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特開2023-97070硫化物固体電解質の製造方法及び電極合材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097070
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法及び電極合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20230630BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230630BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230630BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230630BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213215
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 徳仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ02
5H050AA12
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA13
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、電極活物質、とりわけ正極活物質との反応性に優れる硫化物固体電解質、及び電極合材の製造方法を提供を提供する。
【解決手段】リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合すること、を含む硫化物固体電解質の製造方法、並びに電極合材の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合すること、を含む安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウムオキソ酸塩が、炭酸リチウムである請求項1に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記原料含有物が、硫化リチウムを含有する請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記原料含有物が、硫化リンを含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウム又は単体ハロゲンから選ばれる少なくとも一種のハロゲン含有化合物を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記原料含有物に含まれるリチウム原子100モル部に対する、前記リチウムオキソ酸塩のモル数が1.0モル部以上10.0モル部以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記原料含有物と、前記リチウムオキソ酸塩と、を、下記式(1)~(3)を満足するように使用する、請求項1~6のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
4.8≦リチウム原子/リン原子(モル比)≦5.6 (1)
3.8≦硫黄原子/リン原子(モル比)≦4.4 (2)
1.2≦ハロゲン原子/リン原子(モル比)≦2.0 (3)
【請求項8】
前記混合することを、粉砕機を用いて行う請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記混合することにより得られた混合物を加熱することを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記硫化物固体電解質が、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質である、請求項1~9のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項11】
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合することにより、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を得ること、
前記硫化物固体電解質と、電極活物質と、を混合すること、
を含む電極合材の製造方法。
【請求項12】
前記安定結晶相を有する硫化物固体電解質を、前記混合することにより得られた混合物を加熱して得る、請求項11に記載の電極合材の製造方法。
【請求項13】
前記硫化物固体電解質が、アルジロダイト型結晶構造を有する請求項11に記載の電極合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法及び電極合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていた。電解液として有機溶媒を含む電解質を用いた電池は高いイオン伝導度を示し、電池としての性能面では優れているものの、電解液が液体であり、かつ可燃性であることから、電池として用いた場合に、漏洩、発火等に関する安全性が懸念されている。近年、様々な用途において高容量化、高出力化が求められており、従来の電解液を用いた電池における安全性への懸念は大きくなる一方である。そこで、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
固体電解質層に用いられる固体電解質としては、様々な種類のものが開発されており、例えば特許文献1にはLiS-P系の固体電解質、更にハロゲン原子を含む固体電解質として、特許文献2にはLiS-P-LiI系の硫化物固体電解質、特許文献3及び4にはLiS-P-LiI-LiBr系の硫化物固体電解質等が開示されている。また、固体電解質として、特許文献5にはアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質が開示されている。そして、特許文献6には、立方晶系Argyrodite型結晶構造を有する化合物の表面が非Argyrodite型結晶構造を有する化合物で被覆される硫化物系固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-228570号公報
【特許文献2】特開2013-201110号公報
【特許文献3】国際公開第2014/208180号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2014/208239号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2018/047566号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2018/003333号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の様々な固体電解質の中でも、イオン伝導度が高いことから、ハロゲン原子を含む硫化物固体電解質が注目されている。ハロゲン原子を含む硫化物固体電解質は、イオン伝導度が大きなメリットである一方、水分等との反応性が高く、硫化水素が発生しやすい点がデメリットとして挙げられる。また、硫化水素が発生することに伴い、イオン伝導度が低下する場合もある。そのため、ハロゲン原子を含む硫化物固体電解質について、硫化水素が発生しにくいものとすることが喫緊の課題としてある。さらに、全固体リチウム電池とする際の、電極活物質との反応性に優れていることも重要である。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れる、安定結晶相を有する硫化物固体電解質、及び電極合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
【0008】
1.リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合すること、を含む安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法。
2.リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合することにより、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を得ること、
前記硫化物固体電解質と、電極活物質と、を混合すること、
を含む電極合材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れる、安定結晶相を有する硫化物固体電解質、及び電極合材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】曝露試験において用いられる試験装置の概略構成図である。
図2】実施例2で得られた結晶性固体電解質のX線回折スペクトルである。
図3】実施例3で得られた結晶性固体電解質のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。
【0012】
本明細書において、「硫化物固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する、硫黄原子を含む電解質を意味する。本実施形態における固体電解質は、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含み、リチウム原子に起因するイオン伝導度を有する固体電解質である。
【0013】
「硫化物固体電解質」には、結晶構造を有する結晶性固体電解質及び非晶性固体電解質の両方が含まれ、本実施形態の製造方法によれば、そのいずれもが得られる。
本明細書において、結晶性固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンに、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わない材料である。すなわち、結晶性固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい、ものである。そして、結晶性固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性固体電解質が含まれていてもよいものである。したがって、結晶性固体電解質には、非晶質固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本明細書において、非晶性固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンが実質的に材料由来のピーク以外のピークが観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものであることを意味する。
【0014】
「安定結晶相」は、一般的には、圧力及び温度等の外的条件において熱力学的に自由エネルギーが低い状態にある、すなわち安定である結晶相(「結晶相」は「結晶構造」とも称せる。)であることを意味する。本明細書においては、上記結晶相の中でも、高温から低温まで、例えば300℃以下の高温から室温を含む低温までのいずれの温度域でも構造変化を起こさずに存在する、安定した結晶相(安定した結晶構造)であることを意味するものとする。
「安定結晶相」を有するか否かについては、例えば試料を、室温常圧において、アルゴン雰囲気中で封じた管の中で、300℃、10時間の熱処理を行った際に、熱処理の前後でX線回折分析において回折ピークに変化がない(測定上、誤差範囲内である)場合、当該試料は「安定結晶相」を有していると判断できる。
【0015】
「安定結晶相」である結晶構造としては、例えばアルジロダイト型結晶構造、LGPS(LiGePS)型結晶構造が挙げられる。これらの結晶構造についての詳細は後述する。
【0016】
(本発明に至るために本発明者らが得た知見)
