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特開2023-95773共振回路、並びにインダクタおよびキャパシタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095773
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】共振回路、並びにインダクタおよびキャパシタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20230629BHJP
   G01R 33/34 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N24/00 570A
G01R33/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176476
(22)【出願日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021211172
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「MACS法共振回路へのプリンテッドエレクトロニクス技術応用によるNMR分析装置の感度向上」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】泉 小波
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠
(57)【要約】
【課題】共振回路の重量バランスをとり易くする技術を提供する。
【解決手段】共振回路は、中心軸を有する第1の円筒形状の表面に沿って形成されたインダクタと、中心軸を有する第2の円筒形状の表面に沿って形成されたキャパシタと、を備え、インダクタとキャパシタとは、互いに電気的に接続され、閉ループを形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有する第1の円筒形状の表面に沿って形成されたインダクタと、
前記中心軸を有する第2の円筒形状の表面に沿って形成されたキャパシタと、を備え、
前記インダクタと前記キャパシタとは、互いに電気的に接続され、閉ループを形成する、
共振回路。
【請求項2】
前記キャパシタは、
前記第2の円筒形状の表面に沿って形成された第1の導電層と、
前記第1の導電層の表面に沿って形成された絶縁層と、
前記絶縁層の表面に沿って形成された第2の導電層と、を有する、
請求項1に記載の共振回路。
【請求項3】
前記インダクタは、前記第1の円筒形状の表面に沿って形成された配線部を備え、
前記絶縁層は、前記配線部の表面を覆うように形成されている、
請求項2に記載の共振回路。
【請求項4】
前記キャパシタは、前記絶縁層の表面に沿って形成された複数の前記第2の導電層を有し、
前記複数の第2の導電層は、前記第2の円筒形状の周方向に沿って並べて形成されている、
請求項2または3に記載の共振回路。
【請求項5】
前記共振回路は、NMR測定に用いられる試料管の内部に挿入されるものであり、
前記試料管および前記挿入された共振回路の全体の重心位置は、前記共振回路が挿入されていない試料管の重心位置と同一であり、
前記共振回路が挿入された試料管は、前記試料管の中心軸が静磁場方向からマジック角だけ傾いた状態で、前記中心軸を中心に3~20kHzの回転数で安定して回転できる、
請求項1に記載の共振回路。
【請求項6】
前記キャパシタは複数であり、
複数の前記キャパシタは、並列に接続されている、
請求項1に記載の共振回路。
【請求項7】
円筒管の外周面に沿った第1の導電層を前記外周面に形成する第1の形成工程と、
前記第1の形成工程において形成された前記第1の導電層の表面に、絶縁層を形成する第2の形成工程と、
前記第2の形成工程において形成された前記絶縁層の表面に、第2の導電層を形成する第3の形成工程と、
を含む、
インダクタまたはキャパシタの製造方法。
【請求項8】
前記第1の形成工程は、前記第1の導電層となる第1のインクが付着した転写ローラの表面において、前記円筒管を転がすことにより前記第1のインクを前記円筒管の外周面に付着させる工程を含み、
前記第2の形成工程は、前記絶縁層となる第2のインクが付着した転写ローラの表面において、前記第1の導電層が形成された円筒管を転がすことにより前記第1の導電層の表面に前記第2のインクを付着させる工程を含み、
前記第3の形成工程は、前記第2の導電層となる第3のインクが表面に付着した転写ローラの表面において、前記絶縁層が形成された円筒管を転がすことにより前記絶縁層の表面に前記第3のインクを付着させる工程を含む、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第1の形成工程は、前記第1の導電層をフォトリソグラフィにより前記外周面に形成する工程を含み、
前記第3の形成工程は、前記第2の導電層をフォトリソグラフィにより前記外周面に形成する工程を含む、
請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振回路、並びにインダクタおよびキャパシタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR(核磁気共鳴)装置は、強磁場中に配置された試料にRF(ラジオ波)を照射して核磁気共鳴を起こさせ、NMR信号を検出用のコイルを用いて検出することにより、たとえば試料の分子構造などを解析するための装置である。NMR測定は、微量にしか取得・合成できない材料を、非破壊で分析可能な測定であるため、新規の材料探索分野に使用される。この微量試料のNMR信号の検出感度を向上させる手法として、試料に印加する静磁場を大きくする(測定周波数を高くする)ことにより、原子核スピン系がもつ磁化を大きくする手法が長年追求されてきた。しかしながら、近年では、静磁場を大きくするための施設の大型化および費用の増加といった状況が生じている。
【0003】
また、試料が微量で信号強度が弱い場合に十分な精度のNMRスペクトルなどを得るには、積算を多数回行う必要があるため、長い測定時間が必要となる。この結果、マシンタイムが足りなくなったり、あるいは、試料が生化学試料などである場合には試料が長時間の測定に耐えられなかったりするなど、解析が困難となる場合がある。
【0004】
一方、固体NMR装置においてNMRスペクトルを先鋭化させるために使用される手法として、試料が内部に挿入された試料管を強磁場の方向に対してマジック角(約54.7°)と呼ばれる角度に傾け、その状態で試料管を回転させて測定するMAS(Magic Angle Spinning)と呼ばれる手法が知られている。
【0005】
近年では、MAS-NMRにおける微量試料測定時の信号の検出感度を向上させることを目的として、インダクタとキャパシタを直列接続した共振回路のインダクタの内側に試料を挿入し、試料が入った共振回路ごと試料管の中に入れてMAS-NMR測定を行うMACS(Magic Angle Coil Spinning)と呼ばれる手法が注目されている(非特許文献1、2を参照)。インダクタ内に発生するRF磁場は、この共振回路の共振によって増強され、これによりNMR信号の検出感度を高められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. Sakellariou, G. Le Goff & J. -F, Jacquinot. (2007) High-resolution, high-sensitivity NMR of nanolitre anisotropic samples by coil spinning, Nature, 447, 694-697.
【非特許文献2】V. Badilita, B. Fassbender, K. Kratt, A. Wong, C. Bonhomme,D. Sakellariou, J. G. Korvink, U. Wallrabe (2012) Microfabricated Inserts for Magic Angle Coil Spinning (MACS) Wireless NMR Spectroscopy, PLOS ONE, 7, e42848.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MAS-NMRではスペクトル先鋭化のため試料管を高速(たとえば、1秒間に3000回程度の回転数)で回転させるため、回転時に試料管がバランスを崩さないように試料を試料管に充填する必要がある。これは、上述したMACS-NMRでも同じであり、試料管の回転軸方向または長軸方向の重量バランスが崩れていると、回転時に試料管の回転軸がぶれてしまう。試料管は高価なNMRプローブに収容されており、回転中に試料管の回転軸がぶれると試料管がNMRプローブに接触し、場合によってはNMRプローブが破損する可能性がある。
【0008】
非特許文献1および2に記載の技術において、試料管内に設けられた共振回路は銅線を手巻きしたコイルに市販のコンデンサが接続されたものであり、試料管の重量バランスがとれないため、試料管を十分に大きな速度で回転させることができなかった。
【0009】
本発明は係る状況においてなされたものであり、ある態様の例示的な目的のひとつは、共振回路の重量バランスをとり易くする技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の共振回路は、中心軸を有する第1の円筒形状の表面に沿って形成されたインダクタと、中心軸を有する第2の円筒形状の表面に沿って形成されたキャパシタと、を備える。インダクタとキャパシタとは、互いに電気的に接続され、閉ループを形成する。
【0011】
