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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097919
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】発電素子及び積層体
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/434 20210101AFI20230703BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20230703BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20230703BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230703BHJP
   H01M 6/04 20060101ALI20230703BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20230703BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20230703BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20230703BHJP
   H01M 6/12 20060101ALI20230703BHJP
   H01M 4/42 20060101ALN20230703BHJP
   H01M 4/46 20060101ALN20230703BHJP
   H01M 4/50 20100101ALN20230703BHJP
【FI】
H01M50/434
H01G11/36
H01G11/30
H01G11/52
H01M6/04
H01M50/44
H01M4/06 B
H01M4/06 Q
H01M4/583
H01M6/12 Z
H01M4/42
H01M4/46
H01M4/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214298
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】内田 秀樹
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AB01
5E078BA15
5E078BA30
5E078BA38
5E078CA07
5E078CA08
5H021CC01
5H021EE22
5H021HH03
5H024AA01
5H024AA11
5H024AA14
5H024DD09
5H024FF01
5H050AA02
5H050BA02
5H050CA14
5H050CB12
5H050CB13
5H050DA19
5H050EA11
5H050EA23
5H050FA02
(57)【要約】
【課題】電流値の低下を長時間抑制できる発電素子の提供。
【解決手段】本発明は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に位置する媒体層と、を備える、発電素子であって、前記正極層が、ナノカーボン材料を含み、前記負極層が、金属を含み、前記媒体層が、前記正極層と前記負極層とを媒介する電解液と、セパレータとを含み、前記セパレータが、無機酸化物材料を含む、発電素子である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、
負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に位置する媒体層と、
を備える、発電素子であって、
前記正極層が、ナノカーボン材料を含み、
前記負極層が、金属を含み、
前記媒体層が、前記正極層と前記負極層とを媒介する電解液と、セパレータとを含み、
前記セパレータが、無機酸化物材料を含む、発電素子。
【請求項2】
前記ナノカーボン材料が、カーボンナノチューブである、請求項1に記載の発電素子。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブである、請求項2に記載の発電素子。
【請求項4】
前記正極層が、シート状構造体である、請求項1~3の何れかに記載の発電素子。
【請求項5】
前記シート状構造体が、バインダーを含まない、請求項4に記載の発電素子。
【請求項6】
前記媒体層の厚みが、0.5mm以下である、請求項1~5の何れかに記載の発電素子。
【請求項7】
前記無機酸化物材料が、繊維状構造体である、請求項1~6の何れかに記載の発電素子。
【請求項8】
前記無機酸化物材料が、アルミナである、請求項1~7の何れかに記載の発電素子。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載の発電素子に用いられる、積層体であって、
正極層と、セパレータと、負極層とをこの順に積層して備え、
前記正極層が、ナノカーボン材料を含み、
前記負極層が、金属を含み、
前記セパレータが、無機酸化物材料を含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電素子及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属のイオン化傾向の差異を利用して2つの金属板の間に電位差を発生させて電流を供給する電池等の発電素子が知られている。例えば、硫酸液の中に正極として銅板、負極として亜鉛板を入れると、正負両極間に電位差が発生する。かかる電池は、ボルタ電池として知られている。
