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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099948
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】非常用電力供給装置及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   F01K 27/02 20060101AFI20230707BHJP
   F01K 21/00 20060101ALI20230707BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20230707BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20230707BHJP
   C22B 3/02 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
F01K27/02 D
F01K21/00 A
C22B23/00 102
C22B3/06
C22B3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000236
(22)【出願日】2022-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】山田 大樹
【テーマコード(参考)】
3G081
4K001
【Fターム(参考)】
3G081BA02
3G081BA07
3G081BA08
3G081BB04
3G081BC13
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB02
(57)【要約】
【課題】 停止した発電設備に起動電力を供給する非常用電力供給装置を提供する。
【解決手段】 高圧ガス状の作動媒体の膨張により回転する膨張機10と、膨張機10の回転により発電する発電機11と、発電機11によって発電した電力を蓄電する蓄電池12と、該作動媒体が循環する循環系13とから構成される非常用電力供給装置であって、循環系13は、膨張機10から排出される低圧ガス状の作動媒体を凝縮させて液状の作動媒体を得る凝縮器13aと、該液状の作動媒体を昇圧させて高圧液状の作動媒体を得るポンプ13bと、該高圧液状の作動媒体を外部熱源との熱交換により蒸発させて該高圧ガス状の作動媒体を発生させる蒸発器13cとを備え、蓄電池12に蓄電した電力を非常用電力として利用する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガス状の作動媒体の膨張により回転する膨張機と、前記膨張機の回転により発電する発電機と、前記発電機によって発電した電力を蓄電する蓄電池と、前記作動媒体が循環する循環系とから構成される非常用電力供給装置であって、前記循環系は、前記膨張機から排出される低圧ガス状の作動媒体を凝縮させて液状の作動媒体を得る凝縮器と、前記液状の作動媒体を昇圧させて高圧液状の作動媒体を得るポンプと、前記高圧液状の作動媒体を外部熱源との熱交換により蒸発させて前記高圧ガス状の作動媒体を発生させる蒸発器とを備え、前記蓄電池に蓄電した電力を非常用電力として利用する非常用電力供給装置。
【請求項2】
前記外部熱源は、原料のニッケル酸化鉱石を前処理することで得た鉱石スラリーを予熱槽で予熱した後、オートクレーブに装入して高温高圧下で酸浸出処理を施すことで生成される浸出スラリーをフラッシュすることで発生するフラッシュ蒸気、及び/又は前記鉱石スラリーの前記予熱槽での予熱及び/又は前記オートクレーブでの加熱の役割を終えて系外に排出される廃蒸気である、請求項1に記載の非常用電力供給装置。
【請求項3】
前記蒸発器の熱交換に利用する前記フラッシュ蒸気及び/又は前記廃蒸気は、温度が70℃以上80℃未満、流量が50t/h以上60t/h未満である、請求項2に記載の非常用電力供給装置。
【請求項4】
前記蓄電池に蓄電した電力は、前記ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに対して高温高圧下で酸浸出処理を施す湿式製錬プラントに電力を供給する発電設備の起動用電力に利用される、請求項2又は3に記載の非常用電力供給装置。
【請求項5】
湿式製錬プラントに電気を供給する発電設備の停止時に起動電力を供給する非常用電力供給装置の運転方法であって、
