(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099968
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】排水中和処理設備
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20230101AFI20230707BHJP
C02F 1/74 20230101ALI20230707BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20230707BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/62 C
C02F1/74 Z
C02F1/76 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000287
(22)【出願日】2022-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 真武
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 茂
(72)【発明者】
【氏名】牧野 大河
【テーマコード(参考)】
4D038
4D050
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB63
4D038AB67
4D038AB68
4D038AB79
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB13
4D038BB16
4D038BB18
4D050AA12
4D050AB52
4D050AB56
4D050AB57
4D050BB01
4D050BB06
4D050BD06
4D050CA13
4D050CA16
(57)【要約】
【課題】循環汚泥を中和剤と混合することにより得られた混合汚泥の添加ラインを構成する竪管のスケール付着を抑制できる排水中和処理設備を提供する。
【解決手段】重金属を含む排水が供給され、1次中和処理を行う1次中和反応槽と、1次中和処理後の液体が供給され、2次中和処理を行う2次中和反応槽と、2次中和処理後の液体が供給され、該液体を沈降分離する沈降分離装置と、沈降分離された濃縮スラリーの一部を循環汚泥として受け入れ、かつ、該循環汚泥を中和剤と混合して混合汚泥とする混合槽と、混合汚泥を2次中和反応槽に添加するための添加ラインとを備え、前記添加ラインは、オーバーフロー樋と竪管と備え、該竪管が、軟質ポリ塩化ビニール製のホースからなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含む排水が供給され、所定のpH範囲を終点とする1次中和処理を行う、1次中和反応槽と、
前記1次中和反応槽での1次中和処理後の液体が供給され、所定のpH範囲を終点とする2次中和処理を行う、2次中和反応槽と、
前記2次中和反応槽での2次中和処理後の液体が供給され、該液体を沈降分離して、沈降物としての濃縮スラリーを得る沈降分離装置と、
前記沈降分離装置で得られた前記濃縮スラリーの一部を循環汚泥として受け入れ、かつ、該循環汚泥を中和剤と混合して混合汚泥とする混合槽と、
前記混合汚泥を2次中和反応槽に添加するための添加ラインと、
を備え、
前記中和剤が、消石灰および/またはカーバイド滓であり、
前記添加ラインは、前記混合槽からオーバーフローする前記混合汚泥が水平方向に流れるオーバーフロー樋と、該オーバーフロー樋の先端部の下側に接続された竪管と備え、
前記竪管が、軟質ポリ塩化ビニール製のホースからなり、ホース継手を介して、前記オーバーフロー樋に接続されている、
排水中和処理設備。
【請求項2】
