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特開2023-97742異常組織検出方法、異常組織検出装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097742
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】異常組織検出方法、異常組織検出装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0507 20210101AFI20230703BHJP
【FI】
A61B5/0507 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213997
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】吉川 公麿
(72)【発明者】
【氏名】宋 航
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】共焦点画像に含まれる空隙、異物等の影響を抑制し、精度よく異常組織を検出することができる異常組織検出方法、異常組織検出装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】本発明に係る異常組織検出方法では、送信アンテナと受信アンテナとを有するアンテナ部を複数の方位で被験者の検査部位に当接させ、受信アンテナで受信された反射信号に基づいて、複数の共焦点画像データを生成する。また、複数の共焦点画像データで推定される異常組織の領域の重複状態に基づいて、異常組織の位置を推定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナと受信アンテナとを有するアンテナ部を複数の方位で被験者の検査部位に当接させ、前記受信アンテナで受信された反射信号に基づいて、複数の共焦点画像データを生成し、
前記複数の共焦点画像データで推定される異常組織の領域の重複状態に基づいて、異常組織の位置を推定する、
ことを特徴とする異常組織検出方法。
【請求項2】
前記重複状態は、前記複数の共焦点画像データの内積を演算することにより導出される、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常組織検出方法。
【請求項3】
前記重複状態は、前記複数の共焦点画像データを二値化して内積を演算することにより導出される、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常組織検出方法。
【請求項4】
前記複数の共焦点画像データの類似度を示す相関係数を演算し、
前記相関係数が最大となるように前記複数の共焦点画像データのうち少なくともいずれかを変位させ、前記複数の共焦点画像データの内積を演算することにより、前記重複状態を導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常組織検出方法。
【請求項5】
マイクロ波のインパルス信号を送信する送信アンテナ、前記インパルス信号を受信する受信アンテナ及び被験者に接触するアンテナカバーを有するアンテナ部と、
前記アンテナ部を回転させる駆動部と、
前記受信アンテナによって受信された前記インパルス信号の反射信号に基づいて、共焦点画像データを生成する共焦点画像生成部と、
前記共焦点画像生成部で生成された共焦点画像からノイズ成分を除去する画像処理部と、を備え、
前記画像処理部は、
前記アンテナ部を、前記被験者に対して複数の方位で接触させて取得した受信データに基づいて生成した複数の共焦点画像データで推定される異常組織の領域の重複状態に基づいて、異常組織の位置を推定する、
ことを特徴とする異常組織検出装置。
【請求項6】
コンピュータを、
送信アンテナと受信アンテナとを有するアンテナ部を複数の方位で被験者の検査部位に当接させ、前記受信アンテナで受信された受信信号に基づいて、複数の共焦点画像データを生成する共焦点画像生成部、
前記複数の共焦点画像データで推定される異常組織の領域の重複状態に基づいて、異常組織の位置を推定する画像処理部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常組織の検出方法等に関し、より詳細には、マイクロ波の反射を用いて異常組織を検出する異常組織検出方法、異常組織検出装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
位置関係が異なる送信アンテナと受信アンテナとの複数の組み合わせにおいて、マイクロ波を送受信し、異常組織で反射したマイクロ波の反射波によって体内の異常組織の位置を推定する異常組織の検出装置が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような、マイクロ波を用いる異常組織の検出装置は、X線等の放射線を用いる検査装置と比較して、人体に対する影響を小さくすることができる。また、操作が容易であり、装置を小型化することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-51303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の異常組織検出装置は、複数の送信アンテナ及び受信アンテナからなるアンテナアレイと、アンテナカバーとを備える。そして、アンテナカバーを被験者の検査部位に接触させ、アンテナアレイ、アンテナカバーを回転させながら、複数のアンテナ位置でマイクロ波の送受信を行うことにより、異常組織を検出することとしている。特許文献1の異常組織検出装置では、誘電率の差によって異常組織の表面で生じる反射波を検出して信号経路の長さを算出し、共焦点画像を生成して異常組織の位置を推定する。したがって、アンテナカバーと被験者の体表との間に空隙、異物等が存在する場合、空隙、異物等の表面でマイクロ波の反射が生じ、ノイズが検出されるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、共焦点画像に含まれる空隙、異物等の影響を抑制し、精度よく異常組織を検出することができる異常組織検出方法、異常組織検出装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る異常組織検出方法では、
