(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098268
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/417 20210101AFI20230703BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20230703BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20230703BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230703BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/457
H01M50/423
H01M10/0566
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214926
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓史
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE07
5H021HH03
5H021HH06
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029DJ04
5H029DJ17
5H029EJ12
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性に優れる非水電解液二次電池用セパレータの提供。
【解決手段】ポリオレフィン多孔質フィルムを含み、エタノール浸漬後の伸び率が、0.85%以上、1.5%以下であり、かつ、突刺し強度が、300gf以上である、非水電解液二次電池用セパレータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータであって、
エタノール浸漬後の伸び率が、0.85%以上、1.5%以下であり、かつ、
突刺し強度が、300gf以上である、非水電解液二次電池用セパレータ。
(ここで、前記エタノール浸漬後の伸び率は、以下の式(1)にて算出される;
エタノール浸漬後の伸び率(%)={(X1-X0)/X0}×100 (1)、
式(1)中、X0は、前記非水電解液二次電池用セパレータをエタノールに浸漬する前のTD方向における長さ(mm)であり、X1は、前記非水電解液二次電池用セパレータをエタノールに24時間浸漬した後のTD方向における長さ(mm)であり、
前記突刺し強度は、以下の(i)および(ii)の方法にて算出される;
(i)前記非水電解液二次電池用セパレータを固定した後、ピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、突刺し速度:200mm/minの条件にて、前記非水電解液二次電池用セパレータに突き刺す。
(ii)(i)にて前記非水電解液二次電池用セパレータに前記ピンを突刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を突刺し強度とする。)
【請求項2】
前記非水電解液二次電池用セパレータを、150℃の温度にて1時間加熱した場合の加熱収縮率が、20%以下である、請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
(ここで、前記加熱収縮率は、以下の式(2)にて算出される。
加熱収縮率={(A0-A1)/A0}×100 (2)
式(2)中、A0は、前記非水電解液二次電池用セパレータを加熱する前の当該非水電解液二次電池用セパレータの面積であり、A1は、前記非水電解液二次電池用セパレータを150℃の温度にて1時間加熱した後の当該非水電解液二次電池用セパレータの面積である。)
【請求項3】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの両面に、樹脂を含む多孔質層が積層してなる、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記樹脂が、アラミド樹脂を含む、請求項3に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項5】
正極と、請求項1~4の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用され、また最近では車載用の電池として開発が進められてきている。
【0003】
このような非水電解液二次電池におけるセパレータの一例として、特許文献1において、非水電解液に浸漬し、膨潤した際の伸び率が0.3%以上であるセパレータが挙げられている。前記セパレータは、非水電解液二次電池において、電解液の枯渇を防ぎ、非水電解液二次電池の寿命を長くすることができることが、特許文献1には開示されている。具体的には、特許文献1の実施例において、非水電解液二次電池の寿命を長くすることができるセパレータとして、前記伸び率が0.54%であるセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のセパレータを備える非水電解液二次電池は、耐衝撃性の面においてさらなる改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、耐衝撃性に優れる非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の値以上の突刺し強度を備える非水電解液二次電池用セパレータにおいて、エタノール等の有機溶媒に浸漬した後の伸び率が、電池の寿命とは全く異なる、非水電解液二次電池の耐衝撃性に関係性があることを初めて見出し、本発明に想到した。
【0008】
本発明の一態様は、以下の[1]~[6]に示す発明を含む。
[1]ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータであって、
エタノール浸漬後の伸び率が、0.85%以上、1.5%以下であり、かつ、
突刺し強度が、300gf以上である、非水電解液二次電池用セパレータ。
(ここで、前記エタノール浸漬後の伸び率は、以下の式(1)にて算出される;
エタノール浸漬後の伸び率(%)={(X1-X0)/X0}×100 (1)、
式(1)中、X0は、前記非水電解液二次電池用セパレータをエタノールに浸漬する前のTD方向における長さ(mm)であり、X1は、前記非水電解液二次電池用セパレータをエタノールに24時間浸漬した後のTD方向における長さ(mm)であり、
前記突刺し強度は、以下の(i)および(ii)の方法にて算出される;
(i)前記非水電解液二次電池用セパレータを固定した後、ピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、突刺し速度:200mm/minの条件にて、前記非水電解液二次電池用セパレータに突き刺す。
(ii)(i)にて前記非水電解液二次電池用セパレータに前記ピンを突刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を突刺し強度とする。)。
[2]前記非水電解液二次電池用セパレータを、150℃の温度にて1時間加熱した場合の加熱収縮率が、20%以下である、[1]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
(ここで、以下の式(2)にて算出される。
加熱収縮率={(A0-A1)/A0}×100 (2)
式(2)中、A0は、前記非水電解液二次電池用セパレータを加熱する前の当該非水電解液二次電池用セパレータの面積であり、A1は、前記非水電解液二次電池用セパレータを150℃の温度にて1時間加熱した後の当該非水電解液二次電池用セパレータの面積である。)
[3]前記ポリオレフィン多孔質フィルムの両面に、樹脂を含む多孔質層が積層してなる、[1]または[2]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[4]前記樹脂が、アラミド樹脂を含む、[3]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[5]正極と、[1]~[4]の何れか1つに記載の非水電解液二次電池用セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
