(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096453
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】IgA産生促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20230630BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20230630BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230630BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230630BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20230630BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/747
A61P37/04
A61K38/16
A23K10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212241
(22)【出願日】2021-12-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小畠 英史
(72)【発明者】
【氏名】冠木 敏秀
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AB10
2B150AC06
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD09
4B018MD20
4B018MD25
4B018MD29
4B018MD34
4B018MD71
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF01
4C084AA02
4C084BA03
4C084CA04
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA16
4C087NA14
4C087ZB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】免疫細胞からのIgA産生を促進し、感染予防効果を有する新規な素材を提供する。
【解決手段】ラクトバチルス属の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)を有効成分として含むIgA産生促進用組成物を提供する。前記ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、又はラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス属の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)を有効成分として含むことを特徴とするIgA産生促進用組成物。
【請求項2】
前記ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、又はラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)である請求項1に記載のIgA産生促進用組成物。
【請求項3】
S層タンパク質(S-layer protein)が精製されたものである請求項1又は請求項2に記載のIgA産生促進用組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飲食品。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用医薬品。
【請求項6】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgA産生促進用組成物に関する。特に、ラクトバチルス属乳酸菌の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)を含むIgA産生促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
IgAは自然免疫に働く主要な抗体のひとつである。特に分泌型IgA(SIgA)は粘膜免疫の主役であり、消化管や呼吸器における免疫機構の最前線として機能している。腸管においてSIgAは粘膜筋板のプラズマ細胞から分泌され、上皮を貫通し、上皮の表面に分泌されて、抗原や病原性細菌を捕捉することでそれらが上皮に接着するのを防止する。これらのことから、IgAは生体の感染防御に働くことが期待されており、これまでにいくつかのIgA産生を上昇させるための解決手段が開示されている。
【0003】
特許文献1は、優れた粘膜免疫賦活作用、生体防御機構の向上作用などを奏することができ、プロバイオティックスとして有用な新しい乳酸菌、およびこれを含む最終製品(発酵乳、乳酸菌飲料などの飲食品)を提供することを目的とし、その解決手段としてIgA産生促進能を有するラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)ONRIC b0239およびラクトバチルス・プランタラムONRIC b0240からなる群から選択される少なくとも1種である、乳酸菌を開示している。
【0004】
特許文献2は、高い腸管免疫力増強作用を有する乳酸菌由来の成分を有効成分として含有する腸管免疫力増強剤を提供することを課題とし、その解決手段としてIgA抗体産生向上作用を有するラクトバチルス・プランタラムの細胞壁成分を有効成分として含有する腸管免疫力増強剤を開示している。
【0005】
