(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096522
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】導波管、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01P 3/12 20060101AFI20230630BHJP
H01P 11/00 20060101ALI20230630BHJP
H01P 1/207 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01P3/12
H01P11/00 101
H01P1/207 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212343
(22)【出願日】2021-12-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年2月25日に電子情報通信学会 信学技報,vol.120,no.413,NS2020-162,pp.232-237,2021年3月にて発表 令和3年3月5日にオンライン開催された電子情報通信学会、ネットワークシステム研究会(NS)にて発表 令和3年6月28日にIEEE International Conference on Network Softwarization,2021,Virtual Conferenceにて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、令和2年度、開発項目「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先導研究(委託)/オープン性を活用する公衆網・自営網の設備共用技術の先導的研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】中尾 彰宏
【テーマコード(参考)】
5J006
5J014
【Fターム(参考)】
5J006JB02
5J006LA25
5J014DA03
5J014DA04
(57)【要約】
【課題】比較的容易に製造可能な導波管、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】所定の金属を吸着する樹脂を積層して形成した導波管基材の表面に、当該所定の金属を含有し、上記樹脂の融点より低温の融点を有する金属材料の層を形成してなる導波管1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の金属を吸着する樹脂を積層して形成した導波管基材の表面に、
前記所定の金属を含有し、前記樹脂の融点より低温の融点を有する金属材料の層が形成されている導波管。
【請求項2】
請求項1に記載の導波管であって、
前記樹脂はポリ乳酸であり、前記所定の金属が、カドミウム、または、カドミウム、ビスマス、鉛、及び錫の合金である導波管。
【請求項3】
請求項2に記載の導波管であって、
前記所定の金属は、ウッドメタル合金である導波管。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の導波管であって、
矩形筒状の導波管本体と、
この導波管本体内に配された少なくとも一つのアイリス部とを備え、
当該導波管本体及びアイリス部が、前記導波管基材の表面に、前記金属材料の層が積層されて形成されている導波管。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の導波管であって、
筒状の導波管本体を備え、
当該導波管本体内部が、アイリス部を介して互いに連結される複数の空洞共鳴室を有し、
前記空洞共鳴室の少なくとも一つにはさらに、柱状体が形成されており、
当該導波管本体、アイリス部及び柱状体が、前記導波管基材の表面に、前記金属材料の層が積層されて形成されている導波管。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の導波管であって、
前記導波管基材は、その表面が粗面化加工されている導波管。
【請求項7】
所定の金属を吸着する樹脂を積層して導波管基材を形成する工程と、
前記所定の金属を含有し、前記樹脂の融点より低温の融点を有する金属材料を溶融して得た溶融金属中に、前記導波管基材を浸漬して、当該導波管基材の表面を、前記金属材料でコーティングする工程と、
を含む導波管の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の導波管の製造方法であって、
