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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095802
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】寒中無収縮モルタル材
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230629BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20230629BHJP
   C04B 22/04 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 B
C04B22/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198435
(22)【出願日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021211210
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591197699
【氏名又は名称】日本高圧コンクリート株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 憲一
(72)【発明者】
【氏名】宮越 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄仁
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】須藤 裕司
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB02
4G112PB07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】外気温が-5℃あるいはそれ以下となる可能性がある環境下においても凍ることなく、また収縮することなく、品質を確保することができ、養生温度を保つための大掛かりな設備や燃料を必要としないセメント系寒中無収縮モルタルおよびその施工方法を提供する。
【解決手段】セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材に、亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を添加する。-5℃まで低下し得る施工環境では、セメントの質量に対する亜硝酸リチウムの質量比を3~10質量%とし、セメントの質量に対するアルミニウム粉末の質量比を0.04~0.18質量%とする。-10℃まで低下し得る施工環境では、亜硝酸リチウムの質量比を4.5~8質量%、アルミニウム粉末の質量比を0.06~0.17質量%とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末が添加されており、前記セメントの質量に対する前記亜硝酸リチウムの質量比が3~10質量%であり、前記セメントの質量に対する前記アルミニウム粉末の質量比が0.04~0.18質量%であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材。
【請求項2】
請求項1記載の寒中無収縮モルタル材において、該寒中無収縮モルタル材が、施工初期の外気温が-5℃まで低下し得る施工環境で使用するための寒中無収縮モルタル材であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材。
【請求項3】
請求項1記載の寒中無収縮モルタル材において、該寒中無収縮モルタル材が、施工初期の外気温が-10℃まで低下し得る施工環境で使用するための寒中無収縮モルタル材であり、前記セメントの質量に対する前記亜硝酸リチウムの質量比が4.5~8質量%であり、前記セメントの質量に対する前記アルミニウム粉末の質量比が0.06~0.17質量%であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材。
【請求項4】
請求項3記載の寒中無収縮モルタル材において、前記セメントの質量に対する前記アルミニウム粉末の質量比が0.06~0.12質量%であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材。
【請求項5】
セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末が添加されており、前記亜硝酸リチウムおよび前記アルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合としたことを特徴とする寒中無収縮モルタル材。
【請求項6】
セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材に、前記セメントの質量に対する質量比が3~10質量%となる亜硝酸リチウムと、前記セメントの質量に対する質量比が0.04~0.18質量%となるアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように、養生または給熱を行うことを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法。
【請求項7】
セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材に、前記セメントの質量に対する質量比が4.5~8質量%となる亜硝酸リチウムと、前記セメントの質量に対する質量比が0.06~0.17質量%となるアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-10℃以上に保つように、養生または給熱を行うことを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法。
【請求項8】
請求項7記載の寒中無収縮モルタル材の施工方法において、前記セメントの質量に対する質量比が0.06~0.12質量%となるアルミニウム粉末を添加することを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法。
【請求項9】
セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように、養生または給熱を行うに当たって、前記亜硝酸リチウムおよび前記アルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合とすることを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法。
【請求項10】
セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-10℃以上に保つように、養生または給熱を行うに当たって、前記亜硝酸リチウムおよび前記アルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合とすることを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気温が氷点下あるいはそれ以下となる可能性がある環境下において養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や燃料を用いなくても凍ることがなく、収縮することもない、品質を確保することができる寒中無収縮モルタル材に関するものである。
【0002】
なお、本願でいう「寒中無収縮モルタル材」とは、凍結の恐れのある期間に施工される無収縮モルタル材を意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
無収縮モルタルとは打設後7日間収縮を示さないモルタルをいい、この無収縮モルタルは橋梁の上部(桁)と下部(脚)の接続部となる支承位置や風力発電設備(風車)の基礎、橋脚を補強する際に橋脚外周に配置する補強鋼板と躯体との間詰(鋼板巻き立て工法)など、多くの建造物に使用されている。
【0004】
一方、施工時期の気温が氷点下となる寒中施工においては、燃料噴射式温風暖房装置等の給熱機器(例えば、オリオン機械株式会社製、製品名「ジェットヒーター」など)を用いて、凍害を受けないとされる強度を得られるまで給熱・保温養生状態を維持する。
【0005】
しかし、寒冷地において、建造物の一部である支承部や間詰部を給熱し保温状態を維持するためには、建造物全体を覆う大掛かりな養生囲いを設ける必要があり、給熱機器に使用する燃料費も膨大で、使用するモルタル材の量に比して過大となる場合が多い。特に、橋脚は河川内に多くあることから、橋脚工事は渇水期となる冬期に行われる場合が多く、寒中モルタル施工の頻度が高い。
【0006】
従来、セメント系グラウト材に関しては、特許文献1に、施工初期の外気温が-5℃まで低下し得る施工環境下での使用を想定した寒中用セメント系グラウト材として、亜硝酸リチウムがセメントの質量に対し3~10質量%添加されたセメント系グラウト材、また施工初期の外気温が-10℃まで低下し得る施工環境下での使用を想定した寒中用セメント系グラウト材として、亜硝酸リチウムがセメントの質量に対し4.5~8質量%添加されたセメント系グラウト材が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、零下20℃で養生したときでも凍害が起こらないよう改良されたセメント組成物として、結晶イオン半径の3倍以上の水和イオン半径を示す陽イオンを放出し得る化合物とセメントとを含有する寒中施工用セメント組成物が開示されている。
【0008】
特許文献3には、長時間流動性を保持させることができる無収縮グラウト材として、セメント、膨張材、アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末からなる発泡剤、減水剤、増粘剤などを配合した無収縮グラウト材が開示されている。
【0009】
特許文献4には、防錆効果と外部から侵入する塩化物イオンの遮蔽効果を有し、カルシウムの溶脱抑制効果も発揮するセメント組成物として、水酸化アルミニウムと亜硝酸塩とを含有し、亜硝酸塩として亜硝酸リチウムまたは亜硝酸カルシウムを用いたセメント組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2021/039133号
【特許文献2】特開平06-234556号公報
【特許文献3】特開2007-119316号公報
【特許文献4】特開2007-153715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1記載のセメント系グラウト材は、施工初期の外気温が-5℃あるいは-10℃まで低下し得る施工環境下での使用を想定した寒中用セメント系グラウト材であり、収縮に対する効果は考慮されていない。
【0012】
