(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097390
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230630BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B32B15/08 J
H05K1/03 630H
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198315
(22)【出願日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021212010
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】池田 知弥
(72)【発明者】
【氏名】王 宏遠
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB01C
4F100AB17A
4F100AB17C
4F100AK01B
4F100AK49B
4F100AK49D
4F100AK49E
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100GB43
4F100JA02B
4F100JA02D
4F100JA02E
4F100JD06B
4F100JG04B
4F100JG04D
4F100JG04E
4F100JJ03B
4F100JK06
4F100JK14B
4F100JK14D
4F100JK14E
4F100JN01B
4F100JN06B
4F100JN18B
4F100JN18D
4F100JN18E
4F100JN28
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】絶縁樹脂層のHAZEが低くて視認性・光透過性に優れ、尚且つL*やa*の色相が調整された金属張積層板を提供する。
【解決手段】絶縁樹脂層の片面又は両面に金属層を有する金属張積層板において、
前記絶縁樹脂層は、厚みの範囲が10μm~100μmの範囲にあり、全光線透過率が50%以上、HAZEが70%以下であり、
前記絶縁樹脂層に接する前記金属層の表面を、前記絶縁樹脂層を介して測定した場合に、L*a*b*表色系のL*が50以下、a*が9以下であることを特徴とする金属張積層板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂層の片面又は両面に金属層を有する金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層は、厚みの範囲が9μm~100μmの範囲にあり、全光線透過率が50%以上、HAZEが70%以下であり、
前記絶縁樹脂層に接する前記金属層の表面を、前記絶縁樹脂層を介して測定した場合に、L*a*b*表色系のL*が50以下、a*が9以下であることを特徴とする金属張積層板。
【請求項2】
前記金属層は、L*a*b*表色系のL*が60以下、a*が15以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項3】
前記絶縁樹脂層に接する前記金属層の表面を、前記絶縁樹脂層を介して測定した場合に、680nmにおける反射率が50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項4】
前記絶縁樹脂層は、全光線透過率が75%以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項5】
前記絶縁樹脂層のヘイズが10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項6】
前記絶縁樹脂層は、1%重量減少温度が450℃以上であることを特徴する請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項7】
ハンダ耐熱性が200℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項8】
前記絶縁樹脂層と前記金属層との180°ピール強度が0.3kN/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項9】
前記金属層の厚みが1μm以上25μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の金属張積層板の前記金属層を配線回路加工してなる回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁樹脂層と金属層とを積層してなる金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、スマートフォン等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。FPCの多くは、金属箔などを用いた金属層と、絶縁性を持った樹脂基材(絶縁樹脂層)とを積層した金属張積層板の金属層に回路を形成することで製造される。
【0003】
FPC、とくに透明性に優れるFPCは、薄い、軽量、曲げられる、割れない、といった特徴を有することから、近年では、透明なアンテナとして用いてこれを窓ガラス表面に形成して窓を基地局化する「ガラスアンテナ」であったり、モバイル用途においてディスプレイにアンテナを埋め込む技術であったり、或いは、大型の電光板やLEDビジョンを含んだLED透明ディスプレイの設置が期待される分野での基板用途での需要が拡大している。こうした新しい用途では、肉眼では見えづらい細い配線を形成する手法等が知られているが、とくに基板の視認性が求められることから、加工した配線をフィルムの反対側(ユーザーから視認される側(絶縁樹脂層側))から見た際において、配線の存在をできるだけ目立たないようにすることが強く要求されている。なぜなら、配線の正反射によって、ディスプレイのコントラストが低下するおそれがあるからである。そして、このような分野では、現状では、コストや透明性等の点から絶縁樹脂層としてポリエチレンテレフタレート(PET)に銅箔がスパッタされた銅張積層板が一部採用されてきているが、耐光性など長期信頼性などから、更なる検討の余地もあった。
【0004】
ここで、従来から透明FPCに好適な金属張積層板が提案されているが、使用される絶縁樹脂層(金属層がエッチングされた箇所における絶縁樹脂層)の視認性・透明性を確保するために、その面に存在していた金属層としては、比較的粗化の少ないものが好適に使用されている(例えば、特許文献1)。なぜなら、金属層がエッチングされた絶縁樹脂層は、当該金属層の表面粗さ等の表面プロファイルが樹脂層側に引き継がれるためである。
【0005】
ところが、粗化が少ない金属は表面が平滑であることから、光の散乱の発生が少なく、光の反射(正反射)を大きくする傾向があることから、使用される金属の光沢感や色味や存在感がより強く目立ってしまうことが懸念される。
そのため、上記のような用途の基板に適用する場合、使用される金属それ自体の反射や色味などを考慮することはもとより、実使用を想定してフィルムの反対側(ユーザーから視認される側(絶縁樹脂層側))から視認した際における金属層の色相(存在感)を調整することが重要であり、このような懸念も含めて、総じてデバイスとしての透明性について更なる検討の余地があった。
【0006】
なお、従来から、FPCやタッチパネルなどにおいて、粗化処理された銅箔として、銅箔のエッチング後のフィルムの透明性や配線の視認性などを考慮して、とくに明度L*値が30以下に黒色化された銅箔を用いる技術や(例えば、特許文献2)、配線板の用途において回路パターン形成後の密着性と視認性とを考慮して、純銅で粗化処理されて拡散反射率を低減する技術(例えば、特許文献3)が開示され、また、タッチパネルにおいて、透明基材と銅箔との接触面において所定の粗化処理面を有する透明接着層を設ける技術(例えば、特許文献4)が開示されているが、これらはいずれも、LED透明ディスプレイ等のような非常に微細な配線であってもその存在感に配慮する用途において検討されたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2020/262450号
【特許文献2】国際公開WO2014/133164号
【特許文献3】特許第5706026号
【特許文献4】特開2015-157392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、先行して検討を行ってきた樹脂フィルムや金属張積層板について、本願の発明者らが上記の観点でさらに検討を進めた結果、表面が粗化処理されて特定の範囲の表面粗さ特性を有するとともに、L*a*b*表色系のL*及びa*値が特定の範囲に調整された金属を金属層に用い、尚且つ、好ましくは、HAZEの上昇を可及的に抑える方法を採用することによって、上記の課題を解決できることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、絶縁樹脂層のHAZE(濁度)が低くて視認性・光透過性に優れ、尚且つL*やa*の色相が調整された金属張積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]絶縁樹脂層の片面又は両面に金属層を有する金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層は、厚みの範囲が9μm~100μmの範囲にあり、全光線透過率が50%以上、HAZEが70%以下であり、