前記1次中和反応槽と、前記2次中和反応槽との間に、前記1次中和反応槽での1次中和処理後の液体に対して、所定範囲の酸化還元電位を終点とする酸化処理を行う酸化装置が設けられている、請求項1に記載の排水中和処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルや銅などの金属の製錬プロセスから発生する重金属を含む酸性排水を中和処理するための排水中和処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルや銅などの金属の製錬プロセスから発生する排水には、多くの重金属が含まれており、このような排水を系外に排出するためには、重金属を除去し、かつ、酸性である排水のpHを中性付近に調整する排水中和処理を行う必要がある。
【0003】
具体的には、排水中和処理では、製錬プロセスで発生した重金属を含む酸性排水に対して中和剤を添加することによってpHを上昇させ、排水中に含まれる重金属を水酸化物として固体化し、さらに濾過処理などの操作で固体(排水澱物)と液体(清澄液)に分離する。固液分離後の液体は、排出あるいは再利用される。固液分離後の重金属を含む固体は、廃棄場で処理されるか、あるいは製錬工程に払い出される。
【0004】
排水中和処理は、中和処理全体における中和処理の負荷および中和剤の使用量の適正化を図るために、1次中和処理と2次中和処理の2段階からなる段階的な中和処理が行われている。また、同様の理由から、1次中和処理と2次中和処理との間に、酸化剤を添加する酸化処理が設けられている。
【0005】
中和剤としては、消石灰やカーバイド滓などのアルカリ剤が用いられている。消石灰およびカーバイド滓は、いずれも水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を主とするアルカリ剤である。なお、1次中和処理に、中和剤のコストを低減する観点から、石灰石などのアルカリ剤が用いられる場合がある。石灰石は、重質炭酸カルシウム(CaCO3)を主とするアルカリ剤である。
【0006】
排水中和処理は、特開2021-030101号公報などに開示されている、複数の反応槽からなる排水中和処理設備を用いて行われる。たとえば、1次中和処理、酸化処理、および2次中和処理からなる排水中和処理を行うための排水中和処理設備では、通常、1次中和処理を行う1次中和反応槽、酸化処理を行う酸化反応槽、および2次中和処理を行う2次中和反応槽が直列に連続的に配置される。
【0007】
排水中和処理では、2次中和反応槽の下流側で、沈降分離槽などの沈降分離装置および/または濾過器などの公知の固液分離装置により、固液分離が行われる。また、それぞれの反応槽の間、あるいは、最終の反応槽と固液分離装置の間には、ポンプや配管からなる液体移送設備が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
排水中和処理において、沈降分離後の固体を含む汚泥(排水澱物)の含水率を低減させるため、固液分離後の汚泥の一部を循環汚泥として上流の工程に返送して、混合槽において中和剤と混合した後に、2次中和反応槽に添加するようにすることが可能である。この場合、循環汚泥以外の沈降固形物は、濾過器を通した後、排水澱物として製錬工程へ払い出される、あるいは、廃棄場で処理されている。
【0010】
このような構成の排水中和処理設備において、混合槽と2次中和反応槽との間には、オーバーフロー樋と竪管とからなる添加ラインが設けられる。すなわち、混合槽で中和剤と混合された循環汚泥は、この添加ラインで2次中和反応槽に移送される。なお、添加ラインを構成するオーバーフロー樋と竪管は、通常、硬質ポリ塩化ビニール(PVC)などの硬質の汎用プラスチック(熱可塑性樹脂)材料により形成されている。
【0011】
しかしながら、2次中和反応槽に対して、中和剤と混合された循環汚泥を用いる構成においては、混合によって中和生成物が析出しやすい状況にあることから、時間の経過とともに、竪管内部に汚泥や石膏などがスケールとして徐々に付着する。このようなスケール付着が進行して、スケールにより竪管が閉塞すると、オーバーフロー樋から中和剤と混合された循環汚泥が溢れるリスクが生ずる。
【0012】
このため、竪管より付着したスケールを除去する必要が生ずるが、通常、竪管は約2m以上あることから、一般的な切削工具によっては、竪管の開放部付近のスケールしか除去することができない。このため、所定頻度(たとえば、半年に1回程度)で、一時的に排水中和処理設備全体を停止して、使用中の竪管を吊り出し、新しい竪管に取り換える作業を行っている。しかしながら、このような竪管の交換作業により設備全体を停止することは操業効率の低下に繋がるという問題がある。また、竪管は、その交換前においては、スケールの付着により200kgを超えるほど重くなっていることが多く、その吊り出し作業は災害リスクを伴ったものとなる。