前記導波管基材を形成する工程において形成される導波管基材のサイズは、設計されたサイズに対し、当該導波管基材が、前記溶融金属中に浸漬されている間に膨張乃至収縮する割合だけ縮小乃至拡大したサイズである導波管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導波管バンドパスフィルタを、マイクロレーザー焼結法で形成する技術が開発されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Milan Salek, et al., “W-Band Waveguide Bandpass Filters Fabricated by Micro Laser Sintering”, IEEE Transactions on Circuits and Systems II Express Briefs, Vol. 66, No.1, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、金属粉体を選択的に溶融、固化することで導波管バンドパスフィルタを形成することとなり、その表面が滑らかにならず、また製造速度も低速であり、製造が容易でないという問題点がある。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、比較的容易に製造可能な導波管、及びその製造方法を提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来例の問題点を解決する本発明の一態様は、導波管であって、所定の金属を吸着する樹脂を積層して形成した導波管基材の表面に、前記所定の金属を含有し、前記樹脂の融点より低温の融点を有する金属材料の層が形成されているものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、樹脂を積層して基材を形成することで比較的高速に成形でき、またその表面に、当該樹脂に吸着される金属層を形成することで導波管を得ることができ、比較的容易に製造が可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る導波管の斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る導波管のアイリス部の例を表す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る導波管の断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る導波管の製造工程の例を表す説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る導波管のもう一つの形状の例を表す斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る導波管のもう一つの形状の例を表す断面図である。
【
図7】本発明の一実施例に係る導波管の内部透過斜視図である。
【
図8】本発明の一実施例に係る導波管の周波数特性の例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いられる図面は一例であり、そのサイズや比率などは適宜変更されるものである。本発明の実施の形態に係る導波管1は、
図1に例示するように、断面が実質的に矩形状をなす矩形筒状の導波管本体10を有する。この導波管本体10内には、少なくとも一つのアイリス部20が設けられ、導波管本体10はアイリス部20により複数の空洞共鳴室100に分割されている。
図1は、図示の都合上、導波管本体10の一部を破断して示している。
【0010】
ここでアイリス部20は、導波管本体10の長手方向(導波方向、
図1においてZ軸方向)を法線とする面内に配された、一対の遮蔽体21a,bを含む。
【0011】
図2に例示するように、これらアイリス部20の遮蔽体21a,bは、導波管本体10の横断方向(
図1のX軸方向)中央に、所定の幅dの間隙(開口)をおいて、当該導波管本体10の横断方向の中心に対称に配される。つまり、遮蔽体21a,bの幅は同じd′であるように形成している。
図2は、導波管1の導波方向(導波管1の長手方向、つまりZ軸方向)から見た正面図である。
【0012】
ここで導波管本体10の幅及び高さや、導波管本体10内に形成されるアイリス部20の位置や開口の幅d(あるいは各遮蔽体の幅)などの値(以下、設計サイズと呼ぶ)は、導波管1が備えるべきフィルタ特性(バンドパス特性)に応じて規定される。具体的には、公知の電磁場解析シミュレータを用いたシミュレーションにより各アイリス部20の位置、及びその開口の幅dなどを含む設計サイズが決定される。
【0013】
また導波管1内に複数のアイリス部20が形成される場合、各アイリス部20における上記開口はそれぞれ、互いに異なる幅となっていてよい。さらにアイリス部20が複数形成される場合、アイリス部20間の間隔も一定でなくてよい。つまり、導波管本体10内に形成される空洞共鳴室100の大きさは互いに異なっていてよい。
