(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097861
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】通信用電線
(51)【国際特許分類】
H01B 11/12 20060101AFI20230703BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H01B11/12
H01B7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214219
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 甫
(72)【発明者】
【氏名】長尾 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】平岩 徹也
【テーマコード(参考)】
5G309
【Fターム(参考)】
5G309LA05
(57)【要約】
【課題】細径で自動車への配索に適した強度と高速通信に対応した伝送特性を有する通信用電線を提供する。
【解決手段】通信用電線1Aは、絶縁電線11A、11Bを対撚りした対撚り線2と、対撚り線2の外周を覆うポリオレフィン系樹脂で形成されたシース12Aと、を有する。絶縁電線11A、11Bは、特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲内であり、合成樹脂の繊維からなるテンションメンバ113を中心に複数の導電性を有する素線1111を有して断面積が0.13mm
2未満であるコア線111と、コア線111の外周を被覆するポリオレフィン系樹脂で形成された絶縁被覆112と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁電線を対撚りした対撚り線と、
前記対撚り線の外周を覆うポリオレフィン系樹脂で形成されたシースと、
を有し、
特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲内であり、
前記絶縁電線のそれぞれは、合成樹脂の繊維からなるテンションメンバを中心に複数の導電性を有する素線を有して断面積が0.13mm2未満である導体と、前記導体の外周を被覆するポリオレフィン系樹脂で形成された絶縁被覆と、を備える
通信用電線。
【請求項2】
前記シースの外径が2.5mm以下である請求項1に記載の通信用電線。
【請求項3】
前記導体の外径が0.85mm未満である請求項1又は請求項2に記載の通信用電線。
【請求項4】
前記テンションメンバは、引張強度が2500MPa以上であり、誘電率が3.5以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の通信用電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
破断強度を確保しつつ細径化と軽量化を図った自動車用電線として、例えば特許文献1に開示された差動伝送ケーブルがある。この差動伝送ケーブルは、複数の導体の周囲を絶縁体で覆った電線を対にして撚り合わせたツイスト電線と、ツイスト電線の周囲を覆うシースを備えている。ツイスト電線を構成する電線は、引張強度が800MPa以上で導体よりも高い引張強度のテンションメンバを有し、テンションメンバの周囲に複数本の導体を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車用電線においては、軽量化や細径化が求められているが、シースを薄くして軽量化及び細径化を行なうと、電線を束ねた場合に電線同士の距離が近くなり、電線同士でノイズを受けたりノイズを与えたりする場合がある。特許文献1に開示されたケーブルのように、軽量化及び細径化のために導体径を小さくし、強度を確保するためにテンションメンバを使用する方法があるが、特許文献1の発明でテンションメンバとして採用されているポリアリレート繊維は、さらなる細径化を行なうと自動車用電線に要求される強度を満たさなくなる虞がある。特許文献1の発明でポリアリレート繊維とは別にテンションメンバとして採用されているガラス繊維は、強度があるものの誘電率が樹脂繊維より高いため特性インピーダンスの低下を招き、例えば、電線を束ねたときや雨天で水に接した場合にさらに特性インピーダンスが低下するように作用してしまう。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、細径で自動車への配索に適した強度と高速通信に対応した伝送特性を有する通信用電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る通信用電線は、複数の絶縁電線を対撚りした対撚り線と、前記対撚り線の外周を覆うポリオレフィン系樹脂で形成されたシースと、を有し、特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲内であり、前記絶縁電線のそれぞれは、合成樹脂の繊維からなるテンションメンバを中心に複数の導電性を有する素線を有して断面積が0.13mm2未満である導体と、前記導体の外周を被覆するポリオレフィン系樹脂で形成された絶縁被覆と、を備える通信用電線である。
