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特開2023-97114カソードヒータと荷電粒子線源及び荷電粒子装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097114
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】カソードヒータと荷電粒子線源及び荷電粒子装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/22 20060101AFI20230630BHJP
   H01J 37/06 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01J1/22
H01J37/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213277
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】後藤 太邦
(72)【発明者】
【氏名】島田 憲一
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101DD08
5C101DD16
5C101DD18
(57)【要約】
【課題】本発明は、カソードを安定支持したカソードヒータに関する。
【解決手段】本発明は、電子放出方向に電子を放出するカソードを加熱するカソードヒータにおいて、前記カソードの側面における第1部分に接触し、電流が流されることにより発熱する導電性の第1部材と、前記カソードの側面における前記第1部分とは異なる第2部分に接触する第2部材とを備え、前記第1部材によって前記電子放出方向と交差する第1方向から前記カソードを引っ張り、且つ前記第2部材によって前記第1方向とは逆向きの第2方向から前記カソードを引っ張ることによって前記カソードを支持する、カソードヒータであることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出方向に電子を放出するカソードを加熱するカソードヒータにおいて、
前記カソードの側面における第1部分に接触し、電流が流されることにより発熱する導電性の第1部材と、
前記カソードの側面における前記第1部分とは異なる第2部分に接触する第2部材と
を備え、
前記第1部材によって前記電子放出方向と交差する第1方向から前記カソードを引っ張り、且つ前記第2部材によって前記第1方向とは逆向きの第2方向から前記カソードを引っ張ることによって前記カソードを支持する、カソードヒータ。
【請求項2】
前記カソードの側面における前記第2部分は、前記電子放出方向において前記第1部分を挟むように複数箇所に位置する、請求項1に記載のカソードヒータ。
【請求項3】
前記第1部材及び前記第2部材に電流を流す給電部を更に備え、
前記第2部材は、電流が流されることにより発熱する導電性材料で形成される、請求項1又は2に記載のカソードヒータ。
【請求項4】
前記第1部分に接する前記第1部材の第1支持部における電流の向きは、前記第2部分に接する前記第2部材の第2支持部における電流の向きとは異なる、請求項3に記載のカソードヒータ。
【請求項5】
前記第1部材において前記第1部分と接する部分を第1支持部とし、前記第2部材において前記第2部分と接する部分を第2支持部とするとき、
前記第2支持部は、前記電子放出方向において前記第1支持部を挟むように複数備えられ、
前記第1支持部の前記電子放出方向における第1寸法は、前記複数の前記第2支持部の前記電子放出方向における第2寸法の和と等しい、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のカソードヒータ。
【請求項6】
前記第1部材に電流を流す給電部をさらに備え、
前記第1部材は、前記第1部分に接する第1支持部と、前記第1支持部よりも前記給電部側の第1側方部と、前記第1支持部に関して前記第1側方部とは反対側の第2側方部とを備え、
前記第1支持部の断面積は、前記第1側方部及び前記第2側方部の断面積よりも小さい、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のカソードヒータ。
【請求項7】
前記第1部材において、前記カソードの前記第1部分に接する第1支持部は、前記カソードの前記側面を一周しない、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のカソードヒータ。
【請求項8】
前記第1部材及び前記第2部材は、金属箔または金属薄板から形成される、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のカソードヒータ。
【請求項9】
前記カソードの側面において前記第1部分及び前記第2部分とは異なる第3部分に接触する第3部材をさらに備え、
前記カソードは、前記第1乃至第3部材によって釣り合うように引張られる、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のカソードヒータ。
【請求項10】
前記第1部材及び前記第2部材に電流を流す給電部と、
電源と前記給電部とを接続する接続配線に可変抵抗が組み込まれた、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載のカソードヒータ。
【請求項11】
前記給電部は、前記第1部材に接続される第1電極体及び第2電極体と、前記第2部材に接続される第3電極体及び第4電極体とを備え、
前記可変抵抗は、前記第1乃至第4電極体と前記電源とを接続する第1乃至第4接続配線の各々に組み込まれている、請求項10に記載のカソードヒータ。
【請求項12】
前記カソードにカーボン材料から形成されたカーボン部材が接触しない、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載のカソードヒータ。
【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれか一項に記載のカソードヒータを備えた、荷電粒子線源。
【請求項14】
請求項1~請求項12のいずれか一項に記載のカソードヒータを備えた、荷電粒子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードヒータと荷電粒子線源及び荷電粒子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を発生させ、荷電粒子線を対象物体の所定の位置に照射する荷電粒子装置に適用されるカソードヒータとして、2つのヒータワイヤにより電子放出合金製のエミッタを支持した直熱型陰極ユニットが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2000/28566号
【発明の概要】
【0004】
第1の態様によるカソードヒータは、電子放出方向に電子を放出するカソードを加熱するカソードヒータにおいて、前記カソードの側面における第1部分に接触し、電流が流されることにより発熱する導電性の第1部材と、前記カソードの側面における前記第1部分とは異なる第2部分に接触する第2部材とを備え、前記第1部材によって前記電子放出方向と交差する第1方向から前記カソードを引っ張り、且つ前記第2部材によって前記第1方向とは逆向きの第2方向から前記カソードを引っ張ることによって前記カソードを支持する。
第2の態様による荷電粒子源は、第1の態様によるカソードヒータを備える。
第3の態様による荷電粒子装置は、第1の態様によるカソードヒータを備える。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】第1実施形態のカソードヒータの構成を示す斜視図。
図2】第1実施形態のカソードヒータの構成を示す平面図。
図3】同カソードヒータにおけるカソード支持部分の概要を示す側面図。
図4】第1実施形態のカソードヒータを備える荷電粒子装置の第1実施形態を示す断面図。
図5】前記荷電粒子装置に含まれるアパーチャ部材の構成を示す拡大断面図。
図6】前記荷電粒子装置に含まれる第2レンズ近傍の拡大断面図。
図7】第2実施形態のカソードヒータの構成を示す斜視図。
図8】同カソードヒータにおけるカソード支持部分の概要を示す側面図。
図9】第3実施形態のカソードヒータの構成を示す斜視図。
図10】第4実施形態のカソードヒータの構成を示す斜視図。
図11】第5実施形態のカソードヒータの構成を示す斜視図。
図12】第6実施形態のカソードヒータの構成を示す斜視図。
図13】同カソードヒータにおけるカソード支持部分の概要を示す側面図。
図14】カソードに印加する引張力の方向について示す説明図。
図15】変形例にかかる支持フィラメントを展開した形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0007】
「第1実施形態のカソードヒータ」
図1図3は、第1実施形態のカソードヒータ50を示す斜視図である。