【0003】
また、例えば特許文献1では、イオン化傾向に差を有する金属からなるプラス電極及びマイナス電極を水中に所定間隔をおいて浸漬し、これを発電素子としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3132910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、発電素子としては、継続使用による電流値の低下が長時間抑制されるものが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、所定の材料を含む、正極層と負極層との間に、無機酸化物材料を含むセパレータを用いることにより、発電素子の継続使用による電流値の低下が効果的に抑制されることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、この発明は上記課題を解決することを目的とするものであり、本発明は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に位置する媒体層と、を備える、発電素子であって、前記正極層が、ナノカーボン材料を含み、前記負極層が、金属を含み、前記媒体層が、前記正極層と前記負極層とを媒介する電解液と、セパレータとを含み、前記セパレータが、無機酸化物材料を含む、発電素子である。
上記した発電素子であれば、電流値の低下を長時間抑制できる。なお、本明細書において、「発電」とは、電気又は電流を発生させることを意味する。
【0008】
本発明の発電素子において、前記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブであることが好ましい。
ナノカーボン材料がカーボンナノチューブであれば、発電素子の電流値を向上できる。
【0009】
本発明の発電素子において、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであることが好ましい。
カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであれば、発電素子の電流値をより向上できる。
【0010】
本発明の発電素子において、前記正極層は、シート状構造体であることが好ましい。
正極層がシート状構造体であれば、発電素子を容易に製造できる。
【0011】
本発明の発電素子において、前記シート状構造体は、バインダーを含まないことが好ましい。
シート状構造体がバインダーを含まなければ、シート状構造体の内部抵抗を低減できる。
本明細書において、「バインダーを含まない」とは、質量分析クロマトグラフィー等の分析法を用いてバインダーの含有量を測定した際に、バインダー成分が検出されないことを意味する。
【0012】
本発明の発電素子において、媒体層の厚みは、0.5mm以下であることが好ましい。
前記媒体層の厚みが上記上限以下であれば、電極間において電子の授受が迅速に行われ、発電素子の電流値を向上できる。
【0013】
本発明の発電素子において、前記無機酸化物材料は、繊維状構造体であることが好ましい。
無機酸化物材料が繊維状構造体であれば、発電素子の電流値の低下をより長時間抑制できる。また、無機酸化物材料が繊維状構造体であれば、正極層と負極層との間に電解液を均一に分散できる。
【0014】
本発明の発電素子において、前記無機酸化物材料は、アルミナであることが好ましい。
無機酸化物材料がアルミナであれば、発電素子の電流値の低下をより長時間抑制できる。
【0015】
また、本発明は、上記発電素子に用いられる、積層体であって、正極層と、セパレータと、負極層とをこの順に積層して備え、前記正極層が、ナノカーボン材料を含み、前記負極層が、金属を含み、前記セパレータが、無機酸化物材料を含む、積層体である。
上記積層体であれば、外装に収容して電解液を充填することや、セパレータを電解液に浸漬することで容易に本発明の発電素子を作製できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電流値の低下を長時間抑制できる発電素子を提供できる。
また、本発明によれば、上記発電素子に用いられる積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の発電素子の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の発電素子の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで本発明の発電素子は、電流値の低下を長時間抑制できるため、長寿命の電池として特に有用である。なお、本発明の発電素子は、後述する積層体を外装に収容して電解液を充填することや、積層体が備えるセパレータを電解液に浸漬すること等により製造できる。
【0019】
(発電素子)
本発明の発電素子は、正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に位置する媒体層と、を備える。即ち、発電素子は、正極層と、媒体層と、負極層とをこの順に積層して備える。そして、媒体層は、正極層と負極層とを媒介する電解液と、セパレータとを含む。
