(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097328
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】使用済み衛生用品の脱水方法および脱水剤
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20230630BHJP
B09B 3/30 20220101ALI20230630BHJP
B09B 101/67 20220101ALN20230630BHJP
【FI】
B09B3/70 ZAB
B09B3/30
B09B101:67
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108151
(22)【出願日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2021212263
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】安藤 昭洋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 仁志
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004AA12
4D004BA07
4D004BA09
4D004CA13
4D004CA34
4D004CC03
4D004CC11
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA10
(57)【要約】
【課題】 紙おむつなどの使用済み衛生用品から高吸水ポリマーやパルプなどをリサイクルする際に、高吸水ポリマーが保持している水分を、遠心分離などの機械的脱水で減少させやすくするために、予め塩化カルシウム水溶液などカルシウムイオンを含む水溶液に浸漬する方法がある。しかしながら、塩化カルシウムなどに由来するイオン、特に塩化物イオンは、錆を生じさせやすくするという問題があった。
【解決手段】 浸漬に用いる水溶液中に、カルシウムイオンに加えてプロピオン酸イオンも存在するようにする。プロピオン酸イオンの供給源としてはプロピオン酸カルシウムなどの水溶性プロピオン酸塩が使用できる。さらに、プロピオン酸イオンが存在すると塩化物イオンが存在していても錆の発生を大きく抑制するため、カルシウムイオン源の一部として、塩化カルシウムを使用することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸水性ポリマーを含む使用済み衛生用品を、焼却処理もしくはリサイクル処理するに際し、当該衛生用品をカルシウムイオンを含む水溶液と接触させた後、機械的脱水を行う工程を含む衛生用品の処理方法において、
前記カルシウムイオンを含む水溶液が、プロピオン酸イオンをも含む水溶液であることを特徴とする前記衛生用品の処理方法。
【請求項2】
前記カルシウムイオンを含む水溶液が、更に塩化物イオンを含む水溶液である請求項1記載の衛生用品の処理方法。
【請求項3】
塩化カルシウムと、該塩化カルシウム1モルに対して、プロピオン酸イオンの量が0.06~12.0モルとなる割合の量の水溶性プロピオン酸塩と、を水に溶解して得ることのできる、請求項2記載の衛生用品の処理方法で使用される水溶液。
【請求項4】
水に溶解させて請求項3記載の水溶液を調製するための塩化カルシウムと水溶性プロピオン酸塩とが混合された粉粒体であって、塩化カルシウム1モルに対して、水溶性プロピオン酸塩が、該水溶性プロピオン酸塩を構成するプロピオン酸残基部が0.06~12.0モル相当となる割合で混合された粉粒体。
【請求項5】
塩化物イオンを1.8~6.3モル/kg、プロピオン酸イオンを0.06~2.0モル/kg、及びカルシウムイオンを前記塩化物イオンの1/2モル倍以上の濃度で含有する水溶液からなり、
前記塩化物イオンの濃度が0.1~1.0モル/kgとなるように希釈して請求項2記載の衛生用品の処理方法におけるカルシウムイオンを含む水溶液として使用するものである、濃厚水溶液。
【請求項6】
水に、濃度が10~35質量%となる量の塩化カルシウム、及び0.56~18.6質量%となる量のプロピオン酸カルシウムを溶解する、請求項5記載の濃厚水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みの紙おむつなどの使用済み衛生用品の処理方法、およびその処理方法に使用される処理液に係る。