[6][1]~[4]の何れか1つに記載の非水電解液二次電池用セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、当該非水電解液二次電池用セパレータを備える非水電解液二次電池の耐衝撃性を向上させることができるとの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0011】
本明細書において、MD方向(Machine Direction)とは、後述のポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法において、シート状のポリオレフィン樹脂組成物、シートおよびポリオレフィン多孔質フィルムが搬送される方向を意味する。また、TD方向(Transverse Direction)とは、前記シート状のポリオレフィン樹脂組成物、前記シート、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの面に平行な方向であってMD方向に垂直な方向を意味する。さらに、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータにおいて、当該非水電解液二次電池用セパレータを構成するポリオレフィン多孔質フィルムにおけるMD方向およびTD方向と同じ方向を、当該非水電解液二次電池用セパレータのMD方向およびTD方向と規定する。
【0012】
[実施形態1:非水電解液二次電池用セパレータ]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータであって、エタノール浸漬後の伸び率が、0.85%以上、1.5%以下であり、かつ、突刺し強度が、300gf以上である。
【0013】
ここで、前記エタノール浸漬後の伸び率は、以下の式(1)にて算出される;
エタノール浸漬後の伸び率(%)={(X1-X0)/X0}×100 (1)
式(1)中、X0は、前記非水電解液二次電池用セパレータをエタノールに浸漬する前のTD方向における長さ(mm)であり、X1は、前記非水電解液二次電池用セパレータをエタノールに24時間浸漬した後のTD方向における長さ(mm)である。
【0014】
また、前記突刺し強度は、以下の(i)および(ii)の方法にて算出される;
(i)前記非水電解液二次電池用セパレータを固定した後、ピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、突刺し速度:200mm/minの条件にて、前記非水電解液二次電池用セパレータに突き刺す。
(ii)(i)にて前記非水電解液二次電池用セパレータに前記ピンを突刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を突刺し強度とする。
【0015】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む。以下、前記非水電解液二次電池用セパレータを単に「セパレータ」とも称し、前記ポリオレフィン多孔質フィルムを単に「多孔質フィルム」とも称する。
【0016】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記多孔質フィルムからなるセパレータであり得る。また、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記多孔質フィルムおよび後述する多孔質層を含む積層体であるセパレータであり得る。なお、前記多孔質フィルムおよび後述する多孔質層を含む積層体であるセパレータを、以下において、「積層セパレータ」とも称する。前記積層セパレータは、前記多孔質フィルムの片面または両面上に、前記多孔質層が積層してなるセパレータであり得る。前記積層セパレータは、好ましくは、前記多孔質フィルムの両面上に、前記多孔質層が積層してなるセパレータであり得る。
【0017】
非水電解液二次電池内において、セパレータは、非水電解液に浸漬することにより、当該非水電解液が内部に浸透した状態である。ここで、前述のエタノールに24時間浸漬した後のセパレータは、当該エタノールが内部に浸透した状態である。また、エタノールは、前記非水電解液と同様の有機溶媒である。よって、セパレータが、特定の範囲の前記エタノール浸漬後の伸び率を備えているとは、当該セパレータは、非水電解液二次電池内において、同程度の伸び率を備えることを意味する。
【0018】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記エタノール浸漬後の伸び率が、0.85%以上であるため、非水電解液二次電池内において、ある程度伸長した状態になり得る。ここで、ある程度伸長した状態のセパレータは、外力が加えられた場合、当該外力を吸収する余裕を有する。従って、本発明の一実施形態に係るセパレータは、当該セパレータを備える非水電解液二次電池に対して強い衝撃が加えられた場合であっても、当該非水電解液二次電池が破損するリスクを低下させることができる。すなわち、本発明の一実施形態に係るセパレータは、当該当該セパレータを備える非水電解液二次電池の耐衝撃性を向上させることができる。前記エタノール浸漬後の伸び率は、1.0%以上であることが好ましく、1.2%以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記エタノール浸漬後の伸び率が1.5%以下であり、非水電解液二次電池内において、過剰に伸長した状態にはならない。ここで、非水電解液二次電池においては、電極、すなわち正極と負極との間にセパレータが位置する。非水電解液二次電池において、セパレータが過剰に伸長しないことによって、強い衝撃が加えられた場合であっても電極とセパレータとの間に位置ずれが生じ難い。それゆえ、当該非水電解液二次電池の耐衝撃性が向上する。前記エタノール浸漬後の伸び率は、1.45%以下であることが好ましく、1.40%以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記突刺し強度が300gf以上と高い値である。よって、本発明の一実施形態に係るセパレータは、破断し難い。それゆえに、本発明の一実施形態に係るセパレータを用いることによって、非水電解液二次電池をより容易に組み立てることができる。また、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記突刺し強度が300gf以上であることによって、外力を加えられた場合にも破損し難く、当該セパレータを備える非水電解液二次電池の耐衝撃性を向上させることもできる。
【0021】
前述の非水電解液二次電池の組み立ての容易性および耐衝撃性の観点から、前記突刺し強度は、400gf以上であることが好ましく、500gf以上であることがより好ましい。また、前記突刺し強度の上限値は、特に限定されず、例えば、650gf以下であってもよく、700gf以下であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、150℃の温度にて1時間加熱した場合の加熱収縮率が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。ここで、前記加熱収縮率は、150℃の温度にて1時間加熱することにより、セパレータが収縮する度合を表すパラメータである。前記加熱収縮率は、加熱前のセパレータの面積A0と、150℃の温度にて1時間加熱した後のセパレータの面積A1を用いて、以下の式(2)にて算出される。
加熱収縮率={(A0-A1)/A0}×100 (2)
式(2)中、A0は、前記非水電解液二次電池用セパレータを加熱する前の当該非水電解液二次電池用セパレータの面積であり、A1は、前記非水電解液二次電池用セパレータを150℃の温度にて1時間加熱した後の当該非水電解液二次電池用セパレータの面積である。
【0023】
セパレータの加熱収縮率が低いことにより、非水電解液二次電池の発熱によるセパレータの収縮が抑制される。従って、セパレータの収縮に起因するセパレータと電極との密着性の低下も抑制される。よって、非水電解液二次電池に強い衝撃が加えられた場合であっても、電極とセパレータとの間に位置ずれが生じ難い。それゆえ、当該非水電解液二次電池の耐衝撃性が向上する。非水電解液二次電池の耐衝撃性の面からは、前記加熱収縮率は、前述の範囲内であることが好ましい。また、前記加熱収縮率の下限値は、0%以上であり、0.1%以上であってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、150℃の温度にて1時間加熱した場合の、MD方向における加熱収縮率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。前記MD方向における加熱収縮率は、以下の式(3)にて算出される。
