(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096570
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】化合物半導体基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20230630BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20230630BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20230630BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230630BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20230630BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/20
C30B29/38 D
C23C16/34
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212419
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 永
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F152
5F241
【Fターム(参考)】
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5F241CA40
(57)【要約】
【課題】本発明は、化合物半導体基板において、機能層が、下地層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、表面状態が良好であり、低い転位密度を同時に満たすことで、デバイスに要求される効率等の特性を満足し、シート抵抗等物性値の面内均一性を確保することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る化合物半導体基板は、面内格子定数がaである下地層と、前記下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層と、面内格子定数がb(a≠b)である機能層と、を有し、前記下地層、前記応力緩和層、および前記機能層が、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層の順に配置され、前記機能層が、前記下地層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、前記機能層の転位密度が2.0×10
9cm
-2未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内格子定数がaである下地層と、
前記下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層と、
面内格子定数がb(a≠b)である機能層と、を有し、
前記下地層、前記応力緩和層、および前記機能層が、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層の順に配置され、
前記機能層が、前記下地層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、
前記機能層の転位密度が2.0×109cm-2未満である、化合物半導体基板。
【請求項2】
前記応力緩和層の面内格子定数が、(a+c-2×b)/(2×b)≦±0.5%を満たすcである、請求項1に記載の化合物半導体基板。
【請求項3】
前記応力緩和層が、積層構造であり、
前記応力緩和層は、前記下地層側に接して位置して、面内格子定数がaとbの間となるc1である第1結晶層と、前記第1結晶層の機能層側に接して位置して、面内格子定数が(c1+c2-2×b)/(2×b)≦±0.5%を満たすc2である第2結晶層と、を有する、請求項1に記載の化合物半導体基板。
【請求項4】
前記応力緩和層の前記第1結晶層の厚さが6nm以上125nm以下である、請求項3に記載の化合物半導体基板。
【請求項5】
前記応力緩和層の前記第2結晶層の厚さが6nm以上125nm以下である、請求項3または4に記載の化合物半導体基板。
【請求項6】
前記応力緩和層が、前記第1結晶層および前記第2結晶層からなる積層の繰り返し数を2周期以上有し、
前記応力緩和層の厚さが、500nm以上10000nm以下、となる、請求項3~5の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項7】
前記応力緩和層において、前記第1結晶層の化学組成が、AlxGa1-xN(0<x≦1.0)であり、前記第2結晶層の化学組成が、AlyGa1-yN(0≦y<1.0)であり、y<xである、請求項3~6の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項8】
前記応力緩和層が、前記第2結晶層の機能層側に接して位置し、面内格子定数が(c1+c2+c3-3×b)/(3×b)≦±0.5%を満たすc3である第3結晶層、をさらに有する、請求項3~7の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項9】
前記応力緩和層が、前記第3結晶層より前記機能層の側に位置する第n結晶層の機能層側に接して位置し、面内格子定数が{c1+c2+・・・+c(n-1)+cn-n×b}/(n×b)≦±0.5%を満たすcnである第n結晶層、をさらに有する、請求項8に記載の化合物半導体基板。
ここで、前記nは、4以上の整数である。
【請求項10】
前記下地層に対する前記機能層の格子緩和率が60%以上である、請求項3~9の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項11】
前記下地層と前記応力緩和層との間に、前記下地層に接して位置する中間層、をさらに有する、請求項3~10の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項12】
前記機能層の上に位置し、前記機能層の面内格子定数bと擬似格子整合する活性層、をさらに有する、請求項1~11の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項13】
前記機能層の上に位置し、前記機能層の面内格子定数bと擬似格子整合する活性層、および、前記活性層の上に位置するコンタクト層、をさらに有する請求項1~11の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項14】
前記コンタクト層が、前記活性層よりも大きいバンドギャップを有する、請求項13に記載の化合物半導体基板。
【請求項15】
前記応力緩和層が、前記活性層から発生する光を50%以上反射する、ことを特徴とする請求項12~14の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【請求項16】
前記化合物半導体基板の表面が、鏡面である請求項1~15の何れか一項に記載の化合物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)、半導体レーザー(LD;Laser Diode、VCSEL;Vertical Cavity Surface Emitting Laser)、電界効果トランジスタ(FET;Field Effect Transistor)といった化合物半導体を用いた数多くの光電子素子(化合物半導体素子)が実用化されている。目的に応じた化合物半導体素子を作製するためには、基板上に基板と同一材料あるいは異種材料を積層する結晶成長が必要である。異種材料の結晶成長はヘテロエピタキシャル成長と呼ばれ、面内格子定数や熱膨張係数の違いから、面内に圧縮歪みまたは引っ張り歪みが導入される。例えば、GaNのc面における面内格子定数は、AlNの面内格子定数よりも約2.4%大きいことから、AlN基板上にGaNをエピタキシャル成長させる場合、GaNエピタキシャル層は基板面内で圧縮歪みを受ける。半導体素子に必要とされるエピタキシャル層の厚みを大きくすると、エピタキシャル層中の歪みエネルギーが蓄積され、最終的には、歪みエネルギーを緩和させるために格子緩和が起き、ミスフィット転位が導入されると共に表面荒れを引き起こしてしまう。
【0003】
AlGaN化合物半導体は、AlとGaの組成比を制御することで、禁制帯幅(バンドギャップ)を3.4eVから6.2eVまで変化させることが可能であり、当該禁制帯幅は、360nmから200nmの発光波長に対応する。例えば、非特許文献1に示されるように、Al組成比が0.7から0.5付近のAlGaNを利用した深紫外LEDは、300nmから250nmの範囲の発光波長をカバーする。上記深紫外LEDは、細菌やウイルスの殺菌効果等、応用範囲が広いことから、現在、その高性能化に関する技術検討が行われている。特に、AlGaN機能層の結晶中に存在する、転位密度がLEDの発光効率に与える影響について検討されている。
【0004】
例えば、非特許文献2には、AlN自立基板と、該AlN自立基板上に形成された、繰り返し周期数10のAlxGa1-xN/AlyGa1-yNからなる超格子構造と、該超格子層上にAlGaN機能層(Al=0.5)と、該機能層上に形成された活性層と、該活性層上に形成されたコンタクト層からなる半導体基板の結晶特性が開示されている。前記AlGaN機能層(Al=0.5)の前記AlN自立基板に対する格子緩和率と前記AlGaN機能層の非対称面(102)におけるX線ロッキングカーブ半値幅には線形の関係があり、前記格子緩和率が0%から70%になると前記半値幅は180から420arcsecまで増大し、前記格子緩和率が100%で前記半値幅は720arcsecまで増大し、前記AlGaN機能層上に形成したLEDは300nmで発光することが認められる。
【0005】
