(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097134
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション装置の制御方法、フィルム製造方法、塗工方法、および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230630BHJP
G01N 13/02 20060101ALI20230630BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230630BHJP
G16Z 99/00 20190101ALI20230630BHJP
【FI】
G06F30/20
G01N13/02
B05D3/00 D
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213307
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】島田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内橋 祐介
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 優太
(72)【発明者】
【氏名】松尾 美弥
【テーマコード(参考)】
4D075
5B146
5L049
【Fターム(参考)】
4D075BB91X
4D075CA35
4D075CA36
4D075CA48
4D075DC16
4D075DC22
4D075DC30
4D075EA05
5B146DJ11
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】CLSVOF法よりも計算負荷が低く、かつ、S-CLSVOFよりも高い計算精度を実現する。
【解決手段】表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーション装置(1)は、(i)空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出部(31)と、(ii)レベルセット値算出部(31)によって算出されたレベルセット値を用いて、注目する計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出部(32)と、を備える。レベルセット値算出部(31)は、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率α
VOFを用いて、隣接した計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いてレベルセット値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーション装置であって、
空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出部と、
前記レベルセット値算出部によって算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出部と、を備え、
前記レベルセット値算出部は、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する、
シミュレーション装置。
【請求項2】
前記レベルセット値算出部は、前記関数として、以下の式を用いて、前記レベルセット値(Φ)を算出する、
【数1】
ここで、λは次式で与えられ、
【数2】
γは次式で与えられ、
【数3】
βは次式で与えられ、
【数4】
ここで、β
max、β
minは予め設定された所定値、n
x、n
yはそれぞれ界面法線のx方向およびy方向である、
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記表面張力算出部は、
前記レベルセット値を用いて曲率を計算し、
前記曲率を用いて前記表面張力を算出する、
請求項1または2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記表面張力算出部によって算出された前記表面張力に基づき、速度を算出する速度算出部をさらに備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
VOF関数α(x)を更新する更新部をさらに備え、
前記更新部は、
直前の時刻のVOF関数α(x)を用いて、次式を設定し、
【数5】
ここで、x
edgeはセル接触面の位置、Δxはセルサイズであり、
γは次式で与えられ、
【数6】
βは次式で与えられ、
【数7】
ここで、β
max、β
minは予め設定された所定値、n
x、n
yはそれぞれ界面法線のx方向およびy方向であり、
x
Dは次式で与えられ、
【数8】
ηは次式で与えられ、
【数9】
前記速度算出部によって算出された前記速度(V)に基づき、前記設定したα(x)のxにx+VΔtを代入して、VOF関数α(x)を更新する、
請求項4に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記表面張力算出部は、注目する計算セルに含まれる界面に生じる前記表面張力(F