図1に矢印で示したX方向、Y方向、およびZ方向は、その矢印の指し示す方向を+方向とする。X方向、Y方向、およびZ方向は、相互に直交する方向である。また、図2以降の各図に矢印で示したX方向、Y方向、およびZ方向は、図1に示したX方向、Y方向、およびZ方向とそれぞれ同一の方向を示している。
【0008】
カソードヒータ50は、例えば、図4図6に基づき、後に説明する荷電粒子装置1の荷電粒子線源3に組み込まれ、荷電粒子の発生源として用いられる。
カソードヒータ50は、円盤状の絶縁基台51と、この絶縁基台51の厚さ方向(Z方向)を貫通して設けられた4本のロッド状の電極体(給電部)52と、これら電極体52に支持された支持フィラメント53、54と、支持フィラメント53、54に支持された円柱状のカソード55を具備する。
絶縁基台51は、アルミナ(Al)などの絶縁材料からなる円盤状であり、その一面51A(図1では上面)上に4本の電極体52の先端部52Aが一面51Aに対しほぼ直角に突き出るように設けられている。絶縁基台51を貫通した電極体52の基端部52Cは図1では略されているが接続配線を介し電源に接続され、電源から電極体52を介し支持フィラメント53、54に個別に通電できるように構成されている。図1では、Z方向に絶縁基台51の厚さ方向が一致され、X方向とY方向が構成するXY平面に平行に一面51Aが配置されている。なお、絶縁基台51の厚さ方向をZ軸方向としているならば、Z軸を中心とする周回り方向(θz方向)においてX方向とY方向は特に限定されず、互いに90°で交差しているならばいずれの方向に向いていても良い。また、周回り方向(θz方向)におけるX方向とY方向とは互いに90°で交差している場合には限られず、例えば60°でもよい。
【0009】
図1に示すようにカソード55は絶縁基台51の上面中心部の上方にZ方向に中心軸を向けて支持されており、換言すると、カソード55の支持位置は、絶縁基台51の一面51Aの中心部51aの対向位置となる。カソード55において、-Z方向の端部が荷電粒子の放出端であり、この放出端から-Z方向が電子放出方向Eとなる。
なお、カソード55から放出されるのは、電子等の素粒子またはイオン(以下、総称して「荷電粒子」と呼ぶことができる)であるが、本明細書ではこの荷電粒子の放出方向に関し、電子放出方向Eとして略称することとする。
【0010】
前記4本の電極体(給電部)52は、一面51Aの中心部51aを所定の間隔をあけて囲む位置に立設されている。図2図1に示す構成の平面図である。図1図2に示す形態では、絶縁基台51の一面51Aを円と見立て、図2に示す前記円の中心を通る2本の軸線d、dが平面視X型に交わる場合、2本の軸線に沿う位置であって、中心部51aから等間隔離れた位置に、それぞれ電極体52が設置されている。なお、これら2本の軸線d、dが交差する角度は鋭角であっても鈍角であっても直角であってもよい。従って、図2に示す平面視において4本の電極体52は、X方向に2本整列し、Y方向に2本整列するように配置されている。
なお、本実施形態において図示した電極体52を設置する位置は1つの例であって、複数の電極体52で中心部51aを挟むことができる配置であれば、電極体52の設置位置は他の位置であっても良い。電極体52は本実施形態では導電性の金属材料から構成される。例えば、電極体52は、コバール等のFe系の合金からなる。
【0011】
電極体52において先端部52Aの側面には平面状の面取部52Bが形成されている。なお、面取部52Bは切り欠き部と称されてもよい。電極体52の面取部52Bは、図2に示すようにいずれもX方向に平行な向きに形成されている。例えば、各先端部52Aの側面において、中心部51aに面する側ではなく、その反対側寄りの位置であって、X方向に平行な向きに面取部52Bが形成されている。
図2において、例えば、上下方向(X方向)に隣接されている2本の電極体52において、それぞれの面取部52Bは同一平面に沿う位置に形成されている。図2において、例えば、左右方向(Y方向)に隣接されている2本の電極体52において、それぞれの面取部52Bは平行に設けられている。
【0012】
図1の-X方向側においてY方向に隣接する電極体52、52に支持されて支持フィラメント(第1部材)54が設けられ、図1の+X方向側においてY方向に隣接する電極体52、52に支持されて支持フィラメント(第2部材)53が設けられている。
【0013】
図1図2の+X方向側の支持フィラメント53は、2本の電極体52のそれぞれの面取部52Bに沿って取り付けられた基部53Aと、これらの基部53Aから上述のカソード55に向かって延出された延出部53Bと、延出部53B、53Bの先端側を一体に接続し、棒状のカソード55に巻き掛けられた支持部(第2支持部、巻掛部)53Cを有する。なお、延出部は、延長部、或いはアーム部と称されてもよい。また、カソードに巻き掛けられた支持部は、カソードに巻きつけられるようにカソードに接触する支持部と称されていてもよい。
図1図2の-X方向側の支持フィラメント54は、2本の電極体52のそれぞれの面取部52Bに沿って取り付けられた基部54Aと、これらの基部54Aから上述のカソード55に向かって延出された延出部54Bと、延出部54B、54Bの先端側を一体に接続し、棒状のカソード55に巻き掛けられた支持部(第1支持部、巻掛部)54Cを有する。
【0014】
支持フィラメント53、54は、タングステンまたはタングステン合金のような高融点の金属箔または金属薄板からなる。金属箔は一般に厚さ0.2mm以下の薄いものを示し、これより厚いものを本願では金属薄板と呼称し、いずれも支持フィラメント53、54用の構成体として適用することができる。金属は高温になると抵抗値が高くなるため、支持フィラメント53、54として高融点の材料を用いることにより支持フィラメント53、54の温度を上げて抵抗値を高くすることができる。一例として、支持部53C、54Cを金属薄板で構成する場合に、厚さ1.0mm以下、例えば、厚さ0.4mm程度として設計することができる。勿論、支持フィラメント53、54を構成する金属材料の強度が高ければ、0.4mmより薄い金属薄板あるいは金属箔から支持フィラメント53、54を構成しても良く、例えば0.04mmより薄い金属薄板あるいは金属箔から支持フィラメント53、54を構成してもよい。
【0015】
本願では、支持フィラメント53、54を用いてカソード55を支持しつつ、支持フィラメント53、54に通電して、カソード55の温度を2000℃以上などの高温に加熱する目的で支持フィラメント53、54を使用する。このため、目的とするカソード55の加熱温度と支持フィラメント53、54に対し印加する電力、支持フィラメント53、54の構造強度などを勘案し、金属箔または金属薄板の何れかからなる所望厚さの支持フィラメント53、54を用いることができる。
なお、支持フィラメント53、54において、全体を同じ厚さに形成する必要はなく、例えば、発熱に寄与する支持部53C、54Cの部分のみを薄く形成してその部分の断面積を小さくしても良い。基部53A、54Aと延出部53B、54Bは支持フィラメント53、54の強度を確保するため、500μm程度、あるいはそれ以上の厚さに形成し、支持部53C、54Cの部分のみをエッチング等の加工により15~50μm程度の厚さに形成しても良い。
【0016】
支持フィラメント53の基部53Aは、側面視矩形状であり、基部53AのZ方向高さ(縦幅)は、電極体52の先端部52AのZ方向高さ(長さ)より若干長く形成されている。基部53Aには図1に示すようにX方向に細長いスリット53aが形成されている。また、電極体52の面取部52Bにおいて、基部53Aのスリット形成位置に対応する位置に、ねじ孔52aが形成されている。基部53Aは前記スリット53aを挿通して前記ねじ孔52aに螺合されたボルト57により面取部52Bに沿うように固定されている。
なお、基部53Aに形成されているスリット53aの長軸方向は図1に示すX方向と平行であるので、基部53Aを固定しているボルト57の位置をスリット53a内で変更することにより、面取部52Bに対する基部53Aの固定位置をX方向に若干調整できるようになっている。
【0017】
支持フィラメント53の延出部53B、53Bにおいて、基部53Aに近い側は基部53Aと同等縦幅(同等高さ)に形成されているが、途中からZ方向の縦幅(高さ)を徐々に絞ってカソード55に近づくにつれて徐々に幅狭になるように形成されている。そして、延出部53B、53Bにおいてカソード55に最も近い位置に幅狭部53Dが形成されている。図1に示すように、幅狭部53Dは基部53A及び延出部53Bの上部端(-Z方向端)に形成されているので、延出部53Bは絶縁基台51に近い側の縦幅のみを削って徐々に幅狭となるように形成されている。
【0018】
また、これら幅狭部53D、53Dの先端部からZ方向に離間して2本の帯状体53Eが延出され、これらの帯状体53Eは平面視U字型に湾曲されてカソード55を半周程度周回するようにカソード55に巻き掛けられている。即ち、帯状体3Eは、カソード55の周面を一周はしていない状態に巻き掛けられている。