ここで、正極層と負極層とは、互いに非接触である。「非接触」とは、正極層と負極層とが直接接触していない状態を意味する。
【0020】
本発明の発電素子は、各層同士を固定するために、正極層と、媒体層と、負極層とを収容する外装を備えてもよい。
例えば、図1に例示されるように、発電素子10は、正極層11と、媒体層13と、負極層12とをこの順に積層して備え、これらの層が外装14,15に収容されていてもよい。ここで、図1において、外装14と外装15との間の接触部分は電解液が漏れ出さないように接着されている。そして、このような構成とすることで、各層同士を十分に固定できる。
なお、正極層11と外装14との間の接触部分、及び負極層12と外装15との間の接触部分は、接着されていても、接着されていなくてもよい。更に、図示しないが、発電素子10は、外装14,15の外側の配線との接続を容易にするために、正極層11及び負極層12とそれぞれ接触し、且つ、外装14,15の外側まで伸びる金属箔等を更に備えてもよい。このような金属箔等は、例えば、外装14と外装15との間を通って外側に出すことができる。
【0021】
図1に例示されるような外装を用いる以外に各層同士を固定する方法としては、例えば、両面テープ等を層の表面の一部に貼り付け、この層と他の層とを両面テープ等を介して貼り合わせて固定する方法等が挙げられる。なお、このような固定方法によれば、例えば、一方の表面側のみに外装が設けられた発電素子を得ることができる。
【0022】
また、本発明の発電素子は、正極層と、セパレータと、負極層とを収容する容器を備え、これらの層が容器中に満たされている電解液に浸漬していてもよい。ここで、電解液に浸漬しているセパレータは、本発明の発電素子の媒体層を構成している。
例えば、図2に例示されるように、発電素子10は、正極層11と、セパレータ18と、負極層12とをこの順に積層して備え、正極層11と、セパレータ18と、負極層12とは、容器16に収容され、且つ、容器16中の電解液17に浸漬していてもよい。図2において、電解液17に浸漬しているセパレータ18は媒体層13を構成している。
ここで、図示しないが、各層間を固定するために、両面テープ等を用いて各層を貼り合わせてもよい。また、少なくともセパレータ18が電解液17に浸漬していれば、各層間を固定するために、正極層11と、セパレータ18と、負極層12とを外装14,15に収容してもよい。例えば、図1における外装14と外装15との接着部分の一部を開放させて、セパレータ(媒体層13)が露出したものを電解液17に浸漬させてもよい。
なお、図2において容器16は開放系であるが、密閉系でもよい。
【0023】
<正極層>
正極層はナノカーボン材料を含む。正極層に含まれるナノカーボン材料は正極活物質として機能し得る。
【0024】
ナノカーボン材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェンシート、カーボンナノホーン、ナノグラフェン等が挙げられる。これらの中でも、正極層の表面積が大きくなり、ナノカーボン材料に起因する化学反応等が正極層の界面において多く発生し、その結果、発電素子の電流値を向上できることから、カーボンナノチューブが好ましい。
【0025】
ここで、カーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する場合がある。)は、グラフェンシートが筒形に巻かれた構造を有するナノカーボン材料であり、その周壁の構成数から単層CNTと多層CNTとに大別される。CNTは、配合量が少量であっても比表面積が大きくなり、ナノカーボン材料に起因する化学反応等が正極層の界面においてより多く発生し、その結果、発電素子の電流値をより向上できることから、単層CNTであることが好ましい。
【0026】
CNTの平均直径は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
CNTの平均直径が上記下限以上であれば、正極層に電解液が含侵し易くなり、ナノカーボン材料に起因する化学反応等が正極層の界面において多く発生し、発電素子の電流値をより向上できる。一方、CNTの平均直径が上記上限以下であれば、正極層の表面積が大きくなり、ナノカーボン材料に起因する化学反応等が正極層の界面において多く発生し、その結果、発電素子の電流値をより向上できる。
【0027】
CNTは、平均直径(Av)と直径の標準偏差(3σ)とが、関係式:0.60>「3σ/Av」>0.20を満たすことが好ましい。ここで言う「平均直径(Av)」、「直径分布(3σ)」は、それぞれ透過型電子顕微鏡で無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定した際の平均値、並びに標準偏差(σ)に3を乗じたものである。なお、本明細書における標準偏差は、標本標準偏差である。
上記関係式を満たすCNTを使用することで、電極層の耐屈曲性を向上できると共に、発電素子の電流値をより向上できる。
上記関係式を満たすCNTは、CNTの製造方法や製造条件を変更することや、異なる製法で得られた複数種類のCNTを組み合わせることにより作製できる。
【0028】
CNTのBET比表面積は、600m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、1000m/g以上であることが更に好ましい。
CNTのBET比表面積が上記下限以上であれば、正極層の耐屈曲性を更に向上させることができると共に、発電素子の電流値をより向上できる。
