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特開2023-96763樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法
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  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図1
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図2
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図3
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  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図5
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図6
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図7
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  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図11
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図12
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図13
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図14
  • 特開-樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法 図15
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096763
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20230630BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20230630BHJP
   B05C 9/12 20060101ALI20230630BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20230630BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20230630BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230630BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20230630BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230630BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20230630BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230630BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20230630BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230630BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230630BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
B05C5/00 101
B05C9/12
B05C11/00
B05C11/10
B05D7/24 301T
B05D3/06 Z
B05D3/00 D
B05D1/26 Z
H01M4/139
H01G13/00 381
H01G11/06
H01G11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212737
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 征史
(72)【発明者】
【氏名】大木本 美玖
(72)【発明者】
【氏名】鷹氏 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】野勢 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉原 直樹
【テーマコード(参考)】
4D075
4F041
4F042
5E078
5E082
5H050
【Fターム(参考)】
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC80
4D075AC88
4D075AC91
4D075BB16X
4D075BB24Z
4D075BB41Z
4D075BB42Z
4D075BB46Z
4D075BB53Z
4D075BB54Z
4D075BB91Z
4D075BB94Z
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA04
4D075DA06
4D075DC19
4D075EA05
4D075EA07
4D075EA21
4D075EB22
4D075EB24
4D075EC30
4D075EC37
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F041BA22
4F042AA22
4F042BA08
4F042BA12
4F042BA21
4F042BA22
4F042CB03
4F042DB02
4F042DB18
4F042DB25
4F042DB41
4F042DF23
4F042DH09
5E078AA15
5E078AB06
5E078CA06
5E078CA12
5E082AB09
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA03
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050FA04
5H050FA09
5H050GA10
5H050GA21
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】付与手段および照射手段を移動させない構成において、照射手段による照射状態を監視可能な樹脂構造体の製造装置を提供すること。
【解決手段】本開示の一態様に係る樹脂構造体の製造装置は、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与する付与手段と、前記基材上に付与された前記液体組成物に活性エネルギー線を照射する少なくとも1つの照射手段と、前記照射手段による照射状態に対応する状態情報を出力する出力手段と、を有し、前記付与手段は、前記基材の搬送方向に交差する幅方向において前記基材に前記液体組成物を付与する付与幅全体にわたって設けられた複数のノズルから前記液体組成物を吐出することにより、前記基材上に前記液体組成物を付与し、前記出力手段は、前記照射手段から前記活性エネルギー線が照射される照射領域以外の領域に配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与する付与手段と、
前記基材上に付与された前記液体組成物に活性エネルギー線を照射する少なくとも1つの照射手段と、
前記照射手段による照射状態に対応する状態情報を出力する出力手段と、を有し、
前記付与手段は、前記基材の搬送方向に交差する幅方向において前記基材上に前記液体組成物を付与する付与幅全体にわたって設けられた複数のノズルから前記液体組成物を吐出することにより、前記基材上に前記液体組成物を付与し、
前記出力手段は、前記照射手段から前記活性エネルギー線が照射される照射領域以外の領域に配置されている、樹脂構造体の製造装置。
【請求項2】
前記出力手段の少なくとも一部は、前記基材が搬送される搬送領域以外の領域に配置されている、請求項1に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項3】
前記出力手段の少なくとも一部は、前記搬送方向における前記照射領域の下流側であって、前記基材が搬送される搬送領域内に配置されている、請求項1または請求項2に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項4】
前記照射手段から照射された前記活性エネルギー線を集束させる集束手段を有し、
前記出力手段は、前記照射手段の個数以上の画素を有し、前記集束手段により集束される前記活性エネルギー線を検出して前記照射手段の像を撮像する撮像部を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項5】
前記照射手段による前記活性エネルギー線の照射を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記撮像部により撮像された前記照射手段の像に基づき、前記照射手段による前記活性エネルギー線の照射強度を制御する、請求項4に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項6】
前記照射手段は、前記搬送方向および前記幅方向に沿って並んで複数設けられ、
前記制御手段は、前記搬送方向に沿って並んだ複数の前記照射手段により構成される組ごとに、前記照射手段から照射される前記活性エネルギー線の照射強度を制御する、請求項5に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記照射手段による前記照射強度が所定の照射閾値以下である場合に前記照射手段の異常を報知する、請求項5または請求項6に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項8】
前記照射手段に流れる電流を検出する電流検出手段を有し、
前記制御手段は、前記照射手段による前記照射強度と、前記電流検出手段による検出結果と、に基づいて前記異常を報知する、請求項7に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項9】
前記照射手段は、少なくとも1つの第1照射手段と、少なくとも1つの第2照射手段と、を含み、
前記出力手段は、第1撮像部と、第2撮像部と、を含み、
前記第1照射手段は、前記付与手段によって前記基材上に付与された前記液体組成物に、第1照射強度の前記活性エネルギー線を照射し、
第2照射手段は、前記搬送方向における前記第1照射手段の下流側に設けられ、前記第1照射手段により前記活性エネルギー線が照射された前記液体組成物に、前記第1照射強度よりも高い第2照射強度の前記活性エネルギー線を照射し、
前記第1撮像部は、前記第1照射手段の個数以上の画素を有し、前記集束手段により集束される前記活性エネルギー線を検出して前記第1照射手段の像を撮像し、
前記第2撮像部は、前記第2照射手段の個数以上の画素を有し、前記集束手段により集束される前記活性エネルギー線を検出して前記第2照射手段の像を撮像する、請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項10】
前記活性エネルギー線の照射強度に対する前記第1撮像部のダイナミックレンジは、前記活性エネルギー線の照射強度に対する前記第2撮像部のダイナミックレンジとは異なる、請求項9に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項11】
前記第1撮像部および前記第2撮像部それぞれによる撮像画像に基づいて、照射強度のピークを自動検出し、検出された前記ピークと前記第1照射手段および前記第2照射手段との対応付けを行う、請求項9または請求項10に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記第1撮像部により撮像された前記第1照射手段の像と、前記第2撮像部により撮像された前記第2照射手段の像と、に基づき、前記第1照射手段および前記第2照射手段それぞれによる前記活性エネルギー線の照射強度を制御する、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項13】
