(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097954
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H04R 17/02 20060101AFI20230703BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20230703BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20230703BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20230703BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H04R17/02
H01L41/187
H01L41/047
H01L41/29
H04R17/00 330H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214371
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
(72)【発明者】
【氏名】池上 尚克
(72)【発明者】
【氏名】片上 崇治
【テーマコード(参考)】
5D004
5D019
【Fターム(参考)】
5D004AA01
5D004BB00
5D004CC01
5D004DD03
5D004FF01
5D019AA21
5D019BB01
5D019BB12
5D019BB25
5D019BB30
(57)【要約】
【課題】圧電膜の誘電正接を低減可能な圧電素子を提供すること。
【解決手段】
圧電素子は、支持面121を有する支持体10と、支持面に設けられる振動部20と、を備える。振動部は、支持体と振動部との積層方向において並んで設けられる第1電極61、圧電膜50および第2電極62を有するとともに、第1電極と第2電極との間の電気抵抗値を増大させる絶縁膜80を有する。第1電極は、支持面に設けられるとともに、積層方向に貫通して形成される開口部612および支持面側とは反対側に形成される第1電極面611を有する。圧電膜は、第1電極面において開口部を跨って設けられるとともに、第1電極面側とは反対側に形成される圧電膜面501を有する。第2電極は、圧電膜面に設けられる。絶縁膜は、第1電極と第2電極との間であって、積層方向において少なくとも一部が開口部と重なる位置に設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子であって、
支持面(121)を有する支持体(10)と、
前記支持面に設けられる振動部(20)と、を備え、
前記振動部は、前記支持体と前記振動部との積層方向において並んで設けられる第1電極(61)、圧電膜(50)および第2電極(62)を有するとともに、前記第1電極と前記第2電極との間の電気抵抗値を増大させる絶縁部(80)を有し、
前記第1電極は、前記支持面に設けられるとともに、前記積層方向に貫通して形成される開口部(612)および前記支持面側とは反対側に形成される第1電極面(611)を有し、
前記圧電膜は、前記第1電極面において前記開口部を跨って設けられるとともに、前記第1電極面側とは反対側に形成される圧電膜面(501)を有し、
前記第2電極は、前記圧電膜面に設けられており、
前記絶縁部は、前記第1電極と前記第2電極との間であって、前記積層方向において少なくとも一部が前記開口部と重なる位置に設けられる圧電素子。
【請求項2】
前記絶縁部は、前記圧電膜面に設けられ、
前記第2電極は、前記絶縁部を跨って前記圧電膜面に設けられる請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記圧電膜は、前記積層方向に互いに並んで形成される第1圧電膜(51)および第2圧電膜(52)を有し、
前記第1圧電膜は、前記第1電極面に設けられるとともに、前記第1電極面側とは反対側に形成される第1圧電膜面(511)を有し、
前記絶縁部は、前記第1圧電膜面に設けられるとともに、前記開口部を通過して前記積層方向に切ったときの所定の断面において、前記開口部の全部と前記積層方向において重なっており、
前記第2圧電膜は、前記絶縁部を跨って前記第1圧電膜面に設けられる請求項1に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第1圧電膜および前記第2圧電膜は、スカンジウムを含んで構成されるとともに、前記第1圧電膜の単位質量当たりのスカンジウムの量が前記第2圧電膜の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少ない請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電膜は、前記積層方向に互いに並んで形成される第1圧電膜(51)と、第2圧電膜(53)と、第3圧電膜(52)と、を有し、
前記第1圧電膜は、前記第1電極面に設けられるとともに、前記第1電極面側とは反対側に形成される第1圧電膜面(511)を有し、
前記絶縁部は、前記第1圧電膜面に設けられるとともに、前記開口部を通過して前記積層方向に切ったときの所定の断面において、前記開口部の全部と前記積層方向において重なっており、
前記第2圧電膜は、前記絶縁部を跨って前記第1圧電膜面に設けられるとともに、前記第1圧電膜面側とは反対側に形成される第2圧電膜面(513)を有し、
前記第3圧電膜は、前記第2圧電膜面に設けられる請求項1に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記第1圧電膜、前記第2圧電膜および前記第3圧電膜は、スカンジウムを含んで構成されるとともに、前記第1圧電膜の単位質量当たりのスカンジウムの量が、前記第2圧電膜および前記第3圧電膜の少なくともどちらか一方の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少ない請求項5に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記第1圧電膜は、前記第1圧電膜面が前記第1電極面に向かって窪んで構成される圧電膜空間(512)を形成する圧電膜窪部(513)を有し、
前記絶縁部は、前記圧電膜空間に設けられるとともに、前記圧電膜窪部側とは反対側に形成される絶縁面(80d)が、前記第1圧電膜面における前記圧電膜窪部とは異なる面と連続した平面を形成する請求項3ないし6のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項8】
前記絶縁部は、前記所定の断面における前記積層方向に直交する断面幅方向の一方側に、前記積層方向において前記開口部に重ならない第1拡張部(80a)を有するとともに、前記断面幅方向の他方側に、前記積層方向において前記開口部に重ならない第2拡張部(80b)を有し、
前記第1拡張部および前記第2拡張部は、前記断面幅方向の大きさが、前記絶縁部が設けられる前記圧電膜の前記積層方向の寸法の4倍以上である請求項3ないし7のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項9】
前記第2圧電膜は、結晶構造を有し、
前記絶縁部は、前記第2圧電膜の結晶構造が自己配向可能な部材を含んでいる請求項3ないし8のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項10】
前記絶縁部は、前記支持体とは異なる部材で構成されるとともに、前記開口部が形成される部位に対応する位置に形成されている請求項1ないし9のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項11】
前記絶縁部は、アモルファス構造を有するアモルファス膜を含んでいる請求項1ないし10のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項12】
前記絶縁部は、空隙を含んで構成されている請求項1ないし11のいずれか1つに記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板として機能するプレート状の振動板と、第1電極と、第2電極と、第1電極および第2電極の間に設けられる圧電体層とを備える圧電素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。この圧電素子において、第1電極は、基板の表面である第1の面に窪んで形成される凹部の内部に充填されており、当該第1の面と連続した平面を構成する上面を有する。また、圧電体層は、基板の第1の面および第1電極の上面が構成する連続した平面の上において、基板および第1電極を跨って形成されている。
【0003】
そして、特許文献1には、圧電体層の結晶成長の界面である基板の第1の面および第1電極の上面を連続した平面状に形成することで、圧電体層が結晶化する際の結晶成長が安定することが記載されている。以下、圧電体層を圧電膜とも呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の鋭意検討によれば、基板および電極が連続した平面状に形成されても基板と電極との接続部分では僅かな段差が生じる。このため、基板および電極に跨って圧電膜を形成する際に、基板と電極との接続部分において結晶の異常粒が発生する虞があることが分かった。また、互いに異なる材料で構成される基板および電極に跨って圧電膜を形成する場合、圧電膜の当該跨る部分における結晶の配向性が乱れる虞があることが分かった。