平常時は、前記湿式製錬プラントにおいて原料のニッケル酸化鉱石を前処理することで得た鉱石スラリーに酸浸出処理を施すことで生成される浸出スラリーをフラッシュすることで発生するフラッシュ蒸気、及び/又は前記鉱石スラリーの予熱及び/又は加熱の役割を終えて系外に排出される廃蒸気を、請求項1~4のいずれか1項に記載の前記外部熱源として用いることで前記非常用電力供給装置の蓄電池に蓄電し、
前記発電設備が停止した非常時は、該発電設備の起動装置に前記蓄電池から起動電力を供給する非常用電力供給装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常用電力供給装置及びその運転方法に関し、特に、湿式製錬プラントに電気を供給する発電設備の非常停止時に電力を供給する非常用電力供給装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式によるニッケルの製錬プロセスとして、原料のニッケル酸化鉱石に対して高温高圧下で硫酸を添加して酸浸出を行なうHPAL(High Pressure Acid Leach)法とも称する高圧酸浸出法が知られている。この湿式製錬プロセスは、乾式による従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬プロセスとは異なり、全工程を通して一貫して湿式により処理を行なうので、ニッケル品位が1~2質量%程度の鉄を主成分とする低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収することができるうえ、熱エネルギーを大量に消費する乾燥工程や焙焼工程等の乾式処理工程を含んでいないのでエネルギー的及びコスト的に有利な製錬プロセスである。
【0003】
上記の高圧酸浸出法によるニッケル製錬プロセスは、例えば特許文献1に開示されているように、ニッケル酸化鉱石に水を加えて鉱石スラリーを調製する鉱石スラリー調製工程と、該鉱石スラリーをオートクレーブと称する加圧浸出反応器内に装入し、高温高圧下で浸出処理を施して該ニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル及びコバルトを浸出する浸出工程と、該浸出工程で得たニッケル及びコバルトを含む浸出液を浸出残渣から固液分離する固液分離工程と、該浸出液をpH3~4で中和処理することで該浸出液に含まれる鉄等の不純物元素を分離除去する中和工程と、該不純物元素が除去された浸出液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加してニッケルコバルト混合硫化物を生成する硫化工程とを有している。
【0004】
上記の特許文献1のニッケル製錬プロセスでは、オートクレーブに装入した鉱石スラリーに対して、硫酸及び高圧蒸気を添加して温度220~250℃程度、圧力3,000~4,500kPaG程度の高温高圧下で浸出処理が施される。このため、該オートクレーブからは高温高圧の浸出スラリーが排出されるので、次工程の固液分離工程においてシックナー等の重力沈降装置を用いて浸出残渣の分離除去を行なう前に、フラッシュベッセルに導入して該オートクレーブよりも低圧条件でフラッシュさせている。これにより、上記の高温高圧の浸出スラリーを重力沈降装置に適した温度まで降温することができるうえ、フラッシュにより発生した蒸気を回収して鉱石スラリーの予熱に利用することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-031341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の高圧酸浸出法によりニッケル製錬を行なう湿式製錬プラントの敷地内においては、該湿式製錬プラントを構成する装置群や、それらに蒸気や圧縮空気等を供給するユーティリティー設備を稼働させる電力を供給する発電設備が設けられている。この発電設備としては、LNG(Liquefied Natural Gas)、重油、石炭などの化石燃料の燃焼熱を利用して発生させた高圧蒸気を用いて蒸気タービンの羽根車を回転させ、この蒸気タービンに接続する発電機により発電を行なう火力発電設備が一般的に用いられている。上記の化石燃料のうち例えばLNGを用いる場合は、湿式製錬プラントの敷地内でLNGを気化させることが多い。この場合は、例えば地震等の非常時においてLNG気化器や、その他のLNGの供給に関わる設備の運転が停止し、該火力発電設備への燃料供給が一時的にでも中断すると、その時点で湿式製錬プラントの敷地内の全電源が喪失することが懸念される。