前記絶縁樹脂層に接する前記金属層の表面を、前記絶縁樹脂層を介して測定した場合に、L*a*b*表色系のL*が50以下、a*が9以下であることを特徴とする金属張積層板。
[2]前記金属層は、L*a*b*表色系のL*が60以下、a*が15以下であることを特徴とする[1]に記載の金属張積層板。
[3]前記絶縁樹脂層に接する前記金属層の表面を、前記絶縁樹脂層を介して測定した場合に、680nmにおける反射率が50%以下であることを特徴とする[1]に記載の金属張積層板。
[4]前記絶縁樹脂層は、全光線透過率が75%以上であることを特徴とする[1]に記載の金属張積層板。
[5]前記絶縁樹脂層のヘイズが10%以下であることを特徴とする[1]に記載の金属張積層板。
[6]前記絶縁樹脂層は、1%重量減少温度が450℃以上であることを特徴する[1]に記載の金属張積層板。
[7]ハンダ耐熱性が200℃以上であることを特徴とする[1]に記載の金属張積層板。
[8]前記絶縁樹脂層と前記金属層との180°ピール強度が0.3kN/m以上であることを特徴とする[1]に記載の金属張積層板。
[9]前記金属層の厚みが1μm以上25μm以下の範囲であることを特徴とする[1]に記載の金属張積層板。
[10][1]~[9]のいずれか1項に記載の金属張積層板の前記金属層を配線回路加工してなる回路基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁樹脂層のHAZEが低くて視認性・光透過性に優れ、尚且つL*やa*の色相が調整された金属張積層板を得ることができる。本発明の金属張積層板は、金属層の色相が調整されて目立ちにくいことから、高い透明性が求められる用途、例えば、ガラスアンテナや、モバイルのディスプレイのアンテナや、LED透明ディスプレイの基板用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
<金属張積層板>
本発明の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層とを備えており、絶縁樹脂層の片側に金属層を有してもよいし、絶縁樹脂層の両側に金属層を有してもよい。
【0014】
本発明の金属張積層板においては、当該金属張積層板の絶縁樹脂層に接する金属層の表面を、当該絶縁樹脂層を介して(絶縁樹脂層越しに)測定した場合における反射光のL*a*b*表色系のL*が50以下、a*が9以下であることを特徴とする。なお、その際に測定される反射光には、金属層表面からの反射光だけに制限されず、絶縁樹脂層に起因するものが含まれていることは排除されない。つまり、このように、実使用を想定して絶縁樹脂層を介して金属層を見た場合に測定される反射光のL*値などを考慮することが本発明おいては重要である。なお、L*a*b*表色系については、JISZ8781-4:2013に準拠して測定される。その際に測定されるL*、a*、b*値については、昼光で照明される物体色を表示する場合に用いられるD65光源(JISZ8720の昼光の標準イルミナント(測色用の光))またはC光源(JISZ8720の昼光の補助イルミナント)を用いて、視野角2°又は10°で測定した値である。具体的には、後述の実施例に示したとおり、金属張積層板(片面)の金属層鏡面側をガラス板に貼り付けたあと、絶縁樹脂層側から光を照射して、絶縁樹脂層を介して金属層表面から反射される反射光を、視野角2°で測定した場合のL*、a*、b*の値を測定する。
【0015】
ここで、上記L*は明度を表す指標であるが、本発明の金属張積層板においては、金属層の反射が抑えられて存在が目立たないようにすることが望ましいことから、比較的L*が低くて黒色されて光沢が抑えられていることが必要であり、前記方法で測定されたL*が50以下である必要がある。好ましくは45以下、より好ましくは40以下であることがよい。他方、下限値については、特に制限はないが、黒色とフィルム透明性のバランスの調整しやすさの観点から10以上であることがよく、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上、最も好ましくは30超過であることがよい。
【0016】
また、上記a*は、+a*が赤方向、-a*が緑方向を表す色度である。本発明の金属張積層板においては金属層として銅(銅箔)が使用されることが多く、銅表面の反射光は比較的a*が大きく赤みがかった色調であることが多い。また、人間の目には赤みがかった色調が目につきやすい傾向があることから、これらを考慮すると、本発明においては上記の場合におけるa*の値が小さく赤みが抑えられていることが好適であり、a*は9以下であることが必要とされる。好ましくはa*が6以下、より好ましくは5以下であることがよい。他方、下限値については特に制限は無いが、a*のマイナス値が大きくなると上記のとおり緑がかった色調が強くなることから、好ましくは-10以上、より好ましくは-5以上、さらに好ましくは―2以上であることがよい。
【0017】
なお、上記の場合において、b*については特段の制限は無いが、+b*は黄方向、-b*は青方向を示す色度であることから、数値(絶対値)が小さいことが好適であり、好ましい上限値は15以下であり、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下であることがよい。他方、好ましい下限値としては-15以上であり、より好ましくは-5以上、さらに好ましくは0以上であることがよい。
【0018】
また、本発明の金属張積層板においては、上記のように、絶縁樹脂層を介して観察する場合において金属層の存在が目立たないことが好ましいことから、同じように絶縁樹脂層を介して測定される金属層表面からの光反射率が低いことが好ましい。なお、上記のとおり、当該反射光には絶縁樹脂層に起因するものが含まれていることは排除されない。具体的には、上記のとおり金属層として銅(銅箔)を使用した場合における赤みがかった色調の反射率が少ないことが好適であり、赤色光である波長680nmの反射率が50%以下であることが好ましい。より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。他方、下限値については、反射しないほうが望ましいため、特に制限はない。反射率の測定方法は、実施例に記載の方法で行うことが好ましい。
【0019】
<金属層>
金属層の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、銅、鉄又はニッケルの金属元素、または酸化インジウムスズ(ITO)が好ましく、銅(銅箔)であることがより好ましい。銅箔としては、電解銅箔及び圧延銅箔のいずれも使用することができる。なお、これら金属層の選定にあっては、金属層の導電性やポリイミド層の光透過性、ポリイミド層との接着性など使用目的で必要とされる特性を発現するように選択することになる。金属層の形状に特に制限はないが、用途に応じて適宜加工などが施されてよい。長尺状に形成されたロール状のものが好適に用いられる。
【0020】
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは0.1~50μmの範囲内、さらに好ましくは1~25μmの範囲内がよい。
【0021】
また、絶縁樹脂層の光透過性や金属層の色調や、ディスプレイとして用いた場合の画像の明瞭度などの観点から、金属層の表面の表面粗さRaが0.01μm以上0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上0.07μm以下、さらに好ましくは0.01μm以上0.03μm以下であることがよい。また、表面粗さRzが0.06μm以上0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.4μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.3μm以下であることがよい。金属層の表面の上記Ra,Rzを上記の範囲とすることによって、金属層をエッチングした後の絶縁樹脂層のHAZE値を比較的低くすることができるので、好ましい。
【0022】
また、金属層については、L*a*b*表色系のL*、a*及びb*が所定の範囲でのものを用いることが、上記した絶縁樹脂層を介して測定した金属層のL*、a*及びb*を所定の範囲とすることができるため好ましい。当該金属層のL*、a*及びb*については、後述の実施例に示したとおり、金属層を単独で用いてその鏡面側をガラス板に貼り付けたあと、金属張積層板(片面)と同じ測定方法により求められる。
【0023】
金属層のL*は60以下であることが好ましく、より好ましくは55以下、さらに好ましくは53以下である。他方、L*の下限については、好ましくは10以上、より好ましくは30超過、さらに好ましくは40以上、最も好ましくは45以上である。金属層のL*が低いものは、金属の明るさが低下し、透明フィルムを通してみるときに目立たないので好ましい。
