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特開2023-98267非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098267
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/457 20210101AFI20230703BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230703BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20230703BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230703BHJP
【FI】
H01M50/457
H01M10/0566
H01M50/423
H01M50/417
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214925
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓史
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE07
5H021HH03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029DJ04
5H029DJ17
5H029EJ12
(57)【要約】
【課題】充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に優れた非水電解液二次電池用セパレータの提供。
【解決手段】ポリオレフィン多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面上に積層された、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層と、を含み、ヒートショックサイクル試験の前後における厚み変化率の絶対値が、1.4%以下である、非水電解液二次電池用セパレータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの片面上または両面上に積層された耐熱性多孔質層と、を含む非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記耐熱性多孔質層は、耐熱性樹脂を含み、
以下の式(1)にて表される、ヒートショックサイクル試験の前後における厚み変化率の絶対値が、1.40%以下である、非水電解液二次電池用セパレータ。
厚み変化率(%)={(D-D)/D}×100 (1)
( ここで、前記ヒートショックサイクル試験は、高温:85℃、低温-40℃、高温および低温の保持時間:30分、温度移行時間:1分、サイクル数:150サイクルの条件にて実施される。
前記式(1)中、Dは、前記ヒートショックサイクル試験前の前記非水電解液二次電池用セパレータの厚み(μm)であり、Dは、前記ヒートショックサイクル試験後の前記非水電解液二次電池用セパレータの厚み(μm)である)。
【請求項2】
前記耐熱性多孔質層が、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの両面上に積層されている、請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐熱性樹脂が。含窒素芳香族樹脂である、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記含窒素芳香族樹脂がアラミド樹脂である、請求項3に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項5】
正極と、請求項1~4の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用され、また最近では車載用の電池として開発が進められてきている。
【0003】
このような非水電解液二次電池の保管性を評価する方法の一例として、特許文献1に記載のように、非水電解液二次電池を高温環境にて一定時間保管し、続いて、当該非水電解液二次電池を低温環境にて保管するサイクルを一定回数繰り返す、ヒートショックサイクル試験を行った後、当該非水電解液二次電池の漏液の有無を確認する方法が知られている。
【0004】
また、このような非水電解液二次電池におけるセパレータの一例として、ポリオレフィン多孔質基材の少なくとも片面に、有機物からなるフィラーとバインダー樹脂とを必須成分とする多孔質層を設けた積層多孔質膜である電池用セパレータが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/202744号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すように、ヒートショックサイクル試験は、非水電解液二次電池の性能を評価するために使用される試験であって、セパレータの特性を評価するための試験ではなかった。
【0007】
また、従来の積層多孔質膜である電池用セパレータは、充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、通常は、セパレータの特性を評価するためには使用されないヒートショックサイクル試験を、セパレータ単独を対象として実施することにより、セパレータの充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性と相関する、「厚み変化率の絶対値」という新規なパラメータを得ることができることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
本発明の一態様は、以下の[1]~[6]に示す発明を含む。
[1]ポリオレフィン多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの片面上または両面上に積層された耐熱性多孔質層と、を含む非水電解液二次電池用セパレータであって、
前記耐熱性多孔質層は、耐熱性樹脂を含み、
以下の式(1)にて表される、ヒートショックサイクル試験の前後における厚み変化率の絶対値が、1.40%以下である、非水電解液二次電池用セパレータ。
厚み変化率(%)={(D-D)/D}×100 (1)
(ここで、前記ヒートショックサイクル試験は、高温:85℃、低温-40℃、高温および低温の保持時間:30分、温度移行時間:1分、サイクル数:150サイクルの条件にて実施される。
前記式(1)中、Dは、前記ヒートショックサイクル試験前の前記非水電解液二次電池用セパレータの厚み(μm)であり、Dは、前記ヒートショックサイクル試験後の前記非水電解液二次電池用セパレータの厚み(μm)である)。