【0014】
これらの場合も、各アイリス部20の開口の幅d1,d2,…などは、それぞれ導波管1が備えるべきフィルタ特性(バンドパス特性)に応じて規定され、具体的には、公知の電磁場解析シミュレータを用いたシミュレーションにより各アイリス部20の位置、及びその開口の幅d1,d2,…などを含む設計サイズが決定される。
【0015】
このようなフィルタの形状と特性については、Y. Zhai, Q. Wang, Z. Wang, and X. xiaoGao, “The design of an iris waveguide filter at 35.75 ghz,” 2008 Global Sym- posium on Millimeter WavesIEEE, pp.348-350 2008などに記載されているように、広く知られているため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0016】
この導波管1の導波管本体10、及びアイリス部20の遮蔽体21は、いずれも
図3に例示するように、樹脂を成形して形成された導波管基材31と、この表面を被覆する金属層32とを含んで構成される。
図3は、導波管1の一部を図示しており、導波管1を、アイリス部20の遮蔽体21を含む、
図1のY軸を法線とする面で破断した断面を示す断面図である。
【0017】
ここで樹脂は、所定の金属を吸着する性質を有するものを用いる。一例としてこの樹脂はポリ乳酸であり、ポリ乳酸は、所定の金属として、カドミウムまたはカドミウムを含む合金(例えばビスマス、鉛、錫、及びカドミウムを含むウッドメタル合金)を吸着する性質を有している。
【0018】
[製造方法]
この導波管1は、次の方法で製造される。導波管1が所望のバンドパス特性を有するフィルタとなるよう、予め、導波管本体10の形状と、その内部に配するアイリス部20の位置及び開口の大きさなどの値を含む設計サイズをシミュレーションにより決定しておく。
【0019】
このシミュレーションは、例えばSIMULIA CST Studio Suite(商標)に含まれるものなどの公知の電磁場解析シミュレータを用いて行うことができる。またこのシミュレーションの際には、導波管1の材質が、上述の金属であるものとしてシミュレーションを行う。電磁波は表皮効果により内部に浸透しないので、この設定でのシミュレーションの結果は、導波管1の表面が当該金属でコーティングされている場合にも妥当する。
【0020】
ここで決定された形状及びアイリス部20の位置及び開口の大きさなどの設計サイズに基づき、
図4に例示するように、所定の樹脂を積層して導波管基材1′を製作する(S1)。これにより決定した形状に対応する、導波管本体10とアイリス部20とが得られる。
【0021】
本実施の形態の一例では、このステップS1で製作する導波管本体10のサイズや、アイリス部20のサイズ等は、設計サイズに対し、後の工程での材料の膨張乃至収縮を考慮して、その膨張率または収縮率に対応するよう縮小乃至拡大したサイズとしておく。この設計サイズに対する拡大乃至縮小の割合(拡縮率)は、実験的に、あるいは材料の膨張率等を考慮して定めればよい。
【0022】
この導波管基材1′の製作処理は、3Dプリンタなどの広く知られた技術により実現される。またここで、導波管基材1′の製作に用いる所定の樹脂は、所定の金属を吸着する性質を有するものとする。一例としてこの樹脂はポリ乳酸であり、ポリ乳酸は、所定の金属として、カドミウム、またはカドミウムを含む合金(例えばビスマス、鉛、錫、及びカドミウムを含むウッドメタル合金)を吸着する性質を有している。
【0023】
さらにここでの例では、形成した導波管基材1′の表面を、粗面ロールによる研磨加工などによって粗面化する(スキン処理を施す)こととしてもよい。次の工程での金属材料等の積層を確実にするためである。
【0024】
この樹脂の融点T1より低温の融点T2を有し、この樹脂に吸着される性質を有し、かつ、常温(動作温度)で固体の状態を維持可能な金属材料を、温度T(ただしT2<T<T1)に加熱し、温度T2を超え、温度T1を下回る温度を維持した状態で溶融しておく。この金属は例えば、上述の、カドミウムあるいはカドミウムを含む合金(例えばビスマス、鉛、錫、及びカドミウムを含むウッドメタル合金)でよい。
【0025】
ステップS1で製作した導波管基材1′を、用意した溶融金属中に浸漬して、当該導波管基材1′の表面に金属材料を吸着させる(S2)。この際、導波管基材1′の材質によってはそのサイズが膨張乃至縮小する。この場合、既に述べたようにその膨張・縮小の割合を考慮して、導波管基材1′を設計サイズに対して拡大乃至縮小しておくと、ここでの膨張乃至縮小によって導波管基材1′のサイズが設計サイズとなる。そして次の工程では、表面に金属材料を吸着させた導波管基材1′を、溶融金属中から引き上げて、導波管基材1′の表面が金属材料でコーティングされた状態となった導波管1を得る(S3)。