【0024】
また、金属層のa*は15以下であることが好ましく、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。他方、a*の下限については、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上である。
【0025】
なお、金属層のb*については、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、さらに好ましくは12以下であり、他方、下限については2以上が好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上である。
【0026】
また、上記と同じ理由から、金属層それ自体の表面の光反射率が低いことが好ましく、とくに、金属層として銅(銅箔)を使用した場合を想定して、赤色光である波長680nmの反射率が50%以下であることが好ましい。より好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下である。他方、下限値については、反射しないほうが望ましいため、特に制限はない。反射率の測定方法は、実施例に記載の方法で行うことが好ましい。
【0027】
<絶縁樹脂層>
本発明の絶縁樹脂層については、少なくとも、絶縁樹脂層を介して金属層の位置を認識・視認できる程度の光透過性を有する必要があり、全光線透過率が50%以上であることが必要である。より透明に近いことが好ましく、全光線透過率が70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上である。
【0028】
また、このような視認性・光透過性の観点から、絶縁樹脂層(金属層をエッチング除去した後の絶縁樹脂層)は、HAZE(濁度)が70%以下である必要があり、好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、さらにより好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。下限値は限定されないが、例えば、0.5%以上であることが好ましく、0.8%以上であることがより好ましく、1%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
絶縁樹脂層の厚みは、工程中の加工性、搬送性、フィルム自体の支持性を持たせる観点から、9~100μmの範囲とする。使用される用途などによって適宜選択することができるが、フィルムの透明性が必要であることから、好ましくは9~70μm、より好ましくは9~50μmである。
【0030】
絶縁樹脂層の表面粗さが大きいほど光を照射するときにHAZEが悪化しディスプレイの視認性が低下する観点から、絶縁樹脂層の表面粗さRaは0.01μm以上0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上0.07μm以下、さらに好ましくは0.01μm以上0.03μm以下であることがよい。また、表面粗さRzが0.06μm以上0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.4μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.3μm以下であることがよい。
【0031】
また、絶縁樹脂層の黄色度(YI)は60以下であることが好ましく、より好ましくは50以下、さらに好ましくは40以下、最も好ましくは30以下である。例えば、絶縁樹脂層の厚さ25μmにおいて、それを満足することが好ましい。このような範囲に制御することで、絶縁樹脂層をほぼ無色に近づけることができる。一方、YIが上記のような範囲を外れると、黄色~黄褐色の着色が強くなって、絶縁樹脂層の視認性が低下する傾向があるが、用途などに応じて適宜選択することができる。
【0032】
絶縁樹脂層としては、特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリマー(LCP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリイミド(PI)などを挙げることができる。この中でも、耐熱性、接着性、柔軟性などに優れ、組成などに応じて透明性にも優れるようにできることから、ポリイミドを好ましく使用することができる。
【0033】
なお、絶縁樹脂層には、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、必要に応じ、層中に無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
以下、本発明の好ましい絶縁樹脂層の一例として、ポリイミドを使用した場合の実施形態を説明する。
【0035】
使用されるポリイミド(ポリイミド層)としては、市販のポリイミドフィルムをそのまま使用することもでき特に制限されないが、絶縁樹脂層としてのポリイミド層の形成方法としては、例えば、[1]支持基材(例えば、金属層)に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化して樹脂フィルムを製造する方法(以下、キャスト法)、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化して樹脂フィルムを製造する方法などで形成されたものが挙げられる。また、絶縁樹脂層が、複数のポリイミド層からなる場合、その製造方法の態様としては、例えば、[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(以下、逐次塗工法)、[4]支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(以下、多層押出法)などにより形成されたものが挙げられる。
寸法安定性や、絶縁樹脂層と金属層との接着性、金属層をエッチング後の絶縁樹脂層のHAZE、或いは面内のリタデーションの制御の観点から、キャスト法・逐次塗工法により絶縁樹脂層(金属張積層板)を形成することが好ましい。
【0036】
ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。ポリイミド層は単層のみから形成されてもよいが、ポリイミド層と金属層との接着性等を考慮すると複数層からなるものが好ましい。
【0037】
複数のポリイミド層の場合は、金属層に直接積層するポリイミド層(P1)と金属層と直接積層しないポリイミド層(P2)との二層構造でもよい。下に例示する構成1~4のように特に制限はされないが、好ましくは三層であり、より好ましくは、第三のポリイミド層(P3)が(P1)/(P2)/(P3)の順に積層していることが好ましい。M1、M2は金属層を表し、M1とM2が同じであっても異なってもよい。金属層に直接積層するポリイミド層(P1)と第三のポリイミド層(P3)は同一組成であってもよい。例えば、複数のポリイミド層をキャスト法によって形成する場合では、キャスト面側から金属層に直接積層するポリイミド層(P1)及び導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)がこの順序で積層された二層構造とすることでもよいし、キャスト面側から導体層に直接積層するポリイミド層(P1)及び導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)、第三のポリイミド層(P3)がこの順序で積層された三層構造とすることでもよい。ここで言う「キャスト面」とはポリイミド層を形成する際における、支持体側の面のことを示す。支持体は、本発明の金属張積層板の金属層であってもよいし、ガラス等でもよいし、ゲルフィルム等を形成する際の支持体であってもよい。なお、複数のポリイミド層においてキャスト面と反対側の面は「ラミネート面」と記述するが、特に記述が無い場合、ラミネート面に金属層が積層されていてもされていなくてもよい。
【0038】
構成1;M1/P1/P2
構成2;M1/P1/P2/P1(又はP3)
構成3;M1/P1/P2/P1(又はP3)/M2(又はM1)
構成4;M1/P1/P2/P1(又はP3)/P2/P1(又はP3)/M2(又はM1)
【0039】
ポリイミド層(P1)とポリイミド層(P3)を構成するポリイミドは熱可塑性ポリイミドとすることが好ましく、絶縁樹脂層としての接着性を向上させ、金属層との接着層としての適用が好適となる。
【0040】
絶縁樹脂層の好ましい実施形態は、熱可塑性のポリイミド層(P1)と、非熱可塑性ポリイミドから構成される非熱可塑性ポリイミド層(P2)とを有し、この非熱可塑性ポリイミド層(P2)の少なくとも一方に熱可塑性ポリイミド層となるポリイミド層(P1)を有するものがよい。すなわち、ポリイミド層(P1)は、非熱可塑性ポリイミド層の片面又は両面に設けるとよい。
【0041】