【0007】
上記のように発電設備のトラブルにより電源が喪失すると、その復旧まではプラントの操業が停止したままになるうえ、該発電設備を制御する制御装置への電源も喪失することになるため、発電設備を立ち上げること自体に労力と時間を要する。これら電源の喪失によって生じる悪影響をできるだけ少なくするため、非常用バックアップ電源設備として例えばディーゼル発電機を設けることがある。しかしながら、発電設備の電源が喪失したときは、長期間に亘って停止状態にあった非常用バックアップ電源設備をいきなり立ち上げることになるので、ディーゼル発電機のように機械式設備の場合は始動の際に機械的トラブルが発生することが懸念される。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、停止した発電設備に起動電力を供給する非常用電力供給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る非常用電力供給装置は、高圧ガス状の作動媒体の膨張により回転する膨張機と、前記膨張機の回転により発電する発電機と、前記発電機によって発電した電力を蓄電する蓄電池と、前記作動媒体が循環する循環系とから構成される非常用電力供給装置であって、前記循環系は、前記膨張機から排出される低圧ガス状の作動媒体を凝縮させて液状の作動媒体を得る凝縮器と、前記液状の作動媒体を昇圧させて高圧液状の作動媒体を得るポンプと、前記高圧液状の作動媒体を外部熱源との熱交換により蒸発させて前記高圧ガス状の作動媒体を発生させる蒸発器とを備え、前記蓄電池に蓄電した電力を非常用電力として利用することを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る非常用電力供給装置の運転方法は、湿式製錬プラントに電気を供給する発電設備の停止時に起動電力を供給する非常用電力供給装置の運転方法であって、平常時は、前記湿式製錬プラントにおいて原料の鉱石スラリーに酸浸出処理を施すことで生成される浸出スラリーをフラッシュすることで発生するフラッシュ蒸気を、上記の本発明に係る非常用電力供給装置の前記外部熱源として用いることで前記非常用電力供給装置の蓄電池に蓄電し、前記発電設備が停止した非常時は、該発電設備の起動装置に前記蓄電池から起動電力を供給することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発電設備が停止したときに直ちに該発電設備の起動装置に起動電力を供給することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る非常用電力供給装置の給電対象となる湿式製錬プラントで実施される湿式製錬プロセスのブロックフロー図である。
図2】本発明の実施形態に係る非常用電力供給装置が対象とする湿式製錬プラントが有する予熱槽、オートクレーブ及びフラッシュベッセルの模式的フロー図である。
図3図2の湿式製錬プラントの変形例の模式的フロー図である。
図4】本発明の実施形態に係る非常用電力供給装置の概略構成図である。
図5図4の非常用電力供給装置を構成する循環系によって行なわれるランキンサイクルをp-h線図上に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.高圧酸浸出法による湿式製錬方法及び湿式製錬プラント
先ず、本発明の実施形態に係る非常用電力供給装置の給電対象となる湿式製錬プラントについて説明する。この湿式製錬プラントは、原料のニッケル酸化鉱石に対して一般的に図1のブロックフローに示す工程順に湿式処理することで、該原料に含まれる有価金属のニッケル及びコバルトを混合硫化物の形態で回収する設備である。上記の原料のニッケル酸化鉱石には、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱は通常はニッケル含有量が0.8~2.5質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物の形態で含まれている。
【0013】