【0006】
これら結晶の異常粒の発生や結晶の配向性の乱れは、圧電膜の誘電正接を悪化させ、圧電素子の感度を悪化させる要因となる。
【0007】
本開示は、圧電膜の誘電正接を低減可能な圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
圧電素子であって、
支持面(121)を有する支持体(10)と、
支持面に設けられる振動部(20)と、を備え、
振動部は、支持体と振動部との積層方向において並んで設けられる第1電極(61)、圧電膜(50)および第2電極(62)を有するとともに、第1電極と第2電極との間の電気抵抗値を増大させる絶縁部(80)を有し、
第1電極は、支持面に設けられるとともに、積層方向に貫通して形成される開口部(612)および支持面側とは反対側に形成される第1電極面(611)を有し、
圧電膜は、第1電極面において開口部を跨って設けられるとともに、第1電極面側とは反対側に形成される圧電膜面(501)を有し、
第2電極は、圧電膜面に設けられており、
絶縁部は、第1電極と第2電極との間であって、積層方向において少なくとも一部が開口部と重なる位置に設けられる。
【0009】
これによれば、積層方向において開口部と重なる位置に設けられる絶縁部によって、第1電極膜と第2電極膜との間の電気抵抗値を増加させることができる。このため、圧電膜における開口部に跨る部位に結晶性の異常が生じる場合であっても、絶縁部が設けられていない場合に比較して圧電膜の誘電正接の悪化を低減することができる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図3】
図1に示す圧電素子の上層電極膜および圧電膜を除いた平面図である。
【
図4】絶縁膜の大きさと電気抵抗値との関係を示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る
図1に相当する図である。
【
図6】第2実施形態の第1の変形例に係る
図1に相当する図である。
【
図7】第2実施形態の第3の変形例に係る
図1に相当する図である。
【
図8】第3実施形態に係る
図1に相当する図である。
【
図9】第4実施形態に係る
図1に相当する図である。
【
図10】第4実施形態の第1の変形例に係る
図1に相当する図である。
【
図11】第5実施形態に係る
図1に相当する図である。
【
図12】第5実施形態の変形例に係る
図1に相当する図である。
【
図13】その他の実施形態に係る
図1に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の圧電素子1について、
図1~
図4を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の圧電素子1は、例えば、マイクロフォンとして利用されると好適である。
【0014】
本実施形態の圧電素子1は、
図1~
図3に示すように、支持体10と、支持体10の上に形成される振動部20とを備えている。以下、支持体10と振動部20とが連なる方向を積層方向D1とも呼ぶ。
【0015】
支持体10は、積層方向D1に並んで形成される支持基板11および絶縁層12を有する。支持基板11は、例えば、シリコン基板等で構成されている。絶縁層12は、支持基板11上に形成され、例えば、酸化膜等で構成されている。絶縁層12は、振動部20が配置される支持面121を有する。
【0016】
振動部20は、音圧等の圧力に応じた圧力検出信号を出力するセンシング部30を構成するものであり、支持面121上に配置されている。そして、支持体10には、振動部20における内縁側を浮遊させるための凹部10aが形成されている。このため、振動部20は、支持面121上に配置された支持領域21aと、支持領域21aと繋がっているとともに凹部10a上で浮遊する浮遊領域21bとを有する構成となっている。なお、凹部10aは、振動部20側の開口端の形状が平面略矩形状とされている。したがって、浮遊領域21bは、平面略矩形状とされている。
【0017】
浮遊領域21bには、
図2および
図3に示すように、当該浮遊領域21bを積層方向D1に貫通する分離用スリット40が形成されている。本実施形態の分離用スリット40は、浮遊領域21bを4分割するように形成されている。詳しくは、分離用スリット40は、浮遊領域21bの中心部Cを通り、浮遊領域21bの相対する角部に向かって延設されるように、2本形成されている。言い換えると、分離用スリット40は、平面略矩形状とされた浮遊領域21bの各角部から中心部Cに向かって延設されるとともに、中心部Cにて各分離用スリット40が交差するように形成されている。
【0018】
これにより、浮遊領域21bは、平面略三角形状とされた第1振動領域22a~第4振動領域22dに分離されている。具体的には、浮遊領域21bは、浮遊領域21bの中心部Cに向かって延びる長さが等しい2つの辺および当該2つの辺に連なる底辺を有する平面略二等辺三角形状の第1振動領域22a~第4振動領域22dによって構成されている。
【0019】
特に限定されるものではないが、本実施形態では、第1振動領域22a~第4振動領域22d同士の間隔、すなわち分離用スリット40の幅が1μm程度とされている。また、本実施形態の分離用スリット40は、浮遊領域21b内で終端するように形成されているが、支持領域21aまで延設されていてもよい。
【0020】
そして、第1振動領域22a~第4振動領域22dは、上記の構成とされることにより、支持領域21a側の端部が固定端とされ、支持領域21aと反対側の先端部が自由端とされたカンチレバーとされている。すなわち、第1振動領域22a~第4振動領域22dは、支持領域21aと繋がった状態となっているとともに、片持ち支持された状態となっている。以下、第1振動領域22a~第4振動領域22dにおける固定端側を第1領域R1、自由端側が第2領域R2とも呼ぶ。
【0021】
振動部20は、シード層31、圧電膜50および圧電膜50と接続される電極膜60を有する。シード層31は、支持面121上に形成され、例えば、薄膜形状の窒化アルミニウム、すなわちAlNなどによって構成される。
【0022】
電極膜60は、下層電極膜61および上層電極膜62を有する。振動部20は、圧電膜50の浮遊領域21bに位置付けられる部位が下層電極膜61および上層電極膜62に挟み込まれた状態となっている。また、下層電極膜61は、シード層31を介して支持面121上に形成されている。下層電極膜61は、支持面121側とは反対側に下層電極面611を有する。
【0023】
上層電極膜62は、圧電膜50上に形成されている。圧電膜50は、下層電極面611側とは反対側に、上層電極膜62が設けられる圧電膜面501を有する。換言すれば、上層電極膜62は、圧電膜面501上に形成されている。
【0024】
また、振動部20は、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値を増大させる後述の絶縁膜80を有する。絶縁膜80は、下層電極膜61と上層電極膜62との間に設けられている。下層電極膜61は、第1電極に対応し、下層電極面611は第1電極面に対応し、上層電極膜62は、第2電極に対応し、絶縁膜80が絶縁部に対応する。
【0025】
下層電極膜61および上層電極膜62は、エッチング法によって成膜されており、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成されている。また、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される下層電極膜61および上層電極膜62は、平面略三角形状とされた第1振動領域22a~第4振動領域22dに対応する形状で形成されている。すなわち、下層電極膜61および上層電極膜62は、平面略三角形状で形成されており、当該三角形状の面積が第1振動領域22a~第4振動領域22dの面積より小さく形成されている。また、下層電極膜61および上層電極膜62は、積層方向D1において、少なくとも互いの一部が重なっている。本実施形態の下層電極膜61および上層電極膜62は、積層方向D1において互いの全てが重なっており、外縁が略同じ形状で形成されている。
【0026】
そして、本実施形態の下層電極膜61および上層電極膜62は、第1振動領域22a~第4振動領域22dにおける第1領域R1および第2領域R2のそれぞれに形成されている。また、第1領域R1に形成された下層電極膜61および上層電極膜62は、支持領域21aまで延設されていない。なお、第1領域R1に形成された下層電極膜61および上層電極膜62は、支持領域21aまで延設されて形成されていてもよい。下層電極膜61および上層電極膜62は、不図示の電気配線を介し、
図2に示した支持領域21aに設けられる電極部70に接続されている。
【0027】
第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される下層電極膜61および上層電極膜62は、基本的な構成が互いに等しい。また、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれの下層電極膜61と上層電極膜62との間に形成される絶縁膜80は、基本的な構成が互いに等しい。このため、以下では、第1振動領域22aに形成される下層電極膜61、上層電極膜62、絶縁膜80の詳細について説明し、第2振動領域22b~第4振動領域22dに形成される下層電極膜61、上層電極膜62、絶縁膜80の詳細な説明を省略する場合がある。
【0028】
本実施形態の下層電極膜61は、
図3に示すように、複数に分割されている。また、上層電極膜62は、
図2に示すように、複数に分割されている。
【0029】