[2]前記耐熱性多孔質層が、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの両面に積層されている、[1]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[3]前記耐熱性樹脂が。含窒素芳香族樹脂である、[1]または[2]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[4]前記含窒素芳香族樹脂がアラミド樹脂である、[3]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[5]正極と、[1]~[4]の何れか1つに記載の非水電解液二次電池用セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
[6][1]~[4]の何れか1つに記載の非水電解液二次電池用セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に優れるとの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
[実施形態1:非水電解液二次電池用セパレータ]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの片面上または両面上に積層された耐熱性多孔質層と、を含む非水電解液二次電池用セパレータであって、前記耐熱性多孔質層は、耐熱性樹脂を含み、以下の式(1)にて表される、ヒートショックサイクル試験の前後における厚み変化率の絶対値が、1.40%以下である。
厚み変化率(%)={(D-D)/D}×100 (1)
ここで、前記ヒートショックサイクル試験は、高温:85℃、低温-40℃、高温および低温の保持時間:30分、温度移行時間:1分、サイクル数:150サイクルの条件にて実施される。前記式(1)中、Dは、前記ヒートショックサイクル試験前の前記非水電解液二次電池用セパレータの厚み(μm)であり、Dは、前記ヒートショックサイクル試験後の前記非水電解液二次電池用セパレータの厚み(μm)である。
【0013】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面上に積層された耐熱性多孔質層と、を含む。以下、前記非水電解液二次電池用セパレータを単に「セパレータ」とも称し、前記ポリオレフィン多孔質フィルムを単に「多孔質フィルム」とも称し、「耐熱性多孔質層」を単に「多孔質層」とも称する。
【0014】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、高温:85℃、低温-40℃、高温および低温の保持時間:30分、サイクル数:150サイクルの条件にて実施されるヒートショックサイクル試験後の厚み変化率の絶対値が、1.4%以下である。以下、「ヒートショックサイクル試験前後の厚み変化率」を、単に「厚み変化率」とも称する。前記厚み変化率の絶対値は、前記ヒートショックサイクル試験前後におけるセパレータの構造変化の度合いに依存する。前記セパレータにおける耐熱性多孔質層は、耐熱性が高く、多孔質フィルムと比較して、温度変化を繰り返した際の構造の変化が小さい。よって、前記厚み変化率の絶対値は、セパレータを構成する多孔質フィルムの、前記ヒートショックサイクル試験前後における構造変化の度合いに主に依存する。
【0015】
また、本発明の一実施形態に係るセパレータは、多孔質フィルムの片面または両面上に、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層が積層している。前記多孔質フィルムの前記耐熱性多孔質層が積層している面に、前記耐熱性樹脂が浸透する。よって、浸透した前記耐熱性樹脂により、前記多孔質フィルムの前記耐熱性多孔質層との界面付近におけるポリオレフィンの結晶の配向が固定化される。また、浸透した前記耐熱性樹脂により、前記多孔質フィルムの前記耐熱性多孔質層との界面付近における構造が緻密化される。前記配向の固定化、および、前記結晶構造の緻密化により、多孔質フィルムの温度変化を繰り返した際の構造の変化は小さくなる。従って、前記厚み変化率の絶対値は、前記配向の固定化の度合い、および、前記結晶構造の緻密化の度合いを評価するパラメータである。
【0016】
ここで、非水電解液二次電池において、充放電を繰り返す際に、正極および負極の電極が膨張・収縮する。また、非水電解液二次電池において、セパレータは、前記正極と前記負極との間に位置する。よって、従来の、多孔質フィルムと、当該多孔質フィルム上に積層した耐熱多孔質層を含むセパレータを備える非水電解液二次電池において、前記電極の膨張・収縮により、当該セパレータに外力が加わり、当該セパレータから当該耐熱多孔質層の一部が剥離し、その結果、当該セパレータの耐電圧性が低下するおそれがある。
【0017】
一方、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記厚み変化率の絶対値が1.40%以下の小さい値である。よって、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記多孔質フィルムの前記耐熱性多孔質層との界面付近において、ポリオレフィンの結晶の配向が好適に固定化されており、かつ、前記多孔質フィルムの前記耐熱性多孔質層との界面付近の構造が好適に緻密化されている。従って、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記耐熱性樹脂が好適に浸透しており、多孔質フィルム自体の耐電圧性が好適に向上している。そのことから、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記耐熱多孔質層の一部が剥離した場合であっても、充分な耐電圧性を保持することができる。それゆえに、本発明の一実施形態に係るセパレータは、充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に優れるとの効果を奏する。
【0018】
前記厚み変化率の絶対値は、前述の充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性の観点から、小さな値であることが好ましい。具体的には、前記厚み変化率の絶対値は、1.38%以下であることが好ましく、1.36%以下であることがより好ましい。また、前記厚み変化率の絶対値は、0.10%以上であることが好ましく、0.15%以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態において、ヒートショックサイクル試験は、高温:85℃、低温-40℃、高温および低温の保持時間:30分、温度移行時間:1分、サイクル数:150サイクルの条件を達成できれば特に限定されず、例えば、市販の冷熱衝撃試験装置を使用して実施することができる。前記ヒートショックサイクル試験の具体的な例としては、実施例に記載のヒートショックサイクル試験を挙げることができる。また、前記ヒートショックサイクル試験は、外気を導入することなく、結露を発生させない条件にて実施することが好ましい。
【0020】
詳細には、前記ヒートショック試験は、例えば、以下の(1)~(6)の工程からなる方法にて実施される。
(1)セパレータを、試験装置内に入れ、当該試験装置を密閉した後、当該試験装置内部の温度が85℃になるように、当該試験装置の内部を加熱する。
(2)前記試験装置内部の温度を85℃に保持した状態にて、30分間放置する。