図1に示す+X方向側2枚の基部53Aからそれぞれ延出部53Bが延出され、各延出部53Bの先端側に幅狭部53Dを介しZ方向に隣接する2本の帯状体53Eが延出され、これら帯状体53Eがカソード55を周回するように連続され、支持フィラメント(第2部材)53が構成されている。
支持フィラメント53においては、2本の帯状体53Eから第2支持部(巻掛部)53Cが構成されている。支持フィラメント53においては、基部53Aの断面積より帯状体53Eの断面積が小さいため、その部分の抵抗値が上がり、支持フィラメント53に通電すると、帯状体53E、53Eを主体として発熱させることができる。
【0019】
支持フィラメント54も支持フィラメント53と類似構造を有する。
支持フィラメント54の基部54Aは、側面視矩形状であり、基部54のZ方向高さ(縦幅)は、電極体52の先端部52AのZ方向高さ(長さ)より若干長く形成されている。基部54Aには図1に示すようにX方向に細長いスリット54aが形成されている。また、電極体52の面取部52Bにおいて、基部54Aのスリット形成位置に対応する位置にねじ孔52aが形成されている。基部54Aは前記スリット54aを挿通して前記ねじ孔52aに螺合されたボルト58により面取部52Bに沿うように固定されている。
なお、基部54Aに形成されているスリット54aの長軸方向は図1に示すX方向と平行であるので、基部54Aを固定しているボルト58の位置を変更することにより、面取部52Bに対する基部54Aの固定位置をX方向に若干調整できるようになっている。
【0020】
支持フィラメント54の延出部54B、54Bにおいて、基部54Aに近い側は基部54Aと同等縦幅(同等高さ)に形成されているが、途中からZ方向の縦幅(高さ)を絞ってカソード55に近づくにつれて徐々に幅狭になるように形成されている。そして、延出部54B、54Bにおいてカソード55に最も近い位置に幅狭部54Dが形成されている。また、これら幅狭部54D、54Dの先端部から1本の帯状体54Eが延出され、帯状体54Eは平面視U字型に湾曲されてカソード55を半周程度周回するようにカソード55に巻き掛けられている。
図1に示す-X方向側の2枚の基部54Aからそれぞれ延出部54Bが延出され、各延出部54Bの先端側に幅狭部54Dを介し1本の帯状体54Eが延出され、帯状体54Eがカソード55を周回するように連続され、支持フィラメント54が構成されている。
【0021】
支持フィラメント54においては、1本の帯状体54Eから第1支持部(巻掛部)54Cが構成されている。支持フィラメント54においては、基部54Aの断面積より帯状体54Eの断面積が小さいため、その部分の抵抗値が上がり、支持フィラメント54に通電すると、帯状体54Eを主体として発熱させることができる。
【0022】
支持フィラメント54には1本の帯状体54Eが設けられているのに対し、支持フィラメント53には2本の帯状体53Eが設けられている。
支持フィラメント54の帯状体54Eは、図1の-X方向側から延出してカソード55の周面の+X方向側の一部分(第1部分)55aを半周程度周回するように設置されている。支持フィラメント53の2本の帯状体53Eは図1の+X方向側から延出してカソード55の-X方向側の周面の一部分(第2部分)55bを半周程度周回するように設置されている。
また、支持フィラメント53の帯状体53E、53Eと、支持フィラメント54の帯状体54Eが干渉しないように、これらのカソード55のZ方向(長さ方向)の位置が互いに異なるように帯状体53E、53Eと帯状体54Eが設置されている。
【0023】
具体的には、2本の帯状体53Eがカソード55の周面に対し巻き掛けられる位置に対し、2本の帯状体53Eの間に位置するように1本の帯状体54Eがカソード55に巻き掛けられている。換言すると、帯状体54Eが接触している第1部分55aをZ方向に挟む2箇所の第2部分55bに帯状体53E、53Eが配置されている。
また、帯状体53E、53Eがカソード55の周面に対し巻き掛けられている側(カソード55の周面の-X方向側)の反対側(カソード55の周面の+X方向側)に帯状体54Eが巻き掛けられている。
【0024】
帯状体53E、53Eの縦幅(Z方向幅)の合計幅と帯状体54Eの縦幅(Z方向幅)は等しくてもよい。この場合、帯状体53E、54Eに通電するとカソード55の周囲に磁場が発生するので、帯状体53E、53Eが発生させる磁場成分と、帯状体54Eが発生させる磁場成分をできる限りキャンセルする効果が期待される。
【0025】
図1の+X方向側の支持フィラメント53には、2本の帯状体53Eでカソード55を図1の+X方向に引っ張るように張力が付加されている(図3参照)。図1の-X方向側の支持フィラメント54には1本の帯状体54Eでカソード55を図1の-X方向に引っ張るように張力が付加されている(図3参照)。支持フィラメント53と支持フィラメント54でカソード55をX方向に沿って180°異なる方向に引っ張ることでカソード55が支持されている。
【0026】
図1の+X方向側の支持フィラメント53がカソード55に付与する引張力の大きさは、ボルト57が基部53Aを固定する際の位置調整により調整することができる。図1の-X方向側の支持フィラメント54がカソード55に付与する引張力の大きさは、ボルト58が基部54Aを固定する際の位置調整により調整することができる。
即ち、ボルト57、58による各基部53A、54Aの取付位置の調節により、カソード55を支持する場合の引張力の調整ができる。
【0027】
図1図2に示す構成のカソードヒータ50は、+X方向側の電極体52、52と-X方向側の電極体52、52に接続配線を介し接続した電源からそれぞれ通電し、帯状体53E、54Eの部分を発熱させてカソード55を加熱し、カソード55から-Z方向に電子などの荷電粒子を発生させる目的で使用する。
カソード55は、例えば、セリウムグループの希土類金属とタングステンまたはレニウムとハフニウム、イリジウム等の元素を含む電子放出金属合金により形成されている。
一例として、希土類金属0.5~9.0質量%、タングステン及び/またはレニウム0.5~15質量%、ハフニウム0.5~10質量%、残部イリジウムの組成を有する電子放出金属合金を用いることができる。また、カソード55は、ランタンのホウ化物、例えば六ホウ化ランタンであってもよい。
【0028】
上述の支持フィラメント53、54に通電して発熱させ、カソード55を例えば2000℃以上の高温に加熱することにより、カソード55から電子等の素粒子またはイオン(以下、総称して「荷電粒子」と呼ぶことができる)を-Z方向(電子放出方向E)に放出することができる。
支持フィラメント53、54に直流電源を接続して個々に発熱させる場合、支持フィラメント53の帯状体53Eに流れる電流の向きと支持フィラメント54に流れる電流の向きは異なる向きであってもよい。
カソード55を上述のように高温に加熱すると、カソード55自体が熱膨張するとともに、カソード55を支持している支持フィラメント53、54も熱膨張する。特に、カソード55を直接支持している帯状体53E、54Eが熱膨張により伸長することでカソード55を支持する力が不安定となるおそれがある。このようにカソード55の支持力が不安定とならないように適切な張力を作用させてカソード55を支持することが望ましい。
【0029】
本実施形態の構造において、帯状体53E、54Eがカソード55に作用させる引張力は、ボルト57、58が基部53A、54Aを固定する位置を変更することで容易に調整できる。従って、帯状体53E、54Eがカソード55に作用させる引張力の調節により、カソード55を確実に安定支持できる。
なお、従来技術において、カソードを金属製の支持ロッドで挟持する構造においてカソードの側面にカーボンの支持体を挟んで挟持する構造が知られている。このようにカーボンの支持体を介在させてカソードを挟持し、2000℃程度の高温に加熱すると、カソードの表面に炭素が拡散し、カソードの寿命が縮む問題がある。この点、上述の支持構造であれば、カソードにカーボン材料から形成されたカーボン部材を接触させないことができるため、カソード55の寿命が縮むおそれは少ない。
【0030】
帯状体53Eと帯状体54Eによりカソード55を引っ張りつつ支持した構成は、カソード55を安定支持できるので、カソード55の振動の固有値制御が確実にできるようになり、カソード55の振動感度を下げることができる。即ち、カソード55が振動し難くなり、カソード55を安定支持することができる。
また、カソード55の振動の固有値制御や振動モードを調整するために支持フィラメント53、54の厚さや帯状体53E、54Eの開き角を適切な値に設定することができる。これにより、フレキシブル性を維持しつつ振動感度を低くすることができる。
なお、カソード55を支持した支持フィラメント53、54はボルト57、58を取り外すことにより容易に交換できるので、支持フィラメント53、54が損傷した場合はこれらの交換のみで済む利点を有する。勿論、帯状体53E、54Eの幅や厚さを適宜調節し、望ましい幅と厚さを選択することで、長寿命化が可能なカソードヒータ50とすることもできる。
【0031】
