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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097912
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】化学分析装置、化学分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20230703BHJP
   G01N 1/38 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
G01N35/02 D
G01N1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214289
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高麗 友輔
(72)【発明者】
【氏名】楯身 優
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 睦三
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕人
(72)【発明者】
【氏名】綱島 健太
【テーマコード(参考)】
2G052
2G058
【Fターム(参考)】
2G052FB02
2G052FB10
2G052HA08
2G052HA19
2G052JA07
2G058FA01
2G058GB02
2G058GB04
2G058GB10
(57)【要約】
【課題】
超音波素子を利用して試薬等と被測定検体との攪拌を行う攪拌機能を備えた化学分析装置において、センサや目視等の手段を使用することなく反応液の有無および反応液の液面高さを推定可能な化学分析装置を提供する。
【解決手段】
超音波攪拌機構を有する化学分析装置であって、前記超音波攪拌機構は、圧電素子と、前記圧電素子に複数配置された電極と、前記電極に電圧を印加する電源部と、前記複数の電極毎または任意の組合せの電極に対して電気インピーダンスを測定する検出部と、前記検出部で検出した電気インピーダンスより反応容器内の液面高さを判断する分析部と、を備え、前記検出部は、2つ以上の異なる液量が分注された反応容器を前記圧電素子に対面させた状態で電気インピーダンスを測定し、前記分析部は、前記検出部で測定した電気インピーダンスの変化量に基づいて前記反応容器内の液面高さを推定することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波攪拌機構を有する化学分析装置であって、
前記超音波攪拌機構は、圧電素子と、
前記圧電素子に複数配置された電極と、
前記電極に電圧を印加する電源部と、
前記複数の電極毎または任意の組合せの電極に対して電気インピーダンスを測定する検出部と、
前記検出部で検出した電気インピーダンスより反応容器内の液面高さを判断する分析部と、を備え、
前記検出部は、2つ以上の異なる液量が分注された反応容器を前記圧電素子に対面させた状態で電気インピーダンスを測定し、
前記分析部は、前記検出部で測定した電気インピーダンスの変化量に基づいて前記反応容器内の液面高さを推定することを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学分析装置であって、
前記電極は、前記反応容器を前記化学分析装置に装着した際の前記反応容器の高さ方向に複数配置されていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学分析装置であって、
前記電源部と前記電極との間に接続された電極セレクタを備え、
前記電極セレクタにより選択した電極に対して前記電源部から電圧を印加し、
前記検出部は、前記電極セレクタにより選択した電極に対して電気インピーダンスを測定することを特徴とする化学分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の化学分析装置であって、
前記分析部は、予め設定された電気インピーダンスと液面高さの関係に基づいて前記反応容器内の液面高さを推定することを特徴とする化学分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の化学分析装置であって、
前記分析部は、予め設定された電気インピーダンスと液面高さの関係に基づいて前記圧電素子の故障診断を行うことを特徴とする化学分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の化学分析装置であって、
