出部7は、離間距離と、第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した離間距離と電流値とを用いて容易に対象間力を最小にする適正離間距離を算出することができる。
(6)位置制御部5は、離間距離を一定に保ちつつ、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とを同一かつ一定の速度で移動させるよう第1の移動手段11および第2の移動手段12を制御することで、算出部7は、静止摩擦力の影響を除いた対象間力を最小にする適正離間距離を算出することができる。
【0093】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を
図5から
図8に基づいて説明する。なお、以下の説明では、第1実施形態と共通の構成については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0094】
図5は、第2実施形態に係る位置制御機構1Aの構成を示す概略図である。前記第1実施形態では、ばね2は、X方向に伸縮自在なコイルばねであった。第2実施形態では、
図5に示すように、位置制御機構1Aにおけるばね2Aは、X方向に伸縮自在な空気ばねである点で前記第1実施形態と異なる。また、位置制御機構1Aの制御手段4Aは、位置制御部5、電流値検出部6、算出部7、および再設定部8に加え、ばね2Aの内圧を制御する内圧制御部13をさらに備える点で前記第1実施形態と異なる。
【0095】
ばね2Aは、蛇腹部20Aを有する圧縮気体の弾力性を利用した空気ばねである。ばね2Aは、その一端が第1の制御対象W1と接続され、他端が第2の制御対象W2と接続される。蛇腹部20Aは、ダイヤフラムや蛇腹状の金属等で構成されてX方向に伸縮する。蛇腹部20Aの内部は、圧縮気体を封入できる空間となっており、加圧ポンプにより空気等の圧縮気体で満たされている。ばね2Aの自由長さは、蛇腹部20Aのばね特性と、大気圧と、圧縮気体の圧力(以下、「内圧」という)により決まる。ばね2Aの自由長さは、内圧制御部13により制御される。ばね2Aの自由長さは、内圧制御部13を用いて内圧を制御することで変更できる。
【0096】
図6は、位置制御機構1Aの構成を示すブロック図である。第2実施形態では、
図6に示すように、制御手段4Aは、内圧制御部13を備え、ばね2Aの自由長さを調整すべく内圧を制御する点で前記第1実施形態における制御手段4と異なる。また、前記第1実施形態では、算出部7は、適正離間距離を算出していたが、第2実施形態では、算出部7Aは、適正内圧を算出する点で前記第1実施形態と異なる。ここで、「適正内圧」とは、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との間に働く対象間力が所定の許容値以下となる内圧である。ばね2Aの内圧を適正内圧とすると、ばね2Aの自由長さは第1の制御対象W1と第2の制御対象W2との離間距離と略一致し、対象間力は十分に小さくなる。
【0097】
算出部7Aは、位置制御部5によって離間距離が所定の設定離間距離になるよう第1の移動手段11および第2の移動手段12が制御された状態において、適正内圧を電流値検出部6が検出する電流値に基づいて算出する。内圧制御部13は、図示しないコンプレッサや圧力調整弁を介して、算出部7Aにより算出された適正内圧を保つようにばね2Aの内圧を制御する。また、内圧制御部13は、ばね2Aの内圧を測定するセンサを用いて、フィードバック制御系を構成して、ばね2Aの内圧を制御してもよい。
【0098】
続いて、位置制御機構1Aにおける適正内圧の設定方法について説明する。
図7は、位置制御機構1Aにおける適正内圧の設定方法を示すフローチャートである。
先ず、電流値検出部6は、第1の移動手段11(第2の移動手段12)の電流値を検出する電流値検出工程を実行する(ステップST11)。次に、電流値検出部6は、検出した電流値が所定の許容値以下か否かを判定する電流値判定工程を実行する(ステップST12)。
【0099】
検出された電流値が所定の許容値以下であると判定された場合(ステップST12でYES)、現在設定されているばね2Aの内圧(蛇腹部20Aに封入されている気体にかかる圧力)が適正内圧であるとして、位置制御機構1Aは適正内圧の設定手順を終了する。検出された電流値が所定の許容値以下ではないと判定された場合(ステップST12でNO)、算出部7Aは、電流値検出部6により検出された電流値に基づいて適正内圧を算出する算出工程を実行する(ステップST13)。