【背景技術】
【0002】
紙おむつ(使い捨ておむつ)、尿吸収パッドなど、大量の水分を吸収・保持させるために、高吸水性ポリマーを主要な構成要素とした衛生用品がある。
【0003】
このような衛生用品は使い捨てであり使用後には破棄されるが、そのままでは大量の水分を含むため燃えにくく、焼却炉に対する負荷が大きくなるという問題があった。
【0004】
一方、近年の環境意識の高まりにより、紙おむつなどを構成する高吸水性ポリマーやパルプを回収、リサイクルして再利用しようとする動きがある。即ち、病院や介護福祉施設など使用済み衛生用品が多量にまとまって排出される施設において、当該使用済み衛生用品を他の廃棄物とは別に回収し、様々な処理を施して上記高吸水性ポリマーやパルプを回収しようとするものである。この回収・リサイクルを行う場合でも、高吸水性ポリマーが保持している大量の水分が邪魔になる。そのためリサイクルに際しては脱水を行う必要があるが、高吸水性ポリマーの水分保持力は高く、圧搾や遠心分離などによる単純な機械的処理では十分な脱水ができない。
【0005】
このような問題を解決するため、機械的脱水処理に先立って、使用済み衛生用品をアルカリ土類金属塩が溶解した水溶液に接触させる方法が提案されており(例えば、特許文献1)、さらにこの方法を工程の一部に含む、紙おむつ等の使用済み衛生用品の様々な処理方法が提案されている(例えば、特許文献2~5)。
【0006】
これらの処理方法では、コストや水への溶解度、取り扱い性などの点で、アルカリ土類金属塩としてはカルシウム塩、特に塩化カルシウムが採用されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06-007765号公報
【特許文献2】特開2013-150976号公報
【特許文献3】特開2013-198862号公報
【特許文献4】特開2015-004034号公報
【特許文献5】国際公開第2015/064209パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら機械的脱水処理に先立ってカルシウム塩水溶液に接触させる方法においては、用いた機械的脱水装置が錆びやすいという問題がある。特に、解離して塩化物イオンを生じる塩化カルシウムを採用した際に錆の発生は顕著である。機械的脱水装置の接液部の材質を樹脂などの錆び難いものにする方法では、コストや耐久性の点で問題が残る。
【0009】
そこで本発明は、使用済み衛生用品を機械的方法で脱水するに際し、当該脱水処理に先立ってカルシウム塩水溶液に接触させるという脱水効率等に優れた方法を採用した場合でも、従来と同じ材質の機械的脱水装置であっても錆を生じさせにくい方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、カルシウム塩としてプロピオン酸カルシウムを採用すると、脱水性を向上させる効果を得つつ、錆の発生を著しく低減できることを見出し、さらに検討を進めた結果、本発明を完成した。
【0011】
即ち本発明は、高吸水性ポリマーを含む使用済み衛生用品を焼却処理もしくはリサイクル処理するに際し、当該衛生用品をカルシウムイオンを含む水溶液と接触させた後、機械的脱水を行う工程を含む衛生用品の処理方法において、
前記カルシウムイオンを含む塩水溶液が、プロピオンイオンをも含む水溶液であることを特徴とする前記衛生用品の処理方法である。
【0012】
さらにまた本発明者らの検討により、本来は特に錆を生じさせやすい塩化物イオン源となる塩化カルシウムが含まれる水溶液であっても、プロピオン酸イオンが共存していると錆の発生を大幅に抑制され、よってカルシウムイオン源として、安価な塩化カルシウムを使用しても錆の発生を抑制可能なことも見出した。
【0013】
即ち、他の本発明は、上記カルシウムイオンを含む水溶液が、更に塩化物イオンを含む水溶液である上記衛生用品の処理方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高吸水性ポリマーを含む使用済み衛生用品の処理に際して、当該使用済み衛生用品をカルシウム塩を含む水溶液と接触させて機械的脱水の効率を上げるというメリットを享受しつつ、用いる機械的脱水装置として従来と同様の材質のものを用いても、錆の発生を大幅に低減できる。従って、使用済み衛生用品を効率よく多量に脱水しようとする者にとって、多大な利益を与えるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、高吸水性ポリマーを含む衛生用品としては、紙おむつ(使い捨ておむつ)、尿吸収パッド、失禁パッド、女性用生理用品、ベッドパッド等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、使用後に焼却処理ないしはリサイクル処理に供されるものであればよい(以下、代表して「紙おむつ等」と記載する)。