以下、工程順に具体的に説明すると、先ず前処理工程S1において、原料のニッケル酸化鉱石に対して粉砕処理や湿式による篩分け等の前処理が行なわれる。この前処理により調製された所定の粒度のニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーに対して、次に浸出工程S2において硫酸及び高圧蒸気が添加されて高温高圧下で酸浸出処理が施される。この酸浸出処理により浸出された有価金属としてのニッケル及びコバルトを含む浸出スラリーは、好適には複数段のフラッシュにより降圧降温された後、向流多段洗浄工程S3において連続する複数のシックナーに導入され、ここで該浸出スラリーとは向流に流れるように導入された洗浄液による洗浄及び固液分離が繰り返される。これにより浸出残渣が分離除去され、有価金属を含む浸出液が得られる。この浸出液に対して、次に中和工程S4において中和剤が添加されることで該浸出液に含まれる不純物元素が中和澱物として分離除去され、中和終液が得られる。この中和終液に対して、次に硫化工程S5において硫化水素等の硫化剤が添加されることにより有価金属のニッケル及びコバルトから混合硫化物が生成される。この混合硫化物は固液分離により回収され、その際に排出されるニッケル貧液は最終中和工程S6において消石灰等の中和剤が添加されることで無害化処理が施される。
【0014】
上記の湿式製錬プラントのうち、浸出工程S2の処理が行なわれる機器群について図2を参照しながら説明する。前工程の前処理工程S1で調製された鉱石スラリーは第1予熱槽1に装入され、ここに後述する低圧フラッシュベッセル7から排出される低温フラッシュ蒸気が吹き込まれることで予熱される。第1予熱槽1で予熱された鉱石スラリーは第1スラリーポンプ2で昇圧された後、第2予熱槽3に装入され、同様に後述する高圧フラッシュベッセル6から排出される高温フラッシュ蒸気が吹き込まれることでより高温まで予熱される。
【0015】
上記の第2予熱槽3で予熱された鉱石スラリーは、第2スラリーポンプ4で昇圧された後、オートクレーブ5に装入される。オートクレーブ5は、円筒形の圧力容器を横向きにした形状を有しており、その内部は堰5aによって長手方向に並ぶ複数の貯留部5b(図2では4つの貯留部5bが例示されている)に仕切られている。これら複数の貯留部5bのうち、紙面左端に位置する最も上流側の貯留部5bに上記の第1予熱槽1及び第2予熱槽3で段階的に予熱された鉱石スラリーが装入される。この最も上流側の貯留部5bには、更に外部から硫酸及び高圧蒸気が導入される。
【0016】
オートクレーブ5内に装入された鉱石スラリーは、堰5aをオーバーフローすることで下流側に隣接する貯留部5bに順次移送され、その間に各貯留部5bにおいて撹拌機によって撹拌されながらスラリー温度200~270℃程度、雰囲気圧力1.8~5.8MPaG程度の高温高圧下で酸浸出処理が施される。これにより、有価金属としてのニッケル及びコバルトが浸出される。このようにして生成された浸出液及び浸出残渣からなる浸出スラリーは、複数の貯留部5bのうち紙面右端に位置する最も下流側の貯留部5bにおいて、上方から垂下する抜出ラインによって抜き出される。
【0017】
オートクレーブ5から抜き出された上記浸出スラリーは高温高圧状態にあるので、次工程の向流多段洗浄工程S3において洗浄液で多段洗浄を行なう前に、直列に接続された高圧フラッシュベッセル6及び低圧フラッシュベッセル7に導入され、ここで段階的にフラッシュが行なわれる。これにより、浸出スラリーはほぼ大気圧まで圧力が降下すると共に、フラッシュにより潜熱が奪われるので温度も降下する。これら高圧フラッシュベッセル6及び低圧フラッシュベッセル7は、いずれも縦型円筒形状の胴部と、その上下に接合された略半球状の頂部及び底部からなる圧力容器で構成される。
【0018】
具体的に説明すると、前段の高圧フラッシュベッセル6では、その頂部の入口ノズルの直前に設けたフラッシュ弁6aで浸出スラリーがフラッシュし、2相流の状態で圧力容器内に導入される。該圧力容器内に導入された浸出スラリーは、更にフラッシュすると共に該容器内で気液分離する。そして、気相側のほぼスチームからなる高圧フラッシュ蒸気は、頂部の出口ノズルから出てそこに接続している蒸気回収ライン6bを介して第2予熱槽3に戻される。一方、フラッシュにより潜熱が奪われることで温度が低下した液相側の浸出スラリーは、容器側部のオーバーフローノズルから出て隣接する低圧フラッシュベッセル7に圧送される。
【0019】
後段の低圧フラッシュベッセル7においても、その頂部の入口ノズルの直前にフラッシュ弁7aが設けられており、上記前段の場合と同様に、浸出スラリーはここでフラッシュして2相流の状態で圧力容器内に導入され、該圧力容器内で更にフラッシュすると共に気液分離する。そして、気相側のほぼスチームからなる低圧フラッシュ蒸気は、頂部の出口ノズルから出てそこに接続している蒸気回収ライン7bを介して第1予熱槽1に戻される。一方、フラッシュにより潜熱が奪われることで温度が低下した液相側の浸出スラリーは、容器側部のオーバーフローノズルから出て次工程のシックナー群に送液される。上記の蒸気回収ライン6b、7bは、各々ライン途中に流量調整バルブが設けられており、これらバルブをバイパスするようにバイパスライン6c、7cがそれぞれ設けられている。これにより、上記のフラッシュにより発生したフラッシュ蒸気の一部を、後述する非常用電力供給装置の熱源として利用することができる。