【0100】
次に、再設定部8Aは、算出部7Aにより算出された適正内圧を再設定する再設定工程を実行する(ステップST14)。内圧制御部13は、再設定部8Aにより再設定された適正内圧に基づいてばね2Aの長さを制御する内圧制御工程を実行する(ステップST15)。内圧制御工程(ステップST15)を実行した後、再び電流値検出部6は、第1の移動手段11(第2の移動手段12)の電流値を検出する電流値検出工程を実行する(ステップST11)。そして、検出された電流値が所定の許容値以下であると判定された場合(ステップST12でYES)、設定されたばね2Aの内圧が適正内圧であるとして、位置制御機構1Aは適正内圧の設定手順を終了する。
【0101】
以下、具体的な位置制御機構1Aにおける適正内圧の算出方法を説明する。
はじめに、適正内圧の算出に用いる変数、定数、数式等について説明する。ばね2Aの長さD1(
図5参照)を一定に保持する場合、ばね2Aに加わる力FAは、蛇腹部20Aのばね定数Kと、ばね2Aの内圧PPと、大気圧PAと、ばね2Aの比例定数KAと、を用いて式(18)で表すことができる。ここで、D0はばね2Aの自由長さである。ばね2Aに加わる力FAは、ばね2Aの内圧PPに比例し、ばね2Aの内圧PPを用いて、ばね2Aに加わる力FAを任意の値に設定できる。
【0102】
FA=KA・(PP-PA)-K・(D1-D0)
FA=KA・PP-(KA・PA+K・(D1-D0)) …(18)
【0103】
第1実施形態と同様に、第1の移動手段11に流れる電流I1を電流値検出部6により検出し、検出した電流I1を式(4)に代入することで空気ばね力FAを算出することができる。なお、第2の移動手段12に流れる電流I2を電流値検出部6により検出し、検出した電流I2を式(5)に代入して空気ばね力FAを算出することもできる。すなわち、第1実施形態で適正離間距離を算出したのと同様に、算出部7Aは、第1~第5のいずれかの算出方法によって適正内圧を算出し、内圧制御部13は、再設定部8Aにより再設定された適正内圧に基づいてばね2Aの長さを制御する。以下で説明するように、第1実施形態において算出部7が適正離間距離を算出したのと同様に、算出部7Aは、第1~第5のいずれかの算出方法を用いて適正内圧を算出する。
【0104】
図8は、位置制御機構1Aにおけるばね2Aの内圧と空気ばね力との関係を示すグラフである。
図8のグラフは、大気圧PAを一定値とした場合のグラフである。縦軸は空気ばね力FAであり、横軸はばね2Aの内圧である。また、ばね2Aの内圧の初期設定値を原点(PP0)とし、ばね2Aの内圧の初期設定値において、空気ばね力FAを求めた結果をFA(PP0)とする。さらに、対象間力を最小(つまりFA(PP2)=0)となるばね2Aの内圧をPP2として示す。
【0105】
ここで、式(6)と式(18)とを比較すると、式(6)は、第2の制御対象W2の位置X2の1次式であり、式(18)はばね2Aの内圧PPの1次式であることがわかる。また、
図3のグラフと
図8のグラフとを比較した場合も同様にそれぞれ同じ一次式を表すグラフであることがわかる。すなわち、第1実施形態と同様の第1~第5のいずれかの算出方法を算出部7Aに用いてばね2Aの自由長さに設定できる内圧PPを適正内圧として算出し、再設定部8Aにより再設定することで、内圧制御部13は、対象間力を所定の許容値以下にすることができる。
【0106】
第1の方法では、算出部7Aは、空気ばねの内圧を所定の初期内圧としたときに第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる電流値と、対象間力を電流値から算出するための定数と、ばね2Aの比例定数とを用いて対象間力を最小にする適正内圧を算出するとよい。第1の方法は、対象間力を電流値から算出するための定数と、ばね2Aの比例定数が既知である場合に用いることができる。
【0107】
また、第2の方法では、算出部7Aは、内圧を第1の内圧としたときの第1の移動手段または第2の移動手段の少なくとも一方に流れる第1電流値と、内圧を第1の内圧とは異なる第2の内圧としたときの第1電流値に対応する移動手段の第2電流値とを用いて適正内圧を算出するとよい。第2の方法は、第1の内圧としたときの第1電流値と第2の内圧としたときの第2電流値を用いることで、対象間力を電流値から算出するための定数やばね2Aの比例定数が未知である場合でも適正内圧を算出することができる。
【0108】