また非熱可塑性ポリイミド層は低熱膨張性のポリイミド層を構成し、熱可塑性ポリイミド層は高熱膨張性のポリイミド層を構成する。ここで、低熱膨張性のポリイミド層は、熱膨張係数(CTE)が好ましくは1ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内、より好ましくは3ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。また、高熱膨張性のポリイミド層は、CTEが好ましくは35ppm/K以上、より好ましくは35ppm/K以上80ppm/K以下の範囲内、更に好ましくは35ppm/K以上70ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。ポリイミド層は、使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有するポリイミド層とすることができる。
【0042】
絶縁樹脂層全体の熱膨張係数(CTE)としては、10~30ppm/Kの範囲内であることが好ましい。このような範囲に制御することで、カール等の変形を抑制でき、また高い寸法安定性を担保できる。ここで、CTEは、絶縁樹脂層のMD方向及びTD方向の熱膨張係数の平均値である。
【0043】
ここで、非熱可塑性ポリイミドとは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明においては、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であるポリイミドをいう。また、熱可塑性ポリイミド(「TPI」ともいう。)とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本実施の形態では、DMAを用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa未満であるポリイミドをいう。
【0044】
絶縁樹脂層のうち、金属層に接するポリイミド層(P1)の厚みをT1、主たるポリイミド層の厚みをT2とした際に、T1の厚みは1μm以上4μm以下の範囲内が好ましく、T2の厚みは4μm以上30μm以下の範囲内が好ましい。別の観点から、T1の厚みは、絶縁樹脂層の厚みに対して20%以下とすることが好ましい。ここで、「主たる」とは、絶縁樹脂層を構成する複数のポリイミド層において最も大きな厚みを有することを意味し、好ましくは、絶縁樹脂層の厚みに対して60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上の厚みを有することをいう。主たるポリイミド層は、非熱可塑性ポリイミドで構成することが好ましい。
【0045】
ポリイミド層からなる絶縁樹脂層の場合、絶縁樹脂層は、熱分解試験において、1%重量減少温度が(Td1)は450℃以上であり、好ましくは470℃以上、さらに好ましくは490℃以上が好ましい。このような範囲に制御することで、FPCの主要構成成分などに適用しても十分な耐熱性を有する。
【0046】
また、ポリイミド層からなる絶縁樹脂層は、ハンダ耐熱試験による耐熱性(ハンダ耐熱性)が190℃以上であることが好ましく、より好ましくは200℃以上である。ハンダ耐熱性は実施例に記載の方法で評価される。
【0047】
また、ポリイミド層からなる絶縁樹脂層は、ガラス転移温度(Tg)は280℃以上の耐熱性を有することが好ましい。より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは380℃以上である。
【0048】
また、ポリイミド層からなる絶縁樹脂層は、面内リタデーションが1nm以上100nm以下であることが好ましい。より好ましくは、1nm以上15nm未満である。
【0049】
(ポリイミド層の組成)
本発明における絶縁樹脂層に用いられるポリイミドの層の組成については、特に制限されないが、以下の組成を有するようにすることが好ましい。
【0050】
ポリイミド層は、酸無水物残基及びジアミン残基を含むポリイミドからなり、少なくとも1層のポリイミド層(P1)を構成しているポリイミドが、酸無水物成分から誘導される全酸無水物残基に対し、一般式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される酸無水物残基を50モル%以上含有し、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上がよく、このような範囲にすることで耐熱性及び低リタデーションを発現しやすい。また、該ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対し、一般式(2)で表わされる芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有する。好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。
【0051】
一般式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物は、ポリイミドに柔軟性を付与するとともに、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、芳香族テトラカルボン酸残基と芳香族ジアミン残基との間の電荷移動(CT)を起こりにくくするため、得られるポリイミドを無色透明に近づけることができると考えられる。また、一般式(2)で表される芳香族ジアミン化合物は2つ以上のベンゼン環を有し、少なくとも2つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Zがあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与し、高靭性化を促すと考えられる。なお、本発明において、酸無水物残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。
【0052】
金属層に直接積層するポリイミド層(P1)を構成するポリイミドに含有する酸無水物残基は、一般式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される酸無水物残基であることが好ましい。
【0053】
【0054】
式(1)において、Xは単結合、-O-、又は-C(CF3)2-から選ばれる2価の基を示す。
【0055】
式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物としては、例えば4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)が挙げられる。これらの芳香族テトラカルボン酸無水物は、ポリイミドフィルムに強度と柔軟性を与えることが可能であり、耐熱性、透明性に優れ、CTEを適切な範囲に制御できることから好ましい。この中でも特に好ましくは、ODPA、6FDAがよい。
【0056】
ポリイミド層(P1)を構成するポリイミドに含有するジアミン残基は、一般式(2)で表される芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基であることが好ましい。
【0057】
【0058】
式(2)において、Zは独立に-O-、-S-、-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-CO-、-COO-、-SO2-、-NH-又は-NHCO-から選ばれる2価の基を示し、好ましくは-O-である。n2は0~4の整数を示し、好ましくは0又は1である。Rは置換基であり、独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示す。n1は独立に0~3の整数を示し、好ましくは0又は1である。ここで、「独立に」とは、上記式(2)において、複数の置換基R、2価の基Z、さらに整数n1が、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(2)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NR3R4(ここで、R3,R4は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。他のジアミン化合物についても同様である。
ただし、一般式(1)中、Xが単結合である場合、式(2)において、Zは独立に-O-、-S-、-CH2-、-CH(CH3)-又は-NH-から選ばれる2価の基を示す。
【0059】
式(2)で表される芳香族ジアミン化合物としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)が好ましい。
【0060】
ただし、本発明の目的を阻害しない限り、他の酸無水物残基を含有してもよい。他の酸無水物残基を含む場合は、全酸無水物残基の50モル%以下であり、好ましくは30モル%未満、より好ましくは10モル%未満である。
【0061】
他の酸無水物残基としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1, 2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物から誘導される酸無水物残基などが挙げられる。これらの中でも、ポリイミドフィルムに強度と柔軟性を与えることが可能であり、ポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)が上がりすぎず、適切な範囲に制御できることからピロメリット酸二無水物又は3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導される酸無水物残基が好ましい。