(3)工程(2)の後、1分間にて、前記試験装置内部の温度が-40℃となるように、当該試験装置の内部を冷却する。
(4)前記試験装置内部の温度を-40℃に保持した状態にて、30分間放置する。
(5)工程(4)の後、1分間にて、前記試験装置内部の温度が85℃となるように、当該試験装置の内部を加熱する。
(6)工程(2)~(5)を、繰り返し回数(サイクル数)が150サイクルとなるように、繰り返す。
【0021】
工程(1)、(3)および(5)における加熱および冷却の方法は特に限定されず、当業者が通常採用し得る方法を採用することができる。
【0022】
<ポリオレフィン多孔質フィルム>
前記多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含み、一般には、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムである。また、「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする」とは、多孔質フィルムに占めるポリオレフィン系樹脂の割合が、多孔質フィルムを構成する材料全体の50重量%以上、好ましくは90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上であることを意味する。
【0023】
前記多孔質フィルムは、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体および液体を通過させることが可能となっている。
【0024】
前記多孔質フィルムの膜厚は、4~40μmであることが好ましく、5~20μmであることがより好ましい。前記多孔質フィルムの膜厚が4μm以上であれば、電池の内部短絡を十分に防止することができる。一方、前記多孔質フィルムの膜厚が40μm以下であれば、非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる。
【0025】
前記ポリオレフィン系樹脂には、重量平均分子量が5×10~15×10の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィン系樹脂に重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、得られる多孔質フィルムおよび当該多孔質フィルムを含むセパレータの強度が向上するのでより好ましい。
【0026】
前記ポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-ヘキセン等の単量体を重合してなる、単独重合体または共重合体といった熱可塑性樹脂を挙げることができる。前記単独重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンを挙げることができる。また、前記共重合体としては、例えばエチレン-プロピレン共重合体を挙げることができる。
【0027】
このうち、セパレータに過大電流が流れることをより低温で阻止することができるため、ポリエチレンがより好ましい。なお、この過大電流が流れることを阻止することをシャットダウンともいう。前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましい。
【0028】
多孔質フィルムの単位面積当たりの目付は、強度、膜厚、重量およびハンドリング性を考慮して適宜決定することができる。ただし、非水電解液二次電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を高くすることができるように、前記目付は、4~20g/mであることが好ましく、4~12g/mであることがより好ましく、5~10g/mであることがさらに好ましい。
【0029】
多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で30~500sec/100mLであることが好ましく、50~300sec/100mLであることがより好ましい。多孔質フィルムが前記透気度を有することにより、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0030】
多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止する機能を得ることができるように、20~80体積%であることが好ましく、30~75体積%であることがより好ましい。また、多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極および負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0031】
<耐熱多孔質層>
本発明の一実施形態において、耐熱性多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面上または両面上に積層され、ポリオレフィン多孔質フィルムの両面上に積層されていることが好ましい。前記耐熱性多孔質層は、耐熱性樹脂を含む。前記耐熱性多孔質層は、絶縁性の多孔質層であることが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン多孔質フィルムの片面上に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、ポリオレフィン多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層される。より好ましくは、当該多孔質層は、正極と接する面に積層される。
【0033】
多孔質層を構成する耐熱性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン;(メタ)アクリレート系樹脂;含フッ素樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ゴム類;融点またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂;水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0034】
上述の耐熱性樹脂のうち、ポリオレフィン、ポリエステル系樹脂、アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂および水溶性ポリマーが好ましい。ポリアミド系樹脂としては、全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)が好ましい。ポリエステル系樹脂としては、ポリアリレートおよび液晶ポリエステルが好ましい。含フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。
【0035】
また、前記耐熱性樹脂は、含窒素芳香族樹脂であることが好ましい。前記含窒素芳香族樹脂としては、アラミド樹脂がより好ましい。前記アラミド樹脂としては、例えば、パラアラミド、メタアラミドが挙げられるが、パラアラミドがさらに好ましい。パラアラミドとしては、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2-クロロ-パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、ポリ(4,4’-ジフェニルスルホニルテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/4,4’-ジフェニルスルホニルテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0036】