σ)を、表面張力係数σ、界面曲率κ、および法線ベクトルNを用いて、以下の式により計算する、
【数10】
ここで、x方向のセルサイズがΔxであり、y方向のセルサイズがΔyである場合に、法線ベクトルNのx成分およびy成分はそれぞれ、
【数11】
【数12】
として与えられ、
κは、
【数13】
【数14】
として与えられ、
nは、単位法線ベクトルであり、次式で与えられる、
【数15】
請求項1から5のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーション装置の制御方法であって、
空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出ステップと、
前記レベルセット値算出ステップにおいて算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出ステップと、を含み、
前記レベルセット値算出ステップでは、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する、
シミュレーション装置の制御方法。
【請求項8】
表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーションを伴うフィルム製造方法であって、
フィルム材料の表面張力を計算するために、
空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出ステップと、
前記レベルセット値算出ステップにおいて算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出ステップと、を含み、
前記レベルセット値算出ステップでは、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する、
フィルム製造方法。
【請求項9】
表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーションを伴う塗工液の塗工方法であって、
前記塗工液の表面張力を計算するために、
空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出ステップと、
前記レベルセット値算出ステップにおいて算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出ステップと、を含み、
前記レベルセット値算出ステップでは、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する、
塗工方法。
【請求項10】
請求項1に記載のシミュレーション装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記レベルセット値算出部および前記表面張力算出部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーション装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
表面張力は、薄い塗工、細い流路になるほど支配的な力であるため、近年、プリンテッドエレクトロニクス、バイオテクノロジー分野を中心としてその重要性を増している。そこで、数値計算による表面張力の予測が精力的に行われている。
【0003】
米国ロスアラモス研究センターBlackbill et. al.(1992)によって開発されたCSF(Continuum Surface Force)モデルが最もよく使用されるが、計算上の誤差が大きくなることが知られている。
【0004】
次いで、米国カルフォルニア大のOsher教授によってLS(Level Set)法が開発された。その後、Sussmann教授によって、LS法とVOF(Volume of Fluid)法とを組み合わせた手法であるCLSVOF(Coupling between VOF and LS)が開発された。ただし、CLSVOF法は計算負荷が大きい。
【0005】
この点を踏まえ、アイルランドのAlbadawi et al.(2013)によって、より簡便な手法である、S-CLSVOF(Simple-CLSVOF)法が開発された(非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Albadawi, A., D. B. Donoghue, A. J. Robinson, D. B. Murray, and Y. M. C. Delaure, “Influence of surface tension implementation in Volume of Fluid and coupled Volume of Fluid with Level Set methods for bubble growth and detachment,”International Journal of Multiphase Flow, 53, 11-28 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