【0007】
本発明の一態様に係る通信用電線は、前記シースの外径が2.5mm以下である構成であってもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る通信用電線は、前記導体の外径が0.85mm未満であってもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る通信用電線においては、前記テンションメンバは、引張強度が2500MPa以上であり、誘電率が3.5以下である構成であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細径で自動車への配索に適した強度と高速通信に対応した伝送特性を有する通信用電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例に係る通信用電線の断面図である。
【
図3】
図3は、変形例に係る通信用電線の断面図である。
【
図4】
図4は、変形例に係る通信用電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る通信用電線1Aの断面図である。通信用電線1Aは、例えば自動車に配索され、配索された自動車においてイーサネット(登録商標)の規格に従った通信に用いられる電線である。通信用電線1Aは、100Ω±10Ωの範囲の特性インピーダンスを有している。
【0014】
通信用電線1Aは、絶縁電線11A、絶縁電線11B、及びシース12Aで構成されている。絶縁電線11Aと絶縁電線11Bは、対撚りされて対撚り線2を構成し、対撚り線2は、シース12Aで被覆されている。
【0015】
(絶縁電線)
絶縁電線11Aは、コア線111及び絶縁被覆112で構成されている。また、導体の一例であるコア線111は、導電性を有する素線1111とテンションメンバ113で構成されている。なお、絶縁電線11Bは、絶縁電線11Aと同じ構成であるため、その説明を省略する。
【0016】
テンションメンバ113は、例えば、高強度繊維のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(商品名:ザイロン)、アラミド繊維(商品名:ケブラー)又は液晶ポリエステルである。表1に、高強度繊維の特性の一例を示す。
【0017】
【0018】
ポリアリレート繊維は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維やアラミド繊維に比べて引張強度が弱いため、テンションメンバ113として使用すると、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維やアラミド繊維をテンションメンバ113として使用したときより通信用電線1Aの引張強度が劣ることとなる。また、ガラス繊維は、引張強度がポリアリレート繊維より大きいものの、誘電率がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維やアラミド繊維より高いため、テンションメンバ113として使用すると、特性インピーダンスの低下を招くこととなる。また、ガラス繊維をテンションメンバ113として使用すると、通信用電線1Aの水没による特性インピーダンスの低下や、配索による特性インピーダンスの低下が合わさり、特性インピーダンスが悪化する方法に作用する。
【0019】
このため、本実施形態においては、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維又はアラミド繊維をテンションメンバ113として採用した。なお、テンションメンバ113は、引張強度が2500MPa以上であり、誘電率が3.5以下であるのが好ましい。
【0020】
コア線111は、テンションメンバ113を覆うように、例えば12本の導電性を有する素線1111をS撚りしたものである。素線1111は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウムで形成されている。コア線111は、撚線の一例である。なお、コア線111は、S撚りではなくZ撚りであってもよい。また、コア線111を構成する素線1111の数は、12本に限定されるものではなく、12本より少ない本数又は12本より多い本数であってもよい。コア線111の径方向の断面積は、自動車に配索したときの軽量化や細径化の観点から、0.13mm2(0.13sq)未満とするのが好ましい。