多孔質層はフィラーを含み得る。フィラーは無機フィラーまたは有機フィラーであり得る。フィラーとしては、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、水酸化アルミニウム、またはベーマイト等の無機酸化物からなる無機フィラーがより好ましい。多孔質層において、フィラーの含有量は、上述の樹脂およびフィラーの合計量に対して、10~99重量%であってもよく、20~75重量%であってもよい。
【0037】
特に、多孔質層を構成する耐熱性樹脂がアラミド樹脂の場合、フィラーの含有量を上述の20~75重量%の範囲にすることで、フィラーによるセパレータの重量の増加が抑制でき、かつイオン透過性が良好なセパレータを得ることができる。
【0038】
本実施形態における多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムと正極が備える正極活物質層との間に配置されることが好ましい。多孔質層の物性に関する下記説明においては、非水電解液二次電池としたときに、ポリオレフィン多孔質フィルムと正極が備える正極活物質層との間に配置された多孔質層の物性を少なくとも指す。
【0039】
前記多孔質層の平均膜厚は、電極との接着性および高エネルギー密度を確保する観点から、多孔質層一層当たり0.5μm~10μmの範囲であることが好ましく、1μm~5μmの範囲であることがより好ましい。多孔質層の膜厚が一層当たり0.5μm以上であると、非水電解液二次電池の破損等による内部短絡を充分に抑制することができ、また、多孔質層における電解液の保持量が充分となる。一方、多孔質層の膜厚が一層当たり10μmを超えると、非水電解液二次電池において、リチウムイオンの透過抵抗が増加するので、サイクルを繰り返すと正極が劣化するおそれがある。それゆえ、非水電解液二次電池において、レート特性およびサイクル特性が低下するおそれがある。また、正極および負極間の距離が増加するので非水電解液二次電池の内部容積効率が低下し得る。
【0040】
多孔質層の単位面積当たりの目付は、多孔質層の強度、膜厚、重量およびハンドリング性を考慮して適宜決定することができる。多孔質層の単位面積当たりの目付は、多孔質層一層当たり、0.5~20g/mであることが好ましく、0.5~10g/mであることがより好ましい。多孔質層の単位面積当たりの目付をこれらの数値範囲とすることにより、非水電解液二次電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を高くすることができる。多孔質層の目付が前記範囲を超える場合には、非水電解液二次電池が重くなる傾向がある。
【0041】
多孔質層の空隙率は、充分なイオン透過性を得ることができるように、20~90体積%であることが好ましく、30~80体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。細孔の孔径をこれらのサイズとすることにより、非水電解液二次電池は、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0042】
多孔質フィルムに多孔質層を積層させた積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30~1000sec/100mLであることが好ましく、50~800sec/100mLであることがより好ましい。前記積層セパレータは、前記透気度を有することにより、非水電解液二次電池において、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0043】
<非水電解液二次電池用セパレータの物性>
本発明の一実施形態に係るセパレータの膜厚は、5.5μm~45μmであることが好ましく、6μm~25μmであることがより好ましい。
【0044】
前記セパレータの透気度は、ガーレ値で100~350sec/100mLであることが好ましく、100~300sec/100mLであることがより好ましい。
【0045】
前記セパレータの重量目付は、3.0~13.0g/mであることが好ましく、5.0~9.0g/mであることがより好ましい。前記セパレータの単位面積当たりの目付をこれらの数値範囲とすることにより、非水電解液二次電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を高くすることができる。
【0046】
尚、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記多孔質フィルムおよび前記多孔質層以外の別の多孔質層を、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。前記別の多孔質層としては、耐熱層、接着層、保護層等の公知の多孔質層が挙げられる。
【0047】
<非水電解液二次電池用セパレータの製造方法>
(ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法)
多孔質フィルムの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、ポリオレフィン系樹脂と、無機充填剤または可塑剤等の孔形成剤と、任意で酸化防止剤等とを混練した後に押し出すことにより、シート状のポリオレフィン樹脂組成物を作製する。そして、適当な溶媒にて孔形成剤をシート状のポリオレフィン樹脂組成物から除去する。その後、当該孔形成剤が除去されたポリオレフィン樹脂組成物を延伸することで、ポリオレフィン多孔質フィルムを製造することができる。
【0048】
上記無機充填剤としては、特に限定されるものではなく、無機フィラー、具体的には炭酸カルシウム等が挙げられる。上記可塑剤としては、特に限定されるものではなく、流動パラフィン等の低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0049】
多孔質フィルムの製造方法として、具体的には、以下に示すような工程を含む方法を挙げることができる。
(A)超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリエチレンと、炭酸カルシウムまたは可塑剤等の孔形成剤と、酸化防止剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程。
(B)得られたポリオレフィン樹脂組成物を一対の圧延ローラーで圧延し、速度比を変えた巻き取りローラーで引っ張りながら段階的に冷却し、シートを成形する工程。
(C)得られたシートの中から適当な溶媒にて孔形成剤を除去する工程。
(D)孔形成剤が除去されたシートを適当な延伸倍率にて延伸する工程。
【0050】
(多孔質層、積層セパレータの製造方法)