具体的には、下層電極膜61は、
図3に示すように、下層第1スリット612によって、平面略二等辺三角形状の下層内側電極膜61aと、平面略台形状の下層外側電極膜61bとの2つに分割されている。さらに、平面略台形状の下層外側電極膜61bは、2つの下層第2スリット613によって、互いに異なる形状の3つの平面略台形状に分割されている。下層第1スリット612および下層第2スリット613は、下層電極膜61を積層方向D1に貫通して形成されている。
【0030】
下層第1スリット612は、平面略二等辺三角形状の下層電極膜61における底辺が延びる方向に沿って形成されている。すなわち、下層第1スリット612は、積層方向D1に直交する平面において、第1振動領域22aの底辺の中央から中心部Cに向かう方向に直交する方向に沿って形成されている。以下、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれの下層第1スリット612が延びる方向をスリット方向D2、スリット方向D2および積層方向D1に直交する方向をスリット幅方向D3とも呼ぶ。下層第1スリット612は開口部に対応し、スリット幅方向D3は断面幅方向に対応する。
【0031】
また、2つの下層第2スリット613は、平面略二等辺三角形状の下層電極膜61における底辺を三等分する2点それぞれから下層内側電極膜61aの略中心に向かって延設されるように形成されている。このように形成される2つの下層第2スリット613は、互いに交差しない。
【0032】
上層電極膜62は、
図2に示すように、上層第1スリット622によって、平面略二等辺三角形状の上層内側電極膜62aと、平面略台形状の上層外側電極膜62bとの2つに分割されている。さらに、平面略台形状の上層外側電極膜62bは、2つの上層第2スリット623によって、互いに異なる形状の3つの平面略台形状に分割されている。上層第1スリット622および上層第2スリット623は、上層電極膜62を積層方向D1に貫通して形成されている。
【0033】
上層第1スリット622は、スリット方向D2に沿って形成されている。すなわち、上層第1スリット622は、積層方向D1に直交する平面において、スリット幅方向D3に直交する方向に沿って形成されている。
【0034】
また、上層第1スリット622は、
図1に示すように、積層方向D1において下層第1スリット612と重ならないように、下層第1スリット612の形成位置に対してスリット幅方向D3にずれて形成されている。具体的には、上層第1スリット622は、下層第1スリット612に比較して支持領域21aに近い位置に形成されている。換言すれば、上層第1スリット622は、下層第1スリット612に比較して浮遊領域21bの中心部Cから離れた位置に形成されている。上層第1スリット622は、上層内側電極膜62aを第2領域R2に位置付けるとともに、上層外側電極膜62bを第1領域R1に位置付ける位置に形成されている。
【0035】
また、2つの上層第2スリット623は、平面略二等辺三角形状の上層電極膜62における底辺を三等分する2点それぞれから上層内側電極膜62aの略中心に向かって延設されるように2本形成されている。このように形成される2つの上層第2スリット623は、互いに交差しない。また、2つの上層第2スリット623は、積層方向D1において下層第2スリット613と重なる位置に形成されている。
【0036】
このように形成される圧電素子1は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおいて、下層内側電極膜61aおよび上層内側電極膜62aが積層方向D1において圧電膜50を介して互いに対向する。また、圧電素子1は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおいて、3つの下層外側電極膜61bおよび3つの上層外側電極膜62bが積層方向D1において圧電膜50を介して互いに対向する。
【0037】
さらに、圧電素子1は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおいて、3つの下層外側電極膜61bの一部および上層内側電極膜62aの一部が積層方向D1において圧電膜50を介して互いに対向する。ただし、圧電素子1は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおいて、下層内側電極膜61aおよび上層外側電極膜62bが積層方向D1において対向しない。
【0038】
本実施形態では、下層内側電極膜61aのスリット幅方向D3における固定端側の端部が上層内側電極膜62aのスリット幅方向D3における固定端側の端部よりも自由端側に位置付けられている。これに対して、下層外側電極膜61bのスリット幅方向D3における自由端側の端部は、上層外側電極膜62bのスリット幅方向D3における自由端側の端部よりも自由端側に位置付けられている。
【0039】
また、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される下層電極膜61は、下層配線部61cを介して互いに電気的に直列に接続されている。また、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される上層電極膜62は、上層配線部62cを介して互いに電気的に直列に接続されている。
【0040】
これにより、浮遊領域21bは、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおいて、下層電極膜61と上層電極膜62との間に容量が構成された状態となる。
【0041】
特に限定されるものではないが、本実施形態では、下層電極膜61および上層電極膜62は、モリブデンで構成されている。なお、下層電極膜61および上層電極膜62は、モリブデンの他に、チタン、プラチナ、アルミニウム、ルテニウム、シリコン等のいずれか1つを主成分とする金属材料を用いて構成されていてもよい。また、下層電極膜61および上層電極膜62を構成するこれらの材料は、絶縁層12よりも圧電膜50に格子状数が近い材料である。
【0042】
圧電膜50は、下層第1スリット612および下層第2スリット613が形成された下層電極膜61の下層電極面611に形成されている。すなわち、圧電膜50は、下層第1スリット612および下層第2スリット613に充填されるとともに、下層第1スリット612および下層第2スリット613を跨って下層電極面611上に形成されている。
【0043】
特に限定されるものではないが、本実施形態では、圧電膜50は、スカンジウムを含んで構成される。例えば、圧電膜50は、窒化スカンジウムアルミニウム、すなわちScAlNで構成される。
【0044】
圧電膜50が窒化スカンジウムアルミニウムで構成される場合、圧電膜50の単位質量当たりに含まれるスカンジウムの質量を多くするほど圧電素子1の音圧の検出感度を向上させ易い。すなわち、窒化スカンジウムアルミニウムで構成される圧電膜50におけるスカンジウムの濃度が高いほど圧電素子1の音圧の検出感度を向上させ易い。このため、本実施形態では、圧電膜50を、比較的スカンジウムの濃度が高い窒化スカンジウムアルミニウムで構成している。
【0045】
また、本実施形態のセンシング部30は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおける電荷の変化を1つの圧力検出信号として出力するように構成されている。つまり、第1振動領域22a~第4振動領域22dは、電気的に直列に接続されている。
【0046】
続いて、絶縁膜80について説明する。本実施形態の絶縁膜80は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される下層電極膜61と上層電極膜62との間であって、積層方向D1において少なくとも一部が下層第1スリット612と重なる位置に設けられている。具体的には、絶縁膜80は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおける下層電極面611から離れた位置において、下層電極面611と上層電極膜62との間に略平面薄膜形状に形成されている。本実施形態では、絶縁膜80は、下層電極面611上に形成された圧電膜50の圧電膜面501上に設けられており、圧電膜50と上層電極膜62との間に挟み込まれている。
【0047】
また、絶縁膜80は、積層方向D1において、下層第1スリット612におけるスリット方向D2の一方側の端部から他方側の端部に至るまで重なる位置に形成されている。さらに、絶縁膜80は、
図1に示すように、積層方向D1に切ったときの断面において、下層第1スリット612の全部と積層方向D1において重なっており、下層第1スリット612を跨って形成されている。換言すれば、絶縁膜80は、積層方向D1から視て、
図1に示す断面において、下層第1スリット612の全部を覆っている。
【0048】
そして、絶縁膜80は、スリット幅方向D3の大きさが、下層第1スリット612におけるスリット幅方向D3の大きさよりも大きく形成されている。ただし、絶縁膜80は、
図1に示す断面において、上層第1スリット622と積層方向D1において重ならない位置に形成されている。
【0049】
ここで、絶縁膜80は、
図1に示す断面におけるスリット幅方向D3の一方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第1拡張部80aを有する。また、絶縁膜80は、
図1に示す断面におけるスリット幅方向D3の他方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第2拡張部80bを有する。