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
硫黄原子及びハロゲン原子を有する硫化物固体電解質は、既述のように高いイオン伝導度を有する点で有利である一方、水分等との反応性が高く、硫化水素が発生しやすいというデメリットを有している。特許文献6には、硫化水素の発生を抑制する技術として、硫化物固体電解質の表面に化合物で被覆する技術が開示されている。しかし、硫化水素の発生の抑制と高いイオン伝導度との両立は十分に図れらておらず、更なる改良が必要であることが分かった。
【0017】
そこで、本発明者らは、被覆ではない方法で、硫化水素の発生を抑制することができないかについて検討を進めた。硫化物固体電解質において、硫化水素の発生源となるのは、当該固体電解質において遊離して存在する硫黄原子(以下、「硫黄原子」は‐2価の硫黄イオンも含むものとし、単に「遊離硫黄原子」と称することがある。)であることは知られている。この遊離硫黄原子を、他のイオンにより置換して除去すれば、遊離硫黄原子に起因する硫化水素の発生を抑制することができるのではないか、と考えた。そして、発明者らは、ポリアニオン(「多価陰イオン」とも称される。)に着目した。
【0018】
ポリアニオン(多価陰イオン)を有する化合物、例えばLMO(マンガン酸リチウム)、LCO(コバルト酸リチウム)等の化合物は、リチウム電池の正極活物質として用いられ、硫化物固体電解質等の固体電解質と組み合わせて正極として用いられることが知られている。すなわち、ポリアニオン(多価陰イオン)を有する化合物は、固体電解質と混合して電極として用いられることは知られているといえる。
【0019】
本発明者らは、ポリアニオン(多価陰イオン)を有する化合物を、固体電解質と混合するのではなく、硫化物固体電解質の原料の一つとして用いることで、遊離硫黄原子をポリアニオン(多価陰イオン)で置換して除去できないかと考えた。そして、ポリアニオン(多価陰イオン)を有する化合物を用いて硫化物固体電解質を作製したところ、ポリアニオン(多価陰イオン)に限らず、特に酸素原子を有する一価又は多価の陰イオンを有する化合物、なかでもリチウム塩であるリチウムオキソ酸塩を用いることで、高いイオン伝導度を確保しつつ、硫化水素の発生を抑制し得ることを見出した。さらに、得られた硫化物固体電解質を電極に用いる場合に電極活物質との反応性に優れる、とりわけ正極に用いる場合に正極活物質との反応性に優れるという効果も得られることを見出すに至った。
【0020】
本実施形態の第一の態様に係る安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合すること、
を含む製造方法、である。
【0021】
硫化物固体電解質を構成する各原子を含む原料含有物と、特定のリチウムオキソ酸塩とを混合することで、当該原料含有物とリチウムオキソ酸塩との反応が進行し、安定結晶相を有する硫化物固体電解質が得られる。
リチウムオキソ酸塩を硫化物固体電解質の原料の一つとして用いることで、既述のように硫化水素の発生を抑制する硫化物固体電解質が得られる。硫化水素の発生を抑制し得る理由は定かではないが、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基が固体電解質中の硫黄を酸化置換し、硫化水素の発生源を減少させるためであると、考えられる。そして、リチウムオキソ酸塩に含まれるリチウム原子は、硫化物固体電解質を構成するリチウム原子として寄与することとなるため、イオン伝導度の低下は抑えられる。その結果として、高いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質が得られるものと考えられる。
【0022】
さらに、本実施形態で用いられるリチウムオキソ酸塩は、リチウム電池の正極に用いられる正極活物質であるLMO(マンガン酸リチウム)、LCO(コバルト酸リチウム)等のポリアニオンを有する化合物とは異なるものの、酸素原子を含む陰イオンを有する点で共通する。そのため、得られた硫化物固体電解質を電極、とりわけ正極に用いる場合に、正極活物質との反応性に優れるという効果も得られているものと考えられる。
本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、既述のように電極活物質、すなわち正極活物質及び負極活物質のいずれとの反応性に優れるものであり、中でも正極活物質との反応性に優れるものである。本明細書では、本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質が特に正極活物質との反応性に優れることから、正極活物質との反応性に優れることだけに言及することがあるが、既述のように負極活物質を含めた電極活物質との反応性にも優れることはいうまでもない。
【0023】
本実施形態の第二の態様に係る安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法は、
前記リチウムオキソ酸塩が、炭酸リチウムである、
製造方法である。
本実施形態の製造方法において用いられるリチウムオキソ酸塩は、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種の化合物であるが、中でも炭酸リチウムは、硫化水素の発生の抑制、高いイオン伝導度、及び電極活物質、とりわけ正極活物質との反応性について、最も優れた効果を発現するものである。
【0024】
本実施形態の第三~第五の態様に係る安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法は、各々
前記原料含有物が、硫化リチウムを含有する、
前記原料含有物が、硫化リンを含有する、及び
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウム又は単体ハロゲンから選ばれる少なくとも一種のハロゲン含有化合物を含有する、
製造方法である。
硫化物固体電解質が有するイオン伝導度の発現源となり、かつイオン原子の供給源として硫化リチウム、硫黄原子及びリン原子の供給源として硫化リン、またハロゲン原子の供給源としてハロゲン化リチウム及び単体ハロゲンを採用することで、より効率的に硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れる、安定結晶相を有する硫化物固体電解質が得られる。
【0025】
本実施形態の第六の態様に係る安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法は、
前記原料含有物に含まれるリチウム原子100モル部に対する、前記リチウムオキソ酸塩のモル数が1.0モル部以上10.0モル部以下である、
製造方法である。
リチウムオキソ酸塩の使用量を上記範囲内とすることで、原料含有物とリチウムオキソ酸塩との反応が促進しやすく、また硫化水素の発生の抑制、高いイオン伝導度、正極活物質との反応性のいずれもについて優れた効果が得られやすくなる。
【0026】
本実施形態の第七の態様に係る安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法は、
前記原料含有物と、前記リチウムオキソ酸塩と、を、下記式(1)~(3)を満足するように使用する、
4.8≦リチウム原子/リン原子(モル比)≦5.6 (1)
3.8≦硫黄原子/リン原子(モル比)≦4.4 (2)
1.2≦ハロゲン原子/リン原子(モル比)≦2.0 (3)
製造方法である。
【0027】
上記第六の態様と同様に、リチウムオキソ酸塩の使用量を規定するものであり、リチウムオキソ酸塩の使用量を上記範囲内とすることで、原料含有物とリチウムオキソ酸塩との反応が促進しやすく、また硫化水素の発生の抑制、高いイオン伝導度、正極活物質との反応性のいずれもについて優れた効果が得られやすくなる。
【0028】
本実施形態の第八の態様に係る安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法は、
前記混合することを、粉砕機を用いて行う
製造方法である。
【0029】
原料含有物とリチウムオキソ酸塩との混合を粉砕機で行うことにより、原料含有物とリチウムオキソ酸塩とが均一に混合するため、これらの反応が促進し、均質な硫化物固体電解質を効率的に製造することが可能となる。また、均質な硫化物固体電解質は、硫化水素の発生の抑制、高いイオン伝導度、正極活物質との反応性の効果を安定的に発現することとなる。
【0030】
本実施形態の第九の態様に係る安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法は、
さらに、前記混合することにより得られた混合物を加熱することを含む、
製造方法である。
【0031】
さらに加熱をすることにより、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基による硫化物固体電解質中の硫黄の酸化置換がより効率的に進行するため、硫化水素の発生の抑制の効果が向上する。また、本実施形態の製造方法によれば、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の配合比率等を調整することにより、例えばアルジロダイト型結晶構造、LPGS型結晶構造等の安定結晶相を有する硫化物固体電解質が得られる。
【0032】
本実施形態の第十の態様に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
前記硫化物固体電解質が、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質である、製造方法である。
【0033】
既述のように、本実施形態の製造方法によれば、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の配合比率等を調整することにより、様々な構造を有する硫化物固体電解質が得られる。中でも、安定結晶相としてアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高い一方、硫化水素を発生しやすいものと知られている。本実施形態の製造方法によれば、高いイオン伝導度の低下を抑制しながら、硫化水素の発生を抑制することができるため、リチウム電池に用いる場合に極めて有効となる。
また、安定結晶相としてアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質とすると、リチウムオキソ酸塩との反応性が高く、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基による硫黄の酸化置換が進行しやすいことから、より容易に硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れる硫化物固体電解質を製造することが可能となる。
【0034】
本実施形態の第十一の態様に係る電極合材の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合することにより、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を得ること、
前記硫化物固体電解質と、電極活物質と、を混合すること、
を含む電極合材の製造方法である。
【0035】
第十一の態様に係る電極合材の製造方法は、上記第一の態様に係る硫化物固体電解質の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質を用いて、電極活物質と、を混合することにより、電極合材を得るものである、といえる。第一の態様に係る硫化物固体電解質の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、後述するように、全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合が1.0モル%以上5.0モル%以下であることで、硫化水素の発生の抑制、高いイオン伝導度、正極活物質との反応性のいずれもについて優れた効果を発現し得るものとなる。硫化物固体電解質において、LiPO結晶構造の割合を上記所定の範囲内とすることは、上記の本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法により製造することで実現しやすい。すなわち、本実施形態の電極合材の製造方法は、上記の本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法を含む構成とすることで、上記安定結晶相を有する硫化物固体電解質を含む電極合材を容易に得ることができる。