S-CLSVOF法によれば、CLSVOF法に比べて計算負荷を低減できる。但し、S-CLSVOF法は、CLSVOF法に比べて、計算精度において劣っている。
【0008】
本発明の一態様は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、CLSVOF法よりも計算負荷が低く、かつ、S-CLSVOF法よりも高い計算精度を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るシミュレーション装置は、表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーション装置であって、空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出部と、前記レベルセット値算出部によって算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出部と、を備え、前記レベルセット値算出部は、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する。
【0010】
また、本発明の一態様に係るシミュレーション装置の制御方法は、表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーション装置の制御方法であって、空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出ステップと、前記レベルセット値算出ステップにおいて算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出ステップと、を含み、前記レベルセット値算出ステップでは、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する。
【0011】
また、本発明の一態様に係るフィルム製造方法は、表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーションを伴うフィルム製造方法であって、フィルム材料の表面張力を計算するために、空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出ステップと、前記レベルセット値算出ステップにおいて算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出ステップと、を含み、前記レベルセット値算出ステップでは、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する。
【0012】
また、本発明の一態様に係る塗工方法は、表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーションを伴う塗工液の塗工方法であって、前記塗工液の表面張力を計算するために、空間に設定した計算セルごとに決定された、現在の時刻の気相のセル体積占有率を用いて、注目する計算セル周りのレベルセット値を算出するレベルセット値算出ステップと、前記レベルセット値算出ステップにおいて算出された前記レベルセット値を用いて、注目する前記計算セルに含まれる界面に生じる表面張力を算出する表面張力算出ステップと、を含み、前記レベルセット値算出ステップでは、現在の時刻の気相のセル体積占有率として、VOF(Volume of Fluid)法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した前記計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて前記レベルセット値を算出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、CLSVOF法よりも計算負荷が低く、かつ、S-CLSVOF法よりも高い計算精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシミュレーション装置の要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】セルにおける体積率分布について説明する図である。
【
図3】各セルにおけるαおよびNの割り当てについて説明する図である。
【
図4】上記シミュレーション装置において、本件手法を実行する処理の流れを例示する図である。
【
図5】気泡の場合における、各手法において得られた最大速度誤差および平均速度誤差を示す図である。
【
図6】液滴の場合における、各方法において得られた最大速度誤差および平均速度誤差を示す図である。
【
図7】各手法によって得られた、最終時刻における気泡の速度場を例示する図である。
【
図8】CLSVOF法および本件手法のそれぞれによって得られたシミュレーション結果を比較する図である。
【
図9】本件手法によって得られた、各時刻における速度場を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るシミュレーション装置1について説明する。説明の便宜上、公知技術と同様の事項については、言及を適宜省略する。なお、本明細書において以下に述べる各数値は、単なる一例であることに留意されたい。また、本明細書では、数式オブジェクトの箇所を除いては、ベクトルについても、スカラーと同様の標準スタイルの文字にて表記されていることに留意されたい。