送信アンテナと受信アンテナとを有するアンテナ部を複数の方位で被験者の検査部位に当接させ、前記受信アンテナで受信された反射信号に基づいて、複数の共焦点画像データを生成し、
前記複数の共焦点画像データで推定される異常組織の領域の重複状態に基づいて、異常組織の位置を推定する。
【0008】
また、前記重複状態は、前記複数の共焦点画像データの内積を演算することにより導出される、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記重複状態は、前記複数の共焦点画像データを二値化して内積を演算することにより導出される、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記複数の共焦点画像データの類似度を示す相関係数を演算し、
前記相関係数が最大となるように前記複数の共焦点画像データのうち少なくともいずれかを変位させ、前記複数の共焦点画像データの内積を演算することにより、前記重複状態を導出する、
こととしてもよい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る異常組織検出装置は、
マイクロ波のインパルス信号を送信する送信アンテナ、前記インパルス信号を受信する受信アンテナ及び被験者に接触するアンテナカバーを有するアンテナ部と、
前記アンテナ部を回転させる駆動部と、
前記受信アンテナによって受信された前記インパルス信号の反射信号に基づいて、共焦点画像データを生成する共焦点画像生成部と、
前記共焦点画像生成部で生成された共焦点画像からノイズ成分を除去する画像処理部と、を備え、
前記画像処理部は、
前記アンテナ部を、前記被験者に対して複数の方位で接触させて取得した受信データに基づいて生成した複数の共焦点画像データで推定される異常組織の領域の重複状態に基づいて、異常組織の位置を推定する。
【0012】
本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
送信アンテナと受信アンテナとを有するアンテナ部を複数の方位で被験者の検査部位に当接させ、前記受信アンテナで受信された受信信号に基づいて、複数の共焦点画像データを生成する共焦点画像生成部、
前記複数の共焦点画像データで推定される異常組織の領域の重複状態に基づいて、異常組織の位置を推定する画像処理部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の異常組織検出方法、異常組織検出装置及びプログラムによれば、被験者に対して異なる方位でアンテナ部を接触させて生成した複数の共焦点画像データの内積に基づいて共焦点画像を生成するので、検出装置と被験者との間の空隙、異物等の影響を抑制し、精度よく異常組織を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は、実施の形態1に係る異常組織検出装置の外観を示す斜視図であり、(B)は、実施の形態1に係る異常組織検出装置の構成を示す分解斜視図である。
図2】(A)は、アンテナアレイの構成を示す側面図であり、(B)は、アンテナアレイの構成を示す平面図である。
図3】異常組織検出装置の構成を示すブロック図である。
図4】送信部から出力されるインパルス信号の一例を示すグラフである。
図5】(A)は、異常組織検出時の送受信アンテナ及び乳房を示す模式図であり、(B)は、異常組織の検出原理を示す模式図である。
図6】実施の形態1に係る異常組織検出処理のフローチャートである。
図7】異常組織検出装置を被験者に接触させた状態を示す図であり、(A)は第1の方位で接触させた場合の図、(B)は第2の方位で接触させた場合の図である。
図8】実施の形態1に係る共焦点画像データのx-y断面図であり、(A)は第1の共焦点画像データ、(B)は第2の共焦点画像データ、(C)は(B)を-90°回転させた図、(D)は(A)と(C)との内積による共焦点画像データである。
図9】実施の形態1に係る共焦点画像データのy-z断面図であり、(A)は第1の共焦点画像データ、(B)は第2の共焦点画像データ、(C)は(B)を-90°回転させた図、(D)は(A)と(C)との内積による共焦点画像データである。
図10】実施の形態2に係る異常組織検出処理のフローチャートである。
図11】実施の形態2に係る共焦点画像データの図であり、(A)は第1の共焦点画像データ、(B)は第2の共焦点画像データを-90°回転させた図、(C)は(A)を二値化した図、(D)は(B)を二値化した図、(E)は(C)と(D)との内積による共焦点画像データである。
図12】実施の形態3に係る異常組織検出処理のフローチャートである。
図13】実施の形態3に係る共焦点画像データの図であり、(A)は第1の共焦点画像データを変位させた図、(B)は第2の共焦点画像データを-90°回転させた図、(C)は(A)と(B)との内積による共焦点画像データである。
図14】実施の形態3の変型例に係る共焦点画像データの図であり、(A)は第1の共焦点画像データを変位させた図、(B)は第2の共焦点画像データを-90°回転させた図、(C)は(A)を二値化した図、(D)は(B)を二値化した図、(E)は(C)と(D)との内積による共焦点画像データである。
図15】ターゲットが存在する場合の数値例に係る共焦点画像データの図であり、(A)は第1の共焦点画像データ、(B)は第2の共焦点画像データ、(C)は実施の形態1に係る(A)と(B)との内積による共焦点画像データ、(D)は実施の形態3に係る(A)と(B)との内積による共焦点画像データである。
図16】ターゲットが存在しない場合の数値例に係る共焦点画像データの図であり、(A)は第1の共焦点画像データ、(B)は第2の共焦点画像データ、(C)は実施の形態1に係る(A)と(B)との内積による共焦点画像データ、(D)は実施の形態3に係る(A)と(B)との内積による共焦点画像データである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る異常組織検出方法及び異常組織検出装置について、乳癌を検出する異常組織検出装置を例に、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1(A)、(B)に示すように、本実施の形態に係る異常組織検出装置1は、筐体57及びアンテナ部3等を含む回転部9と、固定基台31と、駆動部33と、ハンドル51と、を備える。
【0017】
