(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097144
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ガラス粉末複合体、及びガラス粉末複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/16 20060101AFI20230630BHJP
A61K 6/77 20200101ALI20230630BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230630BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20230630BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C03C3/16
A61K6/77
A61L27/50
A61L27/10
C03C3/062
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213324
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】今里 聡
(72)【発明者】
【氏名】北川 晴朗
(72)【発明者】
【氏名】秋山 絢香
(72)【発明者】
【氏名】神野 友樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 克人
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
4G062
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AB06
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4G062KK07
4G062KK10
4G062MM18
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】酸性度の変化に応じてイオンを徐放するガラス粉末複合体を提供すること。
【解決手段】第1のガラス粉末と、前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を含有し、前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、ガラス粉末複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス粉末と、
前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を含有し、
前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、
ガラス粉末複合体。
【請求項2】
前記第1のガラス粉末がケイ酸塩ガラスの粉末であり、
前記第2のガラス粉末がリン酸塩ガラスの粉末である、
請求項1に記載のガラス粉末複合体。
【請求項3】
前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもLi、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する、
請求項1又は2に記載のガラス粉末複合体。
【請求項4】
前記第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つと同一である、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の、ガラス粉末複合体。
【請求項5】
前記第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第2のガラス粉末に含まれる元素と異なり、かつ、
前記第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第1のガラス粉末に含まれる元素と異なる、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の、ガラス粉末複合体。
【請求項6】
前記第2のガラス粉末は、中性域における溶解率が酸性域における溶解率より大きい、
請求項5に記載の、ガラス粉末複合体。
【請求項7】
第1のガラス粉末と、前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を混合する工程を有し、
前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、
ガラス粉末複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス粉末複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機能性イオンを徐放するイオン徐放性ガラスが知られている。例えば、リンイオンやカルシウムイオンを水中に放出する無機ガラス粒子を粒状土壌改質材に用いる技術がある(特許文献1参照)。また、抗菌効果の知られている銀イオンを溶出する抗菌性ガラスを樹脂成形品に用いる技術がある(特許文献2)。また、バイオガラスの医療用途への応用が良く知られており、例えば、骨修復のための材料、医療用インプラントに用いる技術がある(特許文献3、特許文献4)。さらに、イオン徐放性ガラスをデオドラント組成物に用いる技術がある(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-41482号公報
【特許文献2】特許第6604499号
【特許文献3】特許第6622416号
【特許文献4】特表2020-535881公報
【特許文献5】国際公開第2019/189851号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のイオン徐放性ガラスは、酸性度(pH)が一定でない環境で用いられる場合に、酸性度が変化するとイオンを徐放する機能が得られないことがある。
【0005】