本開示の別の態様は、インダクタおよびキャパシタの製造方法である。この製造方法は、円筒管の外周面に沿った第1の導電層を円筒管の外周面に形成する第1の形成工程と、第1の形成工程において形成された第1の導電層の表面に、絶縁層を形成する第2の形成工程と、第2の形成工程において形成された絶縁層の表面に、第2の導電層を形成する第3の形成工程と、を含む。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、共振回路の重量バランスをとり易くする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は、本開示の一実施形態に係るNMR装置の模式図である。図1(b)は、同実施形態に係るプローブ内の構成を示す図である。
図2】同実施形態に係る検出ユニットの模式図である。
図3】同実施形態に係る試料管の羽根部を示す図である。
図4】同実施形態に係る内部共振回路の回路図である。
図5図5(a)は、同実施形態に係る内部共振回路の外観図である。図5(b)は、同実施形態に係る内部共振回路の第1層を示す図である。図5(c)は、同実施形態に係る内部共振回路の第2層を示す図である。図5(d)は、同実施形態に係る内部共振回路の第3層を示す図である。
図6図6(a)は、図5(a)に示したA-A’領域の断面の一部を示す図である。図6(b)は、図5(a)に示したB-B’領域の断面の一部を示す図である。
図7図7(a)は、内部共振回路の第1変形例を示す図である。図7(b)は、内部共振回路の第2変形例を示す図である。
図8図8(a)は、第2変形例に係る内部共振回路の外観図である。図8(b)は、第2変形例に係る内部共振回路の第1層を示す図である。図8(c)は、第2変形例に係る内部共振回路の第2層を示す図である。図8(d)は、第2変形例に係る内部共振回路の第3層を示す図である。
図9図9(a)は、本開示の一実施形態に係る内部共振回路の第1層のパターンを示す図である。図9(b)は、同実施形態に係る内部共振回路の第2層のパターンを示す図である。図9(c)は、同実施形態に係る内部共振回路の第3層のパターンを示す図である。
図10図10(a)は、内部共振回路の第1層のパターンの変形例を示す図である。図10(b)は、内部共振回路の第2層のパターンの変形例を示す図である。図10(c)は、内部共振回路の第3層のパターンの変形例を示す図である。
図11図11(a)は、グラビア版に所定のパターンを有するインクを充填する工程を説明するための図である。図11(b)は、グラビア版に充填されたインクを転写ローラに受理させる工程を説明するための図である。図11(c)は、円筒管の表面にインクを転写する工程を説明するための図である。
図12】円筒管にインクを付着させる方法の変形例を説明するための図である。
図13図13(a)~図13(f)は、フォトリソグラフィ法で、内部共振回路の第1の導電層を形成する方法を示す図である。
図14図14(a)~図14(f)は、フォトリソグラフィ法で、内部共振回路の絶縁層を形成する方法を示す図である。
図15図15(a)~図15(c)は、絶縁層を形成する方法の変形例を示す図である(レジストとして永久レジストを使用)。
図16図16(a)~図16(c)は、絶縁層を形成する方法の変形例(リフト法)を示す図である。
図17図17(a)~図17(f)は、フォトリソグラフィ法により内部共振回路の第2の導電層の形成する方法を示す図である。
図18】評価例3の共振特性評価において、図18(a)は当該評価に用いた系の電気回路を示し、図18(b)は当該評価に用いた系の外観を示す写真であり、図18(c)は評価結果を示す。
図19】評価例4の振動地場強度のシミュレーションにおいて、図19(a)は計算に用いたモデルを示す図であり、図19(b)および図19(c)はシミュレーション結果を示す図であり、図19(d)はシミュレーションの内部共振回路中心部における磁場強度の周波数依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
図1(a)、(b)は、本開示の一実施形態に係るNMR装置の模式図である。図1(a)に示すように、NMR装置は、Z軸方向(鉛直方向)に静磁場を発生させる磁石1と、試料が配置された検出ユニット20を収容するプローブ2とを備える。検出ユニット20には、試料の周囲に配置されたラジオ波を発生させるコイル(以下、「RFコイル」とも称する。)を備えている。NMR測定では、磁石1から発生した静磁場中の試料に、RFコイルがラジオ波を照射することにより試料においてNMRが起きる。そのNMRに基づき発生した信号を検出する。
【0016】
図1(b)を参照して、プローブ2の内部の構成をより詳細に説明する。図1(b)に示すように、プローブ2の内部には、ハウジング102が配置されており、そのハウジング102の内部に、検出ユニット20、タービンステータ104、気体軸受ステータ106などが配置されている。
【0017】
検出ユニット20は、測定時には、静磁場方向(図1(b)のZ軸方向)からマジック角と呼ばれる角度だけ傾いた方向(図1(b)のR軸方向)を向くように配置される。検出ユニット20は、RFコイル200、試料210および試料管220などを含む。検出ユニット20の詳細な構成については、図2を参照して後述する。
【0018】
ハウジング102には、2系統の圧縮空気が供給される。具体的には、試料管220を支える気体軸受ステータ106には、流路110を通じて圧縮空気が供給される。また、タービンステータ104には流路108を通じて圧縮空気が供給され、この圧縮空気は試料管220を回転させる駆動源として用いられる。
【0019】
図2は、本実施形態に係る検出ユニット20の模式図である。図2に示すように、本実施形態に係る検出ユニット20は、試料管220、試料管220の内部に配置される円筒管24、円筒管24の表面に沿って形成された内部共振回路26、および試料管220がプローブ2に装着されたときに試料管220の外周に非接触で対向配置されるRFコイル28を備える。
【0020】
試料管220は、羽根部222、収容部225および底部227を備える。収容部225は、円筒管24、内部共振回路26および試料210を収容する。羽根部222および底部227は、それぞれ収容部225の一端および他端に設けられており、収容部225の蓋として機能する。
【0021】
試料管220は、Z軸方向からマジック角だけ傾いた角度に挿入され、その中心軸(R軸)を中心に回転する。具体的には、試料管220は、プローブ2の内部に配置されたタービンステータ104から試料管220の端部に設けられている羽根部222に圧縮空気を受けることにより回転する。
【0022】
この回転について、図2および図3を参照して説明する。図3は、図2に示されるW方向から見た試料管220の羽根部222を示す図である。試料管220は、図2の矢印に示すよう、試料管220の端部である羽根部222が圧縮空気(風)を受けることで、図3に示すように回転する。風は試料管220の中心ではなく、試料管220の端部に当たるため、図2に示す回転軸周りの重量バランスだけではなく、図2に示す試料管220の長軸方向の重量バランスが重要になる。たとえば、試料管220の端の方に試料210が入っていたり、試料管220の中で試料210が動いたりすると、試料管220を回転させることができない。一般的には、試料は試料管220の中心に置くことで長軸方向のバランスが取れるようになっている。
【0023】
内部共振回路26は、円筒管24の外周面に導電性を有する層と絶縁性を有する層とを積層させて作製した回路素子(具体的には、図2に示すインダクタ260およびキャパシタ262)を備える。図4は、本開示の一実施形態に係る内部共振回路の回路図であり、内部共振回路26は、インダクタ260(L1)と、キャパシタ262(C1)は電気的に並列に接続し、閉回路を形成している。
【0024】
NMR測定の際には、外部装置(図示しない。)から伝送された信号に基づきRFコイル28がラジオ波を発生させる。このとき、内部共振回路26が共振して、ラジオ波を増強させる。増強されたラジオ波が円筒管24の内部に配置された試料210に照射され、試料210がNMRを起こす。このNMRに基づく信号をRFコイル28が検出し、検出された信号に基づいて外部装置により試料210の解析が行われる。このように本実施形態ではラジオ波が内部共振回路26により増強されるため、内部共振回路26がない場合と比べてNMRに基づく信号が強くなり、検出感度が高められる。
【0025】
本実施形態に係る内部共振回路26は、試料管220の内部に設けられており、円筒管24の表面に設けられている。円筒管24は、円筒形状の外側の表面(以下、「外周面」と称する。)および円筒形状の内側の表面を有する中空の管である。内部共振回路26の内部には、NMR測定の測定対象となる試料210が配置されている。内部共振回路26は、試料管220に固定されており、試料管220が回転すると、試料管220および試料210と一体となって中心軸を中心に回転する。
【0026】
また、本実施形態では、試料管220および試料管220に挿入された内部共振回路26(および円筒管24)の全体の重心位置は、内部共振回路26(および円筒管24)が挿入されていない試料管220の重心位置と同一である。これにより、内部共振回路26(および円筒管24)が挿入された試料管220は、試料管220の中心軸Rが静磁場方向(Z軸方向)からマジック角だけ傾いた状態で、回転軸Rを中心に、MAS-NMRに必要な回転数(たとえば、3~20kHz程度)で安定して回転できる。なお、プローブ2を調整することにより、500Hz程度の回転数でも、試料管を安定して回転させ得る。安定して回転できる試料管220の回転数の上限および下限は、MAS―NMR装置のプローブ2および試料管220のサイズなどに依存するが、本開示の内部共振回路26を使用することで試料管220のぶれを抑制し、回転数の下限から上限まで幅広い範囲で試料管220を回転させることができる。
【0027】