前記照射手段により照射された前記活性エネルギー線のうち、前記樹脂構造体の製造装置から外部に出射される前記活性エネルギー線を遮蔽する遮蔽手段を有する、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項14】
前記出力手段から出力される前記状態情報を表示する表示手段を有する、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項15】
前記樹脂構造体は多孔質構造を含む、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項16】
前記基材は、正極基材上あるいは負極基材上である請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項17】
前記基材は、正極基材に設けられた正極活物質上あるいは負極基材上に設けられた負極活物質上である請求項1から15のいずれかに記載の樹脂構造体の製造装置。
【請求項18】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の樹脂構造体の製造装置を有する、電極製造装置。
【請求項19】
樹脂構造体の製造装置による前記樹脂構造体の製造方法であって、前記樹脂構造体の製造装置が、
付与手段により、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与し、
少なくとも1つの照射手段により、前記基材上に付与された前記液体組成物に活性エネルギー線を照射し、
出力手段により、前記照射手段による照射状態に対応する状態情報を出力し、
前記付与手段は、前記基材の搬送方向に交差する幅方向において前記基材に前記液体組成物を付与する付与幅全体にわたって設けられた複数のノズルから前記液体組成物を吐出することにより、前記基材上に前記液体組成物を付与し、
前記出力手段は、前記照射手段から前記活性エネルギー線が照射される照射領域以外の領域に配置されている、樹脂構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂構造体の製造装置、電極製造装置および樹脂構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与する付与手段を含む樹脂構造体の製造装置が知られている。このような樹脂構造体の製造装置は、電極製造装置等の様々な用途において使用される。
【0003】
また、基材上に液体組成物を付与する装置では、紫外線硬化性の液体組成物を基材に吐出する記録ヘッド等の付与手段と、紫外線等の活性エネルギー線の照射手段と、を移動させるキャリッジを所定位置に移動させた後、照射手段から照射される紫外線の照度を検知する構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂構造体の製造装置では、生産性向上の観点から、付与手段および照射手段を移動させない構成が求められる。また樹脂構造体の製造装置では、基材上に付与された液体組成物に照射する活性エネルギー線の強度が変動すると、基材上に形成される樹脂構造体の品質が低下するため、照射手段による照射状態を監視することが求められる。
【0005】
本開示は、付与手段および照射手段を移動させない構成において、照射手段による照射状態を監視可能な樹脂構造体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る樹脂構造体の製造装置は、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与する付与手段と、前記基材上に付与された前記液体組成物に活性エネルギー線を照射する少なくとも1つの照射手段と、前記照射手段による照射状態に対応する状態情報を出力する出力手段と、を有し、前記付与手段は、前記基材の搬送方向に交差する幅方向において前記基材に前記液体組成物を付与する付与幅全体にわたって設けられた複数のノズルから前記液体組成物を吐出することにより、前記基材上に前記液体組成物を付与し、前記出力手段は、前記照射手段から前記活性エネルギー線が照射される照射領域以外の領域に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、付与手段および照射手段を移動させない構成において、照射手段による照射状態を監視可能な樹脂構造体の製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る電極製造装置の全体構成を例示する図である。
図2】第1実施形態に係る付与手段の構成を例示する平面図である。
図3】第1実施形態に係る照射手段、撮像部の配置例を示す上面図である。
図4】第1実施形態に係る照射手段、撮像部の配置例を示す側面図である。
図5図3におけるV-V切断線に沿った断面図である。
図6】複数の照射手段の配置例を示す図である。
図7図6の複数の照射手段の撮像部上での像を例示する図である。
図8】第1照射手段および第2照射手段の照射強度を例示する図である。
図9】複数の照射手段ごとの照射強度の検出例を示す図である。
図10】第1実施形態に係る制御手段の機能構成を例示するブロック図である。
図11】照射手段への供給電流と照射強度との関係を例示する図である。
図12】第1実施形態に係る制御手段による異常検出処理例のフロー図である。
図13】第1変形例に係る照射手段、撮像部の配置例を示す上面図である。
図14】第2変形例に係る複数の照射手段における組を例示する図である。
図15】第2実施形態に係る電極製造装置の全体構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。各図面において、同一の構成部には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0010】
また以下に示す実施形態は、本開示の技術思想を具体化するための樹脂構造体の製造装置および電極製造装置を例示するものであって、本開示を以下に示す実施形態に限定するものではない。以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張している場合がある。
【0011】
実施形態に係る樹脂構造体の製造装置は、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与する付与手段を少なくとも有するものである。まず、実施形態に係る液体組成物、重合性化合物、樹脂構造体および基材等について詳細に説明する。
【0012】
<液体組成物>
実施形態に係る液体組成物は、重合性化合物、溶媒、及び必要に応じて重合開始剤などのその他成分を含む。また、液体組成物は、硬化させられることで樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(以降の説明において「多孔質樹脂」とも称する)を形成する。
【0013】
なお、本開示において、液体組成物は多孔質樹脂を形成するが、これは、液体組成物中において多孔質樹脂が形成される場合だけでなく、液体組成物中において多孔質樹脂の前駆体(例えば、多孔質樹脂の骨格部)が形成され、その後の工程(例えば、加熱工程等)で多孔質樹脂が形成される場合等も含む意味である。また、液体組成物が多孔質樹脂を形成するとは、液体組成物中の一部成分(重合性化合物等)が硬化(重合)させられることで多孔質樹脂の骨格を形成し、液体組成物中のその他成分(溶媒等)が硬化させられずに多孔質樹脂を形成しない場合等も含む意味である。
【0014】
(重合性化合物)
重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物中において重合した場合に多孔質樹脂を形成する。重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与等(例えば、光の照射や熱を加えること等)で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、及びエン-チオール反応により形成される樹脂が好ましい。また、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂や、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂が生産性の観点からより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、本開示ではアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0015】
重合性化合物は、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。その例としては、1官能、2官能、3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、及びラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
【0016】
1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
液体組成物中における重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。重合性化合物の含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質樹脂の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質樹脂が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、重合性化合物の含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0020】
(溶媒)
溶媒(以降の記載において「ポロジェン」とも称する)は、重合性化合物と相溶する液体である。また、溶媒は、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中に溶媒が含まれることで、重合性化合物は、液体組成物中において重合した場合に、言い換えると、液体組成物中において第一の活性エネルギー線及び第二の活性エネルギー線を順次照射された場合に、多孔質樹脂を形成する。また、光または熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、溶媒は重合性を有さない。
【0021】
ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、50℃以上250℃以下であることが好ましく、70℃以上200℃以下であることがより好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取扱が容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを乾燥させる工程における時間が短縮されて、多孔質樹脂の生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に品質が向上する。また、ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、120℃以上であることが好ましい。
【0022】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類、γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類、NNジメチルアセトアミド等のアミド類等を挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
【0023】
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、且つ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物および重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