特許文献3は、IgA抗体の産生を促進し、自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制することで、感染症の予防と自己免疫疾患の予防の両者の効果をもたらすことができる医薬品、栄養組成物、飲食品および飼料を提供することを課題とし、その解決手段として乳酸菌のラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌、特にラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171株を開示している。
【0006】
特許文献4は、JNKを活性化させる新規な素材を提供することを課題とし、その課題解決手段としてラクトバチルス属の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein、以下SLPということがある)又は前記SLPの分解物を有効成分として含有するJNK活性化組成物、またこれを含むJNK活性化用飲食品、抗酸化用飲食品、細胞防御用飲食品を開示している。特許文献5は、上皮細胞からの抗菌ペプチド産生を上昇させ、感染予防効果を有する新規な素材を提供することを課題とし、その課題解決手段としてラクトバチルス属の菌体由来成分であるSLP及び前記SLPの分解物を有効成分とする抗菌ペプチド産生促進用組成物、またこれを含む抗菌ペプチド産生促進用飲食品、感染予防用飲食品を開示している。
【0007】
しかし、特許文献1,2に記載のラクトバチルス・プランタラムはSLPを有さないことから、本文献に記載のIgA抗体産生促進作用等は、ラクトバチルス・プランタラムの菌体や細胞壁成分を有効成分とする作用であって、SLPのIgA抗体産生促進作用については開示されていないことが明らかである。
また、特許文献3に記載のIgA抗体の産生促進作用及びIgG抗体の産生抑制作用は、ラクトバチルス・ヘルベティカスの菌体又は菌体培養物を有効成分とした作用であり、SLPのIgA抗体産生促進作用については開示されていない。
また、特許文献4,5には、ラクトバチルス属のSLPのIgA産生促進作用については開示されていない。
以上のように、本願の提供する解決手段は上記いずれの文献にも開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3818319号公報
【特許文献2】特開2014-125446号公報
【特許文献3】特許第6739155号公報
【特許文献4】特開2020-152653号公報
【特許文献5】国際公開2020/111172号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、免疫細胞からのIgA産生を促進し、感染予防効果を有する新規な素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明には以下の構成が含まれる。
〔1〕ラクトバチルス属の菌体由来成分であるS層タンパク質(S-layer protein)を有効成分として含むことを特徴とするIgA産生促進用組成物。
〔2〕前記ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、又はラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)である〔1〕に記載のIgA産生促進用組成物。
〔3〕S層タンパク質(S-layer protein)が精製されたものである〔1〕又は〔2〕に記載のIgA産生促進用組成物。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飲食品。
〔5〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用医薬品。
〔6〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のIgA産生促進用組成物を含むIgA産生促進用飼料。
【発明の効果】
【0011】
ラクトバチルス属乳酸菌に由来するS層タンパク質(S-layer protein(以下、単にSLPということがある))、もしくはSLPを含むラクトバチルス属の乳酸菌菌体およびその培養物などのIgA産生を誘導する素材を体内に摂取することにより、IgA産生促進作用を介して種々の感染に対する防御能の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ラクトバチルス・ヘルベティカスの精製したSLPをSDS-PAGEにかけた結果を示す写真である。
【
図2】PBMC(末梢血単核細胞)にSLPを添加し、培養した場合の培養上清中IgA濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、新規なIgA産生促進用組成物を提供するものである。
本発明のIgA産生促進用組成物について以下に詳細に説明する。
(IgA産生促進用組成物)
本発明のS-layer proteinは種々の細菌の細胞壁外層で認められ、規則的な結晶構造を呈することを特徴とするタンパク質である。SLPは細胞壁成分に非共有的に結合していることから、塩化リチウムなどのカオトロピック試薬によって菌体から抽出される。また、抽出されたSLPはカオトロピック試薬を除くことで規則的な結晶構造を再形成する。この特徴を利用し、菌体からの精製が可能となる。
乳酸菌の中ではラクトバチルス属においてS-layerを発現していることが見出されており、向井らの報告(Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria,19(1):21-29,2008)ではラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)グループ乳酸菌をはじめとする13菌種でSLPの発現が確認もしくは推定されている。これらの乳酸菌が発現しているSLPには、等電点が9~10の塩基性タンパク質であること、N末端領域に23~30アミノ酸残基からなるシグナルペプチド配列を持つことといった共通点がある。一方で、乳酸菌が産生するSLPの分子量は菌種間で大きな開きがあり、さらにその遺伝子構造は同一菌種内においても多様性に富むことが示されている。