MD方向における加熱収縮率={(DMD0-DMD1)/DMD0}×100 (3)
式(3)中、DMD0は、加熱前のセパレータのMD方向における長さであり、DMD1は、150℃の温度にて1時間加熱した後のセパレータのMD方向における長さである。
【0025】
本発明の一実施形態に係るセパレータは、150℃の温度にて1時間加熱した場合の、TD方向における加熱収縮率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。前記TD方向における加熱収縮率は、以下の式(4)にて算出される。
TD方向における加熱収縮率={(DTD0-DTD1)/DTD0}×100 (4)
式(4)中、DTD0は、加熱前のセパレータのTD方向における長さであり、DTD1は、150℃の温度にて1時間加熱した後のセパレータのTD方向における長さである。
【0026】
<ポリオレフィン多孔質フィルム>
前記多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含み、一般には、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムである。また、「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする」とは、多孔質フィルムに占めるポリオレフィン系樹脂の割合が、多孔質フィルムを構成する材料全体の50重量%以上、好ましくは90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上であることを意味する。
【0027】
前記多孔質フィルムは、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体および液体を通過させることが可能となっている。
【0028】
前記多孔質フィルムの膜厚は、4~40μmであり、5~20μmであることが好ましい。前記多孔質フィルムの膜厚が4μm以上であれば、電池の内部短絡を十分に防止することができる。一方、前記多孔質フィルムの膜厚が40μm以下であれば、非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる。
【0029】
前記ポリオレフィン系樹脂には、重量平均分子量が5×105~15×106の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィン系樹脂に重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、得られる多孔質フィルムおよび当該多孔質フィルムを含むセパレータの強度が向上するのでより好ましい。
【0030】
前記ポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-ヘキセン等の単量体を重合してなる、単独重合体または共重合体といった熱可塑性樹脂を挙げることができる。前記単独重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンを挙げることができる。また、前記共重合体としては、例えばエチレン-プロピレン共重合体を挙げることができる。
【0031】
このうち、セパレータに過大電流が流れることをより低温で阻止することができるため、ポリエチレンがより好ましい。なお、この過大電流が流れることを阻止することをシャットダウンともいう。前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましい。
【0032】
多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止する機能を得ることができるように、20~80体積%であることが好ましく、30~75体積%であることがより好ましい。また、多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極および負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0033】
<多孔質層>
本発明の一実施形態において、多孔質層は、非水電解液二次電池を構成する部材として、ポリオレフィン多孔質フィルムと、正極および負極の少なくともいずれか一方との間に配置され得る。前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、正極および負極の少なくともいずれか一方の活物質層上に形成され得る。或いは、前記多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムと、正極および負極の少なくともいずれか一方との間に、これらと接するように配置されてもよい。ポリオレフィン多孔質フィルムと正極および負極の少なくともいずれか一方との間に配置される多孔質層は1層でもよく2層以上であってもよい。多孔質層は、樹脂を含む絶縁性の多孔質層であることが好ましい。
【0034】
ポリオレフィン多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、ポリオレフィン多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層される。より好ましくは、当該多孔質層は、正極と接する面に積層される。
【0035】
多孔質層を構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン;(メタ)アクリレート系樹脂;含フッ素樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ゴム類;融点またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂;水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0036】
上述の樹脂のうち、ポリオレフィン、ポリエステル系樹脂、アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂および水溶性ポリマーが好ましい。ポリアミド系樹脂としては、全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)が好ましい。ポリエステル系樹脂としては、ポリアリレートおよび液晶ポリエステルが好ましい。含フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。
【0037】
また、アラミド樹脂としては、例えば、パラアラミド、メタアラミドが挙げられるが、パラアラミドがより好ましい。パラアラミドとしては、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2-クロロ-パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、ポリ(4,4’-ジフェニルスルホニルテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/4,4’-ジフェニルスルホニルテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0038】
多孔質層はフィラーを含み得る。フィラーは無機フィラーまたは有機フィラーであり得る。フィラーとしては、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、水酸化アルミニウム、またはベーマイト等の無機酸化物からなる無機フィラーがより好ましい。多孔質層において、フィラーの含有量は、上述の樹脂およびフィラーの合計量に対して、10~99重量%であってもよく、20~75重量%であってもよい。
【0039】
特に、多孔質層を構成する樹脂がアラミド樹脂の場合、フィラーの含有量を上述の20~75重量%の範囲にすることで、フィラーによるセパレータの重量の増加が抑制でき、かつイオン透過性が良好なセパレータを得ることができる。
【0040】
本実施形態における多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムと正極が備える正極活物質層との間に配置されることが好ましい。多孔質層の物性に関する下記説明においては、非水電解液二次電池としたときに、ポリオレフィン多孔質フィルムと正極が備える正極活物質層との間に配置された多孔質層の物性を少なくとも指す。
【0041】