【0024】
また、液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
【0025】
なお、液体組成物は、上記の通り、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。但し、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)の含有量は、液体組成物全量に対して10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましく、含まれないことが特に好ましい。
【0026】
液体組成物中におけるポロジェンの含有量は、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0027】
液体組成物中における重合性化合物の含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0028】
((重合誘起相分離))
多孔質樹脂は、重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物とポロジェンは相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質樹脂を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0029】
次に、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂におけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂とポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、ポロジェン等が孔を満たしている多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、ポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0030】
ポロジェンと重合性化合物との相溶性については次のようにして判断する。
まず、液体組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、液体組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。本開示では、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物とポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物とポロジェンとが非相溶の状態であると判断する。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定して取得する(透過率:100%)
【0031】
ポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性については次のようにして判断する。
【0032】
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に液体組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
【0033】
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm2、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂とポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物が重合することにより形成される樹脂が多孔質構造を形成しやすくなることを示す。本開示では、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂とポロジェンとが相溶の状態であると判断する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0034】
(重合開始剤)
重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物の重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤、塩基発生剤等を、1種単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0035】
光ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル発生剤を用いることができる。例えば、商品名イルガキュアーやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、より具体的な化合物としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン誘導体、例えばα-ヒドロキシ-もしくは、α-アミノセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp'-ジクロロベンゾフェン、pp'-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド又はチタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン又はキサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物又はジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物、等が好適に使用される。
【0036】
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。また、熱のみで重合させる場合は通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0037】
重合開始剤の含有量は、十分な硬化速度を得るために、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
(その他)
本開示の液体組成物は、液体組成物中に分散物を含まない非分散系組成物であっても、液体組成物中に分散物を含む分散系組成物であってもよいが、非分散系組成物であることが好ましい。液体組成物が非分散系組成物であることで、液体組成物を様々な付与手段に用いることができるためである。例えば、吐出安定性を維持することが重要となるインクジェット方式にも安定して使用することができるので好ましい。
【0039】
<液体組成物の製造方法>
液体組成物は、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製するのが好ましい。
【0040】
<液体組成物の物性>
液体組成物の粘度は、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0041】
<基材>
次に、実施形態に係る基材について説明する。
【0042】
基材の材料としては透明、不透明を問わずあらゆる材料を用いることができる。すなわち、透明基材として、ガラス基材や各種プラスチックフィルム等の樹脂フィルム基材やまたその複合基板などが、また不透明な基材としてはシリコン基材、ステンレス等の金属基材、又はこれらを積層したものなど、種々の基材を用いることができる。なお、基材は、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などの記録媒体であってもよい。また、記録媒体としては、低浸透性基材(低吸収性基材)であってもよい。低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。なお、基材は、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いられる多孔質樹脂シートであってもよい。
【0043】
また、形状に関しても曲面であっても凹凸形状を有するものであっても、印刷工程部、重合工程部、重合工程部に適用可能な基材ならば使用することができる。
【0044】
<樹脂構造体>
次に、実施形態に係る樹脂構造体について説明する。
【0045】
液体組成物によって形成される樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(多孔質樹脂)の膜厚は、特に限定はされないが、重合時の硬化均一性を考慮して0.01μm以上500μm以下であることが好ましく、0.01μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、10μm以上20μm以下であることが特に好ましい。膜厚が0.01μm以上であることで、得られる多孔質樹脂の表面積が大きくなり、多孔質樹脂による機能を十分に得ることができる。また、膜厚が500μm以下であることで、膜厚方向において重合時に用いる光や熱のムラが抑制され、膜厚方向において均一な多孔質樹脂を得ることができる。膜厚方向において均一な多孔質樹脂を作製することで多孔質樹脂の構造ムラを抑制し、液体や気体の透過性低下を抑制することができる。なお、多孔質樹脂の膜厚に関しては、多孔質樹脂が使用される用途に応じて適宜調整される。例えば、多孔質樹脂を蓄電素子用絶縁層として用いる場合は、10μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0046】
形成される多孔質樹脂は、特に限定されないが、液体や気体の良好な浸透性を確保する観点から、樹脂の硬化物の三次元分岐網目構造を骨格として有し、多孔質樹脂中の複数の孔が連続して連結している共連続構造(モノリス構造とも称する)を有することが好ましい。すなわち、多孔質樹脂は多数の孔を有しており、一つの孔がその周囲の他の孔と連結した連通性を有して三次元的に広がっていることが好ましい。孔同士が連通することで、液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現することができる。
【0047】
なお、共連続構造を有することで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。多孔質樹脂の透気度は、例えば、JIS P8117に準拠して測定され、500秒/100mL以下である場合が好ましく、300秒/100mL以下である場合がより好ましい。このとき、透気度は、例えば、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)等を用いて測定される。
【0048】
形成される多孔質樹脂が有する孔の断面形状は、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。多孔質樹脂の有する孔の大きさに関しては、特に限定はされないが、液体や気体の浸透性の観点から0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。また、多孔質樹脂の空隙率としては、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。多孔質樹脂の有する孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、液体組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法等が挙げられる。
【0049】
(樹脂構造体の用途)
((蓄電素子用途または発電素子用途))
上記の液体組成物を用いて形成される樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(多孔質樹脂)は、例えば、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いることができる。これら用途として用いる場合には、例えば、電極基体上に予め形成された活物質層上へ液体組成物を付与することで絶縁層(セパレーター)を形成することが好ましい。
【0050】
蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層としては、例えば、所定の大きさの空孔や空隙率を有するフィルム状の多孔質絶縁層等を用いることが知られている。一方で、上記の液体組成物を用いた場合、重合性化合物の含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで空孔や空隙率を適宜変更することができ、蓄電素子及び発電素子の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、上記の液体組成物は、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、蓄電素子及び発電素子の形状面における設計自由度を向上させることができる。
【0051】
なお、絶縁層は、正極と負極を隔離し、かつ正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材である。また、本開示において絶縁層と表す場合、層状の形状に限られない。
【0052】
また、上記の液体組成物は、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層(第一の絶縁層)上に付与されることで、追加的に、多孔質樹脂層からなる絶縁層(第二の絶縁層)を形成することができる。第一の絶縁層上に第二の絶縁層を形成することで、絶縁層全体としての耐熱性、耐衝撃性、耐高温収縮性といった諸機能を追加又は向上させることができる。
【0053】
電極基体は導電性を有する基体であれば、特に制限はなく、一般に蓄電デバイスである2次電池、キャパシター、なかでもリチウムイオン2次電池に好適に用いることができる、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔および、それらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシターに用いられる穴あき電極基体などが用いられる。また、燃料電池のような発電デバイスで用いられるカーボンペーパー繊維状の電極を不織または織状で平面にしたものや上記穴あき電極基体のうち微細な穴を有するものも使用できる。更に、太陽光デバイスの場合、上記電極に加えてガラスやプラスチックスなどの平面基体上に、インジウム・チタン系の酸化物や亜鉛酸化物のような、透明な半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0054】
活物質層は、粉体状の活性物質や触媒組成物を液体中に分散し、かかる液を電極基体上に塗布、固定、乾燥することによって形成されており、通常はスプレー、ディスペンサー、ダイコータや引き上げ塗工を用いた印刷が用いられ、塗布後に乾燥して形成される。
【0055】
正極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、アルカリ金属含有遷移金属化合物を正極用活物質として使用できる。例えばリチウム含有遷移金属化合物として、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素とリチウムとを含む複合酸化物が挙げられる。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属酸化物、LiFePO4などのオリビン型リチウム塩、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物、二酸化マンガンなどが挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物または該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。異種元素としては、例えばNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられ、なかでもMn、Al、Co、NiおよびMgが好ましい。異種元素は1種でもよくまたは2種以上でもよい。これらの正極活物質は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。ニッケル水素電池における上記活物質としては水酸化ニッケルなどが挙げられる。
【0056】
負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を負極活物質として使用できる。そのような炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウムが挙げられる。また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0057】
以下、樹脂構造体の製造装置の一例として、電極製造装置について説明する。
【0058】
[第1実施形態]
<電極製造装置100の全体構成>
図1は、第1実施形態に係る電極製造装置100の全体構成を例示する図である。図1は、側方から透視した電極製造装置100を示している。
【0059】
電極製造装置100は、例えば電池製造において、正負の電極間に設けられる機能層を形成するものである。また電極製造装置100は、ロール状に巻かれた状態から巻き出された基材上に、紫外線硬化型の液体組成物を連続して付与し、基材上に液体組成物による樹脂構造体を形成した後、再度ロールに巻き取る、いわゆるロールツーロール方式の装置である。
【0060】
なお、本実施形態では、活性エネルギー線硬化型の液体組成物の一例として紫外線硬化型の液体組成物Qを例示するが、これに限定されるものではなく、液体組成物Qは、熱線硬化型や電子線硬化型等の液体組成物であってもよい。
【0061】
図1に示すように、電極製造装置100は、巻き出しロール1と、付与手段3と、複数の照射手段4と、加熱手段5と、検査手段6と、巻取りロール7と、制御手段8と、を有する。
【0062】
電極製造装置100は、巻き出しロール1から巻き出され、搬送方向20に沿って搬送される基材2上に、付与手段3により液体組成物Qを所定の厚みになるように付与する。電極製造装置100は、基材2上に付与された液体組成物Qに対し、複数の照射手段4から紫外線を照射して液体組成物Qを硬化させた後、加熱手段5により加熱し、乾燥させることによって、液体組成物Qを基材2上に定着させることにより樹脂構造体を形成する。電極製造装置100は、基材2上に定着された樹脂構造体を検査手段6により検査した後、巻取りロール7により巻き取る。樹脂構造体が形成され、巻取りロール7により巻き取られた基材2は、次工程に回されるか、あるいは完成品として出荷される。
【0063】
付与手段3は、液体組成物Qを吐出する吐出部3a、3b、3cおよび3dを含む。吐出部3a、3b、3cおよび3dのそれぞれは、搬送方向20に略直交する幅方向21に沿って配列する複数のノズルを有し、複数のノズルから液体組成物Qを吐出する。付与手段3は、吐出部3a、3b、3cおよび3dから吐出される液体組成物Qを基材2上に付与する。
【0064】
付与手段3は、例えば液体組成物Qを付与することにより、正極基材上あるいは負極基材上に樹脂構造体を形成する。このような樹脂構造体は、例えば正極と負極との間に設けられるセパレータ層である。セパレータ層を形成する場合には、付与手段3によって基材2に付与される液体組成物Qの厚みは、10μm以上50μm以下の範囲内となる。
【0065】
付与手段3による付与方式には、ダイコータ方式、ワイヤーバー方式、ドクターブレード方式または印刷方式等が適用でき、印刷方式にはオフセット印刷、カールソンプロセス方式またはインクジェット方式等が適用できる。本実施形態では特に、インクジェット方式により液体組成物Qを吐出することによって、基材2上に液体組成物Qを付与する。
【0066】
複数の照射手段4は、搬送される基材2に向き合うようにして、搬送方向20および幅方向21に沿って並んで設けられ、複数の照射手段4それぞれから基材2に紫外線を照射する。なお、本実施形態では、複数の照射手段4を例示するが、照射手段4は少なくとも1つあればよい。
【0067】
複数の加熱手段5は、基材2上に付与された液体組成物Qの内部に残留した液体成分を蒸発させる。特にインクジェット方式により液体組成物Qが付与された場合には、適切な粘度に調整するために、液体組成物Qには紫外線硬化樹脂以外に溶剤等の液体を処方することが好ましい。複数の加熱手段5は、このような液体を揮発させることができる。
【0068】
加熱手段5による加熱方式には、温度の高い乾燥炉内を通過させる方式、温風を吹き付ける方式、赤外線を照射する方式、高熱の回転ドラム等に基材2を巻き付ける方式または高周波誘電方式等が挙げられる。
【0069】
検査手段6は、基材2上に形成された液体組成物Qによる樹脂構造体の品質を検査する。検査手段6は高速度カメラを含み、樹脂構造体の厚みムラやピンホールの有無等の欠陥を検査し、基材2上における欠陥箇所の位置情報等を含む検査結果を記憶する。
【0070】
制御手段8は、電極製造装置100の動作を制御する、例えばコンピュータである。制御手段8の配置位置には特段の制限はなく、任意の位置に配置できる。
【0071】
<付与手段3の構成例>
図2は、付与手段3の構成の一例を説明する図である。図2は、液体組成物Qが吐出される方向側から視た付与手段3を示している。基材2は、付与手段3に含まれる吐出部3a、3b、3c及び3dに向き合った状態において、搬送方向20に沿って搬送される。
【0072】
吐出部3a、3b、3c及び3dは、ライン型の吐出部を構成している。ここで、ライン型の吐出部とは、幅方向21において、基材2上に液体組成物Qを付与する付与幅30全体にわたって複数のノズルが設けられたものをいう。
【0073】
図2に示すように、吐出部3a、3b、3c及び3dのそれぞれは、幅方向21に沿って並べられた4つのヘッド31を有する。4つのヘッド31は、幅方向21に沿って配列された複数のノズル32を有する。
【0074】
吐出部3a、3b、3c及び3dは、幅方向21において基材2上に液体組成物Qを付与する付与幅30全体にわたって設けられた複数のノズル32から液体組成物Qを吐出することにより、基材2上に液体組成物Qを付与する。従って、付与手段3は、移動することなく、基材2上の付与幅30全体に液体組成物Qを付与できる。なお、図2では、1つの吐出部が4つのヘッド31を備える構成を例示するが、1つの吐出部が備えるヘッドの数に特段の制限はなく、幅方向21における付与幅30の長さに応じて適宜変更できる。
【0075】
4つのヘッド31では、液体組成物Qに刺激を印加して液体組成物Qを吐出させる手段を目的に応じて適宜選択でき、例えば、加圧装置、圧電素子、振動発生装置、超音波発振器、ライト等を使用できる。具体的には、圧電素子等の圧電アクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータ等がある。
【0076】
これらの中でも、特に4つのヘッド31内のインク流路内にある圧力室(液室等とも称する)と呼ばれる位置に接着された圧電素子に電圧を印加するものが好ましい。この4つのヘッド31は、電圧の印加により圧電素子が撓み、圧力室の容積が縮小することで圧力室中のインクを加圧し、ノズルからインクを液滴として吐出する。
【0077】
また、吐出部3a、3b、3c及び3dは、それぞれ吐出ユニットを備える。吐出ユニットとは、吐出部3a、3b、3c及び3dからの液体組成物Qの吐出に関連する機能部品、機構の集合体である。吐出ユニットは、供給機構、維持回復機構、液体吐出ヘッド移動機構の構成の少なくとも一つを吐出部3a、3b、3c及び3dそれぞれと組み合わせたもの等を含む。
【0078】
<複数の照射手段4、撮像部9の配置例>
図3および図4は、電極製造装置100が有する複数の照射手段4および撮像部9の配置を例示する図である。図3は上面図、図4は側面図である。なお、図4は、側方から透視した電極製造装置100を示している。
【0079】
図3および図4に示すように、複数の照射手段4は、搬送方向20および幅方向21に沿って配置された複数の第1照射手段4aと、幅方向21に沿って配置された3つの第2照射手段4bと、を含む。第1照射手段4aおよび第2照射手段4bは、例えば波長が200nm以上で380nm以下である紫外線を基材2に向けて照射する光源である。
【0080】
複数の第1照射手段4aおよび3つの第2照射手段4bは、幅方向21において基材2上に液体組成物Qを付与する付与幅30全体にわたって設けられ、付与幅30全体にわたって基材2上の液体組成物Qに紫外線を照射する。従って、複数の照射手段4は、移動することなく、基材2上の液体組成物Qに紫外線を照射できる。なお、第1照射手段4aおよび第2照射手段4bそれぞれの個数は、基材2の幅方向21における幅や、基材2の搬送速度等に応じて任意に決定できる。