【0062】
同様に、本発明の目的を阻害しない限り、他のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有してもよい。他のジアミン残基を含む場合は、全ジアミン残基の50モル%以下であり、好ましくは30モル%未満、より好ましくは10モル%未満である。
【0063】
他のジアミン残基としては、例えば、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFMB)、ビス[4-(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,5,3',5'-テトラメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4"-ジアミノ-p-ターフェニル、3,3"-ジアミノ-p-ターフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、4-(1H,1H,11H-エイコサフルオロウンデカノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-ブタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-ヘプタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-オクタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-ペンタフルオロフェノキシ-1,3-ジアミノベンゼン、4-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(4-フルオロフェノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-ヘキサノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-ドデカノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、(2,5)-ジアミノベンゾトリフルオライド、ジアミノテトラ(トリフルオロメチル)ベンゼン、ジアミノ(ペンタフルオロエチル)ベンゼン、2,5-ジアミノ(パーフルオロヘキシル)ベンゼン、2,5-ジアミノ(パーフルオロブチル)ベンゼン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、オクタフルオロベンジジン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(アニリノ)オクタフルオロブタン、1,5-ビス(アニリノ)デカフルオロペンタン、1,7-ビス(アニリノ)テトラデカフルオロヘプタン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、1,4-ビス(p-アミノフェニル)ベンゼン、p-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(2-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)-3.5-ジトリフルオロメチルフェニル}ヘキサフルオロプロパン、4,4'-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノ-3-トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ビス(3-アミノ-5-トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2-ビス{4-(4-アミノ-3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、ビス{(トリフルオロメチル)アミノフェノキシ}ビフェニル、ビス〔{(トリフルオロメチル)アミノフェノキシ}フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、ビス{2-〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロイソプロピル}ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニルから誘導されるジアミン残基などが挙げられる。これらの中でも、透明性が高く、着色の程度が低いポリイミドを製造する観点から、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-bビス(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4‘-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、p-ビス(2-トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ]ベンゼンなどのジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0064】
上記酸無水物残基及びジアミン残基の種類や、2種以上の酸無水物残基又はジアミン残基のそれぞれのモル比を選定することにより、靭性、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度(Tg)等を制御することができる。
【0065】
本発明の樹脂フィルムは、とくに全光線透過率を所定の範囲とするために、前記主たるポリイミド層は、フッ素原子を含む芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基及び/又はフッ素原子を含む芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される酸無水物残基を含むことが好ましい。
【0066】
主たるポリイミドは、フッ素含有ジアミン残基を含有することが好ましい。フッ素含有ジアミン残基は、嵩高いフッ素原子を含有する基を有するため、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、芳香族テトラカルボン酸残基と芳香族ジアミン残基との間の電荷移動(CT)を起こりにくくするため、ポリイミドを無色透明に近づけることができると考えられる。
【0067】
フッ素含有ジアミン残基としては、例えば4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、3,4-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’-ビス(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、p-ビス(2-トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ]ベンゼン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基などが挙げられる。
【0068】
フッ素含有ジアミン残基の中でも、下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基(以下、「A1残基」と記すことがある)を含有することがより好ましい。
【0069】
【0070】
一般式(A1)中、置換基Xは独立にフッ素原子で置換されている炭素数1~3のアルキル素基を示し、m及びnは独立に1~4の整数を示す。
【0071】
A1残基は、芳香族ジアミン残基であり、2個のベンゼン環が単結合で接続されたビフェニル骨格を有しているので、秩序構造を形成しやすく、分子鎖の面内方向の配向が促進されるため、主たるポリイミド層のCTEの増加を抑制し、寸法安定性を高めることができる。このような観点から、主たるポリイミド層は、全ジアミン残基の合計100モル部に対して、A1残基を50モル部以上含有することが好ましく、50モル部以上100モル部以下の範囲内で含有することがより好ましい。
【0072】
A1残基の好ましい具体例としては、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、3,4-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0073】
主たるポリイミド層には、上記以外のジアミン残基として、一般にポリイミドの合成に使用されるジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含んでいてもよい。
【0074】
主たるポリイミド層は、フッ素含有酸無水物残基を含有することが好ましい。フッ素含有酸無水物残基は、嵩高いフッ素原子を含有する基を有するため、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、芳香族テトラカルボン酸残基と芳香族ジアミン残基との間の電荷移動(CT)を起こりにくくするため、ポリイミドを無色透明に近づけることができると考えられる。