本願発明の課題は、酸性度の変化に応じてイオンを徐放するガラス粉末複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るガラス粉末複合体は、第1のガラス粉末と、前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を含有し、前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、酸性度の変化に応じてイオンを徐放するガラス粉末複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本実施形態に係るガラス粉末複合体は、第1のガラス粉末と、該第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する。
【0009】
本明細書において、「ガラス」には、非結晶質のものの他、結晶質のものも含まれ、その一部にガラスを含む、ガラスセラミックも含まれる。ガラス粉末は、粉末状のガラスを示す。なお、粉末のサイズは、メジアン径で0.02μm以上100μm以下であることが好ましく、0.02μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0010】
本明細書において、ガラス粉末複合体は、少なくとも2種類のガラスを含む組成物を示す。pHによって溶解性が異なるガラス粉末は、酸性度によって水に対する溶けやすさが、第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とで異なることを示す。イオン徐放性は、ガラス粉末に含まれる成分が溶解してイオンの状態で徐々に放出される性質を示す。
【0011】
第1のガラス粉末の成分は、特に限定されない。第1のガラス粉末としては、好ましくはケイ酸塩ガラスの粉末が用いられる。ケイ酸塩ガラスは、中性(pH6.5超8未満)よりも酸性(pH6.5以下)で溶解しやすく、イオンを徐放しやすいガラスである。
【0012】
ケイ酸塩ガラスは、ケイ素(Si)を含有し、さらにナトリウム(Na)及び/又はカリウム(K)を含有する。ここで、ケイ素は、ガラス中で網目形成の役割を果たす。
【0013】
ケイ酸塩ガラス中のケイ素の含有量は、特に限定されないが、酸化ケイ素(SiO2)に換算した量で15質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。ケイ酸塩ガラス中の酸化ケイ素の含有量が15質量%以上であることにより、ガラスが得られやすくなり、70質量%以下であることにより、熔融温度が高くなりすぎずにガラスの製造が可能になる。
【0014】
ケイ酸塩ガラス中のナトリウム及び/又はカリウムの含有量は、特に限定されないが、酸化ナトリウム(Na2O)及び/又は酸化カリウム(K2O)に換算した量で0質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。ケイ酸塩ガラスがナトリウム及び/又はカリウムを含有することにより、ガラスの熔融温度を下げ、さらにガラスの溶解性を高めることができ、ケイ酸塩ガラス中の酸化ナトリウム及び/又は酸化カリウムの含有量が15質量%以下であることにより、水への溶解性の高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0015】
ケイ酸塩ガラスの具体例としては、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等が挙げられる。これらの中でも、イオン徐放性が高い点で、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸塩ガラスが好ましい。
【0016】
ケイ酸塩ガラスの粉末である第1のガラス粉末は、ケイ素(Si)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)以外の元素を少なくとも1種含有する。このガラスに含まれる元素は、ガラスから徐放されるイオン(以下、徐放性イオンという)を形成する元素である。
【0017】
第1のガラス粉末に含まれる元素は、特に限定されないが、例えば、Li、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、Si、Sn、P、Fなどが挙げられる。これらの元素は、1種又は2種以上含有し得る。これらの中でも、Li、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましい。
【0018】
また、第1のガラス粉末に含まれる元素は、徐放性イオンが耐酸性を向上させる点で、Ca、Srが好ましく、酸の生成を抑制する点で、Znが好ましい。また、徐放性イオンが歯質の脱灰抑制効果を有する点で、Ca、Zn、Fが好ましく、骨形成を促進する点で、Ca、Srが好ましい。さらに、徐放性イオンが抗菌効果を有する点で、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましく、徐放性イオンが抗炎症性作用を有する点で、Liが好ましい。
【0019】
第1のガラス粉末に含まれるLiの含有量は、特に限定されないが、酸化リチウム(LiO2)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がLiを含有することにより抗炎症作用を付与することができ、10質量%以下であることにより、水への溶解性の高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0020】
第1のガラス粉末に含まれるCaの含有量は、特に限定されないが、酸化カルシウム(CaO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がCaを含有することにより、耐酸性効果、歯質の脱灰抑制効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0021】
第1のガラス粉末に含まれるSrの含有量は、特に限定されないが、酸化ストロンチウム(SrO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がSrを含有することにより、耐酸性効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、ガラスの熔融温度が高くなりすぎず、ガラスが得られやすくなる。