【0021】
絶縁被覆112は、誘電率が低い樹脂であるのが好ましく、例えば、PE(ポリエチレン)、EVA(エチレン酢酸ビニル)又はPP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂をベース材とした樹脂で形成されている。本実施例では、絶縁被覆112は、PPをベースとし、難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成されている。絶縁被覆112の厚さは、通信用電線1Aの特性インピーダンスが100Ω±10Ωとなるように形成される。絶縁被覆112の硬さについては、通信用電線1Aが自動車に配索されて温度が上昇したときに塑性変形を起こさない程度の硬さであるのが好ましく、例えば、パイプ型のシース12Aを備える通信用電線1Aにおいては、絶縁被覆112の硬さは、シース12Aと同等であるのが好ましい。
【0022】
(シース)
シース12Aは、対撚り線2の保護や対撚り線2の対撚りの安定化、対撚り線2と周囲環境との距離の確保に寄与するものである。シース12Aは、中空のパイプ型の形状に形成されている。シース12Aは、ポリオレフィン系樹脂をベース材とした樹脂で形成されているのが好ましい。本実施例では、シース12Aは、ポリオレフィン系樹脂をベースとし、難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成されている。
【0023】
(対撚り線)
図2は、対撚り線2の撚り方を示す図である。対撚り線2は、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bをダブルツイストバンチャー型の撚線機で対撚りした撚線である。本実施形態においては、対撚り線2は、絶縁電線11Aと絶縁電線11BがZ撚りで撚られており、撚り方向がS撚りであるコア線111とは撚り方向が逆となっている。なお、コア線111がZ撚りである場合、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bがコア線111の撚り方向とは逆のS撚りで撚られる。
【0024】
ところで、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bとを撚り合わせる場合、単に撚り合わせると絶縁電線11Aと絶縁電線11Bのそれぞれが捻じれた状態で撚り合わされてしまい、この捻じれが撚りを解く力が働くため、対撚り線2がばらけやすくなる。
【0025】
したがって本実施例では、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bとを撚り合わせながら、その撚り合わせの回転方向とは逆の回転方向(すなわち、撚り合わせによる絶縁電線11Aの捻じれと絶縁電線11Bの捻じれを緩和する回転方向)に、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bのそれぞれをひねって回転させるという、いわゆる撚り返しを施して、捻じれを防止している。
【0026】
ここで、撚り合わせの回転角Xと撚り返しの回転角Yとの比Y/Xを、撚り返し率と称する。すなわち絶縁電線11Aと絶縁電線11Bに撚り返しが全く施されておらず、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bが捩じれたままの状態では、撚り返し率の値は0%であり、撚り返しが施され、絶縁電線11A自体の捻じれと絶縁電線11B自体の捩じれが全くない状態では撚り返し率の値は100%である。本実施例では、対撚り線2の撚り返し率は、100%としている。撚り返し率を100%とすることにより、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bがばらけにくくなっている。なお、撚り返し率の値は100%に限定されるものではなく、100%±10%の範囲であればよい。
【0027】
(評価)
前述した通信用電線1Aについて、コア線111及びシース12Aの構成を変えて評価用の実施例1-6を作製し、電線径、軽量効果、コア引張強度、電線引張強度、挿入損失、クロストーク、水没特性インピーダンスを評価した。また、実施例1-6との比較のため、比較例1-5について実施例1-6と同じ評価を行った。実施例1-6及び比較例1-5の構成と評価結果を示す表2に示す。
【0028】
【0029】
