(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100005
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】再結晶挙動測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/02 20060101AFI20240719BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01B21/02 Z
B32B15/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003687
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【テーマコード(参考)】
2F069
4F100
【Fターム(参考)】
2F069AA31
2F069CC06
2F069GG07
4F100AB01B
4F100AB13
4F100AB16
4F100AB17
4F100AB31
4F100AK49
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH66
4F100EH71
4F100EH71B
4F100GB41
4F100JA11
4F100JA11B
(57)【要約】
【課題】簡便で精度良くめっき被膜の再結晶挙動を測定できる方法を提供する。
【解決手段】再結晶挙動測定方法は、めっき被膜を有する金属張積層板を切断して試験片を得る準備工程と、試験片の寸法を繰り返し測定して、寸法の経時変化を特定する測定工程と、寸法の経時変化に基づきめっき被膜の再結晶挙動を評価する評価工程とを有する。試験片の寸法を繰り返し測定するだけであるので簡便である。同一の試験片の寸法を継続して測定することから、めっき被膜の再結晶挙動を精度良く測定できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき被膜を有する金属張積層板を切断して試験片を得る準備工程と、
前記試験片の寸法を繰り返し測定して、該寸法の経時変化を特定する測定工程と、
前記寸法の経時変化に基づき前記めっき被膜の再結晶挙動を評価する評価工程と、を備える
ことを特徴とする再結晶挙動測定方法。
【請求項2】
前記寸法は前記試験片のMD方向の寸法である
ことを特徴とする請求項1記載の再結晶挙動測定方法。
【請求項3】
前記評価工程において、前記寸法が経時変化しなくなったときを前記めっき被膜の再結晶完了時と評価する
ことを特徴とする請求項1記載の再結晶挙動測定方法。
【請求項4】
前記寸法の単位時間あたりの変化量または変化率が閾値以下のときに前記寸法が経時変化しなくなったと判断する
ことを特徴とする請求項3記載の再結晶挙動測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再結晶挙動測定方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、金属張積層板が有するめっき被膜の再結晶挙動を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムの表面を金属層で覆った金属張積層板から製造される。
【0003】
金属張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による金属張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行われる。まず、真空成膜法により樹脂フィルムの表面に金属薄膜層を成膜する。つぎに、電解めっき法により金属薄膜層の上にめっき被膜を成膜する。電解めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで金属層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接金属層が成膜された、いわゆる2層基板と称されるタイプの金属張積層板が得られる(例えば、特許文献1)。
【0004】
めっき被膜は室温で再結晶が進行する。めっき被膜の結晶子は、めっき直後は小さく、時間の経過とともに進行する再結晶により大きくなる。例えば、銅めっき被膜の場合、めっき直後の結晶子径は300Å程度であり、再結晶により結晶子径は3,000Å程度まで大きくなる。また、めっき被膜は再結晶の進行により寸法が変化する。一般的には、めっき被膜は再結晶の進行により収縮する傾向がある。そのため、金属張積層板に配線加工をする際にはめっき被膜の再結晶が完了していることが好ましい。
【0005】
めっき被膜の再結晶挙動はめっき条件によって大きく異なる。例えば、めっき被膜の再結晶が完了するまでに要する時間は、数時間の場合もあれば、1ヶ月以上の場合もある。そこで、めっき被膜の再結晶挙動の測定が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