前記多孔質層の平均膜厚は、電極との接着性および高エネルギー密度を確保する観点から、多孔質層一層当たり0.5μm~10μmの範囲であることが好ましく、1μm~5μmの範囲であることがより好ましい。多孔質層の膜厚が一層当たり0.5μm以上であると、非水電解液二次電池の破損等による内部短絡を充分に抑制することができ、また、多孔質層における電解液の保持量が充分となる。一方、多孔質層の膜厚が一層当たり10μmを超えると、非水電解液二次電池において、リチウムイオンの透過抵抗が増加するので、サイクルを繰り返すと正極が劣化するおそれがある。それゆえ、非水電解液二次電池において、レート特性およびサイクル特性が低下するおそれがある。また、正極および負極間の距離が増加するので非水電解液二次電池の内部容積効率が低下し得る。
【0042】
多孔質層の単位面積当たりの目付は、多孔質層の強度、膜厚、重量およびハンドリング性を考慮して適宜決定することができる。多孔質層の単位面積当たりの目付は、多孔質層一層当たり、0.5~20g/m2であることが好ましく、0.5~10g/m2であることがより好ましい。多孔質層の単位面積当たりの目付をこれらの数値範囲とすることにより、非水電解液二次電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を高くすることができる。多孔質層の目付が前記範囲を超える場合には、非水電解液二次電池が重くなる傾向がある。
【0043】
多孔質層の空隙率は、充分なイオン透過性を得ることができるように、20~90体積%であることが好ましく、30~80体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。細孔の孔径をこれらのサイズとすることにより、非水電解液二次電池は、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0044】
多孔質フィルムに多孔質層を積層させた積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30~1000sec/100mLであることが好ましく、50~800sec/100mLであることがより好ましい。前記積層セパレータは、前記透気度を有することにより、非水電解液二次電池において、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0045】
<積層セパレータ>
本発明の一実施形態に係るセパレータは、積層セパレータであり得る。
【0046】
前記積層セパレータの膜厚は、5.5μm~45μmであることが好ましく、6μm~25μmであることがより好ましい。
【0047】
前記積層セパレータの透気度は、ガーレ値で100~350sec/100mLであることが好ましく、100~300sec/100mLであることがより好ましい。
【0048】
尚、本発明の一実施形態に係るセパレータは、前記多孔質フィルムおよび前記多孔質層以外の別の多孔質層を、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。前記別の多孔質層としては、耐熱層、接着層、保護層等の公知の多孔質層が挙げられる。
【0049】
<非水電解液二次電池用セパレータの製造方法>
(ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法)
多孔質フィルムの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、ポリオレフィン系樹脂と、無機充填剤または可塑剤等の孔形成剤と、任意で酸化防止剤等とを混練した後に押し出すことにより、シート状のポリオレフィン樹脂組成物を作製する。そして、適当な溶媒にて孔形成剤をシート状のポリオレフィン樹脂組成物から除去する。その後、当該孔形成剤が除去されたポリオレフィン樹脂組成物を延伸することで、ポリオレフィン多孔質フィルムを製造することができる。
【0050】
上記無機充填剤としては、特に限定されるものではなく、無機フィラー、具体的には炭酸カルシウム等が挙げられる。上記可塑剤としては、特に限定されるものではなく、流動パラフィン等の低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0051】
多孔質フィルムの製造方法として、具体的には、以下に示すような工程を含む方法を挙げることができる。
(A)超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリエチレンと、炭酸カルシウムまたは可塑剤等の孔形成剤と、酸化防止剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程。
(B)得られたポリオレフィン樹脂組成物を一対の圧延ローラーで圧延し、速度比を変えた巻き取りローラーで引っ張りながら段階的に冷却し、シートを成形する工程。
(C)得られたシートの中から適当な溶媒にて孔形成剤を除去する工程。
(D)孔形成剤が除去されたシートを適当な延伸倍率にて延伸する工程。
【0052】
(多孔質層、積層セパレータの製造方法)
本発明の一実施形態における多孔質層および本発明の一実施形態に係る積層セパレータの製造方法としては、例えば、前記多孔質層に含まれる樹脂を含む塗工液を前記多孔質フィルムの片面または両面に塗布し、乾燥させることによって溶媒を除去して、前記多孔質フィルム上に前記多孔質層を形成する方法、並びに、前記多孔質層に含まれる樹脂を含む塗工液を前記多孔質フィルムの片面または両面に塗布した後、特定の温度および特定の相対湿度の条件下にて、前記多孔質フィルム上に、前記多孔質層に含まれる樹脂を析出させた後、乾燥によって溶媒を除去することによって前記多孔質フィルム上に前記多孔質層を形成する方法が挙げられる。
【0053】
なお、前記多孔質フィルムの両面に多孔質層を形成する場合は、(a)前記多孔質フィルムの両面にて前記多孔質層を同時に形成してもよく、(b)前記多孔質フィルムの片面に前記塗工液を塗布し、前記多孔質フィルムの片面に多孔質層を形成した後、前記多孔質フィルムのもう一方の片面に前記塗工液を塗布し、前記多孔質フィルムのもう一方の片面に多孔質層を形成してもよい。
【0054】
また、前記塗工液を前記多孔質フィルムの片面または両面に塗布する前に、当該ポリオレフィン多孔質フィルムの塗工液を塗布する片面または両面に対して、必要に応じて親水化処理を行うことができる。
【0055】
前記塗工液は、前記多孔質層に含まれる樹脂を含む。また、前記塗工液は、前記多孔質層に含まれ得る後述の微粒子を含み得る。前記塗工液は、通常、前述の多孔質層に含まれ得る樹脂を溶媒に溶解させると共に、前記微粒子を分散させることにより調製され得る。ここで、前記樹脂を溶解させる前記溶媒は、前記微粒子を分散させる分散媒を兼ねている。また、前記溶媒により前記樹脂をエマルションとしてもよい。
【0056】
前記溶媒は、ポリオレフィン多孔質フィルムに悪影響を及ぼさず、前記樹脂を均一かつ安定に溶解し、前記微粒子を均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。前記溶媒としては、具体的には、例えば、水および有機溶媒が挙げられる。前記溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)および微粒子量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。また、前記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記樹脂および微粒子以外の成分として、分散剤、可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0058】
塗工液の多孔質フィルムへの塗布方法、つまり、多孔質フィルムの表面への多孔質層の形成方法は、特に制限されるものではない。多孔質層の形成方法としては、例えば、塗工液を多孔質フィルムの表面に直接塗布した後、溶媒を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布し、溶媒を除去して多孔質層を形成した後、この多孔質層と多孔質フィルムとを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布した後、塗布面に多孔質フィルムを圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0059】
塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、グラビアコーター法、ディップコーター法、バーコーター法、およびダイコーター法等が挙げられる。