【0022】
第1のガラス粉末に含まれるCuの含有量は、特に限定されないが、酸化銅(CuO)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がCuを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0023】
第1のガラス粉末に含まれるAgの含有量は、特に限定されないが、酸化銀(Ag2O)に換算した量で0質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がAgを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、5質量%以下とすることで、ガラスが得られやすくなる。
【0024】
第1のガラス粉末に含まれるZnの含有量は、特に限定されないが、酸化亜鉛(ZnO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がZnを含有することにより、酸生成抑制効果、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、40質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0025】
第1のガラス粉末に含まれるBの含有量は、酸化ホウ素(B2O3)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がBを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、分相を抑え、ガラスが得られやすくなる。
【0026】
第1のガラス粉末に含まれるGaの含有量は、特に限定されないが、酸化ガリウム(Ga2O3)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がGaを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、40質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0027】
第1のガラス粉末に含まれるFの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1質量%以上22質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がFを含有することにより、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、25質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0028】
第2のガラス粉末の成分は、特に限定されない。第2のガラス粉末としては、好ましくは、リン酸塩ガラスの粉末が用いられる。リン酸塩ガラスの粉末は、中性(pH6.5超8未満)よりも酸性(pH6.5以下)で溶解しやすくイオンを徐放しやすいガラスの場合、及び酸性(pH6.5以下)よりも中性(pH6.5超8未満)で溶解しやすくイオンを徐放しやすいガラスの場合がある。
【0029】
リン酸塩ガラスは、リン酸(P2O5)を含有し、ナトリウム(Na)及び/又はカリウム(K)を含有する。ここで、リン酸は、ガラス中で網目形成の役割を果たす。
【0030】
リン酸塩ガラス中のリン酸の含有量は、特に限定されないが、40質量%以上80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。リン酸塩ガラス中のリン酸の含有量が40質量%以上であることにより、ガラスが得られやすくなり、80質量%以下であることにより、水への溶解性が高すぎないガラスの製造が可能になる。
【0031】
リン酸塩ガラス中のナトリウム及び/又はカリウムの含有量は、特に限定されないが、酸化ナトリウム(Na2O)及び酸化カリウム(K2O)に換算した量で5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。リン酸塩ガラス中のナトリウム及び/又はカリウムの含有量が5質量%以上であることにより、ガラスの熔融温度を下げ、さらにガラスの溶解性を高めることができ、30質量%以下であることにより、水への溶解性の高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0032】
リン酸塩ガラスの粉末である第2のガラス粉末は、リン(P)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)以外の元素を少なくとも1種含有する。このガラスに含まれる元素は、徐放性イオンを形成する元素である。
【0033】
第2のガラス粉末に含まれる元素は、特に限定されないが、例えば、Li、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、Si、Sn、P、Fなどが挙げられる。これらの元素は、1種又は2種以上含有し得る。これらの中でも、Li、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましい。
【0034】
また、第2のガラス粉末に含まれる元素は、徐放性イオンが耐酸性を向上させる点で、Ca、Srが好ましく、酸の生成を抑制する点で、Znが好ましい。また、徐放性イオンが歯質の脱灰抑制効果を有する点で、Ca、Zn、Fが好ましく、骨形成を促進する点で、Ca、Srが好ましい。さらに、徐放性イオンが抗菌効果を有する点で、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましく、徐放性イオンが抗炎症性作用を有する点で、Liが好ましい。
【0035】
第2のガラス粉末に含まれるLiの含有量は、特に限定されないが、酸化リチウム(LiO2)に換算した量で0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がLiを含有することにより抗炎症作用を付与することができ、20質量%以下であることにより、水への溶解性の高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0036】