【0036】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質がLiPO結晶構造を有することは、後述する実施例で得られた硫化物固体電解質のX線回折スペクトルにより確認されている。また、31P-NMRスペクトルによってもLiPO結晶構造に帰属するピーク(5~9ppm)が確認されており、またその割合も当該スペクトルから確認されている。
【0037】
既述のように、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法において、原料の一つとしてリチウムオキソ酸塩を用いることで、リチウムオキソ酸塩に含まれる陰イオン部分(オキソ酸基)が、硫化物固体電解質中の硫黄を酸化置換して、硫化物固体電解質の構造内に取り込まれることとなる。そして、取り込まれた陰イオン部分に含まれる酸素原子と、リチウムオキソ酸塩に含まれるリチウム原子と、原料含有物に含まれるリチウム原子及びリン原子と、によりLiPO結晶構造を構成するものと考えられる。
【0038】
このように、LiPO結晶構造は、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基が硫化物固体電解質中の硫黄を酸化置換して形成するものであることから、本実施形態の電極合材の製造方法に用いられる硫化物固体電解質は、LiPO結晶構造を有することで、硫化水素の発生を抑制するものとなる。そして、LiPO結晶構造を所定の割合で有することにより、硫化物固体電解質の主結晶を破壊することがなく、リチウムオキソ酸塩に含まれるリチウム原子が効率的に硫化物固体電解質を構成するリチウム原子として寄与しやすくなるため、イオン伝導度はそのまま維持されて、高いイオン伝導度を有するものとなる。さらに、リチウムオキソ酸塩に由来するLiPO結晶構造を有することから、正極活物質との反応性も優れたものになると考えられる。
本実施形態の電極合材の製造方法により得られる電極合材は、硫化物固体電解質と電極活物質とが良好な状態で存在することから、上記の本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質の優れた性能をそのまま発揮し得るため、高品質のものとなる。
【0039】
本実施形態の第十二の態様に係る電極合材の製造方法は、
前記安定結晶相を有する硫化物固体電解質を、前記混合することにより得られた混合物を加熱して得る、
というものである。
上記第九の態様に係る硫化物固体電解質の製造方法と同様に、さらに加熱をすることにより、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基による硫化物固体電解質中の硫黄の酸化置換がより効率的に進行するため、硫化水素の発生の抑制の効果が向上する。
【0040】
本実施形態の第十三の態様に係る電極合材の製造方法は、
前記硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造を有する、
というものである。
【0041】
上記の第十の態様と同様に、安定結晶相としてアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質を用いると、高いイオン伝導度の低下を抑制しながら、硫化水素の発生を抑制することができるため、リチウム電池に用いる場合に極めて有効となる。また、電極合材に用いられる硫化物固体電解質は正極活物質との反応性に優れるものであり、安定結晶相を有する硫化物固体電解質の優れた性能をそのまま発揮し得るため、本実施形態の製造方法により得られる電極合材は、高品質のものとなる。
【0042】
〔安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法〕
以下、本実施形態の安定結晶相を有する硫化物固体電解質の製造方法について、上記の態様に即しながら、より詳細に説明する。
【0043】
(原料含有物)
本実施形態の製造方法において用いられる原料含有物は、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含むものである。原料含有物としては、一種の化合物を含有するものであってもよいし、複数種の化合物を含有するものであってもよい。化合物の入手のしやすさを考慮すると、複数種の化合物を含有するものであることが好ましく、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含む化合物を複数種で組み合わせて用いることが好ましい。
【0044】
原料含有物に含まれる、原料として用い得る化合物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウムなどのハロゲン化アルカリ金属;三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン;各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リン;フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClF)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の原子から選ばれる少なくとも二種の原子からなる化合物、またフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体が代表的に挙げられる。
【0045】
上記以外の原料として用い得る化合物としては、例えば、上記四種の原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含み、かつ当該四種の原子以外の原子を含む化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
【0046】
本実施形態においては、より容易に高いイオン伝導度を有する、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を得る観点から、アルカリ金属原子の中でも、リチウム原子、ナトリウム原子が好ましく、リチウム原子がより好ましく、またハロゲン原子の中でも塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。また、これらの原子は単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
これと同様の観点から、原料に用い得る化合物としては、上記の中でも、硫化リチウム、硫化ナトリウム等の硫化アルカリ金属、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リンが好ましい。
また、ハロゲンを含有する化合物としては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体が好ましく、ハロゲン化リチウム及び単体ハロゲンを単独で、又はこれらを組み合わせて用いる、すなわちハロゲン化リチウム及び単体ハロゲンから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。なお、ハロゲン化リチウム、単体ハロゲンを単独で用いる場合、またハロゲン化リチウムとハロゲン単体とを併用する場合、複数種のハロゲン化リチウム、複数種の単体ハロゲンを用い得ることはいうまでもない。
【0048】
硫化アルカリ金属の中でも硫化リチウムが好ましく、硫化リンの中でも五硫化二リンが好ましく、ハロゲン単体の中でも塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が好ましく、塩素(Cl)、臭素(Br)がより好ましく、ハロゲン化リチウムの中でも塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、塩化リチウム、臭化リチウムがより好ましい。また、ハロゲン化リチウムを用いる場合、塩化リチウムと臭化リチウムとを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0049】
原料に用い得る化合物の組合せとしては、例えば、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムの組合せ、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン単体の組合せ、硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム及びハロゲン単体の組合せが好ましく挙げられ、中でも硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムの組合せが好ましい。
【0050】
本実施形態においては、上記の例示したものを単独で、又は複数種を組合せて用いることが可能である。
【0051】
本実施形態においては、原料として用い得る化合物としては、PSユニット等を含むLiPS等の固体電解質も挙げられる。原料として用いる化合物に採用し得る固体電解質としては、分子構造としてLiPS構造を有する非晶性硫化物固体電解質(「非晶性LiPS」とも称される。)、または結晶性硫化物固体電解質(「結晶性LiPS」とも称される。)等が挙げられ、高いイオン伝導度を得ることを考慮すると、Li構造を含まない非晶性硫化物固体電解質又は結晶性硫化物固体電解質が好ましく、非晶性硫化物固体電解質がより好ましい。
これらの固体電解質は、例えば硫化リチウムと硫化リンとを用いて、メカニカルミリング法、スラリー法、溶融急冷法等の従来より存在する製造方法により製造したものを用いることができ、市販品を用いることもできる。
【0052】
アルカリ金属を含む化合物として硫化リチウムが用いられる場合、硫化リチウムは粒子であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、10μm以上2000μm以下であることが好ましく、30μm以上1500μm以下であることがより好ましく、50μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。また、上記の原料として例示したもののうち固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。
【0053】
原料として、硫化リチウムと、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムと、を用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの割合は、より高いイオン伝導度を得る観点から、好ましくは60mol%以上、より好ましくは65mol%以上、更に好ましくは70mol%以上であり、上限として好ましくは85mol%以下、より好ましくは80mol%以下、更に好ましくは78mol%以下である。
【0054】
硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム、必要に応じて用いられる他の原料を用いる場合の、これらの合計に対する硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量は、好ましくは45mol%以上、より好ましくは47mol%以上、更に好ましくは50mol%以上であり、上限として好ましくは80mol%以下、より好ましくは65mol%以下、更に好ましくは58mol%以下である。
【0055】
また、ハロゲン化リチウムとして、塩化リチウムと臭化リチウムとを組合せて用いる場合、高いイオン伝導度を得る観点から、塩化リチウム及び臭化リチウムとの合計に対する塩化リチウムの割合は、好ましくは1mol%以上、より好ましくは20mol%以上、更に好ましくは40mol%以上、より更に好ましくは50mol%以上であり、上限として好ましくは99mol%以下、より好ましくは90mol%以下、更に好ましくは80mol%以下、より更に好ましくは70mol%以下である。