【0060】
溶媒の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。また、塗工液に含まれる溶媒を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。
【0061】
(「エタノール浸漬後の伸び率」および「突刺し強度」の制御方法)
本発明の一実施形態において、「エタノール浸漬後の伸び率」を好適な範囲に制御する方法として、例えば、以下の(a)~(d)に示す方法にて、セパレータを構成する多孔質フィルムの残留応力を調整する方法を挙げることができる。
(a)前述の多孔質フィルムの製造方法における工程(D)における延伸倍率を好適な範囲に制御する方法。
(b)前述の多孔質フィルムの製造方法における工程(D)の後、好適な温度にて熱処理する方法。
(c)前記多孔質フィルム上に、前記塗工液を塗布し、塗工層を形成した後、好適な温度および好適な相対湿度の条件下にて、好適な伸び率となるように、当該多孔質フィルムおよび当該塗工層からなる積層体をMD方向に伸長させながら、前記多孔質層を構成する樹脂を析出させる方法。
(d)前記多孔質フィルム上に、前記多孔質層を構成する樹脂を析出させた後、前記多孔質層を構成する樹脂が析出した多孔質フィルムを、特定の加熱温度にて乾燥させて、前記塗工液に含まれる溶媒を除去して、前記多孔質層を形成した後、前記多孔質フィルムおよび前記多孔質層とからなる積層体を、好適な温度にて熱処理する方法。
【0062】
(a)の方法にて、延伸倍率の好適な範囲は、多孔質フィルムの組成等によって変動し得る。具体的には、前記延伸倍率の好適な範囲は、例えば、3倍~20倍が好ましく、6倍~9倍がより好ましい。前記延伸倍率を好適な範囲に制御することによって、得られる多孔質フィルムにおける残留応力を好適な範囲に制御することができる。その結果、前記多孔質フィルムを含むセパレータの「エタノール浸漬後の伸び率」を好適な範囲に制御することができる。
【0063】
(b)の方法にて、熱処理を行うことにより、工程(D)にて延伸されたシートを収縮させることにより、その内部の歪みが小さくなり、得られる多孔質フィルムにおける残留応力を低減させることができる。その結果、前記多孔質フィルムを含むセパレータの「エタノール浸漬後の伸び率」を小さくして、好適な範囲に制御することができる。ここで、前記熱処理における熱処理温度は、例えば、50℃~100℃が好ましく、60℃~90℃がより好ましい。
【0064】
(c)の方法において、前記多孔質層を析出させる場合における、好適な温度および好適な相対湿度、並びに、好適な伸び率は、前記多孔質層フィルムおよび前記多孔質層の組成にて変動し得る。具体的には、前記多孔質層を析出させる場合における好適な温度は、45℃~65℃であることが好ましく、50℃~60℃であることがより好ましい。前記多孔質層を析出させる場合における好適な相対湿度は、65%~80%であることが好ましく、70%~75%であることがより好ましい。前記好適な伸び率は、析出工程全体にて、1.0%~6.5%であることが好ましく、4.5%~6.5%であることがより好ましい。前記多孔質層を析出させる場合の伸長における伸び率は、以下の式(5)にて算出される。
伸び率(%)={(d1-d0)/d0}×100(%) (5)
式(5)中、d0は、伸長前の前記積層体の搬送速度であり、d1は、伸長後の前記積層体の搬送速度である。
【0065】
また、前記多孔質層を析出させる場合において、析出時に前記積層体を1回伸長させてもよく、2回以上伸長させてもよい。2回以上伸長させる場合、それぞれの伸長における伸び量の合計値から算出される伸び率が、前述の好適な範囲内であることが好ましい。前記伸び率を前述の好適な範囲に調整することによって、得られる積層セパレータを構成する多孔質フィルムにおける残留応力を好適な範囲に制御することができる。その結果、前記積層セパレータの「エタノール浸漬後の伸び率」を好適な範囲に制御することができる。
【0066】
(d)の方法において、前記溶媒を除去して、前記多孔質層を形成するための加熱温度は、前記溶媒の種類によって変動し得る。具体的には、前記加熱温度は、70℃~100℃であることが好ましく、85℃~98℃であることがより好ましい。また、前記溶媒を除去した後、前記熱処理における温度(熱処理温度)は、85℃~135℃であることが好ましく、85℃~90℃であることがより好ましい。
【0067】
前記好適な温度による前記熱処理を行うことによって、(b)の方法と同様に、得られる積層セパレータを構成する前記多孔質フィルム内部の歪みが小さくなり、当該多孔質フィルムにおける残留応力を低減させることができる。その結果、前記積層セパレータの「エタノール浸漬後の伸び率」を小さくして、好適な範囲に制御することができる。
【0068】
(d)の方法にて、前記溶媒を除去するための加熱および前記熱処理の手段としては、ローラー加熱を用いることができる。ローラー加熱では、加熱されたローラーに、前記樹脂が析出した多孔質フィルムを接触させることで、当該樹脂が析出した多孔質フィルムを乾燥させる。ローラーを加熱する方法としては、例えば、ローラー内部に熱媒を供給し、循環させる方法が挙げられる。この場合、上述の加熱温度および熱処理温度は、熱媒の温度を表す。また、異なる種類の熱媒を用いた複数のローラーを用いて、前記加熱および前記熱処理を行うことによって、前記加熱温度と異なる温度にて、前記熱処理を行うことができる。熱媒としては、例えば、温水、油、スチーム等が用いられる。例えば、低温のローラーには温水を供給し、高温のローラーにはスチームを供給してもよい。
【0069】
本発明の一実施形態において、「突刺し強度」を好適な範囲に制御する方法として、例えば、前記多孔質フィルムの透気度、シャットダウン(SD)温度および重量目付を好適な範囲に制御する方法を挙げることができる。
【0070】
加えて、(a)~(d)のうちの少なくとも1つの方法を採用した上で、例えば、前記多孔質フィルムの両面に、前記多孔質層を積層することによって、「エタノール浸漬後の伸び率」をより大きくして、より好適な範囲に制御することができる。詳細には、上で示す通り、工程(D)にて延伸されたシートを加熱することにより、得られる多孔質フィルムにおける残留応力が低減される。ここで、前記多孔質フィルム上に前記多孔質層を積層させる場合、通常、前記塗工液から当該多孔質層を析出させるために、当該多孔質フィルムは加熱され、前記残留応力は低減される。一方、前記多孔質フィルムは、加熱によりMD方向の弾性変形を生じやすくなる。よって、前記多孔質フィルムの両面上に前記多孔質層が積層される場合、前記多孔質フィルムの片面上に前記多孔質層が積層される場合と比較して、伸縮性の少ない当該多孔質層により当該多孔質フィルムの大きさが固定される。従って、前記収縮による前記多孔質フィルムにおける残留応力がより低減し難くなる。その結果、前記多孔質フィルムを含むセパレータの「エタノール浸漬後の伸び率」をより大きくなる。それゆえに、(a)~(d)のうちの少なくとも1つの方法を採用した上で、前記多孔質フィルムの両面に、前記多孔質層を積層することによって、「エタノール浸漬後の伸び率」を、より好適な範囲に制御することができる。
【0071】
「突刺し強度」を300gf以上の範囲に制御するとの観点から、前記多孔質フィルムの透気度は、55sec/100mL~90sec/100mLであることが好ましく、80sec/100mL~85sec/100mLであることがより好ましい。また、前記多孔質フィルムのSD温度は、135℃~147℃であることが好ましく、138℃~145℃であることがより好ましい。さらに、前記多孔質フィルムの重量目付は、4.0g/m2~5.0g/m2であることが好ましく、4.5g/m2~4.8g/m2であることがより好ましい。
【0072】
〔2.非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材は、正極と、上述のセパレータまたは積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材である。また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、上述のセパレータまたは積層セパレータを備える。
【0073】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材は、当該非水電解液二次電池用部材を備える非水電解液二次電池の耐衝撃性を向上させることができるとの効果を奏する。本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、耐衝撃性に優れるとの効果を奏する。