CNTのBET比表面積は、例えば2600m/g以下であり、2000m/g以下でもよい。
本明細書において、CNTのBET比表面積は、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積である。なお、上記BET比表面積を有するCNTは、スーパーグロース法(国際公開第2006/011655号参照)等を用いて製造できる。
【0029】
CNTは、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が、0.5以上であることが好ましく、5.0以下であることが好ましい。
上記バンドピークを有するCNTは、スーパーグロース法(国際公開第2006/011655号参照)等を用いて製造できる。
【0030】
正極層におけるナノカーボン材料の含有割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが更により好ましい。
正極層におけるナノカーボン材料の含有割合が、上記下限以上であれば、発電素子の電流値を向上できる。
【0031】
正極層は、カーボンナノ材料と、カーボンナノ材料とは異なる他の材料とが複合化されたものとすることができる。カーボンナノ材料とは異なる他の材料としては、バインダー、イオン含有材料、或いは、金属及び/又は金属含有材料が挙げられる。
【0032】
バインダーとしては、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂等の一般的な樹脂が挙げられる。
【0033】
イオン含有材料としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、ナノカーボン材料内に内在するイオン濃度、更には電荷密度を大きくすることができ、その結果、発電素子の電流値を向上できることから、アニオン系界面活性剤が好ましい。また、イオン含有材料がアニオン系界面活性剤であれば、イオン化ポテンシャルが変わり電位も大きくなることがある。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0034】
アニオン系界面活性剤等のイオン含有材料の添加量は、ナノカーボン材料100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、300質量部以上であることがより好ましく、2000質量部以下であることが好ましく、1000質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
金属及び/又は金属含有材料としては、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、白金、スズ、チタン、ステンレス、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、又は、その他上述の金属夫々の酸化物等から適宜選択して用いることができる。
【0036】
金属及び/又は金属含有材料の添加量は、ナノカーボン材料100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、ナノカーボン材料100質量部に対して、1000質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましい。
【0037】
正極層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、ナノカーボン材料と、溶媒と、任意で、上記したカーボンナノ材料とは異なる他の材料と、を混合して分散液を調製し、分散液から濾過等により溶媒を除去してシート状の正極層を形成する方法、上記分散液を調製し、分散液を基板上に塗布し、乾燥させてナノカーボン材料の塗膜状の正極層を形成する方法等が挙げられる。なお、分散液の塗布方法としては、特に限定されないが、スプレー、印刷、ディスペンサー等の方法が挙げられる。
正極層としては、取り扱いが容易であり、発電素子を容易に製造できることから、シート状構造体を用いることが好ましい。
【0038】
正極層がシート状構造体である場合、シート状構造体はバインダーを含まないことが好ましい。バインダーとして用いられる樹脂は内部抵抗を向上させ得るため、シート状構造体がバインダーを含まなければ、シート状構造体の内部抵抗を低減できる。
【0039】
ナノカーボン材料を分散させる溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
正極層は、電解液をより含侵できることから、多孔質性を有することが好ましい。正極層の空隙率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
正極層の空隙率が上記下限以上であれば、正極層に電解液がより含侵し易くなり、ナノカーボン材料に起因する化学反応等が正極層の界面においてより多く発生し、その結果、発電素子の電流値をより向上できる。
正極層の空隙率は、例えば95%以下であり、90%以下でもよい。
上記空隙率を有する正極層は、特に限定されないが、例えば、正極層がシート状構造体の場合には、分散液の濾過条件を調整することによって形成できる。
なお、正極層の空隙率は、例えば、正極層の断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、その断面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察し、得られたC元素の可視化像からSEM観察画像中のC元素の位置を特定し、視野全体におけるC元素の占有率(A)を算出して、下記式(1)により求めることができる。