前記電源部から前記電極に印加される電圧の周波数掃引を行い、
掃引した周波数の測定範囲の電気インピーダンスを積分することで電気インピーダンスを測定することを特徴とする化学分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の化学分析装置であって、
予め測定した反応容器内に液がない場合の電気インピーダンスを基準値とし、
前記検出部で測定した電気インピーダンスと前記基準値の差分を積分することで電気インピーダンスを測定することを特徴とする化学分析装置。
【請求項8】
以下のステップを含む化学分析方法;
(a)反応容器に被測定検体を分注するステップ、
(b)前記反応容器に試薬を分注するステップ、
(c)前記反応容器を攪拌部へ移動し、前記反応容器を前記攪拌部の圧電素子に対面させた状態で電気インピーダンスを測定するステップ、
(d)前記(c)ステップで測定した電気インピーダンスの変化量に基づいて前記反応容器内の液面高さを推定するステップ。
【請求項9】
請求項8に記載の化学分析方法であって、
前記(c)ステップにおいて、前記反応容器の高さ方向の複数の位置で電気インピーダンスを測定することを特徴とする化学分析方法。
【請求項10】
請求項8に記載の化学分析方法であって、
予め設定された電気インピーダンスと液面高さの関係に基づいて前記反応容器内の液面高さを推定することを特徴とする化学分析方法。
【請求項11】
請求項8に記載の化学分析方法であって、
予め設定された電気インピーダンスと液面高さの関係に基づいて前記圧電素子の故障診断を行うことを特徴とする化学分析方法。
【請求項12】
請求項8に記載の化学分析方法であって、
前記圧電素子に印加する電圧の周波数掃引を行い、
掃引した周波数の測定範囲の電気インピーダンスを積分することで電気インピーダンスを測定することを特徴とする化学分析方法。
【請求項13】
請求項8に記載の化学分析方法であって、
予め測定した反応容器内に液がない場合の電気インピーダンスを基準値とし、
前記(c)ステップで測定した電気インピーダンスと前記基準値の差分を積分することで電気インピーダンスを測定することを特徴とする化学分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分析装置の構成とその故障診断方法に係り、特に、圧電素子の振動による超音波を利用して試薬等と被測定検体との攪拌を行う攪拌機能を備えた化学分析装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の化学分析装置では、試薬と被測定検体との攪拌手段として、試薬を検体に混合するためにへら状の先端を有する攪拌棒を試薬と検体を混合する反応容器内に挿入し、攪拌棒を回転または往復する方式が用いられている。
【0003】
このような化学分析装置では、攪拌棒に付着した試薬または検体が、次の分析結果に影響を与えるキャリーオーバーと呼ばれる現象が起こり得るため、攪拌棒を洗浄する機構が必要である。
【0004】
この問題を解決するため、例えば特許文献1から特許文献4のように、検体の分析に必要な試薬と検体を混合する攪拌手段に、超音波を反応容器内の反応液に照射する方法を用いた自動分析装置がある。
【0005】
これらの超音波を用いた攪拌手段は、攪拌棒などを媒介せずに、超音波によって検体と試薬に流動を発生させて反応液を混合し攪拌する方式であるため、攪拌棒を用いることに起因する検体及び試薬のキャリーオーバーや、反応容器内への洗浄水の混入を回避することが可能な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-13149号公報
【特許文献2】特開2001-188070号公報
【特許文献3】特開2010-96638号公報
【特許文献4】特開2000-338113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1から特許文献4のように、攪拌手段に超音波を用いた場合、例えば、攪拌すべき反応容器が装着されていない状態や反応容器が空の状態で超音波を発振した際に、反応容器収納部の周辺部から反射される意図しない超音波により、超音波の発振源である圧電素子を損傷する可能性がある。
【0008】
また、空気中に超音波を繰り返し発振すると、圧電素子の発熱により、圧電素子自体が損傷する可能性もある。
【0009】
そこで、圧電素子から超音波を発振する際に、反応容器の有無或いは超音波が伝搬される媒体の有無を確認する方法として、反応容器や媒体を検知するセンサを設ける方法がある。
【0010】
しかし、この方法では、機構の複雑化による信頼性の低下やコスト上昇が懸念される。
【0011】