【0074】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法としては、従来公知の製造方法を採用することができる。例えば、正極、ポリオレフィン多孔質フィルムおよび負極をこの順で配置することにより非水電解液二次電池用部材を形成する。ここで、多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムと正極および負極の少なくとも一方との間に存在し得る。次いで、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れる。当該容器内を前記非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉する。これにより、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造することができる。
【0075】
<正極>
本発明の一実施形態における正極は、一般に非水電解液二次電池の正極として使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、正極として、正極活物質および結着剤を含む活物質層が正極集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0076】
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンまたはナトリウムイオン等の金属イオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、CoおよびNi等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0077】
前記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。前記導電剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
前記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。なお、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0079】
前記正極集電体としては、例えば、Al、Niおよびステンレス等の導電体が挙げられる。中でも、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0080】
正極シートの製造方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にした後、当該ペーストを正極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0081】
<負極>
本発明の一実施形態における負極としては、一般に非水電解液二次電池の負極として使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、負極として、負極活物質および結着剤を含む活物質層が負極集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0082】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンまたはナトリウムイオン等の金属イオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、例えば、炭素質材料等が挙げられる。炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックおよび熱分解炭素類等が挙げられる。
【0083】
前記負極集電体としては、例えば、Cu、Niおよびステンレス等が挙げられる。リチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0084】
負極シートの製造方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にした後、当該ペーストを負極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。前記ペーストには、好ましくは上述の導電剤および前記結着剤が含まれる。
【0085】
<非水電解液>
本発明の一実施形態における非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であれば特に限定されない。前記非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、Li2B10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩およびLiAlCl4等が挙げられる。前記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類および含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。前記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例0087】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
[測定方法]
実施例および比較例における各種の測定を、以下の方法によって行った。
【0089】
<膜厚の測定>
後述の実施例および比較例における、多孔質フィルムおよびセパレータの膜厚を、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機(VL-50)を用いて測定した。
【0090】
<重量目付の測定>
後述の実施例および比較例における多孔質フィルムから、一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W(g)を測定した。そして、以下の式(6)に従い、多孔質フィルムの重量目付を算出した。
重量目付(g/m2)=W/(0.08×0.08) (6)
<透気度の測定>
後述の実施例および比較例における多孔質フィルムの透気度(ガーレ値)を、JIS P8117に準拠して測定した。
【0091】
<SD温度の測定>
後述の実施例および比較例における多孔質フィルムのSD温度を、以下の方法にて測定した。
【0092】
ポリオレフィン多孔質フィルムから直径19.4mmの円形状測定用サンプルを打ち抜き、測定用サンプルとした。また、2032型コインセルの部材(上蓋、下蓋、ガスケット、カプトンリング(外径16.4mm、内径8mm、厚さ0.05mm)、スペーサー(直径15.5mm、厚さ0.5mmの円形状スペーサー)、アルミリング(外径16mm、内径10mm、厚さ1.6mm))(宝泉株式会社製)を用意した。
【0093】
そして、下蓋から順に測定用サンプル、ガスケットリングを設置し、電解液10μmLを含浸させた後、測定用サンプルの上から順番にカプトンリング、スペーサー、アルミリング、上蓋を設置し、コインセルカシメ器(宝泉株式会社製)で密閉することによって、測定用のコインセルを作製した。ここで、電解液としては、LiBF4をプロピレンカーボネートおよびNIKKOLBT-12(日光ケミカルズ株式会社製)の体積比が91.5:8.5の混合溶媒に溶解させた25℃の非水電解液(LiBF4濃度:1.0mol/L)を用いた。測定用のコインセル内部の温度を、15℃/分の速度で室温から150℃まで昇温しながら、上記コインセル内部の温度をデジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製;7352A)、上記コインセルにおける1kHzでの抵抗値をLCRメータ(日置電機株式会社製;IM3523)により連続的に測定した。
【0094】
測定中、コインセルの1kHzでの抵抗値が2000Ω以上となる場合、そのコインセルはシャットダウン機能を備えることが確認されたとした。
【0095】
この時、セル温度と抵抗値との関係のグラフから抵抗値2000Ωの接線と抵抗が大きく増加する前のベースの抵抗値直線との交点をポリオレフィン多孔質フィルムのシャットダウン温度(SD温度)とした。
【0096】
<浸漬伸び測定>