固定基台31には、回転部9を回転させるための駆動部33が固定されている。駆動部33は、例えばステッピングモータである。駆動部33の回転部は、蓋52に固定されている。これにより、異常組織検出装置1は、蓋52、筐体57、アンテナ部3等を含む回転部9を回転可能に支持する。また、固定基台31の上部には、ハンドル51が取り付けられている。検査を行う者は、ハンドル51を保持し、回転部9を被検者の検査部位である乳房に当接させて検査を行う。
【0018】
回転部9は、蓋52、制御基板55、高周波基板56、筐体57、アンテナ部3を備える。
【0019】
アンテナ部3は、アンテナベース37、アンテナ取付部39、アンテナアレイ38、アンテナカバー41を備える。アンテナベース37は、アンテナ取付部39を筐体57に固定させるための取付け部材である。
【0020】
アンテナ取付部39には、マイクロ波の無線信号を送受信するアンテナからなるアンテナアレイ38が取り付けられる。アンテナ取付部39は、アンテナベース37に固定されている。アンテナ取付部39は、例えば樹脂製であり、中心部分はドーム型に形成されている。
【0021】
アンテナアレイ38は、送信アンテナSA1~SA8及び受信アンテナRA1~RA8で構成される。アンテナアレイ38を構成する各アンテナは、アンテナ取付部39の下面、すなわち後述するアンテナカバー41のドーム型部分と対向する面に取り付けられている。また、各アンテナと後述のスイッチ部2とを接続する配線等はアンテナ取付部39の上面側(筐体57の内部側)に配置されている。図2(A)、(B)に示すように、送信アンテナSA1~SA8、受信アンテナRA1~RA8は、アンテナ取付部39の中心部から、半径方向に直線状に配置され、4つのアンテナ列A1~A4からなるアンテナアレイ38を構成している。
【0022】
アンテナカバー41は、アンテナ取付部39の外面を覆うように配置され、被検者の体に接する。アンテナカバー41は、スリーブ42を介して筐体57にねじ止め固定されている。アンテナカバー41の中心部分は、アンテナ取付部39と同心のドーム型に形成されており、検査部位である乳房に密着させ易い形状となっている。また、被検者の乳房の大きさに適したものを選択できるように、予め大きさの異なる複数のアンテナ取付部39及びアンテナカバー41を準備することとしてもよい。
【0023】
アンテナ取付部39とアンテナカバー41との間には、ワセリン、無水グリセリン等、被検者の体の誘電率及びアンテナカバー41の誘電率に近い誘電率の誘電体が充填されている。これにより、アンテナ取付部39とアンテナカバー41との間における不要輻射の発生を抑制することができるので、異常組織の検出精度を向上させることが可能となる。
【0024】
異常組織検出装置1には、基準となる回転部9の方向を示す方位マーカーMが設けられており、被験者に異常組織検出装置1を設置した状態で、被験者に対して異常組織検出装置1、より詳細にはアンテナ部3を含む回転部9をどの方向で配置しているか視認可能となっている。
【0025】
方位マーカーMの形態は特に限定されず、切り欠き、突起、印字等、アンテナ部3の回転角度を、被験者に接触された検査状態において外部から視認可能なものであればよい。方位マーカーMは、例えば、アンテナカバー41の外周面に印字されたマーカーである。
【0026】
制御基板55は、図3のブロック図に示す制御部14、記憶部15、駆動制御部34の各機能を実現するハードウエア回路が実装されたプリント配線板であり、筐体57内に固定されている。
【0027】
駆動制御部34は、駆動部33であるステッピングモータの回転を制御するモータドライバである。図3に示すように、駆動制御部34は、制御部14からの制御信号に従って、駆動部33を回転動作させることにより、アンテナアレイ38を含むアンテナ部3を回転させる。
【0028】
制御部14は、異常組織検出装置1全体の制御、画像処理等を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ、外部記憶装置、入出力I/O、水晶発振器等を備えるコンピュータ装置である。制御部14は、制御部14のROM、記憶部15等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、制御部14の各機能を実現させる。これにより、制御部14は、異常組織の推定位置を示す共焦点画像を生成する共焦点画像生成部141(不図示)、生成された共焦点画像のノイズ成分を除去する画像処理部142(不図示)等として動作する。
【0029】
記憶部15は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリである。図3に示すように、制御部14は、受信部12から受信した受信信号RSを記憶部15へ送信し、記憶させる。また、制御部14の共焦点画像生成部141は、記憶部15に記憶された受信信号RSを読み出して、共焦点画像の生成等を行う。
【0030】
図3に示すように、制御部14は、プログラムの実行により、送信信号TSを出力させるタイミングを示すタイミング信号を送信部11に出力するとともに、CMOSスイッチ17の制御信号CS1を出力する。制御部14は、CMOSスイッチ19の制御信号CS2を出力するとともに、受信部12から受信信号RSの波形データを入力する。
【0031】
高周波基板56は、図3のブロック図に示す送信部11、受信部12、スイッチ部2の各機能を実現するハードウエア回路が実装されたプリント配線板であり、筐体57内に固定されている。
【0032】
送信部11は、制御部14から入力されたタイミング信号に従って、例えば、図4に示すインパルス状の電気信号である送信信号TSを出力するハードウエア回路である。図4に示すように、この電気信号のレベルは、短時間で正の値から負の値に変動するインパルス信号である。
【0033】
スイッチ部2は、送信アンテナSA1~SA8のうちマイクロ波のインパルス信号を送信する送信アンテナを選択するCMOSスイッチ17と、受信アンテナRA1~RA8のうち異常組織によって反射された散乱信号を受信する受信アンテナを選択するCMOSスイッチ19とを備える。
【0034】
CMOSスイッチ17は、入力端から送信信号TSを入力する。CMOSスイッチ17は、制御信号CS1に従って、入力した送信信号TSを出力するアンテナを、複数の送信アンテナSA1、SA2、…、SA8のいずれかに切り替える。
【0035】
受信部12は、CMOSスイッチ19から入力した受信信号RSを制御部14に出力するハードウエア回路である。制御部14の共焦点画像生成部141は、入力した受信信号RSに基づいて、異常組織の推定位置を示す共焦点画像を生成する。