本発明のIgA産生促進用組成物に用いるSLPは、ラクトバチルス属に由来し、S-layerを発現している菌種のうち、当該作用を有するものであればどのようなものでも用いることができる。SLPもしくはSLP様タンパク質を発現している菌種としてはラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ガリナラム(Lactobacillus gallinarum)、ラクトバチルス・キタサトニス(Lactobacillus kitasatonis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ケフィリ(Lactobacillus kefiri)、ラクトバチルス・パラケフィリ(Lactobacillus parakefiri)が挙げられ、このうちでもラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ブフネリ、ラクトバチルス・ブレビス、又はラクトバチルス・ヘルベティカスがより好ましい。
また、本発明のSLPは、菌体から必ずしも精製されたものである必要はなく、SLPを含む菌体自体や培養物としても用いることができるが、精製したSLPがより好ましい。菌体自体は、生菌体でも死菌体でもよい。
【0014】
(IgA産生促進用組成物の製造方法)
本発明の有効成分であるSLPは以下の方法に従って乳酸菌菌体より精製することができる。SLPの精製は種々の公知の精製法を利用すればよく、典型的な方法を以下に示す。対象とするラクトバチルス属乳酸菌をMRS液体培地などの液体培地、もしくは脱脂乳で十分に培養した後に菌体を回収し、必要に応じて洗浄を行う。菌体は、寒天培地などに生育させたコロニーから回収してもよい。得られた菌体をそのまま、もしくは凍結乾燥した後に、塩化リチウム、尿素、塩酸グアニジンなどのカオトロピック試薬溶液で懸濁、攪拌して菌体表層のSLPを可溶化する。可溶化したSLPを含む溶液から固形物を除いた後、透析などによってカオトロピック試薬を除き、SLPを析出させる。析出したSLPを回収後、必要に応じて洗浄を行い、本発明に用いる精製SLPとすることができる。さらに純度を高めたい場合にはクロマトグラフィー等でさらに精製することが好ましい。
なお、精製したSLPではなく、SLP含有率の高い画分を得る場合は、菌体を破砕して不溶性画分のみを回収することにより菌体よりも高い濃度のSLP画分を得ることができる。
本発明のIgA産生促進用組成物に用いるSLPは加熱してもIgA促進作用が維持されることから加熱されたものであってもよい。
【0015】
(SLPを含む飲食品、医薬品、飼料)
本発明の上記製造方法により得られたSLPは、そのまま飲食品の素材、原材料として用いることができ、SLPを含む組成物を添加すること以外は、各食品の定法により製造すればよい。
したがって、本発明の有効量のSLPはどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
このようにして製造された有効量のSLPを含む飲食品は、IgA産生促進用飲食品として提供される。
【0016】
本発明の上記製造方法により得られたSLPは、そのまま医薬品の原材料として用いることができ、SLPを添加すること以外は、錠剤、カプセル、粉末、シロップ等の定法により製造すれば良い。
したがって、本発明のSLPを有効成分として含む医薬品の製剤化に際しては、製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して製剤化するほか、SLPをそのまま乾燥して粉末剤、散剤として用いることもできる。また、IgA産生促進作用を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能である。
このようにして製造された有効量のSLPを含む医薬品は、IgA産生促進用医薬品として提供される。
【0017】
本発明の上記製造方法により得られたSLPは、そのまま飼料の原材料として用いることができ、SLPを添加すること以外は、飼料の定法により製造すれば良い。
したがって、本発明の有効量のSLPは前記飲食品と同様にどのような飼料に配合しても良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。
このようにして製造された有効量のSLPを含む飼料は、IgA産生促進用飼料として提供される。
【0018】
(摂取量)
本発明のIgA産生促進用組成物の摂取量については、摂取するヒトや動物においてIgA産生促進作用を期待できる有効量であれば特に制限しないが、概算でSLPとして0.1mg/日~10mg/日が挙げられ、0.5mg/日~5mg/日が好ましく、0.7mg/日~1.2mg/日がさらにいっそう好ましく、1mg/日が最も好ましい。
【0019】
本発明のIgA産生促進用組成物の摂取の対象は、生体内におけるIgA産生促進を必要とするヒト又は動物であり、例えば、下記の評価方法によりIgAの産生量が基準値よりも低い対象に摂取することで本発明の効果が期待できる。また、IgA産生促進作用を介して種々の感染に対する予防を必要とするヒト又は動物である。
本発明のラクトバチルス属乳酸菌のSLPを有効成分とする作用は、IgAの産生促進作用であり、これまでに当該SLPについてすでに報告されている抗菌ペプチド産生促進作用とは異なる。ディフェンシン等の抗菌ペプチドは細菌の細胞膜に直接作用し、細胞膜を破壊する等して細菌に対して殺菌作用を示す。一方でIgAは細菌だけでなく細菌が産生する毒素等にも結合することが可能であり、感染時には病原体や病原毒素に結合してこれらが体内に侵入することを防いでいる。