後述の実施例および比較例にて得られたセパレータから長さ250mm×幅27mmの試験片を切り出した。なお、試験片において、伸び率が最も大きいTD方向を長さ250mmとした。試験片を50mLの蓋付きポリ容器に入れ、このポリ容器にエタノールを注液した。エタノールは、試験片が完全に液中に沈むまで加えた。ポリ容器を密閉後、23℃環境下で静置した。24時間後、ポリ容器から試験片を取り出し、シワが入らないように注意しながらガラス板上に長さ250mm×幅27mm×厚み0.5mmのアルミシートを片側の短辺が揃うように並べた。揃えた短辺と反対側の短辺上にガラス板を重ねて密着させた後、ガラス板越しに試験片の長手方向の伸び量を測定した。伸び量の測定には、PEAK社のスケールルーペ10×Sを用いた。なお、伸び量の測定は、前記試験片を前記ポリ容器から取り出してから3分以内に実施した。伸び量の測定は、1サンプルにつき3枚サンプリングし、平均値を平均伸び量とした。また、伸び率は、以下の式(1´)から算出した。
伸び率(%)={平均伸び量(mm)/250mm}×100 (1´)
<突刺し強度の測定>
後述の実施例および比較例にて得られたセパレータから長さ15mm×幅300mmの試験片を切り出した。前記試験片を用いて、前記セパレータの突刺し強度を、以下の(i)および(ii)に示す方法にて測定した。
(i)前記試験片を12mmΦのワッシャで固定した後、ピン(ピン径1mmΦ、先端0.5R)を、突刺し速度:200mm/minの条件にて、当該前記試験片に突刺した。
(ii)(i)にて前記前記試験片に前記ピンを突刺したときの最大応力(gf)を測定し、その測定値を前記セパレータの突刺し強度とした。
【0097】
<加熱収縮率の測定>
後述の実施例および比較例にて得られた、セパレータを8m×8mの面積64cm2の正方形に切り出し、切り出した試料の多孔質層の表面に、8cm角の外縁の内側に6cm角の線を引き、測定用サンプルを作成した。前記測定用サンプルにおける引いた線に囲まれた部分の面積:6cm×6cm=36cm2を、加熱前の測定用サンプルの面積とした。前記測定用サンプルを紙に挟んで150℃に加熱したオーブンに入れた。1時間後、前記オーブンから前記測定用サンプルを取り出し、前記測定用サンプルの、MD方向における引いた線の長さ、TD方向における引いた線の長さを、デジタルノギスを用いて測定した。また、前記TD方向における引いた線の長さとMD方向における引いた線の長さの積を、加熱後の測定用サンプルの面積とした。測定された、加熱後の測定用サンプルにおける、面積:A(cm2)、MD方向における引いた線の長さDMD(cm)、および、TD方向における引いた線の長さ:DTD(cm)を用いて、以下の式(2´)~(4´)により、前記セパレータの150℃の温度にて1時間加熱した場合の加熱収縮率、MD方向における加熱収縮率およびTD方向における加熱収縮率を算出した。
加熱収縮率={(36-A)/36}×100 (2´)
MD方向における加熱収縮率={(6-DMD)/6}×100 (3´)
TD方向における加熱収縮率={(6-DTD)/6}×100 (4´)
<TD方向における弾性率の測定>
後述の実施例および比較例にて得られたセパレータのTD方向における弾性率を、以下の方法にて測定した。
【0098】
後述の実施例および比較例にて得られたセパレータのそれぞれから、JIS K7127に準拠したミニダンベル形状の試験片を2枚ずつ切り取った。それぞれの試験片を対象として、温度23℃において、JIS K6850の試験方法に準拠し、引張速度を10mm/minとして、引張り試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン万能試験機RTG-1310)を用いて引張試験を実施した。引張試験において試験片を長さ方向(TD方向)に引っ張った。TD方向における弾性率は、得られた応力-歪み曲線の歪みが0.1%~1.0%となる範囲の傾きから算出した。1つのセパレータから切り取られた2枚の試験片について、上記測定を行った。すなわち、1つのセパレータについて、測定を2回実施した。あるセパレータについて得られた2つのTD方向における弾性率の平均値を算出し、当該平均値を、そのセパレータのTD方向における弾性率として採用した。
【0099】
<圧壊試験>
(非水電解液二次電池の作製)
後述の実施例および比較例にて得られた、セパレータを用いて、以下に示す方法にて、非水電解液二次電池を作製した。前記セパレータは、幅275mmの積層セパレータ捲回体であった。前記積層セパレータ捲回体を露点-40℃の温度下にて、24時間乾燥させた。続いて、前記積層セパレータ捲回体を電池用積層装置に設置した。前記積層セパレータ捲回体から繰り出した積層セパレータを、MD方向に長さ97mmで周期的に折り返すことによって、つづら折り状に折った。折られた積層セパレータの谷部には、タブ付き正極(265mm×90mm)およびタブ付き負極(270mm×95mm)を交互に積層した。すなわち、最初の谷部にタブ付き負極を配置し、次の谷部にタブ付き正極を配置し、また次の谷部にはタブ付き負極を配置し、さらに次の谷部にタブ付き正極を配置するという操作を繰り返した。タブ付き正極は計18枚、タブ付き負極は計19枚用いた。タブ付き正極およびタブ付き負極を配置した後、積層セパレータの終端部をテープで固定することにより、電極積層体を得た。固定した電極積層体をアルミ製の外装材に挿入した。次にこの外装材の3辺を熱圧着した後、85℃で24時間真空乾燥させ、次いで外装材中に非水電解液を注液した。前記非水電解液は、LiBF4をプロピレンカーボネート、NIKKOLBT-12(日光ケミカルズ株式会社製)の体積比が91.5:8.5の混合溶媒に溶解させた25℃の電解液(LiBF4濃度:1.0mol/L)を用いた。注液後、減圧して外装材の残りの1辺を熱圧着し、非水電解液二次電池を作製した。
【0100】
(圧壊試験の実施)
作製された前記非水電解液二次電池を満充電した後、WO2007/023609に記載の方法に準じた方法にて、圧壊試験を行った。具体的には、25℃の条件下にて、直径10mmの鉄製の丸棒を用いて、当該丸棒の長手方向が前記非水電解液二次電池におけるセパレータのTD方向と平行となる方向にて、当該非水電解液二次電池のセパレータのMD方向に相当する方向における中央部に圧力を加えた。そして、前記圧力によって、前記非水電解液二次電池の厚みが、圧壊試験前、即ち初期の厚みの50%になるまで、圧壊した。この時、当該非水電解液二次電池の厚みが毎秒50mmの速度で減少するように当該非水電解液二次電池を圧壊した。
【0101】
続いて、前述の方法にて、前記非水電解液二次電池と同一の新たな非水電解液二次電池を作製した。前記丸棒を25℃の条件下にて、直径10mmの鉄製の丸棒を用いて、当該丸棒の長手方向が前記新たな非水電解液二次電池におけるセパレータのMD方向と平行となる方向にて、当該新たな非水電解液二次電池のセパレータのTD方向に相当する方向における中央部に圧力を加えた。そして、前記圧力によって、前記新たな非水電解液二次電池の厚みが、圧壊試験前、即ち初期の厚みの50%になるまで、圧壊した。この時、当該新たな非水電解液二次電池の厚みが毎秒50mmの速度で減少するように当該新たな非水電解液二次電池を圧壊した。
【0102】
前述の方法にて圧壊試験を実施し、当該圧壊試験の結果、前記非水電解液二次電池および前記新たな非水電解液二次電池が双方共、発火しなかったものを○とし、前記非水電解液二次電池および前記新たな非水電解液二次電池の少なくとも一方が発火したものを×とした。
【0103】
[実施例1]
<塗工液の調製>
多孔質層を構成する樹脂として、アラミド樹脂の一種である、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(以下、「PPTA」と称する)を以下の方法にて合成した。
【0104】
合成用の容器として、攪拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、容量3Lのセパラブルフラスコを使用した。充分に乾燥させたフラスコに、2200gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を仕込んだ。この中に、151.07gの塩化カルシウム粉末を加え、100℃に昇温して完全に溶解させ、塩化カルシウムのNMP溶液を得た。前記塩化カルシウム粉末は、予め200℃にて2時間真空乾燥させたものを用いた。
【0105】
次に、前記塩化カルシウムのNMP溶液の温度を室温に戻して、68.23gのパラフェニレンジアミンを加え、完全に溶解させ、溶液(1)を得た。溶液(1)の温度を20℃±2℃に保ったまま、溶液(1)に対して124.25gのテレフタル酸ジクロライドを、4分割して約10分おきに添加した。その後も150rpmで攪拌を続けながら、溶液(1)の温度を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成することにより、PPTAを6重量%含むアラミド重合液(1)を得た。アラミド重合液(1)に含まれているPPTAの固有粘度は、1.5g/dLであった。