【0036】
図3の例に示すように、制御信号CS1により、送信アンテナSA2が選択された場合、CMOSスイッチ17は、送信信号TSを送信アンテナSA2に出力するように切り変わる。制御信号CS2により、受信アンテナRA2が選択された場合には、CMOSスイッチ19は、受信アンテナRA2で受信された受信信号RSを受信部12に出力するように切り変わる。この場合、送信アンテナSA2、受信アンテナRA2の組み合わせでマイクロ波のインパルス信号MWの送信及び反射信号RWの受信が行われる。
【0037】
制御部14は、制御信号CS1、CS2によりCMOSスイッチ17、19を制御して、送信アンテナSA1~SA8及び受信アンテナRA1~RA8の組み合わせを切り替えながら、送信信号TSをCMOSスイッチ17に出力させる。また、制御部14は、受信アンテナRA1~RA8から出力された受信信号RSを、CMOSスイッチ19を介して入力する。制御部14の共焦点画像生成部141は、入力した受信信号RSに基づいて共焦点画像を生成する。制御部14の画像処理部142は、生成された共焦点画像からノイズを除去する。
【0038】
次に、異常組織検出装置1における、マイクロ波を使った異常組織検出の基本動作について説明する。本実施の形態に係る異常組織検出装置1は、インパルス状のマイクロ波の無線信号の送受信を行い、その送受信結果に基づいて、異常組織、すなわち乳癌を検出する。
【0039】
図5(A)、(B)に示すように、異常組織検出装置1は、回転部9、すなわち送信アンテナSA1及び受信アンテナRA1を含むアンテナ部3の回転角度θを初期角度θ(angle1)として、送信アンテナSA1からマイクロ波のインパルス信号MWを放射する。放射されたマイクロ波の一部は、生体内に伝播する。一般に、癌組織等の異常組織CAは、通常の生体組織に比して、5~10倍程度の高い誘電率を有することが知られている。したがって、異常組織CAが存在する場合には、誘電率の異なる領域の界面、即ち、異常組織CAの表面で、マイクロ波が反射され、受信アンテナRA1で受信される。
【0040】
ここで、マイクロ波のインパルス信号MWを放射してから受信アンテナRA1が反射波を受信するまでの時間をT[s]とすると、T・c(c:生体中の光の速度)が、マイクロ波のインパルス信号MWの行程距離となる。
【0041】
従って、異常組織CAは、回転角度θにおける、送信アンテナSA1と受信アンテナRA1を焦点とし、送信アンテナSA1と受信アンテナRA1からの距離の和がT・cとなる楕円E上に位置することになる。
【0042】
続いて、駆動制御部34は、送信アンテナSA1、受信アンテナRA1を含む回転部9を回転させ、回転角度θをθ(angle2)とする。そして、異常組織検出装置1は、送信アンテナSA1からマイクロ波のインパルス信号MWを放射し、受信アンテナRA1で受信する。マイクロ波のインパルス信号MWを放射してから受信アンテナRA1が反射波を受信するまでの時間をT[s]とすると、T・cがマイクロ波のインパルス信号MWの行程距離となる。
【0043】
従って、異常組織CAは、回転角度θにおける、送信アンテナSA1と受信アンテナRA1を焦点とし、送信アンテナSA1と受信アンテナRA1からの距離の和がT・cとなる楕円E上に位置することになる。
【0044】
送信アンテナSA1、受信アンテナRA1を順次回転させながら、同様の処理を行い、複数の楕円E~E(Nは自然数、E以下については不図示)の交点を求めることにより、異常組織CAの位置を求めることができる。
【0045】
さらに、インパルス信号MWを送信するアンテナを送信アンテナSA2に切り換えて、送信アンテナSA2からマイクロ波を放射し、これを受信アンテナRA2で受信して、同様の処理を行う。以後、送信アンテナを順次切り換えながら、マイクロ波を放射し、受信アンテナで反射波を受信し、同様の処理を行うことにより、異常組織CAの位置をより正確に特定することが可能となる。
【0046】
なお、上述の例の図5(B)では理解を容易にするため2次元で説明したが、実際は3次元で上述の処理を行うことになる。
【0047】
続いて、本実施の形態に係る異常組織検出装置1における異常組織検出処理について、図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0048】
制御部14は、アンテナ部3を含む回転部9の回転角度θを初期回転角(θ=0°)に設定する(ステップS11)。
【0049】
異常組織検出装置1の操作者である医師、被験者本人等は、異常組織検出装置1を被験者の検査部位に接触させる(ステップS12)。より具体的には、異常組織検出装置1のアンテナカバー41が、被験者の乳房を覆うように異常組織検出装置1を当接させる。この時、図7(A)に示すように、異常組織検出装置1の基準方向が、被験者に対して0°の方位(第1の方位)となるように、すなわち方位マーカーMが被験者の頭部の方向を向くように、異常組織検出装置1は設置される。本実施の形態では、第1の方位を0°の方位としたが特に限定されず、被験者の体に対する異常組織検出の出力結果の方向が確認可能な方位であればよい。
【0050】
また、異常組織検出装置1を設置する前に、検査部位にワセリンを塗布することとしてもよい。これにより、マイクロ波の経路における誘電率の変化を小さくするとともに、アンテナカバー41と被験者の体との密着性を高め、ノイズの発生を抑制することができる。
【0051】
続いて、異常組織検出装置1は、マイクロ波の送受信データを取得する(ステップS13)。具体的には、送信アンテナSA1から送信信号TSを送信させ、受信アンテナRA1に受信信号RSを受信させる。制御部14は、受信アンテナRA1で受信された受信信号RSを入力信号IS_1として記憶部15に記憶させる。
【0052】
制御部14は、駆動部33を動作させることにより、回転部9を予め設定された角度回転させる。本実施の形態では、予め設定された角度を6°とし、回転部9は、60回の回転動作で1回転する。回転部9の回転が完了した後、制御部14は、送信アンテナSA1から送信信号TSを送信させ、受信アンテナRA1に受信信号RSを受信させる。制御部14は、受信信号RSを入力信号IS_2として記憶部15に記憶させる。
【0053】
制御部14は、さらに回転部9を回転させて、送信アンテナSA1と受信アンテナRA1との間で信号を送受信させる。制御部14は、回転角度θが360°に達するまで、上述の回転動作と信号の送受信を繰り返し、60個の入力信号IS_n(n=1~60)を記憶部15に記憶させる。