例えば、非特許文献3には、AlN自立基板と、該AlN自立基板上に形成された400nmのAlN下地層と、該下地層上に形成された50nmのAl組成比を0から線形に変化させた傾斜層と、該傾斜層上に形成された厚さ0.5~1.3μmのn型AlGaN機能層(Al=0.45~0.75)からなる半導体基板の構造と結晶特性、が開示されている。前記AlGaN機能層の対称面(002)および非対称面(102)のX線ロッキングカーブ半値幅は、前記機能層が前記下地層と面内格子定数が一致している擬似格子整合(シュードモルフィック)の状態では、前記(002)半値幅が64から81arcsec、前記(102)半値幅が84から104arcsecの範囲である。前記機能層のAl組成が低い場合、または前記機能層の厚さが厚い場合は、前記機能層の面内格子定数がAlN下地層の面内格子定数と一致せず、格子緩和が発生し、前記対称面(002)のX線ロッキングカーブ半値幅が239arcsec、前記非対称面(102)のX線ロッキングカーブ半値幅が302arcsecと大きく悪化すること、さらに格子緩和が起きた、Al組成比0.6、厚さ0.5μmの前記機能層は表面荒れが顕著であることが認められる。
【0006】
AlN自立基板に代わりにサファイア基板上のAlGaN深紫外LEDが報告されている。サファイア基板は比較的安価であり、大口径基板が入手可能であることから大量生産が期待される。しかし、サファイア基板とAlGaN機能層は面内格子定数差が13%から16%あることから、サファイア基板上に直接AlGaN機能層を成長すると転位密度は1010cm-2台にまで高くなる。このため、サファイア基板上にまずAlN下地層を形成する。ただし該AlN下地層に存在する転位密度は108~109cm-2台であり、AlN自立基板よりも3桁高いことから、深紫外LEDの発光効率への影響が大きい。つまり、該AlN下地層上に成膜したAlGaN機能層の高品質化が一層重要である。
【0007】
例えば、非特許文献4に、サファイア基板と、該サファイア基板と接するAlN下地層と、該下地層の一部分に選択的に形成された、AlN/AlGaNからなる超格子層と、該超格子層上に形成されたn型AlGaN機能層(Al組成比=0.55)と、該機能層上に形成された活性層と、該活性層上に形成されたコンタクト層からなる、半導体基板の構造と結晶特性、が開示されている。非特許文献4には、LEDは波長290nmで発光していることが認められる。しかし、前記超格子構造の厚さ、AlGaNのAl組成比、構造、および面内歪みに関する記述は認められない。
【0008】
例えば、非特許文献5は、サファイア基板と、該サファイア基板上に形成された900nmのAlN下地層と、該下地層上に形成されたn型AlGaN機能層と、該機能層上に形成された活性層からなる半導体基板の構造、および結晶特性が開示されている。回折面(114)からのX線逆格子マッピングにより、Al組成比0.57、厚さ27nmの前記機能層の前記下地層に対して擬似格子整合(シュードモルフィック)状態にあり、Al組成比0.47、厚さ350nmの前記機能層では、該機能層の前記下地層に対して部分緩和(メタモルフィック)の状態にあり、格子緩和率が55%であり、室温での光励起発光スペクトル(フォトルミネセンス)が289nmにピークを持つことが非特許文献5には認められる。さらに、X線ロッキングカーブから見積もられた転位密度は、擬似格子整合状態から部分緩和状態になると極僅かな改善が見られることが認められる。例えば、螺旋転位密度が6.7×109cm-2から5.6×109cm-2に減少し、刃状転位密度が1.6×109cm-2から1.5×109cm-2に減少していることが認められる。
【0009】
例えば、非特許文献6に、サファイア基板と、該サファイア基板と接するAlN下地層と、該下地層上に形成されたAlN(厚さ2.5nm)/GaN(厚さ1.0~2.5nm)からなる超格子層と、該超格子層上に形成されたn型AlGaN機能層と、該機能層上に形成された活性層と、該活性層上に形成されたコンタクト層からなる半導体基板の結晶特性が開示されている。回折面(105)からのX線逆格子マッピングにより、前記機能層は前記下地層に対して部分緩和(メタモルフィック)の状態にあり、超格子構造上に形成したLEDは波長310nmで発光しており、半導体基板表面の荒れが非常に顕著であることが非特許文献6に認められる。
【0010】
例えば、非特許文献7は、サファイア基板と、該サファイア基板と接するAlN下地層と、該下地層上に形成された繰り返し周期数30~70、厚さ14~7nmのAl0.37Ga0.63N/Al0.27Ga0.73Nからなる超格子層と、該超格子上に形成されたn型AlGaN機能層と、該機能層上に形成された活性層と、該活性層上に形成されたコンタクト層からなる半導体基板の構造と結晶特性が開示されている。前記超格子構造の総厚さは430nmであり、前記機能層の前記下地層に対する格子緩和率は87%であり、前記機能層の回折面(102)のX線ロッキングカーブ半値幅が793arcsecであり、LEDは波長341nmで発光していることが非特許文献7に認められる。
【0011】
例えば、非特許文献8は、サファイア基板と、該サファイア基板と接するAlN下地層と、該下地層上に形成されたAl組成比が0.6のAlGaNからなる第1層と、該第1層上の形成されたAl組成比が0.6以下のAlGaNかつAl組成比が前記基板から離れるほど漸減する第2層からなる積層体と、該第2層上の形成されたn型AlGaN機能層と、該機能層上に形成された活性層と、該活性層上に形成されたコンタクト層からなる半導体基板の構造および結晶特性が開示されている。前記機能層の前記下地層に対する格子緩和率は最大で30%であり、転位密度は1×109cm-2であり、LEDは波長316nmから295nmで発光することが非特許文献8に認められる。
【0012】
例えば、特許文献1は、基板と、該基板上に形成されたAlNからなるAlN歪緩衝層と、該AlN歪緩衝層上に形成された超格子歪緩衝層と、該超格子歪緩衝層上に形成された窒化物半導体層とを備える窒化物半導体素子であって、前記超格子歪緩衝層は、AlxGa1-xN(0≦x≦0.25)よりなり、且つ、Mgを含む第1の層と、AlNよりなり、意図的にMgを含んでいない第2の層とを交互に積層して超格子構造を形成したものであることを特徴とする、窒化物半導体素子が開示されている。特許文献1には、GaNやAl含有率が低いAlGaNと、AlNとを組み合わせた超格子歪緩衝層を基板上に平坦性良く形成するため、前記超格子歪緩衝層の厚さを可能な限り薄くし、かつAlGaNやGaNの横方向の結晶成長を促進するためにMgを添加することで、該超格子歪緩衝層上に積層する窒化物半導体層の結晶性を改善できることが記載されている。
【0013】
例えば、特許文献2は、基板と、該基板上に実質的に原子レベルで平坦な表面を有するAlN下地層を形成することによってテンプレート基板を形成する工程と、該AlN下地層の上にAlGaN機能層を形成する工程と、を備え、前記AlGaN機能層形成工程において、1000℃よりも高く1100℃よりも低い形成温度で、AlxGa1-xN(0.5<x≦1)なる組成式で表される第1単位層とAlyGa1-yN(0.5≦y<1かつy<x)なる組成式で表される第2単位層を交互に繰り返し積層する超格子構造を有するように前記AlGaN層の形成方法が開示されている。特許文献2には、前記超格子構造は格子緩和が生じない範囲内の厚みで形成するのが好ましく、すなわち第1単位層と第2単位層をコヒーレント成長させつつAlGaN層を形成し、表面層の面内格子定数と略同一の面内格子定数を有し、かつ、表面が実質的に原子レベルで平坦なAlGaN層を得ることができると記載されている。
【0014】
例えば、特許文献3は、発光波長が220~280nmであるIII族窒化物半導体の深紫外発光素子構造であって、AlGaN障壁層とGaN井戸層とからなるAlGaN/GaN短周期超格子層と、該AlGaN/GaN短周期超格子層を上下に挟むように配置されるn型AlGaN機能層およびp型AlGaNコンタクト層とを備え、前記AlGaN障壁層のAl組成、前記n型AlGaN層のAl組成、前記p型AlGaN層のAl組成が70%以上であり、前記GaN井戸層の厚さが0.75nm以下であることを特徴とする、深紫外発光素子構造が開示されている。特許文献3には、高い発光効率を得ることができる理由として、前記AlGaN/GaN短周期超格子層がコヒーレントにエピタキシャル成長し、ミスフィット転位などの欠陥は発生せず、前記GaN層には大きな圧縮歪が内在しているため、と記載されている。
【0015】
例えば、特許文献4は、効率的な紫外線LEDを実現するため、基板またはテンプレートと、該基板または該テンプレート上にエピタキシャルに形成されるAlNまたはAlGaN機能層であって、前記基板または前記テンプレートによってAlNまたはAlGaN機能層に加えられる計算された面内圧縮歪みが1%以上であるAlNまたはAlGaN機能層と、前記エピタキシャルAlNまたはAlGaN機能層と前記基板またはテンプレートとの間に挿入された、高度にドープされたエピタキシャルAlNまたはAlGaN中間層と、を有し、前記高度にドープされたエピタキシャルAlNまたはAlGaN中間層は、厚さが40~400nmであり、かつ、5×1019~5×1020cm-3の範囲でドープされるヘテロエピタキシー歪み管理構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第4681684号公報
【特許文献2】特許第5274785号公報
【特許文献3】特許第5400001号公報
【特許文献4】特許第6353133号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Y. Nagasawa and A. Hirano, Appl. Sci., 8, 1264 (2018).
【非特許文献2】Z. Ren et al., Applied Physics Letters 91, 051116 (2007).
【非特許文献3】J.R. Grandusky et al., Journal of Crystal Growth 311, 2864 (2009).
【非特許文献4】V. ADIVARAHAN et al., Jpn. J. Appl. Phys., 46, L877 (2007).
【非特許文献5】X. Li et al., Optical Materials Express, 5, 380 (2015)
【非特許文献6】J. Enslin et al., Journal of Crystal Growth 464, 185 (2017).
【非特許文献7】T. Matsumoto et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 52, 115102(2019).
【非特許文献8】M. Ajmal Khan et al., J. Mater. Chem. C, 7, 143, (2019).