【0081】
第1照射手段4aは、付与手段3によって基材2上に付与された液体組成物Qに、第1照射強度の紫外線を照射する。第1照射領域長さ401は、第1照射手段4aにより紫外線が照射される搬送方向20に沿った長さを表す。第1照射領域長さ401において略均一な照射強度の紫外線が基材2に照射されるように複数の第1照射手段4aの配置が定められている。
【0082】
第2照射手段4bは、搬送方向20における第1照射手段4aの下流側に設けられ、第1照射手段4aにより紫外線が照射された液体組成物Qに、第1照射強度よりも高い第2照射強度の紫外線を照射する。第2照射領域長さ402は、第2照射手段4bにより紫外線が照射される搬送方向20に沿った長さを表す。第2照射領域長さ402において略均一な照射強度の紫外線が基材2に照射されるように3つの第2照射手段4bの配置が定められている。
【0083】
液体組成物Qに含まれる重合性化合物は、紫外線の照射強度と照射時間との積により、硬化時間が決まる。このため、第2照射手段4bは、第1照射手段4aによる第1照射強度よりも高い第2照射強度の紫外線を照射することにより、第1照射手段4aと同程度の状態に液体組成物Qを短時間で硬化させることができる。第2照射手段4bの数は第1照射手段4aの数よりも少なく、第2照射領域長さ402は第1照射領域長さ401よりも短くなっている。
【0084】
例えば、搬送方向20における第1照射領域長さ401は3.0[m]、第2照射領域長さ402は、0.2[m]である。第2照射領域長さ402の長さを短縮することにより、電極製造装置100を小型化することができる。但し、第1照射手段4aによる照射強度よりも第2照射手段4bに照射強度を低くしてもよい。
【0085】
また、電極製造装置100は、第1照射手段4aおよび第2照射手段4bにより紫外線が照射される照射領域400において、基材2を覆うようにN2パージボックス41を有する。
【0086】
N2パージボックス41は、基材2が通過可能に基材2を覆う箱状部材である。N2パージボックス41の内部には窒素ガスが充填され、酸素濃度が低くなっている。電極製造装置100は、照射領域400において基材2がN2パージボックス41内を通過するように基材2を搬送する。
【0087】
液体組成物Qの重合化合物を紫外線により硬化させる場合には、液体組成物Qの周りに酸素が存在すると硬化が阻害される。電極製造装置100は、N2パージボックス41を通過させながら基材2上の液体組成物Qに紫外線を照射することにより、液体組成物Qの硬化の酸素による阻害を抑制し、液体組成物Qの硬化を促進することができる。
【0088】
N2パージボックス41は、複数の照射手段4側の上面部に紫外線透過ガラス410を含んでいる。紫外線透過ガラス410は、紫外線波長域の光を透過させ、紫外線以外の波長域の光を反射または吸収する板状部材である。例えば紫外線透過ガラス410は、紫外線波長域を透過させるような波長選択性を有する光学薄膜が形成されたガラス板である。
【0089】
また、図4に示すように、電極製造装置100は、複数の照射手段4により照射された紫外線のうち、電極製造装置100から外部に出射される紫外線を遮蔽する遮蔽手段42を有する。
【0090】
遮蔽手段42は、可視光に対して透光性を有する箱状部材であり、複数の照射手段4により照射される紫外線を反射または吸収する光学薄膜が各面に形成されている。遮蔽手段42は、複数の照射手段4を内部に収容することにより、電極製造装置100から外部に出射される紫外線を遮蔽する。
【0091】
撮像部9は、複数の照射手段4の個数以上の画素を有し、紫外線を検出して複数の照射手段4の像を撮像する。撮像部9は、複数の照射手段4による照射状態に対応する状態情報を出力する出力手段の一例である。撮像部9は、照射手段4による照射状態に対応する状態情報として、複数の照射手段4の撮像画像を出力する。なお、出力手段は、撮像部9が出力する撮像画像を処理する画像処理部等の、撮像部9以外の構成部をさらに含んでもよい。
【0092】
撮像部9は、複数の照射手段4から紫外線が照射される照射領域400以外の領域に配置されている。また、撮像部9は、基材2が搬送される搬送領域500以外の領域に配置されている。なお、照射領域400は、複数の照射手段4が配置される領域と略同じ面積の領域になるため、図3では、複数の照射手段4の符号に照射領域400の符号を併記している。また搬送領域500は、基材2が占める領域と略同じ面積の領域となるため、図3では、基材2の符号に搬送領域500の符号を併記している。
【0093】
本実施形態では、撮像部9は、搬送方向20における上流側に配置された第1撮像部9aおよび9bと、搬送方向20における下流側に配置された第2撮像部9cおよび9dと、を含んでいる。
【0094】
第1撮像部9aおよび9bは、第1照射手段4aの個数以上の画素を有し、集束手段91により集束される紫外線を検出して第1照射手段4aの像を撮像する。第2撮像部9cおよび9dは、第2照射手段4bの個数以上の画素を有し、集束手段91により集束される紫外線を検出して第2照射手段4bの像を撮像する。但し、撮像部9の個数および配置には特段の制限はなく、照射領域400の面積等に応じて適宜選択できる。
【0095】
図4では、撮像部9は、上面視において紫外線透過ガラス410内に含まれない領域に配置されている。しかしながら、可視光等の紫外線以外の波長領域の光を低減させる観点では、撮像部9は、上面視において紫外線透過ガラス410内に含まれる領域に配置され、紫外線透過ガラス410を通して照射手段4の像を撮像することが好ましい。
【0096】
<撮像部9周辺の構成例>
図5は、撮像部9周辺の構成を例示する図であり、図3におけるV-V切断線に沿った断面図である。
【0097】
図5に示すように、撮像部9と照射手段4との間には、集束手段91および紫外線透過フィルタ92が設けられている。集束手段91、紫外線透過フィルタ92および撮像部9は、筐体90の内部に収容されている。
【0098】
集束手段91は、例えばレンズであり、照射手段4から照射された紫外線を集束させる。集束手段91は、照射手段4から照射された紫外線を集束させ、撮像部9の撮像面上において照射手段4の像を略結像させることができる。集束手段91は、紫外線波長域の光に対して光学特性が適正化されたものを使用することが好ましい。また、1つの撮像部9により、広い範囲に配置された多くの数の照射手段4を撮像できるように、集束手段91は広角レンズであることが好ましい。
【0099】
なお、上記の略結像は、ベストフォーカス状態のみを要求するものではなく、集束手段91の収差によるピンボケ状態や、撮像部9の撮像面の位置がベストフォーカス位置から集束手段91の光軸方向にずれることによるピンボケ状態も許容することを意味する。
【0100】
紫外線透過フィルタ92は、照射手段4が照射する紫外線波長域の光を透過させ、紫外線以外の波長域の光を反射または吸収する光学フィルタである。紫外線透過フィルタ92には、例えばHOYA株式会社製のU340等を適用できる。撮像部9と照射手段4との間には、赤外線カットフィルタがさらに設けられていてもよい。
【0101】
撮像部9は、集束手段91により集束された照射手段4の像を撮像する。照射手段4の像は、例えば紫外線を発する光源の発光面の像である。撮像部9には、CCD(Charge Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を使用できる。撮像部9は、照射手段4が照射する紫外線波長域の光に対して受光感度を有するものが好ましい。但し、撮像部9は、可視光波長域の光に対して受光感度を有してもよい。
【0102】
<撮像部9による撮像例>
図6および図7を参照して、撮像部9による撮像例を説明する。図6は、複数の照射手段4の配置の一例を示す図である。図7は、撮像部9の撮像面上における、図6の複数の照射手段4の像を例示する図である。
【0103】
図6は、複数の第1照射手段4aのうち、搬送方向20に沿って5個、幅方向21に沿って3個並べられた合計15個の第1照射手段4aを示している。複数の第1照射手段4aは、第1照射手段4a11から第1照射手段4a35を含んでいる。
【0104】
図6における15個の第1照射手段4aから照射される紫外線は、集束手段91により集束され、紫外線透過フィルタ92を通過した後、撮像部9の撮像面上において略結像する。この結果、図7に示すように、撮像部9の撮像面上では、15個の第1照射手段4aに対応して、15個の第1照射手段像4a'が得られる。
【0105】
図7において、第1照射手段像4a11'~4a35'は、15個の第1照射手段像4a'を示している。なお、図7は、撮像部9の撮像面を示しているが、撮像面における第1照射手段像4a11'~4a35'が撮像部9により撮像されるため、図7は撮像部9による撮像画像93ということもできる。このため、図7では、第2撮像部9dと撮像画像93の符号を併記している。また、図7では第2撮像部9dを例示するが、第1撮像部9aおよび9b、並びに第2撮像部9cも構成および作用は、第2撮像部9dと同様である。
【0106】
撮像部9は、照射領域400以外の領域に配置されているため、第1照射手段4a11から第1照射手段4a35ごとに撮像部9までの距離が異なる。例えば第1照射手段4a11、4a21および4a31は、撮像部9までの距離が比較的短く、第1照射手段4a15、4a25および4a35は、撮像部9までの距離が比較的な長い。このため、図7の例では、第1照射手段像4a11'、4a21'および4a31'は、比較的大きい像になり、第1照射手段像4a'同士の距離も比較的長くなっている。一方、第1照射手段像4a15'、4a25'および4a35'は、比較的小さい像になり、第1照射手段像4a'同士の距離も比較的短くなっている。
【0107】
図7における複数の小さい格子の1つ1つは、第2撮像部9dの画素930を表している。撮像部9は、複数の照射手段4の個数以上の画素930を有するため、少なくとも1つの画素930を用いて、複数の照射手段4それぞれの像を撮像できる。
【0108】
電極製造装置100は、撮像画像93における複数の照射手段4の像に対応する少なくとも1つの画素930の画素輝度値に基づき、複数の照射手段4から照射される紫外線の照射強度を検出し、監視する。また電極製造装置100は、撮像部9による1回、つまり1ショットの撮像により得られる撮像画像93から、複数の照射手段4から照射される紫外線の照射強度を検出し、監視できる。
【0109】
本実施形態では、例えば、撮像画像93における複数の照射手段4の像と、複数の照射手段4と、の位置の対応付けは予め行われる。但し、この対応付けは、撮像画像93上における複数の照射手段4の像におけるピーク位置と、予め定められた複数の照射手段4の位置と、に基づき、撮像画像93を処理することによって自動で行われてもよい。
【0110】
第1照射手段4a11~4a35ごとに集束手段91までの距離が異なるため、第1照射手段像4a11'~4a35'ごとに合焦状態が異なる。合焦状態に応じて、第1照射手段像4a11'~35'ごとに像の明るさが異なる。このため、電極製造装置100では、初期操作として、撮像部9の位置における複数の照射手段4それぞれから照射される紫外線の照射強度を照度計等により測定される。
【0111】
なお、照度計としては特に限定はないが、非稼働状態時、すなわち基材2が存在しない状態において複数の照射手段4それぞれの照度を測定し、校正できるようなものが好ましい。照度計は、複数の照射手段4と同じ個数分あってもよい。あるいは照度計は、複数の照射手段4の個数よりも少なく、照度計が走査されることにより、全ての照射手段4を測定し、校正できるものであってもよい。
【0112】
照度計による測定が行われた後、撮像部9により複数の照射手段4それぞれの像が撮像され、複数の照射手段4ごとに像の明るさに応じた画素輝度値に対応づけて照射強度の初期値が定められる。電極製造装置100は、複数の照射手段4の照射強度を検出する際に、複数の照射手段4を撮像した像の画素輝度値に基づき、照射強度の初期値に対する複数の照射手段4ごとの照射強度の変動を検出する。これにより、第1照射手段像4a11'~4a35'ごとの合焦状態および明るさの差異の照射強度検出に対する影響を除去できる。
【0113】