上記特許文献1では、攪拌機構の非動作時間を使用して、ピエゾ素子の異常を検出し、事前に故障の予想を行い警告することにより、装置の不測の停止を防止することができる。
【0012】
また、上記特許文献2では、ピエゾ素子またはピエゾ素子駆動回路が正常動作の状態の、温度情報を記憶しておき、攪拌機構の動作中の温度情報と比較することにより、ピエゾ素子またはピエゾ素子駆動回路の異常判断している。
【0013】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のいずれにも、上述したような反応容器が装着されていない状態や反応容器が空の状態で超音波を発振した際の圧電素子の損傷に関するする記載はなく、それを解決する方法についても触れられていない。
【0014】
また、上記特許文献3には、圧電素子から音波を出力する前に周辺状況を推定し、異常を検出したときには音波の出力を停止して、圧電素子の信頼性を向上する方法の記載がある。
【0015】
特許文献3では、圧電素子を音源とする音波により反応容器に吐出した試薬と被測定検体とを攪拌する攪拌部と、上記圧電素子を駆動する電圧及び周波数が変更可能な電源部と、試薬と被測定検 体を反応させて成分分析を行う分析部と、上記攪拌部,電源部、及び分析部を制御する制御部を有する自動分析装置において、圧電素子を駆動する電圧或いは電流波形から電気インピーダンスを測定することにより、音波出力時の圧電素子の周辺状況を推定することが記載されている。
【0016】
すなわち、圧電素子の周辺状況をモニタするためのセンサを、圧電素子と別に設けるのではなく、音源となる圧電素子そのものをセンサとして利用することにより、構成を複雑化することなく圧電素子から音波を発生する際に反応容器及び反応液の有無、或いは音波が伝搬する媒体の有無を確認することができる。
【0017】
また、特許文献3は、圧電素子の電気インピーダンス変化から、音波が伝搬する媒体の温度変化を検出することができるとする方法である。
【0018】
特許文献3には、反応容器内の反応液の有無によって、超音波の反射体について境界の音響インピーダンスが異なることから、電気インピーダンスの最小となる周波数およびその時の電気インピーダンスの変化量を計測して反応液の有無、或いは音波が伝達する媒体の有無を確認することができる。また、圧電素子の電気インピーダンス変化から、音波が伝達する媒体の温度変化を検出できると記載されている。
【0019】
しかし、圧電素子の損傷または破損が発生した状態では、電気インピーダンスは所望の計測を行うことができず、上記の反応液の有無の確認または温度変化の検出は行えない。そのため、圧電素子の破損がないことを別の手段で確認する必要があった。
【0020】
また、上記特許文献4にも、上述したような反応容器が装着されていない状態や反応容器が空の状態で超音波を発振した際の圧電素子の損傷に関する記載はない。
【0021】
そこで、本発明の目的は、超音波素子を利用して試薬等と被測定検体との攪拌を行う攪拌機能を備えた化学分析装置において、センサや目視等の手段を使用することなく反応液の有無および反応液の液面高さを推定可能な化学分析装置とそれを用いた化学分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明は、超音波攪拌機構を有する化学分析装置であって、前記超音波攪拌機構は、圧電素子と、前記圧電素子に複数配置された電極と、前記電極に電圧を印加する電源部と、前記複数の電極毎または任意の組合せの電極に対して電気インピーダンスを測定する検出部と、前記検出部で検出した電気インピーダンスより反応容器内の液面高さを判断する分析部と、を備え、前記検出部は、2つ以上の異なる液量が分注された反応容器を前記圧電素子に対面させた状態で電気インピーダンスを測定し、前記分析部は、前記検出部で測定した電気インピーダンスの変化量に基づいて前記反応容器内の液面高さを推定することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、(a)反応容器に被測定検体を分注するステップ、(b)前記反応容器に試薬を分注するステップ、(c)前記反応容器を攪拌部へ移動し、前記反応容器を前記攪拌部の圧電素子に対面させた状態で電気インピーダンスを測定するステップ、(d)前記(c)ステップで測定した電気インピーダンスの変化量に基づいて前記反応容器内の液面高さを推定するステップ、を含むことを特徴とする化学分析方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、超音波素子を利用して試薬等と被測定検体との攪拌を行う攪拌機能を備えた化学分析装置において、センサや目視等の手段を使用することなく反応液の有無および反応液の液面高さを推定可能な化学分析装置とそれを用いた化学分析方法を実現することができる。