【0075】
フッ素含有酸無水物残基としては、例えば2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)等の酸無水物成分から誘導される酸無水物残基を挙げることができる。
【0076】
また、主たるポリイミド層は、CTEを上記範囲内に制御するため、下記の式(B1)で表される、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導される4価の酸無水物残基(以下、「PMDA残基」と記すことがある)を含有することが好ましい。PMDA残基は、全酸無水物残基の合計100モル部に対して、50モル部以上含有することが好ましく、60モル部以上100モル部以下の範囲内で含有することがより好ましい。PMDA残基が50モル部未満では、ポリイミド層(A)のCTEが高くなって寸法安定性が低下する場合がある。
【化4】
【0077】
また、主たるポリイミド層は、上記以外の酸無水物残基として、一般にポリイミドの合成に使用される酸無水物成分から誘導される酸無水物残基を含んでいてもよい。そのような酸無水物残基としては、芳香族テトラカルボン酸残基が好ましい。また、脂環式テトラカルボン酸残基を含有してもよく、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物、シクロタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物などの脂環式テトラカルボン酸二無水物から誘導される酸無視物残基が好ましく挙げられる。
【0078】
前記第三のポリイミド層P3を用いる場合、当該P3については、特に制限はなく、ポリイミド層P1と同一組成ものを適用してもよい。ポリイミド層P1と異なる組成を適用する場合は、一般式(A3)で表される芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有することが好ましい。
【化5】
【0079】
上記式(A3)において、Zは独立に-O-、-S-、-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、又は-SO2-から選ばれる2価の基を示し、好ましくは-O-である。n2は0~4の整数を示し、好ましくは0又は1である。Rは置換基であり、独立に、ハロゲン原子であるか、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基若しくはアルコキシ基であるか、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示す。n1は独立に0~3の整数を示し、好ましくは0又は1である。
【0080】
上記式(A3)で表される芳香族ジアミン化合物は2つ以上のベンゼン環を有し、少なくとも2つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Zがあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与し、接着性と高靭性化を促すと考えられる。
【0081】
またポリイミド層P3にポリイミド層P1と異なる組成を適用する場合は、前記一般式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される酸無水物残基を、全酸無水物残基に対して50モル%以上含有し、該ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対し、前記一般式(A3)で表わされる芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有することがよい。
【0082】
上記式(A3)で表される芳香族ジアミン化合物としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)が好ましい。
【0083】
他のジアミン残基としては、例えば、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFMB)、ビス[4-(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,5,3',5'-テトラメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4"-ジアミノ-p-ターフェニル、3,3"-ジアミノ-p-ターフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、4-(1H,1H,11H-エイコサフルオロウンデカノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-ブタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-ヘプタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-オクタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-ペンタフルオロフェノキシ-1,3-ジアミノベンゼン、4-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(4-フルオロフェノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-ヘキサノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-ドデカノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、(2,5)-ジアミノベンゾトリフルオライド、ジアミノテトラ(トリフルオロメチル)ベンゼン、ジアミノ(ペンタフルオロエチル)ベンゼン、2,5-ジアミノ(パーフルオロヘキシル)ベンゼン、2,5-ジアミノ(パーフルオロブチル)ベンゼン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、オクタフルオロベンジジン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(アニリノ)オクタフルオロブタン、1,5-ビス(アニリノ)デカフルオロペンタン、1,7-ビス(アニリノ)テトラデカフルオロヘプタン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、1,4-ビス(p-アミノフェニル)ベンゼン、p-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(2-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)-3.5-ジトリフルオロメチルフェニル}ヘキサフルオロプロパン、4,4'-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノ-3-トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ビス(3-アミノ-5-トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2-ビス{4-(4-アミノ-3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、ビス{(トリフルオロメチル)アミノフェノキシ}ビフェニル、ビス〔{(トリフルオロメチル)アミノフェノキシ}フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、ビス{2-〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロイソプロピル}ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニルから誘導されるジアミン残基などが挙げられる。これらの中でも、透明性が高く、着色の程度が低いポリイミドを製造する観点から、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ビス(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4‘-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、p-ビス(2-トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ]ベンゼンなどのジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0084】
次に、複数のポリイミド層を構成するポリイミドの合成方法について説明する。