【非特許文献9】M.A. Moram, et al., Rep. Prog. Phys. 72, 036502 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
例えば、従来のAlGaNを用いた紫外LEDにおける発光効率(外部量子効率)は10%に満たない。外部量子効率は、LEDを構成する機能層での発光効率(内部量子効率)と電子・正孔注入効率、および光取り出し効率の積で決定され、結晶中に存在する転位密度は、これらのいずれか、または全てに影響を与える。特に2×109cm-2を超える転位密度が存在する場合、その内部量子効率は40%以下になることが知られている。そのため、高効率LEDの実現には、内部量子効率、電子・正孔注入効率、および光取り出し効率の向上が必要である。このためには転位密度の低減が必要である。また、例えばAlGaNを用いたFETの場合、機能層と活性層界面は原子レベルで平坦である必要がある。
【0019】
LEDやFETといったデバイスのデバイス特性を向上するには、機能層が2000~4000nm程度の厚さであることが重要である。しかし、非特許文献2~8に記載のとおり、III族半導体結晶の面内格子定数が格子整合しない非コヒーレント成長の場合、機能層の厚さを前記の厚さにしようとすると、格子緩和によるミスフィット転位が発生するため、半導体結晶の転位密度が2×109cm-2以上と増大し、良好なデバイス特性は得られない。また、格子緩和すると半導体結晶の表面平坦性は著しく悪化するため、特に、6インチ等大きな基板を用いる場合、結晶品質やシート抵抗等の面内均一性を確保することはより困難になる。
【0020】
特許文献1~3には、基板とIII族半導体結晶の面内格子定数が一致するコヒーレント成長となる擬格子整合(シュードモルフィック)の状態とすることが理想的である、と記載されており、面内格子定数が格子整合しない非コヒーレント成長を意図的に避けるような構造としている。
【0021】
特許文献4には、歪み管理のために高度にドープされた中間層を用いることで面内圧縮歪みが1%以上とする構造が記載されている。しかし、ドープすることによって半導体基板の表面状態、機能層の転位密度が改善するのかについては開示されていない。また、例えばFETのようなデバイスを目的とした場合、ドープされた中間層はリーク電流やドリフト電流などの発生源成りうるため、適用は特定の用途のみに限定される。
【0022】
本発明の目的は、機能層において、下層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、表面状態が良好であり、低い転位密度を同時に満たすことで、デバイスに要求される効率等の特性を満足し、シート抵抗等物性値の面内均一性を確保する、化合物半導体基板を提供することにある。なお、詳細は後述するが、ここでいう下層は、基板下地層、または、基板もしくは下地層の表面に配された中間層をいう。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、面内格子定数がaである下地層と、前記下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層と、面内格子定数がb(a≠b)である機能層と、を有し、前記下地層、前記応力緩和層、および前記機能層が、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層の順に配置され、前記機能層が、前記下地層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、前記機能層の転位密度が2.0×109cm-2未満である、化合物半導体基板が提供される。
【0024】
前記下地層は、基板に対して完全格子整合していてもよく、擬似格子整合していてもよく、部分緩和していてもよく、完全緩和していてもよい。また、基板全面を覆う平坦基板であってもよく、表面が一部加工されたパターン基板であってもよい。
【0025】
前記応力緩和層は、下地層と非コヒーレントな部分が支配的になるよう形成され、面内格子定数が(a+c-2×b)/(2×b)≦±0.5%を満たすcであってもよい。
【0026】
前記機能層の前記下地層に対する格子緩和率が60%以上の範囲であることが好ましく、75%以上の範囲であることがより好ましく、90%以上の範囲であることが特に好ましい。
【0027】
前記機能層の転位密度は1.5×109cm-2以下であることが好ましく、1.3×109cm-2以下であることがより好ましい。機能層の転位密度は小さい方が良いため下限は特段されない。機能層の転位密度は、例えば、1.0×102cm-2以上、または1.0×103cm-2以上とすることができる。
【0028】
前記半導体結晶層が、前記下地層と前記応力緩和層との間に、前記下地層に接して位置する中間層、をさらに有してもよい。前記半導体結晶層の厚さが、1000nm以上16000nm以下であってもよい。
【0029】
前記基板の厚さが200μm以上であってもよく、前記基板の直径が25mm以上であってもよく、前記下地層の厚さが50nm以上5000nm以下であってもよく、前記機能層の表面が鏡面であってもよい。
【0030】
本発明の第2の態様においては、面内格子定数がaである下地層と、前記下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層と、面内格子定数がb(a≠b)である機能層と、を有し、前記下地層、前記応力緩和層、および前記機能層が、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層の順に配置され、前記機能層が、前記下地層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、前記機能層の転位密度が2.0×109cm-2未満である、化合物半導体基板の検査方法であって、前記半導体結晶層の非対称面におけるX線逆格子マッピングによる前記機能層の前記下地層に対する格子緩和率が、60%以上の場合に加え、前記機能層の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅が、550arcsec未満である場合に合格と判定する化合物半導体基板の検査方法を提供する。ここで非対称面とは、例えば回折面(-1-14)の場合、X線の回折面をミラー指数で表記したものであり、ミラー指数による面(hkl)の表記におけるh=-1、k=-1、l=4の場合をいう。なお指数-1は、1の上に横線を引いた記号(バー1)として表記される場合がある。
【0031】
本発明の第3の態様においては、面内格子定数がaである下地層と、該下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層と、面内格子定数がb(a≠b)である機能層、を有し、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層が、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層の順に配置され、前記応力緩和層が、前記下地層に接して位置し、面内格子定数がaとbの間となるc1である第1結晶層と、該第1結晶層の機能層側に接して位置し、面内格子定数が(c1+c2-2×b)/(2×b)≦±0.5%を満たすc2である第2結晶層と、を有する、化合物半導体基板を提供する。該化合物半導体基板は、上記の第1の様態と同様に、追加の構成を更に備えてもよい。なお、第3の態様における前記式中のbは、機能層の面内格子定数である。
【0032】
前記第1結晶層の厚さが、6nm以上125nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましく、20nm以上75nm以下であることが特に好ましい。6nm以上125nm以下であれば、表面状態がより一層向上する。
【0033】
前記第2結晶層の厚さが、6nm以上125nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましく、20nm以上75nm以下であることが特に好ましい。6nm以上125nm以下であれば、表面状態がより一層向上する。
【0034】
前記応力緩和層が、前記第1結晶層および前記第2結晶層からなる積層構造の繰り返し数を2周期以上有し、かつ前記応力緩和層の厚さが、500nm以上10000nm以下、であることが好ましい。
【0035】
前記応力緩和層において、前記第1結晶層の化学組成が、AlxGa1-xN(0<x≦1.0)であり、前記第2結晶層の化学組成が、AlyGa1-yN(0≦y<1.0)であり、y<xであってもよい。
【0036】
前記応力緩和層が、前記第1結晶層および前記第2結晶層からなる積層構造を複数有するものであってもよい。前記応力緩和層が、前記第2結晶層の機能層側に接して位置し、面内格子定数が(c1+c2+c3-3×b)/(3×b)≦±0.5%を満たすc3である第3結晶層、をさらに有してもよい。前記応力緩和層が、前記第3結晶層より前記機能層の側に位置する第n結晶層の機能層側に接して位置し、面内格子定数が{c1+c2+・・・+c(n-1)+cn-n×b}/(n×b)≦±0.5%を満たすcnである第n結晶層と、をさらに有してもよい。ここで、前記式中のnは、4以上の整数である。
【0037】
本発明の第4の態様においては、面内格子定数がaである下地層と、該下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層と、面内格子定数がb(a≠b)である機能層と、面内格子定数が前記機能層の面内格子定数bと擬似格子整合する活性層と、を有し、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層、および前記活性層が、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層、前記活性層の順に配置され、前記機能層が、前記下地層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、前記機能層の転位密度が2.0×109cm-2未満である、ことを特徴とする化合物半導体基板を提供する。該化合物半導体基板は、上記の第3の様態と同様に、追加の構成を更に備えてもよい。
【0038】
前記応力緩和層が、前記活性層から発生する光を50%以上反射してもよい。
【0039】
本発明の第5の態様においては、面内格子定数がaである下地層と、該下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層と、面内格子定数がb(a≠b)である機能層と、面内格子定数が前記機能層の面内格子定数bと擬似格子整合する活性層と、コンタクト層を有し、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層、前記活性層、前記コンタクト層が、前記基板の側から、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層、前記活性層、前記コンタクト層の順に配置され、前記機能層が、前記下地層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、前記機能層の転位密度が2.0×109cm-2未満である、ことを特徴とする化合物半導体基板を提供する。該化合物半導体基板は、上記の第3の様態と同様に、追加の構成を更に備えてもよい。