【0013】
したがって、本発明は、中和剤と混合させた循環汚泥を混合槽から2次中和反応槽へ添加するための添加ラインを構成する竪管のスケール付着による閉塞を抑制し、重量物の吊り出しによる災害リスクの高い竪管交換作業を解消しうる、排水中和反応設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様の排水中和処理設備は、
重金属を含む排水が供給され、所定のpH範囲を終点とする1次中和処理を行う、1次中和反応槽と、
前記1次中和反応槽での1次中和処理後の液体が供給され、所定のpH範囲を終点とする2次中和処理を行う、2次中和反応槽と、
前記2次中和反応槽での2次中和処理後の液体が供給され、該液体を沈降分離して、沈降物としての濃縮スラリーを得る沈降分離装置と、
前記沈降分離装置で得られた前記濃縮スラリーの一部を循環汚泥として受け入れ、かつ、該循環汚泥を中和剤と混合して混合汚泥とする混合槽と、
前記混合汚泥を2次中和反応槽に添加するための添加ラインと、
を備える。
【0015】
特に、本発明の一態様の排水中和処理設備は、
前記中和剤が、消石灰および/またはカーバイド滓であり、
前記添加ラインは、前記混合槽からオーバーフローする前記混合汚泥が水平方向に流れるオーバーフロー樋と、該オーバーフロー樋の先端部の下側に接続された竪管と備え、
前記竪管が、軟質ポリ塩化ビニール(PVC)製のホースからなり、ホース継手を介して、前記オーバーフロー樋に接続されている、
ことを特徴とする。
【0016】
前記1次中和反応槽と、前記2次中和反応槽との間に、前記1次中和反応槽での1次中和処理後の液体に対して、所定範囲の酸化還元電位を終点とする酸化処理を行う酸化装置を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様の排水中和処理装置は、軟質ポリ塩化ビニール製のホースからなる竪管を使用することにより、竪管におけるスケール付着が抑制され、竪管の交換頻度を減少させることが可能となるとともに、災害リスクの高い重量物取扱いとなる竪管交換作業が解消される。このため、本発明の工業的価値はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の排水中和処理設備の概念図である。
【
図2】
図2は、本発明の排水中和処理設備における2次中和反応槽への添加ラインの概略図である。
【
図3】
図3は、比較例の排水中和処理設備における2次中和反応槽への添加ラインの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態の一例について、
図1~
図3を参照しながら説明する。
【0020】
本例の排水中和処理設備1は、1次中和反応槽2と、酸化反応槽3と、2次中和反応槽4と、沈降分離装置5と、混合槽6と、添加ライン7とを備える。これらのうち、1次中和反応槽2、酸化反応槽3、および2次中和反応槽4のそれぞれの反応槽における反応後の液体は、通常、ポンプにより次工程に送られる。また、それぞれの反応槽の間、2次中和反応槽4と沈降分離装置5との間は、ポンプおよび配管からなる液体移送設備8により接続されている。
【0021】
1次中和反応槽2は、1次中和処理が行われる反応槽である。1次中和反応槽2には、処理対象となる酸性排水(排水原液)が装入され、該酸性排水に第1の中和剤が添加される。より具体的には、1次中和反応槽2の上部には、酸性排水を槽内に装入するための装入口が設けられている。また、1次中和反応槽2には、中和剤を添加するための中和剤添加口が設けられている。
【0022】
1次中和反応槽2における1次中和処理では、終点のpHを所定範囲に適切に調整することにより、酸やこのpHまでに沈澱物化するヒ素などの不純物を分離除去する。1次中和処理を設けることにより、排水原液の含有する酸やヒ素の量が変動した場合でも、終点のpHを所定範囲に容易に収めることができるため、2次中和処理を適切に行うことが可能となる。