また、第3の方法では、算出部7Aは、第2の算出方法と同様に第1の内圧としたときの第1電流値と第2の内圧としたときの第2電流値を用いるが、第1電流値に対して、第2電流値は正負逆の電流値となるように第1の内圧と第2の内圧を設定し、第1電流値と第2電流値を初期値として二分法を用いて新たな目標内圧を算出する。そして、内圧制御部が内圧を当該新たな目標内圧となるよう制御し、内圧が当該新たな目標内圧に制御された状態で電流値検出部が電流値を検出する。以上の一連の手順を繰り返して、適正内圧を算出する。
【0109】
また、第4の方法では、内圧制御部13が、内圧を一定の時間変化率で変化させる。算出部7Aは、内圧制御部13が制御する内圧と、第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した内圧と電流値とを用いて適正内圧を算出する。例えば、算出部7Aは連続的に取得した内圧と電流値に対し、最小二乗法を適用して両者の関係式を多項式等の関数として求め、当該関係式において電流値がゼロとなる適正内圧を算出するとよい。
【0110】
また、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2のいずれか一方の動摩擦力が十分小さい場合に適用可能な第5の方法では、電流値検出部6が電流値を検出する際に、位置制御部5は、離間距離を一定に保ちつつ、内圧を所定の内圧に設定した状態で第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とを同一かつ一定の速度で移動させるよう第1の移動手段11および第2の移動手段12を制御する。そして、これを所定の内圧を変更して複数回実行し、設定した所定の内圧と、動摩擦力が十分小さい移動手段の電流との関係を第1から3の方法と同様の手法により求め、対象間力を最小にする適正離間距離を求める。
【0111】
このような第2実施形態によれば、以下の作用、効果を奏することができる。
(7)制御手段4Aは、算出部7Aにより算出された適正内圧を用いて対象間力が所定の許容値以下となるようにばね2Aの自由長さを制御するため、外力を加えてばね2Aを伸縮させる必要がない。このため、位置制御機構1Aは、ばね2Aを伸縮させるための外力を生じさせる第1の移動手段11や第2の移動手段12の発熱や消費電力を抑制することができる。また、空気ばねを用いる効果として、2つの制御対象間において高い振動絶縁性が得られ、通常のばねに見られるサージング現象も回避することができる。
【0112】
(8)算出部7Aは、ばね2Aの内圧を所定の初期内圧としたときに第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる電流値と、対象間力を電流値から算出するための定数と、ばね2Aの比例定数とを用いて容易に対象間力を最小にする適正内圧を算出することができる。
(9)算出部7Aは、例えばばね2Aの比例定数や第1の移動手段11または第2の移動手段12の推力定数などの所定の定数が既知ではない場合であっても、容易に対象間力を最小にする適正内圧を算出することができる。
(10)算出部7Aは、二分法を用いて容易に対象間力を所定の許容値以下となるように制御するための適正内圧を算出することができる。
【0113】
(11)算出部7Aは、内圧制御部13が制御する内圧と、第1の移動手段11または第2の移動手段12の少なくとも一方に流れる電流値とを連続的に取得し、連続的に取得した内圧と電流値とを用いて容易に対象間力を最小にする適正内圧を算出することができる。
(12)位置制御部5は、離間距離を一定に保ちつつ、第1の制御対象W1と第2の制御対象W2とを同一かつ一定の速度で移動させるよう第1の移動手段11および第2の移動手段12を制御するため、算出部7Aは、静止摩擦力の影響を除いた対象間力を最小にする適正内圧を算出することができる。
(13)ばね2Aは、空気ばねであることで、2つの制御対象間において高い振動絶縁性が得られ、通常のばねに見られるサージング現象もほとんど発生しない。
【0114】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態を
図9に基づいて説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0115】
図9は、第3実施形態に係る位置制御機構1Bの構成を示す概略図である。前記第2実施形態では、ばね2Aは、空気ばねであった。第3実施形態の位置制御機構1Bのばね2Bは、
図9に示すように、並列2重空気ばねである点で前記第2実施形態と異なる。
【0116】