以上説明したように、図1に示す第1実施形態の構成は、カソード55の側面における-X方向側の周面(第1部分)55aに接触し、電流を流すことにより発熱する支持フィラメント(第1部材)54と、カソード55の側面における第1部分55aとは異なる+X方向側の周面(第2部分)55bに接触する支持フィラメント(第2部材)53を備えた構成であると表記できる。
また、第1実施形態の構成は、支持フィラメント53により電子放出方向Eと交差する第1方向(+X方向)にカソード55を引っ張り、支持フィラメント(第2部材)54によって第1方向(+X方向)とは逆向きの第2方向(-X方向)にカソード55を引っ張ることによってカソード55を支持する構成であると表記できる。
【0032】
「荷電粒子装置」
図4図6は、カソードヒータ50を内部に備えた荷電粒子線源3を具備する荷電粒子装置の第1実施形態を示す断面図である。
本実施形態の荷電粒子装置1は、その内部を真空に維持するための隔壁である鏡筒2およびチャンバ25を有している。鏡筒2は、一例としてZ方向に延びる概ね円筒の形状であり、チャンバ25は、一例としてX方向、Y方向およびZ方向に平行な辺を有する概ね直方体の形状である。
【0033】
荷電粒子光学系4は、主として鏡筒2の内部に設けられている。荷電粒子光学系4は、鏡筒2内の+Z方向の端部の近傍に設けられた荷電粒子線源3から発せられる電子等の素粒子またはイオンなどの荷電粒子を、チャンバ25内に設けられている試料台23上に配置された対象物22に表面に、収束して照射する。対象物22は、荷電粒子が照射される物体である。
【0034】
荷電粒子光学系4の光軸AXは、一例としてZ方向に平行に設定されている。荷電粒子光学系4は、光軸AXに沿って、荷電粒子線源3の側から順に、第1レンズ部5、検出部6、アパーチャ部材9、磁気検出器12、第2レンズ部13、導電膜17、第2偏向部19を備えている。荷電粒子線源3から発せられた電子等の荷電粒子線PPは、光軸AXの近傍を通って、対象物22に照射される。試料台23は、制御部30からの制御信号S23に基づいて対象物22をX方向およびY方向に移動可能なステージ機構を備えていても良い。ここで、第1レンズ部5および第2レンズ部13は、電子レンズであってもよい。なお、導電膜17の詳細については、後述する。図中の荷電粒子線PPは、荷電粒子が通る経路の概ね外縁を示している。
【0035】
荷電粒子装置1は、鏡筒2およびチャンバ25の内部を排気し減圧するための真空ポンプ等の排気系を備えている。一例として、鏡筒2のアパーチャ部材9よりも荷電粒子線源3側には、排気系Vc1が設けられており、鏡筒2のアパーチャ部材9と導電膜17との間には排気系Vc2が設けられている。また、チャンバ25には排気系Vc3が設けられており、排気系Vc3はチャンバ25の内部と、鏡筒2の導電膜17より試料台23側の空間を排気する。
【0036】
一般的に、対象物22が配置されるチャンバ25内の空間は、対象物22からのアウトガス等により、高真空とすることが難しい。上述のアパーチャ部材9および導電膜17は、鏡筒2の+Z側に配置される荷電粒子線源3の近傍を、チャンバ25内よりも高真空に維持するための、いわゆるガストップとしても機能する。すなわち、アパーチャ部材9により、鏡筒2内のアパーチャ部材9よりも荷電粒子線源3側の空間を、アパーチャ部材9よりも試料台23側の空間よりも、高真空(気圧が小さい)に調整することができる。
また、導電膜17により、鏡筒2内の導電膜17よりも荷電粒子線源3側の空間を、導電膜17よりも試料台23側の空間よりも、高真空(気圧が小さい)に調整することができる。
【0037】
上述の排気系Vc1~Vc3は、それぞれが排気する空間の気圧が上記の関係を満たすように、その排気能力が設定されている。
なお、導電膜17を設けずに、その位置又はその位置の近傍にアパーチャ部材を設けてもよい。この場合であっても、このアパーチャ部材よりも荷電粒子線源3側の空間を、このアパーチャ部材よりも試料台23側の空間よりも、高真空(気圧が小さい)に調整することができる。
【0038】
制御部30からの制御信号S3に従って荷電粒子線源3のカソードヒータ50から電子放出方向Eに発せられた電子等による荷電粒子線PPは第1レンズ部5により収束され、検出部6の略中央に光軸AXと一致するように形成されている透過部6aを通過する。透過部6aを通過した荷電粒子の大部分は、アパーチャ部材9の略中央に光軸AXと一致するように形成されている開口9aを通過する。一方、透過部6aを通過した荷電粒子の一部は、アパーチャ部材9に衝突して反射または散乱され、あるいは2次電子を生成する。そして、反射または散乱された荷電粒子あるいは2次電子は、アパーチャ部材9の荷電粒子線源3側に配置されている検出部6に入射する。
【0039】
第1レンズ部5には、荷電粒子線PPを収束するためのコイル等から成る第1磁気レンズ5aと、荷電粒子の大部分が開口9aを通過するように荷電粒子を偏向する第1偏向部5bとを有している。第1偏向部5bは、光軸AXを中心として複数の電極が配置された静電偏向器であっても良く、光軸AXを中心として複数のコイルが配置された磁気偏向器であっても良い。第1偏向部5bは、静電偏向器および磁気偏向器の両方を含んでいても良い。
第1磁気レンズ5aには制御部30から制御信号S5aが入力され、第1偏向部5bには制御部30から制御信号S5bが入力される。
【0040】
第1偏向部5bによる荷電粒子の偏向の状態が固定されている場合には、アパーチャ部材9で反射され検出部6に入射する荷電粒子の量は、アパーチャ部材9を通過する荷電粒子の量に比例する。従って、検出部6に入射する荷電粒子の量、すなわち検出部6に入射する電荷の量を測定することにより、アパーチャ部材9を通過する荷電粒子の量を測定することができる。
検出部6に入射した電荷の量は、電荷測定器8により測定され、測定された電荷に関する信号S6は制御部30に伝達される。
【0041】
上記のように、ガストップとしても機能するアパーチャ部材9を、荷電粒子量を測定する部材として使用することで、荷電粒子光学系4および荷電粒子装置1の構成を簡素化することができる。
絶縁部材7は、アパーチャ部材9で反射され検出部6に入射する荷電粒子の電荷の量を正確に測定するために、検出部6を荷電粒子線PPに対して覆い、検出部6とアパーチャ部材9とを電気的に分離する。図1には、検出部6を保持する絶縁部材7が鏡筒2に接して設けられた例を示しているが、絶縁部材7は、アパーチャ部材9に接して設けられていても良い。
【0042】
アパーチャ部材9には荷電粒子の一部が衝突するため、荷電粒子のエネルギーにより加熱される。そこで、アパーチャ部材9の内部に、冷却用の流体を流す流路10を設け、流路10に冷却用の流体を供給する供給系11(11a、11b)を設けている。アパーチャ部材9を冷却する液体等の冷却媒体は、供給側11aから流路10に供給され、アパーチャ部材9の内部を流れた後に回収側11bに回収される。供給系11は、供給側11aと回収側11bとの総称である。
【0043】
なお、アパーチャ部材9に衝突した荷電粒子の量を測定するとして、アパーチャ部材9自体の帯電量を測定することも考えられる。しかし、上述のようにアパーチャ部材9は荷電粒子の衝突により加熱されるため、上述のように液体等の冷媒により冷却されることが望ましい。この場合、アパーチャ部材9に蓄積された電荷の一部は、冷媒を介して外部に電導されてしまうため、アパーチャ部材9自体の帯電量を測定しても、正確な電荷の量を測定することは困難である。
一方、上述のように、アパーチャ部材9で反射等し、検出部6に蓄積された電荷を測定する場合には、冷媒等による電導の恐れが無いので、正確に電荷、すなわちアパーチャ部材9を通過した荷電粒子の量を測定することができる。
【0044】
図5は、アパーチャ部材9における流路10の一例を示す図であり、アパーチャ部材9のZ方向の略中心位置でのXY平面における断面図を示す。アパーチャ部材9の内部には、概ね環状の流路10が略同心形状で複数形成されている。供給系11の供給側11aから流入管10iを介して供給された冷却媒体は、概ね環状の流路10内を流れた後に、流出管10oを介して回収側11bに排出される。回収側11bに回収された冷却媒体は、温度調節された後に、再度、供給側11aに供給されても良い。
【0045】
アパーチャ部材9の開口9aを通過した荷電粒子線PPは、磁気検出器12の近傍を通過して、第2レンズ部13に入射する。磁気検出器12の詳細については、後述する。
第2レンズ部13は、いずれも内部が空洞である略円筒形状であって、その中心軸が荷電粒子光学系4の光軸AXと略一致する永久磁石レンズ14、電磁レンズ15、および静電レンズ16を有している。
【0046】
このうち、永久磁石レンズ14は、永久磁石を含み、荷電粒子光学系4の光軸AX方向に関して荷電粒子線源3と対象物22との中点よりも対象物22側に配置されている。永久磁石レンズ14は、光軸AX上にZ方向に平行な磁場を形成する。一例として、図1に示したように、永久磁石レンズ14はZ方向に離れた2つの永久磁石14a、14bを含む第1の複合レンズである。2つの永久磁石14a、14bは、Z方向に平行であってそれぞれ逆向きの磁場を、光軸AX上に形成する。