【0023】
処理中の液体のpH測定は、周知の手段を用いて行うことができる。たとえば、液体移送設備8にpH測定計を設置することにより、当該pH測定を行うことができる。測定されたpHに基づいて、中和処理の終点を判断することができ、また、中和剤の添加量を調整することも可能となる。
【0024】
本例では、1次中和反応槽2の次に、酸化反応槽3が設けられている。酸化反応槽3は1次中和反応後の液体に対して酸化処理が行われる反応槽である。酸化反応槽3には、1次中和処理後の液体が装入され、該液体に空気、酸素、次亜塩素酸塩などの一般的な酸化剤が添加される。より具体的には、1次中和反応槽2の上部から酸化反応槽3の上部へと液体移送設備8が設けられ、酸化反応槽3の上部には、1次中和反応槽2から送り込まれた液体を槽内に装入するための装入口が設けられている。空気および酸素などの気体状の酸化剤を用いる場合には、パイプなどを介して槽内の液体中に供給することもできる。
【0025】
酸化反応槽3における、酸化処理では、液体中の重金属を酸化することにより、2次中和処理において効率よくこれらの重金属を沈澱させることが可能となる。かかる酸化処理によって、中和処理工程全体における中和反応処理の負荷を抑制し、全体としての中和剤の使用量を低減させることが可能となる。
【0026】
なお、酸化処理工程として、必ずしも酸化反応槽3を設ける必要はなく、1次中和工程と2次中和工程との間において酸化処理工程が設けられる限り、たとえば、酸化処理工程を2次中和工程の初期に設定することも可能である。この場合、2次中和反応槽4における2次中和工程の最上流に酸化剤を供給する設備(酸化処理装置)を設けるようにする。
【0027】
2次中和反応槽4は、2次中和処理が行われる反応槽である。2次中和反応槽4には、1次中和反応槽2から送液された1次中和処理後の液体、または、酸化反応槽3から送液された1次中和処理後さらに酸化反応処理を経た後の液体が装入され、該液体に第2の中和剤が添加される。より具体的には、2次中和反応槽4の上部には、前記液体を槽内に装入するための装入口が設けられている。また、2次中和反応槽4には、第2の中和剤を添加するための中和剤添加口が設けられている。
【0028】
2次中和反応槽4における2次中和処理では、終点のpHを所定範囲に適切に調整することにより、1次中和処理のpHでは析出しないが、このpHまでに析出する重金属を固形物として分離する。このように、中和処理を2段階とすることで、1次中和処理で析出する固形物の個数を抑制し、この固形物を2次中和処理で成長させて、沈降分離しやすくすることができる。また、中和剤を時間的、空間的に分けて添加することになるため、中和剤を十分に溶解、反応させることができ、中和処理全体で用いられる中和剤の総使用量を適切に規制して、処理コストを抑えた効率的な中和処理を行うことが可能となる。
【0029】
沈降分離装置5は、シックナー、沈降分離槽などにより構成される。沈降分離装置5には、2次中和反応槽4から送液された2次中和処理後の液体が装入され、中和処理により生成した重金属の水酸化物を沈降させて、濃縮スラリーとして回収し、かつ、清澄液をオーバーフローにより排出する。清澄液は、必要に応じて、さらにpHを調整したのち、系外に放流される。なお、重金属の水酸化物を十分に沈降させるため、沈降分離装置5に2次中和処理後の液体とともに、凝集剤を添加しておくことが好ましい。
【0030】
沈降分離装置5から引き抜かれた濃縮スラリーのうちの一部は、返送ラインの液体移送設備8を介して循環汚泥として混合槽6に戻される。濃縮スラリーのうちの残部は、濾過器により濾過されて、固形分は排水澱物として、金属の製錬工程へ払い出される、あるいは、廃棄場で処理されている。このように、濃縮スラリーの内の一部を循環汚泥として戻すことにより、固形分を粒成長させることができ、濾過後に最終的に得られる排水澱物の含水率を低減させることが可能となる。これにより、単に排水澱物を廃棄物として廃棄場で処理することだけでなく、金属の製錬工程に払い出すことが可能となる。
【0031】
