(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097322
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】基板の表面処理方法、表面処理装置および表面処理溶液
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
H01L21/308 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099275
(22)【出願日】2022-06-21
(62)【分割の表示】P 2022098664の分割
【原出願日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2021211935
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100170748
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 悟
(72)【発明者】
【氏名】新海 聡子
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA05
5F043AA13
5F043BB10
5F043FF07
(57)【要約】
【課題】III族半導体基板の平坦化を行う表面処理方法、表面処理装置および表面処理溶液を提供する。
【解決手段】表面処理溶液12を保持する保持容器11と、半導体基板13を保持し表面処理溶液12と接触させる接触処理器14とを備えている。保持容器11は置台16の上に設置され、表面処理溶液12は回転子15により撹拌される。表面処理溶液12は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類と添加剤とを含んでおり、この表面処理溶液12により、半導体基板13の表面処理が行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体とIII族半導体層とから構成される半導体素材の表面処理方法であって、
前記基体もしくは前記III族半導体層の少なくとも一方にアルミニウムが含まれており、
水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む表面処理溶液に、前記半導体素材の表面を接触させて、前記半導体素材の表面を処理する表面処理方法。
【請求項2】
前記基体はサファイアである、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記III族半導体層は、窒化ガリウムである、請求項2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記III族半導体層は、窒化アルミニウムガリウムである、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記アルコール類は、エタノール又はイソプロピルアルコールである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項6】
基体とIII族半導体層とから構成される半導体素材の表面処理装置であって、
表面処理溶液を保持する保持容器と、
前記半導体素材を保持し、前記半導体素材と前記表面処理溶液とを接触させる接触処理器と、を備え、
前記基体もしくは前記III族半導体層の少なくとも一方にアルミニウムが含まれており、
前記表面処理溶液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む表面処理装置。
【請求項7】
前記基体はサファイアである、請求項6に記載の表面処理方法。
【請求項8】
前記III族半導体層は、窒化ガリウムである、請求項7に記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記III族半導体層は、窒化アルミニウムガリウムである、請求項6に記載の表面処理方法。
【請求項10】
前記アルコール類は、エタノール又はイソプロピルアルコールである、請求項6から請求項9のいずれかに記載の表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードや半導体レーザ、更にはパワー半導体素子等の半導体デバイスに用いられる半導体基板、特にIII族半導体基板の製造工程に適用できる基板の表面処理方法、表面処理装置および表面処理溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウム(GaN)に代表されるIII族半導体が、その大きなバンドギャップと優れた光学特性や電気特性により、次世代の半導体デバイスとして期待されている。