【0016】
(気液界面における動き予測についての概説)
後述する通り、本願の発明者ら(以下、単に「発明者ら」と称する)は、新たなシミュレーション手法(THAINC-LS法)を開発した。本明細書では、当該新たなシミュレーション手法を、本件手法とも称する。
図1に示されているシミュレーション装置1の詳細な説明に先立ち、本件手法の前提となる技術的事項について簡単に述べる。
【0017】
一般的に、界面における輸送に関しては、空間に設定された計算セル(計算格子)における体積率αを使用するVOF法が用いられる。体積率は、体積占有率とも称される。以下の説明では、計算セルを、単に「セル」とも略記する。
【0018】
以下、
図2を参照してVOF法について説明する。
図2は、セルにおける体積率分布について説明する図である。
図2では、2次元空間(例:xy座標空間)におけるシミュレーションの例が示されている。但し、当業者であれば明らかである通り、以下の説明は、3次元空間(例:xyz座標空間)におけるシミュレーションについても同様に当てはまる。
【0019】
図2の符号2000Aに示されている通り、気相(気体)と液相(液体)との間には、界面が存在している。
図2の符号2000Bには、符号2000Aに対応するセルにおける体積率分布を示す図である。以下の説明では、複数のセルのうち、注目する1つのセルを、注目セルと称する。
【0020】
注目セルが完全に液相(液体)で占められている場合、当該注目セルでは、α=1である。他方、注目セルが完全に気相(気体)で占められている場合、当該注目セルでは、α=0である。従って、注目セルにおけるαの値が0より大きく、かつ、1未満であることは、当該注目セル内に界面が存在している(言い換えれば、当該注目セルが界面を含んでいる)ことを示している。
【0021】
一例として、流体(より具体的には、非圧縮性流体)の質量保存式および運動量保存式はそれぞれ、以下の式(1)および式(2)、
【数1】
…(1)
【数2】
…(2)
によって与えられる。Vは流体の速度であり、ρは当該流体の密度であり、Pは当該流体の圧力であり、μは当該流体の粘度であり、gは重力加速度であり、F
σは界面に作用する表面表力である。
【0022】
そして、ρおよびμはそれぞれ、以下の式(3)および式(4)、
【数3】
…(3)
【数4】
…(4)
によって与えられる。α
L、ρ
L、およびμ
Lはそれぞれ、液相における体積率、密度、および粘度を表す。ρ
Lおよびμ
Lは、所与の物性値として与えられてよい。α
G、ρ
G、およびμ
Gはそれぞれ、気相における体積率、密度、および粘度を表す。ρ
Gおよびμ
Gは、所与の物性値として与えられてよい。
【0023】
αは、所定の輸送方程式に従って変化する。一例として、αの輸送方程式は、以下の式(5)、
【数5】
…(5)
によって与えられる。従って、式(5)を解くことにより、界面の分布および動きを予測できる。本実施形態では、シミュレーション装置1は、THAINC(Tangent Hyperbola with Adaptive slope for Interface Capture)法によって式(5)を解く。
【0024】
図2の符号2000Cには、
図2の符号2000Bにおける線L1に沿ったαの分布(すなわち、あるyについての、x方向におけるαの分布)を示すグラフが示されている。具体的には、符号2000Cには、本件手法によって導出されたαの分布を示すグラフが示されている。当該グラフの各点は、後述のα
VOFに対応する。当該グラフから明らかである通り、本件手法によれば、界面の位置を正確に表現することができる。それゆえ、本件手法によれば、界面の動きを正確に予測することもできる。
【0025】
(シミュレーション装置1の構成)
続いて、
図1を参照し、シミュレーション装置1の構成について述べる。
図1は、シミュレーション装置1の要部の構成を示すブロック図である。以下に述べる通り、シミュレーション装置1は、本件手法によって表面張力を伴う流動計算を行うことができる。シミュレーション装置1は、制御部10および記憶部20を備えている。また、シミュレーション装置1には、入力装置2と表示装置3とが接続されている。
【0026】
入力装置2は、ユーザにシミュレーション装置1を操作させるための装置である。入力装置2は、シミュレーション装置1を操作するための入力操作を受け付け、かつ、当該入力操作の内容を示す操作データをシミュレーション装置1に送信する。
【0027】
表示装置3は、シミュレーション装置1が出力する表示用データを用いて画像を表示する装置である。表示装置3には、ユーザにシミュレーション装置1を操作させるための操作画面、および、シミュレーション結果等が表示される。
【0028】
制御部10は、シミュレーション装置1の各部を統括的に制御する。記憶部20は、シミュレーション装置1が動作するために必要なデータおよびプログラム等を格納している。また、シミュレーションの過程において算出される途中結果、および、シミュレーションの最終結果なども、記憶部20に格納される。
【0029】