【0056】
化合物として上記の固体電解質を採用する場合、原料の合計に対するLiPS構造を有する非晶性硫化物固体電解質等の含有量は、60~90mol%が好ましく、62~80mol%がより好ましく、65~75mol%が更に好ましい。
【0057】
(リチウムオキソ酸塩)
本実施形態の製造方法において用いられるリチウムオキソ酸塩は、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種の化合物である。
これらのリチウムオキソ酸塩は、硫黄と反応しやすいという性質を有しており、硫化物固体電解質中の硫黄を酸化置換しやすい。そのため、本実施形態の製造方法において、これらのリチウムオキソ酸塩を採用することにより、硫化水素の発生を抑制することが可能となる。
【0058】
リチウムオキソ酸塩としては、硫化水素の発生を抑制する観点から、上記の中でも、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、炭酸リチウムが好ましく、炭酸リチウムがより好ましい。
本実施形態において、リチウムオキソ酸塩としては、上記の中から単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0059】
リチウムオキソ酸塩の使用量は、原料含有物に含まれるリチウム原子100モル部に対する、前記リチウムオキソ酸塩のモル数として、好ましくは1.0モル部以上、より好ましくは3.0モル部以上、更に好ましくは5.0モル部以上、より更に好ましくは7.5モル部以上であり、上限として好ましくは10.0モル部以下、より好ましくは9.5モル部以下、更に好ましくは9.0モル部以下、より更に好ましくは8.8モル部以下である。
【0060】
また、リチウムオキソ酸塩の使用量として、原料含有物と、リチウムオキソ酸塩と、を下記式(1)~(3)を満足するように使用することが好ましい。
4.8≦リチウム原子/リン原子(モル比)≦5.6 (1)
3.8≦硫黄原子/リン原子(モル比)≦4.4 (2)
1.2≦ハロゲン原子/リン原子(モル比)≦2.0 (3)
上記式(1)~(3)を満足するように使用することで、原料含有物とリチウムオキソ酸塩との反応が促進しやすく、また硫化水素の発生の抑制、高いイオン伝導度、正極活物質との反応性のいずれもについて優れた効果が得られやすくなる。
【0061】
上記式(1)の下限としては、4.9が好ましく、5.0がより好ましく、また上限としては5.5が好ましく、5.4がより好ましい。
上記式(2)の下限としては、3.9が好ましく、4.0がより好ましく、また上限としては4.3が好ましく、4.2がより好ましい。
上記式(3)の下限としては、1.3が好ましく、1.5がより好ましく、また上限としては1.9が好ましく、1.7がより好ましい。
【0062】
(混合)
本実施形態の製造方法は、上記の原料含有物と、上記リチウムオキソ酸塩とを混合することを含む。原料含有物とリチウムオキソ酸塩とを混合することで、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の反応が進行し、混合物として硫化物固体電解質が得られる。ここで、原料含有物が複数種の化合物を含有するものである場合、「原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の反応」には、原料含有物同士の反応も含まれる。
【0063】
原料含有物とリチウムオキソ酸塩との混合は、例えば混合機を用いて行うことができる。また、混合は、撹拌機、粉砕機等を用いて行うこともできる。撹拌機を用いても原料として用いられる化合物の混合は起こり得るし、また粉砕機により原料として用いられる化合物の粉砕が生じることとなるが、同時に混合も生じるからである。すなわち、本実施形態の製造方法において、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の反応は、少なくとも混合により進行するが、撹拌、混合、粉砕、又はこれらのいずれかを組合せた処理によっても進行し得る、ともいえる。本実施形態の製造方法においては、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の反応をより促進させる観点から、粉砕機を用いることが特に好ましい。
【0064】
撹拌機、混合機としては、例えば反応槽内に撹拌翼を備えて撹拌(撹拌による混合、撹拌混合とも称し得る。)ができる機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機としては、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
【0065】
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、ブレード型、アーム型、アンカー型、パドル型、フルゾーン型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型等が挙げられ、より効率的に原料の反応を促進させる観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型、アンカー型、パドル型、フルゾーン型等が好ましく、アンカー型、パドル型、フルゾーン型がより好ましい。
【0066】
機械撹拌式混合機を用いる場合、撹拌翼の回転数は、反応槽内の流体の容量、温度、撹拌翼の形状等に応じて適宜調整すればよく特に制限はないが、通常5rpm以上400rpm以下程度とすればよく、より効率的に原料の反応を促進させる観点から、10rpm以上300rpm以下が好ましく、15rpm以上250rpm以下がより好ましく、20rpm以上200rpm以下が更に好ましい。
【0067】
混合機を用いて混合する際の温度条件としては、特に制限はなく、例えば通常-30~120℃、好ましくは-10~100℃、より好ましくは0~80℃、更に好ましくは10~60℃である。また混合時間は、通常0.1~500時間、原料の分散状態をより均一とし、反応を促進させる観点から、好ましくは1~450時間、より好ましくは10~425時間、更に好ましくは20~400時間、より更に好ましくは40~375時間である。
【0068】
粉砕機を用いて、粉砕を伴う混合を行う方法は、従来より固相法(メカニカルミリング法)として採用されてきた方法である。粉砕機としては、例えば、粉砕媒体を用いた媒体式粉砕機を用いることができる。
媒体式粉砕機は、容器駆動式粉砕機、媒体撹拌式粉砕機に大別される。容器駆動式粉砕機としては、撹拌槽、粉砕槽、あるいはこれらを組合せたボールミル、ビーズミル等が挙げられる。また、媒体撹拌式粉砕機としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃式粉砕機;タワーミルなどの塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機;一軸又は多軸混練機などの各種粉砕機が挙げられる。中でも、得られる硫化物の粒径の調整のしやすさ等を考慮すると、容器駆動式粉砕機として例示したボールミル、ビーズミルが好ましく、中でも遊星型のものが好ましい。
【0069】
これらの粉砕機は、所望の規模等に応じて適宜選択することができ、比較的小規模であれば、ボールミル、ビーズミル等の容器駆動式粉砕機を用いることができ、また大規模、又は量産化の場合には、他の形式の粉砕機を用いてもよい。
【0070】
また、混合の際に溶媒等の液体を伴う液状態、又はスラリー状態である場合は、湿式粉砕に対応できる湿式粉砕機であることが好ましい。
湿式粉砕機としては、湿式ビーズミル、湿式ボールミル、湿式振動ミル等が代表的に挙げられ、粉砕操作の条件を自由に調整でき、より小さい粒径のものに対応しやすい点で、ビーズを粉砕メディアとして用いる湿式ビーズミルが好ましい。また、乾式ビーズミル、乾式ボールミル、乾式振動ミル等の乾式媒体式粉砕機、ジェットミル等の乾式非媒体粉砕機等の乾式粉砕機を用いることもできる。
【0071】
また、混合の対象物が液状態、スラリー状態である場合、必要に応じて循環させる循環運転が可能である、流通式の粉砕機を用いることもできる。具体的には、スラリーを粉砕する粉砕機(粉砕混合機)と、温度保持槽(反応容器)との間で循環させるような形態の粉砕機が挙げられる。
【0072】
上記ボールミル、ビーズミルで用いられるビーズ、ボールのサイズは、所望の粒径、処理量等に応じて適宜選択すればよく、例えばビーズの直径として、通常0.05mmφ以上、好ましくは0.1mmφ以上、より好ましくは0.3mmφ以上、上限として通常5.0mmφ以下、好ましくは3.0mmφ以下、より好ましくは2.0mmφ以下である。またボールの直径として、通常2.0mmφ以上、好ましくは2.5mmφ以上、より好ましくは3.0mmφ以上、上限として通常20.0mmφ以下、好ましくは15.0mmφ以下、より好ましくは10.0mmφ以下である。
また、材質としては、例えば、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド等の金属;ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミックス;メノウ等の鉱物が挙げられる。
【0073】
また、ボールミル、ビーズミルを用いる場合、回転数としては、その処理する規模に応じてかわるため一概にはいえないが、通常10rpm以上、好ましくは20rpm以上、より好ましくは50rpm以上であり、上限としては通常1,000rpm以下、好ましくは900rpm以下、より好ましくは800rpm以下、更に好ましくは700rpm以下である。
また、この場合の粉砕時間としては、その処理する規模に応じてかわるため一概にはいえないが、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、上限としては通常100時間以下、好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下、更に好ましくは36時間以下である。
【0074】
使用する媒体(ビーズ、ボール)のサイズ、材質、またロータの回転数、及び時間等を選定することにより、混合、撹拌、粉砕、これらのいずれかを組合せた処理を行うことができ、得られる硫化物の粒径等の調整を行うことができる。
【0075】
(溶媒)
上記の原料含有物とリチウムオキソ酸塩との混合にあたり、溶媒を加えて混合することができる。溶媒としては、広く有機溶媒と称される各種溶媒等を用いることができる。
【0076】
溶媒としては、固体電解質の製造において従来より用いられてきた溶媒を広く採用することが可能であり、例えば、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒が挙げられる。
【0077】
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等が挙げられ、脂環族炭化水素としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられ、芳香族炭化水素溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン等が挙げられる。
【0078】
また、上記炭化水素溶媒の他、炭素原子、水素原子以外の原子、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子を含む溶媒も挙げられる。ヘテロ原子として酸素原子を含む、例えばエーテル溶媒、エステル溶媒の他、アルコール系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒も好ましく挙げられる。
【0079】