【0050】
第1拡張部80aは、スリット幅方向D3の大きさである第1拡張幅L1が、圧電膜50の積層方向D1の寸法である圧電膜厚tの4倍以上に設定されている。また、第2拡張部80bは、スリット幅方向D3の大きさである第2拡張幅L2が、圧電膜厚tの4倍以上に設定されている。なお、
図1においては、圧電膜50を見易くするため、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bの積層方向D1の寸法に比較して圧電膜50の積層方向D1の寸法を拡大して記載している。
【0051】
そして、絶縁膜80は、支持体10とは異なる部材であって、圧電膜50に比較して電気抵抗値が大きく、且つ、圧電膜50に比較して誘電率が小さい部材で構成されている。例えば、絶縁膜80は、原子が不規則に配列したアモルファス状態で固体化され、比較的欠陥密度が小さい、または、欠陥が無いアモルファス膜を含んで構成されている。具体的には、絶縁膜80は、窒化ケイ素、すなわちSiN、酸化アルミニウム、すなわちAl2O3、窒化アルミニウム、すなわちALN、二酸化ケイ素、すなわちSiO2等で構成される。絶縁膜80は、スパッタ法やCVD(Chemical Vapor Depositionの略)法等によって、圧電膜面501上に成膜されている。
【0052】
絶縁膜80は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれにおける下層電極膜61に形成される下層第1スリット612それぞれに対応する位置に複数形成されている。すなわち、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される絶縁膜80は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれの下層第1スリット612が形成される部位に対応する位置に島状に分布して互いに離隔して形成されている。そして、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれの上層電極膜62は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに設けられる絶縁膜80を跨って圧電膜面501上に設けられている。
【0053】
このような構成される圧電素子1は、センシング部30である第1振動領域22a~第4振動領域22dに音圧が印加されると、第1振動領域22a~第4振動領域22dが振動する。この場合、例えば、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれの第2領域R2側、すなわち自由端側が上方に変位した場合、圧電膜50の下方側の部位に引張応力が発生し、圧電膜50の上方側の部位に圧縮応力が発生する。したがって、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに設けられる下層電極膜61と上層電極膜62との間の電荷を取り出すことにより、音圧が検出される。
【0054】
また、圧電素子1は、第1振動領域22a~第4振動領域22dにおいて、第1領域R1側が固定端とされ、第2領域R2側の先端部が自由端とされた片持ち支持構造で構成されている。このため、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに設けられる圧電膜50に発生する応力は、片持ち支持構造で構成されない場合に比較して音圧の検出感度を向上させることができる。
【0055】
また、下層第1スリット612および上層第1スリット622は、積層方向D1において互いに重ならないようにスリット幅方向D3にずれて形成されている。このため、下層第1スリット612および上層第1スリット622が積層方向D1において互いに重なる位置に形成される場合に比較して、センシング部30の剛性が低下し難い。このため、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれが変位する際に、センシング部30が破損し難くなる。
【0056】
ところで、本実施形態の圧電膜50は、窒化スカンジウムアルミニウムで構成されている。また、当該圧電膜50は、モリブデンを用いてエッチングによって形成された下層電極膜61の下層電極面611上において、下層第1スリット612に跨って成膜される。このため、下層電極膜61とは異なる部材によって構成される圧電膜50が下層電極面611上に成膜されるにあたり、圧電膜50は、下層第1スリット612に跨って形成される部位において結晶化する際の結晶成長が安定し難い。したがって、圧電膜50には、下層第1スリット612に跨る部位に結晶の異常粒が発生し、結晶性異常部Dが発生する。
【0057】
そして、結晶の異常粒の発生に起因する結晶性異常部Dは、積層方向D1において下層第1スリット612から離れるほど、下層第1スリット612の縁を基準に、下層第1スリット612の中心から離れるように拡散して発生する。換言すれば、結晶性異常部Dは、下層電極面611における下層第1スリット612が形成される部位から上層電極膜62に向かって放射線状に拡がる。なお、
図1に示す破線は、圧電膜50に発生する結晶性異常部Dを示す。
【0058】
このような結晶性異常部Dの発生は、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値を減少させ、下層電極膜61と上層電極膜62との間においてリーク電流が流れる要因となる。そして、下層電極膜61と上層電極膜62との間にリーク電流が流れると、圧電素子1の誘電正接、すなわち誘電損失が悪化し、圧電素子1の音圧の検出感度が悪化する要因となる。また、本実施形態の圧電膜50は、窒化スカンジウムアルミニウムで構成されるところ、モリブデンで形成された下層電極面611上に窒化スカンジウムアルミニウムを形成する場合、スカンジウムの濃度が高いほど結晶性異常部Dが発生し易い。
【0059】
圧電素子1の誘電正接tanδは、以下の数式1で表される。
【0060】
(数1)
tanδ=1/ω×Rp×Cp
なお、数式1において、ωは、下層電極膜61と上層電極膜62との間に発生する電界の角周波数を示す。また、Rpは、圧電素子1の電気抵抗値を示す。そして、Cpは、圧電素子1の静電容量を示す。また、数式1で表される圧電素子1の誘電正接tanδは、圧電素子1の電気抵抗値Rp、すなわち下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値が大きいほど小さくなる。
【0061】
これに対して、本実施形態では、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値を増大させる絶縁膜80が、下層電極面611と上層電極膜62との間であって、積層方向D1において下層第1スリット612と重なる位置に設けられている。
【0062】
これによれば、絶縁膜80によって、圧電膜50における積層方向D1において下層第1スリット612と重なる部位の下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値を増加させることができる。このため、圧電膜50における下層第1スリット612に跨る部位に結晶性異常部Dが生じる場合であっても、圧電膜50の誘電正接tanδの悪化を低減することができる。したがって、絶縁膜80が設けられていない場合に比較して、圧電素子1の音圧の検出感度を向上させることができる。
【0063】
特に、本実施形態の圧電素子1は、圧電膜50が比較的スカンジウムの濃度が高い窒化スカンジウムアルミニウムで構成されることに起因して、結晶性異常部Dが発生し易い構成である。しかしながら、下層電極膜61と上層電極膜62との間に絶縁膜80を設けることによって、圧電膜50の誘電正接tanδの悪化を低減することができる。このため、スカンジウムの濃度を比較的高くすることによって圧電素子1の音圧の検出感度を向上させつつ、スカンジウムの濃度を比較的高くすることに起因する圧電素子1の音圧の検出感度の低下を抑制することができる。
【0064】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0065】
(1)上記実施形態では、絶縁膜80は、圧電膜面501に設けられる。上層電極膜62は、絶縁膜80を跨って圧電膜面501に設けられる。
【0066】
これによれば、絶縁膜80を圧電膜50の内部に形成する構成に比較して容易に絶縁膜80を圧電素子1に配置することができる。
【0067】
(2)上記実施形態では、絶縁膜80は、
図1に示す断面における積層方向D1に直交するスリット幅方向D3の一方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第1拡張部80aを有する。さらに、絶縁膜80は、スリット幅方向D3の他方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第2拡張部80bを有する。そして、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bは、スリット幅方向D3の大きさが、絶縁膜80が設けられる圧電膜50の積層方向D1の寸法の4倍以上に形成されている。
【0068】
ところで、圧電膜50に発生する結晶の異常粒に起因する結晶性異常部Dは、積層方向D1において下層第1スリット612から離れるほど、下層第1スリット612の縁を基準に、下層第1スリット612の中心から離れるように拡散して発生する。このため、圧電膜50に発生する結晶性異常部Dは、上層電極膜62に近づくほど、積層方向D1に直交する断面において、断面積が大きくなる。