図5(a)~(d)を参照して、本実施形態に係る内部共振回路26の構成について詳細に説明する。図5(a)は、本実施形態に係る内部共振回路26の円筒を全周にわたって展開した図であり、図5(b)~(d)は、本実施形態に係る内部共振回路26の第1~第3層をそれぞれ示す図である。本実施形態に係る内部共振回路26は、任意の形状にパターニングされた第1の導電層(第1層)、絶縁層(第2層)、および第2の導電層(第3層)を積層し、図4に示した共振回路を構成しているため、各層構造を分解して説明する。なお、図5(b)~(d)は、図5(a)と同様、円筒管24上に形成された内部共振回路26の第1~第3層を全周に亘って展開した図として示している。
【0028】
図5(a)に示すように、内部共振回路26は、共振回路を構成する各種部材を備え、より詳細には、インダクタを構成する配線部310、キャパシタを構成する上部電極330および絶縁層320などを備える。輪郭が破線で示されている配線部310は、絶縁層320の下側に形成されている。ここで、インダクタの長さはpである。また、上部電極330が構成するキャパシタの面積Sは、円筒管24を展開したときの上部電極330のサイズに近似してよく、図5(a)に示す例では、S=n×mである。以下では、図5(b)~(d)を参照しながら、各層の構成について詳細に説明する。
【0029】
図5(b)に示すように、本実施形態に係る内部共振回路の第1層は、配線部310、配線部310に接続された接続線312、および配線部310に接続された矩形の下部電極314を備える。配線部310は、図4に示したインダクタL1を構成している。また、下部電極314は、図4に示したキャパシタC1の一方の電極を構成している。接続線312は、円筒管24を1周するように形成されている。
【0030】
図5(c)に示すように、本実施形態に係る内部共振回路の第2層は、絶縁層320を備える。絶縁層320は、絶縁体を含む層であり、たとえば各種の誘電体を含んでよい。絶縁層320は、図4に示したキャパシタC1の層間絶縁膜を構成している。絶縁層320は、第1層の配線部310および下部電極314を覆うように形成されている。
【0031】
図5(d)に示すように、本実施形態に係る内部共振回路の第3層は、矩形の一断面をみた場合に、矩形の上部電極330および接続線332を備える。上部電極330は、図4に示したキャパシタC1の他方の電極を構成しており、第1層の下部電極314、第2層の絶縁層320および第3層の上部電極330は、キャパシタC1を構成している。また、上部電極330は、接続線332を介して、接点333において第1層の接続線312に接続されている。これにより、キャパシタC1は、第1層の配線部310により構成されるインダクタL1と接続される。
【0032】
ここで、第1層と第3層とを接続線312を介して接続させる理由を説明する。基本的には、第1層と第3層とが接触すればよいが、円筒管24に第1層および第3層を例えば後述の印刷法により形成する場合、アライメントが合わず第1層と第3層とが円周方向にずれていると、第1層と第3層とを接続できない場合がある。本実施形態では、印刷法により各層を形成するため、円周方向(すなわち、印刷方向)のアライメントマージンが大きいパターンの方が、円周方向のアライメントが容易となる。しかしながら、上述のように第1層と第3層とがそのままでは接続されない場合がある。そこで、第1層と第3層の接点とが円筒管の任意の位置にあってもよいように、本実施形態では、第1層の接続線312を円筒管24の円周方向に一周するように設けることで、第3層の接続線332が円周方向にずれても接点333を形成することができ、第1層と第3層とを接続できる。これにより、アライメントマージンを広げつつ、第1層と第3層とを接続することが可能となる。したがって、接続線312、332の形状は、第1層と第3層とを接続できれば、任意の形状であってよい。
【0033】
このように、第1層から第3層を積層させることで、本実施形態に係る内部共振回路26は、キャパシタC1とインダクタL1とが直列に接続されている構造を取ることができる。このように、本実施形態では、円筒管24の表面にキャパシタとインダクタを形成するため、内部共振回路26の長軸方向および試料管の回転軸方向に重量が偏ることが抑制される。このため、MACS-NMR測定の際に、試料管220が風を受けて回転する際に試料管220がバランスを崩すことが抑制される。
【0034】
図6(a)は、図5(a)に示したA-A’領域の断面の一部を示す図である。内部共振回路26は、円筒管24の表面に第1の導電層、絶縁層320、および第2の導電層が積層形成されている。また、円筒管24の内部には、試料210が配置されている。
【0035】
図6(a)に示すように、第1層は、キャパシタの下部電極314、インダクタを構成する配線部310a~310f、および接続線312を含む。第2層である絶縁層320は、キャパシタの下部電極314および配線部310の表面を覆うように形成されている。本実施形態では、絶縁層320は、インダクタを外部から絶縁しつつ、キャパシタの層間絶縁膜を構成している。第3層である第2の導電層は、キャパシタの上部電極330、および第3層と第1層との接続を行う接続線332を含む。なお、キャパシタおよび接点を保護する目的で、第3層の上に保護層となる絶縁層が形成されていてもよい。
【0036】
図6(b)は、図5(a)に示したB-B’領域の断面を示す図である。図6(b)に示す下部電極314、絶縁層320および上部電極330は、内部共振回路のキャパシタを構成している。なお、本実施形態では、1つのキャパシタを構成する電極が円筒管の全周にわたって形成されているが、円周に沿って形成された複数の電極がキャパシタを構成してもよい。たとえば、第2の導電層を構成するキャパシタの上部電極を互いに分離された複数の電極により構成してよい。互いに異なる電極が個別に形成することにより、それぞれの電極を削るなどを行い、内部共振回路に含まれるキャパシタの容量を調整できる。このため、より簡便に内部共振回路のインピーダンスの調整を行うことが可能となる。
【0037】
NMR測定を行う際には、円筒管24の内部に試料を配置する。とりわけ、試料の量が少量の場合には、内部共振回路26のうち、インダクタを構成する配線部310a~310fが形成されている領域の内側に、試料210を配置することが好ましい。これにより、本実施形態では、内部共振回路により増強されたラジオ波を効率よく試料210に与えることができ、NMR測定の精度を高めることができる。
【0038】
ここで、内部共振回路の変形例について、図7(a)、(b)を用いて説明する。図7(a)は、内部共振回路の第1変形例を示す図であり、図7(b)は、内部共振回路の第2変形例を示す図である。
【0039】
図7(a)に示すように、第1変形例に係る内部共振回路は、1つのインダクタL2に2つのキャパシタC2、C3が並列に接続されている。また、図7(b)に示すように、第2変形例に係る内部共振回路は、1つのインダクタL3に複数のキャパシタC11、C12、C21、C22が並列に接続されている。なお、図7(b)には、インダクタL3に並列に接続されている4つのキャパシタが示されているが、インダクタL3に並列に接続されるキャパシタの数は、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。
【0040】
図8(a)~(d)を参照して、第2変形例に係る内部共振回路において、インダクタL3に並列に接続されるキャパシタの数が4つである場合について、内部共振回路の構成をより詳細に説明する。図8(a)は、第2変形例に係る内部共振回路の外観を示す図であり、図8(b)~(d)は、第2変形例に係る内部共振回路の第1~第3層を示す図である。
【0041】
第2変形例に係る内部共振回路は、図8(a)に示すように、内部共振回路を構成する各種部材である、インダクタを構成する配線部410、キャパシタを構成する上部電極430、432、434、436、および絶縁層420、422、424などを備える。輪郭が破線で示されている配線部410は、絶縁層422の下側に形成されている。円筒管24の表面に形成されるキャパシタは全て並列に接続されており、その総面積Sは、円筒管24を展開したときの上部電極430、432、434、436の面積の合計に近似してよい。以下では、図8(b)~(d)を参照しながら、各層の構成について詳細に説明する。
【0042】
図8(b)を参照して、内部共振回路の第1層について説明する。内部共振回路の第1層は、配線部410、下部電極400,402,404,406、コンタクトパッド412,414,416を備える。配線部410は、図7(b)に示したインダクタL3を構成している。また、下部電極400,402,404,406は、図7(b)に示したキャパシタC11,C12,C21,C22の下部電極を構成している。
【0043】
下部電極400および下部電極402は、配線401を介して接続されており、下部電極404および下部電極406は、配線405を介して接続されている。また、下部電極402には、コンタクトパッド412が設けられており、下部電極404には、コンタクトパッド414が設けられている。さらに、配線部410の一端は、配線418を介して下部電極402に接続されており、配線部410の他端は、コンタクトパッド416に接続されている。
【0044】
本例では、第1層および第3層の接点は、印刷方向(円周方向)にアライメントマージンを設けている。このため、第1層は、この層に重なる第3層よりもやや大きめのコンタクトパッド412,414,416を設けている。
【0045】
図8(c)を参照して、内部共振回路の第2層について説明する。内部共振回路の第2層は、3つの互いに分離された絶縁層420,422,424を備える。絶縁層420は、図8(b)に示した下部電極400,402、配線401、コンタクトパッド412の一部および配線418の一部を覆うように形成されている。また、絶縁層422は、図8(b)に示した配線部410およびコンタクトパッド416の一部を覆うように形成されている。さらに、絶縁層424は、図8(b)に示した下部電極404,406、配線405およびコンタクトパッド414の一部を覆うように形成されている。また、絶縁層420および絶縁層422の間では、コンタクトパッド412の一部が絶縁層から露出しており、絶縁層422および絶縁層424の間では、コンタクトパッド414,416が絶縁層から露出している。これにより、コンタクトパッド412,414,416を介して、第1層と第3層とを接続させることが可能となる。