【0040】
前記コンタクト層が、前記活性層よりも大きいバンドギャップを有してもよい。
【0041】
化合物半導体基板は、基板と、該基板の上の半導体結晶層と、を有してよい。該半導体結晶層は、少なくとも、面内格子定数がaである下地層、該下地層から受ける歪みを緩和させる応力緩和層および、面内格子定数がb(a≠b)である機能層から選択された何れかの層を有してよい。一例では、前記半導体結晶層は、前記下地層、前記応力緩和層、および前記機能層の全てを有してよい。他の例では、前記半導体結晶層は、前記応力緩和層および前記機能層を有してよい。ただし、この場合は、各層の位置関係において、基板を下地層としてみなす。よって、半導体結晶層が下地層を有しない場合、基板を本発明における下地層とみなし、基板の面内格子定数をaと見なしてよい。さらに他の例では、前記半導体結晶層は、前記下地層および前記応力緩和層を有してよい。
【0042】
前記下地層、前記応力緩和層および前記機能層は、前記下地層、前記応力緩和層、前記機能層の順に配置されてよい。前記応力緩和層は、少なくとも前記下地層側に接して位置してよく、面内格子定数がaとbの間となるc1である第1結晶層と、前記第1結晶層の機能層側に接して位置してよく、面内格子定数が(c1+c2-2×b)/(2×b)≦±0.5%を満たすc2である第2結晶層と、の何れかを有してよい。一例では、前記応力緩和層は、前記第1結晶層および前記第2結晶層の両方を有してよい。
【0043】
前記第1結晶層の厚さが、6nm以上125nm以下であってよい。前記第2結晶層の厚さが、6nm以上125nm以下であってよい。前記応力緩和層が、前記第1結晶層および前記第2結晶層からなる積層の繰り返し数を2周期以上有して良い、前記応力緩和層の厚さが、500nm以上10000nm以下、であってよい。前記第1結晶層が、AlxGa1-xN(0<x≦1.0)、前記第2結晶層が、AlGa1-yN(0.1≦y≦1.0)、(ただしy<x)であってよい。前記応力緩和層が、前記第2結晶層の機能層側に接して位置してよく、面内格子定数が(c1+c2+c3-3×b)/(3×b)≦±0.5%を満たすc3である第3結晶層を有してよい。前記応力緩和層が、前記第3結晶層より前記機能層の側に位置する第n結晶層の機能層側に接して位置し、面内格子定数が{c1+c2+・・・+c(n-1)+cn-n×b}/(n×b)≦±0.5%を満たすcnである第n結晶層を有してよい。ここで、nは、4以上の整数である。
【0044】
前記機能層の前記下地層に対する格子緩和率が、60%以上であってよい。前記機能層の転位密度が2.0×109cm-2未満であって良い。前記半導体結晶層が、前記下地層と前記応力緩和層との間に、前記下地層に接して位置してよく、面内格子定数が前記下地層の面内格子定数と異なる中間層、を有してよい。前記機能層の上に位置し、面内格子定数が前記機能層の面内格子定数bと擬似格子整合する活性層、を有してよい。前記応力緩和層が、前記活性層から発生する光を50%以上反射してよい。前記活性層の上に位置するコンタクト層、を有してよい。前記コンタクト層が、前記活性層よりも大きいバンドギャップを有してよい。前記半導体結晶層の厚さが、1000nm以上16000nm以下であってよい。前記下地層の厚さが、50nm以上5000nm以下であってよい。前記基板の厚さが、200μm以上であってよい。前記基板の直径が、25mm以上であってよい。前記機能層の表面が、鏡面であってよい。
【0045】
上記で述べた化合物半導体基板の検査方法であって、前記半導体結晶層のX線逆格子マッピングによる前記機能層の前記下地層に対する格子緩和率が、60%以上の場合に加え、前記機能層の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅が、550arcsec未満である場合に合格と判定してよい。
【発明の効果】
【0046】
本発明の上記態様によれば、機能層において、下層の結晶格子から格子緩和している領域が支配的であり、表面状態が良好であり、低い転位密度を同時に満たすことで、デバイスに要求される効率等の特性を満足し、シート抵抗等物性値の面内均一性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る化合物半導体基板100の断面図である。
【
図2】同実施形態に係る化合物半導体基板100の変形例を示した断面図である。
【
図3】同実施形態に係る化合物半導体基板100の変形例を示した断面図である。
【
図4】同実施形態に係る化合物半導体基板100の変形例を示した断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る化合物半導体基板200の断面図である。
【
図6】同実施形態に係る化合物半導体基板200の変形例を示した断面図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係る化合物半導体基板300の断面図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係る化合物半導体基板400の断面図である。
【
図9】実験例4の非対称面となる回折面(-1-14)のX線逆格子マッピング像である。
【
図10】実験例4の表面を20μm四方視野範囲でスキャンした原子間力顕微鏡像である。
【
図11】実験例4の機能層108の回折面(002)および(102)におけるX線ロッキングカーブをプロットしたグラフである。
【
図12】実験例1~5、12、13の格子緩和率をプロットしたグラフである。
【
図13】実験例1~5、12、13の表面粗さをプロットしたグラフである。
【
図14】実験例1~5、12、13の転位密度をプロットしたグラフである。
【
図15】実験例3、6~10の格子緩和率をプロットしたグラフである。
【
図16】実験例3、6~10の表面粗さをプロットしたグラフである。
【
図17】実験例3、6~10の転位密度をプロットしたグラフである。
【
図18】実験例11の非対称面となる回折面(-1-14)のX線逆格子マッピング像である。
【
図19】実験例11の表面を20μm四方視野範囲でスキャンした原子間力顕微鏡像である。
【
図20】実験例11の機能層108の回折面(002)および回折面(102)におけるX線ロッキングカーブをプロットしたグラフである。
【
図21】実験例19~26の格子緩和率をプロットしたグラフである。
【
図22】実験例19~26の表面粗さをプロットしたグラフである。
【
図23】実験例19~26の転位密度をプロットしたグラフである。
【
図24】実験例19~26のPL強度をプロットしたグラフである。
【
図25】実験例19~26のシート抵抗面内分布をプロットしたグラフである。
【
図26】実験例29の反射スペクトルをプロットしたグラフである。
【
図27】実験例27~30の反射率をプロットしたグラフである。
【
図28】実験例31のX線回折パターンをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(実施形態1)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る化合物半導体基板100の断面図である。化合物半導体基板100は、基板102と、基板102の上の半導体結晶層とを有する。基板102は、半導体結晶層を支持する支持基板である。基板102としてサファイア、シリコン、砒化ガリウム、ガリウムアンチモン、砒化インジウム、酸化ガリウム、シリコンカーバイド、窒化ガリウム、または窒化アルミニウム基板等を用いることができる。基板102として直径150mm等の大型基板を用いることにより、材料価格を下げることができ、安価にかつ工業的にコスト競争力を高めることができる。したがって、基板102の直径は150mm以上であることが好ましい。
【0049】
半導体結晶層は、下地層104と、応力緩和層106と、機能層108と、を有し、下地層104、応力緩和層106および機能層108は、基板102の側から、下地層104、応力緩和層106、機能層108の順に配置されている。
【0050】
下地層104は、面内格子定数がaであり、下地層104の化学組成として、例えば、Alx1Ga1-x1N(0.8≦x1≦1.0)を挙げることができ、代表的にはAlN(x1=1)を挙げることができる。下地層104により、基板102上に初期核を形成し、半導体結晶層の平坦性を向上することができる。
【0051】
本実施形態に係る化合物半導体基板100では、基板102上の半導体結晶層の最初の半導体層が下地層104であり、この下地層104の結晶特性は、その上に成長する半導体結晶層の結晶特性に大きく影響する。
【0052】
応力緩和層106は、例えばAlx3Ga1-x3Nであり、そのAlの組成比x3は、応力緩和層106の面内格子定数cが(a+c-2×b)/(2×b)≦±0.5%を満たすように決めればよい。応力緩和層106は、下地層104と非コヒーレントな部分が支配的になるよう形成され、下地層104から受ける歪みを緩和させる役割を果たすことで、応力緩和層106の上に形成する、窒化物半導体層である機能層108の結晶性が向上し、当該機能層108の電気的、光学的、機械的、化学的特性が向上する。つまり、応力が緩和された機能層108の転位密度が低減され結晶品質を向上することができる。
【0053】
一般に、窒化物半導体層の結晶品質を向上させるために、窒化物半導体層は、ヘテロ接合面において、下地の結晶格子に対してコヒーレントにするよう形成される。しかしながら、本発明のように下地層104と応力緩和層106が、非コヒーレントな部分が支配的になるよう形成された場合、結晶の面内格子定数は互いに異なる値をもつため、厚さが厚くなるに従い膜内に応力歪が蓄積され、成長厚さが臨界厚さを超えると、歪の緩和のために多数の欠陥が発生する。多数の欠陥が発生した後に成長を続けると3次元成長するため、最終的には鏡面ではなく、白濁した化合物半導体基板になる場合がある。この場合、応力緩和層106の上に形成した機能層108の結晶品質が大きく損なわれてしまう。
【0054】
本発明者らが検討した結果、非コヒーレントに形成した界面によってミスフィット転位を発生させても、応力緩和層106の形成条件によっては、転位密度が低く十分な結晶品質を得ることが可能であることが分かった。このメカニズムについての詳細は不明であるが、応力緩和層106内部において転位の対消滅により、その上方に形成した機能層108へ転位が伝播しないためであると本発明者らは推察している。
【0055】
格子緩和は、半導体結晶層の積層構造(格子定数差、厚さ)や結晶品質(転位密度)、または成長条件によって変化することが知られているが、本実施形態によれば、上記に示す応力緩和層106の形成によって格子緩和率を制御することが可能である。
【0056】
応力緩和層106により応力が十分に緩和することで、下地層104に対する機能層108の格子緩和率が高く、かつ表面平坦性に優れ、低い転位密度が実現できる。また、ウエハ全体の応力が緩和されることで、シート抵抗等の物性値の面内バラツキを低く抑えることができる。すなわち、基板102の上に形成する半導体結晶層の均一性を高めることができる。