エーテル溶媒としては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレンオキサイドグリコールジメチルエーテル(トリグリム)、またジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族エーテル;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメトキシテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等の脂環式エーテル;フラン、ベンゾフラン、ベンゾピラン等の複素環式エーテル;メチルフェニルエーテル(アニソール)、エチルフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテルが好ましく挙げられる。
【0080】
エステル溶媒としては、例えば蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル等の脂肪族エステル;シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル等の脂環式エステル;ピリジンカルボン酸メチル、ピリミジンカルボン酸メチル、アセトラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等の複素環式エステル;安息香酸メチル、安息香酸エチル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、トリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等の芳香族エステルが好ましく挙げられる。
【0081】
また、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジメチルホルムアミド等のアルデヒド系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒等が好ましく挙げられる。
【0082】
ヘテロ原子として窒素原子を含む溶媒としては、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ニトリル基等の窒素原子を含む基を有する溶媒が挙げられる。
例えば、アミノ基を有する溶媒としては、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジメチルエチレンジアミン、ジエチルエチレンジアミン、ジメチルジアミノプロパン、テトラメチルジアミノメタン、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、テトラメチルジアミノプロパン(TMPDA)等の脂肪族アミン;シクロプロパンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式アミン;イソホロンジアミン、ピペラジン、ジピペリジルプロパン、ジメチルピペラジン等の複素環式アミン;フェニルジアミン、トリレンジアミン、ナフタレンジアミン、メチルフェニレンジアミン、ジメチルナフタレンジアミン、ジメチルフェニレンジアミン、テトラメチルフェニレンジアミン、テトラメチルナフタレンジアミン等の芳香族アミンが好ましく挙げられる。
ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アクリロニトリル、ニトロベンゼン等の窒素原子を含む溶媒も好ましく挙げられる。
【0083】
ヘテロ原子としてハロゲン原子を含む溶媒として、ジクロロメタン、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン等が好ましく挙げられる。
また、硫黄原子を含む溶媒としては、ジメチルスルホキシド、二硫化炭素等が好ましく挙げられる。
【0084】
溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の合計量1kgに対して、好ましくは1.0L以上、より好ましくは2.0L以上、更に好ましくは2.5L以上、より更に好ましくは3.0L以上であり、上限として好ましくは30L以下、より好ましくは25L以下、更に好ましくは20L以下、より更に好ましくは15L以下である。溶媒の使用量が上記範囲内であると、効率よく反応を進行させることができる。
【0085】
(混合によって得られるもの)
上記混合を行って得られる混合物は、硫化物固体電解質を含む。
混合によって得られる混合物に含まれる硫化物固体電解質は、安定結晶相を有する結晶性の硫化物固体電解質、また非晶性の硫化物固体電解質、その他原料含有物に含まれる化合物も含まれ得る。安定結晶相を有する硫化物固体電解質とするには、例えば上記混合の条件等により調整することができる。
【0086】
混合の条件による調整としては、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の配合比、すなわち所望の硫化物固体電解質の組成、構造に応じて異なるため一概にはいえないが、混合機、撹拌機、粉砕機の選択及び回転数等の調整、混合の時間、温度条件等による調整等が挙げられる。例えば、混合機、撹拌機を用いると非晶性の硫化物固体電解質が得られやすく、粉砕機を用いると結晶性の硫化物固体電解質が得られやすくなる。よって、本実施形態の製造方法においては、粉砕機を用いることが好ましい。
また、粉砕機を用いる場合、長時間(例えば15時間以上等)粉砕すると結晶性の硫化物固体電解質が得られやすくなり、短時間の粉砕を行うと非晶性の硫化物固体電解質が得られやすくなる。よって、本実施形態の製造方法においては、粉砕機を用いて、比較的長時間の粉砕を行うことが好ましい。粉砕機を用いた場合の混合の時間は、既述のとおりである。なお、混合機、撹拌機を用いた場合も、既述の混合の時間とすれば、安定結晶相を有する硫化物固体電解質が得られることはいうまでもない。
【0087】
また、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の配合比、すなわち所望の硫化物固体電解質の組成、構造について、例えば、結晶性の硫化物固体電解質が、後述する安定結晶相としてアルジロダイト型結晶構造を有するものである場合、非晶性の硫化物固体電解質は得られない(厳密には存在しない。)。他方、LPGS型結晶構造を有するものである場合は、上記の混合の条件による調整によって、非晶性の硫化物固体電解質にもなり得るし、結晶性の硫化物固体電解質にもなり得る。このように、非晶性の硫化物固体電解質とするか、結晶性の硫化物固体電解質とするかは、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の配合比によって調整することもできる。
上記混合を行って得られる硫化物固体電解質の組成、構造等の詳細については、後述する。
【0088】
(乾燥)
溶媒を用いて上記混合を行った場合は、混合を行った後、混合により得られた流体(通常、スラリー)を乾燥することを含んでもよい。混合により得られた流体は、原料含有物とリチウムオキソ酸塩との混合により得られた既述の硫化物固体電解質及び溶媒を含むものである。混合により得られた流体から、乾燥により溶媒を除去することで、硫化物固体電解質が得られる。
【0089】
乾燥は、混合により得られた流体を、溶媒の種類に応じた温度で行うことができる。
また、通常5~130℃、好ましくは10~100℃、より好ましくは15~70℃、より更に好ましくは室温(23℃)程度(例えば室温±5℃)で真空ポンプ等を用いて減圧乾燥(真空乾燥)して、溶媒を揮発させて行うことができる。
【0090】
乾燥は、流体をガラスフィルター等を用いたろ過、デカンテーションによる固液分離、また遠心分離機等を用いた固液分離により行ってもよい。溶媒を用いた場合には、固液分離によって硫化物固体電解質が得られる。また、固液分離と、上記の減圧乾燥(真空乾燥)と、を組み合わせて行ってもよい。
固液分離は、具体的には、流体を容器に移し、硫化物が沈殿した後に、上澄みとなる溶媒を除去するデカンテーション、また例えばポアサイズが10~200μm程度、好ましくは20~150μmのガラスフィルターを用いたろ過が容易である。
【0091】
(加熱)
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、上記の混合することにより得られた混合物をさらに加熱することを含むことが好ましい。混合物をさらに加熱することにより、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基による硫化物固体電解質中の硫黄の酸化置換がより効率的に進行するため、硫化水素の発生をより抑制することができる。
【0092】
また、上記混合により非晶性の硫化物固体電解質が得られた場合、加熱することにより結晶性の硫化物固体電解質が得られ、また上記混合により結晶性の硫化物固体電解質が得られた場合は結晶化度を更に向上させることができる。また、上記混合物に原料含有物に含まれる化合物が残存する場合は、当該化合物は硫化物固体電解質の構成に寄与するものとなる。
混合を行う際に溶媒を用いた場合は、上記の乾燥を行わずに加熱することによっても、溶媒を除去し、硫化物固体電解質が得られ、加熱の条件によって、非晶性の硫化物固体電解質とすることもできるし、結晶性の硫化物固体電解質とすることもできる。
【0093】
加熱温度は、結晶性の硫化物固体電解質の組成及び構造、またリチウムオキソ酸塩と硫黄原子との反応のしやすさ等を考慮して決定すればよい。
結晶性の硫化物固体電解質の組成及び構造を考慮する場合は、当該組成及び構造に応じた結晶化温度よりも高い温度とすることが好ましく、例えば当該結晶性の硫化物固体電解質に対応する非晶性の硫化物固体電解質を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度を結晶化温度とし、これを起点に、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上の範囲とすればよい。
【0094】
リチウムオキソ酸塩と硫黄原子との反応のしやすさを考慮する場合は、硫黄原子と反応し得る温度を起点に、好ましくは5℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは30℃以上の範囲とすればよい。
【0095】
本実施形態の製造方法において、リチウムオキソ酸塩と硫黄原子との反応が重視されるため、リチウムオキソ酸塩の硫黄原子と反応し得る温度が、上記結晶化温度よりも高い場合は、リチウムオキソ酸塩の硫黄原子と反応し得る温度を起点に加熱温度を決定すればよい。また、結晶性の硫化物固体電解質が所望される場合は、結晶化温度及びリチウムオキソ酸塩の硫黄原子と反応し得る温度のうち、高い温度を起点に加熱温度を決定すればよい。
本実施形態の製造方法において、加熱温度は上記のようにして決定することで、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基による硫化物固体電解質中の硫黄の酸化置換がより効率的に進行するため、硫化水素の発生をより抑制することができる。また、上記温度とすると、効率的に結晶性の硫化物固体電解質が得られる。
【0096】
加熱温度としては、得られる結晶性の硫化物固体電解質の組成及び構造、またリチウムオキソ酸塩の種類等に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、130℃以上が好ましく、135℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましく、上限としては特に制限はないが、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下、更に好ましくは500℃以下である。
【0097】
また、非晶性の硫化物固体電解質を得る場合、当該非晶性の硫化物固体電解質を加熱して得られる結晶性の硫化物固体電解質の構造に応じて加熱温度を決定すればよい。具体的には、上記の結晶化温度を起点に、好ましくは5℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは20℃以下の範囲とすればよく、下限としては特に制限はないが、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度-40℃以上程度とすればよい。
【0098】