【0046】
図8(d)を参照して、内部共振回路の第3層について説明する。内部共振回路の第3層は、4つの矩形の上部電極430,432,434,436および配線431,433,435,438,440を備える。
【0047】
上部電極430,432,434,436は、図7(b)に示したキャパシタC11,C12,C21,C22の上部電極をそれぞれ構成している。また、上部電極430および上部電極432は、絶縁層420の上に形成されており、配線431を介して接続されている。上部電極434および上部電極436は、絶縁層424の上に形成されており、配線435を介して接続されている。また、上部電極432および上部電極434は、絶縁層422の上を通過する配線438を介して接続されている。さらに、配線440は、第1層のコンタクトパッド412およびコンタクトパッド414と接続している。
【0048】
このように、上述の第1~第3層を積層することにより、第2変形例に係る内部共振回路を構成することができる。なお、第1層のパターンと第3層のパターンとを逆にしても、本実施形態と同様の内部共振回路を実現することが可能である。
【0049】
また、試料の量が非常に少ない場合は、円筒管24の厚みが薄く、かつ細いほど、円筒管24に形成されたインダクタの内部における試料の充填率が高まる。このため、円筒管24の形状を維持できる程度の剛性が確保される範囲で円筒管24の厚みが薄い方が、NMRの検出感度を高めることができるため好ましい。
【0050】
本開示の内部共振回路を一般的なNMR測定用の試料管に挿入して測定に用いる場合、内部共振回路が試料管の中で動いてしまうと、図2,3を参照して説明したように、回転軸がぶれて、高速で試料管を回転させることができなくなることがある。そのような場合には、試料管と内部共振回路との間にスペーサを挿入することが好ましい。これにより、試料管の中で内部共振回路が動くことが抑制され、試料管をより高い速度で回転させることが可能となる。
【0051】
円筒管24のサイズ(たとえば、外径、内径および長さなど)、第1~第3層の線幅および膜厚は、使用するNMR装置や試料管のサイズなどに依存する。NMRの試料管は、外径(内径)が8.0mm(6.4mm)、3.2mm(2.2mm)、1.0mm(0.5mm)などのものがあるが、たとえば、外径(内径)3.2mm(2.2mm)の試料管を使用する場合、外径0.5~2.0mm、長さ1.5~2.0mm、厚さ0.05~0.15mmを有してよい。
【0052】
キャパシタの面積、層間絶縁層の膜厚、インダクタの線幅および巻き数などは、使用するNMR装置の測定周波数(磁場強度)に依存する。たとえば、600MHzのNMRを用いてHの測定を行う場合は、内部共振回路を600MHzの電磁場に共振させるように、インダクタおよびキャパシタを調整する必要がある。たとえば、インダクタのサイズを長さ5mm、巻き数を5とすると、自己インダクタンスは約7.5nHとなり、約9.4pFのキャパシタを接続する必要がある(インダクタの長さは図5(a)のp)。一般的な印刷技術で使用可能な樹脂材料(比誘電率2.0~2.5)を層間絶縁膜に使用した場合、これは約2mm×2mmの並行電極を有するキャパシタで実現することができる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る内部共振回路は、中心軸を有する第1の円筒形状の表面(円筒管24の外周面)に沿って形成されたインダクタと、その中心軸を有する第2の円筒形状の表面(円筒管24の外周面)に沿って形成されたキャパシタと、を備える。また、インダクタとキャパシタとは、互いに電気的に接続され、閉ループを形成する。この態様によれば、インダクタとキャパシタとが同軸の円筒形状に沿って形成されているため、中心軸まわりの重量バランスをとりやすくなる。
【0054】
このため、本実施形態に係る内部共振回路をNMR測定における試料管の内部に挿入し、MACS-NMRに用いることにより、回転軸まわりおよび試料管の長軸方向の重量バランスをとり易くなる。この結果、回転時に試料管の回転がぶれることが抑制され、測定に必要な回転数で安定して試料管を回転させることができる。NMR装置における試料管の回転数の下限および上限は、プローブのサイズなどに依存して変わるが、回転数が高いほど検出感度を高めることができる。本実施形態に係る内部共振回路を用いることで、使用するNMR装置の下限から上限の範囲内で試料管の回転のぶれを抑制できる。その結果、MACS-NMR測定において、検出感度を高め、測定時間を短縮させることができる。
【0055】
また、MAS-NMRでは、試料管の冷却を行う場合があり、内部共振回路を構成している第1の導電層、絶縁層および第2の導電層は、冷却状況下において剥がれなどが生じない冷却耐性が求められる。後述の印刷法またはフォトリソグラフィ法で作製される内部共振回路は、このような冷却耐性を有するという利点がある。
【0056】
[内部共振回路の製造方法]
次に、本開示の一実施形態に係る内部共振回路の製造方法について説明する。本実施形態に係る内部共振回路の製造には、円筒管の外周面に沿った第1の導電層を円筒管の外周面に形成する第1の形成工程と、第1の形成工程において形成された第1の導電層の表面に、絶縁層を形成する第2の形成工程と、第2の形成工程において形成された絶縁層の表面に、第2の導電層を形成する第3の形成工程と、を含む、インダクタおよびキャパシタの製造方法を用いる。
【0057】
このような積層構造を有する電子回路は、一般的なフォトリソグラフィ技術の他、印刷技術を適用して作製することができる。印刷方法は、印刷対象物(たとえば円筒管など)の損傷を抑制するため、非接触により薄膜を形成可能なインクジェット印刷や、ゴムのように柔らかい転写ローラが印刷対象物と接することで印刷を行う各種のオフセット印刷を用いることができる。ここで各種オフセット印刷とは、一般的なオフセット印刷に加えて、インクジェットオフセット印刷、スクリーンオフセット印刷、グラビアオフセット印刷、リバースオフセット印刷などを指す。さらには、円筒形の表面に対する代表的な印刷手法であるロータリースクリーン印刷を用いることもできる。
【0058】
[印刷技術を適用した内部共振回路の製造方法(印刷法)]
図9(a)~(c)に、内部共振回路を作製する際のパターン例を示し、図10(a)~(c)にその変形例を示す。各図において、a方向は円筒管の周方向に対応しているものとし、b方向は円筒管の長さ方向に対応しているものとする。また、円筒管24の直径をφとしたとき、a方向の長さdは、d=πφ+αの関係を満たしている。ここで、αは印刷による伸び縮みを補正する項である。たとえば、スクリーン印刷では印刷の版がやや伸長することによるパターンの伸びが起こるためαはマイナスの値を取り、グラビアオフセットでは転写ローラの伸びに起因するパターンの縮みが起こるためαはプラスの値を取る。フォトリソグラフィのように形状をそのまま転写できる場合には、αは0となる。
【0059】
第1層を形成する場合は、図9(a)または図10(a)のようなパターンを用いることができる。詳細には、第1層を形成するためのパターンは、図9(a)に示すように、配線部パターン510、配線部パターン510の一端に接続された下部電極パターン512、および配線部パターン510の他端に接続された接続線パターン514を含む。配線部パターン510は配線部310に対応し、下部電極パターン512は下部電極314に対応し、接続線パターン514は接続線312に対応する。
【0060】
図9(a)に示すパターンでは、配線部パターン510のa方向の長さは6dであり、下部電極パターン512のa方向の長さはdである。図9(a)に示すパターンに円筒管をa方向に6周転がすことにより、円筒管の表面に6周した配線部パターンと円筒管の全周を覆う電極パターンとを転写することが可能となる。
【0061】
円筒形状である内部共振回路の側面を展開した場合は、内部共振回路の形状は図10(a)のような形状となるため、フォトリソグラフィ用のマスクパターンとしてはこの形状を用いることができる。具体的には、このマスクパターンは、配線部パターン550、配線部パターン550の一端に接続された下部電極パターン552、および配線部パターン550の他端に接続された接続線パターン554を有する。
【0062】
印刷は縦横に伸び縮みが起こりやすく、図10(a)に示すパターンでインダクタを形成することは非常に難しい。そこで、図9(a)のようなパターンを用いることができる。
【0063】
第2層は、第1層の接続線以外を全て覆うように形成するため、図9(b)のような絶縁層パターン520を用いてよい。しかし、第2層は、キャパシタの絶縁層を構成しつつインダクタの配線部を絶縁するように構成されればよいため、図10(b)に示すような形状を取り得る。具体的には、第2層のパターンは、図10(b)に示すように、キャパシタの絶縁層を構成する絶縁層パターン560と、第1層の配線部と第3層の接続線とを絶縁するための絶縁層パターン562とを有する形状を取り得る。
【0064】
第3層は、キャパシタの上部電極および、キャパシタとインダクタとを接続する接続線を形成するため、図9(c)のようなパターンを用いてよい。図9(c)に示すパターンは、キャパシタの上部電極を構成する上部電極パターン530と、上部電極パターン530に接続された接続線パターン532とを含む。
【0065】
また、これら第1~第3層の形成において印刷技術を用いる場合、使用する印刷手法によっては形成が難しい向きがあるため、それを回避する形状に変形することが好ましい。たとえば、グラビアオフセット印刷は、印刷方向と垂直な直線を形成することが非常に難しいため、図9(c)の接続線パターン532を斜め(すなわち、b方向から傾いた方向)にしてよい。たとえば、図10(c)に示すように、上部電極パターン570に斜めの接続線パターン572を接続することにより、この問題を解決することができる。