本発明の一実施形態における多孔質層および本発明の一実施形態に係る積層セパレータの製造方法としては、例えば、前記多孔質層に含まれる樹脂を含む塗工液を前記多孔質フィルムの片面または両面に塗布して塗工層を形成し、乾燥させることによって溶媒を除去して、前記多孔質フィルム上に前記多孔質層を形成する方法、並びに、前記多孔質層に含まれる樹脂を含む塗工液を前記多孔質フィルムの片面または両面に塗布した後、特定の温度および特定の相対湿度の条件下にて、前記多孔質フィルム上に、前記多孔質層に含まれる樹脂を析出させて塗工層を形成した後、乾燥によって溶媒を除去することによって前記多孔質フィルム上に前記多孔質層を形成する方法が挙げられる。
【0051】
なお、前記多孔質フィルムの両面に多孔質層を形成する場合は、(a)前記多孔質フィルムの両面にて前記多孔質層を同時に形成してもよく、(b)前記多孔質フィルムの片面に前記塗工液を塗布し、前記多孔質フィルムの片面に多孔質層を形成した後、前記多孔質フィルムのもう一方の片面に前記塗工液を塗布し、前記多孔質フィルムのもう一方の片面に多孔質層を形成してもよい。
【0052】
また、前記塗工液を前記多孔質フィルムの片面または両面に塗布する前に、当該ポリオレフィン多孔質フィルムの塗工液を塗布する片面または両面に対して、必要に応じて親水化処理を行うことができる。
【0053】
前記塗工液は、前記多孔質層に含まれる耐熱性樹脂を含む。また、前記塗工液は、前記多孔質層に含まれ得る後述の微粒子を含み得る。前記塗工液は、通常、前述の多孔質層に含まれ得る耐熱性樹脂を溶媒に溶解させると共に、前記微粒子を分散させることにより調製され得る。ここで、前記耐熱性樹脂を溶解させる前記溶媒は、前記微粒子を分散させる分散媒を兼ねている。また、前記溶媒により前記耐熱性樹脂をエマルションとしてもよい。
【0054】
前記溶媒は、ポリオレフィン多孔質フィルムに悪影響を及ぼさず、前記耐熱性樹脂を均一かつ安定に溶解し、前記微粒子を均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。前記溶媒としては、具体的には、例えば、水および有機溶媒が挙げられる。前記溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)および微粒子量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。また、前記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記耐熱性樹脂および微粒子以外の成分として、分散剤、可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0056】
塗工液の多孔質フィルムへの塗布方法、つまり、多孔質フィルムの表面への多孔質層の形成方法は、特に制限されるものではない。多孔質層の形成方法としては、例えば、塗工液を多孔質フィルムの表面に直接塗布して塗工層を形成した後、溶媒を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布して塗工層を形成し、溶媒を除去して多孔質層を形成した後、この多孔質層と多孔質フィルムとを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布して塗工層を形成した後、当該塗工層に多孔質フィルムを圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0057】
塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、グラビアコーター法、ディップコーター法、バーコーター法、およびダイコーター法等が挙げられる。
【0058】
溶媒の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。また、塗工液に含まれる溶媒を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。
【0059】
(「ヒートショックサイクル試験前後の厚み変化率の絶対値」の制御方法)
本発明の一実施形態において、「ヒートショックサイクル試験前後の厚み変化率の絶対値」を好適な範囲に制御する方法として、例えば、以下の(a)に示す方法、および/または、(b)に示す方法にて、前記耐熱性多孔質層を構成する耐熱性樹脂の前記多孔質フィルムへの浸透の度合いを好適に制御する方法を挙げることができる。
(a)前記多孔質フィルム上に、前記塗工液を塗布し、塗工層を形成した後、乾燥させて、当該塗工層に含まれる溶媒を除去して、前記多孔質層を形成する前に、前記多孔質フィルムに加える張力を好適な範囲に制御する方法。
(b)前記多孔質フィルム上に、前記塗工液を塗布し、塗工層を形成し、溶媒を除去した後、好適な温度にて熱処理(アニール)する方法。
【0060】
前記多孔質フィルム上に前記塗工液を塗布して塗工層を形成し、その後、乾燥させて、当該塗工層から溶媒を除去して、前記多孔質層を形成する工程は、通常、当該多孔質フィルムに特定の張力を加えながら実施する。(a)の方法は、詳細には、前記塗工層を乾燥する前に、前記多孔質フィルムに加える張力を、従来の多孔質層を形成する方法における塗工層を乾燥させる前に多孔質フィルムに加える張力よりも小さくする方法である。前記張力が小さくなることにより、前記多孔質フィルムの前記塗工層が形成された表面付近の構造に、前記塗工層に含まれる前記耐熱性樹脂が浸透できる隙間(余裕)が発生する。よって、(a)の方法により、前記多孔質フィルムに前記耐熱性樹脂が浸透し易くなる。従って、前記多孔質フィルムの両面付近において、ポリオレフィンの結晶の配向をより固定化し、かつ、その構造をより緻密化することができる。それゆえに、前記厚み変化率の絶対値を、小さくすることができ、1.40%以下の好適な範囲に制御することができる。前記厚み変化率の絶対値を小さくして、好適な範囲に制御するとの観点から、前記塗工層を乾燥する前に、前記多孔質フィルムに加える張力は、0.120N/mm以下であることが好ましく、0.110N/mm以下であることがより好ましい。具体的には、前記多孔質層を形成するにあたって、後述の実施例における表2に記載の「水洗MID」の欄に記載された張力を、前記塗工層を乾燥する前に前記多孔質フィルムに加える張力として、前述の好ましい範囲に制御することが好ましく、後述の実施例における表2に記載の「水洗MID」の欄に記載の張力および「水洗OUT」の欄に記載の張力の双方共を、前記塗工層を乾燥する前に前記多孔質フィルムに加える張力として、前述の好ましい範囲に制御することがより好ましい。
【0061】
また、前記多孔質フィルムにおける皺等の発生を抑制する観点からは、前記塗工層を乾燥する前に、前記多孔質フィルムに加える張力は、0.080N/mm以上であることが好ましく、0.090N/mm以上であることがより好ましい。
【0062】
(b)の方法において、前記熱処理は、前記塗工層に含まれる溶媒を除去する乾燥処理の後に、当該乾燥処理とは別に塗工層を加熱する工程である。前記熱処理を行うことによって、形成される多孔質層の多孔質フィルムとの界面付近における結晶配向および構造の緻密性を好適に制御することができる。それゆえに、前記厚み変化率の絶対値を、小さくすることができ、1.40%以下の好適な範囲に制御することができる。
【0063】