第2のガラス粉末に含まれるCaの含有量は、特に限定されないが、酸化カルシウム(CaO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がCaを含有することにより、耐酸性効果、歯質の脱灰抑制効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0037】
第2のガラス粉末に含まれるSrの含有量は、特に限定されないが、酸化ストロンチウム(SrO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がSrを含有することにより、耐酸性効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、ガラスの熔融温度が高くなりすぎず、ガラスが得られやすくなる。
【0038】
第2のガラス粉末に含まれるCuの含有量は、特に限定されないが、酸化銅(CuO)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がCuを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0039】
第2のガラス粉末に含まれるAgの含有量は、特に限定されないが、酸化銀(Ag2O)に換算した量で0質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がAgを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、5質量%以下とすることで、ガラスが得られやすくなる。
【0040】
第2のガラス粉末に含まれるZnの含有量は、特に限定されないが、酸化亜鉛(ZnO)に換算した量で0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がZnを含有することにより、酸生成抑制効果、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、20質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0041】
第2のガラス粉末に含まれるBの含有量は、特に限定されないが、酸化ホウ素(B2O3)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がBを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、分相を抑え、ガラスが得られやすくなる。
【0042】
第2のガラス粉末に含まれるGaの含有量は、特に限定されないが、酸化ガリウム(Ga2O3)に換算した量で0質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がGaを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、25質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0043】
第2のガラス粉末に含まれるFの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がFを含有することにより、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、20質量%以下であることにより、ガラスが得られやすくなる。
【0044】
ガラス粉末複合体に配合される第1のガラス粉末と第2のガラス粉末との質量比は、特に限定されないが、例えば、10:1~1:10であり、好ましくは7:1~1:7であり、より好ましくは5:1~1:5である。
【0045】
本実施形態のガラス粉末複合体では、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つと同一であってもよい。例えば、第1のガラス粉末に亜鉛(Zn)が含まれている場合は、第2のガラス粉末にも亜鉛(Zn)が含まれている。
【0046】
本実施形態のガラス粉末複合体では、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素と異なり、かつ、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第1のガラス粉末に含まれる元素と異なっていてもよい。例えば、第1のガラス粉末に亜鉛(Zn)が含まれている場合は、第2のガラス粉末には亜鉛(Zn)が含まれていない。
【0047】
本実施形態のガラス粉末複合体では、第2のガラス粉末の中性域における溶解率が酸性域における溶解率より大きいものであることが好ましい。本明細書において、中性域は、pH6.5超8未満の範囲を示し、酸性域はpH6.5以下の範囲を示す。
【0048】
溶解率は、ガラスを酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液に溶解させ、下記の式に従って算出する。
溶解率(%)=[(液浸漬前の重量)-(液浸漬後の重量)]×100/液浸漬前の重量
【0049】
本実施形態では、上述のように、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が何れもイオン徐放性を有することで、酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量を変化させることができる。また、ガラス粉末複合体に配合される第1のガラス粉末と第2のガラス粉末との質量比が10:1~1:10であると、酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量の変化を制御することができる。
【0050】
本実施形態では、このような酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量を変化させる効果は、第1のガラス粉末にケイ酸塩ガラスの粉末を用い、第2のガラス粉末にリン酸塩ガラスの粉末を用いることで、顕著に得られる。
【0051】