混合槽6は、沈降分離装置5から戻された循環汚泥を受け入れ、この循環汚泥を中和剤と混合する。混合槽6には、モータなどで駆動される撹拌装置が備えられており、循環汚泥を中和剤と混合することにより、混合汚泥を得る。混合汚泥は、第2の中和剤として、オーバーフローにより添加ライン7を通じて、2次中和反応槽4へと送られる。より具体的には、混合槽6の上部には、循環汚泥を槽内に装入するための装入口、および、中和剤を添加するための中和剤添加口が設けられている。
【0032】
添加ライン7は、混合槽6の上部から2次中和反応槽4までの液体移送設備8として機能する。具体的には、添加ライン7は、混合槽6の上部から実質的に水平方向に伸長するオーバーフロー樋9と、オーバーフロー樋9の先端部下部に接続され、実質的に鉛直方向に伸長する竪管10とを備える。
【0033】
図2に示すように、本例の添加ライン7は、竪管10として、軟質ポリ塩化ビニール(PVC)製のホース11を適用している。添加ライン7のオーバーフロー樋9と竪管10を含む、従来の排水中和処理設備における液体移送設備8を構成する、オーバーフロー樋および竪管には、いずれも硬質ポリ塩化ビニール(PVC)製の材料が使用されている。本例では、添加ライン7を構成する竪管10について、
図3に示す、通常使用される硬質ポリ塩化ビニール製の竪管10aに代替して、軟質ポリ塩化ビニール製のホース11を使用している点に特徴がある。
【0034】
軟質ポリ塩化ビニールと硬質ポリ塩化ビニールとの相違は、可塑剤の配合量の相違に起因する物性や機械的性質の相違として示される。具体的には、比重では、軟質ポリ塩化ビニールでは1.16~1.35であるのに対して、硬質ポリ塩化ビニールでは1.30~1.58である。また、引張強さにおいても、軟質ポリ塩化ビニールでは6.9MPa~25MPaであるのに対して、硬質ポリ塩化ビニールでは34MPa~62MPaである。
【0035】
このように、本例の排水中和処理設備1では、沈降分離装置5で得られた濃縮スラリーの一部を循環汚泥として上流に戻し、混合槽6において、戻された循環汚泥を受け入れて、この循環汚泥を中和剤と混合して混合汚泥を得て、この混合汚泥を2次中和処理における第2の中和剤として用いる。かかる構成において、混合汚泥を得る工程で使用される中和剤として、消石灰および/またはカーバイド滓が使用される。これらの水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を主とするアルカリ剤を中和剤として用いた場合、得られた混合汚泥では、混合によって中和生成物が析出しやすい状況にある。このため、この析出した中和生成物が、竪管10aの内部にスケール付着する。硬質ポリ塩化ビニール製の竪管10aにおいては、このスケール付着が徐々に進行して、半年程度で竪管10aは閉塞する。
【0036】
これに対して、本例の添加ライン7においては、竪管10として軟質ポリ塩化ビニール製のホース11が適用されている。ホース11は、竪管10内の循環汚泥の流れに対応して、その形状が変化するため、混合汚泥が竪管10を通過する際に、中和生成物が竪管10を構成するホース11の内側にスケール付着することが抑制される。このように、竪管10として軟質ポリ塩化ビニール製のホース11を適用することで、スケール付着は実質的に解消される。ただし、軟質ポリ塩化ビニール製のホース11の製品寿命が、硬質ポリ塩化ビニール製の竪管10aよりも短いため、2年または3年に1回程度の頻度でホース11を交換することは必要である。しかしながら、硬質ポリ塩化ビニール製の竪管10aにおけるスケール付着に起因する少なくとも半年に1回とされる交換頻度よりは少なく、かつ、スケール付着により約200kg以上の重量物となった交換前の竪管10aの取り扱いが不要となる。
【0037】
本例の添加ライン7においては、より具体的には、オーバーフロー樋9の先端部下側には、液体開口を備えた縦樋部12が構成されている。軟質ポリ塩化ビニール製のホース11の上端部を直接この縦樋部12に接続することも可能であるが、ホース継手13を縦樋部12に接続した上で、このホース継手13に対して、軟質ポリ塩化ビニール製のホース11の上端部を接続することが好ましい。また、軟質ポリ塩化ビニール製のホース11の上端部の縦樋部12またはホース継手に対する固定については、ホースバンド14を用いることが好ましい。ただし、このような接続手段や固定手段は、ホース継手あるいはホースバンドに限定されることはなく、軟質ポリ塩化ビニール製のホース11を液体連通可能にオーバーフロー樋9の先端部下側に接続できる任意の手段を用いることが可能である。