【0047】
電磁レンズ15は、コイル等の電磁石を含み、荷電粒子光学系4の光軸AX方向に関して少なくとも一部の位置が永久磁石レンズ14と重なり合って配置されている。電磁レンズ15は、光軸AX上にZ方向に平行な磁場を形成する。一例として、図4に示したように、電磁レンズ15はZ方向に離れた2つの電磁石15a、15bを含む第2の複合レンズである。2つの電磁石15a、15bは、Z方向に平行であってそれぞれ逆向きの磁場を、光軸AX上に形成する。
【0048】
一例として、電磁レンズ15は、光軸AX方向に関して、永久磁石レンズ14に含まれる2つの永久磁石14aと永久磁石14bの間に配置されている。
また、上述の第2の複合レンズ(電磁石15a、15b)の中心は、上述の第1の複合レンズ(永久磁石14a、14b)の中心と一致していても良い。
さらに、静電レンズ16は、光軸AX方向に関して、上述の第2の複合レンズ(電磁石15a、15b)の中心より、対象物22側に配置されていても良い。
【0049】
電磁石15a、15bに流れる電流は、制御部30からの制御信号S15a、S15bによりそれぞれ制御され、これにより、光軸AX上等に形成される磁場の強度が制御される。
なお、2つの電磁石15a、15bは、コイルの周囲に磁性体を含むヨークが配置されたものであっても良い。
【0050】
静電レンズ16は、内部が空洞である略円筒形状の金属等の導体であり、荷電粒子光学系4の光軸AX方向に関して、永久磁石レンズ14及び電磁レンズ15の少なくとも一方と、少なくとも一部の位置が重なり合って配置されている。静電レンズ16の電位は、制御部30からの制御信号S16により制御され、これにより、光軸AX上等の電位が制御される。
一例として、荷電粒子線PPは、永久磁石レンズ14よりも荷電粒子線源3側において光軸AXに対して発散しており、永久磁石レンズ14は、物体(対象物22)側において荷電粒子線PPを荷電粒子光学系4の光軸AXに対して収斂させる。
あるいは、永久磁石レンズ14よりも荷電粒子線源3側、すなわち、アパーチャ部材9側に別の磁気レンズを備え、別の磁気レンズにより、永久磁石レンズ14に入射する荷電粒子線PPを収斂ビームとしても良い。また、永久磁石レンズ14は、荷電粒子光学系4の瞳面の近傍に配置されていても良い。
【0051】
なお、図4では、永久磁石レンズ14及び電磁レンズ15は、共に静電レンズ16よりも、光軸AXから遠い位置に配置されているものとしたが、永久磁石レンズ14または電磁レンズ15の少なくとも一方は、静電レンズ16よりも光軸AXに近い位置に配置されていても良い。
【0052】
図6は、荷電粒子光学系4の第2レンズ部13の部分の近傍を拡大して示した拡大断面図である。永久磁石レンズ14は第1領域A1に光軸AXと平行な磁場を形成し、電磁レンズ15は第2領域A2に光軸AXと平行な磁場を形成している。一方、静電レンズ16は第3領域A3に光軸AXと共軸な静電レンズ場(電場)を形成している。そして、第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3の少なくとも一部は、光軸AXの方向に関して、相互に重なり合っている。
制御部30は、電磁レンズ15に流す電流を制御して、第2領域A2が、第1領域A1または第3領域A3と相互に重なり合っている領域の磁場を制御することにより、対象物22の荷電粒子線PPに照射される位置が、荷電粒子線PPの焦点深度内に位置するように調整する。
【0053】
本実施形態の荷電粒子光学系4および荷電粒子装置1においては、制御部30は、さらに静電レンズ16に印加する電圧を制御する。これにより、静電レンズ16による収斂作用を制御して、対象物22の荷電粒子線PPに照射される位置が、荷電粒子線PPの焦点深度内に位置するように調整する。
第2レンズ部13を透過した荷電粒子線PPは、導電膜17を透過して、第2偏向部19に至る。導電膜17は、電子等の荷電粒子を通過させる膜であり、一例として、グラフェンと同様に、カーボンが2次元状に結合されて形成されている膜を使用することができる。
【0054】
第2偏向部19は、光軸AXを中心として複数の電極が配置された第2静電偏向器20、または光軸AXを中心として複数のコイルが配置された第2磁気偏向器21の少なくとも一方を備えている。
図4に示したように、第2静電偏向器20および第2磁気偏向器21は、光軸AXに関して、静電レンズ16よりも対象物22側に配置されている。
制御部30は、第2偏向部19内の第2静電偏向器20、または第2磁気偏向器21を制御信号S20または制御信号S21により制御して、荷電粒子線PPをX方向およびY方向に偏向する。これにより、対象物22上の広範囲に渡って、荷電粒子線PPを照射することができる。
【0055】
一般的な荷電粒子光学系と同様に、本実施形態の荷電粒子光学系4においても、荷電粒子線PPの偏向により、荷電粒子線PPの収束位置(焦点位置)はZ方向に変化する。第2レンズ部13の収束力を固定したまま荷電粒子線PPを偏向させた場合の焦点位置の変化を、破線で像面湾曲ISとして示している。
従って、荷電粒子線PPの偏向に伴って、第2レンズ部13の収束力を変化させる必要がある。
本実施形態の荷電粒子光学系4および荷電粒子装置1においては、荷電粒子線PPを収斂させる収束レンズとしての機能は、主として永久磁石レンズ14により発揮される。一方で、電磁レンズ15は、制御部30が電磁レンズ15に流す電流を制御することにより、対象物22における荷電粒子線PPの光軸AX方向の収束位置(焦点)を、大きなストロークで変動させることができる。
【0056】
ただし、電磁レンズ15の近傍に鏡筒2や永久磁石レンズ14等の他の磁性体ぜつが存在する場合には、その磁性体に起因するインダクタンスや渦電流損等の影響により、電磁レンズ15が形成する磁場を高速で変化させることが難しくなる。このため、電磁レンズ15のみでは、荷電粒子線PPの焦点の光軸AX方向の位置を高速で変化させることが難しくなる。
【0057】
本実施形態の荷電粒子光学系4および荷電粒子装置1においては、さらに静電レンズ16を備えているので、静電レンズ16の電位を制御することにより、近傍に他の磁性体が存在する場合であっても、荷電粒子線PPの焦点の位置を光軸AX方向に高速で変化させることができる。従って、実施形態の荷電粒子光学系4および荷電粒子装置1においては、荷電粒子線PPを高速で偏向させる場合にも、対象物22上の広範囲に渡って、荷電粒子線PPを正確にフォーカスして照射することができる。
【0058】
以下、磁気検出器12について説明する。磁気検出器12は、一例として磁気インピーダンス素子を含み、磁気検出器12の検出面は、荷電粒子線源3から放出された荷電粒子線PPを対象物22に収束する荷電粒子光学系4の光軸AXに沿って複数配置されている。そして、複数の磁気検出器12が検出した検出値は、制御部30内の演算部31に送られ、演算部31は検出値に基づいて、光軸AXおよびその近傍を流れる荷電粒子線PPに関する情報を算出する。
【0059】
複数の磁気検出器12は、それぞれが配置されている場所における磁場を検出(測定)する。磁気検出器12を荷電粒子線PPの経路の近傍に配置することで、電流としての荷電粒子線PPが形成する磁場を、磁気検出器12により検出することができる。そして、磁気検出器12を荷電粒子線PPの経路の近傍に複数配置することにより、それぞれの磁気検出器12により測定された磁場の値に基づいて、荷電粒子線ビームの電流、荷電粒子線ビーム位置のシフト、荷電粒子線ビームの進行方位角、荷電粒子線ビームの回転角、および荷電粒子線ビームのアスペクト比等を、算出することができる。
【0060】
「第2実施形態のカソードヒータ」
図7図8は、本発明に係る第2実施形態のカソードヒータ60を示すもので、第2実施形態のカソードヒータ60は、第1実施形態のカソードヒータ50と同様に、絶縁基台51と4本の電極体52を備え、2本組の電極体52に支持された支持フィラメント(第1部材)63、支持フィラメント(第2部材)64を備えている。
支持フィラメント63は、第1実施形態の支持フィラメント53を構成する基部53A、延出部53B、支持部53Cとそれぞれ略同等の構成を有する基部63A、延出部63B、支持部63Cを有する。支持フィラメント63は、Z方向に離間する2本の帯状体63Eを有し、帯状体63E、63Eがカソード55の周面の-X方向側(一側)に半周程度巻き掛けられている。第2実施形態の延出部63Bにおいても、その先端側を徐々に幅狭として幅狭部63Dが形成されている。この幅狭部63Dの先端側にZ方向に離間する2本の帯状体63Eが形成され、2本の帯状体63Eにより支持部63Cが形成されている。
【0061】
支持フィラメント64は、第1実施形態の支持フィラメント54を構成する基部54A、延出部54Bと略同等の構成を有する基部64A、延出部64Bを有する。更に、支持フィラメント64は、Z方向に離間する2本の帯状体64Eを備えた支持部64Cを延出部64Bの先端側の幅狭部64Dの先端側に有する。よって、支持フィラメント64は、支持フィラメント63と略同等の構成が採用されている。