【0003】
この優れた特性を活かした半導体デバイスの製造においては、高精度の加工技術が要求される。III族半導体は、物理的にも化学的にも安定しているため、その加工には、主にドライエッチングによる方法が用いられてきた。しかしドライエッチングを用いた加工は、半導体基板の表面に損傷を生じてしまう場合があり、電気的特性や光学的特性に悪影響を及ぼすことがある。そこで、ドライエッチングの後にウェットエッチングを行うことにより、表面の損傷を除去する方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、ウェットエッチングによる窒化物半導体の表面処理技術が開示されている。この文献で開示された方法によると、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にアルコール類を加えた溶液を用いて表面処理を行うことにより、窒化物半導体の表面が平坦化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にアルコール類を加えた溶液で平坦化処理を行うことにより、半導体基板の表面に生じた突起物等を研磨することができる。しかし半導体基板の種類によっては、基板表面にエッチピットが生じる場合があった。エッチピットとは、基板表面をウェットエッチングした際に生じる窪みのことである。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、半導体基板の処理過程で生じる基板表面の突起物を研磨することができ、またエッチピットの生成を制御することができる表面処理方法、表面処理装置および表面処理溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明の表面処理方法は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液と、アルコール類と、添加剤とを含む表面処理溶液に、III族半導体基板の表面を接触させることにより、基板の表面処理を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類と添加剤とを含む表面処理溶液を用いて半導体基板の表面処理が行われ、半導体基板の表面に生じた突起物を研磨し、またエッチピットの生成を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】半導体基板をドライエッチングした後の基板表面を示す図
【
図3】窒化ガリウム基板をウェットエッチングした後の基板表面を示す図
【
図4】添加剤なしの溶液でウェットエッチングした後の基板表面を示す図
【
図5】添加剤ありの溶液でウェットエッチングした後の基板表面を示す図
【
図6】実施の形態2における表面処理装置を模式的に示す図
【
図7】実施の形態2における半導体基板の基板表面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は以下の実施の形態には限定されない。
【0012】
(実施の形態1)
本実施の形態では、III族半導体の一例として、窒化物半導体を用いた表面処理について説明する。窒化物半導体は物理的にも化学的にも安定しているため、その表面処理には主にドライエッチングが用いられてきた。しかしドライエッチングでは半導体基板の表面に突起物等が残るなどの損傷を生じることがあり、半導体のデバイス性能に影響を及ぼすことがあった。
【0013】
そこで、発明者は、ドライエッチング後の半導体基板に対して、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含んだ表面処理溶液を用いてウェットエッチングを行うことにより、基板表面を良好に平滑化できることを見出した。この表面処理溶液を用いることにより、半導体基板表面の突起物等を研磨することができ、ドライエッチングによって生じた損傷を低減することができた。
【0014】
しかし、この表面処理溶液を用いてウェットエッチングを行った場合、ウェットエッチングの条件や半導体基板の種類によっては、基板表面にエッチピットが生成される場合があった。基板表面にエッチピットが生じると、半導体デバイスの性能に影響を与えることがある。従って、半導体デバイスの製造という観点においては一般的にはエッチピットの生成を抑制することが望ましい。
【0015】
そこで、エッチピットが生成されにくい表面処理方法について研究を重ねた。その結果、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含んだ水溶液に、シリコン等の添加剤を加えた水溶液を用いて表面処理を行うことにより、ウェットエッチング後のエッチピットの生成が抑制されることを見出した。合わせて突起物の研磨も良好に行うことができた。