【0054】
回転角度θが360°に達し、入力信号IS_nの受信が完了すると、異常組織検出装置1は、送信アンテナSA及び受信アンテナRAを順次切り替えて、上記と同様に送受信データを取得する。そして、異常組織検出装置1は、第1の方位での測定を終了し、第1の共焦点画像データを生成する(ステップS14)。
【0055】
具体的には、共焦点画像生成部141は、記憶部15から各送受信アンテナに係る入力信号IS_nを読み込む。共焦点画像生成部141は、入力信号IS_nから、信号経路の長さを算出し、それぞれの信号に対応する送信アンテナSAと受信アンテナRAの位置と算出された信号経路の長さとに基づいて、信号の反射位置を演算する。これにより、共焦点画像生成部141は、異常組織の位置を推定し、第1の共焦点画像データである共焦点画像データIを生成する。共焦点画像データIは、検査部位の3次元座標に対応する輝度データとして、異常組織が存在すると推定される座標の輝度が大きな値を持つように設定される。
【0056】
続いて、制御部14は、アンテナ部3を含む回転部9の回転角度θを初期回転角(θ=0°)に設定する。
【0057】
操作者は、異常組織検出装置1を被験者の体から離し、再度、異常組織検出装置1のアンテナカバー41が、被験者の乳房を覆うように異常組織検出装置1を設置する。この時、異常組織検出装置1の基準方向が、第1の方位と異なる第2の方位となるように異常組織検出装置1を被験者の検査部位に接触させる(ステップS15)。第2の方位は特に限定されず、被験者に対して第1の方位と異なる方位であればよい。例えば、図7(A)に示すように、方位マーカーMが被験者の頭部を向く方向を第1の方位とした場合、図7(B)に示すように、第1の方位から90°回転させた方向、すなわち方位マーカーMが被験者の側方を向く方向を第2の方位とすればよい。
【0058】
異常組織検出装置1を被験者の体から離し、第1の方位と異なる第2の方位で再度接触させることにより、アンテナカバー41と被験者の体との間に生じる空隙、異物の位置、大きさ等が異なることとなる。また、異常組織検出装置1を第2の方位で被験者の検査部位に設置する前に、検査部位を清拭したり、ワセリンを塗布しなおしたりすることとしてもよい。これにより、アンテナカバー41と被験者の体との密着性を高め、空隙、異物等が入り込みにくくすることができる。
【0059】
続いて、第1の方位における測定と同様に、異常組織検出装置1は、マイクロ波の送受信データを取得する(ステップS16)。具体的には、送信アンテナSA1から送信信号TSを送信させ、受信アンテナRA1に受信信号RSを受信させる。制御部14は、受信アンテナRA1で受信された受信信号RSを入力信号IS_1として記憶部15に記憶させる。
【0060】
制御部14は、駆動部33を動作させることにより、回転部9を予め設定された角度回転させる。回転部9の回転が完了した後、制御部14は、送信アンテナSA1から送信信号TSを送信させ、受信アンテナRA1に受信信号RSを受信させる。制御部14は、受信信号RSを入力信号IS_2として記憶部15に記憶させる。
【0061】
制御部14は、さらに回転部9を回転させて、送信アンテナSA1と受信アンテナRA1との間で信号を送受信させる。制御部14は、回転角度θが360°に達するまで、上述の回転動作と信号の送受信を繰り返し、60個の入力信号IS_n(n=1~60)を記憶部15に記憶させる。
【0062】
回転角度θが360°に達し、入力信号IS_nの受信が完了すると、異常組織検出装置1は、送信アンテナSA及び受信アンテナRAを順次切り替えて、上記と同様に送受信データを取得する。そして、異常組織検出装置1は、第2の方位での測定を終了し、第2の共焦点画像データを生成する(ステップS17)。
【0063】
具体的には、共焦点画像生成部141は、記憶部15から各送受信アンテナに係る入力信号IS_nを読み込む。共焦点画像生成部141は、入力信号IS_nから、信号経路の長さを算出し、それぞれの信号に対応する送信アンテナSAと受信アンテナRAの位置と算出された信号経路の長さとに基づいて、信号の反射位置を演算する。これにより、共焦点画像生成部141は、異常組織の位置を推定し、第2の共焦点画像データである共焦点画像データI90を生成する。共焦点画像データI90は、共焦点画像データIと同様に、検査部位の3次元座標に対応する輝度データとして、異常組織が存在すると推定される座標が大きな値を持つように設定される。
【0064】
続いて、画像処理部142は、第1の共焦点画像データである共焦点画像データI及び第2の共焦点画像データである共焦点画像データI90を用いて、ノイズ除去処理を行い、異常組織の位置を推定するための共焦点画像データIDC1を生成する。具体的には、共焦点画像データI及び共焦点画像データI90の内積を演算することにより、これらの共焦点画像データに共通して異常組織が存在すると推定される座標、すなわちいずれの画像データでも輝度の大きい座標を強調する。また、いずれかの画像データにのみ異常組織が存在すると推定される座標、すなわちいずれかの画像データでのみ輝度が大きく、ノイズであると考えられる座標は抑制される。
【0065】
以下、本実施の形態に係るノイズ除去処理について詳細に説明する。共焦点画像データI及び共焦点画像データI90を、それぞれ、以下のように表すこととする。
【数1】
【0066】
共焦点画像データIと共焦点画像データI90との座標を合わせるために、共焦点画像データI90の座標を-90°回転させた共焦点画像データI 90を生成する(ステップS18)。共焦点画像データI 90は、以下の式のように表される。
【数2】
【0067】
画像処理部142は、以下の式に示すように、共焦点画像データIと共焦点画像データI 90との内積を演算することにより、共焦点画像データIDC1を生成する(ステップS19)。すなわち、共焦点画像データIDC1は、共焦点画像データIと共焦点画像データI 90との対応する画素の輝度値の積の集合として表される。
【数3】
【0068】
異常組織が存在すると推定される座標には、共焦点画像データIと共焦点画像データI 90とで相関があるので、上記の内積を演算することによって強調される。また、空隙、異物等によるランダム異常散乱信号にかかる座標は、相互に相関がないので抑制される。これにより、マイクロ波の送受信を行うアンテナ部3と人体との間に存在する空隙、異物等のノイズの影響を抑制し、精度よく異常組織を検出することが可能となる。
【0069】