【0062】
第2実施形態のカソードヒータ60においても、一方の支持フィラメント63の帯状体63E、63Eと他方の支持フィラメント64の帯状体64E、64Eにより、張力を印加しつつカソード55を支持する構成は、第1実施形態のカソードヒータ50と同様である。
【0063】
第1実施形態のカソードヒータ50においては、図1図3に示したように、2本の帯状体53Eと1本の帯状体54Eを用いて180°異なる方向(+X方向と-X方向)に引張力を印加しつつカソード55を支持した。
これに対し、第2実施形態のカソードヒータ60においては、図7図8に示すように、2本の帯状体63Eと2本の帯状体64Eを用いて180°異なる方向(±X方向)に引張力を印加しつつカソード55を支持した点が異なる。
また、図7に示すカソード55は先端部を円錐形状に描いているが、カソード55の先端部の形状は特に制限はない。
図7図8に示す第2実施形態の構造によっても、カソード55を安定支持しながら電源から通電し、カソード55を加熱してカソード55から電子などの荷電粒子を放出することができる。
【0064】
図7図8に示す構造のように、2本ずつの帯状体63E、64Eでカソード55を支持した場合、通電によりカソード55の周囲に帯状体63E、63Eと帯状体64E、64Eが生成する磁場をキャンセルできるので、電子などの荷電粒子を放出する場合、通電に伴う磁場の影響を付与することなく電子などの荷電粒子の放出ができる。即ち、通電による磁場の影響で電子放出方向Eが曲がるおそれがない。
【0065】
以上説明したように、図7に示す第2実施形態の構成は、カソード55の側面における+X方向側の周面(第1部分)55cに接触し、電流を流すことにより発熱する支持フィラメント(第1部材)63と、カソード55の側面における第1部分55cとは異なる-X方向側の周面(第2部分)55dに接触する支持フィラメント(第2部材)64を備えた構成であると表記できる。
また、第2実施形態の構成は、支持フィラメント63により電子放出方向Eと交差する第1方向(+X方向)にカソード55を引っ張り、支持フィラメント(第2部材)64によって第1方向(+X方向)とは逆向きの第2方向(-X方向)にカソード55を引っ張ることによってカソード55を支持する構成であると表記できる。
【0066】
「第3実施形態のカソードヒータ」
図9は、本発明に係る第3実施形態のカソードヒータ70を示すもので、第3実施形態のカソードヒータ70は、第1実施形態のカソードヒータ50と同様に、絶縁基台51と4本の電極体52を備え、2本組の電極体52に支持された2本の支持フィラメント73、74を備えている。
【0067】
支持フィラメント73は、第1実施形態の支持フィラメント53を構成する基部53A、延出部53B、支持部53Cとそれぞれほぼ同等の構成を有する基部73A、延出部73B、支持部73Cを有する。従って、支持フィラメント73は、Z方向に離間して2本の帯状体73Eを有し、帯状体73E、73Eがカソード55の周面の半周程度に巻き掛けられている。
支持フィラメント74は、第1実施形態の支持フィラメント54を構成する基部54A、延出部54B、支持部54Cとそれぞれほぼ同等の構成を有する基部74A、延出部74B、支持部74Cを有する。従って、支持フィラメント74は、1本の帯状体74Eを有し、帯状体74Eがカソード55の周面の半周程度に巻き掛けられている。
【0068】
第3実施形態のカソードヒータ70において第1実施形態のカソードヒータ50と異なっているのは、支持フィラメント73の基部73A、73Aと、支持フィラメント74の基部74A、74Aの取付位置である。
図1のカソードヒータ50と第9のカソードヒータ70を対比して明らかなように、絶縁基台51の一面51Aの上面に4本の電極体52が設置されている構成は図1図9の構成において同等である。図9に示す構成では、+Y方向側に配置されている2本の電極体52、52に支持されて支持フィラメント73が設けられ、-Y方向側に配置されている2本の電極体52に支持されて支持フィラメント74が設けられている。
【0069】
即ち、支持フィラメント73の一方の基部73Aが図9の+Y方向側かつ+X方向側の電極体52の面取部52Bに固定され、他方の基部73Aが図9の+Y方向側かつ-X方向側の電極体52の面取部52Bに固定されている。なお、図9では2つの基部73Aの裏面側に電極体52の先端部52Aと面取部52Bが配置されているので、これらは隠されて描かれていないが、図2に示す電極52の構成を参照して理解できるように、それぞれの面取部52Bにそれぞれ基部73Aがボルト57あるいはボルト58により固定されている。
また、支持フィラメント74の一方の基部74Aが図9の-Y方向側かつ+X方向側の電極体52の面取部52Bに固定され、他方の基部74Aが図9の-Y方向側かつ-X方向側の電極体52の面取部52Bに固定されている。
【0070】
第3実施形態において支持フィラメント73の帯状体73E、73Eがカソード55の周面の-Y方向側に半周程度巻き掛けられ、支持フィラメント74の1本の帯状体74がカソード55の周面の+Y方向側に半周程度巻き掛けられている。また、支持フィラメント73E、73Eとカソード支持部74の帯状体74Eが互いに180°異なる方向(±Y方向)に張力を印加しつつカソード55を支持している。第1実施形態の構成では、±X方向に張力を付加してカソード55を支持したが、第3実施形態の構成では、±Y方向に張力を印加してカソード55を支持している。
【0071】
図9に示す構成においても、支持フィラメント73、74によりカソード55を安定的に支持することができる。
なお、図1に示す第1実施形態にあっては、基部53A、53Aと基部54A、54Aをボルト57、58で固定する位置の調節により、カソード55を支持するための引張力の大小を直接調整することができた。
これに対し、図9に示す構成でも、ボルト57、58による基部73A、基部74Aの固定位置を調節することにより、カソードに印加する張力を調節できる。
【0072】
図9において、+Y方向側の電極52、52に取り付けられているボルト57、58による基部73A、73Aの位置調節により、カソード55に帯状体73E、73Eから印加する引張力を調整できる。
例えば、+Y方向側に配置されている2つの基部73A、73A間の間隔を広くすると、カソード55に対し帯状体73E、73Eが作用させる+Y方向への引張力を高くすることができる。また、+Y方向側に配置されている2つの基部73A、73A間の間隔を縮小すると、カソード55に対し帯状体73E、73Eが作用させる+Y方向への引張力を低くすることができる。
【0073】
一方、-Y方向側の電極52、52に取り付けられているボルト57、58による基部74A、74Aの位置調節により、カソード55に帯状体74Eから印加する引張力を調整できる。
例えば、-Y方向側に配置されている2つの基部74A、74A間の間隔を広くすると、カソード55に対し帯状体74Eが作用させる-Y方向への引張力を若干高く調整することができる。また、-Y方向側に配置されている2つの基部74A、74A間の間隔を縮小すると、カソード55に対し帯状体74Eが作用させる-Y方向への引張力を若干低く調整することができる。
【0074】
図9に示す第3実施形態の構造によっても、カソード55を安定支持しながら電源から通電し、カソード55を加熱してカソード55から電子放出方向Eに電子を放出することができる。
【0075】
以上説明したように、図9に示す第3実施形態の構成は、カソード55の側面における+Y方向側の周面(第1部分)55eに接触し、電流を流すことにより発熱する支持フィラメント(第1部材)74と、カソード55の側面における第1部分55eとは異なる-Y方向側の周面(第2部分)55fに接触する支持フィラメント(第2部材)73を備えた構成であると表記できる。
また、第3実施形態の構成は、支持フィラメント(第1部材)74により電子放出方向Eと交差する第1方向(-Y方向)にカソード55を引っ張り、支持フィラメント(第2部材)73によって第1方向(-Y方向)とは逆向きの第2方向(+Y方向)にカソード55を引っ張ることによってカソード55を支持する構成であると表記できる。
【0076】
「第4実施形態のカソードヒータ」
図10は、本発明に係る第4実施形態のカソードヒータ80を示すもので、第4実施形態のカソードヒータ80は、第1実施形態のカソードヒータ50と同様に、2本の支持フィラメント53、54によりカソード55を支持した構成が採用されている。
図10では支持フィラメント53、54によるカソード55の支持構造の詳細を略しているが、図1図2に示す構成と同様、絶縁基台51と4本の電極体52を備え、それぞれ2本組の電極体52に支持された支持フィラメント53、54によりカソード55が支持されている構成は同等である。
【0077】
図10に示す第4実施形態では、電源81の正極側と負極極にそれぞれ接続される接続主配線82、83が構成するブリッジ回路内に支持フィラメント53、54がそれぞれ組み込まれている。