空隙率(%)=100-A (1)
【0041】
正極層の厚みは、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
正極層の厚みが上記下限以上であれば、正極層が破れることを抑制できる。一方、正極層の厚みが上記上限以下であれば、正極層が固くなって割れることを抑制できる。そして、正極層の厚みが上記範囲内であれば、正極層の破れ及び割れを抑制でき、その結果、発電素子を容易に製造できる。
【0042】
<負極層>
負極層は金属を含む。負極層に含まれる金属は、負極活物質として機能する。このような金属としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、2種以上を併用して合金化してもよい。これらの中でも、発電素子の電流値を向上でき、且つ、金属としては非常に柔らかく、加工が容易であり、その結果、発電素子を容易に製造できることから、亜鉛が好ましい。このような負極層としては、亜鉛箔等を用いることができる。なお、負極層が亜鉛を含む場合、負極層では、下記式(2)で示される化学反応が起こり得る。
Zn+4OH→[Zn(OH)2-+2e (2)
【0043】
負極層における金属の含有割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが更により好ましい。
負極層における金属の含有割合が、上記下限以上であれば、発電素子の電流値を向上できる。
【0044】
負極層の厚みは、例えば、5μm以上500μm以下である。
【0045】
<媒体層>
媒体層は、正極層と負極層とを媒介する電解液と、セパレータとを含む。そして、セパレータは無機酸化物材料を含む。本発明の発電素子は、驚くべきことに、セパレータが無機酸化物材料を含むことにより、発電素子の電流値の低下を長時間抑制できる。その理由は定かではないが、以下の実施例において、無機酸化物材料を含むセパレータを発電素子に用いた場合に、正極層と、媒体層と、負極層とを浸漬させた電解液の白濁が抑制されたことから、無機酸化物材料が、各電極での化学反応(例えば、以下の実施例の場合では、上記式(2)の化学反応)によって発生した生成物(浮遊物)を吸着するため、電流値の低下を長時間抑制できると考えられる。
【0046】
無機酸化物材料としては、特に限定されないが、アルミナ(酸化アルミニウム)、マグネシア(酸化マグネシウム)、シリカ(酸化ケイ素)、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、吸着性能に優れ、電流値の低下をより長時間抑制できることから、アルミナが好ましい。
【0047】
無機酸化物材料は繊維状構造体であることが好ましい。無機酸化物材料が繊維状構造体であれば、セパレータの表面積が大きくなり、各電極層での化学反応によって発生した生成物をより吸着でき、その結果、発電素子の電流値の低下をより長時間抑制できる。また、無機酸化物材料が繊維状構造体であれば、セパレータに電解液を良好に含侵でき、その結果、正極層と負極層との間に電解液を均一に分散できる。
無機酸化物材料が繊維状構造体のセパレータとしては、セパレータの表面積がより大きくなることから、無機酸化物材料の繊維シートを用いることが好ましい。
【0048】
媒体層に含まれる電解液としては、特に限定されないが、例えば、水系電解液が挙げられる。また、水系電解液としては、水、酸電解液、アルカリ電解液等が挙げられる。これらの中でも、発電素子の取り扱いが容易となることから、水が好ましい。
本明細書において、電解液として用いられる「水」とは、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水等を意味する。このような水の電気伝導率は、例えば10mS/cm以下であり、1mS/cm以下であることが好ましく、500μS/cm以下であることがより好ましく、300μS/cm以下であることが更に好ましい。
【0049】
媒体層の厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以下であることが好ましい。
媒体層の厚みが上記下限以上であれば、正極層と負極層との間の距離を保つことができ、デンドライトの発生による発電素子のショートを抑制できる。一方、媒体層の厚みが上記上限以下であれば、電極間において電子の授受が迅速に行われ、発電素子の電流値を向上できる。
なお、媒体層がセパレータに電解液を含侵させたものである場合、媒体層の厚みはセパレータの厚みと等しくてもよい。
【0050】
<外装>
外装としては、例えば、樹脂シート、樹脂テープ等を用いることができる。例えば、製品の包装等に一般的に用いられる樹脂シート、樹脂テープ等を用いてもよい。これらの外装に用いられる樹脂としては、例えば、ポリイミド等が挙げられる。
【0051】
<容器>
容器の材料及び形状は、電解液で満たせるものであれば特に限定されない。容器としては、ガラスビーカー等の開放系の容器や、蓋付容器等の密閉系の容器を用いることができる。
なお、容器内に満たされている電解液は、媒体層に含まれる電解液と同一のものである。
【0052】
(積層体)
本発明の積層体は、上記した発電素子に用いられるものであり、正極層と、セパレータと、負極層とをこの順に積層して備え、正極層がナノカーボン材料を含み、負極層が金属を含み、セパレータが無機酸化物材料を含むものである。本発明の積層体は、各層間が、両面テープ等を介して貼り合わせて固定されていてもよい。