【0069】
そして、結晶性異常部Dが下層第1スリット612から上層電極膜62に至った際に、結晶性異常部Dの積層方向D1に直交する断面積が最大となる。発明者の鋭意検討によれば、結晶性異常部Dが上層電極膜62に至った際の下層第1スリット612の縁から結晶性異常部Dの端部までのスリット幅方向D3における距離は、圧電膜厚tの約4倍であることが分かった。
【0070】
また、このように上層電極膜62に向かって拡散して結晶性異常部Dが発生する圧電膜50において、絶縁膜80が結晶性異常部Dの発生部位を覆う範囲が大きいほど下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値が大きくできることが分かった。
【0071】
ここで、
図4において、絶縁膜80を圧電膜面501に設ける際において、絶縁膜80の積層方向D1に直交する断面積を変化させた際の下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値を測定した実験結果を示す。
【0072】
当該実験では、下層第1スリット612のスリット幅方向D3の大きさと絶縁膜80のスリット幅方向D3の大きさとを等しく設定した場合を基準とした。そして、下層第1スリット612のスリット幅方向D3の大きさに対して絶縁膜80のスリット幅方向D3の大きさを変化させた際の下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値の変化を測定した。
【0073】
図4に示すように、下層第1スリット612のスリット幅方向D3の大きさに対して絶縁膜80のスリット幅方向D3の大きさが小さい場合、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値が基準より小さくなる。また、下層第1スリット612のスリット幅方向D3の大きさに対して絶縁膜80のスリット幅方向D3の大きさが大きい場合、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値が基準より大きくなる。すなわち、本実施形態のように、絶縁膜80が積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第1拡張部80aおよび第2拡張部80bを有する構成とした場合、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値を基準より大きくできる。
【0074】
そして、第1拡張幅L1および第2拡張幅L2が、圧電膜50の積層方向D1の寸法、すなわち圧電膜厚tの4倍に設定した場合、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値がほぼ最大値となる。換言すれば、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bを有する絶縁膜80が圧電膜面501における結晶性異常部Dの形成範囲の全てを覆うことによって、圧電素子1の電気抵抗値Rpをほぼ最大にできる。
【0075】
なお、第1拡張幅L1および第2拡張幅L2を圧電膜厚tの4倍より大きく設定した場合、下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値がほぼ一定となる。このため、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bは、スリット幅方向D3の大きさが、絶縁膜80が設けられる圧電膜50の積層方向D1の寸法の4倍以上に形成されている。そして、本実施形態では、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bは、スリット幅方向D3の大きさを必要以上に大きく形成していない。第1拡張部80aおよび第2拡張部80bは、スリット幅方向D3の大きさが、絶縁膜80が設けられる圧電膜50の積層方向D1の寸法の100倍以下に形成されている。
【0076】
このため、本実施形態によれば、第1拡張幅L1および第2拡張幅L2を圧電膜厚tの4倍より小さく設定する場合に比較して、圧電膜50の結晶性異常部Dに起因する誘電正接tanδの悪化をさらに低減することができる。また、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bのスリット幅方向D3の大きさを必要以上に大きくしないことによって、下層電極膜61および上層電極膜62の互いの電極の有効範囲を確保できる。
【0077】
(3)上記実施形態では、絶縁膜80は、支持体10とは異なる部材で構成されるとともに、下層第1スリット612が形成される部位に対応する位置に形成されている。
【0078】
ところで、圧電素子1は、外部温度の変化によって変形する虞があるところ、互いに異なる部材で構成される支持体10および絶縁膜80の熱膨張係数の差によって、圧電素子1が積層方向D1に反る虞がある。これに対して、絶縁膜80を下層第1スリット612に対応する部位のみに限定して形成することで、外部温度の変化によって圧電素子1が変形する際に、絶縁膜80を圧電膜面501上の全体に形成する場合に比較して圧電素子1の反りを抑制することができる。したがって、本実施形態の圧電素子1の上記構成によって、外部温度の変化に起因する音圧の検出結果のバラツキを抑制することができ、圧電素子1の音圧の検出感度を上昇させることができる。
【0079】
(4)上記実施形態では、絶縁膜80は、アモルファス構造を有するアモルファス膜を含んでいる構成されている。
【0080】
これによれば、絶縁膜80が、アモルファス膜を含んでいない場合に比較して、圧電膜50における下層第1スリット612を跨る部位に生じる結晶性異常部Dが積層方向D1に伝達され難くなる。したがって、圧電膜50における下層第1スリット612を跨る部位に生じる結晶性異常部Dに起因する圧電膜50の誘電正接tanδの悪化をさらに低減することができる。
【0081】
なお、本実施形態の圧電素子1を製造するには、まず、支持基板11上に絶縁層12が配置された支持体10を用意し、当該支持体10上に、シード層31、下層電極膜61および圧電膜50をこの順に成膜する。下層電極膜61は、モリブデンで構成される。圧電膜50は、比較的スカンジウムの濃度が高い窒化スカンジウムアルミニウムで構成される。
【0082】
そして、圧電膜50の圧電膜面501上であって、積層方向D1において下層第1スリット612と重なる位置に絶縁膜80をパターニングによって成膜し、当該絶縁膜80を跨って圧電膜面501上に上層電極膜62を成膜する。絶縁膜80は、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、二酸化ケイ素で構成される。上層電極膜62は、モリブデンで構成されている。これら、下層電極膜61および上層電極膜62は、一般的なエッチング法等によって成膜される。また、圧電膜50および絶縁膜80一般的なスパッタ法やCVD法等によって成膜される。これにより、支持体10上に振動部20が配置された上記の圧電素子1が製造される。
【0083】
(第1実施形態の変形例)
上述の第1実施形態では、絶縁膜80が、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、二酸化ケイ素等で構成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、絶縁膜80は、これら窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、二酸化ケイ素のうちのいずれか2つ以上の部材が積層されて形成される構成であってもよい。
【0084】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図5を参照して説明する。本実施形態では、圧電膜50の構成および絶縁膜80の形成位置が第1実施形態と相違している。これ以外は、第1実施形態と同様である。このため、本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明し、第1実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0085】
本実施形態の圧電膜50は、下層電極面611に設けられる下層圧電膜51と、下層圧電膜51上に積層される上層圧電膜52とに分割されている。すなわち、圧電膜50は、積層方向D1に並んで形成される下層圧電膜51および上層圧電膜52を有する。つまり、振動部20における下層圧電膜51および上層圧電膜52は、下層電極膜61と上層電極膜62とで挟み込まれた状態となっている。
【0086】
そして、本実施形態のセンシング部30は、第1振動領域22a~第4振動領域22dがバイモルフ構造とされており、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに下層圧電膜51および上層圧電膜52が形成されている。第1振動領域22a~第4振動領域22dに形成されるそれぞれの下層圧電膜51および上層圧電膜52は、積層方向D1の寸法が互いに略等しくなっている。また、下層圧電膜51および上層圧電膜52それぞれの積層方向D1の寸法は、第1実施形態の圧電膜50の積層方向D1の寸法の略半分である。
【0087】
また、第1振動領域22a~第4振動領域22dに形成されるそれぞれの下層圧電膜51は、下層電極面611側とは反対側に下層圧電膜面511を有する。そして、第1振動領域22a~第4振動領域22dに形成されるそれぞれの上層圧電膜52は、下層圧電膜面511側とは反対側に上層圧電膜面521を有する。本実施形態の下層圧電膜51は、第1圧電膜に対応し、下層圧電膜面511は、第1圧電膜面に対応し、上層圧電膜52は、第2圧電膜に対応する。