【0016】
本発明においては、使用済みの紙おむつ等をカルシウムイオンを含む水溶液と接触させた後、機械的脱水にかけ、さらにその後に焼却したり、あるいは高吸水性ポリマー及び/又はパルプを回収したりする。
【0017】
本発明の実施にあたっては、上記カルシウムイオンを含む水溶液として、更にプロピオン酸イオンをも含む水溶液を用いる以外は、カルシウムイオンを含む水溶液と接触させる工程、機械的脱水にかける工程、およびその前後に実施する各種工程は従来公知の方法で行えばよい。例えば、前記特許文献1乃至5記載の方法において、塩化カルシウム(あるいは他の多価金属塩)水溶液を用いる部分で、カルシウムイオンとプロピオン酸イオンの双方を含む水溶液を用いればよい。
【0018】
周知のとおり鋼材などが水、特に塩化物イオンを溶解した水溶液に接触すると錆を生じやすくなる。これに対し本発明で用いる上記プロピオン酸イオンが水に含まれていると、実質的に塩化物イオンを含まない水に比べても錆の発生が大幅に抑制される。
【0019】
当該水溶液にプロピオン酸イオンが含まれるようにするためには、水溶性プロピオン酸塩を溶解させればよい。当該水溶性プロピオン酸塩としては、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウムなどが挙げられるが、カルシウム塩を同時に供与できるという観点から、プロピオン酸カルシウムが好ましい。
【0020】
錆の発生しやすさは他のイオンなどにも左右されるため、含有すべきプロピオン酸イオンの量は一概に決定できないが、通常は0.01モル/kg以上含有されば効果を発現し、0.05モル/kg以上あれば確実である。多量に配合しても効果は頭打ちするため、1.5モル/kg以下でよく、1.0モル/kg以下、さらには0.5モル/kg以下でも十分である。
【0021】
機械的脱水において、高吸水性ポリマーからの離水性を向上させる効果は主にカルシウムイオンによって発現し、一定程度まではカルシウムイオン濃度が高いほど離水性は向上していく。このような観点から、本発明で用いる水溶液におけるカルシウムイオン濃度は、0.05モル/kg以上であることが好ましく、0.07モル/kg以上であることがより好ましい。離水性という観点からの上限は特にないが、カルシウム塩を溶解できる量や、対イオンによる様々な影響を考慮すると、1.0モル/kg以下でよく、0.5モル/kg以下でも十分な性能を得られる。
【0022】
ところで、塩化カルシウムのように、塩化物イオンの供給源となるために錆の発生を強く促進してしまう化合物が溶解した水溶液であっても、さらにプロピオン酸イオンが含まれていれば、単なる水である場合よりも錆の発生を抑制することが可能である。
【0023】
そして一般に、塩化カルシウムに比べてプロピオン酸カルシウムは高価であるから、カルシウムイオンの供給源の一部を安価な塩化カルシウムとすることで、高い離水性、防錆性を維持しつつ、原料コストを低減することが可能となる。
【0024】
錆の発生を促進する塩化物イオンに対する抑制効果のあるプロピオン酸イオンの量、さらにプロピオン酸塩のコストなどを考慮すると、カルシウム源の一部として塩化カルシウムを採用する場合、該塩化カルシウム1モルに対して、プロピオン酸イオンの量が0.06~12.0モルとなるように調製することが好ましい。防錆性の観点からは、0.1モル以上がより好ましく、0.6モル以上が特に好ましい。またコスト面からは3.0モル以下が好ましく、2.0モル以下がより好ましく、1.0モル以下が特に好ましい。
【0025】
カルシウム源としては最も安価な塩化カルシウムと、溶解するとカルシウム源ともなるプロピオン酸カルシウムとを用いて上記割合の水溶液を調製する場合を例に挙げると、塩化カルシウム100質量部に対して、プロピオン酸カルシウムが5~1000質量部とすることができる。同プロピオン酸カルシウムは10質量部以上が好ましく、50質量部以上が特に好ましい。また300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、100質量部以下が特に好ましい。