このような温度範囲とすることで、より効率的かつ確実に非晶性の硫化物固体電解質が得られる。非晶性の硫化物固体電解質を得るための加熱温度としては、得られる結晶性の硫化物固体電解質の組成及び構造に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、135℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、125℃以下が更に好ましく、下限としては特に制限はないが、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは105℃以上である。
【0099】
加熱時間は、得られる結晶性の硫化物固体電解質の組成及び構造に応じてかわるため、一概にはいえないが、1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上がより更に好ましい。また、加熱時間の上限としては、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましく、3時間以下がより更に好ましい。加熱時間を上記範囲内とすると、リチウムオキソ酸塩のオキソ酸基による硫化物固体電解質中の硫黄の酸化置換がより効率的に進行するため、硫化水素の発生をより抑制することができる。なお、上記の加熱時間は、結晶性の硫化物固体電解質、非晶性の硫化物固体電解質のいずれを得る場合にも適用し得る時間となる。
【0100】
加熱は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、または減圧雰囲気(特に真空中)で行なうことが好ましい。一定濃度、例えば後述する気流処理における水素ガスの濃度で水素ガスを含む不活性ガス雰囲気でもよい。結晶性の硫化物の劣化(例えば、酸化)を防止できるからである。加熱の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、ホットプレート、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもでき、加熱する処理量に応じて選択すればよい。
【0101】
(硫化物固体電解質)
以上の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、安定結晶相を有する硫化物固体電解質であり、結晶性の硫化物固体電解質であるといえる。
【0102】
本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、以下のリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原子により構成される、安定結晶相の結晶構造を有するものが好ましく挙げられる。結晶性の硫化物固体電解質としては、非晶性の硫化物固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよい。
【0103】
安定結晶相の結晶構造としては、既述のように、アルジロダイト型結晶構造、LPGS型結晶構造等が典型的に挙げられ、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原子により構成され、イオン伝導度が高いことから、アルジロダイト型結晶構造が好ましい。なお、原料含有物としてゲルマニウム原子を含む化合物、例えば硫化ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウムを用いる場合、本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、LPGS型結晶構造を有し得る。
【0104】
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は安定結晶相を有するものであり、以下のアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質が好ましく挙げられる。
LiPSの構造骨格を有し、組成式Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°及び52.0°の位置に現れるピークを有する。また、組成式Li7-xPS6-xHa(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
なお、本明細書において、ピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0105】
また、本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、安定結晶相としてLPGS型結晶構造を有するものであってもよい。LPGS型結晶構造は、リチウム原子、リン原子、ゲルマニウム原子及び硫黄原子を有する結晶構造であり、既述のようにゲルマニウム原子を含む化合物を原料含有物の一つとして用いる場合、形成し得る。
LPGS型結晶構造は、具体的には組成式Li4-xGe1-x(xは、0<x<1である。)で示される、チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造又はこれと類似の結晶構造ともいえる。LPGS型結晶構造は、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=12.4°、14.4°、17.4°、20.2°、23.9°、26.9°、29.6°、41.5°及び47.4°の位置に現れるピークを有する。
【0106】
本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、安定結晶相を有するもの、すなわちアルジロダイト型結晶構造、LPGS型結晶構造等を有するものであればよく、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含むこと、より高いイオン伝導度を得ることを考慮すると、上記アルジロダイト型結晶構造を有するものであることが好ましく、これを主結晶として有するものであることがより好ましい。
本明細書において、「主結晶として有する」とは、全結晶のうち対象となる結晶構造の占める割合が80.0%以上であることを意味し、好ましくは90.0%以上、より好ましくは95.0%以上、更に好ましくは96.0%以上である。また、本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。
【0107】
以上、本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質としては、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質が好ましく、アルジロダイト型結晶構造は主結晶として有することがより好ましい。
また、アルジロダイト型結晶構造は主結晶として有することが好ましい。
【0108】
上記の安定結晶相を有する硫化物固体電解質のなかでも、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高い一方、硫化水素を発生しやすいものと知られている。本実施形態の製造方法によれば、高いイオン伝導度の低下を抑制しながら、硫化水素の発生を抑制することができるため、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造することが特に好ましい。
また、安定結晶相としてアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、リチウムオキソ酸塩との反応性が高いことから、より容易にリチウムオキソ酸塩を用いることによる硫化水素の発生の抑制効果が得られやすくなる。よって、硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れる硫化物固体電解質を製造しやすくなる。
【0109】
結晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の結晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0110】
(LiPO結晶構造)
本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、上記の主結晶に加えて、LiPO結晶構造を有する。LiPO結晶構造は、既述のようにリチウムオキソ酸塩のオキソ酸基が硫化物固体電解質中の硫黄を酸化置換して、リチウムオキソ酸塩中のリチウム原子及び陰イオン部分の酸素原子と、硫化物固体電解質中のリチウム原子及びリン原子とにより形成されるものと考えられる。
【0111】
また、全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合は、既述のように1.0モル%以上5.0モル%以下となる。本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、LiPO結晶構造を所定の割合で有することで、既述のように、硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れるものになる。
【0112】
より効率的に硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度を高くし、正極活物質との反応性を向上させる観点から、全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合は、好ましくは1.2モル%以上、より好ましくは1.5モル%以上、更に好ましくは2.0モル%以上であり、上限として好ましくは4.5モル%以下、より好ましくは4.0モル%以下、更に好ましくは3.5モル%以下である。
全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合は、実施例に記載される方法により算出することができる値である。
【0113】
(安定結晶相を有する硫化物固体電解質のその他性状)
本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質のイオン伝導度は、通常1.0mS/cm以上のものとなり、更に、2.0mS/cm以上、4.0mS/cm以上、5.0mS/cm以上、6.5mS/cm以上、7.5mS/cm以上、8.5mS/cm以上、9.5mS/cm以上となり得る。
【0114】
本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質の硫化水素の発生量(mL/g-硫化物固体電解質、120分間測定)は、通常5.0以下であり、更に、4.5以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.5以下、2.0以下となり得る。また、以下の方法により測定される硫化水素の発生量(mL/g-硫化物固体電解質、60分間測定)は、通常3.0以下であり、更に、2.5以下、2.0以下、1.5以下、1.0以下となり得る。硫化水素の発生量は、実施例に記載される方法により測定される量である。
【0115】
(硫化物固体電解質の用途)
本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高く、優れた電池性能を有しているため、電池に好適に用いられる。伝導種としてリチウム原子を採用した場合、特に好適である。
また、本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、電極活物質、とりわけ正極活物質との反応性に優れている。そのため、電極活物質と組み合わせて電極合材として好適に用いられ、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよく、特に正極層に用いることが好ましい。なお、各層は、公知の方法により製造することができる。
【0116】
〔電極合材の製造方法〕
本実施形態の電極合材の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム及び炭酸リチウムから選ばれる少なくとも一種のリチウムオキソ酸塩と、を混合することにより、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を得ること、