【0088】
本実施形態の絶縁膜80は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される下層電極膜61と上層電極膜62との間であって、積層方向D1において下層第1スリット612と重なる位置に設けられている。具体的には、絶縁膜80は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに形成される下層圧電膜面511上であって、下層電極面611から離れた位置に略平面薄膜形状に形成されている。また、絶縁膜80は、第1実施形態と同様に、アモルファス膜を含んで構成されている。
【0089】
絶縁膜80は、
図5に示すように、積層方向D1に切ったときの断面において、下層第1スリット612の全部と積層方向D1において重なっており、下層第1スリット612を跨って形成されている。また、絶縁膜80は、
図5に示す断面に示すように、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bを有する。
【0090】
第1拡張部80aは、第1拡張幅L1が、下層圧電膜51の積層方向D1の寸法である第1圧電膜厚t1の4倍以上となるように形成されている。また、第2拡張部80bは、第2拡張幅L2が、第1圧電膜厚t1の4倍以上となるように形成されている。ただし、本実施形態の絶縁膜80における第1拡張幅L1および第2拡張幅L2は、第1実施形態の絶縁膜80における第1拡張幅L1および第2拡張幅L2より小さく形成されている。
【0091】
また、下層圧電膜51および上層圧電膜52は、第1実施形態と同様に、窒化スカンジウムアルミニウムで構成されている。そして、下層圧電膜51および上層圧電膜52は、互いの単位質量当たりに含まれるスカンジウムの質量が略等しくなっている。すなわち、窒化スカンジウムアルミニウムで構成される下層圧電膜51および上層圧電膜52は、スカンジウムの濃度が互いに略等しくなっている。
【0092】
そして、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれの上層圧電膜52は、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれに設けられる絶縁膜80を跨って下層圧電膜面511上に設けられている。また、第1振動領域22a~第4振動領域22dそれぞれの上層電極膜62は、上層圧電膜面521上に形成されている。
【0093】
このように、本実施形態の圧電素子1において、絶縁膜80は、下層圧電膜面511に設けられ、下層第1スリット612を通過して積層方向D1に切ったときの
図5に示す断面において、下層第1スリット612の全部と積層方向D1において重なっている。そして、上層圧電膜52は、絶縁膜80を跨って下層圧電膜面511に設けられる。
【0094】
これによれば、絶縁膜80を下層圧電膜51の下層圧電膜面511上に形成することによって、上層圧電膜面521上に形成する構成に比較して、絶縁膜80を下層第1スリット612に近付けることができる。
【0095】
ところで、第1実施形態で記載したように、下層第1スリット612を跨る部位に生じる結晶性異常部Dは、積層方向D1において下層第1スリット612から離れるほど、下層第1スリット612の縁を基準に、放射線状に拡散して発生する。そして、結晶性異常部Dの積層方向D1に直交する断面積は、下層第1スリット612から離れるにしたがい大きくなる。
【0096】
このため、拡散して発生する結晶性異常部Dの拡散範囲の全てを覆うように絶縁膜80を形成する場合、絶縁膜80を配置する位置が下層第1スリット612から離れるほど絶縁膜80のスリット幅方向D3の大きさを大きくする必要がある。
【0097】
これに対して、本実施形態では絶縁膜80を下層圧電膜面511上に形成することによって、上層圧電膜面521上に形成する場合に比較して、絶縁膜80を下層第1スリット612に近付けることができる。これによれば、絶縁膜80を積層方向D1において下層第1スリット612の全部と重なるように形成する際に、絶縁膜80を上層圧電膜面521上に形成する場合に比較して、絶縁膜80の積層方向D1に直交する断面積を小さくすることができる。
【0098】
このため、下層電極膜61と上層電極膜62とが対向する範囲のうち絶縁膜80を挟まない部位を大きくできる。すなわち、下層電極膜61および上層電極膜62の互いの電極の有効範囲を拡大できる。
【0099】
また、絶縁膜80を下層圧電膜面511上に形成することによって、結晶性異常部Dが下層電極膜61から上層電極膜62に向かって発生する際に、上層圧電膜52における絶縁膜80を跨る部位の上方に結晶性異常部Dが発生し難くなる。すなわち、下層圧電膜51に結晶性異常部Dが発生する場合であっても、リーク電流が下層電極膜61から上層電極膜62へ流れ難くなる。したがって、下層圧電膜51の結晶性異常部Dに起因する誘電正接tanδの悪化を低減しつつ、下層電極膜61と上層電極膜62との間の静電容量を確保できる。
【0100】
なお、本実施形態の圧電素子1を製造するには、下層電極膜61上に、下層圧電膜51、絶縁膜80、および上層圧電膜52をこの順に成膜することにより、支持体10上に振動部20が配置された上記の構成とすることができる。
【0101】
(第2実施形態の第1の変形例)
上述の第2実施形態では、絶縁膜80が略平面薄膜形状に形成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、絶縁膜80は、
図6に示すように、下層第1スリット612に向かって窪んで形成される絶縁窪部80cを有する構成であってもよい。すなわち、絶縁膜80は、くさび形状に形成されていてもよい。
【0102】
これによれば、絶縁窪部80cによって、下層圧電膜51の結晶性異常部Dが発生する部位において、積層方向D1に直交する平面方向の電気抵抗値を増加させて、リーク電流が当該平面方向に流れることを抑制できる。
【0103】
(第2実施形態の第2の変形例)
上述の第2実施形態では、絶縁膜80がアモルファス膜を含んでいる構成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、絶縁膜80は、上層圧電膜52の結晶構造が自己配向可能な部材を含んで構成されていてもよい。例えば、絶縁膜80は、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、五酸化タンタル等の材料を含んで構成されてもよい。
【0104】
これによれば、絶縁膜80が、上層圧電膜52の結晶構造が自己配向可能な部材を含んでいない構成に比較して上層圧電膜52の電気抵抗値を向上させることができる。したがって、圧電膜50における下層第1スリット612を跨る部位に生じる結晶性異常部Dに起因する圧電膜50の誘電正接tanδの悪化をさらに低減することができる。
【0105】
(第2実施形態の第3の変形例)
上述の第2実施形態では、平面形状の下層圧電膜面511上に絶縁膜80が形成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、
図7に示すように、絶縁膜80は、下層圧電膜面511において下層電極面611に向かって窪んで構成される圧電膜空間512を形成する圧電膜窪部513に充填される構成であってもよい。この場合、絶縁膜80は、CMP(Chemical Mechanical Polisherの略)法やエッチバック法等によって、下層圧電膜面511における圧電膜窪部513とは異なる面と連続した平面を形成する構成であってもよい。
【0106】
これによれば、上層圧電膜52が形成される部位が連続した平面状になる。このため、上層圧電膜52が結晶化する際に結晶の異常の発生が抑制されるので、誘電正接tanδの悪化を低減することができる。
【0107】
(第2実施形態の第4の変形例)
上述の第2実施形態では、下層圧電膜51および上層圧電膜52の積層方向D1の寸法が互いに略等しくなっている例について説明したが、これに限定されない。例えば、下層圧電膜51および上層圧電膜52は、積層方向D1の寸法が互いに異なっていてもよい。すなわち、下層圧電膜51は、積層方向D1の寸法が上層圧電膜52の積層方向D1の寸法よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。
【0108】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、
図8を参照して説明する。本実施形態では、下層圧電膜51および上層圧電膜52のスカンジウムの濃度が互い異なる点が第2実施形態と相違している。これ以外は、第2実施形態と同様である。このため、本実施形態では、第2実施形態と異なる部分について主に説明し、第2実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0109】
本実施形態の圧電膜50は、下層圧電膜51および上層圧電膜52がスカンジウムを含む窒化スカンジウムアルミニウムで構成されている。そして、下層圧電膜51および上層圧電膜52は、スカンジウムの濃度が互い異なって形成されている。具体的には、
図8に示すように、下層圧電膜51の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少なくなっている。すなわち、下層圧電膜51は、上層圧電膜52に比較してスカンジウムの濃度が低くなっている。なお、本実施形態の下層圧電膜51のスカンジウムの濃度は、第2実施形態における下層圧電膜51および上層圧電膜52のスカンジウムの濃度よりも低くなっている。