図8は本実施の形態に係る共焦点画像の平面図(x-y断面図)の例であり、図9は本実施の形態に係る共焦点画像の断面図(y-z断面図)の例である。図8(A)、図9(A)は第1の共焦点画像データに係る共焦点画像データI図8(B)、図9(B)は第2の共焦点画像データに係る共焦点画像データI90図8(C)、図9(C)は図8(B)、図9(B)を-90°回転させた共焦点画像データI 90である。また、図8(D)、図9(D)は共焦点画像データIと共焦点画像データI90との内積による共焦点画像データIDC1である。図8及び図9に示すように、本実施の形態に係る内積を用いたノイズ除去処理によって、第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データに含まれる異常組織と推定される領域は強調され、第1の共焦点画像データ、第2の共焦点画像データのいずれかにのみ含まれるノイズと推定される部分は抑制されていることがわかる。
【0070】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態に係る異常組織検出方法及び異常組織検出装置によれば、被験者の体に対して異なる方位で取得された第1の共焦点画像データと第2の共焦点画像データとの内積により、異常組織と推定される領域の重複状態を導出し、異常組織の位置を推定する。したがって、異常組織検出装置1を異なる方位で被験者の検査部位に設置することで状態が変化する空隙、異物等のノイズの影響を低減することができるとともに、精度よく異常組織の位置を推定することができる。
【0071】
本実施の形態では、2つの共焦点画像データを用いることとしたが、これに限られず、3つ以上の共焦点画像データを用いることもできる。この場合、各共焦点画像データは、それぞれ異なる方位で取得された送受信データに基づいて生成されたものであることが好ましい。異なる方位で送受信データを取得することにより、空隙、異物等の状態が異なる共焦点画像データを生成することができる。したがって、各共焦点画像データに基づいて順次内積を算出することで、各共焦点画像データに含まれるノイズを除去するとともに、異常組織が存在すると推定される座標をより強調することができるので、より精度よく異常組織の位置を推定することができる。
【0072】
また、本実施の形態では、第1の方位で取得した送受信データに基づいて第1の共焦点画像データを生成した後に、第2の方位で送受信データを取得することとしたが、これに限られない。例えば、第2の方位における送受信データの取得中に、第1の共焦点画像データを生成することとしてもよい。これにより、測定時間を短縮できるので、被験者の負担を軽減することができる。また、共焦点画像データIDC1の出力までに要する時間を短縮することができるので、効率的に異常組織検出を行うことが可能となる。
【0073】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、受信信号RSに基づいて生成された第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データの内積を演算することとしたが、内積を演算する前に第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データを加工することにより、異常組織推定の精度を向上させることとしてもよい。本実施の形態では、第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データを二値化して用いる方法について説明する。
【0074】
本実施の形態では、共焦点画像データを処理する方法が実施の形態1と異なり、異常組織検出装置1の構成等は実施の形態1と同様であるので、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0075】
以下、本実施の形態に係るノイズ除去について、図10のフローチャートを参照しつつ説明する。実施の形態1と同様に、第1の方位で異常組織検出装置1を被験者の検査部位に設置し(ステップS21)、アンテナ部3を回転させつつ、マイクロ波の送受信データを取得する(ステップS22)。そして、共焦点画像生成部141は、取得された送受信データから、第1の共焦点画像データである共焦点画像データIを生成する(ステップS23)。
【0076】
続いて、異常組織検出装置1を被験者から離した後、第2の方位で異常組織検出装置1を被験者の検査部位に設置し(ステップS24)、アンテナ部3を回転させつつ、マイクロ波の送受信データを取得する(ステップS25)。そして、共焦点画像生成部141は、取得された送受信データから、第2の共焦点画像データである共焦点画像データI90を生成する(ステップS26)。
【0077】
画像処理部142は、生成された共焦点画像データI及び共焦点画像データI90を用いて、ノイズ除去処理を行う。具体的には、まず、共焦点画像データI及び共焦点画像データI90を予め設定された所定の閾値δを用いて二値化する(ステップS27)。共焦点画像データIを二値化した共焦点画像データB(I)は、以下の式のように表される。
【数4】
【0078】
共焦点画像データIと共焦点画像データI90とは方位が異なるので、画像処理部142は、共焦点画像データI90を-90°回転させて両共焦点画像データの方位を合わせて、二値化する。具体的には、共焦点画像データI90を-90°回転させた共焦点画像データI 90={I90(y,-x,z)}を生成し、以下の式のように、所定の閾値δで二値化された共焦点画像データB(I 90)を生成する。
【数5】
【0079】
画像処理部142は、以下の式に示すように、第1の共焦点画像データに基づく共焦点画像データB(I)と第2の共焦点画像データに基づく共焦点画像データB(I 90)との内積を演算することにより、共焦点画像データIDC2を生成する(ステップS28)。
【数6】
【0080】
異常組織が存在すると推定される座標には、共焦点画像データB(I)と共焦点画像データB(I 90)とで相関があるので、上記の内積を演算することによって強調される。また、空隙、異物等によるランダム異常散乱信号にかかる座標は、相互に相関がないので抑制される。これにより、マイクロ波の送受信を行うアンテナ部3と人体との間に存在する空隙、異物等のノイズの影響を抑制し、精度よく異常組織を検出することが可能となる。
【0081】