【0066】
また、各層のパターンには、必要に応じてアライメントマーカー(たとえば、図9(a)に示したマーカー516など)を設けることができる。アライメントマーカーは、製造プロセスに用いる機器に搭載されたアライメント機構の画像認識に最適な形状のマーカーを搭載すれば良く、それを用いることで積層のアライメント精度を高めることができる。なお、このアライメントマーカーは、もともと円筒管に形成されていてもよく、さらには、円筒管に転写された後に円筒管から除去されてもよい。
【0067】
ここで、各種のオフセット印刷を用いた時の転写工程について説明する。各種オフセット印刷では、様々な手法により転写ローラの表面に印刷するパターンを受理させる。たとえば、インクジェットオフセットでは、インクジェットヘッドで転写ローラの表面にパターンを描画し、スクリーンオフセットやグラビアオフセット印刷では、スクリーン印刷版やグラビア版から転写ローラにパターンを受理させる。そして、転写ローラの表面に受理したパターンを、円筒管表面に転写させることで各層を形成することができる。
【0068】
各種オフセット印刷による作製手法の一例として、グラビアオフセット印刷を用いて内部共振回路を作製する例を示す。本実施形態において内部共振回路を作製する第1の形成工程は、第1の導電層となる第1のインクを付着させた転写ローラの表面に、円筒管を転がすことにより第1のインクを円筒管の外周面に転写させることで第1の導電層を形成する工程を含む。また、第2の形成工程は、絶縁層となる第2のインクを付着させた転写ローラの表面に、第1の導電層が形成された円筒管を転がすことにより第1の導電層の表面に第2のインクを付着させる工程を含む。さらに、第3の形成工程は、第2の導電層となる第3のインクを付着させた転写ローラの表面に、第1の導電層および絶縁層が形成された円筒管を転がすことにより第3のインクを付着させる工程を含む。
【0069】
図11(a)~(c)を参照しながら、第1、第2および第3の層の形成工程について説明する。グラビアオフセット印刷は、所定のパターンを有するグラビア版の凹部にインクを充填し、その凹部に充填されたインクを転写ローラに受理させ、受理したインクを印刷対象物である円筒管に転写することにより行われる。なお、本実施形態では、グラビア版のパターンは、第1の形成工程では第1の導電層に対応するパターンであり、第2の形成工程では絶縁層に対応するパターンであり、第3の形成工程では第2の導電層に対応するパターンである。
【0070】
図11(a)は、パターンを有するグラビア版44に所定のインクを充填する工程を説明するための図である。まず、図11(a)に示すブレード40およびグラビア版44を用意する。ブレード40は、先端が刃物の形状になっている部材であり、グラビア版44は、所定のパターンを有する凹部47を含む。図11(a)では、グラビア版44を板状の部材として示しているが、ロール状の版を用いてもよい。
【0071】
インク42は、導電性の材料あるいは樹脂を含むインクであってよい。たとえば、第1および第3の形成工程では、インクは、たとえば銀ペーストなどであってよく、第2の形成工程では、インクは、たとえば樹脂ペーストなどであってよい。また、インク42の粘度は、使用する各種印刷技術に適した粘度であればよく、たとえば、グラビアオフセット印刷を使用する場合は、1000~3000cps程度の高粘度であってよい。
【0072】
まず、図11(a)の左側に示すように、グラビア版44の表面に必要量のインク42を載せた状態で、ブレード40の先端をグラビア版44の表面に当接させながらブレード40を移動させることにより、ブレード40をグラビア版44の表面においてかきならす。これにより、図11(a)の右側に示すように、グラビア版44の凹部47にはインク48が充填される。ブレード40をかきならす充填動作は、複数回行うことで確実に充填を行うことができる。また、グラビア版44に対して異なる角度で充填を行ってもよい。たとえば、印刷方向と垂直な方向に2~3回充填し、その後印刷方向に2~3回の充填を行うことも可能である。
【0073】
ここで、ブレード40をグラビア版44に押しつけてブレード40に充填圧力を加えながら、グラビア版44の凹部47にインクを充填することが好ましい。充填圧力の大きさは、グラビア版44の凹部47以外の表面にインクが残らない程度の大きさであることが好ましい。
【0074】
また、ブレード40を移動させる速度(「充填速度」ともいう。)は、インクがダイラタンシー現象を起こしやすくなる速度(たとえば、10~30mm/s程度)であってよい。ダイラタンシー現象が起こるとインクの粘度が低下し、凹部47が有するパターンの形状が細かい場合であっても、凹部47にインクを充填させることが可能となる。
【0075】
図11(b)は、グラビア版44に充填されたインクを転写ローラ50に受理させる工程を説明するための図である。
【0076】
グラビアオフセット印刷に用いる転写ローラ50は、円筒形状の金属胴52、および金属胴52の周囲に設けられたゴム53を有し、印刷方向および逆方向に回転する。ゴム53は、たとえばPDMS(ジメチルポリシロキサン)などの表面エネルギーの低いシリコンゴムであってよく、一般的なグラビアオフセット印刷に使用される、厚み0.4~0.6mm、ゴム硬度約45(ショアA)のゴムを用いることができる。また、スポンジ状のアンダーゴムと積層して使用してもよい。また、ソフトブランケットと呼ばれる、ゴムの厚みが10~30mm、ゴムの硬度(ショアA)1以下(アスカーC硬度にて5~20)の厚くて柔らかい転写ローラを用いてもよい。
【0077】
図11(b)に示すように、所定のパターンを有するインク48が充填されたグラビア版44の表面と転写ローラ50の表面とが当接した状態で、転写ローラ50をグラビア版44に押しつけながら転がすと、グラビア版44の凹部47に充填されていたインクが転写ローラ50の表面に受理される。
【0078】
このとき、転写ローラ50を転がす速度(「受理速度」ともいう。)は、充填速度と同程度の速度であってよく、たとえば10~100mm/sであってよく、より具体的には30mm/s程度であってもよい。また、転写ローラ50をグラビア版44に押しつける圧力(「受理圧力」ともいう。)は、通常のグラビアオフセット印刷用のゴムを用いた場合は押し込み距離が0.05~0.6mm、ソフトブランケットを用いた場合にはその厚みに応じて変わるが、押し込み距離が10~35mm程度であってよい。本明細書では、圧力の大きさを押し込み距離で表現する。押し込み距離は、変形していない転写ローラとグラビア版の表面とが接触した状態から、転写ローラをグラビア版44側に押し付けた距離である。このように、一般的な印刷機において印刷圧力は実際の圧力ではなく、押し付けたり押し込んだりすることにより発生する距離で表すことが多く、押し込み距離、ニップ幅などと表現されることがある。
【0079】
図11(c)は、円筒管24の表面にインクを転写する工程を説明するための図である。なお、図11、12では、各プロセスを見やすくするために、円筒管24および転写前後のインクを実際の大きさよりも大きく示している。
【0080】
図11(c)に示すように、インクを受理した転写ローラ50に、円筒管24の外周面を当接させる。そして、この状態で、円筒管24を転写ローラ50の表面において周方向に転がすことで、円筒管24の外周面には、転写ローラ50の表面のインク54が転写される。各種オフセット印刷における転写プロセスでは、印刷圧力が必要であることが多いため、円筒管24を転写ローラ50に押しつけるように印刷することが好ましい。一般的なグラビアオフセット印刷では、転写時と受理時における押し込み距離が同じである方が、パターンの変形(伸縮など)が少なくなる。しかし、ソフトブランケットを用いる場合は転写時の押し込み距離を受理時と同じにすることが難しい。そのため、図9(a)~(c)を参照して説明したd=πφ+αのα項にてパターンの伸縮を制御することができる。
【0081】
図12は、円筒管24にパターンを転写させる方法の変形例を示す。印刷対象物である円筒管24の内部に中心軸56を設けて印刷対象物を固定し、表面に所定のパターンを受理した転写ローラ50の表面と、円筒管24の外周面とが当接した状態で転写ローラ50を回転させると、円筒管の表面にインクを転写することができる。とりわけ、表面がゴムでできている転写ローラ50はタック性(粘着性)があるため、転写ローラが回転すると円筒管も回転するため、連れまわり構造の印刷機構を採用することができる。なお、連れまわりとは、2つの物体が互いに接触している状態において、一方の物体が動くとその動きにつられてもう一方の物体も動くことである。
【0082】
内部共振回路を印刷技術にて作製する場合、印刷後に、必要に応じて、インクを乾燥あるいは焼成を行なう。インクを乾燥あるいは焼成する条件(たとえば温度および時間など)は、使用するインクの種類に応じて適宜設定され得る。たとえば、インクが銀ペーストである場合には、たとえば80~150℃の温度で10~60分焼成することが好ましい。これにより、銀ペーストが固化して導電性を発現し、導電層(第1の導電層あるいは第2の導電層)となる。また、絶縁層を形成する樹脂ペーストなども同様に、80~200℃の温度で10~60分程度焼成することが好ましい。また、印刷後にすぐに焼成せずに、レベリングと呼ばれる放置時間を10~60分程度設けてもよい。
【0083】
本発明者らは、上述した中でもグラビアオフセット印刷の製造方法を用いて円筒管の表面に内部共振回路を形成した。そして、MAS-NMR装置の試料管にその円筒管を挿入し、試料管を回転させたところ、少なくとも3kHzの回転数で回転可能であることを確認した。このように本実施形態によれば、MACS-NMR測定において、安定して高い回転数で試料管を回転させることができる。
【0084】