本発明者らは、特許文献1記載のセメント系グラウト材およびその施工方法と同様に、無収縮モルタルについても亜硝酸リチウムを添加し、-5℃を下回る氷点下においても凍結しない寒中無収縮モルタルの製造を試みたが、亜硝酸リチウムを添加することで規定の圧縮強度(45N/mm2以上)は得られたものの、モルタルが収縮してしまい、無収縮モルタルとしての規格(打設後7日間収縮を示さない)を満足しない結果となった。
【0013】
特許文献2記載の寒中施工用セメント組成物も、水の氷点~零下20℃の寒中施工においても凍害が起こらないように改良されたものであるが、無収縮モルタルを対象としたものではない。
【0014】
特許文献3記載の無収縮グラウト材は、長時間流動性を保持させることを目的としたものであり、寒中施工を考慮したものではない。
【0015】
特許文献4記載のセメント組成物は、防錆効果や塩化物イオンの遮蔽効果、カルシウムの溶脱抑制効果を期待したものであるが、無収縮モルタルを対象としたものではなく、また寒中施工を考慮したものではない。
【0016】
本発明は、外気温が-5℃あるいはそれ以下となる可能性がある環境下においても凍ることなく、また収縮することなく、品質を確保することができ、養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や燃料を必要としないセメント系寒中無収縮モルタルおよびその施工方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定量の亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を添加した無収縮モルタル材が、寒中施工において凍害対策をせずとも十分な品質を確保できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は、
1. セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末が添加されており、前記セメントの質量に対する前記亜硝酸リチウムの質量比が3~10質量%であり、前記セメントの質量に対する前記アルミニウム粉末の質量比が0.04~0.18質量%であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材、
2. 1記載の寒中無収縮モルタル材において、該寒中無収縮モルタル材が、施工初期の外気温が-5℃まで低下し得る施工環境で使用するための寒中無収縮モルタル材であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材、
3. 1記載の寒中無収縮モルタル材において、該寒中無収縮モルタル材が、施工初期の外気温が-10℃まで低下し得る施工環境で使用するための寒中無収縮モルタル材であり、前記セメントの質量に対する前記亜硝酸リチウムの質量比が4.5~8質量%であり、前記セメントの質量に対する前記アルミニウム粉末の質量比が0.06~0.17質量%であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材、
4. 3記載の寒中無収縮モルタル材において、前記セメントの質量に対する前記アルミニウム粉末の質量比が、より好ましい範囲として0.06~0.12質量%であることを特徴とする寒中無収縮モルタル材、
5. セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末が添加されており、前記亜硝酸リチウムおよび前記アルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合としたことを特徴とする寒中無収縮モルタル材、
6. セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材に、前記セメントの質量に対する質量比が3~10質量%となる亜硝酸リチウムと、前記セメントの質量に対する質量比が0.04~0.18質量%となるアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように、養生または給熱を行うことを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法、
7. セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材に、前記セメントの質量に対する質量比が4.5~8質量%となる亜硝酸リチウムと、前記セメントの質量に対する質量比が0.06~0.17質量%となるアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-10℃以上に保つように、養生または給熱を行うことを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法、
8. 7記載の寒中無収縮モルタル材の施工方法において、前記セメントの質量に対する質量比が、より好ましい範囲として0.06~0.12質量%となるアルミニウム粉末を添加することを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法、
9. セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように、養生または給熱を行うに当たって、前記亜硝酸リチウムおよび前記アルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合とすることを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法、
10. セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、前記無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を添加し、前記無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-10℃以上に保つように、養生または給熱を行うに当たって、前記亜硝酸リチウムおよび前記アルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合とすることを特徴とする寒中無収縮モルタル材の施工方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の寒中無収縮モルタル材によれば、打設後7日間収縮を示さないという無収縮モルタルとしての規格を満足しつつ、従来凍害対策として必要であった大掛かりな養生や燃料を要しなくても圧縮強度が45N/mm2以上という強度を確保することができる。
【0020】
セメントの質量に対する亜硝酸リチウムの質量比を3~10質量%、アルミニウム粉末の質量比を0.04~0.18質量%とすれば、-5℃まで低下し得る施工環境でもそのまま使用することができ、セメントの質量に対する亜硝酸リチウムの質量比を4.5~8質量%、アルミニウム粉末の質量比を0.06~0.17質量%、より好ましくは0.06~0.12質量%とすれば、-10℃まで低下し得る施工環境でもそのまま使用することができる。
【0021】
また、本発明の寒中無収縮モルタル材の施工方法によれば、例えば、外気温が0℃以下に低下し得る施工環境下でのセメント系無収縮モルタル材の施工において、セメントの質量に対する質量比が3~10質量%となる亜硝酸リチウムと、セメントの質量に対する質量比が0.04~0.18質量%となるアルミニウム粉末を添加することで、-5℃の施工環境下まで、養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や給熱のための燃料を用いなくても、施工した寒中無収縮モルタル材の凍結が防止でき、品質を確保することができ、外気温が-5℃を下回る施工環境になった場合においては、寒中無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように、養生または給熱を行うことで、寒中無収縮モルタル材の凍結を防止し、品質を確保することができる。
【0022】
また、本発明の寒中無収縮モルタル材の施工方法によれば、セメントの質量に対する質量比が4.5~8質量%となる亜硝酸リチウムと、セメントの質量に対する質量比が0.06~0.17質量%、より好ましくは0.06~0.12質量%となるアルミニウム粉末を添加することで、-10℃の施工環境下まで、養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や給熱のための燃料を用いなくても、施工した寒中無収縮モルタル材の凍結が防止でき、品質を確保することができ、外気温が-10℃を下回る施工環境になった場合においては、寒中無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-10℃以上に保つように、養生または給熱を行うことで、寒中無収縮モルタル材の凍結を防止し、品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明における課題解決までのステップを示したフローチャートである。
図2】市販の無収縮モルタルについて提供されている既存の試験データであり、試験温度と材齢ごとの膨張率の関係が示されているグラフである。
図3】ステップ3における、-10℃の環境下、亜硝酸リチウム添加率6%、アルミニウム添加率0.08~0.16%とした場合の膨張率および圧縮強度との関係を示したグラフである。
図4】ステップ3において、亜硝酸リチウム添加率6%とした場合のアルミニウムの添加率を求めるための膨張率と圧縮強度との関係を示したグラフである。
図5】追加試験において、-5℃の環境下、亜硝酸リチウム添加率6%、アルミニウム添加率0.06~0.18%とした場合の膨張率および圧縮強度との関係を示したグラフである。
図6】追加試験において、-5℃の環境下、亜硝酸リチウム添加率6%とした場合のアルミニウムの添加率を求めるための膨張率と圧縮強度との関係を示したグラフである。
図7】追加試験において、-10℃の環境下、亜硝酸リチウム添加率3%、アルミニウム添加率0.00~0.08%とした場合の膨張率および圧縮強度との関係を示したグラフである。
図8】追加試験において、-10℃の環境下、亜硝酸リチウム添加率6%、アルミニウム添加率0.05~0.25%とした場合の膨張率および圧縮強度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の寒中無収縮モルタル材は、セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末が添加されており、セメントの質量に対する亜硝酸リチウムの質量比が3~10質量%であり、セメントの質量に対するアルミニウム粉末の質量比が0.04~0.18質量%であることを特徴とするものである。
【0025】
無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムを添加した場合、前述のように無収縮モルタル材の凍結を防止する効果が得られるものの、材齢7日で収縮を示してはならないという無収縮モルタルの規定を満たさなくなる恐れがあり、それに対して本発明ではさらにアルミニウム粉末を添加したものであり、亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を、凍害を防止しつつ、無収縮モルタルの規定を満たし、かつ基準の強度と品質を満たす範囲で使用するようにしたものである。