一方の接続主配線82が2つの分岐支線84A、84Bに分岐され、一方の分岐支線84Aが可変抵抗85を介し一方の支持フィラメント53の一方の基部53Aに電気的に接続され、他方の分岐支線84Bが可変抵抗86を介し他方の支持フィラメント54の一方の基部54Aに電気的に接続されている。
他方の接続主配線83が2つの分岐支線87A、87Bに分岐され、一方の分岐支線87Aが可変抵抗88を介し一方の支持フィラメント53の他方の基部53Aに電気的に接続され、他方の分岐支線87Bが可変抵抗89を介し他方の支持フィラメント54の他方の基部54Aに電気的に接続されている。
【0078】
図10に示す構成において、便宜的に、支持フィラメント53に接続している+Y方向側の電極体52を第1電極体、支持フィラメント53に接続している-Y方向側の電極体52を第2電極体、支持フィラメント54に接続している-Y方向側の電極体52を第3電極体、支持フィラメント54に接続している+Y方向側の電極体52を第4電極体と呼称することができる。よって、図10に示す構成では、第1乃至第4の電極体52により給電部が構成されている。
【0079】
第1の電極体52に接続されている分岐支線84Aに組み込まれた可変抵抗85を第1可変抵抗、第2の電極体52に接続されている分岐支線87Aに組み込まれた可変抵抗85を第2可変抵抗、第3の電極体52に接続されている分岐支線87Bに組み込まれた可変抵抗89を第3可変抵抗、第4の電極体52に接続されている分岐支線84Bに組み込まれた可変抵抗85を第4可変抵抗と呼称できる。
また、第1可変抵抗85を組み込んでいる分岐支線84Aを第1接続配線、第2可変抵抗88を組み込んでいる分岐支線87Aを第2接続配線、第3可変抵抗89を組み込んでいる分岐支線87Aを第3接続配線、第4可変抵抗85を組み込んでいる分岐支線84Bを第4接続配線と呼称できる。
図10に示す構成では、第1乃至第4電極体52と電源81とを接続する第1乃至第4接続配線84A、84B、87A、87Bにそれぞれ可変抵抗85、88、89、86が組み込まれていると表記できる。
【0080】
電源81から一方の支持フィラメント53と他方の支持フィラメント54に通電することにより支持フィラメント53、54の支持部(巻掛部)53C、54Cを発熱させることができ、この発熱によりカソード5を目的の2000℃以上などの高温に加熱し、カソード55の先端から電子などの荷電粒子を放出することができる。
なお、図10に示す接続主配線82、83、分岐支線84、87と支持フィラメント53、54が構成する回路はブリッジ回路であるため、支持フィラメント53、54間に電流が流れることはない。
【0081】
第4実施形態のカソードヒータ80によれば、可変抵抗85、86、88、89のそれぞれの抵抗値を調節し、例えば、支持フィラメント53の支持部53Cにおける発熱量と支持フィラメント54の支持部54Cにおける発熱量に差を付けることができる。
一例として、可変抵抗85、86、88、89の調節により、支持フィラメント53側の電気抵抗を高く、支持フィラメント54側の電気抵抗を低くすることができる。これにより、支持フィラメント54側により多くの電流を流し、発熱量を増加させ、支持フィラメント53側の発熱量を抑制した状態にすることができる。これにより、支持フィラメント54側と支持フィラメント53側とで熱膨張差が生じ、カソード55を+X方向に引っ張る力と、カソード55を-X方向に引っ張る力を変更することでカソード55の向きと姿勢とのうち少なくとも一方を変更することができる。よって、カソード55による電子放出方向を微調整できる。
【0082】
「第5実施形態のカソードヒータ」
図11は、本発明に係る第5実施形態のカソードヒータ90を示すもので、第5実施形態のカソードヒータ90は、絶縁基台51と2本の給電部91を備え、2本の給電部91に支持された2本の支持フィラメント92、93を備えている。
支持フィラメント(第1部材)92は、第1実施形態の支持フィラメント53を構成する基部53A、延出部53B、支持部53Cとそれぞれ略同等の構成を有する基部92A、延出部92B、支持部92Cを有する。従って、支持フィラメント92は、Z方向に離間する2本の帯状体92Eを有し、帯状体92E、92Eがカソード55の周面の-X方向側(一側)の一部分(第1部分)55gに半周程度に巻き掛けられている。第5実施形態の延出部92Bにおいても、その先端側を徐々に幅狭として幅狭部92Dを形成している。この幅狭部92Dの先端側にZ方向に離間する2本の帯状体92Eが形成され、2本の帯状体92Eにより支持部92Cが形成されている。
【0083】
絶縁基台51の上面側には2本の給電部91が絶縁基台51の一面51Aの中心部を挟む位置に形成されている。各給電部91の+X方向端部と-X方向端部にはそれぞれ面取部91Aが形成されている。各面取部91AはY方向に直交し、X方向に平行な面とされている。そして、支持フィラメント92の一方の基部92Aが一方の給電部91の一方の面取部91Aにボルト95により固定され、他方の基部92Aが給電部91の他方の面取部91Aにボルト96により固定されている。
給電部91の大部分は絶縁体からなる。ただし、給電部91の内部にそれぞれ支持フィラメント92の一方の基部92Aと他方の基部92Aに接続する図示略の電極体が組み込まれ、これらの電極体は図示略の電源に接続され、電源から支持フィラメント92に通電可能に接続されている。
【0084】
支持フィラメント(第2部材)93は、第1実施形態の支持フィラメント54を構成する基部54A、延出部54Bと略同等の構成を有する基部93A、延出部93Bを有する。更に、支持フィラメント93は、1本の帯状体93Eを備えた支持部93Cを延出部93Bの先端側の幅狭部93Dの先端側に有する。
支持フィラメント93の帯状体93Eがカソード55の周面の+X方向側(他側)の一部分(第2部分)55hに半周程度に巻き掛けられている。
支持フィラメント93の一方の基部92Aが他方の給電部91の一方の面取部91Aにボルト97により固定され、他方の基部93Aが給電部91の他方の面取部91Aにボルト98により固定されている。
【0085】
他方の給電部91の大部分は絶縁体からなる。ただし、その内部にそれぞれ支持フィラメント93の一方の基部93Aと他方の基部93Aに接続する図示略の電極体が組み込まれ、これらの電極体は図示略の電源に接続され、電源から支持フィラメント93に通電可能に接続されている。
【0086】
給電部91は、図1に示す第1実施形態の電極体52の数倍程度、径の大きな円柱状に形状されている。このため、図11の+X方向側に配置されている給電部91において、図11のY方向に離間した面取部91A、91Aからカソード55を支持する位置まで支持フィラメント92は平面視V字状に徐々に幅狭となるように配置されている。
また、図11の-X側に配置されている給電部91において、図11のY方向に離間した面取部91A、91Aからカソード55を支持する位置まで支持フィラメント93は平面視逆V字状に徐々に幅狭となるように配置されている。
【0087】
図11に示す第5実施形態の構造によっても、カソード55を安定支持しながら電源から通電し、帯状体92E、93Eによりカソード55を加熱してカソード55から電子等の荷電粒子を放出することができる。
【0088】
「第6実施形態のカソードヒータ」
図12は、本発明に係る第6実施形態のカソードヒータ100を示すもので、第6実施形態のカソードヒータ100は、第1実施形態のカソードヒータ50と同様に、絶縁基台51を備え、更に、4本の電極体(給電部)102を備える。カソードヒータ100は、更に、各電極体102に支持された2本の支持フィラメント(第1部材)103、2本の支持フィラメント(第2部材)104を備える。
【0089】
2本の支持フィラメント103のうち、1本は、図12の+X方向側に配置された電極体(第1電極体)102に支持され、他の1本は、図12の-Y方向側に配置された電極体(第2電極体)102に支持されている。2本の支持フィラメント104のうち、1本は、図12の-X方向側に配置された電極体(第3電極体)102に支持され、他の1本は、図12の+Y方向側に配置された電極体(第4電極体)102に支持されている。
【0090】
図12の+X方向側(図12の手前側)に配置された支持フィラメント103は、第1実施形態の支持フィラメント53を構成する基部53A、延出部53B、支持部53Cとそれぞれ略同等の構成を有する基部103A、延出部103B、支持部103Cを有する。支持フィラメント103は、Z方向に離間する2本の帯状体103Eを有し、帯状体103E、103Eがカソード55の周面の-X方向側(一側)の一部分(第1部分)55iに半周程度巻き掛けられている。第6実施形態の延出部103Bにおいても、その先端側を徐々に幅狭として幅狭部103Dが形成されている。この幅狭部103Dの先端側にZ方向に離間する2本の帯状体103Eが形成され、2本の帯状体103Eにより支持部103Cが形成され、2本の帯状体103Eがカソード55の一部分55iに巻き掛けられている。
【0091】