上記実施形態では、主として、インダクタが形成される円筒形状(第1の円筒形状)の外径と、キャパシタが形成される円筒形状の外径とが同じである例について説明した。これに限らず、第1の円筒形状と第2の円筒形状とが同一の中心軸を有していれば、第1の円筒形状の外径と第2の円筒形状の外径とは、互いに異なっていてもよい。
【0085】
[フォトリソグラフィを用いた内部共振回路の製造方法(フォトリソグラフィ法)]
本開示に係る内部共振回路は、上記印刷法の他、フォトリソグラフィ法を用いても作製できる。一般的に、フォトリソグラフィ手法は、平面基板への配線作製のためのパターニング技術とされている。しかしながら、曲面および立体物の表面に対しては、フィルム露光という技法を用いてフォトリソグラフィによるパターニングを行うことにより、円筒管の表面に配線を作製し、インダクタおよびキャパシタなどを製造できる。ここでは、フィルム露光によるフォトリソグラフィ法を用いて図4に示した回路図と同様の回路構成を有する内部共振回路を作製する方法を、図13図17を参照しながら説明する。内部共振回路は、どのような作製方法で作製しても外観はほとんど同じとなる。図4の回路図で示される回路構成を有する内部共振回路は、図5(a)の外観を有する。フォトリソグラフィ法で作製される内部共振回路は、印刷技術を用いて作製される内部共振回路と同様の外観を有し、その断面も同様である。図13図17では、図5(a)に示すA-A´の断面に対応する領域を示し、その一部を省略している。
【0086】
フォトリソグラフィ法を用いた内部共振回路の作製方法は、上述した、印刷技術を適用した内部共振回路の製造方法と同様に、第1の導電層を形成する第1の形成工程、絶縁層を形成する第2の形成工程、および、第2の導電層を形成する第3の形成工程からなる。
【0087】
図13(a)~(f)を参照しながら、第1の形成工程を説明する。第1の形成工程では、まず、円筒管24の外周面に、スパッタリング、蒸着またはメッキなどのプロセスにより、所望の厚みを有する金属層600を形成する(図13(a))。金属層600の材質は、スパッタリングおよび蒸着などのような真空成膜プロセスを用いる場合は、各プロセスにより形成できる金属であれば特に限定されない。しかし、以降のプロセスを考慮し、金属層600の材質は、ウエットエッチングが可能な金属、具体的には、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデンなどであることが好ましい。また、真空成膜プロセスは異方的であるため、円筒管24の表面に均一に金属層600を形成するためには、成膜中に円筒管24を回転させながら金属層600を形成することが好ましい。また、ここでは成膜プロセスは真空成膜プロセスに限定されず、一般的なFPC(Flexible printed circuits)を作製する場合と同様に、ポリイミド上に電解、または無電解メッキにより銅薄膜などを形成することもできる。
【0088】
真空成膜プロセスを用いて金属層600を形成する場合、円筒管24は、真空成膜プロセスの処理温度に対する耐久性を有している必要がある。また、メッキプロセスにて金属層600を形成する場合、円筒管24は耐薬品性を有する必要がある。したがって、当該円筒管24は、耐熱性および耐薬品性のある素材、たとえば、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムなどのような酸化金属、あるいは、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)およびPI(ポリイミド)などのようなエンジニアリングプラスチックと呼ばれる耐熱性樹脂で構成されていることが好ましい。
【0089】
次いで、レジストを金属層600の表面全体に塗布して、レジスト層610を形成する(図13(b))。レジスト層610の形成材料であるレジストは、一般的な半導体プロセスに使用される剥離型のポジレジストまたはネガレジストを使用できる。平面に対してレジスト層を形成するプロセスでは、レジストはスピンコート法を用いて塗布されるが、立体的な形状を有するものにレジストを塗布する場合は、ディップコート法(引き上げ法)を用いてよい。ディップコート法は、レジストの粘度および引き上げ速度を調整することにより、所望のレジスト層の膜厚に調製できる。また、立体的な形状に均一にレジストを塗布することが難しい場合は、シート状になっており表面に貼り付けるだけで使用できるDFR(ドライフィルムレジスト)を用いることもできる。同様に、剥離可能なシート表面にレジスト塗布膜を形成し、当該シートを円筒管24の表面に巻き付けることでレジスト層610を金属層600の表面に転写させるという手法を用いてもよい。
【0090】
次に、レジスト層610を露光するため、フィルム露光を行う(図13(c))。フィルム露光は、曲面および立体物の表面のパターニングに使用される方法である。たとえば、透明なフィルム622とその表面に形成された所望の遮光パターン(第1の導電層のパターン)をもつ遮光膜624を有する、マスクとなる露光用フィルム620を金属層600およびレジスト層610が形成された円筒管24に巻き付け、その上から露光し、レジスト層610を感光させる。
【0091】
ここで、使用する露光用フィルム620の遮光膜624のパターンは、ポジレジストを使用する場合は、円筒管24の表面に形成される黒いパターンが遮光パターン、その他の部分が透明となっている。光を露光用フィルム620に当てると、遮光膜624の透明な部分を光が透過し、その部分のレジスト層610は感光する。一方、遮光パターンの部分のレジスト層610は残る。また、露光には、通常の露光で使用される単一波長の光源を用いてもよいが、ある範囲の波長を含むフィルム露光用の光源を用いることで曲面および立体物の表面に露光することが多い。光源の照射方向が一方向に限定される場合は、成膜と同様、回転機構を用いて、円筒管24を回転させながらレジスト層610を露光してもよい。
【0092】
このように、立体物に巻き付けたり沿わせたりすることができる柔軟性を有する透明なフィルムに所望の遮光パターンを設けた露光用フィルムを用い、レジストを塗布した物体に巻き付けて、当該物体の表面に密着させて露光する手法をフィルム露光という。露光する物体の表面が複雑な形状をしている場合は、露光用フィルムを熱変形加工機などで変形させ、露光用フィルムが露光対象物と密着するように露光用フィルムを加工してから露光することができる。本実施形態では露光対象物が円筒管24であるため、柔軟性の高いシート状の露光用フィルム620を用いる。
【0093】
なお、光源からの光でレジスト層610を露光する際、円筒管24の表面の金属層600における反射光の影響を抑えるために、前もって下層反射防止膜(BARC)を形成しておいてもよい。下層反射防止膜の種類は、用いる光源の種類などに応じて、適切な種類を市販品から選択できる。
【0094】
次いで、感光したレジスト層610を現像する(図13(d))。現像は、塗布したレジスト層610に適した現像液を用いて行う。現像後のレジスト層610a~610dは、円筒管24の表面に形成される第1の導電層のパターンと同じ形状、本実施形態の場合は、図5(b)で示される第1の導電層のパターンと同様の形状で残る。
【0095】
次に、レジスト層610が除去された部分の金属層600をエッチングし、所望のパターンを有する第1の導電層(金属層600a~600d)を形成する(図13(e))。曲面および立体物の表面に形成された薄膜の除去にドライエッチングを適用することは難しいため、ウエットエッチングを使用することが好ましい。ウエットエッチングにより金属層600をエッチングする場合、エッチング液には、金属層600が金であるときは王水、銅であるときは塩化銅水溶液、アルミニウムであるときは混酸アルミ液、タングステンおよびモリブデンのときは過酸化水素水とアンモニウム水溶液との混合液を用いることができる。
【0096】
最後に、使用したレジストに適した剥離液を用いて、金属層600a~600d上に残存しているレジスト層610a~610dを剥離する(図13(f))。これにより、所望のパターンを有する金属層600a~600dが、円筒管24の外周面に形成される。
【0097】
次に、図14(a)~図14(f)を参照しながら、絶縁層を形成する第2の形成工程を説明する。第2の形成工程では、第1の導電層(金属層600a~600d)の表面に、真空成膜法および溶液法などを用いて、絶縁性を有する絶縁層630を形成する(図14(a))。真空成膜法としては、たとえば、蒸着法によりパラキシレン系ポリマーであるポリパラキシレン(パリレン)を形成したり、スパッタリング法により二酸化シリコンを形成したりする方法などが挙げられる。真空成膜法の中でも、CVD法は、より緻密な膜質を有する絶縁層を形成することもできるという利点がある。
【0098】
また、ポリイミド、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂などの樹脂(ポリマー)を溶媒に溶解した液状組成物を、ディスペンサーおよびスプレーコーターなどの塗布装置を用いて塗布することにより絶縁層を形成することができる。塗布する絶縁層の材質に応じて、塗布後、乾燥、加熱、または露光処理などによって、液状組成物の塗布膜を硬化させることができる。
【0099】
次に、形成した絶縁層630を、図5(c)に示される絶縁層320の形状にパターニングする。このパターニングでは、前述の第1の形成工程と同様に、絶縁層630の上面にレジスト層640を形成する(図14(b))。次いで、透明なフィルム652および遮光膜654を有する露光用フィルム650を用いてレジスト層640を露光し(図14(c))、レジスト層640を現像する(図14(d))。次いで、絶縁層630のエッチングを行い(図14(e))、レジスト層640を除去する(図14(f))。これにより、所望のパターンを有する絶縁層632を形成できる。
【0100】