【0026】
本発明における無収縮モルタル材としては、市販の各種無収縮モルタル材を使用することができるが、亜硝酸リチウムおよびアルミニウム粉末を添加した時に品質や耐久性に特に問題がなければ、その種類は限定されない。
【0027】
市販の無収縮モルタル材としては、例えば以下の製品がある。
・製品名:マスターフロー810(ポゾリスソリューションズ株式会社)
・製品名:太平洋プレユーロックス(太平洋マテリアル株式会社)
・製品名:プレタスコンTYPE-1(デンカ株式会社)
・製品名:プレタスコンTYPE-1R(デンカ株式会社)
・製品名:MG-15M(三菱マテリアル株式会社)
【0028】
亜硝酸リチウムは水溶液で添加しても固体で添加しても構わない。また、水溶液とした場合の濃度は問わない。ただし水溶液の濃度は通常5~43質量%程度であり、ハンドリングの観点から、25~40質量%が好ましい。
【0029】
アルミニウム粉末に関しても、各種粉末度の市販のものを用いることができるが、アルミニウム粉末は粉末度を調整することによって反応速度を調整することが可能である。
【0030】
本発明の寒中無収縮モルタル材の用途は特に限定されないが、寒い地方での最も寒い時期の、例えば橋梁の支承位置や風力発電設備の基礎、橋脚における鋼板巻き立て工法の間詰材などの施工における無収縮モルタル材として用いることができ、セメントに対して、亜硝酸リチウムを3~10質量%、アルミニウム粉末を0.04~0.18質量%、より好ましくは0.06~0.16質量%添加することで、-5℃に達する寒冷な施工環境下でも寒中無収縮モルタル材として使用することができる。
【0031】
すなわち、施工初期の外気温が-5℃まで低下し得る施工環境下での使用を想定した場合において、セメントに対して、亜硝酸リチウムを3~10質量%、アルミニウム粉末を0.04~0.18質量%添加することで、養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や給熱のための燃料を用いなくても、施工した寒中無収縮モルタル材の凍結が防止でき、品質を確保することができる。
【0032】
施工初期の施工環境が-5℃まで低下することを想定した場合において、セメントに対する亜硝酸リチウムの添加量が3質量%より小さい場合、あるいはセメントに対する亜硝酸リチウムの添加量が10質量%より大きい場合、またアルミニウム粉末の添加量が0.18質量%より大きい場合には、無収縮モルタル材として要求される基準強度が得られない可能性がある。
【0033】
一方、アルミニウム粉末の添加量が0.04質量%より小さい場合には、モルタルが収縮し、材齢7日で収縮を示してはならないという無収縮モルタルの規定を満たさなくなる可能性がある。
【0034】
なお、施工後間もない時点で、外気温が当初想定した温度より下がることが予想された場合には、-5℃以上に相当する環境を維持するための養生囲いや給熱が必要となるものの、従来の無収縮モルタル材を施工する場合と比べると、養生囲いの設置や給熱機器にかかる費用を大幅に軽減することができる。
【0035】
また、施工初期の外気温が-10℃まで低下し得る施工環境下での使用を想定した場合において、セメントに対して、亜硝酸リチウムを4.5~8質量%、アルミニウム粉末を0.06~0.17質量%、より好ましくは0.06~0.12質量%添加することで、養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や給熱のための燃料を用いなくても、施工した寒中無収縮モルタル材の凍結が防止でき、品質を確保することができる。
【0036】
施工初期の施工環境が-10℃まで低下することを想定した場合において、セメントに対する亜硝酸リチウムの添加量が4.5質量%より小さい場合、あるいはセメントに対する亜硝酸リチウムの添加量が8質量%より大きい場合、またアルミニウム粉末の添加量が0.17質量%より大きい場合には、無収縮モルタル材として要求される基準強度が得られない可能性がある。
【0037】
施工後間もない時点で、外気温が当初想定した温度より下がることが予想された場合には、-10℃以上に相当する環境を維持するための養生囲いや給熱が必要となるものの、従来のモルタル材を施工する場合と比べると、養生囲いの設置や給熱機器にかかる費用を大幅に軽減することができる。
【0038】
本発明の寒中無収縮モルタル材の施工方法は、セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材に、セメントの質量に対する質量比が3~10質量%となる亜硝酸リチウムと、セメントの質量に対する質量比が0.04~0.18質量%となるアルミニウム粉末を添加し、寒中無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように、養生または給熱を行うことを特徴とするものである。
【0039】
上述のように、セメントに対して、亜硝酸リチウムを3~10質量%、アルミニウム粉末を0.04~0.18質量%添加することで、-5℃の施工環境下まで、養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や給熱のための燃料を用いなくても、施工した寒中無収縮モルタル材の凍結が防止でき、品質を確保することができるため、外気温が-5℃を下回る施工環境になった場合において、寒中無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように養生または給熱を行うことで、寒中無収縮モルタル材の凍結を防止し、品質を確保することができる。