【0057】
機能層108は、例えばAlx4Ga1-x4N(0≦x4<1)からなり、代表的には(0.3≦x4≦0.7)層である。機能層108は、後に光電子素子が形成される層である。機能層108は、下地層104の結晶格子から格子緩和している領域が支配的である。例えば、機能層108において、非対称回折面におけるX線逆格子マッピングによる機能層108の下地層104に対する格子緩和率が60%以上であることが好ましい。
機能層108は、その目的に応じて2層以上の複数層に分けることができる。例えば、機能層108に電気伝導を制御する役割を持たせるために、機能層108をn型キャリア注入層とした場合、例えば機能層108の応力緩和層106側に接する側は平坦性を高めキャリアの散乱を低減した層とし、その上層はn型キャリア補償となる炭素等の不純物濃度を極力低くした電気伝導層とすることで、デバイス全体のシート抵抗を下げることが可能である。または、機能層108を電子走行層とする目的で、機能層108の応力緩和層106側に接する側は耐電圧を高めた高抵抗層とし、その上層は不純物濃度を極力少なくした高純度層とすることでキャリアの散乱を少なくし、電子の移動度を高めることが可能である。
【0058】
半導体結晶層の厚さ、言い換えると、下地層104、応力緩和層106、および機能層108の合計厚さは、500nm以上16000nm以下とすることが好ましい。半導体結晶層の厚さを当該範囲とすることで、化合物半導体基板100の反り量を小さくすることができる。基板102の厚さが200μm以上であり、基板102の直径が25mm以上である場合、下地層104の厚さは、50nm以上5000nm以下とすることが好ましい。基板102および下地層104を当該範囲とすることで、化合物半導体基板100の反り量を小さくすることができる。機能層108の厚さは、より好ましくは2000nm以上4000nm以下である。機能層108の厚さを当該範囲とすることで、デバイス特性を一層向上させることができる。なお、半導体結晶層が下地層104を有しない場合、半導体結晶層の厚さは、応力緩和層106および機能層108の合計厚さである。
【0059】
基板102との熱膨張係数差によりエピタキシャル成長時の高い温度から室温にまで半導体結晶層および基板102の温度が下がると、半導体結晶層は基板102に対して応力を生じる。しかし、本実施形態の化合物半導体基板100では、応力緩和層106により応力が緩和されるので、化合物半導体基板100の反りを抑制できる。
【0060】
下地層104と応力緩和層106との間、応力緩和層106と機能層108との間、および機能層108の上層の少なくともいずれかの位置には、任意の層が配置され得る。例えば
図2に示すように、下地層104と応力緩和層106との間に中間層110を形成しても良く、例えば
図3に示すように、機能層108の上に活性層112を形成しても良く、例えば
図4に示すように、機能層108の上に活性層112、およびコンタクト層114を形成しても良い。中間層110、活性層112、およびコンタクト層114は、下地層104、応力緩和層106、および機能層108と同様に半導体結晶層を構成する層である。よって、半導体結晶層がこれらの層を有する場合、半導体結晶層の厚さは、これらの層の厚さも含む合計厚さである。
【0061】
図2の構成において中間層110は、下地層104と応力緩和層106との間に下地層104に接して位置する。中間層110の化学組成は、例えばAl
x2Ga
1-x2N(0.6≦x2≦0.9)からなる。中間層110は、下地層104で形成した初期核を拡大し、上層に形成する応力緩和層106の下地面を形成する。中間層110と下地層104のヘテロ界面がコヒーレントに連続していても、非コヒーレントに成長された領域が支配的でも構わない。
【0062】
図3の構成において活性層112は、例えば、化学組成がAl
x5Ga
1-x5Nであるショットキ層とすることができる。詳細には、活性層112と機能層108とのヘテロ界面には2次元電子ガス(2DEG)が生成され、トランジスタの電子供給層として機能するショットキ層とすることができる。活性層112のAl組成比x5は、機能層108のAl組成比x3よりも高ければ良く、厚さは機能層108の面内格子定数であるbに擬似格子整合する範囲で決めれば良く、形成するトランジスタの構造に応じて適宜変更することが可能である。
【0063】
図4の構成において活性層112は、例えばAl
x6Ga
1-x6N/Al
x7Ga
1-x7Nを発光領域となる多重量子井戸(MQW;Multi Quantum Well)層とすることができる。MQW層のAl組成x6、x7および各厚さは機能層108の面内格子定数であるbに擬似格子整合する範囲で決めれば良く、形成するダイオードの構造に応じて適宜変更することが可能である。
【0064】
コンタクト層114は、例えばMgをドーピングしたAlx8Ga1-x8Nとすることができ、そのAl組成x8および厚さは、形成するダイオードの構造に応じて適宜変更することが可能である。また、コンタクト層114は、バンドギャップの大きい窒化ホウ素(BN)で構成されてもよい。
【0065】
(実施形態2)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る化合物半導体基板200の断面図である。
図6は、化合物半導体基板200の変形例を示した断面図である。化合物半導体基板200は、
図5に示すように、化合物半導体基板100と同様に、基板102の上に半導体結晶層を有し、半導体結晶層には、下地層104、応力緩和層106および機能層108を有する。ただし、化合物半導体基板200の応力緩和層106は、
図5および
図6に示すように、積層構造106cを1つまたは複数有する。積層構造106cは、第1結晶層106aおよび第2結晶層106bを有する。化合物半導体基板200のその他の構成は、化合物半導体基板100と同様である。
【0066】
第1結晶層106aは、面内格子定数がaとbの間となるc1であり、厚さが6nm以上125nm以下であることが好ましい。第2結晶層106bは、面内格子定数が(c1+c2-2×b)/(2×b)≦±0.5%を満たすc2であり、厚さが6nm以上125nm以下であることが好ましい。第1結晶層106aおよび第2結晶層106bは、この順序で、基板102側から配置される。
【0067】
第1結晶層106aは、例えばAlxGa1-xN(0<x≦1.0)からなり、代表的には0.6<x≦0.9である。第1結晶層106aの厚さを6nm以上とすることで、応力緩和層106の平坦性を維持することができる。なお、第1結晶層106aの厚さを小さくしすぎると表面平坦性が損なわれ、第1結晶層106aの厚さを大きくしすぎると、応力緩和の効果が損なわれる傾向にあるため、第1結晶層106aの厚さは、6nm以上125nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましく、20nm以上75nm以下が特に好ましい。
【0068】
第2結晶層106bは、例えばAlyGa1-yN(0≦y<1.0)からなり、代表的には(0.1≦y≦0.6)である。ただし、yは、第1結晶層106aのAl組成比xよりも小さい値である。第2結晶層106bの厚さは、6nm以上125nm以下とすることができる。なお、第2結晶層106bの厚さを小さくしすぎると応力緩和の効果が損なわれ、第2結晶層106bの厚さを大きくしすぎると、表面平坦性が損なわれる傾向にあるため、第2結晶層106bの厚さは、6nm以上125nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましく、20nm以上75nm以下が特に好ましい。第2結晶層106bは、第1結晶層106aとのヘテロ接合面において、結晶格子が第1結晶層106aの結晶格子に対し非コヒーレントにするよう意図的に形成される。前記したとおり、第2結晶層106bのバルク状態における面内格子定数c2は第1結晶層106aのバルク状態における面内格子定数c1と異なるため、第2結晶層106bが第1結晶層106aに対し非コヒーレントであれば、第2結晶層106bには第1結晶層106aに対する応力が開放される。これにより、応力緩和が促進される。
【0069】
複数の積層構造106cは、
図6に示すように、多層積層構造、いわゆる超格子構造を構成してもよい。積層構造106cの繰り返し周期数(積層構造106cの積層数)は、例えば1~100とすることができる。応力緩和層106を繰り返し周期数が多い積層構造とすることにより、応力緩和層106が応力を緩和する効果を大きくすることができる。また、積層構造106cの積層数により応力緩和層106の格子緩和率を容易に制御することができる。
【0070】
このため、第1結晶層106aと第2結晶層106bのヘテロ界面は、理想的なコヒーレント界面ではなく、積極的に一部欠陥を有することで、当該欠陥部分により格子緩和されるような界面であると考えられ、第1結晶層106aと第2結晶層106bとのヘテロ界面を積層することによって、非コヒーレントな部分がより支配的になると思われる。
【0071】
応力緩和層106の厚み、特に第2結晶層106bに関しては厚くするほど、また、第1結晶層106aと第2結晶層106bの繰り返し周期数が大きくなるほど、歪みが緩和する、すなわち機能層108の下地層104に対する格子緩和率が大きくなることが期待される。本実施形態においては、格子緩和率が大きくなるとともに機能層108の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅の改善、さらに表面が鏡面であるという効果が同時に得られる。ここで「表面が鏡面である」とは、通常の蛍光灯照明下(1000~5000ルクス)で、白濁のないことを言う。これらの特性パラメーターが、バランスよく向上するメカニズムについては不明であるが、発明者らは下地層104の転位密度、応力緩和層106、機能層108の成長温度等の条件が影響していると推測している。
【0072】
なお、応力緩和層106に第1結晶層106aおよび第2結晶層106bからなる積層構造106cを含む限り、応力緩和層106のその他の層構成は任意である。例えば、応力緩和層106を構成する結晶層が深さ方向に組成が連続的に変化する、いわゆるグレーティッド型の結晶層であってもよい。
【0073】
(実施形態3)
図7は、第3の実施形態に係る化合物半導体基板300の断面図である。化合物半導体基板300は、化合物半導体基板100と同様に、基板102の上に半導体結晶層を有し、半導体結晶層には、下地層104、応力緩和層106および機能層108を有する。ただし、化合物半導体基板300の応力緩和層106は、第2の実施形態の応力緩和層106において、面内格子定数が(c1+c2+c3-3×b)/(3×b)≦±0.5%を満たすc3である第3結晶層106dをさらに有する。第1結晶層106a、第2結晶層106b、および第3結晶層106dは、この順序で、基板102側から配置される。化合物半導体基板300のその他の構成は、化合物半導体基板100と同様である。
図7では、積層構造106cが複数積層された態様が示されているが、化合物半導体基板300は、1つの積層構造106cを有してもよい。言い換えると、化合物半導体基板300における積層構造106cの繰返し周期数は1であってもよい。
【0074】