【0026】
なお機械的脱水を実施することにより生じる排水には、上記水溶液に含まれていた各種イオンも含まれる。ここで、当該排水の環境への影響を考慮すると、多量の塩化物イオンが含まれることは好ましくない。従って、カルシウムイオンが含まれる水溶液において、カルシウム源の一部として塩化カルシウムを用いる等により塩化物イオンが含まれる場合、当該塩化物イオンの濃度は0.1~1.0モル/kgとなるようにすることが好ましく、0.54モル/kg以下がより好ましく、0.27モル/kg以下が特に好ましい。塩素源が全て塩化カルシウムである場合には、当該塩化カルシウムの濃度は水溶液中5.6質量%以下とすることが好ましく、3質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下であることが特に好ましい。なるべく安価な塩化カルシウムをカルシウムイオン源とし、さらに前記したようなカルシウムイオン濃度を得やすいという点で、下限は0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上が特に好ましい。
【0027】
また排水の環境影響という観点においては、化学的酸素要求量を高くしすぎないという面からもプロピオン酸イオンの量の上限は前記値とすることが好ましい。
【0028】
本発明において用いるカルシウムイオンを含む水溶液には、カルシウムイオン、プロピオン酸イオン及び、場合により用いられる塩化カルシウム等に由来する塩化物イオンに加え、紙おむつ等の処理に際して用いられる水溶液が含有しうる他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、香料、シリカ粒子、ポリフェノール、キトサンなどが挙げられる。
【0029】
上記のような組成を持つ水溶液は、使用する現場にてオンサイトで調製してもよいし、他の場所で調製したものを輸送してきて使用してもよい。
【0030】
この調製について、カルシウムイオンを含む水溶液として、安価な塩化カルシウムを用い、これと水溶性プロピオン酸塩とを水に溶解させて調製する場合を例に挙げて具体的に説明すると、前記した量比、即ち塩化カルシウム1モル相当に対して、プロピオン酸イオンの量が0.06~12.0モルとなる割合で混合した粉粒体を調整しておき、これを使用時に水に溶解する方法が挙げられる。なおカルシウムなどの二価金属塩であれば、プロピオン酸塩1モルからプロピオン酸イオンが2モル生じることは留意して調製すべきである。
【0031】
上記方法で使用する水は水道水や井戸水でよく、日本国内であれば比較的調達が容易であるから、輸送するのは上記粉粒体だけでよいという利点がある。他方、粉粒体の場合、溶解させることが必要であり、また慣れない作業者が扱うと容器への移し入れ等の際にこぼれやすいなど、作業性が悪い傾向がある。
【0032】
工場等で液体として調製し、これを輸送する方法を採用すれば、使用現場において上記のような問題を生じることはなくなるが、一方で水の分だけ輸送コストが増大する。そこで、上記の通り水は比較的調達しやすいことを考慮し、使用する際の濃度よりも濃い水溶液を調製しておき、使用現場にて水で希釈する方法をとることが考えられる。塩化カルシウムなどの濃度が高いほど水の分の輸送コストが減るが、溶解度の限界等を考慮すると、塩化物イオンを1.8~6.3モル/kg、プロピオン酸イオンを0.06~2.0モル/kgの濃度で含有する水溶液からなる水溶液を調製することが好ましい。塩化物イオンの濃度は、より好ましくは2.7~4.5モル/kg、さらに好ましくは3.2~4.0モル/kgであり、プロピオン酸イオンの濃度は、より好ましくは0.43~1.5モル/kg、さらに好ましくは0.75~1.2モル/kgである。なお、1モルの塩化カルシウムからは、カルシウムイオンが1モルと塩化物イオンが2モル生じるから、通常は、カルシウムイオン濃度は上記塩化物イオンの1/2モル倍以上となる。
【0033】
上記のような濃厚水溶液を、塩化カルシウムとプロピオン酸カルシウムから調製するには、水に、濃度が10~35質量%となる量の塩化カルシウムと、0.56~18.6質量%となる量のプロピオン酸カルシウムを溶解すればよい。なお粉粒体の場合よりもプロピオン酸カルシウムの割合の上限が低めなのは、均一な水溶液として安定して製造・保管・輸送を行うためである。長期保存したり、寒冷地でも塩の析出を起こしがたい組成とするなどの点をさらに考慮すると、好ましくは塩化カルシウムとしての濃度が15~25質量%(塩化物イオン濃度で2.7~4.5モル/kg)、より好ましくは18~22質量%であり、プロピオン酸カルシウムとしての濃度が4~14質量%、より好ましくは7~11質量%であり、かつ、塩化カルシウムとプロピオン酸カルシウムとが合計で29質量%以下となるように調製することがより好ましい。最も好ましくは塩化カルシウムとしての濃度が19~21質量%、プロピオン酸カルシウムが7~9質量%、双方の合計が28質量%以下の配合である。