【0026】
これにより、導波管1は、樹脂を成形して形成された導波管基材の表面に金属層が積層されている状態となる。つまり、これにより導波管本体10及びその内部に配されるアイリス部が、樹脂を成形して形成された導波管基材の表面に金属層が積層されて形成されたものとなる。
【0027】
[柱状体の配置]
また本実施の形態の一例では、
図5,
図6に例示するように、導波管本体10内部に形成された複数の空洞共鳴室100の少なくとも一つに、導波管本体10の横断方向(X軸方向)あるいは、高さ方向(Y軸方向)にその長手方向を有する柱状体101が配される。
【0028】
なお
図5では説明のため、導波管1の一部を破断して示している。また
図6は
図5において一点鎖線で示した破断面で破断した断面図を表している。さらに
図5の例では、各空洞共鳴室100の中央にそれぞれ1つずつ、高さ方向にその長手方向を有し、断面が矩形の柱状体101が配されている状態を示している。この柱状体101の断面の一辺の長さは、空洞共鳴室100の、導波方向(Z軸方向)の長さの1/3程度、あるいは空洞共鳴室100の横断方向(X軸方向)の長さの1/4程度としておいてもよい。この柱状体101を配置する位置及び形状もまた、公知の電磁場解析シミュレータを用いたシミュレーションにより決定すればよい。
【0029】
この柱状体101もまた、導波管本体10と一体的に、3Dプリンタ等を利用して製作され、溶融金属中に浸漬してその表面に金属材料を吸着させて形成される。つまり、本実施の形態のこの例でも、導波管本体10全体、つまり、アイリス部20や、柱状体101を含む導波管1の各部が、樹脂を成形して形成された導波管基材の表面に金属層が積層されて形成されたものとなる。
【0030】
また、3Dプリンタ等で加工する場合、中空状の導波管本体10の形成を必ずしも行わなくてもよく、導波管本体10の上側面(下面から積層したときに上側となる面)を形成しなくてもよい。この場合、上側面は、例えば銅箔テープで覆うことで代用するか、あるいは金属板で覆うこととして導波管1を形成することとなる。
【0031】
[実施形態の効果]
一般に、樹脂材料に金属層を積層するためには、樹脂材料表面に導電性塗料を塗布し、電気分解により金属層を積層させる方法が知られている。しかしながら導波管として十分な厚さの層を形成するためには、電気分解による一度の積層では足りず、導電性塗料の塗布と電気分解とを複数回繰り返す必要があった。本発明の実施の形態の方法によると、溶融した金属に、この金属を吸着する性質のある材料で形成した基材を浸漬して、基材表面に金属層を形成しており、1度の浸漬で、導波管として十分な厚さの層が形成でき、導波管を効率的に製造可能となった。
【実施例0032】
4.7GHzから4.8GHzの間の信号をバンドパスする導波管1を形成するため、シミュレーションにより、
図7に例示するように導波管1の形状を定めた。
図7は、本実施例に係る導波管1の内部透過斜視図である。
【0033】
図7に例示するように、この実施例に係る導波管1は、幅47.50mm、高さ22.10mmの矩形断面を有する、長さ138.00mmの導波管本体10と、4つのアイリス部20a,b,c,dとを備える。各アイリス部20は、導波管本体1の一方の端から、8.80mm,47.90mm,88.90mm,128.00mmの位置に(アイリス部20間の間隔が、39.10mm,41.00mm,39.10mmとなるように)配することとした。また各アイリス部20の開口は、上記一方の端に近い側のアイリス部20から順に、15.90mm,8.90mm,3.90mm,15.90mmとした。
【0034】
このように決定された導波管本体1の形状及びアイリス部20の位置及び開口の大きさに基づき、ポリ乳酸樹脂を3Dプリンタで積層して導波管基材1′を製作した。
【0035】
この樹脂の融点より低温の約70度の融点を有し、ポリ乳酸樹脂に吸着される性質を有し、かつ、常温(動作温度)で固体の状態を維持可能な金属材料として、ビスマス、鉛、錫、及びカドミウムを含むウッドメタル合金を用い、この金属を約70度以上の温度で溶融し、導波管基材1′を浸漬した。
【0036】
そして導波管基材1′の表面に金属材料を吸着させ、当該導波管基材1′を、溶融金属中から引き上げて、導波管基材1′の表面が金属材料でコーティングされた状態となった導波管1を得た。
【0037】
図8は、このようにして得た導波管1の周波数特性(実線)と、一般的な、銅製の同形状の導波管の周波数特性(破線)とを比較したものである。
図8に例示するように、本実施例の導波管1は、全体を金属で形成した導波管と同様の周波数特性を有していることが理解される。