ばね2Bは、蛇腹部20Bを有する圧縮気体の弾力性を利用した並列2重空気ばねである。ばね2Bは、その一端が第1の制御対象W1と接続され、他端が第2の制御対象W2と接続される。蛇腹部20Bは、ダイヤフラムや蛇腹状の金属等で構成されてX方向に伸縮する。蛇腹部20Bの内部は、第1空間21Bと第2空間22Bとの2つの空間に分離されている。第1空間21Bは、空気等の圧縮気体で満たされている。第2空間22Bは、真空ポンプにより排気され略真空状態になっている。
【0117】
ばね2Bの自由長さは、蛇腹部20Bのばね特性と、大気圧と、第1空間21Bの圧縮気体の内圧と、第2空間22Bの真空の負圧と、により決まる。
ばね2Bの自由長さは、内圧制御部13により制御される。ばね2Bの長さは、内圧制御部13を用いて内圧を制御することで伸縮する。
【0118】
ばね2Bの長さD1を一定に保持する場合、ばね2Bに加わる空気ばね力FBは、蛇腹部20Bのばね定数Kと、ばね2Bの第1空間21Bの内圧PPと、大気圧PAと、ばね2Bの比例定数KBと、第2空間22Bの受圧面積Sを用いて、式(19)で表せる。なお、第2空間22Bの受圧面積Sは定数である。
【0119】
FB=KB・(PP-PA)-K・(D1-D0)-S・PA
FB=KB・PP-((KB+S)・PA+K・(D1-D0)) …(19)
【0120】
ばね2Bに加わる空気ばね力FBは、ばね2Bの第1空間21Bの内圧PPに比例する。このため、ばね2Bの内圧PPを用いて、ばね2Bに加わる空気ばね力FBは、任意の値に設定できる。
【0121】
ここで、式(19)は、式(18)に第2空間22Bの受圧面積Sに作用する大気圧PAによる負圧力が加わった式である。大気圧PAを一定値とした場合、負圧力は一定であるため、式(19)は第2実施形態と同じ内圧PPの1次式であることがわかる。したがって、位置制御機構1Bは、前記第2実施形態の位置制御機構1Aと同じ方法により対象間力を最小にするばね2Bの内圧PPを適正内圧として算出することができる。
【0122】
なお、第1実施形態から第3実施形態では、大気圧PAを一定値とした場合について説明したが、大気圧は、気象条件などにより変化する。このため、位置制御機構1,1A~1Bは、稼働中に随時、算出部7,7Aを用いて対象間力を最小にする適正離間距離や適正内圧を算出して再設定部8,8Aに再設定するとよい。これにより、再設定の度に、対象間力が最小になり大気圧の変化に追従することができる。
【0123】
このような第3実施形態においても、前記第2実施形態における(7)~(13)と同様の作用、効果を奏することができる他、以下の作用、効果を奏することができる。
(14)ばね2Bは、第1空間21Bと第2空間22Bとの2つの空間を有する蛇腹部20Bを備える並列2重空気ばねであることで、第2空間を略真空状態にして測長用のレーザ光路を配置することができる。そして、上記測長用のレーザ光路を用いることで、大気中の空気の温度や気圧、湿度、CO2濃度の変動による屈折率の変化に起因したレーザ波長の変動を排除し、高精度の測長が可能になる。
【0124】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0125】
例えば、前記第1実施形態では、算出部7により算出される適正離間距離は、対象間力を最小にする第2の制御対象W2の位置P2に基づくものであったが、算出部により算出される適正離間距離は、第1の制御対象の位置に基づくものであってもよいし、第1の制御対象の位置と第2の制御対象の位置との双方に基づくものであってもよい。
【0126】
前記第1実施形態では、ばね2としてコイルばねを用いる場合を例に説明したが、ばね2はコイルばねに限定されない。例えば、ばね2として、前記第2実施形態に記載の空気ばねや前記第3実施形態に記載の並列2重空気ばねを用いてもよい。
【0127】
前記各実施形態では、位置制御機構1,1A~1Bは、再設定部8,8Aを備えていたが、算出した適正離間距離または適正内圧を、再設定部を用いずに設定してもよい。例えば、手動で適正離間距離または適正内圧を設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
以上のように、本発明は、位置制御機構に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0129】
1,1A~1B 位置制御機構
2,2A~2B ばね
3 位置計測手段
4,4A 制御手段
5 位置制御部
6 電流値検出部
7 算出部
8,8A 再設定部
11 第1の移動手段
12 第2の移動手段
13 内圧制御部
W1 第1の制御対象
W2 第2の制御対象