めっき被膜の再結晶挙動を測定する方法として、結晶子径を測定するXRD法(X線回折法)、結晶粒子を直接観察する断面SIM法(ミクロ断面加工・観察法)、およびめっき被膜の表面抵抗率を測定する四探針法が知られている。しかし、XRD法および断面SIM法は、金属張積層板の製造現場で測定することが困難であり、めっき直後からの再結晶挙動を観察することができない。また、測定装置を占領することになるため長期間の観察が難しく、測定点数が多くなると費用が高くなる。一方、四探針法はハンディタンプの装置があるため、金属張積層板の製造現場での測定が可能であり、めっき直後からの再結晶挙動を観察することができる。しかし、四探針法は測定値のばらつきが大きく、測定精度に劣る。また、めっき被膜に針を接触させて測定するため、めっき被膜に針の打痕が残り、同一箇所で繰り返し測定することができない。そのため、めっき直後から再結晶完了までの経時変化を観察するのには適していない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、簡便で精度良くめっき被膜の再結晶挙動を測定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の再結晶挙動測定方法は、めっき被膜を有する金属張積層板を切断して試験片を得る準備工程と、前記試験片の寸法を繰り返し測定して、該寸法の経時変化を特定する測定工程と、前記寸法の経時変化に基づき前記めっき被膜の再結晶挙動を評価する評価工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試験片の寸法を繰り返し測定するだけであるので簡便である。また、同一の試験片の寸法を継続して測定することから、めっき被膜の再結晶挙動を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る金属張積層板の断面図である。
【
図2】試験片の寸法の経時変化を示すグラフの一例である。
【
図3】試験1における試験片の寸法差および表面抵抗率の経時変化を示すグラフである。
【
図4】図(A)は試験2における試験片の寸法差および表面抵抗率の経時変化を示すグラフである。図(B)は試験3における結晶子径の経時変化を示すグラフである。
【
図5】試験4における試験片の寸法差および表面抵抗率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(金属張積層板)
図1に示すように、金属張積層板1は、ベースフィルム10と、ベースフィルム10の表面に形成された金属層20とからなる。
図1に示すようにベースフィルム10の片面のみに金属層20が形成されてもよいし、ベースフィルム10の両面に金属層20が形成されてもよい。金属層20の組成が主に銅である金属張積層板1は銅張積層板と称される。
【0013】
ベースフィルム10としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。
【0014】
金属層20は真空成膜法により成膜される金属薄膜層21を有する。金属薄膜層21は一種類の金属または合金からなる単一の層でもよいし、異なる種類の金属または合金からなる複数の層を積層したものでもよい。銅張積層板の場合、金属薄膜層21は下地金属層22と銅薄膜層23とからなる。下地金属層22と銅薄膜層23とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層22はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。下地金属層22はなくてもよい。銅薄膜層23はベースフィルム10の表面に下地金属層22を介して成膜されてもよいし、下地金属層22を介さずベースフィルム10の表面に直接成膜されてもよい。
【0015】
金属層20は電解めっきにより成膜されるめっき被膜24を有する。銅張積層板の場合、めっき被膜24は銅めっき被膜である。金属薄膜層21とめっき被膜24とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。
【0016】
特に限定されないが、ベースフィルム10の厚さは10~100μmが一般的である。下地金属層22の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層23の厚さは50~400nmが一般的である。めっき被膜24の厚さは0.1~18μmが一般的である。
【0017】
金属張積層板1の製造方法としてメタライジング法を採用できる。金属薄膜層21は、特に限定されないが、ロールツーロール方式の真空成膜装置により成膜される。真空成膜装置は、ロールツーロールにより長尺帯状のベースフィルム10を搬送しつつ、ベースフィルム10に対して真空成膜を行う装置である。真空成膜装置としてスパッタリング装置などが挙げられる。
【0018】
めっき被膜24は、特に限定されないが、ロールツーロール方式のめっき装置により成膜される。めっき装置は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材(ベースフィルム10の片面または両面に金属薄膜層21のみが成膜された中間品)を搬送しつつ、基材に対して電解めっきを行う装置である。めっき装置はロール状に巻回された基材を繰り出す供給装置と、めっき後の基材(金属張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置とを有する。
【0019】
基材の搬送経路には、前処理槽、めっき槽、および後処理槽が配置されている。基材はめっき槽内を搬送されつつ、電解めっきよりその表面にめっき被膜24が成膜される。これにより、長尺帯状の金属張積層板1が得られる。
【0020】