【0025】
これにより、化学分析装置に搭載された超音波攪拌機能の異常診断を簡便に行うことができる。
【0026】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例1に係る超音波攪拌機構の概略構成図である。
図2】本発明の実施例1に係る化学分析装置の概略構成図である。
図3】本発明の実施例1に係る電気インピーダンスの測定結果例を示す図である。
図4】本発明の実施例1に係る電気インピーダンスと液量の関係例を示す図である。
図5】本発明の実施例1に係る液量と液面高さの関係例を示す図である。
図6】本発明の実施例1に係る液面高さの推定例を示す図である。
図7】本発明の実施例1に係る化学分析装置の動作例を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施例2に係る電気インピーダンスの測定結果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。
【実施例0029】
図1から図7を参照して、本発明の実施例1に係る化学分析装置及び化学分析方法について説明する。
【0030】
図1は、本実施例の化学分析装置の一部を示す図であり、超音波攪拌機構の概略構成を示している。図2は、本実施例の化学分析装置の概略構成を示す上面図である。
【0031】
本実施例の化学分析装置(自動分析装置とも呼ぶ)は、図2に示すように、検体架設部11と、試薬格納部12と、反応部13と、攪拌部14と、測定部15と、洗浄部16とを備えており、分析装置制御部23により各部の詳細な動きが制御される。
【0032】
検体架設部11に架設された被測定検体17は、分析に使用される必要量を検体分注機構18により分取され、検体吐出位置20にて反応容器6に吐出される。分析に必要な量の試薬が試薬分注機構19により試薬格納部12から分取され、試薬吐出位置21にて、被測定検体17が吐出された反応容器6に添加される。
【0033】
反応容器6に吐出された検体と試薬は、攪拌位置22に移動して、攪拌部14の圧電素子から出力された超音波により攪拌されて混合される。その後、攪拌部14により充分に混合された被測定検体17は、測定部15において成分分析が行われる。分析終了後の反応容器6は、洗浄部16により洗浄が実施され、再び他の分析に備える。
【0034】
攪拌部14は、図1に示すように、主要な構成として、攪拌制御部1と、電源部2と、電極セレクタ3と、圧電素子4と、電極5と、検出部9と、記録部10とを備えている。電極5は、反応容器6を化学分析装置に装着した際の反応容器6の高さ方向に複数配置されている。
【0035】
攪拌制御部1により制御される電源部2から、電極セレクタ3を経由して、圧電素子4の電極5に対して電圧が印加されると、圧電素子4は超音波を出力し、超音波伝播媒体8を介して反応容器6に伝播され、反応容器6内の反応液7が超音波により攪拌される。
【0036】
圧電素子4の電極5は、反応容器6内の反応液7の有無、及び反応液7の液面高さを検出できるように、反応容器6の高さ方向に複数設けられている。
【0037】
電極セレクタ3により、測定すべき電極5を選択し、選択した電極5に対して、電源部2から電極セレクタ3を介して電圧が印加され、圧電素子4は超音波を出力する。
【0038】
この際、検出部9により、圧電素子4の電気インピーダンスを測定し、その測定結果を記録部10に記録する。
【0039】
図3に、電気インピーダンスの測定結果例を示す。縦軸は圧電素子の各セグメント(反応容器6の高さ方向の電極5の位置)に対応し、横軸は電気インピーダンスZより得られる電気インピーダースEswを示す。Eswは式(1)により算出される。
【0040】
【数1】
【0041】
反応液量の異なる電気インピーダンスの測定結果の差分を、測定した超音波の周波数範囲(周波数f1から周波数f2)で積分することでEswを算出する。
【0042】
電気インピーダンスZ(f)は各反応液量の測定値であり、Zbase(f)はある反応液の測定値である。図3は、反応液量0ulの場合の測定値をZbaseとして算出した結果である。
【0043】
セグメント1が反応容器6の口側であり、セグメント14が反応容器6の底側である。反応液量0ul(反応容器6が空)の状態では、基準と測定値が同一であるため、電気インピーダンスEswは各セグメントで0ulである。
【0044】