第3結晶層106dは、例えばAlz1Ga1-z1N(0≦z1≠1)からなり、代表的には0.0≦z1≦0.5を満足する層である。第3結晶層106dの厚さは任意である。ただし第3結晶層106dのバルク状態における面内格子定数は(c1+c2+c3-3×b)/(3×b)≦±0.5%を満たすc3とする。第3結晶層106dは、第2結晶層106bとのヘテロ接合面において、結晶格子が第2結晶層106bの結晶格子に対しコヒーレントあるいは非コヒーレントに連続するよう形成される。また、積層構造106cが複数配される場合、第3結晶層106dは、第1結晶層106aとのヘテロ接合面において、結晶格子が第1結晶層106aの結晶格子に対しコヒーレントあるいは非コヒーレントに連続するよう形成される。したがって、第1結晶層106a、第2結晶層106bおよび第3結晶層106dにより応力が緩和される。
【0075】
なお、第3結晶層106dと第2結晶層106bのヘテロ界面、および第3結晶層106dと第1結晶層106aのヘテロ界面がコヒーレントあるいは非コヒーレントに連続しているというのは、擬似格子整合あるいは欠陥等による格子緩和が発生していることをいい、コヒーレントあるいは非コヒーレント成長された領域が混在していてもよい。
【0076】
(実施形態4)
図8は、第4の実施形態に係る化合物半導体基板400の断面図である。化合物半導体基板400は、化合物半導体基板100と同様に、基板102の上に半導体結晶層を有し、半導体結晶層には、下地層104、応力緩和層106および機能層108を有する。ただし、化合物半導体基板400の応力緩和層106の積層構造106cは、第3結晶層106dより機能層108の側に位置する1以上の結晶層を有していてもよい。積層構造106cにおける最も機能層108側に位置する結晶層である第n結晶層106nの面内格子定数は、{c1+c2+・・・c(n-1)+cn-n×b}/(n×b)≦±0.5%を満たすcnである。言い換えると、cnは、第1結晶層106aから数えた場合のn番目の結晶層(第n結晶層106n)の面内格子定数である。ここで、nは、4以上の整数である。化合物半導体基板400のその他の構成は、化合物半導体基板300と同様である。第3結晶層106dより機能層108の側に位置する結晶層が1層である場合、言い換えると、化合物半導体基板300における第3結晶層106dに接して、第4結晶層106eのみが配される場合、第1結晶層106a、第2結晶層106b、第3結晶層106dおよび第4結晶層106nが順次積層される構成となる。
図8では、積層構造106cが複数積層された態様が示されているが、化合物半導体基板400は、1つの積層構造106cを有してもよい。言い換えると、化合物半導体基板400における積層構造106cの繰返し周期数は1であってもよい。
【0077】
第n結晶層106nは、例えばAlz2Ga1-z2N(0≦z2≠1)からなり、代表的には0.0≦z2≦0.5を満足する層である。第n結晶層106nの厚さは任意である。ただし第n結晶層106nの面内格子定数は{c1+c2+・・・+c(n-1)+cn-n×b}/(n×b)≦±0.5%を満たすcnとする。第n結晶層106nは、第n-1結晶層106(n-1)とのヘテロ接合面において、結晶格子が第n-1結晶層106(n-1)の結晶格子に対しコヒーレントあるいは非コヒーレントに連続するよう形成される。したがって、第1結晶層106a、第2結晶層106b、第3結晶層106dから第n-1結晶層106(n-1)、および第n結晶層106nにより応力が緩和される。
【0078】
なお、第n結晶層106nと第n-1結晶層106(n-1)のヘテロ界面がコヒーレントあるいは非コヒーレントに連続しているというのは、擬似格子整合あるいは欠陥等による格子緩和が発生していることをいい、コヒーレントあるいは非コヒーレント成長された領域が混在していてもよい。
【0079】
以上実施形態1~4で説明した各層の構成は、その組み合わせが発明の趣旨と矛盾しない限り、任意に組み合わせることが可能である。また、実施形態1~4で説明した各結晶層の組成および層内での分布は、明示した条件を満たす限り任意である。例えば、各結晶層における厚さ方向の組成分布が、均一であってもよく、グレーティッドに変化しているものであってもよい。また、実施形態1~4で説明した各結晶層の厚さは、明示した条件を満たす限り任意である。各結晶層における組成分布および厚さの組み合わせも、明示した条件を満たす限り任意に組み合わせることができる。
また、実施形態2~4においても実施形態1と同様に、中間層110、活性層112、またはコンタクト層114の少なくともいずれかを更に有してもよい。
【0080】
実施形態1~4で説明した各半導体結晶層は、一般的なエピタキシャル成長法、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法やHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法により形成することができる。例えばMOCVD法に用いる原料ガス、製造装置、製膜温度等の製造条件についても周知の材料、装置、条件を適用できる。ただし、化合物半導体基板100~400の製造方法において、応力緩和層106の厚さDを下記の(1)式に示す式に従い決定し、決定した厚さDで応力緩和層106を形成することができる。
500≦D=(d1+d2+・・・+d(n-1)+dn)×P≦10000nm(nm) …(1)式
ただし、前記(1)式中、d1、d2、・・・、d(n-1)、dnは、それぞれ第1結晶層106aの厚さ、第2結晶層106bの厚さ、・・・・、第n-1結晶層106(n-1)の厚さ、及び第n結晶層106nの厚さであり、Pは、繰り返し周期数である。当該方法によれば、格子緩和率が大きく、表面粗さが良好で、かつ、転位密度が低い化合物半導体基板100~400を製造することができる。
【0081】
上記した実施形態1~4において、応力緩和層106(または応力緩和層106が積層構造106cを備える場合は第1結晶層106a)より基板102の側に位置する下層結晶層と、応力緩和層106または第1結晶層106aとのヘテロ接合面では、応力緩和層106または第1結晶層106aの結晶格子が、下層結晶層の結晶格子に対しコヒーレントに連続せず、界面においてコヒーレントな領域と格子緩和している領域が混在する中、格子緩和している領域が支配的である状態が好ましい。ここで言う下層結晶層とは、応力緩和層106または第1結晶層106aより基板側で、応力緩和層106または第1結晶層106aと接して配された結晶層をいう。具体的には、応力緩和層106または第1結晶層106aと接する、下地層104、中間層110(
図2参照)、第2結晶層106b(
図6参照)、第3結晶層106d(
図7参照)、または第n結晶層106n(
図8参照)をいう。さらに、下地層104および中間層110を有しない場合は、応力緩和層106または第1結晶層106aに接する基板102が下層結晶層に対応する。
【0082】
また、上記した実施形態1~4において、例えば、AlxGa1-xN(0<x<1)で表される半導体結晶層を構成する各結晶層の面内格子定数は、Al組成比xで制御可能である。また、ヘテロ接合面における非コヒーレントな成長は、成長温度等プロセス条件により制御できる。
【0083】
(実施形態5)
実施形態1~4では、化合物半導体基板100~400として本発明の特徴を把握したが、本発明の特徴は、検査方法として把握することも可能である。すなわち、基板102と、基板102の上の半導体結晶層と、を有し、前記半導体結晶層が、下地層104と、応力を緩和する応力緩和層106と、キャリアを制御する機能層108と、を有し、下地層104、応力緩和層106および機能層108が、基板102の側から、下地層104、応力緩和層106、機能層108の順に配置された化合物半導体基板の検査方法であって、半導体結晶層の非対称回折面におけるX線逆格子マッピングによる機能層108の下地層104に対する格子緩和率が60%以上の場合に加え、かつ、前記機能層の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅が、550arcsec未満である場合に合格と判定することができる。合格と判定する化合物半導体基板の検査方法として把握することができる。検査対象の化合物半導体基板は、中間層110、活性層112、およびコンタクト層114を有していてもよい。本実施形態に係る検査方法においては、合否判定に用いる格子緩和率の閾値は、60%に限られず、変更されてもよい。
【実施例0084】
次に本発明の実施例を示すが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0085】
(実施例1)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に応力緩和層および機能層を、順次、MOCVD法により形成した。応力緩和層の積層構造として、第1結晶層として6~100nmの厚さのAl0.8Ga0.2Nの層を、第2結晶層として6~125nmの厚さのAl0.5Ga0.5Nの層を形成した。第2結晶層は、第1結晶層における下地層側の面と反対側の面に形成した。上記積層構造を1.5~50回繰り返して積層し、応力緩和層の総厚さが約600nmになるように、各厚さと繰り返し数を調整した。機能層として2500nmの厚さのSiドープn型Al0.62Ga0.38Nの層を形成した。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。上記のようにして実験例1~10の化合物半導体基板を作製した。
【0086】
(比較例1A)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に機能層を、順次、MOCVD法により形成した。機能層として2500nmの厚さのSiドープn型Al0.62Ga0.38Nの層を形成した。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。上記のようにして実験例11の化合物半導体基板を作製した。応力緩和層を形成しないこと以外は実施例1と同様の条件とした。
【0087】
(比較例1B)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に応力緩和層および機能層を、順次、MOCVD法により形成した。応力緩和層の積層構造として、第1結晶層としてAl0.8Ga0.2Nの層を、第2結晶層としてAl0.5Ga0.5Nの層を形成し、応力緩和層の総厚さが約600nmになるように、積層構造の繰り返し数を調整した。応力緩和層の表面に機能層として2500nmの厚さのSiドープn型Al0.62Ga0.38Nの層を形成した。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。(第1結晶層/第2結晶層/積層構造の繰り返し数)の組み合わせとして、(3nm/3nm/100)および(200nm/200nm/1.5)として実験例12および13の化合物半導体基板を作製した。
【0088】
ここで、実験例4の化合物半導体基板(第1結晶層の厚さが50nm、第2結晶層の厚さが50nm、繰り返し周期数が6)を例にとり、格子緩和率、表面粗さ、および回折面(002)、(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅の評価方法について