本実施の形態のポリイミドは、上記酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0℃以上100℃以下の範囲内の温度で30分乃至24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5重量%以上30重量%以下の範囲内、好ましくは10重量%以上20重量%以下の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、γ‐プチロラクト等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5重量%乃至30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0085】
ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0086】
また、本実施の形態のポリイミドは、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、酸無水物成分1モルに対して0.0001モル以上0.1モル以下の範囲内が好ましく、特に0.001モル以上0.05モル以下の範囲内が好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、アニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0087】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80℃以上400℃以下の範囲内の温度条件で1時間乃至24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0088】
ポリアミド酸の重量平均分子量は、例えば10,000以上400,000以下の範囲内が好ましく、50,000以上350,000以下の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0089】
<金属張積層板の製造方法>
本発明の金属張積層板は、前述のとおり、支持基材としての金属層に対して、キャスト法又は逐次塗工法で、とくに複数層のポリイミド層からなる絶縁樹脂層を形成することが、寸法安定性などの観点から好適であるが、特に限定されない。例えば、本発明のポリイミドを含んで構成される絶縁樹脂層(樹脂フィルム)を用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成することによって調製してもよい。
【0090】
また、本発明のポリイミドを含んで構成される絶縁樹脂層(樹脂フィルム)を用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0091】
それらの場合、樹脂フィルムと金属層の接着性を高めるために、樹脂フィルムの表面を例えばプラズマ処理などの改質処理を施してもよい。
【0092】
また、両面に金属層を有する金属張積層板を製造する場合は、例えば上記方法により得られた片面金属張積層板のポリイミド層上に、直接、あるいは必要に応じて絶縁樹脂層の透明性を阻害しない接着層を形成した後、金属層を加熱圧着等の手段で積層することにより得ることができる。金属層を加熱圧着の場合の熱プレス温度については、特に限定されるものではないが、使用される金属層に隣接するポリイミド層のガラス転移温度以上であることが望ましい。また、熱プレス圧力については、使用するプレス機器の種類にもよるが、1~500kg/m2の範囲であることが望ましい。
【0093】
<ピール強度>
本発明の金属張積層板における樹脂積層体と金属層との180°ピール強度は0.3kN/m以上であることが好ましく、0.5kN/mであることがより好ましい。
なお、本明細書において、物性・特性値の評価は実施例に記載した条件で測定したものであり、特に記載がないものは、室温(23℃)での測定値である。
【0094】
<用途>
本発明の金属張積層板は、従来からのFPCなどの回路基板材料や、電子部品を製造する過程で使用するマスクなどの部材として有用である。それに加えて、本発明の金属張積層板を回路加工して配線を形成することで得られる透明FPCは、前述のとおり、透明なアンテナとして用いてこれを窓ガラス表面に形成して窓を基地局化する「透明アンテナ」であったり、モバイル用途においてディスプレイにアンテナを埋め込む用途であったり、或いは、車のガラスに埋め込む透明ヒーターや透明ディスプレイや透明タッチパネル、とくに大型の電光板やLEDビジョンを含んだLED透明ディスプレイの基板として特に有用である。
【0095】
<回路基板>
本発明の金属張積層板は、主にFPCなどの回路基板として有用である。回路基板は、本発明の金属張積層板の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって製造することができる。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィー技術とエッチングなどを利用する任意の方法で行うことができる。なお、回路基板を製造する際に、通常行われる工程として、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
【実施例0096】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0097】
[光透過率、YI(黄色度)の算出]
樹脂フィルム(絶縁樹脂層とも呼ぶ。以下同様である。)(50mm×50mm)を、島津製作所社製のUV-3600分光光度計にて光透過率及び(YI)を測定した。
1)光透過率
JIS Z 8722に準拠して、波長が400nm、430nm及び450nmの光におけるそれぞれの光透過率(T400、T430及びT450)を算出した。
2)YI
JIS Z 8722に準拠して、下記式(1)で表される計算式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2879X-1.0592Z)/Y ・・・(1)
X、Y及びZ:試験片の三刺激値
厚みが25μmにおける樹脂フィルムのYI(T25)は、上記式(1)で算出されたYIの値を下記式(2)に代入して算出した。
YI(T25)=YI/T×25 ・・・(2)
T:樹脂フィルムの厚み(μm)
【0098】
[反射率、色相評価]
実施例および比較例の各片面金属張積層板、およびその製造に使用した各銅箔を、それぞれ、ガラス板(12.5cm角)上に、銅箔鏡面側がガラス板に接するように貼り付けた。日立ハイテクノロジーズ社製のUH-4100を用いて、この基板の樹脂面側または銅箔塗工面側に光を照射し、波長範囲:380~780nmでの反射率と色相(L*,a*、b*)を測定した。光源はC光源(2°視野)を用いた。680nmにおける反射率を反射率の結果として使用した。
【0099】
[面内リタデーション;Re]
実施例および比較例で得られたポリイミドフィルム(50mm×50mm)を、複屈折・位相差評価装置(フォトニックラティス社製、WPA-100)を用いて、試料に入射する光の入射角を変更するために試料を回転させる回転装置を付けて、波長543nmにて、ポリイミドフィルムのリタデーションの入射角依存性を測定した。測定値を前記リタデーションの入射角依存性の測定データを数値解析して、面方向のリタデーションReを求めた。
【0100】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
樹脂フィルム(3mm×15mm)を、熱機械分析(TMA)装置にて5.0gの荷重を加えながら10℃/minの昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、次いで、250℃から100℃までの降温し、降温時における樹脂フィルムの伸び量(線膨張)から熱膨張係数を測定した。
【0101】
[全光線透過率(T.T.)及びHAZE(濁度)の算出]
樹脂フィルム(50mm×50mm)を、日本電色工業社製のHAZE METER NDH500にて、全光線透過率(T.T.)及びHAZE(濁度)をJIS K 7136に準拠して測定した。
【0102】
[粘度の測定]
粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、合成例で得られたポリアミド酸溶液について25℃で測定した。
【0103】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
樹脂フィルム(10mm×22.6mm)を動的熱機械分析装置にて20℃から400℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(Tanδ極大値:℃)を求めた。
【0104】
[熱分解温度(Td1)の測定]
窒素雰囲気下で10~20mgの重さの樹脂フィルムを、SEIKO社製の熱重量分析(TG)装置TG/DTA6200にて一定の速度で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、200℃での重量をゼロとし、重量減少率が1%の時の温度を熱分解温度(Td1)とした。
【0105】
[ピール強度の測定]