制御部10は、シミュレーション算出部30、シミュレーション制御部40、および表示制御部50を備えている。シミュレーション算出部30は、レベルセット値算出部31、表面張力算出部32、速度算出部33、および更新部34を備えている。シミュレーション算出部30の各部についての説明は、後述する。
【0030】
シミュレーション制御部40は、シミュレーション算出部30におけるシミュレーション(より詳細には、流体シミュレーション)を制御する。一例として、シミュレーション制御部40は、シミュレーション算出部30に各時刻および各セルについての計算を行わせることにより、シミュレーション算出部30にシミュレーションを実行させる。
【0031】
具体的には、シミュレーション制御部40は、現在時刻(現在の時刻)tにおける各セルのαを、シミュレーション算出部30に算出させる。以下では、現在時刻を、単に「時刻」と略記する。そして、時刻tにおける全てのセルにおけるαの算出が完了すると、シミュレーション制御部40は、時刻をtからt+Δtへと更新する。Δtは、所定の時間刻み幅である。次いで、シミュレーション制御部40は、時刻t+Δにおける各セルのαを、シミュレーション算出部30に算出させる。シミュレーション制御部40は、以上の処理を、所定の最終時刻(シミュレーション終了時刻)まで繰り返す。
【0032】
シミュレーション制御部40は、シミュレーション算出部30におけるシミュレーションの終了後、シミュレーション算出部30からシミュレーション結果を取得する。一例として、シミュレーション制御部40は、シミュレーション結果を表示制御部50に送信してよい。あるいは、シミュレーション制御部40は、シミュレーション結果を記憶部20に格納してもよい。
【0033】
表示制御部50は、シミュレーション制御部40による上述の処理によって得られたシミュレーション結果を、表示装置3に表示させる。また、表示制御部50は、表示させるデータを記憶部20から読み出し、当該データに対応する画面を表示装置3に表示させてもよい。一例として、表示制御部50は、シミュレーション装置1を操作するための操作画面データを記憶部20から読み出し、操作画面を表示装置3に表示させる。
【0034】
(レベルセット値算出部31)
レベルセット値算出部31は、時刻t(現在時刻)における気相のセル体積率(セル体積占有率)を用いて、注目セル周りのレベルセット値を算出する。具体的には、レベルセット値算出部31は、現在時刻の気相のセル体積占有率として、VOF法によって得られたセル体積占有率αVOFを用いて、隣接した計算セルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を使ってレベルセット値を算出する。
【0035】
多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数の例としては、(i)多次元的な分布情報をパラメータとして含む高次関数、および、(ii)多次元的な分布情報をパラメータとして含む特殊関数などが挙げられる。そこで、以下では、一例として、レベルセット値算出部31が、特殊関数を用いてレベルセット値を算出する場合を例示する。
【0036】
多次元的な分布情報をパラメータとして含む特殊関数の例としては、以下に述べる式(6)が挙げられる。なお、本発明の一態様における特殊関数とは、線形でない関数(初等関数など)を指す。特殊関数の例としては、ガンマ関数、エアリー関数、ベッセル関数、ゼータ関数、楕円関数、ルジャンドル関数、誤差関数、超幾何関数、および、直交多項式によって表される関数などが挙げられる。
【0037】
本実施形態では、レベルセット値算出部31は、多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数(より具体的には、特殊関数)として、以下の式(6)を用いて、レベルセット値(Φ)を算出する、
【数6】
…(6)
ここで、λは以下の式(7)によって与えられ、
【数7】
…(7)
γは以下の式(8)によって与えられ、
【数8】
…(8)
βは以下の式(9)によって与えられ、
【数9】
…(9)
ここで、β
max、β
minは予め設定された所定値、n
x、n
yはそれぞれ界面法線のx方向およびy方向である。なお、式(6)および(7)の導出過程については後述する。
【0038】
(表面張力算出部32)
表面張力算出部32は、レベルセット値算出部31によって算出されたレベルセット値(例:上述のΦ)を用いて、注目セルに含まれる界面に生じる表面張力(Fσ)を算出する。
【0039】
一例として、表面張力算出部32は、レベルセット値を用いて曲率を計算し、当該曲率を用いて表面張力を算出してよい。
【0040】
本実施形態では、表面張力算出部32は、以下の式(10)、
【数10】
…(10)
によって、F
σを算出する、
ここで、σは表面張力係数であり、κは界面曲率であり、Nは法線ベクトルであり、
Nのx成分およびy成分はそれぞれ、以下の式(11)~(12)、
【数11】
…(11)
【数12】
…(12)
によって与えられ、
ここで、Δxはx方向のセルサイズであり、Δyはy方向のセルサイズであり、
κは、以下の式(13)~(14)、
【数13】
…(13)
【数14】
…(14)
によって与えられ、
nは単位法線ベクトルであり、以下の式(15)によって与えられる。
【数15】
…(15)