【0034】
このような粉粒体あるいは濃厚溶液を、使用に際して塩化物イオンの濃度が前記したような範囲(0.1~1.0モル/kg)となるように水道水などで希釈すればよい。
【0035】
本発明において、上記の如きカルシウム塩を含む水溶液の使用量は、使用済み紙おむつ等が本質的に一定の性状を持つとは限らないため一概には決定できないが、処理する(接触させる)使用済み紙おむつ等の全量が水溶液に浸るだけの量以上とすべきである。他方、使用量が多いほど排水量が多くなり、接触させるための槽などの容器の大きなものが必要となる。これらを考慮すると、水溶液の使用量のおおよその目安としては、使用済み紙おむつ等1kgに対して3~50L程度である。
【0036】
使用済み紙おむつ等とカルシウム塩が溶解した水溶液の接触時間の目安は10分程度以上であり、1時間以下で十分である。なお接触に先立って、使用済み紙おむつ等は破断や切断に供してあってもよい。本発明においては、このような破断や裁断といった前処理を行ったものも「衛生用品」に含まれる。
【0037】
機械的脱水の方法も公知の方法を適用すればよく、遠心分離や圧搾などが採用でき、特に遠心分離が一般的である。
【0038】
機械的脱水を終えた使用済み紙おむつ等は、高吸水性ポリマーやパルプ等を回収(リサイクル)するために、更なる処理に供されるが、この脱水以降の処理としては、適用可能などのような方法でも構わない。また、脱水したものは焼却してしまうことも可能である。
【実施例0039】
以下の実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に、腐食度、保水量、離水率の測定方法を示す。
【0040】
<腐食度の測定方法>
1.試験片の調製:試験片とした金属板(30mm×50mm×厚さ2mm:総面積0.33dm2)には冷間圧延鋼板(SPCC)を用いた。サンドペーパーを用いて試験片を研磨(#150→#240→#400)し、試験片による表面の差を少なくした。
【0041】
次いでアセトンにて試験片表面の余分な油分及び汚れを取り除いた。乾燥したのち、試験片の質量(w1)を0.1mg単位で測定した。
【0042】
2.離水性促進液の調製:離水性促進液は、表1に示す組成となるように原料の粉体をイオン交換水(水道水をオルガノ株式会社製G-10Dカートリッジに通水したもの)に溶解させて水溶液として調製した。またクエン酸水溶液は、クエン酸の粉体をイオン交換水に溶解させて5質量%水溶液として調製した。
【0043】
3.錆発生量の評価:前記研磨した試験片を離水性促進液に1分間浸漬させたのち試験片を立てかけ、10分間の水切りを行った。その後、24時間25℃±2℃で空気暴露を行った。次いで試験片を15分間、5質量%クエン酸水溶液に浸漬し、表面の生成物を取り除いた。その後、取り切れていない部分はキムワイプ(日本製紙クレシア株式会社製)を用いてこすりとると同時に水分を除去し、試験片の質量(w2)を測定した。なお全ての操作において、液温は25℃±2℃とした。
【0044】
下式(1)により、上記測定(実試験)で得たw1、w2から金属板の質量減少量を求めた。
【0045】
実試験での金属板の質量減少量(mg)=w1-w2 (1)
【0046】
他方、5質量%クエン酸水溶液による、金属板の(錆びていない)表面も溶解する影響分を補正するため、離水性促進液に1分間浸漬させる操作を行わなかった以外は上記と同一の操作を行い、質量(w3およびw4)を測定し(空試験)、下式(2)により、空試験での金属板の質量減少量を求めた。
【0047】
空試験での金属板の質量減少量(mg)=w3-w4 (2)
【0048】
各試験における質量減少量を金属板の面積(いずれも0.33dm2)で除すれば、両試験での面積当たりの減少量が算出されるから、さらにその差をとれば、離水性促進液の影響による単位面積当たりの腐食量が算出できる。この単位面積当たりの腐食量を所要日数(1day)で除した値が腐食度(mg/dm2/d:以下「mdd」と略記する場合がある)である。