【0020】
なお、非常用電力供給装置の熱源として利用する流体は上記のフラッシュ蒸気に限定されるものではなく、例えば鉱石スラリーの加熱のためにオートクレーブ5に導入した高圧蒸気がその役割を終えてオートクレーブ5の頂部から系外に排出される廃蒸気や、鉱石スラリーの予熱のために第1予熱槽1及び第2予熱槽3に導入したフラッシュ蒸気がその役割を終えてこれら予熱槽1、2の頂部から系外に排出される廃蒸気を用いてもよい。この場合は、図3に示すように、上記のオートクレーブ5の頂部や第1予熱槽1及び第2予熱槽3の頂部に接続した排出ラインの途中に流量調整バルブを設けると共に、これら流量調整バルブをバイパスするバイパスライン(図示せず)を設けて該廃蒸気の一部を抜き出すことで、非常用電力供給装置の熱源として利用することができる。
【0021】
あるいは、図3に示すように、上記のオートクレーブ5の頂部並びに第1予熱槽1及び第2予熱槽3の頂部に接続した排出ラインから排出される廃蒸気を、集約タンク20で集約してから大気放出する場合は、集約タンク20の頂部に接続した廃蒸気の大気放出のための大気放出管に流量調整バルブを設けると共に、この流量調整バルブをバイパスするバイパスラインを設けて該廃蒸気の一部を抜き出すようにしてもよい。このような構成とすれば、1本の大気放出管にバイパスラインを設けるだけで済むので、上記のようにオートクレーブ5の頂部並びに第1予熱槽1及び第2予熱槽3の頂部に接続した複数の排出ラインの各々にバイパスラインを設ける場合と比べて、設備コストを削減することができるうえ、より効率的に廃蒸気を熱源として利用することが可能になる。
【0022】
なお、非常用電力供給装置の熱源として利用するために上記のフラッシュ蒸気の少なくとも一部又は廃蒸気の少なくとも一部を抜き出す配管系の構造は、上記の流量調整バルブ及びそのバイパスラインに限定されるものではなく、例えば、フラッシュ蒸気の蒸気回収ライン6b、7bや、廃蒸気の大気放出管等の蒸気配管系から分岐して後述の蒸発器13cに至る分岐配管系に流量調整バルブを設けてもよい。この場合は、蒸発器13cで熱交換した後に排出されるフラッシュ蒸気や廃蒸気は、上記の蒸気配管系の分岐点よりも下流側に戻してもよいし、あるいは、該蒸気配管系には戻さずに、別途設けた回収配管系で処理してもよい。
【0023】
2.非常用電力供給装置
次に本発明の実施形態に係る非常用電力供給装置について図4を参照しながら説明する。この本発明の実施形態の非常用電力供給装置は、非常時に停止した発電設備を起動させる非常用電力を給電する役割を主に担っており、高圧ガス状の作動媒体の断熱膨張により回転する膨張機(エキスパンダ)10と、膨張機10の回転により発電を行なう発電機11と、発電機11によって発電した電力を蓄電する蓄電池12と、上記の作動媒体が循環する循環系13とから構成される。そして、この循環系13は、膨張機10から排出されるガス状の作動媒体を液体状に凝縮させる凝縮器13aと、該液状の作動媒体を昇圧させるポンプ13bと、ポンプ13bで昇圧された高圧液状の作動媒体を外部熱源との熱交換により蒸発させて膨張機10を回転駆動させる上記高圧ガス状の作動媒体を発生させる蒸発器13cとを備えている。
【0024】
かかる構成により、上記の湿式製錬プラントやそのユーティリティー設備を稼働する発電設備が何らかのトラブルで停止した場合であっても、この停止した発電設備を起動させるための起動装置に蓄電池12から起動電力を供給することができる。この蓄電池12から供給される起動電力は、湿式製錬プラントの平常運転時に蓄電された電力であるため、上記発電設備が停止する非常時であっても直ちに該発電設備の起動装置に起動電力を供給することができるうえ、従来の非常用バックアップ電源設備のように長期間に亘って停止状態にあるディーゼル発電機を起動させて起動電力を供給するものではないため、機械的トラブル等の要因により起動が失敗する問題が生じにくい。
【0025】