本実施形態では、上述のように、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末は、何れもLi、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する。これにより、本実施形態では、Liの場合、徐放性イオンが抗炎症性作用を発揮することができる。Caの場合、歯質の脱灰を抑制する効果が得られ、耐酸性を向上させ、骨形成を促進することができる。Srの場合、耐酸性を向上させ、骨形成を促進することができる。
【0052】
また、本実施形態では、Cu、Agの場合、抗菌効果が得られ、Znの場合、抗菌効果、酸の生成を抑制する効果、歯質の脱灰を抑制する効果をガラス粉末複合体に付与することができる。B、Gaの場合、抗菌効果が得られ、Fの場合、抗菌効果、歯質の脱灰を抑制する効果が得られる。
【0053】
本実施形態では、上述のように、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つと同一であることで、酸性度が変化しても同一の徐放性イオンを徐放することができる、その徐放量を維持することができる。
【0054】
例えば、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末のいずれにも亜鉛(Zn)が含まれている場合に、亜鉛イオン(Zn2+)が徐放される環境が酸性域から中性域に変化しても亜鉛イオン(Zn2+)の徐放量を維持又は増減させることができる。
【0055】
本実施形態では、上述のように、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素と異なり、かつ、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第1のガラス粉末に含まれる元素と異なることで、酸性度の変化に応じて異なる徐放性イオンを徐放することができる。
【0056】
本実施形態のガラス粉末複合体では、上述のように、第2のガラス粉末の中性域における溶解率が酸性域における溶解率より大きい。これにより、本実施形態では、第1のガラス粉末の中性域における溶解率が酸性域における溶解率より小さい場合でも、中性域で第2のガラス粉末から徐放性イオンが徐放されるため、酸性度が酸性から中性に変化しても徐放性イオンの徐放量を維持することができる。
【0057】
本実施形態のガラス粉末複合体の用途としては、特に限定されない。例えば、外部環境の酸性度の変化(手で触れた箇所、雨、汚れなど)に応じて抗菌性を発揮する樹脂や塗膜、土壌改質材が挙げられる。また、酸性度の変化が起こる骨破壊又は骨形成に適応する骨補填材や、口腔内の酸性度の変化に適応する歯科材料が挙げられる。
【0058】
ガラス粉末複合体の用途の一例として、本実施形態のガラス粉末複合体を歯科材料に用いる場合の歯科用組成物について説明する。本実施形態に係る歯科用組成物は、上述のガラス粉末複合体を含有する。本明細書において、歯科用組成物とは、歯科材料に用いられる組成物を示す。本実施形態の歯科用組成物は、上述のガラス粉末複合体以外の他の成分を含有していてもよい。
【0059】
本実施形態の歯科用組成物では、上述のガラス粉末複合体を含有することで、上述のガラス粉末複合体の効果がそのまま得られる。すなわち、歯科用組成物に含まれるガラス粉末複合体が、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が、何れもイオン徐放性を有するガラス粉末複合体であることで、口腔内での酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量を変化させることができる。
【0060】
例えば、歯科用組成物として、第1のガラス粉末が亜鉛イオン(Zn2+)を徐放するケイ酸塩ガラスの粉末であり、第2のガラス粉末が亜鉛イオン(Zn2+)を徐放するリン酸塩ガラスの粉末であるガラス粉末複合体を含有する。この場合、口腔内の酸性度が変化しても、その変化に応じて歯科用組成物から放出される徐放性イオンの量を維持又は制御することができる。
【0061】
具体的には、この歯科用組成物では、口腔内の酸性度が酸性(例えば、pH4.5)の場合は、ガラス粉末複合体の第1のガラス粉末から亜鉛イオン(Zn2+)が徐放されやすいが、中性(例えば、pH7.5)の場合は亜鉛イオン(Zn2+)が徐放されにくい。一方、口腔内の酸性度が酸性域(例えば、pH4.5)の場合及び中性域(例えば、pH7.5)の場合の何れでも、第2のガラス粉末から亜鉛イオン(Zn2+)が徐放されやすい。
【0062】
その結果、口腔内の酸性度が酸性又は中性の何れの場合も、歯科用組成物から徐放性イオンとして亜鉛イオン(Zn2+)が放出され、口腔内の徐放性イオンの徐放量が維持される。そのため、口腔内の酸性度が変化しても、口腔内では亜鉛イオン(Zn2+)による抗菌効果、酸の生成抑制効果、歯質の脱灰抑制効果を維持することができる。
【0063】
本実施形態の組成物に含まれるガラス粉末複合体以外の他の成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸等の高分子を含有することができる。歯科用組成物は、このようなガラス粉末複合体とポリアクリル酸等の高分子とを混合することで、アイオノマーセメントを構成することができる。
【0064】
なお、本実施形態の歯科用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、その他の任意の成分として、必要に応じて塩酸塩、硫酸塩等の硬化促進剤、炭化水素類、高級脂肪酸類、エステル類等の油性成分、各種の無機あるいは有機の着色剤、抗菌材、香料等を含有してもよい。
【0065】
本実施形態の歯科用組成物は、各種歯科材料に用いることができる。本実施形態の歯科用組成物の用途は、特に限定されないが、例えば、歯科用セメント、歯科用接着剤、歯科用仮封材、歯科用仮着材、歯科用プライマー、歯科用コート剤、根面被覆材、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用レジン材料、歯科用暫間修復材、歯科用充填剤、覆髄材、義歯床材料、人工歯、歯磨剤などが挙げられる。
【0066】
本実施形態に係るガラス粉末複合体の製造方法は、上述のガラス粉末複合体を実質的に製造する方法である。具体的には、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを混合する工程を有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する。