図9から
図11を用いて説明する。
【0089】
図9のグラフは、半導体基板の非対称面となる回折面(-1-14)のX線逆格子マッピング像である。下地層、機能層のX線逆格子平面(Qx-Qz平面)における各ピーク位置関係が
図9から読み取れる。Qzが成長面に垂直な格子定数の逆数に対応し、Qxは成長面に平行な方向の格子定数の逆数に対応する。なお、Qx値、Qz値が小さくなることは格子定数では大きくなることを意味する。下地層のQx値から下地層の面内格子定数a=0.30964nmを算出でき、機能層のQx値から機能層の面内格子定数b=0.3132nm、ならびにQx値およびQz値からAlの組成比0.62が算出できる。このAl組成比から完全緩和する面内格子定数r=0.3132nmが算出され、R=|(b-a)/(r-a)|×100の式に従い格子緩和率Rを算出すると、格子緩和率は100%という結果が得られる。つまり、実験例4では、機能層は下地層に対して完全に格子緩和していた。なおQx値、Qz値、Al組成、および格子緩和率は、PANalytical社製解析ソフトEpitaxy(version4.5a)により決定できる。
【0090】
図10は、実験例4の化合物半導体基板の表面、言い換えると、機能層の表面を20μm四方視野範囲でスキャンした原子間力顕微鏡(AFM、Atomic Force Microscope)像である。表面粗さはRMS(roughness of root mean square)値で算出され、この図から、表面粗さは5.8nmと良好であり、大きな穴や段差は見られなかった。
【0091】
図11のグラフは、実験例4の化合物半導体基板の機能層の回折面(002)および(102)面におけるX線ロッキングカーブを示したもので、
図11からそれぞれ半値幅は250arcsec、および458arcsecと見積もることができる。非特許文献9(M.A. Moram, et al., Rep. Prog. Phys. 72, 036502 (2009).)に記載の以下の式に従い、螺旋転位密度および刃状転位密度を計算し、機能層の転位密度(螺旋転位密度および刃状転位密度の合計)は1.3×10
9cm
-2と算出された。以下では、螺旋転位密度および刃状転位密度の合計転位密度を、単に転位密度と呼称することがある。
螺旋転位密度=(β
(002)
2/3600×2π/360)/(4.35×(0.5080/10
7)
2)(cm
-2) ・・・(2)式
刃状転位密度=(β
(102)
2/3600×2π/360)/(4.35×(0.3132/10
7)
2)(cm
-2) ・・・(3)式
転位密度=螺旋転位密度+刃状転位密度 (cm
-2)
上記(2)式中、β
(002)は、回折面(002)におけるX線ロッキングカーブの半値幅(arcsec)であり、上記(3)式中、β
(102)は、回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅(arcsec)である。この計算によれば、実験例4では、螺旋転位密度および刃状転位密度はそれぞれ0.1×10
9cm
-2、1.1×10
9cm
-2、となり転位密度は1.3×10
9cm
-2と見積もられた。
【0092】
実験例1~13の化合物半導体基板を、上述のように格子緩和率、表面粗さ、回折面(002)、(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅、および転位密度を評価した。その結果を表1に示す。格子緩和率が60%以上、かつ、機能層の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅が550arcsec未満である場合を合格(〇)とし、格子緩和率60%以上および前記半値幅550arcsec未満の少なくともいずれかを満たさない場合を不合格(×)とした。
【0093】
【0094】
図12から
図14は、実験例1~5および実験例12、13の第1結晶層および第2結晶層の厚さに対する格子緩和率、表面粗さRMS、および転位密度をプロットしたグラフである。実験例1~5、12、13は、応力緩和層の第1結晶層および第2結晶層の厚さを比率1:1として、応力緩和層の合計厚さを約600nmに固定し、繰り返し周期数を変化させた例である。
【0095】
図12のグラフから、全ての実験例で格子緩和率は60%を超え、第1結晶層および第2結晶層の厚さが10nmを超えると格子緩和率は80%を超え、25nmを超えると格子緩和率は90%を超え、50nmまで厚くなると格子緩和率は100%に到達した。
【0096】
図13のグラフから、第1結晶層および第2結晶層の厚さが厚くなるに従い表面粗さが小さくなった。第1結晶層および第2結晶層の厚さが6nm以上でRMSは15.0nm以下になり、良好な平坦性が実現できた。
【0097】
実験例1~5で回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅は550arcsec未満であり、
図14のグラフに示されるように、転位密度は2.0×10
9cm
-2未満であった。
【0098】
図15から
図17は、実験例3、6~10の第2結晶層の厚さに対する格子緩和率、表面粗さRMS、および転位密度をプロットしたグラフである。実験例3、6~10は、応力緩和層の第1結晶層の厚さを25nmで固定しつつ、第2結晶層との厚さ比率を1:0.5~5.0になるよう第2結晶層の厚さを変化させ、かつ繰り返し周期数を変化させることで、応力緩和層の合計厚さを約600あるいは625nmとした例である。
【0099】
図15のグラフから、実験例3、6~10で格子緩和率は60%を超え、第2結晶層の厚さが25nmを超えると格子緩和率は90%を超え、50nmまで厚くなると格子緩和率は97%に到達した。さらに厚くなると格子緩和率は減少するものの90%を維持していた。
【0100】
図16のグラフから、第2結晶層の厚さが12nmでは表面粗さは21.0nmであったものの、それ以上の厚さでは表面粗さは10.0nm以下であり、良好な平坦性が得られた。
【0101】
図17のグラフから、実験例3、6~10で回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅は550arcsec以下であり、転位密度は2.0×10
9cm
-2未満であった。
【0102】
なお、照度2000luxの蛍光灯照明下で実験例1~10の化合物半導体基板を肉眼で確認したところ、いずれも化合物半導体基板表面は白濁がなく、鏡面であった。
【0103】
このため、本発明においては、第1結晶層の厚さは6nm以上125nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上75nm以下としており、第2結晶層の厚さは6nm以上125nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上75nm以下とした。
【0104】
応力緩和層を形成しなかった実験例11の化合物半導体基板についても、実施例1~10と同様に格子緩和率、表面粗さ、および回折面(002)、(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅、について評価した。
【0105】
図18のグラフは、実験例11の半導体基板の非対称面となる回折面(-1-14)のX線逆格子マッピング像である。格子緩和率を算出すると、17%という結果が得られた。つまり機能層は下地層に対して完全には格子緩和していなかった。
【0106】
図19は、実験例11の半導体基板の表面を20μm四方視野範囲でスキャンした原子間力顕微鏡(AFM、Atomic Force Microscope)像である。表面粗さは22.0nmであり、この原因として表面に多数観察される大きな段差によるものであった。
【0107】
図20のグラフは、実験例11の化合物半導体基板の機能層の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブを示したもので、
図20から半値幅を919arcsecと見積もることができる。非特許文献9に従い転位密度を計算すると、転位密度は7.3×10
9cm
-2であった。
【0108】
また、
図12、13、14のグラフにも示されるように、実験例12、13の化合物半導体基板の格子緩和率は75%以上であるものの、20μm四方視野範囲でスキャンした原子間力顕微鏡(AFM、Atomic Force Microscope)像による表面粗さは15.0nmを超え、回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅は550arcsecを超え、転位密度は2.0×10
9cm
-2を超えていた。
【0109】
なお、照度2000luxの蛍光灯照明下で実験例11~13の化合物半導体基板を肉眼で確認したところ、化合物半導体基板表面は白濁していた。
【0110】
(実施例2)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に応力緩和層および機能層を、順次、MOCVD法により形成した。応力緩和層の第1結晶層として25nmの厚さのAlGaN層を、第2結晶層として125nmの厚さのAlGaN層を、表2に示す組成比で形成し、第1結晶層と第2結晶層が積層した積層構造を4回繰り返して積層し、応力緩和層の総厚さが約600nmになるように、各厚さと繰り返し数を調整した。機能層として2500nmの厚さのSiドープn型Al0.62Ga0.38Nの層を形成した。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。(第1結晶層のAl組成比/第2結晶層のAl組成比)の組み合わせとして、(0.8/0.5)、(0.8/0.35)、(0.9/0.65)、(0.7/0.2)にして実験例14~17の化合物半導体基板を作製した。
【0111】
(比較例2)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に応力緩和層および機能層を、順次、MOCVD法により形成した。応力緩和層の第1結晶層として25nmの厚さのAlGaN層を、第2結晶層として125nmの厚さのAlGaN層を、表2に示す組成比で形成し、第1結晶層と第2結晶層が積層した積層構造を4回繰り返して積層し、応力緩和層の総厚さが約600nmになるように、各厚さと繰り返し数を調整した。機能層として2500nmの厚さのSiドープn型Al0.62Ga0.38Nの層を形成した。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。(第1結晶層のAl組成比/第2結晶層のAl組成比)の組み合わせとして、(0.7/0.1)にして実験例18の化合物半導体基板を作製した。
【0112】
実験例14~18の化合物半導体基板を、(c1+c2-2×b)/(2×b)の関係式の他、実施例1と同様に格子緩和率、表面粗さ、回折面(002)、(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅、および転位密度を評価した。結果を表2に示す。(c1+c2-2×b)/(2×b)の関係式におけるb(機能層の面内格子定数b)に、Al組成比0.62の面内格子定数として0.3132nmを使用した。