加えて、(a)に示す方法、および/または、(b)に示す方法を採用した上で、例えば、前記多孔質フィルムの両面に、前記多孔質層を積層することによって、前記厚み変化率の絶対値を、より小さくすることができ、より好適な範囲に制御することができる。詳細には、前記多孔質フィルムの両面上に前記多孔質層が積層されることによって、前記耐熱性樹脂が、前記多孔質フィルムの両面から浸透する。よって、前記多孔質フィルムの両面付近において、ポリオレフィンの結晶の配向をより固定化し、かつ、その構造をより緻密化することができる。それゆえに(a)に示す方法、および/または、(b)に示す方法を採用した上で、前記多孔質フィルムの両面に、前記多孔質層を積層することによって、前記厚み変化率の絶対値を、より好適な範囲に制御することができる。
【0064】
〔2.非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材は、正極と、上述のセパレータまたは積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材である。また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、上述のセパレータまたは積層セパレータを備える。
【0065】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材は、充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に優れるセパレータを備えることにより、自己放電、局所的な材料の劣化を防止し、非水電解液二次電池の保存安定性等電池の信頼性を向上させることができるとの効果を奏する。本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に優れるセパレータを備えることにより、電池の信頼性に優れるとの効果を奏する。
【0066】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法としては、従来公知の製造方法を採用することができる。例えば、正極、ポリオレフィン多孔質フィルムおよび負極をこの順で配置することにより非水電解液二次電池用部材を形成する。ここで、多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムと正極および負極の少なくとも一方との間に存在し得る。次いで、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れる。当該容器内を前記非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉する。これにより、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造することができる。
【0067】
<正極>
本発明の一実施形態における正極は、一般に非水電解液二次電池の正極として使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、正極として、正極活物質および結着剤を含む活物質層が正極集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0068】
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンまたはナトリウムイオン等の金属イオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、CoおよびNi等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0069】
前記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。前記導電剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
前記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。なお、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0071】
前記正極集電体としては、例えば、Al、Niおよびステンレス等の導電体が挙げられる。中でも、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0072】
正極シートの製造方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にした後、当該ペーストを正極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0073】
<負極>
本発明の一実施形態における負極としては、一般に非水電解液二次電池の負極として使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、負極として、負極活物質および結着剤を含む活物質層が負極集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0074】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンまたはナトリウムイオン等の金属イオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、例えば、炭素質材料等が挙げられる。炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックおよび熱分解炭素類等が挙げられる。
【0075】
前記負極集電体としては、例えば、Cu、Niおよびステンレス等が挙げられる。リチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0076】
負極シートの製造方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にした後、当該ペーストを負極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。前記ペーストには、好ましくは上述の導電剤および前記結着剤が含まれる。
【0077】
<非水電解液>
本発明の一実施形態における非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であれば特に限定されない。前記非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩およびLiAlCl等が挙げられる。前記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類および含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。前記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例0079】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
[測定方法]