加えて、IgAは病原体の排除に働くだけでなく、宿主と常在細菌との共生関係の維持にも働いている(化学と生物,55(9):596-601,2017)。そのため、IgA産生の増加によって腸内菌叢が改善すると示唆されている(Immunity,41,152-165,2014)。腸内菌叢の乱れは便秘や肌荒れ等様々な不調につながることが知られており、IgA産生を促進して腸内菌叢を改善することで、こうした不調を改善することが可能である。
【0020】
(評価方法)
本発明のSLPによるIgA産生促進作用は、ヒトや動物にSLPを投与した場合と非投与の場合における唾液、腸管、腸の内容物、または糞便中のIgA量を比較し、非投与よりもSLP投与の方が増加した場合に本発明のIgA産生促進作用があると評価することができる。
また、ex vivoにおけるIgA測定試験においては、例えば、IgA産生細胞を含む免疫細胞をプレートに播種し、培地中にSLPを添加した場合と非添加の場合における培地中のIgA濃度を比較し、非添加よりもSLP添加の方がIgA濃度が高い場合に、本発明のIgA産生促進作用があると評価することができる。
【実施例0021】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(SLPの調製例)
ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171をMRS液体培地100mLで37℃、16時間培養後、遠心分離(8,000×g、4℃、10分間)にて菌体を回収し、滅菌MilliQ水で1回洗浄した。得られた菌体はcOmpleteTM Protease Inhibitor Cocktail(Roche)を添加した1M LiCl溶液10mLで懸濁し、室温で30分間攪拌した。攪拌後の懸濁液を遠心分離(10,000×g、4℃、20分間)し、上清を回収した。沈殿はcOmpleteTM Protease Inhibitor Cocktail(Roche)を添加した5M LiCl溶液10mLで再懸濁し、室温で再度30分間攪拌した。攪拌後の懸濁液は遠心分離(10,000×g、4℃、20分間)し、上清を回収した。回収した上清をまとめ、0.2μmフィルターを通した後にSlide-A-Lyzer G2 10K(Pierce)で滅菌MilliQ水に対して透析することでSLPを析出させた。透析後の溶液を遠心分離(12,000×g、4℃、20分間)し、析出したSLPを回収した。回収したSLPは滅菌MilliQ水1mLで洗浄後、1M LiCl溶液500μLに懸濁し、適宜攪拌しながら氷上で15分間保持した。遠心分離によってLiCl溶液を除き、再度滅菌MilliQ水1mLで洗浄、滅菌MilliQ水に再懸濁して凍結乾燥したものを精製SLPとした。
【0022】
精製後のSLPは、SDS-PAGE法によって目的サイズの43kDa付近にバンドが認められることを確認した(
図1)。また、得られたSLPは3mgであった。
また、同様な方法でラクトバチルス・アシドフィルスSBT2062、ラクトバチルス・ブレビスSBT10966、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT11380、ラクトバチルス・ヘルベティカスJCM1120T、ラクトバチルス・アミロボラスJCM1126T、ラクトバチルス・ブフネリJCM1115Tから調整したSLPは、SDS-PAGE法により目的サイズの43~55kDa付近にバンドが認められた(図示せず)。
【0023】
〔試験例1〕SLPのIgA産生促進効果の検討
1.試験方法
凍結保存されたHuman PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell:末梢血単核細胞)(Lot.4661MA20:ASTRATE Biologics)を37℃の水浴で溶解し、RPMI1640(11875-093:Gibco)にFBS(final conc.10%)(Lot.42Q3780K:Gibco)、MEM Vitamin Solution(final conc.1×)(11120052:Gibco)、MEM Non-Essential Amino Acids Solution(final conc.1×)(11140050:Gibco)、Penicillin-Streptomycin(final conc.100U-100μg/mL)(15140-122:Life technologies)、Sodium Pyruvate(final conc.1mM)(11360070:Gibco)、StemSure(登録商標) 2-Mercaptoethanol Solution(final conc.0.05mM)(198-15781:Wako)を添加した培地で洗浄した後に5.0×105cells/100μL/wellとなるよう96wellプレートに播種した。播種した細胞に各乳酸菌株から精製したSLPを20μg/mL含む培地を100μL/well添加(final conc.10μg/mL)して5%CO2インキュベーターにて37℃で7日間培養した。培養後の96wellプレートから培地を回収し、遠心分離(1,500×g、4℃、5分間)によって細胞を除去してIgA濃度測定用サンプルとした。試料を添加しない水準をControl(Negative Control)、Recombinant Human IL-6(AF-200-06:Peprotech)を10ng/mLの濃度で添加した水準をPositive Controlとした。試験はn=6で実施した。
【0024】