テンションテスターを用い、積層体から得られた幅1mmの回路を有する試験サンプルの樹脂側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅を180°方向に50mm/minの速度で剥離して、ピール強度を求めた。
【0106】
[銅箔の表面粗度の測定]
サンプルを約10mm角の大きさにカットし、試料台に両面テープで固定させ、軟X線を照射し、銅箔表面の静電気を除去した後、表面粗さを測定した。走査型プローブ顕微鏡(AFM、ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:Dimension Icon型SPM)を用い、以下の測定条件にて銅箔表面の算術平均粗さRaと最大高さRzを測定した。測定条件は、下記のとおりである。
測定モード;タッピングモード
測定エリア;1μm×1μm
スキャンスピード;1Hz
プローブ;Olympus製 AC160製
解析ソフト;NanoScope Analysis
【0107】
[フィルムの表面粗度の測定]
銅箔と接触するフィルム面について測定する。フィルムサンプルを約10mm角の大きさにカットし、試料台に両面テープで固定させ、軟X線を照射し、表面の静電気を除去した後、表面粗さを測定した。走査型プローブ顕微鏡(AFM、ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:Dimension Icon型SPM)を用い、以下の測定条件にて表面の算術平均粗さRa及びRzを測定した。測定条件は、下記のとおりである。
測定モード;タッピングモード
測定エリア;1μm×1μm
スキャンスピード;1Hz
プローブ;Olympus製 AC160製
解析ソフト;NanoScope Analysis
【0108】
[ハンダ耐熱性の測定]
実施例および比較例で得られた各片面銅張積層板(実施例11、12除く)の金属層側に、市販のフォトレジストフィルムをラミネートし、所定のパターン形成用マスクで露光(365nm、露光量500J/m2程度)し、金属層側に直径20mm、15mm、10mm、5mm、3mm、1mm、及び0.5mmの円形となるパターンにレジスト層を硬化形成した。
次に、硬化レジスト箇所を現像(現像液は1%NaOH水溶液)し、塩化第二鉄水溶液を用いて所定のパターン形成に不要な金属層をエッチング除去し、さらに、硬化レジスト層をアルカリ液にて剥離除去することにより、鉛フリーはんだに対応した耐熱性を評価するためのパターンが形成されたサンプル(片面金属張積層板の金属層側に、直径1mmの円形パターンが形成された積層体)を得た。
サンプルを温度の異なる溶融ハンダ浴槽に10sec浸積して、銅箔層箇所における変形、膨れの有無を観察した。銅箔層箇所に変形や膨れ、剥がれが発生しない、ハンダ浴槽の最高温度をハンダ耐熱温度とした。
【0109】
実施例等に用いた略号は、以下の化合物を示す。
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
TFMB:2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル
BAPS:ビス[4-(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン
AAPBI:5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾール
PMDA:ピロメリット酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
m-TB:4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル
BAPP:2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
【0110】
合成例1
ポリアミド酸溶液Aを合成するため、窒素気流下で、200mlのセパラブルフラスコの中に、表1で示した固形分濃度となるように溶剤のDMAcを加え、表1に示したジアミン成分及び酸無水物成分を室温で攪拌しながら添加し溶解させた。その後、溶液を室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸の粘稠な溶液Aを調製した。粘度は3000cPであった。
【0111】
合成例2
ポリアミド酸溶液Bを合成するため、窒素気流下で、200mlのセパラブルフラスコの中に、表1で示した固形分濃度となるように溶剤のDMAcを加え、表1に示したジアミン成分及び酸無水物成分を攪拌しながら45℃、2時間加熱し溶解させた。その後、溶液を室温で2日間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸の粘稠な溶液Bを調製した。粘度は27000cPであった。
【0112】
合成例3、5~5
ポリアミド酸溶液C、E~Hは、モノマー種類を表1に示したように変更し、合成例1と同様な方法で重合を行った。ポリアミド酸の粘稠な溶液C、E~Hを調製した。粘度は表1に示した。
【0113】
合成例4
ポリアミド酸溶液Dは、モノマー種類を表1に示したように変更し、合成例2と同様な方法で重合を行った。ポリアミド酸の粘稠な溶液Dを調製した。粘度は表1に示した。
【0114】
【0115】
本発明で使用した金属層としての銅箔の種類を表2に示した。
【0116】
【0117】
実施例1
銅箔I(電解銅箔、三井金属鉱業社製、商品名;TQ-M4-VSP、厚み;12μm)の上に、ポリアミド酸溶液Aの溶液を硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃までの温度範囲で段階加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、その上にポリアミド酸溶液Bの溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように均一に塗布した後、120℃までの温度範囲で段階加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Cの溶液を硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃までの温度範囲で段階加熱乾燥し溶剤を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、125℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、ポリイミド層A/ポリイミド層B/ポリイミド層Cからなる厚みが29μmの絶縁樹脂層を形成し、金属張積層板1A(表中では、「金属積層体」と表記)を調製した。
得られた片面金属張積層板1Aを、塩化第二鉄水溶液を用いて、銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1aを調製した。ポリイミドフィルム1aについて、HAZE、T.T.、T400、T430、T450、YI(T25)、CTE、Td1、及びReを求めた。これらの測定結果を表3に示す。ここで、YI(T25)は、ポリイミドフィルムの厚みを25μmに換算した黄色度を示す。
得られた片面金属張積層板1Aについて、樹脂フィルム側から測定した反射率及び色相(L*、a*、b*)を求めた。また、ポリアミド酸塗布面のピール強度は、0.56kN/mであった。また、ハンダ耐熱性が360℃であった。
【0118】
実施例2~10
表3~表5に示す銅箔及びポリアミド酸溶液を使用した他は、実施例1と同様にして、片面金属張積層板2A~10Aを調製し、ポリイミドフィルム2a~10aを調製した。ポリイミドフィルム2a~10aについて、HAZE、T.T.、T400、T430、T450、YI、YI(T25)、CTE、Td1、及びReを求めた。また、片面金属張積層板2A~10Aについて、反射率、色相、ピール強度、ハンダ耐熱性を求めた。
【0119】
実施例11
銅箔I(電解銅箔、三井金属鉱業社製、商品名;TQ-M4-VSP-12、厚み;12μm)2枚を15cm×15cmにカットし、塗工面を向かい合わせた状態でその間にPFA樹脂フィルムとしてAGC社製EA-2000(厚み;25μm)を挟み込み、プレス機にて、320℃/5minで熱圧着し両面金属張積層板を調製した。調製した両面金属張積層板の片側の銅箔のみを、塩化第二鉄水溶液を用いて、エッチング除去し、片面金属張積層板11Aを得た。PFA樹脂はそのまま前記実施例と同様の項目(Re以外)を評価した。また、片面金属張積層板11Aついても前記実施例と同様にして評価を行った。表6に評価結果を示す。
【0120】
実施例12
片側の銅箔を銅箔IIIに変更した他は、実施例11と同様にして片面金属張積層板12Aを得るとともに評価を行った。表6に評価結果を示す。
【0121】
比較例1~5
表7に示す銅箔及びポリアミド酸溶液を使用した他は、実施例1と同様にして、片面金属張積層板13A~16Aを調製し、ポリイミドフィルム13a~16aを調製した。また、実施例11と同様にして片面金属張積層板17Aを得た。これらポリイミドフィルム13a~17a、片面金属張積層板13A~17Aについて、前記実施例と同様に評価した。これらの測定結果を表7に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】