実施例および比較例における各種の測定を、以下の方法によって行った。
【0081】
<膜厚の測定>
後述の実施例および比較例における、多孔質フィルムおよびセパレータの厚み(膜厚)を、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機(VL-50)を用いて測定した。また、前記セパレータの厚みと前記多孔質フィルムの厚みの差を算出し、多孔質層の合計厚みとした。
【0082】
<重量目付の測定>
後述の実施例および比較例における多孔質フィルムから、一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W(g)を測定した。そして、以下の式(2)に従い、多孔質フィルムの重量目付を算出した。
多孔質フィルムの重量目付(g/m)=W/(0.08×0.08) (2)
同様に、後述の実施例および比較例におけるセパレータから、一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W(g)を測定した。そして、以下の式(3)に従い、セパレータの重量目付を算出した。
セパレータの重量目付(g/m)=W/(0.08×0.08) (3)
さらに、前記セパレータの重量目付と前記多孔質フィルムの重量目付との差を算出し、多孔質層の合計重量目付とした。
【0083】
<透気度の測定>
後述の実施例および比較例におけるセパレータの透気度(ガーレ値)を、JIS P8117に準拠して測定した。
【0084】
<ヒートショックサイクル試験前後の厚み変化維持率の絶対値の測定>
(ヒートショックサイクル試験)
後述の実施例および比較例におけるセパレータを、2枚の紙(ASUKUL社製、商品名Multipaper Super White J、厚み:0.09mm)の間に挟み込んでなる積層体をガラス板(日本板硝子株式会社社製、商品名Ultra Fine Flat Glass(FL110-L4)、厚み:1.1mm)に貼り付けることにより、試験サンプルを作製した。冷熱衝撃試験装置(エスペック株式会社から販売されている製品名「TSA-71L-A-3」)の内部に前記試験用サンプルを入れて、以下の条件にて、ヒートショックサイクル試験(以下、「HS試験」とも称する)を実施した。
・高温:85℃
・高温の保持時間:30分
・低温:-40℃
・低温の保持時間:30分
・高温-低温間の温度移行時間:1分
・高温-低温-高温の温度変化を1サイクルとする、サイクル数:150サイクル
なお、外気を導入せず、結露を発生させない条件を設定した。
【0085】
(厚み変化率測定)
ミツトヨ社製の高精度デジタル測長機を用いて、前記HS試験前のセパレータの膜厚:Dと、前記HS試験後のセパレータの膜厚Dを測定した。得られたHS試験前後のセパレータの膜厚を用いて、以下の式(1)に基づき、HS試験前後の厚み変化率を算出し、その絶対値を求めた。
厚み変化率(%)={(D-D)/D}×100 (1)
<多孔質層剥離後の限界耐電圧の測定>
後述の実施例および比較例におけるセパレータの各多孔質層を、テープ(3M社製、商品名スコッチ 透明ブックテープ(厚手)845)を用いて剥がす操作を1回実施した後のセパレータをサンプルとして準備した。前記サンプルを対象として、日本テクナート製のインパルス絶縁試験機IMP3800Kを用いて、以下の手順にて、限界耐電圧の測定を行った。
(i)前記インパルス絶縁試験機における、円柱電極φ25mmと円柱電極φ75mmの間に測定対象である前記サンプルを挟んだ。
(ii)前記インパルス絶縁試験機内部にあるコンデンサに電荷を溜めていくことにより、この内部コンデンサに電気的に接続された上部電極と下部電極の間にある前記サンプルに、電圧を印加した。前記電圧は、測定開始時は0Vであり、その後、直線上、すなわち一定の割合(25V/sec)にて増大させた。
(iii)絶縁破壊が発生する、すなわち電圧降下が検出されるまで、電圧を印加し、上記電圧降下が検出された電圧を測定した。測定された電圧を、多孔質剥離後の限界耐電圧とした。
【0086】
[実施例1]
<塗工液の調製>
多孔質層を構成する樹脂として、アラミド樹脂の一種である、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(以下、「PPTA」と称する)を以下の方法にて合成した。
【0087】
合成用の容器として、攪拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、容量3Lのセパラブルフラスコを使用した。充分に乾燥させたフラスコに、2200gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を仕込んだ。この中に、151.07gの塩化カルシウム粉末を加え、100℃に昇温して完全に溶解させ、塩化カルシウムのNMP溶液を得た。前記塩化カルシウム粉末は、予め200℃にて2時間真空乾燥させたものを用いた。
【0088】
次に、前記塩化カルシウムのNMP溶液の温度を室温に戻して、68.23gのパラフェニレンジアミンを加え、完全に溶解させ、溶液(1)を得た。溶液(1)の温度を20℃±2℃に保ったまま、溶液(1)に対して124.25gのテレフタル酸ジクロライドを、4分割して約10分おきに添加した。その後も150rpmで攪拌を続けながら、溶液(1)の温度を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成することにより、PPTAを6重量%含むアラミド重合液(1)を得た。アラミド重合液(1)に含まれているPPTAの固有粘度は、1.5g/dLであった。
【0089】
100gのアラミド重合液(1)をフラスコに秤取し、6.0gのアルミナA(平均粒径:13nm)を加えて混合液A(1)を得た。混合液A(1)において、PPTAとアルミナAとの重量比は、1:1であった。次に、固形分が4.5重量%となるように、混合液A(1)に対してNMPを加えて、240分間攪拌して、混合液B(1)を得た。ここで言う「固形分」とは、PPTAとアルミナAとの総重量のことである。次に、混合液B(1)に対して、0.73gの炭酸カルシウムを加えて240分間攪拌することにより、溶液を中和させ、中和液(1)を得た。その後、中和液(1)を減圧下で脱泡して、スラリー状の塗工液(1)を調製した。
【0090】
<非水電解液二次電池用セパレータの作製>
ポリエチレン多孔質フィルム(以下、単に、「多孔質フィルム」とも称する)を搬送しながら、前記多孔質フィルムの片面に対して、スラリー状塗工液(1)の1回目の連続塗工を行い、塗布膜を形成した。前記多孔質フィルムの厚みおよび重量目付を以下の表1に示す。続いて、前記塗布膜が形成された前記多孔質フィルムを搬送しながら、以下の表2に示す温度および相対湿度:75%の条件下にて、前記多孔質フィルム上にて、PPTAを析出させた。次に、PPTAを析出させた塗布膜を水洗する水洗工程を行い、塩化カルシウムおよび溶媒を除去した。前記水洗工程では、前記塗付膜が形成された前記多孔質フィルムを複数の水が充填している複数の水洗槽を通過させることによって、水洗を実施した。ここで、複数の水洗槽のそれぞれの間にフィードロールを設け、前記多孔質フィルムに加える張力が規定張力に達するまで当該フィードロールの回転数を増加させる方法により、当該張力を、表2の「水洗MID」の欄に記載の大きさに制御した。また、最後の水洗槽の直後にフィードロールを設け、当該フィードロールの回転数を制御することによって、水洗工程の終了時に多孔質フィルムに加える張力を、表2の「水洗OUT」の欄に記載の大きさに制御した。