図11は本実施の形態に係る共焦点画像の例である。図11(A)は共焦点画像データI図11(B)は共焦点画像データI90を-90°回転させた共焦点画像データI 90であり、図11(C)、(D)は、それぞれ図11(A)、(B)を二値化した共焦点画像データB(I)、B(I 90)である。また、図11(E)は図11(C)と図11(D)との内積による共焦点画像データIDC2である。本例では、異常組織が存在せず、第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データに含まれる空隙によるノイズが除去されていることがわかる。
【0082】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態に係る異常組織検出方法によれば、被験者の体に対して異なる方位で取得された第1の共焦点画像データと第2の共焦点画像データとを二値化して内積することにより、異常組織の領域の重複状態を導出し、異常組織の位置を推定する。したがって、ノイズを効果的に除去することができるとともに、明確に異常組織の位置を推定することができる。
【0083】
本実施の形態では、第1の共焦点画像データと第2の共焦点画像データとを二値化することとしたが、これに限られず、いずれか一方の共焦点画像データを二値化して用いることとしてもよい。これにより、二値化処理による演算負荷を低減しつつ、ノイズ除去の効果を高めることができる。
【0084】
本実施の形態では、2つの共焦点画像データを用いることとしたが、これに限られず、3つ以上の共焦点画像データを二値化して異常組織の領域の重複状態を導出することもできる。この場合、各共焦点画像データは、それぞれ異なる方位で取得された送受信データに基づいて生成されたものであることが好ましい。異なる方位で送受信データを取得することにより、空隙、異物等の状態が異なる共焦点画像データを生成することができる。したがって、各共焦点画像データに基づいて順次内積を算出することで、各共焦点画像データに含まれるノイズを除去するとともに、異常組織が存在すると推定される座標をより強調することができるので、より精度よく異常組織の位置を推定することができる。
【0085】
(実施の形態3)
上記実施の形態1では、受信信号RSに基づいて生成された第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データの内積を演算することにより、異常組織推定の精度を向上させることとした。しかしながら、第1の共焦点画像データと第2の共焦点画像データとでは、異常組織検出装置1の設置位置が異なることにより、座標のずれが生じる場合がある。本実施の形態では、第1の共焦点画像データと第2の共焦点画像データとの相対座標を修正し、異常組織の検出精度を向上させる方法について説明する。
【0086】
本実施の形態では、共焦点画像データを処理する方法が実施の形態1と異なり、異常組織検出装置1の構成等は実施の形態1と同様であるので、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0087】
以下、本実施の形態に係る異常組織検出処理について、図12のフローチャートを参照しつつ説明する。実施の形態1と同様に、第1の方位で異常組織検出装置1を被験者の検査部位に設置し(ステップS31)、アンテナ部3を回転させつつ、マイクロ波の送受信データを取得する(ステップS32)。そして、共焦点画像生成部141は、取得された送受信データから、第1の共焦点画像データである共焦点画像データIを生成する(ステップS33)。
【0088】
続いて、異常組織検出装置1を被験者から離した後、第2の方位で異常組織検出装置1を被験者の検査部位に設置し(ステップS34)、アンテナ部3を回転させつつ、マイクロ波の送受信データを取得する(ステップS35)。そして、共焦点画像生成部141は、取得された送受信データから、第2の共焦点画像データである共焦点画像データI90を生成する(ステップS36)。
【0089】
続いて、画像処理部142は、共焦点画像データI及び共焦点画像データI90を用いて、ノイズ除去処理を行う。具体的には、まず、画像処理部142は、共焦点画像データIと共焦点画像データI90との類似度を示す相関係数を演算する(ステップS37)。相関係数rは、以下の式に示すとおりである。
【数7】
【0090】
画像処理部142は、i,j,kを変化させながら相関係数r(i,j,k)を演算する。そして、画像処理部142は、相関係数r(i,j,k)が最大となる位置座標(imax,jmax,kmax)を選択する。画像処理部142は、(imax,jmax,kmax)を用いて第1の共焦点画像データを以下の式のように変位させる(ステップS38)。
【数8】
【0091】
また、画像処理部142は、実施の形態1と同様に、第2の共焦点画像データである共焦点画像データI90を-90°回転させ、共焦点画像データI 90を生成する。そして、画像処理部142は、以下の式に示すように、第1の共焦点画像データに基づく共焦点画像データT(I)と第2の共焦点画像データに基づく共焦点画像データI 90の内積を演算し、共焦点画像データIDC3を生成する(ステップS39)。
【数9】
【0092】
図13は本実施の形態に係る共焦点画像の例である。図13(A)は共焦点画像データIを変位させた共焦点画像データT(I)、図13(B)は共焦点画像データI90を-90°回転させた共焦点画像データI 90である。また、図13(C)は図13(A)と図13(B)との内積による共焦点画像データIDC3である。本実施の形態に係る内積を用いたノイズ除去処理によって、第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データに含まれる異常組織と推定される部分は強調され、第1の共焦点画像データ、第2の共焦点画像データのいずれかにのみ含まれるノイズと推定される部分は抑制されていることがわかる。
【0093】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態に係る異常組織検出方法によれば、被験者の体に対して異なる方位で取得された第1の共焦点画像データと第2の共焦点画像データとの座標のずれを修正して内積することにより、異常組織と推定される領域の重複状態を導出し、異常組織の位置を推定する。したがって、より精度よくノイズを抑制するとともに、異常組織の位置を推定することができる。
【0094】
本実施の形態では、第1の共焦点画像データを変位させて第1の共焦点画像データと第2の共焦点画像データとの座標のずれを修正することとしたが、これに限られず、第2の共焦点画像データを変位させることとしてもよい。