上記の本発明の実施形態の非常用電力供給装置を構成する各機器について以下具体的に説明する。膨張機10は、選定した作動媒体によって安定的に回転駆動されるものであれば特に限定はなく、スクリュー式、ロータリー式、スクロール式、タービン式等の回転機を用いることができるが、これらの中ではスクリュー式膨張機を用いることが好ましい。スクリュー式膨張機は、回転軸が互いに平行に配設された雌雄1対のスクリューロータが、それらのギヤ同士わずかな隙間をあけて噛み合った状態でケーシング内に収容された構造を有している。
【0026】
これら両スクリューロータは、互いに反対方向に回転することでそれらの噛み合い部分が吸入側(高圧側)から吐出側(低圧側)へ移動するに従って、各スクリューロータとケーシング内壁とによって画定される歯溝空間の容量が徐々に増大するようになっている。これにより、吸気側からケーシング内に導入された高圧ガス状の作動媒体は、排気側へ移動するに従って断熱膨張することで降圧し、その過程で両スクリューロータを回転駆動させ、最終的に排気側から低圧ガス状の作動媒体として排出される。上記の両スクリューロータのうちの一方の回転軸には発電機11の駆動軸が接続しており、これにより上記の両スクリューロータの回転により得られる回転エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換することが可能になる。
【0027】
なお、上記の雌雄1対のスクリューロータからなる膨張機に代えて1本のスクリューロータで構成される膨張機を用いてもよい。この場合は、例えば、同軸上に2つのスクリュー部を直列に配設し、吸気側に配設される第1スクリュー部において1段階目の膨張を行った後に、排気側に配設される第2スクリュー部において2段階目の膨張を行なうことができる。このように2段階で作動媒体を膨張させることで、膨張機をより効率的に駆動させることが可能になる。
【0028】
上記の作動媒体は水よりも低沸点であれば特に限定はなく、例えば、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、フルオロカーボン、フルオロケトン、パーフルオロポリエーテル等を用いることができる。上記のフルオロカーボンの中では塩素を有していないハイドロフルオロカーボン(HFC)が好ましく、特にR245fa(ペンタフルオロプロパン)は、オゾン破壊係数(ODP)がゼロであって、環境負荷が少ない不活性ガスであるのでより好ましい。R245faを用いることで、仮に漏洩が生じた場合でも環境に対する影響を低く抑えることができる。
【0029】
上記の膨張機10を回転させる作動媒体が循環する循環系13は、膨張機10の下流側に位置する凝縮器13a、凝縮器13aで凝縮された作動媒体を昇圧させるポンプ13b、該昇圧した作動媒体を蒸発させる蒸発器13c、及びこれら機器をこの順に接続する配管によって構成される。上記の循環系13を構成する凝縮器13a、ポンプ13b、及び蒸発器13cに膨張機10を加えた機器群は、図5の作動媒体のp-h線図上に略台形で示すようにランキンサイクルを構成するので、使用する作動媒体の種類、凝縮器13aに利用する冷媒の温度、外部熱源の温度等の条件が定まれば、凝縮器13aや蒸発器13cの伝熱面積、ポンプ13bの能力を求めることができる。
【0030】
例えば、上記の外部熱源として、前述したように湿式製錬プラントのオートクレーブ5で生成される浸出スラリーのフラッシュ蒸気を用いたり、オートクレーブ5から排出される廃蒸気や、第1予熱槽1及び第2予熱槽から排出される廃蒸気を用いたりする場合は、温度が70℃以上80℃未満、流量が50t/h以上60t/h未満のフラッシュ蒸気を蒸発器13cに高温側流体として導入することができる。この場合は、約60kWの電力を発電機11で発電して蓄電池12に供給することができる。
【0031】
凝縮器13aは、膨張機10から排出される低圧ガス状の作動媒体を冷却して液体の作動媒体に凝縮させる熱交換器からなる。この熱交換器の種類については作動媒体と冷媒との熱交換を良好に行なうことができるものであれば特に限定はないが、複数枚の略矩形板状の金属製伝熱プレートを流路確保のため隣接するもの同士隙間をあけた状態で重ね合わせた構造のプレート型熱交換器を用いることが好ましい。これにより、両側を除いて1枚毎に高温側流体と低温側流体とを交互に流すことができるので、極めて効率よく熱交換を行なうことができる。高温側流体である作動媒体との熱交換を行なう低温側流体には、海水、工業用水、チラー水などの冷媒を用いることができる。凝縮器13aの高温側流路を出た低圧液状の作動媒体は、次にポンプ13bに導入され、ここで膨張機10の入口圧力まで昇圧される。ポンプ13bの種類には特に限定はなく、遠心式ポンプ、ダイヤフラムポンプ、ギアポンプ等を用いることができる。