第6実施形態の支持フィラメント103が第1実施形態の支持フィラメント53と異なるのは、支持フィラメント103が帯状体103Eの部分で2つ折り構造とされ、基部103A、103Aが重ねられてボルト107により電極体102の面取部102Bに取り付けられ、延出部103B、103Bが重ねられている点である。
図12の-Y方向側に配置された支持フィラメント103は図12の-Y方向側に配置された電極体102に支持され、この電極体102の面取部102Bに基部103A、103Aが重ねられてボルト107により固定されている。この支持フィラメント103の帯状体103Eは、カソード55の周面のうち、+Y方向側の周面の一部分(第1部分)55k側に巻き掛けられている。
【0092】
図12の-X方向側に配置された支持フィラメント104は、第1実施形態の支持フィラメント54を構成する基部54A、延出部54B、支持部54Cと略同等の構成を有する基部104A、延出部104B、支持部104Cを有する。更に、支持フィラメント104は、1本の帯状体104Eを備えた支持部104Cを延出部104Bの先端側の幅狭部104Dの先端側に有する。
【0093】
支持フィラメント104においても、帯状体104Eの部分で2つ折り構造とされ、基部104A、104Aが重ねられてボルト108により-X方向側の電極体102の面取部102Bに取り付けられ、延出部104B、104Bが重ねられている。この支持フィラメント104の帯状体104Eは、カソード55の周面のうち、+X方向側の周面の一部分(第2部分)55m側に巻き掛けられている。
図12の+Y方向側に配置された支持フィラメント104は図12の+Y方向側に配置された電極体102に支持され、この電極体102の面取部102Bに基部104Aがボルト108により固定されている。この支持フィラメント104の帯状体104Eは、カソード55の周面のうち、-Y方向側の周面の一部分(第2部分)55n側に巻き掛けられている。
【0094】
図12に示す4本の支持フィラメント103、103、104、104において、それぞれの帯状体103E、104Eは互いの巻掛位置が干渉しないように、図13に示す如くカソード55の長さ方向(Z方向)に位置ずれ配置されている。
図13では、図12に示す-Y方向側に設置されている支持フィラメント103の帯状体103Eと、図12に示す+Y方向側に設置されている支持フィラメント104の帯状体104Eによりカソード55に付与した張力が矢印で示されている。帯状体103Eが作用させる張力と帯状体104Eが作用させる張力は図13に示すように180°異なる方向に向けられている。
【0095】
図12に示す+X方向側に設置されている支持フィラメント103の帯状体103Eと、図12に示す-X方向側に設置されている支持フィラメント104の帯状体104Eがカソード55に付与する張力も180°異なる方向となる。図13ではこれらの張力を描くことができないので、帯状体103E、103Eの設置位置と帯状体104Eの設置位置のみ表示している。
図13に示すように、図12に示す-Y方向側に設置されている支持フィラメント103の帯状体103Eの設置位置より、図12に示す+X方向側に設置されている支持フィラメント103の帯状体103Eの設置位置が+Z方向(図13では下方)となるように各フィラメントが配置されている。
【0096】
第6実施形態のカソードヒータ100においても、一方の支持フィラメント103の帯状体103E、103Eと他方の支持フィラメント104の帯状体104Eにより、張力を印加しつつカソード55を支持する構成は、第1実施形態のカソードヒータ50と同様である。
図13に示すように、2本の支持フィラメント103と2本の支持フィラメント104を用いて合計4本のフィラメントにより張力をカソード55に作用させることでカソード55を安定支持することができる。
【0097】
なお、支持フィラメント103の基部103Aと支持フィラメント104の基部104Aには、第1実施形態のスリット53a、54aと同様のスリットが形成されている。
このため、ボルト107、108による基部103A、104Aの固定位置をスリットに沿って調節することでカソード55に対する±X方向と±Y方向の張力を適宜調節することが可能となる。
このため、カソード55の安定支持が可能になるとともに、カソード55から電子等の荷電粒子を放出する方向を調整することができる。
【0098】
ところで、これまで説明した各実施形態においては、平面視した円柱状のカソード55を中心に180°異なる方向から張力を印加しつつ支持フィラメントによりカソード55を支持した構成について説明した。
しかし、カソード55を平面視した場合、カソード55を中心として張力を印加する方向は任意の角度で交差する他の方向を選択しても良い。
【0099】
例えば、図14に示すようにカソード5を中心として、-X方向に沿う第1方向aに向く張力と、+X方向であり、+X方向から+Y方向に角度αで傾斜する第2方向aに向く張力と、+X方向であり、+X方向から-Y方向に角度αで傾斜する第3方向aに向く張力を付加してカソード55を支持しても良い。
【0100】
図14に示す構成は、例えば、図1図2に示す支持フィラメント(第2部材)53の帯状体53Eと支持フィラメント(第1部材)54の帯状体54Eに加え、支持フィラメント(第3部材)110の帯状体110Eを支持部(第3支持部)110Cとして設けることにより、引張力をバランスさせた構成である。
図1図2に示す帯状体53Eと帯状体54Eは180°異なる方向からカソード55に対し引張力を負荷したが、図14に示す構成では、帯状体54Eの引張力に対し±αの傾斜角を有して反対向きとなる帯状体53E、110Eによる引張力をバランスさせる。
以上説明のように、第1方向aに対し、第2方向aとは、第1方向aに対する逆向きの方向成分を含んでいれば、第2方向は第1方向とは逆向きであるとの概念とする。
【0101】
図14に示す構成は、第1方向aの張力に対し、逆向きの方向成分を有する第2方向aの張力と第3方向aの引張力をバランスさせてカソード55を支持した例である。
また、先に説明した図12に示す構成は、カソード55を中として、+X方向と+Y方向と-X方向と-Y方向のそれぞれ90度で交差する張力をバランスさせてカソード55を支持した構成であると表記することもできる。
以上説明したように、カソード55に作用させる引張力はカソード55の周回りに複数の任意の方向に付加した引張力をバランスさせて利用することにより、カソード55を支持することができる。
また、上述した各実施形態にいおいては、支持フィラメントにおいて最も断面積が小さくなる支持部でカソードを支持している構成について説明した。
しかしながら、カソードを支持している部分の断面積は、支持フィラメントにおいて最も断面積が小さくなる部分でなくても構わない。
例えば、図15の支持フィラメントを展開して示した図に示すように、カソードを支持する支持部113Cと延出部113Bとの間に、支持部113Cよりも幅の狭い、即ち支持部113Cの断面積よりも小さな断面積を持つ幅狭部113Fを設けてもよい。
この場合、支持フィラメント113に電流を流した際に、幅狭部113Fが発熱に寄与し、その熱は隣接する支持部113Cに伝わり、この支持部113Cを介してカソードを加熱する。
この図15の構成では、カソードに大面積で接触してカソードを支持することになるため、安定的にカソードを保持することができる。
上述の各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。上述の各実施形態の要件のうちの一部が用いられなくてもよい。上述の各実施形態の要件は、適宜他の実施形態の要件と置き換えることができる。
また、本発明は、請求の範囲及び明細書全体から読み取るこのできる発明の要旨又は思想に反しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0102】
1…荷電粒子装置、3…荷電粒子線源、E…電子放出方向、50…カソードヒータ、51…絶縁基台、52…電極体(給電部)、53…支持フィラメント(第2部材)、53C…支持部(第2支持部)、54…支持フィラメント(第1部材)、54C…支持部(第1支持部)、55…カソード、55a、55c、55e、55g…第1部分、55b、55d、55f、55h…第2部分、60…カソードヒータ、63…支持フィラメント(第1部材)、64…支持フィラメント(第2部材)、70…カソードヒータ、73…支持フィラメント(第2部材)、74…支持フィラメント(第1部材)、80…カソードヒータ、81…電源、82、83…接続主配線、84A…分岐支線(第1接続配線)、87A…分岐支線(第2接続配線)、87B…分岐支線(第3接続配線)、84B(第4接続配線)、85…(第1)可変抵抗、88…(第2)可変抵抗、89…(第3)可変抵抗、86…(第4)可変抵抗、90…カソードヒータ、91…給電部、92…支持フィラメント(第1部材)、93…支持フィラメント(第2部材)、100…カソードヒータ、103…支持フィラメント(第1部材)、104…支持フィラメント(第2部材)、110…支持フィラメント(第3部材)、110C…支持部(第2支持部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15