【0041】
以上の通り、表面張力算出部32は、Φを用いることにより、σ、κ、N、Δx、およびΔyを用いて、Fσを算出できる。σは、所与の物性値として与えられてよい。ΔxおよびΔyは、シミュレーション装置1のユーザによって設定されてよい。なお、式(10)は、CSFモデルに基づくFσの算出式の一例である。
【0042】
式(11)~(12)に関し、
図3を参照して説明する。
図3は、各セルにおけるαおよびNの割り当てについて説明する図である。iはx方向のセル位置を示す添字であり、jはy方向のセル位置を表す添字である。本明細書では、あるセル(i,j)におけるαを、α
i,jと表記する。
【0043】
図3に示される通り、αは、各セルの中心に対応付けられている。他方、式(11)および(12)によれば、Nは2つの隣り合うセル間の境界に対応付けられる。式(11)におけるN
x,i+1/2,jは、セル(i,j)とセル(i+1,j)との境界における、Nのx成分である。また、式(12)におけるN
y,i,j+1/2は、セル(i,j)とセル(i,j+1)との境界における、Nのy成分である。
【0044】
式(14)は、CSFモデルに基づくκの算出式の一例である。式(14)によれば、各セルの中心におけるκを算出できる。式(15)は、単位法線ベクトルの算出式の一例である。式(13)は、κに関する公知の補間式の一例である。式(13)によれば、2つの隣り合うセル間の境界におけるκを算出できる。
【0045】
(速度算出部33)
速度算出部33は、表面張力算出部32によって算出された表面張力に基づき、速度Vを算出する。一例として、速度算出部33は、公知の算出式を用いて、Fσに基づき、Vを算出してよい。
【0046】
なお、シミュレーション算出部30は、公知の算出式を用いて、Pを算出してもよい。本実施形態では、説明の便宜上、速度算出部33にPを算出する機能が付与されている場合を例示する。
【0047】
(更新部34)
更新部34は、VOF関数α(x)を更新する。まず、更新部34は、直前の時刻(前タイムステップにおける時刻,すなわちt-Δt)におけるα(x)を用いて、以下の式(16)、
【数16】
…(16)
を設定する。
【0048】
式(16)において、x
edgeはセル接触面の位置であり、Δxはセルサイズ(より具体的には、x方向のセルサイズ)である。γは、上述の式(8)によって与えられる。βは、上述の式(9)によって与えられる。
ここで、x
Dは、以下の式(17)によって与えられ、
【数17】
…(17)
ηは、以下の式(18)によって与えられる。
【数18】
…(18)
【0049】
そして、更新部34は、速度算出部33によって算出されたVに基づき、上述の通り設定したα(x)のxにx+VΔtを代入して、現在時刻のα(x)を算出する(すなわち、α(x)を更新する)。このように、更新部34は、Δtの経過に伴ってxをVΔtだけ移動させることにより、α(x)を更新する。
【0050】
(本件手法についての補足説明)
発明者らは、上述の式(16)に基づき、以下の式(19)、
【数19】
…(19)
を新たに導出した。式(19)は、式(16)の原点を各セルの中心に設定し(すなわち、x
edgeを0に設定し)、かつ、x
DをΦに置き換えることによって得られる。
【0051】
さらに、発明者らは、α(x)について、以下の式(20)、
【数20】
…(20)
によって示される条件を与えるという新たな着想に至った。
【0052】
発明者らは、式(19)を式(20)に代入して式変形することによって、上述の式(6)~(7)を導出した。このように、式(6)~(7)は、発明者らによって新たに提案された式である。
【0053】
上述の通り、本件手法は、THAINC法に基づいている。加えて、本件手法では、α(x)を積分したαVOFを用いて、レベルセット値(LS値)Φが定義されている(上述の式(6)~(7)および(20)を参照)。このことから、発明者らは、本件手法を、THAINC-LS法とネーミングした。
【0054】
(シミュレーション装置1における処理の流れ)
図4は、シミュレーション装置1において、本件手法を実行する処理の流れを例示する図である。なお、
図4の例では、シミュレーション装置1における処理の開始に先立ち、ρ
L、ρ
G、μ
L、μ
G、およびσが、所与の物性値として与えられているものとする。
【0055】
一例として、シミュレーション制御部40は、ユーザによる所定の入力操作を受け付けて、シミュレーション算出部30にシミュレーションを開始させる。まず、シミュレーション制御部40は、シミュレーション算出部30にシミュレーション条件を初期化させる(S1)。
【0056】
初期化が完了した後、シミュレーション算出部30は、αの分布からρおよびμを算出する(S2)。具体的には、シミュレーション算出部30は、上述の式(3)および(4)に従って、αに応じたρおよびμを算出する。
【0057】
次いで、シミュレーション算出部30は、αを用いてΦを算出する(S3)。具体的には、上述の通り、レベルセット値算出部31は、αVOFを用いてΦを算出する。S3は、レベルセット値算出ステップと称されてもよい。
【0058】
次いで、シミュレーション算出部30は、Fσを算出する(S4)。具体的には、上述の通り、表面張力算出部32は、S3において算出されたΦを用いて、Fσを算出する。S4は、表面張力算出ステップと称されてもよい。