実施例1-6においては、絶縁被覆112とシース12Aをポリオレフィン系の樹脂で形成し、対撚り線2の対撚りピッチを25mmとした。また、実施例1-6においては、コア線111の構成としてAタイプとBタイプを設けた。実施例1、3、5で採用したAタイプは、テンションメンバ113をアラミド繊維とし、複数のアラミド繊維で形成されるテンションメンバ113の直径を0.16mmとした。また、Aタイプは、素線1111を直径0.05mmのタフピッチ銅とし、素線1111の本数を12本とし、素線1111の撚りピッチを1mmとした。Aタイプにおけるコア線111の断面積は、0.05sq相当である。実施例2、4、6で採用したBタイプは、テンションメンバ113がアラミド繊維であり、複数のアラミド繊維で形成されるテンションメンバ113の直径を0.16mmとした。また、Aタイプは、素線1111を直径0.1mmの銅合金とし、素線1111の本数を8本とし、素線1111の撚りピッチを2mmとした。Bタイプにおけるコア線111の断面積は、0.08sq相当である。
【0030】
実施例1-6において、絶縁被覆112の厚さである絶縁厚、コア線111の外径であるコア径、シース12Aの径方向の厚さであるシース厚、シース12Aの外径である電線径については、表2に示すとおりである。
【0031】
比較例1は、ISO(International Organization for Standardization)規格に準拠した自動車用電線である。比較例1は、素線を錫の濃度0.7質量%の銅合金とし、7本の素線を圧縮して形成された圧縮導体を焼鈍したものをコア線とし、コア線の断面積を0.13sqとしたものである。比較例2は、比較例1のシース厚を薄くしたものであり、比較例5は、比較例1のシース厚を厚くしたものである。比較例3は、実施例1のテンションメンバ113をポリプロピレンに替えたものである。比較例4は、テンションメンバをガラス繊維とし、素線を直径0.16mmの軟銅とし、テンションメンバの周囲に6本の素線を有するコア線の断面積を0.13sqとしたものである。
【0032】
なお、比較例1-5においても、コア線を被覆する絶縁被覆と、絶縁被覆で被覆された電線を対撚りした対撚り線を被覆するシースをポリオレフィン系の樹脂とし、対撚り線のピッチを25mmとした。比較例1-5において、コア線を被覆する絶縁被覆の厚さである絶縁厚、コア線の外径であるコア径、対撚り線を被覆するシースの径方向の厚さであるシース厚、シースの外径である電線径については、表2に示すとおりである。
【0033】
電線径の評価は、電線径を測定し、外径2.5mmを基準として電線径が基準より細い場合を「◎」、電線径が基準と同等である場合を「〇」、電線径が基準より太い場合を「×」と評価した。具体的には、測定した径が2.4mm以下である場合を「◎」、測定した径が2.4mmより大きく2.7mm以下である場合を「○」、測定した径が2.7mmより大きい場合を「×」と評価した。
【0034】
軽量効果の評価は、実施例1-6及び比較例1-5の基準長さにおける重量を測定し、ISO規格に準拠した電線径2.5mmの自動車用電線を基準とし、重量が基準より著しく軽い場合を「☆」、重量が基準より軽い場合を「◎」、重量が基準と同等の場合を「○」、重量が基準より重い場合を「×」と評価した。具体的には、基準の0.7倍未満を「☆」、基準の0.7倍以上0.95倍未満を「◎」、基準の0.95倍以上1.15倍未満を「○」、基準の1.15倍以上を「×」と評価した。
【0035】
コア線引張強度と電線引張強度は、引張試験機を用いて実施例1-6及び比較例1-5の引張試験を行って測定した。電線引張強度の評価は、比較例1に対して電線引張強度が同等の場合を「◎」、比較例1より電線引張強度がやや劣るが問題ない場合を「○」、電線引張強度に問題がないがマージンが小さい場合を「△」、問題がある場合を「×」とした。具体的には、引張強度が200N以上の場合を「◎」、引張強度が200N未満150N以上の場合を「〇」、引張強度が150N未満100N以上の場合を「△」、引張強度が100N未満の場合を「×」、引張強度が100N未満の場合を「×」と評価した。
【0036】
挿入損失の評価は、車載Ethernet(登録商標)規格である100BASE-T1の規格に記載された電線の挿入損失の測定方法に従い測定を行った。評価用の電線から10m採取し、キーサイト・テクノロジー株式会社のE5071C ENAベクトル・ネットワーク・アナライザを用いて測定を行った。挿入損失の評価は、挿入損失の66MHzでの値を使用し、0.68dB/m以上を「×」、0.68dN/mより小さく0.48dB/m以上の場合を「○」、0.48dB/mより小さい場合を「◎」と評価した。
【0037】
クロストークの評価は、100BASE-T1の規格で規定されたクロストークの測定を行い、評価基準とのマージンを求めた。具体的には、100BASE-T1の規格におけるクロストーク測定のうち、PSANEXTの測定を実施し、PSANEXTの測定値から100BASE-T1の規格で規定されたPSANEXTのリミット値を差し引いたものをマージンと定義した。そして、マージンの1MHz以上100MHz以下の範囲での最小値の評価を行い、10dBより大きい場合には「◎」、10dB以下で5dBより大きい場合には「○」、5dB以下で0dBより大きい場合には「△」、0dB以下、即ち規格を満たさない場合を「×」と評価した。