前記硫化物固体電解質と、電極活物質と、を混合すること、
を含む、というものである。ここで、本実施形態の電極合材の製造方法において、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を得ることは、上記の本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法に該当する。よって、本実施形態の電極合材の製造方法は、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質を、電極活物質と、を混合すること、を含むものであるといえる。
【0117】
本実施形態の電極合材の製造方法において、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を得ることは、上記の本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法として説明したとおりである。よって、上記混合することにより得られる混合物を加熱することが好ましいことも、上記の本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法として説明したとおりである。
電極合材は、上記の本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質と、電極活物質と、必要に応じて用いられる上記のその他の成分と、を混合して製造することができる。
【0118】
混合に際しては、上記の原料含有物とリチウムオキソ酸塩との混合に用いられ得る機器として説明した、粉砕機、撹拌機等の機器を用いればよい。粉砕機としては撹拌槽型粉砕機、容器駆動式粉砕機が好ましく、転動ミル、ボールミル、ビーズミルがより好ましく、また撹拌機としては高速撹拌型混合機が好ましく、高速旋回薄膜型撹拌機がより好ましい。
加熱に際しても、上記の混合物の加熱と同様にして行えばよい。
また、電極合材の作製において、導電材、結着剤を用いる場合を考慮すると、粉砕機を用いることが好ましく、中でも撹拌槽型粉砕機、特に転動ミルが好ましい。
【0119】
(電極合材)
本実施形態の電極合材の製造方法により得られる電極合材は、本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質、すなわちリチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含み、全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合が1.0モル%以上5.0モル%以下である、安定結晶相を有する硫化物固体電解質と、電極活物質と、を含む、というものである。本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、既述のように電極活物質と組み合わせて電極合材として好適に用いられる。
以下、本実施形態の電極合材の製造方法、また当該製造方法により得られる電極合材において用いられる、電極活物質、その他成分等について説明する。
【0120】
(電極活物質)
電極活物質としては、電極合材が正極、負極のいずれに用いられるかに応じて、各々正極活物質、負極活物質が採用される。
【0121】
正極活物質としては、負極活物質との関係で、イオン伝導度を発現させる原子として採用される原子、好ましくはリチウム原子に起因するリチウムイオンの移動を伴う電池化学反応を促進させ得るものであれば特に制限なく用いることができる。このようなリチウムイオンの挿入脱離が可能な正極活物質としては、酸化物系正極活物質、硫化物系正極活物質等が挙げられる。
【0122】
酸化物系正極活物質としてはLMO(マンガン酸リチウム)、LCO(コバルト酸リチウム)、NMC(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)、NCA(ニッケルコバルトアルミ酸リチウム)、LNCO(ニッケルコバルト酸リチウム)、オリビン型化合物(LiMeNPO、Me=Fe、Co、Ni、Mn)等のリチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましく挙げられる。
硫化物系正極活物質としては、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)、硫化ニッケル(Ni)等が挙げられる。
また、上記正極活物質の他、セレン化ニオブ(NbSe)等も使用可能である。
正極活物質は、一種単独で、又は複数種を組み合わせて用いることが可能である。
【0123】
負極活物質としては、イオン伝導度を発現させる原子として採用される原子、好ましくはリチウム原子と合金を形成し得る金属、その酸化物、当該金属とリチウム原子との合金等の、好ましくはリチウム原子に起因するリチウムイオンの移動を伴う電池化学反応を促進させ得るものであれば特に制限なく用いることができる。このようなリチウムイオンの挿入脱離が可能な負極活物質としては、電池分野において負極活物質として公知のものを制限なく採用することができる。
このような負極活物質としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素、金属スズ等の金属リチウム又は金属リチウムと合金を形成し得る金属、これら金属の酸化物、またこれら金属と金属リチウムとの合金等が挙げられる。
【0124】
本実施形態で用いられる電極活物質は、その表面がコーティングされた、被覆層を有するものであってもよい。
被覆層を形成する材料としては、硫化物固体電解質においてイオン伝導度を発現する原子、好ましくはリチウム原子の窒化物、酸化物、又はこれらの複合物等のイオン伝導体が挙げられる。具体的には、窒化リチウム(LiN)、LiGeOを主構造とする、例えばLi4-2xZnGeO等のリシコン型結晶構造を有する伝導体、LiPO型の骨格構造を有する例えばLi4-xGe1-x等のチオリシコン型結晶構造を有する伝導体、La2/3-xLi3xTiO等のペロブスカイト型結晶構造を有する伝導体、LiTi(PO等のNASICON型結晶構造を有する伝導体等が挙げられる。
また、LiTi3-y(0<y<3)、LiTi12(LTO)等のチタン酸リチウム、LiNbO、LiTaO等の周期表の第5族に属する金属の金属酸リチウム、またLiO-B-P系、LiO-B-ZnO系、LiO-Al-SiO-P-TiO系等の酸化物系の伝導体等が挙げられる。
【0125】
被覆層を有する電極活物質は、例えば電極活物質の表面に、被覆層を形成する材料を構成する各種原子を含む溶液を付着させ、付着後の電極活物質を好ましくは200℃以上400℃以下で焼成することにより得られる。
ここで、各種原子を含む溶液としては、例えばリチウムエトキシド、チタンイソプロポキシド、ニオブイソプロポキシド、タンタルイソプロポキシド等の各種金属のアルコキシドを含む溶液を用いればよい。この場合、溶媒としては、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒等を用いればよい。
また、上記の付着は、浸漬、スプレーコーティング等により行えばよい。
【0126】
焼成温度としては、製造効率及び電池性能の向上の観点から、上記200℃以上400℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以上390℃以下であり、焼成時間としては、通常1分~10時間程度であり、好ましくは10分~4時間である。
【0127】
被覆層の被覆率としては、電極活物質の表面積を基準として好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは100%、すなわち全面が被覆されていることが好ましい。また、被覆層の厚さは、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、上限として好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下である。
被覆層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により、被覆層の厚さを測定することができ、被覆率は、被覆層の厚さと、元素分析値、BET比表面積と、から算出することができる。
【0128】
(その他の成分)
本実施形態の製造方法により得られる電極合材は、上記の硫化物固体電解質、電極活物質の他、例えば導電材、結着剤等のその他成分を含んでもよい。すなわち、本実施形態の電極合材の製造方法は、上記の硫化物固体電解質、電極活物質の他、例えば導電材、結着剤等のその他成分を用いてもよい。導電剤、結着剤等のその他成分は、上記の硫化物固体電解質と、電極活物質と、を混合することにおいて、これらの硫化物固体電解質及び電極活物質に、さらに加えて混合して用いればよい。
導電材としては、電子伝導性の向上により電池性能を向上させる観点から、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等の炭素系材料が挙げられる。
【0129】
結着剤を用いることで、正極、負極を作製した場合の強度が向上する。
結着剤としては、結着性、柔軟性等の機能を付与し得るものであれば特に制限はなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ブチレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム等の熱可塑性エラストマー、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポロビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン樹脂等の各種樹脂が例示される。
【0130】
電極合材における、電極活物質と硫化物固体電解質との配合比(質量比)としては、電池性能を向上させ、かつ製造効率を考慮すると、好ましくは99.5:0.5~40:60、より好ましくは99:1~50:50、更に好ましくは98:2~60:40である。
【0131】
導電材を含有する場合、電極合材中の導電材の含有量は特に制限はないが、電池性能を向上させ、かつ製造効率を考慮すると、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、上限として好ましくは10質量%以下、好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
また、結着剤を含有する場合、電極合材中の結着剤の含有量は特に制限はないが、電池性能を向上させ、かつ製造効率を考慮すると、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、上限として好ましくは20質量%以下、好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0132】
また、本実施形態の製造方法により得られる電極合材を用いた全固体リチウム電池は、正極層、負極層、電解質層の他に、集電体が用いられていることが好ましく、集電体も公知のものが用いられる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【実施例0133】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0134】
(実施例1)
原料含有物として、硫化リチウム(LiS)、五硫化二リン(P)、塩化リチウム(LiCl)及び臭化リチウム(LiBr)を用い、リチウムオキソ酸塩として炭酸リチウム(LiCO)を用いた。ピンミルにより粗粉砕したこれらの原料を、モル比が1.7:0.5:1.0:0.6:0.2(LiS:P:LiCl:LiBr:LiCO)となるように、各々0.523g、0.745g、0.284g、0.349g、0.099gを混合した。得られた混合物と、ジルコニア製ボール32g(直径:10mm)とを、遊星型ボールミル(「クラシックラインP-7(品番)」、フリッチュ・ジャパン株式会社製)用のジルコニア製ポット(容積:45mL)に入れ、アルゴン雰囲気下で密閉した。このジルコニア製ポットを、上記の遊星型ボールミルに取り付け、台盤回転数150rpmで10分の予備混合を行った後、370rpmの回転数で15時間の混合及び粉砕を行い、粉末状の生成物を得た。