【0067】
本実施形態に係るガラス粉末複合体の製造方法における第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを混合する工程では、上述のガラス粉末複合体に含まれる第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が用いられ。そのため、本実施形態に係る製造方法で得られたガラス粉末複合体は、上述のガラス粉末複合体の効果がそのまま得られる。
【0068】
すなわち、得られるガラス粉末複合体は、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が、何れもイオン徐放性を有するガラス粉末複合体である。そのため、本実施形態に係る製造方法によれば、酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量が変化し得るガラス粉末複合体を得ることができる。
【実施例0069】
以下、本発明について、さらに実施例を用いて説明する。なお、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。
【0070】
<ケイ酸塩ガラス>
ケイ酸塩ガラスの原料を秤量し、乳鉢で10分混合し、白金るつぼに入れ、1350℃で1時間熔融し、融液を水冷してガラス化した。得られたガラスを回収して、110℃で5時間乾燥し、遊星ミル(15mmのアルミナボール、150rpm)で30分~1時間粉砕して、ガラス成分S1~S5を得た。また、市販品の石英ガラスフィラー(以下、QGという)を用いた。
【0071】
<リン酸塩ガラス>
リン酸塩ガラスの原料を秤量し、乳鉢で10分混合し、白金るつぼに入れ、1100℃で1時間熔融し、融液をアイロンプレスにより冷却した。これをボールミルで30分粉砕し(エタノール湿式粉砕、40mmアルミナボール、100rpm)、ボールミルで30分粉砕し(エタノール湿式粉砕、5mmアルミナボール、100rpm)した。その後、遠心分離によりガラス粉末を回収し、残ったエタノールを飛ばすため減圧乾燥して(-0.1MPa、40℃)、ガラス成分P1、P2、PA1、PA2を得た。
【0072】
<ガラス組成>
蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX Primus IV)を用いて、ガラス粉末(塩ビリングで成形)を分析し、ガラス粉末の組成を求めた。表1及び表2に、ガラス粉末の組成(単位:質量%)の評価結果を示す。
【0073】
<粒度分布>
レーザー回折/散乱型粒度分布計(堀場製作所社製、Partica LA-960V2)を用いて、ケイ酸塩ガラスは蒸留水中で分散させて測定し、リン酸塩ガラスはエタノール中に分散させて測定した。いずれのガラス粉末もD(50):10±2μmであることを確認した。
【0074】
<溶解量(ガラス単体)>
10mlのpH4.5酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液、及びpH7.5ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液にガラス粉末0.1gを投入し、10rpmで攪拌しながら37℃で1日保存した。その後、ガラスろ紙でろ過し残渣の重量から下記式を用いて溶解率を算出した。
溶解率(%)=[(液浸漬前の重量)-(液浸漬後の重量)]×100/液浸漬前の重量
【0075】
表1にケイ酸塩ガラス(ガラス成分S1~S5、QG)の溶解率を示し、表2にリン酸塩ガラス(ガラス成分P1、P2、PA1、PA2)の溶解率を示す。
【0076】
【0077】
【0078】
<イオン溶出量(ガラス単体)>
10mlのpH4.5酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液、及びpH7.5のHEPES緩衝液にガラス粉末0.1gを投入し、10rpmで攪拌しながら37℃で1日保存した。その後、2000rpmで10分遠心分離を2回繰り返した後、0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した液について、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)(Thermo Fisher社製、iCAP 7200 Duo)を用い、Zn2+、Sr2+、Ca2+、Ga3+の各濃度を測定し、フッ素電極を用いてF-の濃度を測定した。表1にケイ酸塩ガラスのイオン溶出量を示し、表2にリン酸塩ガラスのイオン溶出量を示す。
【0079】
<イオン溶出量(ガラス組合せ)>
10mlのpH4.5酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液、及びpH7.5のHEPES緩衝液に2種類のガラス粉末(量は任意)を投入し、10rpmで攪拌しながら37℃で1日保存した。その後、2000rpmで10分遠心分離を2回繰り返した後、0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した液について、ICP-OESを用いてZn2+、Sr2+、Ca2+、Ga3+の各濃度を測定し、フッ素電極を用いてF-の濃度を測定した。
【0080】
表3に実施例1~5の成分とイオン溶出量を示し、表4に比較例1~5の成分とイオン溶出量を示す。
【0081】
【0082】
【0083】
表1、表2、表3より、実施例1~5では、少なくとも1種以上のイオン溶出量の大小が酸性と中性で異なり、酸性度(pH)応答性を示す。これに対して、表1、表2、表4より、比較例1~5では、全てのイオンの溶出量が酸性より中性で大きいか、酸性より中性で小さくなり、酸性度(pH)応答性を示さない。
【0084】
これらの結果から、ガラス粉末複合体が、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が何れもイオン徐放性を有することで、酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量を変化させることができることが判った。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。