【0106】
100gのアラミド重合液(1)をフラスコに秤取し、6.0gのアルミナA(平均粒径:13nm)を加えて混合液A(1)を得た。混合液A(1)において、PPTAとアルミナAとの重量比は、1:1であった。次に、固形分が4.5重量%となるように、混合液A(1)に対してNMPを加えて、240分間攪拌して、混合液B(1)を得た。ここで言う「固形分」とは、PPTAとアルミナAとの総重量のことである。次に、混合液B(1)に対して、0.73gの炭酸カルシウムを加えて240分間攪拌することにより、溶液を中和させ、中和液(1)を得た。その後、中和液(1)を減圧下で脱泡して、スラリー状の塗工液(1)を調製した。
【0107】
<非水電解液二次電池用セパレータの作製>
ポリエチレン多孔質フィルム(以下、単に、「多孔質フィルム」とも称する)を搬送しながら、前記多孔質フィルムの片面に対して、スラリー状塗工液(1)の1回目の連続塗工を行い、塗布膜を形成した。前記多孔質フィルムの厚み、透気度、SD温度および重量目付を以下の表1に示す。続いて、前記塗布膜が形成された前記多孔質フィルムを搬送しながら、以下の表2に示す析出温度、析出相対湿度および伸び率にて1回目の伸長を行うことにより、前記多孔質フィルム上にて、PPTAを析出させた。次に、PPTAが析出した塗布膜を水洗することにより、塩化カルシウムおよび溶媒を除去した。ここで、前記伸び率は、以下の式(7)にて表される。
伸び率(%)={a2/(a1-1)}×100 (7)
式(7)中、a1は、スラリー状塗工液(1)を連続塗工する際の前記多孔質フィルムの搬送速度(m/min)であり、a2は、前記伸長する際の前記塗布膜が形成された前記多孔質フィルムの搬送速度(m/min)である。すなわち、前記伸び率が、以下の表2に示す値となるように、a1およびa2を制御して、前記PPTAの析出を実施した。
【0108】
その後、塩化カルシウムおよび溶媒が除去された前記塗布膜に対して、以下の表2に記載の加熱温度R1にて、加熱ローラー群1を用いて乾燥処理を行い、続いて、以下の表2に記載の加熱温度R2にて、加熱ローラー群2を用いて乾燥処理を実施した。すなわち、前記塗布膜を連続的に乾燥させる1回目の乾燥処理を行った。その結果、前記多孔質フィルムの片面上に、多孔質層が形成されてなる、片面積層セパレータ捲回体(1)を得た。なお、加熱ローラー群2のうち、前半ローラーと後半ローラーとで異なる温度とした。以下、前記前半ローラーにおける加熱温度をR2a、前記後半ローラーにおける加熱温度をR2bとする。なお、前半ローラーとは加熱ローラー群2のうち、上流に位置するローラーであり、後半ローラーとは、下流に位置するローラーである。言い換えると、前記塗布膜に対して、加熱温度R1にて乾燥させ、続けて、加熱温度R2aにて乾燥させ、さらに続けて加熱温度R2bにて乾燥させる、乾燥処理を実施した。ここで、加熱温度R1での乾燥および加熱温度R2aでの乾燥は、塗布膜から溶媒を除去する工程に相当し、加熱温度R2bでの乾燥は、熱処理工程に相当する。
【0109】
その後、前記片面積層セパレータ上の前記塗工面と反対の面に対して、スラリー状塗工液(1)の2回目の連続塗工を行い、続いて、2回目の伸長を行い、前記反対の面上に、PPTAが析出した塗布膜を形成した。2回目の伸長は、1回目の伸長と同一の温度および相対湿度の条件下にて、表2に記載の伸び率にて実施した。前記PPTAが析出した塗布膜を水洗することにより、塩化カルシウムおよび溶媒を除去した。塩化カルシウムおよび溶媒が除去された前記塗布膜に対して、前記片面積層セパレータ作製時と同一の条件下にて2回目の乾燥処理を行い、前記多孔質フィルムの両面上に、多孔質層が形成されてなる、両面積層セパレータ捲回体(1)を得た。前記両面積層セパレータ捲回体(1)を、セパレータ(1)とした。
【0110】
[実施例2]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚み、透気度、SD温度および重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出を行う際の条件および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、両面積層セパレータ捲回体(2)を得た。前記両面積層セパレータ捲回体(2)を、セパレータ(2)とした。
【0111】
[実施例3]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚み、透気度、SD温度および重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出を行う際の条件および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、両面積層セパレータ捲回体(3)を得た。前記両面積層セパレータ捲回体(3)を、セパレータ(3)とした。
【0112】
[比較例1]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚み、透気度、SD温度および重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出を行う際の条件および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、比較用片面積層セパレータ捲回体(1)を得た。比較例1では、多孔質フィルムの片面上のみに多孔質層を形成した、すなわち2回目の連続塗工、2回目の伸長、2回目の乾燥処理を実施しなかった。前記比較用片面積層セパレータ捲回体(1)を、比較用セパレータ(1)とした。
【0113】
[比較例2]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚み、透気度、SD温度および重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出を行う際の条件および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、比較例1と同一の方法にて、比較用片面積層セパレータ捲回体(2)を得た。前記比較用片面積層セパレータ捲回体(2)を、比較用セパレータ(2)とした。
【0114】
[比較例3]
多孔質フィルムを、以下の表1に記載の厚み、透気度、SD温度および重量目付を備える多孔質フィルムに変更したこと、並びに、PPTAの析出を行う際の条件および乾燥処理を行う際の条件を、以下の表2に記載のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、比較用両面積層セパレータ捲回体(3)を得た。前記比較用両面積層セパレータ捲回体(3)を、比較用セパレータ(3)とした。なお、比較用セパレータ(3)を用いて、前述の方法にて非水電解液二次電池を作製しようとしたが、比較用セパレータ(3)が破断してしまい、非水電解液二次電池を作製することができなかった。
【0115】
【0116】
【0117】
[結果]
実施例および比較例にて製造されたセパレータの物性を前述の方法にて測定した結果、および、および当該セパレータを備える非水電解液二次電池を、前述の方法にて評価した結果を以下の表3に示す。
【0118】
【0119】
表3に示すとおり、実施例1~3に記載のセパレータ(1)~(3)は、浸漬伸び率が、0.85%以上、1.5%以下であり、かつ、突刺し強度が、300gf以上である。また、セパレータ(1)~(3)を用いて前述の方法にて非水電解液二次電池の組み立てを行った場合、セパレータが破断することなく、非水電解液二次電池の組み立てを行うことができた。さらに、セパレータ(1)~(3)を用いて作製された非水電解液二次電池は、圧壊試験において発火しなかった。
【0120】
一方、比較例1~3に記載の比較用セパレータ(1)~(3)は、浸漬伸び率が、0.85%以上、1.5%以下の範囲外であるか、突刺し強度が、300gf未満であった。そして、比較用セパレータ(1)~(3)を用いて作製した非水電解液二次電池は、組み立て時に、当該セパレータが破断するか、あるいは、圧壊試験において発火した。
【0121】
以上のことから、本発明の一実施形態に係るセパレータは、浸漬伸び率が、0.85%以上、1.5%以下であり、かつ、突刺し強度が、300gf以上であることによって、当該セパレータを用いて非水電解液二次電池の組み立てを容易に行うことができ、かつ、当該セパレータを備える非水電解液二次電池の耐衝撃性を向上させることができることが分かった。