電極製造装置100は、集束手段91として焦点深度が長いものを用いることにより、合焦状態および明るさの差異を低減してもよい。また電極製造装置100は、集束手段91と撮像部9の組の数を増やし、1つの集束手段91と撮像部9の組により撮像される照射手段4の数を少なくすることにより、合焦状態および明るさの差異を低減することもできる。
【0114】
図8は、第1照射手段4aおよび第2照射手段4bの照射強度を例示する図である。図8において、横軸は搬送方向20における位置を表し、縦軸は照射強度を表している。
【0115】
第1照射強度Lt1は、第1照射領域長さ401に対応する位置での第1照射手段4aによる照射強度を表す。第2照射強度Lt2は、第2照射領域長さ402に対応する位置での第2照射手段4bによる照射強度を表す。第2照射強度Lt2は、第1照射強度Lt1よりも高い。
【0116】
照射強度の異なる紫外線を同じダイナミックレンジを有する撮像部により検出して撮像すると、照射強度の検出分解能が低下する場合がある。このため、本実施形態では、紫外線の照射強度に対する第1撮像部9aおよび9bそれぞれのダイナミックレンジと、紫外線の照射強度に対する第2撮像部9cおよび9dそれぞれのダイナミックレンジと、を異ならせている。ここで、ダイナミックレンジとは、処理可能な信号の最大値と最小値の比率を表した数値をいう。例えば、8ビットの撮像部では、ダイナミックレンジは1:256であり、10ビットの撮像部では、ダイナミックレンジは1:1028である。
【0117】
本実施形態では、例えば第1撮像部9aおよび9bは第1ダイナミックレンジDr1が8ビットに対応する撮像素子を用い、第1撮像部9aおよび9bは第2ダイナミックレンジDr2が10ビットに対応する撮像素子を用いる。これにより、第2照射強度Lt2が第1照射強度Lt1の4倍の照射強度であっても同じ分解能により照射強度を検出できる。なお、図8では、第1照射強度Lt1の最小値と最大値が第1ダイナミックレンジDr1内に含まれることを示すために、両者の符号を併記している。同様に、第2照射強度Lt2の最小値と最大値が第2ダイナミックレンジDr2内に含まれることを示すために、両者の符号を併記している。
【0118】
但し、第1撮像部9aおよび9bと、第2撮像部9cおよび9dと、の間で同じダイナミックレンジの撮像素子を用いてもよい。この場合には、第2撮像部9cおよび9dと、第2照射手段4bと、の間に絞り径の小さい集束手段91を設けたり、濃度フィルタを設けたりして第2照射強度Lt2を第1照射強度Lt1と同程度に低下させることが好ましい。また、第1撮像部9aおよび9bと第2撮像部9cおよび9dの両方が同じ撮像素子を用いてもよい。この場合には、第1撮像部9aおよび9bと第2撮像部9cおよび9dの両方が10ビットの撮像素子を用いることが好ましい。
【0119】
<照射強度の検出結果例>
図9は、撮像部9による撮像画像93に基づく複数の照射手段4ごとの照射強度の検出結果の一例を示す図である。図9は、複数の照射手段4のうち、第1照射手段像4a31'、4a21'、4a11'、4a32'、4a22'および4a12'それぞれの画素輝度値を表している。図9における縦軸の画素輝度値は、各第1照射手段像を構成する複数の画素930における画素輝度値の平均値、代表値または最大値等の予め定められたものを意味する。
【0120】
初期値71は、初期操作において定められた照射強度の初期値に対応する画素輝度の初期値である。画素輝度値72は、第1照射手段像の明るさに応じた画素輝度値である。初期値71と画素輝度値72との間の差が照射強度の変動量に該当する。
【0121】
<制御手段8の構成例>
図10は、制御手段8の機能構成を例示するブロック図である。図10に示すように制御手段8は、照射強度取得部81と、照射制御部82と、判断部83と、報知部84と、を有する。制御手段8は、これらの機能を、例えばCPU(Central Processing Unit)が、RAM(Random Access Memory)を作業領域として、ROM(Read Only Memory)に記憶されたプログラムを実行することにより実現する。なお、電気回路または電子回路が上記の機能の一部を実現してもよい。制御手段8以外の構成部が上記の機能の一部を実現してもよい。複数の構成部が分散処理により上記の機能の一部を実現してもよい。
【0122】
照射強度取得部81は、撮像部9により撮像された複数の照射手段4の像に基づき、複数の照射手段4のそれぞれから照射される紫外線の照射強度情報を演算により取得する。また照射強度取得部81は、第1撮像部9aおよび9bにより撮像された第1照射手段4aの像と、第2撮像部9cおよび9dにより撮像された第2照射手段4bの像と、に基づき、第1照射手段4aおよび第2照射手段4bそれぞれによる紫外線の照射強度情報を演算により取得できる。照射強度取得部81は、取得結果を照射制御部82および判断部83に出力する。
【0123】
照射制御部82は、照射強度取得部81による取得結果に応じて複数の照射手段4による紫外線の照射強度を制御する。例えば照射制御部82は、複数の照射手段4それぞれによる照射強度が、それぞれの照射強度の初期値から変動した場合に、初期値に近づくように、複数の照射手段4それぞれに供給する電流量を変化させることにより制御する。
【0124】
判断部83は、照射強度取得部81による取得結果に基づいて、複数の照射手段4それぞれの異常を判断し、判断結果を報知部84に出力する。例えば、判断部83は、照射強度取得部81による取得結果に基づいて、複数の照射手段4のうちの少なくとも1つの照射手段による照射強度が所定の照射閾値以下である場合に、該少なくとも1つの照射手段が異常であると判断する。
【0125】
また、判断部83は、照射強度取得部81による取得結果と、複数の照射手段4のそれぞれに流れる電流を検出する電流検出手段43による検出結果と、に基づいて、複数の照射手段4の異常を判断し、判断結果を報知部84に出力することもできる。
【0126】
報知部84は、判断部83により、複数の照射手段4のうちの少なくとも1つの照射手段が異常であると判断された場合に、その旨を報知する。例えば、報知部84は、異常であると判断された照射手段情報をディスプレイ等の表示部に表示させること等により、電極製造装置100のユーザに報知する。なお、ここでのユーザは、電極製造装置100の使用者または管理者等である。以下では単にユーザという。
【0127】
例えば、劣化または故障した照射手段4に電流をいくら流しても照射強度が上がらなかったり、また照射手段4の光源が汚れているため、正常に紫外性を発光していても照射強度が上がらなかったりする場合がある。特に電極製造装置100では蒸気やミストが装置内で発生するため、経時で汚れが発生する場合がある。また複数の照射手段4ごとに供給電流に応じた照射強度がばらつく場合もある。このように照射手段4の劣化、故障または汚れ等の異常が発生した場合に、異常を報知することにより、電極製造装置100のメンテナンスをユーザに促すことができる。
【0128】
図11は、複数の照射手段4への供給電流と、複数の照射手段4からの紫外線の照射強度との関係を例示する図である。図11において、横軸は、複数の照射手段4への供給電流を示し、縦軸は、複数の照射手段4からの紫外線の規格化された照射強度を表している。
【0129】
図11に示すように、照射手段4による紫外線の照射強度は、照射手段4への供給電流の増加に応じて所定の特性に従って強くなる。しかしながら、照射手段4に劣化、故障または汚れ等の異常が発生すると、照射強度は該所定の特性よりも低くなる。
【0130】
例えば、供給電流と照射強度との関係を示す関係曲線74が正常状態の正常曲線73と比較して下限閾値以上乖離している、つまり関係曲線74が下限閾値を下回っている場合には、判断部83はこの照射手段4は異常であると判断する。図11における異常領域75は、下限閾値を下回る領域を指している。
【0131】
<電極製造装置100の動作例>
次に、電極製造装置100の動作の一例について説明する。
(第一の照射工程)
第一の照射工程は、付与工程において付与された液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する工程である。第一の照射工程は、最終的に製造される多孔質樹脂の空隙率を向上させ、これにより、例えば、多孔質樹脂における液体又は気体などの流体の取込性を向上させる。具体的には、液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射することにより、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成する。なお、第一の照射工程においては、多孔質前駆体が形成されていれば、未反応成分としての重合性化合物が残存していてもよい。
【0132】
なお、第一の活性エネルギー線としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0133】
第一の照射工程により、多孔質前駆体を形成する理由について説明する。上記の通り、重合誘起相分離により多孔質樹脂を形成する場合、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化する。例えば、液体組成物に対して照射強度の強い活性エネルギー線を照射して重合性化合物の重合が促進される条件下で多孔質樹脂の形成を行った場合、相分離が十分に生じる前に重合が進行してしまい、空隙率の高い多孔質樹脂を製造することが困難になる傾向がある。そのため、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成することを目的とした第一の照射工程においては、照射される第一の活性エネルギー線の照射強度は高すぎないように設定される。具体的には、未反応成分としての重合性化合物の重合反応促進を目的とした後述する第二の照射工程において照射される第二の活性エネルギー線の照射強度より第一の活性エネルギー線の照射強度が低くなるように設定される。
【0134】
より具体的には、第一の活性エネルギー線の照射強度は、1W/cm2以下が好ましく、300mW/cm2未満がより好ましく、100mW/cm2以下が更に好ましい。但し、第一の活性エネルギー線の照射強度が低すぎると、相分離が過度に進行することで多孔質構造のばらつきや粗大化が生じやすくなり、更に、照射時間も長くなって生産性が低下することから、10mW/cm2以上であることが好ましく、30mW/cm2以上であることがより好ましい。なお、第一の活性エネルギー線を照射する光源と液体組成物が相対的に移動しながら第一の照射工程が行われる場合、液体組成物表面における照射強度は連続的に変化する。このような場合における照射強度は、第一の照射工程が実行される領域内から満遍なく(均一に)選択される複数箇所において測定された照射強度の平均値を表す。
【0135】
第一の照射工程において第一の活性エネルギー線を照射する時間は、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造が決定される構造決定時間以上であることが好ましい。第一の活性エネルギー線を照射する時間が構造決定時間以上であることで、多孔質構造の形成が不十分な状態で後述する第二の照射工程が実行されることを避けることができ、結果として、空隙率の高い多孔質樹脂を製造することができる。
【0136】
構造決定時間は、液体組成物を用い、以下の方法により算出することができる。
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に、液体組成物を、貼り合わせた素子間に毛細管現象を利用して充填し、最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「構造決定時間測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製した構造決定時間測定用素子に対して第一の照射工程と同一条件で第一の活性エネルギー線を照射する。照射前の素子における透過率をリファレンスとし、素子における測定値(透過率)の照射中の減衰を計測する。第一の活性エネルギー線が過剰に照射されることで減衰変化が無くなったときの透過率を100%として減衰率を算出する。減衰率は、重合により多孔質構造が形成されるほど高くなる。本開示では、照射開始から透過率の減衰率が50%となるまでに要した時間を構造決定時間と定義する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・透過率測定装置:LCD-5200 大塚電子株式会社製