【0040】
養生または給熱を行うときの上限は特に限定されないが、本発明における寒中無収縮モルタル材の配合の場合、通常の無収縮モルタル材の場合では品質に影響があるとされる5℃未満でも必要な品質を保つことができるため、外気温が-5℃以下に低下した場合において、実質的に-5℃以上、かつ5℃未満あるいは0℃以下程度に保つように養生または給熱を行えばよい。実質的にというのは、温度調整の関係で一時的にこの範囲から外れる状況もあり得ることを意味する。
【0041】
また、セメントに対して、亜硝酸リチウムを4.5~8質量%、アルミニウム粉末を0.06~0.17質量%添加することで、-10℃の施工環境下まで、養生温度を保つための養生囲いなどの大掛かりな設備や給熱のための燃料を用いなくても、施工した寒中無収縮モルタル材の凍結が防止でき、品質を確保することができるため、外気温が-10℃を下回る施工環境になった場合において、寒中無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-10℃以上に保つように養生または給熱を行うことで、寒中無収縮モルタル材の凍結を防止し、品質を確保することができる。
【0042】
この場合、例えば、外気温が-10℃以下に低下した場合において、実質的に-10℃以上、上限は特に限定する必要はないが例えば-5℃未満程度に保つように養生または給熱を行えばよい。
【0043】
また、本発明の寒中無収縮モルタル材の施工方法においては、セメントと細骨材を配合したセメント系無収縮モルタル材と混錬水とからなる無収縮モルタル材において、無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末を添加し、寒中無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-5℃以上に保つように養生または給熱を行うに当たって、亜硝酸リチウムおよびアルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合とすることで、寒中無収縮モルタル材の凍結を防止し、品質を確保することができる。
【0044】
また、同様に寒中無収縮モルタル材を施工する箇所での施工環境を-10℃以上に保つように養生または給熱を行うに当たって、亜硝酸リチウムおよびアルミニウム粉末の配合を、圧縮強度が45N/mm2以上、打設後7日間膨張率がマイナスとならない配合とすることで、寒中無収縮モルタル材の凍結を防止し、品質を確保することができる。
【実施例0045】
図1は、本発明における課題を解決までのステップをフローチャートとしたものであり、以下にその過程で行った試験および考察について説明する。
【0046】
(1)ステップ1:凍らない(初期凍害を受けない)が、収縮してしまうモルタル
(1)-1 凍らない(初期凍害を受けない)ことの確認
市販の無収縮モルタル材に亜硝酸リチウムを添加することにより初期凍害を受けないことを確認するため、厳寒な地域(北海道陸別町)の厳寒期(1月、2月)における最低日平均気温のデータから、実施工時の最低気温を-10℃と想定し、-10℃で低温養生した供試体で圧縮強度試験を実施した。
【0047】
試験に使用した材料製品名・メーカー名は以下の通りである。
・市販の無収縮モルタル:特殊セメント系/非金属骨材系 高性能無収縮グラウト材 マスターフロー810(ポゾリスソリューションズ株式会社製)
・亜硝酸リチウム:亜硝酸リチウム40%水溶液(日産化学株式会社製)
・アルミニウム粉末:品名NO.200A(大和金属粉工業株式会社製)
なお、表7に結果が示される試験を除き、その他の試験についても同様である。
【0048】
亜硝酸リチウム添加率は、特許文献1(「セメント系グラウト材およびその施工方法」)に示されている添加率(セメントに対して4.5~8質量%(-10℃))を参考にし、5%、6%、7%とした。
試験結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
試験結果、5%、6%、7%いずれも判定基準である45N/mm2以上を上回る結果となり、凍らない(初期凍害を受けない)ことを確認した。圧縮試験は土木学会規準JSCE-G541「充てんモルタルの圧縮強度試験方法」に準拠して行った。
【0051】
また、-10℃環境下においては添加率5%、6%、7%における圧縮強度の差は最大4N/mm2と僅かであることから、以降の実験の亜硝酸リチウムの添加率は無収縮モルタル材のセメントに対して6質量%として実施した。
【0052】
(1)-2 亜硝酸リチウムを添加することでモルタルが収縮してしまう
亜硝酸リチウムを添加して膨張率試験を行った結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
亜硝酸リチウムを添加することで耐凍害性は得られたものの、モルタルが収縮してしまい、無収縮モルタルとしての規格(材齢7日で収縮を示してはならない)を満足しない結果となった。膨張率試験は、土木学会規準JSCE-F535「PCグラウトのブリーディング率および体積変化率試験方法(鉛直管方法)」に準拠して行った。
【0055】
なお、土木学会規準JSCE-F542は鋼製の型枠とマノメータを使用するため、冷凍庫(マイナス)に入れるとそれ自体が収縮し、測定のため冷凍庫から取り出すとそれ自体が膨張し、正しい値を計測できないため、JSCE-F535に準拠した方法とし、冷凍庫の容量の関係から鉛直管のスケールを約1/4にして測定を行ったものである。