【0091】
その後、塩化カルシウムおよび溶媒が除去された前記塗布膜に対して、以下の表2に記載の加熱温度Rにて、加熱ローラー群1を用いて乾燥処理を行い、続いて、以下の表2に記載の加熱温度Rにて、加熱ローラー群2を用いて乾燥処理を実施した。すなわち、前記塗布膜を連続的に乾燥させる1回目の乾燥処理を行った。その結果、前記多孔質フィルムの片面上に、多孔質層が形成されてなる、片面積層セパレータ(1)を得た。なお、加熱ローラー群2のうち、前半ローラーと後半ローラーとで異なる温度とした。以下、前記前半ローラーにおける加熱温度をR2a、前記後半ローラーにおける加熱温度をR2bとする。なお、前半ローラーとは加熱ローラー群2のうち、上流に位置するローラーであり、後半ローラーとは、下流に位置するローラーである。言い換えると、前記塗布膜に対して、加熱温度Rにて乾燥させ、続けて、加熱温度R2aにて乾燥させ、さらに続けて加熱温度R2bにて乾燥させる、乾燥処理を実施した。ここで、加熱温度Rでの乾燥および加熱温度R2aでの乾燥は、塗布膜から溶媒を除去する工程に相当し、加熱温度R2bでの乾燥は、熱処理工程に相当する。すなわち、加熱温度R2aでの乾燥により、前記多孔質フィルム上に多孔質層が析出し、加熱温度R2bでの乾燥により、多孔質層が析出した多孔質フィルムが熱処理された。
【0092】
その後、前記片面積層セパレータ上の前記塗工面と反対の面に対して、スラリー状塗工液(1)の2回目の連続塗工を行い、続いて、前記片面積層セパレータ作製時と同一の条件下にて、前記反対の面上に、PPTAが析出した塗布膜を形成し、前記PPTAが析出した塗布膜を水洗することにより、塩化カルシウムおよび溶媒を除去した。塩化カルシウムおよび溶媒が除去された前記塗布膜に対して、前記片面積層セパレータ作製時と同一の条件下にて2回目の乾燥処理を行い、前記多孔質フィルムの両面上に、多孔質層が形成されてなる、両面積層セパレータ(1)を得た。前記両面積層セパレータ(1)を、セパレータ(1)とした。
【0093】
[実施例2]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚みおよび重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出、水洗工程および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、両面積層セパレータ(2)を得た。前記両面積層セパレータ(2)を、セパレータ(2)とした。
【0094】
[実施例3]
PPTAの析出、水洗工程および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、片面積層セパレータ(3)を得た。実施例3では、多孔質フィルムの片面上のみに多孔質層を形成した、すなわち2回目の連続塗工~2回目の乾燥処理までの工程を実施しなかった。前記片面積層セパレータ(3)を、セパレータ(3)とした。
【0095】
[実施例4]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚みおよび重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出、水洗工程および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと、並びに、乾燥処理において、加熱温度R2bにて乾燥させる工程を実施する代わりに、加熱温度R2aにて乾燥させて得られた、多孔質層が析出した多孔質フィルムを210mm×297mmの大きさに切り出し、切り出された、多孔質層が析出した多孔質フィルムを恒温槽に入れ、130℃の温度にて10分間加熱にて熱処理(アニール)したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、片面積層セパレータ(4)を得た。実施例3では、多孔質フィルムの片面上のみに多孔質層を形成した、すなわち2回目の連続塗工~2回目の乾燥処理までの工程を実施しなかった。前記片面積層セパレータ(4)を、セパレータ(4)とした。
【0096】
[比較例1]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚みおよび重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出、水洗工程および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと、並びに、乾燥処理において、加熱温度R2bにて乾燥させる工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同一の方法にて、比較用片面積層セパレータ(1)を得た。比較例1では、多孔質フィルムの片面上のみに多孔質層を形成した、すなわち2回目の連続塗工~2回目の乾燥処理までの工程を実施しなかった。前記比較用片面積層セパレータ(1)を、比較用セパレータ(1)とした。
【0097】
[比較例2]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚みおよび重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出、水洗工程および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、比較用両面積層セパレータ(2)を得た。前記比較用両面積層セパレータ(2)を、比較用セパレータ(2)とした。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
[結果]
実施例および比較例にて製造されたセパレータの物性を前述の方法にて測定した結果を以下の表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
表3に示すとおり、実施例1~4に記載のセパレータ(1)~(4)は、HS試験前後の厚み変化率の絶対値が1.40%以下であった。一方、比較例1および2に記載の比較用セパレータ(1)および(2)は、HS試験前後の厚み変化率の絶対値が1.40%を超えていた。そして、セパレータ(1)~(4)は、比較用セパレータ(1)および(2)と比較して、多孔質層剥離後の限界耐電圧が高く、充放電サイクルを繰り返した際に、多孔質層が一部剥離した状態であっても、充分な耐電圧性を保持していることが分かった。
【0103】
以上のことから、本発明の一実施形態に係るセパレータは、HS試験前後の厚み変化率の絶対値が1.40%であることによって、充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に優れるとの効果を奏することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、充放電サイクルを繰り返した際の耐電圧性に優れ、サイクル特性に優れる非水電解液二次電池の製造に利用することができる。