【0137】
(第二の照射工程)
第二の照射工程は、第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する工程である。第二の照射工程は、第一の照射工程における未反応成分として残存する重合性化合物の重合反応を促進させることで多孔質樹脂の重合率を向上させ、これにより、例えば、多孔質樹脂における強度を向上させる。具体的には、多孔質樹脂の重合率は90%以上であることが好ましい。また、多孔質樹脂が蓄電素子用の絶縁層(セパレーター)として用いられる場合、未反応成分である重合性化合物の残存を抑制することができるので、これにより、重合性化合物の残存により生じる電池特性の低下(例えば、ガス発生等)を抑制することができる。なお、本開示において、第二の活性エネルギー線を照射される「第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物」とは、第一の照射工程において液体組成物が第一の活性エネルギー線を照射されたことで生じる被照射物等を表し、具体的には、第一の照射工程で生じた多孔質前駆体、未反応成分としての重合性化合物、及び溶媒などの複合物である。
【0138】
なお、第二の活性エネルギー線としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0139】
また、第一の活性エネルギー線及び第二の活性エネルギー線の種類は同一であっても相違してもよいが同一であることが好ましく、共に紫外線であることが好ましい。第一の活性エネルギー線及び第二の活性エネルギー線が共に紫外線である場合、ピーク波長は同一であっても相違してもよいが同一であることが好ましい。
【0140】
第二の照射工程により、第一の照射工程における未反応成分として残存する重合性化合物の重合反応を促進させる理由について説明する。
【0141】
上記の通り、重合誘起相分離により多孔質樹脂を形成する場合、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化する。具体的には、上記の第一の照射工程は、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成することを目的として、照射される第一の活性エネルギー線の照射強度が高すぎないように設定されるため、第一の照射工程における未反応成分として重合性化合物が残存する場合があり、重合率の高い多孔質樹脂を製造することが困難になる傾向がある。 そのため、重合率の高い多孔質樹脂を形成することを目的とした第二の照射工程においては、第二の活性エネルギー線の照射強度は第一の活性エネルギー線の照射強度より高くなるように設定される。
【0142】
具体的には、第二の活性エネルギー線の照射強度は、300mW/cm2以上が好ましく、400mW/cm2以上がより好ましく、1W/cm2以上が更に好ましい。なお、第二の活性エネルギー線を照射する光源と被照射物(第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物)が相対的に移動しながら第二の照射工程が行われる場合、被照射物表面における照射強度は連続的に変化する。このような場合における照射強度は、第二の照射工程が実行される領域内から満遍なく(均一に)選択される複数箇所において測定された照射強度の平均値を表す。
【0143】
また、第二の活性エネルギー線の照射強度は第一の活性エネルギー線の照射強度に対して5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましい。
【0144】
なお、多孔質樹脂における重合率を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば、赤外分光法により測定する方法などが挙げられる。具体的には、=CH面外変角振動に対応する820~800cm-1のピーク値、=CH面内変角振動に対応する1430~1400cm-1のピーク値、又はC=Cに対応する1640~1620cm-1のピーク値などを読み取り、未照射時の数値と比較することで算出する。
【0145】
(除去工程)
除去工程は、第二の照射工程後に、多孔質樹脂から溶媒を除去する工程である。溶媒を除去する方法としては特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで溶媒の除去がより促進され、多孔質樹脂中における溶媒の残存を抑制できるので好ましい。
【0146】
<制御手段8による処理例>
図12は、制御手段8による異常検出処理の一例を示すフローチャートである。制御手段8は、例えば、電極製造装置100の操作部を用いたユーザによる異常検出処理の開始操作入力を受け付けたタイミングに図12の処理を開始する。
【0147】
まず、ステップS121において、制御手段8は、照射制御部82により、最大電流を複数の照射手段4に供給し、複数の照射手段4から紫外線を照射させる。
【0148】
続いて、ステップS122において、制御手段8は、照射強度取得部81により、撮像部9から撮像画像93を入力し、該撮像画像93に含まれる複数の照射手段4の像に基づき、複数の照射手段4のそれぞれから照射される紫外線の照射強度情報を演算により取得する。その後、照射強度取得部81は、照射制御部82および判断部83に取得結果を出力する。
【0149】
続いて、ステップS123において、制御手段8は、判断部83により、複数の照射手段4のそれぞれから照射される紫外線の照射強度が照射閾値よりも大きいか否かを判断する。
【0150】
ステップS123において、大きくないと判断された場合には(ステップS123、No)、ステップS124において、制御手段8は、報知部84により、第1異常を報知する。この第1異常は、照射手段4による紫外線の発光に異常があることを示す情報であり、照射手段4の交換や、照射手段4に電流を供給するための配線異常の確認等を促すものである。制御手段8は、第1異常の報知後に処理を終了する。
【0151】
一方、ステップS123において、大きいと判断された場合には(ステップS123、Yes)、ステップS125において、制御手段8は、照射制御部82により、最大電流よりも小さい電流を複数の照射手段4に供給し、複数の照射手段4から紫外線を照射させる。
【0152】
続いて、ステップS126において、制御手段8は、照射強度取得部81により、撮像部9から撮像画像93を入力し、該撮像画像93に含まれる複数の照射手段4の像に基づき、複数の照射手段4のそれぞれから照射される紫外線の照射強度情報を演算により取得する。その後、照射強度取得部81は、照射制御部82および判断部83に取得結果を出力する。
【0153】
続いて、ステップS127において、制御手段8は、判断部83により、関係曲線74が下限閾値よりも大きいか否かを判断する。
【0154】
ステップS127において、大きくないと判断された場合には(ステップS127、No)、制御手段8は、報知部84により第2異常を報知する。この第2異常は、照射手段4による紫外線の発光には異常がないが、照射手段4がミスト等により汚染されていることを示す情報であり、照射手段4の清掃等を促すものである。制御手段8は、第2異常の報知後に処理を終了する。
【0155】
一方、ステップS127において、大きいと判断された場合には(ステップS127、Yes)、制御手段8は、処理を終了する。
【0156】
以上のようにして、制御手段8は、複数の照射手段4の異常検出処理を行うことができる。
【0157】
<電極製造装置100の作用効果>
電極製造装置100の作用効果について説明する。
【0158】
従来から、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与する付与手段を含む電極製造装置等の樹脂構造体の製造装置が知られている。
【0159】
電極製造装置では、基材上の液体組成物に紫外線を所定の時間照射するために、ある程度の紫外線の照射面積が必要になる。またロールツーロール方式の電極製造装置の場合には、基材の搬送速度が速くなるほど、紫外線の照射時間を稼ぐために紫外線の照射時間を長く確保する必要がある。しかも所定の照射強度の紫外線が必要であるため、紫外線照度分布も一定である必要がある。
【0160】
上記の条件を満足するためには、紫外線を照射する照射手段を複数並べて使用することが望ましいが、この場合には、複数の照射手段それぞれによる紫外線の照射状態を監視することが求められる。照射手段の劣化または故障等による照射強度の変動を監視するためである。特にロールツーロール方式では、一気に1ロール全体の基材に樹脂構造体を形成するため、途中で紫外線の照射強度が大きく変動したり、照射が停止したりする異常が発生すると、どの時点において異常が発生したかを特定することが困難になり、1ロール全体が無駄になってしまう場合がある。
【0161】
一方、基材上に液体組成物を付与する装置には、紫外線硬化性の液体組成物を基材に吐出する記録ヘッド等の付与手段と、紫外線等の活性エネルギー線の照射手段と、を移動させるキャリッジを所定位置に移動させた後、照射手段から照射される紫外線の照度を検知するインクジェットプリンタが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0162】
しかしながら、生産性を向上させる観点では、付与手段を移動させずに基材上に樹脂構造体を形成する、いわゆるライン型の電極製造装置が求められる。ライン型の電極製造装置では、キャリッジを用いないため、照射手段を移動させることができず、特許文献1に開示されたインクジェットプリンタの構成を適用することができない。
【0163】
本実施形態に係る電極製造装置100(樹脂構造体の製造装置)は、紫外線(活性エネルギー線)硬化型の液体組成物Qを基材2上に付与する付与手段3と、基材2上に付与された液体組成物Qに紫外線を照射する少なくとも1つの照射手段4と、複数の照射手段4の撮像画像93(照射手段による照射状態に対応する状態情報)を出力する撮像部9(出力手段)と、を有する。
【0164】
付与手段3は、基材2の搬送方向20に交差する幅方向21において基材2上に液体組成物Qを付与する付与幅30全体にわたって設けられた複数のノズル32から液体組成物Qを吐出することにより、基材2上に液体組成物Qを付与する。撮像部9は、照射手段4から紫外線が照射される照射領域400以外の領域に配置されている。
【0165】
電極製造装置100は、付与手段3および照射手段4を移動させずに、複数の照射手段4の撮像画像93を取得し、この撮像画像93に含まれる複数の照射手段4の像に基づいて、複数の照射手段4の照射状態を監視できる。このため、本実施形態では、付与手段3および照射手段4を移動させない構成において、複数の照射手段4の照射状態を監視可能な電極製造装置100を提供できる。
【0166】
また、本実施形態では、撮像部9は、基材2が搬送される搬送領域500以外の領域に配置されている。電極製造装置100は、基材2の搬送が阻害されないため、生産性を高く確保して基材2上に樹脂構造体を形成できる。
【0167】
また、本実施形態では、電極製造装置100は、照射手段4から照射された紫外線を集束させる集束手段91を有する。撮像部9は、照射手段4の個数以上の画素930を有し、集束手段91により集束される紫外線を検出して照射手段4の像を撮像する。電極製造装置100は、撮像部9による1回の撮像により複数の照射手段4それぞれの照射状態を監視できるため、監視効率を向上させることができる。そして、電極製造装置100による製造の生産性を落とすことなく、複数の照射手段4の異常への迅速な対策が可能になる。
【0168】
また、本実施形態では、電極製造装置100は、照射手段4による紫外線の照射を制御する制御手段8を有し、制御手段8は、撮像部9により撮像された照射手段4の像に基づき、照射手段4による紫外線の照射強度を制御する。電極製造装置100は、照射手段4による照射強度の変動を補償できるため、電極製造装置100による製造品質を高く確保できる。
【0169】
また、本実施形態では、制御手段8は、照射手段4による照射強度が所定の照射閾値以下である場合に照射手段4の異常を報知する。照射手段4の異常をユーザがいち早く認識できるため、照射手段4の異常への迅速な対策が可能になる。
【0170】
また、本実施形態では、電極製造装置100は、照射手段4に流れる電流を検出する電流検出手段43を有し、制御手段8は、照射手段4による照射強度と、電流検出手段43による検出結果と、に基づいて照射手段4の異常を報知する。照射手段4の故障等の重度な異常と、照射手段4のミストによる汚染等の軽度な異常と、を区別して異常を報知できるため、照射手段4の異常への迅速で、かつ異常に応じた適切な対策が可能になる。