【0032】
ポンプ13bで昇圧された高圧液状の作動媒体は、次に蒸発器13cに導入され、ここで外部熱源との熱交換器が行なわれて蒸発し、高圧ガス状の作動媒体になる。このようにして蒸発器13cで発生させた高圧ガス状の作動媒体は再度膨張機10に導入されることで循環系内を循環することになる。蒸発器13cの種類は、外部熱源と良好に熱交換できるものであれば特に限定はないが、凝縮器13aと同様にプレート型熱交換器を用いるのが好ましい。
【0033】
上記の高圧液状の作動媒体との熱交換を行なう高温側流体には外部熱源の流体を利用する。例えば、前述した湿式製錬プラントのオートクレーブ5において鉄を主成分とするニッケル酸化鉱石に硫酸及び高圧蒸気を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施し、これにより生成される浸出スラリーをフラッシュさせることで発生するフラッシュ蒸気を利用することができる。図2に示す湿式製錬プラントでは、高圧フラッシュベッセル6及び低圧フラッシュベッセル7の2箇所においてそれぞれ高圧フラッシュ蒸気及び低圧フラッシュ蒸気が発生するので、図4に示すように、蒸発器13cは2基の熱交換機8、9で構成することができ、これにより高圧液状の作動媒体はこれら2基の熱交換機8、9において、上記の低圧フラッシュ蒸気及び高圧フラッシュ蒸気によって段階的に熱交換を行なうことができる。
【0034】
また、第1予熱槽1及び第2予熱槽3から排出される廃蒸気を外部熱源の流体として利用する場合は、例えば、第2予熱槽3の頂部に接続した排出ラインから排出される廃蒸気を熱交換器8に導入し、第1予熱槽1の頂部に接続した排出ラインから排出される廃蒸気を熱交換器9に導入することで、上記と同様に段階的に熱交換を行なうことができる。あるいは、外部熱源の流体に、オートクレーブ5から排出される廃蒸気のみを利用してもよいし、集約タンク20の大気排出管から排出される廃蒸気を利用してもよい。これらの場合は、上記のように複数基の熱交換器を用いる必要がなく、図3に示すように1基の熱交換器21だけで済むので設備コストを抑えることができる。
【0035】
発電機11によって発電した電力は蓄電池12に貯電される。発電機11では交流電流が発電されるので、発電機11は第1AC/DC変換器14を介して蓄電池12に電気的に接続している。蓄電池12の容量は非常時に給電する設備に必要な電力及び給電時間を考慮して適宜定められる。例えば非常時に給電する設備がガスタービン方式の発電設備の起動装置の場合は、この起動装置を安定的に起動するために必要な電力量を貯電可能な蓄電池が選定される。
【0036】
蓄電池12の種類については特に限定はなく、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、NAS電池等を用いることができる。これらの中では、正極に硫黄、負極にナトリウム、電解質にβ-アルミナを用いた二次電池であるNAS(ナトリウム硫黄)電池が好ましい。その理由は、NAS電池を用いればリチウムイオン電池に比べて遜色のないエネルギー密度を得ることができるうえ、NAS電池は安価で長寿命な電池であるため、リチウムイオン電池を用いた場合に比べてコスト的に有利になるからである。
【0037】
蓄電池12の放電側は、第1スイッチ15、第2AC/DC変換器16及び第2スイッチ17を介して非常時の給電先となる例えば発電設備の起動装置に電気的に接続している。これにより、非常時はこれら第1スイッチ15及び第2スイッチ17を閉じることによって、該起動装置に電力を供給することができる。この第2AC/DC変換器16の1次側の第1スイッチ15及び第2AC/DC変換器16の2次側の第2スイッチ17の開閉操作は、オペレータによって手動で行ってもよいし、例えばDCS(分散制御システム)等の制御手段において、発電設備の電力供給が停止したことを知らせる信号が入力されたときにこれら第1、第2スイッチ15、17が自動的に閉じるようにプログラムしておいてもよい。なお、蓄電池12からの非常用電力の供給対象となる発電設備の基数は図4に示す1基に限定されるものではなく、複数基であってもよい。このように蓄電池12から複数基に給電する場合は、これら複数基の発電設備の起動装置の各々にスイッチを介して蓄電池12の放電側を電気的に接続すればよい。
【0038】