ここで、第2の形成工程で作製する絶縁層632は、図5(c)を用いて説明した通り、第1の導電層のうち、主に接続線312のみを露出させ、その他の下部電極314および配線部310a~310fを覆うようにして形成する(図6(a))。そのため、絶縁層632は、以下で示すような、永久レジストを用いたり、リフトオフ法を用いたりする別の手法にて形成することが可能である。
【0101】
絶縁層の形成には、永久レジストと呼ばれる材料を使用することもできる。図15(a)~図15(c)を参照しながら、永久レジストを用いて絶縁層を形成する方法について説明する。第2層となる絶縁層は、「永久レジスト」または「感光性永久膜」などと呼ばれる、露光現像可能なものである。永久レジストは、液状、またはシート状のポリマー絶縁体である。まず、図15(a)に示すように、第1の導電層(金属層600a~600d)を形成した円筒管24の表面に永久レジスト700を塗布する。次いで、透明なフィルム712および所望のパターンをもつ遮光膜714を有する露光用フィルム710を用いて、永久レジスト700を露光する(図15(b))。次いで、現像液を用いて、永久レジスト700を現像する(図15(c))。これにより、所望のパターンを有する絶縁層702を形成できる。
【0102】
永久レジストは、光硬化性の樹脂であることが多い。このため、図15(b)に示すように、露光用フィルム710の遮光膜714の遮光パターンは、永久レジストを除去する部分を遮光し、永久レジストを残す部分が光を透過するように形成されている。本開示では、ポジレジストまたはネガレジストのどちらの永久レジストを用いてもよい。
【0103】
図16(a)~(c)を参照しながら、リフトオフ法を用いて絶縁層を形成する方法について説明する。最初に、絶縁層を形成しない領域に、レジスト層720を形成する(図16(a))。このレジスト層720は、後に除去可能な材料で形成されるものであり、残存膜または犠牲層などと呼ばれる。レジスト層720および第1の導電層の上に、絶縁層730を形成する(図16(b))。次いで、レジスト層720を除去することにより、その上に形成されていた絶縁層730の一部も除去され、所望のパターンを有する絶縁層732を形成できる(図16(c))。
【0104】
接続線312の露出に高い寸法精度を求めない場合には、例えば、粘着テープをレジスト層720の代わりに使用することもできる。具体的には、真空成膜または溶液成膜プロセスにより絶縁層730を形成する前に、粘着テープを接続線312上に貼り付け、絶縁層730を形成後にその粘着テープを剥がすことにより、接続線312を露出させて、所望のパターンを有する絶縁層732を形成することができる。
【0105】
図17(a)~(f)を参照しながら、第2の導電層を形成する第3の形成工程を説明する。第3の形成工程では、第1の導電層(たとえば金属層600d)および絶縁層632上に、真空成膜法を用いて、第2の導電層を構成する金属層660を形成する(図17(a))。
【0106】
第3の形成工程で形成する金属層660は、第1の導電層と同じ金属であっても、第1の導電層と異なる金属であってもよい。第2の導電層が第1の導電層と異なる金属で構成される場合、ウエットエッチングで用いるエッチング液が第1の導電層の場合と異なるものとなる。このため、第2の導電層が第1の導電層と異なる金属であると、第3の形成工程におけるウエットエッチングにおいて第1の形成工程で形成した金属層が著しく損なわれないという利点がある。
【0107】
この金属のウエットエッチングの選択性を利用し、第1または第2の導電層を2層構造で形成し、エッチングストップ層として利用してもよい。たとえば、第1の導電層をアルミニウムで形成し、第2の導電層をタングステンおよびアルミニウムの2層で積層する。ここで、タングステンはアルミニウムよりも非常に薄く形成しておくことで、高い導電性を確保しつつ、第2の導電層のエッチング中に第1の導電層を損なうことを防ぐことができる。
【0108】
次に、形成した金属層660を、図5(d)に示される第2の導電層の形状にパターニングする。具体的には、前述の第1および第2の形成工程と同様、金属層660の上面にレジストを塗布し、レジスト層670を形成する(図17(b))。次いで、透明なフィルム682および所望の遮光パターンを有する遮光膜684を有する露光用フィルム680を用いて、レジスト層670を露光する(図17(c))。次いで、レジスト層670を現像する(図17(d))。次いで、金属層660のエッチングし(図17(e))、および、レジスト層670の除去する(図17(f))。これにより、所望のパターンを有する第2の導電層(金属層662)を形成することができる。ここで、図17(a)~(f)は、図5(a)のA-A´の断面に対応する図面である。図17(d)~(f)に示す部分では、第2の導電層のパターニングが行われていないように見えるが、図17(d)~(f)で示されていない他の部分では、第2の導電層のパターニングが行われている。
【0109】
第3の形成工程における露光用フィルム680を用いた露光時には、第1層および第2層の影響によりレジスト層670の表面に凹凸ができ、露光用フィルム680とレジスト層670との間に空隙ができて、パターンのエッジがシャープに切れないという問題が生じる場合がある。この場合には、光透過性の高い樹脂をレジスト層670の上に薄く塗布し、その上から露光用フィルム680を巻くことで空隙を無くし、パターンのエッジをシャープに切ることができる。
【0110】
また、第1層および第2層の影響によりレジスト層670を均一に塗布できない場合は、印刷法を用いてレジスト層670を形成することが可能である。さらに、導電層の保護などの目的で、レジスト層670に永久レジストなどを用いた場合は、永久レジストから形成したレジスト層670自体が絶縁層になるので、レジスト層を剥離しなくてもよい。
【0111】
以上により、円筒管の展開時に図5(a)となるパターンを有する内部共振回路を作製することが可能である。また、パターンの形状を調整することにより、同様のプロセスを経て、図8(a)に示すパターンを有する内部共振回路の作製も可能である。
【0112】
真空プロセスを含むフォトリソグラフィ法を用いた方法では、印刷法を用いた方法よりも、平坦性が高く、緻密な金属層あるいは絶縁層を形成できる。一方、フォトリソグラフィ法では、金属層を厚く形成することが難しいため、内部共振回路の抵抗を低減することが難しい。このようなプロセスに起因する課題を解決するため、印刷法とフォトリソグラフィ法を組み合わせて第1および第3の形成工程を経てもよい。たとえば、第1および第3の形成工程を印刷法で行い、第2の形成工程をフォトリソグラフィ法により作製することで、膜厚の厚い金属層および平坦性が高くて緻密な層間絶縁層を有する内部共振回路を作製することが可能である。
【実施例0113】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。なお、以下では実施例1~2で得られた内部共振回路を付した円筒管に関して、評価例1~4にて評価し、NMR測定用試料管として極めて有用であることを示すこととした。
【0114】
実施例1~2(印刷法による内部共振回路の作製)
実施例1~2では、内径1.3mm(外径1.42mm)、および、内径2.0mm(外径2.12mm)の2種のポリイミド製円筒管(PIT―S―(1.30)、PIT―S-16)の表面に、印刷法にて内部共振回路を作製した。なお、PIT―S―(1.30)に内部共振回路を作製したものを実施例1に係る「共振回路1」、PIT―S-16に内部共振回路を作製したものを実施例2に係る「共振回路2」とする。
【0115】
1.グラビア版の作製
グラビアオフセット印刷を使って内部共振回路を印刷法にて作製するため、初めにグラビア版を作製した。まず、CADシステムなどを使用して印刷版のパターンを作製する。ここでは、図9(a)~(c)を用いて示した第1層~第3層のパターンを形成するための印刷版のパターンを作製した。次に、このパターンを用いて露光用フィルムを作製した。露光用フィルムは、オフィス用複合機で薄いプラスチックフィルムにパターンを印刷することで作製した。グラビア版の作製には、光硬化性樹脂を利用した樹脂版であり、版深50μmのグラビア版を作製できるPGプレート(PG500、東レ株式会社製)を用いた。露光前の樹脂版に作製した露光用フィルムを重ね、製版装置(PGP-300、東レ株式会社製)を用いて2分30秒露光し、製版装置に付随する現像機で、現像液(PG製版用現像液、株式会社ミノグループ製)を用いて2分30秒現像し、水洗後、製版装置に付随する乾燥機にて乾燥した。その後、露光機にて5分間、追加露光を行うことで、グラビア版を作製した。
【0116】
使用した樹脂版は光硬化性樹脂が塗布されたものであり、光が当たったところが硬化し、光が当たらなかった部分が現像液で溶解して凹部となるため、光硬化樹脂の膜厚に応じた版深のグラビア版を作製することができる。したがって、作製した露光用フィルムは、図9(a)~(c)のパターンが遮光性の黒であり、周囲が透明である。
【0117】
2.印刷による内部共振回路の作製
次に、曲面印刷用グラビアオフセット印刷機(SBG印刷機、株式会社エムティーテック製)を用い、2種のポリイミド製円筒管(PIT―S―(1.30)、PIT―S-16)のそれぞれに第1の導電層(第1層)、絶縁層(第2層)および第2の導電層(第3層)を形成することで、内部共振回路を作製した。なお、導電層を形成するには、導電性インク(XA3656、藤倉化成株式会社製)、絶縁層を形成するには、絶縁性インク(XB3291、藤倉化成株式会社製)を用いた。
【0118】
まず、第1層のパターンを有するグラビア版および印刷対象物である円筒管を印刷機に固定した。そして、グラビア版に導電性インクを充填し、そのインクをブランケットに受理した。受理後、30~60秒の待機時間を設けた後、ブランケットに受理したインクを円筒管表面に転写した。その後、レベリングのために10~30分静置し、120℃、30分間焼成し、第1層を形成した。
【0119】