【0016】
本発明の表面処理方法は、III族半導体基板の表面処理方法であって、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類と添加剤とを含む表面処理溶液に、III族半導体基板の表面を接触させて、III族半導体基板の表面を処理する表面処理方法である。
【0017】
これにより、基板表面のエッチピットの生成を抑制できるとともに、半導体基板上の突起物等を研磨することができ、半導体基板を良好に平坦化することができる。
【0018】
また、本発明の表面処理装置は、III族半導体基板の表面処理装置であって、表面処理溶液を保持する保持容器と、III族半導体基板を保持し、III族半導体基板と表面処理溶液と接触させる接触処理器とを備える。表面処理溶液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類と添加剤とを含む。この装置を用いて表面処理を行うことにより、基板表面のエッチピットの生成を抑制できるとともに、半導体基板上の突起物等を研磨することができ、半導体基板を良好に平坦化することができる。
【0019】
また、本発明の表面処理溶液は、III族半導体基板の表面処理に用いられる表面処理溶液であって、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類と添加剤とを含む。この溶液を用いて表面処理を行うことにより、基板表面のエッチピットの生成を抑制できるとともに、半導体基板上の突起物等を研磨することができ、半導体基板を良好に平坦化することができる。
【0020】
前述の添加剤は、少なくともシリコンを含むことが好ましい。アルコール類の例としては、エタノール又はイソプロピルアルコールが好ましい。
【0021】
上述の内容について、以下、図面を用いて説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態における表面処理装置を模式的に示した図である。表面処理装置10は、保持容器11と接触処理器14とを備えている。保持容器11は表面処理溶液12を保持する容器である。接触処理器14は半導体基板13を保持し、半導体基板13と表面処理溶液12とを接触させる部材である。半導体基板13は、ドライエッチング後の基板である。保持容器11は、置台16の上に設置されている。保持容器11内に設けられた回転子15は、置台16からの磁力により回転し、表面処理溶液12を撹拌する。
【0023】
このように構成された表面処理装置10の動作を説明する。まず、表面処理溶液12が入っていない状態で、半導体基板13が接触処理器14に配置される。例えば、接触処理器14には半導体基板13を保持するための溝が設けられており、この溝に半導体基板13が挿入されて保持される。なお、保持の態様はこれに限らず、半導体基板13を所定の間隔を有して保持できるものであれば他の構成であってもよい。
【0024】
なお、本実施の形態では、平板状の半導体基板13の主面と表面処理溶液12の液面とがほぼ垂直となるように配置したが、半導体基板13の主面と表面処理溶液12の液面とがほぼ平行となるように配置してもよい。あるいは所定の角度を有して、半導体基板13を表面処理溶液12中に配置してもよい。また、本実施の形態では、半導体基板13は、ほぼ円形の平板形状としたが、三角形や四角形などの多角形状の平板形状でもよく、あるいは楕円形状でもよい。また、本実施の形態では、半導体基板13を複数一度に表面処理溶液12中に配置したが、当然1枚でもよい。
【0025】
また、半導体基板13を複数一度に表面処理溶液12中に配置した場合でも、少なくとも1枚の半導体基板13は、他の半導体基板13とは、形状や大きさの少なくとも一つを変更することもできる。従って、本実施の形態では、様々な形状や大きさの半導体基板13を生産形態などに合わせ、適宜変更が可能であり、作業性などを向上させることができる。
【0026】
次に、表面処理溶液12が保持容器11に投入されると、接触処理器14に保持された半導体基板13が表面処理溶液12に浸される。これにより半導体基板13の表面処理が開始される。半導体基板13は、ドライエッチング後の窒化ガリウム(GaN)基板を用いた。表面処理が進行している間、回転子15が回転することにより表面処理溶液12が撹拌される。
【0027】
図2は、窒化ガリウム基板をドライエッチングした後の基板表面を模式的に示した図である。
図2(a)は基板表面付近の断面図であり、窒化ガリウム層20の上に酸化膜21とレジスト22が形成されている。また、平坦部23はドライエッチングにより酸化膜が除去された部分である。