【0110】
なお、
図8において、スカンジウムの濃度の差異をハッチングのピッチの差異で表している。そして、ハッチングのピッチが小さい上層圧電膜52に比較してハッチングのピッチが大きい下層圧電膜51が上層圧電膜52よりもスカンジウムの濃度が小さくなっている。
【0111】
ところで、第1実施形態で記載したように、圧電素子1は、圧電膜50の単位質量当たりに含まれるスカンジウムの質量を多くするほど圧電素子1の音圧の検出感度を向上させ易い。しかしながら、圧電素子1は、圧電膜50の単位質量あたりのスカンジウムの量が多いほど、圧電膜50における下層第1スリット612を跨る部位に結晶性異常部Dが発生し易い。
【0112】
これに対して、本実施形態の圧電素子1は、下層第1スリット612を跨って構成される下層圧電膜51の単位質量あたりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量あたりのスカンジウムの量に比較して少なく形成されている。このため、下層圧電膜51における下層第1スリット612を跨る部位への結晶性異常部Dの発生を抑制することができる。したがって、下層圧電膜51の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して多い構成に比較して、下層圧電膜51に発生する結晶性異常部Dに起因する誘電正接tanδの悪化を低減することができる。
【0113】
(第3実施形態の変形例)
上述の第3実施形態では、下層圧電膜51の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少なくなっている例について説明したが、これに限定されない。下層圧電膜51の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して多い構成であってもよい。
【0114】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、
図9を参照して説明する。本実施形態では、圧電膜50の構成が第2実施形態および第3実施形態と相違している。これ以外は、第2実施形態または第3実施形態と同様である。このため、本実施形態では、第2実施形態および第3実施形態と異なる部分について主に説明し、第2実施形態および第3実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0115】
本実施形態の圧電膜50は、下層圧電膜51および上層圧電膜52に加えて下層圧電膜51と上層圧電膜52との間に設けられる中間圧電膜53を有する。すなわち、圧電膜50は、積層方向D1に下層圧電膜51と、中間圧電膜53と、上層圧電膜52とが積層方向D1においてこの順に並んで形成される。つまり、振動部20は、下層圧電膜51と、中間圧電膜53と、上層圧電膜52とが下層電極膜61と上層電極膜62とで挟み込まれた状態となっている。
【0116】
中間圧電膜53は、積層方向D1の寸法が下層圧電膜51および上層圧電膜52の積層方向D1の寸法に比較して小さくなっている。また、下層圧電膜51および上層圧電膜52は、積層方向D1の寸法が互いに略等しくなっている。そして、下層圧電膜51、中間圧電膜53および上層圧電膜52それぞれの積層方向D1の寸法の合計が、第1実施形態の圧電膜50の積層方向D1の寸法となっている。
【0117】
下層圧電膜51は、下層電極面611側とは反対側に下層圧電膜面511を有する。中間圧電膜53は、下層圧電膜面511側とは反対側に中間圧電膜面531を有する。上層圧電膜52は、中間圧電膜面531側とは反対側に上層圧電膜面521を有する。本実施形態の下層圧電膜51は、第1圧電膜に対応し、下層圧電膜面511は、第1圧電膜面に対応し、中間圧電膜53は、第2圧電膜に対応し、中間圧電膜面531は第2圧電膜面に対応し、上層圧電膜52は、第3圧電膜に対応する。
【0118】
本実施形態の絶縁膜80は、下層電極膜61と上層電極膜62との間であって、積層方向D1において下層第1スリット612と重なる位置に設けられている。具体的には、絶縁膜80は、下層圧電膜面511上であって、下層電極面611から離れた位置に略平面薄膜形状に形成されている。
【0119】
また、絶縁膜80は、
図9に示すように、積層方向D1に切ったときの断面において、下層第1スリット612の全部と積層方向D1において重なっており、下層第1スリット612を跨って形成されている。
【0120】
また、下層圧電膜51、中間圧電膜53および上層圧電膜52は、第2実施形態と同様に、窒化スカンジウムアルミニウムで構成されている。そして、下層圧電膜51および中間圧電膜53は、上層圧電膜52に比較してスカンジウムの濃度が異なって形成されている。具体的には、下層圧電膜51および中間圧電膜53の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少なくなっている。
【0121】
すなわち、下層圧電膜51および中間圧電膜53は、上層圧電膜52に比較してスカンジウムの濃度が低くなっている。また、下層圧電膜51および中間圧電膜53は、互いの単位質量当たりに含まれるスカンジウムの質量が略等しくなっている。すなわち、下層圧電膜51および中間圧電膜53におけるスカンジウムの濃度が互いに略等しくなっている。
【0122】
そして、上層圧電膜52は、絶縁膜80を跨って中間圧電膜面531上に設けられている。また、上層電極膜62は、上層圧電膜面521上に形成されている。
【0123】
このように、本実施形態の圧電素子1において、絶縁膜80は、下層圧電膜面511に設けられ、下層第1スリット612を通過して積層方向D1に切ったときの断面において、下層第1スリット612の全部と積層方向D1において重なっている。
【0124】
これによれば、中間圧電膜面531上または上層圧電膜面521上に形成する構成に比較して、絶縁膜80を下層第1スリット612に近付けることができる。このため、絶縁膜80を積層方向D1において下層第1スリット612の全部と重なるように形成する際に、絶縁膜80を中間圧電膜面531または上層圧電膜面521に形成する構成に比較して、絶縁膜80の積層方向D1に直交する断面積を小さくできる。
【0125】
したがって、下層電極膜61と上層電極膜62とが対向する範囲のうち絶縁膜80を挟まない部位を大きくできる。すなわち、下層電極膜61および上層電極膜62の互いの電極の有効範囲を拡大できる。したがって、圧電膜50の結晶性異常部Dに起因する誘電正接tanδの悪化を低減しつつ、下層電極膜61と上層電極膜62との間の静電容量を確保できる。
【0126】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0127】
(1)上記実施形態では、下層圧電膜51、中間圧電膜53および上層圧電膜52は、スカンジウムを含んで構成される。下層圧電膜51の単位質量当たりのスカンジウムの量は、中間圧電膜53および上層圧電膜52のうちの一方である上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少ない。
【0128】
これによれば、下層圧電膜51の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して多い構成に比較して、上層圧電膜52に結晶性異常部Dを発生し難くできる。このため、圧電素子1の誘電正接tanδの悪化を低減することができる。
【0129】
また、本実施形態では、中間圧電膜53の単位質量当たりのスカンジウムの量も上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少ない。このため、中間圧電膜53の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して多い構成に比較して、中間圧電膜53が結晶化する際に結晶性異常部Dの発生を抑制できる。したがって、中間圧電膜面531上に形成される上層電極膜62の結晶性を向上させることができる。
【0130】
(第4実施形態の第1の変形例)
上述の第4実施形態では、平面形状の下層圧電膜面511上に絶縁膜80が形成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、
図10に示すように、下層圧電膜51は、下層圧電膜面511に、下層電極面611に向かって窪んで構成される圧電膜空間512を形成する圧電膜窪部513を有する構成であってもよい。具体的には、圧電膜窪部513は、スリット幅方向D3の大きさが下層第1スリット612より大きい大窪部513aと、スリット幅方向D3の大きさが下層第1スリット612より小さい小窪部513bとを有する。すなわち、大窪部513aは、スリット幅方向D3の大きさが小窪部513bより大きく形成されている。
【0131】
そして、大窪部513aおよび小窪部513bは、中間圧電膜53側から下層電極膜61側に向かってこの順に積層方向D1に並んで形成されている。大窪部513aは、積層方向D1において下層第1スリット612と重ならない部位に有する。また、小窪部513bの全ては、積層方向D1において下層第1スリット612と重なっている。
【0132】
また、絶縁膜80は、圧電膜空間512に設けられる。そして、絶縁膜80は、大窪部513aに設けられる部位の一部が積層方向D1において下層第1スリット612と重なっている。また、絶縁膜80は、小窪部513bに設けられる部位の全部が積層方向D1において下層第1スリット612と重なっている。また、絶縁膜80は、圧電膜窪部513側とは反対側に形成される絶縁面80dが、積層方向D1に直交する平面状に形成されている。そして、当該絶縁面80dは、CMP法やエッチバック法等によって下層圧電膜面511における圧電膜窪部513とは異なる面と連続した平面を形成する。