【0059】
次いで、シミュレーション算出部30は、VおよびPを算出する(S5)。具体的には、上述の通り、速度算出部33は、S4において算出されたFσに基づき、Vを算出する。そして、速度算出部33は、Pをさらに算出する。
【0060】
次いで、シミュレーション算出部30は、αを更新する(S6)。具体的には、上述の通り、更新部34は、直前時刻におけるα(x)を用いて、速度算出部33によって算出されたVに基づき、α(x)を更新する。
【0061】
次いで、シミュレーション制御部40は、時刻tが最終時刻(シミュレーション終了時刻)に達したか否かを判定する(S7)。時刻tが最終時刻に達した場合(S7においてYES)、シミュレーション制御部40は、シミュレーション算出部30にシミュレーションを終了させる。
【0062】
他方、時刻tが最終時刻に達していない場合(S7においてNO)、シミュレーション制御部40は、時刻tを更新する(S8)。具体的には、シミュレーション制御部40は、tをt+Δtに更新する。そして、S2に戻る。このように、初期時刻から最終時刻に至るまで、一連の処理が繰り返される。
図4の例では、シミュレーションの終了後、シミュレーション装置1は、初期時刻から最終時刻までの各時刻におけるα、V、およびPを、シミュレーション結果として出力してよい。
【0063】
(検証結果)
発明者らは、本件手法(THAINC-LS法)の有効性を検証するために、複数の数値シミュレーションを行った。以下、一部の検証結果について述べる。
【0064】
(VOF法およびS-CLSVOFとの比較)
まず、発明者らは、気泡および液滴のそれぞれについて、VOF法、S-CLSVOF法、および本件手法のそれぞれによってシミュレーションを行うことにより、各方法を比較した。具体的には、発明者らは、各手法によって得られた最大速度誤差|Vmax|および平均速度誤差|Vave|を比較した。
【0065】
なお、最大速度誤差および平均速度誤差はそれぞれ、以下の式(21)および(22)、
【数21】
…(21)
【数22】
…(22)
によって与えられる。ここで、V
i,jは、セル(i,j)におけるVを表す。
【0066】
発明者らは、Coarse(粗)およびFine(密)という2つの異なるセル条件を設定し、各セルサイズにおける最大速度誤差および平均速度誤差を、各手法によって得た。Coarseにおいて、セル数は50×50=2500であり、セルサイズは、Δx=Δy=0.001mである。他方、Fineにおいて、セル数は100×100=10000であり、セルサイズは、Δx=Δy=0.0005mである。
【0067】
図5には、気泡の場合における、各手法において得られた最大速度誤差および平均速度誤差が示されている。
図6には、液滴の場合における、各方法において得られた最大速度誤差および平均速度誤差が示されている。
【0068】
図5および
図6に示される通り、S-CLSVOF法では、多くのケースにおいて、VOF法よりも小さい最大速度誤差および平均速度誤差が得られた。そして、
図5および
図6に示される通り、本件手法によれば、気泡および液滴のいずれについても、かつ、CoarseおよびFineのいずれについても、S-CLSVOF法よりも小さい最大速度誤差および平均速度誤差が得られた。このように、本件手法によって、S-CLSVOF法よりも高い計算精度を実現できることが裏付けられた。
【0069】
図7には、各手法によって得られた、最終時刻における気泡の速度場(より具体的には、Fineにおける速度場)が示されている。
図7において、符号7000AはVOF法における速度場を、符号7000BはS-CLSVOF法における速度場を、符号7000Cは本件手法における速度場を、それぞれ示す。
【0070】
図7に示される通り、S-CLSVOF法によれば、VOF法において顕著に生じていたスプリアス流(spurious current)を低減できる。そして、本件手法によれば、S-CLSVOF法よりも効果的にスプリアス流低減できることがさらに確認された。このことからも、本件手法によって、S-CLSVOF法よりも高い計算精度を実現できることが裏付けられた。
【0071】
なお、発明者らは、本件手法に従ってΦを定義することにより、S-CLSVOF法に比べてΦの精度を向上させることができると考えている。このことから、発明者らは、上述した本件手法の高い計算精度は、Φの精度向上によってもたらされたと考えている。
【0072】
(CLSVOF法との比較)
続いて、発明者らは、CLSVOF法および本件手法のそれぞれによって、ノズルからの気泡生成をシミュレートした。
図8は、CLSVOF法および本件手法のそれぞれによって得られたシミュレーション結果を比較する図である。
図8には、各時刻(t
1、t
2、t
3、およびt
4)における、CLSVOF法による結果(左側)と本件手法による結果(右側)とが示されている。
【0073】
図8の例では、t
1において1番目の気泡(最初の気泡)が生成されており、かつ、t
4において2番目の気泡(後続する気泡)が生成されている。
図8の例は、最初の気泡が、後続する気泡の生成に不安定な影響を及ぼしていないことを表している。
【0074】