図2(b)は平坦部23を拡大した図である。ドライエッチングによりおおむね平坦になるものの、所々に突起物24のような損傷を生じるところがある。突起物24の高さおよび幅は、おおよそ1マイクロメートル以下である。より精密に加工する場合はおおよそ0.5マイクロメートル以下である。
【0028】
次に、ドライエッチング後の半導体基板がウェットエッチングされる様子を
図3~
図5を用いて説明する。ウェットエッチングは表面処理装置10を用いて行った。
【0029】
図3は、ドライエッチング後の窒化ガリウム基板に対してウェットエッチングを行った基板表面を模式的に示した図である。表面処理溶液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む溶液を用いた。
【0030】
図3(a)は半導体基板表面付近の断面図であり、平坦部30はウェットエッチングで研磨された部分である。
図3(b)は平坦部30を拡大した模式図である。突起物31は、ドライエッチングで生じた突起物24がウェットエッチングにより研磨された後の様子を示している。また、表面処理溶液の濃度やエッチング時間などの条件によっては、エッチピット32が生成された。
【0031】
このように、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類からなる表面処理溶液を用いてウェットエッチングすることで、ドライエッチングで生じた突起物24を研磨することができ、ドライエッチングによって生じた損傷を低減することができた。しかし、エッチングの条件によってはエッチピット32が生成した。
【0032】
なお、
図3(b)において、突起物24は水平方向から研磨される様子を示しているが、これに限られず、条件によっては、その他の方向から研磨されることもある。
【0033】
図4は、窒化物半導体の一例として、サファイア基板上に窒化ガリウムを成長させた基板(GaN/Sapphire基板)に対してウェットエッチングを行った場合の基板表面を模式的に示した図である。表面処理溶液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む溶液を用いた。
【0034】
図4(a)は半導体基板表面付近の断面図である。サファイア基板40の上に窒化ガリウム層20が形成されており、平坦部41はウェットエッチングで研磨された部分である。
図4(b)は平坦部41を拡大した模式図であり、突起物42は、ドライエッチングで生じた突起物24がウェットエッチングにより研磨された様子を示している。このように、GaN/Sapphire基板を用いた場合でも、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類からなる表面処理溶液を用いてウェットエッチングすることにより、突起物24を研磨することができた。
【0035】
しかし、GaN/Sapphire基板を用いた場合は、窒化ガリウム単体の基板を用いた場合に比べると研磨の速度が遅くなり、突起物31に比べて突起物42の残存量が多くなった。Sapphireに含まれるアルミニウムが研磨速度に影響を及ぼしたと考えられる。このように、半導体基板の種類によって研磨の態様が異なる結果となった。また、GaN/Sapphire基板を用いた場合、基板表面にエッチピット43が生じた。
【0036】
図5は、GaN/Sapphire基板に対してウェットエッチングを行った場合の基板表面を模式的に示した図である。表面処理溶液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にアルコール類を加え、さらに添加剤としてシリコンを加えた溶液を用いた。
【0037】
図5(a)は半導体基板表面付近の断面図である。
図5(b)は平坦部50を拡大した模式図であり、突起物51は、ドライエッチングで生じた突起物24がウェットエッチングにより研磨された様子を示している。添加剤としてシリコンを加えた表面処理溶液を用いることにより、突起物24は良好に研磨された。また、エッチピット43の生成は抑制された。
【0038】
なお、ここではGaN/Sapphire基板を用いた場合にエッチピット43の生成が抑えられたと説明した。この点については、窒化ガリウム基板を用いた場合も同様の効果が得られた。すなわち、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にアルコール類を加え、さらに添加剤としてシリコンを用いた表面処理溶液を用いて、窒化ガリウム基板に対してウェットエッチングを行った場合、
図3(b)で説明したエッチピット32の生成は抑制された。
【0039】