IgA濃度の測定はELISA法にて実施した。AffiniPure Goat Anti-Human Serum IgA,α Chain Specific(Jackson Immuno Research Laboratories)を0.05MCarbonate-Bicarbonate Buffer(pH9.6)(C3041:Sigma)で希釈して20μg/mLとし、96well ELISA用プレート(Corning(登録商標) 96well EIA/RIA plate)(3590:Corning)に50μL/wellとなるよう分注して4℃で一晩静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer(50mMTris-HCl(pH8.0)、0.14MNaCl、0.05%Tween20)300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、blocking buffer(50mMTris-HCl(pH8.0),0.14MNaCl,1%BSA)300μL/wellを加え、室温で1時間静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer 300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、Diluent(50mMTris-HCl(pH8.0)、0.14MNaCl、1%BSA、0.05%Tween20)で10倍希釈したサンプル50μL/wellを加え、室温で2時間静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer 300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、Diluentで0.16μg/mLに調製したPeroxidase-AffiniPure Goat Anti-Human Serum IgA,αChain Specific(Jackson Immuno Research Laboratories)50μL/wellを加え、室温で2時間静置した。静置後のプレートから液体を除き、wash buffer 300μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、eBioscience(TM) TMB Solution(00-4201-56:Invitrogen)100μL/wellを加え、室温で十分な発色が認められるまで静置した後に1N HCl 100μL/wellを加え、VARIOSKAN FLASH(Thermo Scientific)を用いて450nmにおける吸光度(OD450)を測定した。測定結果は、OD450の値からOD620の値を引いて補正した。測定は1サンプル当たり2well実施し、2wellの値の平均を測定値として採用した。また、IgA from human serumを標品として検量線を作成し、各サンプルの測定値からIgA濃度を算出した。
【0025】
2.試験結果
評価の結果、ラクトバチルス属乳酸菌由来SLPを10μg/mLの濃度で添加した水準の多くで、Control水準と比較して有意なIgA濃度の増加が認められた(
図2)。Control水準(14.5ng/mL)と比較して、ラクトバチルス・アシドフィルスSBT2062株添加水準(54.2ng/mL)では約3.7倍、ラクトバチルス・ブレビスSBT10966株添加水準(58.8ng/mL)では約4.1倍、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT11380株添加水準(46.1ng/mL)では約3.2倍、ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171株添加水準(36.7ng/mL)では約2.5倍、ラクトバチルス・ヘルベティカスJCM1120T株添加水準(39.0ng/mL)では約2.7倍、ラクトバチルス・アミロボラスJCM1126T株添加水準(47.1ng/mL)では約3.3倍、ラクトバチルス・ブフネリJCM1115T株添加水準(54.8ng/mL)では約3.8倍のIgA濃度が認められた。この結果より、ラクトバチルス属乳酸菌に由来するSLPはIgA産生促進作用を示すと考えられた。図中、*、**、***の記号はそれぞれControl水準との間で有意な差(*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001)があることを示す。
【0026】
(サプリメントの製造例)
ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171から精製したSLP10mgに、脱脂粉乳30g、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明のIgA産生促進用サプリメントを製造した。
【0027】
(飼料の製造例)
ラクトバチルス・ヘルベティカス SBT2171から精製したSLP2gを3998gの脱イオン水に懸濁し、40℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II 160型;特殊機化工業社製)にて、3,600rpmで20分間撹拌混合して2g/4kgのSLP溶液を得た。このSLP溶液2kgに大豆粕1kg、脱脂粉乳1kg、大豆油0.4kg、コーン油0.2kg、パーム油2.3kg、トウモロコシ澱粉1kg、小麦粉0.9kg、ふすま0.2kg、ビタミン混合物0.5kg、セルロース0.3kg、ミネラル混合物0.2kgを配合し、120℃、4分間加熱殺菌して、本発明のIgA産生促進用飼料10kgを製造した。
【0028】
(医薬品の製造例)
ラクトバチルス・ヘルベティカスSBT2171から精製したSLP10mgに、脱脂粉乳40gを加えて混合した。この混合物1部に脱脂粉乳4部を混合し、この混合粉末を打錠機により1gずつ常法により打錠して、本発明のIgA産生促進用錠剤を調製した。
本発明によれば、ラクトバチルス属乳酸菌に由来するSLPを有効成分とするあらたなIgA産生促進用組成物、及びラクトバチルス属乳酸菌に由来するSLPを有効成分とするIgA産生促進用飲食品、医薬品、飼料を提供することが可能となった。