反応容器6内に反応液を分注すると、特許文献3に記載があるように、超音波が反射する境界の音響インピーダンスが変化することから電気インピーダンスZが変化するため、式(1)より算出される電気インピーダンスEswも変化する。その変化は、セグメント14の結果で示されるように、反応液の増加に伴い、超音波の反射の境界が反応液で満たされる量も変化し、段階的に電気インピーダンスZの変化量が変化する。
【0045】
一方で、超音波の反射の境界が反応液で満たされていない上部のセグメントでも電気インピーダンスEswが変化している。これは、反応容器6に反応液が分注されることで見かけ上の反応容器6の質量が変化していることによる影響であり、式(1)を用いることによって検出が可能となる。
【0046】
図4に、電気インピーダンスZと液量の関係を示す。反応容器6内に反応液がない状態(反応容器6が空)でのセグメント1からセグメント4の結果である。横軸が電気インピーダンスEswであり、縦軸は液量である。225ulまでの検量線であり、セグメント1からセグメント4の反応容器6内には反応液がない状態での値である。
【0047】
超音波の反射領域に反応液が充填されることによる電気インピーダンスEswの変化とは異なる。電気インピーダンスが0Ωから8Ωまでは電気インピーダンスEswと反応液は1対1対応の関係にあり、電気インピーダンスEswを算出することで液量を算出することができる。
【0048】
電気インピーダンスEswが8Ω以上の場合、電気インピーダンスEswと液量の対応が1対1にならない場合がある。これは、超音波の反射体である反応容器6の振動モードに起因するもので、液量の増加に対して電気インピーダンスEswの変化が単調に増加しないためである。
【0049】
その場合、各セグメントで測定した電気インピーダンスEswより液量の候補値を求め、候補値から得られる液量を組合せて液量を推定する。例えば、分散や標準偏差の小さい候補値が液量の推定値として選択される。
【0050】
図5に、液量と液面高さの関係を示す。反応容器6は直方体や円柱形などの変形しない構造であるため、予め形状を把握しておくことが可能であり、液量に対して、液面の高さの検量線を作成しておく。図5は、直方体の反応容器構造を例にした液量と液面高さの検量線であり、液量の増加に対して、液面高さは単調に増加している関係となっている。
【0051】
図6に、液面高さの推定結果を示す。図3に示す電気インピーダンスEswの測定結果をセグメント毎に表示し、図4で示したような電気インピーダンスEswと液量の関係を用いて液量を算出し、図5に示す検量線を用いてその液量から液面の高さを算出し、候補値として記載している。
【0052】
候補1と候補2のそれぞれの標準偏差を計算し、比較して標準偏差の値の小さい候補2を反応液量と推定し、候補値の平均値を最終推定値(10.0mm)として表示している。
【0053】
本実施例の化学分析装置では、電源部2から電極5に印加される電圧の周波数掃引を行い、掃引した周波数の測定範囲の電気インピーダンスを積分することで圧電素子4の電気インピーダンスを測定することも可能である。
【0054】
「掃引」とは、電圧の周波数(振動数)を徐々に変化させながら振動を発生させる動作を指す。
【0055】
また、予め測定した反応容器6内に反応液7がない場合の電気インピーダンスを基準値として設定し、検出部9で測定した電気インピーダンスと基準値の差分を積分することで電気インピーダンスを測定することも可能である。
【0056】
図7に、本実施例の化学分析装置の動作例を示す。
【0057】
先ず、ステップS701において、反応容器6に分析に使用される必要量の被測定検体17を分注する。
【0058】
次に、ステップS702において、反応容器6に分析に使用される必要量の試薬を分注する。
【0059】
続いて、ステップS703において、被測定検体17と試薬が分注された反応容器6を攪拌部14へ移動する。
【0060】
反応容器6を攪拌部14へ移動後、ステップS711において、圧電素子4の電気インピーダンスを測定する。
【0061】
次に、ステップS712において、ステップS711で測定した電気インピーダンスの値より、反応液7の有無を診断し、反応液7の液面高さを推定する。
【0062】
反応容器6内に反応液7がある場合(有)は、ステップS713へ移行し、反応液7がない場合(無)は、ステップS706へ移行する。
【0063】
ステップS713では、電気インピーダンスの測定値を予め測定しておいた正常値と比較して、正常な場合はステップS704へ移行し、異常な場合はステップS706へ移行する。
【0064】
ステップS704では、超音波を反応容器6に照射して被測定検体17と試薬を攪拌する。
【0065】
続いて、ステップS705において、測定部15により混合液(反応液7)の成分を分析する。
【0066】
次に、ステップS706において、洗浄部16により、分析終了後または異常診断後の反応容器6の洗浄を行う。