銅めっき被膜を成膜する場合、めっき槽には銅めっき液が貯留される。銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば特に限定されず用いられる。銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を1~300mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜を成膜できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜を成膜できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0022】
銅めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0023】
(再結晶挙動測定方法)
つぎに、本発明の一実施形態に係る再結晶挙動測定方法を説明する。
まず、金属張積層板1を所定の寸法に切断して試験片を得る(準備工程)。つぎに、試験片の寸法を定期的にまたは不定期で繰り返し測定して、試験片の寸法の経時変化を特定する(測定工程)。なお、めっき直後からの再結晶挙動を測定するには、めっき直後の金属張積層板1から試験片を得て、寸法の測定を開始する。
【0024】
特に限定されないが、試験片の準備および寸法の測定は、IPC-TM-650.2.2.4を参考にした方法により行うことができる。具体的には、まず、金属張積層板1を切断して27×29cmの試験片を得る。つぎに、試験片の四隅に直径0.889mmの孔A、B、C、Dを形成する。ここで、孔A-Bおよび孔C-Dは試験片のMD方向(Machine Direction)に並べて25±1.25cm離れた位置に形成する。孔A-Cおよび孔B-Dは試験片のTD方向(Transverse Direction)に並べて23±1.25cm離れた位置に形成する。
【0025】
試験片を23±2℃、相対湿度50±5%の環境で保管し、孔A-B間、孔C-D間、孔A-C間、および孔B-D間の距離(孔の中心間の距離)を測定して、初期測定値とする。ここで、孔A-B間および孔C-D間の距離の平均値をMD方向の寸法とする。また、孔A-C間および孔B-D間の距離の平均値をTD方向の寸法とする。その後、所定時間ごとにMD方向およびTD方向の寸法を測定する。
【0026】
図2は試験片の寸法の経時変化を示すグラフの一例である。グラフの横軸は時間であり、めっきからの経過時間を意味する。グラフの縦軸は試験片の寸法である。試験片の寸法としてMD方向の寸法を採用してもよいし、TD方向の寸法を採用してもよいし、それらの平均値を採用してもよい。ただし、試験片の寸法としてMD方向の寸法を採用することが好ましい。真空成膜工程および電解めっき工程ではMD方向に張力をかけた状態で処理するため、ベースフィルム10がMD方向に伸ばされた状態で金属層20が形成される。張力を除去した金属張積層板1のベースフィルム10は元のサイズに戻るようにMD方向に収縮しようとする。また、めっき被膜24も再結晶により収縮する。そのため、金属張積層板1全体では、ベースフィルム10およびめっき被膜24の収縮によりMD方向に収縮しやすい。一方、ベースフィルム10はMD方向に収縮するとポアソン比に従いTD方向に伸長しようとする。めっき被膜24は再結晶により全方向に収縮しようとするが、めっき被膜24のTD方向の収縮はベースフィルム10の伸長と相殺される。そのため、金属張積層板1全体ではTD方向に寸法が変化しにくい。このことから、めっき被膜24の再結晶挙動を評価するには、試験片のMD方向の寸法を指標とすることが好ましい。
【0027】
また、試験片の寸法として、孔間の距離の測定値(狭義の寸法)をそのまま採用してもよいし、初期測定値を基準とした寸法差(孔間の距離の測定値から初期測定値を減算した値)または初期測定値を基準とした寸法変化率を採用してもよい。このように、本明細書において「寸法」は、測定値たる狭義の「寸法」のほか、寸法差、寸法変化率など、狭義の「寸法」を変換した値を含む概念である。
【0028】
図2に示すように、一般的には、試験片の寸法は特定の値に漸近するように時間の経過とともに小さくなる。また、めっき被膜24は再結晶の進行により収縮する傾向がある。めっき被膜24の収縮に伴い金属張積層板1全体も収縮する。したがって、試験片の寸法の経時変化は、めっき被膜24の再結晶挙動とみなすことができる。
【0029】
そこで、試験片の寸法の経時変化に基づきめっき被膜24の再結晶挙動を評価する(評価工程)。例えば、めっき直後など試験片の寸法が急激に変化している場合には、めっき被膜24の再結晶も急激に進行していると評価できる。また、試験片の寸法の変化が緩やかな場合には、めっき被膜24の再結晶の進行も緩やかであると評価できる。
【0030】
また、試験片の寸法の経時変化に基づきめっき被膜24の再結晶が完了しているか否かを評価できる。すなわち、試験片の寸法が経時変化しなくなったときをめっき被膜24の再結晶完了時と評価する。ここで、試験片の寸法の単位時間あたりの変化量または変化率が閾値以下のときに、試験片の寸法が経時変化しなくなったと判断すればよい。なお、めっき時から再結晶完了時までの時間を再結晶時間という。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、試験片の寸法を繰り返し測定するだけであるので、XRD法および断面SIM法に比べて簡便である。また、試験片の寸法は精度良く測定することが容易である。しかも、同一の試験片の寸法を継続して測定することから、めっき直後から再結晶完了までの経時変化を観察するのに適している。そのため、四探針法に比べて精度良くめっき被膜24の再結晶挙動を測定できる。
【実施例0032】
(共通の条件)