次に、第2層のパターンを有するグラビア版、および第1層を形成した円筒管を印刷機に固定した。そして、グラビア版に絶縁性インクを充填し、そのインクをブランケットに受理した。受理後、15~45秒の待機時間を設けた後、ブランケットに受理したインクを円筒管表面の所定の位置に転写させた。第2層以降の印刷はアライメントが必要であるため、印刷機のアライメント機構を用いて印刷を行った。その後、レベリングのために10~30分静置し、150℃、30分間焼成し、第2層を形成した。
【0120】
次に、第3層のパターンを有するグラビア版、および、第1層および第2層を形成した円筒管を印刷機に固定した。そして、グラビア版に導電性インクを充填し、そのインクをブランケットに受理した。受理後、30~60秒の待機時間を設けた後、ブランケットに受理したインクを円筒管表面に転写させた。その後、レベリング処理のために10~30分静置し、120℃、330分間焼成し、第3層を形成した。これにより、第1層から第3層を、印刷法を用いて形成し、内部共振回路を作製した。
【0121】
評価例1(マジック角回転試験)
本開示の内部共振回路が、マジック角回転において重量バランスの変化を生まずに安定して高速回転が可能であることを確かめるため、実施例2で作製した内部共振回路を市販のNMR試料管に入れて固定し、マジック角回転試験を行った。NMR試料管は外径3.2mm、内径2.2mm、スリーブはジルコニア製のものを使用し、マジック角回転の試験にはベンチスピナーを使用した。ベンチスピナーは、試料管の回転不良により、試料管が破損したり、試料管とプローブ内のコイルとが接触したりすることによるプローブの破損を防ぐため、プローブ外で試料管のマジック角回転の安定性を確認する装置である。当然ながら、マジック角回転試験には、市販のNMR装置のプローブを用いることもできる。
【0122】
実施例1で作製した共振回路1を、NMR試料管長に合わせて長さ18mmの長さに切断して試料管に挿入し、ベンチスピナーにてマジック角回転試験を行った。その結果、一般的にMAS―NMRで必要とされる回転数である3kHzで安定したマジック角回転を確認できた。さらに回転数を上昇させると、5kHz、7kHz、10kHz、15kHz、20kHzの回転数において、±5Hzの安定性で安定した回転が確認できた。
【0123】
次に、実施例2で作製した共振回路2を同じNMR試料管に挿入してマジック角回転試験を行ったところ、共振回路2が試料管の内部で動き、回転させることができなかった。そこで、共振回路2に幅14mmのテフロン(登録商標)テープを巻き、共振回路2と試料管のスリーブのすきまを埋めて回転させたところ、3kHzでの安定したマジック角回転が確認できた。さらに回転数を上昇させると、5kHz、7kHz、10kHz、15kHz、20kHzの回転数において、±5Hzの安定性で安定した回転が確認できた。
【0124】
実施例1および実施例2で使用した3.2mmプローブのNMR装置における試料管の回転数の仕様値は、上限22kHzであった。下限は仕様値として記載されていないが、標準試料のアマンダンのように運動性が高く低速でシャープな信号を得られる試料であっても、試料管は3kHz以上の回転数で使用されることが多い。これらのことから、実施例1,2に係る共振回路を用いることで、回転数の下限から上限の速度において試料管の回転がぶれることが抑制し、MACS―NMR測定を実施できるといえる。
【0125】
評価例2(冷却耐性とマジック角回転に関する耐久性試験)
NMR測定は低温、極低温で実施することもあるため、内部共振回路の繰り返し冷却による冷却耐久性能(冷却耐性)を評価した。共振回路1および共振回路2のそれぞれを、液体窒素に1分間浸漬してから取り出すという一連の操作を5回繰り返した。その結果、共振回路1および共振回路2はともに、目視において導電層および絶縁層に変化はなかった。また、デジタルマルチメータを用いた抵抗測定においても抵抗値に変化は無かった。
【0126】
次に、上記の冷却試験を行った共振回路1および共振回路2のそれぞれを、NMR試料管に挿入し、評価例1と同様にマジック角回転試験を行った。その結果、3kHzでの安定した回転が確認できた。この結果から、冷却による導電層および絶縁層の剥離やひび割れなどは起こらず、共振回路1および共振回路2は、冷却しながらの測定にも耐えることができることが判明した。
【0127】
評価例3(印刷法で作製したインダクタおよび外部コイルの共振特性)
印刷法で作製した内部共振回路が、外部に設けられたコイル(NMR装置の検出コイル)と組み合わせた状態で共振することを確認するために、印刷で作製した共振回路からインダクタ(コイル)部分だけを切り出し、外部のコイルとの共振特性を測定した。使用したインダクタは、実施例2にて作製した共振回路2から、キャパシタ部を切断してインダクタ部のみとしたものであり、その両端の電気抵抗は5Ωであった。
【0128】
図18(a)に、共振特性を測定した系の外観を、図18(b)に当該測定系の回路図を示す。印刷法により円筒管800の外周に作製した内部共振回路のインダクタ802(上記したとおり、キャパシタ部を切断してインダクタ部のみとしたもの)を可変コンデンサ804(Voltronics社製、NMAP55HVFSK、1.1~62.7pF)に接続し、共振回路を形成した。そして、インダクタ802の外側に2ターンのカップリングコイル810を巻き、インダクタ802とカップリングコイル(外部コイル)810とを相互インダクタンスにより結合させた。ここで、カップリングコイル810を配線812を介して、図示しないネットワークアナライザ(E5061A、Agilent Technology社製)と接続するケーブル820の端子822と接続し、共振特性としてS11の測定を行った。
【0129】
その測定結果を、図18(c)に示す。Trace21~24は、それぞれ可変コンデンサ804の容量が最小値(LCRメータでの実測値:1.1pF)から最大値(同測定値:62.7pF)までの4種類のキャパシタンス値での共振特性の測定結果を示す。点線はTrace22とTrace21との比である。ここで、ベースラインが波打っているのは、コネクタおよびカップリングコイル810単体の反射および吸収によるものと考えられる。
【0130】
可変コンデンサ804の容量を変化させるのに応じて共振周波数が変化し、共振が鋭くかつ深くなっている。相互インダクタンス結合した回路全体のQ値は15程度であり、本測定のような配置においては、浮遊のインダクタンスおよびキャパシタンスも無視できない大きさであることを考えると、Q値は十分に高く、十分にNMR信号の増強効果が期待できる。
【0131】
評価例4(振動磁場強度のシミュレーション結果)
実際にNMR装置に内部共振回路を配置したときにどれほど振動磁場強度の増強が見込まれるかをシミュレーションするため、マルチフィジックスシミュレーションソフト(COMSOL Multiphysics(登録商標))を用い、有限要素法による電磁場解析を試みた。
【0132】
外部のNMR装置のコイルの中に内部共振回路を入れ、一定の振動電流をNMR装置のコイルに流し、その中で発生する磁束の分布をシミュレーションした。外部のNMR装置のコイルはNMRプローブ固有のものであり、そのサイズは公表されていないことから、現実に近いと考えられるサイズ(導線の直径およびコイルの断面半径など)を仮定した。計算にかかるマシンパワーおよび時間(計算コスト)の削減のため、図19(a)に示すように、内部共振回路およびNMR装置の信号検出用のコイル902がそれぞれ軸対称な円形回路の結合と仮定し、コイルの周囲は無限遠を仮定した。また、内部共振回路のキャパシタンスは大きさの無い素子としてコイル900に連結させた。
【0133】
具体的には、横軸0の位置を対称軸とした軸対称の回路で、その断面だけを示している。ここでは、NMR装置のコイル902は円形断面の導体の6ターン、内部共振回路のコイル900は、ポリイミド円筒管へ印刷により作製した配線を模して、細い長方形断面導体の5ターンとしている。本シミュレーションは、これらのコイル900,902を覆うように設置している半円(3Dとしては球)の内部について計算した。その外側にある帯状の部分は無限遠を模した層である。2つのコイルの電気抵抗率はバルクの銅のデータを用いた。
【0134】
シミュレーション結果を、図19(b)~(d)に示す。図19(b)および図19(c)は、それぞれ、コイルの共振周波数が約600MHzおよび600.1MHzのときの、コイル軸を左端とする断面におけるシミュレーション結果であり、磁力線を実線で、磁場の大きさをグレースケールで示している。内部コイルの共振周波数約600MHz近傍で内部コイルの磁束密度が大きく(色が濃く)なり、共振周波数を超える600.1MHz以上では内部コイルの磁束が外部コイルとの隙間に入り込むような分布に変化することがわかる。
【0135】
図19(d)はこのシミュレーション結果について、内部共振回路の中心における磁場の大きさの周波数依存性を示している。共振周波数近傍の狭い範囲で、内部共振回路内の磁場が急激に増大していることから、本開示の内部共振回路は、NMR装置内に設置することで磁場増強効果が認められると言える。
【符号の説明】
【0136】
20 検出ユニット、24 円筒管、26 内部共振回路、42 インク、44 グラビア版、50 転写ローラ、52 金属胴、53 ゴム、56 中心軸、610,640,670,720 レジスト層、620,650,680,710 露光用フィルム、220 試料管、260 インダクタ、262 キャパシタ、310 配線部、310P 金属層、314 下部電極、320 絶縁層、320P 感光性絶縁層、330 上部電極、514 接続線パターン、512 下部電極パターン、530 上部電極パターン、510 配線部パターン、520 絶縁層パターン、552 下部電極パターン、570 上部電極パターン、554,572 接続線パターン、C1~C3,C11,C12,C21,C22 キャパシタ、L1~L3 インダクタ。
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