本実施の形態で説明した通り、III族半導体基板の表面処理において、本発明の表面処理溶液、すなわち水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にアルコール類と添加剤を加えた表面処理溶液を用いることで、突起物を良好に研磨できたとともに、エッチピットの生成を抑制することができた。
【0040】
なお、本実施の形態において、ウェットエッチングの対象となる半導体基板は、窒化ガリウム基板やGaN/Sapphire基板等の窒化物半導体を用いたが、これに限られず、例えば酸化ガリウム等の半導体材料を用いてもよい。
【0041】
また、本実施の形態においては、半導体基板13が表面処理溶液12に浸されることにより表面処理が行われるとして説明を行った。しかしこれに限らず、表面処理溶液12が半導体基板13に接触するような構成であればよい。例えば、接触処理器14の上方向から表面処理溶液12を流し入れ、表面処理溶液12が半導体基板13の表面を流れるように接触する構成としてもよい。
【0042】
また、本実施の形態における表面処理は室温状態で行ったがこれに限られない。例えば、置台16にヒーターが備えられていてもよく、周囲の温度環境等に応じて表面処理溶液12の温度を変化させてもよい。
【0043】
また、添加剤としては、シリコンが好ましいが、例えば界面活性剤等でもよく、シリコンと界面活性剤とを含んでもよい。界面活性剤もシリコンと同様の作用を有する。界面活性剤の例としては、グリセリンやエチレングリコールが好ましい。
【0044】
また、本実施の形態においては、ドライエッチング後の半導体基板に対する表面処理について説明したが、半導体ウェハーそのものに対して表面処理を行うこともできる。半導体ウェハーの研磨工程において小さな損傷が発生している可能性があるからである。この場合、研磨後の半導体ウェハーを接触処理器14に保持することにより、表面処理を行うことができる。本発明の表面処理溶液を用いることで、半導体ウェハーの生成過程で生じた突起物等の損傷を良好に平坦化することができる。
【0045】
また、例えば、添加剤として、シリコンを用いる場合には、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にアルコール類を加えた元溶液に、シリコン小片を投入し、所定時間攪拌してシリコンを添加して表面処理溶液12を作製してもよい。この場合、シリコンの添加量の調整は、シリコン小片の形状や個数、或いは大きさや、小片のシリコン含有率を適宜変更させること等で、実現できると思われる。添加量は、処理する基板や処理工程、処理装置の仕様などに応じて、製造する前に予め実験などで好適な状況を確認しておく方が好ましい。
【0046】
また、
図1に示す保持容器11内に、予めシリコン小片などを投入あるいは保持容器11の内壁に付着しておき、処理を行う際に、保持容器11内に元溶液を投入して攪拌させることで、表面処理とシリコンの添加を並行して行うこともできる。更に、半導体基板13自体に、シリコン成分を付着あるいは、含有させておき、やはり、保持容器11内に元溶液を投入して攪拌させることで、表面処理とシリコンの添加を並行して行うこともできる。
【0047】
(実施の形態2)
本実施の形態では、ウェットエッチングによりエッチピットを生じさせ、半導体基板の欠陥検出に用いる方法について説明する。前述のように、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含んだ表面処理溶液を用いてIII族半導体基板に対してウェットエッチングを行うと、エッチング条件や半導体基板の種類によってはエッチピットが生成される場合があった。半導体デバイスの製造という観点では、このエッチピットはデバイス性能に悪影響を及ぼす恐れがあるといわれている。
【0048】
一方、生成されたエッチピットの発生箇所を精査すると、半導体基板の転位部分、すなわち基板上で結晶欠陥が生じた箇所にエッチピットが発生することがわかった。一般的に、窒化ガリウム等の半導体では、貫通転位などの結晶欠陥が含まれることがあり、デバイス性能の低下やデバイスの短寿命化の要因となっている。このため、転位等の結晶欠陥の位置を特定することができれば、半導体デバイスの高品質化を図ることができる。
【0049】
そこで研究を重ねた結果、サファイアを基体として用いた窒化ガリウム基板や、窒化アルミニウムガリウムを半導体層に有する基板等に対してウェットエッチングを行った場合にエッチピットが多くみられることが分かった。これらに共通しているのは、基板材料にアルミニウム(Al)を含んでいる点であり、このアルミニウムがエッチピットの生成に寄与していると推察される。
【0050】