【0095】
また、本実施の形態では、受信信号RSに基づいて生成された第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データについて座標を変位させて内積を算出することとしたが、これに限られない。例えば、第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データについて座標を変位させた後、実施の形態2と同様に二値化して、二値化された共焦点画像データを用いて内積を演算することとしてもよい。これにより、不要なノイズを効率的に除去しつつ、異常組織が小さく推定される等の不具合を抑制し、精度よく異常組織を検出することができる。
【0096】
図14は変位後に二値化を行った場合の共焦点画像の例である。図14(A)は共焦点画像データIを変位させた共焦点画像データT(I)、図14(B)は共焦点画像データI90を-90°回転させた共焦点画像データI 90である。図14(C)、(D)は、それぞれ図14(A)、(B)を二値化した共焦点画像データB(T(I))、B(I 90)である。また、図14(E)は図14(C)と図14(D)との内積による共焦点画像データIDC4である。本実施の形態に係る内積を用いたノイズ除去処理によって、第1の共焦点画像データ及び第2の共焦点画像データに含まれる異常組織と推定される部分はより明確に強調され、第1の共焦点画像データ、第2の共焦点画像データのいずれかにのみ含まれるノイズと推定される部分は抑制されていることがわかる。
【0097】
本実施の形態では、2つの共焦点画像データを用いることとしたが、これに限られず、3つ以上の共焦点画像データを用いることもできる。この場合、各共焦点画像データは、それぞれ異なる方位で取得された送受信データに基づいて生成されたものであることが好ましい。異なる方位で送受信データを取得することにより、空隙、異物等の状態が異なる共焦点画像データを生成することができる。したがって、各共焦点画像データに基づいて順次内積を算出することで、各共焦点画像データに含まれるノイズを除去するとともに、異常組織が存在すると推定される座標をより強調することができるので、より精度よく異常組織の位置を推定することができる。
【0098】
また、この場合、複数の共焦点画像データのうち1つの共焦点画像データを基準とし、基準として選択された共焦点画像データに対する他の共焦点画像データの相関係数を算出し、算出された相関係数に基づいて当該他の共焦点画像データをそれぞれ変位させることとすればよい。
【0099】
上記各実施の形態では、異常組織検出装置1が共焦点画像生成部141、画像処理部142を備えることとしたがこれに限られない。例えば、異常組織検出装置1から独立した画像処理装置が、共焦点画像生成部141、画像処理部142を備えることとしてもよい。この場合、画像処理装置は、異常組織検出装置1からネットワーク等を介して受信信号RSに係るデータを取得して、共焦点画像の生成、ノイズ除去等の処理を行うこととすればよい。これにより、データ取得処理と分離して、オフラインで画像処理を行うことができるので、より効率的に検査結果の分析等を行うことができる。
【0100】
また、上記各実施の形態のノイズ除去処理に係る異常組織検出方法は、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、上記各実施の形態に係る異常組織検出を実行するためのコンピュータプログラムを、インターネット等のネットワークを介して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、コンピュータ装置を上記の異常組織検出を実行する異常組織検出装置として機能させることができる。
【0101】
(数値例)
以下、被験者の代わりにファントムを用いた数値例について説明する。本例では乳房を模したファントムと、異常組織(乳癌)を模した金属製のターゲットとを用いて送受信データを取得した。
【0102】
図15は、ターゲットが存在する場合の共焦点画像の例である。図15(A)は共焦点画像データI図15(B)は共焦点画像データI90である。図15(C)は実施の形態1に係る内積演算によって生成された共焦点画像データIDC1であり、図15(D)は実施の形態3に係る内積演算によって生成された共焦点画像データIDC3である。図15(C)、(D)に示すように、実施の形態1に係る共焦点画像データIDC1、実施の形態3に係る共焦点画像データIDC3のいずれの場合も、元の共焦点画像データI、I90と比較して、異常組織と推定される部分が強調されていることがわかる。
【0103】
図16は、ターゲットが存在しない場合の共焦点画像の例である。図16(A)は共焦点画像データI図16(B)は共焦点画像データI90である。図16(C)は実施の形態1に係る内積演算によって生成された共焦点画像データIDC1であり、図16(D)は実施の形態3に係る内積演算によって生成された共焦点画像データIDC3である。図16(C)、(D)に示すように、実施の形態1に係る共焦点画像データIDC1、実施の形態3に係る共焦点画像データIDC3のいずれの場合も、元の共焦点画像データI、I90と比較して、ノイズと推定される部分は抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、被験者の体内の異常組織を検出する異常組織検出に好適である。特に、異常組織検出装置を被験者に接触させて、マイクロ波の反射波を用いて異常組織の位置を推定する異常組織検出に好適である。
【符号の説明】
【0105】
1 異常組織検出装置、2 スイッチ部、3 アンテナ部、9 回転部、11 送信部、12 受信部、14 制御部、141 共焦点画像生成部、142 画像処理部、15 記憶部、17,19 CMOSスイッチ、31 固定基台、33 駆動部、34 駆動制御部、37 アンテナベース、38 アンテナアレイ、39 アンテナ取付部、41 アンテナカバー、42 スリーブ、51 ハンドル、52 蓋、55 制御基板、56 高周波基板、57 筐体、A1,A2,A3,A4 アンテナ列、CA 異常組織、CS1,CS2 制御信号、M 方位マーカー、MW インパルス信号、RW 反射信号、RA 受信アンテナ、SA 送信アンテナ、TS 送信信号、RS 受信信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16