【0049】
即ち、w1ないしw4から、以下の計算により離水性促進液の影響による腐食度が算出できる。
【0050】
腐食度
=[(実試験での金属板の質量減少量)/(金属板の表面積)/(空気暴露の日数)]-[(空試験での金属板の質量減少量)/(金属板の表面積)/(空気暴露の日数)]
=[(w1-w2)-(w3-w4)]mg/0.33dm2/1d
【0051】
一種類の離水性促進液について各3回の測定を行って各々上記値を算出し、その平均値を、用いた離水性促進液における腐食度とした。
【0052】
<離水率の評価方法>
1.初期保水量の測定
目開き63μmのナイロン網で作製した縦横20cm×10cmの袋にアクリル酸塩系高吸水ポリマー(以下、「SAP」。富士フイルム和光純薬製)を1.00g入れ、25℃±2℃に調整した生理食塩水(食塩濃度0.9質量%)1000mL中に無攪拌下、1時間浸漬したのち引き上げて、15分間つるして水切りを行った。その後、ナイロン袋ごと、遠心分離機(中型遠心分離機、H-122、株式会社コクサン製)に入れ、150Gで90秒間遠心脱水した。
【0053】
遠心脱水処理後、袋ごと質量(w5)を測定した。また別途、ナイロン袋自体が保持する水量の影響を補正するため、大きさと重さが同じナイロン袋を作成し、これにSAPを入れない状態で上記と同様の操作を行った後、ナイロン袋の質量(w6)を測定した。なおこれら質量は、0.01g単位で測定した。これら値を用い、下式から初期保水量を求めた。なお下式における“1.00”はSAPの質量(g)である。
【0054】
初期保水量(g/g)=(w5-w6-1.00)/1.00
【0055】
2.離水率の測定
続いて、上記遠心分離にかけた後のナイロン袋を、25℃±2℃に調整した離水性促進液500mL中に無撹拌下で5分間浸漬した。これを再度遠心分離器にいれ、150Gで90秒間遠心脱水した。ナイロン袋ごと質量(w7)を測定し下式から離水性促進液処理後の保水量を求めた。(w8)は、SAPを入れない場合について上記と同様の操作により計測したナイロン袋の質量である。
【0056】
離水性促進液処理後の保水量(g/g)=(w7-w8-1.00)/1.00
その後、下式により離水率を求めた。
【0057】
離水率(%)=(1-(離水性促進液処理後の保水量)/(初期保水量))×100
【0058】
一種類の離水性促進液について各3回の測定を行って各々上記値を算出し、その平均値を、用いた離水性促進液における離水率とした。
【0059】
<参考例>
離水性促進液ではなく、水道水を用いて腐食度の測定を行ったところ、26mg・dm-2・d-1であった。
【0060】
<比較例1>
離水性促進液として、1質量%塩化カルシウム水溶液を用いて各試験を行ったところ、表1に示すように離水率は約8割と良好であったが、腐食度は55mg・dm-2・d-1と大きく悪化していた。
【0061】
<実施例1>
表1に示す通り、離水性促進液として、1質量%プロピオン酸カルシウム水溶液を調製し、試験を行った。錆生成量(mg)、腐食度(mdd)、離水率(%)をそれぞれ求めた。各イオンのモル濃度、試験結果を合わせて表1に示す。
【0062】
<比較例2>
表1に示すように、プロピオン酸カルシウム水溶液に代えてプロピオン酸ナトリウム水溶液を用いて各試験を行った。各イオンのモル濃度と結果を合わせて表1に示すが、ナトリウム塩では防錆性は発現するものの、離水性の向上効果は全く見られなかった。
【0063】
<実施例2~8>
表1に示す組成で離水性促進液を調製し各試験を行った。試験結果を合わせて表1に示す。
【0064】
【0065】
参考例
塩化カルシウムとプロピオン酸塩を以下の濃度で含む濃厚水溶液の安定性を評価した。(1)塩化カルシウム29質量%とプロピオン酸カルシウム3質量%、(2)塩化カルシウム18質量%とプロピオン酸カルシウム8質量%、(3)塩化カルシウム20質量%とプロピオン酸ナトリウム9質量%、(4)塩化カルシウム20質量%とプロピオン酸カルシウム9質量%の水溶液を調製した。50℃の温度をかけて溶解させたところ、いずれの組成も均一溶液が得られたが、(1)の組成では、室温で保存していると濁りが生じた。また(4)の組成でも室温下でわずかに析出がみられた。
【0066】
<実施例9>
上記の(2)の組成の濃厚溶液を水で希釈して、塩化カルシウム1質量%、プロピオン酸カルシウム0.45質量%の水溶液とした。これを用いて腐食度と離水率を評価したところ、各々19mg・dm-2・d-1、80%であった。