【0038】
水没特性インピーダンスの評価は、水に沈める前と水に沈めたときで実施例1-6及び比較例1-5の特性インピーダンスを測定し、水に沈める前の特性インピーダンスと水に沈めたときの特性インピーダンスとの差が4Ω未満であり、水に沈めたときの特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲内である場合には「◎」、水に沈める前の特性インピーダンスと水に沈めたときの特性インピーダンスとの差が4Ω以上8Ω未満であり、水に沈めたときの特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲内である場合には「○」、水に沈める前の特性インピーダンスと水に沈めたときの特性インピーダンスとの差が8Ω以上であり、水に沈めたときの特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲外である場合には「×」と評価した。
【0039】
特性インピーダンスの測定については、実施例1-6及び比較例1-5のそれぞれを10m採取し、キーサイト・テクノロジー株式会社のE5071C ENAベクトル・ネットワーク・アナライザを用いてTDR法(Time Domain Reflectometry)により測定した。TDR法による測定については、実施例1-6及び比較例1-5のそれぞれについて、測定に用いるパルス信号の立ち上がり時間を700psとし、10mのうちの中央の8m分の値を平均したものを特性インピーダンスとした。
【0040】
表2に示されているように、比較例1は、クロストークで100BASE-T1の規格を満たすものの評価基準とのマージンが低いものとなっている。比較例2は、比較例1のシース厚を薄くしたものであるが、クロストークと水没特性インピーダンスが比較例1より劣るものとなっている。比較例3は、テンションメンバを備えるものであるが、コア引張強度及び電線引張強度が弱いものとなっている。比較例4もテンションメンバを備えるものであるが、クロストークと水没特性インピーダンスが実施例1-6より劣るものとなっている。比較例5は、挿入損失、クロストーク、水没特性インピーダンスで良い評価結果となったものの、電線径が太いため実施例1-6より細径化や軽量効果の点で劣るものとなっている。
【0041】
一方、実施例1、2は、軽量効果が著しくよく、電線径が基準である2.5mmより小さいため、細径化の効果が得られている。また、実施例1、2は、実施例1、2よりコア径が太い比較例1、2、4、5よりもコア引張強度及び電線引張強度が強く、挿入損失や水没特性インピーダンスについても問題がなく、クロストークについても比較例1より良好な結果が得られている。実施例3、4は、シースの薄肉化を目指したものであり、クロストークを除いて実施例1、2と同様の効果が得られている。実施例5、6は、電線径を2.5mmとしたものであり、実施例1-4と比較するとクロストークで良好な結果が得られている。
【0042】
(ワイヤハーネス)
本実施形態では、圧着端子を絶縁電線11Aのコア線111と、絶縁電線11Bのコア線111のそれぞれに接合させることにより端子付き電線が形成される。また、端子付き電線の圧着端子が図示しないコネクタハウジングに挿入されてコネクタ付き電線が形成されることもある。また、圧着端子と通信用電線1Aとを備える端子付き電線を他の電線と束ねてコネクタに挿入することにより、ワイヤハーネスが形成される。このワイヤハーネスは、例えば自動車に配索される。
【0043】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0044】
図3は、変形例に係る通信用電線1Bの断面図である。通信用電線1Bは、パイプ型のシース12Aに替えて中空ではない充実型のシース12Bを備えている。
【0045】
図4は、変形例に係る通信用電線1Cの断面図である。通信用電線1Cは、通信用電線1Bと比較すると、絶縁被覆112に替えて絶縁被覆112Aを備えている点で相違している。絶縁被覆112Aは、ポリオレフィン系樹脂をベース材とした樹脂で形成されている。絶縁被覆112Aは、絶縁被覆112がパイプ型であるのに対して充実型である点で相違している。なお、対撚り線2とシース12A~12Cとの間にテープ等の介在があってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1A、1B、1C 通信用電線
2 対撚り線
11A、11B 絶縁電線
12A、12B シース
111 コア線
112、112A 絶縁被覆
113 テンションメンバ
1111 素線