蓄電池12の放電側の回路を上記のように構築することで、複数基の発電設備の起動装置に対して一度に電力を供給することができるが、複数基の発電設備が工場内に設けられているときに、これらを同時に立ち上げることは一般的に行なわない。よって、少なくとも1基の発電設備を起動させることができれば、そこから他の発電設備の起動装置に電力を供給することができるので、予め定めておいた初めに起動させる発電設備にのみ蓄電池12から給電できるようにすると共に、この初めに起動させる発電設備と他の発電設備の起動装置とを電気的に接続する回路を構築しておけばよい。これにより、蓄電池12の容量は、上記の初めに起動させる発電機等の起動装置を稼働させるために必要な電力量を蓄電するだけでよいため、蓄電池12を小型化することができる。また、これに伴って非常用電力供給装置も小型化することが可能になる。
【0039】
更に、図4に示すように、第2AC/DC変換器16の2次側を分岐させて、第3スイッチ18を介して湿式製錬プラントを構成する機器群の少なくとも一部に蓄電池12の電力を供給できるようにしてもよい。この場合は、第1スイッチ15、及び第3スイッチ18を両方とも閉じることによって、該構成設備に電力を供給することができる。これにより、湿式製錬プラントに電力を供給する全ての発電設備が停止する非常時においても、該湿式製錬プラントの一部の構成機器には蓄電池12から蓄電量に応じて電力を供給し続けることができるので、例えば流動状態が停止すると固形分が分離して底部で固化してしまうような流体を取り扱う機器等のように、運転が停止すると問題が生じるような最低限の機器に対して給電を継続させることができる。
【0040】
3.非常用電力供給装置の運転方法
次に、図4に示すように、本発明の実施形態の非常用電力供給装置の蓄電池12の放電側の回路を、第2AC/DC変換器16を介して発電設備の起動装置及び湿式製錬プラントの一部の構成設備に電気的に接続する場合をとり挙げて、該非常用電力供給装置の運転方法を説明する。
【0041】
(1)平常時の運転方法
発電設備が正常に稼働し、その電力が給電されることで湿式製錬プラントも正常に稼働している平常時は、第1スイッチ15を開状態にして運転を行なう。この平常時においては、湿式製錬プラントのフラッシュベッセルから発生するフラッシュ蒸気を一部抜き出して外部熱源として循環系13の蒸発器13cに導入できるので、その熱交換により蒸発した高圧ガス状の作動媒体によって膨張機10が回転し、これにより発電される発電機11の電気を蓄電池12に蓄電することができる。なお、第2スイッチ17及び第3スイッチ18は閉状態でもよいが、開状態にしておくのが好ましい。
【0042】
(2)発電設備停止時(非常時)の運転方法
発電設備が非常停止し、これに伴って湿式製錬プラントの稼働も停止した時は、第1スイッチ15を閉状態にし、第2スイッチ17が開状態であればこれも閉状態にする。これにより、蓄電池12から発電設備の起動装置に電力が供給されるので、発電設備を起動させることができる。なお、発電設備の起動装置を稼働させるために必要な電力が300kW(発電設備1基分+関連設備)である場合は、蓄電池12は500kWの電力を供給する能力を有する容量を有しているのが望ましく、これにより起動装置をより円滑に起動させることができる。
【0043】
上記のように第1スイッチ15及び第2スイッチ17を閉状態にしたうえで、更に第3スイッチ18を閉状態にしてもよい。この場合は、湿式製錬プラントを構成する機器群のうち、予め定めておいた給電対象の機器(例えば、オートクレーブの撹拌機のように、非常時にも運転を継続させることが望ましい最低限の機器)に対して電力を供給することができる。これにより、発電設備が復旧するまでの間、蓄電池12の蓄電量に応じて上記給電対象の機器の運転を継続することができるので、製品のロスを減らすことができるうえ、湿式製錬プラントの復旧までの時間を短縮化することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 第1予熱槽
2 第1スラリーポンプ
3 第2予熱槽
4 第2スラリーポンプ
5 オートクレーブ
5a 堰
5b 貯留部
6 高圧フラッシュベッセル
6a フラッシュ弁
6b 蒸気回収ライン
6c バイパスライン
7 低圧フラッシュベッセル
7a フラッシュ弁
7b 蒸気回収ライン
7c バイパスライン
8、9、21 熱交換器
10 膨張機
11 発電機
12 蓄電池
13 循環系
13a 凝縮器
13b ポンプ
13c 蒸発器
14 第1AC/DC変換器
15 第1スイッチ
16 第2AC/DC変換器
17 第2スイッチ
18 第3スイッチ
20 集約タンク
図1
図2
図3
図4
図5