【0056】
(2)ステップ2:凍らない、収縮しないが、圧縮強度が低下してしまうモルタル
(2)-1 ステップ1の「凍らないが、収縮してしまうモルタル」に膨張効果のあるアルミニウム粉末を前記無収縮モルタル材のセメントに対して0.08~0.16質量%を添加した結果、「収縮しない(膨張率0%以上)」モルタルが製造できた。
【0057】
なお、図2(太平洋マテリアル株式会社の太平洋プレユーロックス技術資料より引用)に示されるように、膨張率(初期膨張収縮率)は試験温度が低くなると膨張率も低下する(収縮)傾向にあるため、想定される不利な条件を再現するため試験温度を-10℃として実施した。
表3に-10℃環境下における膨張率試験結果を示す。
【0058】
【表3】
【0059】
(2)-2 一方で、アルミニウム粉末による膨張効果の副作用(組織が緩む現象)によって圧縮強度が低下する傾向にある。このため、アルミニウム粉末を前記無収縮モルタル材のセメントに対して0.08~0.16質量%を添加した供試体の圧縮強度を確認した。
表4に圧縮強度試験結果を示す。
【0060】
【表4】
【0061】
(3)ステップ3:亜硝酸リチウムとアルミニウム粉末添加率の範囲の限定(「凍らない無収縮モルタル」)
図3に、上述の表3および表4の試験結果に基づく、膨張率、アルミニウム粉末添加率、圧縮強度の関係を示す。
【0062】
膨張率に着目すると、アルミニウム粉末を0.08質量%以上添加すると膨張率の規格値(材齢7日で収縮を示してはならない)を満足した。
【0063】
圧縮強度に着目すると、アルミニウム粉末の添加率が前記モルタル材のセメントに対して0.12質量%以下で規格値(45N/mm2)を満足した。
【0064】
図4に、膨張率と圧縮強度の関係をまとめる。図4に示す通り、膨張率が+0.6%を超えない範囲であれば、圧縮強度は規格値を満足する。
【0065】
次に、試験温度および亜硝酸リチウム添加率を変えて、追加試験を行った。
-5℃環境下において、亜硝酸リチウム添加率6質量%、アルミニウム粉末添加率0.06~0.18質量%として膨張率試験と圧縮強度試験を行った。試験結果を、表5、図5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表5、図5に示されるように、-5℃環境下において、亜硝酸リチウム添加率6質量%、アルミニウム粉末添加率0.06~0.18質量%の場合については、打設後7日間収縮を示さないという無収縮モルタルとしての規格と、圧縮強度45N/mm2以上という条件を満たす結果が得られた。
【0068】
また、図6に、膨張率と圧縮強度の関係をまとめる。図6に示す通り、膨張率が+2.6%を超えない範囲であれば、圧縮強度は規格値を満足する。
【0069】
-10℃環境下において、亜硝酸リチウム添加率3質量%、アルミニウム粉末添加率0~0.08質量%として膨張率試験と圧縮強度試験を行った。試験結果を表6、図7に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
表6、図7に示されるように、-10℃環境下において、亜硝酸リチウム添加率3質量%、アルミニウム粉末添加率0.00質量%および0.02質量%の場合については、膨張率が-0.6%となり、無収縮モルタルとしての規格を満たさなかった。また、亜硝酸リチウム添加率3質量%、アルミニウム粉末添加率0.08質量%の場合については、無収縮モルタルとしての規格は満たしたものの、圧縮強度45N/mm2以上という条件を満たさなかった。
【0072】
さらに、市販の異なる銘柄の無収縮モルタルについての追加試験を行った。
試験に使用した材料製品名・メーカー名は以下の通りである。
・市販の無収縮モルタル:セメント系無収縮モルタル 太平洋プレユーロックス(太平洋マテリアル株式会社製)
・亜硝酸リチウム:亜硝酸リチウム40%水溶液(日産化学株式会社製)
・アルミニウム粉末:品名NO.200A(大和金属粉工業株式会社製)
【0073】
この追加試験では、-10℃環境下において、亜硝酸リチウム添加率6質量%、アルミニウム粉末添加率0.05~0.25質量%として膨張率試験と圧縮強度試験を行った。試験結果を表7、図8に示す。
【0074】
【表7】
【0075】
表7に示されるように、-10℃環境下において、亜硝酸リチウム添加率6質量%、アルミニウム粉末添加率0.05質量%の場合については、膨張率が-0.2%となり、無収縮モルタルとしての規格を満たさなかった。また、亜硝酸リチウム添加率6質量%、アルミニウム粉末添加率0.25質量%の場合については、無収縮モルタルとしての規格は満たしたものの、圧縮強度45N/mm2以上という条件を満たさなかった。
【0076】
亜硝酸リチウム添加率6質量%、アルミニウム粉末添加率0.06~0.17質量%の場合については、膨張率が+1.3~+4.7%で、圧縮強度65.5~46.6N/mm2で、いずれも無収縮モルタルとしての規格および圧縮強度45N/mm2以上という条件を満たす結果が得られた。
【0077】
図8は、表7の結果について、縦軸を膨張率(%)、横軸をアルミニウム粉末添加量(C×質量%)とし、各試験結果の値をプロットし、これらをつないで折線グラフとしたものである。図8のグラフより、少なくともアルミニウム粉末の質量比が0.06~0.17質量%の範囲では、膨張率に関する無収縮モルタルの条件と圧縮強度45N/mm2以上という2つの条件を満たすことが読み取れる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8