なお、これまでIII族半導体基板と称してきた半導体素材は、III族半導体単体で構成された基板のみならず、III族の半導体層が基体上に薄く膜状に形成された基板も含む。例えば、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)の層が、基体上に膜状に形成された半導体素材もIII族半導体基板と称する。代表として、例えば、窒化ガリウム100%あるいは窒化ガリウムを主成分とする基体上に、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)の層を形成した部材もIII族半導体基板と称する。
【0051】
ここで、エッチピットが多く生成されるのは、基体にサファイアを用いた半導体基板、もしくはIII族半導体層に窒化アルミニウムガリウムを用いた半導体基板である。すなわち、基体もしくはIII族半導体層の少なくともいずれか一方にアルミニウムを含むIII族半導体基板に対し、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む表面処理溶液を用いてウェットエッチングを行うことにより、半導体の転位箇所にエッチピットが生成されることが分かった。これにより、エッチピットが生じた位置に基づいて基板上の結晶欠陥の位置を推定することができる。
【0052】
本実施の形態では、III族半導体基板に対してエッチピットを生成させ、基板上の結晶欠陥の位置を推定する表面処理方法について説明する。
【0053】
本実施の形態における表面処理方法は、基体とIII族半導体層とから構成される半導体素材の表面処理方法であって、基体もしくはIII族半導体層の少なくとも一方にアルミニウムが含まれており、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む表面処理溶液に、半導体素材の表面を接触させて、半導体素材の表面を処理する。
【0054】
この表面処理方法により、半導体素材に対して室温の状態でエッチピットを生成することができる。エッチピットは半導体素材の転位箇所に発生するため、半導体素材に生じた結晶欠陥の位置を推定することができる。
【0055】
なお、前述の半導体素材で用いられる基体はサファイアであることが望ましい。サファイアにはアルミニウムが含まれるからである。この場合、半導体層はIII族半導体であればよく、例えば窒化ガリウムでもよい。また、半導体層に窒化アルミニウムガリウムが含まれる半導体素材を用いてもよい。この場合、基体はどのような材料を用いてもよい。半導体層にアルミニウムが含まれるからである。アルコール類の例としては、エタノール又はイソプロピルアルコールが好ましい。
【0056】
また、本実施の形態における表面処理装置は、基体とIII族半導体層とから構成される半導体素材の表面処理装置であって、表面処理溶液を保持する保持容器と、半導体素材を保持し、半導体素材と表面処理溶液とを接触させる接触処理器とを備えている。そして、基体もしくはIII族半導体層の少なくとも一方にアルミニウムが含まれ、表面処理溶液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む。
【0057】
この表面処理装置により、半導体素材に対して室温の状態でエッチピットを生成することができる。エッチピットは半導体素材の転位箇所に発生するため、半導体素材に生じた結晶欠陥の位置を推定することができる。
【0058】
なお、前述と同様、半導体素材で用いられる基体はサファイアであることが望ましい。また、半導体層はIII族半導体であればよく、例えば窒化ガリウムでもよい。また、半導体層に窒化アルミニウムガリウムが含まれる半導体素材を用いてもよい。アルコール類の例としては、エタノール又はイソプロピルアルコールが好ましい。
【0059】
本実施の形態における表面処理装置の構成を、
図6に示す。
図1と同じ符号を有するものは同じ機能を有するため詳細な説明は省略する。
図6において、表面処理溶液60は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液とアルコール類とを含む水溶液である。また、半導体基板61は、基体がサファイアであり、半導体層が窒化ガリウムであるGaN/Sapphire基板を用いた。半導体基板61が接触処理器14に保持され、表面処理溶液60により基板の表面処理が行われる。
【0060】
図7(a)は、GaN/Sapphire基板に対してウェットエッチングを行った基板表面を模式的に示した図である。
図7(a)において、基体70はサファイアであり、その上に窒化ガリウム層71が形成されている。そして、前述のように酸化膜21とレジスト22が形成されている。平坦部72はウェットエッチングにより研磨された部分である。