【0038】
添加ライン7の竪管10(軟質ポリ塩化ビニール製のホース11)の下端部は、2次中和反応槽4の第2の中和剤を添加するための中和剤添加口に向けて開口(接続)し、混合汚泥は、第2の中和剤として、2次中和反応槽4内にある液体に添加される。
【0039】
このように、本発明の排水中和処理設備では、沈降分離装置から引き抜かれた濃縮スラリーの一部を循環汚泥として戻し、循環汚泥を混合槽で中和剤と混合して混合汚泥とし、この混合汚泥を第2の中和剤として2次中和反応槽に添加する構成を採用する。また、混合槽から2次中和反応槽への液体移送設備である添加ラインを構成する竪管として、軟質ポリ塩化ビニール製のホースを採用している。このように、本発明では、軟質ポリ塩化ビニール製のホースを適用した竪管を使用することで、竪管内部での循環汚泥のスケール付着が抑制され、重量が軽減されるため、災害リスクの高い竪管の交換作業を解消することが可能となる。
【0040】
なお、添加ライン7を構成するオーバーフロー樋9(縦樋部12を含む)およびホース継手13に対しても、時間の経過とともにスケール付着は生ずるが、これらに対しては、開口している部分からハンマーによる打撃により、あるいは一般的な切削工具を用いて、スケールを除去することが可能である。このため、これらの定期的な交換については、その構成材料であるポリ塩化ビニールが硬質であるか軟質であるかにかかわらず、不要である。
【0041】
また、本例では、1次中和反応槽2および混合槽6に添加される中和剤としては、いずれも、消石灰および/またはカーバイド滓が使用される。すなわち、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を主とするアルカリ剤が用いられている。ただし、中和剤コストの低減の観点から、1次中和反応槽2に添加する中和剤として、石灰石などの重質炭酸カルシウム(CaCO3)を主とするアルカリ剤を用いることも可能である。
【0042】
さらに、竪管10として使用される軟質ポリ塩化ビニール製のホース11の大きさは、中和剤が混合された循環汚泥を移送可能であれば任意である。たとえば、ホース11の長さは約1.5m~3m、好ましく約2mである。ホース11の内径は約10cm~50cm、好ましくは20cm~40cmである。
【実施例0043】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されることはない。
【0044】
(実施例および比較例)
図1に概略的に示す排水中和処理設備を用いて、銅製錬プロセスで発生した排水処理原液(酸性排水)の中和処理を行った。実施例では、
図2に示すように、混合槽6から2次中和反応槽4への添加ライン7を構成する竪管10として軟質ポリ塩化ビニール製のホース11(長さ約1.8m、内径約25cm)を使用した。一方、比較例では、
図3に示すように、添加ライン7に、硬質ポリ塩化ビニール製の竪管10a(長さ約1.8m、内径25cm)を使用した。
【0045】
実施例および比較例いずれにおいても、第1の中和剤および混合槽6へ添加する中和剤のいずれにも、消石灰スラリー(消石灰スラリー濃度22質量%)を用いた。中和剤の添加量を、1次中和反応槽2内においては、酸やヒ素などの不純物を除去可能な終点pHの範囲となるように、また、2次中和反応槽4内においては、その他の重金属を除去可能な終点pHの範囲となるように、それぞれ調整した。
【0046】
2次中和反応槽4からのスラリーをポンプで沈降分離装置5に供給し、沈降分離装置5において、濃縮スラリーを得た。かかる濃縮スラリーの60%を循環汚泥として混合槽6にポンプを用いて戻した。残余の濃縮スラリーは、濾過を経て、排水澱物として銅製錬プロセスに払い出した。
【0047】
比較例では半年で竪管10aがスケール付着により閉塞し、その交換作業を行う必要が生じた。これに対して、実施例では、軟質ポリ塩化ビニール製のホース11の内部にスケール付着は見られなかった。