ベースフィルムとして、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)と厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製 カプトン50EN-C)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの両面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ100nmの銅薄膜層を形成した。
【0033】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0034】
前記銅めっき液が貯留されためっき槽に基材を供給した。電解めっきにより基材の片面に銅めっき被膜を成膜した。ここで、銅めっき被膜の厚さを0.4、2.0、2.1、8.6μmの4種類とした。電解めっきにおける電流密度を1.0A/dm2、3.0A/dm2、5.0A/dm2と段階的に上昇させ、銅めっき被膜の厚さが設定値となるように搬送速度を調整した。また、銅めっき液の温度を31℃とした。電解めっきを施す間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。
【0035】
得られた銅張積層板の寸法を以下の手順で測定した。まず、めっき直後の銅張積層板を切断して27×29cmの試験片を得た。つぎに、試験片の四隅に直径0.889mmの孔A、B、C、Dを形成した。ここで、孔A-Bおよび孔C-Dは試験片のMD方向に並べて25±1.25cm離れた位置に形成した。孔A-Cおよび孔B-Dは試験片のTD方向に並べて23±1.25cm離れた位置に形成した。
【0036】
試験片を23±2℃、相対湿度50±5%の環境で保管し、孔A-B間、孔C-D間、孔A-C間、および孔B-D間の距離(孔の中心間の距離)を測定して、初期測定値とした。孔A-B間および孔C-D間の距離の平均値をMD方向の寸法とした。また、孔A-C間および孔B-D間の距離の平均値をTD方向の寸法とした。その後、24時間ごとにMD方向およびTD方向の寸法を測定し、初期測定値を基準とした寸法差を求めた。なお、孔間の距離の測定には、ニコン製レーザー測長機 NEXIV VMR―H3030を用いた。
【0037】
また、四探針法により銅張積層板の銅めっき被膜の表面抵抗率を24時間間ごとに測定した。表面抵抗率の測定には三菱ケミカルアナリティック製ロレスタAX MCP-T370を用いた。
【0038】
(試験1)
ベースフィルムとして厚さ12.5μmのポリイミドフィルムを用い、銅めっき被膜の厚さを0.4μmとした銅張積層板に対して試験片の寸法および表面抵抗率の測定を行った。試験片の寸法としてMD方向の寸法を採用した。その結果を
図3に示す。表面抵抗率は5日程度で変化がみられなくなる。一方、寸法差は45日程度まで変化がみられる。このように、表面抵抗率と寸法差とでは、再結晶挙動、特に再結晶時間の特定において差異が見られる。
【0039】
表面抵抗率は測定器の針を銅めっき被膜に押し当てながら測定する。測定後は銅張積層板の裏面からでも針を押し当てた痕がくっきりと確認できたことから、銅めっき被膜が薄い場合には表面抵抗率を精度よく測定できないと考えられる。また、経験的に、銅めっき被膜が薄いほど再結晶が進みにくく、再結晶時間が長くなる傾向がある。これは、銅めっき被膜が薄いほど被膜応力が小さいため再結晶を進行させる駆動力が小さいためであると推測される。このことからすると、寸法差の経時変化から特定した45日の方が再結晶時間として適切であると考えられる。
【0040】
(試験2)
ベースフィルムとして厚さ35μmのポリイミドフィルムを用い、銅めっき被膜の厚さを2.1μmとした銅張積層板に対して試験片の寸法および表面抵抗率の測定を行った。試験片の寸法としてMD方向の寸法を採用した。その結果を
図4(A)に示す。表面抵抗率は10日程度で変化がみられなくなる。一方、寸法差は15日程度まで変化がみられる。試験1の場合ほど大きな乖離ではないが、表面抵抗率と寸法差とでは再結晶時間に5日程度の差異が見られる。
【0041】
(試験3)
ベースフィルムとして厚さ35μmのポリイミドフィルムを用い、銅めっき被膜の厚さを2.0μmとした銅張積層板に対して銅めっき被膜の結晶子径を測定した。測定には株式会社リガク製の全自動多目的X線回折装置SmartLabを用い、(200)面ピークの半値幅からScherrerの式により結晶子径を算出した。その結果を
図4(B)に示す。結晶子径は15日程度で変化がみられなくなる。
【0042】
試験2と試験3とでは銅めっき被膜の厚さが若干異なるため直接比較はできないが、結晶子径の経時変化から特定された再結晶時間は、寸法差の経時変化から特定された再結晶時間と同程度である。このことから、表面抵抗率に比べて寸法差の方が再結晶時間を正確に求められることが確認された。
【0043】
(試験4)
ベースフィルムとして厚さ35μmのポリイミドフィルムを用い、銅めっき被膜の厚さを8.6μmとした銅張積層板に対して試験片の寸法および表面抵抗率の測定を行った。試験片の寸法としてMD方向の寸法を採用した。その結果を
図5に示す。表面抵抗率も寸法差も5日程度で変化がみられなくなっており、同様の傾向を示している。
【0044】
これより、銅めっき被膜が厚い場合には、表面抵抗率からでも寸法差からでも、同程度の再結晶時間を特定できることが確認された。逆に、試験1の例のように、銅めっき被膜が薄いほど、表面抵抗率と寸法差とで、特定される再結晶時間の差異が大きくなる。このことから、特に銅めっき被膜が薄い場合において、寸法差の方が再結晶挙動を精度良く評価できることが確認された。