格子緩和率が60%以上、かつ、機能層の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅が550arcsec未満である場合を合格(〇)とし、格子緩和率60%以上および前記半値幅550arcsec未満の少なくともいずれかを満たさない場合を不合格(×)とした。
【0113】
【0114】
表2から、実験例14~17の化合物半導体基板における格子緩和率は全て60%を超え、20μm四方視野範囲でスキャンした原子間力顕微鏡(AFM、Atomic Force Microscope)像による表面粗さは全て7.0nm以下であり、回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅は550arcsec以下であり、転位密度は2.0×109cm-2未満であった。一方、実験例18の化合物半導体基板における格子緩和率は100%であるものの、表面粗さは20.0nmであり、回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅は628arcsecであり、転位密度は2.4×109cm-2であった。
【0115】
(実施例3)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に応力緩和層、機能層および活性層を、順次、MOCVD法により形成した。応力緩和層の第1結晶層として30nmの厚さのAl0.8Ga0.2Nの層を、第2結晶層として30nmの厚さのAl0.5Ga0.5Nの層を形成し、第1結晶層と第2結晶層が積層した積層構造を繰り返し周期数30回として繰り返して積層し、応力緩和層の総厚さが1800nmになるようにした。機能層として厚さが500~4000nmのSiドープn型Al0.63Ga0.37Nの層を形成した。活性層は、第1活性結晶層として7.0nmの厚さのAl0.60Ga0.40Nの層を、第2活性結晶層として3.5nmの厚さのAl0.45Ga0.55Nの層を形成し、第1活性結晶層と第2活性結晶層が積層した活性積層構造を5回繰り返して積層した。各層の組成は、Al源ガスとGa源ガスの比を変えることで変化させた。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。上記のようにして実験例19~23の化合物半導体基板を作製した。
【0116】
応力緩和層(第1結晶層、第2結晶層)および機能層の面内格子定数の関係として(c1+c2-2×b)/(2×b)≦±0.5%とした。上記式中、c1は第1結晶層の面内格子定数であり、c2は第2結晶層の面内格子定数であり、bは機能層の面内格子定数である。
【0117】
(比較例3)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に機能層および活性層を、順次、MOCVD法により形成した。機能層として厚さが500~4000nmのSiドープn型Al0.62Ga0.38Nの層を形成した。活性層は、第1活性結晶層として7.0nmの厚さのAl0.60Ga0.40Nの層を、第2活性結晶層として3.5nmの厚さのAl0.45Ga0.55Nの層を形成し、第1活性結晶層と第2活性結晶層で構成される活性積層構造を5回繰り返して積層した。各層の組成は、Al源ガスとGa源ガスの比を変えることで変化させた。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。上記のようにして実験例24~26の化合物半導体基板を作製した。なお応力緩和層を形成しないこと以外は実施例2と同様の条件とした。
【0118】
実験例19~26の化合物半導体基板を表面粗さ、格子緩和率、回折面(002)、(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅、およびフォトルミネッセンス(PL)における発光強度について評価した。表面粗さはAFM(Atomic Force Microscope)の2μm四方視野におけるRMS(roughness of root mean square)で評価した。格子緩和率は、回折面(-1-14)における、下地層と機能層のピーク位置関係から評価し、X線ロッキングカーブの半値幅はω/2θによるX線回折法で測定した。PLは266nmのレーザーを励起光として、275~290nmで発光するスペクトルのピーク強度を評価した。
【0119】
実験例19~26の化合物半導体基板を、格子緩和率、表面粗さ、回折面(002)、(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅、転位密度、フォトルミネッセンス(PL)における発光強度、およびシート抵抗の面内分布について評価した結果を表3および
図21から
図24に示す。
格子緩和率が60%以上、かつ、機能層の回折面(102)におけるX線ロッキングカーブの半値幅が550arcsec未満である場合を合格(〇)とし、格子緩和率60%以上および前記半値幅550arcsec未満の少なくともいずれかを満たさない場合を不合格(×)とした。
【0120】
【0121】
図21のグラフから、実験例19~23(実施例3)の化合物半導体基板は格子緩和率が全て70%を超え、機能層の厚さが2000nm以上で緩和率は90%を超えた。一方、実験例24~26(比較例3)の化合物半導体基板は格子緩和率が全て60%未満であった。
【0122】
図22のグラフから、実験例19~23の化合物半導体基板はRMSが全て6.0nm未満であり、一方、実験例24~26の化合物半導体基板はRMSが全て6.0nmを超えていた。
【0123】
実験例19~23の化合物半導体基板は(102)面の半値幅が全て550arcsec未満であり、一方、実験例24~26の化合物半導体基板は(102)面の半値幅は、機能層の厚さが1000nmで450arcsecであったが、機能層の厚さが2000nm以上では550arcsecを超えていた。
図23に示すように、実験例19~23では転位密度が2.0×10
9cm
-2未満であり、実験例24~26では転位密度が2.0×10
9cm
-2以上であった。
【0124】
図24のグラフから、PL発光強度が機能層の厚さが1000nm(実験例20)でPL発光強度が8000、厚さ2000nm(実験例21)でPL発光強度が30000を示した。一方、実験例24~26の化合物半導体基板では、機能層の厚さに関係なくPL発光強度が全て7000未満であった。
【0125】
図25のグラフから、実験例19~23の化合物半導体基板はシート抵抗の面内分布が全て12%以下を示した。一方、実験例24~26の化合物半導体基板は、機能層の厚さが500nmでは面内分布が10%であったが、厚さが2000nm、4000nmでは面内分布が40%、80%と増大した。
【0126】
なお、照度2000luxの蛍光灯照明下で実験例19~23の化合物半導体基板を肉眼で確認したところ、いずれも化合物半導体基板表面は白濁がなく、鏡面であった。一方、照度2000luxの蛍光灯照明下で実験例24~26の化合物半導体基板を肉眼で確認したところ、化合物半導体基板表面は白濁していた。
【0127】
(実施例4)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に応力緩和層を、順次、MOCVD法により形成した。応力緩和層の第1結晶層として30nmの厚さのAl0.8Ga0.2Nの層を、第2結晶層として30nmの厚さのAl0.5Ga0.5Nの層を形成し、第1結晶層と第2結晶層が積層した積層構造を繰り返し周期数10から40回繰り返して積層し、応力緩和層の総厚さが600nmから2400nmになるようにした。各層の組成は、Al源ガスとGa源ガスの比を変えることで変化させた。成長温度は1000~1150℃の範囲で変化させた。上記のようにして実験例27~30の化合物半導体基板を作製した。実験例27は、応力緩和層における積層構造の繰返し周期数が10であり、応力緩和層の総厚さが600nmの例である。実験例28は、応力緩和層における積層構造の繰返し周期数が20であり、応力緩和層の総厚さが1200nmの例である。実験例29は、応力緩和層における積層構造の繰返し周期数が30であり、応力緩和層の総厚さが1800nmの例である。実験例30は、応力緩和層における積層構造の繰返し周期数が40であり、応力緩和層の総厚さが2400nmの例である。
【0128】
実験例27~30の化合物半導体基板の光反射分光分析を行った。詳細には、Ocean Insight製反射分光装置を用い、実験例27~30の化合物半導体基板にキセノンランプとハロゲンランプを照射して、240~320nmの範囲の反射強度を評価した。
【0129】
図26は、光反射分光分析結果の一例として、実験例29の反射スペクトルをプロットしたグラフである。
図26中、実線は測定値を示し、破線は計算値を示している。
図26のグラフに示すように、実験例29では、波長280nmの位置に反射率のピークがあり、最大反射率は0.8を示した。
図27は、実験例27~30の反射率をプロットしたグラフであり、横軸に示すDBR pairは、応力緩和層における積層構造の繰返し周期数を示す。また、
図27のグラフから応力緩和層の繰り返し周期数を10から40に増やすと反射率が0.53から0.84まで増大することが分かった。
【0130】
(実施例5)
サファイア基板(大きさ:直径50mm)上に、下地層としてAlNを300~400nmの厚さで形成したAlNテンプレートを準備し、その上に応力緩和層、機能層、活性層およびコンタクト層を、順次、MOCVD法により形成した。応力緩和層の第1結晶層として30nmの厚さのAl0.8Ga0.2Nの層を、第2結晶層として30nmの厚さのAl0.5Ga0.5Nの層を形成し、これら積層構造を繰り返し周期数30回繰り返して積層し、応力緩和層の総厚さが1800nmになるようにした。機能層として厚さが2500nmのSiドープn型AlGaN層(SiドープAl0.63Ga0.37N)を形成した。活性層は、第1活性結晶層として7.0nmの厚さのAl0.60Ga0.40Nの層を、第2活性結晶層として3.5nmの厚さのAl0.45Ga0.55Nの層を形成し、第1活性結晶層と第2活性結晶層で構成される活性積層構造を5回繰り返して積層した。コンタクト層として120nmのMgドープp型BNコンタクト層を形成した。各層の組成は、Al源ガスとGa源ガスおよびB源ガスの比を変えることで変化させた。成長温度は1000~1350℃の範囲で変化させた。上記のようにして実験例31の化合物半導体基板を作製した。
【0131】
実験例31の化合物半導体基板をX線回折について測定した。ω/2θ測定モードにて、2θを25から40degreeの範囲で測定した。
【0132】
図28のグラフから、2θ=26.72degree、35.31degree、35.39degree、および35.99degreeのピークは、それぞれ六方晶BNコンタクト層、応力緩和層、AlGaN機能層、AlN下地層を示すピークである。AlGaN活性層は、厚みが小さかったため、そのX線回折ピークは観測されなかった。六方晶BNコンタクト層の高温成長を行ってもAlGaN機能層、応力緩和層、およびAlN下地層の結晶破壊は起きていないことが確認された。