上記積層体であれば、外装に収容して電解液を充填することや、セパレータを電解液に浸漬することで容易に本発明の発電素子を作製できる。
なお、積層体が備える正極層、セパレータ及び負極層としては、上記した発電素子が備える正極層、セパレータ及び負極層と同様のものを用いることができる。
【実施例0053】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
なお、実施例及び比較例において、各種の測定は以下の方法に従って行った。
【0054】
<電流値及び電圧値の測定>
実施例及び比較例で製造した発電素子(ビーカー中の水に浸漬している状態)を用いて、25℃において、電流値及び電圧値をそれぞれ300時間(hr)測定し、初期(0hr)、30hr、70hr、100hr、150hr、180hr、終了時(300hr)の電流値及び電圧値を確認した。
【0055】
(実施例1)
<シート状構造体の作製>
CNT(ゼオンテクノロジー株式会社製、ZEONANO(登録商標)、SG101、BET比表面積:1,000m/g以上)100部に、溶媒として20000部のエタノールを添加し、これを撹拌した。得られた分散液を、メンブレンフィルター(アドバンテック社製、商品名:T010A090C、口径:0.1μm、直径:90mm)を用いて吸引濾過を行った。メンブレンフィルター状に得られた濾物を1Lのエタノールで洗浄した。洗浄後の濾物を十分に室温で乾燥させた後、更に真空乾燥を用い、80℃で2時間乾燥させて、厚み50μmのCNTのシート状構造体を得た。
シート状構造体を縦30mm×横10mmにカットし、以下の積層体の製造に用いた。
【0056】
<積層体の製造>
外装として縦40mm×横30mmのポリイミドシート、セパレータとして縦30mm×横20mm×厚み0.5mmのアルミナシート(株式会社巴川製作所製、アルミナ繊維ペーパー)、及び負極層として縦30mm×横10mm×厚み0.05mmの亜鉛箔を準備した。
まず、ポリイミドシート及び亜鉛箔の縦方向の上端を揃え、ポリイミドシート及び亜鉛箔の横方向の中心が重なるようにして、亜鉛箔をポリイミドシートの表面に両面テープを用いて固定した。なお、ポリイミドシートの縦方向の下端側には、幅10mmの余白部分(ポリイミドシートのみの部分)が残っていた。
次いで、亜鉛箔の上端から縦方向に5mmずらし、亜鉛箔及びアルミナシート横方向の中心が重なるようにして、アルミナシートを亜鉛箔の表面に両面テープを用いて固定した。なお、ポリイミドシートの縦方向の下端側には、まだ幅5mmの余白部分(ポリイミドシートのみの部分)が残っていた。
次いで、長さ30mm×幅5mmのポリイミドテープを、幅5mmの余白部分にはみ出ないようにして2重に貼り付けて、亜鉛箔及びアルミナシートの厚みによる段差を軽減させた。
次いで、アルミナシートの上端から縦方向に5mm(即ち、亜鉛箔の上端から縦方向に10mm)ずらし、アルミナシート及びシート状構造体の横方向の中心が重なるようにして、シート状構造体をアルミナシートの表面に両面テープを用いて固定した。これにより、正極層(CNTのシート状構造体)と、セパレータ(アルミナシート)と、負極層(亜鉛箔)と、ポリイミドシート(外装)とがこの順に積層された積層体を得た。
【0057】
<発電素子の製造>
得られた積層体をビーカーに入れ、このビーカーに下端から3cmの高さまで電解液として水道水を入れ、積層体のアルミナシートを水道水に浸漬した。これにより、正極層(CNTのシート状構造体)と、媒体層(電解液が含侵したセパレータ)と、負極層(亜鉛箔)と、ポリイミドシート(外装)とがこの順に積層された発電素子を得た。
得られた発電素子について電流値及び電圧値を測定した。結果を表1に示す。また、電流値及び電圧値の測定終了時(測定開始から300hr後)の電解液の状態を目視で確認したところ、電解液は無色透明であった。
【0058】
(比較例1)
セパレータとして、縦30mm×横20mm×厚み0.5mmのナイロン樹脂からなるメッシュネット(アズワン株式会社製、型番:3-3069-19)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、各種操作及び測定を行った。
なお、電流値及び電圧値の測定終了時の電解液の状態を目視で確認したところ、電解液には浮遊物が存在し、少し白濁していた。
【0059】
(比較例2)
セパレータとして、縦30mm×横20mm×厚み0.5mmのセルロース製不織布(旭化成株式会社製、BEMCOT(登録商標)M-2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、各種操作及び測定を行った。
なお、電流値及び電圧値の測定終了時の電解液の状態を目視で確認したところ、電解液には浮遊物が存在し、少し白濁していた。
【0060】
【表1】
【0061】
表1からも明らかなように、実施例1の発電素子は、電流値の低下を長時間抑制できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、電流値の低下を長時間抑制できる発電素子を提供できる。
また、本発明によれば、上記発電素子に用いられる積層体を提供できる。
【符号の説明】
【0063】
10:発電素子
11:正極層
12:負極層
13:媒体層
14,15:外装
16:容器
17:電解液
18:セパレータ
図1
図2