【0171】
また、本実施形態では、照射手段4は、少なくとも1つの第1照射手段4aと、少なくとも1つの第2照射手段4bと、を含み、撮像部9は、第1撮像部9aおよび9bと、第2撮像部9cおよび9dと、を含む。第1照射手段4aは、付与手段3によって基材2上に付与された液体組成物Qに、第1照射強度Lt1の紫外線を照射する。第2照射手段4bは、搬送方向20における第1照射手段4aの下流側に設けられ、第1照射手段4aにより紫外線が照射された液体組成物Qに、第1照射強度Lt1よりも高い第2照射強度Lt2の紫外線を照射する。第1撮像部9aおよび9bは、第1照射手段4aの個数以上の画素930を有し、集束手段91により集束される紫外線を検出して第1照射手段4aを撮像する。第2撮像部9cおよび9dは、第2照射手段4bの個数以上の画素930を有し、集束手段91により集束される紫外線を検出して第2照射手段4bを撮像する。
【0172】
第1照射手段4aと、第2照射手段4bと、により2段階に分けて紫外線を照射し、また下流側における第2照射強度Lt2を第1照射強度Lt1よりも高くすることにより、第2照射強度Lt2の紫外線による液体組成物Qの硬化時間を短縮できる。本実施形態では、硬化時間の短縮に応じて第2照射領域長さ402を短くできるため、電極製造装置100を小型化することができる。また、本実施形態では、第1撮像部9aおよび9bと、第2撮像部9cおよび9dと、を設けることにより、小型化した電極製造装置100において、複数の照射手段4の照射状態を監視することができる。
【0173】
また、本実施形態では、紫外線の照射強度に対する第1撮像部9aおよび9bの第1ダイナミックレンジDr1は、紫外線の照射強度に対する第2撮像部9cおよび9dの第2ダイナミックレンジDr2とは異なる。例えば、電極製造装置100は、第1照射強度Lt1の紫外線を第1ダイナミックレンジDr1の第1撮像部9aおよび9bにより検出し、第1照射強度よりも高い第2照射強度Lt2の紫外線を、第1ダイナミックレンジDr1よりも大きい第2ダイナミックレンジDr2の第2撮像部9cおよび9dにより検出する。電極製造装置100は、第1撮像部9aおよび9bと、第2撮像部9cおよび9dと、の間において照射強度の検出分解能を合わせることができるため、複数の照射手段4の照射状態の監視精度を高く確保できる。
【0174】
また、本実施形態では、第1撮像部9aおよび9b、並びに第2撮像部9cおよび9dそれぞれによる撮像画像93に基づいて、照射強度のピークを自動検出し、検出されたピークと第1照射手段4aおよび第2照射手段4bとの対応付けを行う。これにより、複数の照射手段4の照射状態を監視結果に応じて、第1照射手段4aおよび第2照射手段4bを制御できる。
【0175】
また、本実施形態では、制御手段8は、第1撮像部9aおよび9bにより撮像された第1照射手段4aの像と、第2撮像部9cおよび9dにより撮像された第2照射手段4bの像と、に基づき、第1照射手段4aおよび第2照射手段4bそれぞれによる紫外線の照射強度を制御する。電極製造装置100は、照射手段4による照射強度の変動を補償できるため、小型であっても製造品質を高く確保できる。
【0176】
また、本実施形態では、電極製造装置100は、照射手段4により照射された紫外線のうち、電極製造装置100から外部に出射される紫外線を遮蔽する遮蔽手段42を有する。本実施形態では、遮蔽手段42により紫外線を遮蔽できるため、電極製造装置100の周囲に存在する人や物に紫外線が照射されることを防止できる。
【0177】
また、本実施形態では、樹脂構造体は多孔質構造を含むことにより、電池におけるセパレータ層等を、電極製造装置100により形成できる。
【0178】
また、本実施形態では、多孔質構造は、正極基材上あるいは負極基材上、または正極基材に設けられた正極活物質上あるいは負極基材上に設けられた負極活物質上に形成されることにより、電池におけるセパレータ層等を、電極製造装置100により形成できる。
【0179】
<変形例>
電極製造装置100は、様々な変形が可能である。以下、変形例を説明する。なお、第1実施形態と同じ構成部には、同じ符号を付し、重複した説明を適宜省略する。この点は、以降に示す他の実施形態においても同様とする。
【0180】
(第1変形例)
図13は、第1変形例に係る照射手段4、撮像部9の配置の一例を示す上面図である。図13に示すように、撮像部9における第2撮像部9cおよび9dは、搬送方向20における照射領域400の下流側であって、基材2が搬送される搬送領域500内に配置されている。この構成によっても、上述した電極製造装置100の同様の効果を得ることができる。
【0181】
また、第1変形例では、照射領域400の下流側に撮像部9を配置することにより、照射手段4の一部に異常が発生した場合に、液体組成物Qを硬化させる前に基材2の搬送を停止できるため、液体組成物Qの無駄な硬化を抑制できる。
【0182】
さらに、第1変形例では、基材2が搬送される搬送領域500内に配置することにより、複数の照射手段4のそれぞれと、第2撮像部9cおよび9dと、の間の距離の差異を小さくできるため、複数の照射手段4の像の品質を向上させることができる。
【0183】
また、第1変形例では、撮像部9の配置の自由度を高めることができる。
【0184】
(第2変形例)
図14は、第2変形例に係る複数の照射手段4における組を例示する図である。本変形例では、照射手段4は、搬送方向20および幅方向21に沿って並んで複数設けられている。制御手段8は、搬送方向20に沿って並んだ複数の照射手段4により構成される組G1、G2およびG3ごとに、照射手段4から照射される紫外線の照射強度を制御する。
【0185】
例えば、図14では、搬送方向20に沿って10個、幅方向21に沿って3個の合計30個の照射手段4が配置されている。組G1、G2およびG3のそれぞれは、搬送方向20に沿った10個の照射手段4により構成される。
【0186】
ここで、照射領域400の面積が広く、電極製造装置100が数多くの照射手段4を有する場合には、それぞれの照射手段4を個別に制御すると制御手段8による処理負荷が増大する場合がある。
【0187】
一方、硬化される重合性可能物は、紫外線の照射強度と時間との積で硬化が進行するため、搬送方向20に沿って並べられた10個の照射手段4による照射強度の総和が、組G1、G2およびG3の組ごとにおいて略等しければ、基材2全体への樹脂構造体の形成精度を補償できる。
【0188】
例えば、制御手段8における照射制御部82は、組G1からG3ごとに、各組に含まれる10個の照射手段4による照射強度の総和を検出し、この総和が予め定められた規定値に対して所定範囲内に収まるように、組G1からG3ごとの照射強度を制御する。
【0189】
本変形例では、制御手段8は、組G1、G2およびG3の3つの組の照射強度を制御し、全ての照射手段30個を個別に制御しないことにより、制御因子を削減し、処理負荷を低減しつつ、樹脂構造体の形成精度を補償できる。
【0190】
また、本変形例では、処理の高速化により高速制御にも対応可能になる。
【0191】
なお、紫外線の照射強度は、樹脂構造体の性状に影響を与えるが、大きくばらつかなければさほど影響がない場合もある。また照射手段4の照射強度が極度に変動する可能性は低いが、もし極度に変動した場合には、組ごとの制御から照射手段4の個別制御に変更してもよい。
【0192】
上記以外の効果は、第1実施形態と同様である。
【0193】
[第2実施形態]
図15は、第2実施形態に係る電極製造装置100aの全体構成を例示する図である。図15に示すように、電極製造装置100aは、操作手段11と、表示手段12と、を有する。
【0194】
操作手段11は、ユーザによる操作入力を受け付ける、例えばタッチパネルである。表示手段12は、撮像部9から出力される撮像画像93を表示する、例えばディスプレイである。ユーザは、表示手段12により表示される撮像画像93から照射手段4の状態情報を視認できる。なお、操作手段11と表示手段12が一体化されていてもよい。
【0195】
電極製造装置100aは、撮像画像93を表示する表示手段12を有することにより、照射手段4の異常を迅速かつ適切にユーザに認識させることができる。
【0196】
また上記以外の効果として、以下の点が挙げられる。すなわち、照射手段4は遮蔽手段42(図4参照)内に収容されているため、ユーザは照射手段4から紫外線が照射されているかを視認できない。操作手段11等を介して照射手段4から紫外線が照射されていることを表示してもよいが、実際に照射されているか否かを目視により視認しないとユーザとしては不安感が残る。操作手段11において照射されていることが表示されていたとしても、他の安全装置やインターロックスイッチ等が働いて、実際には照射されていない場合もあり得る。本実施形態では、表示手段12により撮像部9による撮像画像を表示することにより、ユーザは不安を感じることなく作業を行うことができる。
【0197】
なお、上記以外の効果は、第1実施形態と同様である。
【0198】
以上、実施形態を説明したが、本開示は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0199】
実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本開示の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本開示の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【0200】
また、実施形態は樹脂構造体の製造方法も含む。例えば樹脂構造体の製造方法は、樹脂構造体の製造装置による前記樹脂構造体の製造方法であって、前記樹脂構造体の製造装置が、付与手段により、活性エネルギー線硬化型の液体組成物を基材上に付与し、少なくとも1つの照射手段により、前記基材上に付与された前記液体組成物に活性エネルギー線を照射し、出力手段により、前記照射手段による照射状態に対応する状態情報を出力し、前記付与手段は、前記基材の搬送方向に交差する幅方向において前記基材に前記液体組成物を付与する付与幅全体にわたって設けられた複数のノズルから前記液体組成物を吐出することにより、前記基材上に前記液体組成物を付与し、前記出力手段は、前記照射手段から前記活性エネルギー線が照射される照射領域以外の領域に配置されている。このような樹脂構造体の製造方法により、上述した樹脂構造体の製造装置と同様の効果を得ることができる。
【0201】
上記で説明した実施形態の各機能は、一または複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(digital signal processor)、FPGA(field programmable gate array)や従来の回路モジュール等のデバイスを含むものとする。
【符号の説明】
【0202】
1 巻き出しロール
2 基材
3 付与手段
3a、3b、3c、3d 吐出部
4 照射手段
4a 第1照射手段
4a' 第1照射手段像
4b 第2照射手段
4b' 第2照射手段像
5 加熱手段
6 検査手段
7 巻取りロール
8 制御手段
9 撮像部(出力手段の一例)
9a、9b 第1撮像部
9c、9d 第2撮像部
11 操作手段
12 表示手段
20 搬送方向
21 幅方向
30 付与幅
31 ヘッド
32 ノズル
41 N2パージボックス
410 紫外線透過ガラス
42 遮蔽手段
43 電流検出手段
71 初期値
72 画素輝度値
73 正常曲線
74 関係曲線
75 異常領域
81 照射強度取得部
82 照射制御部
83 判断部
84 報知部
90 筐体
91 集束手段
92 紫外線透過フィルタ
93 撮像画像
930 画素
100 電極製造装置(樹脂構造体の製造装置)
400 照射領域
401 第1照射領域長さ
402 第2照射領域長さ
500 搬送領域
Dr1 第1ダイナミックレンジ
Dr2 第2ダイナミックレンジ
Lt1 第1照射強度
Lt2 第2照射強度
G1、G2、G3 組
Q 液体組成物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0203】
【特許文献1】特許4649935号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15