【0133】
これによれば、中間圧電膜53が形成される絶縁面80dおよび下層圧電膜面511における圧電膜窪部513とは異なる面が連続した平面状になる。すなわち、中間圧電膜53の結晶成長の界面である下層圧電膜面511および絶縁面80dが連続した平面状になる。このため、中間圧電膜53が結晶化する際に結晶の異常の発生を抑制し、上層電極膜62の結晶性を向上させることができるので、誘電正接tanδの悪化を低減することができる。
【0134】
(第4実施形態の第2の変形例)
上述の第4実施形態では、下層圧電膜51および中間圧電膜53の単位質量当たりのスカンジウムの量が上層圧電膜52の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少なくなっている。また、下層圧電膜51および中間圧電膜53は、互いの単位質量当たりに含まれるスカンジウムの質量が略等しくなっている例について説明したが、これに限定されない。
【0135】
しかし、下層圧電膜51の単位質量当たりのスカンジウムの量が中間圧電膜53および上層圧電膜52のうちの一方の単位質量当たりのスカンジウムの量に比較して少ない構成であれば、当該構成に限定されない。下層圧電膜51、中間圧電膜53および上層圧電膜52それぞれの単位質量当たりのスカンジウムの量は、圧電素子1の用途等に応じて適宜設定されてもよい。
【0136】
例えば、中間圧電膜53および上層圧電膜52におけるスカンジウムの濃度が互いに略等しくなっていてもよい。または、下層圧電膜51、中間圧電膜53、上層圧電膜52それぞれは、下層圧電膜51、中間圧電膜53、上層圧電膜52の順に、単位質量当たりのスカンジウムの量が多くなる構成であってもよい。
【0137】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について、
図11を参照して説明する。本実施形態では、絶縁膜80が空隙81に置き換わっている点が第1実施形態と相違している。これ以外は、第1実施形態と同様である。このため、本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明し、第1実施形態と同様の部分について説明を省略することがある。
【0138】
本実施形態では、
図11に示すように、圧電膜50の圧電膜面501上に形成される上層電極膜62に覆われるによって空隙81が形成されている。すなわち、本実施形態の圧電素子1は、圧電膜50と上層電極膜62との間に隙間が形成されている。そして、空隙81に存在する空気が絶縁材として機能する。本実施形態では、空隙81が絶縁部に対応する。
【0139】
空隙81は、
図11に示す断面におけるスリット幅方向D3の一方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第1空隙部81aを有する。また、空隙81は、
図11に示す断面におけるスリット幅方向D3の他方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第2空隙部81bを有する。第1空隙部81aおよび第2空隙部81bは、スリット幅方向D3の大きさが、圧電膜50の積層方向D1の寸法の4倍以上に設定されている。
【0140】
このような空隙81は、例えば、圧電膜50上に犠牲層を形成し、形成した犠牲層上に上層電極膜62を形成後、当該犠牲層をエッチングによって除去することで圧電膜面501上に設けることができる。
【0141】
これによれば、空隙81によって下層電極膜61と上層電極膜62との間の電気抵抗値を増加させることができる。このため、圧電膜50における下層第1スリット612に跨る部位に結晶性異常部Dが生じる場合であっても、圧電膜50の誘電正接tanδの悪化を低減することができる。したがって、空隙81が設けられていない場合に比較して、圧電素子1の音圧の検出感度を向上させることができる。
【0142】
(第5実施形態の変形例)
上述の第5実施形態では、空隙81が圧電膜面501上に形成される例について説明したが、これに限定されない。例えば、空隙81は、
図12に示すように、圧電膜50の内部に設けられる構成であってもよい。この場合、絶縁膜80は、当該絶縁膜80を形成するために圧電膜50に形成される不図示のエッチングホールを用いるエッチング法によって圧電膜50の一部を除去することによって形成することができる。
【0143】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0144】
上述の第2実施形態および第3実施形態では、電極膜60がシード層31を介して支持面121上に配置された下層電極膜61および上層圧電膜面521上に配置される上層電極膜62を有する例について説明したが、これに限定されない。例えば、電極膜60は、
図13に示すように、シード層31を介して支持面121上に配置された下層電極膜61と、下層圧電膜面511上に配置された中間電極膜63と、上層圧電膜面521上に配置された上層電極膜62とを有する構成であってもよい。すなわち、振動部20は、下層圧電膜51が下層電極膜61と中間電極膜63とで挟み込まれており、上層圧電膜52が中間電極膜63と上層電極膜62とで挟み込まれた構成であってもよい。
【0145】
このように電極膜60が構成される場合、電極膜60は、下層電極膜61および上層電極膜62を電気的に接続させる第1電極部71と、中間電極膜63および上層電極膜62を電気的に接続させる第2電極部72とを有する。そして、上層電極膜62は、第1電極部71が設けられる上層電極膜62および第2電極部72が設けられる上層電極膜62を電気的に接続させる電気配線層62dを有する。このように構成される圧電素子1において、絶縁膜80は、上層電極膜62における電気配線層62dが設けられる部位と下層電極膜61との間であって、積層方向D1において下層第1スリット612と重なる位置に設けられる構成であってもよい。
【0146】
具体的には、絶縁膜80は、積層方向D1において下層第1スリット612と重なる位置であれば、
図13に示すように、上層圧電膜面521上に形成されてもよい。また、絶縁膜80は、積層方向D1において下層第1スリット612と重なる位置であれば、図示しないが、下層圧電膜面511上に形成されてもよい。
【0147】
上述の実施形態では、絶縁膜80が、積層方向D1に切ったときの断面において、下層第1スリット612の全部と積層方向D1において重なっている例について説明したが、これに限定されない。絶縁膜80は、積層方向D1に切ったときの断面において、下層第1スリット612の一部と積層方向D1において重なっている構成であってもよい。
【0148】
上述の実施形態では、圧電膜50が、スカンジウムを含んで構成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、圧電膜50は、スカンジウムを含んでいない構成であってもよい。
【0149】
上述の実施形態では、絶縁膜80が積層方向D1に切ったときの断面における積層方向D1に直交するスリット幅方向D3の一方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第1拡張部80aを有する。また、絶縁膜80は、スリット幅方向D3の他方側に、積層方向D1において下層第1スリット612に重ならない第2拡張部80bを有する。そして、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bは、スリット幅方向D3の大きさが、絶縁膜80が設けられる圧電膜50の積層方向D1の寸法の4倍以上である例について説明したが、これに限定されない。
【0150】
例えば、絶縁膜80は、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bを有さない構成であってもよい。すなわち、絶縁膜80は、スリット幅方向D3の大きさが下層第1スリット612のスリット幅方向D3の大きさより小さい構成であってもよい。
【0151】
また、絶縁膜80は、第1拡張部80aおよび第2拡張部80bのスリット幅方向D3の大きさが、絶縁膜80が設けられる圧電膜50の積層方向D1の寸法の4倍より小さい構成でもよい。
【0152】
上述の実施形態では、絶縁膜80が、下層第1スリット612が形成される部位に対応する位置に形成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、絶縁膜80は、積層方向D1において下層電極膜61および上層電極膜62と重なる大きさで構成されていてもよい。
【0153】
上述の実施形態では、圧電素子1が音圧の圧力に応じた圧力検出信号を検出する例について説明したが、これに限定されない。例えば、圧電素子1は、超音波を送信するとともに、送信した超音波が反射された反射波を受信する構成であってもよい。
【0154】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0155】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0156】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【符号の説明】
【0157】
10 支持体
20 振動部
50 圧電膜
61 第1電極
62 第2電極
80 絶縁膜
121 支持面
501 圧電膜面
611 第1電極膜
612 開口部