図8に示される通り、いずれの時刻においても、本件手法による結果は、CLSVOF法による結果とほぼ一致することが確認された。このことから、本件手法によれば、CLSVOF法に近い計算精度(言い換えれば、S-CLSVOF法よりも高い計算精度)を実現できることが裏付けられた。
【0075】
なお、本件手法によれば、上述の通り、比較的簡便な式によってΦを定義できる。このことから、本件手法によれば、CLSVOF法よりも低い計算負荷によってΦを定義できる。これらのことから、本件手法は、CLSVOF法よりも計算負荷が低く、かつ、S-CLSVOFよりも高い計算精度を実現できる手法であると言える。
【0076】
図9には、本件手法によって得られた、上述の各時刻における速度場が示されている。具体的には、
図9には、ピンチオフ時の速度場の時刻歴が示されている。
図9の例は、気泡離脱直前においてガスの狭流域が急速に形成され、当該狭流域が急速な速度上昇と相互干渉する様子を示している。
図9に示されている各時刻における速度場は、
図8に示されている、各時刻における本件手法の結果と良好に対応している。
【0077】
(効果)
以上の通り、シミュレーション装置1によれば、本件手法を実行できる。具体的には、シミュレーション装置1では、レベルセット値算出部31は、αVOFを用いて、隣接したセルから多次元的な分布情報をパラメータとして含む関数を用いて、レベルセット値(例:Φ)を算出する。当該構成によれば、2次元および3次元上の勾配を有する界面におけるレベルセット値をより正確に算出することができ、かつ、反復計算による計算負荷が低い状態にて当該レベルセット値を算出することが可能となる。
【0078】
従って、例えば、上述の通り、本件手法によれば、S-CLSVOF法と同程度の計算負荷にて、CLSVOF法に近い計算精度が得られる。すなわち、本件手法によれば、CLSVOF法よりも計算負荷が低く、かつ、S-CLSVOFよりも高い計算精度を実現できる。
【0079】
(シミュレーション装置1の応用例)
流体には、様々な種類の力が作用する。これらの力の例としては、慣性力、重力、圧力、および粘性力に加えて、表面張力を挙げることができる。流体力学の分野における、表面張力に関する無次元数としては、例えば、キャピラリー数(粘性力と表面張力との比)、ボンド数(重力と表面張力との比,エトベス数とも称される)、およびウェーバー数(慣性力と表面張力との比)が知られている。
【0080】
これらの無次元数が1を下回る場合には、運動方程式において、表面張力がその他の力に比べて支配的であると考えられる。すなわち、これらの無次元数が1を下回る場合には、表面張力を無視することはできないと考えられる。
【0081】
工学上の様々な分野において、表面張力を考慮した設計が必要とされる。例えば、撥水加工、ハードディスクドライブHDD内のベアリングの摩擦低減、接着、内視鏡または血管手術用のステントワイヤーの製造、コンタクトレンズの製造、および電子回路の製造のために、表面張力を考慮した設計が必要とされる。
【0082】
多くの流体では、概ね数10nm~0.1mmまたはそれより小さいスケールにおける現象が考察されている。そこで、シミュレーション装置1を用いて、当該スケールにおける現象を高精度にシミュレーションすることにより、表面張力を考慮した設計における誤差を低減することが可能となる。一例として、シミュレーション装置1によるシミュレーションは、フィルム製造方法に適用されてよい。
【0083】
従って、例えば、本発明の一態様に係るフィルム製造方法は、表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーションを伴いうる。当該フィルム製造方法は、フィルム材料の表面張力を計算するために、上述のレベルセット値算出ステップと表面張力算出ステップとを含んでいてよい。
【0084】
別の例として、シミュレーション装置1によるシミュレーションは、塗工液の塗工方法に適用されてもよい。本発明の一態様に係る塗工方法も、表面張力を伴う流動計算を行うシミュレーションを伴いうる。当該塗工方法は、塗工液の表面張力を計算するために、上述のレベルセット値算出ステップと表面張力算出ステップとを含んでいてよい。
【0085】
〔ソフトウェアによる実現例〕
シミュレーション装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0086】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0087】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0088】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0089】
また、上記実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0090】
〔付記事項〕
本発明の一態様は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1 シミュレーション装置
10 制御部
30 シミュレーション算出部
31 レベルセット値算出部
32 表面張力算出部
33 速度算出部
34 更新部
40 シミュレーション制御部