【0135】
次いで、得られた粉末状の生成物を、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内の電気炉(F-1404-A、東京硝子器械株式会社製)で加熱した。具体的には、電気炉内にAl製の匣鉢(999-60S、東京硝子器械株式会社製)を入れ、室温から430℃まで1時間で昇温し、加熱温度を430℃として2時間加熱した。その後、匣鉢を電気炉より取り出し、徐冷することにより硫化物固体電解質を得た。
【0136】
(実施例2、3)
実施例1において、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の使用量、加熱温度を、第1表に示される使用量、加熱温度とした以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。
【0137】
(比較例1)
実施例1において、リチウムオキソ酸塩を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の粉末を得た。
【0138】
(比較例2)
実施例1において、原料含有物及びリチウムオキソ酸塩の使用量を第1表に示される使用量とし、リチウムオキソ酸塩を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の粉末を得た。
【0139】
上記実施例及び比較例で得られた粉末について、以下の方法に従いイオン伝導度の測定、粉末X線回折(XRD)測定を行い、また以下の方法に従い硫化水素の発生量を測定し、正極活物質との反応性試験により交流インピーダンスを測定した。また、以下の方法に従い固体31P-NMR測定を行い、LiPO結晶構造の割合を算出した。
アルジロダイト型結晶構造及びLiPO結晶構造の割合、イオン伝導度、硫化水素の発生量及び正極活物質との反応性試験の結果を第1表に示す。
【0140】
(イオン伝導度の測定)
本実施例において、イオン伝導度の測定は、以下のようにして行った。
実施例及び比較例で得られた粉末を用いて、直径10mm(断面積S:0.785cm)、高さ(L)0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。その試料の上下から電極端子を取り、25℃において交流インピーダンス法により測定し(周波数範囲:1MHz~100Hz、振幅:10mV)、Cole-Coleプロットを得た。高周波側領域に観測される円弧の右端付近で、-Z’’(Ω)が最小となる点での実数部Z’(Ω)を電解質のバルク抵抗R(Ω)とし、以下式に従い、イオン伝導度σ(S/cm)を計算した。
R=ρ(L/S)
σ=1/ρ
【0141】
(粉末X線回折(XRD)測定)
本明細書において、粉末X線回折(XRD)測定は以下のようにして実施した。
実施例及び比較例で得られた粉末を、直径20mm、深さ0.2mmの溝に充填し、ガラスで均して試料とした。この試料を、XRD用カプトンフィルムで密閉し、空気に触れさせずに、以下の条件で測定した。
測定装置:D2 Phaser (Bruker AXS製)
管電圧:30kV
管電流:10mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:集中法
スリット構成:ソーラースリット4°(入射側及び受光側ともに)、発散スリット1mm、Kβフィルター(Ni板0.5%)、エアスキャッタースクリーン3mmを使用)
検出器:半導体検出器
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.05deg、0.05deg/秒
【0142】
(固体31P-NMR測定)
実施例及び比較例で得られた粉末試料約60mgをNMR試料管へ充填し、下記の装置及び条件にて固体31P-NMRスペクトルを得た。
NMR装置:ECZ400R装置(日本電子株式会社製)
観測核:31
観測周波数:161.944MHz
測定温度:室温(23℃)
パルス系列:シングルパルス(90°パルスを使用)
90°パルス幅:3.8μs
FID測定後、次のパルス印加までの待ち時間:300s
マジックアングル回転の回転数:12kHz
積算回数:16回
測定範囲:250ppm~-150ppm
化学シフト:外部基準として(NHHPO(化学シフト1.33ppm)を用いた。
【0143】
(LiPO結晶構造の割合の算出)
上記の固体31P-NMR測定の方法に従い測定したNMR(固体31P NMR)スペクトルより、アルジロダイト型結晶構造のピーク(82.8ppm、84.6ppm、86.5ppm及び88.5ppm)及びLiPO結晶構造のピーク(9ppm)に波形分離し、全体の面積に対するLiPOの面積の割合を算出し、LiPO結晶構造の割合とした。また、アルジロダイト型結晶構造(ピーク:82.8ppm、84.6ppm、86.5ppm及び88.5ppm)についても同様に算出し、アルジロダイト型結晶構造の割合とした。
【0144】
(硫化水素の発生量の測定)
以下の曝露試験を行い、硫化水素の発生量を測定した。
まず、曝露試験で用いる試験装置(曝露試験装置1)について、図1を用いて説明する。
曝露試験装置1は、窒素を加湿するフラスコ10と、加湿した窒素と加湿しない窒素とを混合するスタティックミキサー20と、混合した窒素の水分を測定する露点計30(VAISALA社製M170/DMT152)と、測定試料を設置する二重反応管40と、二重反応管40から排出される窒素の水分を測定する露点計50と、排出された窒素中に含まれる硫化水素濃度を測定する硫化水素計測器60(AMI社製 Model3000RS)とを、主な構成要素とし、これらを管(図示せず)にて接続した構成としてある。フラスコ10の温度は冷却槽11により10℃に設定されている。
なお、各構成要素を接続する管には直径6mmのテフロン(登録商標)チューブを使用した。本図では管の表記を省略し、代わりに窒素の流れを矢印で示してある。
【0145】
評価の手順は以下のとおりとした。
露点を-80℃とした窒素グローボックス内で、実施例及び比較例で得られた粉末の試料41を約1.5g秤量し、石英ウール42で挟むように反応管40内部に設置し密封した。評価は室温(20℃)で行った。
窒素源(図示せず)から0.02MPaで窒素を装置1内に供給した。供給された窒素は、二又分岐管BPを通過して、一部はフラスコ10に供給され加湿される。その他は加湿しない窒素としてスタティックミキサー20に直接供給される。なお、窒素のフラスコ10への供給量はニードルバルブVで調整される。
加湿しない窒素及び加湿した窒素の流量を、ニードルバルブ付きフローメーターFMで調整することにより露点を制御する。具体的に、加湿しない窒素の流量を800mL/min、加湿した窒素の流量を10~30mL/minで、スタティックミキサー20に供給し、混合して、露点計30にて混合ガス(加湿しない窒素及び加湿した窒素の混合物)の露点を確認した。
【0146】
露点を-30℃に調整した後、三方コック43を回転して、混合ガスを反応管40内部に2時間流通させた。試料41を通過した混合ガスに含まれる硫化水素量を、硫化水素計測器60で測定した。硫化水素量は15秒間隔で記録した。また、参考のため曝露後の混合ガスの露点を露点計50で測定した。測定開始から60分間及び120分間の硫化水素の発生量(累計)を第1表に示す。
なお、測定後の窒素から硫化水素を除去するため、アルカリトラップ70を通過させた。
【0147】
(正極活物質との反応性の評価)
正極活物質との反応性試験は下記の手順で実施した。
正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)粉末(d50=5.8μm)を用い、固体電解質として実施例及び比較例で得た粉末を使用した。
上記NCA粉末と固体電解質とを質量比70:30で秤量し、乳鉢で混合して正極合材粉末を得た。得られた正極合材粉末100mgをセラミックス(マシナブルセラミックス(マコール(登録商標)、石原ケミカル社製))製のΦ10mmのシリンダーに投入し、SUS製の治具を用いて550MPaで成型し、SUS治具をボルトで締結(締結トルク8N・m)し、測定セルを作製した。
作製した測定セルを70℃の恒温槽に投入し、2時間後にポテンショ/ガルバノスタット(Biologic社製、VMP3)を用いて交流インピーダンス(周波数範囲:1MHz~0.1Hz、振幅:10mV)を測定した。セルを70℃の恒温槽で60時間静置し、再度交流インピーダンスを測定した。
得られたCole-Coleプロットで観察された円弧から70℃での静置前後での抵抗値を求めた。
【0148】
得られた結果を第1表に示す。実施例で得られた固体電解質粉末を用いて作製した測定セルでは、比較例で得られた固体電解質粉末を用いて作製した測定セルに比べて70℃での静置前後とも交流インピーダンスが小さく、静置前後での交流インピーダンスの増加量も小さいことが確認された。
【0149】
【表1】
【0150】
上記実施例の結果から、本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質は、硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れるものであることが確認された。他方、比較例の粉末については、比較例1で得られた粉末はイオン伝導度を有する硫化物固体電解質といえるものであり、硫化水素の発生量も少ないものであった。しかし、反応性試験結果によれば、比較例の粉末は、実施例の粉末に比べて交流インピーダンスが大きく、また2時間後から60時間後の増加量が大きく、正極活物質との反応性が低いことは明らかである。また、比較例2の粉末は、イオン伝導度が極めて低いものであった。
【0151】
実施例で得られた硫化物固体電解質について、上記第1表の実施例1~3で示されるように、いずれもLiPO結晶構造を有し、その割合が1.0モル%以上5.0モル%以下であることが確認された。他方、リチウムオキソ酸塩を用いなかった比較例1及び2の粉末においては、LiPO結晶構造の存在は確認されなかった。この結果から、LiPO結晶構造は、リチウムオキソ酸塩の使用に起因して形成するものであることが分かる。またLiPO結晶構造を有することで、優れた硫化水素の発生の抑制効果、高いイオン伝導度及び優れた正極活物質との反応性がバランスよく発現していることが分かる。
【0152】
図2及び3は、各々実施例2及び3の硫化物固体電解質のX線回折(XRD)測定の結果である。図2及び3に示されるように、実施例2及び3の硫化物固体電解質のXRDスペクトルには、2θ=25.0°、30.0°、47.0°、52.0°等にピークが存在することから、アルジロダイト型結晶構造を主結晶として有するものであることが確認された。また、実施例2及び3の硫化物固体電解質のXRDスペクトルには、2θ=22.1°及び23.1°にピークが存在することから、LiPO結晶構造を有するものであることも確認された。
【0153】
実施例1~5の硫化物固体電解質のNMRスペクトルによれば(図示なし)、アルジロダイト型結晶構造のピーク(82.8ppm、84.6ppm、86.5ppm及び88.5ppm)及びLiPO結晶構造のピーク(5~9ppm)が存在しており、主結晶としてアルジロダイト型結晶構造を有し、かつLiPO結晶構造を有することも確認された。この結果は、上記XRDスペクトルによる結果と合致している。また、実施例1、3及び5の硫化物固体電解質の全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合が1.0モル%以上5.0モル%以下であることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法によれば、硫化水素の発生を抑制し、イオン伝導度が高く、正極活物質との反応性に優れる、安定結晶相を有する硫化物固体電解質を製造することができる。本実施形態の製造方法により得られる安定結晶相を有する硫化物固体電解質、及び電極合材は、電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられる電池に好適に用いられる。
図1
図2
図3