図7(b)は、平坦部72を拡大した模式図であり、基板表面にエッチピット73が生じた様子を示している。
【0061】
このエッチピット73は、窒化ガリウム層に生じた転位箇所、すなわち結晶欠陥が存在する箇所に生成された。従ってエッチピット73の生成箇所を調べることにより、結晶欠陥の位置を推定することができる。
【0062】
なお、表面処理溶液に含まれるアルコール類は、エタノール又はイソプロピルアルコールを用いてもよい。また、好ましい表面処理溶液の濃度は、エッチング時間に依存する。エッチング時間が短い場合は濃度が大きい方が好ましく、エッチング時間が長い場合は比較的低い濃度でもよい。例えばエッチング時間を3時間程度とした場合、表面処理溶液における水酸化テトラメチルアンモニウム濃度は20%以上が好ましい。
【0063】
なお、本実施の形態では、半導体素材の一例としてGaN/Sapphire基板を用いたがこれに限られない。例えば半導体層に窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を用いる等、半導体層にアルミニウムを含む半導体素材を用いてもよい。
【0064】
また、例えば、アルミニウムを添加する方法としては、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にアルコール類を加えた元溶液に、アルミナ小片やアルミニウム金属片を投入し、所定時間攪拌してアルミニウムを添加して表面処理溶液60を作製する方法も考えられる。この場合、アルミニウムの添加量の調整は、アルミナ小片形状や個数、或いは大きや、小片のアルミナの含有率を適宜変更させること等で、実現できると思われる。添加量は、処理する基板や処理工程、処理装置の仕様などに応じて、製造する前に予め実験などで好適な状況を確認しておく方が好ましい。また、
図6に示す保持容器11内に、予めアルミナ小片などを投入あるいは保持容器11の内壁に付着しておき、処理を行う際に、保持容器11内に元溶液を投入して攪拌させることで、表面処理とシリコンの添加を並行して行うこともできる。
【0065】
なお、エッチピットはデバイス性能に悪影響を及ぼすといわれているが、このエッチピットの利点を活用することも考えられる。光学デバイスにおいては、このエッチピットを光の散乱手段として用いることも可能となる。すなわち、エッチピットの生成数を制御することで、散乱度合いを調整することも可能となる。また、場合によっては、窒化ガリウム膜の上に形成される他の薄膜と窒化ガリウム膜との密着強度が重要なデバイスの場合には、このエッチピットを多く生成し、密着強度を上げることも可能となる。
【0066】
なお、本実施の形態において、ウェットエッチングの対象となる半導体基板は、窒化ガリウム基板やGaN/Sapphire基板等の窒化物半導体を用いたが、これに限られず、例えば酸化ガリウム等の半導体材料を用いてもよい。
【0067】
また、本実施の形態においては、半導体基板13が表面処理溶液60に浸されることにより表面処理が行われるとして説明を行った。しかしこれに限らず、表面処理溶液60が半導体基板61に接触するような構成であればよい。例えば、接触処理器14の上方向から表面処理溶液60を流し入れ、表面処理溶液60が半導体基板61の表面を流れるように接触する構成としてもよい。
【0068】
また、本実施の形態における表面処理は室温状態で行ったがこれに限られない。例えば、置台16にヒーターが備えられていてもよく、周囲の温度環境等に応じて表面処理溶液60の温度を変化させてもよい。
【0069】
また、本実施の形態において、ウェットエッチングの対象となる半導体基板は、ドライエッチング後の半導体基板であっても半導体ウェハーそのものであっても構わない。いずれの場合も、ウェットエッチングにより生成したエッチピットから結晶欠陥の位置を推定することができる。
【実施例0070】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中の「%」は、特に断らない限り重量%である。
【0071】
(実施例1、比較例1)
表面処理溶液にシリコンを加えた場合、エッチピットの生成が抑制されるか否かについて実験を行った。
【0072】
<ドライエッチング>
III族半導体基板は、窒化ガリウム基板(n-GaN基板)およびGaN/Sapphire基板(GaN/SAP基板)を用いた。ドライエッチング装置は、SAMCO社製RiE-101iPHを用いた。エッチング条件は次のとおりである。エッチングガスは塩素ガスを用いた。エッチング時間は10分、Bias電力は10W、ガス流量は10sccm、ICP電力は100W、プロセス圧力は1Paとした。
【0073】
<ウェットエッチング>