【0067】
最後に、ステップS707において、他の分析項目がプログラムされているかを確認し、次の測定を行うか終了するか判断する。他の分析項目が無い場合は、処理を終了し、他の分析項目が有る場合は、ステップS701に戻り、ステップS701以降の処理を繰り返す。
【0068】
なお、本発明を適用しない従来の化学分析装置では、ステップS711からステップS713を経ずに、ステップS703からステップS704へ移行する。(現行の処理)
以上説明したように、本実施例の化学分析装置は、超音波攪拌機構(攪拌部14)を有する化学分析装置であって、超音波攪拌機構(攪拌部14)は、圧電素子4と、圧電素子4に複数配置された電極5と、電極5に電圧を印加する電源部2と、複数の電極5毎または任意の組合せの電極5に対して電気インピーダンスを測定する検出部9と、検出部9で検出した電気インピーダンスより反応容器6内の液面高さを判断する分析部(攪拌制御部1)を備えており、検出部9は、2つ以上の異なる液量が分注された反応容器6を圧電素子4に対面させた状態で電気インピーダンスを測定し、分析部(攪拌制御部1)は、検出部9で測定した電気インピーダンスの反応容器6の高さ方向の変化量に基づいて反応容器6内の液面高さを推定する。
【0069】
また、電源部2と電極5との間に接続された電極セレクタ3を備えており、電極セレクタ3により選択した電極5に対して電源部2から電圧を印加し、検出部9は、電極セレクタ3により選択した電極5に対して電気インピーダンスを測定する。
【0070】
また、分析部(攪拌制御部1)は、予め設定された電気インピーダンスと液面高さの関係に基づいて反応容器6内の液面高さを推定する。
【0071】
本実施例の化学分析装置及び化学分析方法によれば、圧電素子4の電気インピーダンスを測定し、測定値を処理することで、反応液7の有無を確認するセンサや目視等の手段を使用することなく反応液7の有無および液面高さを推定することが可能になる。
【実施例0072】
図8を参照して、本発明の実施例2に係る化学分析装置及び化学分析方法について説明する。図8は、本実施例の電気インピーダンスの測定結果例を示す図である。
【0073】
本実施例の化学分析装置の構成と化学分析方法は、基本的に実施例1と同様である。実施例2では、さらに攪拌部14の故障診断を行う。
【0074】
図8に示す電気インピーダンスの測定結果において、セグメント2では、液量の変化に対して電気インピーダンスの変化を捉えられていない。圧電素子4が故障すると、反応容器6内の反応液7の液量の変化を正しく捉えることができない。電気インピーダンスが変化しない故障モードである。
【0075】
電気インピーダンスの変化量が正常状態よりも大きく変化する故障モードも存在する。その場合、近くのセグメントの電気インピーダンスの変化量との比較により故障を判断する。
【0076】
故障診断を行うタイミングは、図7のステップS712で反応液7の有無を診断するステップと同じタイミングで行うことができる。圧電素子4の電気インピーダンスの測定結果より、周囲の(近傍の)セグメントとの液面高さの推定値が大きく異なる場合、該当セグメントの故障と診断する。この場合、反応液7の有無の診断は、故障と診断されたセグメント以外のセグメントでの測定結果で行う。
【0077】
但し、圧電素子4の故障を検出しているため、その後はステップS706での反応容器6の洗浄に移行することが望ましい。
【0078】
以上説明したように、本実施例の化学分析装置では、分析部(攪拌制御部1)は、予め設定された電気インピーダンスと液面高さの関係に基づいて圧電素子4の故障診断を行う。
【0079】
本実施例の化学分析装置及び化学分析方法によれば、圧電素子4の電気インピーダンスを測定し、測定値を処理することで、反応液7の有無を確認するセンサや目視等の手段を使用することなく反応液7の有無および液面高さを推定することが可能になる。さらに、超音波素子である圧電素子4の異常診断を簡便に行うことが可能となる。
【0080】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…攪拌制御部
2…電源部
3…電極セレクタ
4…圧電素子
5…電極
6…反応容器
7…反応液
8…超音波伝播媒体
9…検出部
10…記録部
11…検体架設部
12…試薬格納部
13…反応部
14…攪拌部
15…測定部
16…洗浄部
17…被測定検体
18…検体分注機構
19…試薬分注機構
20…検体吐出位置
21…試薬吐出位置
22…攪拌位置
23…分析装置制御部
図1
図2
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図8