ウェットエッチングは、スターラー(iuchi社製HS-50E)を用いて行った。表面処理溶液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(多摩化学工業社製TAMAPURE-AA TMAH 25%)に、純水とプロパノール(富士フイルム和光純薬社製2-Propanol)を加えた。表面処理溶液は、溶液中の水酸化テトラメチルアンモニウム濃度が20%の溶液を用いた。また実施例1においては添加剤としてシリコンを加え、比較例1においては添加剤を加えなかった。また、エッチング時間はいずれも3時間とした。また、実施例1および比較例1のいずれにおいても表面処理溶液を撹拌しながら実験を行った。
【0074】
<エッチピット抑制に関する評価>
結果を表1に示す。実施例1と比較例1とを対比すると、比較例1においてはエッチピットが生成したのに対して実施例1ではエッチピットが生成しなかった。これら2つの違いは、表面処理溶液にシリコンを加えたか否かである。すなわち、添加剤としてシリコンを加えたことにより、エッチピットの生成が抑制されたことが確認された。
【0075】
【0076】
(実施例2~3、比較例2~3)
次に表面処理溶液にシリコンを加えた場合に、突起物の研磨が良好に行えるか否かについて実験を行った。ドライエッチングは前述と同条件で行った。
【0077】
<ウェットエッチング>
ウェットエッチングの対象は、窒化ガリウム基板(n-GaN基板)とした。そして、実施例2および比較例2においては、n-GaN基板をウェットエッチングする際、スターラー内にGaN/Sappire基板も投入した。実施の形態1で説明したように、ウェットエッチング時のアルミニウムの存在が突起物の研磨速度に影響を及ぼすことを検証するためである。
【0078】
表面処理溶液は、溶液中の水酸化テトラメチルアンモニウム濃度が10%の溶液を用いた。また実施例2および実施例3は、添加剤としてシリコンを加え、比較例2および比較例3は、添加剤を加えなかった。またエッチング時間はいずれも30分とし、表面処理溶液を撹拌しながら実験を行った。他の条件は前述と同様である。
【0079】
<突起物研磨に関する評価>
結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
表2における研磨量の「大」「小」は、おおよその相対評価を示している。研磨量が「大」の場合は、突起物のおおよそ半分以上が研磨されたことを意味し、研磨量が「小」の場合は、突起物のおおよそ半分以下しか研磨されなかったことを意味する。
【0081】
まず、比較例2と比較例3とを対比すると、突起物の研磨量は、比較例2の方が小さい結果となった。これは比較例2において投入したGaN/Sapphire基板が影響していると考えられる。すなわちGaN/Sapphire基板に含まれるアルミニウムが影響し、比較例2における突起物の研磨を阻害していると考えられる。
【0082】
さらに実施例2と比較例2とを対比すると、実施例2の方が突起物の研磨量が大きい結果となった。すなわち実施例2の方が突起物を良好に研磨できた。実施例2と比較例2との差異は、表面処理溶液に添加剤としてシリコンを加えるか否かである。比較例2では突起物の研磨が阻害されたが、表面処理溶液にシリコンを加えた実施例2では、突起物の研磨が良好に行われた。従って、アルミニウムによる阻害要因がシリコンによって取り除かれたと推察される。
【0083】
実施例3と比較例3とを比較すると、突起物の研磨量について差異はなかった。すなわち、アルミニウムが含まれないn-GaN基板単体をウェットエッチングする場合でもシリコンによる悪影響はなく、突起物の研磨は良好に行われた。
【0084】
(実施例4、比較例4)
次に、基体がサファイアであり、半導体層が窒化ガリウムであるGaN/Sapphire基板を用いた場合に、エッチピットが生成するか否かについて実験を行った。ドライエッチングは前述と同条件で行った。
【0085】
<ウェットエッチング>
ウェットエッチングの対象は、GaN/Sapphire基板とした。表面処理溶液は、溶液中の水酸化テトラメチルアンモニウム濃度が10%および20%の溶液を用いた。実施例4は20%の溶液を用い、比較例4は10%の溶液を用いた。エッチング時間はいずれも3時間とし、表面処理溶液を撹拌しながら実験を行った。他の条件は前述と同様である。
【0086】
<エッチピット生成に関する評価>
結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
実施例4ではエッチピットが生成したが、比較例4においてはエッチピットが生成しなかった。エッチング時間が3時間の場合は、表面処理溶液中の水酸化テトラメチルアンモニウム濃度が20%のときにエッチピットが生成することがわかった。